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特許7034384振動板と支持基板との接合体およびその製造方法
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  • 特許-振動板と支持基板との接合体およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-03
(45)【発行日】2022-03-11
(54)【発明の名称】振動板と支持基板との接合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20220304BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20220304BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20220304BHJP
   C04B 35/599 20060101ALI20220304BHJP
   G02B 26/10 20060101ALN20220304BHJP
【FI】
C04B37/02 B
G02B27/01
H03H9/25
C04B35/599
G02B26/10 104Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021520630
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2020045500
(87)【国際公開番号】W WO2021124955
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2019228202
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】鵜野 雄大
(72)【発明者】
【氏名】多井 知義
(72)【発明者】
【氏名】浅井 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 真人
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-347769(JP,A)
【文献】特表2014-507363(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159393(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/054238(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0278907(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84,37/00-37/04
G02B 27/01
G02B 26/10
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなる支持基板、
圧電層の振動に応じて振動する振動板であって、200GPa以上のヤング率および300GPa以上の3点曲げ強度を有するセラミックス材料からなる厚さ100μm以下の振動板、および
前記支持基板と前記振動板との間にあり、前記振動板の表面に接し、α-Siからなる接合層を備えている、支持基板と振動板との接合体であって、
前記振動板の前記表面の算術平均粗さRaが0.01nm以上、10.0nm以下であり、前記振動板の前記表面のピット密度が100μmあたり10個以上、96個以下であることを特徴とする、支持基板と振動板との接合体。
【請求項2】
前記接合層と前記支持基板とが直接接合されていることを特徴とする、請求項1記載の接合体。
【請求項3】
前記セラミックス材料が、サイアロン、コージェライト、ムライト、透光性アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素および炭化珪素からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項1または2記載の接合体。
【請求項4】
圧電層の振動に応じて振動する厚さ100μm以下の振動板とシリコンからなる支持基板との接合体を製造する方法であって、
200GPa以上のヤング率および300GPa以上の3点曲げ強度を有するセラミックス材料からなるセラミック板の表面に、α-Siからなる接合層を設け、この際前記セラミック板の前記表面の算術平均粗さRaが0.01nm以上、10.0nm以下であり、前記セラミック板の前記表面のピット密度が100μm あたり10個以上、96個以下である工程、
次いで前記接合層の接合面と前記支持基板の接合面とを接合する工程、および
次いで前記セラミック板を加工することによって、前記振動板を得る工程を備えることを特徴とする、接合体の製造方法。
【請求項5】
