(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】情報処理システム及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20120101AFI20220307BHJP
【FI】
G06Q10/06
(21)【出願番号】P 2021102783
(22)【出願日】2021-06-21
【審査請求日】2021-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316014906
【氏名又は名称】株式会社FRONTEO
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】特許業務法人SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久光 徹
(72)【発明者】
【氏名】蓮子 和巳
(72)【発明者】
【氏名】稲津 幸生
【審査官】緑川 隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0120373(US,A1)
【文献】特開2016-038658(JP,A)
【文献】特開2017-211990(JP,A)
【文献】特開2015-026388(JP,A)
【文献】FRONTEO、サプライチェーン分析ソリューション提供開始,株式会社FRONTEOプレスリリース,2021年06月01日,https://www.fronteo.com/20210601,[検索日:2021年8月30日],インターネット
【文献】立本 博文,プラットフォーム企業のグローバル戦略 初版,第1版,株式会社有斐閣 江草 貞治,2017年03月30日,第163-164頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の提供元企業及び提供先企業を対応付けた取引関係情報を含む公開情報に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたサプライチェーンネットワークを取得するサプライチェーンネットワーク取得部と、
前記複数の企業のうちのいずれかを関心企業として選択する選択操作を受け付ける入力受け付け部と、
前記関心企業に製品を供給する上流側企業を含む上流側サブネットワーク、及び、前記関心企業から製品の供給を受ける下流側企業を含む下流側サブネットワークの少なくとも一方を含むサブネットワークを、前記サプライチェーンネットワークから抽出する処理を行うサブネットワーク抽出部と、
前記サブネットワークから、所与の条件を満たす注目企業を特定する注目企業特定部と、
前記注目企業に関する情報を提示する処理を行う提示処理部と、
を含
み、
前記サブネットワーク抽出部は、
複数の業種を含む業種群に属する企業を抽出することによって、前記サブネットワークを抽出し、
前記注目企業特定部は、
前記業種群のうちの第1業種が指定されたか第2業種が指定されたかに応じて、前記注目企業の特定結果を切り替える情報処理システム。
【請求項2】
製品の提供元企業及び提供先企業を対応付けた取引関係情報を含む公開情報に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたサプライチェーンネットワークを取得するサプライチェーンネットワーク取得部と、
前記複数の企業のうちのいずれかを関心企業として選択する選択操作を受け付ける入力受け付け部と、
前記関心企業に製品を供給する上流側企業を含む上流側サブネットワーク、及び、前記関心企業から製品の供給を受ける下流側企業を含む下流側サブネットワークの少なくとも一方を含むサブネットワークを、前記サプライチェーンネットワークから抽出する処理を行うサブネットワーク抽出部と、
前記サブネットワークから、所与の条件を満たす注目企業を特定する注目企業特定部と、
前記注目企業に関する情報を提示する処理を行う提示処理部と、
を含み、
前記サブネットワーク抽出部は、
複数の製品を含む製品群の少なくとも1つを取引する企業を抽出することによって、前記サブネットワークを抽出し、
前記注目企業特定部は、
前記製品群のうちの第1製品が指定されたか第2製品が指定されたかに応じて、前記注目企業の特定結果を切り替える情報処理システム。
【請求項3】
請求項
1または2において、
前記公開情報は、前記複数の企業のそれぞれの評判を表す評判情報を含み、
前記サプライチェーンネットワーク取得部は、
前記公開情報に基づいて、前記複数のノードのそれぞれに前記評判情報が対応付けられた前記サプライチェーンネットワークを取得し、
前記注目企業特定部は、
前記評判情報に基づいて取引をすべきでないと判定される企業を、前記所与の条件を満たす前記注目企業として特定する情報処理システム。
【請求項4】
請求項1
乃至3の何れか一項において、
前記注目企業特定部は、
前記サブネットワークに基づいて中心性指標を求め、前記中心性指標に基づいて前記サブネットワークに含まれる1または複数の企業のチョークポイント性を判定し、前記チョークポイント性の高い企業を、前記所与の条件を満たす前記注目企業として特定する情報処理システム。
【請求項5】
請求項
3において、
前記提示処理部は、
前記サブネットワークの安全性を表す情報として、前記注目企業の有無を表す情報を提示する処理を行う情報処理システム。
【請求項6】
請求項
4において、
前記提示処理部は、
前記サブネットワークの安全性を表す情報として、特定された前記注目企業を、前記中心性指標の値に基づいてソートした情報を提示する処理を行う情報処理システム。
【請求項7】
請求項1乃至
6の何れか一項において、
前記提示処理部は、
前記サブネットワークにおいて、前記注目企業と前記関心企業を結ぶ経路を提示する処理を行う情報処理システム。
【請求項8】
請求項1乃至
7の何れか一項において、
前記サブネットワーク抽出部は、
取引製品を特定する製品情報及び、業種を特定する業種情報の少なくとも一方を含む第1絞り込み情報に基づいて、前記サブネットワークを抽出
し、
前記注目企業特定部は、
前記製品情報及び前記業種情報の少なくとも一方を含む第2絞り込み情報、及び前記所与の条件に基づいて、前記サブネットワークから前記注目企業を特定し、
前記第2絞り込み情報は、前記第1絞り込み情報に比べて、条件を満たすと判定される前記業種または前記取引製品の数が少ない絞り込み条件を表す情報である情報処理システム。
【請求項9】
請求項
4において、
前記注目企業特定部は、
前記上流側サブネットワークに基づいて求められた前記中心性指標である第1指標に基づいて、前記チョークポイント性の高い企業を前記注目企業として特定する第1処理と、
前記上流側サブネットワークと前記下流側サブネットワークの両方を用いて求められた前記中心性指標である第2指標に基づいて、前記チョークポイント性の高い企業を前記注目企業として特定する第2処理と、を切り替え可能である情報処理システム。
【請求項10】
製品の提供元企業及び提供先企業を対応付けた取引関係情報を含む公開情報に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたサプライチェーンネットワークを取得し、
前記複数の企業のうちのいずれかを関心企業として選択する選択操作を受け付け、
前記関心企業に製品を供給する上流側企業を含む上流側サブネットワーク、及び、前記関心企業から製品の供給を受ける下流側企業を含む下流側サブネットワークの少なくとも一方を含むサブネットワークを、前記サプライチェーンネットワークから抽出する処理を行い、
前記サブネットワークから、所与の条件を満たす注目企業を特定し、
前記注目企業に関する情報を提示する処理を行
い、
前記サブネットワークを、前記サプライチェーンネットワークから抽出する処理において、複数の業種を含む業種群に属する企業を抽出することによって、前記サブネットワークを抽出し、
前記注目企業を特定する処理において、前記業種群のうちの第1業種が指定されたか第2業種が指定されたかに応じて、前記注目企業の特定結果を切り替える情報処理方法。
【請求項11】
製品の提供元企業及び提供先企業を対応付けた取引関係情報を含む公開情報に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたサプライチェーンネットワークを取得し、
前記複数の企業のうちのいずれかを関心企業として選択する選択操作を受け付け、
前記関心企業に製品を供給する上流側企業を含む上流側サブネットワーク、及び、前記関心企業から製品の供給を受ける下流側企業を含む下流側サブネットワークの少なくとも一方を含むサブネットワークを、前記サプライチェーンネットワークから抽出する処理を行い、
前記サブネットワークから、所与の条件を満たす注目企業を特定し、
前記注目企業に関する情報を提示する処理を行い、
前記サブネットワークを、前記サプライチェーンネットワークから抽出する処理において、複数の製品を含む製品群の少なくとも1つを取引する企業を抽出することによって、前記サブネットワークを抽出し、
前記注目企業を特定する処理において、前記製品群のうちの第1製品が指定されたか第2製品が指定されたかに応じて、前記注目企業の特定結果を切り替える情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム及び情報処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サプライチェーンの分析等に関する種々の手法が知られている。サプライチェーンとは、製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送、販売、消費までの一連の流れを表す。例えば非特許文献1には、サプライチェーン・マネジメント(SCM)に関する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】松井美樹、「わが国製造企業のサプライチェーン・マネジメント」、横浜経営研究、2008年9月、第29巻3号、p205-220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来手法を用いて所与の分析対象企業を対象としてSCMを行う場合、例えば、分析対象企業のサプライチェーンに含まれる企業を予め決定しておき、当該サプライチェーンを用いて需要予測、生産計画、調達計画、販売計画、あるいは受注管理、輸配送管理、顧客管理等が実行される。従来手法では、サプライチェーンが分析対象企業に特化したものとなるため、汎用的な分析を行うことが容易でない。
【0005】
本開示のいくつかの態様によれば、所与の企業に関するサプライチェーンを適切に分析する情報処理システム及び情報処理方法等を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、製品の提供元企業及び提供先企業を対応付けた取引関係情報を含む公開情報に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたサプライチェーンネットワークを取得するサプライチェーンネットワーク取得部と、前記複数の企業のうちのいずれかを関心企業として選択する選択操作を受け付ける入力受け付け部と、前記関心企業に製品を供給する上流側企業を含む上流側サブネットワーク、及び、前記関心企業から製品の供給を受ける下流側企業を含む下流側サブネットワークの少なくとも一方を含むサブネットワークを、前記サプライチェーンネットワークから抽出する処理を行うサブネットワーク抽出部と、前記サブネットワークから、所与の条件を満たす注目企業を特定する注目企業特定部と、前記注目企業に関する情報を提示する処理を行う提示処理部と、を含む情報処理システムに関係する。
【0007】
本開示の他の態様は、製品の提供元企業及び提供先企業を対応付けた取引関係情報を含む公開情報に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたサプライチェーンネットワークを取得し、前記複数の企業のうちのいずれかを関心企業として選択する選択操作を受け付け、前記関心企業に製品を供給する上流側企業を含む上流側サブネットワーク、及び、前記関心企業から製品の供給を受ける下流側企業を含む下流側サブネットワークの少なくとも一方を含むサブネットワークを、前記サプライチェーンネットワークから抽出する処理を行い、前記サブネットワークから、所与の条件を満たす注目企業を特定し、前記注目企業に関する情報を提示する処理を行う、情報処理方法に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】情報処理システムにおける処理を説明するフローチャート。
