(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】熱源運転支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20120101AFI20220304BHJP
【FI】
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2020046366
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2020-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】509086464
【氏名又は名称】株式会社関電エネルギーソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤江 真也
(72)【発明者】
【氏名】上村 泰
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸司
【審査官】久宗 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-317049(JP,A)
【文献】特開2018-087692(JP,A)
【文献】特開平09-292150(JP,A)
【文献】特開2016-044957(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0018125(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源システムに設けられた複数の熱源機器に関する運転計画を作成する熱源運転支援システムであって、
前記熱源システムの熱負荷の需要を予測する負荷予測手段と、
前記熱源機器の入口側における熱媒体の入口温度と前記熱源機器の出口側における熱媒体の出口温度との温度差を同一とすべき2以上の熱源機器が同時に稼働している場合に前記2以上の熱源機器における各前記温度差を同一にするとの条件を示す同一温度差条件を、前記熱源システムに関する制約条件の1つとして設定する条件設定手段と、
前記予測された熱負荷の需要を満たすための前記運転計画として、前記複数の熱源機器の各々の機器特性と前記同一温度差条件とを含む前記制約条件下で目的関数が最小となる最適運転計画を混合整数線形計画法により作成する運転計画作成手段と、
前記作成された最適運転計画を前記熱源システムに出力する運転計画出力手段と
、
気象情報提供サーバから気象情報を取得する情報取得手段と、
気象情報に対応する各前記機器特性を記憶する記憶手段とを備える、熱源運転支援システム。
【請求項2】
前記複数の熱源機器は、固定速の熱源機器と、可変速の熱源機器とを含む、請求項1に記載の熱源運転支援システム。
【請求項3】
前記熱源機器の出口側に接続された往ヘッダから前記熱源システムの熱負荷に供給される熱媒体の第1温度を取得する温度取得手段と、
前記第1温度に基づいて、停止中の熱源機器のうちの少なくとも1つを起動させるか否かを判断する判断手段と、
前記起動させると判断された熱源機器に対して、当該熱源機器を起動させるための起動指令を出力する指令出力手段とをさらに備える、請求項1または2に記載の熱源運転支援システム。
【請求項4】
前記判断手段は、
前記熱媒体が冷水であり、かつ前記複数の熱源機器の各々が冷熱源機器である場合、前記第1温度が第1閾値以上に上昇した場合に、前記停止中の熱源機器のうちの少なくとも1つを起動させると判断し、
前記熱媒体が温水であり、かつ前記複数の熱源機器の各々が温熱源機器である場合、前記第1温度が第2閾値以下に低下した場合に、前記停止中の熱源機器のうちの少なくとも1つを起動させると判断する、請求項3に記載の熱源運転支援システム。
【請求項5】
前記温度取得手段は、前記熱負荷から、前記熱源機器の入口側に接続された還ヘッダへ供給される熱媒体の第2温度を取得し、
前記判断手段は、前記第2温度に基づいて、稼働中の熱源機器のうちの少なくとも1つを停止させるか否かを判断し、
前記指令出力手段は、前記停止させると判断された熱源機器に対して、当該熱源機器を停止させるための停止指令を出力する、請求項3または4に記載の熱源運転支援システム。
【請求項6】
前記判断手段は、
前記熱媒体が冷水であり、かつ前記複数の熱源機器の各々が冷熱源機器である場合、前記第2温度が第3閾値以下に低下した場合に、前記稼働中の熱源機器のうちの少なくとも1つを停止させると判断し、
前記熱媒体が温水であり、かつ前記複数の熱源機器の各々が温熱源機器である場合、前記第2温度が第4閾値以上に上昇した場合に、前記稼働中の熱源機器のうちの少なくとも1つを停止させると判断する、請求項5に記載の熱源運転支援システム。
【請求項7】
前記負荷予測手段は、学習済モデルに対して前記気象情報を入力することにより、将来の前記熱負荷の需要を算出し、
前記学習済モデルは、前記気象情報が入力されると、将来の前記熱負荷の需要を出力するように、学習用データセットを用いた学習処理がなされており、
前記学習済モデルは、リカレントニューラルネットワークである、請求項
1~6のいずれか1項に記載の熱源運転支援システム。
【請求項8】
熱源システムに設けられた複数の熱源機器に関する運転計画を作成する熱源運転支援システムであって、
前記熱源システムの熱負荷の需要を予測する負荷予測手段と、
前記熱源機器の入口側における熱媒体の入口温度と前記熱源機器の出口側における熱媒体の出口温度との温度差を同一とすべき2以上の熱源機器が同時に稼働している場合に前記2以上の熱源機器における各前記温度差を同一にするとの条件を示す同一温度差条件を、前記熱源システムに関する制約条件の1つとして設定する条件設定手段と、
前記予測された熱負荷の需要を満たすための前記運転計画として、前記複数の熱源機器の各々の機器特性と前記同一温度差条件とを含む前記制約条件下で目的関数が最小となる最適運転計画を混合整数線形計画法により作成する運転計画作成手段と、
前記作成された最適運転計画を前記熱源システムに出力する運転計画出力手段とを備え、
前記熱源機器の前記機器特性は、温度毎の、前記熱源機器の負荷率または処理熱量と、前記熱源機器の消費エネルギーと、前記入口温度および前記出口温度の前記温度差との関係を示す特性データを含む、熱源運転支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱源運転支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、業務用建物の空調システムでは、非常時を想定した多様なエネルギー源を利用する熱源システムの導入が進んでいる。熱源システムは、電力、都市ガス、石油などのエネルギーを利用して、冷凍機、ボイラ、コジェネレーションなどの各種の熱源機器を運転することにより、冷水や蒸気などの熱エネルギーを生成し、工場やビル建物などの需要家に供給する。熱源システムでは、運転コストを最小にする最適運転計画スケジュールが作成され、この最適運転スケジュールに基づいて熱源機器の運転制御が行われている。
