(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】不織布積層体、伸縮性不織布積層体、繊維製品、吸収性物品及び衛生マスク
(51)【国際特許分類】
D04H 3/007 20120101AFI20220304BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20220304BHJP
A61F 13/51 20060101ALI20220304BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20220304BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20220304BHJP
D04H 3/153 20120101ALI20220304BHJP
【FI】
D04H3/007
A41D13/11 Z
A61F13/51
A62B18/02 C
B32B5/26
D04H3/153
(21)【出願番号】P 2020509799
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2019009429
(87)【国際公開番号】W WO2019188134
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018068200
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼久 翔一
(72)【発明者】
【氏名】本村 茂之
(72)【発明者】
【氏名】島田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】飯濱 翔
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/138733(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143833(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143834(WO,A1)
【文献】特表2011-514938(JP,A)
【文献】国際公開第2020/085502(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体を含む弾性不織布と、前記弾性不織布の少なくとも片面側に配置され、熱可塑性エラストマー(A)の長繊維と、前記熱可塑性エラストマー(A)以外の熱可塑性樹脂(B)の長繊維と、が10質量%~90質量%:90質量%~10質量%の割合
((A):(B)、但し(A)+(B)=100質量%とする)で含まれている混繊スパンボンド不織布と、を有する不織布積層体。
【請求項2】
前記α-オレフィン共重合体の前記23℃における貯蔵弾性率E23が45MPa以下である、請求項1に記載の不織布積層体。
【請求項3】
前記α-オレフィン共重合体がエチレン及びプロピレンの共重合体を含む、請求項1又は請求項2に記載の不織布積層体。
【請求項4】
前記α-オレフィン共重合体の引張り弾性率が30MPa以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(B)の長繊維が、スパンボンド不織布にした際の最大点伸度が50%以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマー(A)が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリウレタン系エラストマーが、下記の関係式(I)を満たす熱可塑性ポリウレタン系エラストマーである請求項6に記載の不織布積層体。
a/(a+b)≦0.8 (I)
(式中、aは、DSCにより測定される90℃~140℃の範囲に存在する吸熱ピークから求められる融解熱量の総和を表し、bは、DSCにより測定される140℃を超えて220℃以下の範囲にある吸熱ピークから算出される融解熱の総和を表す。)
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂(B)が、ポリオレフィンである請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂(B)が、プロピレン系重合体である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂(B)が、プロピレン系重合体99~80質量%と高密度ポリエチレン1~20質量%とからなる請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項11】
伸縮特性(50%伸長時応力/50%回復時応力)が3.0以下である請求項1~請求項10のいずれか1項に記載の不織布積層体。
【請求項12】
請求項1~請求項
11のいずれか1項に記載の不織布積層体を延伸加工して得られる伸縮性不織布積層体。
【請求項13】
請求項1~請求項
11のいずれか1項に記載の不織布積層体又は請求項
12に記載の伸縮性不織布積層体を含む繊維製品。
【請求項14】
請求項1~請求項
11のいずれか1項に記載の不織布積層体又は請求項
12に記載の伸縮性不織布積層体を含む吸収性物品。
【請求項15】
請求項1~請求項
11のいずれか1項に記載の不織布積層体又は請求項
12に記載の伸縮性不織布積層体を含む衛生マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不織布積層体、伸縮性不織布積層体、繊維製品、吸収性物品及び衛生マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、不織布は通気性及び柔軟性に優れることから各種用途に幅広く用いられている。そのため、不織布には、その用途に応じた各種の特性が求められるとともに、その特性の向上が要求されている。
【0003】
例えば、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生材料、湿布材の基布等に用いられる不織布は、耐水性があり、且つ透湿性に優れることが要求される。また、使用される箇所によっては伸縮性及び嵩高性を有することも要求される。
【0004】
不織布に伸縮性を付与する方法の一つとして、スパンボンド不織布の原料として熱可塑性エラストマーを用いる方法(例えば、特表平7-503502号公報参照)、低結晶性ポリプロピレンを用いる方法(例えば、特開2009-62667号公報及び特開2009-79341号公報参照)などが提案されている。
【0005】
特開2009-62667号公報及び特開2009-79341号公報では、スパンボンド不織布のべたつき等を改良するために、低結晶性ポリプロピレンに、高結晶性ポリプロピレン又は離型剤を添加することが提案されている。国際公開第2016/143833号には、低結晶性ポリプロピレンを含む不織布と熱可塑性エラストマー長繊維と熱可塑性樹脂の長繊維の混繊スパンボンド不織布との積層体が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2009-62667号公報及び特開2009-79341号公報に記載の方法では、低結晶性ポリプロピレンを用いてスパンボンド不織布を製造する際に生じる、エンボス工程をはじめとする装置内の各回転機器その他の不織布と接触する部位への付着を防ぐには、低結晶性ポリプロピレンに高結晶性ポリプロピレン又は離型剤の添加量を増す必要があり、その結果、得られるスパンボンド不織布の残留歪が大きくなり、伸縮性が劣る傾向にある。国際公開第2016/143833号に記載の方法では、低結晶性ポリプロピレンと伸長性スパンボンド不織布とを積層することで伸縮性を保持しているが、更なる伸縮性の向上が強く求められている。
【0007】
また、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生材料、湿布材の基布等の用途では、弱い力で装着できるように伸長時応力が小さいことが求められ、且つ着用時にずれないように回復時応力が大きいことが求められている。即ち、上記用途では、伸縮特性(伸長時応力/回復時応力の比)の値を小さくすることのみならず、伸長時応力の絶対値を小さくすること、回復時応力の絶対値を大きくすることが求められている。
【0008】
さらに、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生材料、湿布材の基布等の用途では、常温室温(23℃)~体温の範囲(例えば、23℃~40℃の範囲)で回復時応力が低下しないこと、つまり、応力維持に優れることが求められている。これにより、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生材料が装着時に体温にまで上昇しても、ずれ難いことになる。
【0009】
本開示は上記課題に鑑み、伸縮特性に優れ、かつ、応力維持に優れる不織布積層体、並びにこれを用いた伸縮性不織布積層体、繊維製品、吸収性物品及び衛生マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体を含む弾性不織布と、前記弾性不織布の少なくとも片面側に配置され、熱可塑性エラストマー(A)の長繊維と、前記熱可塑性エラストマー(A)以外の熱可塑性樹脂(B)の長繊維と、が10質量%~90質量%:90質量%~10質量%の割合(((A):(B)、但し(A)+(B)=100質量%とする)で含まれている混繊スパンボンド不織布と、を有する不織布積層体。