【
図5C】公開情報に基づいて取得されるサプライチェーンネットワークの一部の例。
【
図6】サプライチェーンネットワークを説明する模式図
【
図7】上流側サブネットワークの抽出処理を説明するフローチャート。
【
図10】下流側サブネットワークの抽出処理を説明するフローチャート。
【
図11A】注目企業の特定処理を説明するフローチャート。
【
図11B】注目企業の特定処理を説明するフローチャート。
【
図16】上流側サブネットワークの抽出処理を説明するフローチャート。
【
図17】注目企業の特定処理を説明するフローチャート。
【
図20】上流側サブネットワークの抽出処理を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態について図面を参照しつつ説明する。図面については、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本開示の必須構成要件であるとは限らない。
【0010】
1.システム構成例
図1は、本実施形態に係る情報処理システム10を含むシステムの構成例である。本実施形態に係るシステムは、サーバシステム100と、端末装置200を含む。ただし、情報処理システム10を含むシステムの構成は
図1に限定されず、一部を省略する、他の構成を追加する等の種々の変形実施が可能である。例えば、
図1では端末装置200として、端末装置200-1と端末装置200-2の2つを例示しているが、端末装置200の数はこれに限定されない。また、構成の省略や追加等の変形実施が可能である点は、後述する
図2や
図3においても同様である。
【0011】
本実施形態の情報処理システム10は、例えばサーバシステム100に対応する。ただし、本実施形態の手法はこれに限定されず、サーバシステム100と他の装置を用いた分散処理によって、情報処理システム10の処理が実行されてもよい。例えば、本実施形態の情報処理システム10は、サーバシステム100と、端末装置200の分散処理によって実現されてもよい。以下、情報処理システム10がサーバシステム100である例について説明する。
【0012】
サーバシステム100は、1つのサーバであってもよいし、複数のサーバを含んでもよい。例えばサーバシステム100は、データベースサーバとアプリケーションサーバを含んでもよい。データベースサーバは、後述するサプライチェーンネットワーク121等、種々のデータを記憶する。アプリケーションサーバは、
図4等を用いて後述する処理を行う。なおここでの複数のサーバは、物理サーバであってもよいし仮想サーバであってもよい。また仮想サーバが用いられる場合、当該仮想サーバは1つの物理サーバに設けられてもよいし、複数の物理サーバに分散して配置されてもよい。以上のように、本実施形態におけるサーバシステム100の具体的な構成は種々の変形実施が可能である。
【0013】
端末装置200は、情報処理システム10を利用するユーザによって使用される装置である。端末装置200は、PC(Personal Computer)であってもよいし、スマートフォン等の携帯端末装置であってもよいし、他の装置であってもよい。
【0014】
サーバシステム100は、例えばネットワークを介して端末装置200-1及び端末装置200-2と接続される。以下、複数の端末装置を互いに区別する必要が無い場合、単に端末装置200と表記する。ここでのネットワークは、例えばインターネット等の公衆通信網であるが、LAN(Local Area Network)等であってもよい。
【0015】
本実施形態の情報処理システム10は、例えば公開情報を用いて、対象に関するデータの収集、分析等を行うOSINT(Open Source Intelligence)システムである。ここでの公開情報は、広く公開されており、合法的に入手可能な種々の情報を含む。例えば公開情報は、有価証券報告書、産業連関表、政府の公式発表、国や企業に関する報道、サプライチェーンデータベース等を含んでもよい。また公開情報はSNS(social networking service)において送受信される種々の情報を含んでもよい。例えば、SNSはテキストや画像等を投稿可能なサービスを含み、本実施形態における公開情報は、当該テキストや画像、あるいはそれらに対する自然言語処理、画像処理等の結果を含んでもよい。
【0016】
サーバシステム100は、公開情報に基づいて、様々な属性を含むノードを生成する。1つのノードは、所与のエンティティを表す。ここでのエンティティは企業である。ノードに付与される属性は、公開情報に基づいて決定される情報であって、企業の名称、国籍、事業分野、取引先と取引品目等の種々の情報を含む。なおここでの属性は、売り上げ、従業員数、株主と出資比率、ボードメンバー等を含んでもよい。
【0017】
所与のノードの属性に、他のノードとの関係性を含む属性がある場合、当該所与のノードと他のノードが、向きを有するエッジによって連結される。例えば、所与の企業が、他の企業に対して何らかの取引製品を提供(売却)している。この場合、他の企業に対応するノードと、所与の企業に対応するノードとの間が、製品の売買関係(流通関係)を表すエッジによって連結される。ここでのエッジは、影響を与える側から受ける側への方向を有するエッジであり、例えば何らかの製品を売る側から買う側への方向を有するエッジである。
【0018】
本実施形態の手法では、サーバシステム100は、複数のエンティティを表す複数のノードが、属性に基づく向きを有するエッジによって連結されたネットワークであるエンティティネットワークを取得する。即ち、エンティティネットワークは有向グラフである。そしてサーバシステム100は、エンティティネットワークに基づく分析を行い、分析結果を提示する処理を行う。例えば、端末装置200は、OSINTシステムが提供するサービスを利用するユーザによって使用される装置である。例えばユーザは、端末装置200を用いて何らかの分析を情報処理システム10であるサーバシステム100に依頼する。サーバシステム100は、エンティティネットワークに基づく分析を行い、分析結果を端末装置200に送信する。本実施形態におけるエンティティネットワークは、狭義にはサプライチェーンを表すサプライチェーンネットワーク121である。
【0019】
図2は、サーバシステム100の詳細な構成例を示すブロック図である。サーバシステム100は、例えば処理部110と、記憶部120と、通信部130を含む。
【0020】
本実施形態の処理部110は、下記のハードウェアによって構成される。ハードウェアは、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路の少なくとも一方を含むことができる。例えば、ハードウェアは、回路基板に実装された1又は複数の回路装置や、1又は複数の回路素子によって構成できる。1又は複数の回路装置は例えばIC(Integrated Circuit)、FPGA(field-programmable gate array)等である。1又は複数の回路素子は例えば抵抗、キャパシター等である。
【0021】
また処理部110は、下記のプロセッサによって実現されてもよい。本実施形態のサーバシステム100は、情報を記憶するメモリと、メモリに記憶された情報に基づいて動作するプロセッサと、を含む。情報は、例えばプログラムと各種のデータ等である。プロセッサは、ハードウェアを含む。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等、各種のプロセッサを用いることが可能である。メモリは、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリであってもよいし、レジスタであってもよいし、ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)等の磁気記憶装置であってもよいし、光学ディスク装置等の光学式記憶装置であってもよい。例えば、メモリはコンピュータによって読み取り可能な命令を格納しており、当該命令をプロセッサが実行することによって、処理部110の機能が処理として実現される。ここでの命令は、プログラムを構成する命令セットの命令でもよいし、プロセッサのハードウェア回路に対して動作を指示する命令であってもよい。
【0022】
処理部110は、例えばサプライチェーンネットワーク取得部111と、入力受け付け部112と、サブネットワーク抽出部113と、注目企業特定部114と、提示処理部115を含む。
【0023】
サプライチェーンネットワーク取得部111は、サプライチェーンネットワーク121を取得する。例えばサプライチェーンネットワーク取得部111は、公開情報に基づいてサプライチェーンネットワーク121を作成してもよい。公開情報は、製品の提供元企業及び提供先企業を対応付けた取引関係情報を含む。サプライチェーンネットワーク取得部111は、作成したサプライチェーンネットワーク121を、記憶部120に記憶する。ただし、サプライチェーンネットワーク121の作成は、本実施形態に係る情報処理システム10とは異なるシステムにおいて行われてもよい。この場合、サプライチェーンネットワーク取得部111は、当該異なるシステムから作成結果を取得する処理を行ってもよい。
【0024】
サプライチェーンネットワーク取得部111は、例えば
図5A-
図5Cを用いて後述するように、企業間の取引関係に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたネットワークを、サプライチェーンネットワーク121として取得してもよい。
【0025】
入力受け付け部112は、情報処理システム10を利用するユーザによる入力操作を受け付ける処理を行う。ここでの入力操作は、関心企業の選択を受け付ける操作を含む。関心企業とは、情報処理システム10における分析の基準となる企業である。
【0026】
サブネットワーク抽出部113は、サプライチェーンネットワーク取得部111が取得したサプライチェーンネットワーク121の一部を、サブネットワークとして抽出する処理を行う。サブネットワークとは、例えばサプライチェーンネットワーク121のうち、直接的にまたは間接的に関心企業を表すノードと接続されるノード群を含む有向グラフである。
【0027】
注目企業特定部114は、サブネットワーク抽出部113によって抽出されたサブネットワークに含まれる複数の企業から、所与の条件を満たす注目企業を特定する処理を行う。ここでの注目企業は、例えば取引が規制されている規制企業であり、より具体的にはESG(Environment, Social, Governance)の観点から問題がある企業であってもよい。あるいは注目企業は、サブネットワークにおけるチョークポイントに相当する企業であってもよい。
【0028】
提示処理部115は、注目企業の特定結果をユーザに提示する処理を行う。提示処理部115は、例えば
図13、
図14、
図19A、
図19B等を用いて後述する表示画面を表示する処理を行う。なお表示画面は、例えば端末装置200の表示部240に表示される。例えば提示処理部115は、表示画面を生成し、通信部130を介して当該表示画面を端末装置200に送信する処理を行う。また、表示画面そのものを送信するものには限定されず、提示処理部115は、表示画面を生成可能な情報(例えばマークアップ言語等)を送信する処理を行ってもよい。ただし、表示画面は、サーバシステム100等の端末装置200以外の機器で表示されてもよい。また提示処理部115による提示処理は表示処理に限定されず、音声等を用いた出力処理を含んでもよい。
【0029】
記憶部120は、処理部110のワーク領域であって、種々の情報を記憶する。記憶部120は、種々のメモリによって実現が可能であり、メモリは、SRAM、DRAM、ROM、フラッシュメモリなどの半導体メモリであってもよいし、レジスタであってもよいし、ハードディスク装置等の磁気記憶装置であってもよいし、光学ディスク装置等の光学式記憶装置であってもよい。
【0030】
記憶部120は、例えばサプライチェーンネットワーク取得部111が取得したサプライチェーンネットワーク121を記憶する。また記憶部120は、有価証券報告書、産業連関表等の公開情報を記憶してもよい。また記憶部120は、産業分類コード122、産業別・製品別知識データベース123、規制対象企業リスト124等を記憶してもよい。産業分類コード122は、産業をいくつかに分類し、各分類結果に「01」等のコードを割り当てた情報である。産業別・製品別知識データベース123とは、所与の産業または所与の製品のサプライチェーンに関する情報の集合である。規制対象企業リスト124は、例えばESGの観点から問題がある企業を特定する情報である。その他、記憶部120は本実施形態の処理に係る種々の情報を記憶可能である。
