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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】使用者の把持力を向上する装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 11/00 20060101AFI20220307BHJP
   A61H 1/02 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
B25J11/00 Z
A61H1/02 G
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018541266
(86)(22)【出願日】2017-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-23
(86)【国際出願番号】 IB2017050725
(87)【国際公開番号】W WO2017137930
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2020-02-07
(31)【優先権主張番号】102016000013321
(32)【優先日】2016-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】504414721
【氏名又は名称】ユニバーシタ・デグリ・スタディ・ディ・シエナ
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シオンコロニ,デビッド
(72)【発明者】
【氏名】フセイン,イアファン
(72)【発明者】
【氏名】プラティッチッゾ,ドミニコ
(72)【発明者】
【氏名】ロッシ,シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】サルヴィエッティ,ジオナータ
(72)【発明者】
【氏名】スパグノレッティ,ジオバニ
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-146998(JP,A)
【文献】特開2004-223688(JP,A)
【文献】Hussain Irfan et al.,Design guidelines to wearable robotic extra-finger,2015 IEEE 1st International Forum on Research and Technologies for society and industry leveraging to better tomorrow (RTSI),IEEE,2015年09月16日,pages 54-60
【文献】Hussain Irfan et al.,The Soft-SixthFinger: a Wearable EMG Controlled Robotic Extra-Finger for Grasp Compensation in Chronic Stroke Patients,IEEE ROBOTICS AND AUTOMATION LETTERS,IEEE,2016年07月,VOL. 1, NO. 2,pages 1000-1006
【文献】Hong Kai Yap et al.,A Low-Profile Soft Robotic Sixth-Finger for Grasp Compensation in Hand-Impaired Patients,Journal of Medical Devices,Vol. 10,ASME,2016年09月,pages 030914-1 - 030914-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 11/00
A61H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者(1)の把持力を向上する装置(100)であって、該装置は、
前記使用者(1)の体(3)の一部の周囲に密接に取り付けられるように構成される、長手方向軸(129)をもつベルト状支持部(102)と、
互いに平行であるそれぞれの関節軸(134)の周囲に、互いに直列に連結される複数の指節骨(131、132、133)であって、支持部(102)に連結する近位指節骨(131)と、遠位指節骨(133)とを備え、関節(135)によって互いに関節接合される前記複数の指節骨(131、132、133)を有する、多関節把持要素(130)と、
前記支持部(102)に固定されるモータ部(120)と、
作動状態と解放状態との間において、前記モータ部(120)に接続する巻取ドラム(125)と、
前記巻取ドラム(125)に一部巻回し、指節骨(131、132、133)及び関節(135)を通って一部延びる、少なくとも1つの腱(140)であって、前記作動状態に該腱(140)が前記巻取ドラム(125)に牽引されると、前記指節骨(131、132、133)がそれぞれの関節(135)を中心に回転し、かつ、前記多関節把持要素(130)が拡張体勢(A)から湾曲把持体勢(B)に移動し、前記多関節把持要素(130)の屈曲/拡張の動作を引き起こすように配置される、少なくとも1つの腱(140)とを備えるものであって、
前記関節(135)は、前記解放状態に該腱(140)が前記巻取ドラム(125)によって解放されると、前記指節骨(131、132、133)がそれぞれの関節(135)を中心に回転し、かつ、前記多関節把持要素(130)が前記湾曲把持体勢(B)から前記拡張体勢(A)に移動するように構成されて、
前記近位指節骨(131)は、前記巻取ドラム(125)が前記解放状態にあるときに、ブレスレット又はベルトのように湾曲静止体勢(C)で前記使用者(1)の体(3)の前記一部の周囲に前記多関節把持要素(130)を巻回可能にするために、前記ベルト状支持部(102)の前記長手方向軸(129)に対して垂直である回転軸(128)を中心に前記多関節把持要素(130)が回転可能であるように構成されて、
前記多関節把持要素(130)を前記湾曲静止体勢(C)に止めるように構成される受動ロック機構もまた設けられている、装置(100)。
【請求項2】
フレキシブルな前記関節(135)は、屈曲動作によって弾性的に負荷が与えられ、それによって前記屈曲動作とは反対である拡張動作を引き起こすように放出されることとなる弾性エネルギーを蓄積するように構成される、請求項1記載の装置(100)。
【請求項3】
前記関節(135)は、2つの角柱状端部を有するフレキシブルな薄膜よりなる弾性体より製造され、多関節把持要素(130)を形成する運動連鎖(kinematic chain)をもたらすように、関節(135)の角柱状部分が2つの隣接し合う指節骨(131、132、133)のそれぞれの角柱状溝に受け入れ可能であるように、前記指節骨(131、132、133)には角柱状溝の形状を有する協動する部分が設けられている、請求項1記載の装置(100)。
【請求項4】
前記モータ部(120)は、機械的に負荷が与えられるモータ部材を備える、請求項1記載の装置(100)。
【請求項5】
前記機械的に負荷が与えられるモータ部材は、バネにより機械的に負荷が与えられるモータ部材であって、該モータ部材は、
負荷可能であるバネと、
該バネに負荷を与えるように配置される負荷部材と、
前記バネを解放するように配置されるバネ解放部材と、
それぞれ前記作動状態及び前記解放状態を得るために、前記機械的に負荷が与えられるモータ部材を、前記巻取ドラム(125)に機械的に接続する/前記巻取ドラム(125)から機械的に接続を断つ部材とを備えるものであって、
前記多関節把持要素(130)は、
