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特許7034378バンチ化されたイオンビームを生成するための新規な装置及び技術
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】バンチ化されたイオンビームを生成するための新規な装置及び技術
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/248 20060101AFI20220304BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20220304BHJP
   H05H 9/00 20060101ALI20220304BHJP
【FI】
H01J37/248 B
H01J37/08
H05H9/00 A
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021509214
(86)(22)【出願日】2019-08-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 US2019046274
(87)【国際公開番号】W WO2020041034
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】16/107,151
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500324750
【氏名又は名称】バリアン・セミコンダクター・エクイップメント・アソシエイツ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シンクレア, フランク
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-524651(JP,A)
【文献】特表2004-523068(JP,A)
【文献】特表2004-525486(JP,A)
【文献】特開2000-036279(JP,A)
【文献】特開2015-046337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/248
H01J 37/08
H05H 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチリングドリフトチューブアセンブリであって、
連続イオンビームを受け入れるよう構成された第1の接地されたドリフトチューブ、
前記第1の接地されたドリフトチューブの下流に直列に配置された少なくとも2つのACドリフトチューブ、及び、
前記少なくとも2つのACドリフトチューブの下流にある第2の接地されたドリフトチューブを含む、マルチリングドリフトチューブアセンブリと、
前記少なくとも2つのACドリフトチューブに電気的に接続されたAC電圧アセンブリであって、
前記少なくとも2つのACドリフトチューブの第1のACドリフトチューブに、第1の周波数の第1のAC電圧信号を届けるよう接続された第1のAC電圧源、及び、
前記少なくとも2つのACドリフトチューブの第2のACドリフトチューブに、第2の周波数の第2のAC電圧信号を届けるよう接続され、前記第2の周波数は前記第1の周波数の整数倍である、第2のAC電圧源を含む、AC電圧アセンブリと
を含む、バンチャーと、
前記バンチャーの下流に配置された線形加速器と
を備える、装置。
【請求項2】
前記マルチリングドリフトチューブアセンブリは、前記第1のACドリフトチューブ及び前記第2のACドリフトチューブに直列に配置された第3のACドリフトチューブを備え、
前記装置は、前記第3のACドリフトチューブに第3の周波数の第3のAC電圧信号を届けるよう接続された第3のAC電圧源をさらに備え、前記第3の周波数が、前記第2の周波数とは異なった、前記第1の周波数の整数倍である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の周波数は、少なくとも20MHzの周波数であり、前記第2の周波数は、前記第1の周波数の2の倍数であり、前記第3の周波数は、前記第1の周波数の3の倍数である、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記マルチリングドリフトチューブアセンブリは、
前記第1のAC電圧源に接続され、前記第1の接地されたドリフトチューブの下流に配置され、かつ、前記第1の接地されたドリフトチューブの近傍にある第1のACドリフトチューブと、
前記第2のAC電圧源に接続され、前記第2の接地されたドリフトチューブより上流の、前記第1のACドリフトチューブの近傍に配置され、かつ、前記第2の接地されたドリフトチューブの近傍にある第2のACドリフトチューブと
を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記マルチリングドリフトチューブアセンブリは、前記連続イオンビームを、複数の個別パケットを含むバンチ化されたイオンビームとして出力するよう構成され、前記複数の個別パケットのうちの1パケットが、第1の複数の遅れ位相イオンと、第2の複数の進み位相イオンを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記マルチリングドリフトチューブアセンブリが、前記マルチリングドリフトチューブアセンブリの下流の加速段において、少なくとも50%の受容度を生むよう構成され、前記イオンビームの50%未満のイオンが失われる、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記第1のAC電圧信号及び前記第2のAC電圧信号の振幅が、25kV未満である、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記マルチリングドリフトチューブアセンブリの長さは、少なくとも100mm、かつ400mm未満である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記連続イオンビームは、少なくとも250kVのイオンエネルギーを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
