(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】光学異方性膜、円偏光板、表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20220304BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220304BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220304BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20220304BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220304BHJP
H05B 33/02 20060101ALN20220304BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/14 A
H01L27/32
G02F1/13363
G09F9/00 313
H05B33/02
(21)【出願番号】P 2019539551
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018031841
(87)【国際公開番号】W WO2019044859
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2017163094
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】西川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】野尻 真裕美
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亮司
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/180217(WO,A1)
【文献】特表2009-520239(JP,A)
【文献】特開2014-071356(JP,A)
【文献】特開2011-068731(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050583(WO,A1)
【文献】特開2016-085447(JP,A)
【文献】特開2016-188960(JP,A)
【文献】特開2016-090866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶化合物および
分子の長軸方向における吸光度と短軸方向における吸光度とが異なる二色性の赤外線吸収色素を含む組成物から形成された光学異方性膜であって、
前記光学異方性膜は式(A)の関係を満たし、
前記光学異方性膜の
面内進相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収が、前記光学異方性膜の
面内遅相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収よりも大きい、光学異方性膜。
式(A) Re(450)/Re(550)<1
Re(450)は波長450nmにおける前記光学異方性膜の面内レタデーションを表し、Re(550)は波長550nmにおける前記光学異方性膜の面内レタデーションを表す。
【請求項2】
前記赤外線吸収色素の波長700~900nmでの極大吸収波長における前記光学異方性膜の配向秩序度S
0が、式(B)の関係を満たす、請求項1に記載の光学異方性膜。
式(B) -0.50<S
0<-0.15
【請求項3】
液晶化合物および
分子の長軸方向における吸光度と短軸方向における吸光度とが異なる二色性の赤外線吸収色素を含む組成物から形成された光学異方性膜であって、
前記赤外線吸収色素の波長700~900nmでの極大吸収波長における前記光学異方性膜の配向秩序度S
0が、式(B)の関係を満たし、
前記光学異方性膜の
面内進相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収が、前記光学異方性膜の
面内遅相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収よりも大きい、光学異方性膜。
式(B) -0.50<S
0<-0.15
【請求項4】
前記赤外線吸収色素の波長700~900nmの吸光度の積算値が、前記赤外線吸収色素の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きい、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学異方性膜。
【請求項5】
前記赤外線吸収色素が、式(1)で表される化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学異方性膜。
【化1】
R
11およびR
12は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、少なくとも一方は電子吸引性基であり、R
11およびR
12は結合して環を形成してもよい。R
13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素または金属原子を表し、R
11と共有結合または配位結合していてもよい。R
14は、それぞれ独立に、メソゲン基を有する基を表す。
【請求項6】
波長550nmにおける面内レタデーションが110~160nmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学異方性膜。
【請求項7】
請求項6に記載の光学異方性膜と、偏光子とを有する、円偏光板。
【請求項8】
表示素子と、前記表示素子上に配置された請求項7に記載の円偏光板とを有する、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性膜、円偏光板、および、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率異方性を持つ位相差膜(光学異方性膜)は、表示装置の反射防止膜、および、液晶表示装置の光学補償フィルムなど種々の用途に適用されている。
近年、逆波長分散性を示す光学異方性膜の検討がなされている(特許文献1)。なお、逆波長分散性とは、可視光線領域の少なくとも一部の波長領域において、測定波長が長いほど複屈折が大きくなる「負の分散」特性を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、従来の光学異方性膜が示す逆波長分散性は必ずしも十分ではなく、更なる改良が必要であった。
より具体的には、例えば、光学異方性膜としてλ/4板(1/4波長板)を例にとると、可視光線領域において位相差が測定波長の1/4波長となることが理想となる。しかし、従来の光学異方性膜においては、可視光線領域の長波長側において、理想曲線から外れる傾向にあった。なお、本明細書では、光学特性が理想曲線に近づくことを、逆波長分散性が優れるという。
本発明は、上記実情に鑑みて、優れた逆波長分散性を示す光学異方性膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、円偏光板および表示装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来技術の問題点について鋭意検討した結果以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
【0006】
(1) 液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物から形成された光学異方性膜であって、
光学異方性膜は式(A)の関係を満たし、
光学異方性膜の進相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収が、光学異方性膜の遅相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収よりも大きい、光学異方性膜。
式(A) Re(450)/Re(550)<1
Re(450)は波長450nmにおける光学異方性膜の面内レタデーションを表し、Re(550)は波長550nmにおける光学異方性膜の面内レタデーションを表す。
(2) 赤外線吸収色素の波長700~900nmでの極大吸収波長における光学異方性膜の配向秩序度S0が、式(B)の関係を満たす、(1)に記載の光学異方性膜。
式(B) -0.50<S0<-0.15
(3)液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物から形成された光学異方性膜であって、
赤外線吸収色素の波長700~900nmでの極大吸収波長における光学異方性膜の配向秩序度S0が、式(B)の関係を満たし、
光学異方性膜の進相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収が、光学異方性膜の遅相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収よりも大きい、光学異方性膜。
式(B) -0.50<S0<-0.15
(4) 赤外線吸収色素の波長700~900nmの吸光度の積算値が、赤外線吸収色素の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きい、(1)~(3)のいずれかに記載の光学異方性膜。
(5) 赤外線吸収色素が、後述する式(1)で表される化合物である、(1)~(4)のいずれかに記載の光学異方性膜。
(6) 波長550nmにおける面内レタデーションが110~160nmである、(1)~(5)のいずれかに記載の光学異方性膜。
(7) (6)に記載の光学異方性膜と、偏光子とを有する、円偏光板。