前記バネに負荷が与えられているときに前記拡張体勢(A)をとるように配置され、
前記バネが実質的に解放されているときに湾曲把持体勢(B)をとるように配置されており、
前記多関節把持要素(130)で物体(9)を把持するために、前記使用者(1)は、前記巻取ドラム(125)に機械駆動(mechanical drive)を接続して、前記バネ解放部材を操作することで、前記多関節把持要素(130)を前記拡張体勢(A)から前記物体(9)周囲で前記湾曲把持体勢(B)にさせることが可能であるようにする、請求項4記載の装置(100)。
【請求項6】
前記機械的に負荷が与えられるモータ部材(120)は、摩擦により機械的に負荷が与えられるモータ部材であって、該モータ部材は、
所定の回転方向にクランク(126)を回転させることにより、前記多関節把持要素(130)を前記拡張体勢(A)から前記湾曲把持体勢(B)にさせるように構成される、駆動の作動シャフト(124)に連結されるクランクデバイス(126)と、
前記多関節把持要素(130)を前記湾曲把持体勢(B)で維持するように構成される、解除可能な内部ブレーキ部と、
トランスミッションの該内部ブレーキ部を解除するブレーキ解除手段とを備えるものであって、
前記ブレーキ解除手段を操作することによって、前記関節(135)の前記関節(135)の弾性による復帰に起因して、前記多関節把持要素(130)が前記湾曲把持体勢(B)から前記拡張体勢(A)に戻るようにする、請求項4記載の装置(100)。
【請求項7】
前記近位指節骨(131)と支持部基部(110)との間に位置する近位関節(122)が、前記支持部基部に垂直である方向に対して後方傾斜(128’)と前方傾斜(128’’)との間に前記多関節把持要素(130)の前記回転軸(128)を配向するように構成される、請求項1記載の装置(100)。
【請求項8】
前記近位関節(122)は、前記支持部基部(110)と一体である固定部(111)と、前記固定部(111)に回転可能に連結される可動部(131)とを備える、請求項7記載の装置(100)。
【請求項9】
前記遠位指節骨(133)は、使用者(1)の指及び手と接触させるように構成される端部物体(139)を備える又は該端部物体(139)に付随し、また前記モータ部(120)は、前記端部物体(139)の把持を試みる前記使用者の訓練を行うように、拡張体勢(A)と湾曲把持体勢(B)との間で前記多関節把持要素(130)を往復運動させるように構成されるプログラム手段を備える、請求項1記載の装置(100)。
【請求項10】
線で前記モータ部(120)に機能的に接続される、ウェアラブル触覚インタフェース(170)を備えるものであって、該触覚インタフェース(170)は、
前記使用者(1)の指(6)と、
前記ベルト状支持部(102)が取り付けられる、前記使用者(1)の体(3)の一部とからなる群より選択される前記使用者(1)の部分(3、6)に装着されるように構成されるリング(171)を備えるものであって、
前記触覚インタフェースは、前記リング(171)上に配置されて、かつ、
前記モータ部(120)に作動信号を与えるように構成されるスイッチ(172、173)と、
前記リング(171)が接触している前記使用者(1)の部分(3、6)に対して、
圧縮刺激、
剪断刺激(shear stimulation)、
振動刺激、
それらの組み合せ
からなる群から選択される刺激を与えるように構成されるモータ駆動部(176、177、178)とからなる群から選択されるデバイスを備える、請求項1記載の装置(100)。
【請求項11】
前記使用者(1)によって装着されるように配置されて、無線で前記モータ部(120)に機能的に接続されるウェアラブル触覚インタフェース(160)を備えるものであって、該触覚インタフェース(160)は、
前記使用者(162)からの生体信号、前記使用者の筋肉収縮によって生成される生体信号を受信するように構成される生体信号センサ(162)と、
前記使用者(1)の頭の動き及び/又は向きを検出するように構成されるセンサ(163)と、
それらの組み合せとからなる群から選択されるセンサを備え、
前記センサ(162、163)はまた、前記モータ部(120)に作動信号を与えるように配置されるものである、請求項1記載の装置(100)。
【請求項12】
前記ウェアラブル触覚インタフェース(160)は、前記使用者(1)の頭に、帽子(8)で装着されるように配置される要素(8)に組み込まれる、請求項11記載の装置(100)。
【請求項13】
前記物体と交換される力の強度を前記使用者に通知するように配置される、力表示装置を備える、請求項9記載の装置(100)。
【請求項14】
前記装置(100)は、前記使用者の体(1)の右の肢又は左の肢に区別なく装着されるように構成される、対称的な構造を有する、請求項1記載の装置(100)。
【請求項15】
前記湾曲把持体勢(B)で前記多関節把持要素(130)が把持する物体(9)の荷重の測定値を受信する部材と、
該値に応じて、前記荷重の少なくとも一部を支持するように、前記装置(100)が次にとる少なくとも1つの体勢又は前記装置(100)が与えるトルクを決定するように構成される、計算手段と、
次にとる該体勢又は該トルクに応答して作動信号を生成する手段とを備える、請求項1記載の装置(100)。
【請求項16】
前記測定値を受信する部材は、
前記装置(100)の少なくとも1つの関節(135)の角度と、
把持体勢において、少なくとも1つのモジュール(130’)に把持される前記物体により加わる重量及び/又は圧力及び/又は力及び/又は速度及び/又は加速度とを測定するように構成されるセンサを備える、請求項15記載の装置(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の体の肢又は異なる部分に装着可能であるロボット装置に関する。該装置は、例えば、手もしくは足の第6の指となる、又は、前腕、足首、腰等に装着される、把持する追加的な肢となることが可能である。
【0002】
さらに、この発明は、かかるロボット装置をリハビリテーション目的とすることに関する。
【背景技術】
【0003】
使用者の能力を高める、使用者の手のための補助的なロボットフィンガー、すなわち「第6の指」が、D. Prattichizzo, M. Malvezzi, I. Hussain, G. Salvietti, The Sixth-Finger: a Modular Extra-Finger to Enhance Human Hand Capabilitiesに開示されている。Proc. IEEE Int. Symp. in Robot and Human Interactive Communication, pages 993-998, Edinburgh, United Kingdom, 2014は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0004】
より詳細には、この装置は、人間の手をより対称的にさせるように機能し、人間の指が閉状態となるとき、すなわち指の指節骨が屈曲動作をするときに、補助的なロボットフィンガーはこの動作を模倣するように構成される。この装置はまた、手の作業域を拡大し、その把持力を高めることを可能にさせる。こうしたロボットフィンガーは、ゴムベルトによって手首に装着することが可能であるモジュール式の指である。
【0005】
