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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】水栓バルブ
(51)【国際特許分類】
   F16K 3/06 20060101AFI20220307BHJP
   E03C 1/042 20060101ALI20220307BHJP
   C04B 35/10 20060101ALI20220307BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20220307BHJP
   F16K 11/078 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
F16K3/06 A
E03C1/042 Z
C04B35/10
C04B41/87 H
F16K11/078 B
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018006470
(22)【出願日】2018-01-18
(65)【公開番号】P2018119682
(43)【公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2017012183
(32)【優先日】2017-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】浮貝 沙織
(72)【発明者】
【氏名】寺本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】中 裕二
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-314712(JP,A)
【文献】特開2015-187297(JP,A)
【文献】特開平05-325175(JP,A)
【文献】特開平08-178088(JP,A)
【文献】特開2006-104529(JP,A)
【文献】特開2001-124220(JP,A)
【文献】特開2003-212642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/047
35/053-35/106
35/109-35/22
35/45-35/457
35/547-35/553
41/80-41/91
E03C 1/00-1/10
F16K 3/00-3/36
11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1摺動面を有しアルミナ質焼結体で構成される第1弁体と、
第2摺動面を有しアルミナ質焼結体で構成される第2弁体と、を含み、前記第1摺動面と前記第2摺動面の少なくとも一部同士が水を介して接する水栓バルブであって、
前記第2摺動面の少なくとも一部に第1のアモルファスカーボン層が設けられており、前記第1のアモルファスカーボン層の硬度は前記第1弁体を構成するアルミナ質焼結体の硬度以下であり、
前記第1のアモルファスカーボン層は、ラマン分光法で測定されるDピークとGピークとの比(ID/IG)が1以上1.9未満であり、
水を介して前記第1弁体と前記第2弁体とを摺動させた際に、前記第1弁体と前記第2弁体との間に潤滑層が形成される、水栓バルブ。
【請求項2】
前記比(ID/IG)が1.0より大きく1.5未満である、請求項1に記載の水栓バルブ。
【請求項3】
前記比(ID/IG)が1.1以上1.4以下である、請求項1に記載の水栓バルブ。
【請求項4】
ラマン分光法で測定されるN/(N+S)が0.33未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【請求項5】
ラマン分光法で測定されるN/(N+S)が0.31以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【請求項6】
前記N/(N+S)が0.23以上である、請求項4又は5に記載の水栓バルブ。
【請求項7】
前記第1のアモルファスカーボン層の硬度は30GPa以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【請求項8】