マルチリングドリフトチューブアセンブリであって、
連続イオンビームを受け入れるよう構成された第1の接地されたドリフトチューブ、
前記第1の接地されたドリフトチューブの下流に直列に配置されたACドリフトチューブ、及び、
前記ACドリフトチューブの下流にあり、バンチ化されたイオンビームを出力するよう構成された第2の接地されたドリフトチューブを含む、
マルチリングドリフトチューブアセンブリと、
前記ACドリフトチューブに電気的に接続されたAC電圧アセンブリであって、
前記ACドリフトチューブに、第1の周波数の第1のAC電圧信号を届けるよう接続された第1のAC電圧源、及び、
前記ACドリフトチューブに、第2の周波数の第2のAC電圧信号を届けるよう接続され、前記第2の周波数は前記第1の周波数の整数倍である、第2のAC電圧源を含む、AC電圧アセンブリと
を含む、バンチャーと、
前記連続イオンビームの経路内の、前記バンチャーの下流に配置された線形加速器と
を備える、装置。
【請求項11】
前記AC電圧アセンブリは、前記ACドリフトチューブに、第3の周波数の第3のAC電圧信号を送るよう接続された第3のAC電圧源を含み、前記第3の周波数は、前記第1の周波数の整数倍である、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記ACドリフトチューブは、前記第1の接地されたドリフトチューブ及び前記第2の接地されたドリフトチューブの直ぐ近傍に存在する、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記マルチリングドリフトチューブアセンブリは、バンチ化された前記イオンビームを、複数の個別パケットとして出力するよう構成され、前記複数の個別パケットのうちの1パケットが、第1の複数の遅れ位相イオンと、第2の複数の進み位相イオンを含む、請求項10に記載の装置。
【請求項14】
前記第1の周波数は、少なくとも20MHzの周波数であり、前記第2の周波数は、前記第1の周波数の2の倍数であり、前記第3の周波数は、前記第1の周波数の3の倍数である、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
イオン注入システムであって、
連続イオンビームを生成するイオン源と、
前記イオン源の下流に配置されており、前記連続イオンビームを受け取ってバンチ化されたイオンビームを出力するバンチャーと、
前記バンチャーの下流に配置されており、複数の加速段を含む線形加速器であって、前記バンチ化されたイオンビームを加速させる線形加速器と
を備え、
前記バンチャーは、
ドリフトチューブアセンブリであって、
前記連続イオンビームを受け入れるよう構成された第1の接地されたドリフトチューブ、
前記第1の接地されたドリフトチューブの下流にあり、前記第1の接地されたドリフトチューブの直ぐ近傍に存在する、単一のACドリフトチューブ、及び、
前記単一のACドリフトチューブの下流にあり、前記単一のACドリフトチューブの直ぐ近傍に存在する第2の接地されたドリフトチューブを含む、ドリフトチューブアセンブリと、
前記ACドリフトチューブアセンブリに、第1の周波数の第1のAC電圧信号、及び、第2の周波数の第2のAC電圧信号、及び、第3の周波数の第3のAC電圧信号を送るよう構成されたAC電圧アセンブリであって、前記第2の周波数は前記第1の周波数の2倍であり、前記第3の周波数は前記第1の周波数の3倍である、AC電圧アセンブリと、
前記第1のAC電圧信号、前記第2のAC電圧信号、及び、前記第3のAC電圧信号を受信するよう接続された加算器であって、前記第1のAC電圧信号と、前記第2のAC電圧信号と、前記第3のAC電圧信号と、の総和を含む複合AC電圧信号を、前記単一のACドリフトチューブに出力する加算器と
を備える、イオン注入システム。
【請求項16】
前記第1の周波数は、少なくとも20MHzの周波数であり、前記第3の周波数は、120MHz以下の周波数である、請求項15に記載のイオン注入システム。
【請求項17】
前記バンチャーは、前記バンチ化されたイオンビームを、複数の個別パケットとして出力し、前記複数の個別パケットのうちの1パケットが、第1の複数の遅れ位相イオンと、第2の複数の進み位相イオンを含む、請求項15に記載のイオン注入システム。
【請求項18】
イオン注入システムであって、
連続イオンビームを生成するイオン源と、
前記イオン源の下流に配置されており、前記連続イオンビームを受け取ってバンチ化されたイオンビームを出力するバンチャーであって、
第1の周波数の第1のAC信号を受信する第1のACドリフトチューブ、及び、
前記第1のACドリフトチューブの下流に配置され、前記第1の周波数の整数倍である第2の周波数の第2のAC信号を受信する第2のACドリフトチューブ
を備える、バンチャーと、
前記バンチャーの下流に配置されており、前記バンチ化されたイオンビームを受け入れて加速させる線形加速器と
を備える、イオン注入システム。
【請求項19】