モジュール部分の構造は、クイックプロトタイプ技術により取得され、一方能動自由度は、サーボモータにより生成される。制御に関しては、人間の手の動作は、データグローブによって得られ、D. Prattichizzo, G. Salvietti, F. Chinello, M. Malvezzi, An Object-based Mapping Algorithm to control Wearable Robotic Extra-Fingers, in Proc. IEEE/ASME Int. Confに記載の専用アルゴリズムで補助的な指にマッピングされる。Advanced Intelligent Mechatronics, pages 1563-1568, Besancon, France, 2014は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0006】
I. Hussain, G. Salvietti, L. Meli, C. Pacchierotti, D. Prattichizzo, Using the robotic sixth finger and vibrotactile feedback for grasp compensation in chronic stroke patients, in Proc. IEEE/RAS-EMBS International Conference on Rehabilitation Robotics (ICORR), Singapore, Republic of Singapore, 2015もまた参照により本明細書に組み入れられるものとし、その第一の用途として、半身麻痺の肢を有する患者を補助することが記載されている。
【0007】
Wu, Faye Y., and Harry Asada, Bio-artificial synergies for grasp posture control of supernumerary robotic fingers (2014)では、その把持動作を、手に配置したセンサによって装置全体を制御可能である、使用者の前腕に装着される把持装置が記載されている。
【0008】
Hussain Irfan et al., Design guidelines to wearable robotic extra-finger, 2015 IEEE 1st International Forum on Research and Technologies for society and industry leveraging to better tomorrow (RTSI), IEEE 16 September 2015, pages 54-60には、モータによって制御される巻取プーリーに一部巻回する腱(tendon)によって、その屈曲動作を作動させるための第一のモータを有し、かつ、使用していない場合にはブレスレットのように静止体勢で手首の周囲に配置することが可能である、追加的な手指が記載されている。この装置においては、専用モータによって静止体勢が得られる。静止体勢では、装置を手首の周囲に配置するために、追加的な指を把持状態となる体勢にさせるために、第一のモータを用いる。
【発明の概要】
【0009】
本発明の特徴は、従来技術の装置と比べて最小限のサイズ及び重量のロボットフィンガーであって、そのためにより快適に装着可能であるような該ロボットフィンガーを使用者に提供することである。
【0010】
本発明の特徴はまた、使用しない場合には、使用者の肢の通常の動作を邪魔しない上記装置を提供することである。
【0011】
本発明の特徴はまた、トラウマや卒中などの脳血管性疾患や異なる疾患に起因する、肢の障害をもつ使用者に対して、リハビリテーション訓練を可能にさせる上記装置を提供することである。
【0012】
本発明の特徴はまた、使用者の能力を高めるために、四肢又は使用者の体の異なる部分に装着可能である上記装置を提供することである。
【0013】
これらの目的及び他の目的は、使用者の把持力を向上する装置によって達成されるものであって、該装置は、
上記使用者の体の一部の周囲に密接に取り付けられるように構成される、長手方向軸をもつベルト状支持部と、
互いに平行であるそれぞれの関節軸の周囲に、互いに直列に連結される複数の指節骨であって、支持部に連結する近位指節骨と、遠位指節骨とを備え、関節によって互いに関節接合される上記複数の指節骨を有する少なくとも1つの多関節把持要素と、
上記支持部に固定されるモータ部と、
作動状態及び解放状態との間において、上記モータ部に接続する巻取ドラムと、
該巻取ドラムに一部巻回し、上記指節骨及び関節を通って一部延びる、少なくとも1つの腱であって、前記作動状態に該腱が上記巻取ドラムに牽引されると、指節骨がそれぞれの関節を中心に回転し、かつ、上記多関節把持要素が拡張体勢から湾曲把持体勢に移動し、上記多関節把持要素の屈曲/拡張の動作を引き起こすように配置される、少なくとも1つの腱とを備えるものであって、
前記関節は、前記解放状態に該腱が上記巻取ドラムによって解放されると、上記指節骨がそれぞれの関節を中心に回転し、かつ、上記多関節把持要素が現状の上記湾曲把持体勢から上記拡張体勢に移動するように構成される。
【0014】
この発明のある態様においては、上記巻取ドラムが上記解放状態にあるときに、ブレスレット又はベルトのように湾曲静止体勢で前記使用者の体の一部の周囲に多関節把持要素を巻回可能にするために、上記ベルト状支持部の上記長手方向軸に対して垂直である回転軸を中心に上記多関節把持要素が回転可能であるように近位指節骨が構成されており、上記多関節把持要素を上記湾曲静止体勢に止めるように構成される、受動ロック機構もまた設けられている。
【0015】
上記巻取ドラムが上記解放状態にあるとき、すなわち上記多関節把持要素が上記モータ部からの駆動力を受信しないとき、上記多関節把持要素がブレスレット又はベルトのように巻回可能であることにより、上記受動ロック機構に加えて、従来の装置で生じるような湾曲静止体勢で上記多関節把持要素が巻回している体の部分に対して窮屈すぎる固定による危険性と痛みや怪我が生じる可能性とを防止する。
【0016】
従来技術による他の欠点は、この発明により解消され、駆動が故障して停止した場合に、上記多関節把持要素を、湾曲静止体勢で巻回している体の部分からいつでも取り外すことが可能である。
【0017】
また、上記近位指節骨が上記ベルト状支持部の長手方向軸に対して垂直である第二の軸を中心に回転することも可能であることにより、使用しないときに人間の四肢、例えば手首の周囲にブレスレットのように装置を取り付けることが可能であり、それが使用者の通常の活動の邪魔になることを防止する。
【0018】
また、少なくとも1つの腱を介して、単一のアクチュエータによって装置の全動作の作動が可能であることにより、使用者にとって極めて軽量で装着が容易である装置を形成する。
【0019】
有利に、フレキシブルな関節は、前記屈曲動作によって弾性的に負荷が与えられて、それによって前記屈曲動作とは反対である拡張動作を引き起こすように放出されることとなる弾性エネルギーを蓄積するように構成されている。
【0020】
有利に、上記多関節把持要素は、剛性部分とフレキシブル部分とを含むモジュールを備える。これらモジュールは、好ましくはネジ又は他の受動要素なしに、好ましくは上記フレキシブル部分を上記剛性部分に差し込むように配置することによって互いに連結される。さらに詳細には、有利な実施形態においては、前記関節は、弾性体であって、特に2つの角柱状端部を有するフレキシブルな薄膜からなる弾性材料よりなる弾性体から製造され、上記多関節把持要素を形成する運動連鎖(kinematic chain)をもたらすように、関節の角柱状部分が2つの隣接し合う指節骨のそれぞれの角柱状溝に受け入れ可能であるように、上記指節骨には角柱状溝の形状を有する協動する部分が設けられている。
【0021】
このように、フレキシブルな関節に、屈曲動作に起因して弾性的に負荷を与えることが可能であり、これによって上記屈曲動作とは反対である拡張動作に用いることが可能である弾性エネルギーを蓄積するものである。上記関節の弾性に起因して、屈曲動作の後で、上記腱の作動を解放することによって、上記多関節把持要素が上記湾曲把持体勢ではなくなり、上記拡張体勢に戻る。