(8) 表示素子と、表示素子上に配置された(7)に記載の円偏光板とを有する、表示装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた逆波長分散性を示す光学異方性膜を提供できる。
また、本発明によれば、円偏光板および表示装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】従来の逆波長分散性を示す光学異方性膜の波長分散と理想の複屈折Δnの波長分散との比較を示す図である。
【
図2】有機分子の屈折率と吸収係数との波長分散特性を示す図である。
【
図3】所定の吸収特性の有無による異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの波長分散との比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。まず、本明細書で用いられる用語について説明する。また、進相軸および遅相軸は、特別な断りがなければ、550nmにおける定義である。
【0010】
本発明において、Re(λ)およびRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレタデーションおよび厚み方向のレタデーションを表す。特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。
本発明において、Re(λ)およびRth(λ)はAxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)において、波長λで測定した値である。AxoScanにて平均屈折率((nx+ny+nz)/3)と膜厚(d(μm))を入力することにより、
遅相軸方向(°)
Re(λ)=R0(λ)
Rth(λ)=((nx+ny)/2-nz)×d
が算出される。
なお、R0(λ)は、AxoScan OPMF-1で算出される数値として表示されるものであるが、Re(λ)を意味している。
【0011】
本明細書において、屈折率nx、ny、および、nzは、アッベ屈折率(NAR-4T、アタゴ(株)製)を使用し、光源にナトリウムランプ(λ=589nm)を用いて測定する。また、波長依存性を測定する場合は、多波長アッベ屈折計DR-M2(アタゴ(株)製)にて、干渉フィルタとの組み合わせで測定できる。
また、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、および、各種光学フィルムのカタログの値を使用できる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、および、ポリスチレン(1.59)。
【0012】
なお、本明細書では、「可視光線」とは、波長400nm以上700nm未満の光を意図する。また、「赤外線」とは、波長700nm以上の光を意図する。また、「紫外線」とは、波長10nm以上400nm未満の光を意図する。
また、本明細書において、角度(例えば「90°」などの角度)、およびその関係(例えば「直交」および「平行」など)については、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、厳密な角度±10°の範囲内であることなどを意味し、厳密な角度との誤差は、5°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明の光学異方性膜の特徴点の一つとしては、赤外線吸収色素を用いて、かつ、光学異方性膜の波長700~900nmにおける吸収特性を制御している点が挙げられる。
以下、本発明の特徴について詳述する。
まず、
図1に、測定波長550nmでの複屈折値(Δn(550nm))を1として規格化した可視光線領域での各波長における複屈折(Δn(λ))の波長分散特性を示す。例えば、上述した理想的なλ/4板は、
図1の点線に示すように、複屈折が測定波長に対し比例関係にあるため、測定波長が長いほど複屈折が大きくなる「負の分散」特性を有する。それに対して、従来の逆波長分散性を示す光学異方性膜は、
図1の実線に示すように、短波長領域においては点線で示す理想曲線と重なる位置にもあるが、長波長領域においては理想曲線から外れる傾向を示す。
本発明の光学異方性膜においては、赤外線吸収色素を用いて、かつ、光学異方性膜の波長700~900nmにおける吸収特性を制御することにより、白抜き矢印で示すように、長波長領域における光学特性を理想曲線に近づけることができる。
【0014】
上記特性が得られる理由としては、まず、一般的な有機分子の屈折率波長分散特性について
図2を参照しながら説明する。
図2中、上側は波長に対する屈折率の挙動を示し、下側では波長に対する吸収特性の挙動(吸収スペクトル)を示す。
有機分子は、固有吸収波長から離れた領域(
図2のaの領域)における屈折率nは波長が増すと共に単調に減少する。このような分散は「正常分散」と言われる。これに対して、固有吸収を含む波長域(
図2のbの領域)における屈折率nは、波長が増すとともに急激に増加する。このような分散は「異常分散」と言われる。
つまり、
図2に示すように、吸収がある波長領域の直前においては屈折率の増減が観察される。
【0015】
本発明の光学異方性膜においては、赤外線吸収色素の影響を受けて、進相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収が、遅相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収よりも大きくなる。以後、このような吸収特性を、吸収特性Xともいう。後段で詳述するように、上記吸収特性Xは、光学異方性膜中において赤外線吸収色素の吸光度の高い軸方向を進相軸の方向と平行になるように配置することにより達成される。
吸収特性Xを示す光学異方性膜においては、吸収特性Xを有さない光学異方性膜よりも、常光線屈折率がより低下する。
具体的には、
図3において、上記吸収特性Xの有無による異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの波長分散の比較を示す図である。
図3中、太線は吸収特性Xがない場合の異常光線屈折率neのカーブを示し、実線は吸収特性Xがない場合の常光線屈折率noのカーブを示す。それに対して、吸収特性Xを有する本発明の光学異方性膜においては、上記
図2で示したような波長700~900nmの吸収に由来する影響を受けて、破線で示すように可視光線領域の長波長領域において常光線屈折率noの値がより低下する。結果として、可視光線領域の長波長領域において、異常光線屈折率neと常光線屈折率noとの差である複屈折Δnがより大きくなり、
図1に示す矢印の挙動が達成される。
以下、光学異方性膜の構成について詳述する。
なお、光学異方性膜の構成の説明においては、実施形態(第1実施形態および第2実施形態)ごとに説明する。
また、後段で説明する、光学異方性膜を形成するために用いる組成物の説明、光学異方性膜の製造方法、および、用途などの記載に関しては、第1実施形態と第2実施形態とをまとめて説明する。
【0016】
<第1実施形態>
光学異方性膜の第1実施形態は、式(A)の関係を満たす。
式(A) Re(450)/Re(550)<1
Re(450)は波長450nmにおける光学異方性膜の面内レタデーションを表し、Re(550)は波長550nmにおける光学異方性膜の面内レタデーションを表す。
なかでも、Re(450)/Re(550)は、0.97以下が好ましく、0.92以下がより好ましく、0.87以下がさらに好ましい。下限は特に制限されないが、0.75以上の場合が多い。
【0017】
光学異方性膜の第1実施形態のRe(650)/Re(550)は特に制限されないが、1.05以上が好ましく、1.08以上がより好ましく、1.10以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、1.25以下が好ましく、1.20以下がより好ましい。
なお、Re(650)は、波長650nmにおける光学異方性膜の面内レタデーションを表す。
【0018】
光学異方性膜の第1実施形態のRe(550)は特に制限されないが、λ/4板として有用である点で、110~160nmが好ましく、120~150nmがより好ましい。
【0019】
光学異方性膜の第1実施形態の厚みは特に制限されず、位相差フィルムの薄型化の点から、10μm以下が好ましく、0.5~8.0μmがより好ましく、0.5~6.0μmがさらに好ましい。
なお、本明細書において、光学異方性膜の厚みとは、光学異方性膜の平均厚みを意図する。上記平均厚みは、光学異方性膜の任意の5箇所以上の厚みを測定して、それらを算術平均して求める。
【0020】
光学異方性膜の第1実施形態においては、光学異方性膜の進相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収(以下、「吸収F」ともいう)が、光学異方性膜の遅相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収(以下、「吸収S」ともいう)よりも大きい。
上記「吸収Fが吸収Sよりも大きい」とは、光学異方性膜の進相軸に平行な偏光を光学異方性膜に照射した際に得られる吸収スペクトルの波長700~900nmにおける最大吸光度が、光学異方性膜の遅相軸に平行な偏光を光学異方性膜に照射した際に得られる吸収スペクトルの波長700~900nmにおける最大吸光度よりも大きいことを意図する。
なお、上記測定は、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて実施できる。
【0021】
なお、上記のような吸収の異方性は、後述するように赤外線吸収色素を用いることにより実現できる。特に、二色性の赤外線吸収色素を用いて、この色素の吸光度のより高い軸方向を光学異方性膜の進相軸方向と平行とすることにより、吸収Fを吸収Sよりも大きくできる。
【0022】
