(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】音響用の加振装置および前記加振装置を使用した発音装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/00 20060101AFI20220307BHJP
H04R 7/04 20060101ALI20220307BHJP
H04R 9/04 20060101ALI20220307BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
H04R1/00 310F
H04R7/04
H04R9/04 105A
B60R13/02 B
(21)【出願番号】P 2018230590
(22)【出願日】2018-12-10
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-302924(JP,A)
【文献】特開昭59-011100(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0120536(US,A1)
【文献】特開2003-274473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
H04R 7/04
H04R 9/04
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石を含む磁気回路部と、前記磁気回路部を有する質量部と、前記磁気回路部で発生する磁界が作用するコイルと、前記コイルを支持する振動伝達部と、前記質量部と前記振動伝達部との間に設けられたダンパーと、を備えた音響用の加振装置において、
主振動体を挟んで前記振動伝達部に対向する振動板と、前記振動伝達部と前記振動板とを互いに固定する固定部と、が設けられていることを特徴とする音響用の加振装置。
【請求項2】
前記振動板の曲げ弾性係数は、前記主振動体の曲げ弾性係数よりも高い請求項1記載の音響用の加振装置。
【請求項3】
前記振動板の面積が、前記振動伝達部が前記主振動体に設置される設置領域の面積よりも大きい請求項1または2記載の音響用の加振装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載された加振装置と、主振動体とを有し、
前記主振動体を挟んで、一方の側に前記振動伝達部が、他方の側に前記振動板が配置され、前記主振動体を貫通する前記固定部によって、前記振動伝達部と前記振動板とが互いに固定されていることを特徴とする発音装置。
【請求項5】
前記主振動体と、前記振動板および前記固定部とが、一体成形されている請求項4記載の発音装置。
【請求項6】
主振動体が車両の内装材である請求項4または5記載の発音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内装材などの主振動体に固定される音響用の加振装置、および前記加振装置と主振動体とを含む発音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、自動車の内装板を振動板としたスピーカ装置に関する発明が記載されている。
【0003】
このスピーカ装置は、エキサイタと、内装板である天井基材と、エキサイタを天井基材に取付けるブラケットとを有している。エキサイタは、外側ヨークに永久磁石を有する磁気回路が固定され、カプラ部材に磁気回路からの磁界が作用するボイスコイルが支持されている。外側ヨークとカプラ部材は板ばねで連結されている。
【0004】
内装板である天井基材のエキサイタが実装される表面に、ブラケットのフランジ部がネジで固定されている。ブラケットにネジ部が一体に形成されており、エキサイタのカプラ部材に形成された内ネジ部が、ブラケットのネジ部に螺合されて、エキサイタがブラケットを介して天井基材に固定されている。
【0005】
エキサイタのボイルコイルに電気信号が与えられると、磁気回路を支持する外側ヨークと、ボイスコイルを支持するカプラ部材との間に振動が発生し、この振動によって天井基板が加振され、天井基板が振動板となって車室内に向けて音圧が与えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の天井基材などの内装板は、発泡樹脂シートなどの軟質な素材で形成されている。中音域の振動成分に関しては、エキサイタが取り付けられている部分を中心とした比較的広い領域で、内装材を、エキサイタの加振方向へ比較的大きな振幅で振動させることができる。一方で、比較的高い音域の振動成分に関しては、内装板に節で分割された複数領域が振動する分割振動が生じるが、内装板の剛性が低すぎるため、高音域を鮮明に発音させることが難しく、不要な振動によるノイズが発生しやすくなる。
【0008】
特許文献1に記載されたスピーカ装置では、天井基材のエキサイタが取り付けられる側の表面に、ブラケットのフランジ部がネジで固定されて一応は補強されている。しかし、内装板の発音方向に向く表面は補強されておらず、その部分での内装板の剛性は低いままであるため、高音域の音質を高めることは困難である。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、加振する主振動体が軟質なシートで形成されていても、比較的高い音域を鮮明に発音することができる音響用の加振装置および前記加振装置を使用した発音装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、磁石を含む磁気回路部と、前記磁気回路部を有する質量部と、前記磁気回路部で発生する磁界が作用するコイルと、前記コイルを支持する振動伝達部と、前記質量部と前記振動伝達部との間に設けられたダンパーと、を備えた音響用の加振装置において、