【0031】
通信部130は、ネットワークを介した通信を行うためのインターフェイスであり、例えばアンテナ、RF(radio frequency)回路、及びベースバンド回路を含む。通信部130は、処理部110による制御に従って動作してもよいし、処理部110とは異なる通信制御用のプロセッサを含んでもよい。通信部130は、例えばTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)に従った通信を行うためのインターフェイスである。ただし具体的な通信方式は種々の変形実施が可能である。
【0032】
図3は、端末装置200の詳細な構成例を示すブロック図である。端末装置200は、処理部210と、記憶部220と、通信部230と、表示部240と、操作部250を含む。
【0033】
処理部210は、デジタル信号を処理する回路及びアナログ信号を処理する回路の少なくとも一方を含むハードウェアによって構成される。また処理部210は、プロセッサによって実現されてもよい。プロセッサは、CPU、GPU、DSP等、各種のプロセッサを用いることが可能である。端末装置200のメモリに格納された命令をプロセッサが実行することによって、処理部210の機能が処理として実現される。
【0034】
記憶部220は、処理部210のワーク領域であって、SRAM、DRAM、ROM等の種々のメモリによって実現される。
【0035】
通信部230は、ネットワークを介した通信を行うためのインターフェイスであり、例えばアンテナ、RF回路、及びベースバンド回路を含む。通信部230は、例えばネットワークを介して、サーバシステム100との通信を行う。
【0036】
表示部240は、種々の情報を表示するインターフェイスであり、液晶ディスプレイであってもよいし、有機ELディスプレイであってもよいし、他の方式のディスプレイであってもよい。操作部250は、ユーザ操作を受け付けるインターフェイスである。操作部250は、端末装置200に設けられるボタン等であってもよい。また表示部240と操作部250は、一体として構成されるタッチパネルであってもよい。
【0037】
2.処理の流れ
2.1 全体フロー
図4は、本実施形態の情報処理システム10において実行される処理を説明するフローチャートである。まずステップS101において、サプライチェーンネットワーク取得部111は、サプライチェーンネットワーク121を取得する。サプライチェーンネットワーク取得部111は、サプライチェーンネットワーク121を記憶部120に記憶する。
【0038】
ステップS102において、入力受け付け部112は、ユーザによる入力操作を受け付ける。ここでの入力操作は、関心企業を選択する操作である。なおユーザによる入力操作は、端末装置200の操作部250において実行されてもよい。この場合、入力受け付け部112は、例えば通信部130を介して、端末装置200で実行された入力操作を表す情報を取得する。あるいは、サーバシステム100が不図示の操作部を含み、入力受け付け部112は、当該操作部を用いて実行された入力操作を受け付けてもよい。その他、入力操作の具体的な態様については種々の変形実施が可能である。
【0039】
ステップS103において、サブネットワーク抽出部113は、サプライチェーンネットワークのうちの、関心企業に関係する部分であるサブネットワークを抽出する。ここでのサブネットワークは、関心企業に製品を供給する上流側企業を含む上流側サブネットワーク、及び、関心企業から製品の供給を受ける下流側企業を含む下流側サブネットワークの少なくとも一方を含む。本実施形態における上流とは、エッジにおける起点側、即ち、他の企業に対して物品を提供する側を表す。下流とは、エッジにおける終点側、即ち、他の企業から物品の提供を受ける側を表す。上流側企業とは、関心企業に直接物品を提供する企業を含む。ただし、本実施形態における上流側企業は、他の上流側企業の上流に位置する企業を含んでもよい。即ち、上流側企業は、他の企業を介して関心企業と接続される企業を含んでもよい。下流側企業についても同様に、関心企業から直接物品の提供を受ける企業、及び、他の下流側企業の下流に位置する企業を含んでもよい。
【0040】
ステップS104において、注目企業特定部114は、抽出されたサブネットワークから注目企業を特定する処理を行う。注目企業の詳細については後述する。
【0041】
ステップS105において、提示処理部115は、注目企業の特定結果を提示する処理を行う。注目企業の特定結果とは、注目企業の有無、注目企業の属性、注目企業と関心企業の関係等、注目企業に関する種々の情報を含んでもよい。
【0042】
本実施形態の手法によれば、情報処理システム10は、関心企業の選択入力を受け付け、当該関心企業に関連するサブネットワークをサプライチェーンネットワーク121から抽出する処理を行う。例えば上述したように、公開情報を用いることによって、多数の企業を含むサプライチェーンネットワーク121が生成される。また、企業間の取引関係がノード間のエッジに変換されるため、多数の企業が複雑な取引関係を構築している場合であっても、当該取引関係を網羅的に含むサプライチェーンネットワーク121を取得することが可能である。そのため、選択される関心企業が変化する場合であっても、各関心企業のサプライチェーンを表すサブネットワークを適切に抽出可能である。従来のSCMは特定企業のサプライチェーンをきめ細かに管理できる一方で、処理対象となるサプライチェーンが当該特定企業に特化したものとなるのに対して、本実施形態の手法は種々の関心企業を対象として汎用的に利用できるという利点がある。
【0043】
さらに本実施形態では、抽出されたサブネットワークから注目企業を特定し、特定結果を提示する。例えば本実施形態の手法では、関心企業のサプライチェーンに注目企業が存在するか否かを判定できる。判定結果を用いることで、例えばサプライチェーン上に問題のある企業が含まれていないか、あるいは、サプライチェーンのチョークポイントとなる企業が存在しないか等をユーザに提示できる。これにより、チョークポイントを解消するための代替企業の選定や、不適切な企業との関係を断ち切る等の対応をユーザに促すことが可能である。また、注目企業と関心企業の間の経路を提示することによって、注目企業との具体的な関係をユーザに認識させることが可能である。これは、注目企業との関係を解消するための対応策を策定する上での有用な情報となり得る。例えば、関心企業のサプライチェーンを構成する可能性のある企業の中に紛争鉱山が存在する場合、その間の経路を見ることにより、ユーザは紛争鉱山からの鉱物が実際に使われているか否かを推定できる。
【0044】
具体的な例を用いて非特許文献1等の従来手法との相違点を説明する。例えば原料メーカが原料の精製を行い、部品メーカが当該原料から部品を製造し、製品メーカが当該部品を用いて製品を製造する例を考える。製品メーカにとって、部品メーカは直接取引の対象であるため既知であるが、部品に使われる原料までは把握していないケースもあり得る。この場合、従来手法におけるSCMでは、上記原料メーカがサプライチェーンに関係すること自体が未知の情報となるため、原料メーカが分析対象とならない可能性がある。また関心企業からの距離(エッジを経由する回数)が遠くなれば、サプライチェーンは加速度的に複雑化する。そのため従来手法では、サプライチェーンにどのような企業が含まれるか、また各企業がどのような関係を有するかを正確に把握ことは難しい可能性がある。即ち、従来手法では未知の注目企業を探索すること自体が困難であるし、当然、注目企業と関心企業の関係を特定することも困難であると考えられる。
【0045】
これに対して本実施形態の手法では、まず公開情報等を用いて比較的規模の大きいサプライチェーンネットワーク121を取得しておき、そこから関心企業に関係するサブネットワークが抽出される。そのため、関心企業の関係者や分析担当者がそもそも認識すらしていなかった企業を、適切に分析対象に含めることが可能になる。例えば本実施形態の手法によれば、上記のケースにおいてユーザが原料メーカを十分に把握していない場合であっても、関心企業の製品に違法な原料が使われていないか等を適切に分析することが可能である。
【0046】
なお、本実施形態の情報処理システム10は、その処理の一部または大部分をプログラムにより実現してもよい。この場合には、CPU等のプロセッサがプログラムを実行することで、本実施形態の情報処理システム10が実現される。具体的には、非一時的な情報記憶媒体に記憶されたプログラムが読み出され、読み出されたプログラムをCPU等のプロセッサが実行する。ここで、情報記憶媒体(コンピュータにより読み取り可能な媒体、装置)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク、HDD、或いはメモリなどにより実現できる。そして、CPU等のプロセッサは、情報記憶媒体に格納されるプログラムに基づいて本実施形態の種々の処理を行う。即ち、情報記憶媒体には、本実施形態の各部としてコンピュータ(操作部、処理部、記憶部、出力部を備える装置)を機能させるためのプログラムが記憶される。
【0047】
また本実施形態の手法は、以下の各ステップを含む情報処理方法に適用できる。情報処理方法は、取引関係に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたサプライチェーンネットワーク121を取得し、複数の企業のうちのいずれかを関心企業として選択する選択操作を受け付け、関心企業に製品を供給する上流側企業を含む上流側サブネットワーク、及び、関心企業から製品の供給を受ける下流側企業を含む下流側サブネットワークの少なくとも一方を含むサブネットワークを、サプライチェーンネットワーク121から抽出する処理を行い、サブネットワークから、所与の条件を満たす注目企業を特定し、注目企業に関する情報を提示する処理を行う。
【0048】
2.2 サプライチェーンネットワークの取得
図4のステップS101に対応するサプライチェーンネットワーク121の取得処理について説明する。サプライチェーンネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、サプライチェーンネットワーク121を生成してもよい。公開情報には、例えば有価証券報告書やニュースリリース等の情報が含まれる。
【0049】
サプライチェーンネットワーク取得部111は、多数の企業のそれぞれについて、企業の名称、国籍、事業分野、取引先と取引品目等の種々の情報を特定する。またサプライチェーンネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、各企業の従業員数、株主と出資比率、ボードメンバー等を特定してもよい。
【0050】
またサプライチェーンネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、各企業の評判を表す評判情報を取得してもよい。例えば、評判情報とは、対象の企業が、ESG(Environment, Social, Governance)の観点から問題を有する企業であるか、制裁を受けた履歴があるか等を表す情報である。例えば評判情報は、輸出規制への違反をした企業であるか、紛争鉱物を取り扱う企業であるか、奴隷労働に関与する企業であるか、違法伐採に関する企業であるか等を表す情報であってもよい。また公開情報は政府等の機関が発行する文書であってもよく、評判情報は、所定の国等において取引規制の対象となっているか否かを表す情報であってもよい。また上述したように公開情報はSNSに関する情報を含んでもよく、ここでの評判情報はSNSに基づいて決定される情報であってもよい。例えばサプライチェーンネットワーク取得部111は、SNSにおいて企業等の公式アカウントが発信した情報に基づいて評判情報を取得してもよい。また本実施形態の手法で用いられるSNSの情報は、公式アカウントから発信するものには限定されない。例えばSNSにおいて所定数以上のユーザが「紛争鉱物」、「奴隷労働」、「違法伐採」等のワードともに所与の企業名を発信していた場合、当該企業に対して、ネガティブな評判情報が対応付けられてもよい。
【0051】
図5A、
図5Bは、公開情報に基づいて取得されるデータの構造例である。
図5Aに示すように、サプライチェーンネットワーク取得部111は、公開情報に含まれる各企業について、企業名、産業分類、評判、国籍が対応付けられた情報を取得する。
