(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】軸受システム、軸受システムの制御方法、及び軸受システムを制御するためのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
F16C 17/24 20060101AFI20220304BHJP
F16C 37/00 20060101ALI20220304BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20220304BHJP
F16N 29/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
F16C17/24
F16C37/00 A
F16C41/00
F16N29/00 B
F16N29/00 F
(21)【出願番号】P 2020074409
(22)【出願日】2020-04-17
(62)【分割の表示】P 2018132137の分割
【原出願日】2018-07-12
【審査請求日】2020-04-21
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】羅 光益
(72)【発明者】
【氏名】河合 裕司
(72)【発明者】
【氏名】長崎 忠利
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】間中 耕治
【審判官】内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/050470(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/03
F16C 17/24
F16C 37/00
F16C 41/00
F16N 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸Aに取付けられる軸受A及びその測定実行部Aと、前記軸Aと異なる軸Bに取付けられる軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備える軸受システムであって、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Bの使用状態に影響を与えることのある動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す
指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Aの使用状態に影響を与えることのある動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備え、
前記制御ユニットは、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数が保存される指示保存部と、
該指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御する制御部と、を備え、
前記測定実行部A及び前記測定実行部Bと前記制御ユニットとは通信回線でつながれており、
測定された前記指標A及び前記指標B、並びに実行した前記動作条件A及び前記動作条件Bが前記通信回線を介して前記測定実行部A及び測定実行部B並びに前記動作条件設定部A及び前記動作条件設定部Bから前記制御ユニットへ送信される軸受システム。
【請求項2】
前記動作条件Aは前記軸受Aの摩耗条件A及び/又は温度条件Aであり、
前記動作条件Bは前記軸受Bの摩耗条件B及び/又は温度条件Bである、請求項1に記載の軸受システム。
【請求項3】
前記摩耗条件Aは前記軸受Aの潤滑油の温度であり、
前記摩耗条件Bは前記軸受Bの潤滑油の温度である、請求項2記載の軸受システム。
【請求項4】
軸Aに取付けられる軸受A及びその測定実行部Aと、前記軸Aと異なる軸Bに取付けられる軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備える軸受システムであって、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Bの使用状態に影響を与えることのある動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す前記指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Aの使用状態に影響を与えることのある動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備え、
前記制御ユニットは、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数が保存される指示保存部と、
該指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御する制御部と、を備え、
前記測定実行部A及び前記測定実行部Bと前記制御ユニットとは通信回線でつながれており、
測定された前記指標A及び前記指標B、並びに実行した前記動作条件A及び前記動作条件Bが前記通信回線を介して前記測定実行部A及び測定実行部B並びに前記動作条件設定部A及び前記動作条件設定部Bから前記制御ユニットへ送信され、
前記動作条件Aは前記軸受Aの摩耗条件Aであり、前記動作条件Bは前記軸受Bの摩耗条件Bであり、
前記摩耗条件Aは前記軸受Aの潤滑油の温度であり、前記摩耗条件Bは前記軸受Bの潤滑油の温度であり、
前記軸受Aの潤滑油の温度は前記軸受Aへ送風するファンの角度で制御し、前記軸受Bの潤滑油の温度は前記軸受Bへ送風するファンの角度で制御する、軸受システム。
【請求項5】
前記温度条件Aは潤滑油の流量であり、
前記温度条件Bは潤滑油の流量である、請求項2に記載の軸受システム。
【請求項6】
前記摩耗条件Aは前記軸受Aの面積であり、
前記摩耗条件Bは前記軸受Bの面積である、請求項2に記載の軸受システム。
【請求項7】
前記指標は前記軸受A及び軸受Bの損失及び/又は前記軸受A及び軸受Bの摩耗進行度合いである、請求項1~6の何れかに記載の軸受システム。
【請求項8】
前記指標である損失は軸受A及び軸受Bの背面温度から演算される、請求項7に記載の軸受システム。
【請求項9】
軸Aに取付けられる軸受A及びその測定実行部Aと、前記軸Aと異なる軸Bに取付けられる軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備え、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Bの使用状態に影響を与えることのある動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す
指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Aの使用状態に影響を与えることのある動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備える、
軸受システムにおける前記軸受A及び前記軸受Bの制御方法であって、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数を指示保存部へ保存するステップと、
前記指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御するステップと、含む制御方法。
【請求項10】
前記動作条件Aは前記軸受Aの摩耗条件A及び/又は温度条件Aであり、
前記動作条件Bは前記軸受Bの摩耗条件B及び/又は温度条件Bである、請求項9に記載の制御方法。
【請求項11】
前記摩耗条件Aは前記軸受Aの潤滑油の温度条件であり、
前記摩耗条件Bは前記軸受Bの潤滑油の温度条件である、請求項10に記載の制御方法。
【請求項12】
軸Aに取付けられる軸受A及びその測定実行部Aと、前記軸Aと異なる軸Bに取付けられる軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備え、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Bの使用状態に影響を与えることのある動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す
指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Aの使用状態に影響を与えることのある動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備える、