【0003】
例えば、特開2018-101170号公報(特許文献1)に係る熱源運転計画算出装置は、各熱源機器の運用に関する運用条件と、計画期間全体に対して適用される購入エネルギー量に関する通期制約とを定式化し、得られた関数式を最適化処理することにより、計画期間の各区間における各熱源機器の発停および負荷率の少なくとも一方を示す熱源運転計画を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、複数の熱源機器を並列的に起動している場合には、各熱源機器の負荷率が等しく制御され、等負荷率制御の制約条件下で運転計画が算出される。この場合、性能特性が異なる熱源機器であっても同一負荷率で運転することになる。例えば、運転効率が最大となる負荷率は、インバータ機で構成された熱源機器と、固定速機で構成された熱源機器とでは異なるため、全体として最適な運転効率で運転していることにはならない。
【0006】
本開示のある局面における目的は、熱源システムに含まれる複数の熱源機器をできるだけ効率よく運転させることが可能な熱源運転支援システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある実施の形態に従うと、熱源システムに設けられた複数の熱源機器に関する運転計画を作成する熱源運転支援システムが提供される。熱源運転支援システムは、熱源システムの熱負荷の需要を予測する負荷予測手段と、熱源機器の入口側における熱媒体の入口温度と熱源機器の出口側における熱媒体の出口温度との温度差を同一とすべき2以上の熱源機器が同時に稼働している場合に2以上の熱源機器における各温度差を同一にするとの条件を示す同一温度差条件を、熱源システムに関する制約条件の1つとして設定する条件設定手段と、予測された熱負荷の需要を満たすための運転計画として、複数の熱源機器の各々の機器特性と同一温度差条件とを含む制約条件下で目的関数が最小となる最適運転計画を混合整数線形計画法により作成する運転計画作成手段と、作成された最適運転計画を熱源システムに出力する運転計画出力手段とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、熱源システムに含まれる複数の熱源機器をできるだけ効率よく運転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】熱源運転支援システムの全体構成の一例を示す図である。
【
図3】熱源運転装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】本実施の形態に従う負荷予測の結果を示す図である。
【
図5】熱源機器の負荷率とCOPとの関係を示す図である。
【
図6】熱源機器の特性データの一例を示す図である。
【
図7】熱源運転支援システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0011】
<全体構成>
(熱源運転支援システム)
図1は、熱源運転支援システム1000の全体構成の一例を示す図である。
図1を参照して、熱源運転支援システム1000は、熱源システム500に設けられた複数の熱源機器に関する運転計画を作成する。具体的には、熱源運転支援システム1000は、熱源運転装置100と、データ記憶装置300と、中継装置400とを含む。
【0012】
熱源運転装置100、データ記憶装置300、および中継装置400は、ネットワーク回線210で接続されており、これらは互いに通信可能に構成される。中継装置400は、熱源運転装置100と熱源システム500との通信を中継するための装置である。中継装置400は、ネットワーク回線220を介して熱源システム500と接続されている。ネットワーク回線210,220は、例えば、BACnetと呼ばれる、ビル用ネットワークのための通信プロトコル規格に準ずるものであるが、これ以外の通信プロトコル規格であってもよい。
【0013】
サーバ200は、例えば、気象庁または気象会社が運用している装置である。サーバ200は、過去、現在、未来の全国各地の気象情報を提供する。具体的には、サーバ200は、過去の実績気象データ(例えば、気温、湿度、日射量等)、予想気象データ(例えば、予想気温、予想湿度、予想日射量等)の情報を提供する。熱源運転装置100は、サーバ200と通信可能に構成されており、サーバ200から提供される気象情報を一定間隔(例えば、1時間)毎に受信する。
【0014】
データ記憶装置300は、例えば、ネットワークハードディスクであり、各種データを記憶する。データ記憶装置300は、熱源システム500内の各熱源機器の運転状態を示すデータ、熱源運転装置100で作成される各熱源機器の運転計画データ等を記憶する。また、熱源運転装置100と中継装置400とがデータをやり取りする際の当該データの格納用としても利用される。データ記憶装置300の機能は、熱源運転装置100に設けられたハードディスク、あるいは、クラウドストレージで代替することもできる。
【0015】
熱源運転装置100は、熱源システム500の各熱源機器を効率的に運転させるために、各熱源機器の運転情報を含む運転計画を作成し、当該運転計画を中継装置400を介して熱源システム500に送信する。熱源システム500の各熱源機器は、当該運転計画に従って運転する。
【0016】
熱源運転装置100は、気象情報および熱源システム500の実測データに基づいて、所定期間において熱源システム500に求められる熱負荷の需要を予測する。熱源運転装置100は、予測した熱負荷需要、熱源システム500内の各熱源機器の機器特性、各熱源機器の運転方式等を含む制約条件下で目的関数が最小となる最適運転計画を混合整数線形計画法により作成する。運転計画は、各熱源機器の発停情報と、各熱源機器が処理すべき処理熱量とを含む。
【0017】
中継装置400は、熱源運転装置100と熱源システム500との通信を中継する役割の他に次のような機能を有する。例えば、中継装置400は、各熱源機器の運転状態を示すデータを受信し、当該データに基づいて各熱源機器の発停を見直す機能、熱源システム500の運転状態を熱源運転装置100に連携する機能、熱源運転装置100に不具合が発生した場合に熱源システム500内の自動制御設備に指示して熱源機器2の運転を続行させる指令を送信する機能等を有している。
【0018】
(熱源システム)
図2は、熱源システム500の構成の一例を示す図である。
図2を参照して、熱源システム500は、ビル等の空調システムで用いられ、複数の熱源機器2を備える熱源システムである。一般的に、ビル等の建物の熱負荷は、冷熱負荷および温熱負荷があり、季節や時間に応じて負荷熱量は変化する。
【0019】