前記バンチャーは、
前記第1のACドリフトチューブの上流に配置されており、前記連続イオンビームを受け入れる第1の接地されたドリフトチューブと、
前記第2のACドリフトチューブの下流に配置された第2の接地されたドリフトチューブと、
をさらに備える、請求項18に記載のイオン注入システム。
【請求項20】
前記整数倍は2である、請求項18に記載のイオン注入システム。
【請求項21】
前記バンチャーに、前記第1のAC電圧信号、及び、前記第2のAC電圧信号を送信するよう構成されたAC電圧アセンブリをさらに備える、請求項18に記載のイオン注入システム。
【請求項22】
前記バンチャーが、マルチリングドリフトチューブアセンブリの下流の加速段において、少なくとも50%の受容度を生むよう構成され、前記イオンビームの50%未満のイオンが失われる、請求項18に記載のイオン注入システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、イオン注入装置に関し、より詳細には、高エネルギービームラインイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入は、衝突を介してドーパント又は不純物を基板に導入するプロセスである。イオン注入システムは、イオン源と、一連のビームライン構成要素と、を備えうる。イオン源は、所望のイオンが生成されるチャンバを備えうる。ビームライン構成要素は、例えば、質量分析器、コリメータ、及び、イオンビームを加速又は減速させるための種々の構成要素を含みうる。光線を操作するための一連の光学レンズのように、ビームライン構成要素は、特定の種、形状、エネルギー、及び/又は他の性質を有するイオンビームをフィルタに掛け、集束させ、及び操作することが可能である。イオンビームは、ビームライン構成要素を通過し、プラテン又はクランプ上に取り付けられた基板に向かって方向付けられうる。
【0003】
中程度のエネルギー及び高エネルギーのイオンビームを生成するのに適したイオン注入装置の1つのタイプは、線形加速器、又はLINACを使用し、ここでは、ビームの周囲にチューブとして配置された一連の電極が、イオンビームを一連のチューブに沿って加速させてますます高くなるエネルギーにする。種々の電極を一連の段に配置することができ、ここでは、所与の段の所与の電極が、AC電圧信号を受け取ってイオンビームを加速させる。
【0004】
LINACでは、イオンビームがビームラインを通して導かれるときに当該イオンビームをバンチ化する(集群化する、bunch)初期段が採用されている。LINACの初期段は、バンチャーと呼ばれ得、ここでは、連続イオンビームがバンチャーによって受け取られて、バンチ化されたイオンビームとしてパケットで出力される。AC電圧信号の周波数及び振幅に従って、1つの給電された電極を用いる公知の「ダブルギャップ(double-gap)」バンチャーを通して導かれるイオンビームの受容度又は位相捕捉は、30~35%程度であり得、このことは、線形加速器の加速段へと導かれる間に、ビーム電流の65%以上が失われることを意味する。
【0005】
上述の及び他の懸念事項に関して、本開示が提供される。
【発明の概要】
【0006】
一実施形態において、装置は、マルチリングドリフトチューブアセンブリを含みうる。マルチリングドリフトチューブアセンブリは、連続イオンビームを受け入れるよう構成された第1の接地されたドリフトチューブと、第1の接地されたドリフトチューブの下流に直列に配置された少なくとも2つのACドリフトチューブと、少なくとも2つのACドリフトチューブの下流にある第2の接地されたドリフトチューブと、を含みうる。本装置は、少なくとも2つのACドリフトチューブに電気的に接続されたAC電圧アセンブリを含みうる。AC電圧アセンブリは、少なくとも2つのACドリフトチューブの第1のACドリフトチューブに、第1の周波数の第1のAC電圧信号を届けるよう接続された第1のAC電圧源を含みうる。AC電圧アセンブリは、少なくとも2つのACドリフトチューブの第2のACドリフトチューブに、第2の周波数の第2のAC電圧信号を届けるよう接続された第2のAC電圧源をさらに含んでよく、第2の周波数は、第1の周波数の整数倍である。
【0007】
他の実施形態において、イオン注入システムは、連続イオンビームを生成するイオン源と、イオン源の下流に配置されたドリフトチューブアセンブリと、を含みうる。ドリフトチューブアセンブリは、連続イオンビームを受け入れるよう構成された第1の接地されたドリフトチューブと、第1の接地されたドリフトチューブの下流に配置されたACドリフトチューブアセンブリと、ACドリフトチューブアセンブリの下流にある第2の接地されたドリフトチューブと、を含みうる。イオン注入システムは、ACドリフトチューブアセンブリに、第1の周波数の第1のAC電圧信号、及び、第2の周波数の第2のAC電圧信号を送るよう構成されたAC電圧アセンブリをさらに含んでよく、第2の周波数は、第1の周波数の整数倍である。
【0008】
更なる実施形態において、イオンビームを処理する方法は、イオンビームを連続イオンビームとして生成することと、マルチリングドリフトチューブアセンブリ内で連続イオンビームを受け取ることを含みうる。本方法は、マルチリングドリフトチューブアセンブリの第1のACドリフトチューブに、第1の周波数の第1のAC電圧信号を印加しながら、当該第1のACドリフトチューブを通してイオンビームを導くことを含みうる。本方法は、第1のACドリフトチューブの下流の、マルチリングドリフトチューブアセンブリの第2のACドリフトチューブに、第2の周波数の第2のAC電圧信号を印加しながら、当該第2のACドリフトチューブを通してイオンビームを導くことをさらに含みうる。第2の周波数は、第1の周波数の整数倍であればよく、イオンビームは、バンチ化されたイオンビームとして、マルチリングドリフトチューブアセンブリから出力される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本開示の実施形態に係る例示的なイオン注入システムを示す。
