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特許7034157不均衡二相波形および新規な電極配置を用いた経皮的電気神経刺激
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  • 特許-不均衡二相波形および新規な電極配置を用いた経皮的電気神経刺激 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】不均衡二相波形および新規な電極配置を用いた経皮的電気神経刺激
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20220304BHJP
【FI】
A61N1/36
【請求項の数】 40
(21)【出願番号】P 2019525014
(86)(22)【出願日】2017-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 US2017060893
(87)【国際公開番号】W WO2018089655
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-05-12
(31)【優先権主張番号】15/350,261
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506335938
【氏名又は名称】ニューロメトリックス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハーブ,グレン
(72)【発明者】
【氏名】アギーレ,アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】コン,シュエン
(72)【発明者】
【氏名】ゴザニ,シャイ,ナチュム
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0158627(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0106214(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0148865(US,A1)
【文献】米国特許第06141587(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者に経皮的電気神経刺激を提供する装置であって
対称二相電気パルスを用いて神経を電気的に刺激する刺激ユニットであって、
前記刺激ユニットは、非対称二相電気パルスの各相の期間中、アノードにおいてアノード電圧を生成し、前記アノード電圧は、カソードにおけるカソード電圧よりも高く、それによって、前記アノードから前記カソードへと電流が流れることができ、
前記刺激ユニットは、前記非対称二相電気パルスの第1相の期間中にユーザ身体に蓄積された電荷を利用することにより、前記非対称二相電気パルスの、第1相におけるアノード電圧以下の、第2相におけるアノード電圧を用いて、前記非対称二相電気パルスの第1相において伝達される電荷量よりも大きい電荷量を、前記非対称二相電気パルスの第2相において伝達する、
刺激ユニットと、
前記刺激ユニットによって伝達される前記電気パルスを制御する制御ユニットと、
前記刺激ユニットに接続可能な電極アレイであって、
前記電極アレイは、基板と、少なくとも第1および第2電極とを備え、
前記少なくとも第1および第2電極は、前記基板が前記使用者に配置された際に、前記第1電極が第1神経に重なるが第2神経には重ならず、前記第2電極が前記第2神経に重なるが前記第1神経には重ならないように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、
電極アレイと、
を備える装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、前記刺激ユニットに、1つ以上の非対称二相電気パルスを伝達させるよう構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
記非対称二相電気パルスは電流パルスである、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
記非対称二相電気パルスの各相は矩形の形状を有する、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記非対称二相電気パルスの前記第1相と前記第2相との間には、時間遅延が存在する、請求項2に記載の装置。
【請求項6】
前記時間遅延は100マイクロ秒である、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
記非対称二相電気パルスの前記第1相の極性が変化する、請求項2に記載の装置。
【請求項8】
記非対称二相電気パルスの前記第1相の前記極性は、各非対称二相電気パルスごとに交番する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
各非対称二相電気パルスの前記第1相の前記極性は、所定期間中に、互いに等しい量の正電荷および負電荷が、各電極に流れ込むように変化する、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記所定期間は1/10ミリ秒である、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
記非対称二相電気パルスは一定周波数で伝達される、請求項2に記載の装置。
【請求項12】
前記一定周波数は80ヘルツである、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記装置は持ち運び可能電源によって電力を供給される、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記電極アレイは第3電極および第4電極を備え、
前記第3電極および前記第4電極は、前記第3電極が前記第1神経に重なるが前記第2神経には重ならず、前記第4電極が前記第2神経に重なるが前記第1神経には重ならないように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、
請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記電極アレイは第3電極および第4電極を備え、
前記第3電極および前記第4電極は、それぞれ異なる神経に重なるように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、
請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記電極アレイ内の前記第1電極、前記第2電極、前記第3電極および前記第4電極は、すべてが同時に前記刺激ユニットに接続されるわけではない、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記刺激ユニットに接続される各電極は、それぞれ異なる神経に重なる、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記制御ユニットは、前記刺激ユニットの前記アノード電圧を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
前記制御ユニットは、前記カソード電圧に基づいて前記アノード電圧を制御する、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記制御ユニットは、前記非対称二相電気パルスの
i)刺激電流振幅測定値、および、
ii)刺激パルス整合性測定値
の少なくとも一方に基づいて前記アノード電圧を制御する、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
前記測定値は、前記非対称二相電気パルスの前記第2相の期間中にのみ生成される、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記測定値は、前記非対称二相電気パルスの前記第1相および前記第2相の期間中に生成される、請求項20に記載の装置。
【請求項23】
前記制御ユニットは、
(i)前記カソード電圧と、
