(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】ホットメルト接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 123/08 20060101AFI20220307BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C09J123/08
C09J123/26
(21)【出願番号】P 2017143652
(22)【出願日】2017-07-25
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 孝幸
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-105345(JP,A)
【文献】特開2016-011386(JP,A)
【文献】特開2012-136648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)エチレン-α-オレフィン共重合体、成分(B)官能化エチレン-α-オレフィン共重合体、及び成分(C)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含むホットメルト接着剤であって、
前記成分(A)、(B)及び(C)の合計100質量%中に、成分(B)を5~19質量%、成分(C)を5~12質量%含み、
130℃での溶融粘度が2,000mPa・s以下であ
り、
前記成分(C)のメルトインデックスは170g/10分以下であることを特徴とする、ホットメルト接着剤。
【請求項2】
前記成分(B)は、無水マレイン酸官能化エチレン-α-オレフィン共重合体を含む、請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
前記成分(C)は、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体及び/又はエチレン-メタクリル酸メチル共重合体を含み、
前記成分(C)100質量%中の、アクリル酸ブチルに由来するユニット及び/又はメタクリル酸メチルに由来するユニットの含有量は25質量%以上で
ある、請求項1又は2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
前記成分(A)は、メルトインデックスが1,000/10分以上のエチレン-α-オレフィン共重合体を含む、請求項1~3の何れか1項に記載のホットメルト接着剤。
【請求項5】
さらにフィッシャートロプシュワックスを含む、請求項1~4の何れか1項に記載のホットメルト接着剤。
【請求項6】
さらに粘着付与樹脂を含む、請求項1~5の何れか1項に記載のホットメルト接着剤。
【請求項7】
紙製包装資材用である、請求項1~6の何れか1項に記載のホットメルト接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、溶剤が不要であり、また、瞬間接着や高速接着が可能であるという長所があることから、包装・製本・木工等の広い分野で使用されている。
【0003】
ホットメルト接着剤を用いた被着体の接着は、ホットメルト接着剤を加熱溶融させ、溶融状態のホットメルト接着剤を被着体に塗工した後、冷却固化させる事により行われる。そして、従来より、上記ホットメルト接着剤のベース樹脂(主成分)として、エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、EVAという。)を主成分としたホットメルト接着剤が使用されている。
【0004】
しかしながら、EVAをベース樹脂とするホットメルト接着剤は、一般的に180℃程度の高温で使用されるため、ホットメルト接着剤が熱劣化し、ホットメルト吐出不良などライン停止トラブルが発生する。
【0005】
近年では、熱劣化しにくいエチレン-α-オレフィン共重合体を主成分としたホットメルト接着剤が主流となってきているが、更なる熱劣化の抑制及び省エネルギー化を目的として、約150℃の低塗布温度タイプのホットメルト接着剤が検討され、近年ではさらに低温での塗布が可能なホットメルト接着剤の開発も進められている。
【0006】
例えば、特許文献1には、エチレン-α-オレフィン共重合体を用いた、120℃おける溶融粘度が500~2,000mPa・sである低温度塗布化ホットメルト接着剤が開示されている。
【0007】