光学異方性膜の第1実施形態においては、赤外線吸収色素の波長700~900nmにおける極大吸収波長における光学異方性膜の配向秩序度S0は特に制限されず、-0.50超-0.10以下の場合が多い。配向秩序度S0が大きいと、赤外線吸収色素の使用量を減らしても、光学異方性膜の逆波長分散性を向上させることができる。そのため、光学異方性膜を有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置の反射防止膜として適用した際に、有機EL表示装置の輝度がより優れる点で、式(B)の関係を満たすことが好ましい。
式(B) -0.50<S0<-0.15
なかでも、配向秩序度S0は-0.40~-0.20であることがより好ましく、-0.30~-0.20であることがさらに好ましい。
【0023】
本明細書において、波長λnmにおける光学異方性膜の配向秩序度S0(λ)は、式(C)で表される値である。
式(C) S0(λ)=(Ap-Av)/(Ap+2Av)
式(C)中、Apは、光学異方性膜の遅相軸方向に対して平行方向に偏光した光に対する吸光度を表す。Avは、光学異方性膜の遅相軸方向に対して直交方向に偏光した光に対する吸光度を示す。
光学異方性膜の配向秩序度S0(λ)は、光学異方性膜の偏光吸収測定により求めることができる。なお、上記測定は、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて実施できる。λは、光学異方性膜の吸収測定で得られた波長700~900nmにおける吸収スペクトルの極大吸収波長である。
【0024】
<第2実施形態>
光学異方性膜の第2実施形態においては、赤外線吸収色素の波長700~900nmにおける極大吸収波長における光学異方性膜の配向秩序度S0は、式(B)の関係を満たす。
式(B) -0.50<S0<-0.15
なかでも、配向秩序度S0は-0.40~-0.20であることがより好ましく、-0.30~-0.20であることがさらに好ましい。
光学異方性膜の配向秩序度S0(λ)の測定方法は、上述した<第1実施形態>で説明した通りである。
【0025】
光学異方性膜の第2実施形態においては、光学異方性膜の進相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収(吸収F)が、光学異方性膜の遅相軸の方向での波長700~900nmにおける吸収(吸収S)よりも大きい。
上記「吸収Fが吸収Sよりも大きい」とは、光学異方性膜の進相軸に平行な偏光を光学異方性膜に照射した際に得られる吸収スペクトルの波長700~900nmにおける最大吸光度が、光学異方性膜の遅相軸に平行な偏光を光学異方性膜に照射した際に得られる吸収スペクトルの波長700~900nmにおける最大吸光度よりも大きいことを意図する。
なお、上記測定は、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて実施できる。
【0026】
なお、上記のような吸収の異方性は、赤外線吸収色素を用いることにより実現できる。特に、二色性の赤外線吸収色素を用いて、この色素の吸光度のより高い軸方向を光学異方性膜の進相軸方向と平行とすることにより、吸収Fを吸収Sよりも大きくできる。
【0027】
光学異方性膜の第2実施形態は、式(A)の関係を満たすことが好ましい。
式(A) Re(450)/Re(550)<1
Re(450)は波長450nmにおける光学異方性膜の面内レタデーションを表し、Re(550)は波長550nmにおける光学異方性膜の面内レタデーションを表す。
なかでも、Re(450)/Re(550)は、0.97以下が好ましく、0.92以下がより好ましく、0.87以下がさらに好ましい。下限は特に制限されないが、0.75以上の場合が多い。
【0028】
光学異方性膜の第2実施形態のRe(650)/Re(550)は特に制限されないが、1.05以上が好ましく、1.08以上がより好ましく、1.10以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、1.25以下が好ましく、1.20以下がより好ましい。
なお、Re(650)は、波長650nmにおける光学異方性膜の面内レタデーションを表す。
【0029】
光学異方性膜の第2実施形態のRe(550)は特に制限されないが、λ/4板として有用である点で、110~160nmが好ましく、120~150nmがより好ましい。
【0030】
光学異方性膜の第2実施形態の厚みは特に制限されず、位相差フィルムの薄型化の点から、10μm以下が好ましく、0.5~8.0μmがより好ましく、0.5~6.0μmがさらに好ましい。
光学異方性膜の厚みの測定方法は、上述した<第1実施形態>で説明した通りである。
【0031】
<組成物>
本発明の光学異方性膜は、液晶化合物および赤外線吸収色素を含む組成物から形成された層である。以下では、使用される材料について詳述し、その後、光学異方性膜の製造方法について詳述する。
【0032】
<液晶化合物>
液晶化合物の種類は特に制限されないが、その形状から、棒状タイプ(棒状液晶化合物)と円盤状タイプ(円盤状液晶化合物。ディスコティック液晶化合物)とに分類できる。さらにそれぞれ低分子タイプと高分子タイプとがある。高分子とは一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。なお、2種以上の棒状液晶化合物、2種以上の円盤状液晶化合物、または、棒状液晶化合物と円盤状液晶化合物との混合物を用いてもよい。
【0033】
液晶化合物の極大吸収波長の位置は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、紫外線領域に位置することが好ましい。
【0034】
光学特性の温度変化および湿度変化を小さくできることから、液晶化合物としては、重合性基を有する液晶化合物(棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物)が好ましい。液晶化合物は2種類以上の混合物でもよく、その場合、少なくとも1つが2以上の重合性基を有していることが好ましい。
つまり、光学異方性膜は、重合性基を有する液晶化合物(棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物)が重合などによって固定されて形成された層であることが好ましく、この場合、層となった後はもはや液晶性を示す必要はない。
上記重合性基の種類は特に制限されず、ラジカル重合またはカチオン重合が可能な重合性基が好ましい。
ラジカル重合性基としては、公知のラジカル重合性基を用いることができ、アクリロイル基またはメタアクリロイル基が好ましい。
カチオン重合性基としては、公知のカチオン重合性基を用いることができ、具体的には、脂環式エーテル基、環状アセタール基、環状ラクトン基、環状チオエーテル基、スピロオルソエステル基、および、ビニルオキシ基などが挙げられる。なかでも、脂環式エーテル基またはビニルオキシ基が好ましく、エポキシ基、オキセタニル基、または、ビニルオキシ基がより好ましい。
特に、好ましい重合性基の例としては下記が挙げられる。
【0035】
【0036】
なかでも、液晶化合物としては、式(I)で表される化合物が好ましい。
式(I) L1-SP1-A1-D3-G1-D1-Ar-D2-G2-D4-A2-SP2-L2
上記式(I)中、D1、D2、D3およびD4は、それぞれ独立に、単結合、-O-CO-、-C(=S)O-、-CR1R2-、-CR1R2-CR3R4-、-O-CR1R2-、-CR1R2-O-CR3R4-、-CO-O-CR1R2-、-O-CO-CR1R2-、-CR1R2-O-CO-CR3R4-、-CR1R2-CO-O-CR3R4-、-NR1-CR2R3-、または、-CO-NR1-を表す。
【0037】
R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または、炭素数1~4のアルキル基を表す。
また、上記式(I)中、G1およびG2は、それぞれ独立に、炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基を表し、脂環式炭化水素基を構成する-CH2-の1個以上が-O-、-S-または-NH-で置換されていてもよい。
また、上記式(I)中、A1およびA2は、それぞれ独立に、単結合、炭素数6以上の芳香環、または、炭素数6以上のシクロアルキレン環を表す。
また、上記式(I)中、SP1およびSP2は、それぞれ独立に、単結合、炭素数1~14の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、または、炭素数1~14の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を構成する-CH2-の1個以上が-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、もしくは、-CO-に置換された2価の連結基を表し、Qは、重合性基を表す。
また、上記式(I)中、L1およびL2は、それぞれ独立に1価の有機基(例えば、アルキル基、または、重合性基)を表す。
なお、Arが後述する式(Ar-1)、式(Ar-2)、式(Ar-4)、または、式(Ar-5)で表される基である場合、L1およびL2の少なくとも一方は重合性基を表す。また、Arが、後述する式(Ar-3)で表される基である場合は、L1およびL2ならびに下記式(Ar-3)中のL3およびL4の少なくとも1つが重合性基を表す。
【0038】
上記式(I)中、G1およびG2が示す炭素数5~8の2価の脂環式炭化水素基としては、5員環または6員環が好ましい。また、脂環式炭化水素基は、飽和脂環式炭化水素基でも不飽和脂環式炭化水素基でもよいが、飽和脂環式炭化水素基が好ましい。G1およびG2で表される2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、特開2012-21068号公報の段落[0078]の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0039】
