(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】クランプセンサおよびクランプメータ
(51)【国際特許分類】
G01R 1/22 20060101AFI20220307BHJP
G01R 15/18 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
G01R1/22 A
G01R15/18 B
(21)【出願番号】P 2018147553
(22)【出願日】2018-08-06
【審査請求日】2020-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390025623
【氏名又は名称】共立電気計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】河本 理
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0043190(US,A1)
【文献】特開平9-311143(JP,A)
【文献】特開2000-155133(JP,A)
【文献】実開昭62-42070(JP,U)
【文献】特開2004-14897(JP,A)
【文献】特開2017-191018(JP,A)
【文献】特開2018-105678(JP,A)
【文献】特開2019-211423(JP,A)
【文献】「交流電流測定用クランプメータ[共立電気計器] | 日本電計株式会社が運営する計測機器、試験機器の総合展示会」,2014年07月04日,https://www.keisokuten.jp/products/1040.html
【文献】「フレキシブルクランプメータ KEW 2210R」,2014年07月04日,https://www.keisokuten.jp/file.php?id=3325
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/22
G01R 15/00-15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部を連結することで被測定導体を非接触で囲む環状鉄心となる連結コアと、該連結コアの外周にコイルを配置可能なコイル体と、から成るクランプセンサであって、
前記コイル体は、前記連結コアを内挿可能な内空部を有すると共に、各端部から前記連結コアの第1着脱端部と第2着脱端部をそれぞれ露出させ得る長さで、前記連結コアの変形に追随して無理なく変形し得る可撓性を有する内層チューブと、該内層チューブの外表面にマグネットワイヤを巻回して成る内側コイルと、該内側コイルの外側を覆うように配置する中層チューブと、該中層チューブの外表面にマグネットワイヤを巻回して成る外側コイルと、を備え、
前記コイル体の外面側を絶縁性の外層チューブで覆うと共に、
前記コイル体の内空部に
前記連結コアを内挿し、
前記内側コイルと
前記外側コイルで
前記被測定導体を流れる電流を同時に検出可能と
したことを特徴とするクランプセンサ。
【請求項2】
前記連結コアは、高透磁率軟磁性材料で形成され、最も離隔する一対の端部にそれぞれ第1連結部と第2連結部を形成した連結素体を複数用い、互いの
前記第1連結部と
前記第2連結部が回動可能な1軸性関節となるように連結することで両端が開いた数珠つなぎ状の連結構造と成し、一方端の
前記連結素体における連結されていない
前記第1連結部を第1着脱端部とし、他方端の
前記連結素体における連結されていない
前記第2連結部を第2着脱端部とし、
前記第1着脱端部と
前記第2着脱端部とを連結することで、全ての
前記連結素体が環状に閉じた環状鉄心を構成するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のクランプセンサ。
【請求項3】
前記連結コアの
前記連結素体は、高透磁率軟磁性材料の板材であるベース材を複数枚積層して所要の厚さとなるように構成し、
前記ベース材は、一軸性関節となるように連結される軸位置から等距離となる円弧状に突出する凸状端縁部を一端側に、該
凸状端縁部と同等程度の曲率で円弧状に窪む凹状端縁部を他端側に、それぞれ備えるものとし、
前記ベース材の
前記凸状端縁部と
前記凹状端縁部を交互に積層して
前記連結素体を構成することで、
前記第1連結部と
前記第2連結部は互いに
前記凸状端縁部と
前記凹状端縁部とが噛み合う嵌合構造とし、且つ、1軸性関節で連結される各連結素体の
前記ベース材は互いの
前記凸状端縁部と
前記凹状端縁部とが阻害し合うこと無く所要範囲で回動できるようにしたことを特徴とする請求項2に記載のクランプセンサ。
【請求項4】
前記請求項1~請求項3の何れか1項に記載のクランプセンサを備え、
前記クランプセンサの
前記内側コイルと
前記外側コイルから夫々検出された内側コイル測定電流値と外側コイル測定電流値を取得し、
前記内側コイル測定電流値と
前記外側コイル測定電流値に基づいて
前記被測定導体を流れる電流値を演算する計測装置を設けたことを特徴とするクランプメータ。
【請求項5】
前記外側コイルと
前記内側コイルの
巻数を同一とし、外部磁界の影響を
前記クランプセンサが受けないときには、
前記内側コイル測定電流値と
前記外側コイル測定電流値が一致するようにしたことを特徴とする請求項4に記載のクランプメータ。
【請求項6】
前記計測装置は、
前記クランプセンサより取得した
前記外側コイル測定電流値と
前記内側コイル測定電流値との差である差電流値から、外部磁界が
前記内側コイルに作用して生じた内側補正電流値を求める演算式を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段の演算式を用いて