【0022】
さらに、多関節把持要素の構造がフレキシブルであることにより、把持又は操作される物体の周囲に該要素構成を巻回させることが可能である。
【0023】
モータ部は、駆動シャフトを介して巻取ドラムに強固に接続される、従来の電気モータを備えることが可能である。この場合、この装置の作動状態及び解放状態は、それぞれ従来のモータが動いている又は静止している状態に対応することが可能である。電気モータが、摩擦手段等を介して巻取ドラムと選択的に接続可能であるような場合を提供することも可能であって、その場合、電気モータと巻取ドラムを接続/非接続することで、モータの運動状態を、作動状態及び解放状態でそれぞれ開始する。
【0024】
この発明の他の態様においては、モータ部は、機械的に負荷が与えられるモータ部材を備える。このように、電気的/電子的な作動部が存在しないため、この発明は、特に構成要素に密閉保護を必要とすることなく、湿潤環境又は水中環境での作業に適応される。
【0025】
特に、機械的に負荷が与えられるモータ部材は、バネにより機械的に負荷が与えられるモータ部材であって、該モータ部材は、負荷可能であるバネと、該バネに負荷を与えるように配置される負荷部材と、該バネを解放するように配置されるバネ解放部材とを備えるものであって、それぞれ前記作動状態及び前記解放状態を得るために、巻取ドラムに対して機械駆動を機械的に接続する/巻取ドラムからの機械駆動を機械的に接続を断つ部材が提供されて、該多関節把持要素は、上記バネに負荷が与えられているときに上記拡張体勢をとるように配置され、上記バネが実質的に解放されているときに湾曲把持体勢をとるように配置されている。このように、上記多関節把持要素で物体を把持するために、使用者は、上記バネ解放部材を作動させて、上記多関節把持要素を上記拡張体勢から物体周囲で上記湾曲把持体勢にさせることが可能である。上記モータ部が上記巻取ドラムによってオフになっているときに、すなわち上記解放状態にあり、例えば上記多関節把持要素が上記湾曲静止体勢で配置されているときに、上記バネに負荷を与えることが可能である。
【0026】
あるいは、機械的に負荷が与えられるモータ部材は、摩擦により機械的に負荷が与えられるモータ部材であって、該モータ部は、
所定の回転方向にクランクを回転させることにより、多関節把持要素を拡張体勢から湾曲把持体勢にさせるように構成される、駆動の作動シャフトに連結されるクランクデバイスと、
上記多関節把持要素を上記湾曲把持体勢で維持するように構成される、解除可能な内部ブレーキ部と、
トランスミッションの該内部ブレーキ部を解除するブレーキ解除手段とを備えるものであって、
前記ブレーキ解除手段を操作することによって、上記多関節把持要素が、特に前記関節の前記関節の弾性による復帰に起因して、現状の湾曲把持体勢から拡張体勢に戻るようにする。
【0027】
好ましくは、上記近位指節骨と上記支持部基部との間に位置する近位関節が、前記支持部基部に垂直である方向に対して後方傾斜と前方傾斜との間に上記多関節把持要素の回転軸を配向するように構成され、すなわち、装置の長手方向軸、したがって装置が取り付けられている肢の長手方向軸に対して前方又は後方にそれを配向させるように構成される。上記近位関節は、上記支持部基部と一体である固定部と、該固定部に回転可能に連結される可動部とを備えることが可能である。
【0028】
ある実施形態においては、上記遠位指節骨は、使用者の指及び手と接触させるように構成される端部物体を備える又は該端部物体に付随し、またモータ部は、該端部物体の把持を試みる使用者の訓練を行うように、拡張体勢と湾曲把持体勢との間で上記多関節把持要素を往復運動させるように構成されるプログラム手段を備える。上記多関節把持要素の構造がフレキシブルであることが、手のための補助装置もしくはリハビリテーション装置として、又は、上肢のリハビリテーションのために、この装置を用いることを可能にする。
【0029】
特定の実施形態においては、上記装置は、例えば、使用者の手首又は足首又は腰の周囲に巻回されるように構成されて、装置がもつ把持機能を実行し、物体を把持及び取り扱うために通常用いられる上記の部分とは異なる体の部分においても、使用者の把持力を高めるものである装置がもつ機能を実行することが可能である。
【0030】
ある実施形態においては、上記装置は、特に無線で上記モータ部に機能的に接続される触覚インタフェースを備えるものであって、該インタフェースは、
手の指と、
ベルト状支持部が取り付けられる体の部分とからなる群から選択される使用者の部分に装着されるように構成されるリングを備えるものであって、
上記触覚インタフェースは、
上記モータ部に作動信号を与えるように構成されるスイッチと、
上記リングが接触している使用者の部分に対して、圧縮刺激、剪断刺激(shear stimulation)及び振動刺激からなる群又はそれらの組み合わせから選択される刺激を与えるように構成されるモータ駆動部とからなる群から選択されるデバイスを備える。
【0031】
ある実施形態においては、上記装置は、使用者が装着可能であり、特に無線で上記モータ部に機能的に接続される触覚インタフェースを備えるものであって、該インタフェースは、
上記使用者からの生体信号、特に、上記使用者の筋肉収縮によって生成される生体信号を受信するように構成される生体信号センサと、
上記使用者の頭の動き及び/又は向きを検出するように構成されるセンサと、
それらの組み合せとからなる群から選択されるセンサを備え、
該センサはまた、上記モータ部に作動信号を与えるように配置される。かかる生体信号センサは、有利に、例えば帽子で、使用者の頭に装着されるように配置される装置の要素に組み込むことが可能である。
【0032】
ある実施形態においては、上記装置は、図示しない力表示装置を備えるものであって、それは把持又は取り扱っている物体と交換される力の強度を使用者に通知するように配置される。これにより、触覚減退に侵されている使用者に対してフィードバックを与えることが可能になる。
【0033】
有利な実施形態においては、上記装置は、使用者の体の右の肢又は左の肢に区別なく装着されるように構成される、対称的な構造を有する。このように、上記装置は、典型的に右の上肢のみならず左の上肢である両肢に関与する障害をもつ患者を補助する又は回復させるために用いることが可能である。
【0034】
ある実施形態においては、上記装置は、
湾曲把持体勢で多関節把持要素が把持する物体の荷重の測定値を受信する部材と、
該値に応じて、該荷重の少なくとも一部を支持するように、上記装置が次にとる少なくとも1つの体勢又は上記装置が与えるトルクを決定するように構成される、計算手段と、
次にとる該体勢又は該トルクに応答して作動信号を生成する手段とを備える。
【0035】
特に、測定値を受信する部材は、
上記装置の少なくとも1つの関節の角度と、
把持体勢において、少なくとも1つのモジュールに把持される前記物体により加わる重量及び/又は圧力及び/又は力及び/又は速度及び/又は加速度とを測定するように構成されるセンサを備える。
【0036】
他の態様によれば、上記装置により把持力を補助するための方法が説明されるものであって、該方法は、
把持体勢において多関節把持要素の少なくとも1つのモジュールによって把持される物体の荷重の測定値を受信するステップと、
該値に応じて、該荷重の少なくとも一部を支持するように、上記装置が次にとる少なくとも1つの体勢又は上記装置が与えるトルクを決定するステップと、
次にとる該体勢又は該トルクに応答して作動信号を生成するステップとを含む。
【0037】
特に、上記測定値を受信するステップは、
上記多関節把持要素の少なくとも1つの関節の角度に付随する測定値をセンサから受信するステップと、