上記式(I)中、A1およびA2が示す炭素数6以上の芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、および、フェナンスロリン環などの芳香族炭化水素環;フラン環、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環、チアゾール環、および、ベンゾチアゾール環などの芳香族複素環;が挙げられる。なかでも、ベンゼン環(例えば、1,4-フェニル基など)が好ましい。
また、上記式(I)中、A1およびA2が示す炭素数6以上のシクロアルキレン環としては、例えば、シクロヘキサン環、および、シクロヘキセン環などが挙げられ、なかでも、シクロヘキサン環(例えば、シクロヘキサン-1,4-ジイル基など)が好ましい。
【0040】
上記式(I)中、SP1およびSP2が示す炭素数1~14の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、または、ブチレン基が好ましい。
【0041】
上記式(I)中、L1およびL2で表される重合性基は、特に制限されないが、ラジカル重合性基(ラジカル重合可能な基)またはカチオン重合性基(カチオン重合可能な基)が好ましい。
ラジカル重合性基の好適範囲は、上述の通りである。
【0042】
一方、上記式(I)中、Arは、下記式(Ar-1)~(Ar-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの芳香環を表す。なお、下記式(Ar-1)~(Ar-5)中、*1はD1との結合位置を表し、*2はD2との結合位置を表す。
【0043】
【0044】
ここで、上記式(Ar-1)中、Q1は、NまたはCHを表し、Q2は、-S-、-O-、または、-N(R5)-を表し、R5は、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、Y1は、置換基を有してもよい、炭素数6~12の芳香族炭化水素基、または、炭素数3~12の芳香族複素環基を表す。
R5が示す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基などが挙げられる。
Y1が示す炭素数6~12の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、および、ナフチル基などのアリール基が挙げられる。
Y1が示す炭素数3~12の芳香族複素環基としては、例えば、チエニル基、チアゾリル基、フリル基、ピリジル基、および、ベンゾフリル基などのヘテロアリール基が挙げられる。なお、芳香族複素環基には、ベンゼン環と芳香族複素環とが縮合した基も含まれる。
また、Y1が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アルキルオキシカルボニル基、シアノ基、および、ハロゲン原子などが挙げられる。
アルキル基としては、例えば、炭素数1~18の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、および、シクロヘキシル基)がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基またはエチル基が特に好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、炭素数1~18のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~8のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-ブトキシ基、および、メトキシエトキシ基)がより好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基がさらに好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および、ヨウ素原子などが挙げられ、フッ素原子、または、塩素原子が好ましい。
【0045】
また、上記式(Ar-1)~(Ar-5)中、Z1、Z2およびZ3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基、炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、-NR6R7、または、-SR8を表し、R6~R8は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基を表し、Z1およびZ2は、互いに結合して環を形成してもよい。環は、脂環式、複素環、および、芳香環のいずれであってもよく、芳香環であることが好ましい。なお、形成される環には、置換基が置換していてもよい。
炭素数1~20の1価の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~15のアルキル基が好ましく、炭素数1~8のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、tert-ブチル基、または、1,1-ジメチル-3,3-ジメチル-ブチル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基、または、tert-ブチル基が特に好ましい。
炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、メチルシクロヘキシル基、および、エチルシクロヘキシル基などの単環式飽和炭化水素基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、シクロオクテニル基、シクロデセニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロオクタジエニル基、および、シクロデカジエン基などの単環式不飽和炭化水素基;ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、トリシクロ[3.3.1.13,7]デシル基、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデシル基、および、アダマンチル基などの多環式飽和炭化水素基;が挙げられる。
炭素数6~20の1価の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、2,6-ジエチルフェニル基、ナフチル基、および、ビフェニル基などが挙げられ、炭素数6~12のアリール基(特にフェニル基)が好ましい。
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、および、ヨウ素原子などが挙げられ、フッ素原子、塩素原子、または、臭素原子が好ましい。
一方、R6~R8が示す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基などが挙げられる。
【0046】
また、上記式(Ar-2)および(Ar-3)中、A3およびA4は、それぞれ独立に、-O-、-N(R9)-、-S-、および、-CO-からなる群から選択される基を表し、R9は、水素原子または置換基を表す。
R9が示す置換基としては、上記式(Ar-1)中のY1が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0047】
また、上記式(Ar-2)中、Xは、水素原子または置換基が結合していてもよい第14族~第16族の非金属原子を表す。
また、Xが示す第14族~第16族の非金属原子としては、例えば、酸素原子、硫黄原子、置換基を有する窒素原子、および、置換基を有する炭素原子が挙げられ、置換基としては、上記式(Ar-1)中のY1が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0048】
また、上記式(Ar-3)中、D5およびD6は、それぞれ独立に、単結合、-O-CO-、-C(=S)O-、-CR1R2-、-CR1R2-CR3R4-、-O-CR1R2-、-CR1R2-O-CR3R4-、-CO-O-CR1R2-、-O-CO-CR1R2-、-CR1R2-O-CO-CR3R4-、-CR1R2-CO-O-CR3R4-、-NR1-CR2R3-、または、-CO-NR1-を表す。R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、または、炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0049】
また、上記式(Ar-3)中、SP3およびSP4は、それぞれ独立に、単結合、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、または、炭素数1~12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を構成する-CH2-の1個以上が-O-、-S-、-NH-、-N(Q)-、もしくは、-CO-に置換された2価の連結基を表し、Qは、重合性基を表す。
【0050】
また、上記式(Ar-3)中、L3およびL4は、それぞれ独立に1価の有機基(例えば、アルキル基、または、重合性基)を表し、上述したように、L3およびL4ならびに上記式(I)中のL1およびL2の少なくとも1つが重合性基を表す。
【0051】
また、上記式(Ar-4)~(Ar-5)中、Axは、芳香族炭化水素環および芳香族複素環からなる群から選ばれる少なくとも1つの芳香環を有する、炭素数2~30の有機基を表す。
また、上記式(Ar-4)~(Ar-5)中、Ayは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基、または、芳香族炭化水素環および芳香族複素環からなる群から選択される少なくとも1つの芳香環を有する、炭素数2~30の有機基を表す。
ここで、AxおよびAyにおける芳香環は、置換基を有していてもよく、AxとAyとが結合して環を形成していてもよい。