前記内側補正電流値を演算し、
前記内側コイル測定電流値から
前記内側補正電流値を減ずることで、
前記クランプセンサによる真の計測値を求め、
該真の計測値から
前記被測定導体を流れる電流値を求める演算手段と、
を備えることを特徴とする請求項5に記載のクランプメータ。
【請求項7】
前記計測装置は、
前記クランプセンサより取得した
前記外側コイル測定電流値と
前記内側コイル測定電流値との差である差電流値から、外部磁界が
前記外側コイルに作用して生じた外側補正電流値を求める演算式を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段の演算式を用いて
前記外側補正電流値を演算し、
前記外側コイル測定電流値から
前記外側補正電流値を減ずることで、
前記クランプセンサによる真の計測値を求め、
該真の計測値から
前記被測定導体を流れる電流値を求める演算手段と、
を備えることを特徴とする請求項5に記載のクランプメータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定導体を含む大面積構造物にも対応できるクランプセンサと、このクランプセンサを用いて電流検出を行えるクランプメータに関する。
【背景技術】
【0002】
回路電源を落とさずに被測定導体の電流測定(或いは、回路中の漏れ電流測定)を行う場合、被測定導体をクランプセンサでクランプし、被測定導体を流れる電流(或いは、回路中の漏れ電流)により生ずる磁界から電流値を求めるクランプメータが知られている。交流回路を検出対象とするのであれば、測定電流をコイルの巻数比に応じた二次電流に変換するCT(Current Transformer)方式のクランプメータが広く用いられている(例えば、特許文献1を参照)。CT方式のクランプメータでは、外部から受ける磁界の影響を遮断するため、透磁率の大きな強磁性材より成るシールドでセンサ部を覆って強制的に外部磁界を遮断する方法が採られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0003】
また、被測定導体を含んだ大型の構造物(柱など)ではクランプ箇所の断面が大面積となる。このような大面積構造物の電流測定を行う場合、構造物ごとクランプして電流検出を行えるロゴスキーコイル方式のクランプメータを用いることができる(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-031608号公報
【文献】特開平11-295346号公報
【文献】特開2011-174769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載のCT式クランプセンサは、mAレベルの微小電流の測定が可能であるものの、標準的な市販品では70mm程度のクランプ径しかなく、被測定導体を含む大面積構造物ごと大口径でクランプすることはできない。対して、特許文献2に記載のロゴスキーコイル(空芯コイル)は、被測定導体を含む大面積構造物ごと大口径でクランプできるものの、10A以下の低電流(微小な漏れ電流など)の測定ができない。加えて、ロゴスキーコイル方式のクランプメータで、外部磁界の影響を遮断するためにシールド構造を採ることができない。
【0006】
電気の保守点検では、絶縁状態の良否判定に微小な漏れ電流(或いは接地電流)を測定することが必要であり、対象が大面積構造物であっても、その絶縁状態の判別には微小電流の測定を可能にする必要がある。しかも、クランプメータによる微小電流の測定においては、外部磁界の影響による検出誤差も無視できず、計測精度を落とすことになる。
【0007】
そこで、本発明は、クランプ径の大型化や軽量化の妨げとなる金属製シールド等を用いること無く外部磁界の影響を抑制し、被測定導体を含む大面積構造物に流れる微小電流を検知できるクランプセンサとクランプメータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、両端部を連結することで被測定導体を非接触で囲む環状鉄心となる連結コアと、該連結コアの外周にコイルを配置可能なコイル体と、から成るクランプセンサであって、前記コイル体は、前記連結コアを内挿可能な内空部を有すると共に、各端部から前記連結コアの第1着脱端部と第2着脱端部をそれぞれ露出させ得る長さで、前記連結コアの変形に追随して無理なく変形し得る可撓性を有する内層チューブと、該内層チューブの外表面にマグネットワイヤを巻回して成る内側コイルと、該内側コイルの外側を覆うように配置する中層チューブと、該中層チューブの外表面にマグネットワイヤを巻回して成る外側コイルと、を備え、前記コイル体の外面側を絶縁性の外層チューブで覆うと共に、コイル体の内空部に連結コアを内挿し、内側コイルと外側コイルで被測定導体を流れる電流を同時に検出可能としたたことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、前記請求項1に記載のクランプセンサにおいて、前記連結コアは、高透磁率軟磁性材料で形成され、最も離隔する一対の端部にそれぞれ第1連結部と第2連結部を形成した連結素体を複数用い、互いの第1連結部と第2連結部が回動可能な1軸性関節となるように連結することで両端が開いた数珠つなぎ状の連結構造と成し、一方端の連結素体における連結されていない第1連結部を第1着脱端部とし、他方端の連結素体における連結されていない第2連結部を第2着脱端部とし、これら第1着脱端部と第2着脱端部とを連結することで、全ての連結素体が環状に閉じた環状鉄心を構成するようにしたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、前記請求項2に記載のクランプセンサにおいて、前記連結コアの連結素体は、高透磁率軟磁性材料の板材であるベース材を複数枚積層して所要の厚さとなるように構成し、前記ベース材は、一軸性関節となるように連結される軸位置から等距離となる円弧状に突出する凸状端縁部を一端側に、該突状端縁部と同等程度の曲率で円弧状に窪む凹状端縁部を他端側に、それぞれ備えるものとし、前記ベース材の凸状端縁部と凹状端縁部を交互に積層して連結素体を構成することで、第1連結部と第2連結部は互いに凸状端縁部と凹状端縁部とが噛み合う嵌合構造とし、且つ、1軸性関節で連結される各連結素体のベース材は互いの凸状端縁部と凹状端縁部とが阻害し合うこと無く所要範囲で回動できるようにしたことを特徴とする。