【0052】
企業名は、例えば対象の企業の名称を表すテキストデータである。産業分類は、対象の企業の事業分野を表す情報である。評判は上記の通り、対象の企業が、ESGの観点から問題を有する企業であるか否か等を表す情報である。国籍は、対象の企業が属する国を表す情報である。
【0053】
なお
図5Aでは産業分類をテキストで図示しているが、産業分類を表す情報は産業分類コードであってもよい。例えば日本標準産業分類であれば、非鉄金属第1次製錬・精製業には「231」というコードが割り当てられ、半導体素子製造業には「2813」等のコードが割り当てられる。なお、産業分類は日本標準産業分類に限定されない。例えば産業分類は、国際標準産業分類やNAICS(North American Industry Classification System)等、他の分類であってもよい。また産業分類コードも、産業分類にあわせて種々のコードを用いることが可能である。以下では、説明の便宜上、産業分類が分類名を表すテキストであるものとして説明する。ただし、以下の処理における分類名は産業分類コードに置き換えが可能である。また記憶部120は
図2に示すように産業分類コード122を含んでもよい。産業分類コード122は、例えば日本標準産業分類における分類名と分類コードを対応付けた情報である。処理部110は、産業分類コード122に基づいて、分類名と分類コードの間の変換処理を行ってもよい。
【0054】
また
図5Bに示すように、サプライチェーンネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、企業間の取引を表す情報を取得する。例えば公開情報に含まれる取引関係情報は、
図5Bに示す情報、あるいは、
図5Bに示す情報を特定することが可能な態様の情報である。企業間の取引を表す情報は、例えば販売元企業を特定する情報と、販売先企業を特定する情報と、取引される製品を特定する情報とを対応付けた情報である。
【0055】
サプライチェーンネットワーク取得部111は、これらの情報に基づいて、企業をノードとし、取引関係をエッジとする有向グラフであるサプライチェーンネットワーク121を作成する。
【0056】
図5Cは、
図5Bに示す取引関係に基づいて生成されるサプライチェーンネットワーク121の一部を例示する図である。
図5Bに示すように、企業C1が、企業C10に製品P1を売るという関係がある。この場合、サプライチェーンネットワーク取得部111は、企業C1を表すノードと、企業C10を表すノードの間に、C1からC10への向きのエッジを付与する。企業C1を表すノードには、
図5Aに示すように、企業名である「C1」の他、産業分類、評判、国籍等の情報が対応付けられる。企業C10を表すノードについても同様である。またC1からC10へと向かうエッジには、取引製品であるP1が対応付けられる。なおサプライチェーンネットワーク取得部111は、公開情報に基づいて、取引量や取引価格等の情報を取得してもよく、これらの情報がエッジに対応付けられてもよい。
【0057】
また
図5Bに示すように、企業C10が、企業C5に製品P2を売るという関係がある。この場合、サプライチェーンネットワーク取得部111は、企業C10を表すノードと、企業C5を表すノードの間に、C10からC5への向きのエッジを付与する。各ノードには
図5Aに示す情報が対応付けられ、エッジには取引製品等に関する情報が対応付けられる。
【0058】
なお上述したように、有向グラフであるサプライチェーンネットワーク121において、何らかのものを提供する(売る)側を「上流側」と表記し、何らかのものの提供を受ける(買う)側を「下流側」と表記する。なお上流及び下流の定義は、後述するサブネットワークに置いても同様である。
【0059】
ここでのサプライチェーンネットワーク121は、狭義には処理対象の公開情報に含まれるすべての企業に対応するノードを含むネットワークである。そのため、サプライチェーンネットワーク121は非常に多くのノードを含むネットワークであり、ノード数は数千程度や、それ以上であってもよい。ただし、公開情報に含まれる一部の企業を除外する等、サプライチェーンネットワーク121の構成手法は種々の変形実施が可能である。
【0060】
図6は、サプライチェーンネットワーク121の概略を示す図である。
図6に示すように、サプライチェーンネットワーク121は、複数のノードが、取引関係を表すエッジによって結合された有向グラフである。なお、
図6では説明を分かりやすくするため、製造工場であるか、流通拠点であるか等に応じてノードの形状を変えている。上述したように、各ノードに対応する企業の名称や産業分類等の情報が取得されているため、例えば産業分類に応じて表示態様を変える等の処理を実行することが可能である。ただし、本実施形態の手法では、ノードの形状を制御することは必須ではない。
【0061】
なお、
図5A及び
図5Bはサプライチェーンネットワークに関するデータ構造の一例であり、具体的なデータ構造はこれに限定されない。例えば
図5Aや
図5Bではリレーショナルデータベース等のテーブルデータを用いる例を示したが、他の構造のデータが用いられてもよい。またテーブルデータを用いる場合であっても、テーブル数は2つに限定されず、1つにまとめられてもよいし、3つ以上に分割して管理されてもよい。また
図5A、
図5Bに示した項目の一部が省略されてもよいし、他の項目が追加されてもよい。例えばサプライチェーンネットワーク取得部111は企業名、産業分類コード、売買の向きを表す情報を取得し、他の情報については欠落が許容されてもよい。
【0062】
2.3 サブネットワークの抽出
サプライチェーンに関する分析では、所定の関心企業に着目し、当該関心企業に関するネットワークを分析することが重要である。しかし、サプライチェーンネットワーク121は、例えば公開情報に基づいて取得されるネットワークであるため、多数のノードやエッジを含む。そのため、サプライチェーンネットワーク121は、関心企業と無関係のノードやエッジを含んでいる可能性がある。
【0063】
よって本実施形態では、
図4のステップS102に示したように、入力受け付け部112は、ユーザによる関心企業の選択入力を受け付ける。この処理は、例えば、分析を行おうとするユーザが具体的な企業名を入力してもよい。あるいは入力受け付け部112は、産業分類や製品等の情報を受け付け、それらを検索キーとする検索処理を行うことによって、関心企業の候補を提示する処理を行ってもよい。ユーザは、提示された候補から関心企業を選択し、入力受け付け部112は選択入力を受け付ける。
【0064】
サブネットワーク抽出部113は、入力受け付け部112が受け付けた入力操作に基づいて、関心企業に関するサブネットワークを、サプライチェーンネットワーク121から抽出する処理を行う。
【0065】
図7は、
図4のステップS103に対応するサブネットワーク抽出処理を説明するフローチャートである。ステップS201において、サブネットワーク抽出部113は、入力受け付け部112が受け付けた選択入力に基づいて、関心企業を特定する。例えば、関心企業の企業名が取得された場合、サブネットワーク抽出部113は、当該企業名と、サプライチェーンネットワーク121の各ノードに対応付けられた企業名との比較処理に基づいて、関心企業を特定する処理を行う。
【0066】
ステップS202において、サブネットワーク抽出部113は、関心企業Aに隣接し、関心企業に何かを売っている企業Xをすべて選択し、この集合をS1(A)とする。
【0067】
図8Aは、S1(A)を例示する図である。例えば
図8(A)は、サプライチェーンネットワーク121のうち、関心企業Aを含む一部を抽出した図である。
図8Aの例では、企業X1を表すノードが、X1からAへと向かうエッジによって、関心企業Aを表すノードと直接接続されている。即ち、X1は、関心企業に隣接し、関心企業に何かを売っている企業であるため、S1(A)の要素と判定される。同様に、X2及びX3も関心企業に隣接し、関心企業に何かを売っている企業であるため、S1(A)の要素と判定される。この場合のS1(A)は、(X1,X2,X3)という3つの要素からなる集合である。
【0068】
ステップS203において、サブネットワーク抽出部113は、探索のための変数iを1で初期化する。
【0069】
ステップS204において、サブネットワーク抽出部113は、Si(A)の各要素Xに隣接し、Xに製品を売っている企業Yを特定し、企業Yの集合をSi+1(A)とする。所与の関心企業を対象として初めてステップS204の処理が行われる場合、i=1である。よってサブネットワーク抽出部113は、S1(A)の各要素Xに隣接し、Xに製品を売っている企業Yを特定し、企業Yの集合をS2(A)とする。なおステップS204の処理を行う際には、まずSi+1(A)が空集合で初期化される。
【0070】
図8Bは、S2(A)を例示する図である。S1(A)は、この例では
図8Aを用いて上述したとおり、(X1,X2,X3)という3つの要素からなる集合である。サブネットワーク抽出部113は、まずX1に隣接し、X1に製品を売っている企業Yを特定する。ここではX4及びX5の2つが条件を満たすため、この2つの企業がS2(A)に追加される。次にサブネットワーク抽出部113は、X2に隣接し、X2に製品を売っている企業Yを特定する。ここではX5及びX6の2つが条件を満たす。X5についてはすでにS2(A)に追加済であるため、X6がS2(A)に追加される。次にサブネットワーク抽出部113は、X3に隣接し、X3に製品を売っている企業Yを特定する。ここではX7、X8及びX9の3つが条件を満たすため、この3つの企業がS2(A)に追加される。結果として、
図8Bに示すように、S2(A)として、(X4,X5,X6,X7,X8,X9)という6つの要素からなる集合が求められる。
【0071】
ステップS205において、サブネットワーク抽出部113は、Si+1(A)が空集合であるかを判定する。
図8Bの例であれば、S2(A)は6つの要素を含むため、空集合ではなく、ステップS205でNoと判定される。この場合ステップS206において、サブネットワーク抽出部113は、変数iをインクリメントしてステップS204の処理に戻る。
【0072】
例えばサブネットワーク抽出部113は、S2(A)の各要素Xに隣接し、Xに製品を売っている企業Yを特定し、企業Yの集合をS3(A)とする。例えばサブネットワーク抽出部113は、S3(A)を空集合で初期化する。その後、サブネットワーク抽出部113は、X4に隣接しX4に製品を売っている企業を特定し、特定された企業をS3(A)に追加する。X5-X9についても同様であり、サブネットワーク抽出部113は、各企業に隣接し、且つ、製品を売っている企業をS3(A)に追加する。
【0073】
もしS3(A)が空集合でなければ、再度ステップS204に戻り、S4(A)を求める処理が実行される。これ以降の処理も同様であり、Si+1(A)が空集合となるまで、ステップS204~S206の処理が繰り返される。
【0074】
ステップS205においてSi+1(A)が空集合とは、ステップS204の処理によって条件を満たす要素が1つも見つからなかったことを表す。即ち、Si(A)の要素である企業Xのいずれにも、それ以上、上流側の企業が存在しないことを表す。
【0075】
よってこの場合、ステップS207において、サブネットワーク抽出部113は、S1(A)、S2(A)、…、Si(A)の和集合をSとする。
【0076】
ステップS208において、サブネットワーク抽出部113は、関心企業と、Sに含まれるすべての企業に対応するノードを含む有向グラフを、サブネットワークとして出力する。ここでのサブネットワークは、関心企業を基準として上流側の企業を表すサブネットワークであるため、上流側サブネットワークとも表記する。
【0077】
図9は、上流側サブネットワークの例である。
図9に示すように、上流側サブネットワークは、関心企業と直接的または間接的に接続される企業を表すノードからなる有向グラフである。このようにすれば、サプライチェーンネットワーク121のうち、関心企業に関連する部分を適切に抽出することが可能になる。上流側サブネットワークは、関心企業のサプライチェーンに含まれる企業や、各企業と関心企業との具体的な接続関係を特定可能な情報であるため、関心企業のサプライチェーンの分析において有用な情報である。
【0078】
なお、ステップS204においてSi+1(A)を求める際、サブネットワーク抽出部113は、「Si(A)の要素Xに隣接しXに何かを売っている」という条件に加えて、「{A}、S1(A)、…、及びSi(A)の和集合に含まれない」という条件に基づいて企業Yを特定してもよい。