また、Q3は、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1~6のアルキル基を表す。
AxおよびAyとしては、国際公開第2014/010325号パンフレットの段落[0039]~[0095]に記載されたものが挙げられる。
また、Q3が示す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、および、n-ヘキシル基などが挙げられ、置換基としては、上記式(Ar-1)中のY1が有していてもよい置換基と同様のものが挙げられる。
【0052】
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、A1およびA2の少なくとも一方が、炭素数6以上のシクロアルキレン環であることが好ましく、A1およびA2の一方が、炭素数6以上のシクロアルキレン環であることがより好ましい。
【0053】
組成物中における液晶化合物の含有量は特に制限されないが、組成物中の全固形分に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。上限は特に制限されないが、90質量%以下の場合が多い。
なお、組成物中の全固形分には、溶媒は含まれない。
【0054】
<赤外線吸収色素>
赤外線吸収色素としては、赤外線(特に、波長700~900mの光)を吸収する色素であれば特に制限されない。なかでも、赤外線吸収色素は二色性色素であることが好ましい。なお、二色性色素とは、分子の長軸方向における吸光度と、短軸方向における吸光度とが異なる性質を有する色素をいう。
赤外線吸収色素としては、ジケトピロロピロール系色素、ジインモニウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、アゾ系色素、ポリメチン系色素、アントラキノン系色素、ピリリウム系色素、スクアリリウム系色素、トリフェニルメタン系色素、シアニン系色素、および、アミニウム系色素などが挙げられる。
赤外線吸収色素は1種単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本発明の効果がより優れる点で、赤外線吸収色素はメソゲン基を有することが好ましい。赤外線吸収色素がメソゲン基を有することにより、上述した液晶化合物と共に配向しやすく、所定の吸収特性の制御がしやすい。
メソゲン基とは、剛直かつ配向性を有する官能基である。メソゲン基の構造としては、例えば、芳香環基(芳香族炭化水素環基および芳香族複素環基)および脂環基からなる群から選択される基が、複数個、直接または連結基(例えば、-CO-、-O-、-NR-(Rは、水素原子、または、アルキル基を表す)、または、これらを組み合わせた基)を介して連なった構造が挙げられる。
【0056】
赤外線吸収色素の極大吸収波長は、本発明の効果がより優れる点で、650~1000nmに位置することが好ましく、700~900nmに位置することがより好ましい。
【0057】
本発明の効果がより優れる点で、赤外線吸収色素の波長700~900nmの吸光度の積算値は、赤外線吸収色素の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きいことが好ましい。
上記吸光度の積算値とは、X~Ynmにおけるそれぞれの波長における吸光度を合計した値である。
上記測定は、分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて実施できる。
【0058】
赤外線吸収色素の好適態様としては、式(1)で表される化合物が挙げられる。
式(1)で表される構造を有する化合物は、可視光線領域の吸収が少なく、得られる光学異方性膜の着色がより抑制される。また、この化合物はメソゲン基を有する基を含むことから、液晶化合物と共に配向しやすい。その際、化合物の中心にある窒素原子を含む縮合環部分から横方向に延びる形でメソゲン基を有する基が配置されているため、形成される光学異方性膜の遅相軸に対して、上記縮合環部分が直交する方向に配列しやすい。つまり、光学異方性膜の遅相軸に直交する方向に、縮合環部分に由来する赤外線領域(特に、波長700~900nm)における吸収が得られやすく、所望の特性を示す光学異方性膜が得られやすい。
【0059】
【0060】
R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子または置換基を表し、少なくとも一方は電子吸引性基であり、R11およびR12は結合して環を形成してもよい。
置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、芳香族ヘテロ環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、芳香族ヘテロ環チオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基、および、シリル基などが挙げられる。
【0061】
電子吸引性基としては、Hammettのσp値(シグマパラ値)が正の置換基を表し、例えば、シアノ基、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、スルフィニル基、および、ヘテロ環基が挙げられる。
これら電子吸引性基はさらに置換されていてもよい。
ハメットの置換基定数σ値について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応または平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができる。例えば、J.A.Dean編、「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版,1979年(Mc Graw-Hill)や「化学の領域」増刊,122号,96~103頁,1979年(南光堂)、Chem.Rev.,1991年,91巻,165~195ページなどに詳しい。本発明において電子吸引性基としては、ハメットの置換基定数σp値が0.20以上の置換基が好ましい。σp値としては、0.25以上が好ましく、0.30以上がより好ましく、0.35以上がさらに好ましい。上限は特に制限はないが、0.80以下が好ましい。
具体例としては、シアノ基(0.66)、カルボキシル基(-COOH:0.45)、アルコキシカルボニル基(-COOMe:0.45)、アリールオキシカルボニル基(-COOPh:0.44)、カルバモイル基(-CONH2:0.36)、アルキルカルボニル基(-COMe:0.50)、アリールカルボニル基(-COPh:0.43)、アルキルスルホニル基(-SO2Me:0.72)、および、アリールスルホニル基(-SO2Ph:0.68)が挙げられる。
本明細書において、Meはメチル基を、Phはフェニル基を表す。なお、括弧内の値は代表的な置換基のσp値をChem.Rev.,1991年,91巻,165~195ページから抜粋したものである。
【0062】
R11およびR12が結合して環を形成する場合は、5~7員環(好ましくは5~6員環)の環を形成し、形成される環としては通常メロシアニン色素で酸性核として用いられるものが好ましい。
R11およびR12が結合して形成される環としては、1,3-ジカルボニル核、ピラゾリノン核、2,4,6-トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含む)、2-チオ-2,4-チアゾリジンジオン核、2-チオ-2,4-オキサゾリジンジオン核、2-チオ-2,5-チアゾリジンジオン核、2,4-チアゾリジンジオン核、2,4-イミダゾリジンジオン核、2-チオ-2,4-イミダゾリジンジオン核、2-イミダゾリン-5-オン核、3,5-ピラゾリジンジオン核、ベンゾチオフェン-3-オン核、またはインダノン核が好ましい。
【0063】
R11は、ヘテロ環基であることが好ましい。ヘテロ環基としては、ピラゾール環基、チアゾール環基、オキサゾール環基、イミダゾール環基、オキサジアゾール環基、チアジアゾール環基、トリアゾール環基、ピリジン環基、ピリダジン環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、これらのベンゾ縮環基もしくはナフト縮環基、または、これら縮環の複合体が好ましい。
【0064】
R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、置換ホウ素または金属原子を表し、R11と共有結合または配位結合していてもよい。
R13で表される置換ホウ素の置換基は、R11およびR12について上述した置換基と同義であり、アルキル基、アリール基、または、ヘテロアリール基が好ましい。
また、R13で表される金属原子は、遷移金属原子、マグネシウム原子、アルミニウム原子、カルシウム原子、バリウム原子、亜鉛原子、または、スズ原子が好ましく、アルミニウム原子、亜鉛原子、スズ原子、バナジウム原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、パラジウム原子、イリジウム原子、または、白金原子がより好ましい。
【0065】
R14は、それぞれ独立に、メソゲン基を有する基を表す。メソゲン基の定義は、上述した通りである。
R14は、式(2)で表される基であることが好ましい。*は、結合位置を表す。
式(2) *-M1-(X1-M2)n-X2-P
M1は、置換または無置換のアリーレン基、または、置換または無置換のヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基としては、フェニレン基が挙げられる。
X1およびX2は、それぞれ独立に、単結合、-O-、-CO-、-CH2-、-CH=CH-、-C≡C-、-NR0-、または、これらの組み合わせ(例えば、-O-CO-、および、-CH2-CH2-)を表す。R0は、水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表す。