主振動体を挟んで前記振動伝達部に対向する振動板と、前記振動伝達部と前記振動板とを互いに固定する固定部と、が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の音響用の加振装置は、前記振動板の曲げ弾性係数が、前記主振動体の曲げ弾性係数よりも高いものである。
【0012】
本発明の音響用の加振装置は、前記振動板の面積が、前記振動伝達部が前記主振動体に設置される設置領域の面積よりも大きいことが好ましい。
【0013】
次に本発明の発音装置は、前記いずれかの加振装置と、主振動体とを有し、
前記主振動体を挟んで、一方の側に前記振動伝達部が、他方の側に前記振動板が配置され、前記主振動体を貫通する前記固定部によって、前記振動伝達部と前記振動板とが互いに固定されていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明の発音装置は、前記主振動体と、前記振動板および前記固定部とが、一体成形されていることが好ましい。
本発明の発音装置は、例えば、主振動体が車両の内装材である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、振動伝達部と振動板とで車両の内装材などの主振動体が挟まれて、振動伝達部と振動板とが互いに固定されており、振動板が取り付けられている領域で主振動体の剛性および曲げの弾性係数が高くなっている。そのため、加振装置の振動に比較的高い周波数の音域の振動成分が含まれるときに、振動板が固定されている領域に振動の節が現れることがなく、この領域が上下方向に高い周波数で振動できるようになる。また、主振動体の発音方向に向く表面側に振動板が設けられ、この振動板が加振装置によって直接に振動させられるため、この振動板から車室内などに直接に高い周波数の音圧を与えることができる。よって、比較的高い音域で鮮明な音を室内に向けて与えることが可能である。
【0016】
特に、振動板の面積が、振動伝達部が主振動体に設置されている設置領域の面積よりも大きいと、主振動体が比較的高音の周波数で加振されるときに、節が形成されない領域の面積を広く確保でき、高音域の発音品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態において、音響用の加振装置が主振動体に固定された発音装置を示す斜視図、
【
図3】
図1に示す発音装置おいて、主振動体の図示を省略して音響用の加振装置と振動板とを示す分解斜視図、
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1と
図2に示すように、本発明の実施形態の発音装置(スピーカ)1は、音響用の加振装置2と、この加振装置2が取り付けられる主振動体3と、主振動体3を挟んで加振装置2に固定される振動板4、とを有している。
【0019】
図2の断面図に示すように、加振装置2は、磁気回路部11を有する質量部10と、コイル23を支持する振動伝達部20とを有している。
【0020】
質量部10は、磁気回路部11と、この磁気回路部11を保持する保持部材15とを有している。磁気回路部11は、円盤形状の磁石12と、
図2において磁石12の上面が固定される第1ヨーク13と、磁石12の下面が固定される第2ヨーク14とを有している。第1ヨーク13と第2ヨーク14は、フェライト系や鉄系の磁性材料で形成されている。第1ヨーク13は、
図2において下向きに曲げられたリング状の側壁部13aを有し、円盤状の第2ヨーク14の側面と側壁部13aとの間に磁気ギャップGが形成されている。保持部材15は、合成樹脂材料や非磁性合金などの非磁性材料で形成されていることが好ましいが、磁性材料で形成されていてもよい。
【0021】
振動伝達部20は、ボビン21と、ボビン21を主振動体3に固定するための伝達支持体22とを有している。伝達支持体22は非磁性材料で形成されていることが好ましいが磁性材料で形成することも可能である。ボビン21の一方の端部である図示上端部にコイル23が巻かれており、伝達支持体22はボビン21の他方の端部である図示下端部を支持している。コイル23は、磁気回路部11の磁気ギャップGの内部に挿入されている。
【0022】
振動伝達部20を構成するボビン21と、質量部10を構成する保持部材15との間にダンパー(サスペンション)31が設けられている。ダンパー31は、化学繊維の織布または不織布とフェノール樹脂との複合体などで形成されている。ダンパー31は、全体がリング形状であり、リング状の突部とリング状の凹部が半径方向に繰り返すコルゲート形状である。ダンパー31の内周端31aはボビン21の外周面に接着されて固定されており、ダンパー31の外周端31bは、保持部材15の下面に接着されて固定されている。
【0023】
実施形態の音響用の加振装置2は車載用であって、加振装置2と主振動体3とで構成される発音装置1は車載用スピーカである。加振装置2の伝達支持体22が固定される主振動体3は自動車の内装材であり、例えばルーフ内装材である。内装材は軟質なシートであり、例えば発泡ウレタン樹脂などの発泡樹脂シートで形成されている。なお、主振動体3は、ルーフ内装材以外の例えば自動車のドアの内装材やその他の内装材であってもよいし、自動車以外の音響室などを構成する内装材であってもよい。
【0024】
図2と
図3に示されている振動板4は、一定の板厚の円盤形状であり、合成樹脂材料で形成された板である。あるいは振動板4がアルミニウムなどの金属板で形成されていてもよい。振動板4は、曲げ剛性および曲げ弾性係数が、主振動体3の曲げ剛性および曲げ弾性係数よりも十分に高くなっている。