ところで、ホットメルト接着剤は高温で塗布する必要があるため、塗布時にはホットメルトアプリケーターと言われる専用の塗布装置が用いられる。このホットメルトアプリケーターは、ホットメルト接着剤を加熱溶融し、圧縮空気やギヤポンプを用いる事により、ノズルの先端から間欠的に吐出して被着体に塗布するためのものである。その際、ホットメルト接着剤が吐出するノズルの先端から被着体の間で吐出毎にホットメルト接着剤が有する糸曳き性に起因する糸状物が発生する。この糸状物が発生すると、様々な使用過程において、周辺装置や被着体を汚染したり、センサー誤作動や印字ミス等を引き起こしたりするという問題が発生する。特に、冬場など使用環境温度が低い場合、ノズルの先端から吐出されたホットメルト接着剤の溶融粘度が高くなるため糸状物は顕著に発生する。
【0008】
例えば、特許文献2には、エチレン-α-オレフィン共重合体とエチレン-カルボン酸エステル共重合体を用いた糸曳きが少ないホットメルト接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5751581号公報
【文献】特許第5789382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されるような低温塗布化ホットメルト接着剤は、硬化後の高温環境に対して脆弱であり、高温環境下で圧着側の被着体の反発が強い場合や、被着体を段積み保管時した時の下段にかかる荷重を考慮した場合、接着力を充分に維持できないという問題がある。以上から、150℃以下の低温で塗布可能なホットメルト接着剤は、使用環境温度が比較的低い食品や薬品を封函するカートン用途などに限定されている。
【0011】
さらには、非相溶性成分による糸曳き性に関する問題も改善されていないため、糸状物発生による上記トラブルが発生するという問題もある。
【0012】
一方、特許文献2に開示されるホットメルト接着剤では、糸状物発生の問題は低減されるものの、使用温度が約180℃と高温なため、タンク内で加熱された状態での保存状態が長時間続くと、ゲル化/炭化してホットメルトアプリケーターの詰まりを起こしたり、塗布不良を招いたりするという問題があった。
【0013】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、塗布時の糸曳き性に関する問題が抑制され、加熱安定性に優れ、且つ、低温及び高温環境下での接着性にも優れた、低温度塗布ホットメルト接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、成分(A)エチレン-α-オレフィン共重合体、成分(B)官能化エチレン-α-オレフィン共重合体、及び成分(C)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を所定の配合比で含むホットメルト接着剤とすることで、塗布時の糸曳き性に関する問題が抑制され、且つ、低温及び高温環境下での接着性に優れた、低温度塗布ホットメルト接着剤を提供することができることを見出した。本発明者は、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、以下のホットメルト接着剤を提供する。
項1.
成分(A)エチレン-α-オレフィン共重合体、成分(B)官能化エチレン-α-オレフィン共重合体、及び成分(C)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含むホットメルト接着剤であって、
前記成分(A)、(B)及び(C)の合計100質量%中に、成分(B)を5~19質量%、成分(C)を5~12質量%含み、
130℃での溶融粘度が2,000mPa・s以下であることを特徴とする、ホットメルト接着剤。
項2.
前記成分(B)は、無水マレイン酸官能化エチレン-α-オレフィン共重合体を含む、
項1に記載のホットメルト接着剤。
項3.
前記成分(C)は、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体及び/又はエチレン-メタクリル酸メチル共重合体を含み、
前記成分(C)100質量%中の、アクリル酸ブチルに由来するユニット及び/又はメタクリル酸メチルに由来するユニットの含有量は25質量%以上であり、
前記成分(C)のメルトインデックスは170g/10分以下である、項1又は2に記載のホットメルト接着剤。
項4.
前記成分(A)は、メルトインデックスが1,000/10分以上のエチレン-α-オレフィン共重合体を含む、項1~3の何れかに記載のホットメルト接着剤。
項5.
さらにフィッシャートロプシュワックスを含む、項1~4の何れかに記載のホットメルト接着剤。
項6.
さらに粘着付与樹脂を含む、項1~5の何れかに記載のホットメルト接着剤。
項7.
