(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】リチウム-コバルト金属酸化物粉末、その調製方法、及びコバルト(II、III)の含有量の決定方法
(51)【国際特許分類】
C01G 51/00 20060101AFI20220304BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220304BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
C01G51/00 A
H01M4/525
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2020521456
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(86)【国際出願番号】 CN2018084679
(87)【国際公開番号】W WO2019076023
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-06-08
(31)【優先権主張番号】201710984022.X
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201710983605.0
(32)【優先日】2017-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520062661
【氏名又は名称】巴斯夫杉杉▲電▼池材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】李 永昌
(72)【発明者】
【氏名】董 虹
(72)【発明者】
【氏名】胡 旭▲堯▼
(72)【発明者】
【氏名】石 慧
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 爽
(72)【発明者】
【氏名】▲蒋▼ 湘康
(72)【発明者】
【氏名】李 旭
(72)【発明者】
【氏名】李 智▲華▼
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105680009(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106356509(CN,A)
【文献】特開2011-049120(JP,A)
【文献】特開2015-201432(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0258836(US,A1)
【文献】特表2016-504727(JP,A)
【文献】特開2014-038828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆構造であり、リチウム-コバルト金属酸化物マトリックスを含むリチウム-コバルト金属酸化物粉末であって、
Co
3O
4被覆層をさらに含み、一般式がLi
aCo
1-x-yM
xN
yO
2・rCo
3O
4、(式中、0.002<r≦0.05、1≦a≦1.1、0<x≦0.02、0≦y≦0.005、且つa<1+3rであり、Mはドーピング元素であり、Nは被覆元素である。)であ
り、
Co
3
O
4
はスピネル相のCo
3
O
4
として存在し、前記リチウム-コバルト金属酸化物マトリックスの外面のリチウム残留量が0.05%以下であることを特徴とするリチウム-コバルト金属酸化物粉末。
【請求項2】
前記LiとCo+M+Nとのモル比θ
1が0.92≦θ
1<1である、ことを特徴とする請求項1に記載のリチウム-コバルト金属酸化物粉末。
【請求項3】
前記リチウム-コバルト金属酸化物マトリックスの内部及び外面のいずれにもCo
3O
4が存在し、前記リチウム-コバルト金属酸化物マトリックスの内部のCo
3O
4と外面のCo
3O
4との質量比が1未満である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム-コバルト金属酸化物粉末。
【請求項4】
前記Mは、Mg、Ca、Cu、Al、B、Ti、Y及びZrのうちの1種又は複数種であり、Nは、Na、K、Mg、Ca、Cu、Al、B、Ti、Y、Zr、Ni及びMnのうちの1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム-コバルト金属酸化物粉末。
【請求項5】
前記Mは、Mg、Alのうちの1種又は2種であり、Nは、Mg、Tiのうちの1種又は2種である、ことを特徴とする請求項4に記載のリチウム-コバルト金属酸化物粉末。
【請求項6】