<2> 前記α-オレフィン共重合体の前記23℃における貯蔵弾性率E23が45MPa以下である、<1>に記載の不織布積層体。
<3> 前記α-オレフィン共重合体がエチレン及びプロピレンの共重合体を含む、<1>又は<2>に記載の不織布積層体。
<4> 前記α-オレフィン共重合体の引張り弾性率が30MPa以下である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の不織布積層体。
<5> 前記α-オレフィン共重合体の融点が145℃以下である融点が145℃以下である<1>~<4>のいずれか1項に記載の不織布積層体。
<6> 前記α-オレフィン共重合体の示差走査熱量計(DSC)の最も大きい吸熱ピークから求められる融解熱量が29mJ/mg以下である<1>~<5>のいずれか1項に記載の不織布積層体。
<7> 前記α-オレフィン共重合体のガラス転移温度が-10℃以下である<1>~<6>のいずれか1項に記載の不織布積層体。
<8> 熱可塑性樹脂(B)の長繊維が、スパンボンド不織布にした際の最大点伸度が50%以上である<1>から<7>のいずれかに記載の不織布積層体。
<9> 熱可塑性エラストマー(A)が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーである<1>~<8>のいずれか1項に記載の不織布積層体。
<10> 前記熱可塑性ポリウレタン系エラストマーが、DSCにより測定される凝固開始温度が65℃以上であり、かつ細孔電気抵抗法に基づき100μmのアパーチャーを装着した粒度分布測定装置で測定されるジメチルアセトアミド溶媒不溶分の粒子数が300万個/g以下である<9>に記載の不織布積層体。
<11> 前記熱可塑性ポリウレタン系エラストマーが、下記の関係式(I)を満たす熱可塑性ポリウレタン系エラストマーである<9>又は<10>に記載の不織布積層体。
a/(a+b)≦0.8 (I)
(式中、aは、DSCにより測定される90℃~140℃の範囲に存在する吸熱ピークから求められる融解熱量の総和を表し、bは、DSCにより測定される140℃を超えて220℃以下の範囲にある吸熱ピークから算出される融解熱の総和を表す。)
<12> 熱可塑性樹脂(B)が、ポリオレフィンである<1>~<11>のいずれか1項に記載の不織布積層体。
<13> 熱可塑性樹脂(B)が、プロピレン系重合体である<1>~<11>のいずれか1項に記載の不織布積層体。
<14> 熱可塑性樹脂(B)が、プロピレン系重合体99~80質量%と高密度ポリエチレン1~20質量%とからなる<1>~<13>のいずれか1項に記載の不織布積層体。
<15> <1>~<14>のいずれか1項に記載の不織布積層体を延伸加工して得られる伸縮性不織布積層体。
<16> <1>~<14>のいずれか1項に記載の不織布積層体又は<15>に記載の伸縮性不織布積層体を含む繊維製品。
<17> <1>~<14>のいずれか1項に記載の不織布積層体又は<15>に記載の伸縮性不織布積層体を含む吸収性物品。
<18> <1>~<14>のいずれか1項に記載の不織布積層体又は<15>に記載の伸縮性不織布積層体を含む衛生マスク。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、伸縮特性に優れ、かつ、応力維持に優れる不織布積層体、並びにこれを用いた伸縮性不織布積層体、繊維製品、吸収性物品及び衛生マスクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合、原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0014】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0015】
<不織布積層体>
本開示の不織布積層体は、40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体を含む弾性不織布と、前記弾性不織布の少なくとも片面側に配置され、熱可塑性エラストマー(A)の長繊維と、前記熱可塑性エラストマー(A)以外の熱可塑性樹脂(B)の長繊維と、が10質量%~90質量%:90質量%~10質量%の割合((A):(B)、但し(A)+(B)=100質量%とする)で含まれている混繊スパンボンド不織布(以下、単に「混繊スパンボンド不織布」ともいう)と、を有する不織布積層体である。不織布積層体は、その他の層を含んで構成されていてもよい。
【0016】
本開示に係る不織布積層体は、弾性不織布としてα-オレフィン共重合体を含む。そのため、α-オレフィン共重合体を含まない弾性不織布、例えば、ポリプロピレン単独重合体からなる弾性不織布を用いた場合に比べ、伸縮特性に優れ、かつ、応力維持に優れる不織布積層体が得られると考えられる。
また、前記α-オレフィン共重合体は、40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上である。すなわち、温度変化環境下(例えば、40℃~23℃)においても弾性不織布における弾性の低下が抑制され易い。そのため、応力維持に優れる不織布積層体が得られると考えられる。
【0017】
本開示の不織布積層体は、弾性不織布の少なくとも片面側に混繊スパンボンド不織布が配置されているため、エンボス工程等で使用する装置内の各種回転機器等の部材等への不織布積層体の付着が防止でき、成形性に優れる。また、弾性不織布の少なくとも片面側に配置されるスパンボンド不織布が特定の混合繊維からなるため、べたつきが少なく、伸縮性に優れるため、弾性不織布の、優れた弾性による伸縮性が維持され易くなる。
【0018】
本開示の不織布積層体は、不織布製造装置に付随する回転機器に接触する側の面に、少なくとも混繊スパンボンド不織布が配置された構造を有することが好ましい。これにより、回転機器などへの巻付きによる生産トラブルを回避可能となる。さらに好ましくは、弾性不織布の両面側に混繊スパンボンド不織布が配置された構造を有することである。これらにより、伸縮特性に優れ、かつ、応力維持に優れる不織布積層体を安定的に得ることが可能となる。
【0019】
本開示の不織布積層体は、通常、目付が360g/m2以下であり、好ましくは240g/m2以下であり、より好ましくは150g/m2以下であり、更に好ましくは120g/m2~15g/m2の範囲内である。目付は、後述する実施例で用いた方法により測定することができる。
【0020】
弾性不織布と混繊スパンボンド不織布の構成比(目付比)は、種々の用途に応じて適宜決めることができる。通常は、目付比(弾性不織布:混繊スパンボンド不織布)が、10:90~90:10の範囲内であり、好ましくは20:80~80:20の範囲内であり、より好ましくは20:80~50:50の範囲内である。弾性不織布(又は混繊スパンボンド不織布)が2以上存在するときは、弾性不織布(又は混繊スパンボンド不織布)の目付は2以上の合計である。
【0021】
本開示の不織布積層体は、通常、少なくとも一方向の残留歪が19.5%以下であり、好ましくは19%以下である。少なくとも一方向の残留歪が19%以下であると、伸縮性が良好である。残留歪は、後述する実施例で用いた方法により測定することができる。
【0022】
本開示の不織布積層体は、通常、少なくとも一方向の最大荷重伸度が50%以上であり、好ましくは100%以上である。最大荷重伸度は、後述する実施例で用いた方法により測定することができる。
【0023】
本開示の不織布積層体は、目付を65gとした場合、50%伸長時応力が1.10N/50mm以下であることが好ましく、1.05N/50mm以下であることがより好ましく、1.00N/50mm以下であることが更に好ましい。また50%回復時応力が0.30N/50mm以上であることが好ましく、0.32N/50mm以上であることがより好ましく、0.35N/50mm以上であることが更に好ましい。なお、50%伸長時応力及び50%回復時応力は、伸縮特性(50%伸長時応力/50%回復時応力)と異なり、不織布積層体の目付に依存して変化し、目付が大きいほど大きくなる傾向にある。
【0024】
本開示の不織布積層体は、伸縮特性(50%伸長時応力/50%回復時応力)が3.0以下であることが好ましく、2.7以下であることがより好ましく、2.6以下であることが更に好ましい。伸縮特性はその値が小さいほど優れていることを意味する。伸縮特性は、後述する実施例で用いた方法により測定することができる。
【0025】
<弾性不織布>
本開示の不織布積層体を構成する弾性不織布は、後述する40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体を含む。本発明の目的を効果的に達成する観点からは、弾性不織布中の40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体の割合は60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。100質量%であることが特に好ましい。40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体としては、Vistamaxx(商品名、エクソンモービルケミカル社製)を挙げることができる。