【0079】
例えば3つの企業Xa,Xb、Xcについて、Xa←Xb←Xc←Xaという循環が存在する場合であって、XaがSi-2(A)の要素であり、XbがSi-1(A)の要素であり、XcがSi(A)の要素である場合を考える。「Xa←Xb」は、XbがXaに隣接し且つ何かを売っていることを表す。この場合、XaはすでにSi-2(A)の要素であるが、Xcに隣接しXcに何かを売っているため、Si+1(A)の要素となり得る。即ち、循環まで考慮すると、サブネットワーク抽出部113による処理が複雑化するおそれがある。その点、上記「{A}、S1(A)、…、及びSi(A)の和集合に含まれない」という条件を追加することによって、XaはSi+1(A)の要素から除外されるため、処理の簡略化が可能である。
【0080】
なお以上では関心企業を基準として上流側の企業からなる上流側サブネットワークについて説明した。ただしサブネットワークは上流側サブネットワークに限定されず、下流側サブネットワークを含んでもよい。
【0081】
図10は、
図4のステップS103に対応するサブネットワーク抽出処理を説明する他のフローチャートである。ステップS301において、サブネットワーク抽出部113は、入力受け付け部112が受け付けた選択入力に基づいて、関心企業を特定する。
【0082】
ステップS302において、サブネットワーク抽出部113は、関心企業に隣接し、関心企業から何かを買っている企業Xをすべて選択し、この集合をS’1(A)とする。S’1(A)を求める処理は、エッジの方向が異なるのみで
図8Aと同様である。
【0083】
ステップS303において、サブネットワーク抽出部113は、探索のための変数iを1で初期化する。ステップS304において、サブネットワーク抽出部113は、S’i(A)の各要素Xに隣接し、Xから製品を買っている企業Yを特定し、企業Yの集合をS’i+1(A)とする。S’i+1(A)を求める処理も、エッジの方向が異なる点を除いて上流側サブネットワークを求める処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0084】
ステップS305において、サブネットワーク抽出部113は、S’i+1(A)が空集合であるかを判定する。空集合でない場合、ステップS306において、サブネットワーク抽出部113は、変数iをインクリメントしてステップS304の処理に戻る。S’i+1(A)が空集合である場合、ステップS307において、サブネットワーク抽出部113は、S’1(A)、S’2(A)、…、S’i(A)の和集合をS’とする。
【0085】
ステップS308において、サブネットワーク抽出部113は、関心企業と、S’に含まれるすべての企業に対応するノードを含む有向グラフを、サブネットワークとして出力する。ここでのサブネットワークは、関心企業を基準として下流側の企業を表す下流側サブネットワークである。
【0086】
本実施形態のサブネットワークは、上流側サブネットワーク及び下流側サブネットワークの少なくとも一方を含む。即ち、サブネットワークは、AとSの和集合であってもよいし、AとS’の和集合であってもよい。またサブネットワーク抽出部113は、上流側サブネットワークと下流側サブネットワークの2つのネットワークをそれぞれ出力してもよい。またサブネットワーク抽出部113は、AとSとS’の和集合をサブネットワークとして出力してもよい。
【0087】
2.4 注目企業の特定
上述した処理によって抽出されたサブネットワークは、関心企業のサプライチェーンを表す情報である。例えば公開情報に基づいてサプライチェーンネットワーク121を取得することによって、多数の企業の複雑な関係を自動的に有向グラフに落とし込むことが可能である。サブネットワークは、当該サプライチェーンネットワーク121のうちの関心企業に関連するサブセットであるため、関心企業のサプライチェーンを分析する上で有用である。例えば、関心企業との距離が近い企業はユーザが手動で探索することも容易であるが、距離が離れるごとに探索範囲が急激に広がるため、関心企業と距離が遠い位置でつながる可能性のある企業を手動で探索することは難しい可能性がある。その点、本実施形態のサブネットワークは、関心企業と関係を持つ企業を距離によらず容易に特定できるため、所与の企業と意図せずに関係を持っていたこと等をユーザに把握させることも可能である。
【0088】
この際、
図9に示すように、関心企業以外の企業を一律に扱うことも可能であるが、本実施形態では、それらの企業のうち、特に注目すべき企業である注目企業を特定してもよい。以下、
図4のステップS104に対応する注目企業の特定処理について説明する。
【0089】
例えば注目企業特定部114は、サブネットワークからチョークポイント性の高い企業を注目企業として特定する処理を行ってもよい。ここでのサブネットワークは、狭義には上流側サブネットワークである。チョークポイントとは、もともと、二つのコミュニティを結ぶ経路上にあって、そのノードがなくなると連結が絶たれるか、互いを連結する経路の長さが大きく増えてしまうようなノードを表す。これを定量的に評価するため、チョークポイント性を測る指標として、「中心性指標」と呼ばれる指標の一つである「媒介中心性」は次のように定義される。二つのコミュニティX,Yを考え、Xに含まれる要素をxとし、Yに含まれる要素をyとする。ここで任意の要素x,yの組み合わせを考えたとき、x,yを結ぶ最短経路に存在するノードが定まる。すべての組み合わせx,yを考えたときに、与えられたノードが最短経路上に現れる割合を何らかの方法で定義し、これをそのノードの媒介中心性とする。ここでコミュニティとは、一般的には密に連結する複数のノードの集合を表す。チョークポイント性を数学的に計算する際は、特定された1個以上のノードの集合をコミュニティと定義すればよい。このような手法については、Ulrik Brandes, “A Faster Algorithm for Betweenness Centrality”, Journal of Mathematical Sociology 25(2), 2001年, p.163-177等に開示されている。媒介中心性が非常に高いノードは、定性的に本来の意味のチョークポイントの性質を持つ。注目企業特定部114は、例えば上記で定義した媒介中心性指標に基づいて、チョークポイント性の高い企業を特定してもよい。
【0090】
例えば上流側サブネットワークにチョークポイントとなる企業が存在した場合、当該企業と取引を継続できなくなった場合、関心企業は材料や原料等を適切に仕入れることができなくなるおそれがある。チョークポイント性の高い企業を特定することによって、そのような取引上のリスクの有無や程度を適切に判定することが可能になる。
【0091】
図11Aは、チョークポイント性の高い企業を注目企業として特定する処理を説明するフローチャートである。ステップS401において、注目企業特定部114はサブネットワークを取得する。例えば注目企業特定部114は、サブネットワークとして上流側サブネットワークを取得する。ここでは、媒介中心性を計算する例を示すが、上述した定義において、二つのコミュニティのうち、一方は関心企業A自身だけからなる集合{A}、もう一方は、取得したサブネットワークに含まれるA以外の企業Xすべての集合として計算する例を示す。
【0092】
ステップS402において、注目企業特定部114は、取得したサブネットワークに含まれる企業Xのそれぞれについて、Xと関心企業との間の最短経路の集合Pmin(X,A)を求める。上流側サブネットワークを対象とする場合、Pmin(X,A)は、Xを始端とし、Aを終端とする経路のうち、最も長さが短い経路の集合を表す。ここで、最も長さが短い経路は一般に複数存在することに注意する。なおサブネットワークの構成によっては、所与の企業Xを始端とし、Aを終端とする最も長さが短い経路が1つであることは妨げられない。有向グラフにおいて最短経路を求める手法は種々知られており、本実施形態ではそれらを広く適用可能であるため詳細な説明は省略する。
【0093】
ステップS403において、注目企業特定部114は、すべてのXについてPmin(X,A)を合併した集合をPmin(A)とする。例えば、サブネットワークが関心企業Aに加えて、企業X1-Xmに対応するm個のノードを含む有向グラフである場合、Pmin(A)は、Pmin(X1,A)-Pmin(Xm,A)というm個の最短経路集合の合併集合である。ここでのmは2以上の整数である。
【0094】
ステップS404において、注目企業特定部114は、取得したサブネットワークに含まれる企業Yのそれぞれにつき、Pmin(A)の要素の中で企業Yを含む要素の割合を、当該企業Yの媒介中心性として演算する。割合の計算方法にはいくつか手法が知られているが、ここでは最も単純なものとして、Pmin(A)の要素の中で企業Yを含む要素の数を、Pmin(A)の要素の数で除算することによって求められる。
【0095】
ステップS405において、注目企業特定部114は、サブネットワークに含まれる企業のうち、媒介中心性が高いと判定された企業を注目企業として特定する。注目企業特定部114は、例えばサブネットワークに含まれる企業のうち、媒介中心性の値が大きい方から所定数の企業を注目企業として特定してもよい。またここでの所定数は固定値に限定されず、サブネットワークに含まれる企業数等に応じて変更可能であってもよい。また、注目企業特定部114は、サブネットワークに含まれる企業のうち、媒介中心性の値が所与の閾値よりも大きい企業を注目企業として特定してもよい。
【0096】
なお以上ではサブネットワークが上流側サブネットワークである例について説明したが、上述したようにサブネットワークは下流側サブネットワークであってもよい。下流側サブネットワークを対象とする場合、Pmin(X,A)の始端がAとなり、終端がXとなる点を除いて上述した例と同様である。ただし、上流側サブネットワークにおけるチョークポイントは、関心企業Aに適切な材料や原料が供給されるか否かに関係しうるという点で、下流側サブネットワークにおけるチョークポイントに比べて重要度が高い。よって本実施形態の注目企業特定部114は、上流側サブネットワークを対象とする場合はチョークポイント性の高い企業を注目企業として特定し、且つ、下流側サブネットワークを対象とする場合、チョークポイント性の高い企業を特定しない、という処理を行ってもよい。
【0097】
またサブネットワークは、上流側サブネットワークと下流側サブネットワークの両方を含んでもよい。この場合、注目企業特定部114は、上流側サブネットワークと下流側サブネットワークの両方を用いて中心性指標を演算してもよい。例えば注目企業特定部114は、上記の例と同様に、サブネットワークに含まれる企業Xのそれぞれについて、Xと関心企業との間の最短経路Pmin(X,A)を求め、Pmin(X,A)のXに関する合併集合をPmin(A)とする。注目企業特定部114は、Pmin(A)の要素のうち、企業Xを含む要素の割合を、当該企業Xの媒介中心性として演算する。例えば下流側サブネットワークに含まれる企業が、上流側サブネットワークに含まれる企業に何かを売っている場合のように、循環があるサブネットワークが取得された場合、上流側サブネットワークと下流側サブネットワークの両方を対象とすることによって、何れか一方を用いた場合とは異なる中心性指標が演算される可能性がある。
【0098】
あるいは注目企業特定部114、上流側サブネットワークと下流側サブネットワークの両方からなるサブネットワークにおいて、任意の2つのノードの組について、それぞれ最短経路を求めてもよい。そして注目企業特定部114は、全最短経路の数に対する、所与のノードが経路上に含まれる最短経路の数の割合を、媒介中心性として求める。注目企業特定部114は、例えばサブネットワークに含まれる関心企業以外の企業のうち、媒介中心性が高いと判定された企業を注目企業として特定してもよい。この場合、関心企業が端点とならない経路も対象となるため、
図11Aを用いて上述した処理とは異なる中心性指標が演算される。
【0099】
例えば注目企業特定部114は、上流側サブネットワークに基づいて求められた第1指標に基づいて、チョークポイント性の高い企業を注目企業として特定する第1処理と、上流側サブネットワークと下流側サブネットワークの両方を用いて求められた第2指標に基づいて、チョークポイント性の高い企業を注目企業として特定する第2処理と、を切り替え可能であってもよい。このようにすれば、中心性指標の値が異なる複数の処理を切り替え可能となるため、例えば状況に合わせてより適切な中心性指標を注目企業の特定に用いることが可能になる。結果として、サブネットワークの分析を適切に実行することが可能になる。また上述したように、注目企業特定部114は、下流側サブネットワークに基づいて求められた第3指標に基づいて、チョークポイント性の高い企業を注目企業として特定する第3処理を実行可能であってもよい。この場合、注目企業特定部114は、第1処理、第2処理及び第3処理を状況に応じて切り替え可能であってもよい。