前記リチウム-コバルト金属酸化物マトリックスの外面に六方相のリチウム-コバルト金属酸化物をさらに含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウム-コバルト金属酸化物粉末。
【請求項7】
リチウム含有前駆体、第1のコバルト含有前駆体及びM含有前駆体を均一に混合した後、焼結することによりリチウムリッチなマトリックスを得るステップ(1)と、
リチウム-コバルト金属酸化物粉末に被覆元素Nが含まれる場合、ステップ(1)で得られたリチウムリッチなマトリックス、第2のコバルト含有前駆体、N含有前駆体を均一に混合した後、焼結することによりリチウム-コバルト金属酸化物粉末を得て、リチウム-コバルト金属酸化物粉末に被覆元素Nが含まない場合、ステップ(1)で得られたリチウムリッチなマトリックス、第2のコバルト含有前駆体を均一に混合した後、焼結することによりリチウム-コバルト金属酸化物粉末を得るステップ(2)と、を含む、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム-コバルト金属酸化物粉末の調製方法。
【請求項8】
前記ステップ(2)では、前記第2のコバルト含有前駆体は、Co(OH)
2、CoCO
3及びCo
3O
4のうちの1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項7に記載の調製方法。
【請求項9】
前記ステップ(1)では、焼結温度は900~1100℃であり、焼結時間は8~12hであり、焼結は空気雰囲気下行われ、
前記ステップ(2)では、焼結温度は600~1000℃であり、時間は6~12hであり、焼結は空気雰囲気下行われる、ことを特徴とする請求項7または8に記載の調製方法。
【請求項10】
リチウム-コバルト金属酸化物粉末に湿潤剤を加え、さらに金属イオン塩溶液を加え、十分に撹拌して溶解し、第1の溶液を得るステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた第1の溶液をろ膜によりろ過し、ろ過終了後、前記ろ膜における残留物を洗浄するステップ(2)と、
ステップ(2)の残留物をろ膜とともに強酸溶液に入れて、ろ膜における残留物を完全に強酸溶液に剥離して、残留物と強酸溶液の第2の溶液を得るステップ(3)と、
さらに、混合液を得るために、ステップ(3)の第2の溶液に強酸溶液を加え、加熱、蒸発、乾燥を行うステップ(4)と、
冷却後、定容して測定対象の溶液を得るステップ(5)と、
ステップ(5)で得られた溶液中のCoの含有量を測定し、Co
3O
4の値に換算すると、測定対象サンプル中のCo
3O
4の含有量を得るステップ(6)と、を含む、ことを特徴とする前記請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム-コバルト金属酸化物粉末におけるCo
3O
4含有量の測定方法。
【請求項11】
前記ステップ(5)を行う前に、ステップ(4)を少なくとも1回繰り返す、ことを特徴とする請求項10に記載の測定方法。
【請求項12】
前記湿潤剤は、HCl、H
2SO
4及びH
3PO
4のうちの1種又は複数種であり、且つ少なくともH
2SO
4又はH
3PO
4のうちの1種若しくは2種を含む、ことを特徴とする請求項10又は11に記載の測定方法。
【請求項13】
前記金属イオン塩溶液は、NiSO
4、NiCl
2、MnSO
4、MnCl
2、FeSO
4、FeCl
2、Cu
2SO
4、CuCl
2、CrSO
4及びCrCl
2のうちの1種又は複数種である、ことを特徴とする請求項10~12のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項14】
前記強酸は、硝酸、塩酸及び王水のうちの1種若しくは複数種であり、前記硝酸、塩酸及び王水の濃度が30~70質量%である、ことを特徴とする請求項10~13のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項15】
前記ステップ(1)では、前記撹拌時間は0.5~2hである、ことを特徴とする請求項10~14のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項16】
前記撹拌時間は0.8~1.4hである、ことを特徴とする請求項
