(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】摺動ナイフ付ピンセット
(51)【国際特許分類】
B25B 9/02 20060101AFI20220307BHJP
B26B 1/08 20060101ALI20220307BHJP
B26B 11/00 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
B25B9/02
B26B1/08 Z
B26B11/00 B
(21)【出願番号】P 2020070218
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2020-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】520125911
【氏名又は名称】松澤 秀俊
(74)【代理人】
【識別番号】100180482
【氏名又は名称】田中 将隆
(72)【発明者】
【氏名】松澤 俊夫
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】実公平01-019440(JP,Y2)
【文献】特許第5713753(JP,B2)
【文献】実開昭63-022869(JP,U)
【文献】中国実用新案第209380794(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 9/02
B26B 1/08
B26B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の対象物を切断する切断機能と、当該対象物を切断して得られた小片を挟持する挟持機能とを併せ持つ摺動ナイフ付ピンセットであって、
2本の棒状部材の一端を互いに接合することにより物理的に一体化された「くの字」形状を有し、接合部分と反対側にある両棒状部材の先端により任意の物体を挟持できるピンセットと、
ピンセットを構成する棒状部材の軸方向に沿って設けられた、中空構造部材からなる誘導溝と、
細芯の棒状部材からなり、摺動可能なように誘導溝に挿通された軸棒と、
軸棒に固着される部材であって、使用者により操作されるスライダと、
スライダに固着される切断刃と、
ピンセットの接合部分と軸棒の一端との間につながれた弾性部材であって、ピンセットの接合部分および軸棒の一端に係着されるスライダ位置復帰機構と、
スライダ側およびピンセット側に対をなして設けられる機構であって、スライダの側面に設けられる被係止部と、ピンセットに設けられる前記被係止部を係止するための係止部とから構成される切断刃固定機構と、
を備え、
(1)使用者がスライダに力を加えておらず、弾性体からなるスライダ位置復帰機構によりスライダが復帰位置にある場合、
切断刃がピンセットの先端よりも内側に引っ込んでおり、ピンセットによる挟持機能を発揮でき、
(2)
使用者が2本の棒状部材を手でつまんで力を加え前記ピンセットの両棒状部材が近接した状態において、使用者がスライダをずらして、切断刃がピンセットの先端よりも外側に押出された場合、
当該スライダ側に設けられた被係止部が、ピンセット側に設けた係止部によって係止されることで、ピンセットに対するスライダの相対位置が固定され、同スライダに固着された切断刃による切断機能が発揮される
ように構成されたことを特徴とする、摺動ナイフ付ピンセット。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
前記スライダ位置復帰機構が、ばねである
ように構成されたことを特徴とする、摺動ナイフ付ピンセット。
【請求項3】
請求項1に記載の摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
前記スライダ位置復帰機構が、ゴム紐である
ように構成されたことを特徴とする、摺動ナイフ付ピンセット。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
前記切断刃固定機構は、
スライダに設けた被係止部が、スライダの側面に設けた小片からなる突起部材であり、
ピンセットに設けた係止部が、ピンセットの内側に穿たれた、前記突起部材と同一形状・同一寸法からなる小孔であり、
摺動ナイフ付ピンセットの
切断刃による切断機能を使用する際、
スライダ側の突起部分がピンセット側の小孔に嵌合することにより、ピンセットに対して、スライダに設けられた切断刃の相対位置が固定される
ように構成されたことを特徴とする、摺動ナイフ付ピンセット。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
前記切断刃固定機構は、
スライダに設けた被係止部が、N極またはS極いずれかの極性を有する被係止磁石からなり、
ピンセットに設けた係止部が、ピンセットの内側に設けられる、被係止磁石と逆極性の係止磁石からなり、
摺動ナイフ付ピンセットの
切断刃による切断機能を使用する際、
スライダ側の被係止磁石とピンセット側の係止磁石が磁力の作用で引合うことにより、ピンセットに対して、スライダに設けられた切断刃の相対位置が固定される
ように構成されたことを特徴とする、摺動ナイフ付ピンセット。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
切断刃が、スライダに設けられた差込溝に対して着脱可能に構成されており、
一端側が切断刃以外の工具機能をもつように形成されるとともに、他端側が差込溝に着脱可能に形成されてなる付替用工具部材、
をさらに有する
ように構成されたことを特徴とする、摺動ナイフ付ピンセット。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
スライダに固着された軸棒の周囲に取付けられた肉厚の円筒形の中空パイプと、
ピンセットの棒状部材に対して回動可能に取付けられた飛出防止機構と、
をさらに備え、
前記飛出防止機構は、