軸受システムにおける前記軸受A及び前記軸受Bの制御方法であって、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数を指示保存部へ保存するステップと、
前記指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御するステップと、含み、
前記動作条件Aは前記軸受Aの摩耗条件Aであり、前記動作条件Bは前記軸受Bの摩耗条件Bであり、
前記摩耗条件Aは前記軸受Aの潤滑油の温度であり、前記摩耗条件Bは前記軸受Bの潤滑油の温度であり、
前記軸受Aの潤滑油の温度条件は前記軸受Aへ送風するファンの角度であり、前記軸受Bの潤滑油の温度条件は前記軸受Bへ送風するファンの角度である、制御方法。
【請求項13】
前記温度条件Aは潤滑油の流量であり、前記温度条件Bは潤滑油の流量である、
請求項10に記載の制御方法。
【請求項14】
前記摩耗条件Aは前記軸受Aの面積であり、
前記摩耗条件Bは前記軸受Bの面積である、請求項10に記載の制御方法。
【請求項15】
前記指標は前記軸受A及び軸受Bの損失及び/又は前記軸受A及び軸受Bの摩耗進行度合いである、請求項9~14の何れかに記載の制御方法。
【請求項16】
前記指標である損失は軸受A及び軸受Bの背面温度から演算される、請求項15に記載の制御方法。
【請求項17】
軸Aに取付けられる軸受A及びその測定実行部Aと、前記軸Aと異なる軸Bに取付けられる軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備え、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Bの使用状態に影響を与えることのある動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す
指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与えかつ前記軸受Aの使用状態に影響を与えることのある動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備える、
軸受システムにおける前記軸受A及び前記軸受Bを制御するコンピュータ用のプログラムであって、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標Aの変化及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数を指示保存部へ保存するステップと、
前記指示保存部の保存内容を参照して、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御するステップと、を実行させるコンピュータ用のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸受システムに関し、より詳しくは、複数の軸受が同時に又は関連して動作する軸受システムにおいて各軸受を制御するものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば水力発電所では、ダムの取水口からの水を分流して分岐路へ流し、各分岐路に発電機が設置されている。即ち、水力発電所という一つの舎屋若しくは一つの区域において複数の発電機が動作している。各発電機は大型であり、このように大型であるが為にそのメンテナンスに注意を要している。
発電機のメンテナンスの重要なポイントの1つに軸受がある。水流により回転された発電機の回転軸は軸受により摺動状態で支持されており、ここに最も大きな機械的負荷がかかるからである。軸受の摩耗が進むと発電機を止めて軸受部分を交換する。
軸受の摩耗を抑制する1つの対策として、軸受と回転軸との間に供給される潤滑油の粘度を上げることが考えられるが、他方、潤滑油の粘度が上がるとこれが回転軸の回転抵抗になって発電機の損失を増加させるおそれがあるので、無駄に潤滑油の粘度を上げることはできない。勿論、潤滑油の粘度を下げれば発電機の損失は低下するが、他方軸受は摩耗し易くなるという、トレードオフの関係にある。
【0003】
ここに、潤滑油の粘度はその温度に依存しており、その温度が高くなれば粘度が下がり、その温度が下がれば粘度が上がる。
そこで、発電機毎にその軸受の潤滑油の温度を制御し、その温度が常に発電機毎に規定されている定格(好適な動作条件)になるようする。
軸受の摩耗は軸受の摺動面積を調整することで制御することもできるが、この方策も、発電機の損失の観点から、トレードオフの関係にある。
本願発明に関連する技術を開示する先行技術文献として、特許文献1及び特許文献2を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-297973号公報
【文献】特開2016-153669号公報
【文献】国際公開第2008/050470号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発電機を独立して使用するときには、発電機の軸受に規定された好適な動作条件(定格の条件)を維持することで、例えば、潤滑油の温度に関して言えば軸受毎に規定された温度条件(定格の温度条件)に制御することにより、軸受による損失を抑えつつ軸受の摩耗をできる限り抑制することができる。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、複数の発電機が一定の条件のもとで協働しているときには、例えば、水力発電所のようにダムからの水の分岐路にそれぞれ配置された発電機の場合には、各発電機の軸受の潤滑油の温度を定格条件に固定してよいのか否か疑問が生じた。
【0006】
通常、各分岐路には同じ型式の発電機を配置するので、それらの発電機の軸受の潤滑油は同じ温度になるように調整する。しかしながら、本発明者らの検討によれば、潤滑油の温度、その他の予め規定された動作条件を同じとして、同時期に設置した発電機の軸受の間においても、軸受の損失に差が生じることがある。その結果、軸受の摩耗の進行も不均一となり、定期メンテナンスを待たずに軸受の交換が必要になるものがある一方で、摩耗の進行が遅くて十分に使用可能な状態であるにもかかわらず、定期メンテナンスとしてこれの交換が必要になる事態も生じている。これらの原因は定かではないが、各分岐路の水流や流速が微妙に異なるためではないかと考えられる。また、水力発電所内の設置場所に依存する温度などの環境の違いによることも考えられる。
いずれにせよ、複数の軸受が同時に又は関連して動作しているときは、全体としてみると単純に各々にとっての最適状態で各軸受を動作させれば良いものではないことがわかる。いわゆる合成の誤謬が生じている可能性がある。複数の軸受が近隣で動作しているときは、その傾向が高くなり易いと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に気付いた本発明者らは、例えば、指標となる各発電機の軸受におけるエネルギ損失や摩耗の変化(摩耗進行度合い)は、単にその軸受のみの動作条件の問題ではなく、他の軸受の動作条件も関連してるのではないかと考えた。
典型的な例として、2つの発電機が並列で動作しているとき、動作条件とする各発電機の軸受(軸受A、軸受B)に対する潤滑油の温度を定格に固定しておいて各軸受A及び軸受Bの損失(標準的損失LR1、LR2)を、軸受の消費動力を算出して特定する(パターン#1)。他方、軸受Bの潤滑油の温度を定格+αに変化させたとき(軸受Aの潤滑油温度は定格)、各軸受の損失を特定する(パターン#2)。以下、軸受Aへ供給する潤滑油の温度(温度A)と軸受Bへ供給する潤滑油の温度(温度B)とのセットに表1のような変化を設け、当該9つのパターンに従って各潤滑油の温度を制御し、所定期間にわたり各軸受を作動させる。そのときの各軸受の平均損失を特定する。各軸受の標準的損失LR1、LR2を基準にして損失が大きくなるときを(+)、損失が小さくなるときを(-)とし、かつその程度を当該符号の数で表す。表1に一例を示す。
【0008】
【表1】
表1において
温度A:軸受Aの潤滑油の温度
温度B:軸受Bの潤滑油の温度
表1の結果より、各軸受の潤滑油の温度はパターン#2、#4とすること、即ち、各軸受の損失の総和が所定の閾値以下、表1の場合では、(--)以下((-)が2つ以上)とすること、が好ましい。
【0009】
上記において、軸受A及び軸受Bの損失が合計して(2+)以上((+)が2つ以上)となると、発電能力の低下を引き起こす。よって、かかる動作パターンは、軸受システムの実際の制御には不採用とすることが好ましい。所定の閾値を超える損失が測定された時点で、当該動作パターンの実行を止めることもできる。この閾値は任意に設定可能であり、軸受A及び軸受Bの損失の総和についての閾値を設定したり、軸受毎の損失について閾値を設定することができる。