前記第1のアモルファスカーボン層の硬度は25GPa以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【請求項9】
前記第1のアモルファスカーボン層の表面粗さは0.3μm未満である、請求項1~8のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【請求項10】
前記第1のアモルファスカーボン層がさらにSi、Cl、F、N、Oからなる群より選ばれる1種以上の第3元素を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【請求項11】
前記第1摺動面の少なくとも一部に第2のアモルファスカーボン層を設けた請求項1~10のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【請求項12】
前記第1のアモルファスカーボン層の硬度と前記第2のアモルファスカーボン層の硬度は同じである、請求項11に記載の水栓バルブ。
【請求項13】
前記第1のアモルファスカーボン層の硬度と前記第2のアモルファスカーボン層の硬度は異なる、請求項11に記載の水栓バルブ。
【請求項14】
前記第2のアモルファスカーボン層がさらにSi、Cl、F、N、Oからなる群より選ばれる1種以上の第3元素を含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の水栓バルブ
【請求項15】
(1)前記第2のアモルファスカーボン層と前記第1弁体との間に第1中間層を備えた
(2)前記第1のアモルファスカーボン層と前記第2弁体との間に第2中間層を備えた、又は
(3)前記第2のアモルファスカーボン層と前記第1弁体との間に第1中間層を備え、かつ前記第1のアモルファスカーボン層と前記第2弁体との間に第2中間層を備えた、請求項11~14のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【請求項16】
前記第2のアモルファスカーボン層と前記第1中間層との間に第1複合層又は第1傾斜層を備えた請求項15に記載の水栓バルブであって、前記第1複合層はアモルファスカーボンと前記第1中間層に含まれる中間層材料とを含む層であり、前記第1傾斜層は前記第1中間層に含まれる中間層材料の組成が前記第1中間層側から前記第2のアモルファスカーボン層に向かって減少するアモルファスカーボンと中間層材料とを含む層である、前記水栓バルブ。
【請求項17】
前記第1のアモルファスカーボン層と前記第2中間層との間に第2複合層又は第2傾斜層を備えた請求項15又は16に記載の水栓バルブであって、前記第2複合層はアモルファスカーボンと前記第2中間層に含まれる中間層材料とを含む層であり、前記第2傾斜層は前記第2中間層に含まれる中間層材料の組成が前記第2中間層側から前記第1のアモルファスカーボン層に向かって減少するアモルファスカーボンと中間層材料とを含む層である、前記水栓バルブ。
【請求項18】
前記第1中間層、前記第2中間層の一方又は両方が、Cr、W、Ti、Si及びAlからなる群より選ばれる1種以上の中間層材料を含む、請求項15~17のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【請求項19】
前記第1のアモルファスカーボン層の硬度は8GPaより大きい、請求項1~18のいずれか1項に記載の水栓バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水栓バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
高剛性、耐腐食性であって、低コストを実現するために、水栓バルブとして安価なアルミナを用いることが検討されている。この水栓バルブの摺動性を高めるために、一方の弁体をアモルファスカーボン層で被覆した水栓バルブが知られている(例えば特開平9-126239号公報)。一般に摺動部材にアモルファスカーボンを適用する場合、アモルファスカーボンの有する「硬質」特性を生かすべく、なるべく硬いアモルファスカーボン層で被覆される。つまり一方の弁体をアモルファスカーボン層で被覆した水栓バルブでは通常、摺動により、被覆膜を有さない方の弁体が摩耗する(例えば特開平9-292039号公報の[0021]、特開2004-183699号公報の[0027])。しかしながら、被覆膜を有さない焼結体である弁体自身が摩耗すると焼結体由来の高硬度な摩耗粉が多く発生し、経時的に摺動特性が悪化してしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-126239号公報