15に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の分野に関し、特に正極材料用の金属酸化物粉末、その調製方法及びCo3O4含有量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、軽量、高比エネルギー、メモリ効果なし、汚染なし、小さな自己放電、長寿命という利点があり、携帯電話、ノートブックコンピューター、ビデオカメラ、デジタルカメラなどの民生及び軍事分野で広く使用されているだけではなく、電気自動車、航空宇宙やエネルギー貯蔵の分野でも将来性が期待できる。
【0003】
近年、技術の継続的な発展に伴い、モバイル機器や通信機器の性能も継続的に向上しており、リチウムイオン電池のエネルギー密度、サイクル寿命及び高温性能に対する要求が高まっている。人々のエネルギー需要を満たすために、より高いエネルギー密度、優れたサイクル性能、及び高温性能を備えた正極材料の開発は、リチウムイオン電池の開発における焦点となり、リチウムイオン電池の正極材料の性能は、上記性能の向上に直接関係している。周知のように、リチウムイオン電池の体積エネルギー密度=放電容量×放電電圧プラットフォーム×コンパクト密度であり、材料のコンパクト密度を一定に保ちながら、正極材料の充電カットオフ電圧を上げると、放電容量と放電電圧プラットフォームを増大し、そのエネルギー密度を高める。現在、コバルト酸リチウムの生産技術は比較的成熟しているものの、まだ多くの欠点があり、実際には、コバルト酸リチウム材料の性能は、充放電電圧の範囲が3.0~4.2V(vs.Li)では安定しているが、充電放電中のリチウムイオンのデインターカレーションは、そのリチウムイオン含有量の半分しかなく、放電容量が低く、カットオフ電圧を上げると(特に4.3V以上)、放電容量は増えるが、LiCoO2の構造は不安定になり、高電圧での充放電サイクル性能の低下や高温保存性能の劣化など、一連の問題をもたらす。電池が高温になるか、充放電が繰り返されると、リチウムイオン電池の正極材料の表面が電解液とゆっくりと相互作用し、材料の性能が徐々に低下してしまう。
【0004】
材料のコンパクト密度を上げる方法は、主に材料の粒度と結晶化度を上げることである。Liをフラックスとして粒子の結晶化度を高め、粒子を焼結により大きくして、材料のコンパクト密度を高めることができるが、Liは大量に残留され、高温条件で膨れやすく、安全性は保証できない。微粉末Co原料で被覆することにより、高温条件で焼結して過剰なLiを吸収することは、材料の高温安全性能の向上に寄与するが、高電圧条件では、Liイオンの脱離量が増えると、Co3+が酸化されてCo4+になり、電解液と副反応を発生させ、サイクル性能を低下させる。
【0005】
リチウムイオン電池の正極材料は、通常、変性物質としてCoを添加され、Co3O4が正極材料に残留されることがある。ただし、充放電中にCo3O4が活性を有さないことはよく知られており、正極材料の表面に残留するCo3O4の濃度が高いと、充放電容量に影響を与え、充放電容量を低下させ、そのため、正極材料表面の残留Co量の制御はコバルト酸リチウムの性能向上は非常に重要であり、従来技術では、正極材料中の残留コバルトを良好に検出する方法はなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術的課題は、以上の背景技術に記載の欠点及び欠陥を解決し、エネルギー密度が高く、正極材料と電解液の副反応が少なく、サイクル性能が優れたリチウム-コバルト金属酸化物粉末、その調製方法及びCo3O4含有量の検出方法を提供することである。上記技術的課題を解決するために、本発明は下記技術案を提案している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
被覆構造であり、リチウム-コバルト金属酸化物マトリックスを含むリチウム-コバルト金属酸化物粉末であって、Co3O4被覆層をさらに含み、その一般式がLiaCo1-x-yMxNyO2・rCo3O4(式中、0.002<r≦0.05、1≦a≦1.1、0<x≦0.02、0≦y≦0.005、且つa<1+3rであり、Mはドーピング元素であり、Nは被覆元素である。)。上記分子式中、1+3r≦aであれば、このリチウム-コバルト金属酸化物粉末のサイクル性能は確保できない。上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末中のコバルトイオンが過剰であり、且つ過剰なコバルトイオンはCo3O4の形態で存在し、その含有量は定量検出分析により得られ得る。
【0008】
一実施形態では、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末において前記LiとCo+M+Nとのモル比θ1が0.92≦θ1<1である。
【0009】
一実施形態では、前記リチウム-コバルト金属酸化物マトリックスの内部及び外面のいずれにも過剰なCo3O4が存在し、前記リチウム-コバルト金属酸化物マトリックスの内部のCo3O4と外面のCo3O4との質量比が1未満である。