上記において各軸受の損失を表す(+)及び(-)は加算ができるものとしている。例えば、パターン#8の場合は、軸受Aの損失が(-)で軸受Bの損失が(+)(+)であるため、その総和の損失は(+)となる。
【0010】
他方、軸受のメンテナンスの見地からは軸受の摩耗進行度合いに注意しなければならない。2つの軸受が並列で動作しているとき、各軸受に対する潤滑油の温度条件を定格に固定しておいて各発電機の軸受の摩耗進行度合い(標準的進行度合いAR1,AR2)を測定する(パターン#1)。他方、軸受Bの潤滑油の温度を定格+αに変化させたとき(軸受Aの潤滑油温度は定格)、各軸受の摩耗進行度合いを測定する(パターン#2)。以下、軸受Aへ供給する潤滑油の温度(温度A)と軸受Bへ供給する潤滑油の温度(温度B)とのセットに表2のような変化を設け、当該9つのパターンに従って各潤滑油の温度を制御し、所定期間にわたり各軸受を作動させる。そのときの各軸受の摩耗進行度合いを測定する。各軸受の標準的進行度合いAR1、AR2を基準にして進行度合いが大きくなるときを(+)、進行度合いが小さくなるときを(-)とし、かつその程度を当該符号の数で表す。表2に一例を示す。
【0011】
【表2】
表2において
温度A:軸受Aの潤滑油の温度
温度B:軸受Bの潤滑油の温度
摩耗進行度合いA:軸受Aの摩耗の進行度合い
摩耗進行度合いB:軸受Bの摩耗の進行度合い
【0012】
ここに、軸受Aの摩耗は予定より進行しており、軸受Bの摩耗は予定通りであったとする。
かかる条件のもとにおいて、発電機を止めて軸受のメンテナンスの時期が決められていたとすると、その時期が近々であるとき、パターン#9を選択して、軸受Bの摩耗を犠牲にしても、軸受Aの摩耗の進行を強く抑制することが好ましい。他方、メンテナンスの時期が遠い先であれば、パターン#6を選択して、軸受Aの摩耗の進行の抑制を優先することが考えられる。
【0013】
上記において、温度の変化量αを調整することにより、無数のパターンがあり得ることは容易に想定できる。換言すれば、各軸受の摩耗進行度合いを制御する観点から言えば、変化量αは、各進行度合いに変化が現れるように設定することが好ましい。
ここに、摩耗進行度合いを数値化することも可能であり、数値化することにより、摩耗の進行を精密に制御できることとなる。例えば、メンテナンス前において対象の軸受に十分な厚さがなければ、その軸受の摩耗の進行を優先的に抑えるように動作条件A及び動作条件Bを指定して、メンテナンス前に対象の軸受が要交換の厚さを超えないようにする。ここに、軸受の摩耗が促進される条件は、軸受を備えた装置の損失を小さくする。よって、メンテナンスにおいて軸受を取り換えることが義務付けられるとき、意図的に軸受の摩耗を促進させ、他方、軸受の損失を抑制して、高いパフォーマンスを得ることもできる。
【0014】
表1に示した軸受Aの動作条件A(潤滑油の温度A)及び軸受Bの動作条件B(潤滑油の温度B)と当該動作条件を実行したときの各軸受の指標(損失)との関係は、例えば発電機の通常運転モードにおいて参照される。通常運転モードではできるだけ損失を抑制して、高いパフォーマンスで発電機を運転するのが望ましいからである。
他方、表2に示した関係は、例えばメンテナンスの時期を考慮したとき参照され、比較的短期間の運転期間に適用することが好ましい。
【0015】
この発明は、本発明者らの上記の知見に基づきなされたものである。
即ち、この発明の1つの局面は次のように規定される。
軸受A及びその測定実行部Aと、軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備える軸受システムであって、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与える動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す前記指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与える動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備え、
前記制御ユニットは、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数が保存される指示保存部と、
該指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御する制御部と、を備え、
前記測定実行部A及び前記測定実行部Bと前記制御ユニットとは通信回線でつながれており、測定された指標、及び実行した動作条件が前記通信回線を介して前記測定実行部A及び測定実行部Bから前記制御ユニットへ送信される軸受システム。
【0016】
上記において、軸受A及び軸受Bの使用の状態を示す指標として、各軸受に起因する損失や軸受の摩耗進行度合いを用いることができる。
軸受の損失は軸受と回転軸との動摩擦係数に起因しており、損失が大きくなると軸受自体が熱を持つこととなり、この熱を測定して損失を特定することができる。従って、測定部A及び測定部Bの直接の測定対象は軸受の温度となる。軸受の形状や構造に応じて、軸受の摺動部や背面部の温度を測定することができる。このようにして得られた温度に基づき、所定のルールに基づき、損失は演算される。測定対象は軸受の温度に限らない。当該軸受を備えるケースや軸受を冷却した後の潤滑油等の温度を測定してもよい。また、温度に限るものではなく、振動等、他の指標因子を測定してもよい。
【0017】
摩耗進行度合いは軸受の厚さを測定してその時間変化から得ることができ、測定部A及び測定部Bの直接の測定対象はそれぞれが担当する軸受の厚さである。摺動部に用いられるパッドの厚さを測定するのが好ましい。また、摩耗進行度合いと軸受自体の温度との関係が特定されておれば、軸受自体の温度(例えば、軸受の背面の温度)のログ(時間と温度)より、摩耗進行度合いを間接的に特定することも可能である。測定対象は上記に限るものではなく、例えば軸受と摺動対象との距離を測定してもよい。
指標が所定値を超えた時にアラームを出力する設定にするのが望ましい。蓄積データを利用したAI予測によってアラームを出力してもよい。
測定実行部が備える測定部の他に、軸受の使用状態には関わらない環境因子を測定する追加測定部を、制御ユニットにつなげてもよい。追加測定部が例えば振動センサや気象情報入手装置であると、軸受システムを停止させたり軸受を退避させたりする指示を、測定実行部に送ることができる。
一方、上記において、動作条件A及び動作条件Bは各軸受の摩耗条件や温度条件を用いることができる。この摩耗条件としては、軸受へ供給される潤滑油の温度や粘度、軸受の摺動面積、若しくは軸受位置又はこれらの複数を調整するのが好ましい。また、温度条件としては、軸受へ供給される潤滑油の流量や軸受周辺温度等の環境要素を調整するのが好ましい。
【0018】
軸受としてスラスト軸受を採用したときには、軸受を構成するパットの数を調整することで、換言すれば回転軸に対して所望のパットを離隔できるようすることで、軸受の摺動面積を制御できる。
【0019】
潤滑油の温度は、軸受を空冷するタイプでは、その送風量により制御できる。例えば、回転軸にファンを設け、そのファンの角度を変えることで送風量を制御できる。また、潤滑油用のラジエータを備えるタイプでは、ラジエータを流れる潤滑油の流量により調整することもできる。それらを併用してもよい。
なお、潤滑油の温度は、それ自体の温度を直接測定してもよいし、軸受やラジエータ関連部品の温度から間接的に特定してもよい。流動する潤滑油の温度を直接測定する場合、軸受の形状や構造に応じて、軸受に対して上流側や下流側の温度を測定することができる。
【0020】
指標として、各軸受の回転軸が受ける仕事量(発電機等の場合)や、動作条件として、回転軸が与える仕事量(ポンプ等の場合)を採用することもできる。仕事量が変化すれば、軸受にかかる負担が変化し、そして、その摩耗進行度合いも変化し、また損失も変化するからである。
【0021】
この各指標の変化は動作条件に変化を与えたとき即座に測定できるものとは限らず、本発明者らの検討によれば、各パターン当たり、10~30日の試験期間が必要となることがある。従って、この軸受システムの管理者は、計画的に各軸受に対する動作条件に変化を与えて、そのとき得られる各指標のログを記録する。想定する全てのパターンのログを取り終えた後、得られたログから、各軸受に作用させるべき動作条件とそれに伴う各軸受の指標との関係が特定可能となる。これにより、いわゆるデータ取りの試験段階が完了する。
【0022】