前記接合層の前記接合面と前記支持基板の前記接合面を直接接合することを特徴とする、請求項4記載の接合体の製造方法。
【請求項6】
前記接合層の前記接合面と前記支持基板の前記接合面とをそれぞれ中性原子ビームによって活性化し、次いで直接接合することを特徴とする、請求項5記載の接合体の製造方法。
【請求項7】
前記セラミックス材料が、サイアロン、コージェライト、ムライト、透光性アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素および炭化珪素からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項4~6のいずれか一つの請求項に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラーなどに利用できる高剛性セラミックス振動板を支持基板に接合してなる接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘッドアップディスプレイ(HUD)は、「視線を前方に保ったまま必要な情報を視界にオーバーラップして表示する装置」である。自動車の運転においては、メーターパネルやコンソールパネル上の情報を見る場合に比べ、前方に視線を保ったまま情報を視認できるので、わき見運転防止に効果があり、更には目の焦点移動が少なくて済むためドライバーの疲労軽減と安全性向上が図れる。
【0003】
HUDの原理について述べる。蛍光管、CRTや液晶ディスプレイの画像を車のフロントガラスや透明なスクリーン(コンバイナ)に映す。ここでHUDには光学的な構造の違いにより、以下の2方式がある。
(1) フロントガラスなどをスクリーンとして直接画像を投影するDirect Projection方式
(2) フロントガラスなどを反射ミラーとして作用させドライバーの網膜上に結像させるVirtual Imaging方式
【0004】
これらの方式の大きな相違は、ドライバーが画像を目にしたときの距離感にある。Direct Projection方式は普通のプロジェクタと同様にスクリーン(コンバイナ)上に画像を認識するが、Virtual Imaging方式ではドライバーの視線数メートル先の空間上に画像を認識する。どちらの方式もHUDを使用しないときと比較すると、ドライバーの前方視界とメーターパネルやコンソールパネルとの視線移動は格段に少なくなる。しかし、Virtual Imaging方式においては、通常運転時の視野からの焦点移動も少なくてすむため、より運転に注意を集中でき疲労も少ない。Virtual Imaging方式では、近年レーザービームを走査して描画する新しい方式の開発が進んでいる。
【0005】
レーザー走査型ディスプレイは、RGB3色のレーザービームをコンバイナと呼ぶ光学素子で合波し、この1本のビームを微小ミラーで反射して2次元に走査することにより描画を行う。CRTの電子ビーム走査に似ているが、蛍光体を励起する代わりに、その水平走査線上の画素にあたる位置で各レーザーのパルス幅と出力を制御して色と輝度を変え、画素を高速に点描画する。実現可能な解像度はミラーの振動周波数とレーザーの変調周波数によって決まる。
【0006】
この方式による主な利点として、以下が挙げられる。
(1) 部品点数が少ないため小型化、低コスト化、信頼性向上を実現できる。
(2) 各画素に必要な明るさでレーザーを点灯するため、低消費電力を実現できる。
(3) コリメート(平行光)されたレーザー光を用いるため、フォーカス調整が不要になる。
【0007】
レーザー走査型ディスプレイのコア部品であるマイクロミラーは、SiをMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術で加工し、金属を蒸着する。ミラーの駆動方法は、静電引力で駆動する静電方式、電磁力で駆動する電磁方式、圧電素子で駆動する圧電方式などがある。この中で圧電方式の長所として、高速駆動、低消費電力、大駆動力が挙げられ、短所としては圧電素子の成膜が難しいことが挙げられる。例えば、SOI基板を用いたMEMSミラーが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-037578
【文献】特開2014-086400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
今後、HUDには大画面化・広画角化が要求されており、現状の画角7~8度に対し、最大20度まで広げる要求もある。大画面化・広画角を実現するためには、MEMSミラーの圧電素子の周波数、振幅および信頼性を向上させる必要がある。特にスキャンの幅やスピードの向上が要求される。しかし、これは、従来のSi基板上に成膜で形成した圧電素子では実現できなかった。
【0010】