図2を参照して、熱源システム500は、熱源機器2a~2c(以下「熱源機器2」とも総称する。)と、冷水ポンプ3a~3c(以下「冷水ポンプ3」とも総称する。)と、冷却水ポンプ4a~4c(以下「冷却水ポンプ4」とも総称する。)と、冷却塔5a~5c(以下「冷却塔5」とも総称する。)と、二次ポンプ7a,7b(以下「二次ポンプ7」とも総称する。)と、往ヘッダ31と、還ヘッダ32と、二次ヘッダ40と、冷熱負荷50と、自動制御設備60とを含む。中継装置400、自動制御設備60、および各熱源機器2はネットワーク回線で接続されている。中継装置400は、自動制御設備60を介して、各熱源機器2等と各種情報をやり取りする。
【0020】
熱源システム500は、空調機やファンコイル等の熱負荷に供給する熱媒体(例えば、水)を冷却する熱源機器2を3台有している。各熱源機器2は、冷熱負荷50に対して並列に設置されている。なお、説明の容易化のため、本実施形態においては、各熱源機器2が熱媒体を冷却して冷熱負荷50に供給する場合を例示して説明する。
【0021】
熱源機器2は、冷水を出力する水冷式の熱源機器(例えば、ターボ冷凍機、ガス吸収冷温水機等)である。また、各熱源機器2の補機として、冷水ポンプ3、冷却水ポンプ4、および冷却塔5が設けられている。本実施の形態では、熱源機器2aは、圧縮機が固定速とされた固定速熱源機器であるとする。熱源機器2b,2cは、圧縮機が可変速とされたインバータ駆動圧縮機を備える可変速熱源機器であるとする。また、冷水ポンプ3は、インバータモータによって駆動される可変速ポンプであり、回転数を可変とすることで可変流量制御される。なお、熱源機器2は、冷水を出力する空冷式の熱源機器(例えば、空冷ヒートポンプ等)であってもよい。この場合、冷却水ポンプ4および冷却塔5は不要となる。
【0022】
各熱源機器2は、往ヘッダ31と還ヘッダ32との間に配管で接続されている。具体的には、熱源機器2の出口側(冷水の流れからみて下流側)に往ヘッダ31が接続され、熱源機器2の入口側(冷水の流れからみて上流側)に還ヘッダ32が接続されている。冷水ポンプ3は、熱源機器2と還ヘッダ32との間に接続される。熱源機器2と冷却塔5との間を冷却水が循環する経路が構成されており、その循環動力として冷却水ポンプ4が配置されている。
【0023】
往ヘッダ31と二次ヘッダ40との間には、二次ポンプ7a,7bが配置される。なお、二次ポンプ7の台数は2台に限定されるものではない。二次ヘッダ40と還ヘッダ32との間には、冷熱負荷50がある。冷熱負荷50は、室内の冷房のために取り去るべき熱量である。
【0024】
往ヘッダ31には、各熱源機器2において冷却された熱媒体(ここでは、冷水)が集められる。往ヘッダ31に集められた冷水は、冷熱負荷50に供給される。往ヘッダ31の下流側には、往ヘッダ31から冷熱負荷50へ供給される冷水の往温度Tgを計測するための温度センサ(不図示)が設けられている。温度センサの検出情報(往温度Tg)は、自動制御設備60を介して中継装置400に送信される。なお、当該温度センサは、二次ヘッダ40の下流側に設けられていてもよい。
【0025】
冷熱負荷50にて空調等に供されて昇温した冷水は、還ヘッダ32に送られる。還ヘッダ32の上流側には、冷熱負荷50から還ヘッダ32へ供給される冷水の還温度Trを計測するための温度センサ(不図示)が設けられている。温度センサの検出情報(還温度Tr)は、自動制御設備60を介して中継装置400に送信される。還ヘッダ32に流れ込んだ冷水は、分岐され、各熱源機器2へと分配される。
【0026】
往ヘッダ31と還ヘッダ32との間には、バイパス管33が設けられている。バイパス管33は、往ヘッダ31と還ヘッダ32間の圧力を等しくする役割を有し、冷熱負荷50と熱源機器2との処理熱量の関係で流れる流量が変化する。
【0027】
各冷水ポンプ3の下流側には、各冷水ポンプ3から流出する流量を計測する流量計が設けられている。各流量計の計測情報(流量)は、自動制御設備60を介して中継装置400に送信される。また、各熱源機器2における熱媒体の入口側には、熱媒体の入口温度trを計測する温度センサ(不図示)が設けられ、各熱源機器2における熱媒体の出口側には、熱媒体の出口温度tgを計測する温度センサ(不図示)が設けられている。各温度センサの計測情報(入口温度trおよび出口温度tg)は、自動制御設備60を介して中継装置400に送信される。なお、熱源機器2の出入口温度差が計測できればよい。そのため、熱源機器2の熱媒体の入口温度trを計測する温度センサを、還温度Trを計測するための温度センサで代替し、出口温度tgを計測する温度センサを、往温度Tgを計測するための温度センサで代替することも可能である。
【0028】
自動制御設備60は、熱源機器2、冷水ポンプ3、冷却塔5、冷却水ポンプ4、および二次ポンプ7の発停、冷却水流量、冷水流量、二次ポンプ7からの流量等を制御する。
【0029】
中継装置400は、熱源運転装置100で作成された最適な運転計画(発停情報および処理熱量)を受信する。典型的には、中継装置400は、運転計画に基づいて一定間隔(例えば、15分間隔)の発停および処理熱量に関するスケジュールを生成し、当該生成されたスケジュールに従って、自動制御設備60を介して、停止中の熱源機器2を起動させる起動指令を送信したり、稼働中の熱源機器2を停止させる停止指令を送信したりする。
【0030】
また、中継装置400は、入口温度trと出口温度tgとの出入口温度差Δtに基づいて、熱源機器2が処理すべき処理熱量を、冷水ポンプ3から熱源機器2へ流すべき冷水の流量に換算して、当該流量を自動制御設備60を介して冷水ポンプ3へ送信する。なお、中継装置400は、冷水ポンプ3の定格流量に基づいて当該流量を流量率に変換し、当該流量率を送信してもよい。これにより、熱源機器2には、運転計画に従う流量が冷水ポンプ3から供給される。
【0031】
ここで、本実施の形態に従う熱源運転装置100の利点を明確にするため、自動制御設備60内に設けられている熱源台数制御装置(不図示)による制御方式について説明する。熱源台数制御装置は、負荷熱量に応じて熱源機器2の運転台数の増段・減段や、冷水ポンプの流量設定等を所定のルールに従って実行する。
【0032】
例えば、冷熱負荷50を処理するために、二次ヘッダ40から7℃の冷水を冷熱負荷50に送り、冷熱を処理して昇温した冷水が還ヘッダ32に12℃で戻るとする。熱源台数制御装置は、冷熱負荷50に応じて、熱源機器2a、熱源機器2b、熱源機器2cの順に運転する。そのため、熱源台数制御装置は、冷熱負荷50から熱源機器2を2台運転すると判断した場合は、熱源機器2aと熱源機器2bを運転させる。
【0033】
この場合、還ヘッダ32から12℃の冷水が、熱源機器2a,2bに供給される。一般的に、冷水の流量配分は、熱源機器2の処理能力に対して同一比率で制御される。各熱源機器2の出口温度tgは7℃であり、各熱源機器2a,2bについての出入口温度差Δtは同一であるため、各熱源機器2a,2bは同一負荷率で運転することになる。
【0034】
熱源機器2aは固定速熱源機器であるため、負荷率が高い方が熱源機器としての運転効率が良いが、熱源機器2bは可変速熱源機器であるため、所定範囲の負荷率(例えば、40%~60%)において運転効率が良い。したがって、このように、各熱源機器2a,2bは同一負荷率で運転する場合には、熱源システム全体として最適な運転効率で運転しているとはいえない。