なお、軸受の数が増えた場合、動作条件と指標の組合せをパターン化した表における場合分けの数が増大する。±αの値に変化を持たせた場合や動作条件の種類を増やした場合も同様である。このような場合、全てのパターンのログを取ることの負担は大きくなりがちなので、オペレータは、過去の例や他の軸受システムの例を参照しながら、データ取り段階での試験計画を立てることとなる。このとき、過去の例や他の軸受システムの例のデータが一か所で、即ちサーバとしての制御ユニットで管理されておれば、容易にオペレータの参照に供される。表は適宜更新して使うこともできる。場合分けの数が多い場合は特に、試験段階であるか否かに関わらず、測定実行部に送る指示の内容、詳しくは動作条件実行部を制御して実行するための動作条件の値、を決定するのにAIを利用するのが望ましい。
【0023】
この発明は方法の発明としても把握でき、そのためこの発明の他の局面は次のように規定される。
軸受A及びその測定実行部Aと、軸受B及びその測定実行部Bと、該測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備え、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与える動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す前記指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与える動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備える、
軸受システムにおける前記軸受A及び前記軸受Bの制御方法であって、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数を指示保存部へ保存するステップと、
前記指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御するステップと、含む制御方法。
【0024】
このように規定されるこの局面の制御方法によれば、第1の局面と同様に、複数の軸受が同時に又は関連して動作している結果、単純にその定格条件で各軸受を動作させれば良いものではないとき、各軸受に付与すべき動作条件を決めることができる。換言すれば、複数の軸受の個々のパフォーマンスではなく、複数の軸受のトータルのパフォーマンスを最適化可能となる。
【0025】
この発明の他の局面は次のように規定される。即ち、
軸受A及びその測定実行部Aと、軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備え、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与える動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す前記指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与える動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備える、
軸受システムにおける前記軸受A及び前記軸受Bを制御するコンピュータ用のプログラムであって、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標Aの変化及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数を指示保存部へ保存するステップと、
前記指示保存部の保存内容を参照して、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御するステップと、を実行させるコンピュータ用のプログラム。
【0026】
このように規定されるこの局面のコンピュータ用のプログラムによれば、他の局面で規定した軸受システム及びその制御方法を、汎用的なコンピュータ装置を用いて実行可能となる。
【0027】
以上の説明から、この発明は次のように把握することができる。即ち、
軸受A及びその測定実行部Aと、軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び測定実行部Bを制御する制御ユニットとを備えてなる軸受システムであって、
前記制御ユニットは前記軸受システムに求められるパフォーマンスを実行できるように、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bに指示を送り、
前記測定実行部A及び前記測定実行部Bと前記制御ユニットとは通信回線でつながれている、軸受システム。つまり、本発明の制御ユニットは、軸受システムとして全体最適となるパフォーマンスを各軸受が実行する指示を、各測定実行部に送る。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1はこの発明の実施形態の軸受システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は同じく軸受の構造を示す断面図である。
【
図3】
図3は制御ユニット300のハードの構成図である。
【
図4】
図4は測定実行部100のハードの構成図である。
【
図5】
図5は実施形態の軸受システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の実施形態の軸受システム1の構成を
図1に示す。
この軸受システム1は水力発電所に設置される発電機の軸受を制御する。
図1では、説明を容易にするため、水力発電所において2機の発電機が使用されている例を用いる。
この軸受システム1は、水力発電所の現場に設置される軸受アセンブリ10及び現場制御装置50と、この現場制御装置50をクライアントとしインターネット若しくは専用通信回線で接続される、サーバとしての制御ユニット300とを備えている。
【0030】
本実施形態では、軸受アセンブリ10は2つの軸受(軸受A11、軸受B21)を備えており、軸受A11及び軸受B21は立型タイプとして、発電機の回転子となる軸A12及び軸B22をそれぞれ摺動可能に支持している。
水力発電所においてダムからの水は二つの分岐路2、3へ分流される。各分岐路2、3の流水を軸A12のプロペラ13及び軸B22のプロペラ23が受けて、各軸12、22を回転させる。
なお、ここでの軸受は、パッド等摺動部の他に付帯設備を備えた軸受装置(軸受ユニットともいう)を意味する。
【0031】
現場制御装置50は測定実行部A100と測定実行部B200を備える
測定実行部A100は軸受A11に接続される。その測定部A101は、第1指標としての損失を特定するため、軸受A11の背面の温度を測定する。この測定にはRTDのような測温抵抗体式や熱電対式の温度計を用いることができる。このようにして測定された温度は、コントローラ110の損失演算部1101に送られる。この損失演算部1101は、予め定められたルールに基づき軸受Aの温度より、軸受Aの損失を演算する。演算された軸受Aの損失は、指標保存部A108の第1エリア1081に温度の測定時刻と共に保存される。測定実行部A100の負荷を軽減するために、測定実行部A100で損失に演算せず温度のデータ状態のままで第1エリア1081に保存してもよい。制御ユニット300で演算することもできる。
【0032】
測定部A101は、また、第2指標としての軸受の摩耗進行度合いを特定するため軸受A11の厚さを測定する。この測定には光学センサを用いることができる。測定された軸受A11の厚さは、測定時刻と共に、指標保存部A108の第2エリア1082に保存される。厚さの変化を経過時間で除した値が摩耗進行度合いを指す。
動作条件実行部A103は軸受A11へ供給される潤滑油の温度を調整する。
【0033】
図2に軸受A11を示す。図中符号12は軸Aであり、この軸A12にファン15が取り付けられる。本実施形態では、スラストタイプの摺動部を有する軸受A11は分割された複数のスラストパッド(以下、パッドともいう)16を備え、パッド16の表面に潤滑油が供給される。この潤滑油はラジエータ17とパッド16との間で循環される。スラストパッド16は、動作条件実行部A103からの信号を受けることができる図示しないアクチュエータで支持されており、軸A12のスラストカラーとの距離を調整でき、摺接モードと離隔モードとを選択できる。測定部A101はこのパッド16の厚さを測定する。
軸受A11のパッド16の摩耗は、ジャッキング機構により軸A12のスラストカラーに対する軸受A11のパッド16との距離を制御することで調整することもできる。
【0034】