前記把持体勢において、複数のモジュールに把持される物体の重量及び/もしくは圧力及び/もしくは力及び/もしくは速度及び/もしくは加速度、又は、これらの値の組み合わせを受信するステップとを含む。
【0038】
特に、制御信号を送信するステップは、フレキシブルなロボットフィンガーの動作を調整するためにアクチュエータに対して制御信号を送信するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0039】
ここで、この発明について、以下の添付の図面を参照しながら、例示であって限定するものではない以下のその実施形態の説明とともに示すものとする。
図1図1は、この発明のある実施形態による装置の一部分解斜視図であって、多関節把持要素の拡張構成を示している。
図2図2は、湾曲静止構成から作動構成、特に図1に示す拡張構成に、又は、その逆に装置を動かした図1の装置の作動ステップを示している。
図3図3は、図1の多関節把持要素のモジュール部分の一部分解斜視図である。
図4図4は、手首の周囲において湾曲静止構成にある図1の装置を示すものであって、LEDアセンブリ表示部と、腱を巻き取るプーリー又はドラムとが設けられている。
図5図5は、動作構成、特に、物体を把持するための湾曲把持構成である図1の装置を示している。
図6図6は、使用者の足首に装着した、足首の周囲において湾曲静止構成にある図1の装置を示している。
図7図7は、使用者の足首に装着した、瓶を把持する動作構成にある図1の装置を示している。
図8図8は、使用者の腰に装着した、腰の周囲において湾曲静止構成にある図1の装置を示している。
図9図9は、使用者の腰に装着した、鞄を把持する動作構成にある図1の装置を示している。
図10図10は、様々な物体を取り扱う、すなわち、広口瓶の蓋を取り扱っている状態の図1の装置を示している。
図11図11は、様々な物体を取り扱う、すなわち、円筒缶を開封している状態の図1の装置を示している。
図12図12は、様々な物体を取り扱う、すなわち、平行六面体形状の缶を開封している状態の図1の装置を示している。
図13図13は、歯磨き粉等の細長いチューブを絞っている状態の図1の装置を示している。
図14図14は、鞄を把持するステップにおける、この発明による装置の実施形態を示している。
図15図15は、鞄を把持するステップにおける、この発明による装置の実施形態を示している。
図16図16は、図1に示す装置を2つ示しているものであって、使用者の左右の前腕に、それぞれの動作位置に該装置を2つ装着している。
図17図17は、図1の装置を使用する使用者の動作を制御するセンサを備える、生体信号インタフェースを示している。
図18図18は、図1の装置を操作するスイッチを示している。
図19図19は、患者のリハビリテーション訓練のために構成される、ある実施形態における図1の装置を示している。
図20図20は、多関節把持要素の軸が、装置自体の長手方向軸で規定される面に配向されることが可能である、図1の装置のある実施形態における、支持部基部及び近位指節骨間の関節を示している。
図21図21は、多関節把持要素が、取り扱う物体に所定の摩擦を引き起こすように配置されるある材料の被覆層を有する、図1の装置のある実施形態を示している。
図22図22は、リハビリテーション訓練のため及び/又は力を測定するために、使用者の指に係合している図1の装置を示している。
図23図23は、その動作を制御するため及び/又は使用者に対して触覚データを提供するために、指又は手首に装着することが可能であり、かつ、図1の装置のインタフェースとして使用可能である、触覚装置を示す。
図24図24は、その動作を制御するため及び/又は使用者に対して触覚データを提供するために、指又は手首に装着することが可能であり、かつ、図1の装置のインタフェースとして使用可能である、触覚装置を示す。
図25図25は、その動作を制御するため及び/又は使用者に対して触覚データを提供するために、指又は手首に装着することが可能であり、かつ、図1の装置のインタフェースとして使用可能である、触覚装置を示す。
図26図26は、クランクモータ部を含む、この発明のある実施形態による装置を示している。
図27図27は、モータ部が機械バネにより負荷が与えられるモータ部材を備えるものである、この発明のある実施形態による装置を示している。
図28図28は、この発明のある実施形態による、人手により作動される装置を示している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1を参照すると、使用者の把持力を向上する装置100を記載している。装置100は、支持部基部110と、フレキシブルである、指、すなわち多関節把持要素130とを主に備える。装置100は、例えば図2に示すように、使用者の肢1などである体3の一部の周囲に密接に取り付けられるように構成される、使用者の体の一部に装置を連結させるためのベルト状支持部102をさらに備える。ベルト状支持部102は、ベルト状支持部102が配置される腕又は体の一部の軸と実質的に一致する、自身の長手方向軸129を有する。ある実施形態においては、図示するように、支持部基部110は、ベルト状支持部102に一体的に搭載される。支持部基部110は、好ましくは、把持した物体をすり抜けさせてしまうような望ましくない関連の動きをいずれも防止するために、柔らかい及び/又は高摩擦の材料を介して体3の一部と接触させるように構成される。
【0041】
フレキシブルな指130は、複数の剛性リンク、すなわち指節骨131、132、133を備えるものであって、互いに平行であるそれぞれの関節軸134を中心に互いに直列に連結される、モジュール構成を有する。支持部基部110の近傍でかつ支持部基部110に固定される近位指節骨131、少なくとも1つの中間指節骨132、及び、遠位指節骨133をそれぞれ図示している。
【0042】
指節骨131、132、133は、フレキシブルな関節135を介して、互いに関節接合されている。より詳細には、図3に示すように、多関節把持要素130は、複数のモジュール130’を備えるモジュール構造を有するものであって、各モジュール部分130’は、指節骨すなわちリンク132と、2つの角柱状又は円筒状の端部136’を有するフレキシブルな薄膜135からなる好ましくは弾性でフレキシブルな関節135とを備える。フレキシブルな関節135は、指節骨132の角柱状又は円筒状の溝136’’の形状を有する協動する末端と、協動する溝136’の一方が連結することによって、指節骨132と連結する。図3には中間指節骨132を1つだけ示しているが、これはまた、近位及び遠位指節骨131、133のそれぞれの末端にも適用されるものである。このように、指節骨131、132、133を互いに連結することによって、すなわち、1つ又は2つの隣接する指節骨のそれぞれの角柱状の溝136’に、関節135の角柱状部分136’を差し込むことによって、多関節把持要素130を形成する運動連鎖が得られる(図1)。
【0043】
モジュール130’は、フレキシブルな部分135を剛性部分131、132、133に差し込むことによって、互いに組み立てられる。この組立手順は、従来技術が提供するものよりもずっと容易であり、モジュール130’を連結するためのネジ又は受動要素を何も必要としない。
【0044】
同じく図3に示すように、有利には、柔らかいが皮膚に対して高い摩擦係数を与え、かつ、把持される、またことによると取り扱われる物体と接触する対応領域を形成するように配置される、パッド要素137を設けることが可能である。例えばパッド要素137は、接触の可能性のある領域137で摩擦を増加させるために、リンク131、132、133に連結可能である。例えば、要素137は、ゴムなどの弾性材料よりなる、湾曲する弾性板137を含むことが可能である。
【0045】