紙製包装資材用である、項1~6の何れかに記載のホットメルト接着剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るホットメルト接着剤によれば塗布時の糸曳き性が抑制され、且つ、低温及び高温環境下での接着性に優れた、低温度塗布ホットメルト接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のホットメルト接着剤は、成分(A)エチレン-α-オレフィン共重合体、成分(B)官能化エチレン-α-オレフィン共重合体、及び成分(C)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含み、前記成分(A)、(B)及び(C)の合計100質量%中に、成分(B)を5~19質量%、成分(C)を5~12質量%含み、130℃での溶融粘度が2,000mPa・s以下であることを特徴とする、
【0018】
成分(A):エチレン-α-オレフィン共重合体
エチレン-α-オレフィン共重合体としては、エチレンと少なくとも1種のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。α-オレフィンとしては公知のα-オレフィンを広く使用することができ、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、及び1-エイコセンなどが挙げられる。α-オレフィンの炭素数は3~20が好ましく、6~8がより好ましい。
【0019】
エチレン-α-オレフィン共重合体としては、エチレン-1-オクテン共重合体が特に好ましい。エチレン-1-オクテン共重合体を使用することにより、凝集力が高く、接着性に優れたホットメルト接着剤を提供する事ができる。
【0020】
エチレン-α-オレフィン共重合体のメルトインデックス(Melt Index;以下、単にMIともいう。)は1,000g/10分以上であることが好ましい。また、エチレン-α-オレフィン共重合体のMIの上限値としては、1,500g/10分が好ましい。
【0021】
エチレン-α-オレフィン共重合体のMIを1,000g/10分以上とすることにより、得られるホットメルト接着剤の溶融粘度を低く抑えることができ、ホットメルト接着剤の低温塗布が可能となる。一方、エチレン-α-オレフィン共重合体のMIを1,500g/10分以下とすることにより、ホットメルト接着剤が硬化する際の凝集力の低下を抑えることができる。そして、ホットメルト接着剤の硬化後、高温環境下での接着性及び耐クリープ性を維持することが可能になる。
【0022】
なお、本明細書において、各共重合体のメルトインデックスとは、JIS K7120に準拠して、温度190℃、荷重21.18Nの条件にて測定された値を意味する。
【0023】
成分(A)エチレン-α-オレフィン共重合体の含有量としては、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計100重量%中に、69~90質量%とすることが好ましく、72~85質量%とすることがより好ましい。
【0024】
成分(A)の含有量を69質量%以上とすることにより、低粘度化できるという効果を得ることができる。また、成分(A)を90質量%以下とすることにより、耐熱性を向上できる。
【0025】
エチレン-1-オクテン共重合体として、市販されている製品を用いる事ができる。このような製品としては、例えば、ダウケミカル社から販売されている以下の製品などが挙げられる。
商品名「アフィニティ GA1900」(MI=1,000g/10分)
商品名「アフィニティ GA1875」(MI=1,250g/10分)
【0026】
成分(B):官能化エチレン-α-オレフィン共重合体
官能化エチレン-α-オレフィン共重合体としては、エチレン-α-オレフィン共重合体に官能基がグラフト重合したものを使用することができる。
【0027】
官能基としては、耐熱性向上の観点から、アクリル酸、無水マレイン酸及びフマル酸等の何れかに由来するものを採用することが好ましい。
【0028】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、α-オレフィンとして、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、及び1-エイコセンを用いることができる。官能化エチレン-α-オレフィン共重合体としては、無水マレイン酸官能化エチレン-α-オレフィン共重合体が好ましく、無水マレイン酸官能化エチレン-1-オクテン共重合体が特に好ましい。無水マレイン酸官能化エチレン-1-オクテン共重合体によれば、優れた耐熱接着性及び耐クリープ性が得られる。
【0029】