【0026】
本開示において弾性不織布とは、延伸した後に応力が解放されると弾性により回復する性質を有する不織布をいう。
【0027】
弾性不織布は、種々の公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法、フラッシュ紡糸法等が挙げられる。弾性不織布の中でも、スパンボンド法により得られるスパンボンド不織布またはメルトブロー法により得られるメルトブロー不織布が好ましい。
【0028】
弾性不織布は、通常、目付が120g/m2以下であり、好ましくは80g/m2以下であり、より好ましくは50g/m2以下であり、更に好ましくは40g/m2~2g/m2の範囲にある。
【0029】
弾性不織布を構成する繊維は、通常、繊維径が50μm以下であり、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは35μm以下である。
【0030】
[40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体]
弾性不織布は、40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体(以下、α-オレフィン共重合体とも称す)を含む。
α-オレフィン共重合体は、2種以上のα-オレフィン骨格を有する共重合成分が共重合された共重合体を表す。
α-オレフィン骨格を有する共重合成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等のα-オレフィンが挙げられる。
上記の中でも、α-オレフィン共重合体は、不織布積層体を、より低応力であり、且つ、伸縮性により優れたものとする観点から、エチレン(以下「C2」とも表記する)及びプロピレン(以下「C3」とも表記する)の共重合体を含むことが好ましい。
【0031】
エチレン及びプロピレンの共重合体における、エチレンに由来する構成単位の含有率(以下、単に「エチレン含有率」とも称す)は、1質量%~50質量%であることが好ましく、5質量%~25質量%であることがより好ましく、10質量%~20質量%であることが更に好ましい。
【0032】
α-オレフィン共重合体は、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよい。
【0033】
α-オレフィン共重合体の40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)としては、応力維持に優れた不織布積層体を得る観点より、37%以上である。前記比(E40/E23)は、値が大きいほど好ましく、40%以上であることがより好ましく、45%以上であることが更に好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
【0034】
α-オレフィン共重合体における前記貯蔵弾性率の比E40/E23を、上記特定範囲とする手法としては、例えば、α-オレフィン共重合体をエチレンとプロピレンとの共重合体とする手法等が挙げられる。
【0035】
α-オレフィン共重合体の23℃における貯蔵弾性率E23は、不織布積層体を、伸縮性により優れたものとする観点から、45MPa以下であることが好ましく、35MPa以下であることがより好ましく、25MPa以下であることが更に好ましい。
E40/E23は、37%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、45%以上であることが更に好ましく、50%以上であることが特に好ましい。
【0036】
α-オレフィン共重合体の各貯蔵弾性率は、下記の装置及び条件にて測定した値とする。
温度:23℃又は40℃
装置 :RSA-III(ティー・アイ・インスツルメント社製)
変形モード :引張りモード
温度範囲 :-20℃~120℃
昇温速度 :2℃/min
変形周波数 :10Hz
初期歪 :0.1%
測定温度感覚 :0.3℃
環境 :N2下
【0037】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体の融点は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下-100℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして定義される。具体的には、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC-7)を用い、試料5mgを窒素雰囲気下-100℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの最も高温側に観測されるピークのピークトップとして求めることができる。
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体の融点は、好ましくは145℃以下、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは115℃以下である。
【0038】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体の融解熱量は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下-100℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの内、最も大きい吸熱ピークにおける融解熱量として定義される。具体的には、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC-7)を用い、試料5mgを窒素雰囲気下-100℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブの内、最も大きい吸熱ピークより求めることができる。
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体の融解熱量は、好ましくは29mJ/mg以下、より好ましくは25mJ/mg以下、さらに好ましくは20mJ/mg以下である。
【0039】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体のガラス転移温度は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下-100℃で5分間保持した後10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブのベースラインがシフトした温度として定義される。具体的には、示差走査型熱量計(パーキン・エルマー社製、DSC-7)を用い、試料5mgを窒素雰囲気下-100℃で5分間保持した後、10℃/分で昇温させることにより得られた融解吸熱カーブのベースラインと変曲点での接線の交点をガラス転移温度として求めることができる。
【0040】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体のガラス転移温度は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下、さらに好ましくは-25℃以下である。
【0041】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体の密度(ASTM D 1505)は、0.850g/cm3~0.950g/cm3の範囲にあることが好ましく、0.855g/cm3~0.900g/cm3の範囲にあることがより好ましく、0.860g/cm3~0.895g/cm3の範囲にあることがさらに好ましい。
α-オレフィン共重合体の密度は、JIS K7112(1999)の密度勾配法に従って測定して得られた値である。
【0042】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体の引張弾性率は、不織布積層体を、伸縮性により優れたものとする観点から、30MPa以下であることが好ましく、20MPa以下であることがより好ましく、15MPa以下であることが更に好ましい。
引張弾性率は、JIS K7161(2011年度版)に準拠した方法で測定して得られた値である。
【0043】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1.5~5.0の範囲であることが好ましい。紡糸性が良好であり、かつ繊維強度が特に優れる繊維が得られる点で、Mw/Mnは、1.5~4.5の範囲がより好ましい。
【0044】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体の質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって、求めた値であり、以下の条件で測定した値である。質量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算の質量平均分子量であり、分子量分布(Mw/Mn)は、同様にして測定した数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)より算出した値である。