動作条件実行部A103は、軸A12と共に回転するファン15のファン角度を調整する信号を送る。角度調整装置19がこの信号を受けてファン15の角度を変える。ファン15の風はラジエータ17へ送られる。つまり、ファン15の風量はファン15の角度に依存し、風量によって潤滑油に対するラジエータ17の冷却能力が調整される。
なお、動作条件実行部A103の出力信号は、測定実行部A100に備え付けられた入出力部104から直接指定することもできるし、制御ユニット300からの遠隔操作で指定することもできる。
【0035】
動作条件実行部A103は、スラストパッド16を支持するアクチュエータに対してそのモード(摺接モード、離隔モード)を選択する信号を送ることもできる。
摺接するスラストパッド16の数が多い即ち総摺動面積が大きいほどパッドの摩耗は進行し難くなるが、他方、軸A12に対する摺動抵抗が大きくなり、その損失が増大する。
動作条件実行部A103はファン15の角度(即ち、潤滑油の温度)及びスラストパッド16の数(即ち、軸受の摺動面積)の両者の調整をしてもよい。
【0036】
入出力部104はキーボードやポインタなどの入力装置とディスプレイやプリンタなどの出力装置を備える。オペレータはその入力装置を介して、動作条件実行部A103へ指令信号を送ることもでき、動作条件実行部A103は当該指令信号に応じた信号の値を出力する。そして、当該信号の値はメモリ装置106において実行動作条件保存部A107の第1エリア1071に保存することができる。
符号109は通信部であり、測定実行部A100の通信インターフェースとなる。
動作条件実行部A103への指示信号は制御ユニット300から、この通信部109を介して送られてくる。この場合も、指示信号の内容は実行動作条件保存部A107の第1エリア1071に保存することができる。
【0037】
符号110はコントローラであり、汎用的なコンピュータ装置が用いられる。このコントローラ110の制御プログラムもメモリ装置106に保存される。
このメモリ装置106において測定した指標に関するデータや動作条件に関するデータを保存する領域を省略して、その機能を制御ユニット300のメモリ装置320の所定のエリアに担わせることができる。
【0038】
測定実行部B200は軸受B21に接続される。この測定実行部B200の各要素の動作は、その対象が軸受B21となること以外、測定実行部A100の各要素の動作と同じである。そこで、測定実行部A100の要素と同じ動作を行う各要素には、下二ケタに同じ参照番号を付してその説明を省略する。
制御ユニット300は水力発電所から離れており、インターネットを介して測定実行部A及び測定実行部Bと接続されている。通信部309はそのための通信インターフェースを担う。
【0039】
測定実行部A100のメモリ装置106において、その実行動作条件保存部A107の第1エリア1071に保存されている軸受A11の第1動作条件A(動作条件実行部A103が軸受A11に実行させた動作条件であり、軸受A11に供給する潤滑油温度Aと動作時刻)のデータ、指標保存部A108の第1エリア1081に保存されている軸受A11の第1指標A(損失Aと当該損失特定時刻)のデータ、測定実行部B200のメモリ装置206において、その実行動作条件保存部B207の第1エリア2071に保存されている軸受B21の第1動作条件B(動作条件実行部B203が軸受B21に実行させた動作条件であり、軸受B21に供給する潤滑油温度Bと動作時刻)のデータ、指標保存部B208の第1エリア2081に保存されている軸受B21の第1指標B(損失Bと当該損失特定時刻)のデータは、インターネットを介して、制御ユニット300のメモリ装置320の第1指示保存部321に送られる。
【0040】
これにより、第1指示保存部321には、軸受A11の第1動作条件Aとしての軸受A11に供給する潤滑油温度A及び時刻のデータ、その第1動作条件Aを実行したときに軸受A11で得られた第1指標Aとしての軸受A11の損失Aと時刻のデータ、軸受B21の第1動作条件Bとしての軸受B21に供給する潤滑油温度B及び時刻のデータ、その第1動作条件Bを実行したときに軸受B21で得られた第1指標Bとしての軸受B21の損失と時刻のデータ、とが保存される。
これらデータセットは、例えば、表1のパターンごとに作成され、第1指示保存部321に保存される。
【0041】
コントローラ310の第1特定部311は第1指示保存部321に保存されている各データセットから、パターン毎に、軸受A11を第1動作条件Aで、かつ軸受B21を第1動作条件Bで、例えば20日間動作させたときの、軸受A11に供給する潤滑油温度Aと軸受B21に供給する潤滑油温度Bと軸受A11の損失(平均値)と軸受B21の損失(平均値)の関係を特定する。
具体的には、各軸受に供給する潤滑油を各パターンで指定された温度で供給した時刻とその時刻に最も近い時刻(同時刻が好ましい)に測定した軸受背面温度とから、所定のインターバルごとの時刻の損失を特定し、それらの平均を演算する。
【0042】
第1特定部311で特定されたこの関係は、第1関係として第1関係保存部323に保存される。即ち、第1関係保存部323には、第1動作条件Aと第1動作条件Bとの各パターンにつき、動作条件である温度と共に、それらの動作条件を実行したときの軸受A11及び軸受B21における指標である平均損失が保存される。
【0043】
第2指示保存部325には、軸受A11の第1動作条件Aとしての軸受A11に供給する潤滑油温度A及び時刻のデータ、その第1動作条件Aを実行したときに軸受A11で得られた第2指標Aとしての軸受A11の厚さAと時刻のデータ、軸受B21の第1動作条件Bとしての軸受B21に供給する潤滑油温度B及び時刻のデータ、その第1動作条件Bを実行したときに軸受B21で得られた第2指標Bとしての軸受B21の厚さと時刻のデータ、とが保存される。
これらデータセットは、例えば、表2のパターンごとに作成され、第2指示保存部325に保存される。
【0044】
コントローラ310の第2特定部315は第2指示保存部325に保存されている各データセットから、パターン毎に、軸受A11を第1動作条件Aで、かつ軸受B21を第1動作条件Bで、例えば20日間動作させたときの、軸受A11に供給する潤滑油温度Aと軸受B21に供給する潤滑油温度Bと軸受A11の摩耗進行度合いと軸受Bの摩耗進行度合いの関係を特定する。
【0045】
具体的には、動作条件の実行開始時の軸受の厚さと実行終了時の軸受の厚さとの差から、各軸受の摩耗進行度合いを演算する。その演算結果、即ち各軸受の摩耗進行度合いと、パターンで規定される各軸受に供給する潤滑油温度との関係が特定される。なお、各軸受に供給する潤滑油温度は所定期間(この例では20日間)維持して摩耗進行度合いを演算するのが望ましい。
【0046】
第2特定部315で特定されたこの関係は、第2関係として第2関係保存部327に保存される。即ち、第2関係保存部327には、第1動作条件Aと第1動作条件Bとの各パターンにつき、動作条件である温度と共に、軸受A11及び軸受B21における指標である摩耗進行度合いが保存される。
【0047】
符号304は入出力部であり、キーボードやポインタなどの入力装置とディスプレイやプリンタなどの出力装置を備える。オペレータはそのモニタを介して現場にある軸受A11の使用状態(損失、軸受厚さ)や軸受B21の使用状態(損失、軸受厚さ)をモニタリングすることができる。軸受の摺動部や支持部、軸受の付帯設備、更には発電機自体に取り付けられたセンサの出力を遠隔地からモニタリングすることもできる。
【0048】
また、この入出力部304を介して第1動作条件A及び第1動作条件Bを入力すると、第1制御部313は指令信号を測定実行部A100の動作条件実行部A103へ送る。動作条件実行部A103は当該指令信号に応じた、即ち入出力部304を介するオペレータの指示を遠隔操作によって、軸受A11に対して実行できる。
コントローラ310は、制御ユニット300を構成する各要素を制御する汎用的なコンピュータからなり、その制御プログラムはメモリ装置320に保存されている。
【0049】
図3には、制御ユニット300のハード構成を示す。
制御ユニット300は、システムバス3000で通信部309、入力部3041、出力部3043、演算部3101、内部メモリ3201及び外部メモリインターフェース3211を連結させた、一般的なコンピュータ装置からなる。
通信部309は外部の通信回線に対するデータの入出力のインターフェースであって、汎用的な通信プロトコールにより動作する。
入力部3041はキーボードやポインタなどの一般的な入力装置を備える。
出力部3043はプリンタやディスプレイなどを備える。