【文献】特開平9-292039号公報
【文献】特開2004-183699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水を介して摺動される水栓バルブにおいて、優れた摺動性を有するセラミック製のバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
アモルファスカーボン層の構造は、ダイヤモンド様構造とグラファイト様構造が混在したアモルファス構造であり、それぞれの比率はさまざまである。本発明者らは、アモルファスカーボン層としてアルミナ弁体よりも軟らかい膜となる構造を採用するとアモルファスカーボン層が摩耗した場合でも摩耗粉を比較的軟らかくできるという特徴に着目した。すなわち、相手材硬度と同等以下の硬度のアモルファスカーボン層を選択して摺動させ、アモルファスカーボン層を意図的に摩耗させた。さらに、アモルファスカーボン層として水との反応が生じやすいものを選択するよう工夫した。具体的にはアモルファスカーボン層において、ラマン分光法で測定されるID/IG比を所定範囲内とし、アモルファスカーボン層を水と反応しやすくした。その結果、微量の水を介してこれら弁体を摺動させた際にアモルファスカーボン層を選択的に摩耗させることができ、第1弁体と第2弁体との間に形成される潤滑層の量を比較的多くすることができることを見出した。そして、それによって、第1、2弁体の更なる摩耗の進行を効果的に抑制することができるとの知見を得た。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
第1摺動面を有しアルミナ質焼結体で構成される第1弁体と、
第2摺動面を有しアルミナ質焼結体で構成される第2弁体と、を含み、前記第1摺動面と前記第2摺動面の少なくとも一部同士が水を介して接する水栓バルブであって、
前記第2摺動面の少なくとも一部に第1のアモルファスカーボン層が設けられており、前記第1のアモルファスカーボン層の硬度は前記第1弁体を構成するアルミナ質焼結体の硬度以下であり、
前記第1のアモルファスカーボン層は、ラマン分光法で測定されるDピークとGピークとの比(ID/IG)が0.5より大きく1.9未満である、水栓バルブ
を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、水を介して摺動される水栓バルブにおいて、優れた摺動性を有するセラミック製のバルブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の水栓バルブの一実施形態を構成する弁体を分離した状態を示す分解斜視図である。
図2】第2弁体の構造を示す拡大断面図である。
図3】実施例および比較例(ただし、第1のアモルファスカーボン層の硬度が第1弁体を構成するアルミナ質焼結体の硬度よりも大きい場合を除く)における比(ID/IG)とアモルファスカーボン層の摩耗量との関係を示すグラフである。
図4】ボールオンディスク摩擦摩耗試験後の第1弁体(ボール)の顕微鏡写真である。
図5】実施例3(a)及び比較例3(b)におけるボールオンディスク摩擦摩耗試験後の第1弁体(ボール)の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水栓バルブは、第1摺動面を有しアルミナ質焼結体で構成される第1弁体と、第2摺動面を有しアルミナ質焼結体で構成される第2弁体と、を含み、前記第1摺動面と前記第2摺動面の少なくとも一部同士は水を介して接している。そして、前記第2摺動面の少なくとも一部に第1のアモルファスカーボン層が設けられている。前記第1のアモルファスカーボン層は、その硬度が前記第1弁体を構成するアルミナ質焼結体の硬度以下である。アモルファスカーボン層の硬度は、例えば、ナノインデンテーション法によって測定される。前記第1のアモルファスカーボン層の硬度は、好ましくは30GPa以下であり、より好ましくは25GPa以下である。また、前記第1のアモルファスカーボン層の硬度は、8GPaより大きいことが好ましい。前記第1のアモルファスカーボン層の硬度をこのような硬度とすることで潤滑層が形成されやすく、その結果前記第1のアモルファスカーボン層の摩耗の進行を抑制することができる。