図21に示すように、例えば図5~7の例に示す取り扱い対象の物体9と接触させるように配置される多関節把持要素130の面は、しっかりと物体9を把持するために、例えばシリコーンゴム、皮膚、組織などのように所定の摩擦係数を有する材料よりなる被覆層138で被覆され得る。有利に、被覆層138は、使い古しや、使用者の要求に応じて、その交換を行い易いように、多関節把持要素130上に取り外し可能に付加されている。
【0046】
装置100はまた、例えば支持部基部110から延びる支柱112に固定的に搭載されるモータ部120を備える。モータ部120は、図4に示すように、作動シャフト124に取り付けられ、かつ、少なくとも1つの腱(tendon)140を巻き回す又は解くように構成される(図1及び2)、巻取プーリー又は巻取ドラム125を有する。特に、腱140は、巻取ドラム125上に一部巻回し、指節骨すなわちリンク131、132、133及び関節135を通って、多関節把持要素130に沿って一部延びる。選択された制御の可視的なフィードバックを使用者に提供するために、例えばモータ部120のボックス上に、LEDアセンブリ表示部127を設けることが可能である。
【0047】
腱140は、作動状態、すなわちモータ部120が巻取プーリー125に機能的に接続している場合には、巻取ドラム125が腱140を牽引する動きが、例えば関節135が変形することによって画成される関節軸134のそれぞれを中心に指節骨131、132、133を回転させて、図1に示す拡張体勢(A)から例えば図5に示す湾曲把持体勢(B)に多関節把持要素130を移動させて、それにより多関節把持要素130の屈曲動作が得られるように、配置される。
【0048】
関節135はまた、解放状態、すなわちモータ部120が巻取プーリー125に機能的に接続していない場合、すなわちモータ部120がプーリー125に接続していない及び/又は静止している場合には、巻取ドラム125が腱140を解放することで、多関節把持要素130を現状の湾曲把持体勢(B)から拡張体勢(A)に移動させる、すなわち上述した屈曲動作とは反対である拡張動作を実行させるように、各関節135を中心に指節骨131、132、133が回転可能であるように構成される。これは、湾曲把持体勢(B)のままにする代わりに、多関節把持要素130が拡張体勢(A)に戻るものである、解く方向に巻取ドラム125を回転させて、そのために関節135の弾性に起因して、拡張動作が行われることによって達成可能である。
【0049】
特に、フレキシブルな関節135は、屈曲動作によって弾性的に負荷が与えられ、それにより屈曲動作とは反対である、拡張動作を行うように解放されることとなる弾性エネルギーを蓄積するように構成可能である。
【0050】
したがって、モータ部又はアクチュエータ120は、多関節把持要素130全体をプーリー125及び腱140を介して動かすように構成されている。例えば、作動した腱140がそれを通って配置されるものである、リンク131、132、133を貫通する孔が形成される。したがって、腱140は指130全体に配置され、かつ、その一方の端部141は指130の先端、すなわち遠位指節骨133に固定され、もう一方の端部142は巻取プーリー又は巻取ドラム125に固定される。
【0051】
したがって、腱140により劣駆動される、単一のアクチュエータ120のフレキシブルな多関節把持要素130は、ロボットフィンガーの関節に複数のアクチュエータが配置されている従来の装置よりも軽量である。さらに、使用者の体の腕又は他の部分3に作用する荷重を最小にするために、装置100及びその自身のアクチュエータ120のみが、該体の腕3又は他の部分3に配置される。またこの解決法により、例えば腕3における装置100の負担が軽減される。
【0052】
さらに、フレキシブルな関節135を備える多関節把持要素130は、従来の装置と比べて、周囲環境との望ましくない接触に対して装置100の強度が高い。また、フレキシブルな関節135によれば、使用者との安全な相互作用を可能にする柔らかい構造が得られる。
【0053】
代替的な実施形態においては、図示していないが、指節骨131、132、133は、異なる形状を有する関節、例えばヒンジ、パラレログラム等によって関節接合されるようにして互いに連結可能であり、ドラム125は、互いに異なる方向へ巻回されて、主動筋の腱と拮抗筋の腱として機能する2つの腱140を備えることが可能であり、それは他の周知の形態のロボット装置のようになされるため、本明細書においては詳細に説明しない。
【0054】
図2及び4に示すように、この発明のある態様によれば、多関節把持要素130を、ブレスレットや脚用ベルトや足首用ベルトのように、使用者の体の部分3の周囲において湾曲静止体勢(C)で多関節把持要素130を巻き回すことを可能にするために、近位指節骨131は、ベルト状支持部110の長手方向軸129に対して垂直である回転軸128を中心に、多関節把持要素130を回転させるように構成される。また図6及び8に、湾曲静止体勢(C)を示している。
【0055】
近位指節骨131及び支持部基部110間の接合部は、好ましくは、多関節把持要素130の回転軸128を、支持部基部に垂直である方向に対して、後方傾斜128’と前方傾斜128’’との間に配向させる、すなわち、装置100の長手方向軸129に対して、すなわち腕3の支持部の長手方向軸に対して、後方又は前方に該回転軸128を配向させるように、構成されている。図20の実施形態では、支持部基部110と一体である固定部111と、典型的には近位関節131自体である可動部とを備える配向機構122を示している。
【0056】
すなわち、装置100は、自身の湾曲静止構成(C)において、体の部分3である、患者の腕(図2及び4)、足首(図6)、腰(図8)の周囲にそれぞれ巻回することが可能である、フレキシブルな多関節把持構造又は多関節把持要素130を備える。これにより、これを使用しなかった場合にかかる装置100の負担を劇的に軽減することができる。このように、装置100は快適に装着することが可能であり、使用しない場合に装着している人間の肢3の邪魔にならず、またその作業域が減少する。
【0057】
図2に示すように、把持要素130を、図5~7及び9~16に示すように、拡張構成(A)に達して、その後物体9の周囲において湾曲把持構成(B)をとるようになるまで、湾曲静止構成(C)から拡張させることが可能である。好ましくは、装置100は、湾曲静止構成(C)から瞬時に拡張構成(A)に移るように構成される。
【0058】
例えばブレスレット様構成の湾曲静止構成(C)から、拡張した作動構成(A)又は湾曲把持構成(B)への推移及びその逆の推移は、受動ロック機構150を介して達成可能である(図2及び4)。
【0059】
受動ロック機構は、静止構成(C)で互いに接触するようになる、ベルト102及び多関節把持要素130の部分153、154それぞれに磁気要素又はベルクロ要素等を設けることによっても作製可能である。
【0060】
図5、7及び9~16に示すように、装置100は、その周囲に巻き回すことによって物体9を把持するように構成されている。多関節把持要素130の弾性構造が、装置100を従来の装置と比べてはるかに制御し易くさせている。実際には、多関節把持要素130は、把持される物体9の形状に受動的に適合可能である。作動中、この形状の適合により把持能力が増大され、触覚応答の不確実性が補償され、かつ、把持安定性が向上される。例えば、この装置を用いて、容器9(図10)を、使用者がその蓋をひねって開閉できるように安定させる、又は、円筒状又は角柱状の缶9(図11及び12)を、使用者1が開封できるように安定させる、又は、その開閉を容易にさせながら歯磨き粉のチューブ9などの小さいチューブ(図13)を絞ることが可能である。したがって、装置100を、日常の動作のための補助装置として用いることが可能である。
【0061】