<GPC測定条件>
カラム:TOSO GMHHR-H(S)HT
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器 WATERS 150C
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼン
測定温度:145℃
流速:1.0ml/分
試料濃度:2.2mg/ml
注入量:160μl
検量線:Universal Calibration
解析プログラム:HT-GPC(Ver.1.0)
【0045】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されないが、例えば、1g/10分~100g/10分であることが好ましく、10g/10分~80g/10分であることがより好ましく、15g/10分~70g/10分であることが更に好ましい。
【0046】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体のメルトフローレートは、ASTMD-1238、230℃、荷重2160gの条件で測定する。
【0047】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体は、合成品であってもよく、市販品であってもよい。
α-オレフィン共重合体が合成品である場合、α-オレフィン共重合体は、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒などの従来公知の触媒の存在下に、モノマーを気相法、バルク法、スラリー法、溶液法などの従来公知の重合法により重合あるいは共重合させることにより調製することができる。
α-オレフィン共重合体の市販品としては、例えば、Vistamaxxシリーズ(エクソンモービルケミカル社製)等が挙げられる。
【0048】
α-オレフィン共重合体の組成については、従来公知の方法(例えば、IR分析、NMR分析、微量分析等)を用いて行うことができる。
【0049】
弾性不織布の総量に対するα-オレフィン共重合体の割合は、90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、98質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
本開示の弾性不織布に用いるα-オレフィン共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲で、任意成分として、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス等の種々公知の添加剤を含んでもよい。
【0051】
<混繊スパンボンド不織布>
本開示の不織布積層体を構成する混繊スパンボンド不織布は、熱可塑性エラストマー(A)の長繊維と(A)以外の熱可塑性樹脂(B)の長繊維と、が10~90質量%:90~10質量%の割合(((A):(B)、但し(A)+(B)=100質量%とする)で含まれている混繊スパンボンド不織布である。
【0052】
伸縮性や柔軟性の観点からは、混繊スパンボンド不織布中の熱可塑性エラストマー(A)の長繊維の割合は20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。加工性(耐べたつき性)の観点からは、混繊スパンボンド不織布中の熱可塑性エラストマー(A)の長繊維の割合は70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
混繊スパンボンド不織布を形成する熱可塑性エラストマー(A)の長繊維及び熱可塑性樹脂(B)の長繊維の繊維径(平均値)は、それぞれ通常は50μm以下であり、好ましくは40μm以下であり、より好ましくは35μm以下である。熱可塑性エラストマー(A)の長繊維と熱可塑性樹脂(B)の長繊維の繊維径は、同じであっても異なってもよい。
【0054】
混繊スパンボンド不織布は、おむつ等の衛生材料用途においては柔軟性及び通気性の観点から積層体合計で通常、目付が120g/m2以下であり、好ましくは80g/m2以下であり、より好ましくは50g/m2以下であり、更に好ましくは40g/m2~15g/m2の範囲にある。
【0055】
[熱可塑性エラストマー(A)]
熱可塑性エラストマー(A)としては、種々公知の熱可塑性エラストマーを用いることができ、1種を単独で用いても、2種以上の熱可塑性エラストマーを併用してもよい。
熱可塑性エラストマー(A)としては、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、フッ素系エラストマー等が挙げられる。
【0056】
スチレン系エラストマーは、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンブロックコポリマー(SBS)、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンブロックコポリマー(SIS)、それらの水素添加物であるポリスチレン-ポリエチレン・ブチレン-ポリスチレンブロックコポリマー(SEBS)、及びポリスチレン-ポリエチレン・プロピレン-ポリスチレンブロックコポリマー(SEPS)に代表されるエラストマーであり、少なくとも1個のスチレン等の芳香族ビニル化合物から構成される重合体ブロックと、少なくとも1個のブタジエン、イソプレン等の共役ジエン化合物から構成される重合体ブロックと、からなるブロック共重合体又はその水素添加物である。スチレン系エラストマーは、例えば、KRATONポリマー(商品名、シェルケミカル(株)製)、SEPTON(商品名、クラレ(株)製)、TUFTEC(商品名、旭化成工業(株)製)、レオストマー(商品名、リケンテクノス(株)製)等の商品名で販売されている。
【0057】
ポリエステル系エラストマーは、高結晶性の芳香族ポリエステルと、非晶性の脂肪族ポリエーテルと、から構成されるブロック共重合体に代表されるエラストマーである。ポリエステル系エラストマーは、例えば、HYTREL(商品名、E.I.デュポン(株)製)、ペルプレン(商品名、東洋紡(株)製)などの商品名で販売されている。
【0058】
ポリアミド系エラストマーは、結晶性で高融点のポリアミドと、非晶性でガラス転移温度(Tg)が低いポリエーテル又はポリエステルと、から構成されるブロック共重合体に代表されるエラストマーである。ポリアミド系エラストマーは、例えば、PEBAX(商品名、アトフィナ・ジャパン(株))等の商品名で販売されている。
【0059】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、ハードセグメントがポリウレタンから構成され、ソフトセグメントがポリカーボネート系ポリオール、エーテル系ポリオール、カプロラクトン系ポリエステル、アジペート系ポリエステル等から構成されるブロック共重合体に代表されるエラストマーである。
【0060】
ポリオレフィン系エラストマーは、非晶性若しくは低結晶性のエチレン・α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・α-オレフィンランダム共重合体等の単体からなるエラストマー、又は、前記非晶性若しくは低結晶性のランダム共重合体とプロピレン単独重合体、プロピレンと少量のα-オレフィンとの共重合体、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン等の結晶性のポリオレフィンとの混合物であるエラストマーである。ポリオレフィン系エラストマーは、例えば、TAFMER(商品名、三井化学(株)製)、エチレン-オクテン共重合体であるEngage(商品名、DuPont Dow Elastomers社製)、結晶性オレフィン共重合体を含むCATALLOY(商品名、モンテル(株)製)、Vistamaxx(商品名、エクソンモービルケミカル社製)等の商品名で販売されている。
【0061】
塩化ビニル系エラストマーは、例えば、レオニール(商品名、リケンテクノス(株)製)、ポスミール(商品名、信越ポリマー(株)製)等の商品名で販売されている。
【0062】
これらの熱可塑性エラストマーの中でも、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー及びポリオレフィン系エラストマーが好ましく、伸縮性及び加工性の点からは、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーがより好ましい。
【0063】
(熱可塑性ポリウレタン系エラストマー)