【0100】
また
図11Aではチョークポイント性を測る中心性指標として媒介中心性を用いる例を示したが、他の情報が中心性指標として用いられてもよい。例えば注目企業特定部114は、次数中心性を中心性指標として求め、次数中心性が高いと判定された企業を注目企業としてもよい。次数とは、各ノードに接続されるエッジの数を表し、次数中心性とは次数が高いほど中心性が高いと評価される指標である。なおグラフ理論において、媒介中心性や次数中心性以外の中心性指標が知られており、これらを本実施形態における中心性指標として用いることも妨げられない。
【0101】
また注目企業特定部114は、上流側サブネットワーク及び下流側サブネットワークの少なくとも一方から、評判情報に基づいて取引をすべきでないと判定される企業を注目企業として特定する処理を行ってもよい。例えば公開情報は各企業の評判情報を含み、当該評判情報は、
図5Aに示したように、サプライチェーンネットワーク及びサブネットワークのノードに対応付けられる。なお、公開情報に含まれる評判情報と、ノードに対応付けられる評判情報は、同じ情報であってもよいし、異なる情報であってもよい。例えば、公開情報に含まれる評判情報に対して何らかの処理を行った結果がノードに対応付けられてもよく、本実施形態における評判情報は処理前後の情報を広く含むことが可能である。例えば注目企業特定部114は、輸出規制への違反をした企業、紛争鉱物を取り扱う企業、奴隷労働に関与する企業、違法伐採に関する企業等を、注目企業として特定する。このようにすれば、取引をすべきでない企業を注目企業として特定できるため、問題企業と意図せず関係を有しているか否か等を適切に判断することが可能になる。
【0102】
例えば、サーバシステム100の記憶部120は、公開情報に基づいて問題ありと判定された企業のリストを規制対象企業リスト124として保持していてもよい。
【0103】
図11Bは、問題がある企業を注目企業として特定する処理を説明するフローチャートである。ステップS501において、注目企業特定部114はサブネットワークを取得する。例えば注目企業特定部114は、サブネットワークとして上流側サブネットワークを取得する。
【0104】
ステップS502において、注目企業特定部114は、記憶部120から規制対象企業リスト124を読み出す。ステップS503において、注目企業特定部114は、サブネットワークに含まれる企業と規制対象企業リスト124を比較することによって、各企業が規制対象等の問題を有する企業であるか否かを判定する。
【0105】
ステップS504において、注目企業特定部114は、サブネットワークに含まれる企業のうち、規制対象企業リスト124に含まれる企業を、注目企業として特定する。
【0106】
なお、ここでは評判情報に基づいて規制対象企業リスト124が生成される例を説明したが、本実施形態の処理はこれに限定されない。例えば、注目企業特定部114は、サブネットワークに含まれる各企業について、
図5Aに示す情報を参照することによって評判情報を取得してもよい。注目企業特定部114は、評判情報に基づいて、各企業が注目企業であるか否かを判定する。
【0107】
2.5 提示処理
提示処理部115は、注目企業の特定結果を提示する処理を行う。例えば、注目企業がチョークポイント性の高い企業や問題があると判定された企業である場合、注目企業が存在することは、原料等の安定調達や、適正な取引を行う上でのリスクとなる。換言すれば、注目企業はサプライチェーンの安全性を評価する指標となり得る。よって提示処理部115は、注目企業の特定結果に基づいて、サブネットワークの安全性の評価結果を提示する処理を行ってもよい。例えば提示処理部115は、サブネットワークの安全性を表す情報として、注目企業の有無を表す情報を提示してもよい。このようにすれば、問題がある企業とつながりを有するか否かをユーザに提示することが可能である。あるいは提示処理部115は、サブネットワークの安全性を表す情報として、中心性指標の値に基づいて、特定された注目企業をソートした情報を提示する。このようにすれば、チョークポイント性の高い企業の有無や、その程度を提示できる。結果として提示を受けたユーザは、関心企業のサプライチェーンの安全性を把握できるため、例えば安全性を向上させるために、サプライチェーンの見直しを行うことが可能になる。
【0108】
なお、安全性を提示するということを考えれば、提示処理部115は、注目企業の有無を表示してもよい。あるいは
図14を用いて後述するように、注目企業をリストとして表示してもよい。あるいは提示処理部115は、サブネットワークにおいて、注目企業と関心企業を表示する処理を行ってもよい。このようにすれば、サブネットワーク上で、関心企業と注目企業の位置を明示できるため、その関係を分かりやすくユーザに提示することが可能になる。以下、具体例について説明する。
【0109】
図12は、
図4のステップS105に対応する提示処理を説明するフローチャートである。ステップS601において、提示処理部115は、
図11Aや
図11Bに示す処理によって特定された注目企業を表す情報を取得する。
【0110】
ステップS602において、提示処理部115は、注目企業及び関心企業の表示態様を決定する処理を行う。例えば、提示処理部115は、サブネットワークに含まれるノードのうち、関心企業の表示態様を第1態様に設定し、注目企業の表示態様を第2態様に設定し、それ以外の企業の表示態様を第3態様に設定する処理を行う。ここでの第1-第3対象は、互いに識別が可能な態様であればよく、ノードの形状が異なってもよいし、色が異なってもよいし、サイズが異なってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。
【0111】
ステップS603において、提示処理部115は、サブネットワーク上で、関心企業と注目企業を識別可能な態様で表示する処理を行う。具体的には、ステップS602の処理に基づいて、関心企業、注目企業、及びそれ以外の企業を、それぞれ異なる態様で表示する処理を行う。
【0112】
図13は、ステップS603で表示される画面の例である。ここでのサブネットワークは
図9を用いて上述した例と同様である。
図13では、関心企業、注目企業、それ以外の企業は、それぞれ対応するノードが異なる模様で表示される。そのため、サブネットワーク上で関心企業の位置、注目企業の位置が視認しやすく、その関係を分かりやすくユーザに提示することが可能である。
【0113】
ただし、本実施形態において表示される情報はこれに限定されない。例えば提示処理部115は、複数の注目企業が特定された場合に、当該複数の注目企業をリスト表示してもよい。
【0114】
図14は、注目企業のリストの例である。例えばここでの注目企業はチョークポイント性の高い企業である。この場合、リストは企業名、中心性指標の値、国籍、産業分類等が対応付けられた情報を含む。このようなリストを表示することによって、サブネットワークに含まれる注目企業に関する情報を一覧性の高い態様でユーザに提示することが可能になる。また
図14の例では各企業の属性に関する情報が提示されるため、例えばユーザ入力等に基づいて、表示対象を特定の国籍の企業に絞る等の変形実施も可能である。
【0115】
また提示処理部115は、注目企業の特定結果として、注目企業と関心企業の間の経路を表示する処理を行ってもよい。ここでの経路は、例えば注目企業と関心企業の間の最短経路である。例えば中心性指標を求める処理においてPmin(A)が求められている場合、所与の注目企業Zに関する最短経路は、Pmin(Z,A)を流用可能である。また、提示処理部115が最短経路を演算する処理を行ってもよい。ここで、最短経路は一般に複数存在するため、それらを重畳して全部表示することも可能であるが、一つずつ表示することも可能である。その他の表示方法もあり、表示方法は特定しない。
【0116】
提示処理部115は、例えば
図13に示すようなサブネットワークにおいて、複数の注目企業のそれぞれについて求められた複数の最短経路を同時に表示する処理を行ってもよい。あるいは、提示処理部115は、複数の注目企業のうちの一部を選択するユーザ入力に基づいて、選択された注目企業に関する最短経路のみを提示する処理を行ってもよい。注目企業の選択は、
図13に示すようなサブネットワークを表示する画面を用いて行われてもよいし、
図14に示すような注目企業のリスト画面を用いて行われてもよい。注目企業と関心企業の間の経路を示すことによって、注目企業と関心企業との具体的なつながりを視認性の高い態様で提示することが可能になる。特に、サプライチェーンでは経路が短いほど、効率的な取引である傾向がある。即ち、2つの企業間の最短経路は、他の経路に比べて、当該2つの企業間の実際の取引ルートを表す蓋然性が高いため、最短経路を提示することは有用と言える。
【0117】
また本実施形態では注目企業が複数の種類の企業を含んでもよい。例えば注目企業は、チョークポイント性の高い企業と、ESGの観点から問題がある企業を含む。この場合、提示処理部115は、注目企業の種類に応じて、対象の注目企業の表示態様を変更してもよい。例えばチョークポイント性の高い注目企業は第4態様で表示され、問題があると判定された企業は第5態様で表示される。また中心性指標の大きさに応じて第4態様がさらに細分化されてもよい。また問題の具体的な内容に応じて第5態様が更に細分化されてもよい。例えば提示処理部115は、輸出規制への違反をした企業、紛争鉱物を取り扱う企業、奴隷労働に関与する企業、違法伐採に関する企業を、それぞれ異なる態様で表示する処理を行ってもよい。
【0118】
3.変形例
以下、いくつかの変形例について説明する。
【0119】
3.1 絞り込み条件
図15は、所与の関心企業のサブネットワークの例を示す図である。
図15における線分がエッジを表し、点がノードを表す。
図15に示す例では、サプライチェーンに含まれる可能性がある企業の数が非常に多く、企業間のつながりも非常に複雑である。例えば事業規模が大きい企業、国際的な取引を行う企業等が関心企業として選択された場合、
図15に示すようにサブネットワークが複雑になる場合がある。
【0120】
図15のようなサブネットワークが取得された場合、サブネットワーク全体を提示対象としたのでは、具体的な企業や、企業間のつながりをユーザに認識させることが容易でない。一方、個別のノードやエッジを視認できる程度に拡大した場合、サブネットワークのごく一部しか表示範囲に入らないため、サブネットワーク全体の把握が難しいおそれがある。また表示上の位置が近いノードであっても、対応する企業の関係性が高い(例えば業種や製品が類似する)とは限らず、サブネットワークの一部を単純に拡大することがサブネットワークの分析に有用でない場合もあり得る。
【0121】
よって本実施形態では、企業の絞り込みが行われてもよい。具体的には、サブネットワーク抽出部113は、サブネットワークに含まれる企業の絞り込みを行ってもよい。また注目企業特定部114及び提示処理部115は、注目企業を特定する処理、及び特定結果を表示する処理において、対象となる企業の絞り込みを行ってもよい。
【0122】
<サブネットワーク抽出における第1絞り込み条件>
例えばサブネットワーク抽出部113は、取引製品を特定する製品情報及び、業種を特定する業種情報の少なくとも一方を含む第1絞り込み情報に基づいて、サブネットワークを抽出する。このようにすれば、サブネットワークに含まれる企業を限定できる。具体的には、第1絞り込み情報が表す第1絞り込み条件を満たさない企業を、サブネットワークから除外することが可能になる。結果として、第1絞り込み条件を用いない場合に比べて、サブネットワークの構成をシンプルにできるため、サブネットワークを用いた処理の負荷軽減、及び、ユーザへの適切な情報の提示等が可能になる。
【0123】
ここで業種情報とは、事業の分野を表す情報であり、例えば日本標準産業分類等の産業分類に従った情報である。また製品情報とは、所与の企業が商品として他の企業に売却する取引製品を表す情報である。なお取引製品は、取引対象となる物品を表すものであり、材料、部品、製造装置等の種々の物品を広く含む。
【0124】