使用者により把持される部材であって、当該飛出防止機構をピンセットに対して回動させる際の力点をなすレバーと、
飛出防止機構に挿通されることにより同飛出防止機構をピンセットに対し回動可能に固定する、飛出防止機構を回動させる際の支点をなすピンと、
飛出防止機構の先端に設けられる爪状部材であって、軸棒の周囲に取付けられた中空パイプと係合することにより、飛出防止機構の中空パイプに対する作用点をなす飛出防止爪と、
を有し、
(1)使用者によるレバー操作が行われておらず、レバーがピンセット棒状部材から離れた位置にある場合、飛出防止爪が中空パイプに係合することにより、スライダが復帰位置よりもピンセット前方に移動することを妨げ、
(2)使用者によりレバーを握る操作が行われ、レバーがピンセット棒状部材に接近すると、中空パイプが飛出防止爪による拘束から解放されて、スライダが復帰位置よりもピンセット前方に移動可能になる
ように構成されたことを特徴とする、摺動ナイフ付ピンセット。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
スライダが復帰位置にあるときの切断刃の位置の近くに配置され、切断刃を覆うようなC字型の断面を有する防護カバー、
をさらに備える
ように構成されたことを特徴とする、摺動ナイフ付ピンセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の対象物を切断する作業と、切断して得られた小片を挟持する作業とを交互に行う際、作業効率を向上できる摺動ナイフ付ピンセットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築物、自動車・自動二輪車などの乗物、機械、模型、工芸品など広範な物品に対し、美観装飾や腐食保護を目的として、塗装が施されている。
このような塗装を行う場合、塗装箇所以外を汚損から養生(保護)するために、マスキングテープ(保護用の粘着テープ)を貼付けることが一般的である。
【0003】
自動二輪車を例に挙げると、車体・乗員を覆う合成樹脂からなる風防部品(カウル)や燃料タンクなどに、スプレー塗装により装飾用の文字・図柄を描くことがしばしば行われている。
スプレー塗装の際、文字・図柄を所望どおり美しく仕上げるために、所望する文字・図柄と同一形状・同一寸法に忠実に塗装面を露出させておき、当該塗装面の周囲にマスキングテープを貼付する。
特に、所望の文字・図柄が、入り組んだ非常に複雑なデザインである場合、マスキングテープの一部をデザインナイフでくり抜くように切断し、さらに切断後のマスキングテープの不要な小片をピンセットでつまんで取り除く。
複雑なデザインでは、デザインナイフによる切断と、ピンセットによる切断片の除去を、都度、これらの道具を持替えながら、幾度となく繰り返すことになる。
【0004】
このようなデザインナイフとピンセットを交互に持替える作業は、数回程度おこなうくらいであれば、それに要する手間や時間も、特段、苦にはならない。
しかしながら、そのような装飾作業に専門的に従事する作業者にとっては、総合すると持替え作業だけでかなりの時間と労力を削がれてしまうため、作業能率低下の大きな一要因となっている。
【0005】
ところで、デザインナイフの切断刃は、非常に鋭利なものとなっている。
一方、使用者により把持されるデザインナイフの持手部分(柄)は、円筒状になっていることが多い。
そのため、デザインナイフとピンセットを交互に使用し、長時間、切断作業と挟持作業を繰り返す場合、疲労に起因する集中力低下により、デザインナイフを置く際に誤って落下させてしまい、使用者自身が怪我を負ったり、机面や床面などを傷つけてしまうおそれもある。
【0006】
上述したような持替による弊害を取除くため、ナイフによる切断機能とピンセットによる挟持機能を一体的に併せ持つ道具が、過去においても提案されている(特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-212091号公報
【文献】実開昭63-022869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術によれば、ピンセットを構成する2本の棒のうち、片側の棒の側面先端に切断刃が直接形成されている(同文献1・
図1)。
しかしながら、同文献1は、幅の狭いマスキングテープを貼っていくときの利便性向上を想定した技術内容となっている(第5段落)。
すなわち、マスキングテープをピンセットでつまんで対象物に貼り付けていき、所望の箇所まで同テープを貼付けおわった際、マスキングテープをピンセット先端に形成された切断刃で裁断する作業を想定した技術となっている(同5段落)。このような利用形態では、マスキングテープを幅方向に切断することが多いことが想定される。
【0009】
しかしながら、引用文献1によれば、ピンセット先端に形成された切断刃を使い、マスキングテープの中ほどを細線状にくり抜くべく、マスキングテープの延伸方向に沿って非常に長い距離を切断しようとした場合、切断刃を精密かつ正確に操作することが難しいものと考えられる。
同文献1では、ピンセットの片側の棒の先端に切断刃が設けてある。そのため、この切断刃をマスキングテープにあてがうには、必然的に、ピンセットを傾けた状態にして手に持つ必要がある。
この場合、切断刃を設けていない残り一方の棒が邪魔になって、当該器具を手に持つときの快適性を損なわせ、切断刃の精密かつ正確な操作を阻害してしまう。
【0010】
さらに、同文献1の技術では、一片のピンセット先端に切断刃が直接形成してあるため(
図1)、ピンセット先端で摘まんだ対象物を使用者がつかもうとした場合、誤って怪我をしてしまうおそれもある。
【0011】
つぎに、特許文献2の技術(1案)について検討する。
この技術によれば、カッターナイフ本体3に、ピンセットの一片6が設けられている(考案の詳細な説明・第4段落)。