【0035】
このように、一般的な熱源システムは、熱源機器2を負荷や流量に応じて熱源機器2を台数制御しているため、省エネルギーや省コストの運転ができていない場合が多い。そこで、本実施の形態に従う熱源運転装置100は、所定の制約条件下で、経済性、省エネルギー性等の観点から定められた目的関数を最小にする運転計画を作成する。特に、熱源運転装置100は、各熱源機器2を同一負荷率で運転させるのではなく、各熱源機器2の出入口温度差Δtを同一とする制約条件下で当該目的関数を最小にする運転計画を作成する。これにより、各熱源機器2の出入口温度差Δtを一致させつつ、各熱源機器2の負荷率を、機器特性(例えば、固定速熱源機器なのか可変速熱源機器なのか)に適した負荷率とすることができる。そのため、熱源システム500全体の運転効率を最大化することができる。
【0036】
なお、上記において、熱源システム500は、二次ヘッダ40および二次ポンプ7が存在せず、往ヘッダ31に冷熱負荷50が接続されている構成であってもよい。
【0037】
<ハードウェア構成>
図3は、熱源運転装置100のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3を参照して、熱源運転装置100は、そのコンポーネントとして、プロセッサ150と、主記憶装置152と、二次記憶装置154と、通信インターフェイス(I/F:Interface)156と、ディスプレイ158と、入力装置160と、汎用インターフェイス(I/F:Interface)164とを含む。これらのコンポーネントは、内部バス166を介して互いに通信可能に接続されている。
【0038】
プロセッサ150は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)あるいはMPU(Multi Processing Unit)といった演算処理部であり、二次記憶装置154にインストールされているOSを含む各種プログラムを読出して、主記憶装置152に展開しつつ実行する。
【0039】
主記憶装置152は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性記憶媒体であり、プロセッサ150によって実行されるOSを含む各種プログラムのコードの他、各種プログラムの実行に必要な各種ワークデータを保持する。二次記憶装置154は、ハードディスクあるいはSSD(Solid State Drive)などの不揮発性記憶媒体であり、OSを含む各種プログラムの他、各種設定値などを保持する。以下では、主記憶装置152および二次記憶装置154を「内部メモリ」と総称する場合がある。
【0040】
通信インターフェイス156は、各装置との通信に係る処理を実行する。典型的には、通信インターフェイス156は、熱源運転装置100が他の装置(例えば、データ記憶装置300、中継装置400およびサーバ200)と通信するためのインターフェイスである。通信方式としては、例えば、無線LAN(Local Area Network)等による無線通信方式や、各種の有線通信方式が用いられる。
【0041】
ディスプレイ158は、プロセッサ150に指示に従って各種情報を表示する。入力装置160は、典型的には、キーボードやマウスなどから構成され、ユーザからの各種設定および操作を受付ける。汎用インターフェイス164は、典型的には、シリアル通信インターフェイス、パラレル通信インターフェイスなどを含み、外部装置などとの間でデータをやり取りする。
【0042】
なお、中継装置400のハードウェア構成は、熱源運転装置100のハードウェア構成と同様であってもよい。
【0043】
<負荷予測>
熱源運転装置100により実施される熱負荷の予測方式について説明する。熱源運転装置100は、サーバ200から取得した気象情報と、データ記憶装置300に記憶された冷熱負荷50の需要の実測データとに基づいて、将来の冷熱負荷50の需要予測値を算出する。
【0044】
具体的には、熱源運転装置100は、学習済モデルに対して気象情報を入力することにより、将来の(例えば、現在から数時間後までの)冷熱負荷50の需要を算出する。学習済モデルは、気象情報が入力されると、冷熱負荷50の需要を出力するように、学習用データセットを用いた学習処理がなされている。学習用データセットは、例えば、平日か休日かを示す日付情報と、各時間帯の温度および湿度と、各時間帯における冷熱負荷50の実測データとのデータセットである。なお、学習済モデルは、過去十数か月分のデータセットを用いて学習処理がなされており、例えば、リカレントニューラルネットワークである。なお、学習処理させるためのデータセットの期間は、ユーザにより任意に定められる。そのため、例えば、学習済モデルは、過去1ヶ月分のデータセットを用いて学習処理がなされたものであってもよい。
【0045】
学習済モデルは、多くの学習用データセットを用いた学習処理によって、平日か休日かを示す情報と、各時間帯の温度および湿度とから、将来の冷熱負荷50の需要予測値を出力し得るように最適化される。
【0046】
なお、負荷予測には、ある期間全体の負荷予測を行ない、その後、適宜実測データを用いて補正することで予測負荷の見直しを行なうという考え方がある。この場合、前者の負荷予測にはニューラルネットワークを利用するとともにルールベースによる補正を行なう手法を用い、後者の予測負荷の見直しには線形回帰式の係数をカルマンフィルタで補正する手法を用いることで、全体として精度の良い負荷予測を行なうことができる。本実施の形態では、リカレントニューラルネットワークを利用した学習済モデルを作成しているため、2つの手法を1つに統合できるとともに、ルールを用いた補正を不要とすることができる。
【0047】
図4は、本実施の形態に従う負荷予測の結果を示す図である。
図4に示すグラフ810は、リカレントニューラルネットワークを利用して予測した冷熱負荷50の予測値を示しており、グラフ820は、冷熱負荷50の実測値を示している。
図4に示すように、熱負荷の予測値と実測値とがほぼ一致しており、精度よく予測できていることが理解される。
【0048】
<運転計画の最適化>
熱源運転装置100は、混合整数線形計画法に基づいて最適運転計画を作成する際、目的関数および制約条件を定式化した後、汎用ソルバーにより、制約条件下で目的関数が最小となる解(すなわち、最適運転計画)を作成する。
【0049】
(目的関数)
目的関数は、熱源システム500に対して要求される運用目的を関数式で表したものである。熱源システム500の運用目的は、経済性、省エネルギー性、環境保全、制御性などの観点から設定される。一例として、各種エネルギー(例えば、電気、ガス、油等)の購入コストをTcоst、各種エネルギーによって発生するCO2量をTco2、各種エネルギーの一次エネルギー換算量をTenergy、機器の発停回数をNonoff、機器の排熱量をWpとすると、目的関数は式(1)のように表される。