図1B】本開示の実施形態に係る他のイオン注入システムを示す。
図2】本開示の実施形態に係る例示的なバンチャーを示す。
図3】本開示の他の実施形態に係る他の例示的なバンチャーを示す。
図4】本開示の実施形態に係るドリフトチューブアセンブリの動作をモデル化した結果を示す。
図5A-B】異なるバンチャーによって処理されたイオンビームの異なる光線の位相挙動を示すグラフであり、本実施形態の利点を強調している。
図6】本発明の幾つかの実施形態に係る例示的な処理フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面は、必ずしも縮尺どおりではない。図面は、単なる表現であり、本開示の特定のパラメータを表すことを意図しない。図面は、本開示の例示的な実施形態を示すことを意図しており、したがって、範囲を限定するものと見做されない。図面では、同様の番号が同様の要素を表す。
【0011】
ここで、本開示に係る装置、システム、及び方法を、装置、システム及び方法の実施形態が示された添付の図面を参照しながら、以下により完全に説明する。装置、システム及び方法は、多くの異なる形態で具現化されてよく、本明細書に記載される実施形態に限定されるものと見做されない。その代わりに、上記実施形態は、本開示が一貫しておりかつ完全となるように提供され、当業者にシステム及び方法の範囲を完全に伝える。
【0012】
本明細書では、単数形で記載された、「1つ」又は「或る」(a、an)という文言に続く要素又は動作は、複数の要素又は動作を潜在的に含むものとして理解される。さらに、本開示の「一実施形態(one embodiment)」への言及は、記載された特徴も組み込む追加的な実施形態の存在を除外するものと解釈されることを意図しない。
【0013】
本明細書では、ビームライン構造に基づく、改良された高エネルギーイオン注入システムのためのアプローチが提供される。簡潔にするために、本明細書では、イオン注入システムを「イオン注入装置」とも呼ぶこともある。様々な実施形態が、高エネルギーイオンを生成する能力を提供するための新規な構成を提供し、ここで、基板に届けられる最終的なイオンエネルギーは、300keV、500keV、1MeV、又はそれ以上でありうる。例示的な実施形態において、新規なバンチャーの設計が、以下に記載するように、イオンビームの受容度を上げるやり方でイオンビームを処理するために採用されうる。
【0014】
ここで図1Aを参照すると、注入システム100として示された例示的なイオン注入装置が、ブロック形態で示されている。イオン注入システム100は、ビームラインイオン注入装置を表し、いくつかの要素が、説明を明確にするために省略されている。イオン注入システム100は、当該技術分野で知られるように、イオン源102と、高電圧に保持されたガスボックス107と、を含みうる。イオン源102は、第1のエネルギーでイオンビーム106を生成するために、抽出構成要素及びフィルタ(図示せず)を含みうる。第1のイオンエネルギーのための適切なイオンエネルギーの例は、5keV~100keVの範囲にあるが、同実施形態は、本文脈に限定されない。高エネルギーイオンビームを形成するために、イオン注入システム100は、イオンビーム106を加速させるための様々な追加の構成要素を含む。
【0015】
イオン注入システム100は、受け取ったイオンビームを分析するよう機能する分析器110を含みうる。したがって、いくつかの実施形態において、分析器110が、イオン源102に位置する抽出光学系によって与えられたエネルギーを備えるイオンビーム106を受け取ることができ、ここで、イオンエネルギーは、100keV以下、特に80keV以下の範囲にある。他の実施形態において、分析器110は、DC加速カラムによって加速させられて、200keV、250keV、300keV、400keV、又は500keVといったより高いエネルギーとなったイオンビームを受け取りうる。同実施形態は、本文脈には限定されない。イオン注入システム100はまた、バンチャー130と、バンチャー130の下流に配置された線形加速器114(破線で図示)と、を含みうる。バンチャー130の動作は、以下で詳述する。簡潔に言えば、バンチャー130は、上流のビームライン111の下流に配置されており、連続イオンビーム(又はDCイオンビーム)としてのイオンビーム106を受け入れ、当該ビームをバンチ化されたイオンビームとして出力する。バンチ化されたイオンビームにおいて、イオンビームは個々のパケットで出力される。同時に、イオンビームのエネルギーは、バンチャー130によって増大させられうる。線形加速器114は、図示されるように、直列に配置された複数の加速段126を含みうる。加速段126はバンチャーと同様に作用し、所与の段において、バンチ化されたイオンビームを出力し、当該イオンビームを加速させて段階的により高いエネルギーとしうる。したがって、バンチャーは、イオンビームが連続イオンビームとして受け取られるという点で下流の加速段とは異なった、第1の加速段と見做されうる。
【0016】