同文献2(1案)においてピンセット機能を使用する場合、カッターナイフの刃2を本体3に収容する必要がある(考案の詳細な説明・第6段落、第1図)。同1図から明らかなように、カッターナイフの刃2を本体3に収める場合、使用者は、手動操作により、刃2を本体3内に引っ込める必要がある。
また、同1案においてカッターナイフ機能を使用する場合(第3図)、止め釦4に止め穴5を塡め込んで、ピンセットの一片6を本体3に固定してから、刃2を本体3から手動で押出して使用する。
【0012】
このように構成された引用文献2(1案)を使い、マスキングテープの中ほどを延伸方向に沿って細線状にくり抜くよう切断し、その後、切断したテープ片をピンセットで除去することを考える。
マスキングテープ中ほどを細線状にくり抜く場合、カッターナイフとして使う必要がある。この場合、ピンセットの一片6に設けた止め穴5に止め釦4を塡め込み、同片6をカッターナイフ本体3に固定する。それから、刃2をカッターナイフ本体3から押出す。
これら一連の作業は、すべて使用者の手動操作により行わなければならない。
なお、カッターナイフとして用いる場合、ピンセットの一片6は、カッターナイフ本体3の長手方向に沿って固定されるものの、カッターナイフの操作時には、器具(本体3)を把持するときの快適性を損なわせるおそれもある。
【0013】
さらに、引用文献2(1案)により、カッターナイフ機能を使って切断したテープ片を、ピンセット機能により除去する場合を考える。
このとき、使用者は、カッターナイフの刃2を手でスライドさせてカッターナイフ本体3に収容し、その後、止め穴5から止め釦4を外して、カッターナイフ本体3からピンセットの一片6を解放する。
これらの、刃2を本体3に収容する作業と、止め釦4を外す作業は、やはり使用者自身が手作業で実施することになる。
すなわち、引用文献2(1案)は、カッターナイフ機能とピンセット機能が物理的に1つの器具に一体的に搭載されているものの、実際に、これら2つの機能を使い、1つの作業(切断作業と挟持作業のいずれか)が終了するごとに、各機能を切替えながら作業を進めることを考えると、能率の飛躍的な向上は図られないと考えられる。
【0014】
また、引用文献2には別の構成例(2案)が開示されている。
当該2案では、ピンセットの一片12を手で前方にスライドさせ(考案の詳細な説明・第6段落、第4図)、この一片12とカッターナイフの刃7の間に対象物をはさむことで、ピンセット機能を実現する。
また、同2案では、カッターナイフ機能を使用する場合、ピンセットの一片12を手でずらして後方に引っ込める(考案の詳細な説明・第6段落、第6図)。
引用文献2(2案)では、ピンセット機能とカッターナイフ機能の切替時、カッターナイフ長手方向に取付けられたピンセットの一片12を押出したり引っ込めたりする手間が毎回発生してしまう。
【0015】
引用文献2(2案)では、ピンセット機能・カッターナイフ機能いずれを使用する場合でも、カッターナイフの刃7を本体8から露出したままにしておくことができ(第4図・第6図)、刃7の出し入れに要する手間と時間は省くことができる。
しかしながら、同2案のピンセット機能は、ピンセットの一片12とカッターナイフの刃7を組合わせることで実現される。
そのため、挟持する対象物が柔らかい場合には、当該対象物を傷つけてしまうおそれがある。
また、逆に、挟持する対象物が金属のように硬い場合、刃7が刃こぼれしたり、刃7が折れてしまうおそれがある。
さらに、ピンセットの一片12とカッターナイフの刃7により摘まんだ対象物を使用者がつかもうとした場合、怪我をしてしまうおそれもある。
【0016】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、ナイフの切断機能とピンセットの挟持機能を一体的に併せ持つ器具において、両機能を切替える手間を従来よりも省力化し、かつナイフ機能・ピンセット機能使用時の使い勝手を改善するとともに、安全性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
〔第1発明〕
そこで上記の課題を解決するために、本願の第1発明に係る摺動ナイフ付ピンセットは、
任意の対象物を切断する切断機能と、当該対象物を切断して得られた小片を挟持する挟持機能とを併せ持つ摺動ナイフ付ピンセットであって、
2本の棒状部材の一端を互いに接合することにより物理的に一体化された「くの字」形状を有し、接合部分と反対側にある両棒状部材の先端により任意の物体を挟持できるピンセットと、
ピンセットを構成する棒状部材の軸方向に沿って設けられた、中空構造部材からなる誘導溝と、
細芯の棒状部材からなり、摺動可能なように誘導溝に挿通された軸棒と、
軸棒に固着される部材であって、使用者により操作されるスライダと、
スライダに固着される切断刃と、
ピンセットの接合部分と軸棒の一端との間につながれた弾性部材であって、ピンセットの接合部分および軸棒の一端に係着されるスライダ位置復帰機構と、
スライダ側およびピンセット側に対をなして設けられる機構であって、スライダの側面に設けられる被係止部と、ピンセットに設けられる前記被係止部を係止するための係止部とから構成される切断刃固定機構と、
を備え、
(1)使用者がスライダに力を加えておらず、弾性体からなるスライダ位置復帰機構によりスライダが復帰位置にある場合、
切断刃がピンセットの先端よりも内側に引っ込んでおり、ピンセットによる挟持機能を発揮でき、
(2)使用者がスライダをずらして、切断刃がピンセットの先端よりも外側に押出された場合、
同スライダに固着された切断刃による切断機能が発揮される構成とした。
【0018】
第1発明によれば、通常、複数の道具(ナイフとピンセット)が個々にもつ機能(切断機能と挟持機能)が、物理的に1つの器具(本願の摺動ナイフ付ピンセット)に搭載されている。
【0019】
[ピンセット機能]
さらに、本願の摺動ナイフ付ピンセット1を「ピンセット」として機能させる場合(
図1)、使用者がスライダ32に力を加えていないときは、弾性体からなるスライダ位置復帰機構34の位置復帰作用により、スライダ32が復帰位置にある(同