【0010】
一実施形態では、前記Mは、Mg、Ca、Cu、Al、B、Ti、Y及びZrのうちの1種又は複数種であり、Nは、Na、K、Mg、Ca、Cu、Al、B、Ti、Y、Zr、Ni及びMnのうちの1種又は複数種である。例えば、前記Mは、Mg、Alのうちの1種又は2種であり、NはMg、Tiのうちの1種又は2種である。
【0011】
一実施形態では、前記Co3O4はスピネル相のCo3O4として存在し、前記リチウム-コバルト金属酸化物マトリックスの外面のリチウム残留量が0.05%以下である。
【0012】
一つの技術的思想として、本発明は、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末の調製方法をさらに提供し、
リチウム含有前駆体、第1のコバルト含有前駆体及びM含有前駆体を均一に混合した後、焼結することによりリチウムリッチなマトリックスを得るステップ(1)と、
リチウム-コバルト金属酸化物粉末に被覆元素Nが含まれる場合、ステップ(1)で得られたリチウムリッチなマトリックス、第2のコバルト含有前駆体、N含有前駆体を均一に混合した後、焼結することによりリチウム-コバルト金属酸化物粉末を得て、リチウム-コバルト金属酸化物粉末に被覆元素Nが含まない場合、ステップ(1)で得られたリチウムリッチなマトリックス、第2のコバルト含有前駆体を均一に混合した後、焼結することによりリチウム-コバルト金属酸化物粉末を得るステップ(2)と、を含む。
【0013】
一実施形態では、前記ステップ(1)では、前記LiとCo+Mのモル比θ2が、1.0<θ2<1.08、例えば、θ2が、1.04<θ2<1.08である。Liをフラックスとして粒子の結晶化度を高め、粒子を焼結により大きくし、材料のコンパクト密度を高めることができ、焼結するときにリチウムをわずかに過剰にすることにより、焼結による材料は、優れた加工性能及びコンパクト密度を有する。一実施形態では、前記LiとCo+M+Nのモル比θ1が、0.92≦θ1<1であり、例えば、前記Liと金属元素Co、M及びNの全量とのモル比θ1が、0.95≦θ1<1.0であり、上記割合で焼結すると、容量及びサイクル性能のいずれのバランスが取れた材料を得ることができる。
【0014】
一実施形態では、前記ステップ(2)では、前記第2のコバルト含有前駆体は、Co(OH)2、CoCO3及びCo3O4のうちの1種又は複数種であり、第2のコバルト含有前駆体は、二次粒子を含み、各二次粒子は一次粒子で構成されている。前記二次粒子がD50≦7μm(例えば、D50が5μm以下)。上記一次粒子がD50<1.0μmである。
【0015】
一実施形態では、前記ステップ(1)では、焼結温度は900~1100℃であり、焼結時間は8~12hであり、焼結は空気雰囲気下行われ、前記ステップ(2)では、焼結温度は600~1000℃であり、時間は6~12hであり、焼結は空気雰囲気下行われる。
【0016】
上記調製方法において、ステップ(1)では、Mを添加することは、主にドーピング作用を果たし、ステップ(2)では、Nを添加することは、主に被覆作用を果たす。ステップ(2)では、わずかに過剰に添加するCoは、焼結するときにステップ(1)の過剰なLiと反応して、六方相のリチウム-コバルト金属酸化物を生成し、それは、材料の放電比容量及びサイクル性能の向上に有利し、また、表面のリチウム残留量を低減させ、材料の高温性能及び安全性能を向上できる。焼結終了後にもリチウム-コバルト金属酸化物粉末の内部及び/又は表面に過剰なCoが存在し、このCoは、スピネル相のCo3O4の形態で存在し、高電圧条件では、過剰なCo3O4の存在は、LiCoO2と電解液の接触を抑えて、正極材料LiCoO2の表面が電解液とゆっくりと作用して正極材料の性能が低下することを防止する一方、Co3O4中のCo2+はCo3+よりもCo4+に酸化されにくく、このため、正極材料の表面のCo4+の濃度を低減させ、高いカットオフ電圧の条件でCo4+と電解液の間の副反応を減少させ、材料の高エネルギー密度及び高温安全性能を維持するとともに、材料のサイクル性能を向上させる。
【0017】
一つの技術的思想として、本発明は、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末中のCo3O4含有量の測定方法を提供し、
測定対象サンプルに湿潤剤を加え、さらに金属イオン塩溶液を加え、十分に撹拌して溶解し、第1の溶液を得るステップ(1)と、
ステップ(1)で得られた第1の溶液をろ膜によりろ過し、ろ過終了後、前記ろ膜における残留物を洗浄するステップ(2)と、