【0011】
上記の課題を解決するために、請求項4に係るクランプメータは、前記請求項1~請求項3の何れか1項に記載のクランプセンサを備え、前記クランプセンサの内側コイルと外側コイルから夫々検出された内側コイル測定電流値と外側コイル測定電流値を取得し、内側コイル測定電流値と外側コイル測定電流値に基づいて被測定導体を流れる電流値を演算する計測装置を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明は、前記請求項4に記載のクランプメータにおいて、前記外側コイルと内側コイルの巻線を同一とし、外部磁界の影響をクランプセンサが受けないときには、内側コイル測定電流値と外側コイル測定電流値が一致するようにしたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に係る発明は、前記請求項5に記載のクランプメータにおいて、前記計測装置は、前記クランプセンサより取得した外側コイル測定電流値と内側コイル測定電流値との差である差電流値から、外部磁界が内側コイルに作用して生じた内側補正電流値を求める演算式を記憶する記憶手段と、前記記憶手段の演算式を用いて内側補正電流値を演算し、内側コイル測定電流値から内側補正電流値を減ずることで、クランプセンサによる真の計測値を求め、真の計測値から被測定導体を流れる電流値を求める演算手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に係る発明は、前記請求項5に記載のクランプメータにおいて、前記計測装置は、前記クランプセンサより取得した外側コイル測定電流値と内側コイル測定電流値との差である差電流値から、外部磁界が外側コイルに作用して生じた外側補正電流値を求める演算式を記憶する記憶手段と、前記記憶手段の演算式を用いて外側補正電流値を演算し、外側コイル測定電流値から外側補正電流値を減ずることで、クランプセンサによる真の計測値を求め、真の計測値から被測定導体を流れる電流値を求める演算手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るクランプセンサによれば、計測対象の被測定導体を含む大面積構造物に応じて、連結素体を適数連結した連結コアによって必要十分な径の環状鉄心を構成することができる。そして、連結コアの第1着脱部と第2着脱部を開いた状態で大面積構造物を囲み、第1着脱部と第2着脱部を連結して環状鉄心となったその外周には、コイル体によりコイルが配置された状態となる。よって、大面積構造物をクランプセンサでクランプすれば、検出対象の交流電流により生ずる磁界変化から、コイルの巻数比に応じた二次電流を内側コイルおよび外側コイルより取得できる。クランプセンサより内側コイル測定電流値と外側コイル測定電流値を取得した計測装置は、外側コイルと内側コイルが外部磁界から受けた影響を補正した真の計測値を演算し、真の計測値から被測定導体を流れる電流値を演算する。これにより、外部磁界の影響を受けずに微小電流の測定を行えるクランプメータとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るクランプメータの概略構成図である。
【
図2】クランプメータに用いるクランプセンサを示し、(a)は一部欠截平面図、(b)は一部欠截側面図である。
【
図3】連結コアを構成する基本リンクの俯瞰斜視図である。
【
図4】基本リンクを構成するベース材の平面図である。
【
図5】ベース材を用いた基本リンクの組立説明図である。
【
図6】(a)は基本リンクの背面図である。(b)は
図6(a)のVIb-VIb線矢視方向の拡大概略端面図である。
【
図7】(a)は連結された第1基本リンクと第2基本リンクの平面図である。(b)は
図7(a)のVIIb-VIIb線矢視方向の拡大概略端面図である。
【
図9】クランプセンサの組み立て工程説明図である。
【
図10】本実施形態に係るクランプメータにより電柱の接地電流(或いは漏れ電流)を計測するときの使用方法説明図である。
【
図11】内側コイルと外側コイルによる測定原理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、クランプメータ1の概略構成を示し、このクランプメータ1は、被測定線をクランプするクランプセンサ2と、クランプセンサ2の検知電流に基づいて所定の演算を行い、計測結果をデジタル値(或いはアナログ値)で表示する計測装置3とで構成される。
【0018】
クランプセンサ2は、両端部を連結することで被測定導体を非接触で囲む環状鉄心となる連結コア4と、連結コア4の外周にコイルを配置した状態を保持するコイル保持チューブ5とから成る。なお、連結コア4は、後述するように、第1着脱端部4aと第2着脱端部4bを外すことで曲げ伸ばしができる。よって、被測定導体を含む大面積構造物(例えば、電柱)をクランプセンサ2で囲み、第1着脱端部4aと第2着脱端部4bを連結すると、電柱の周面等を囲む環状鉄心とすることができる。環状鉄心となった連結コア4は、被測定導体を流れる電流により生じた磁束を効率良く通す閉磁路として機能する。