演算部3101はCPU3103、ROM3105及びRAM3107を備え、第1特定部311、第1制御部313、第2特定部315及び第2制御部317として機能し、制御ユニット300のシステム全体の制御をつかさどる。ROM3105は、演算部3101を制御する制御プログラム等が格納された不揮発メモリを含む。RAM3107は入力部3041を介してオペレータにより予め設定される各種のパラメータ等を書き換え可能に格納したり、CPU3103に対してワーキングエリアを提供したりする。演算部3101を制御する制御プログラムはROM3105に限られず、RAM3107や内部メモリ3201に格納されてもよい。
内部メモリ3201はHDDタイプ若しくはSSDタイプを採用できる。この内部メモリ3201の制御用データ保存部3203が、第1指示保存部321、第1関係保存部323、第2指示保存部325及び第2関係保存部327として利用される。データを一時的に保存する、所謂バッファメモリには、演算部3101のRAM3107を用いることができる。
符号3211は外部メモリインターフェースであり、このインターフェースを介して外付けのメモリ(USBメモリ、ハードディスクメモリ等)が着脱自在に取り付けられる。
【0050】
同じく
図4に、測定実行部A100のハード構成を示す。
測定実行部A100は、システムバス1000で通信部109、入力部1041、出力部1043、演算部1111、内部メモリ1061、外部メモリインターフェース1065、温度センサ1011、光センサ1013及びファン角度ドライバ1301を連結させた、一般的なコンピュータ装置からなる。
通信部109は外部の通信回線に対するデータの入出力のインターフェースであって、汎用的な通信プロトコールにより動作する。
入力部1041はキーボードやポインタなどの一般的な入力装置を備える。
出力部1043はプリンタやディスプレイなどを備える。
演算部1111はCPU1113、ROM1115及びRAM1117を備え、損失演算部1101としても機能でき、測定実行部100のシステム全体の制御をつかさどる。ROM1115は、演算部1111を制御する制御プログラム等が格納された不揮発メモリを含む。RAM1117は入力部1041を介してオペレータにより予め設定される各種のパラメータ等を書き換え可能に格納したり、CPU1113に対してワーキングエリアを提供したりする。演算部1111を制御する制御プログラムはROM1115に限られず、RAM1117や内部メモリ1061に格納されてもよい。
内部メモリ1061はHDDタイプ若しくはSSDタイプを採用できる。この内部メモリ1061の制御用データ保存部1063が、実行動作条件保存部A107及び指標保存部A108として利用される。データを一時的に保存する、所謂バッファメモリには、演算部1111のRAM1117を用いることができる。
符号1065は外部メモリインターフェースであり、このインターフェースを介して外付けのメモリ(USBメモリ、ハードディスクメモリ等)が着脱自在に取り付けられる。
温度センサ1011及び光センサ1013は測定部A101として機能し、それぞれ軸受A11のパッド16の背面(反摺動面)の温度及びパッド16の厚さを測定する。
ファン角度ドライバ1301は動作条件実行部A103として、軸A12と共に回転するファン15の角度を変えるように、角度調整装置19に指令信号を送る。
【0051】
次に、この軸受システム1の動作について、
図5に基づいて説明する。
この軸受システム1を水力発電所に設置した当初は、軸受A11及び軸受B21はそもそもの定格の動作条件(軸受の摺動部に供給する潤滑油温度)で運転される(ステップS1)。軸受A11の定格の動作条件(軸受の摺動部に供給する潤滑油温度)は実行した時刻と共に実行動作条件保存部A107の第1エリア1071へ保存され、軸受B21の定格の動作条件(軸受の摺動部に供給する潤滑油温度)は実行した時刻と共に実行動作条件保存部B207の第1エリア2071に保存される(ステップS3)。
定格条件での運転は20日間連続して行うものとする。
【0052】
ステップS5では、ステップS1の条件(パターン#1、表1、表2参照)の試験運転を行ったときの、軸受A11及び軸受B21の各損失(第1指標)と摩耗進行度合い(第2指標)とが測定、かつ保存される。
【0053】
より詳細には、
図6に示すようにパターン#1の開始から所定のインターバル(例えば12時間)で軸受A11の損失Aを特定する(ステップS51)。本実施形態では、この損失Aの特定は、測定部A101が測定した軸受A11の温度(軸受A11の背面温度)の値を損失演算部1101で損失の値に変換することによりなされ、特定された損失Aは、温度測定時の時刻と共に指標保存部A108の第1エリア1081に保存される(ステップS52)。同様に、軸受B21の損失Bが特定される(ステップS53)。この損失Bの特定は、測定部B201が測定した軸受B21の温度(軸受B21の背面温度)の値を損失演算部2101で損失の値に変換することによりなされ、特定された損失Bは、温度測定時の時刻と共に指標保存部B208の第1エリア2081に保存される(ステップS54)。
【0054】
ステップS55では、測定部A101により軸受A11のパットの厚さが測定される。測定の結果を測定時刻と共に指標保存部A108の第2エリア1082に保存する(ステップS56)。同様に、測定部B201により軸受B21のパットの厚さが測定される(ステップS57)、その結果を測定時刻と共に指標保存部B208の第2エリア2082に保存する(ステップS58)。
【0055】
軸受の摩耗に関し、既述のように、試験運転の最初と最後のパットの厚さのデータがあれば、各軸受のパットの摩耗進行度合いが特定できる。勿論、試験運転中に所定のインターバルでパットの厚さを測定し、当該測定時刻と共に各指標保存部へ保存することができる。これにより、より正確に、各軸受の使用状態を示す指標(この例ではパットの厚さの変化)を得られる。
【0056】
図5のフローチャートに戻って、各軸受を定格で試験運転した後、表1及び表2に示した各パターンについて、ステップS3,S5を繰り返す(ステップS7、S9)。なお、動作条件として軸受の摺動部に供給する潤滑油の温度の設定は、ファン15の角度に変化を与えることにより行う。なお、ファン15の角度を一定に固定していても軸受の環境が変化すれば潤滑油の温度も変化し得るので、図示しない温度センサを例えばラジエータ17の出口に取付け、潤滑油の温度が常に動作条件の設定値となるように、自動的に又は手動でファン15の角度を制御できることはいうまでもない。
また、各試験運転において、軸受A及び/又は軸受Bの損失が閾値以上になったときは、試験運転を強制的に終了することが好ましい。その場合のパターンでの運転がなされないように、制御ユニット300又はコントローラ110及び210は動作条件実行部A103及び動作条件実行部B203を制御することが好ましい。
【0057】
ステップS11では、メモリ装置106及びメモリ装置206に保存されているデータを、通信回線を介して、制御ユニット300のメモリ装置320に送る。この例では、全てのパターンを実行した後に得られたデータを送るが、勿論、各パターンを実行してデータが得られた毎に通信することもできる。
【0058】
具体的には、
図7に示すように、実行動作条件保存部A107の第1エリア1071に保存された各パターンの第1動作条件A(即ち軸受A11の摺動部に供給する潤滑油温度A及びその測定時刻)を第1指示保存部321と第2指示保存部325に送る(ステップS111)。同様に、実行動作条件保存部B207の第1エリア2071に保存された各パターンの第1動作条件B(即ち軸受B21の摺動部に供給する潤滑油温度B及びその測定時刻)を第1指示保存部321と第2指示保存部325に送る(ステップS112)。次に、指標保存部A108の第1エリア1081に保存された各パターンの第1指標A(即ち、軸受A11の損失A及びその測定時刻)が第1指示保存部321に送られ(ステップS113)、指標保存部B208の第1エリア2081に保存された各パターンの第1指標B(即ち、軸受B21の損失B及びその測定時刻)が第1指示保存部321に送られる(ステップS114)。
【0059】
そして、指標保存部A108の第2エリア1082に保存された第2指標A(即ち、軸受A11の厚さA及びその測定時刻)が第2指示保存部325に送られ(ステップS115)、指標保存部B208の第2エリア2082に保存された第2指標B(即ち、軸受B21の厚さB及びその測定時刻)が第2指示保存部325に送られる(ステップS116)。
なお、本実施形態では、第1動作条件として、潤滑油温度を用いて、軸受システムを制御する例で説明する。第2動作条件として、第1動作条件とは異なる条件、例えば軸受の摺動部に供給する潤滑油の流量や総摺動面積を用いてもよい。第2動作条件は、第1動作条件と同様に実行動作条件保存部に保存される。より詳しくは軸受A11に関する第2動作条件Aは実行動作条件保存部A107の第2エリア1072に保存される。同様に、軸受B21に関する第2動作条件Bは実行動作条件保存部B207の第2エリア2072に保存される。
