(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】感圧接着剤として有用な組成物、その使用、およびそれを含む接着物品
(51)【国際特許分類】
C08F 220/30 20060101AFI20220304BHJP
C08F 2/48 20060101ALI20220304BHJP
C09J 133/14 20060101ALI20220304BHJP
C09J 133/06 20060101ALI20220304BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20220304BHJP
C09J 7/25 20180101ALI20220304BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220304BHJP
【FI】
C08F220/30
C08F2/48
C09J133/14
C09J133/06
C09J133/04
C09J7/25
C09J7/38
(21)【出願番号】P 2019536592
(86)(22)【出願日】2017-12-04
(86)【国際出願番号】 EP2017081358
(87)【国際公開番号】W WO2018127332
(87)【国際公開日】2018-07-12
【審査請求日】2020-09-23
(32)【優先日】2017-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516358093
【氏名又は名称】アイジーエム レシンス イタリア ソチエタ レスポンサビリタ リミタータ
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】アンジェロ カシラギ
(72)【発明者】
【氏名】エンゾ メネグッツォ
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエーレ ノルチーニ
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0175830(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0152297(US,A1)
【文献】特開2008-056805(JP,A)
【文献】特開2016-132713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-301/00
C08L 33/00-101/16
C09J 7/00- 7/50
C09J 133/00-133/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.少なくとも1つの共重合性(メタ)アクリルモノマー、
b.任意選択で、少なくとも1つの共重合性非アクリルモノマー、
c.少なくとも1つの共重合性光開始剤、
d.任意選択で、溶媒、および
e.任意選択で、1つまたは複数の非共重合性
熱開始剤
を含む組成物であって、少なくとも1つの共重合性光開始剤(c)が、式(I)
【化1】
(I)
(式中、
- Xは、SおよびNR’から選択され、
- R’は、水素および直鎖または分岐鎖C
1~10アルキル基から選択され、
- R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、水素、C
1~6アルキル基、ハロゲン、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシド基から選択され、
- R
4は、水素、-COOH、-CH
2CO
2Hおよびメチル基から選択される)
の化合物であり、
ここで、前記少なくとも1つの共重合性(メタ)アクリルモノマー(a)が、
メトキシプロピレングリコールアクリレート、メトキシプロピレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、およびそれらの混合物から選ばれるか;または、
メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレートおよびアクリル酸の混合物、および
メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸、ブチルメタクリレートおよび/または2-エチルヘキシルメタクリレートの混合物
から選択されることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの共重合性非アクリルモノマー(b)が、α,β-不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸、ならびにそれらの無水物およびアルキルまたはアルケニルエステルであって、アルキル基が、1~3個の炭素原子を有し、アルケニル基が、2~5個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニルエステル:アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メタクリル酸エチルエステ