また、前記第1のアモルファスカーボン層は、ラマン分光法で測定されるDピークとGピークとの比(ID/IG)が0.5より大きく1.9未満である。前記第1のアモルファスカーボン層の比(ID/IG)は、好ましくは1.0より大きく1.5未満であり、より好ましくは1.1以上1.4以下である。前記第1のアモルファスカーボン層比(ID/IG)をこのような範囲とすることで潤滑層が形成されやすく、その結果前記第1のアモルファスカーボン層の摩耗の進行を抑制することができる。さらに、前記第1のアモルファスカーボン層は、好ましくはラマン分光法で測定されるN/(N+S)が0.33未満であり、より好ましくは0.31以下である。さらに好ましくはN/(N+S)が0.23以上である。前記第1のアモルファスカーボン層のN/(N+S)をこのような範囲とすることで潤滑層が形成されやすく、その結果前記第1のアモルファスカーボン層の摩耗の進行を抑制することができる。
【0009】
また、前記第1のアモルファスカーボン層の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、好ましくは0.3μm未満であり、より好ましくは0.2μm未満であり、更により好ましくは0.1μm以下である。前記第1のアモルファスカーボン層の表面粗さをこのような範囲とすることで前記第1のアモルファスカーボン層の摩耗量を減少させることができる。
また、前記第1のアモルファスカーボン層は、さらにSi、Cl、N、F、Oなどの第3元素を含んでもよい。前記第1のアモルファスカーボン層が前記第3元素を含むことで、摩擦係数を低減でき、レバー操作力をさらに低減して滑らかに摺動させることができる。
第1のアモルファスカーボン層の厚さは、0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。この範囲とすることで、第1のアモルファスカーボン層が多少磨耗した場合であっても潤滑層を良好に形成することができる。
また、前記第1のアモルファスカーボン層と前記第2弁体との間には、前記第2弁体と前記第1のアモルファスカーボン層と間の密着性を向上させるために第2中間層を備えてもよい。またこの場合、前記第1のアモルファスカーボン層と前記第2中間層との間には、第2複合層又は第2傾斜層を備えてもよい。ここで、前記第2複合層はアモルファスカーボンと前記第2中間層に含まれる中間層材料とを含む層である。この第2複合層において、アモルファスカーボンと中間層材料とが交互に積層されていてもよい。あるいはアモルファスカーボンと中間層材料とが混合されていてもよい。前記第2傾斜層は前記第2中間層に含まれる中間層材料の組成が第2中間層側から第1のアモルファスカーボン層に向かって減少する、および/または、アモルファスカーボンの組成が第1のアモルファスカーボン層に向かって増加する、アモルファスカーボンと中間層材料とを含む層である。第2複合層および/または第2傾斜層は、例えばエネルギー分散型X線分光分析装置を用い元素マッピングを行うことで確認することができる。前記第2中間層に含まれる中間層材料は、前記第2弁体と前記第1のアモルファスカーボン層との密着性を高めることができるものであれば特に限定されない。前記中間層材料としては、例えばCr、W、Ti、Si、Alなどが挙げられる。
【0010】
前記第1摺動面の少なくとも一部には、第2のアモルファスカーボン層を設けてもよい。この場合、前記第1のアモルファスカーボン層の硬度と前記第2のアモルファスカーボン層の硬度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また、前記第2のアモルファスカーボン層は、さらにSi、Cl、N、F、Oなどの第3元素を含んでもよい。前記第2のアモルファスカーボン層が前記第3元素を含むことで、摩擦係数を低減でき、レバー操作力をさらに低減して滑らかに摺動させることができる。