成分(B)官能化エチレン-α-オレフィン共重合体の含有量は、成分(A)、(B)及び(C)の合計100質量%中に、5~19重量%とすることが好ましく、9~19重量%とすることがより好ましい。官能化エチレン-α-オレフィン共重合体の含有量を5質量%以上とすることにより、ホットメルト接着剤の硬化後、高温環境下での接着性及び耐クリープ性を維持することが可能になる。一方、官能化エチレン-α-オレフィン共重合体の含有量を19質量%以下とすることにより、得られるホットメルト接着剤の溶融粘度を低くすることができる。これにより、ホットメルト接着剤の低塗布性が向上するとともに、接着剤が硬化後、高温環境下においても接着性を維持することが、より一層可能になる。
【0030】
官能化エチレン-α-オレフィン共重合体として、市販されている製品を用いる事ができる。このような製品としては、例えば、ダウケミカル社から販売されている以下の製品などが挙げられる。
商品名「アフィニティ GA1000R」(MI=660g/10分)
【0031】
成分(C):エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体
本明細書においてエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エチレン-アクリル酸エステル共重合体及びエチレンメタクリル酸エステル共重合体の双方を含む概念を意味する。エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えばエチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体、エチレン-アクリル酸2エチルヘキシル、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体などを、挙げることができる。また、上記した中でも、エチレン-メタクリル酸メチル共重合及びエチレン-アクリル酸ブチル共重合体が好ましい。
【0032】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量%のうち、(メタ)アクリル酸エステルに由来するユニットは、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、70%質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。さらに、成分(C)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のMIは170g/10分以下が好ましく、100g/10分以下がより好ましい。かかる構成を採用することにより、糸曳き性の抑制されたホットメルト接着剤を提供することが可能となる。
【0033】
成分(C)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の含有量は、成分(A)、(B)及び(C)の合計100質量%中に、5~12質量%とするのが好ましく、5~11質量%とするのがより好ましい。エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体量を5質量%以上とすることにより、十分な糸曳き抑制効果を得ることができる。また、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体量を12質量%以下とすることにより、得られるホットメルト接着剤の溶融粘度を低くすることができる。これにより、ホットメルト接着剤の低温度塗布性が向上するとともに、加熱安定性が向上する。
【0034】
成分(C)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、特に限定はないが、低溶融粘度、加熱安定性両立する観点より、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体及び/又はエチレン-メタクリル酸メチル共重合体を含むことが好ましい。また、アクリル酸ブチルに由来するユニット及び/又はメタクリル酸メチルに由来するユニットの含有量は、成分(C)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体全体に対して、25質量%以上含むことが好ましい。
【0035】
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体として、市販されている製品を用いる事ができる。このような製品としては、例えば、以下の製品などが挙げられる。
アルケマ社製 商品名「ロトリル 35BA40」(アクリル酸ブチル含有量35重量%、MI=40g/10分)
住友化学社製 商品名「アクリフトCM5023」(メタクリル酸メチル含有量28重量%、MI=150g/10分)