図1)。
すなわち、切断刃33はピンセット2の先端よりも内側に引っ込んでおり、ピンセット2による挟持機能を発揮できる。
なお、「復帰位置」とは、スライダ32に外力が加わっていないときに、スライダ位置復帰機構34の作用により同スライダ32が静止する位置のことを指す。
【0020】
なお、本摺動ナイフ付ピンセット1では、ピンセット2の先端の構成は、通常のピンセットと何ら変わりなく(
図1)、ピンセット2先端にじかに切断刃が形成されていたり、切断刃33とピンセット2の片方の棒状部材を組合わせて対象物をはさむといったことはない。
そのため、ピンセット2でつまみ上げた対象物を傷付けるリスクを排除できる。
また、使用者がピンセット2で挟持している対象物をつかむ際にも、怪我のおそれを未然防止できる。
【0021】
さらに第1発明は、その構成上、ピンセット2の使用時、引用文献2・第1図に見られるようなピンセットの一片(2本の棒状部材の一方)をカッターナイフ本体から解放してやる作業は不要である。
そのため、第1発明は、ナイフとピンセットが同居した従来の器具と比べて、ピンセット使用時の使い勝手の向上が図られている。
【0022】
[ナイフ機能]
また、第1発明では、摺動ナイフ付ピンセット1を「ナイフ」として機能させる場合(
図3)、使用者がスライダ32をずらすことで切断刃33がピンセット2先端よりも外側に押出される。
すなわち、摺動ナイフ付ピンセット1が「ナイフ」として機能する場合、
図4の状態で使用される。
なお、同
図4のようなピンセット2の両棒状部材が近接した状態は、使用者が、これら2本の棒状部材を手でつまみ、力を加えることで達成される。
【0023】
なお、
図3の構成例では、スライダ32側面に設けた被係止部321は小片からなる突起部材321である。
また、この突起部材321を係止するための係止部23は、突起部材321と同一形状・同一寸法からなるピンセット2の内側に穿たれた小孔23-1~23-5である(
図3)。
このように、ナイフ機能を用いる際、スライダ32側の被係止部321と、ピンセット2側の係止部23の対からなる切断刃固定機構により、ピンセット2に対するスライダ32の相対位置が固定されるため、切断作業において、切断刃33に圧力が加わった場合でも、切断刃33を安定的に操作することが可能となる。
【0024】
さらに、ナイフ機能を終了するときは、ピンセット2の両棒状部材を握っている力を使用者が緩めるだけで、スライダ32側の被係止部321が、ピンセット2側の係止部23から解放される。
その後、使用者がなんらスライダ32に力を加えることなく、弾性部材からなるスライダ位置復帰機構34の引張力により、スライダ32は、ピンセット2の先端よりも内側に引込まれる(
図1)。同
図1の状態では、すでにピンセット機能を発揮できる状態が整っている。
すなわち、第1発明によれば、使用者による手動操作を伴うことなく、ナイフ機能からピンセット機能へと切替えることができる。
【0025】
また、ピンセット機能からナイフ機能への切替も、スライダ32を押出し、切断刃33がピンセット2先端よりも外側に来るように移動させてやるだけで(
図3)、ただちに完了できる。
さらに係止部23が被係止部321に係止作用を及ぼすよう、これら2要素23・321の位置を合わせてやるだけのきわめて簡易な操作で、ナイフ機能を安定的に使用できる(
図4)。
【0026】
〔第2発明〕
また、上記の課題を解決するために、本願の第2発明は、第1発明に係る摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
前記スライダ位置復帰機構が、ばねである構成とした。
【0027】
第2発明によれば、スライダ位置復帰機構34が「ばね」で構成されている(
図2)。
ばね34は、円筒形を有するごく一般的なコイルばねでよい。
ばねは、汎用部品として広く一般的に市場流通しているため、製造コストを抑えられるというメリットが生じる。
なお、ばね34の構成材料は、外力の大きさに応じた弾性力を発生するものでありさえすればよく、金属・合成樹脂をはじめとする任意の材料を使用できる。
さらに、スライダ位置復帰機構34を構成する「ばね」としては、ピストンに充填した気体の収縮・膨張に応じて変位する空気ばねを採用してもよい。
さらに、スライダ位置復帰機構は、磁力を利用して構成することも可能である(
図7・
図8)。
【0028】
〔第3発明〕
また、上記の課題を解決するために、本願の第3発明は、第1発明に係る摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
スライダ位置復帰機構が、ゴム紐である構成とした。
【0029】
第3発明によれば、スライダ位置復帰機構として、広く一般的に市場において入手可能かつ安価な「ゴム紐」を採用する(
図6の34A)。
これにより、摺動ナイフ付ピンセットの構成が簡素になり、軽量化も図られる。
また、ゴム紐34Aの採用により、製造工程が簡易化され、製造コストも抑制できるため、販売価格も低廉に設定することができ、広く普及を図ることができる。
また、ゴム紐34Aが損傷してしまった場合でも、交換部品が安価なことから、修理にかかるコストや時間も大幅に削減できる。
【0030】
〔第4発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第4発明は、第1~第3発明のいずれかに係る摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
切断刃固定機構は、
スライダに設けた被係止部が、スライダの側面に設けた小片からなる突起部材であり、
ピンセットに設けた係止部が、ピンセットの内側に穿たれた、前記突起部材と同一形状・同一寸法からなる小孔であり、
摺動ナイフ付ピンセットのナイフ機能を使用する際、
スライダ側の突起部分がピンセット側の小孔に嵌合することにより、ピンセットに対して、スライダに設けられた切断刃の相対位置が固定される構成とした。