ル、フマル酸、ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリロニトリル、プロピオン酸ビニル、ビニルピロリドン、スチレン、アルファメチルスチレン、ACMO(アクリロイルモルホリン)およびスチレン4-スルホン酸から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
溶媒(d)が、アルコール、ケトン、エーテル、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エステルおよびそれらの混合物から選択され、前記熱開始剤(e)が、存在する場合、アゾ化合物、2,2’アゾビス(イソブチロニトリル)、過酸化物、過酸化ベンゾイル、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、過酸化ジラウリル、ペルカーボネートおよびジ(4-tert-ブチルシクロヘキシルペルオキシジカーボネート)から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
XがSであり、R
1
、R
2
およびR
3
が水素であり、R
4
がメチルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物を重合することにより得られるランダムコポリマー。
【請求項6】
0.25~10重量%以下の式(I)に従う共重合性光開始剤(c)を含み、前記割合が、成分(a)、(b)、(c)および(e)の総重量に基づくことを特徴とする、請求項5に記載のランダムコポリマー。
【請求項7】
請求項5または6に記載のランダムコポリマーをUV照射することにより得られるおよび/または得られた架橋生成物。
【請求項8】
式(I)
【化2】
(I)
(式中、
- Xは、SおよびNR’から選択され、
- R’は、水素および直鎖または分岐鎖C
1~10
アルキル基から選択され、
- R
1
、R
2
およびR
3
は、それぞれ独立して、水素、C
1~6
アルキル基、ハロゲン、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ヒドロキシル基、C
1~6
アルコキシド基から選択され、
- R
4
は、水素、-COOH、-CH
2
CO
2
Hおよびメチル基から選択される)
の共重合性光開始剤(c)の、創傷被覆デバイス用感圧接着剤用組成物の調製における使用。
【請求項9】
式(I)の化合物において、XがSであり、R
1
、R
2
およびR
3
が水素であり、R
4
がメチルである、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記組成物が、請求項5もしくは6に記載のランダムコポリマー、または請求項7に記載の架橋生成物である、請求項8または9に記載の使用。
【請求項11】
請求項5もしくは6に記載のランダムコポリマーおよび/または請求項7に記載の架橋生成物を含む感圧接着剤(PSA)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感圧接着剤「PSA」の製造に有用な組成物、および特に医療分野における前記PSAの使用に関する。本発明はまた、本発明の組成物を含む接着物品の製造方法、前記物品、および前記方法における特定の光開始剤の使用に関する。本発明はさらに、本発明の組成物を含む医療用物品に関する。
【背景技術】
【0002】
「感圧接着剤」または「感圧接着剤組成物」(PSA)は、圧力が加えられたときに所定の基材に接着することができる恒久的な粘着性を有する組成物である。
【0003】
PSAは、様々な用途で使用される。例えば、PSAは、包装またはオフィス用の粘着テープ、傷または手術用包帯、運動用テープ、絆創膏、センサーや電極などの医療機器をヒトの皮膚に接着するのに使用されるテープまたはタブの製造に使用される。PSAは、その汎用性により、ガラスなどの無機材料だけでなく、皮膚などの有機材料にも接着できる。
【0004】
PSA粘着テープは、優れた作業性により、電気絶縁、包装および保護として、または光学フィルムを積層したり、液晶パネルなどの接着体に光学フィルムを取り付けたりするために広く使用されている。粘着テープは、様々な産業および自動車の用途でも有用である。両面にPSAを有する両面接着テープは、同種または異種の材料の基材を結合するのに有用であることが判明している。
【0005】
PSAの別の用途は、物品(塗装された自動車とその部品、または鋼板や、そこからの成形品などの金属板)の輸送、保管エージング、および組み立てにおける表面損傷の防止であり、保護のために、表面に保護シートを接着するなどの技術が知られている。そのような目的のために使用される表面保護シートは、一般に、PSAを介して表面に接着されたときに保護を提供できるように、基材シートの片面にPSA層を形成するように構成されている。