例えば、関心企業がIC等の半導体デバイスを製造するメーカである例を考える。半導体デバイスの製造には、シリコンウェハ、フォトレジスト、エッチングガス、封止材等の種々の半導体材料が必要となる。またフォトリソグラフィ、熱処理、エッチング、洗浄等の製造工程において、それぞれ専用の半導体製造装置が必要となる。また製造の後工程では検査が行われ、当該検査にも半導体検査装置が用いられる。
【0125】
このように、半導体に関するサプライチェーンを対象とする場合、当該サプライチェーン上で流通する製品をある程度限定することが可能である。具体的には上述したようにシリコンウェハ、フォトレジスト、エッチングガス、封止材、半導体製造装置、半導体検査装置等の製品が流通する。
【0126】
また上述した例における関心企業は、CPUやメモリ等の半導体デバイスの製造を行う企業であるため、「半導体素子製造業」に属する。この場合、当該関心企業のサプライチェーンに含まれる企業の業種を限定することも可能である。例えば日本標準産業分類でいえば、「半導体素子製造業」の上流側の企業には、「非鉄金属第1次製錬、精製業」、「産業用無機化学品」、「特殊金型等」、「特殊産業用機械」等に分類される企業が含まれる。
【0127】
関心企業が半導体に関連する企業であって、当該企業に関する半導体サプライチェーンの分析を行う場合、これらの業種・製品を考慮して処理を行うことが有用である。しかし、公開情報に基づいて取引関係があるということのみを考慮した場合、サブネットワークに、半導体とは全く関係の無い企業が含まれる可能性もある。
【0128】
例えば、関心企業が製造装置メーカから半導体製造装置を購入しており、当該製造装置メーカが社員食堂用の食材を食品関連企業から購入している場合を考える。この場合、当該製造装置メーカと食品関連企業は取引関係を有するため、サプライチェーンネットワーク121では当該2つの企業を表すノードの間がエッジで接続される。結果として、関心企業と当該食品関連企業は間接的に接続されるノードとなる。しかし食品関連企業が半導体のサプライチェーンに大きな影響を及ぼすとは考えにくい。仮に、当該食品関連企業が規制対象の企業であったとしても、関心企業が購入する半導体製造装置には、食品関連企業が納入した製品(食材)が含まれるとは考えにくく、関心企業への影響度合いが低いためである。即ち、半導体サプライチェーンの分析という観点からすれば、上記食品関連企業は考慮する必要性の低い企業と言える。
【0129】
本実施形態における第1絞り込み条件とは、分析対象とする業種または製品に関するサプライチェーン分析において、重要度の低い企業を除外する条件である。例えば第1絞り込み情報とは、サブネットワークの抽出処理において除外すべき企業の業種または取引製品を表す情報である。第1絞り込み情報は、例えばユーザによって入力される情報であってもよい。
【0130】
図16は、第1絞り込み情報を用いたサブネットワークの抽出処理を説明するフローチャートである。ステップS701において、サブネットワーク抽出部113は、入力受け付け部112が受け付けたユーザ入力に基づいて、関心企業及び第1絞り込み条件を特定する。例えば半導体サプライチェーンの分析結果を取得したいユーザは、「食料・飲料卸売業」等の業種、あるいは「食品」、「飲料」等の製品を除外対象として入力し、入力受け付け部112は入力結果を第1絞り込み情報として取得する。
【0131】
ステップS702において、サブネットワーク抽出部113は、関心企業Aに隣接し、関心企業Aに何かを売っている企業であって、第1絞り込み条件を満たす企業Xをすべて選択し、この集合をS1(A)とする。上記の例であれば、サブネットワーク抽出部113は、関心企業に何かを売っている企業であって、産業分類が「食料・飲料卸売業」ではない企業を選択する。あるいはサブネットワーク抽出部113は、関心企業に何かを売っている企業であって、取引製品が「食品」、「飲料」のいずれでもない企業を選択する。
【0132】
なお上述したように、業種(産業分類)はサプライチェーンネットワーク121のノードに対応付けられており、取引製品はサプライチェーンネットワーク121のエッジに対応付けられている。サブネットワーク抽出部113は、これらの情報を用いることによって、ステップS702の処理を実行可能である。
【0133】
ステップS703において、サブネットワーク抽出部113は、探索のための変数iを1で初期化する。
【0134】
ステップS704において、サブネットワーク抽出部113は、Si(A)の各要素Xに隣接し、Xに製品を売っている企業であって、第1絞り込み条件を満たす企業Yを特定し、企業Yの集合をSi+1(A)とする。即ち、S2(A)やS3(A)等を順次特定していく処理においても、第1絞り込み条件を満たす企業が選択対象となる。
【0135】
ステップS705~S708に示す処理は、
図7のステップS205-S208と同様であるため、詳細な説明は省略する。
図16の処理によれば、上流側サブネットワークに含まれる企業が第1絞り込み情報に基づいて絞り込まれるため、サブネットワークが過剰に複雑になることを抑制できる。結果として、注目企業の特定等、後段の処理の負荷軽減等が可能になる。なお
図16では上流側サブネットワークを抽出する例について説明したが、下流側サブネットワークの抽出処理においても第1絞り込み情報を利用可能である。例えば半導体デバイスメーカの下流側サブネットワークを考慮する場合、ICやメモリ等の製品流通との関連度が低い業種、あるいは製品が除外される。
【0136】
なお、第1絞り込み情報の詳細、及び処理の流れは以上で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【0137】
例えば、第1絞り込み情報は、除外対象となる業種、製品を特定する情報に限定されず、サブネットワークに含める対象となる業種、製品を特定する情報であってもよい。例えば半導体サプライチェーンであれば、第1絞り込み情報は、「半導体素子製造業」、「非鉄金属第1次製錬、精製業」、「産業用無機化学品」、「特殊金型等」、「特殊産業用機械」等、半導体に関連する業種の集合であってもよい。また第1絞り込み情報は、半導体材料、半導体製造装置、半導体検査装置等、半導体に関連する製品の集合であってもよい。
【0138】
また本実施形態の手法は、ユーザが第1絞り込み情報そのものを入力するものに限定されず、第1絞り込み情報を特定する処理の一部または全部が自動化されてもよい。
【0139】
例えば記憶部120は、産業別・製品別知識データベース123として、産業分類ごとの関連度を表す情報を記憶してもよい。例えば産業別・製品別知識データベース123は、日本標準産業分類に含まれる所与の産業分類と、他の産業分類の関連度合いを表すデータの集合であってもよい。上記の例であれば「半導体素子製造業」、「非鉄金属第1次製錬、精製業」、「産業用無機化学品」、「特殊金型等」、「特殊産業用機械」等の各産業分類と、「食料・飲料卸売業」は関連度が低いという情報が対応付けられている。
【0140】
同様に産業別・製品別知識データベース123は、製品ごとの関連度を表す情報を記憶してもよい。例えば半導体デバイス、半導体材料、半導体製造装置等の各製品と、食品は関連度が低いという情報が対応付けられている。
【0141】
サブネットワーク抽出部113は、産業別・製品別知識データベース123に基づいて第1絞り込み情報を特定し、当該第1絞り込み情報が表す第1絞り込み条件を満たすように、サブネットワークを抽出する。例えばユーザが「半導体素子製造業」という産業分類を入力した場合、サブネットワーク抽出部113は、当該産業分類との関連度が低い「食料・飲料卸売業」等の産業分類を除外対象として選択してもよい。あるいはサブネットワーク抽出部113は、「半導体素子製造業」との関連が高い「非鉄金属第1次製錬、精製業」、「産業用無機化学品」、「特殊金型等」、「特殊産業用機械」等の産業分類を抽出対象として選択してもよい。
【0142】
この場合、ユーザによる入力は標準産業分類に従った厳密なものであってもよいし、「半導体」等の任意のキーワードであってもよい。例えばサブネットワーク抽出部113は、「半導体」というキーワードから「半導体素子製造業」という産業分類を特定し、当該産業分類との関連度を求める処理を行ってもよい。あるいは、産業別・製品別知識データベース123自体が、キーワードと除外すべき産業分類を対応付けた情報であってもよい。例えば産業別・製品別知識データベース123は、「半導体」というキーワードと、「食料・飲料卸売業」という除外すべき産業分類を対応付けたデータを含む。また産業別・製品別知識データベース123は、キーワードと抽出対象とすべき産業分類を対応付けた情報であってもよい。
【0143】
また
図5Aに示したように、公開情報に基づいて、各企業の属性を特定することが可能である。例えばサブネットワーク抽出部113は、関心企業の属性に基づいて第1絞り込み情報を特定してもよい。例えば関心企業の属性に「半導体素子製造業」という産業分類が含まれる場合、サブネットワーク抽出部113は、当該産業分類との関連度が低い産業分類を除外対象として選択する処理、あるいは、当該産業分類との関連度が高い産業分類を抽出対象として選択する処理を実行可能である。
【0144】
なお、第1絞り込み条件を用いる場合、条件を過剰に厳しくすることは望ましくない。具体的には抽出対象となる業種や製品を少数に絞った場合、サブネットワークを適切に抽出できない可能性もある。
【0145】
例えば半導体サプライチェーンでは、ケイ素の採掘、精錬、加工を経て、シリコンウェハが半導体デバイスのメーカに供給される。この際、各工程がそれぞれ異なる企業によって実行される可能性がある。例えば、「非金属鉱業」に属する企業1が採掘を行い、「非鉄金属第1次製錬、精製業」に属する企業2が精錬を行い、「その他の電子部品・デバイス・電子回路製造業」に属する企業3がシリコンウェハへの加工を行う。半導体デバイスのメーカは、企業3からシリコンウェハを購入する。
【0146】
ここで、半導体デバイスのメーカが、違法採掘によって取得されたケイ素を製品の原料として用いていないかを分析することを考える。ここで「非金属鉱業」のみが抽出対象となり、且つ、「非鉄金属第1次製錬、精製業」や「その他の電子部品・デバイス・電子回路製造業」等が除外対象となる第1絞り込み条件が指定された場合、適切にサブネットワークが抽出されないおそれがある。上述した例では、企業1は企業2と取引を行っており、且つ、関心企業は企業3と取引を行っているのであって、関心企業と企業1は直接取引をしていない。そのため、
図16に示した処理を行った場合、ステップS702において関心企業に隣接し、関心企業に何かを売っており、且つ、第1条件を満たす(「非金属鉱業」に属する)企業が存在しないと判定されるおそれがある。
【0147】
また本実施形態の手法では、関心企業のサプライチェーン(サブネットワーク)が、意図せずに注目企業を含むサプライチェーンになっていないかを判定することも重要である。そのためには、サブネットワークの抽出段階では過剰に企業数を制限するよりも、注目企業の検出漏れを抑制することを重視することが好ましい場合もある。
【0148】
以上の点を考慮すれば、第1絞り込み情報はある程度緩い条件となる、例えば、抽出対象となる業種数や製品数が多くなってもよい。例えば第1絞り込み条件は、上述したように関連性が所定以下である業種・製品のみを除外し、他の業種・製品をすべて含む条件であってもよい。
【0149】
<注目企業の特定及び提示における第2絞り込み条件>
また注目企業特定部114は、製品情報及び業種情報の少なくとも一方を含む第2絞り込み情報、及び所与の条件に基づいて、サブネットワークから注目企業を特定してもよい。業種情報は第1絞り込み情報と同様に事業の分野を表す情報であり、例えば日本標準産業分類等の産業分類に従った情報である。また製品情報についても第1絞り込み情報と同様であり、所与の企業が商品として他の企業に売却する取引製品を表す情報である。また所与の条件とは、上述したようにチョークポイント性が高いことや、取引に問題があると判定されたことを表す。
【0150】
このようにすれば、注目企業を絞り込むことが可能になる。第2絞り込み情報を用いない場合に比べて、リストで表示される注目企業の数、あるいはサブネットワーク上で表示される注目企業の数を少なくできるため、分析結果を分かりやすくユーザに提示することが可能になる。
【0151】
図17は、第2絞り込み情報を用いた注目企業の特定処理を説明するフローチャートである。ステップS801-S804は、
図11AのステップS401-S404と同様である。即ち、サブネットワークの取得、サブネットワークにおける最短経路の算出、及び、中心性指標の演算については、第2絞り込み情報が用いられない場合と同様である。