【0031】
第4発明によれば、スライダ32側面の被係止部321が、ピンセット2に設けられた係止部23(
図3では、23-1~23-5のいずれか)により係止される。
すなわち、スライダ32側の突起部材321(被係止部)がピンセット側の小孔23(係止部)に嵌合することで(
図3・
図4)、ピンセット2に対するスライダ32(ひいては切断刃33)の位置ずれが封殺される。
このように、ピンセット2に対するスライダ32の相対位置が固定されることで、切断作業の際、切断刃33に対して圧力が加わった場合でも、切断刃33を安定的に操作することが可能となる。
【0032】
さらに第4発明では、ナイフ機能(
図4)を終了する場合、ピンセット2の両棒状部材を握っている力を使用者が緩めるだけで、スライダ32側の突起部材321が、ピンセット2側の小孔23から解放される。ピンセット2は、板ばね同様の自己復元力を有しているからである。
突起部材321が小孔23から解放されると、その後、スライダ32は、スライダ位置復帰機構34の弾性力により復帰位置まで引戻される(
図1)。
図3の例では、ピンセット2側の被係止部として5つの小孔23-1~23-5が設けられているが、小孔23の個数は任意でよい。
小孔23を設ける数が多いほど、スライダ32の固定位置を、離散的に多段階で切替えることができる。
なお、
図3の例では、係止部23-1~23-5は、間隔を空けることなく互いに隣接するように連続的に連なって配置されている。
さらに、
図3の構成においては、切断刃33の側面に被係止部(突起部材321)を直接的に設けるとともに、ピンセット2先端ちかくに係止部(小孔23)を設けて、ピンセット2とスライダ32の相対位置を固定することも可能である。
【0033】
第4発明では、ピンセット2側において、
図3の小孔23に代えて、
図9・
図10(b)のように軟質のゴム板23Aを設けるようにしてもよい。
この構成下では、ナイフ機能を発揮させるために、ピンセット2を握って両片を閉じている際、スライダ32側の突起部材321(
図10(a))が、ゴム板23A(
図10(b))に食い込むことで、ピンセット2に対しスライダ32の相対位置が固定される。
この場合、スライダ32側の突起部材321をゴム板23Aの領域内において任意の位置で係止できるため、離散的ではなく、いわゆる無段階の切断刃33の位置調節が可能となる。
さらに第4発明では、
図3のようなピンセット2側の小孔23とスライダ32側の突起部材321に代え、ピンセット2・スライダ32の両側ともに摩擦係数の大きなシート(図示略)を設けたり、面ファスナ(図示略)を設けるようにしてもよい。
このような構成であっても、ナイフ機能時におけるスライダ32の位置ずれを防止できる。
【0034】
〔第5発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第5発明は、第1~第3発明のいずれかに係る摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
切断刃固定機構は、
スライダに設けた被係止部が、N極またはS極いずれかの極性を有する被係止磁石からなり、
ピンセットに設けた係止部が、ピンセットの内側に設けられる、被係止磁石と逆極性の係止磁石からなり、
摺動ナイフ付ピンセットのナイフ機能を使用する際、
スライダ側の被係止磁石とピンセット側の係止磁石が磁力の作用で引合うことにより、ピンセットに対して、スライダに設けられた切断刃の相対位置が固定される構成とした。
【0035】
第5発明によれば、スライダ32側の被係止部(
図11の被係止磁石322)と、ピンセット2側の係止部(
図11の係止磁石23B)が磁力の作用で引合うことで、ピンセット2に対するスライダ32(ひいては切断刃33)の相対位置を固定できる。
これにより、上記第4発明と同様の効果を奏することが可能となる。
なお、
図12(b)に示すように、係止磁石23B(23B-1~23B-5)は、ピンセット2の棒状部材の内側に配設されている。
図12(b)の例では、被係止部として5つの係止磁石23B-1~23B-5を設けているが、係止磁石23Bの個数は任意でよい。
係止磁石23Bが多数であるほど、スライダ32の固定位置を離散的に多段階で切替えることが可能となる。
【0036】
さらに、第5発明においては、
図13(b)のように、係止磁石23Bに代えて、長尺状の鉄片23Cを係止部として配設してもよい。
このようにすることで、磁石を用いて構成した切断刃固定機構においても、
図9に示した構成と同様に、離散的でない無段階の切断刃33の位置調節が実現される。
なお、鉄片23Cの構成材料は、鉄その他の強磁性体である。
【0037】
〔第6発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第6発明は、第1~第5発明に係る摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
切断刃が、スライダに設けられた差込溝に対して着脱可能に構成されており、
一端側が切断刃以外の工具機能をもつように形成されるとともに、他端側が差込溝に着脱可能に形成されてなる付替用工具部材、
をさらに有する構成とした。
【0038】
図5(a)中に破線で示すように、切断刃33の一端は、スライダ32内部に挿通されている。
さらに、第6発明においては、
図14(a)のように、差込溝323が設けられており、切断刃33をはじめ、
図14(b)に例示するような各種の工具機能をもつ付替用工具部材を取付可能となっている。
このため、切断刃33が摩耗して切れ味が悪くなったときには、別の切断刃33に交換することが可能である。
また、
図14(b)においては、切断刃33に加え、対象物に孔を穿ったり貫通するための穿孔針33Aや、ねじ回し33Bが、付替用工具部材として例示されている。
図14(c)の例では、切断刃33に代えて、穿孔針33Aが差込溝323を介してスライダ32に取付けられている。