【0006】
PSAは、恒久的な、再配置可能な、または取り外し可能な用途のいずれかに向けて設計されている。取り外し可能な接着剤は、表面と一時的に結合することを目的としており、表面に残留物を残すことなく、テープを取り外すことができる。取り外し可能な感圧接着剤の用途は、ラベル、販促用グラフィック素材(住所ラベル)、ソフトウェアメディアラベル、付箋紙、表面保護などのオフィス用である。取り外し可能なPSAは、ヒトの皮膚などの有機表面に接着できるため、電極、ウェアラブルセンサーなどの医療機器の接着にも使用できる。さらに、PSAは、医療用テープ、外科用被覆材、または創傷ケア被覆材の創傷、経皮薬物パッチ、カテーテルなどの分野で使用できる。
【0007】
再配置可能なPSAも存在し、これは、取り外し可能な接着剤に類似しているが、有効性を損なったり、残留物を残したりすることなく、表面から取り外して、同じ表面または別の表面に再適用することができる。このタイプの接着剤は、より大きな接着力を得るために、取り外して何度も再適用したり再配置したりすることができる。
【0008】
対照的に、恒久的なPSAは、例えばガラス、プラスチック、金属などの無機材料に恒久的に接着するための製造に使用され、高い接着値を示す。例としては、自動車の内装トリムアセンブリ、電子部品を固定する電子機器、耐久性のある接着剤、包装ラベル、接着フィルムなどが挙げられる。
【0009】
PSAには、天然ゴム、様々な種類の合成ゴム、例えばスチレン-ブタジエンおよびエチレン共重合体、ポリビニルエーテル、ポリウレタン、アクリル、シリコーンおよびエチレン-酢酸ビニル共重合体などの多数のポリマー原料が含まれる。しかしながら、PSA組成物は通常、ゴムベース、(メタ)アクリルモノマー、変性(メタ)アクリルシリコーンモノマーから誘導される。
【0010】
ゴムベースのPSAは、特にプラスチックへの良好な初期接着性を提供し、特に高水分用途で接着性を達成するために使用される。天然ゴムの重大な欠点は、コストが高いことであり、そのため、通常、充填剤が添加される。しかしながら、ゴムの場合、充填剤は特性を変更し、場合により、長期のエージングが低い。
【0011】
アクリル系PSAは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルから製造され、優れた接着特性を提供する。接着剤の特性のほとんどは、モノマーの組成、およびポリマーの分子量によって決定される。それらは他の成分を含まない可能性があり、皮膚に適用したときに刺激性が低くなるため、医療用途にしばしば好まれる。
【0012】
また、アクリルベースのPSAは、溶剤、UV光、高温、化学試薬に対する良好な耐性を提供する。アクリルPSAは、長期エージングおよび環境抵抗も示す。
【0013】
高分子量線状ポリシロキサンポリマーなどの追加成分を組み込んだアクリルポリマーから作られた変性アクリルPSAは、粘着性および接着性を得るが、内部強度および環境安定性が失われる。
【0014】
PSAの典型的な重要な特性として、通常、初期粘着性、せん断抵抗、剥離強度が認められる。
【0015】
「初期粘着性」とは、表面に接触した際の即時保持力を指す。これは、表面からテープと接着剤とを取り除くのに必要な力の尺度であり、基材への接着剤の初期引力の尺度を示す。接着剤成分を調整して、粘着性の程度を変更させることが可能である。初期粘着性が高いと、高いレベルの接着力を示すが、きれいに除去できない場合がある。
【0016】
「せん断抵抗」は、PSAの内部凝集力の尺度であり、かつ、PSAの柔軟さの指標である。低せん断のPSAは、柔軟であり、かつより高い初期粘着性を有する。対照的に、高せん断のPSAは、良好な内部強度及び低い粘着性を有する。
【0017】
「剥離接着力」は、制御された角度で、標準の速度と条件で、テストパネルからPSAテープを取り外すのに必要な力である。これは、接着剤と表面との間の結合強度の尺度であり、製造業者によって設定される。PSAの柔らかさが増すにつれて、剥離力は減少する。
【0018】
PSAの特定の特性を改善するために、線状ポリマーは、その適用後に、ポリマーの三次元ネットワークを形成するよう架橋させることができる。
【0019】
通常、PSAは、ラジカル共重合を可能にするラジカル開始剤を含む(メタ)アクリレートモノマーのブレンドで製造される。開始剤が分解してラジカルを形成すると、ラジカル反応が開始する。ラジカル反応は、熱や光(UV)など、様々な方法で実行できる。
【0020】
ホットメルトPSAの場合、架橋プロセスは、コーティング作業および熱を加える前に有機過酸化物を添加することで得られる。しかしながら、ホットメルト接着剤の熱可塑性の性質に起因する不十分な高温耐性および低い化学耐性など、ホットメルトPSAには限界がある。
【0021】
UV PSAの場合、コーティング配合物に光開始剤を添加し、適切な光源を照射してネットワークを得る。
【0022】