図5のフローチャートに戻り、ステップS13において、第1特定部311は第1指示保存部321に保存されている各パターンの動作条件A及び動作条件Bとそのときの軸受A11の損失及び軸受B21の損失とのセットの関係(第1関係)を特定する。
【0060】
具体的には、第1特定部311は第1指示保存部321に保存されている各軸受に係る潤滑油温度と損失とこれらを測定したときの時刻とのデータセットから、軸受A11及び軸受B21のそれぞれの損失(平均)の演算結果と潤滑油温度との関係を特定する。
【0061】
ステップS15では、このようにして得られた第1関係を表形式にまとめて(表1参照)、第1関係保存部323に保存する。
【0062】
ステップS17では、第2特定部315は第2指示保存部325に保存されている各パターンの動作条件A及び動作条件Bとそのときの軸受A11の摩耗進行度合い及び軸受B21の摩耗進行度合いとのセットの関係(第2関係)を特定する。
具体的には、第2特定部315は第2指示保存部325に保存されている各軸受に係る潤滑油温度とパッド厚さとこれらを測定したときの時刻とのデータセットから、軸受A11及び軸受B21のそれぞれのパット摩耗量(進行度合い)の演算結果と潤滑油温度との関係を特定する。
ステップS19では、このようにして得られた第2関係を表形式にまとめて(表2参照)、第2関係保存部327に保存する。
【0063】
第1関係保存部323に保存された第1関係と第2関係保存部327に保存された第2関係は、入出力部304を介して出力することができる。
オペレータ又はAIにより通常モードが選択されると(ステップS21)、制御ユニット300は、第1制御部313が第1関係保存部323に保存されている第1関係から、最も損失の少ない動作条件のパターンを選択し、現場制御装置50の動作条件実行部A103及び動作条件実行部B203へその動作条件を送る(ステップS23)。各動作条件実行部である動作条件実行部A103及び動作条件実行部B203は送られてきた動作条件を実行する、即ち、ファン角度を調整して、潤滑油の温度を各パターンで指定されたものとする(ステップS25)。
【0064】
オペレータ又はAIによりメンテナンスモードが選択されると(ステップS21)、制御ユニット300は、第2制御部317が第2関係保存部327に保存されている第2関係から、例えば、オペレータ又はAIにより選択された軸受の摩耗の進行が遅れるような動作条件のパターンを選択し、現場制御装置50の動作条件実行部A103及び動作条件実行部B203へその動作条件を送る(ステップS24)。各動作条件実行部である動作条件実行部A103及び動作条件実行部B203は送られてきた動作条件を実行する。即ち、ファン角度を調整して、潤滑油の温度を各パターンで指定されたものとする(ステップS25)。
【0065】
運転モードに応じて制御ユニット300側の各制御装置が自動的にパターンを選択してその動作条件を実行するように、現場制御装置50へ指示を出すことができる。コントローラ310は、第1関係保存部323及び第2関係保存部327に保存されている第1関係及び第2関係から、軸受システム1に求められるパフォーマンスを軸受A11及び軸受B21がそれぞれ実行する各動作条件を選択し、その各動作条件を現場制御装置50の動作条件実行部A103及び動作条件実行部B203へ通信部309を介して送ることもできる。その時の動作条件をメモリ装置320に保存することもできる。
パターンの選択は、入出力部304を介して、オペレータがマニュアルで行うこともできる。この場合、選択されたパターンの動作条件は制御ユニット300より、現場制御装置50の各動作条件実行部103及び203へ送られて、その動作条件が実行される。
【0066】
パターンを選択したオペレータは、現場制御装置50の入出力部104、204を介して直接的に、当該パターンの動作条件を動作条件実行部A103及び動作条件実行部B203へ入力してもよい。
通常モード及びメンテナンスモードを実行する際にも、各動作条件(例えば軸受に供給する潤滑油温度)と各指標(例えば軸受の損失及び摩耗進行度合い)を測定かつ保存し、更に第1関係及び第2関係を特定できる。
【0067】
そして、第1関係保存部323及び第2関係保存部327に保存されている第1関係及び第2関係と比較する。この第1関係及び第2関係は、新しい第1関係及び第2関係に更新することができ、メモリ装置320に保存されているデータから最適なものを選んだり、AIによって新たな最適な関係を設けたりすることができる。つまり、各軸受に係る測定された指標及び実行した動作条件に係るデータをクライアントたる各現場制御装置からサーバたる制御ユニットに送り、その制御ユニットで軸受システムとして全体最適となるパフォーマンスを各軸受が実行する関係を特定し、その特定した関係に係るデータを制御ユニットから各現場制御装置に送って、各現場制御装置の動作条件実行部がそれぞれの軸受にそれぞれの動作条件を実行させる。
保存されている第1関係及び第2関係と新たに特定した第1関係及び第2関係との間で所定の閾値以上に差があるときは、アラームを出力するのがよい。
なお、メンテナンスを実行して、軸受のパッドを交換した後は、再び
図5のステップS1~ステップS9の繰り返しを実行することが好ましい。
この場合、パターンを任意に若しくは計画的に選択して、試験運転をしたときの結果(第1関係と第2関係)がメンテナンス前のそれらと同じであれば、他のパターンも同じ結果となると推定して、全てのパターンの試験運転を行わずに、通常モード(例えば損失が最も小さいパターンの動作条件)を実行することが好ましい。
【0068】
以上、1つの軸受アセンブリに2つの軸受を備えたものを例にとり説明してきたが、3つ以上の軸受を備えたものとすることもできる。一方、軸受がより多くなると、試験運転のパターン数が大きくなり、全ての試験運転を実行することには負担が大きくなる傾向にある。
この場合、任意に若しくは計画的に抽出した複数のパターンの結果を、他所の水力発電所で実行しているパターンのデータと比較する。例えば、汎用的な最近傍探索法を用い、過去に蓄積されたパターンのデータの中から、対象とする水力発電所に最も近いパターンのデータを抽出し、試験運転の参考にする。
図1に示すように、複数の軸受アセンブリや複数の現場制御装置を備えた軸受システムであってもよい。この場合、例として、複数の軸受を設置した工場の複数が通信回線でつながった軸受システムが挙げられる。
一方、軸受アセンブリは、複数の軸受(摺動部)が共通する軸を支持する形態であってもよい。この場合、例として、1つの軸に2つの軸受(摺動部)を備えた軸受アセンブリが挙げられる。
【0069】
このように、数多くの水力発電所のデータが蓄積されれば、試験運転の計画が容易になることがわかる。従って、各水力発電所で稼働する各軸受のデータ(動作条件とそれによる指標の変化)を蓄積する意味で、各水力発電所に現場制御装置を設けてこれをクライアントとし、これらを通信回線を介してサーバとなる制御ユニットに連結し、サーバたる制御ユニットにデータを集積することが好ましい。数多くの工場を想定する場合も同様である。
【0070】
このように、制御ユニットをサーバとし、現場制御装置をクライアントすることにより、地震その他の緊急時には、制御ユニットより全ての若しくは選択された複数の現場制御装置へ指示を送り、それらの制御する軸受、即ち発電機やポンプを緊急運転モードとすることができる。
【0071】
本発明は、上記の各局面、実施形態、実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。
【0072】
以下の事項を開示する。
(1) 軸受A及びその測定実行部Aと、軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備える軸受システムであって、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与える動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す前記指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与える動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備え、
前記制御ユニットは、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数が保存される指示保存部と、