【0019】
更に、コイル保持チューブ5は、連結コア4の変形に追随して無理なく変形し得る可撓性と絶縁性を備える。よって、連結コア4を閉じて環状鉄心としたときには、コイル保持チューブ5内のコイルも環状に配置されることとなり、被測定導体を交流電流が流れることで生じた磁束が環状鉄心に集中し、この磁束変化を打ち消すようにコイル保持チューブ5のコイルに二次電流が流れる。この二次電流は、被測定導体を流れる一次電流に対して、コイル保持チューブ5内コイルの巻数比に応じた大きさとして得ることができるので、数mA程度の微小電流を検出可能な検出感度に設定することが容易である。
【0020】
また、クランプセンサ2により大面積構造物をクランプする作業が繁雑とならないよう、本実施形態のクランプセンサ2における連結コア4の第1着脱端部4a側には第1連結ガイド6を、第2着脱端部4b側には第2連結ガイド7を設ける。これら第1,第2連結ガイド6,7は、第1着脱端部4aと第2着脱端部4bの着脱を簡易に行える公知既存の適宜な構造を適用することができる。なお、クランプセンサ2における第1連結ガイド6から接続ケーブル8を延出させ、計測装置3と接続する。
【0021】
計測装置3は、この接続ケーブル8を介して、コイル保持チューブ5内のコイル(後に詳述する)から検出信号を受け、電流検出用のシャント抵抗によって、検出信号(電圧信号)を電流情報に変換する。また、計測装置3は、少なくとも、クランプセンサ2の検出電流から被測定導体を流れる電流値を演算する演算式を予め記憶させておく記憶手段31、この演算式を用いて演算を行う演算手段32、演算結果を可視表示する表示部33等の機能を備える。このほか、計測値の履歴を保存しておく機能や、履歴情報を外部へ出力する機能、計測結果や警告などを音声で知らせる音声出力機能等を計測装置3に付加しても構わない。
【0022】
上述したクランプセンサ2の概略構造を
図2に示す。なお、クランプセンサ2は被測定導体の向きに応じて、任意の方向に使用できるが、以下の説明においては、便宜上、クランプセンサ2によってクランプできる断面方向を横方向(或いは水平方向)、これに直交する方向を縦方向(或いは上下方向)として説明する。よって、
図2(a)はクランプセンサ2の一部を横方向に切り欠いて内部を示したもので、
図2(b)はクランプセンサ2の一部を縦方向に切り欠いて内部を示したものである。
【0023】
連結コア4は、例えば、14個の連結素体である第1基本リンク40-1、第2基本リンク40-2、…、第12基本リンク40-12、第13基本リンク40-13、第14基本リンク40-14を連結したものである。なお、第1~第14基本リンク40-1~40-14は、全て同一形状であり、特に区別する必要が無い場合は、単に基本リンク40という。これら第1~第14基本リンク40-1~40-14は、後述するベース材41を積層してリベット42で固定したものであり、最も離隔する一対の端部にそれぞれ第1連結部14aと第2連結部14bを形成する。
【0024】
第1基本リンク40-1と第2基本リンク40-2を連結する場合、第1基本リンク40-1における第2連結部40b(これを第1基本リンク第2連結部40-1bという。以下、同様)と第2基本リンク第1連結部40-2aを1軸性関節連結部43によって、回動可能な1軸性関節となるように連結する。第2基本リンク40-2と第3基本リンク40-3を連結する場合、第2基本リンク第2連結部40-2bと第3基本リンク第1連結部40-3aを1軸性関節連結部43によって連結する。第3基本リンク40-3~第12基本リンク40-12を連結する場合も同様であるから、省略する。第12基本リンク40-12と第13基本リンク40-13を連結する場合、第12基本リンク第2連結部40-12bと第13基本リンク第1連結部40-13aを1軸性関節連結部43によって連結する。第13基本リンク40-13と第14基本リンク40-14を連結する場合、第13基本リンク第2連結部40-13bと第14基本リンク第1連結部40-14aを、1軸性関節連結部43によって連結する。斯くすることで、連結コア4は、両端が開いた数珠つなぎ状の連結構造と成る。このとき、一方端の連結素体である第1基本リンク40-1には連結されていない第1基本リンク第1連結部40-1aが残り、他方端の連結素体である第14基本リンク40-14には連結されていない第14基本リンク第2連結部40-14bが残る。
【0025】
従って、第1基本リンク第1連結部40-1aを第1着脱端部4aとすることができ、第14基本リンク第2連結部40-14bを第2着脱端部4bとすることができる。そして、これら第1着脱端部4aと第2着脱端部4bとを連結することで、第1~第14基本リンク40-1~40-14が環状に閉じた環状鉄心を構成できる。なお、第1基本リンク40-1~第14基本リンク40-14は、全て1軸性関節の向きを上下方向に統一して連結することにより、第1基本リンク40-1~第14基本リンク40-14の回動方向を水平方向に規制することができる。このように、第1基本リンク40-1~第14基本リンク40-14の回動方向が水平方向に規制されていれば、第1着脱端部4aと第2着脱端部4bとの連結もほぼ水平面内で行うことができる。
【0026】
一方、コイル保持チューブ5は、可撓性のチューブをコイルボビンとして用いることで、コイルを保持するものである。具体的には、内層チューブ51の外周面にマグネットワイヤ521を巻回して内側コイル52を形成して中層チューブ53で覆い、中層チューブ53の外周面にマグネットワイヤ541を巻回して外側コイル54を形成して、コイル体55をとする。そして、コイル体55の外面(外側コイル54が形成された面)を絶縁性の外層チューブ54で覆うことにより、コイル保持チューブ5となる。