前述のように、PSAは、テープ、ドレープ、ラベル、ステッカーなどの幅広い用途に使用されている。しかしながら、PSAは、ヘルスケアおよび生物医学用途で大きな市場シェアを有している。
【0023】
多くのフィルム/PSAの組み合わせは閉塞性であるため、表面から汚染物質が隔離されるだけでなく、皮膚自体からの水分も覆われた領域で密閉されるように、表面を密閉する。
【0024】
医療用PSAの開発における焦点は、接着性、生体適合性および蒸気や空気の透過性にある。医療用PSAは、高耐容性であり、通気性のある製品でなければならず、かつ、皮膚からの非常に良好に剥離しうることを特徴とする必要がある。
【0025】
アクリレートPSAは、一般に水蒸気を透過する。透湿性の程度は、PSAコーティングの厚さと、PSAの配合によって異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
微調整可能な粘着性および接着性などの改善された特性を備え、非常に通気性の高い新しいPSAを開発することが求められている。
【0027】
本発明の目的は、従来技術のPSAに対して改善された粘着性および接着特性を有する感圧接着剤(PSA)として有用な新規な組成物を提供することである。
【0028】
本発明のさらなる目的は、高い通気性および皮膚適合性を有する新規なPSAを提供することである。
【0029】
本発明のさらなる目的は、上記新規な組成物の調製方法を提供することである。
【0030】
本発明のさらなる目的は、特に医療分野における接着物品、および本発明のPSAを含む物品における前記PSAの使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の態様の1つによれば、本発明は、
a.少なくとも1つの共重合性(メタ)アクリルモノマー、
b.任意選択で、少なくとも1つの共重合性非アクリルモノマー、
c.少なくとも1つの共重合性光開始剤、
d.任意選択で、溶媒、および
e.任意選択で、1つまたは複数の非共重合性光開始剤
を含む新規の組成物であって、少なくとも1つの共重合性光開始剤(c)が、ベンゾフェノン(メタ)アクリレートおよび式(I)
【化1】
(I)
(式中、
- Xは、SおよびNR’から選択され、
- R’は、水素および直鎖または分岐鎖C
1~10アルキル基から選択され、
- R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、水素、C
1~6アルキル基、ハロゲン、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシド基から選択され、
- R
4は、水素、-COOH、-CH
2CO
2Hおよびメチル基から選択される)
の化合物から選択され、
ここで、前記少なくとも1つの共重合性(メタ)アクリルモノマー(a)が、
i.2-ヒドロキシエチルエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートおよびそれらの混合物などの、アルキル基が、好ましくは2~18個の炭素原子、最も好ましくは2~10個の炭素原子を有するヒドロキシアルキルアクリル酸またはメタクリル酸エステル、
ii.n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートおよびそれらの混合物などの、アルキル基が、好ましくは2~18個の炭素原子、最も好ましくは2~10個の炭素原子を有するアルキルアクリル酸またはメタクリル酸エステル、
iii.メトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルメタクリレートおよびそれらの混合物などの、アルキル基が、好ましくは2~18個の炭素原子、最も好ましくは2~10個の炭素原子を有する、アクリル酸またはメタクリル酸エステルのアルコキシアルキル、
iv.式(I)
R
1-(OCH
2CHR
7)
nL-O(CO)-CR
6=CH
2 (I)
のモノマー
(式中、R
5は、水素またはC
1~C
6アルキル基であり、nは、1~100の整数であり、Lは、単結合または二価の連結基であり、好ましくは、単結合またはC
1~C
6アルキレン基であり、R
6は、水素またはCH
3基であり、R
7は、水素またはメチル基である)
から選択されることを特徴とする、新規な組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】アセトニトリル中の、4-ベンゾイル-4’-(2-メチル-プロペノイル)-ジフェニルエーテルおよび4-ベンゾイル-4’-(2-メチル-プロペノイル)-ジフェニルチオエーテルの吸収を比較したUV可視スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
グループ(iv)のモノマー(a)は、好ましくは、メトキシプロピレングリコールアクリレート、メトキシプロピレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、およびそれらの混合物から選択される。