様々な実施形態において、イオン注入システム100は、フィルタ磁石116、スキャナ118、及び、コリメータ120といった、追加の構成要素を含んでよく、フィルタ磁石116、スキャナ118、及び、コリメータ120の一般的な機能は良く知られており、本明細書ではさらに詳細には説明しない。このように、高エネルギーイオンビーム115により表される、線形加速器114によって加速された後の高エネルギーイオンビームが、基板124の処理のために、末端ステーション122へと届けられうる。
【0017】
イオンビーム106が分析器110に直接的に供給されるいくつかの実施形態において、バンチャー130は、上述のように、100keV未満といった比較的低いエネルギーの連続イオンビームとして、イオンビーム106を受け取りうる。他の実施形態において、イオン注入システムがDC加速カラムを含む場合には、イオンビーム106は、最大500keV以上のエネルギーの連続イオンビームとして供給されるよう加速されうる。これらの異なるケースにおいて、バンチャー130によって印加される正確な交流電圧(AC)が、バンチャー130によって受け取られた連続イオンビームのイオンエネルギーに従って調整されうる。
【0018】
図1Bは、イオン注入システム100Aの一実施形態を示しており、イオン注入システム100Aは、DC加速カラム108を含み、DC加速カラム108は、イオン源102の下流に配置され、かつ、イオンビーム106を加速させて、加速されたイオンビーム109を第2のイオンエネルギーで生成するよう構成されており、ここで、第2のイオンエネルギーは、イオン源102によって生成される第1のイオンエネルギーよりも大きい。DC加速カラム108は、中エネルギーイオン注入装置で使用されるカラムといった、公知のDC加速カラムのように配置されうる。DC加速カラムは、イオンビーム106を加速させることができ、ここで、加速されたイオンビーム109は、200keV、250keV、300keV、400keV、又は、500keVといったエネルギーで、分析器110及びバンチャー130によって受け取られる。その他の点では、イオン注入システム100Aは、イオン注入システム100と同様に機能しうる。
【0019】
図2は、本開示の実施形態に係る、バンチャー130として示される線形加速器の例示的なバンチャーの構造を示している。バンチャー130は、ドリフトチューブアセンブリ150を含みことができ、ドリフトチューブアセンブリ150には、加速されたイオンビーム109として示される連続イオンビームを受け入れるよう構成された第1の接地されたドリフトチューブ152が含まれる。図示するように、第1の接地されたドリフトチューブ152は、電気接地に接続されている。ドリフトチューブアセンブリ150は、第1の接地されたドリフトチューブ152の下流に配置されたACドリフトチューブアセンブリをさらに含みうる。以下に詳述するように、ACドリフトチューブアセンブリ156は、一般に無線周波数範囲(RF範囲)内にあるAC電圧信号を受け取るよう構成され、当該信号は、加速させられたイオンビーム109を加速させ、操作するよう機能する。図2の実施形態では、ACドリフトチューブアセンブリ156は、たった1つのACドリフトチューブを含んでいる。他の実施形態において、ACドリフトチューブアセンブリ156は、複数のACドリフトチューブを含んでよい。
【0020】
ドリフトチューブアセンブリ150は、ACドリフトチューブアセンブリ156の下流にある、第2の接地されたドリフトチューブ154をさらに含む。全体として、ドリフトチューブアセンブリ150は、中空円筒体として構成されており、連続イオンビームを受け取って、当該イオンビームを中空円筒体を通して導き、パケット109Aとして示される個別パケットにイオンビームをバンチ化するやり方で、イオンビームを加速させ、当該イオンビームは、下流に位置する加速段158によって受け取られて、さらに加速させられる。ドリフトチューブアセンブリ150は、グラファイト、又は、それを通して導かれるイオンビームの汚染を最小に抑えるよう構成された同様の適切な材料から成りうる。加速段158によって示される後続の加速段は、明確に規定された周波数ωで動作することができ、この加速構造内へのバンチの取り込みは、この基本角周波数ωに対して、位相角の約±5°に制限されうる。ビームライン全体を通して最大可能電流を伝送するためには、上記基本周波数ωのサイクルごとにバンチを1つ生成するようバンチャー130を構成することが望ましい。
【0021】
図2に示すように、バンチャー130は、AC電圧アセンブリ140をさらに含み、AC電圧アセンブリ140は、ACドリフトチューブアセンブリ156にAC電圧信号を送り、ACドリフトチューブアセンブリ156の給電されたドリフトチューブにおいて、変化する電圧を駆動するよう構成されている。ACドリフトチューブアセンブリ156上の変化する電圧が、ACドリフトチューブアセンブリ156でのイオンの到着時間に従って、イオンに様々な加速を与える。このようにして、パケット109Aの後端109A1には、パケット109Aの前端109A2よりも速い速度が与えられ、加速段158に到達するときには、パケット109A全体が可能な限りコンパクトになる。様々な実施形態において、AC電圧信号は、連続イオンビームの改良されたバンチングをもたらすやり方でAC電圧信号を生成するよう重畳された、複数の個別AC電圧信号を合成したものでありうる。様々な実施形態において、AC電圧アセンブリ140は、第1の周波数の第1のAC電圧信号、及び、第2の周波数の第2のAC電圧信号を生成することができ、ここで、第2の周波数は、第1の周波数の整数倍である。いくつかの実施形態において、AC電圧アセンブリ140は、第3の周波数の第3のAC電圧信号を生成することができ、ここで、第3の周波数が、第2の周波数とは異なった、第1の周波数の整数倍を成す…等である。したがって、第2の周波数、第3の周波数等は、第1の周波数の高調波であってよく、ここで、周波数は、第1の周波数と比べて2倍、3倍…等でありうる。