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの中でも、凝固開始温度が65℃以上、好ましくは75℃以上、最も好ましくは85℃以上の熱可塑性ポリウレタン系エラストマーが好ましい。また、凝固開始温度は195℃以下であることが好ましい。ここで、凝固開始温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される値であり、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で5分間保持した後、10℃/分で降温させる際に生じる熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの凝固に由来する発熱ピークの開始温度である。凝固開始温度が65℃以上であると、混繊スパンボンド不織布を得る際に繊維同士の融着、糸切れ、樹脂塊などの成形不良を抑制することができるとともに、熱エンボス加工の際に成形された混繊スパンボンド不織布がエンボスローラーに巻きつくことを防止できる。また、得られる混繊スパンボンド不織布のベタツキが少なく、衣料、衛生材料、スポーツ材料等の肌と接触する材料として好適に用いられる。一方、凝固開始温度を195℃以下にすることにより、成形加工性を向上させることができる。なお、成形された繊維の凝固開始温度はこれに用いた熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの凝固開始温度よりも高くなる傾向にある。
【0064】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの凝固開始温度を65℃以上に調整するためには、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの原料として使用するポリオール、イソシアネート化合物及び鎖延長剤として、それぞれ最適な化学構造を有するものを選択するとともに、ハードセグメントの量を調整する必要がある。ここで、ハードセグメント量とは、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの製造に使用したイソシアネート化合物と鎖延長剤との合計質量を、ポリオール、イソシアネート化合物及び鎖延長剤の総量で除算して100を掛けた質量パーセント(質量%)値である。ハードセグメント量は、好ましくは20質量%~60質量%であり、より好ましくは22質量%~50質量%であり、更に好ましくは25質量%~48質量%である。
【0065】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、好ましくは極性溶媒不溶分の粒子数が熱可塑性ポリウレタン系エラストマー1gに対して300万個(300万個/g)以下であり、より好ましくは250万個/g以下であり、更に好ましくは200万個/g以下である。ここで、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー中の極性溶媒不溶分とは、主に、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの製造中に発生するフィッシュアイやゲルなどの塊状物である。極性溶媒不溶分の発生する原因としては、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードセグメント凝集物に由来する成分、ハードセグメント及び/又はソフトセグメントがアロファネート結合、ビュレット結合等により架橋された成分、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを構成する原料、原料間の化学反応により生じる成分等が挙げられる。
【0066】
極性溶媒不溶分の粒子数は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーをジメチルアセトアミド溶媒に溶解させた際の不溶分を、細孔電気抵抗法を利用した粒度分布測定装置に100μmのアパーチャーを装着して測定した値である。100μmのアパーチャーを装着すると、未架橋ポリスチレン換算で2μm~60μmの粒子の数を測定することができる。
【0067】
極性溶媒不溶分の粒子数を300万個/g以下にすることにより、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの凝固開始温度範囲内において、繊維径の分布の増大、紡糸時の糸切れ等の問題の発生をより抑えることができる。極性溶媒不溶分の少ない熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、ポリオール、イソシアネート化合物及び鎖延長剤の重合反応を行なった後、ろ過することにより得ることができる。
【0068】
大型スパンボンド成形機械での不織布の成形におけるストランド中への気泡の混入及び糸切れの発生を抑制する観点からは、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの水分値は350ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく、150ppm以下であることが更に好ましい。
【0069】
伸縮性の観点からは、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーが、示差走査熱量計(DSC)により測定される、ピーク温度が90℃~140℃の範囲にある吸熱ピークから求められる融解熱量の総和(a)と、ピーク温度が140℃を超えて220℃以下の範囲にある吸熱ピークから求められる融解熱量の総和(b)とが、下記式(I)の関係を満たすことが好ましく、下記式(II)の関係を満たすことがより好ましく、下記式(III)の関係を満たすことが更に好ましい。
【0070】
a/(a+b)≦0.8 (I)
a/(a+b)≦0.7 (II)
a/(a+b)≦0.55 (III)
ここで、「a/(a+b)」は熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードドメインの融解熱量比(単位:%)を意味する。熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードドメインの融解熱量比が80%以下になると、繊維、特に混繊スパンボンド不織布における繊維及び不織布の強度及び伸縮性が向上する。本開示では、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーのハードドメインの融解熱量比の下限値は0.1%程度であることが好ましい。
【0071】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、温度200℃、せん断速度100sec-1の条件における溶融粘度が100Pa・s~3000Pa・sであることが好ましく、200Pa・s~2000Pa・sであることがより好ましく、1000Pa・s~1500Pa・sであることが更に好ましい。ここで、溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)製、ノズル長30mm、直径1mmのものを使用)で測定した値である。
【0072】
このような特性を有する熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、例えば、特開2004-244791号公報に記載された製造方法により得ることができる。
【0073】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを用いて成形された混繊スパンボンド不織布は、触感に優れるため、衛生材料等の肌に接触する用途に好適に用いることができる。また、不純物などを濾過するために押出機内部に設置されたフィルターが目詰まりしにくく、機器の調整、整備頻度が低くなるため、工業的にも好ましい。
【0074】
(ポリオレフィン系エラストマー)
ポリオレフィン系エラストマーの中でも、非晶性又は低結晶性のポリオレフィン系エラストマーが好ましく、非晶性又は低結晶性のエチレンとプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン等の炭素数が3~20の1種以上のα-オレフィンとの共重合体であるエチレン・α-オレフィン共重合体、及び非晶性又は低結晶性のプロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン等の炭素数が2~20(但し炭素数3を除く)の1種以上のα-オレフィンとの共重合体であるプロピレン・α-オレフィン共重合体がより好ましい。非晶性又は低結晶性のポリオレフィン系エラストマーとは、例えば、X線回折により測定される結晶化度が20%以下(0%を含む)であるポリオレフィン系エラストマーである。
【0075】
非晶性又は低結晶性のエチレン・α-オレフィン共重合体として具体的には、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1-ブテンランダム共重合体等を例示することができる。また、エチレン・α-オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)は紡糸性を有する限り特に限定されないが、通常、MFR(ASTM D1238 190℃、2160g荷重)が通常、MFR(ASTM D1238 230℃、2160g荷重)が1g/10分~1000g/10分、好ましくは5g/10分~500g/10分、更に好ましくは10g/10分~100g/10分の範囲にある。
【0076】
非晶性又は低結晶性のプロピレン・α-オレフィン共重合体として具体的には、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテンランダム共重合体及びプロピレン・1-ブテンランダム共重合体を例示することができる。また、プロピレン・α-オレフィン共重合体のMFRは紡糸性を有する限り特に限定されないが、通常、MFR(ASTM D1238 230℃、2160g荷重)が1g/10分~1000g/10分、好ましくは5g/10分~500g/10分、更に好ましくは10g/10分~100g/10分の範囲にある。