第6発明によれば、ピンセット機能と同居させる機能がナイフ機能だけに限定されず、きわめて多岐にわたる使用目的に対応することができる。
【0039】
〔第7発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第7発明は、第1~第6発明に係る摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
スライダに固着された軸棒の周囲に取付けられた肉厚の円筒形の中空パイプと、
ピンセットの棒状部材に対して回動可能に取付けられた飛出防止機構と、
をさらに備え、
前記飛出防止機構は、
使用者により把持される部材であって、当該飛出防止機構をピンセットに対して回動させる際の力点をなすレバーと、
飛出防止機構に挿通されることにより同飛出防止機構をピンセットに対し回動可能に固定する、飛出防止機構を回動させる際の支点をなすピンと、
飛出防止機構の先端に設けられる爪状部材であって、軸棒の周囲に取付けられた中空パイプと係合することにより、飛出防止機構の中空パイプに対する作用点をなす飛出防止爪と、
を有し、
(1)使用者によるレバー操作が行われておらず、レバーがピンセット棒状部材から離れた位置にある場合、飛出防止爪が中空パイプに係合することにより、スライダが復帰位置よりもピンセット前方に移動することを妨げ、
(2)使用者によりレバーを握る操作が行われ、レバーがピンセット棒状部材に接近すると、中空パイプが飛出防止爪による拘束から解放されて、スライダが復帰位置よりもピンセット前方に移動可能になる構成とした。
【0040】
第7発明によれば、
図15のように、飛出防止機構35の飛出防止爪351が軸棒31側の中空パイプ311に係合している限り、スライダ32に対し復帰位置よりもピンセット2前方に動かそうとする力が加わっても、飛出防止爪351によりスライダ32の移動(切断刃33の飛出し)が阻まれ、摺動ナイフ付ピンセット1の非使用時における安全性を確保できる。
また、第7発明によれば、使用者によりレバー352を握る操作が行われ、
図17のようにレバー352がピンセット2棒状部材に接近すると、中空パイプ311が飛出防止爪351による拘束から解放されて、スライダ32が復帰位置よりもピンセット2前方に移動可能になる。
これにより、ナイフ機能使用時以外の不要な切断刃33の飛出しが未然防止できる。
【0041】
〔第8発明〕
また上記の課題を解決するために、本願の第8発明は、第1~第7発明に係る摺動ナイフ付ピンセットにおいて、
スライダが復帰位置にあるときの切断刃の位置の近くに配置され、切断刃を覆うようなC字型の断面を有する保護カバー、
をさらに備える構成とした。
【0042】
第8発明によれば、
図19のように切断刃33を覆うことができるよう、C字型の断面を有する防護カバー36がピンセット2の側面に取付けられている。
なお、当該カバー36の取付位置は、スライダ32が復帰位置にあるときの切断刃33の位置ちかくとなっている。
スライダ32が復帰位置にあるときはピンセット機能の使用時に該当し、ナイフ機能の非使用時にあたる。このときは、
図19のように、切断刃33が防護カバー36で囲まれた状態にあり、使用者に対する安全性を確保できる。
また、ナイフ機能の使用時には(
図20)、防護カバー36は切断刃33の露出を妨げることなく、ナイフ機能が担保される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本実施形態の摺動ナイフ付ピンセットにおいて、スライダが引っ込んでいるときの外観斜視図である。
【
図2】摺動ナイフ付ピンセットの構成要素を示す外観斜視図である。
【
図3】摺動ナイフ付ピンセットにおいて、スライダが押出されているときの外観斜視図である。
【
図4】摺動ナイフ付ピンセットが、ナイフ機能を発揮しているときの外観斜視図である。
【
図5】摺動ナイフ付ピンセットの構成要素を示す模式図であって、(a)はスライダを示す図、(b)はピンセットを示す図である。
【
図6】ゴム紐によりスライダ位置復帰機構を構成した変形例を示す外観斜視図である。
【
図7】磁石によりスライダ位置復帰機構を構成した変形例において、スライダが引っ込んでいるときの外観斜視図である。
【
図8】磁石によりスライダ位置復帰機構を構成した変形例において、スライダが押出されているときの外観斜視図である。
【
図9】ゴム板によりスライダの位置調節をおこなう変形例を示す外観斜視図である。
【
図10】ゴム板によりスライダ位置を調節する摺動ナイフ付ピンセットの構成要素を示す模式図であって、(a)はスライダを示す図、(b)はピンセットを示す図である。
【
図11】磁石によりスライダの位置調節をおこなう変形例を示す外観斜視図である。
【
図12】磁石によりスライダ位置を調節する摺動ナイフ付ピンセットの構成要素を示す模式図であって、(a)はスライダを示す図、(b)はピンセットを示す図である。
【
図13】磁石と鉄片によりスライダ位置を調節する摺動ナイフ付ピンセットの構成要素を示す模式図であって、(a)はスライダを示す図、(b)はピンセットを示す図である。
【
図14】切断刃を着脱可能な摺動ナイフ付ピンセットの構成要素を示す模式図であって、(a)は差込溝を示す図、(b)は切断刃・穿孔針・ねじ回しを示す図、(c)は穿孔針を装着したスライダを示す図である。
【
図15】回動可能な飛出防止機構を設けた摺動ナイフ付ピンセットにおいて、スライダが引っ込んでいるときの外観斜視図である。
【
図16】回動可能な飛出防止機構を設けた摺動ナイフ付ピンセットの構成要素を示す外観斜視図である。
【
図17】回動可能な飛出防止機構を設けた摺動ナイフ付ピンセットにおいて、スライダが押出されているときの外観斜視図である。
【
図18】スライド留具による飛出防止機構を設けた摺動ナイフ付ピンセットにおいて、(1)はスライダが押出されているときの外観斜視図、(b)はスライド留具による飛出防止機構を示す図である。