【0027】
内層チューブ51と中層チューブ53と外層チューブ56は、連結コア4の変形に追随して無理なく変形し得る可撓性および絶縁性を有する。内層チューブ51は、上記連結コア4を内挿可能な内空部51bを有すると共に、各端部から連結コア4の第1着脱端部4aと第2着脱端部4bをそれぞれ露出させ得る長さである。内層チューブ53および外層チューブ56も同等程度の長さに設定しておき、各端部を絶縁キャップ57にて覆う。なお、コイル保持チューブ5の一方からは、内側コイル51を構成するマグネットワイヤ521の巻き始め部分あるいは巻き終わり部分である内側第1引出線521aおよび内側第2引出線521bを引き出しておく。同様に、外側コイル54を構成するマグネットワイヤ541の巻き始め部分あるいは巻き終わり部分である外側第1引出線541aおよび外側第2引出線541bを引き出しておく。
【0028】
次に、連結コア4を構成する基本リンク40の詳細構造について説明する。
図3は、連結素体である基本リンク40の外観を示すものである。この基本リンク40は、高透磁率軟磁性材料(例えば、パーマロイ)の板材(例えば、厚さ1〔mm〕)である第1ベース材41-1、第2ベース材41-2、…、第6ベース材41-6、第7ベース材41-7を積層した構造である。第1ベース材41-1~第7ベース材41-7を重ねた状態で、かしめ固定方式のリベット42で一体に固定する。なお、第1~第7ベース材41-1~41-7は、全て同一形状であり、特に区別する必要が無い場合は、単にベース材41という。
【0029】
ベース材41の平面(例えば、上面41aが臨む面)を
図4に示す。ベース材41は、緩やかな弧状の長尺板材であり、概略、長手方向の二辺である外側弧状縁部411と内側弧状縁部412、短手方向の二辺である凸状端縁部413と凹状端縁部414を備える。例えば、仮想の原点OからR160〔mm〕の円弧(以下、仮想中心円弧という)を想定し、仮想中心円弧の外側へ3.5〔mm〕程度離れた円弧(例えば、原点OからR163.5〔mm〕の円弧)と重なるように形成したのが外側弧状縁部411である。また、仮想中心円弧の内側へ3.5〔mm〕程度離れた円弧(例えば、原点OからR156.5〔mm〕の円弧)と重なるように形成したのが内側弧状縁部412である。また、ベース材41における一方の短手側(例えば、上面41aから見て左側、或いは下面41bから見て右側)に設けたのが凸状端縁部413である。また、ベース材における他方の短手側(例えば、上面41aから見て右側、或いは下面41bから見て左側)に設けたのが凹状端縁部414である。なお、外側弧状縁部411と内側弧状縁部412との離隔距離は約7〔mm〕(3.5〔mm〕×2)とし、第1~第7ベース材41-1~41-7を重ねた厚さも約7〔mm〕であるから、基本リンク40の短手方向の縦断面は略正方形となる。
【0030】
ベース材41における仮想中心円弧上には、各々φ2〔mm〕の第1固着孔415a、第2固着孔415b、第3固着孔415cを設けてある。例えば、原点Oから第2固着孔415bの中心を通る仮想線に対して、原点Oから第1固着孔415aの中心へ至る角度と、原点Oから第3固着孔415cの中心へ至る角度が同じになるように、第1~第3固着孔415a~415cの開設位置を定める。斯くすれば、2枚のベース材41を、その上面41aと下面41bとが向き合うように重ねたとき(凸状端縁部413と凹状端縁部414の向きが逆になるように重ねたとき)、重ねた2枚のベース材41における3箇所の孔を全て一致させることができる。すなわち、2枚のベース材41を、それぞれの第2固着孔415bが連通するように位置合わせすると、一方のベース材41における第1固着孔415aと第3固着孔415cが、他方のベース材41における第3固着孔415cと第1固着孔415aに重なる。このとき、重ねた2枚のベース材41は、外側弧状縁部411と内側弧状縁部412も一致した状態を保てる。
【0031】
従って、基本リンク40は、複数枚(例えば、7枚)のベース材41を重ねた構造とするとき、
図5に示すように、ベース材41の向きを交互に変えて重ねることができる。先ず、上面41aを上向きにした第1ベース材41-1の下に、下面41bを上向きにした第2ベース材41-2を重ねる。その下に、上面41aを上向きにした第3ベース材41-3を重ねる。その下に、下面41bを上向きにした第4ベース材41-4を重ねる。その下に、上面41aを上向きにした第5ベース材41-5を重ねる。その下に、下面41bを上向きにした第6ベース材41-6を重ねる。その下に、上面41aを上向きにした第7ベース材41-7を重ねる。このように重ねた第1ベース材41-1から第7ベース材41-7まで貫通する第1~第3固着孔415cに、リベット42を挿通させ、かしめて固定する。なお、リベット42は、
図6に示すように、第1ベース材41-1の上面41a側に頭部42aを位置させて、第1~第3固着孔415a~415cに軸部42bを挿通し、第7ベース材41-7の下面41b側にかしめ部42cを形成する。
【0032】
上記のように第1~第7ベース材41-1~41-7を積層して形成した基本リンク40における第1,第2連結部40a,40bは、何れも凸状端縁部413と凹状端縁部414が交互に重なったものである。第1連結部40aは、第1ベース材41-1から第7ベース材41-7に向かって「凹凸凹凸凹凸凹」の構造となり、第2連結部40bは、第1ベース材41-1から第7ベース材41-7に向かって「凸凹凸凹凸凹凸」の構造となる。すなわち、基本リンク40の第1連結部40aと第2連結部40bは、互いに噛み合う嵌合構造となるのである。
【0033】