【0077】
ポリオレフィン系エラストマーは、非晶性又は低結晶性の重合体の単体でもよく、非晶性又は低結晶性の重合体に対し、プロピレン単独重合体又はプロピレンと少量のα-オレフィンとの共重合体、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン等の結晶性のポリオレフィンを1質量%~40質量%程度混合した組成物であってもよい。
【0078】
ポリオレフィン系エラストマーとして特に好ましい組成は、アイソタクティックポリプロピレン(i):1質量%~40質量%と、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体(ii)(プロピレンが45モル%~89モル%と、エチレンが10モル%~25モル%と炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体、ただし、炭素数4~20のα-オレフィンの共重合量は30モル%を超えることはない):60質量%~99質量%と、を含有するポリプロピレン樹脂組成物からなるエラストマー組成物である。
【0079】
[熱可塑性樹脂(B)]
熱可塑性樹脂(B)としては、熱可塑性エラストマー(A)以外の種々公知の熱可塑性樹脂を用いることができ、1種を単独で用いても、2種以上の熱可塑性樹脂を併用してもよい。
【0080】
熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性エラストマー(A)と異なる樹脂状の重合体であって、通常、融点(Tm)が100℃以上の結晶性の重合体、又は、ガラス転移温度が100℃以上の非晶性の重合体である。熱可塑性樹脂(B)としては、結晶性の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0081】
熱可塑性樹脂(B)の中でも、公知の製造方法により得られるスパンボンド不織布とした場合に、最大点伸度が50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは100%以上であり、かつ弾性回復が殆どない性質を有する熱可塑性樹脂(伸長性熱可塑性樹脂)が好ましい。このような熱可塑性樹脂(B)の長繊維を熱可塑性エラストマー(A)の長繊維と混繊して得られる混繊スパンボンド不織布を用いて製造した不織布積層体は、延伸加工により嵩高感が発現し、触感が良くなるとともに、不織布積層体に伸び止り機能を付与することができる。なお、熱可塑性樹脂(B)からなるスパンボンド不織布の最大点伸度の上限は必ずしも限定されないが、通常は300%以下である。
【0082】
熱可塑性樹脂(B)としては、具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンの単独又は共重合体である高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン(所謂HDPE)、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1-ブテンランダム共重合体、プロピレン・1-ブテンランダム共重合体等のポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン-6、ナイロン-66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・ビニルアルコール共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、これらの熱可塑性樹脂の混合物等を例示することができる。これらのうちでは、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート及びポリアミドが好ましい。
【0083】
これら熱可塑性樹脂(B)の中でも、成形時の紡糸安定性や不織布の延伸加工性の観点から、ポリオレフィンがより好ましく、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体等のプロピレン系重合体が更に好ましい。
【0084】
プロピレン系重合体としては、融点(Tm)が155℃以上、好ましくは157℃~165℃の範囲にあるプロピレンの単独重合体、又はプロピレンと極少量のエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数2以上(但し炭素数3を除く)、好ましくは炭素数2~8(但し炭素数3を除く)である1種又は2種以上のα-オレフィンとの共重合体が好ましい。
【0085】
プロピレン系重合体は、溶融紡糸し得る限り、そのメルトフローレート(MFR:ASTM D-1238、230℃、荷重2160g)は特に限定されないが、通常は1g/10分~1000g/10分、好ましくは5g/10分~500g/10分、より好ましくは10g/10分~100g/10分の範囲にある。また、プロピレン系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnは、通常は1.5~5.0である。紡糸性が良好で、かつ繊維強度に優れる繊維が得られる点で、Mw/Mnは1.5~3.0の範囲であることが好ましい。Mw及びMnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって、公知の方法で測定することができる。
【0086】
得られる不織布積層体の延伸加工適性をさらに向上する観点からは、熱可塑性樹脂(B)がプロピレン系重合体にHDPEを添加したオレフィン系重合体組成物であることが好ましい。この場合、プロピレン系重合体とHDPEの合計100質量%に対し、HDPEの比率が1質量%~20質量%であることが好ましく、2質量%~15質量%であることがより好ましく、4質量%~10質量%であることが更に好ましい。
【0087】
プロピレン系重合体に添加されるHDPEの種類は特に制限されないが、通常は密度が0.94g/cm3~0.97g/cm3、好ましくは0.95g/cm3~0.97g/cm3、より好ましくは0.96g/cm3~0.97g/cm3の範囲にある。また、紡糸性を有する限り特に限定されないが、伸長性を発現させる観点で、HDPEのメルトフローレート(MFR:ASTM D-1238、190℃、荷重2160g)は、通常は0.1g/10分~100g/10分、好ましくは0.5g/10分~50g/10分、より好ましくは1g/10分~30g/10分の範囲にある。なお、本開示において、良好な紡糸性とは、紡糸ノズルからの吐き出し時及び延伸中に糸切れを生じず、フィラメントの融着が生じないことをいう。
【0088】
(添加剤)
必要に応じ、弾性不織布及び混繊スパンボンド不織布には耐熱安定剤、耐候安定剤、酸化防止剤等の各種安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックスなどを添加することができる。
【0089】
(他の層)
本開示の不織布積層体は、用途に応じて弾性不織布及び混繊スパンボンド不織布以外の他の層を1又は2以上有していてもよい。
【0090】
他の層として具体的には、編布、織布、弾性不織布及び混繊スパンボンド不織布以外の不織布、コットンなどの天然繊維、フィルム等が挙げられる。本開示の不織布積層体に他の層をさらに積層する(貼り合せる)方法は特に制限されず、熱エンボス加工、超音波融着等の熱融着法、ニードルパンチ、ウォータージェット等の機械的交絡法、ホットメルト接着剤、ウレタン系接着剤等の接着剤を用いる方法、押出しラミネート等の種々の方法を採り得る。
【0091】
本開示の不織布積層体が弾性不織布及び混繊スパンボンド不織布以外の不織布を有する場合の不織布としては、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、湿式不織布、乾式不織布、乾式パルプ不織布、フラッシュ紡糸不織布、開繊不織布等の、種々公知の不織布が挙げられる。これらの不織布は伸縮性不織布であっても、非伸縮性不織布であってもよい。ここで非伸縮性不織布とは、MD(不織布の流れ方向、縦方向)又はCD(不織布の流れ方向に直角の方向、横方向)に伸長後、回復時応力を発生させないものをいう。
【0092】
本開示の不織布積層体がフィルムを有する場合のフィルムとしては、本開示の不織布積層体の特徴である通気性及び親水性を保持する観点から、通気性(透湿性)フィルムが好ましい。通気性フィルムとしては、透湿性を有するポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーからなるフィルム、無機微粒子又は有機微粒子を含む熱可塑性樹脂からなるフィルムを延伸して多孔化してなる多孔フィルム等の、種々の公知の通気性フィルムが挙げられる。多孔フィルムに用いる熱可塑性樹脂としては、高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体、これらの組み合わせ等のポリオレフィンが好ましい。但し、不織布積層体の通気性及び親水性を保持する必要がない場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの組み合わせ等の熱可塑性樹脂のフィルムを用いてもよい。