【0022】
図2の実施形態では、AC電圧アセンブリ140は、Vcos(ωt+φ)、Vcos(2ωt+φ)、及び、Vcos(3ωt+φ)によって表される3つの異なったAC電圧信号を生成することが示されている。説明のために、AC電圧信号が正弦波信号として示されるが、他の波形形状も可能である。AC電圧アセンブリ140は、第1のAC電圧供給部142、第2のAC電圧供給部144、及び、第3のAC電圧供給部146を含むことができ、第1のAC電圧供給部142、第2のAC電圧供給部144、及び、第3のAC電圧供給部146は、第1のAC電圧信号、第2のAC電圧信号、及び、第3のAC電圧信号をそれぞれ生成する。AC電圧供給部は、同期信号発生器によって駆動されるRF増幅器を用いて具現化されうる。一般的な用語Vは、AC電圧信号の最大振幅を表し、一般的な用語φは、AC電圧信号の位相を表す。したがって、最大振幅及び位相が、異なる信号の間で異なりうる。本実施形態において、第2のAC電圧信号、及び第3のAC電圧信号は、それぞれ、第1の信号ωの周波数の2倍及び3倍を表す。図2に示すように、AC電圧アセンブリ140は加算器148を含むことができ、加算器148は、個々の電圧信号を合算して、複合AC電圧信号149をACドリフトチューブアセンブリ156に出力する。
【0023】
様々な実施形態において、複合AC電圧信号は、AC電圧信号の最高周波数が約120MHz以下であるAC電圧信号から形成されうる。
【0024】
複合AC電圧信号149は、下流の加速段で受容率を上げるやり方で、ACドリフトチューブアセンブリ156によって処理されるイオンの位相依存性を調整するよう設計される。イオン注入システムの公知の線形加速器において、下流の加速段にパケットで伝送するために連続イオンビームがバンチ化されるときには、加速及びバンチングプロセスの性質に因り、イオンビームの一定割合が壁又は他の表面で失われる。受容度とは、失われず、したがって下流加速段によって受け入れられるイオンビームのパーセンテージ(ビーム電流のパーセンテージ等)を指している。上述したように、線形加速器を採用する公知のイオン注入装置では、様々な条件が最適化されたときに、受容度が最大で30%~35%程度である。そのような公知のイオン注入システムは、周波数が10MHz、13.56MHz、又は20MHzで、電圧振幅が数十kVの範囲内のAC電圧信号を用いて、バンチャーを駆動しうる。特に、公知のイオン注入システムにおけるAC電圧信号は、単一周波数のシンプルなAC電圧信号として生成されうる。
【0025】
特に、複合AC電圧信号の基本成分をVcos(ωt)と簡単にすることができ、ここで、他の2つのAC電圧信号に対する相対的位相が、それぞれの位相オフセット、φ又はφによって与えられる。以下に詳述するように、これらのオフセットは、受容度を上げるよう調整されうる。
【0026】
図3を参照すると、本開示のさらなる実施形態に係る、線形加速器の例示的なバンチャー、即ちバンチャー160の構造が示されている。バンチャー160は、ドリフトチューブアセンブリ170を含みことができ、ドリフトチューブアセンブリ170には、加速されたイオンビーム109として示される連続イオンビームを受け入れるよう構成された第1の接地されたドリフトチューブ182が含まれる。図示のように、第1の接地されたドリフトチューブ182は、電気接地に接続されている。ドリフトチューブアセンブリ170は、第1の接地されたドリフトチューブ182の下流に配置されたACドリフトチューブアセンブリ180をさらに含みうる。以下に詳細に説明するように、ACドリフトチューブアセンブリ180は、ACドリフトチューブアセンブリ156と同様に、一般に無線周波数範囲(RF範囲)のAC電圧信号を受信するよう構成され、当該信号は、上記加速されたイオンビーム109を加速させ、操作するよう機能する。図3の実施形態では、ACドリフトチューブアセンブリ180は、ACドリフトチューブ184、ACドリフトチューブ186、及び、ACドリフトチューブ188として示される3つのACドリフトチューブを含む。
【0027】
ドリフトチューブアセンブリ170は、ACドリフトチューブアセンブリ180の下流にある、第2の接地されたドリフトチューブ190をさらに含む。全体として、ドリフトチューブアセンブリ170は、中空円筒体として構成されており、連続イオンビームを受け取って、当該イオンビームを中空円筒体を通して導き、パケット109Aとして示される個別パケットにイオンビームをバンチ化するやり方で、イオンビームを加速させ、当該イオンビームは、下流に位置する加速段192によって受け取られて、さらに加速させられる。このように、ドリフトチューブアセンブリ170は、(イオンビームの伝播方向に沿った)長さが少なくとも100mmで、かつ400mm未満のマルチリングドリフトチューブアセンブリを構成しうる。
【0028】
図3の実施形態では、AC電圧アセンブリ162が設けられ、ACドリフトチューブアセンブリ180にAC電圧信号を送信して、ACドリフトチューブアセンブリ180の給電されたドリフトチューブにおいて、変化する電圧を駆動するよう構成されている。AC電圧アセンブリ162は、第1のAC電圧供給部142がACドリフトチューブ184を駆動し、第2のAC電圧供給部144がACドリフトチューブ186を駆動し、第3のAC電圧供給部146がACドリフトチューブ188を駆動するよう構成されうる。上記のAC電圧信号を、コントローラ164によって時間的に同期させて、複合AC電圧信号149と同様の複合信号を効率良く生成しうる。図3は、最低周波数のAC電圧信号が、最も遠い上流のACドリフトチューブに供給される構成を示しているが、他の実施形態において、最低周波数のAC電圧信号(Vcos(ωt+φ))が、別のACドリフトチューブに印加されてよい。中間周波AC電圧信号(Vcos(2ωt+φ))、及び、高周波AC電圧信号(Vcos(3ωt+φ))についても同様である。本構成には、図2の構成に対して利点があり、或る電源が他の電源と干渉するリスクが回避されている。