M2は、置換または無置換のアリーレン基、置換または無置換のヘテロアリーレン基、または、置換または無置換のシクロアルキレン基を表す。
nは1~5を表す。なかでも、2~4が好ましい。
Pは、水素原子、または、重合性基を表す。重合性基の定義は、上述した液晶化合物が有していてもよい重合性基の定義と同義である。
【0066】
赤外線吸収色素は、式(3)で表される化合物であることがより好ましい。
【0067】
【0068】
R14の定義は、上述した通りである。
R22は、それぞれ独立に、シアノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、または、含窒素ヘテロアリール基を表す。
R15およびR16は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、または、ヘテロアリール基を表し、R15およびR16は結合して環を形成してよい。形成される環としては、炭素数5~10の脂環、炭素数6~10のアリール環、または、炭素数3~10のヘテロアリール環が挙げられる。
R17およびR18は、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、または、ヘテロアリール基を表す。
Xは、それぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子、-NR-、-CRR’-、-CH=CH-を表し、RおよびR’は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、または、アリール基を表す。
【0069】
組成物中における赤外線吸収色素の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、液晶化合物全質量に対して、5~70質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0070】
<他の成分>
上記組成物は、上述した液晶化合物および赤外線吸収色素以外の成分を含んでいてもよい。
組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。使用される重合開始剤は、重合反応の形式に応じて選択され、例えば、熱重合開始剤、および、光重合開始剤が挙げられる。例えば、光重合開始剤としては、α-カルボニル化合物、アシロインエーテル、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物、多核キノン化合物、および、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせなどが挙げられる。
組成物中における重合開始剤の含有量は、組成物の全固形分に対して、0.01~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましい。
【0071】
また、組成物は、重合性モノマーを含んでいてもよい。
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性またはカチオン重合性の化合物が挙げられる。なかでも、多官能性ラジカル重合性モノマーが好ましい。また、重合性モノマーとしては、上記の重合性基を有する液晶化合物と共重合性のモノマーが好ましい。例えば、特開2002-296423号公報中の段落[0018]~[0020]に記載の重合性モノマーが挙げられる。
組成物中における重合性モノマーの含有量は、液晶化合物の全質量に対して、1~50質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましい。
【0072】
また、組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、フッ素系化合物が好ましい。例えば、特開2001-330725号公報中の段落[0028]~[0056]に記載の化合物、および、特願2003-295212号明細書中の段落[0069]~[0126]に記載の化合物が挙げられる。
【0073】
また、組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、アミド(例:N,N-ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例:ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例:ピリジン)、炭化水素(例:ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例:クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル)、ケトン(例:アセトン、メチルエチルケトン)、および、エーテル(例:テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン)が挙げられる。なお、2種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0074】
また、組成物は、垂直配向剤、および、水平配向剤などの各種配向制御剤を含んでいてもよい。これらの配向制御剤は、界面側において液晶化合物を水平または垂直に配向制御可能な化合物である。
さらに、組成物は、上記成分以外に、密着改良剤、可塑剤、および、ポリマーを含んでいてもよい。
【0075】
<製造方法>
本発明の光学異方性膜の製造方法は特に制限されず、公知の方法が挙げられる。
なかでも、面内レタデーションの制御がしやすい点から、重合性基を有する液晶化合物(以後、単に「重合性液晶化合物」とも称する)および赤外線吸収色素を含む組成物を塗布して塗膜を形成し、塗膜に配向処理を施して重合性液晶化合物を配向させ、得られた塗膜に対して硬化処理(紫外線の照射(光照射処理)または加熱処理)を施して、光学異方性膜を形成する方法が好ましい。
以下、上記方法の手順について詳述する。
【0076】
まず、支持体上に、組成物を塗布して塗膜を形成し、塗膜に配向処理を施して重合性液晶化合物を配向させる。
使用される組成物は、重合性液晶化合物を含む。重合性液晶化合物の定義は、上述した通りである。
【0077】
使用される支持体は、組成物を塗布するための基材として機能を有する部材である。支持体は、組成物を塗布および硬化させた後に剥離される仮支持体であってもよい。
支持体(仮支持体)としては、プラスチックフィルムの他、ガラス基板を用いてもよい。プラスチックフィルムを構成する材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、セルロース誘導体、シリコーン樹脂、および、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられる。
支持体の厚みは、5~1000μm程度であればよく、10~250μmが好ましく、15~90μmがより好ましい。
【0078】
なお、必要に応じて、支持体上には、配向層を配置してもよい。
配向層は、一般的には、ポリマーを主成分とする。配向層用ポリマーとしては、多数の文献に記載があり、多数の市販品を入手できる。配向層用ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリイミド、または、その誘導体が好ましい。
なお、配向層には、公知のラビング処理が施されることが好ましい。
配向層の厚みは、0.01~10μmが好ましく、0.01~1μmがより好ましい。
【0079】
組成物の塗布方法としては、カーテンコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法、スロットコーティング法、ロールコーティング法、スライドコーティング法、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、および、ワイヤーバー法などが挙げられる。いずれの方法で塗布する場合においても、単層塗布が好ましい。
【0080】
支持体上に形成された塗膜に、配向処理を施して、塗膜中の重合性液晶化合物を配向させる。
配向処理は、室温により塗膜を乾燥させる、または、塗膜を加熱することにより行うことができる。配向処理で形成される液晶相は、サーモトロピック性液晶化合物の場合、一般に温度または圧力の変化により転移させることができる。リオトロピック性液晶化合物の場合には、溶媒量などの組成比によっても転移させることができる。
なお、塗膜を加熱する場合の条件は特に制限されないが、加熱温度としては50~250℃が好ましく、50~150℃がより好ましく、加熱時間としては10秒間~10分間が好ましい。
また、塗膜を加熱した後、後述する硬化処理(光照射処理)の前に、必要に応じて、塗膜を冷却してもよい。冷却温度としては20~200℃が好ましく、30~150℃がより好ましい。
なお、上述した塗膜の加熱温度と、上述した塗膜の冷却温度との差は特に制限されないが、40℃以上が好ましい。上限は特に制限されないが、150℃以下が挙げられる。
なかでも、硬化処理を施す前に、塗膜を加熱して冷却する際には、塗膜の加熱温度TAが50~250℃であり、かつ、冷却温度TBが加熱温度TA×0.4~加熱温度TA×0.7の範囲であることが好ましい。
【0081】
次に、重合性液晶化合物が配向された塗膜に対して硬化処理を施す。
重合性液晶化合物が配向された塗膜に対して実施される硬化処理の方法は特に制限されず、例えば、光照射処理および加熱処理が挙げられる。なかでも、製造適性の点から、光照射処理が好ましく、紫外線照射処理がより好ましい。
光照射処理の照射条件は特に制限されないが、50~1000mJ/cm2の照射量が好ましい。
【0082】
上記製造方法において、各種条件を調整することにより、赤外線吸収色素の配置状態などを調整でき、結果として光学異方性膜の光学特性を調整できる。
例えば、支持体上に組成物を塗布して塗膜を形成した後の液晶化合物を配向させる際の加熱温度、および、加熱した後に冷却する際の冷却温度を調整することにより、赤外線吸収色素の配置状態などを調整でき、結果として光学異方性膜の光学特性を調整できる。