(ii)前記非対称二相電気パルスの、a)刺激電流振幅測定値、および、b)刺激パルス整合性測定値、の少なくとも一方と
に基づいて前記アノード電圧を制御する、請求項18に記載の装置。
【請求項24】
前記測定値は、実際の刺激電流振幅を含み、
前記実際の刺激電流振幅は、目標刺激電流振幅の所定割合内である、請求項20に記載の装置。
【請求項25】
前記測定値は、実際の総電荷を含み、前記実際の総電荷は、目標総電荷の所定割合内である、請求項20に記載の装置。
【請求項26】
前記アノード電圧は、前記非対称二相電気パルスの前記測定値が所定の基準を満たすような最小値に設定される、請求項20に記載の装置。
【請求項27】
前記制御ユニットは、前記非対称二相電気パルスの前記第1相および前記第2相の振幅および持続時間を制御する、請求項1に記載の装置。
【請求項28】
前記非対称二相電気パルスの前記第1相および前記第2相の振幅および持続時間は、前記刺激ユニットによって独立に制御される、請求項27に記載の装置。
【請求項29】
前記非対称二相電気パルスは、各非対称二相電気パルスの前記第1相および前記第2相について、同一の振幅および異なる持続時間を有する、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
ある非対称二相電気パルスの前記第2相の前記持続時間は、その非対称二相電気パルスの前記第1相の前記持続時間よりも長い、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
前記非対称二相電気パルスは、各非対称二相電気パルスの前記2つの相について、異なる振幅および同一の持続時間を有する、請求項28に記載の装置。
【請求項32】
ある非対称二相電気パルスの前記第2相の前記振幅は、その非対称二相電気パルスの前記第1相の前記振幅よりも大きい、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記非対称二相電気パルスは、各非対称二相電気パルスの前記2つの相について、異なる振幅および異なる持続時間を有する、請求項28に記載の装置。
【請求項34】
使用者に経皮的電気神経刺激を提供する装置であって
対称二相電気パルスを用いて神経を電気的に刺激する刺激ユニットであって、前記刺激ユニットは、前記非対称二相電気パルスの第1相の期間中にユーザ身体に蓄積された電荷を利用することにより、前記非対称二相電気パルスの第1相および第2相について同一の電圧出力レベルを用いて、前記非対称二相電気パルスの第1相において伝達される電荷量よりも大きい電荷量を、前記非対称二相電気パルスの第2相において伝達する、刺激ユニットと、
前記刺激ユニットによって伝達される前記刺激を制御する制御ユニットと、
前記刺激ユニットに接続可能な電極アレイであって、
前記電極アレイは、基板と、少なくとも第1および第2電極とを備え、
前記少なくとも第1および第2電極は、前記基板が前記使用者に配置された際に、前記第1電極が第1神経に重なるが第2神経には重ならず、前記第2電極が前記第2神経に重なるが前記第1神経には重ならないように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、
電極アレイと、
を備える装置。
【請求項35】
前記電極アレイの各電極は、個別に前記刺激ユニットに接続可能である、請求項34に記載の装置。
【請求項36】
各非対称二相電気パルスの前記第2相の持続時間は、各非対称二相電気パルスの前記第1相の持続時間とは異なる、請求項34に記載の装置。
【請求項37】
各非対称二相電気パルスの前記第2相の振幅は、各非対称二相電気パルスの前記第1相の振幅とは異なる、請求項34に記載の装置。
【請求項38】
各非対称二相電気パルスの前記第2相の持続時間および振幅は、各非対称二相電気パルスの前記第1相の持続時間および振幅とは異なる、請求項34に記載の装置。
【請求項39】
使用者に経皮的電気筋肉刺激を提供する装置であって
対称二相電気パルスを用いて筋肉を電気的に刺激する刺激ユニットであって、
前記刺激ユニットは、非対称二相電気パルスの各相の期間中、アノードにおいてアノード電圧を生成し、前記アノード電圧は、カソードにおけるカソード電圧よりも高く、それによって、前記アノードから前記カソードへと電流が流れることができ、
前記刺激ユニットは、前記非対称二相電気パルスの第1相の期間中にユーザ身体に蓄積された電荷を利用することにより、前記非対称二相電気パルスの、第1相におけるアノード電圧以下の、第2相におけるアノード電圧を用いて、前記非対称二相電気パルスの第1相において伝達される電荷量よりも大きい電荷量を、前記非対称二相電気パルスの第2相において伝達する、
刺激ユニットと、
前記刺激ユニットによって伝達される前記刺激を制御する制御ユニットと、
前記刺激ユニットに接続可能な電極アレイであって、
前記電極アレイは、基板と、少なくとも第1および第2電極とを備え、
前記少なくとも第1および第2電極は、前記基板が前記使用者に配置された際に、前記第1電極が第1筋肉に重なるが第2筋肉には重ならず、前記第2電極が前記第2筋肉に重なるが前記第1筋肉には重ならないように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、
電極アレイと、
を備える装置。
【請求項40】
前記少なくとも第1および第2電極は、前記基板が前記使用者に配置された際に、前記第1電極が第1神経に重なるが第2神経には重ならず、前記第2電極が前記第2神経に重なるが前記第1神経には重ならず、前記第1電極および前記第2電極の双方が第3神経に重なるように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、請求項34に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、概して、慢性的な苦痛の症状緩和および他の治療上の利益を提供するように電極を介してユーザの無傷の皮膚に渡って電流を伝達する経皮的電気神経刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation; TENS)装置に関する。より具体的には、この発明は、治療効果を向上させつつ電力消費効率を改善する、新規なTENS刺激波形の構成およびTENS電極の新規な配置を開示する。
【0002】
[係属中の先行特許出願への参照]
この特許出願は、係属中の先行する米国特許出願第14/610,757号(2015年1月30日に、NeuroMetrix, Inc.およびShai N. Gozani他によって、「APPARATUS AND METHOD FOR RELIEVING PAIN USING TRANSCUTANEOUS ELECTRICAL NERVE STIMULATION」について出願された。代理人整理番号NEURO-5960 CON)の一部継続出願である。米国特許出願第14/610,757号は、先行する米国特許出願第13/678,221号(2012年11月15日に、NeuroMetrix, Inc.およびShai N. Gozani他によって、「APPARATUS AND METHOD FOR RELIEVING PAIN USING TRANSCUTANEOUS ELECTRICAL NERVE STIMULATION」について出願された。代理人整理番号NEURO-5960)の継続出願である。米国特許出願第13/678,221号は、(i)先行する米国仮特許出願第61/560,029号(2011年11月15日に、Shai N. Gozaniによって、「SENSUS OPERATING MODEL」について出願された。代理人整理番号NEURO-59 PROV)と、(ii)先行する米国仮特許出願第61/657,382号(2012年6月8日に、Shai N. Gozani他によって、「APPARATUS AND METHOD FOR RELIEVING PAIN USING TRANSCUTANEOUS ELECTRICAL NERVE STIMULATION」について出願された。代理人整理番号NEURO-60PROV)とに基づく優先権を主張する。
【0003】
上記において特定される4つの特許出願は、参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0004】