【0029】
バンチャーを駆動するために多周波AC電圧信号を使用することが可能であるが、特に、1つのAC電圧信号を生成するために複数の周波数を使用することは、より多くの電圧供給部を必要とし、以下に詳述するように、ビームラインがより長くなることに繋がりうる。そのため、従来では、ビームラインイオン注入装置におけるこのような構成は考えられていなかった。特に、本願の発明者は、特に、ホウ素、リン等といった一般的なドーパントの範囲内の質量を有するイオンについて、駆動信号を調整しイオンビームのスループットを著しく改善することによって上記の懸念事項を克服しうる構成を特定した。特に、図2の「シングルリング(single‐ring)」(「リング(ring)」はACドリフトチューブを指す)バンチャー、又は、図3の「トリプルリング(triple‐ring)」バンチャーでは、複合AC電圧信号が生成され、ここでは、ACドリフトチューブアセンブリから目標距離にあるイオンビームを用いることで位相コヒーレンスを改善し、対応して受容度を上げるやり方で、イオンビームのバンチングが実行される。
【0030】
図4を参照すると、ドリフトチューブアセンブリ150の描写と、ビーム経路に沿ってミリメートル単位の距離の関数として示される対応する位相マップと、を含む合成図が示されている。位相マップは、(右側縦座標に示される)距離の関数としての位相を示すグラフであり、30mmから75mmの間で延在する、ACドリフトチューブアセンブリ156の1つのドリフトチューブの位置を含んでいる。この位置において、(左側縦座標で示される)ACドリフトチューブアセンブリ156に印加される電圧が、最大約18kVに達し、40MHzの周波数で印加される。加速されたイオンビーム109の一連の21個の異なる光線の相対的位相位置がグラフの右側に示されている。加速されたイオンビーム109のイオンの質量が20amuであると仮定される。図示のように、電圧は、ACドリフトチューブアセンブリ156の位置で最大に達し、他の場所ではゼロである。ACドリフトチューブアセンブリ156への入射点では、21個の例示的な光線は、同相で18度の間隔で等間隔に配置されている。交流電圧アセンブリ140によって生成されるような、V=Vcos(ωt+φ)+Vcos(2ωt+φ)+Vcos(3ωt+φ)によって与えられる複合AC電圧信号によって処理されると、種々の光線が、図示されるように、同相で右側へと収束する。
【0031】
ACドリフトチューブアセンブリ156への入口から右に700mmに対応する位置では、多くの光線間の位相差がゼロに近い。したがって、加速段158への入口が、多くの光線間のゼロ位相差に対応する700mmの位置に配置されるときに、受容度が最大となりうる。図4の例では、+/-5度の変動に基づく受容度について、加速器での受容度が約55%である。様々な他のシミュレーションにおいて、図4の構成の最大許容度は75%もの高さであると計算され、即ち、単一周波数バンチャーを採用する公知のイオン注入装置における30%~35%の許容度に対する実質的な改良である。例えば、Vが59.4kVに等しく設定されたときに、受容度は75%であるが、24kVでは、受容度が65%である。
【0032】
特に、ACドリフトチューブアセンブリ156の図を用いて図4に示した位相収束についての同じ挙動が、ACドリフトチューブアセンブリ180のトリプルリング構成に対して同じ電圧パラメータを適用することによって得られうる。
【0033】
図5A及び図5Bは、イオンビームの異なる光線の位相挙動を示すグラフであり、本実施形態に従って複合AC電圧信号を印加する利益を強調している。図5Aは、図4の実施形態の複合AC電圧パラメータの続きであり、図5Bは、シンプルなAC電圧信号をイオンビームに印加する一例を示している。図5Bの図では、AC信号が、V=Vmaxcos(ωt+φ)によって与えられ、図5Aでは、AC信号が、V=Vcos(ωt+φ1)+Vcos(2ωt+φ)+Vcos(3ωt+φ)によって与えられる。周波数ωは、いずれの場合も40MHzである。
【0034】
2つの異なるグラフにおいて、位相挙動は、バンチャーへの入口に近い点から指定された距離にある所与の光線の位相を、バンチャーへの入口における所与の光線の位相の関数として示している。上記の指定された距離は、イオンビームの異なる光線の位相が好都合に収束されうる距離に設定されている。したがって、再び図4を参照すると、パケット109Aにおいて、ACドリフトチューブアセンブリ156の動作は、遅れ位相のイオン109A1を加速させる傾向にあり、かつ、進み位相のイオン109A2を減速させる傾向にあり、例えば700mmにおいて位相収束をもたらす。
【0035】