しかも、基本リンク40の第1連結部40aと第2連結部40bは、1軸性関節連結部43によって連結することで、円滑に回動できる1軸性関節となるように、凸状端縁部413の突出形状および凹状端縁部414の窪み形状を以下のように設定してある。
【0034】
ベース材41の凸状端縁部413側には、1軸性関節連結部43によって連結するための連通孔416を設ける。この連通孔416の中心から半径r1の円弧が凸状端縁部413の膨出縁とほぼ重なるような、連通孔416の位置を定める(
図5の各凸状端縁部413を参照)。また、2枚の基本リンク40を逆向きに重ねたとき、凹状端縁部414と近接する連通孔416の中心から半径r2の円弧が凹状端縁部414の窪み縁と重なるようにする(例えば、
図5の各凹状端縁部414を参照)。このとき、「r1≦r2」に設定しておけば、一対の基本リンク40における一方の第1連結部40aと他方の第2連結部40bとを噛み合わせた状態で、全ての連通孔416の開口位置を合わせることができる。
【0035】
上述したベース材41の設計に際して、凸状端縁部413と凹状端縁部414が共に180゜近い弧状範囲を備えたものにすると、一対の基本リンク40の第1連結部40aと第2連結部40bとが噛み合ったまま回動不能になってしまう。そこで、許容する回動範囲に応じて、凸状端縁部413と凹状端縁部414の弧状範囲を適宜に設定しておくことが望ましい。なお、凸状端縁部413と凹状端縁部414は、それぞれ外側弧状縁部411および内側弧状縁部412と滑らかに接続される外縁形状とすることが望ましい。凸状端縁部413および凹状端縁部414と外側弧状縁部411および内側弧状縁部412との接続部分に段差や鋭角が生じていると、連結コア4をコイル保持チューブ5内へ内挿したとき、内層チューブ51の内面を傷つけてしまう危険性がある。
【0036】
しかし、本実施形態のクランプセンサ2で用いる連結コア4のベース材41においては、短手方向の幅(外側弧状縁部411と内側弧状縁部412との離隔距離)が概ねr1〔mm〕×2である。よって、凸状端縁部413の弧状範囲を概ね180゜にすると、凸状端縁部413の一方端と外側弧状縁部411との接続部分および凸状端縁部413の他方端と内側弧状縁部412との接続部分は滑らかとなり、段差等は生じない。一方、凹状端縁部414の一方端と外側弧状縁部411との接続部分および凹状端縁部414の他方端と内側弧状縁部412との接続部分には、面取り(例えば、R1)を施して、角が生じないよう滑らかに接続する形状とした。
【0037】
また、凸状端縁部413を決定する半径r1と凹状端縁部414を決定する半径r2を等しくすると、一対の基本リンク40の第1連結部40aと第2連結部40bを連結したとき、加工精度によっては、連結口416の開口位置を合わせられない可能性がある。仮に、加工精度が良く、「r1=r2」としも連結口416の開口位置がぴったり合ったとしても、凸状端縁部413と凹状端縁部414は長い範囲で面接触することとなる。凸状端縁部413と凹状端縁部414が面接触していると、それだけ摺動抵抗が高くなるので、連結コア4の変形作業を困難にしてしまう可能性がある。かといって、極端に凸状端縁部413の半径r1を凹状端縁部414の半径r2よりも小さくしてしまうと、第1連結部40aと第2連結部40bとを噛み合わせたときの対向面積が少なくなってしまう。第1連結部40aと第2連結部40bとの対向面積が減ると、ベース材41同士の連結部における磁気抵抗を高めてしまう可能性があるし、ベース材41同士の連結部における強度低下という問題も懸念される。そこで、一対の基本リンク40の第1連結部40aと第2連結部40bとを噛み合わせたとき、凸状端縁部413と凹状端縁部414が点接触するかしないか程度に設定しておくことが望ましい。例えば、
図4に示すように、凸状端縁部413を決定する半径r1を3.5〔mm〕、凹状端縁部414を決定する半径r2を3.6〔mm〕に設定すると、連結コア4の変形作業に支障はないし、連結部で極端に磁気抵抗が高まることも無い。
【0038】
上記のように構成した第1着脱端部4aと第2着脱端部4bを備える一対の基本リンク40を連結する1軸性関節連結部43の一構成例を
図7に示す。第1連結部40aと第2連結部40bとを噛み合わせて、全ての凸状端縁部413における連通孔416の開口位置を一致させ、この状態で連結ネジ431を挿入する。連結ネジ431の頭部が第1ベース材41-1の上面41aに押し当たったとき、431のネジ先が第7ベース材41-7の下面41bより適宜突出するので、平座金432およびスプリングワッシャ433を介挿してナット434で締結する。
【0039】
このとき、ナット434をきつく締め付け過ぎると基本リンク40同士の円滑な回動が阻害されてしまうし、逆に、締め付けが弱過ぎると連結コア4自身の形状保持が困難になるので、クランプセンサ2で被測定導体をクランプするときの作業が繁雑となる。したがって、1軸性関節連結部43の機能としては、適切な締結状態を保持することも重要である。例えば、連結ネジ431に対してナット434を所定の締め付けトルク(例えば、1.8〔kgf・cm〕)で締め付けた後、ナット434を90゜戻すことで一定量だけ緩め、ナット434にネジロック剤435を塗布して、この締め付け状態に固定する。斯くすれば、基本リンク40同士の円滑な回動を阻害することも、連結コア4自身の形状保持を困難にすることも無いので、計測作業における連結コア4の取り扱いが良くなり、作業性の向上にも寄与できる。
【0040】
上述した連結コア4の外周に内側コイル52を配置可能なコイル体55の製造工程の一例を、