【0034】
モノマー(i)~(iv)の混合物もまた含まれ、本発明の好ましい実施形態を表す。
【0035】
好ましい実施形態によれば、共重合性(メタ)アクリルモノマー(a)は、現在「Bisomer(登録商標)MPEG350MA」として市販されているメトキシポリエチレングリコールメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレートおよびアクリル酸の混合物である。
【0036】
好ましい実施形態によれば、共重合性(メタ)アクリルモノマー(a)は、現在「Bisomer(登録商標)MPEG350MA」として市販されているメトキシポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸、ブチルメタクリレートおよび/または2-エチルヘキシルメタクリレートの混合物である。
【0037】
別の好ましい実施形態によれば、少なくとも1つのモノマー(iv)は、1つまたは複数のモノマー(i)~(iii)と混合して組成物中に存在する。
【0038】
好ましい実施形態によれば、共重合性非アクリルモノマー(b)は、
- α,β-不飽和モノカルボン酸またはジカルボン酸、好ましくはX-X炭素原子を有するもの、ならびにそれらの無水物およびアルキルまたはアルケニルエステルであって、アルキル基が、好ましくは1~3個の炭素原子を有し、アルケニル基が、好ましくは2~5個の炭素原子を有するアルキルまたはアルケニルエステル;モノマー(b)の例としては、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メタクリル酸エチルエステルおよびフマル酸が挙げられ;
- 好ましくは、酢酸ビニル、アクリロニトリル、プロピオン酸ビニル、ビニルピロリドン、スチレンアルファメチルスチレン、ACMO(アクリロイルモルホリン)およびスチレン4-スルホン酸などのビニルモノマーを含んでいる。
【0039】
好ましい実施形態においては、XはSである。
【0040】
別の好ましい実施形態においては、R1、R2およびR3は水素である。
【0041】
好ましい実施形態においては、R4はメチルである。好ましい実施形態においては、式(I)の化合物は、4-ベンゾイル-4’-(2-メチル-プロペノイル)-ジフェニルチオエーテルである。
【0042】
「溶媒」(d)という語は、溶媒の混合物を含んでいる。
【0043】
好ましい実施形態においては、溶媒(d)は、アルコール、ケトン、エーテル、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エステルおよびそれらの混合物から選択される。最も好ましい溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンおよびトルエンから選択される。
【0044】
好ましい実施形態においては、溶媒(d)は、アルコールとエステル、有利にはエタノール/酢酸エチルの混合物、例えば55/45の比のエタノール/酢酸エチル(w/w)などである。
【0045】
任意の熱開始剤が存在することが好ましく、2,2’アゾビス(イソブチロニトリル)などのアゾ化合物、または過酸化ベンゾイル、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、過酸化ジラウリルなどの過酸化物、またはジ(4-tert-ブチルシクロヘキシルペルオキシジカーボネート)などの過炭酸塩から選択するのが好ましい。
【0046】
驚くべきことに、Xが酸素であるという点で、上記式(I)の化合物とは本質的に異なる欧州特許第2878606号に開示の光開始剤に関し、酸素原子を硫黄原子と置き換えることにより、深色シフトがもたらされることが見出された。実際、
図1と次の表に示すように、酸素原子を硫黄原子と置換すると、吸収が長波長(+31nm)にシフトすることが観察された。
【表1】
LFC3097(O)=4-ベンゾイル-4’-(2-メチル-プロペノイル)-ジフェニルエーテル
LFC3046(S)=4-ベンゾイル-4’-(2-メチル-プロペノイル)-ジフェニルチオエーテル
ε=モル吸光係数
【0047】
新規の長波長光開始剤が常に調査され、かつ要求されているため、この深色シフトは、予想できなかったものであり、かつ式(I)の光開始剤に重要な利点があることを示している。
【0048】
本発明の組成物は、一般に知られている重合手順に従って、上記成分(a)~(e)を反応させることにより調製できる。
【0049】
一例として、撹拌機、温度計、凝縮器、加熱などの温度調節器を備え、溶剤およびラジカル重合開始剤(e)を収容した反応器を加熱し、成分(a)および(b)、またはそれらの溶液を、反応器にゆっくりと供給する。好ましくは、窒素などの不活性雰囲気下で行われる共重合は、バッチプロセスであり、モノマーの全変換は約20時間で得られる。典型的には、必ずというわけではないが、溶媒は反応の最後に除去される。したがって、本発明の組成物は、線状または分岐状のランダムコポリマーとして得られる。