【0093】
(不織布積層体の製造方法)
本開示の不織布積層体は、弾性不織布の原料となる40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体、混繊スパンボンド不織布の原料となる熱可塑性エラストマー(A)及び熱可塑性樹脂(B)、並びに必要に応じて用いられる添加剤を用いて、公知の不織布の製造方法により製造し得る。
【0094】
不織布積層体の製造方法の一例として、少なくとも二列の紡糸装置を備えた不織布製造装置を用いる方法について以下に説明する。
【0095】
まず、一列目の紡糸装置に備えられた押出機で熱可塑性エラストマー(A)及び熱可塑性樹脂(B)を溶融し、多数の紡糸孔(ノズル)を備えた口金(ダイ)、必要に応じて芯鞘構造を有する紡糸孔に導入し、吐出する。その後、溶融紡糸された熱可塑性エラストマー(A)からなる長繊維と熱可塑性樹脂(B)からなる長繊維を冷却室に導入し、冷却風により冷却した後、延伸エアーにより長繊維を延伸(牽引)し、混繊スパンボンド不織布を移動捕集面上に堆積させる。
【0096】
他方、二列目の紡糸装置に備えられた押出機で40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体を溶融し、多数の紡糸孔(ノズル)を備えた口金(ダイ)を有する紡糸孔に導入し、40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体を吐出する。その後、溶融紡糸された40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上であるα-オレフィン共重合体からなる長繊維を冷却室に導入し、冷却風により冷却した後、延伸エアーにより長繊維を延伸(牽引)し、混繊スパンボンド不織布上に堆積させて、弾性不織布を形成する。
【0097】
必要に応じて、三列目の紡糸装置を用いて、混繊スパンボンド不織布を弾性不織布上に堆積させてもよい。
【0098】
弾性不織布及び混繊スパンボンド不織布の原料となる重合体の溶融温度は、それぞれの重合体の軟化温度あるいは融解温度以上、且つ熱分解温度未満であれば特に限定されない。口金の温度は、用いる重合体の種類にもよるが、例えば、熱可塑性エラストマー(A)として熱可塑性ポリウレタン系エラストマー又はオレフィン系共重合体エラストマーを、熱可塑性樹脂(B)としてプロピレン系重合体又はプロピレン系重合体とHDPEとのオレフィン系重合体組成物を用いる場合は、通常は180℃~240℃、好ましくは190~230℃、より好ましくは200~225℃の温度に設定し得る。
【0099】
冷却風の温度は重合体が固化する温度であれば特に限定はされないが、通常5℃~50℃、好ましくは10℃~40℃、より好ましくは15℃~30℃の範囲にある。延伸エアの風速は、通常100m/分~10,000m/分、好ましくは500m/分~10,000m/分の範囲にある。
【0100】
本開示の不織布積層体は、弾性不織布の少なくとも一部と、混繊スパンボンド不織布の少なくとも一部とが熱融着した構造を有することが好ましい。この際、弾性不織布の少なくとも一部と混繊スパンボンド不織布の少なくとも一部とを熱融着する前に、ニップロールを用いて、押し固めておいてもよい。
【0101】
熱融着の方法は特に制限されず、種々の公知の方法から選択できる。例えば、超音波等の手段を用いる方法、エンボスロールを用いる熱エンボス加工、ホットエアースルーを用いる方法等がプレボンディングとして例示できる。中でも、延伸する際に長繊維が効率よく延伸される観点からは熱エンボス加工が好ましく、その温度範囲は、60℃~115℃であることが好ましい。
【0102】
熱エンボス加工により積層体の一部を熱融着する場合は、通常、エンボス面積率が5%~30%、好ましくは5%~20%、非エンボス単位面積が0.5mm2以上、好ましくは4mm2~40mm2の範囲にある。非エンボス単位面積とは、四方をエンボス部で囲まれた最小単位の非エンボス部において、エンボスに内接する四角形の最大面積である。刻印の形状としては、円、楕円、長円、正方、菱、長方、四角、これらの形状を基本とする連続した形状等が挙げられる。
【0103】
<伸縮性不織布積層体>
本開示の伸縮性不織布積層体は、前記不織布積層体を延伸することによって得られる、伸縮性を有する不織布積層体である。
【0104】
本開示の伸縮性不織布積層体は、前記不織布積層体を、延伸加工することによって、得ることができる。延伸加工の方法は特に制限されず、従来より公知の方法を適用できる。延伸加工の方法は、部分的に延伸する方法であっても、全体的に延伸する方法であってもよい。また、一軸延伸する方法であっても、二軸延伸する方法であってもよい。機械の流れ方向(MD)に延伸する方法としては、たとえば、2つ以上のニップロールに部分的に融着した混合繊維を通過させる方法が挙げられる。このとき、ニップロールの回転速度を、機械の流れ方向の順に速くすることによって部分的に融着した不織布積層体を延伸できる。また、
図1に示すギア延伸装置を用いてギア延伸加工することもできる。
【0105】
延伸倍率は、好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上、更に好ましくは200%以上であり、且つ、好ましくは1000%以下、より好ましくは400%以下である。
【0106】
一軸延伸の場合には機械の流れ方向(MD)の延伸倍率、又はこれに垂直な方向(CD)のいずれかが上記延伸倍率を満たすことが好ましい。二軸延伸の場合には機械の流れ方向(MD)とこれに垂直な方向(CD)のうち、少なくとも一方が上記延伸倍率を満たすことが好ましい。
【0107】
このような延伸倍率で延伸加工することにより、弾性不織布と混繊スパンボンド不織布を形成する(長)繊維は何れも延伸されるが、混繊スパンボンド不織布層を形成する長繊維は、塑性変形して、上記延伸倍率に応じて伸長される(つまり、長くなる)。
【0108】
したがって、不織布積層体を延伸した後、応力が解放されると、弾性不織布を形成する(長)繊維は弾性回復し、混繊スパンボンド不織布を形成する長繊維は、弾性回復せずに褶曲し、不織布積層体に嵩高感が発現する。しかも、混繊スパンボンド不織布を形成する長繊維は細くなる傾向にある。そのため、柔軟性及び触感が良くなるとともに、伸び止り機能を付与することができると考えられる。
【0109】
<繊維製品>
本開示の繊維製品は、本開示の不織布積層体又は伸縮性不織布積層体を含む。繊維製品は特に制限されず、使い捨ておむつ、生理用品等の吸収性物品、衛生マスク等の衛生物品、包帯等の医療物品、衣料素材、包装材などが挙げられる。本開示の繊維製品は、本開示の不織布積層体又は伸縮性不織布積層体を伸縮部材として含むことが好ましい。
【実施例】
【0110】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定及び評価した。
【0111】
(1)目付〔g/m2〕
不織布単体又は不織布積層体から200mm(流れ方向:MD)×50mm(横方向:CD)の試験片を6点採取した。なお、採取場所はMD、CDともに任意の3箇所とした(計6箇所)。次いで、採取した各試験片について、上皿電子天秤(研精工業社製)を用いて、それぞれ質量(g)を測定した。各試験片の質量の平均値を求めた。求めた平均値から1m2当たりの質量(g)に換算し、小数点第2位を四捨五入して各サンプルの目付〔g/m2〕とした。
【0112】
(2)紡糸性
各例の不織布について、製造の際に、スパンボンド不織布製造装置のノズル面近傍の紡糸状況を目視で観察し、5分あたりの糸切れ回数(単位:回/5分)を数えた。糸切れ回数が0回/5分であれば「A」、糸切れが発生し不織布採取に至らない場合は「C」と評価した(表1)。
【0113】
(3)押出性
75mmφの押出機に20kgの原料を投入し、30分間押出し安定性を確認した。
A:30分間安定的に押し出された状態。
C:30分間の間に押出機根本にて、原料のブロッキングが発生した状態。
【0114】
(4)最大荷重〔N/50mm〕、最大荷重伸度〔%〕
不織布積層体から50mm(MD)×200mm(CD)の試験片を5点採取した。なお、採取場所は任意の5箇所とした。次いで、採取した各試験片を、万能引張試験機(インテスコ社製、IM-201型)を用いて、チャック間100mm、引張速度100mm/minの条件で引張試験を行い、最大荷重点での荷重(最大荷重〔N/50mm〕)及び伸度(最大荷重伸度〔%〕)を求めた。なお、最大荷重及び最大荷重伸度は、上記5点について平均値を求め、小数点第2位を四捨五入した。
【0115】
(5)残留歪〔%〕、50%伸長時応力〔N/50mm〕、50%回復時応力〔N/50mm〕及び伸縮特性
不織布積層体から50mm(MD)×200mm(CD)の試験片を5点採取した。なお、採取場所は任意の5箇所とした。次いで、採取した各試験片を、万能引張試験機(インテスコ社製、IM-201型)を用いて、チャック間100mm、引張速度100mm/min、延伸倍率100%の条件で延伸した後、直ちに同じ速度で原長まで回復させた。この操作を2サイクル実施して、2サイクル目において応力の立ち上がり始める伸度を測定し、残留歪〔%〕とした。次いで、2サイクル目の伸長時に延伸倍率が50%となったときの応力を50%伸長時応力とし、2サイクル目の回復時に延伸倍率が50%となったときの応力を50%回復時応力とした。また、2サイクル目における〔50%伸長時応力÷50%回復時応力〕の値を測定し、伸縮特性の尺度とした。残留歪および〔50%伸長時応力÷50%回復時応力〕は値が小さいほど、伸縮特性が優れていることを意味する。なお、残留歪及び伸縮特性は、上記5点について平均値を求め、小数点第3位を四捨五入した。伸縮特性が、3.0以下であれば「A」、3.0超であれば「C」と評価した。