【
図19】防護カバーを設けた摺動ナイフ付ピンセットにおいて、スライダが引っ込んでいるときの外観斜視図である。
【
図20】防護カバーを設けた摺動ナイフ付ピンセットにおいて、スライダが押出されているときの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、
図1乃至
図20を参照して、本発明の摺動ナイフ付ピンセットについて説明する。
[実施形態]
本発明の実施形態は、任意の対象物を切断する切断機能と、同対象物を切断して得られた小片を挟持する挟持機能を併せ持つ摺動ナイフ付ピンセット1を構成した例である。
以下、この内容について詳しく説明する。
【0045】
図1は、実施形態に係る摺動ナイフ付ピンセット1の構成を示す模式図である。
同
図1のように、摺動ナイフ付ピンセット1は、ピンセット2と、誘導溝22と、軸棒31と、スライダ32と、切断刃33と、スライダ位置復帰機構34と、切断刃固定機構321・23(23-1~23-5)と、から構成されている。
【0046】
ピンセット2は、
図2に示すように、2本の棒状部材の一端を互いに接合することにより物理的に一体化された「くの字」形状を有している。
ピンセット2は、接合部分JNと反対側にある両棒状部材の先端により任意の物体を挟持することが可能である。
なお、ピンセット2の側面には、連続する凹凸形状を有する滑り止め21が形成されている。
なお、ピンセット2は、2本の棒状部材を端部において接合したものに限定されず、1本の部材を途中で屈折させることにより、全体形状を「くの字」型に形成したピンセットでもよい。
【0047】
誘導溝22は、中空構造部材からなる。
図1に示す例では、誘導溝22は、中空管からなる誘導パイプである。
誘導溝22は、ピンセット2を構成する棒状部材の軸方向に沿って設けられている。
誘導溝22は、中空円筒断面を有するパイプに限定されず、矩形断面またはコの字型断面を有するレールなどでもよい。
また、誘導溝22の構成材料は、金属・合成樹脂・木材など任意でよい。
誘導溝22のピンセット2に対する固着手法は、接着剤・はんだ付けをはじめとする任意の手法を採用できる。さらには、ピンセット2と誘導溝22を一体成型してもよい。
【0048】
なお、
図1においては、誘導溝22が、ピンセット2の接合部分JN側からピンセット2の先端を見たときに、右側の棒状部材に取付けられている。
使用者の利き手が右手である場合、スライダ32を動かす際、誘導溝22が設けてある方のピンセット棒状部材を右掌に乗せて操作することになるため、
図1の構成例は右利き用に適している。
左利き用に構成する場合、誘導溝22を、ピンセット2の接合部分JNから見てピンセット2の左側にある棒状部材に配置すればよい。
【0049】
軸棒31は、細芯の棒状部材からなる。
軸棒31は、摺動可能なように誘導溝(誘導パイプ)22に挿通されている。
当該軸棒31の構成材料は、金属・合成樹脂・木材など任意でよい。
【0050】
スライダ32は、軸棒31に固着される部材であって、使用者により操作される。
同スライダ32は、
図1に示す押出方向・引込方向のいずれにも摺動できる。
なお、スライダ32の幅は、ピンセット2の挟持機能を妨げることのないよう(ピンセット2の先端同士を密着させることが可能なよう)、十分薄いものとなっている。
また、スライダ32の形状は、
図1に例示したような前方部が盛上がっており後方部が平坦である形状に限らず、使用者の指にフィットする形状であれば任意でよい。
【0051】
切断刃33は、
図2のように、スライダ32に固着される。
同切断刃33は、金属材料(ステンレス鋼・炭素鋼・合金鋼・チタン合金など)またはセラミック材料からなる薄板で作製される。
切断刃33は、片刃(一方の面が垂直面をなし、他方の面が鉛直方向に対し傾斜したもの)・両刃(両面ともに鉛直方向に対し傾斜したもの)のいずれでもよい。
切断刃は、
図2に示した形態に限らず、
図14(b)に示す切断刃33Cのように、使用により刃先が摩耗したときに、切断刃33C先端の一部を折って切り離し、鋭利な刃先をもつ後続部分を新たな先端として継続使用できる構成でもよい。
また、軸棒31・スライダ32・切断刃33は、物理的に異なる個々の部品ではなく、これら3つの構成要素を一体成形により1個の部品として構成しても構わない。
【0052】
スライダ位置復帰機構34は、
図1のように、ピンセット2の接合部分JNと軸棒31の一端との間につながれた弾性部材である。
同復帰機構34の一端はピンセットの接合部分JNに係着され、スライダ位置復帰機構34の他端は軸棒31の一端に係着される。
【0053】
本実施形態においては、スライダ位置復帰機構34が「ばね」により構成されている(
図1)。
ばね34は、円筒形を有するごく一般的なコイルばねでよい。
ばねは、汎用部品として広く一般的に市場流通しており、摺動ナイフ付ピンセットの製造コスト抑制に寄与する。
なお、ばね34の構成材料は、外力に応じて弾性力を発生するものであればよく、金属・合成樹脂その他の任意の材料を採用できる。
【0054】
切断刃固定機構は、スライダ32側およびピンセット2側に対をなして設けられる。
本例の切断刃固定機構は、スライダ32の側面に設けられる被係止部321と、ピンセット2に設けられる係止部23から構成される。
係止部23は、被係止部321を係止する役割を果たす。
なお、
図3の構成例では、スライダ32側面に設けられた被係止部321は小片からなる突起部材321である。
また、この被係止部321(突起部材)を係止するための係止部23は、突起部材321と同一形状・同一寸法からなるピンセット2の内側に穿たれた小孔23-1~23-5である。
図5(b)のように、係止部23-1~23-5は、間隔を空けることなく隣接するように連続的に連なって配置されている。
【0055】
つぎに、上記構成を有する摺動ナイフ付ピンセット1の動作について説明する。
【0056】
[ピンセット機能]
摺動ナイフ付ピンセット1を「ピンセット」として機能させる場合(