該指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御する制御部と、を備え、
前記測定実行部A及び前記測定実行部Bと前記制御ユニットとは通信回線でつながれており、測定された指標、及び実行した動作条件が前記通信回線を介して前記測定実行部A及び測定実行部Bから前記制御ユニットへ送信される軸受システムにおいて、
前記動作条件Aは前記軸受Aの摩耗条件Aであり、
前記動作条件Bは前記軸受Bの摩耗条件Bであり、
前記摩擦条件Aは前記軸受Aへ送風するファンの角度で制御される前記軸受Aの潤滑油の温度であり、
前記摩擦条件Bは前記軸受Bへ送風するファンの角度で制御される前記軸受Bの潤滑油の温度である、軸受システム。
(2) 軸Aに取付けられる軸受A及びその測定実行部Aと、前記軸Aと異なる軸Bに取付けられる軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備える軸受システムであって、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与える動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す前記指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与える動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備え、
前記制御ユニットは、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数が保存される指示保存部と、
該指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御する制御部と、を備え、
前記測定実行部A及び前記測定実行部Bと前記制御ユニットとは通信回線でつながれており、測定された指標、及び実行した動作条件が前記通信回線を介して前記測定実行部A及び測定実行部Bから前記制御ユニットへ送信される軸受システム。
(3) 前記動作条件Aは前記軸受Aの摩耗条件A及び/又は温度条件Aであり、
前記動作条件Bは前記軸受Bの摩耗条件B及び/又は温度条件Bである、(2)に記載の軸受システム。
(4) 前記摩耗条件Aは前記軸受Aの潤滑油の温度であり、
前記摩耗条件Bは前記軸受Bの潤滑油の温度である、(3)に記載の軸受システム。
(5) 前記軸受Aの潤滑油の温度は前記軸受Aへ送風するファンのファン角度で制御し、
前記軸受Bの潤滑油の温度は前記軸受Bへ送風するファンのファン角度で制御する、(4)に記載の軸受システム。
(6) 前記温度条件Aは潤滑油の流量であり、
前記温度条件Bは潤滑油の流量である、(3)に記載の軸受システム。
(7) 前記摩耗条件Aは前記軸受Aの面積であり、
前記摩耗条件Bは前記軸受Bの面積である、請求項3に記載の軸受システム。
(8) 前記指標は前記軸受A及び軸受Bの損失及び/又は前記軸受A及び軸受Bの摩耗進行度合いである、(2)~(7)の何れかに記載の軸受システム。
(9) 前記指標である損失は軸受A及び軸受Bの背面温度から演算される、(8)に記載の軸受システム。
(10) 軸受A及びその測定実行部Aと、軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備え、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与える動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す前記指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与える動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備える、
軸受システムにおける前記軸受A及び前記軸受Bの制御方法であって、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数を指示保存部へ保存するステップと、
前記指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御するステップと、含む制御方法において、
前記動作条件Aは前記軸受Aの摩耗条件Aであり、
前記動作条件Bは前記軸受Bの摩耗条件Bであり、
前記摩擦条件Aは前記軸受Aへ送風するファンの角度で制御される前記軸受Aの潤滑油の温度であり、
前記摩擦条件Bは前記軸受Bへ送風するファンの角度で制御される前記軸受Bの潤滑油の温度である、制御方法。
(11) 軸Aに取付けられる軸受A及びその測定実行部Aと、前記軸受Aと異なる軸Bに取付けられる軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備え、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与える動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す前記指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与える動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備える、
軸受システムにおける前記軸受A及び前記軸受Bの制御方法であって、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標A及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数を指示保存部へ保存するステップと、
前記指示保存部の保存内容に基づいて、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、もって前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御するステップと、含む制御方法。
(12) 前記動作条件Aは前記軸受Aの摩耗条件A及び/又は温度条件Aであり、
前記動作条件Bは前記軸受Bの摩耗条件B及び/又は温度条件Bである、(11)に記載の制御方法。
(13) 前記摩耗条件Aは前記軸受Aの潤滑油の温度条件であり、
前記摩耗条件Bは前記軸受Bの潤滑油の温度条件である、(13)に記載の制御方法。
(14) 前記軸受Aの潤滑油の温度条件は前記軸受Aへ送風するファンのファン角度であり、前記軸受Bの潤滑油の温度条件は前記軸受Bへ送風するファンのファン角度である、(13)に記載の制御方法。
(15) 前記温度条件Aは潤滑油の流量であり、前記温度条件Bは潤滑油の流量である、(12)に記載の制御方法。
(16) 前記摩耗条件Aは前記軸受Aの面積であり、
前記摩耗条件Bは前記軸受Bの面積である、(12)に記載の制御方法。
(17) 前記指標は前記軸受A及び軸受Bの損失及び/又は前記軸受A及び軸受Bの摩耗進行度合いである、(11)~(16)の何れかに記載の制御方法。
(18) 前記指標である損失は軸受A及び軸受Bの背面温度から演算される、(17)に記載の制御方法。
(19) 軸Aに取付けられる軸受A及びその測定実行部Aと、前記軸Aと異なる軸Bに取付けられる軸受B及びその測定実行部Bと、前記測定実行部A及び前記測定実行部Bを制御する制御ユニットと、を備え、
前記測定実行部Aは、
前記軸受Aの使用状態を示す指標を測定する測定部Aと、
前記軸受Aへ作用させる、前記軸受Aの使用状態に影響を与える動作条件Aを実行する動作条件実行部Aと、を備え、
前記測定実行部Bは、
前記軸受Bの使用状態を示す前記指標を測定する測定部Bと、
前記軸受Bへ作用させる、前記軸受Bの使用状態に影響を与える動作条件Bを実行する動作条件実行部Bと、を備える、
軸受システムにおける前記軸受A及び前記軸受Bを制御するコンピュータ用のプログラムであって、
前記動作条件A及び前記動作条件Bと、前記動作条件A及び前記動作条件Bを実行したときに前記軸受Aで得られる指標Aの変化及び前記軸受Bで得られる指標Bと、のセットの複数を指示保存部へ保存するステップと、
前記指示保存部の保存内容を参照して、前記動作条件実行部A及び前記動作条件実行部Bを制御し、前記軸受A及び前記軸受Bの指標をそれぞれ定められた目標通りに制御するステップと、を実行させるコンピュータ用のプログラム。
【符号の説明】
【0073】
1 軸受システム
10 軸受アセンブリ
11 軸受A
21 軸受B
100 測定実行部A
101 測定部A
103 動作条件実行部A
200 測定実行部B
201 測定部B
203 動作条件実行部B
300 制御ユニット
313 第1制御部
317 第2制御部
321 第1指示保存部
325 第2指示保存部