ステップ(2)の残留物をろ膜とともに強酸溶液に入れて、ろ膜における残留物を完全に強酸溶液に剥離し、残留物と強酸溶液の第2の溶液を得るステップ(3)と、
さらに、混合液を得るために、ステップ(3)の第2の溶液に強酸溶液を加え、加熱、蒸発、乾燥を行うステップ(4)と、
冷却後、定容して測定対象の溶液を得るステップ(5)と、
ステップ(5)で得られた溶液中のCoの含有量を測定し、Co3O4値に換算すると、測定対象サンプル中のCo3O4の含有量を得るステップ(6)と、を含む。
【0018】
一実施形態では、前記ステップ(5)を行う前に、ステップ(4)を少なくとも1回繰り返す。少なくとも1回繰り返すことは、データの正確性を高めるためである。
【0019】
一実施形態では、前記湿潤剤は、HCl、H2SO4及びH3PO4のうちの1種又は複数種であり、且つ少なくともH2SO4又はH3PO4のうちの1種若しくは2種を含む。前記金属イオン塩溶液は、NiSO4、NiCl2、MnSO4、MnCl2、FeSO4、FeCl2、Cu2SO4、CuCl2、CrSO4及びCrCl2のうちの1種又は複数種である。サンプルに湿潤剤及び金属塩溶液(主に還元及び置換の作用を果たす)を加えることは、サンプルにおけるLiCoO2中のCoを溶解除去するためであり、ろ過すると、Co3O4含有残留物が得られ得る。
【0020】
一実施形態では、前記強酸は、硝酸、塩酸及び王水のうちの1種若しくは複数種であり、前記硝酸、塩酸及び王水の濃度が30~70質量%である。
【0021】
一実施形態では、前記ステップ(1)では、前記撹拌時間は0.5~2hである。撹拌時間は試験結果へ影響を与えるため、合理的に制御する必要がある。
【0022】
一実施形態では、前記撹拌時間は0.8~1.4hである。
【0023】
上記測定方法において、ステップ(1)では、まず、サンプルに湿潤剤及び金属塩溶液(主に還元及び置換の作用を果たす)を加えることは、サンプルにおけるLiCoO2中のCoを溶解除去するためであり、ろ過すると、Co3O4含有残留物が得られ、ステップ(3)、(4)では、さらに酸溶液を加えることは、Co3O4を溶解してCo含有溶液を得るためであり、酸溶液を蒸発除去した後、定容して、Coの含有量を測定し、Co3O4値に換算すると、サンプル中のCo3O4の含有量が得られる。
【0024】
FeSO4を例にすると、ステップ(1)では、下記反応は発生する。
【0025】
2LiCoO2+4H2SO4+2FeSO4=Li2SO4+2CoSO4+Fe2(SO4)3+4H2O。
【発明の効果】
【0026】
従来技術に比べて、本発明の利点は以下のとおりである。
【0027】
1.本発明のリチウム-コバルト金属酸化物には過剰なCoが残留され、過剰なCoは、Co3O4の形態で存在し、高電圧条件では、過剰なCo3O4の存在は、LiCoO2と電解液の接触を抑えて、正極材料LiCoO2の表面が電解液とゆっくりと作用して正極材料の性能が低下することを防止する一方、高電圧条件でのCo4+の濃度を低減させ、高いカットオフ電圧の条件でCo4+と電解液の間の副反応を減少させ、材料のサイクル性能を向上させる。
2.本発明の調製過程では、過剰なCoが添加され、焼結するときに材料中の過剰な炭酸リチウム又は水酸化リチウムを消費することができ、材料の高温性能及び安全性能が高くなる。
3.本発明の測定方法は、簡便であり、測定に使用する原料が入手されやすく、且つ、本発明の測定方法は、リチウムイオン電池の正極活物質中の残留四酸化コバルトの含有量を正確に測定でき、それにより残留四酸化コバルトの量を正確に制御でき、リチウムイオン電池の正極活物質のサイクル性能及び容量性能のバランスのための理論的指導を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明の実施例又は従来技術の技術案をより明確に説明するために、以下では、実施例又は従来技術の説明で使用される図面を簡単に説明するが、勿論、以下説明する図面は本発明のいくつかの実施例に過ぎず、当業者であれば、創造的な努力を必要とせずこれらの図面に基づいて他の図面を得ることができる。
【
図1】実施例1~3で調製したサンプルのボタン電池テストによるサイクル性能曲線である。
【
図2】実施例1で調製したサンプルのXRD図である。
【
図3】実施例4~7で調製したサンプルのボタン電池テストによるサイクル性能曲線である。
【
図4】実施例5で調製したサンプルのXRD図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の理解を容易にするために、以下、明細書の図面及び好ましい実施例にて本発明をより完全かつ詳細に説明するが、本発明の特許範囲は、以下の特定の実施例に限定されない。