図8に基づいて説明する。まず、円筒状の外周面51aを有する可撓性・絶縁性の内層チューブ51を用意する。内層チューブ51は、連結コア4を内挿するのに必要十分な口径の内空部51bを備えると共に、連結コア4の第1連結部40aと第2着脱端部4bが両端開口から突出する程度の長さである。また内層チューブ51の内空部51bに直線状の金属棒58を貫通させることで、内層チューブ51を直線状に固定する(
図8(a)を参照)。かくすれば、剛性のある金属棒58を回転軸として軸回転式の巻線機にセットすることができるので、巻線機によってマグネットワイヤ521を内層チューブ51の外周面51aに単層もしくは複層に効率よく巻回してゆき、内側コイル52を形成できる(
図8(b)を参照)。
【0041】
内層チューブ51の外周面51aに内側コイル52を形成した後、内側コイル52を覆うように中層チューブ53を被せ、中層チューブ53の外周面53aにマグネットワイヤ541を単層もしくは複層に巻回して行き、外側コイル54を形成する(
図8(c)を参照)。その後、内層チューブ51を巻線機から外して金属棒58を抜き取る(
図8(d)を参照)。こうして、内層チューブ51の外表面にマグネットワイヤ521を巻回して形成した内側コイル52と、中層チューブ53の外表面にマグネットワイヤ541を巻回して形成した外側コイル54とで二重構造としたコイル体55が形成される(
図8(e)を参照)。なお、マグネットワイヤ521およびマグネットワイヤ541の巻き始め部分と巻き終わり部分は、それぞれ、内側第1引出線521aおよび内側第2引出線521b、外側第1引出線541aおよび外側第2引出線541bとして用いることができる。
【0042】
上記のようにして形成したコイル体55は、可撓性・絶縁性の外層チューブ56のコイル体内挿空部56aに内挿することで(
図9(a)を参照)、外側コイル54の外表面を外層チューブ56で覆うことができる。なお、外層チューブ56はコイル体55と同程度の長さで、コイル体内挿空部56aはコイル体55を内挿するのに必要十分な口径である。外層チューブ56にコイル体55を内挿した後、その両端には、沿面距離を確保するための絶縁キャップ57をそれぞれ取り付けてコイル保持チューブ5を構成する(
図9(b)を参照)。次いで、コイル保持チューブ5のコア内挿空部5a(内層チューブ51の内空部51bと同じ)へ連結コア4を内挿し、コイル保持チューブ5の両端部より第1着脱端部4aおよび第2着脱端部4bをそれぞれ露出させる。かくして、クランプセンサ2を構成できる(
図9(c)を参照)。
【0043】
図9(c)に示すように、クランプセンサ2の両端には、第1着脱端部4aと第2着脱端部4bがそれぞれ適宜長さ露出している。したがって、被測定導体をクランプセンサ2で囲むように曲げて、第1着脱端部4aである第1連結部40aと第2着脱端部4bである第2連結部40bとを嵌合させ、連結コア4を環状鉄心にする作業を使用者が行うようにしても良い。しかしながら、第1連結部40aと第2連結部40bとの正確な位置合わせを使用者が目視で行うのは、とても効率的な作業とはいえない。そこで、クランプセンサ2では、第1着脱端部4aと第2着脱端部4bとを効率良く嵌合させたり、取り外したりできるように、第1着脱端部4a側には第1連結ガイド6を、第2着脱端部4b側には第2連結ガイド7をそれぞれ設けておく。なお、第1連結ガイド6と第2連結ガイド7による着脱構造は特に限定されず、公知既存の適宜な着脱構造を採用して構わない。
【0044】
上記のように構成したクランプセンサ2を備えるクランプメータ1の使用例を
図10に示す。クランプセンサ2の第1連結ガイド6と第2連結ガイド7を外し、電柱9を囲んだ状態で第1連結ガイド6と第2連結ガイド7を接続するだけで、電柱9を丸ごとクランプすることができ、電柱9の接地電流Ieや漏れ電流Irの測定を容易に行える。しかも、ロゴスキー方式のクランプセンサとは異なり、0.5mA~5mA程度の微小電流を測定することが可能である。また、3相3線式の回路における配電盤で、3本の電線が離れている場合でも、本実施形態に係るクランプメータ1によれば、離れた3本の電線をクランプセンサ2で一括してクランプできるので、当該回路における微小漏れ電流の測定が可能となる。更に、電柱に並行した3相3線の太い引き込み線であっても、本実施形態に係るクランプメータ1によれば、これらの引き込み線を一括クランプして、微小漏れ電流を測定することができる。
【0045】
なお、クランプセンサ2で被測定導体をクランプすると、被測定導体を流れる電流に応じた計測値を内側コイル52と外側コイル54の両方から取得できる。しかも、内側コイル52と外側コイル54の巻数を一致させてあるので、内側コイル52によって検知される電流値と外側コイル54によって検知される電流値は、ほぼ同一となる。よって、計測装置3では、内側コイル52の検出値を用いても、外側コイル54の検出値を用いても、適切な電流値を演算できるはずである。
【0046】
しかしながら、クランプセンサ2には、外部磁界に対する遮蔽機能が無いので、測定環境における外部磁界がクランプセンサ2に作用すると、内側コイル52と外側コイル54の検出値が異なってしまう。このような外部磁界による計測誤差を補正して、精度の高い電流測定を行うための機能として、記憶手段31と演算手段32を計測装置3に設けてある。以下、外部磁界の影響を補正できる原理を、
図11に基づき説明する。
【0047】
図11は、被測定導体に流れる交流電流の周波数および振幅を一定とし、作用する外部磁界(交流磁界)の大きさを変化させたときに、クランプセンサ2の内側コイル52と外側コイル54が夫々検出する電流値の変化を示した特性図である。外部磁界が全く作用しないとき、内側コイル52により測定される電流(以下、内側コイル測定電流)の値と、外側コイル54により測定される電流(以下、外側コイル測定電流)の値は、共にI[A]である。しかしながら、外部磁界がクランプセンサ2に作用すると、その分だけ、内側コイル測定電流値と外側コイル測定電流値は高くなる。