また、前記第2のアモルファスカーボン層と前記第1弁体との間には、前記第1弁体と前記第2のアモルファスカーボン層と間の密着性を向上させるために第1中間層を備えてもよい。またこの場合、前記第2のアモルファスカーボン層と前記第1中間層との間には、第1複合層又は第1傾斜層を備えてもよい。ここで、前記第1複合層はアモルファスカーボンと前記第1中間層に含まれる中間層材料とを含む層であり、前記第1傾斜層は前記第1中間層に含まれる中間層材料の組成が第1中間層側から第2のアモルファスカーボン層に向かって減少するアモルファスカーボンと中間層材料とを含む層である。前記第1中間層に含まれる中間層材料は、前記第1弁体と前記第2のアモルファスカーボン層との密着性を高めることができるものであれば特に限定されない。前記中間層材料としては、例えばCr、W、Ti、Si、Alなどが挙げられる。
【0011】
第1弁体および第2弁体を構成するアルミナ質焼結体は、アルミナ(Al23)を主成分とする。アルミナ質焼結体としては、十分な強度を有し、ポアが比較的少ない市販の焼結体を用いることができる。アルミナ(Al23)を主成分とするアルミナ質焼結体として、例えばアルミナ(Al23)純度が50%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは96%以上のものを用いることができる。
【0012】
以下、本発明の水栓バルブを、例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されない。図1は、本発明の水栓バルブの一実施形態を構成する弁体を分離した状態を示す分解斜視図である。
水栓バルブ100は、第1弁体と第2弁体とを含む。ここでは、第2弁体が可動弁体20、第1弁体が固定弁体30である例について説明するが、第1弁体が可動弁体20、第2弁体が固定弁体30であってもよい。可動弁体20は第2摺動面21を有する。固定弁体30は第1摺動面31を有する。水栓バルブ100において、第1摺動面31と第2摺動面21の少なくとも一部同士が水を介して接している。
可動弁体20(第2弁体)は、例えば上下面を貫通する流体通路22を備えた円盤状をしたもので、アルミナ質焼結体により形成するとともに、図2に示すように、その表面には第2中間層23を介してアモルファスカーボン層24(第1のアモルファスカーボン層)を被着して摺動面21(第2摺動面)を形成してある。
また、固定弁体30は、例えば上下面を貫通する流体通路32および2つの流体吐出口33a、33b(例えば湯吐出口と水吐出口)を備え、可動弁体20より大きな円盤状で形成してある。
そして、これらの可動弁体20と固定弁体30とを潤滑剤が介在しない状態で互いの摺動面21、31同士を密着させ、レバー(不図示)を動かして、可動弁体20を摺動させることにより、互いの弁体20、30に備える流体通路22、32の開閉を行い、供給流体の流量調整を行うと共に、流体吐出口33a、33bの開度調整を行うようになっている。
この時、可動弁体20の摺動面21には自己潤滑性に優れるアモルファスカーボン層を被着してあることから、潤滑剤が介在しない状態にも関わらず固定弁体30を大きく摩耗させることなくレバー操作力を低減して滑らかに摺動させることができる。
【0013】
アモルファスカーボン層におけるDピークとGピークとの比およびN/(N+S)は、以下の方法により求めることができる。
まず、レーザーラマン分光分析を行う。レーザーラマン分光分析では、レーザーラマン顕微鏡(RAMAN Touch VIS-NIR(ナノフォトン製))を用い、測定倍率20倍、測定径~1μmとする。光源として、レーザー波長532nm、レーザーパワー0.5mWのものを用い、露光時間を1秒、積算回数10回とする。回折格子は600gr/mmとしてラマンスペクトルを得る。
解析は、Origin Pro 2016(ライトストーン製)などの解析ソフトを用いて行う。得られたラマンスペクトルの波形から、バックグラウンドを除去する。波数1350cm-1付近と、波数1530cm-1付近の2つのピーク(それぞれDバンド、Gバンドとする)について、ガウス関数を用いたカーブフィッティング法で、波形分離する。DバンドおよびGバンドの面積をそれぞれID、IGとし、2本のバンドの面積比を比(ID/IG)とする。ラマンスペクトルのGバンドのピーク位置におけるラマン散乱光成分強度をS、蛍光成分強度をNとして、その強度比率N/(N+S)を求める。
【0014】
アモルファスカーボン層の硬度は以下の方法で求めることができる。
超微小押し込み硬さ試験機(ENT-2100、エリオニクス製、三角錐ダイヤモンド圧子)を用い、試験荷重5mN、ステップインターバル20msec、保持時間1000msecで測定する。10回測定を行い、最大値と最小値を除いた8個の測定値の平均値を膜硬度とする。