【0030】
特に定義されない限り、以下で使用されるすべての技術用語は、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用されている技術用語は、特定の実施例を説明することのみを目的としており、本発明の特許範囲を限定することを意図していない。
【0031】
特に断らない限り、本発明で使用する各種原料、試薬、機器や設備などは、すべて市場から購入するか、従来の方法で製造することができる。
【0032】
実施例1
リチウム-コバルト金属酸化物粉末の調製方法であって、以下のステップ(1)とステップ(2)を含む。
(1)一般式Li1.06Co0.99Mg0.01O2に従って各材料の重量を秤量し、均一に混合した後、空気を導入可能なベル型炉に入れて焼結処理を行った。ここで、リチウム含有前駆体は炭酸リチウムであり、コバルト含有前駆体はD50が15μmのCo3O4であり、Mg含有前駆体はそれぞれその対応する酸化物であり、焼結温度は1030℃であり、焼結時間は10hであり、焼結は全体として空気雰囲気下行われた。焼結したコバルト酸リチウムに対して篩掛け、粉砕などの処理をして、コバルト酸リチウムLCO-Aを得た。
(2)分子式LiCo0.99Mg0.01O2・rCo3O4に従ってLCO-Aと異なる量のCo(OH)2とを均一に混合した後、空気を導入可能なベル型炉に入れて焼結処理を行い、リチウム-コバルト金属酸化物粉末を得た。ここで、焼結温度は900℃であり、焼結時間は10hであり、Co(OH)2のD50は0.8μmであった。
【0033】
本実施例は、さらに、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末中のCo3O4含有量の測定方法を提供し、以下のステップ(1)~ステップ(6)を含む。
(1)上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末にNiSO4及びH2SO4溶液を加え、1.5h磁気撹拌して溶解させ、第1の溶液を得た。
(2)ステップ(1)で得られた第1の溶液を吸引ろ過によりろ過し、ろ過終了後、ろ過した状態を保持しながら、純水でろ膜における残留物を洗浄した。
(3)ステップ(2)の残留物をろ膜とともに硝酸(濃度30質量%)溶液に入れて、超音波で残留物をろ膜から剥離した後、ピンセットでろ膜を取り出し、脱イオン水でろ膜に付着した微量の残留物を硝酸溶液に洗い落とし、残留物と硝酸の第2の溶液を得た。
(4)混合液を得るために、ステップ(3)の第2の溶液に硝酸溶液を加え、加熱して溶液を蒸発させ、乾燥させた。
(5)冷却後、ステップ(4)を1回繰り返し、再冷却後、定容して測定対象の溶液を得た。
(6)ステップ(5)で得られた溶液中のCoの含有量(測定方法として原子吸収又はほかの常法を使用)を測定し、次にCo3O4値に換算すると、LiCo0.99Mg0.01O2・rCo3O4中のCo3O4の含有量を得た。
【0034】
本実施例では、Co3O4の含有量は、テストしたところ、1088ppmであり、計算の結果、r=0.0005であり、即ち、分子式はLiCo0.99Mg0.01O2・0.0005Co3O4であり、本実施例のリチウム-コバルト金属酸化物粉末サンプルをLCO-A1と表記した。
【0035】
実施例2
実施例1に比べて、実施例2の調製方法では、調製する際にステップ(2)で加えるCo(OH)2の量だけが異なる。本実施例のCo3O4含有量の測定方法は、実施例1と同様であった。
【0036】
本実施例では、Co3O4の含有量は、テストしたところ、5626ppmであり、計算の結果、r=0.0055であり、即ち、分子式はLiCo0.99Mg0.01O2・0.0055Co3O4であり、本実施例のリチウム-コバルト金属酸化物粉末サンプルをLCO-A2と表記した。
【0037】
実施例3
実施例1に比べて、実施例3の調製方法では、調製する際にステップ(2)で加えるCo(OH)2の量だけが異なる。本実施例のCo3O4含有量の測定方法は、実施例1と同様であった。
【0038】
本実施例では、Co3O4の含有量は、テストしたところ、10102ppmであり、計算の結果、r=0.004であり、即ち、分子式はLiCo0.99Mg0.01O2・0.004Co3O4であり、本実施例のリチウム-コバルト金属酸化物粉末サンプルをLCO-A3と表記した。
【0039】
実施例1~3で得られたサンプルについてボタン電池テストにより容量をテストしたところ、表1に示すように、3.0C~4.5Vの電圧範囲では、0.1Cのレートで充放電を行う場合、LCO-A1とLCO-A2は、容量変化が小さく、LCO-A3は、LCO-A1と比較して、容量が2mAh/g低減し、Co