このため、圧電層の下に用いられる振動板として、高剛性セラミック板を用いることを検討した。しかし、高剛性セラミック板をこうした振動板として用いるためには、高剛性セラミック板の厚さを100μm以下の厚さに薄くする必要があり、これによって振動数を高くする必要がある。しかし、高剛性セラミック板の厚さが100μm以下であると、機械的強度が不足する。このため、高剛性セラミック板を支持基板に接合して接合体を得た後に、高剛性セラミックス板を厚さ100μm以下まで研磨加工することを検討した。
【0011】
しかし、実際に試作してみると、高剛性セラミックスは難加工性のため、加工時の負荷(せん断応力)が大きく、剥がれ、割れなどの問題が生じることがわかった。また、振動板と支持基板の接合強度を高めるために振動板と支持基板の間に接合層を導入し、振動板の表面を粗らすことによって、振動板と接合層との密着力を高くすることも検討したが、振動板の表面を粗らすと振動板の曲げ強度が低くなると考えられる。このため、高剛性セラミックスからなる振動板と支持基板との接合体において剥がれや割れを防止することは困難であった。
【0012】
本発明の課題は、厚さ100μm以下の高剛性セラミックスからなる振動板と支持基板との接合体であって、振動板の強度を維持しつつ、振動板の剥がれや割れを防止できるような構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、 シリコンからなる支持基板、
圧電層の振動に応じて振動する振動板であって、200GPa以上のヤング率および300GPa以上の3点曲げ強度を有するセラミックス材料からなる厚さ100μm以下の振動板、および
前記支持基板と前記振動板との間にあり、前記振動板の表面に接し、α-Siからなる接合層を備えている、支持基板と振動板との接合体であって,
前記振動板の前記表面の算術平均粗さRaが0.01nm以上、10.0nm以下であり、前記振動板の前記表面のピット密度が100μmあたり10個以上、96個以下であることを特徴とする、支持基板と振動板との接合体に係るものである。
【0014】
また、本発明は、 圧電層の振動に応じて振動する厚さ100μm以下の振動板とシリコンからなる支持基板との接合体を製造する方法であって、
200GPa以上のヤング率および300GPa以上の3点曲げ強度を有するセラミックス材料からなるセラミック板の表面に、α-Siからなる接合層を設け、この際前記セラミック板の前記表面の算術平均粗さRaが0.01nm以上、10.0nm以下であり、前記セラミック板の前記表面のピット密度が100μm あたり10個以上、96個以下である工程、
次いで前記接合層の接合面と前記支持基板の接合面とを接合する工程、および
次いで前記セラミック板を加工することによって、前記振動板を得る工程を備えることを特徴とする、接合体の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
シリコンからなる支持基板上にバルク状の高剛性セラミックス板を直接接合すると、高剛性セラミックス板を100μm以下の厚みに研磨する際の研磨加工に耐えることができず、高剛性セラミックス板の剥離や割れが生ずる。このため、本発明者は、バルク状の高剛性セラミックス板上にα-Siの接合層を設け、この接合層をシリコンからなる支持基板に接合することを試みていた。α-Siの接合層を設けるのは、例えば、振動板を中空構造にするためのエッチングプロセスでコストを抑えることができるためである。α-Siからなる接合層とシリコンからなる支持基板との接合強度は高く、高剛性セラミックス板の厚さを100μm以下まで研磨する加工に耐えることができるはずである。
【0016】
しかし、研磨加工を行う際には、高剛性セラミック板と接合層との界面で割れや剥がれが生じてくる可能性が高いと考えられた。なぜなら、高剛性セラミック板には曲げ強度が必要なので、高剛性セラミック板の表面を平滑化することが必要である。しかし、高剛性セラミック板表面が平滑であると、その表面に設ける接合層(アモルファスシリコン)の表面への密着性が低下するために、高剛性セラミック板と接合層との平滑な界面で剥離や割れが生じやすくなるはずである。
【0017】
本発明者は、以上を考慮しつつ、高剛性セラミック板の表面(接合層を設けるべき接合面)の平滑性を高くすることを試みたところ、場合によっては、接合面が平滑であっても、研磨加工時に接合層との界面で剥がれや割れが生じにくくなることを見いだした。
【0018】
本発明者は、こうした予想を超えた特性を示した振動板接合体について更に検討してみた。この結果、高剛性セラミック板の接合面の算術平均粗さ(Ra)がきわめて小さい平滑面であった場合にも、高剛性セラミック板の物性によっては接合面に微細なボイドに起因するピットが残留し、この表面ピットの作用によって剥離が抑制されることを発見し、本発明に到達した。
【0019】
すなわち、振動板の接合面の算術平均粗さRaが10.0nmを超える場合には、振動板として振動させた際の曲げ強度が弱く、高振幅・高周波の振動に耐えることができないので、Raを10.0nm以下の超平滑面とする。この場合でも、振動板の接合面のピット密度を100μmあたり10個以上とすることで、研磨加工時の振動板の割れや剥がれを防止できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は、高剛性セラミック板1の接合面1aに接合層2を設けた状態を示し、(b)は、接合層2の表面2bを中性化原子ビームで活性化した状態を示し、(c)は、支持基板3の接合面3aを中性化原子ビームで活性化した状態を示す。