経皮的電気神経刺激(TENS)は、皮膚の下にある神経を活性化するために、皮膚の無傷の表面に渡って電流を伝達することであり、一般的に苦痛の緩和を目的とする。電気回路が、指定された特性を持つ刺激パルスを生成する。1対以上の電極がユーザの皮膚に配置され、電気パルスを変換し、これによって、鎮痛応答をトリガするためにその下の神経を刺激する。
【0005】
TENS刺激からの苦痛緩和は、しばしば刺激のオンセットから15分以内に開始され、刺激期間(「治療セッション」とも呼ばれる)の終了後1時間まで継続する場合がある。最適な苦痛緩和のためには、各治療セッションは少なくとも30分間、好ましくは60分間、実行されるべきである。苦痛緩和(すなわち鎮痛)を維持するために、TENS治療セッションは、典型的には一定間隔(2時間おき等)で開始する必要がある。新たに開発されたウェアラブルTENS装置(QUELL(登録商標)装置(米国マサチューセッツ州ウォルサムのNeurometrix, Inc.による)は、所定の時間間隔で治療セッションを自動的に再起動するオプションをユーザに提供する。
【0006】
持ち運び可能な装置では、バッテリ寿命は工学的課題である。刺激パルスの波形は、TENS装置のバッテリ寿命に大きな影響を与える。TENS装置ではしばしば対称二相矩形パルスが用いられるが、そのようなパルスはバッテリ寿命を最大化するためには最適ではない。
【0007】
本発明は、治療効果を向上しつつ電力消費効率を改善するために、新規な刺激波形およびTENS電極の新規な配置を利用するTENS装置に関する。
【0008】
[発明のサマリー]
本発明は、治療効果を向上しつつ電力消費効率を改善するために、新規な刺激波形および電極の新規な配置を利用する経皮的電気神経刺激(TENS)装置に関する。
【0009】
本発明の好適な一形態では、使用者に経皮的電気神経刺激を提供する装置であって、
ハウジングと、
非対称二相電気パルスを用いて神経を電気的に刺激する刺激ユニットであって、
前記刺激ユニットは、非対称二相電気パルスの各相の期間中、アノードにおいて電圧を生成し、前記電圧は、カソードにおける電圧よりも高く、それによって、前記アノードから前記カソードへと電流が流れることができ、
前記刺激ユニットは、前記非対称二相電気パルスの第1相の期間中に蓄積された電荷を利用することにより、前記非対称二相電気パルスの両相で同一のアノード電圧設定を用いて、前記非対称二相電気パルスの第1相において伝達される電荷量よりも大きい電荷量を、前記非対称二相電気パルスの第2相において伝達する、
刺激ユニットと、
前記刺激ユニットによって伝達される前記電気的刺激を制御する制御ユニットと、
前記刺激ユニットに接続可能な電極アレイであって、
前記電極アレイは、基板と、少なくとも第1および第2電極とを備え、
前記少なくとも第1および第2電極は、前記基板が前記使用者に配置された際に、前記第1電極が第1神経に重なるが第2神経には重ならず、前記第2電極が前記第2神経に重なるが前記第1神経には重ならないように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、
電極アレイと、
を備える装置が提供される。
【0010】
本発明の別の好適な一形態では、使用者に経皮的電気神経刺激を提供する装置であって、
ハウジングと、
非対称二相電気パルスを用いて神経を電気的に刺激する刺激ユニットであって、前記刺激ユニットは、前記非対称二相電気パルスの第1相の期間中に蓄積された電荷を利用することにより、同一の電圧出力レベルを用いて、前記非対称二相電気パルスの第1相において伝達される電荷量よりも大きい電荷量を、前記非対称二相電気パルスの第2相において伝達する、刺激ユニットと、
前記刺激ユニットによって伝達される前記刺激を制御する制御ユニットと、
前記刺激ユニットに接続可能な電極アレイであって、
前記電極アレイは、基板と、少なくとも第1および第2電極とを備え、
前記少なくとも第1および第2電極は、前記基板が前記使用者に配置された際に、前記第1電極が第1神経に重なるが第2神経には重ならず、前記第2電極が前記第2神経に重なるが前記第1神経には重ならないように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、
電極アレイと、
を備える装置が提供される。
【0011】
本発明の別の好適な一形態では、使用者に経皮的電気神経刺激治療を提供する方法であって、
非対称二相電気パルスを生成する刺激ユニットを提供することであって、
前記非対称二相電気パルスは、アノード電圧とカソード電圧との間に電圧差を生成することによって生成され、
前記非対称二相電気パルスの第1相の期間中に蓄積された電荷を利用することにより、前記非対称二相電気パルスの第1相および第2相の期間中に同一のアノード電圧を用い、非対称二相電気パルスの第2相において伝達される電荷量は、その非対称二相電気パルスの第1相において伝達される電荷量よりも大きい、
刺激ユニットを提供することと、
前記刺激ユニットに接続可能な電極アレイを提供することであって、
前記電極アレイは、基板と、少なくとも第1および第2電極とを備え、
前記少なくとも第1および第2電極は、前記基板が前記使用者に配置された際に、前記第1電極が第1神経に重なるが第2神経には重ならず、前記第2電極が前記第2神経に重なるが前記第1神経には重ならないように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、
電極アレイを提供することと、
前記刺激ユニットおよび前記電極アレイを用いて使用者の皮膚に非対称二相電気パルスを印加することと、
を備える方法が提供される。
【0012】
本発明の別の好適な一形態では、使用者に経皮的電気神経刺激を提供する方法であって、
非対称二相電気パルスを生成する刺激ユニットを提供することであって、前記刺激ユニットは、前記非対称二相電気パルスの第1相の期間中に蓄積された電荷を利用して、前記刺激ユニットの電圧出力を増大させることなく、前記非対称二相電気パルスの第1相において伝達される電荷量よりも大きい電荷量を前記非対称二相電気パルスの第2相において伝達する、刺激ユニットを提供することと、
少なくとも第1および第2電極を備え、前記刺激ユニットに接続可能な電極アレイを提供することと、
前記第1電極が第1神経に重なるが第2神経に重ならず、前記第2電極が前記第2神経に重なるが前記第1神経には重ならないように、前記電極アレイを前記使用者に配置することと、
前記刺激ユニットを使用して前記使用者の皮膚に非対称二相電気パルスを印加することと、
を備える方法が提供される。
【0013】
本発明の別の好適な一形態では、使用者に経皮的電気筋肉刺激を提供する装置であって、
ハウジングと、
非対称二相電気パルスを用いて筋肉を電気的に刺激する刺激ユニットであって、
前記刺激ユニットは、非対称二相電気パルスの各相の期間中、アノードにおいて電圧を生成し、前記電圧は、カソードにおける電圧よりも高く、それによって、前記アノードから前記カソードへと電流が流れることができ、
前記刺激ユニットは、前記非対称二相電気パルスの第1相の期間中に蓄積された電荷を利用することにより、前記非対称二相電気パルスの両相で同一のアノード電圧設定を用いて、前記非対称二相電気パルスの第1相において伝達される電荷量よりも大きい電荷量を、前記非対称二相電気パルスの第2相において伝達する、
刺激ユニットと、
前記刺激ユニットによって伝達される前記刺激を制御する制御ユニットと、
前記刺激ユニットに接続可能な電極アレイであって、
前記電極アレイは、基板と、少なくとも第1および第2電極とを備え、
前記少なくとも第1および第2電極は、前記基板が前記使用者に配置された際に、前記第1電極が第1筋肉に重なるが第2筋肉には重ならず、前記第2電極が前記第2筋肉に重なるが前記第1筋肉には重ならないように、所定の配置で前記基板に取り付けられる、
電極アレイと、
を備える装置が提供される。
【0014】
本発明の別の好適な一形態では、使用者に経皮的電気筋肉刺激治療を提供する方法であって、
使用者の皮膚に電極アレイを配置するステップであって、前記電極アレイの第1電極が第1筋肉に重なるが第2筋肉には重ならず、前記電極アレイの第2電極が前記第2筋肉に重なるが前記第1筋肉には重ならないように、電極アレイを配置するステップと、
非対称二相電気パルスを生成するために刺激器ユニットを制御するステップと、
前記電極アレイに前記非対称二相電気パルスを伝達するステップであって、前記非対称二相電気パルスの第1相の期間中に蓄積される電荷を利用して、前記非対称二相電気パルスの第2相の期間中に前記刺激器ユニットの出力電圧を増大させる必要なく、前記非対称二相電気パルスの第1相よりも大きい電荷量を前記非対称二相電気パルスの第2相が伝達する、前記非対称二相電気パルスを伝達するステップと、