3O
4の含有量を分析したところ、LCO-A3の残留Co
3O
4は10102ppmであり、充放電プロセスに残留Co
3O
4が電気化学的活性を有さないため、容量がある程度低減した。
図1に示すように、充放電レートが1Cの場合、残留Co
3O
4含有量が増加するにつれて、サイクル保持率が徐々に増加し、これは、高いカットオフ電圧条件では、表面活性のないCo
3O
4がCo
4+と電解液との副反応を抑え、材料のサイクル性能を向上させるためであった。
図2は、実施例1で得られたサンプルLCO-A1のXRD図であり、同図から分かるように、実施例1で得られた結晶は純粋な相の層状コバルト酸リチウムであり、それは、2回目の焼結に添加された過剰なCoが1回目の焼結マトリックス中の過剰なLiを吸収し、LiCoO
2を生成したことを示し、それにより、一方では、残留Co
3O
4含有量がそれほど高くない条件では、材料の放電比容量を向上させ、他方では、Coによりマトリックス内の過剰なLiを吸収することは、高温条件での材料の膨張を減らし、材料の安全性能及び高温性能を向上させることに寄与した。
【0040】
【0041】
実施例4
リチウム-コバルト金属酸化物粉末の調製方法であって、以下のステップ(1)とステップ(2)を含む。
(1)一般式Li1.04Co0.98Al0.02O2に従って各材料の重量を秤量し、均一に混合した後、空気を導入可能なベル型炉に入れて焼結処理を行った。ここで、リチウム含有前駆体は炭酸リチウムであり、コバルト含有前駆体はD50が17μmのCo3O4であり、Al含有前駆体はそれぞれAl2O3であり、焼結温度は1050℃であり、焼結時間は10hであり、焼結は全体として空気雰囲気下行われた。焼結したコバルト酸リチウムに対して篩掛け、粉砕などの処理をして、コバルト酸リチウムLCO-Bを得た。
(2)分子式LiCo0.98-xAl0.02MgxO2・rCo3O4に従ってLCO-Bと異なる量のCo3O4とを混合し、0.5%mol比のMgOを加え、均一に混合した後、空気を導入可能なベル型炉に入れて焼結処理を行い、リチウム-コバルト金属酸化物粉末を得た。ここで、焼結温度は900℃であり、焼結時間は10hであり、Co3O4は、D50 3μm、一次粒子D50<1μmの凝集粒子であった。
【0042】
本実施例は、さらに、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末中のCo3O4含有量の測定方法を提供し、以下のステップ(1)~ステップ(6)を含む。
(1)上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末にMnSO4及びH3PO4+HCl溶液を加え、1.0h磁気撹拌して溶解させ、第1の溶液を得た。
(2)ステップ(1)で得られた第1の溶液を吸引ろ過によりろ過し、ろ過終了後、ろ過した状態を保持しながら、純水でろ膜における残留物を洗浄した。
(3)ステップ(2)の残留物をろ膜とともに硝酸(濃度70質量%)溶液に入れて、超音波で残留物をろ膜から剥離した後、ピンセットでろ膜を取り出し、脱イオン水でろ膜に付着した微量の残留物を硝酸溶液に洗い落とし、残留物と硝酸の第2の溶液を得た。
(4)混合液を得るために、ステップ(3)の第2の溶液に硝酸溶液を加え、加熱して溶液を蒸発させ、乾燥させた。
(5)冷却後、ステップ(4)を1回繰り返し、再冷却後、定容して測定対象の溶液を得た。
(6)ステップ(5)で得られた溶液中のCoの含有量(測定方法として原子吸収又はほかの常法を使用)を測定し、次にCo3O4値に換算すると、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末中のCo3O4の含有量を得た。
【0043】
本実施例では、Co3O4の含有量は、テストしたところ、10105ppmであり、計算の結果、r=0.005であり、即ち分子式はLiCo0.975Al0.02Mg0.005O2・0.005Co3O4であり、本実施例のリチウム-コバルト金属酸化物粉末サンプルをLCO-B1と表記した。
【0044】
実施例5
実施例4に比べて、実施例5の調製方法では、調製する際にステップ(2)で加えるCo3O4の量だけが異なる。本実施例のCo3O4含有量の測定方法は実施例4と同様であった。
【0045】
本実施例では、Co3O4の含有量は、テストしたところ、21000ppmであり、計算の結果、r=0.0105であり、即ち分子式はLiCo0.975Al0.02Mg0.005O2・0.0105Co3O4であり、本実施例のリチウム-コバルト金属酸化物粉末サンプルをLCO-B2と表記した。
【0046】
実施例6