【0050】
組成物の調製方法は、このようにして得られた組成物と共に、本発明の別の主題である。
【0051】
本発明は、上記で定義された成分(a)~(e)を重合することにより得られるか、または得られたランダムコポリマーにも関する。
【0052】
本発明はまた、本発明のランダムコポリマーを照射することにより得られる架橋生成物に関する。
【0053】
本発明は、医療分野において特に有用である。実際、本発明の組成物はPSAとして使用することができ、優れた水蒸気透過性および皮膚接着性を示し、それにより、高度の柔軟性および患者の快適さが維持される。
【0054】
本発明はまた、本発明のランダムコポリマーの感圧接着剤としての使用、好ましくは創傷被覆材との使用にも関する。
【0055】
本発明のランダムコポリマー中の成分の量は、好ましくは次のとおりである。
- グループ(iv)の少なくとも1つのモノマー(a)少なくとも2.5~40%、好ましくは5~15%、例えば約10%と、グループ(i)~(iii)、好ましくはグループ(i)の1つまたは複数のモノマー(a)との混合物であって、モノマー(a)の総量は65~95重量%、
- 0~25重量%の少なくとも1つの共重合性非アクリルモノマー(b)、
- 0.25~10重量%以下の共重合性光開始剤(c)、
- 0~1重量%の熱開始剤(e)、
上記の割合は、成分(a)、(b)、(c)および(e)の総重量に基づく。
【0056】
好ましくは、溶媒(d)は、存在する場合、成分(a)、(b)、(c)および(d)の総重量の30~80重量%の量で存在する。
【0057】
溶媒は、次に示すように、組成物の調製プロセスの最後に除去できるため、最終組成物に存在しなくてもよい。
【0058】
使用に際して、本発明のランダムコポリマーは、加熱すると粘度が低下するため、ホットメルト配合物として基材に適用することができる。
【0059】
これらのランダムコポリマーは、ブラシ、ロール、スプレー、スプレッド、ワイヤー、グラビア、転写ロール、ナイフ、ドクターブレードなど、様々なコーティング方法を使用して適用できる。
【0060】
接着剤の層の厚さは、約10マイクロメートルから数百マイクロメートルの広い範囲にわたって様々であり、10マイクロメートルから100マイクロメートルの間が好ましい。
【0061】
ランダムコポリマーを基材に適用した後、コポリマーをUV光によって架橋し、高性能のPSAを生成する。本発明の別の目的は、請求項9に記載の式(I)
【化2】
(I)
(式中、
Xは、SおよびNR’から選択され、
R’は、水素および直鎖または分岐鎖C
1~10アルキル基から選択され、
R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立して、水素、C
1~6アルキル基、ハロゲン、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、ヒドロキシル基、C
1~6アルコキシド基から選択され、
R
4は、水素、-COOH,-CH
2CO
2Hおよびメチル基から選択される)
の共重合性光開始剤(c)の、感圧接着剤用の組成物の調製における使用である。
【0062】
好ましくは、式(I)の化合物において、XはSであり、R1、R2およびR3は水素であり、R4はメチルである。組成物は、請求項6もしくは7に記載のランダムコポリマー、または請求項8に記載の架橋生成物を含み得る。
【0063】
好ましい接着剤は、好ましくは創傷被覆デバイス用の感圧接着剤(PSA)である。本発明の別の目的は、請求項13に記載のコポリマーを含み、式(I)の化合物を含む、感圧接着剤(PSA)である。
【0064】
UV照射により、タイプII光開始剤の励起状態は、環境(R-H)(例えば、隣接する線状または分岐状ランダムコポリマー)からの水素原子引抜の一次プロセスを経て、ケチルラジカルを生成する。同時に、水素の引抜により、コポリマーにラジカルが残され、異なるポリマー鎖間、またはポリマー鎖とケチルとの間の架橋が形成される。結果は、基材上のポリマーの三次元ネットワークである。
【0065】
本発明の組成物にUV照射を照射することにより得られた感圧接着剤(PSA)は、三次元ネットワークを有しており、その特性が変化している。実際、このUV照射により、材料の粘弾性特性が変更され、接着と凝集とのバランスが改善される。三次元架橋により粘度が増加し、溶解性が低下するが、架橋した接着剤の配合物は、基材上で安定したままである。
【0066】
UV照射条件は、当業者に周知である。通常、約200nm~約400nmの波長のUV照射が使用される。ランダムコポリマーの層を担持する基材の表面上のUV強度は、典型的に、10~500mJ/cm2、好ましくは20~100mJ/cm2の範囲内である。
【0067】
基材または裏当ては、様々な材料から選択できる。
【0068】