【0050】
【0051】
上記のように目的関数を定式化するための目的関数パラメータ(例えば、電気料金、ガス料金等)は、二次記憶装置154に記憶されている。なお、目的関数パラメータは、予め設定されていてもよいが、ユーザは、所定のユーザインターフェイス画面を用いて、目的関数パラメータを任意に変更することもできる。
【0052】
(制約条件)
各種の制約条件を設定する制約条件としては、例えば、需給バランス、熱源機器2の機器特性、熱源機器2の運転方式に関する条件がある。
【0053】
[需給バランス]
まず、需給バランスに関する制約条件について説明する。熱源システム500全体で生成する熱量と空調で消費される熱負荷需要は釣り合う必要がある。例えば、熱源システム500内の各熱源機器2の生成熱量の合計値が、熱負荷需要(冷熱負荷50)と一致するという制約条件が線形式で定式化される。ここで、運転計画は多期間での最適化問題であるため、熱負荷需要には、上述した冷熱負荷50の需要予測値が使用される。
【0054】
[機器特性]
次に、熱源機器2の機器特性に関する制約条件について説明する。本実施の形態では、熱源機器2が水冷式の熱源機器であるとする。この場合、負荷率(冷凍容量)とCOP(Coefficient Of Performance)との関係は
図5で表される。
【0055】
図5は、熱源機器2の負荷率とCOPとの関係を示す図である。具体的には、
図5(a)は、可変速の熱源機器2(例えば、熱源機器2b,2c)の当該関係を示しており、
図5(b)は、固定速の熱源機器2(例えば、熱源機器2a)の当該関係を示している。
【0056】
図5(a)を参照すると、可変速の熱源機器2では、負荷率が約40%~60%においてCOPが最大値付近となり運転効率が良いことがわかる。
図5(b)を参照すると、固定速の熱源機器2では、負荷率が高いほどCOPが高く運転効率が良いことがわかる。なお、熱源機器2は負荷率が20%~100%の範囲で運転可能である。
【0057】
ここで、水冷式の熱源機器2を運転するためには、冷却水ポンプ4および冷却塔5が必要となる。冷却塔5は、空気を利用して熱源機器2からの戻り水を冷やす機能を有する。冷却塔5の冷却水入口温度、湿球温度、冷却水流量などから冷却水出口温度が定まる。冷却塔5の冷却水出口温度の冷却水が熱源機器2に流れ、熱源機器2はその冷却水を利用して冷水を作る。したがって、湿球温度が変わると冷却塔5の冷却水出口温度が変化し、その結果、熱源機器2の特性も変化する。
【0058】
図5に示すように、熱源機器2は、冷却水入口温度(冷却塔5からみた冷却水出口温度に対応)が低いほど運転効率が良いことが理解される。湿球温度は随時変化するため、周期的に実行される最適化計算を行なう際に、当該湿球温度に対応する熱源機器2の特性式を作成する必要が生じる。本実施の形態では、湿球温度毎に熱源機器2の特性データを予め準備しておき、データベース化しておく。これにより、最適化計算毎に機器特性を示す特性式を作成する時間が削減できる。
【0059】
具体的には、各熱源機器2について、湿球温度毎に、処理熱量と、消費電力(ターボ冷凍機の場合)と、冷水の出入口温度差との関係を示す特性データをデータベース化した。なお、諸条件として、熱源機器2の冷水の入口温度を12℃、出口温度を7℃とし、定格の出入口温度差を5℃としている。ガス吸収冷温水機の場合には、消費電力の代わりにガス消費量が用いられる。
【0060】
まず、冷却塔5の冷却水出口温度を求める必要がある。そのため、冷却塔5における冷却水の出入口温度差を5℃とし、熱源機器2の負荷率は20%以上100%以下で可変とし、熱源機器2への冷水の流量は50%以上100%以下で可変とした。さらに、上記の負荷率および流量の可変範囲から、熱源機器2の冷水の出入口温度差は、負荷率が50%以上100%以下においては一定であり、負荷率が20%以上50%未満で変化するとした。そして、これらの条件に基づいて、冷却塔5の冷却水出口温度を収束計算により求めた。これにより、湿球温度毎に、処理熱量と、冷却水出口温度と、冷水の出入口温度差との関係を示すデータが作成される。
【0061】
次に、求めた冷却水出口温度と、
図5に示すような熱源機器2の特性(負荷率とCOPとの関係)とを関連付けることによって、湿球温度毎に熱源機器2の特性データを整理することができる。
【0062】
図6は、熱源機器2の特性データの一例を示す図である。
図6を参照して、熱源機器2の特性データ700は、湿球温度Twbの場合における、負荷率と、処理熱量と、消費電力と、冷水の出入口温度差との関係を示している。なお、特性データ700は、可変速機の熱源機器2の特性データを示している。これは、処理熱量/消費電力(COPに相当)については、負荷率が50%のときが最も高い(約9.7)ことからも理解される。
【0063】
特性データ700から、湿球温度Twbにおける処理熱量と消費電力との関係を示す特性式は線形式で表す。これは、混合整数線形計画法を用いるために、線形式とする必要があるためである。例えば、熱源運転装置100は、最適化計算の際に、計算時点の湿球温度に対応する特性データをデータベースから抽出して、当該特性データに基づく特性式(折れ線近似の線形式)を熱源機器2の機器特性の制約条件として用いる。
【0064】
なお、特性データ700には温度差データが含まれており、出入口温度差を一定にするためには、熱源機器2がどのような範囲の負荷率で運転すればよいのかがわかる。
図6の例では、負荷率が50%~100%の範囲であれば出入口温度差が一定となる。ここで、固定速の熱源機器2は、負荷率100%で最も運転効率が良く、可変速の熱源機器2は、部分負荷率で運転効率が良い。各熱源機器2の冷水の出入口温度差が同一という制約条件を設けることで、固定速の熱源機器2は負荷率100%で運転し、可変速機の熱源機器2は負荷率50%~100%の範囲で複合的に運転するという最適化計算が可能となる。
【0065】
[運転条件]
次に、熱源機器2の運転条件に関する制約条件の定式化について説明する。本実施の形態では、固定速の熱源機器2と可変速の熱源機器2とを効率良く運転するため、各熱源機器2の冷水の出入口温度差を同一とする新たな制約条件(以下「同一温度差制約条件」とも称する。)を導入する。
【0066】
熱源機器mが時刻tにおいて稼働しているか否かを示す0-1変数(稼働している場合には“1”、そうではない場合には“0”)をDrm,tとし、出入口温度差が一致すべき熱源機器mの組の集合をSameTとし、熱源機器mの時刻tにおける出入口温度差をTEMPm,tとし、十分大きな定数をMとし、熱源機器ma,mbが同時稼働しているか否かを示すフラグ変数(同時稼働している場合には“1”、そうではない場合には“0”)をFLt,ma,mbとする。この場合、同一温度差制約条件は、以下の式(2)~(4)で表される。
【0067】
【0068】