図2に示すように、伝達支持体22が主振動体3に設置される設置領域Sの直径よりも、振動板4の直径Dが大きいことが好ましい。また前記設置領域Sの面積よりも、振動板4の面積が大きいことが好ましい。
【0025】
図2と
図3に示すように、振動板4には図示上方に延びる複数の固定部5が設けられている。振動板4が合成樹脂を材料とした射出成型法や軽金属を材料としたダイキャスト成型法などで成形されているときは、固定部5が振動板4と一体に形成される。振動板4が金属などの板材で形成されているときは、固定部5の図示下端部が振動板4にねじ止めなどの手段で固定される。複数の固定部5のそれぞれの上端部にはフック部5aが形成されている。
【0026】
実施形態の発音装置1では、固定部5が主振動体3を貫通して埋設された状態で、振動板4および固定部5が、主振動体3と一体に成形されている。例えば、金型の内部に振動板4と固定部5とを挿入した状態で、金型の内部に発泡ウレタン樹脂を射出してシート状の主振動体3を成形する。あるいは、硬化する前の軟質なシート状の主振動体3の内部に、固定部5を差し込み、その後シートを硬化させて主振動体3を形成してもよい。振動板4および固定部5が主振動体3と一体に成形されると、固定部5は主振動体3を貫通した状態で主振動体3の内部に固着され、振動板4は主振動体3の図示下面に密着されて固定される。また、振動板4の図示下面と主振動体3の図示下面は同一面となる。
【0027】
なお、本発明では、振動板4および固定部5と、主振動体3とが別体に形成されてもよい。この場合は、主振動体3に穴を空けて、固定部5をこの穴に差し込んで主振動体3を貫通させ、振動板4を主振動体3の図示下面に接着して固定する。
【0028】
音響用の加振装置2を主振動体3に取付けるときは、振動伝達部20の伝達支持体22を、主振動体3から図示上方に突出する複数の固定部5の間に入れ、固定部5を互いに離れる方向へ弾性変形させながら、伝達支持体22を主振動体3に密着させる。固定部5が弾性力で垂直姿勢に復帰すると、
図1と
図2に示すように、固定部5のフック部5aが伝達支持体22の上面に掛止され、固定部5を介して、伝達支持体22と振動板4とが互いに固定される。このとき、振動板4と伝達支持体22とで主振動体3を圧縮し、主振動体3を厚さ方向にやや収縮させた状態で、伝達支持体22と固定部5とを掛止させることが好ましい。また、伝達支持体22の図示下面を、主振動体3の図示上面に接着剤で固定することが好ましい。主振動体3を圧縮させ、また伝達支持体22と振動板4の双方を主振動体3に接着することで、振動板4が取り付けられている領域で主振動体3の剛性を高めることができる。
【0029】
なお、伝達支持体22と固定部5とをねじ止めしてもよいし、ねじそのものを固定部として使用し、伝達支持体22と振動板4とをねじで固定してもよい。
【0030】
次に、本発明の実施形態の加振装置2を使用した発音装置(スピーカ)1の発音動作を説明する。
【0031】
コイル23にボイス電流が与えられると、磁気回路部11においてコイル23を横断してコイル23に作用する磁界と、ボイス電流とで励起される電磁力によって、質量部10と振動伝達部20とが、
図1と
図2における図示上下方向において互いに反発する方向へ振動しようとする。このときの質量部10の振動の反力によるエネルギーが、振動伝達部20の伝達支持体22および伝達支持体22に固定されている振動板4から主振動体3に与えられ、主振動体3が加振されて音圧が発生し、主振動体3の図示下方の例えば車室内に音が与えられる。
【0032】
音楽などを発音するためのボイス電流には、低音域と中音域および高音域までの周波数成分が含まれる。中音域など比較的低い周波数成分については、振動伝達部20から主振動体3に低い周波数の振動が伝達され、振動伝達部20が固定されている領域を含む広い範囲で主振動体3が図示上下に比較的大きな振幅で振動する。
【0033】
加振装置2で励起される比較的高い周波数の振動によって振動板4と主振動体3とが加振されるときは、振動板4と伝達支持体22とで挟まれている領域および振動板4が設置されている領域で主振動体3の剛性と弾性係数が高められているため、この領域で主振動体3に振動の節が現れにくくなり、主振動体3が振動板4と共に比較的高い周波数で図示上下に振動できるようになる。これにより、比較的高域の発音動作を行うときに、主振動体3に不要な振動が励起されるのを防止でき、発泡ウレタン樹脂のシートが擦れた音のようなノイズが発生するのを抑制できる。
【0034】
振動板4は、主振動体3の図示下面である発音側の表面に配置されており、加振装置2で励起される振動が直接に振動板4に作用する。加振装置2で励起される高い周波数の振動により、振動板4から発音方向の空間、例えば車室内に向けて高音の音圧を直接に発することが可能である。よって、振動板4によって車室内などに高音域の鮮明な音を与えることができる。そのためにも、振動板4の面積は、伝達支持体22の設置領域Sの面積よりも大きいことが好ましい。
【0035】
なお、
図2に示す発音装置1では、振動板4が主振動体3の発音方向の表面(図示下面)に露出しているが、主振動体3を構成する発泡ウレタン樹脂などによって、振動板4の図示下面が薄く覆われていてもよいし、あるいは、主振動体3の図示下面にシートが重ねられ、振動板4の図示下面がシートで被覆されていてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 発音装置
2 加振装置
3 主振動体
4 振動板
5 固定部
10 質量部
11 磁気回路部
12 磁石
15 保持部材
20 振動伝達部
21 ボビン
22 伝達支持体
23 コイル
31 ダンパー