を備える方法が提供される。
【0015】
本発明の、これらのおよび他の目的および特徴は、下記の本発明の好適な実施形態の詳細な説明によってより十分に記載されるかまたは明白となる。これは添付図面(同様の数字は同様の部品を参照する)とともに考慮されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来の電極配置を介して神経を刺激するために単相刺激パルスを用いる、従来のTENS刺激器の概略図である。
図2図1に示す従来の電極配置を介して神経を刺激するために二相刺激パルスを用いる、従来のTENS刺激器の概略図である。
図3】本発明によって形成される新規なTENS刺激器の概略図である。
図4図3に示す新規なTENS刺激器によって制御される非対称二相電気パルスを伝達するためにユーザの下脚に配置される、TENS電極の新規な配置の概略図である。
図5】抵抗・コンデンサ網によってモデル化される人体に二相刺激電流パルスが印加される時の、図3に示す新規なTENS刺激器の非対称二相刺激電流と、電流源上の関連する電圧プロファイルとの概略図である。
図6】実際の刺激電流パルスプロファイルを目標プロファイルとは異なるものとするために、電圧が目標値未満に低下した時の、図3に示す新規なTENS刺激器の、目標の、および実際の、二相刺激電流および関連する電圧プロファイルの概略図である。
図7】バッテリ効率を向上させるために高電圧回路出力を制御するための、図3に示す新規なTENS刺激器の動作例を示す概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[TENS一般]
経皮的電気神経刺激(典型的にはTENSと略される)は、皮膚下にある神経を活性化させるために、皮膚の無傷の表面に渡って電流を伝達することであり、一般的に苦痛の緩和を目的とする。末梢神経刺激がいかにして苦痛緩和につながるかについての概念的モデルは、1965年にMelzackおよびWallによって提案された(Melzack RおよびWall PD、「Pain mechanisms: a new theory」、Science、1965年11月19日、150(699):971-979)。彼らの理論は、感覚神経(Aβ線維)の活性化が、脊髄の「痛みの門」を閉鎖し、これが侵害受容導入(CおよびAδ線維)によって脳に搬送される苦痛信号の伝達を阻害するということを示唆している。最近20年で、痛みの門の根底にある可能性のある解剖学的経路および分子機構が解明されてきた。感覚神経刺激は、下行性疼痛抑制系(主に、中脳および脳幹の骨髄部にそれぞれ位置する水道周囲灰白質(PAG)および吻腹側内側髄質(rostroventral medial medulla)(RVM))を活性化させる(DeSantana JM、Walsh DM、Vance C、Rakel BA、Sluka KA、「Effectiveness of transcutaneous electrical nerve stimulation for treatment of hyperalgesia and pain」、Curr Rheumatol Rep.、2008年12月、10(6):492-499)。PAGはRVMへの神経投影を有し、これは脊髄後角に拡散した両側突起を有する(Ossipov MH、Dussor GO、Porreca F、「Central modulation of pain」、J Clin Invest.、2010年11月、120(11):3779-3787)。末梢神経刺激はPAGを活性化し、これがRVMをトリガして脊髄後角内の苦痛信号伝達を広く阻害する。これは局部末梢神経刺激によって活性化されるが、下行性疼痛抑制系は刺激部位を超えて広がる鎮痛効果を有し、苦痛緩和を広範囲に提供する(Dailey DL、Rakel BA、Vance CG他、「Transcutaneous electrical nerve stimulation reduces pain, fatigue and hyperalgesia while restoring central inhibition in primary fibromyalgia」、Pain、2013年11月、154(11):2554-2562)。
【0018】
上述のように、TENSは末梢神経を刺激することによって鎮痛を誘導する。末梢神経は、脳および脊髄の外部にある神経線維(すなわち軸索)の集合である神経として定義される。末梢神経は、知覚機能、運動機能および自律機能を提供する神経線維を含む場合がある。TENSは、主に体性末梢神経(神経系に知覚情報を運び込むか、または筋肉に運動制御情報を搬送する神経線維を意味する)を刺激することを意図する。末梢神経は脊髄から下行するにつれ様々な枝へと分岐する。これらの枝の一部は、末梢神経と呼ぶのに十分な程度に大きい。たとえば、坐骨神経(腰仙部において脊髄神経から形成される)は、下背から膝まで1つの大きな神経として伸びる。これは、膝窩(すなわち膝の裏側)において脛骨神経と総腓骨神経とに分岐する。これら2つの神経は、脚および足のさらに下方で他の神経に分岐する。末梢神経枝のほとんどは比較的小さく、提供する機能は限られる(筋肉を刺激する、皮膚の特定領域に感覚を提供する、等)。後者の場合には、分岐は皮膚枝として記述される。場合によっては、末梢神経の小さな分岐は側副枝と呼ばれる。
【0019】
TENSは、刺激パルス形状、振幅、持続時間、パターンおよび周波数を含むいくつかの刺激パラメータによって特徴付けられる。パルス振幅または持続時間(または双方)を増大させると、TENS治療のパルス強度が増大する(強度=振幅*持続時間)。神経の強さ・持続時間関係のため、同一の強度に対しては、持続時間が長くなると刺激パルスの相対的有効性が減少する。感覚認知のレベル未満の強度における刺激は苦痛緩和を提供せず、鎮痛の程度は刺激の強度と相関する。科学的研究および臨床的経験は、治療上有効なTENSはユーザにとって「強いが快適である」と感じられる強度において発生するということを示唆している。
【0020】
図1を見ると、TENS治療の用量は、近似的にC*f*Δとして定義される。量C233はパルス当たりの有効電荷であり、すなわち、総パルス電荷のうち神経線維を刺激するのに実際に有効な部分であって、結果的に、中枢神経系に向かって近位方向に伝搬する神経パルスを発生させる。量fはパルス周波数であり、その逆数はパルス周期T224である。量Δ242は、治療セッションの持続時間である。パルス周波数fは、神経の周波数応答(神経の、不応期を含む時間的興奮性プロファイルによって決定される)と、鎮痛に関連する中枢神経回路の周波数応答とによって制限される。一般的に、鎮痛の有効性は、約100Hzを超えると低下する。治療セッション持続時間Δ242は、患者の好みによって、および、内因性オピオイド系の生理によって制限され、オピオイド濃度は刺激から1時間で低下し始める。
【0021】
末梢神経205を刺激するために、TENS刺激器201は、閉回路が形成できるように、皮膚との少なくとも2つの分離した接触領域(たとえばカソード電極210およびアノード電極215)を必要とする。接触領域における、TENS刺激器と皮膚と間の電気的界面を生成するためには、ヒドロゲルベースの電極(たとえばカソード電極210およびアノード電極215)を用いると好適である。電気パルスに関する重要なパラメータは、振幅I221および持続時間D222である。単相パルス235のそれぞれについて、IおよびDの積として強度すなわち総パルス電荷INが定義され、IN=I*Dである。カソード電極210下の神経部分は、強度INがある閾値を超えた時に、電気パルスによって活性化される。正確な閾値は、多くの要因(使用者の年齢、身長および体重、刺激される神経の生物物理学的特性、および電極の配置を含む)に依存する。また、一般的に、電極下の神経部分を活性化するためには、刺激電流振幅I221を、基電流と呼ばれる最小値より大きくする必要がある。単相パルス220のシーケンスについて、それぞれ総パルス電荷INを持つ各パルスが有効に神経インパルス216(神経に沿って近位方向に伝搬する)の活性化に寄与する。したがって、有効電荷C223は総パルス電荷に等しく、単相パルスTENSの場合にはC=IN=I*Dである。
【0022】