式(2)は、時刻tにおいて熱源機器maと熱源機器mbが同時に稼働している場合、同時に稼働していることを示すフラグを立てるための式である。式(3)は、熱源機器maと熱源機器mbとが同時にフラグが立っている場合には熱源機器maが稼働していることを示す式である。式(4)は、熱源機器maと熱源機器mbとが同時にフラグが立っている場合には熱源機器mbが稼働していることを示す式である。式(5)は、熱源機器maおよび熱源機器mbに同時にフラグが立っている場合、熱源機器maおよび熱源機器mbの出入口温度差を同一にすることを示す式である。
【0069】
その他の典型的な運転条件に関する制約条件として、発停回数制限の制約条件、最低運転継続時間および最低停止継続時間の制約条件についても説明する。
【0070】
まず、発停回数制限の制約条件の定式化について説明する。発停回数制限を課す系統の集合をS、熱源機器mに発停回数制限を課す時間をPm、集合Sが時間Pmの間に発停できる回数の上限をUPPmとする。熱源機器mが時刻tにおいて起動する場合には“1”、そうではない場合には“0”となる0-1変数をONm,tとする。熱源機器mが時刻tにおいて停止する場合には“1”、そうではない場合には“0”となる0-1変数をOFFm,tとする。熱源機器mが時刻tにおいて稼働中の場合には“1”、そうではない場合には“0”となる0-1変数をDrm,tとする。この場合、発停回数制限の制約条件は以下の式(6)で表される。
【0071】
【0072】
式(6)により、発停回数を制限する区間内の稼働回数が上限値以下にすることができる。ただし、区間の始点においては停止回数と稼働中もカウントされる。
【0073】
次に、最低運転継続時間および最低停止継続時間の制約条件の定式化について説明する。熱源機器mの最低運転継続時間をTDRm、最低停止継続時間をTSTm、熱源機器mが時刻tにおいて起動する場合には“1”、そうではない場合には“0”となる0-1変数をONm,tとする。熱源機器mが時刻tにおいて停止する場合には“1”、そうではない場合には“0”となる0-1変数をOFFm,tとする。熱源機器mが時刻tにおいて稼働中の場合には“1”、そうではない場合には“0”となる0-1変数をDrm,tとする。この場合、最低運転継続時間の制約条件は以下の式(7)で表され、最低停止継続時間の制約条件は以下の式(8)で表される。
【0074】
【0075】
式(7)では、過去の熱源機器mの起動フラグを集計したものと、現在時刻において熱源機器mが稼働中か否かを比較することで、最低運転継続時間の条件を満たしているか否かを判断している。式(8)では、過去の熱源機器mの停止フラグを集計したものと、現在時刻において熱源機器mが停止中か否かを比較することで、最低運転停止時間の条件を満たしているか否かを判断している。
【0076】
需給バランス、熱源機器2の機器特性、熱源機器2の運転方式に関する上記のような制約条件を定式化するための制約条件パラメータ(例えば、各種の定数、変数等)は、熱源運転装置100のメモリに記憶されている。なお、制約条件パラメータは、予め設定されていてもよいが、ユーザは、所定のユーザインターフェイス画面を用いて、制約条件パラメータを任意に変更することもできる。これにより、条件変更などを迅速に行なうことができるとともに、対象の熱源システムが変更されても、汎用的に利用することができる。
【0077】
以上のように、目的関数、および各種(例えば、需給バランス、機器特性および運転方式)の制約条件はすべて線形式で表わすことができるため、混合整数線形計画問題として定式化され、汎用ソルバーにより、制約条件下で目的関数が最小となる最適運転計画を作成することができる。
【0078】
<運転計画の見直し>
図1を参照して、熱源運転装置100は、時間Px(例えば、数十分)毎に最適運転計画を作成し、中継装置400を介して、当該作成した最適運転計画を熱源システム500に送信する。中継装置400は、時間Pxごとに運転計画を熱源システム500に送信する一方、時間Pxよりも短い時間Py(例えば、数分)毎に熱源システム500の運転状態データを収集している。運転状態データは、例えば、各熱源機器2の発停状態、各冷水ポンプ3の流量率、各種の温度(例えば、冷水の往温度Tg、還温度Tr、熱源機器2の出口温度tg、入口温度tr)等を示すデータである。
【0079】
ここで、熱源運転装置100は、算出した冷熱負荷50の需要予測値を満たすような最適運転計画を作成しているが、天候の急激な変動等が発生した場合には、熱源システム500における実際の冷熱負荷50と需要予測値との誤差が大きくなる場合も考えられる。
【0080】
図2を参照して、冷熱負荷50が各熱源機器2の処理熱量よりも大きい場合(すなわち、実際の冷熱負荷50が需要予測値よりも大きい場合)には、処理できない冷熱負荷があるため、還ヘッダ32に戻る冷水の温度が上昇し、その結果、熱源機器2に供給される冷水の入口温度trが上昇する。したがって、熱源機器2の出口温度を7℃に維持することができなくなる可能性がある。一方、冷熱負荷50が各熱源機器2の処理熱量よりも小さい場合(すなわち、実際の冷熱負荷50が需要予測値よりも小さい場合)には、各熱源機器2から送水された7℃の冷水がバイパス管33を通じて還ヘッダ32に流れ、冷熱負荷50処理後の冷水と混合され、12℃以下の冷水となり熱源機器2に供給される。出口温度tgは7℃であるから、出入口温度差がとれなくなり、場合によっては熱源機器2が軽負荷停止する可能性がある。
【0081】
そのため、中継装置400は、往温度Tgおよび還温度Trを監視し、これらが設定時間以上の間、設定値から逸脱した場合には、各熱源機器2を起動または停止させる。具体的には、中継装置400は、往温度Tgが閾値Kg1(例えば、10℃)以上である状態が設定時間St(例えば、数分)以上継続する場合には、各熱源機器2の総処理熱量を増大させるため、現在停止中の各熱源機器2の少なくとも1台(例えば、1台だけ)を起動させる。例えば、中継装置400は、現在停止中の熱源機器2の中から最も優先順位の高い熱源機器2を選定し、当該選定された熱源機器2に対して、当該熱源機器2を起動させるための起動指令を送信する。なお、熱源システム500の熱源機器間における運転優先順位を示すデータは、中継装置400の内部メモリに予め記憶されている。
【0082】
また、中継装置400は、還温度Trが閾値Kr1(例えば、9℃)以下である状態が設定時間St以上継続する場合には、各熱源機器2の総処理熱量を減少させるため、現在稼働中の熱源機器2の少なくとも1台(例えば、1台だけ)を停止させる。例えば、中継装置400は、現在稼働中の熱源機器2の中から最も優先順位の低い熱源機器2を選定し、当該選定された熱源機器2に対して、当該熱源機器2を停止させるための停止指令を送信する。
【0083】
このように、熱源運転装置100が作成した運転計画に基づく各熱源機器2の総処理熱量と熱源システム500の冷熱負荷50との誤差が大きい場合には、中継装置400は、当該誤差を小さくするために、熱源機器2の起動・停止を制御する。これにより、熱源運転装置100による時間Px(例えば、数十分)毎の最適運転計画の結果が各熱源機器2の運転状態に反映されるまで待つことなく、熱源システム500全体で生成する熱量と、実際の冷熱負荷50とを迅速にバランスさせることができる。