【0036】
ワックス
本発明のホットメルト接着剤は、オープンタイム、セットタイム調整の目的で、ワックスを含んでもよい。かかるワックスとしては、ホットメルト接着剤に通常使用される公知のワックスを、広く使用することが可能である。具体的には、フィッシャートロプシュワックス及びポリエチレンワックスなどの合成ワックス、並びに、パラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックスが挙げられる。ワックスは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。但し、上記した中でも、フィッシャートロプシュワックスが好ましい。フィッシャートロプシュワックスは、エチレン-α-オレフィン共重合体との相溶性が良く、耐寒接着性を低下させる事なく、低粘度化する事ができる。
【0037】
使用するワックスの融点は、70~90℃が好ましい。融点が70℃以上のワックスを使用することにより、ホットメルト接着剤が硬化後、高温環境下においても優れた接着性を維持することが可能である。一方、融点が90℃以下のワックスを使用することにより、ホットメルト接着剤が硬化後、低温環境下においても接着性が低下せず、また、低温塗布性も優れたホットメルト接着剤とすることができる。
【0038】
なお、本明細書においてワックスの融点は、下記測定条件に基づき、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、ワックスを30~150℃まで加熱速度5℃/分で昇温した時の吸熱ピークの温度とする。
<測定条件>
示差走査熱量計:島津製作所製 「DSC-60」
セル:アルミニウム
雰囲気ガス:空気
測定温度:30~150℃
加熱速度:5℃/分
【0039】
フィッシャートロプシュワックスとして、市販されている製品を用いる事ができる。このような製品としては、例えば、以下の製品などが挙げられる。
Shell MDS (M) Sdn Bhd社製 商品名「GTL SARAWAX SX-80」(融点=83℃)
サゾール社製 商品名「C-80」(融点=81℃)
【0040】
粘着付与樹脂
本発明のホットメルト接着剤は、必要に応じて、適宜、粘着付与樹脂を含んでもよい。粘着付与樹脂としては、石油樹脂、テルペン樹脂、ロジン系樹脂、スチレン系樹脂、及びこれらの水素添加物が挙げられる。これらの粘着付与樹脂は、1種単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0041】
粘着付与樹脂としては、中でも、石油樹脂及び/又は石油樹脂の水素添加物が好ましく、石油樹脂の水素添加物が特に好ましい。石油樹脂としては、脂肪族系石油炭化水素樹脂、芳香族石油炭化水素樹脂、及び環状脂肪族系石油炭化水素などが挙げられる。石油樹脂やその水素添加物は、エチレン-α-オレフィン共重合体との相溶性に優れ、これによりホットメルト接着剤の接着性を、より一層向上させる事ができる。
【0042】
石油樹脂の軟化点は95~130℃が好ましい。軟化点が95℃以上の石油樹脂を使用することにより、ホットメルト接着剤が硬化後、高温環境下での接着性を維持することが可能になるとともに、耐クリープ性も良好なものとすることができる。一方で、軟化点が130℃以下の石油樹脂を使用することにより、ホットメルト接着剤が硬化する際に、硬くて脆い硬化物となることを回避することができ、これにより接着性の向上を規定できる。
【0043】
なお、石油樹脂の軟化点とは、JIS K2207に準拠して測定された値とする。
【0044】
石油樹脂としては市販されている製品を用いる事ができ、例えば、以下の製品などが挙げられる。
・脂肪族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の部分水添石油炭化水素樹脂
出光興産製 商品名「アイマーブS-100」(軟化点=100℃)
「アイマーブS-110」(軟化点=110℃)
・脂肪族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂
出光興産製 商品名「アイマーブP-100」(軟化点=100℃)
「アイマーブP-125」(軟化点=125℃)
東燃ゼネラル石油製 商品名「T-REZ HB103」(軟化点=100℃)
「T-REZ HB125」(軟化点=125℃)
・脂肪族系石油炭化水素樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂
イーストマンケミカル社製 商品名「イーストタックH-130W」(軟化点=130℃)
・芳香族石油炭化水素樹脂の部分水添石油炭化水素樹脂
荒川化学製 「アルコンM-100」(軟化点=100℃)
・芳香族石油炭化水素樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂
荒川化学製 「アルコンP-100」(軟化点=100℃)
「アルコンP-125」(軟化点=125℃)
【0045】
酸化防止剤
本発明のホットメルト接着剤はまた、必要に応じて、酸化防止剤を含んでもよい。酸化防止剤を用いる事により、加熱溶融させたホットメルトの保存安定性を向上させる事ができる。
【0046】
酸化防止剤としては、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、及びホスファイト系酸化防止剤などが挙げられる。酸化防止剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0047】
その他
また、本発明のホットメルト接着剤は、本発明の課題達成を阻害しない範疇で必要に応じて、例えば、充填剤、増量剤、粘度調整剤、揺変性付与剤、軟化剤(可塑剤)、プロセスオイル、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤が含まれてもよい。
【0048】
ホットメルト接着剤の製造方法
本発明のホットメルト接着剤の製造方法としては、例えば、上記した成分(A)エチレン-α-オレフィン共重合体、成分(B)官能化エチレン-α-オレフィン共重合体、及び成分(C)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を、所定の配合で混合し、120~180℃で加熱溶融して均一に攪拌混練する方法を、挙げることができる。
【0049】
成分(A)、(B)及び(C)を混合する際には、必要に応じ、ワックス、粘着付与樹脂、酸化防止剤、その他の添加剤を加えてもよい。
【0050】
ホットメルト接着剤の塗工方法
ホットメルト接着剤の塗工方法としては、従来公知の方法が好ましく用いられる。例えば、ホットメルト接着剤を溶融タンク内で100~190℃で加熱溶融させた後、溶融タンクからホースを介してノズルへ送り、ノズルから連続的又は間欠的に吐出させて被接着物の接着面に塗工する方法などが用いられる。本発明のホットメルト接着剤は、上述した通り、糸曳きが高く低減されており、塗工温度が低温であっても塗工する事ができる。従って、溶融タンク内のホットメルト接着剤の加熱溶融温度は、100~130℃が好ましい。また、ホースやノズルの温度も110~140℃が好ましい。
【0051】
ホットメルト接着剤の用途
本発明のホットメルト接着剤は、包装、製本、木工、繊維加工、金属工業、電気、電子工業など広い範囲の用途に使用する事ができ、種々の被着体を接着する事ができる。段ボール箱、紙製箱、段ボール製容器、紙製容器などの紙製包装資材を形成するために好適に用いる事ができる。被着体を構成する材料としては、例えば、鉄、アルミニウムなどの金属及びその合金;ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリメタクリレート、及びポリカーボネートなどの合成樹脂;セルロース系材料;皮革などが挙げられる。セルロース系材料からなる被着体としては、例えば、紙、ボード、ダンボール、及びセロハンなどが挙げられる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0054】
成分(A):エチレン-α-オレフィン共重合体
・エチレン-1-オクテン共重合体A1:ダウケミカル社製 商品名「アフィニティ G
A1875」(MI=1,250g/10分)
・エチレン-1-オクテン共重合体A2:ダウケミカル社製 商品名「アフィニティ G
A1900」(MI=1,000g/10分)
・エチレン-1-オクテン共重合体A3:ダウケミカル社製 商品名「アフィニティ G
A1950」(MI=500g/10分)
【0055】
成分(B):官能化エチレン-α-オレフィン共重合体
・無水マレイン酸官能化エチレン-1-オクテン共重合体B:ダウケミカル社製 商品名
「アフィニティ GA1000R」(MI=660g/10分)
【0056】
成分(C):エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体
・エチレン-アクリル酸ブチル共重合体C1:アルケマ社製 商品名「ロトリル 35B
A40」(アクリル酸ブチル含有量35重量%、MI=40g/10分)
・エチレン-メタクリル酸メチル共重合体C2:住友化学社製 商品名「アクリフトCM
5023」(メタクリル酸メチル含有量28重量%、MI=150g/10分)
・エチレン-メタクリル酸メチル共重合体C3:住友化学社製 商品名「アクリフトCM
5021」(メリクリル酸メチル含有量28重量%、MI=450g/10分)
【0057】
ワックス(フィッシャートロプシュワックス)
・Shell MDS (M) Sdn Bhd社製 商品名「GTL SARAWAX SX