【0152】
ステップS805において、注目企業特定部114は、媒介中心性が高いと判定され、且つ、第2絞り込み条件を満たす企業を注目企業として特定する。第2絞り込み情報が用いられない場合、例えば
図14に示すように、中心性指標が高い企業が属する産業分類は、「特殊産業用機械」や「非鉄金属第1次製錬・精製業」等、種々の分類を含む可能性がある。
図17に示す処理では、注目企業特定部114は、中心性指標だけでなく第2絞り込み条件も用いるため、注目企業がより限定される。例えば、第2絞り込み情報が「非鉄金属第1次製錬・精製業」を抽出するという条件であったとする。この場合、注目企業特定部114は、中心性指標が高く、且つ、「非鉄金属第1次製錬・精製業」に属する企業を、注目企業として特定する。例えば、
図14における企業Caは注目企業ではないと判定され、企業Cbは注目企業であると判定される。
【0153】
例えば、半導体サプライチェーンでは上述したように「非鉄金属第1次製錬、精製業」、「産業用無機化学品」、「特殊金型等」、「特殊産業用機械」等に分類される企業が含まれる可能性がある。これらのすべてを注目企業の抽出対象とした場合、種々の業種に関する情報が混在することになる。結果として、提示処理の対象も
図15のような複雑なネットワークとなる可能性がある。その点、第2絞り込み情報を用いることによって、これらの種々の産業分類のうち、特定の産業分類の情報を抽出できるため、注目企業に関する情報を分かりやすくユーザに提示することが可能になる。なお、
図17ではチョークポイント性の高い企業を注目企業とする例を示したが、取引に問題がある企業を注目企業とする場合にも、同様に第2絞り込み情報を用いた絞り込みが可能である。
【0154】
図18は、第2絞り込み情報が用いられる場合の提示処理を説明するフローチャートである。ステップS901において、提示処理部115は、
図17等に示す処理によって特定された注目企業を表す情報を取得する。
【0155】
ステップS902において、提示処理部115は、注目企業及び関心企業の表示態様を決定する処理を行う。ステップS902の処理は、
図12のステップS602と同様である。
【0156】
ステップS903において、提示処理部115は、サブネットワークのうち、第2絞り込み条件を満たす企業からなるネットワーク上で、関心企業と注目企業を識別可能な態様で表示する処理を行う。
【0157】
図19A、
図19Bは、ステップS903の処理で表示される画像の例である。例えば
図19Aは、
図15に示すサブネットワークのうち、「非鉄金属第1次製錬、精製業」を対象として注目企業の特定及び提示が行われる場合に表示対象となる画像である。また
図19Bは、
図15に示すサブネットワークのうち、「特殊産業用機械」を対象として注目企業の特定及び提示が行われる場合に表示対象となる画像である。
【0158】
図15、
図19A、
図19Bの比較から分かるように、第2絞り込み情報を用いることによって表示対象となる企業を限定することが可能である。例えばサブネットワーク自体は
図15に示すように多数のノード及びエッジを含む複雑な有向グラフであったとしても、表示対象となるネットワークを
図19Aや
図19Bに示すようにシンプルにできるため、関心企業と注目企業の位置や関係等を分かりやすくユーザに提示できる。
【0159】
なお、第2絞り込み条件を満たす企業と関心企業が直接接続されない場合、換言すれば、間に第2絞り込み条件を満たさない企業を介して接続される場合、それらの企業は表示対象として追加されてもよい。あるいは、第2絞り込み条件を満たす企業と関心企業の間の企業の表示は省略され、第2絞り込み条件を満たす企業と関心企業が直接接続されるかのような表示が行われてもよい。
【0160】
ここで、第1絞り込み情報と第2絞り込み情報の関係について検討する。上述したように、第1絞り込み情報はサブネットワークの抽出に用いられる情報であるため、第1絞り込み情報を限定しすぎることで、サブネットワークが適切に抽出されない可能性がある。一方で、第2絞り込み情報は、注目企業の特定や提示に用いられる情報であって、第2絞り込み情報を用いる段階ではサブネットワークは抽出済である。
図11Aと
図17の比較からもわかるように、第2絞り込み情報は中心性指標の演算に影響を与えるものではなく、あくまで中心性指標の演算結果をさらに絞り込む際に用いられる。例えば、第2絞り込み情報は、産業分類を最も細かい単位(日本標準産業分類における小分類)に分類した際の1つの産業分類を表す情報であってもよい。第2絞り込み情報を満たす業種、製品を少なくするほど、
図19Aや
図19Bに示すように、シンプルで分かりやすい表示が可能になる。また、上述したようにサブネットワークや中心性指標は取得済であるため、第2絞り込み情報を切り替えることによって、
図19Aを表示する状態から
図19Bを表示する状態に遷移するといった処理も容易である。即ち、第2絞り込み情報自体を切り替えることが容易であるため、第2絞り込み情報を狭くすることはデメリットとなりにくい。
【0161】
以上を考慮すれば、第2絞り込み情報は、第1絞り込み情報に比べて、条件を満たすと判定される業種または取引製品の数が少ない絞り込み条件を表す情報であってもよい。このようにすれば、サブネットワークにおける企業の抽出漏れを抑制しつつ、注目企業の特定や提示では情報量を適切にコントロールすることが可能になる。
【0162】
例えば第1絞り込み情報は、一部の業種を除く幅広い業種を含む絞り込み条件を表し、第2絞り込み情報は、対象分野のうちの所与の1つの業種を特定する条件を表す。半導体サプライチェーンの例であれば、第1絞り込み情報は「食料・飲料卸売業」等を対象から除外する情報であり、第2絞り込み情報は、「非鉄金属第1次製錬、精製業」のみを対象とする情報である。
【0163】
ただし、本実施形態の手法は、注目企業の特定結果を分かりやすくユーザに提示するものである。即ち、第2絞り込み情報は注目企業の特定結果を適切に絞り込み可能な情報であればよく、1つの産業分類に限定する情報でなくてもよい。例えば、第2絞り込み情報は2以上の業種や製品を表す情報であってもよい。広義には、第2絞り込み情報は、第1絞り込み情報で抽出対象となった複数の業種・製品のうちの一部のみを抽出対象とする情報である。異なる言い方をすれば、第1絞り込み情報は関心企業の事業分野との関連性が低いと判定される業種または製品をサブネットワークから除外するための条件であり、第2絞り込み情報は当該事業分野における業種または製品の一部を抽出するための条件である。
【0164】
また本実施形態の手法では第1絞り込み情報は必須ではない。即ち、サブネットワークの抽出では、業種や製品による絞り込みを省略してもよい。この場合、業種や製品によらず、取引関係を有する企業が広くサブネットワークに含まれる。結果として、注目企業の抽出漏れを抑制することが可能である。抽出されたサブネットワークが複雑化する可能性はあるが、第2絞り込み情報を用いることによってユーザへの提示を制御可能である。また、サブネットワーク自体がシンプルである場合、第2絞り込み情報が省略されてもよい。
【0165】
3.2 サブネットワーク抽出処理の変形例
またサブネットワーク抽出部113による処理は、
図7、
図16に示したように、S1(A)、S2(A)、…を順次求める処理に限定されない。
【0166】
図20は、上流側サブネットワークの抽出処理を説明する他のフローチャートである。ステップS1001において、サブネットワーク抽出部113は、入力受け付け部112が受け付けた選択入力に基づいて、関心企業を特定する。
【0167】
ステップS1002において、サブネットワーク抽出部113は、サプライチェーンネットワークに含まれる関心企業以外の企業の集合を設定し、当該集合に含まれる1つの企業を企業Xとして選択する。
【0168】
ステップS1003において、サブネットワーク抽出部113は、選択された企業Xを始端とし、関心企業を終端とする最短経路の集合を求める。最短経路の集合を求める処理は、例えば
図11AのステップS402等と同様であり、公知の手法を広く適用可能である。
【0169】
ステップS1004において、サブネットワーク抽出部113は、ステップS1003で求めた最短経路の集合上の企業のうち、関心企業以外の企業を登録する。例えば、企業Xと関心企業Aとの間の最短経路がX→Z1→Z2→Aのみであれば、X、Z1及びZ2の3つの企業が登録される。また企業Xが関心企業Aまでの経路を有さない場合、いずれの企業も登録対象とならない。
【0170】
ステップS1005において、サブネットワーク抽出部113は、サプライチェーンネットワークに含まれる関心企業以外のすべての企業に対する処理が終了したかを判定する。終了していない場合、サブネットワーク抽出部113は、ステップS1002に戻って処理を継続する。即ち、サブネットワーク抽出部113は、未処理の企業のうちの1つを企業Xとして選択し、最短経路の集合の探索、及び各最短経路上の企業の登録を行う。例えば、サプライチェーンネットワーク121が1000個の企業を含むネットワークである場合、サブネットワーク抽出部113は、関心企業を除く999個の企業を対象として、最短経路を求める処理を999回実行する。
【0171】
サプライチェーンネットワークに含まれる関心企業以外のすべての企業に対する処理が終了した場合、サブネットワーク抽出部113は、関心企業Aと、登録済みのすべての企業を含む有向グラフからなるネットワークを上流側サブネットワークとして出力する。上記の例において、サブネットワーク抽出部113は、ステップS1002-S1005を繰り返すことで999回だけ最短経路を求める処理を行い、その結果、関心企業Aまでの経路が存在しなかった場合を除いたn個の最短経路が求められたとする。nは1以上999以下の整数である。サブネットワーク抽出部113は、当該n個の最短経路を組み合わせることによって、上流側サブネットワークを求める。
【0172】
図20の処理を行う場合、抽出結果であるサブネットワークをシンプルにすることが可能である。例えば、
図20の手法では、所与の企業Zがサブネットワークに追加されたとしても、企業Zに接続されるエッジのすべてがサブネットワークに追加されるとは限らない。例えば、企業Zに接続される所与のエッジがn個の最短経路のいずれにも含まれないのであれば、当該エッジはサブネットワークから除外される。このように、最短経路を考慮した場合、それ以外の経路も網羅する場合に比べてノード間の接続関係が簡略化可能である。そのため、サブネットワーク抽出処理や、それ以降の処理での負荷を軽減可能である。
【0173】
なお以上では上流側サブネットワークについて説明したが、下流側サブネットワークを求める処理についても同様に、最短経路に基づく処理に変更が可能である。
【0174】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本実施形態の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本開示の範囲に含まれる。また情報処理システム、サーバシステム、端末装置等の構成及び動作等も、本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0175】
10…情報処理システム、100…サーバシステム、110…処理部、111…サプライチェーンネットワーク取得部、112…入力受け付け部、113…サブネットワーク抽出部、114…注目企業特定部、115…提示処理部、120…記憶部、121…サプライチェーンネットワーク、122…産業分類コード、123…産業別・製品別知識データベース、124…規制対象企業リスト、130…通信部、200,200-1,200-2…端末装置、210…処理部、220…記憶部、230…通信部、240…表示部、250…操作部
【要約】
【課題】所与の企業に関するサプライチェーンを適切に分析する情報処理システム及び情報処理方法等の提供。
【解決手段】 情報処理システムは、公開情報に基づいて、複数の企業に対応する複数のノードが接続されたサプライチェーンネットワークを取得するサプライチェーンネットワーク取得部と、複数の企業のうちのいずれかを関心企業として選択する選択操作を受け付ける入力受け付け部と、上流側サブネットワーク、及び、下流側サブネットワークの少なくとも一方を含むサブネットワークを、サプライチェーンネットワークから抽出する処理を行うサブネットワーク抽出部と、サブネットワークから、所与の条件を満たす注目企業を特定する注目企業特定部と、注目企業に関する情報を提示する処理を行う提示処理部と、を含む。
【選択図】
図2