単極刺激パルス220は、実効電荷がパルス電荷に等しいという点で効率的であるが、刺激期間が長引くと発生するアノード215およびカソード210の下の皮膚の副作用が既知であるため、TENS刺激では単極刺激パルスは一般的に用いられない。より具体的には、刺激中、皮膚中の負に帯電したイオンがアノード電極に引き寄せられ、イオンが過度に蓄積されると、アノード215下の皮膚領域において酸性反応を起こす。同様に、皮膚中の正に帯電したイオンはカソード電極に移動し、イオンが過度に濃縮されると、カソード210下の皮膚領域においてアルカリ性反応を起こす。これらの皮膚の副作用を克服するために、TENS装置では、典型的には二相刺激パルスが用いられる。
【0023】
図2を見ると、近代的なTENS装置(たとえばTENS刺激器201)において典型的に用いられる二相パルス230は、各刺激パルスについて、第1相235に続く第2相236を有する。二相パルスの第2相236は、主に、二相パルスの第1相235の期間中に伝達された電荷を均衡させる役割を果たし、これによって、電極下の帯電イオンの蓄積による皮膚の副作用を防ぐ。電気的には、二相パルスの第2相236はアノードおよびカソードの役割を逆転するが、245に示す電極配置でのこの「新たな」カソード(すなわち電極215)の下では、実効的な神経刺激はないと考えられる。これには2つの理由がある。第1に、電極下215の神経部分は、二相パルスの第1相235の間に過分極化され、二相パルスの第2相236における刺激電流I237によって活性化されにくくなる。第2に、仮に電極215下の神経部分が二相刺激パルスの第2相236によって活性化されたとしても、結果として生じる神経パルス217は、電極210下に位置する神経部分の不応期のために、電極210を超えて近位方向に(すなわち中枢神経系に向かって)伝搬できない。より具体的には、不応期とは、第1のパルスが神経部分を通過してから一定時間は、神経線維が第2のパルスを伝送できないことを指す。人間の末梢神経の不応期は数ミリ秒のオーダーであり、TENS二相パルスの2つの相間の遅延は、通常、ミリ秒の1/10よりも小さい。したがって、二相パルスの第2相236が電極215に伝達され、電極215下の神経部分から発する神経パルス217を活性化する。以前の二相パルスの第1相235からの神経パルス活性化により、電極210下の神経部分はまだ不応期にあるので、神経パルス217は電極210下の神経部分を通って近位方向に伝搬できない。結果として、二相パルスの第2相236は、近位方向に伝搬し得る神経パルスを活性化して苦痛緩和に寄与するという有益な効果を提供しない。この場合には、二相パルスの総パルス電荷は(I*D+I*D)であり、すなわち二相パルスの第1相のパルス電荷I*Dに二相パルスの第2相のパルス電荷I*Dを加算したものであるが、有効電荷は依然としてC=I*Dである。言い換えると、二相パルスの有効電荷C233は、本質的には二相パルスの第1相のパルス電荷のみであり、二相パルスの第2相は有効な神経刺激を生じさせない。しかしながら、上述のように、二相パルスの使用は、電極下の皮膚の副作用を克服するために依然として有益であり、したがって、TENS装置にしばしば採用されてきた。
【0024】
図3は、患者負荷350に接続された状態の、新規なTENS刺激器300に対する機能ブロック図を提供する。新規なTENS刺激器300は、本発明に従って二相パルスを提供するよう構成されるが、図3では、例示を明瞭にするために、新規なTENS刺激器300によって生成される二相パルスの第1相のみを示す(二相パルスの第2相は省略する)。TENS刺激器が患者負荷に電流を伝達していない時には、スイッチ308は開離されていてもよい。TENS刺激器出力端子(すなわちアノード端子302およびカソード端子303)への負荷は、電極と、体組織と、電極・皮膚間の界面とからなる(TENS刺激器300は二相パルスを伝達するよう構成されているが、端子302は「アノード」端子と呼ばれ、端子303は「カソード」端子と呼ばれるということに留意すべきである。これは、それらが典型的には二相パルスの第1相の期間中にその役割を果たすからである)。皮膚・電極接点および組織の容積インピーダンス(すなわち刺激器に対する負荷)の、一般的かつ実効的な回路モデルは、350の内部に示す、抵抗・コンデンサ(RC)並列回路と抵抗との直列接続である。スイッチ308が閉成されると、アノード端子302におけるアノード端子電圧Vが高電圧回路出力309における高電圧回路電圧Vと等しくなる。持続時間D322の間、目標電流振幅I321を持つ電気的刺激パルス320を伝達するためには、電流源306において最小電圧バイアスVcs minを維持しなければならない。振幅I321を持つ刺激電流パルスの結果として、アノード端子302(すなわちアノード電極コネクタ)とカソード端子303(すなわちカソード電極コネクタ)との間の電圧VAC=V-Vは、
【数1】
によって与えられる。ただし、時定数τ=R*Cであり、すなわち、容量性コンポーネント351のコンデンサ値Cと抵抗性コンポーネント353の抵抗値Rとの積である。
【0025】
抵抗値Rは、患者負荷の抵抗性コンポーネント352に対するものである。上述の方程式は、次の解を有する。
【数2】
【0026】
=200Ω、R=130kΩ、C=0.1μF(健康な被験者の電気・皮膚界面の等価回路モデル)を用いると、τ=13ミリ秒が得られる。刺激電流パルス持続時間D322は、典型的には100~200ミリ秒の範囲を持つので、D<<τである。t<D<<τとすると、VAC(t)は次式で近似される。
【数3】
【0027】
振幅Iおよび持続時間Dの電流パルスを伝達するためのTENS刺激器の適切な動作を維持するためには、高電圧Vを、VCSが少なくともVCS minであることを保証するのに十分高くなるよう設定しなければならない。必要なアノード電圧Vは、時刻Dにおいてその最大値V maxに達するが、この最大値は次式で近似される:
【数4】
ただしR355は、TENS刺激器内部の既知の値を有する検知抵抗であり、刺激器負荷350に伝達される実際の電流を測定するためのものである。本発明の好適な実施形態では、検知抵抗Rにかかる電圧Vがアナログ・デジタル変換器ADC311を介して測定され、その後、マイクロプロセッサμPC312が、電圧値VをRの抵抗値で除算することにより、負荷350に伝達された実際の電流を計算する。本発明の好適な実施形態では、Rの値は10Ωに設定される。したがって、TENS刺激器が必要な振幅および持続時間を持つ電流パルスを伝達するためには、目標出力電圧Vは最小でも値V maxに設定しなければならない。好適な実施形態では、VAC(D)は直接には測定できない。その代わり、時刻t=Dにおいて、またはそれよりわずかに早い時刻において、測定回路MMC314によって電圧Vが測定される。高電圧回路出力Vは、パルス持続時間Dの間は電流振幅を維持する一方で、刺激パルスの持続時間Dの終了時点において電圧Vがなるべくゼロに近くなるように、マイクロプロセッサμPC312を介して調整される。
【0028】
高電圧Vの設定は、バッテリ寿命に直接的に影響する。バッテリV305の公称電圧は約4.2ボルトである。このバッテリ公称電圧を必要な高電圧Vに昇圧するために、高電圧生成回路310が用いられる。電力保存則は、バッテリ電流引き出しI301と、309における高電圧Vとの間に、次の関係を規定する:
【数5】
ただしβ(<100%)は高電圧回路の効率である。ある容量Qのバッテリについて、バッテリ容量が枯渇するまでの時間Tは、次式で与えられる。
【数6】
【0029】
実際のバッテリ寿命は、この理論的上限より短いが、この理論的上限に比例する。したがって、高電圧Vを、振幅Iおよび持続時間Dを持つ所望の刺激パルスを伝達するのに必要な最小値に維持できれば、バッテリ寿命を改善できるということが理解される。
【0030】
[非対称な相形態を持つ新規な二相波形と、TENS電極の新規な配置とを用いた、バッテリ寿命の最大化]
本発明の新規なTENS刺激器は、TENS治療の有効性を維持しつつ、バッテリ寿命を最大化する(すなわちTを最大化する)ために設計される。より具体的には、本発明の新規なTENS刺激器は、(単相パルスの代わりに)二相刺激パルスを利用する。極性を逆にした第2相の追加により、酸性反応またはアルカリ性反応による皮膚の炎症が最小化される。本発明によれば、高電圧設定を増加させることなくパルスの両相の刺激強度効果を最大化するために、「電圧増倍効果」(後述)を活用する新規な非対称二相刺激パルス形態を用いる。とくに、新規な電極配置方式によって、各二相刺激パルスの正相および負相の双方が、苦痛緩和のために末梢神経を効果的に活性化することができる。