【0083】
(用途)
上述した光学異方性膜は、種々の用途に適用でき、例えば、光学異方性膜の面内レタデーションを調整して、いわゆるλ/4板またはλ/2板として用いることもできる。
なお、λ/4板とは、ある特定の波長の直線偏光を円偏光に(または、円偏光を直線偏光に)変換する機能を有する板である。より具体的には、所定の波長λnmにおける面内レタデーションReがλ/4(または、この奇数倍)を示す板である。
λ/4板の波長550nmでの面内レタデーション(Re(550))は、理想値(137.5nm)を中心として、25nm程度の誤差があってもよく、例えば、110~160nmであることが好ましく、120~150nmであることがより好ましい。
また、λ/2板とは、特定の波長λnmにおける面内レタデーションRe(λ)がRe(λ)≒λ/2を満たす光学異方性膜のことをいう。この式は、可視光線領域のいずれかの波長(例えば、550nm)において達成されていればよい。なかでも、波長550nmにおける面内レタデーションRe(550)が、以下の関係を満たすことが好ましい。
210nm≦Re(550)≦300nm
【0084】
光学異方性膜、および、この光学異方性膜を含む光学フィルムは、表示装置中に含まれていてもよい。つまり、光学異方性膜のより具体的な用途としては、例えば、液晶セルを光学補償するための光学補償フィルム、および、有機エレクトロルミネッセンス表示装置などの表示装置に用いられる反射防止膜が挙げられる。
なかでも、光学フィルムの好ましい態様として、光学異方性膜と偏光子とを含む円偏光板が挙げられる。この円偏光板は、上記反射防止膜として好適に使用できる。つまり、表示素子(例えば、有機エレクトロルミネッセンス表示素子)と、表示素子上に配置された円偏光板とを有する表示装置においては、反射色味がより抑制できる。
また、本発明の光学異方性膜は、IPS(In Plane Switching)型液晶表示装置の光学補償フィルムに好適に用いられ、斜め方向から視認した時の色味変化および黒表示時の光漏れを改善できる。
【0085】
光学異方性膜を含む光学フィルムとしては、上述したように、偏光子と光学異方性膜とを含む円偏光板が挙げられる。
偏光子は、光を特定の直線偏光に変換する機能を有する部材(直線偏光子)であればよく、主に、吸収型偏光子を利用できる。
吸収型偏光子としては、ヨウ素系偏光子、二色性染料を利用した染料系偏光子、およびポリエン系偏光子などが挙げられる。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子には、塗布型偏光子と延伸型偏光子とがあり、いずれも適用できるが、ポリビニルアルコールにヨウ素または二色性染料を吸着させ、延伸して作製される偏光子が好ましい。
偏光子の吸収軸と光学異方性膜の遅相軸との関係は特に制限されないが、光学異方性膜がλ/4板であり、光学フィルムが円偏光フィルムとして用いられる場合は、偏光子の吸収軸と光学異方性膜の遅相軸とのなす角は、45°±10°が好ましい。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0087】
<赤外線吸収色素IR-1の合成>
以下のスキームに従い、赤外線吸収色素IR-1を合成した。
【0088】
【0089】
赤外線吸収色素IR-1は、特開2011-68731号公報を参考にして、上記スキームに従って合成した。
【0090】
上記<赤外線吸収色素IR-1の合成>を参考にして、赤外線吸収色素IR-2を合成した。
【0091】
赤外線吸収色素IR-2
【0092】
【0093】
赤外線吸収色素IR-1および赤外線吸収色素IR-2をそれぞれクロロホルムに10-4mol/lの濃度で溶解させて、得られた溶液を用いて分光特性を測定した。なお、測定には、分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いた。
赤外線吸収色素IR-1の極大吸収波長は780nmであり、赤外線吸収色素IR-2の極大吸収波長は780nmであった。
赤外線吸収色素IR-1の波長700~900nmの吸光度の積算値は、赤外線吸収色素IR-1の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きかった。
赤外線吸収色素IR-2の波長700~900nmの吸光度の積算値は、赤外線吸収色素IR-2の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きかった。
【0094】
<実施例1>
セルロースアシレートフィルムT1(「TD40UL」(富士フイルム株式会社製)を、温度60℃の誘電式加熱ロールを通過させ、フィルム表面温度を40℃に昇温した。その後、フィルムの片面に下記に示す組成のアルカリ溶液を、バーコーターを用いて塗布量14ml/m2で塗布し、フィルムを110℃に加熱した。次に、(株)ノリタケカンパニーリミテド製のスチーム式遠赤外ヒーターの下に、得られたフィルムを10秒間搬送した。次に、同じくバーコーターを用いて、フィルムの表面に純水を3ml/m2塗布した。次に、得られたフィルムに対して、ファウンテンコーターによる水洗とエアナイフによる水切りとを3回繰り返した後に、フィルムを70℃の乾燥ゾーンに10秒間搬送して乾燥し、アルカリ鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを作製して支持体とした。
【0095】
(アルカリ溶液)
水酸化カリウム 4.7質量部
水 15.8質量部
イソプロパノール 63.7質量部
界面活性剤(C14H29O(CH2CH2O)20H) 1.0質量部
プロピレングリコール 14.8質量部
【0096】
上記支持体に、下記の組成の配向層塗布液を#14のワイヤーバーで連続的に塗布した。塗膜が形成された支持体を60℃の温風で60秒間、さらに100℃の温風で120秒間乾燥した。次いで、乾燥後の塗布膜に連続的にラビング処理を施し、配向層を形成した。このとき、長尺状のフィルム長手方向と搬送方向とは平行であり、フィルム長手方向に対するラビングローラーの回転軸は時計回りに45°の方向とした。
【0097】
(配向層塗布液)
下記変性ポリビニルアルコール 10.0質量部
水 371.0質量部
メタノール 119.0質量部
グルタルアルデヒド 0.5質量部
重合開始剤(イルガキュア2959、BASF社製) 0.3質量部
【0098】
【0099】
下記の光学異方性膜用塗布液1を調製した。
下記液晶化合物L-1 60質量部
下記液晶化合物L-2 40質量部
赤外線吸収色素IR-1 20質量部
光重合開始剤1(イルガキュアOXE01、BASF社製) 3.0質量部
光重合開始剤2(イルガキュア184、BASF社製) 3.0質量部
下記含フッ素化合物F-1 0.2質量部
シクロペンタノン 227.1質量部
【0100】
【0101】
【0102】
上記配向層上に光学異方性膜用記塗布液1をワイヤーバーで塗布して塗膜を形成し、100℃で5分間加熱し、60℃に冷却した。その後に、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージし、高圧水銀ランプを用い照射量500mJ/cm2の紫外線を塗膜に照射し、光学異方性膜を作製した。
得られた光学異方性膜の光学特性をAxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)を用いて、測定したところ、Re(550)が140nm、Re(450)/Re(550)が0.82、Re(650)/Re(550)が1.10であった。
また、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて、赤外線領域での吸収を確認したところ、波長700~900nmにおいて、光学異方性膜の進相軸と平行な方向での吸収が、遅相軸と平行な方向での吸収よりも大きいことが確認された。
また、赤外線吸収色素IR-1の極大吸収波長における光学異方性膜の配向秩序度S0は、-0.25であった。
【0103】
<実施例2>
赤外線吸収色素IR-1の使用量を20質量部から40質量部に変えた以外は、実施例1と同様の手順に従って、光学異方性膜を得た。
得られた光学異方性膜の光学特性をAxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)を用いて、測定したところ、Re(550)が143nm、Re(450)/Re(550)が0.83、Re(650)/Re(550)が1.13であった。
また、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて、赤外線領域での吸収を確認したところ、波長700~900nmにおいて、光学異方性膜の進相軸と平行な方向での吸収が、遅相軸と平行な方向での吸収よりも大きいことが確認された。
また、赤外線吸収色素IR-1の極大吸収波長における光学異方性膜の配向秩序度S0は、-0.20であった。
【0104】
<実施例3>
赤外線吸収色素IR-1をIR-2に変えた以外は、実施例1と同様の手順に従って、光学異方性膜を得た。
得られた光学異方性膜の光学特性をAxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)を用いて、測定したところ、Re(550)が143nm、Re(450)/Re(550)が0.82、Re(650)/Re(550)が1.10であった。
また、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて、赤外線領域での吸収を確認したところ、波長700~900nmにおいて、光学異方性膜の進相軸と平行な方向での吸収が、遅相軸と平行な方向での吸収よりも大きいことが確認された。
また、赤外線吸収色素IR-1の極大吸収波長における光学異方性膜の配向秩序度S0は、-0.20であった。
【0105】
<比較例1>
赤外線吸収色素IR-1を使用しなかった以外は、実施例1と同様の手順に従って、光学異方性膜を得た。