図5V=Vmaxcos(ωt+φ)によって与えられる、シンプルなAC電圧信号がイオンビームに印加されたときの最も位相コヒーレントな状態を示し、35%の最も高い相対的受容度が得られる。示されたように、初期位相の差が30度程度であることを考慮しても、400mmにおける位相差の度合いが小さい。他の電圧については、図に示すように挙動が悪化する。特に、図5Aの実施形態では、400mmでの収束を要する単一周波数バンチャーの結果よりも幾分長い700mmにおいて、収束がもたらされる。この結果は、約20kVといった複合AC電圧信号にとって妥当なレベルに、AC電圧振幅を維持する必要があることに部分的に起因している。単一周波数バンチャーの場合は、20kVのAC電圧振幅で動作することによって、400mmでの収束が可能となる。図5Aの実施形態では、単一周波数バンチャー構造と比べて、バンチャーと加速器との間の間隔が幾分長くなりうる(700mm対400mm)が、利点は、実質的により高い受容度であり、従って、LINACの主加速段へと導かれるビーム電流である。様々な追加の実施形態において、収束までの長さが、300mmから1000mmでありうる。
【0036】
LINACの追加的な段は、イオンのパケットを加速させさらにバンチ化するために、本実施形態のバンチャーと同様のやり方で実行しうるが、LINACの上記追加的な段を、図示のように複合AC電圧信号によって駆動する必要はない。換言すると、バンチャーの複合AC電圧信号は、既に加速器段への入口において、バンチ化されたイオンビームの様々な光線の位相をほとんど収束させているため、位相収束の更なる改善がそれほど必要ではない可能性がある。この事実により、LINACの加速段を駆動するためのAC電圧アセンブリのよりシンプルな設計が可能となる。
【0037】
一例として、三周波数複合AC信号の一実施形態において、第1の信号の基本周波数は40MHzでありうるが、第1の高調波周波数は、第1の信号に追加された第2の信号について、80MHzであってよく、第2の高調波周波数は、第1の信号及び第2の信号に追加された第3の信号について、120MHzであってよい。
【0038】
特に、上記の実施形態では、3つのAC電圧信号に基づいて複合AC電圧信号を生成こと、及び、3つのドリフトチューブを含むマルチリングドリフトチューブアセンブリを採用することが強調されているが、他の実施形態において、複合AC電圧信号は、2つのAC電圧信号、又は、4つのAC電圧信号から形成されてよい。同実施形態は、本文脈には限定されない。同様に、他の実施形態に係るマルチリングドリフトチューブアセンブリが、2つのドリフトチューブ、又は4つのドリフトチューブを採用してよい。同実施形態は、本文脈には限定されない。
【0039】
図6は、本開示のいくつかの実施形態に係る例示的な処理フロー600を示している。ブロック602において、イオンビームが、イオン源からの抽出等によって、連続イオンビームとして生成される。このように、イオンビームは、数keVから約80keVまでの範囲のイオンエネルギーを示しうる。任意選択的に、連続イオンビームが加速させられて、加速された連続イオンビームを生成してよい。一例において、連続イオンビームを加速させるために、DC加速カラムが利用されうる。したがって、いくつかの実施形態において、加速された連続イオンビームは、200keV~500keV以上のイオンエネルギーを示しうる。
【0040】
ブロック604において、連続イオンビームが、マルチリングドリフトチューブアセンブリ内で受け取られる。マルチリングドリフトチューブアセンブリは、第1の接地されたドリフトチューブ、及び第2の接地されたドリフトチューブ、並びに、第1の接地されたドリフトチューブと第2の接地されたドリフトチューブとの間に配置されたマルチリングACドリフトチューブアセンブリを含みうる。
【0041】
ブロック606において、マルチリングドリフトチューブアセンブリの第1のACドリフトチューブに、第1の周波数の第1のAC電圧信号を印加しながら、第1のACドリフトチューブを通して連続イオンビームを導く。
【0042】
ブロック608において、マルチリングドリフトチューブアセンブリの第2のACドリフトチューブに、第2の周波数の第2のAC電圧信号を印加しながら、第2のACドリフトチューブを通して連続イオンビームを導く。様々な実施形態において、第2の周波数は、第1の周波数の2倍といった、第1の周波数の整数倍であってよい。任意の動作において、マルチリングドリフトチューブアセンブリの第3のACドリフトチューブに、第3の周波数の第3のAC電圧信号を印加しながら、第3のACドリフトチューブを通して、加速された連続イオンビームを導いてよい。第3の周波数は、第2の周波数とは異なった、第1の周波数の整数倍であってよい。このように、加速された連続イオンビームが、バンチ化されたイオンビームとして、マルチリングドリフトチューブアセンブリから出力されうる。
【0043】
上記に鑑みて、少なくとも以下の利点が、本明細書に開示される実施形態によって実現される。第1の利点は、バンチャーを駆動するために複合AC電圧信号を提供することによって実現され、従って、実質的により大きなイオンビーム電流が、下流に配置されたLINACを通して伝送されうる。さらなる利点は、専用電極への複数のAC電源の所与の電源からの所与のAC信号を駆動する能力であり、電源間の干渉であって、共通の電極を介して複数のAC電圧信号を駆動するために複数の電源に接続されたときに発生しうる電源間の干渉が回避される。DC加速カラムの利用により実現される他の利点は、空間電荷効果の低減、及び、バンチャーを駆動するための高周波複合AC電圧信号を生成するよう設計されたバンチャーのより良好な効率である。
【0044】
本開示の特定の実施形態が本明細書に記載されてきたが、当該技術分野が許容する限り範囲が広く本明細書が同様に解されるため、本開示はこれらに限定されない。したがって、上記の説明は、限定として解釈されるべきではない。当業者は、本明細書に添付の特許請求の範囲及び思想の範囲内での他の変更を想定するであろう。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5A-B】
図6