【0015】
アモルファスカーボン層の表面粗さは以下の方法で求めることができる。
表面粗さ計(SURFCOM 1500、東京精密製)を用い、JIS B 0601:2001に基づいて測定を行い、算術平均粗さ(Ra)とする。
【実施例
【0016】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0017】
1.サンプル作製
1-1.基材
第2弁体の基材には、アルミナ純度が96%のアルミナ質焼結体を用いた。焼結体の摺動面(第2摺動面)を、所定の表面粗さになるよう研摩した。
【0018】
1-2.被覆層(アモルファスカーボン層)の成膜
(実施例1~7、並びに比較例1、4~7及び9)
アンバランスドマグネトロンスパッタリング装置を用いた。ヒーターで基材を所定の温度でベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、中間層、アモルファスカーボン層の順に成膜した。中間層原料は、クロム及びタングステンを用いた。アモルファスカーボン層原料は、固体カーボンおよび炭化水素(メタンおよび/またはアセチレン)ガスを用いた。成膜圧力や炭化水素ガス混合比、基材に印加するバイアス電圧などを調整することで、実施例1~7、並びに比較例1、4~7及び9のサンプル(第2弁体)を得た。いずれのサンプルにおいても、アモルファスカーボン層の膜厚は、0.5-2μmの範囲であった。また、比較例1の第2弁体には、実施例5と同じサンプルを用いた。
(実施例8及び比較例2)
プラズマ化学気相堆積(CVD)成膜装置を用いた。また、プラズマ源として高周波プラズマ及び直流プラズマを用いた。Arプラズマにて基材表面をエッチング後、中間層、アモルファスカーボン層の順に成膜した。中間層原料には、炭化ケイ素を用いた。アモルファスカーボン層原料は、炭化水素(メタンおよび/またはアセチレン)ガスを用いた。成膜圧力や炭化水素ガス混合比、基材に印加するバイアス電圧などを調整することで、実施例8及び比較例2のサンプルを得た。アモルファスカーボン層の膜厚は、1μmであった。
(実施例9)
プラズマ化学気相堆積(CVD)成膜装置を用いた。また、プラズマ源として熱フィラメント式プラズマを用いた。Arプラズマにて基材表面をエッチング後、中間層、アモルファスカーボン層の順に成膜した。中間層原料には、炭化ケイ素を用いた。アモルファスカーボン層原料は、炭化水素(メタンおよび/またはアセチレン)ガスを用いた。成膜圧力や炭化水素ガス混合比、基材に印加するバイアス電圧などを調整することで、実施例9のサンプルを得た。アモルファスカーボン層の膜厚は、1μmであった。
(実施例10)
プラズマ化学気相堆積(CVD)成膜装置を用いた。また、プラズマの生成にはリニアイオン源を用いた。Arプラズマにて基材表面をエッチング後、中間層、アモルファスカーボン層の順に成膜した。中間層はアンバランスドマグネトロンスパッタリングで成膜し、原料には、クロムを用いた。アモルファスカーボン層原料は、炭化水素(メタンおよび/またはアセチレン)ガスを用いた。成膜圧力や炭化水素ガス混合比、基材に印加するバイアス電圧などを調整することで、実施例10のサンプルを得た。アモルファスカーボン層の膜厚は、1μmであった。
(比較例3及び8)
アークイオンプレーティング成膜装置を用いた。ヒーターで基材を所定の温度でベーキングして、Arプラズマにて基材表面をエッチング後、中間層、アモルファスカーボン層の順に成膜した。中間層原料には、チタンを用いた。アモルファスカーボン層原料は、固体カーボンを用いた。成膜圧力や基材に印加するバイアス電圧などを調整することで、比較例3及び8のサンプルを得た。アモルファスカーボン層の膜厚は、1μmであった。
【0019】
2.分析・評価方法
上記にて作成した各サンプルについて、以下の分析・評価を実施した。
2-1.アモルファスカーボン層のラマン分光分析(比(ID/IG)及びN/(N+S))
〔測定〕
下記条件にて、レーザーラマン分光分析を行い、ラマンスペクトルを得た。
装置:レーザーラマン顕微鏡 RAMAN Touch VIS-NIR(ナノフォトン製)
条件:測定倍率;20倍
測定径;~1μm
光源;レーザー波長 532nm、レーザーパワー 0.5mW
露光時間:1秒
積算回数:10回
回折格子;600gr/mm