裏当て層は、水蒸気を透過する薄いポリマーの弾性または可撓性の膜でできていてもよい。フィルムは、液体および/または細菌不透過性であってもよい。裏当て層は、ポリウレタン、弾性ポリエステル、ポリウレタンとポリエステルとのブレンド、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルであってもよく、アミドブロックコポリマーおよび多孔性ポリエチレンを含んでいてもよい。一実施形態では、裏当てはポリウレタンフィルムである。
【0069】
薄い裏当て層は、良好な適応性を示すため、好ましい。裏当ての好ましい厚さは、約10マイクロメートル~約75マイクロメートルの範囲である。
【0070】
本発明はまた、上記で定義したように、本発明のランダムコポリマーを基材または裏当てに適用することと、並びに適切な光源で照射することとを含む、接着物品の製造方法にも関する。
【0071】
本発明はまた、本発明のランダムコポリマー、または架橋生成物を含む接着物品にも関する。
【0072】
本発明を、以下の非限定的な実施例により説明する。
実験項目
【実施例1】
【0073】
PSAの調製
モノマー
- 50gのBisomer MPEG350MA(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量350g/モル)、
- 2gの4-ベンゾイル-4’-(2-メチル-プロペノイル)-ジフェニルチオエーテル、
- 283gの2-エチルヘキシルアクリレート、140.0gのメチルアクリレートおよび25.0gのアクリル酸。
【0074】
エタノール/酢酸エチル55:45の混合物140gに、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート0.8gを溶解した熱ラジカル開始剤溶液を調製した。温度計、メカニカルスターラーを装備し、窒素でパージしたガラスフラスコに、80gの溶媒(エタノールおよび酢酸エチル1.22:1で構成)、250gの上記のモノマー混合物および70.4gの触媒溶液を撹拌しながら投入した。温度を77~80℃まで上昇させた。混合物を30分間還流し、残りのモノマー混合物および触媒溶液を、90分かけて反応器に均等に加えた。添加の終わりに、モノマータンクを、エタノール/酢酸エチル55:45の混合物50gで洗浄し、反応器に加えた。反応器を、1時間還流状態で保持した。供給開始から3.5時間後、エタノール/酢酸エチル55:45の混合物40gに、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート0.7gの触媒溶液を、45分間撹拌しながら溶解した。内部温度を77~80℃に維持した。最後に、モノマー混合物の供給開始から6.15時間後に、反応器内の有機相を冷却し、エタノール/酢酸エチル55:45の混合物148.5gで希釈した。
【0075】
このようにして得られたPSAは、溶媒ベースの接着剤として、または溶媒蒸発後のホットメルト接着剤として使用できる。
【実施例2】
【0076】
PSAの性能の評価
真空下で溶媒を蒸発させた後の実施例1のPSAをホットメルトとして使用し、被覆重量30g/m2で、試料をPET36ミクロンフィルム上にコーティングした。
【0077】
HgドープUV-Cランプ、30mJ/cm
2で架橋した後、接着性能を次のように評価した。
【表2】
1)20分の滞留時間での剥離接着力(ステンレス鋼(ss)上の180°)
2)ループタック(=QSss)をステンレス鋼上で測定した。
3)せん断値を、1平方インチ((1/2”)
2)の表面積で、1kgのおもりを使用して室温で測定した。
4)せん断値を、1平方インチ((1”)
2)の表面積で、1kgのおもりを使用して室温で測定した。
【実施例3】
【0078】
適用試験
光開始活性の評価
異なる共重合性ベンゾフェノンを含む2つのPSAの性能を評価するために、2つの透明な配合物を調製した。
- 成分(c)として4-ベンゾイル-4’-(2-メチル-プロペノイル)-ジフェニルチオエーテルを含む本発明のPSA、および
- (比較試験として)4-アクリロイルオキシ-ベンゾフェノンを含む、本発明によらないPSA。
【0079】
ビスフェノールAエポキシジアクリレート(Ebecryl(登録商標)605)(93.06%)およびシリコーンジアクリレート(Ebecryl(登録商標)350)(0.94%)の混合物に、共重合性ベンゾフェノン(3%)および4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(3%)を撹拌しながら加えて、透明な溶液を得る。配合物を、バーコーターを使用して6μmの厚膜としてポリエチレン支持体上に塗り広げ、UV露光(Hg/Xeランプ200Wを装備し、強度を20%に下げたHamamatsu Lightningcure LC8)後、IRスペクトル(Jasco FT/IR430)を記録する。
【0080】
実験は、異なる時間にUV照射した後、二重結合ピーク(1408cm
-1)の面積を測定することによって実行した。重合の割合は、次の式:
変換率%=[1-(A
t/A
t°)]×100
に従って得、結果を表1に示す。
【表3】
(*)比較