【0048】
クランプセンサ2に作用する外部磁界が強くなると、内側コイル測定電流および外側コイル測定電流のどちらも上昇して行くこととなるが、外部磁界に近い外側コイル54の方が影響を強く受けるため、外側コイル測定電流の上昇が顕著となる。内側コイル52と外側コイル54との間には、一定厚さで同じ材質の中層チューブ53が介在しているだけなので、内側コイル52と外側コイル54の外部磁界に対する感度差は一定である。すなわち、外部磁界の影響で内側コイル52に生じた誤差の値(以下、内側補正電流値Iaという)と、外部磁界の影響で外側コイル54に生じた誤差の値(以下、外側補正電流値Ibという)には、所定の関係性が認められるはずである。よって、両者の関係性を示す演算式が特定されれば、外部磁界の影響を排除して、被測定導体に流れる電流を高精度に求めることができる。
【0049】
例えば、
図11に示した内側コイル測定電流の変化特性および外側コイル測定電流の変化特性のように、極めて線形性が強ければ、両者の傾斜比率から内側補正電流値Iaと外側補正電流値Ibの関係性を比例定数kの単純な演算式で表すことができる。なお、内側コイル測定電流および外側コイル測定電流が非線形に変化する場合であっても、内側コイル52と外側コイル54の外部磁界に対する感度差が一定であるから、2次関数や3次関数等を用いた演算式で両者の関係性を表すことが可能である。
【0050】
ここで、外部磁界の大きさがH[A/m]のときを考える。内側コイル測定電流の値はIAで、真の計測値I[A]よりも内側補正電流値Iaだけ高い値となる。すなわち、「IA=I+Ia」である。一方、外側コイル測定電流の値はIBで、真の計測値I[A]よりも外側補正電流値Ibだけ高い値となる。すなわち、「IB=I+Ib」である。しかしながら、内側補正電流値Iaも外側補正電流値Ibも未知数であるから、これらの関係式からダイレクトに計測値Iを求めることはできない。
【0051】
そこで、外側コイル測定電流値IBと内側コイル測定電流値IAとの差(IB-IA=Ib-Ia)である差電流値ΔIに着目する。内側補正電流値Iaと外側補正電流値Ibとの関係性を演算式で表せるのであるから、内側補正電流値Iaと差電流値ΔI(=Ib-Ia)との関係性も演算式で表せる。すなわち、内側補正電流値Iaは差電流値ΔIから一意的に定まり、この演算式を「Ia=f(ΔI)」とする。そして、クランプセンサ2の特性に応じて定めた「Ia=f(ΔI)」の演算式を記憶手段31に予め記憶させておけば、演算手段32によって、外側コイル測定電流値IBと内側コイル測定電流値IAに応じた内側補正電流値Iaを求めることができる。
【0052】
真の計測値Iは、内側コイル測定電流値IAから内側補正電流値Iaを減ずることで求まる。よって、演算手段32は「IA-f(ΔI)」の演算を行うことで真の計測値Iを求めることができ、内側コイル52の巻数による検知感度を加味した所定の演算式に真の計測値Iを適用すれば、被測定導体を流れる電流値を求めることができる。
【0053】
なお、外側補正電流値Ibも差電流値ΔIから一意的に定まるので、記憶手段31に記憶させる演算式を「Ib=f(ΔI)」とし、演算手段32が「IB-f(ΔI)」の演算を行うことで真の計測値Iを求めるようにしても構わない。真の計測値Iが求まれば、外側コイル54の巻数による検知感度を加味した所定の演算式に真の計測値Iを適用すれば、被測定導体を流れる電流値を求めることができる。
【0054】
上述したように、本実施形態に係るクランプメータ1によれば、内側コイル52と外側コイル54を備えるクランプセンサ2の特性を活かし、内側コイル測定電流値と外側コイル測定電流値から外部磁界による誤差を補正することができる。よって、クランプ径の大型化や軽量化の妨げとなる金属製シールド等を用いること無く、外部磁界のクランプセンサ2への影響を抑制し、被測定導体を流れる電流を高精度に求めることが可能なクランプメータ1を提供できる。
【0055】
なお、本実施形態のクランプメータ1では、内側コイル52と外側コイル54の巻数を一致させることで、内側補正電流値あるいは外側補正電流値を求める演算式を簡素化するものとした。しかし、内側コイル52と外側コイル54の巻数を変えてクランプセンサ2を作成しなければならない場合には、連結コア4の磁界変化に対する検知感度と外部磁界に対する検知感度が両コイルで異なるため、上述した比較的単純な演算式は使えない。そのため、両コイルの検知感度の差を相殺する補正要件を加味して、内側補正電流値あるいは外側補正電流値を求める複雑な演算式を設定する必要がある。或いは、一方のコイルの巻数を他方のコイルの巻数に変えたときの測定電流に変換する演算式を設定しておけば、コイルの巻数を同じにしたときの変換測定電流値を求められるので、上述した比較的単純な演算式をそのまま適用できる。
【0056】
以上、本発明に係るクランプセンサおよびこのクランプセンサを用いたクランプメータの実施形態を添付図面に基づいて説明した。しかしながら、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。
【符号の説明】
【0057】
1 クランプメータ
2 クランプセンサ
3 計測装置
31 記憶手段
32 演算手段
4 連結コア
4a 第1着脱端部
4b 第2着脱端部
40 基本リンク
40a 第1連結部
40b 第2連結部
43 1軸性関節連結部
5 コイル保持チューブ
5a コア内挿空部
51 内層チューブ
52 内側コイル
521 マグネットワイヤ
53 中層チューブ
54 外側コイル
541 マグネットワイヤ
55 コイル体
56 外層チューブ