〔解析〕
解析ソフトは、Origin Pro 2016(ライトストーン製)を用いた。
(比(ID/IG))
得られたラマンスペクトルの波形から、バックグラウンドを除去した。波数1350cm-1付近と、波数1530cm-1付近の2つのピーク(それぞれDバンド、Gバンドとする)について、ガウス関数を用いたカーブフィッティング法で、波形分離した。DバンドおよびGバンドの面積をそれぞれID、IGとし、2本のバンドの面積比を比(ID/IG)とした。
(N/(N+S))
ラマンスペクトルのGバンドのピーク位置におけるラマン散乱光成分強度をS、蛍光成分強度をNとしたとき、その強度比率N/(N+S)を求めた。
【0020】
2-2.アモルファスカーボン層の硬度:ナノインデンテーション試験
超微小押し込み硬さ試験機(ENT-2100、エリオニクス製、三角錐ダイヤモンド圧子)を用いて硬度を測定した。測定条件は、試験荷重5mN、ステップインターバル20msec、保持時間1000msecで行った。膜硬度の値として、10回測定を行い、最大値と最小値を除いた8個の測定値の平均値を用いた。
【0021】
2-3.アモルファスカーボン層の表面粗さ(Ra):表面粗さ測定
表面粗さ計(SURFCOM 1500、東京精密製)を用いて、算術平均粗さ(Ra)を測定した。測定条件は、JIS B 0601:2001に基づいて設定した。
比較例3のサンプルでは、表面粗さが0.2μmであり、表面が粗かった。その他のサンプルでは表面粗さはいずれも0.1μm以下と平滑であった。
【0022】
2-4.比摩耗量:ボールオンディスク摩擦摩耗試験
(摩耗試験)
下記条件にて、ボールオンディスク摩擦摩耗試験を行った。上記にて得られた実施例1~6および比較例1~3のサンプルを第2弁体とした。ボール(第1弁体)材質には、アルミナ質焼結体またはステンレス鋼(SUS)を用いた。
装置:摩擦摩耗試験機 FPR-2100(レスカ製)
条件:荷重;400g
速度;10mm/s
摺動幅;5mm
往復回数;5000 往復
摺動環境;室温水中
(比摩耗量の算出)
レーザー顕微鏡(OLS‐4100、オリンパス製)にて、摩擦摩耗試験後のアモルファスカーボン層(第1のアモルファスカーボン層)の摩耗痕の断面積を測定した。得られた摩耗痕の断面積を用いて、次式にて比摩耗量を算出した。
【0023】
2-5.潤滑層の観察
上記比摩耗量算出後のボール(第1弁体)をエタノールで洗浄後、乾燥させた。その後、デジタルマイクロスコープ(DVM6、Leica Microsystems製)にて、摩擦摩耗試験のボール(第1弁体)の摩耗痕を観察した。具体的には、露光時間を33ms、カラーゲインをR400、G256、B350、彩度25、CXI照明を輝度60とし、ラムダ板無で観察を行い、アモルファスカーボン層由来の潤滑層が観察されたものを○、潤滑層が観察されなかったものを×、とした。図5(a)(b)に、それぞれ、実施例3、比較例3の潤滑層観察結果を示す。
【0024】
2-6.複合層の確認
成膜後の各サンプルを切断し、得られた断面を研摩して観察用試料を得た。走査電子顕微鏡(S-4100、日立製)にて、中間層およびアモルファスカーボン層の断面を観察した。それぞれの層が観察される視野にて、エネルギー分散型X線分光分析装置(EMAX-7000、堀場製作所製)を用いて、炭素および中間層元素について元素マッピングを行った。その結果、全てのサンプルにおいてアモルファスカーボン層と中間層元素の複合層を確認した。
【0025】
3.結果
上記分析・評価の結果を表1に示す。また、比(ID/IG)とアモルファスカーボン層の比摩耗量との関係を図3のグラフに示す(ただし、第1のアモルファスカーボン層の硬度が第1弁体を構成するアルミナ質焼結体の硬度よりも大きい場合を除く)。これらの結果から、第1弁体がアルミナ質焼結体である場合に、比(ID/IG)が所定の範囲内(0.5より大きく1.9未満)となることで、潤滑層が十分に形成され、比摩耗量が小さくなった(実施例1~6)。比(ID/IG)が所定の範囲外となる場合には、潤滑層が形成されず、比摩耗量が大きくなった(比較例2、4~6および9)。また、第1弁体がSUSの場合には、アモルファスカーボン層は摩耗されず、SUSの削れ粉が発生した(比較例1)。
【0026】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5