【0084】
なお、中継装置400は、熱源機器2の起動・停止を制御した場合には、起動または停止させた熱源機器2の現在の稼働状態を示すデータを熱源運転装置100に送信する。例えば、中継装置400は、熱源運転装置100が作成した運転計画に従って停止している熱源機器2cを新たに起動させた場合には、熱源機器2cの起動を通知するための通知情報を熱源運転装置100に送信する。一方、中継装置400は、運転計画に従って稼働している熱源機器2cを停止させた場合には、熱源機器2cの停止を通知するための通知情報を熱源運転装置100に送信する。
【0085】
熱源運転装置100は、中継装置400からの通知情報に基づいて、各熱源機器2の稼働状況(この場合、熱源機器2cの稼働または停止)を更新する。例えば、熱源運転装置100は、当該通知情報に基づいて、制約条件パラメータ(例えば、熱源機器mの稼働状況を示す0-1変数等)を更新する。熱源運転装置100は、更新された制御パラメータに従う制約条件下で目的関数が最小となる最適運転計画を混合整数線形計画法により作成する。これにより、現在の各熱源機器2の稼働状況に基づく最適運転計画を作成することができる。
【0086】
<機能構成>
図7は、熱源運転支援システム1000の機能構成の一例を示すブロック図である。
図7を参照して、熱源運転支援システム1000は、主たる機能構成として、気象情報取得部601と、負荷予測部603と、選択部605と、条件設定部607と、運転計画作成部609と、運転計画出力部611と、温度取得部613と、判断部615と、指令出力部617とを含む。典型的には、気象情報取得部601、負荷予測部603、選択部605、条件設定部607、運転計画作成部609および運転計画出力部611は、熱源運転装置100の機能に対応する。温度取得部613、判断部615および指令出力部617は、中継装置400の機能に対応する。例えば、これらの機能は、各装置のプロセッサが所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0087】
図7を参照して、気象情報取得部601は、一定間隔毎にサーバ200から気象情報(例えば、気温、湿度、日射量)を取得(受信)する。
【0088】
負荷予測部603は、熱源システム500の熱負荷(冷熱負荷50)の需要を予測する。具体的には、負荷予測部603は、過去の冷熱負荷50の需要実測データと、気象情報とに基づいて、将来の冷熱負荷50の需要を予測する。詳細には、負荷予測部603は、学習用データセットを用いた学習処理がなされた学習済モデルに対して気象情報を入力することにより、将来の冷熱負荷50の需要を算出する。
【0089】
選択部605は、熱源システム500に含まれる複数の熱源機器2の中から、熱源機器2の入口側における熱媒体(冷水)の入口温度trと熱源機器2の出口側における冷水の出口温度tgとの出入口温度差Δtを同一とすべき2以上の熱源機器2を選択する。例えば、選択部605は、ユーザからの指示入力に従って、2以上の熱源機器2を選択する。典型的には、熱源システム500に含まれるすべての熱源機器2が選択される。
【0090】
条件設定部607は、選択された2以上の熱源機器2が同時に稼働している場合に当該2以上の熱源機器2における各出入口温度差Δtを同一にするとの条件を示す同一温度差条件を、熱源システム500に関する制約条件の1つとして設定する。条件設定部607は、上述したような需給バランス、各熱源機器2の機器特性、および各種の運転方式に関する他の制約条件も設定する。
【0091】
運転計画作成部609は、予測された冷熱負荷50の需要を満たすための運転計画として、複数の熱源機器2の各々の機器特性と同一温度差条件とを含む制約条件下で目的関数が最小となる最適運転計画を混合整数線形計画法により作成する。運転計画出力部611は、当該作成された最適運転計画を熱源システム500に出力(送信)する。
【0092】
温度取得部613は、熱源機器2の出口側に接続された往ヘッダ31から熱源システム500の冷熱負荷50に供給される冷水の往温度Tgを取得する。温度取得部613は、冷熱負荷50から、熱源機器2の入口側に接続された還ヘッダ32へ供給される冷水の還温度Trを取得する。
【0093】
判断部615は、往温度Tgに基づいて、停止中の熱源機器2のうちの少なくとも1つを起動させるか否かを判断し、還温度Trに基づいて、稼働中の熱源機器2のうちの少なくとも1つを停止させるか否かを判断する。
【0094】
本実施の形態では、熱媒体が冷水であり、各熱源機器2が冷熱源機器である。この場合、判断部615は、往温度Tgが閾値Kg1以上に上昇した場合に、停止中の熱源機器2のうちの少なくとも1つを起動させると判断する。また、判断部615は、還温度Trが閾値Kr1以下に低下した場合に、稼働中の熱源機器2のうちの少なくとも1つを停止させると判断する。なお、判断部615は、往温度Tgが閾値Kg1以上の状態が設定時間St以上継続する場合に熱源機器2を起動させると判断してもよいし、還温度Trが閾値Kr1以下の状態が設定時間St以上継続する場合に熱源機器2を停止させると判断してもよい。
【0095】
指令出力部617は、起動させると判断された熱源機器2に対して、当該熱源機器2を起動させるための起動指令を出力(送信)する。また、指令出力部617は、停止させると判断された熱源機器2に対して、当該熱源機器2を停止させるための停止指令を出力する。
【0096】
ここで、条件設定部607は、判断部615の判断結果に基づいて、制約条件を更新してもよい。例えば、条件設定部607は、少なくとも1つの熱源機器2(例えば、熱源機器2c)を新たに起動させるとの判断結果に基づいて、熱源機器2cの稼働状況に関する制約条件パラメータを更新(この場合、稼働状況を示す0-1変数を“1”に更新)する。条件設定部607は、熱源機器2cを新たに停止させるとの判断結果に基づいて、熱源機器2cの稼働状況を示す0-1変数を“0”に更新する。運転計画作成部609は、更新された稼働状況に従う制約条件下で目的関数が最小となる最適運転計画を混合整数線形計画法により作成する。
【0097】
<その他の実施の形態>
(1)上述した実施の形態では、各熱源機器2が熱媒体を冷却して冷熱負荷に供給する場合を例示して説明したが、各熱源機器2が熱媒体を加熱して温熱負荷に供給する場合であってもよい。この場合、熱媒体が温水であり、冷熱負荷50が温熱負荷に、熱源機器2が温熱源機器に、冷水ポンプが温水ポンプに置き換わる。冷却塔5および冷却水ポンプ4は存在しない。
【0098】
なお、この場合、判断部615の往温度Tgおよび還温度Trを用いた温熱源機器の起動・停止制御方式は、上述した実施の形態の制御方式とは逆になる。例えば、温熱源機器の温水の出口温度が48℃、入口温度が41℃とし、定格の出入口温度差が7℃であるとする。中継装置400(判断部615)は、往温度Tgが閾値Kg2(例えば、45℃)以下に低下した場合に、停止中の温熱源機器のうちの少なくとも1つを起動させると判断する。また、判断部615は、還温度Trが閾値Kr2(例えば、44℃)以上に上昇した場合に、稼働中の温熱源機器のうちの少なくとも1つを停止させると判断する。