この系はまた、物体9を支持する、好ましくは把持する及び/又は運ぶための能動フックとして用いることも可能である。後者が、スーツケースの持ち手9を把持する(図9及び14)又は通常物体9を運ぶ(図5、7及び15)フックとして機能するように、使用者1は装置を制御可能である。
【0062】
装置100はまた、図7に示すように、歩行しながら瓶9を運ぶために、例えば脚である体の他の肢に装着可能である。図8~9に示すように、例えばベルトなどである拡張系、すなわち、物体9を運ぶ又は把持するために、必要なときに腕になるウェアラブルベルトを設けることが可能である。可能性のある装置100の用途及びその使用に応じて、装置が用途の要件を満たすようにさせるために、装置100の構造において、及び、そのセンサ化及びアクチュエーションにおいて、好適な変形をなすことが可能である。
【0063】
装置100はまた、それに結合した構造物を安定化させる装置として用いることが可能である。例えば図16に示すように、この目的では、正確に物体9を取り扱うため又はそれに対して作業を行うために、肢3を安定化する必要がある。作業には、長引くと苦痛となり得るものがある。この装置は、腕の重量を支え、こうした不快感を軽減又は抑制する。
【0064】
図9、14、15に示すように、装置100を用いて、麻痺のある肢を有する使用者の手1の把持力を向上させることが可能である。特に、装置100と麻痺のある手又は麻痺のある腕3とが、鞄9のような物体を把持するために協動する、プライヤーなどの把持装置の2つのパーツとして機能することが可能である。
【0065】
例えば図14及び16に示すように、支持部基部110の構造は、好ましくは対称である。これにより、装置100を変形することなく、装置100を使用者1の右腕及び左腕の両方に装着させることができる。支持部基部110はまた、支持部基部110とフレキシブルな指130とをつなぐ回転可能な受動ロック機構150を含む。
【0066】
図19に示すように、ある実施形態においては、遠位指節骨133は、使用者1の指6及び手5と接触させるように構成される端部物体139を備える又は該端部物体139に付随し、またモータ部120は、端部物体139の把持を試みる使用者1の訓練を行うように、拡張体勢(A)と湾曲把持体勢(B)との間で多関節把持要素130を往復運動させるプログラム手段を備えている。
【0067】
装置100は、手のリハビリテーション用の様々な訓練を提供するために、剛性と形状が異なり、かつ、補助的な指130によって能動的に移動可能である物体をその端部に連結可能な、能動リハビリテーション装置として用いることが可能である。特に、該装置の端部は、妨害性を補償するようにその質量中心を移動させる、能動的な物体139として製造することが可能である。
【0068】
ある実施形態においては、装置100は、実際にはロボットフィンガーとして機能するように構成される多関節把持要素130を有する。すなわち、屈曲/拡張及び内転/外転の動作を再現するために、少なくともひとつの関節135を作動する。したがって、手首に装着すると、装置100は、図22に示すように、ロボットフィンガー130が、使用者の手の少なくとも1本の指6とは反対に移動するように構成される。該装置を、手の1本の指6とは対抗して操作することが可能である。有利に、装置100は、予め決定された訓練プログラムに応じて、及び/又は、使用している手の指6に応じて、ロボットフィンガー130の剛性を変更するように構成される。これにより、手の1本の指6の力に対抗する抵抗を調整することができるようになる。
【0069】
装置100はまた、装置を用いて患者がなした進歩を追跡し、かつ、リハビリテーションソフトを測定結果に適合させるために、指6によって発揮された力及び/又は指6によって実行された変位を測定するように構成される。
【0070】
図19の実施形態においては、物体139は、装置100の端部に連結している。該装置は、使用者によってなされる進歩のために、把持状態における物体139の変位を測定するように構成可能である。あるいは、又は、付加的に、該装置は、その端部に連結された物体139を能動的に変位するように構成することが可能である。このように、物体139に直接力を加えることによって、妨害(hindrance)に対抗して所定の方向において物体を把持する使用者の能力を向上させることが可能である。このような場合であっても、使用者の進歩を追跡するために様々なリハビリテーションソフトウェアプログラムを作製することが可能である。
【0071】
上記装置は使用が容易であり、装着が快適であるため、リハビリテーションとは異なる目的で利用することも可能である。
【0072】
図23~25を参照すると、その動作を制御し、及び/又は、ロボットフィンガー130から使用者1に触覚データを提供するために、装置100のインタフェースとして用いることが可能であるウェアラブル触覚インタフェース170が記載されている。ウェアラブル触覚インタフェース170は、典型的には近位指節骨において、使用者1の手の指6に(図23)、又は、装置100が配置されている肢自体に、すなわち使用者1の腕3に取り付けるように構成される(図25)。ある実施形態においては、ウェアラブル触覚インタフェース170は、リング171と、それを介して使用者1がロボットフィンガー130の動作を制御可能である、リング171上に配置される少なくとも1つのスイッチ172、173とを備える。ある実施形態においては、触覚インタフェース170は、垂直力(normal force)と同様の刺激を与える、又は、皮膚を引っ張る、又は、使用者の手の指6又は使用者の腕3に振動刺激を与えるようにして、把持する物体9にロボットフィンガー130が与えている力のデータを返すことが可能である。触覚インタフェース170はまた、振動を介して、例えば物体9との接触/非接触状態、達成した力/トルクの値等、ロボットフィンガー130の状態に関するデータを返すことも可能である。
【0073】
触覚インタフェース170は、固定部175と、固定部と一体であるアクチュエータ又はモータ176と、プーリー177と、手の指6又は腕3又は体の異なる他の部分に刺激を与えるための布片178とを備えることが可能である。図示していない振動モータは、振動触覚刺激をもたらす触覚インタフェース170に組み込むことが可能である。触覚インタフェース170を手の指6又は腕3に固定するために、面ファスナーテープ179が設けられる。
【0074】
触覚フィードバック力を体の部分3、6に与えるために、2つのモータ176が、互いに対して反対の方向に回転することで、布片178が伸びて体の部分3、6に垂直力を与える。これに対して、モータ176が同一の方向に回転すれば、布片178は、体の部分3、6に剪断力を与える。
【0075】
図17に示すように、変位信号及び/又は電気筋運動記録信号を用いて、モータ部120のための作動信号を生成し、モータ部によってロボットフィンガー130の屈曲及び拡張動作を制御するために、装置100は、使用者1の頭によって生じた又は使用者1で生じた、電気筋運動記録信号(EMG)もしくは脳波信号(electroencefalographic signal)などである変位信号又は生体信号を受信するように構成された触覚インタフェース160を有し得る。
【0076】
図17の実施形態においては、触覚インタフェース160を、帽子内8又は同等の支持部内に組み込むことが可能である。
【0077】
特に、触覚インタフェース160は、使用者1の頭の向き及びその変化を検出するように構成されたMARGセンサ163(地磁気、角速度及び重力)と、使用者1の筋肉収縮を測定するように構成された電極162の形をとる電気筋運動記録センサとを備える。好ましくは、当業者に周知の配置で、3つのEMG電極が設けられ、そのうちの2つはインタフェース160の図示しない単一の信号増幅器に接続され、一方3つ目の電極は参照電極である。インタフェース160によれば、頭の動きによって、及び/又は、使用者の頭の筋肉、例えば使用者の額の筋肉を収縮させることによって、使用者1がロボットフィンガー130を操作することが可能になる。