実施例4に比べて、実施例6の調製方法では、調製する際にステップ(2)で加えるCo3O4の量だけが異なり、且つステップ(2)で加えるのは、MgOではなく、0.5%mol比のTiO2であった。
【0047】
本実施例は、さらに、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末中のCo3O4含有量の測定方法を提供し、以下のステップ(1)~ステップ(6)を含む。
(1)上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末にFeSO4及びH2SO4+H3PO4溶液を加え、0.8h磁気撹拌して溶解させ、第1の溶液を得た。
(2)ステップ(1)で得られた第1の溶液を吸引ろ過によりろ過し、ろ過終了後、ろ過した状態を保持しながら、純水でろ膜における残留物を洗浄した。
(3)ステップ(2)の残留物をろ膜とともに王水溶液に入れて、超音波で残留物をろ膜から剥離した後、ピンセットでろ膜を取り出し、脱イオン水でろ膜に付着した微量の残留物を王水溶液に洗い落とし、残留物と王水の第2の溶液を得た。
(4)混合液を得るために、ステップ(3)の第2の溶液に王水溶液を加え、加熱して溶液を蒸発させ、乾燥させた。
(5)冷却後、ステップ(4)を1回繰り返し、再冷却後、定容して測定対象の溶液を得た。
(6)ステップ(5)で得られた溶液中のCoの含有量(測定方法として原子吸収又はほかの常法を使用)を測定し、次にCo3O4値に換算すると、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末中のCo3O4の含有量を得た。
【0048】
本実施例では、Co3O4の含有量は、テストしたところ、19917ppmであり、計算の結果、r=0.01であり、即ち分子式はLiCo0.975Al0.02Ti0.005O2・0.01Co3O4であり、本実施例のリチウム-コバルト金属酸化物粉末サンプルをLCO-B3と表記した。
【0049】
実施例7
実施例4に比べて、実施例7の調製方法では、調製する際にステップ(2)で加えるCo3O4の量dakeが異なり、且つステップ(2)では、0.5%mol比のTiO2をさらに加えた。
【0050】
本実施例は、さらに、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末中のCo3O4含有量の測定方法を提供し、以下のステップ(1)~ステップ(6)を含む。
(1)上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末にCrCl2+CuCl2溶液及びHCl+H2SO4を加え、1.2h磁気撹拌して溶解させ、第1の溶液を得た。
(2)ステップ(1)で得られた第1の溶液を吸引ろ過によりろ過し、ろ過終了後、ろ過した状態を保持しながら、純水でろ膜における残留物を洗浄した。
(3)ステップ(2)の残留物をろ膜とともに硝酸(濃度50質量%)溶液に入れて、超音波で残留物をろ膜から剥離した後、ピンセットでろ膜を取り出し、脱イオン水でろ膜に付着した微量の残留物を硝酸溶液に洗い落とし、残留物と硝酸の第2の溶液を得た。
(4)ステップ(3)の第2の溶液に硝酸溶液を加え、加熱して溶液を蒸発させ、乾燥させた。
(5)冷却後、ステップ(4)を1回繰り返し、再冷却後、定容して測定対象の溶液を得た。
(6)ステップ(5)で得られた溶液中のCoの含有量(測定方法として原子吸収又はほかの常法を使用)を測定し、次にCo3O4値に換算すると、上記リチウム-コバルト金属酸化物粉末中のCo3O4の含有量を得た。
【0051】
本実施例では、Co3O4の含有量は、テストしたところ、20130ppmであり、計算の結果、r=0.01であり、即ち分子式はLiCo0.97Al0.02Mg0.005Ti0.005O2・0.01Co3O4であり、本実施例のリチウム-コバルト金属酸化物粉末サンプルをLCO-B4と表記した。
【0052】
実施例4~7で得られたサンプルについてボタン電池テストにより容量をテストしたところ、
図3に示すように、3.0~4.6Vの電圧範囲では、充放電レートが0.5Cの場合、LCO-B1とLCO-B2の分析から分かるように、残留Co
3O
4含有量が増加するにつれて、サイクル保持率が徐々に高くなった。LCO-B2、LCO-B3及びLCO-B4の分析から分かるように、MgとTiによる複合被覆はサイクル性能に最も明らかな改善効果をもたらした。
図4は、実施例5で得られたサンプルのXRD図であり、同図から分かるように、残留Co含有量の増加に伴い、スピネル相のCo
3O
4回折ピークが現れ始め、それは、残留Coがスピネル相の形態で存在し、Co
3O
4が得られることを示した。