【0031】
本出願において、「非対称」という語は、1つの二相刺激パルスにおける2相の電流プロファイルの相違を記述するために用いられる。加えて、「非対称」という語は、1つの二相刺激パルスの2相の幾何学的面積の相違を記述するために用いられる。電気的刺激パルスの面積は、伝達される総電荷に対応する。したがって、非対称二相刺激パルスは、二相刺激パルスの2相それぞれで等しくない電荷を伝達することができ、非対称二相刺激パルスにおいて伝達される総電荷が不均衡となる(すなわち、二相刺激パルスの第2相の終了時点において、電極下の「正味の」正電荷または「正味の」負電荷の蓄積が発生する)。
【0032】
本発明の好適な実施形態では、2つの電極パッドが、各電極パッドがそれぞれ別の神経線維の組に重なるように、使用者の身体に配置される。図4は例示を提供する。より具体的には、2つの電極(たとえば電極A402および電極B404)を持つ電極アレイ405が、これら2つの電極を概して同一の断面411内に整列させて、使用者の下脚410に配置される。電極アレイ405は、電極A402および電極B404が所定の構成で取り付けられた基板(バンドのような態様で患者の皮膚に保持されるよう構成される)を備えることが好ましい。限定でなく例示として、TENS装置は、使用者の肢のまわりに周状に取り付けるための調整可能なバンドとして構成することができ、ただし、電極アレイ405はTENS装置の皮膚に面する側に固定され、患者の皮膚に対して捕捉される。たとえば、米国特許第8,948,876号明細書(APPARATUS AND METHOD FOR RELIEVING PAIN USING TRANSCUTANEOUS ELECTRICAL NERVE STIMULATIONについて、2015年2月3日にNeuroMetrix, Inc.およびShai N. Gozani他に対して発行された。代理人整理番号NEURO-5960。当該特許明細書は参照により本明細書に援用される)を参照されたい。下脚領域の末梢神経は、主に近位・遠位方向に走っているので、各電極402,404は異なる神経に重なる(たとえば電極A402は神経Xに重なり、電極B404は神経Y414に重なる)。このコンテキストでは、「神経」という語は、神経線維の集合(大末梢神経または末梢神経枝からのもの)を意味するために用いられる(ただし限定ではない)。電極402,404を所定の構成で取り付けた基板として電極アレイ405を形成することによって、かつ、電極アレイ405を目標の解剖学的部位に対して適切なサイズとすることによって、電極アレイ405がTENS装置の他の部分に固定され、TENS装置がバンドのような態様で患者の肢に取り付けられると、電極402,404を、迅速かつ容易に、適切な神経(たとえば神経X412および神経Y414)に重なるように配置することができる。2つの電極402,404は、TENS刺激器ユニット(図3)のカソードおよびアノード端子303,302に電気的に接続される。
【0033】
刺激パルスセグメントP1A(すなわち第1の二相パルスの第1相)の期間中、電極A402下の神経X412は、強度IN1A=I*Dを持つ電気的刺激によって活性化され、結果として生じる神経パルス416は近位方向に伝搬し、苦痛緩和のための有効用量に寄与する。刺激パルスセグメントP1B(すなわち、第1の二相パルスの第2相)の期間中、電極B404下の神経Y414は、強度IN1B=I*Dを持つ電気的刺激によって活性化され、結果として生じる神経パルス418は近位方向に伝搬し、苦痛緩和のための有効な用量に寄与する。とくに、刺激パルスセグメントP1Aと刺激パルスセグメントP1Bとの時間的分離は典型的に0.1ミリ秒以下である(すなわち、末梢神経の不応期より短い)が、神経XおよびYは、電極下の各神経(および神経線維)が重ならないという性質と、各神経に対する各電極の配置とによって、(刺激パルスセグメントP1Aまたは刺激パルスセグメントP1Bにより)1回だけ活性化される。したがって、第1の二相パルスの期間中に神経X412および神経Y414の双方が活性化され得(すなわち、神経Xは二相パルスの第1相の期間中に活性化され得、神経Yは二相パルスの第2相の期間中に活性化され得る)、苦痛緩和の全体的な有効用量に寄与する。二相パルスの各相がそれぞれ分離された神経を活性化し、結果として生じる神経パルスが苦痛緩和の有効用量に寄与するので、有効電荷Cはこの二相パルスの総パルス電荷(I*D+I*D)と同一である。言い換えると、それぞれ異なる神経上に配置される2つの電極間に二相刺激パルスを印加することにより、二相パルスの第1相の間に一方の電極が一方の神経を活性化し、二相パルスの第2相の間に他方の電極が第2の神経を活性化する。したがって、二相パルスの各相が使用者に治療的神経刺激を提供するよう動作し、二相パルスの両相によって有効電荷Cが提供される。結果として、図4に示す電極配置では、二相パルスによって使用者に伝達される有効電荷Cは(I*D)+(I*D)である。これに対し、図2に示す電極配置では、二相パルスによって使用者に伝達される有効電荷Cは(I*D)である。
【0034】
次の二相刺激パルス(すなわち、刺激パルスセグメントP2Bおよび刺激パルスセグメントP2A)は、第1の二相刺激パルスの後約125ミリ秒(80ヘルツ)で発生するので、両神経が再び活性化されるようそれぞれの不応期から回復する時間がある。刺激パルスセグメントP2Bの期間中、電極B404下の神経Y414は、強度IN2B=I*Dを持つ電気的刺激によって活性化される。同様に、刺激パルスセグメントP2Aの期間中、電極A404下の神経X412は、強度IN2A=I*Dを持つ電気的刺激によって活性化される。ここでも、図4の電極構成を用いて二相刺激パルスによって伝達される有効電荷Cは、この二相パルスの総パルス電荷(I*D)+(I*D)と同一である。したがって、図4の新規な電極配置では、各二相パルスに対する有効電荷は、(I*D)+(I*D)に増加し、これは図2の電極配置245を用いた有効電荷I*Dよりも有意に大きい。
【0035】
他の電極配置も検討された。TENS刺激器ユニットのアノードコネクタおよびカソードコネクタに、複数の電極を接続してもよい。カソード端子に接続された電極下の神経が、部分的にアノード端子に接続された電極下となるように、電極を身体に配置してもよい。加えて、刺激期間中、すべての電極がカソードまたはアノードに接続される必要はない。図4の電極アレイ421は一例を提供する。まず、電極A1 422およびB1 424が、それぞれ1つ以上の二相パルスを伝達するために、カソード端子およびアノード端子に接続される。その後、電極A2 423およびB2 425が、次の1つまたはいくつかの二相パルスのために、カソード端子およびアノード端子に接続される。その後、電極A1 422およびB2 425が、再びカソード端子およびアノード端子に接続される。その後、電極A2 423およびB1 424が、再びカソード端子およびアノード端子に接続される。電極接続を交番させる利点の1つは、神経パルス426および427(2本の神経線維束X412およびY414に沿って伝搬する)の相対的なタイミングが可変となるので、神経の慣れが減少することである可能性がある。
【0036】
好適な実施形態では、刺激すべき目標神経は末梢感覚神経である。別の好適な実施形態では、目標神経は、運動感覚混合神経の皮膚枝である。
【0037】