【0078】
同様に、感覚刺激(sensory stimulation)もまた、触覚インタフェースの一部165を介して、通常、圧縮刺激、剪断刺激、及び、振動刺激として、使用者1の頭に与えることが可能である。
【0079】
したがって、装置100のモータ部120は、使用者1との相互作用を単純化するものである作動信号で制御可能である。該作動信号は、あるセンサ又はセンサ162から所定の生体信号を受信することによって、制御インタフェース160において生成可能である。
【0080】
あるいは、該作動信号は、図18の実施形態のように、患者の肢の周囲に、例えば装置100のベルト102の近傍に配置されようとするリング113にも組み込むことが可能である、シンプルスイッチ114を操作することによって生成することが可能である。
【0081】
このように、装置100はまた、かかるインタフェースデバイスを、ボタン及びジョイスティックとして使用することができない、上肢に関与する障害に侵されている使用者が使用することができる。好ましくは、制御インタフェース160は、何も補助を必要とすることなく、一方の手の上に配置されるように構成される。これはまた、図16に示すように、使用者が両手で操作する場合にも有用である。
【0082】
触覚インタフェース160又は170を有する装置100には、MARGセンサ及びEMG電極の両方に関連する較正手順が設けられる。較正ステップ202の間、MARGセンサが、複数の100Hzのサンプルを例えば300収集し、その後現在の頭の向きを最初の向きとして規定する間、使用者は、例えば3秒である所定の時間の間、頭を静止して維持しなければならない。
【0083】
EMG電極の場合、較正は、MVC(最大随意筋力(Maximum Voluntary Contraction)として知られる技術に基づくことが可能である。使用者は、正確な検出のためのレベル及び閾値を好適に選択するために、例えば3秒である所定の時間で最大応力に到達するように、筋力収縮をゆるやかに大きくする必要がある。このようにして、使用者及び測定条件に大きく依存する電気筋運動記録信号の性質が考慮されるものである。触覚インタフェース160、170の制御ユニットは、典型的にそれをフィルタリングすること、修正すること、正規化することと、装置10の制御に用いることが可能である静止信号を生成することとによって、上記電気筋運動記録信号を処理する。
【0084】
触覚インタフェース160又は170と装置100との間には、装置100と、より快適な装着であるインタフェース160又は170とからなる系を形成するようにして、装置100が配置される腕3の動きを邪魔しない、好ましい無線通信手段が設けられる。
【0085】
図26~29を参照すると、装置は、拡張体勢(A)(図1)から湾曲把持体勢(B)(図5)へ及びその逆へ、多関節把持要素130を動かすための電気部品又は電子部品のない、この発明のさらなる例示的な防水性の実施形態として記載している。
【0086】
図26の実施形態においては、モータ部120は、ボックス145内に封入された、図示しないトランスミッションに接続されるクランク126であって、それを所定の回転方向に回転させることにより、多関節把持要素130を拡張体勢(A)から湾曲把持体勢(B)に移動させるように構成される前記クランク126を備える。図示しない解除可能な内部ブレーキ部が、上記トランスミッションに付随し、多関節把持要素130を湾曲把持体勢(B)で維持するように構成されている。該トランスミッションはまた、クランク126をこの回転方向にさらに回転させることによって、物体に加わる把持力が増加するように構成されている。好ましくは、該クランクは、特に多関節把持要素130が湾曲把持体勢(B)であるときに、ボックス145から取り外すことが可能である。多関節把持要素130を拡張体勢(A)に戻すために、トランスミッションの内部ブレーキ部を解除する手段が設けられており、それはボックス145に配置されるボタンの形をとることが可能であって、それを操作することで多関節把持要素130が現状の湾曲把持体勢(B)から拡張体勢(A)に戻るため、物体9が解放される。このことは、関節135の本来の弾性を介して及び/又は前記関節135とは別の弾性復帰手段の働きによって行うことが可能である。
【0087】
他の実施形態においては、図27に示すように、モータ部120は、負荷可能なバネを備えたバネにより機械的に負荷が与えられるモータ部材であり、多関節把持要素130は、バネに負荷が与えられたときに拡張体勢(A)をとり、バネが実質的に解放されたときに湾曲把持体勢(B)をとるように配置される。モータ部120は、図示しないレバーによって操作されるように配置される、バネに負荷を与えるように配置されて、ボックスの外部からアクセス可能である負荷部材を有し、それはモータ部120から取り外すこと、又は、ドリルなどの外部駆動される回転可能なデバイスによって取り外すことが可能である。モータ部120はまた、好ましくはボックス145から突出するキーの形をとる、バネ解放部材を有する。このように、使用者は、多関節把持要素130が湾曲静止体勢(C)であるとき、例えばブレスレットのように腕3の周囲に巻回されているときに、バネを巻くことが可能である。物体9を把持すると、使用者は多関節把持要素130を手に対して拡張体勢(A)にさせて、バネを解放するために、バネ解放部材を操作する。結果的に、多関節把持要素130は屈曲し、物体9の周囲において湾曲把持体勢(B)を達成する。
【0088】
どの場合においても、モータ部は、駆動シャフト124を介して巻取ドラム125に強固に接続される、図示しない従来の電気モータを含むことが可能である。この場合、この装置の作動状態及び解放状態は、それぞれ従来のモータの動作状態又は静止状態に相当することが可能である。電気モータが、摩擦手段等を介して巻取ドラムと選択的に接続することが可能であるような場合もまた提供することが可能であって、その場合、電気モータによって巻取ドラムが接続/非接続することで、モータの運動条件を、作動状態及び解放状態でそれぞれ開始する。
【0089】
さらなる実施形態においては、多関節把持要素130は、ベルト状支持部102に回転可能に連結され、把持されるように配置され、人手により閉じた静止構成から開いた把持構成にされる単一のホックであるものとし、該ホックにおいては、図28に示すように取り扱われる物体の可動性を抑制するものである。この場合、物体9と接触させることを目的とした多関節把持要素130の表面は、好ましくは、上記したように、所定の摩擦係数を有する材料よりなる被覆層138を備えている。
【0090】
上述の発明の実施形態の説明は、この発明が概念的な観点で完全に明らかにされることとなるため、従来技術を用いて、他者はさらなる調査をすることなく、またこの発明から逸脱することなく、特定の実施形態を様々な用途に変形及び/又は適合させることができることとなるので、したがって、かかる適合及び変形は、特定の実施形態と均等であるとみなされるはずであることを意味している。この理由のために、本明細書に記載した様々な機能を実行するための手段及び材料は、この発明の分野から逸脱することなく、異なる性質を有するものとなる。本明細書で用いる表現又は専門用語は、説明のためであって限定のためではないということを理解されたい。
図1
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【図 】
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