図2】(a)は、高剛性セラミック板1と支持基板3との接合体4を示し、(b)は、振動板1Aと支持基板3との接合体5を示す。
図3】高剛性セラミック板の接合面の表面ピットの状態を示すAFM測定画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
図1(a)に示すように、高剛性セラミック板1を準備する。高剛性セラミック板の表面1aの算術平均粗さRaを0.01nm以上、10.0nm以下とし、高剛性セラミック板の表面のピット密度を100μmあたり10個以上とする。1bは高剛性セラミック板1の背面である。
【0022】
次いで、高剛性セラミック板1の表面1a上に、α-Siからなる接合層2を成膜する。次いで、図1(b)に示すように、接合層2の接合面2aに対して矢印Aのように中性化原子ビームを照射し、活性化する。一方、支持基板3の接合面3aには、矢印Bのように中性化原子ビームを照射し、活性化する。
【0023】
次いで、図2(a)に示すように、接合層2の活性化された接合面2bと支持基板3の活性化された接合面3aとを接触させ、直接接合することによって、接合体4を得る。次いで、接合体4の高剛性セラミック板1の背面1bを加工することによって、図2(b)に示すように、高剛性セラミック板の厚さを小さくし、厚さ100μm以下の振動板1Aを形成することによって、振動板接合体5を得る。1cは加工面である。
【0024】
シリコンからなる支持基板の厚さは特に限定されないが、加工時の強度保持という観点からは、200μm以上が好ましく、400μm以上が更に好ましい。また、支持基板の接合面の算術平均厚さRaは、直接接合を促進するという観点からは、1nm以下が好ましく、0.3nm以下が更に好ましい。
【0025】
高剛性セラミックスとは、ヤング率≧200GPa、かつ3点曲げ強度≧300GPaのセラミックス材料と定義した。
高剛性セラミックスとしては、サイアロン、コージェライト、ムライト、透光性アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素または炭化珪素が好ましい。
【0026】
また、高剛性セラミック板の厚さは、基板の洗浄や接合などのプロセスのハンドリング性の観点からは、100μm以上が好ましく、200μm以上が更に好ましい。また、高剛性セラミック板の上限は特にはないが、加工にかかる時間を短縮するという観点からは、300μm以下が好ましい。
【0027】
本発明においては、振動板の表面(接合層が設けられる表面)の算術平均粗さRaが0.01nm以上、10.0nm以下であり、振動板の前記表面のピット密度が100μmあたり10個以上である。ただし,振動板接合体においては振動板上に接合層が形成されているので、振動板の表面のRaおよびピット密度は、加工前の高剛性セラミック板の表面のRaおよびピット密度と同じものとする。
【0028】
高剛性セラミック板および振動板表面の算術平均粗さRaを測定するには以下のようにする。まず原子間力顕微鏡(AFM)によって表面を10μm×10μmの視野で測定し、JIS B 0601にしたがってRaを算出する。また,これと同じ測定視野(面積100μm)において、ピット数をカウントする。ここで、ピットの判定基準は以下のとおりとする。すなわち、表面に観測される凹部のうち、以下のものをピットとする。
(1) 凹部のΦ50nm以上、Φ2000nm以下である。
(2) 凹部の深さが1nm以上である。
【0029】
本発明においては、振動板および高剛性セラミックス板の表面(接合層が形成される表面)の算術平均粗さRaを0.01nm以上、10.0nm以下とするが、曲げ強度の観点からは、7.0nm以下が更に好ましく、5.0nm以下が特に好ましい。また、接合層との密着性の観点からは、Raを0.01nm以上とするが、0.02nm以上とすることが更に好ましい。
また、振動板の前記表面のピット密度は100μmあたり10個以上とするが、20個以上とすることが更に好ましい。また、振動板の前記表面のピット密度は通常は100μmあたり200個以下とすることができ、更には96個以下とすることが好ましく、70個以下であることが特に好ましい。
【0030】
振動板および高剛性セラミック板の接合層に面する前記表面に存在するピットは、高剛性セラミック板を緻密に焼結させるために添加している焼結助剤によって発生するものと考えられる。焼成時に余剰となった焼結助剤の大部分は、セラミック粒子の粒界に凝集して存在する。焼結助剤が残った高剛性セラミックスをウエハー化して鏡面に研磨する際、焼結助剤が凝集した部分の方が、高剛性セラミックス自体よりも研磨レートが早いため、焼結助剤が凝集した部分がピットになる。このことから、焼結助剤の添加量とピットの数には相関があり、焼結助剤の添加量によってピット数を調整することが可能である。