得られた光学異方性膜の光学特性をAxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)を用いて、測定したところ、Re(550)が140nm、Re(450)/Re(550)が0.82、Re(650)/Re(550)が1.04であった。
また、偏光子を装着した分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて、赤外線領域での吸収を確認したところ、波長700~900nmにおいて、光学異方性膜の進相軸と平行な方向での吸収と、遅相軸と平行な方向での吸収とは同じであった。
【0106】
上記実施例1~3に示すように、所定の光学特性を示す光学異方性膜は、Re(450)/Re(550)が低いまま(0.85以下)、Re(650)/Re(550)が大きく(1.10以上)なり、より理想に近い分散特性を有する光学異方性膜が得られた。
【0107】
<実施例4>
洗浄したガラス基板上に、ポリイミド配向膜SE-130(日産化学社製)をスピンコート法により塗布した。塗布膜を乾燥後、塗布膜を250℃で1時間焼結した後、塗布膜にラビング処理を施し、配向層を形成した。
【0108】
下記の光学異方性膜用塗布液4を調製した。
下記液晶化合物L-3 100質量部
赤外線吸収色素IR-3 10質量部
光重合開始剤S-1 2.0質量部
上記含フッ素化合物F-1 1.0質量部
クロロホルム 571.8質量部
【0109】
なお、下記液晶化合物L-3および赤外線吸収色素IR-3の構造式中のアクリロイルオキシ基に隣接する基は、プロピレン基(メチル基がエチレン基に置換した基)を表し、下記液晶化合物L-3および赤外線吸収色素IR-3はメチル基の位置が異なる位置異性体の混合物を表す。
【0110】
液晶化合物L-3(以下、構造式)
【0111】
【0112】
赤外線吸収色素IR-3(以下、構造式)
【0113】
【0114】
光重合開始剤S-1(以下、構造式)
【0115】
【0116】
上記配向層上に光学異方性膜用記塗布液4をスピンコート法により塗布して塗膜を形成し、120℃で1分間加熱し、60℃に冷却した。
その後に、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージし、高圧水銀ランプを用い照射量500mJ/cm2の紫外線を塗膜に照射し、光学異方性膜を作製した。
得られた光学異方性膜の光学特性をAxoScan OPMF-1(オプトサイエンス社製)を用いて、測定したところ、Re(550)が140nm、Re(450)/Re(550)が0.78、Re(650)/Re(550)が1.25であった。
また、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて、赤外線領域での吸収を確認したところ、波長700~900nmにおいて、
光学異方性膜の進相軸と平行な方向での吸収が、遅相軸と平行な方向での吸収よりも大きいことが確認された。
また、赤外線吸収色素IR-3の極大吸収波長における光学異方性膜の配向秩序度S0は、-0.25であった。
【0117】
<実施例5~7、および、比較例2>
使用する液晶化合物の種類および使用量、赤外線吸収色素の種類および使用量、光重合開始剤S-1の使用量、含フッ素化合物F-1の使用量、並びに、塗膜形成の際の加熱条件および冷却条件を表1のように変更した以外は、実施例4と同様の手順に従って、光学異方性膜を作製した。
各実施例および比較例で得られた光学異方性膜のRe(550)、Re(450)/Re(550)、Re(650)/Re(550)、および、配向秩序度S0を表1にまとめて示す。
なお、実施例5~8において得られた光学異方性膜に関して、赤外線用偏光子を備えた分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いて、赤外線領域での吸収を確認したところ、波長700~900nmにおいて、光学異方性膜の進相軸と平行な方向での吸収が、遅相軸と平行な方向での吸収よりも大きいことが確認された。
【0118】
なお、表1中の液晶化合物および赤外線吸収色素は以下の通りである。
【0119】
液晶化合物L-4(以下、構造式)
【0120】
【0121】
液晶化合物L-5(以下、構造式)
【0122】
【0123】
液晶化合物L-6(以下、構造式)
【0124】
【0125】
赤外線吸収色素IR-4(以下、構造式)
【0126】
【0127】
なお、上記赤外線吸収色素IR-4の構造式中のアクリロイルオキシ基に隣接する基は、プロピレン基(メチル基がエチレン基に置換した基)を表し、上記赤外線吸収色素IR-4はメチル基の位置が異なる位置異性体の混合物を表す。
【0128】
なお、上記<赤外線吸収色素IR-1の合成>を参考にして、赤外線吸収色素IR-3およびIR-4を合成した。
【0129】
赤外線吸収色素IR-3および赤外線吸収色素IR-4をそれぞれクロロホルムに10-4mol/lの濃度で溶解させて、得られた溶液を用いて分光特性を測定した。なお、測定には、分光光度計(MPC-3100(SHIMADZU製))を用いた。
赤外線吸収色素IR-3の極大吸収波長は785nmであり、赤外線吸収色素IR-4の極大吸収波長は800nmであった。
赤外線吸収色素IR-3の波長700~900nmの吸光度の積算値は、赤外線吸収色素IR-1の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きかった。
赤外線吸収色素IR-4の波長700~900nmの吸光度の積算値は、赤外線吸収色素IR-2の波長400~700nmの吸光度の積算値よりも大きかった。
【0130】
<輝度評価>
厚さ80μmのポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%のヨウ素水溶液中に30℃で60秒間浸漬して染色した。次いで、得られたフィルムをホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:4質量%)中に60秒間浸漬している間に元の長さの5倍に縦延伸した後、縦延伸されたフィルムを50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光子を得た。
【0131】
市販のセルロースアシレート系フィルム「TD80UL」(富士フイルム社製)を準備し、1.5モル/リットルで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、得られたフィルムを水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。
その後、0.005モル/リットルで35℃の希硫酸水溶液に得られたフィルムを1分間浸漬した後、得られたフィルムを水に浸漬して、フィルム上の希硫酸水溶液を十分に洗い流した。その後、洗浄されたフィルムを120℃で乾燥させ、偏光子保護フィルムを作製した。
【0132】
上記で作製した偏光子の片面に、上記で作製した偏光子保護フィルムをポリビニルアルコール系接着剤で貼り合わせて、偏光子と、偏光子の片面に配置された偏光子保護フィルムとを含む偏光板を作製した。
【0133】
上記作製した偏光板中の偏光子(偏光子保護フィルムのない)側に、粘着剤(SK-2057、綜研化学株式会社製)を塗布して粘着剤層を形成し、上記実施例および比較例で作製した光学異方性膜を、粘着剤層と光学異方性層とが密着するように貼り合せて円偏光板を作製した。なお、光学異方性膜の遅相軸と偏光子の透過軸とのなす角度は45°とした。
【0134】
GalaxyS4(Samsung社製)を分解し、製品に貼合されている反射防止フィルムの一部をはがして、発光層とした。この発光層に、粘着剤を介して、上記作製した円偏光板を空気が入らないようにして貼合して、評価用有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置を作製した。
このとき、各偏光板の光学異方性層側をGalaxyS4側となるようにした。
【0135】
(輝度評価)
評価としては、評価用有機EL表示装置を白表示にした時の380~780nm波長領域の最大光量を、評価有機EL表示装置の法線方向から測定した。なお、評価は、赤外線吸収色素を添加しない系(比較例2)の最大光量を100%とした相対値で行った。この数値が大きいと、輝度に優れる。結果を表1にまとめて示す。
【0136】
(正面反射率評価)
測色計(コニカミノルタ製、CM-2022)を用いて、SCE(Specular component excluded)モードで測定し、得られたY値を、下記の基準で評価した。
A:Y値が0.23以下である場合
B:Y値が0.23超0.27以下である場合
C:Y値が0.27超である場合
【0137】
表1中、「液晶化合物」欄の「種類(質量部)」は、使用された液晶化合物の種類とその使用量(質量部)を表す。例えば、実施例7においては、液晶化合物L-4を42質量部、液晶化合物L-5を42質量部、液晶化合物L-6を16質量部用いたことを表す。
また、「赤外線吸収色素(質量部)」欄は、使用された赤外線吸収色素の種類およびその使用量(質量部)を表す。例えば、実施例4では、赤外線吸収色素IR-3を10質量部用いたことを表す。
また、「塗膜形成条件」欄は、配向層上に光学異方性膜用記塗布液をスピンコート法により塗布して塗膜を形成し、その塗膜を加熱して冷却する際の、加熱温度および冷却温度をそれぞれ示す。
また、比較例2の配向秩序度の評価「-」は、赤外線領域に吸収がないため、測定ができなかったことを表す。
【0138】
【0139】
上記実施例4~7に示すように、所定の光学特性を示す光学異方性膜は、Re(450)/Re(550)が低いまま(0.85以下)、Re(650)/Re(550)が大きく(1.09以上)なり、より理想に近い分散特性を有する光学異方性膜が得られた。
なかでも、実施例5と他の実施例との比較から、配向秩序度S0が、式(B):-0.50<S0<-0.15の関係を満たす場合、より効果が優れていた。