図5は、二相刺激パルス510に対応する電流源306にかかる電圧プロファイルVCS(t)530の例である。時刻t<tである時には、電流振幅がゼロであることの結果として、高電圧回路310より右側の他のコンポーネントすべての電圧がゼロであるため、電圧VCS(t)はVにおいて開始される。時刻t=tにおいて、刺激電流のために抵抗性コンポーネントR352およびR355(図3)において即時の電圧低下531がある。時間帯t≦t≦t中では、容量性コンポーネントC351(図3)が充電されつつあり、負荷350にかかる電圧は、電圧VCS(t)のさらなる漸次的低下532を起こす。VCS(t)の最小電圧541がVCS minより上に留まる限り、すなわちVCS(t)≧VCS minである限り、二相パルスの第1相514の期間中に電流源は適切に機能し、必要な電流振幅I512で刺激を伝達する。時刻t=tにおいて、電流源306がオフに切り替わり、抵抗性コンポーネントRおよびRにかかる電圧はゼロとなり、VCS(t)の急な増加533を起こす。期間t≦t≦t中では、電流源306はオフのままであり、負荷350内の容量性コンポーネントC351(図3)は、抵抗性コンポーネントR353(図3)を介してわずかに放電し、VCS(t)のわずかな増加を起こす。好適な実施形態では、遅延δ(=t-t)515は100マイクロ秒に設定される。時刻t=tにおいて、負荷が逆転し、負荷350の点Tから点Wに向かう方向における元の電圧降下は、点Wから点Tに向かう電圧上昇となる(コンデンサC351(図3)にかかる電圧は瞬時に変化できないからである)。結果として、電流源306にかかる電圧VCS(t)は、急な増加535(通常はVを超える)を経験する。時間帯t≦t≦t中では、容量性コンポーネントCが変化しつつあり、負荷350にかかる電圧は、電圧VCS(t)の新たな漸次的低下536を起こす。ここでも、VCS(t)の最小電圧542がVCS minより上に留まる限り、すなわちVCS(t)≧VCS minである限り、二相パルスの第2相516の期間中に電流源は適切に機能し、必要な電流振幅I518で刺激を伝達する。
【0038】
高電圧回路310の出力端子309における電圧Vの設定が低すぎる場合には、電流源306にかかる電圧VCS(t)530は、パルスの第1相(またはパルスの第2相、またはパルスの両相)の期間間、その必要最小電圧VCS minより上に留まらない可能性がある。電圧VCS(t)がVCS minを下回ると、電流源は必要な振幅で刺激電流を伝達できない可能性がある。図6は、目標刺激電流パルス510と比較して、実際に伝達される電流パルス550の例を提供する。このケースでは、刺激電流パルス552の第1相は、二相刺激パルスの第1相の全期間にわたっては目標刺激電流振幅Iを維持していないが、刺激電流パルス556の第2相は、二相刺激パルスの第2相の全期間にわたって目標刺激電流振幅Iに一致する。刺激電流IによってコンデンサC図3)が充電される結果、このコンデンサにかかる電圧が増加するので、時刻t553において電圧VCS(t)が閾値VCS minを下回る。実際の刺激電流振幅は、上述のように抵抗Rの電圧読み取り値を介して監視することができる。実際の刺激電流振幅がパルスの全持続時間を通して同じレベルに維持されない場合には、その刺激強度はI*Dではなくなる。実際の刺激強度はグレー領域552のサイズであり、刺激電流振幅測定値と、隣接する電流測定値間の時間間隔との積からなる系列の総和によって近似可能である。グレー領域522は、しばしば、第1相の期間中に刺激器によって伝達される実際の電荷として参照される。一実施形態では、伝達される実際の電荷が目標電荷I*Dより10%(エラー率)だけ小さい場合に、電圧Vがこのエラー率の値に比例する量だけ高く調節される。
【0039】
高電圧回路310の出力端子309における電圧Vは、刺激パルスの整合性を維持しつつ、できるだけ低く留まるよう制御される。刺激パルスの整合性とは、一実施形態では、二相刺激パルス510の刺激電流I(t)の振幅が、すべてのt≦t≦tについて目標値Iの所定割合内であり、すべてのt≦t≦tについて目標値Iの所定割合内であることとして定義される。この所定割合の一例は95%である。刺激パルスの整合性は、別の実施形態では、強度IN 552が目標強度値IN =I*Dの所定割合内であることとして定義される。この所定割合の一例は90%である。伝達される刺激電流の実際の振幅は、抵抗R355両端の電圧降下V(t)を介して、時間とともに測定可能である。
【0040】
図7は、高電圧Vを制御するための高電圧制御アルゴリズムのフローチャートを示す。伝達された刺激電流I(t)の実際の振幅は、抵抗R355にかかる電圧Vを介して測定可能である。ステップ610が実際の刺激電流振幅を決定する。「パルス整合性」の厳密な定義に応じて、ステップ620において、直近の電流振幅が、または電流振幅の測定値の積分が、取得される。ステップ630において、パルス整合性が受容可能か否かを判定するために、パルス整合性値が適切な閾値と比較される。整合性がOKでない場合には、ステップ640を介して高電圧回路出力Vの目標値が増加し、所定の時間間隔で再び刺激電流振幅が測定される。ステップ630において整合性がOKであると判明すれば、ステップ650で電圧VCS(t)=V(t)-V(t)が取得される。この電圧が最小閾値VCS minを超えていれば、ステップ660を介して高電圧回路出力Vの目標値が減少する。好適な実施形態では、VCS min=1[ボルト]である。
【0041】
図5に示すように、電圧VCS(t)は、二相刺激パルスの第1相514の期間中および二相刺激パルスの第2刺激相516の期間中に減少する。減少532および536のサイズは、それぞれ、刺激強度I*DおよびI*Dに比例する。二相パルスの第1相514については、刺激強度は、V-I(R+R)-VCS minによって、または負荷350内のコンデンサC351について可能な最大電圧降下によって、制限される。しかしながら、二相パルスの第2相516に対する刺激強度上限は、二相パルスの第1相514に対する刺激強度上限の2倍すなわち2*(V-I(R+R)-VCS min)である。その理由は、カソード端子303における開始電圧を提供するために、時刻t=tではコンデンサCの電圧がVに加算されるからである。このように、二相パルスの第2相516に対する刺激強度の上限は、二相パルスの第1相514の刺激強度の上限の2倍大きい。この現象はしばしば「電圧増倍効果」と呼ばれる。実際には、期間t≦t≦t中のコンデンサCの放電と、刺激器回路における漏れ電流とにより、電圧増倍効果の値は2より小さくなる。
【0042】
二相パルスの各相514,516の振幅パラメータおよび持続時間パラメータは、独立に指定可能である。一実施形態では、I(第1相の刺激電流振幅)およびI(第2相の刺激電流振幅)は共通の値に設定され、D(第1相の持続時間)およびD(第2相の持続時間)は別の共通の値に設定される。この構成は従来の二相対称波形である。別の実施形態では、IおよびIは同じ値に設定されるが、上述の刺激器回路の電圧増倍効果(二相パルスの第1相の期間中にコンデンサCに蓄積される電荷による)の利益を受けるために、DはDよりも長く設定される。この構成は二相非対称波形である。
【0043】
さらに別の実施形態では、Q=I*DがQ=I*Dに等しくなるように(したがってD<Dとなるように)、第2相の振幅IはIよりも高く設定される。IをIより高く設定するとしても、上述の電圧増倍効果のため、高電圧回路出力Vに対する目標値をより高くする必要はない場合がある。出力電圧Vをより高くすることなくIをより高く設定できるということは、いくつかの利点を有する。これらの利点の1つは、神経刺激の有効性を支配する周知の強さ・持続時間関係によって、より効率的な神経の刺激が可能になることである。神経線維を刺激するのに必要な電荷QTHは、次のように、刺激持続時間Dとともに線形に増加する:
【数7】
ただしbおよびcは、それぞれ基電流およびクロナキシーと呼ばれる定数である。これらの定数は、多数の要因(刺激される神経線維の生物物理学的特性、電極と神経線維との間に介在する組織の特性、刺激波形の特性、等を含む)に影響される。しかしながら、すべての場合においてb>1かつc>0である。したがって、同じ神経線維でも、振幅Iがより高く持続時間Dがより短い刺激パルスを受ければQTHは低くなる。言い換えると、同じ強度の刺激パルスでは、持続時間が短いもののほうが、持続時間が長いものより効率的である。
【0044】
さらに別の実施形態では、上述の電圧増倍効果によって、高電圧回路出力Vを増加させることなく、二相パルスの第2相の振幅Iおよび持続時間Dの双方を、第1相のそれぞれ対応する値より高く設定することができる。
【0045】
さらに別の実施形態では、連続する二相パルスについて、すべての振幅値がある範囲内となるように、第2相の振幅Iが(たとえばランダムなやり方で)別の値に設定される。この範囲の下限は第1相の振幅Iであってもよく、この範囲の上限は、二相パルス刺激の第1相をサポートするのに必要な高電圧回路出力Vを増加させない最高値であってもよい。同様に、二相刺激パルスの第2相の持続時間を、ある範囲の値に設定してもよい。二相パルスの第2相の強度を変化させることの利点の1つは、神経の慣れが減少し、TENS鎮痛効果が増大することである。
【0046】