-80」(融点=83℃)
【0058】
粘着付与樹脂
・脂肪族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂E1:出光
興産製 商品名 「アイマーブP-125」(軟化点=125℃)
・脂肪族系成分と芳香族成分との共重合石油樹脂の完全水添石油炭化水素樹脂E2:東燃
ゼネラル石油製 商品名「T-REZ HB103」(軟化点=100℃)
【0059】
酸化防止剤
・ヒンダートフェノール型:EVERSPRING CHEMICAL社製 商品名「E
VERNOX-10」
【0060】
(実施例1~6及び比較例1~6)
上記した各成分を、後述する表1、2に示した組成で、加熱装置を備えた攪拌混練機中に投入した後、150℃で1時間にわたって加熱しながら混練することにより、ホットメルト接着剤組成物を得た。実施例及び比較例のホットメルト接着剤について、溶融粘度、低温環境における接着性、高温環境における耐クリープ性、糸曳き性及び加熱安定性(ホットメルトを長期高温加熱した場合の熱劣化)を以下の手順に従い、評価した。
【0061】
(溶融粘度評価試験)
日本接着剤工業会規格 JAI-7に準拠して、ブルックフィールドRVF型粘度計及びサーモセルを用いて、No.21スピンドル、回転数20rpmにて、130℃におけるホットメルト接着剤の溶融粘度(mPa・s)をそれぞれ測定した。
【0062】
(低温環境における接着性評価試験)
日本接着剤工業会規格 JAI-7に準拠して、50mm×100mmに裁断したダンボール(Kライナー)2枚を被着体として用意した。塗工装置(メック社製 製品名「ASM-15N」)を用いて、溶融タンク130℃、ノズル温度130℃、塗布量3g/mで一方の被着体の片面にホットメルト接着剤を塗布し、オープンタイムとして2秒経過後、もう一方の被着体を積層し、7.8kPaの荷重で2秒間プレスして積層体を得た。その後、その積層体を温度20℃、相対湿度50%に雰囲気下で1時間養生したもの試験片とした。試験片を-10℃の恒温槽内に24時間放置後、同恒温槽内にて、試験片中の一方の被着体を手で剥がし、被着体の材破率(%)を算出した。なお、被着体の材破率とは、2枚の被着体同士が接着している面全体の面積に対する、被着体が破壊した部分の面積の比率(百分率)とした。
評価基準
◎…材料破壊率80%以上
○…材料破壊率60%以上80%未満
△…材料破壊率40%以上60%未満
×…材料破壊率40%未満
【0063】
(高温環境における耐クリープ性評価試験)
耐寒性と同様の要領に従って試験片を作製した。試験片の一方の端部において、2枚の被着体をそれぞれ反対側の方向に折り曲げ、T字状の試験片を得た。T字状の試験片を55℃の恒温槽中に入れ、一方の折り曲げた被着体の端部を恒温槽天井に固定し、もう一方の折り曲げた被着体の端部に600gfの錘を吊り下げ後、錘を吊り下げてから落下するまでの時間を計測した。
評価基準
◎…保持時間12時間以上
○…保持時間8時間以上12時間未満
△…保持時間5時間以上8時間未満
×…保持時間5時間未満
【0064】
(糸曳き性評価試験)
ホットメルトノズルの先端から距離20cmの所に被着体を垂直に配置し、その間の落下物を捕獲するための板状の受け皿を設置する。20℃の無風雰囲気下、下記条件で交流電源シーケンサーを用いて、ホットメルト接着剤を600ショット/10分の条件で間欠吐出し、受け皿上に溜まった落下物の形状を目視にて観察し、糸曳き性を評価した。
なお、5℃無風雰囲気下でも20℃の無風雰囲気下と同様の要領で評価した。
測定条件
ホットメルトアプリケーター:ノードソン社製 製品名「Problue4」
温度設定:溶融タンク130℃、ホース温度130℃、ノズル温度130℃
吐出圧 :3.0bar
ノズル形状:3オリフィス(3穴)、口径18/1000インチ
評価基準
◎…落下物の形状は粒状
○…落下物の形状はほとんど粒状で、糸状がわずかに混在
△…落下物の形状は粒状と糸状が混在
×…落下物の形状は糸状
【0065】
(加熱安定性評価試験)
得られた各ホットメルト接着剤をそれぞれ内容積140ccのガラス瓶に50g計量して入れ、ガラス瓶の開口部をアルミホイルで蓋をした状態で130℃の恒温槽に30日間保管した後、ガラス瓶を恒温槽から取り出して、ガラス瓶の縁に炭化物がリング状に付着していないか、ガラス瓶内のホットメルト接着剤の表面に炭化物の皮が張っていないかを確認した。
評価基準
◎…炭化物なし
○…炭化物わずかにあり
△…炭化物あり
×…炭化物が多量にあり
【0066】
【0067】
【0068】
(各評価試験結果)
上記表1及び2に示したように、各実施例のホットメルト接着剤は、比較例のホットメルト接着剤と比較して、糸曳き性に関する問題の発生が抑制され、また、高温・低温環境下における接着性の問題も見られなかった。