【0116】
その他、各例における各温度の貯蔵弾性率及び貯蔵弾性率の比について、先述の測定方法により測定した結果を、表1に示す。尚、40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が37%以上の場合を、応力保持「A」と評価し、37%未満の場合を「C」と評価した。
【0117】
[実施例1]
<熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)の調製>
数平均分子量が1932のポリエステルポリオール:71.7質量部、1,4-ブタンジオール(以下、「BD」と略す。):4.8質量部、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](以下、「酸化防止剤-1」と略す。):0.3質量部、ポリカルボンジイミド:0.3質量部を混合し、MDI:22.9質量部を加えて、十分に高速攪拌混合した。その後、160℃で1時間反応させた。この反応物を粉砕した後、当該粉砕物:100質量部に対して、エチレンビスステアリン酸アミド:0.8質量部、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4vヒドロキシフェニル)プロピオネート](以下、「酸化防止剤‐2」と略す。):0.5質量部、エチレンビスオレイン酸アミド(以下、「EOA」と略す。):0.8質量部を混合した。その後、押出機(設定温度:210℃)で溶融混練して造粒し、熱可塑性ポリウレタンエラストマー〔TPU(A-1)〕を得た。
得られたTPU(A-1)の物性は、硬度:81、溶融粘度:1.1、流動開始温度155℃であった。
【0118】
<混繊スパンボンド不織布用の熱可塑性樹脂組成物の調製>
MFR(ASTM D1238に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgで測定)60g/10分、密度0.91g/cm3、融点160℃のプロピレンホモポリマー(以下、「PP-1」と略す)92質量部と、MFR(ASTMD1238に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgで測定)5g/10分、密度0.97g/cm3、融点134℃の高密度ポリエチレン(以下、「HDPE」と略す)8質量部とを混合し、熱可塑性樹脂組成物(B-1)を調製した。
【0119】
<弾性不織布用のα-オレフィン共重合体>
弾性不織布に、ExxonMobil社製、製品名「VistamaxxTM6202」(エチレン・プロピレン共重合体)を用いた。MFR(230℃、2.16kg荷重):20g/10min、エチレン含量:15質量%、引張弾性率:9.8MPa、23℃における貯蔵弾性率:12.0MPa、40℃における貯蔵弾性率:6.55MPa、融点:110.4℃、融解熱量:5.89mJ/mg、ガラス転移温度:-32.6℃であった。
【0120】
<不織布積層体の製造>
上記で調製したTPU(A-1)と熱可塑性樹脂組成物(B-1)とを、それぞれ独立に50mmφの押出機及び75mmφの押出機を用いて溶融した。その後、紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機(捕集面上の機械の流れ方向に垂直な方向の長さ:800mm)を用いて、樹脂温度とダイ温度がともに205℃、冷却風温度20℃、延伸エアー風速3200m/分の条件でスパンボンド法により溶融紡糸し、TPU(A-1)からなる長繊維Aと熱可塑性樹脂組成物(B-1)からなる長繊維Bとを含む混合長繊維からなるウェッブを捕集面上に堆積させた。
【0121】
具体的には、紡糸口金としてTPU(A-1)の吐出孔とB-1の吐出孔とが交互に配列されたノズルパターンを使用し、TPU(A-1)(長繊維A)のノズル径が0.75mmφであり、B-1(長繊維B)のノズル径が0.6mmφであり、ノズルのピッチが縦方向8mm、横方向11mmであり、ノズル数の比は長繊維A用ノズル:長繊維B用ノズル=1:1.45とした。長繊維Aの単孔吐出量は0.82g/(分・孔)、長繊維Bの単孔吐出量は0.56g/(分・孔)とし、混合長繊維からなるスパンボンド不織布を捕集面上に第1層目として堆積させた。
【0122】
次いで、混繊スパンボンド不織布の上に、弾性不織布を第2層目として堆積させた。具体的には、上記のVistamaxx 6202を、スクリュー径75mmφの単軸押出機を用いて溶融した。その後、紡糸口金を有するスパンボンド不織布成形機(捕集面上の機械の流れ方向に垂直な方向の長さ:800mm)を用いて、樹脂温度とダイ温度がともに290℃、冷却風温度20℃、延伸エアー風速2888m/分の条件でスパンボンド法により溶融紡糸し、第2層目として堆積させた。
【0123】
次いで、弾性不織布の上に、第3層目として、第1層目と同様の混繊スパンボンド不織布を第1層目と同様の方法により堆積させ、3層構造の堆積物を作製した。この堆積物をエンボスロールで加熱加圧処理(エンボス面積率18%、エンボス温度80℃)して、総目付量が65.0g/m2であり、第1層目及び第3層目の目付量がそれぞれ20.0g/m2であり、第2層目の目付量が25.0g/m2である不織布積層体を作製した。
Vistamaxx 6202の押出性は良好であった。得られた不織布積層体の各物性を測定した結果を表1に示す。
【0124】
[実施例2]
弾性不織布にExxonMobil社製、製品名「VistamaxxTM7050FL」(エチレン・プロピレン共重合体)用いて、Vistamaxx7050FLの樹脂温度とダイ温度をともに215℃、エンボス温度を90℃に変更した以外は、実施例1と同様にして不織布積層体を作成した。
Vistamaxx 7050FLは、MFR(230℃、2.16kg荷重):48g/10min、エチレン含量:13質量%、引張弾性率:14.4MPa、23℃における貯蔵弾性率:17.4MPa、40℃における貯蔵弾性率:8.77MPa、融点:60.9℃、融解熱量:19mJ/mg、ガラス転移温度:-30.3℃であった。
Vistamaxx 7050FLの押出性は良好であった。得られた不織布積層体の各物性を測定した結果を表1に示す。
【0125】
[比較例1]
弾性不織布に下記に述べる低結晶性ポリプロピレンを用いて、低結晶性ポリプロピレンの樹脂温度とダイ温度をともに215℃、エンボス温度を90℃、第2層目の目付量を20.0g/m2に(総合目付量が60.0g/m2)に変更した以外は、実施例1と同様にして不織布積層体を作成した。
【0126】
<弾性不織布用の低結晶性ポリプロピレンの調製>
撹拌機付き、内容積0.2m3のステンレス製反応器に、n-ヘプタンを20L/hで、トリイソブチルアルミニウムを15mmol/hで、さらに、ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートと(1,2’-ジメチルシリレン)(2,1’-ジメチルシリレン)-ビス(3-トリメチルシリルメチルインデニル)ジルコニウムジクロライドとトリイソブチルアルミニウムとプロピレンを事前に接触させて得られた触媒成分をジルコニウムあたり6μmol/hで連続供給した。
【0127】
重合温度70℃で気相部水素濃度を8mol%、反応器内の全圧を0.7MPa・Gに保つようにして、プロピレンと水素を連続供給した。
得られた重合溶液に、SUMILIZER GP(住友化学社製)を1000ppmになるように添加し、溶媒を除去することにより、プロピレン重合体を得た。
【0128】
得られたプロピレン重合体の質量平均分子量(Mw)は1.2×104、Mw/Mn=2であった。また、NMR測定から求めた[mmmm]が46モル%、[rrrr]/(1-[mmmm])が0.038、[rmrm]が2.7モル%、[mm]×[rr]/[mr]2が1.5、引張弾性率が32.9MPaであった。
低結晶性ポリプロピレンは、23℃における貯蔵弾性率:49.3MPa、40℃における貯蔵弾性率:17.8MPa、融点:56.1℃、融解熱量:30.0mJ/mg、ガラス転移温度:-7.3℃であった。
【0129】
低結晶性ポリプロピレンの押出性は、ブロッキングが発生し不良であった。得られた不織布積層体の各物性を測定した結果を表1に示す。
【0130】
実施例1、実施例2では、比較例1との比較からわかるように、伸縮特性(50%伸長時応力/50%回復時応力)が小さくなり、伸縮性が改善された。さらに、実施例1、実施例2では、40℃における貯蔵弾性率E40と23℃における貯蔵弾性率E23との比(E40/E23)が高く、比較例1と比較して、温度変化環境下(40℃~23℃)において弾性不織布における弾性の低下が抑制され易いことがわかる。すなわち、本開示に係る不織布積層体は、伸縮特性に優れ、かつ、応力維持に優れる不織布積層体である。
【0131】
【0132】
2018年3月30日に出願された日本国特許出願2018-068200号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。