高電圧回路出力Vが同一である場合、V=V max(ただしV maxは高電圧回路310によって伝達可能な最大出力電圧)であっても、二相刺激パルスの第2相は、二相刺激パルスの第1相が刺激可能なQTHを超え得るQTHの神経を、刺激することができる。言い換えると、高電圧回路出力Vは、二相刺激パルスの第2相の整合性を保証するのにちょうど必要なだけの大きさに調節される。このような手法では少なくとも2つの利点が得られる。第1に、二相パルスの第2相において電圧増倍効果を活用することにより、単相パルスのみを用いた場合に既存のTENSハードウェア設計仕様ではサポートできないようなQTHを持つTENS装置の使用者に、いくらかの苦痛緩和を提供することができる。第2に、他の場合に要求されるものより高電圧回路出力が低いので、バッテリ寿命を延長することができる。
【0047】
刺激電流の振幅が二相刺激パルスの両相で同一に留まる場合(すなわちI=I=I)、二相パルスの2つの相の間の持続時間比を最適化して、所与の高電圧Vに対して二相パルスの総強度を最大化することができる。簡単のため、D=α*DかつD=(1-α)*Dであると仮定する。ただしDは二相パルスの第1相および第2相の合計である。したがって、αは、二相パルスの第1相の持続時間と二相パルスの第2相の持続時間との和に対する、二相パルスの第1相の持続時間の比を表す。結果として、伝達される総強度はI*Dとなる。上記では、電流源306にかかる電圧は、V-I(R+R)-V であるということを示した(ただしV は、振幅Iおよび持続時間αDを持つ電流パルスの結果としてコンデンサCにかかる電圧であり、V =α*I*Dである)。必要となる最小の高電圧出力は、V min=V +I(R+R)+VCS minである。相間インターバルδ515(図5)中のコンデンサCの放電による電圧変化534を無視すれば、第2相の開始時点において電流源306にかかる電圧は(時刻t=t において)、次のようになる。
【数8】
【0048】
二相パルスの第2相の期間中、コンデンサ351にかかる最大電圧変化ΔV A,maxは、次式を満たさねばならない。
【数9】
【0049】
上述の式(1)を利用すると、次式を得る。
【数10】
【0050】
好適な実施形態では、値αは0.36に設定される。
【数11】
の近似(ただしγ<<1.0は定数である)を用いると、あるαに対して必要となる最小の高電圧が次式で得られる。
【数12】
【0051】
有効電荷(総刺激強度)I*Dを固定すると、α=0.36における最小高電圧設定は、対称二相パルス(すなわち、両相で等しい持続時間を持つ二相パルスすなわちα=0.5)について要求される設定の0.36/0.5=72%となる。結果として、両方のケースで同一の有効電荷I*Dを伝達する場合には、対称パルス持続時間のケース(α=0.5)よりも非対称パルス持続時間のケース(α=0.36)のほうが、バッテリ寿命が39%長くなると期待される。
【0052】
[二相パルスの極性を反転させることによる正味電荷蓄積ゼロの達成]
本発明の一形態において、各二相パルスは、その2つの相の総電荷が不均衡である。たとえば図5に示す二相波形を参照されたい。二相パルスの第1相の総電荷は、二相パルスの第2相の総電荷によって均衡せず、I*D≠I*Dである。したがって、本発明の好適な一実施形態では、各電極皮膚接触領域に均衡した電荷を伝達できるように、隣接する二相パルスの先頭相の極性を交番させる。より具体的には、図4を参照して、二相パルスの第1相P1Aの期間中に電極A402下の皮膚領域に流れ込む総(負)電荷はI*Dであり、二相パルスの第2相P1Bの期間中に同じ皮膚領域から流れ出る総(負)電荷はI*Dである。第1の二相パルスの先頭相P1Aの極性と比べると、第2の二相パルスは、その先頭相P2Bの極性が反転している。結果として、二相パルスの第1相P2Bの期間中にこの皮膚領域から流れ出る総(負)電荷はI*Dであり、二相パルスの第2相P2Aの期間中にこの皮膚領域に流れ込む総(負)電荷はI*Dである。よって、正味の電荷は、2つの二相パルスのスパンにわたって実効的に均衡する。同様に、電極B404下でも皮膚領域における正味の電荷蓄積はない。
【0053】
二相パルスごとに先頭相の極性を交番(すなわち図4に示すように)させる代わりに、二相パルスの先頭相の極性を交番させる頻度は、合理的な期間中に正味の電荷蓄積がゼロに維持される限り、より低い値に設定してもよい。言い換えると、二相パルスの先頭相の極性は、ある選択された(電極下の皮膚の副作用が起きるほど長くない)期間中に正味の電荷蓄積がない限り、2パルスごと、または3パルスごと、または4パルスごと、等に変更してもよい。好適な一実施形態では、極性は二相パルス2つごとに交番される。
【0054】
[非対称二相パルス刺激の利益を示す実験データ]
本明細書に開示される非対称パルス持続時間アプローチの利益を示すために、10人の健康な被験者が募集され、2つの異なる二相パルス刺激パターンの実効性を比較する研究に参加することに同意した。パターンAは対称二相パルスパターンであり、二相パルスの両相の振幅および持続時間が同じ(たとえば図2に示す二相パルスパターン)であった。持続時間は100マイクロ秒に固定され、振幅は、電気刺激の初発知覚を誘起するよう各被験者によって調節可能であった。パターンBは非対称二相パルスパターンであり、たとえば図5に示す二相パルスパターンのように、二相パルスの第2相の持続時間(180マイクロ秒)を、二相パルスの第1相(100マイクロ秒)より長くした。パターンB非対称二相パルスパターンの両相の振幅は同一に維持され、パターンAと同じ電気刺激の初発知覚を誘起するよう各被験者によって調節可能であった。用いられた刺激パターンは各被験者には隠され、各被験者は各刺激パターンについて知覚閾値発見プロセスを3回実行した。被験者は、各試行の間、電気的刺激の初発知覚を誘起した最小の刺激パルス振幅を述べた。表1は研究結果を要約する。各被験者について、パターンAおよびパターンBそれぞれについて、3つの特定された刺激パルス振幅(ミリアンペア単位)を平均した。10人の被験者の間では、電気的刺激の初発知覚を誘起した最小の刺激電流振幅は、非対称パルスパターンBに対しての方が、対称パルスパターンAに対してより14%~35%低かった。両パルスパターンについて、二相パルスの第1相の持続時間は同一であるので、初発知覚を誘起するために必要な刺激電流振幅が減少した理由は、非対称パルスパターンBの第2相の持続時間がより長いということのみに帰され得る。以前の分析では、第1相の電流振幅が低いと、必要な最小の高電圧Vが低くなるということが示されている。この電圧増倍効果のため、第2相の持続時間が第1相の持続時間の2倍より短いパルスであればいかなるものについても、その高電圧要件は、第1相に対する高電圧要件とほぼ同一となる。
【0055】
【表1】
【0056】
[パルスの先頭相の極性を交番させた非対称二相電気パルスを用いる直接的筋肉刺激]
電気パルスを用いて筋肉を直接的に刺激し、筋収縮を起こすこともできる。電気パルスは皮膚上の電極を介して伝達される。末梢神経に重なるように電極を配置する代わりに、電極は、刺激すべき筋肉の直接的近傍の皮膚に配置される。電気的筋肉刺激(EMS)を用いて、アスリートの筋肉の強さを向上させることができ、筋骨格損傷の患者における筋肉の萎縮を防止することができ、また、筋肉に対する神経の供給が弱まった時に体外からの筋肉制御を提供することができる。
【0057】
持ち運び可能なEMS装置は、バッテリ寿命および刺激強度に関して、TENS装置と同様の課題に直面している。EMSに非対称二相刺激パルスを適用すると、二相刺激パルスの第1相の期間中の電荷蓄積を活用して、より強い刺激を二相刺激パルスの第2相の期間中に伝達することにより、これらの課題を克服することができる。高電圧回路の出力を増大させる必要なく、二相刺激パルスの第2相においてより大きい振幅またはより長い持続時間を持つより強い刺激パルスを伝達することが、バッテリ寿命の節約につながる。二相電気パルスの先頭相の極性を交番させることにより、各電極下の筋肉は、同じ総刺激強度を受けることができる。また、二相電気パルスの先頭相の極性を交番させることにより、非対称二相パルスを用いる場合であっても、各電極に流れ込む正味の電荷がゼロとなることが保証される。
【0058】
[好適な実施形態の変形]
当業者は、本発明の原理および範囲内に留まりつつ、本発明の性質を説明するために本明細書に記述され例示された、詳細、材料、工程および各部の配置における多くの追加の変更を、行うことができるということが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7