【0031】
高剛性セラミック板の曲げ強度と低いRaとを得る上で、高剛性セラミック板の相対密度は、95%以上が好ましく、99%以上が更に好ましい。また、前記のようなRaとピット密度を得るために適切な焼結助剤の種類および量は、焼結すべき高剛性セラミックスの種類によって適宜選択する。例えば、焼結助剤としては、Y2O3、CaO、MgO、ZrO2を例示できる。
【0032】
本発明においては、振動板および高剛性セラミックス板の背面(接合層が形成されていない側の表面)の算術平均粗さRaは、曲げ強度の観点からは、0.01nm以上、10.0nm以下が好ましい。
【0033】
高剛性セラミック板の表面の研磨方法としては、例えば#3000の砥石で所望の厚みまで研削した後、粒度3μmのダイヤスラリーにてラップ(lap)研磨し、仕上げに化学機械研磨加工(CMP)により鏡面化した。
【0034】
高剛性セラミック板上に成膜する接合層2の厚さは、特に限定されないが、製造コストの観点からは0.01~10μmが好ましく、0.05~0.5μmが更に好ましい。
接合層2の成膜方法は限定されないが、スパッタリング(sputtering)法、化学的気相成長法(CVD)、蒸着を例示できる。
【0035】
接合層2の接合面、支持基板の接合面を平坦化する方法は、ラップ(lap)研磨、化学機械研磨加工(CMP)などがある。
【0036】
好適な実施形態においては、中性化原子ビームによって、接合層2の表面2b、支持基板3の表面3aを活性化できる。特に、接合層2の表面2b、支持基板3の表面3aが平坦面である場合には、直接接合しやすい。
【0037】
中性原子ビームによる表面活性化を行う際には、特許文献2に記載のような装置を使用して中性ビームを発生させ、照射することが好ましい。すなわち、ビーム源として、サドルフィールド型の高速原子ビーム源を使用する。そして、チャンバーに不活性ガスを導入し、電極へ直流電源から高電圧を印加する。これにより、電極(正極)と筺体(負極)との間に生じるサドルフィールド型の電界により、電子eが運動して、不活性ガスによる原子とイオンのビームが生成される。グリッドに達したビームのうち、イオンビームはグリッドで中和されるので、中性原子ビームが高速原子ビーム源から出射される。ビームを構成する原子種は、不活性ガス(アルゴン、窒素等)が好ましい。
ビーム照射による活性化時の電圧は0.5~2.0kVとすることが好ましく、電流は50~200mAとすることが好ましい。
【0038】
次いで、真空雰囲気で、活性化面同士を接触させ、接合する。この際の温度は常温であるが、具体的には40℃以下が好ましく、30℃以下が更に好ましい。また、接合時の温度は20℃以上、25℃以下が特に好ましい。接合時の圧力は、100~20000Nが好ましい。
【0039】
次いで、高剛性セラミック板を加工することによって、厚さ100μm以下の振動板を得る。この振動板の厚さは、目的とする周波数に応じて選択するので、厚さの下限は特にないが、加工の容易さからは1μm以上が好ましい。この加工方法としては、例えば、#3000の砥石で所望の厚みまで研削した後、粒度3μmのダイヤスラリーにてラップ(lap)研磨し、仕上げに化学機械研磨加工(CMP)により鏡面化した。
【実施例
【0040】
(実施例1~8)
図1図2を参照しつつ説明したようにして、振動板接合体を試作した。
具体的には、直径が4インチ、厚さが250μmのウエハー形状のサイアロン基板を、高剛性セラミック板1として使用した。高剛性セラミック板1の表面1aは、算術平均粗さRaが、表1、表2、表3に示す各数値となるように、それぞれ、#3000の砥石で所望の厚みまで研削した後、表1に示す振動板表面(Ra≦1nm)の場合、粒度3μmのダイヤスラリーにてラップ(lap)研磨し、仕上げに化学機械研磨加工(CMP)により鏡面化した。Raの数値を調整するために、CMP研磨時の加工圧力、加工時間を調整した。表2に示す振動板表面(Ra>1nm)の場合、ダイヤスラリーにてラップ(lap)研磨し、鏡面化した。Raの数値を調整するために、仕上げに使用するダイヤスラリーは粒度0.5μmから6μmの中から選択して使用した。
【0041】
また、高剛性セラミックス振動板1の表面1aのRaは、原子間力顕微鏡(AFM)によって10μm×10μmの視野で測定した。また、この際に原子間力顕微鏡(AFM)によって10μm×10μmの視野において、Φ50nm以上、Φ2000nm以下のピット数をカウントした。ただし、高剛性セラミックス板1の表面1aのピット数を測定する際には、ウエハー状の板1の中心点、板1のオリエンテーションフラットから10mm内側にある点、および板1のオリエンテーションフラットと反対の端から10mm内側の点の合計3か所においてそれぞれピット密度を測定し、3点の測定値の平均値をピット密度とし、表1、表2、表3に示した。
なお、図3には、実施例4で用いた高剛性セラミック板の表面状態を示す(Ra=0.07nm、10μm×10μmの視野におけるピット密度=58個)