【0099】
(2)上述した実施の形態において、
図7で説明した熱源運転装置100の各機能部をそれぞれ別の装置において実現する構成であってもよい。また、中継装置400の各機能部をそれぞれ別の装置において実現する構成であってもよい。
【0100】
(3)上述した実施の形態では、熱源運転装置100は、ユーザからの指示入力に従って、2以上の熱源機器2を選択する構成について説明したが、当該構成に限られない。例えば、出入口温度差Δtを同一とすべき2以上の熱源機器2が予め定められていてもよい。この場合、2以上の熱源機器2を示す情報は、熱源運転装置100の内部メモリに予め記憶されている。
【0101】
(4)上述したように、中継装置400は、熱源運転装置100で作成された最適な運転計画に基づいて生成された所定間隔(例えば、15分間隔)のスケジュールに従って、熱源機器2を発停させ、流量指令を行なう。ここで、各熱源機器2が熱媒体を冷却して冷熱負荷50に供給する場合、運転計画に基づく各熱源機器2の稼働中において、中継装置400は、例えば1分毎に冷水ポンプ3からの流量を見直すための指令を行なってもよい。冷水流量は、往ヘッダ31と還ヘッダ32との間の圧力差である供給差圧に基づいて増減させる。具体的には、供給差圧が設定差圧(例えば、200kPa)を下回った場合、稼働中の熱源機器2への冷水流量の上限値を上回らない範囲で、複数台運転している冷水ポンプ3の流量を同一割合で増やす。一方、供給差圧が設定差圧よりも大きくなりバイパス流量が多くなった場合、稼働中の熱源機器2への冷水流量の下限値を下回らない範囲で、複数台運転している冷水ポンプ3の流量を同一割合で減らす。
【0102】
稼働中のすべての熱源機器2への冷水流量が上限値に達しているが、往温度Tgが閾値Kg1以上である状態が設定時間St以上継続する場合、中継装置400は、各熱源機器2の総処理熱量を増大させるため、現在停止中の熱源機器2を追加で起動させる。具体的には、現在時刻から次の運転計画の作成時刻まで所定時間(例えば、9分)以上残っている場合、中継装置400は、運転優先順位の高い停止中の熱源機器2を起動させる。そうではない場合、次回の運転計画において、熱源運転装置100は、運転優先順位の高い熱源機器2の起動を考慮した運転計画を作成する。
【0103】
一方、稼働中のすべての熱源機器2への冷水流量が下限値に達しているが、還温度Trが閾値Kr1以下である状態が設定時間St以上継続する場合には、各熱源機器2の総処理熱量を減少させるため、現在稼働中の熱源機器2を停止させる。具体的には、現在時刻から次の運転計画の作成時刻まで所定時間以上残っている場合、中継装置400は、運転優先順位の低い稼働中の熱源機器2を停止させる。そうではない場合、次回の運転計画において、熱源運転装置100は、運転優先順位の低い熱源機器2の停止を考慮した運転計画を作成する。
【0104】
次に、各熱源機器2が温熱源機器であり、熱媒体を加熱して温熱負荷に供給する場合、運転計画に基づく各温熱源機器の稼働中において、中継装置400は、例えば1分毎に温水ポンプからの温水流量を見直すための指令を行なってもよい。温水流量は、供給差圧に基づいて増減させる。具体的には、供給差圧が設定差圧を下回った場合、稼働中の温熱源機器への温水流量の上限値を上回らない範囲で、複数台運転している温水ポンプの流量を同一割合で増やす。一方、供給差圧が設定差圧よりも大きくなりバイパス流量が多くなった場合、稼働中の温熱源機器への温水流量の下限値を下回らない範囲で、複数台運転している温水ポンプの流量を同一割合で減らす。
【0105】
稼働中のすべての温熱源機器への温水流量が上限値に達しているが、往温度Tgが閾値Kg2以下である状態が設定時間St以上継続する場合、中継装置400は、各温熱源機器の総処理熱量を増大させるため、現在停止中の温熱源機器を追加で起動させる。具体的には、現在時刻から次の運転計画の作成時刻まで所定時間以上残っている場合、中継装置400は、運転優先順位の高い停止中の温熱源機器を起動させる。そうではない場合、次回の運転計画において、熱源運転装置100は、運転優先順位の高い温熱源機器の起動を考慮した運転計画を作成する。
【0106】
一方、稼働中のすべての温熱源機器への温水流量が下限値に達しているが、還温度Trが閾値Kr2以上である状態が設定時間St以上継続する場合には、各温熱源機器の総処理熱量を減少させるため、現在稼働中の温熱源機器を停止させる。具体的には、現在時刻から次の運転計画の作成時刻まで所定時間以上残っている場合、中継装置400は、運転優先順位の低い稼働中の温熱源機器を停止させる。そうではない場合、次回の運転計画において、熱源運転装置100は、運転優先順位の低い温熱源機器の停止を考慮した運転計画を作成する。
【0107】
(5)コンピュータを機能させて、上述の実施の形態で説明したような制御を実行させるプログラムを提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどの一時的でないコンピュータ読取り可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0108】
(6)上述の実施の形態として例示した構成は、一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本実施の形態の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。また、上述した実施の形態において、他の実施の形態で説明した処理および構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
【0109】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0110】
2a,2b,2c 熱源機器、3a~3c 冷水ポンプ、4a~4c 冷却水ポンプ、5a~5c 冷却塔、7a,7b 二次ポンプ、31 往ヘッダ、32 還ヘッダ、33 バイパス管、40 二次ヘッダ、50 冷熱負荷、60 自動制御設備、61 二次ポンプ制御装置、62 冷却水ポンプ制御装置、100 熱源運転装置、150 プロセッサ、152 主記憶装置、154 二次記憶装置、156 通信インターフェイス、158 ディスプレイ、160 入力装置、164 汎用インターフェイス、166 内部バス、200 サーバ、210,220 ネットワーク回線、300 データ記憶装置、400 中継装置、500 熱源システム、601 気象情報取得部、603 負荷予測部、605 選択部、607 条件設定部、609 運転計画作成部、611 運転計画出力部、613 温度取得部、615 判断部、617 指令出力部、700 特性データ、810,820 グラフ、1000 熱源運転支援システム。