【0042】
また、各例の高剛性セラミック板の曲げ強度は、接合した後の基板では測定することができない。このため、予め、各例の高剛性セラミック基板1と同じ材質、厚さ、Raおよびピット密度を有する各高剛性セラミック板を準備しておき、各高剛性セラミック板からそれぞれ各試験片を切り出し、3点曲げ強度を測定した。曲げ強度の測定方法は JIS R 1601 (ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)における3点曲げ強度試験の規格に準じて測定した。試験片のサイズはサンプル長40.0mm、幅4.0mm、厚み3.0mmである。
【0043】
次いで、高剛性セラミックス板1の表面1aに、直流スパッタリング法によって接合層2を成膜した。ターゲットにはボロンドープのSiを使用した。接合層2の厚さは30~200nmとした。接合層2の表面2aの算術平均粗さRaは0.2~0.6nmであった。次いで、接合層2を化学機械研磨加工(CMP)し、膜厚を20~150nmとし、Raを0.08~0.4nmとした。
【0044】
一方、支持基板3として、オリエンテーションフラット(OF)部を有し、直径が4インチ,厚さが500μmのシリコンからなる支持基板3を用意した。支持基板3の表面は、化学機械研磨加工(CMP)によって仕上げ加工されており、算術平均粗さRaは0.2nmとなっている。
【0045】
次いで、接合層2の表面2bと支持基板3の表面3aとを洗浄し、汚れを取った後、真空チャンバーに導入した。10-6Pa台まで真空引きした後、各表面に高速原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量27sccm)を120sec間照射した。ついで、接合層2の活性化された表面2bと支持基板3の活性化された表面3aとを接触させた後、10000Nで2分間加圧して接合した(図2(a))。次いで、得られた各例の接合体4を100℃で20時間加熱した。
次いで、高剛性セラミックス板1の背面1bを厚みが当初の250μmから40μmになるように研削及び研磨した(図2(b)参照)。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
実施例1~8においては、ピット密度は10~96個であり、前記Raは0.02~9.97nmであるが、振動板1Aを40μmの薄さまで研磨しても、全く剥がれが生じなかった。前記Raが大きいほどセラミックの曲げ強度が落ちる傾向がみられるが、Ra=9.97nmの場合でも、曲げ強度の結果は500MPaと十分高い結果であった。
【0050】
(比較例1)
比較例1では、α-Siからなる接合層2を高剛性セラミックス板1に成膜しなかった。その代わりに、高剛性セラミック板1の表面1aに対して高速原子ビームを当てて、高剛性セラミックス板1の活性化された表面1aと支持基板3の活性化された表面3aとを接触させて接合し、接合体を得た。ただし、比較例1の高剛性セラミックス板1の表面1aのピット数は51個であり、Raは0.03nmであった。また、α-Siの接合層を成膜しなかったこと以外は、実施例1と同条件にて作製している。
【0051】
次いで、得られた接合体の高剛性セラミックス板1の背面1bを研削および研磨加工し、厚みが当初の250μmから薄くなるように研削及び研磨を試みた。高剛性セラミックス板1の厚みが110μmとなった時に、高剛性セラミックス板と支持基板の接合界面において剥がれが生じた。剥がれが生じたのは、接合体における高剛性セラミックス板1と支持基板3との接合強度が、実施例1~8における接合強度よりも低く、高剛性セラミックス板1を研磨する際の加工応力に耐えられなかったためと考えられる。
【0052】
(比較例2、3)
比較例2、3の各接合体は、実施例1~8と同じ条件にて作成している。
ただし、比較例2では、高剛性セラミックス板1の表面1aのピット数は4個と少なく、表面1aのRaは0.01nmであった。この場合、高剛性セラミックス板1の背面を厚みが100μmとなるまで研削及び研磨にて薄くした際に、高剛性セラミックス板1の表面と接合層2の界面にて剥がれが生じた。これは、高剛性セラミックス板1と接合層2の密着強度が、高剛性セラミックス板1を研磨する際の加工応力に耐えられなかったためと考えられる。
【0053】
一方、実施例1~4のセラミック界面の表面Raが0.2nm未満と十分小さい場合でも剥がれが生じなかったのは、高剛性セラミックス板1の表面1aにピットが存在し、ピット上に成膜された接合層2はアンカー効果により密着力が向上したためと推測している。
【0054】
比較例3では、高剛性セラミックス振動板1の表面1aのピット数は55個であるが、表面1aのRaは10.85nmであった。Raが10.85nmの場合、高剛性セラミックス板の曲げ強度は300MPaに低下した。これは、高剛性セラミックス板の表面に存在する凹凸に応力が集中したために曲げ強度が弱くなったためと考えられる。
図1
図2
図3