図1)、使用者がスライダ32に力を加えておらず、弾性体からなるスライダ位置復帰機構34の位置復帰作用によりスライダ32が復帰位置にある(同
図1)。
すなわち、切断刃33はピンセット2の先端よりも内側に引っ込んでおり、ピンセット2による挟持機能が発揮される。
なお、「復帰位置」とは、スライダ32に外力が加わっていないときに、スライダ位置復帰機構34の作用により同スライダ32が静止する位置のことを指す。
【0057】
なお、本願の摺動ナイフ付ピンセット1では、ピンセット2の先端の構成は、通常のピンセットと何ら変わったところはなく(
図1)、例えば、ピンセット2先端にじかに切断刃が形成されていたり、切断刃33とピンセット2の片方の棒状部材を組合わせて対象物をはさむようなこともない。
そのため、ピンセット2でつまみ上げた対象物を、鋭利な刃33により傷付けてしまうおそれがない。
また、使用者がピンセット2で挟持している対象物をつかむ際にも、怪我をするおそれを未然防止できる。
【0058】
[ナイフ機能]
つぎに、摺動ナイフ付ピンセット1のナイフ機能について説明する。
また、本ピンセット1を「ナイフ」として機能させる場合(
図3)、使用者がスライダ32をずらして、切断刃33をピンセット2の先端よりも外側に押出す。
このとき、スライダ32に固着された切断刃33による切断機能が発揮される。
【0059】
なお、摺動ナイフ付ピンセット1が「ナイフ」として機能する場合、
図4の状態で使用される。
同
図4のような、ピンセット2の先端が近接した状態は、使用者がピンセット2を構成する2本の棒状部材を手でつまみ、力を加えることで達成される。
【0060】
図4の状態においては、スライダ32側の被係止部(小片からなる突起部材321)と、ピンセット2側の係止部(突起部材321と同一形状・同一寸法からなる小孔23)の対により、ナイフ機能を使用する際、ピンセット2に対するスライダ32(ひいては切断刃33)の相対位置が固定される。
そのため、切断作業の際、切断刃33に対して圧力(切断対象物からの反力)が加わった場合でも、切断刃33を安定的に操作することが可能となる。
【0061】
なお、本例ではナイフ機能(
図4)を終了する場合、ピンセット2の両棒状部材を握っている力を使用者が緩めるだけで、ピンセット2自体の復元力(板ばね作用)により、スライダ32側の突起部材321が、ピンセット2側の小孔23から解放される。
さらに、突起部材321が小孔23内から抜け出すと、スライダ32は、スライダ位置復帰機構34の作用により復帰位置まで引戻される(
図1)。
このようにして、ナイフによる切断機能とピンセットによる挟持機能を交互に切替える一連の動作が終了する。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、使用者がスライダ32に力を加えない限り、スライダ位置復帰機構34によりスライダ32は復帰位置に収まり続け、摺動ナイフ付ピンセット1を「ピンセット」として使用できる。
なお、ピンセット機能の利用時、使用者が手作業により、ピンセットの一片をカッターナイフ本体から解放してやることは不要である。
【0063】
また、本例において、ピンセット2先端の構成は、通常のピンセットと何ら変わりないものであり(
図1)、ピンセット2先端に切断刃が形成してあったり、切断刃33とピンセット2の片側棒状部材の組合せを使って対象物を挟むようなこともない。
そのため、ピンセット2でつまんだ対象物を鋭利な刃で傷付けるリスクや、ピンセット2で挟んだ対象物を使用者がつかむときの負傷のリスクを回避できる。
【0064】
また、本実施形態では、スライダ32を使って、切断刃33をピンセット2先端よりも外側に押出すだけの単純な操作で、ナイフ機能を発揮できる。
なお、切断刃33がピンセット2先端よりも外側に露出している際、スライダ32側の被係止部(
図3では突起部材321)は、ピンセット2側の係止部(小孔23-1~23-5のいずれか)により係止される。
これにより、対象物を切断する際、切断刃33の刃先が位置ずれせず、使用者により加えられた力が効率的に切断対象に伝達されるため、ナイフ機能使用時の快適性が確保される。
【0065】
[変形例:ゴム紐を用いた、スライダ位置復帰機構]
本実施形態においては、ばね34に代えて、
図6のようにスライダ位置復帰機構としてゴム紐34Aを採用することもできる。
このゴム紐34Aは、広く市場において入手可能かつ安価な、ごく一般的なゴム紐でよい。これにより、摺動ナイフ付ピンセット1の構成が簡素化されるとともに、軽量化も図られる。
また、ゴム紐34Aの採用により、製造工程が簡易化され、さらには製造コストも抑制されることで販売価格を低廉に設定できるようになり、広く普及を図ることができる。
図6の構成下では、ゴム紐34Aが損傷した場合でも、交換部品が安価なことから、修理にかかるコストや時間も大幅に削減できる。
【0066】
[変形例:磁石を用いた、スライダ位置復帰機構]
本例では、
図1のばね34に代えて、
図7・
図8のようにスライダ位置復帰機構として磁石34Bを採用することもできる。
図7の例においては、5つの磁石34B-1~34B-3が設けられている。
これらのうち磁石34B-1は、軸棒31の一端に配設される。
【0067】
一方、残りの磁石34B-2~34B-3は、ピンセット2側に固着される。
本例では、磁石34B-2は、ピンセット2の接合部分JNに配設される。
また、磁石34B-3は、ピンセット2の棒状部材沿いに固着されている。同磁石34B-3は、スライダ32の移動によりナイフ機能が発揮されるときの磁石34B-1が占める位置ちかくに置かれている(
図4)。
なお、磁石34B-3の形状は、軸棒31が挿通可能なように円環状となっている。
【0068】
ここで、スライダ位置復帰機構34Bの役割は、ピンセット機能が発揮されるよう、スライダ32に外力が加わっていない場合において、スライダ32がピンセット2先端の外側に位置するときに、スライダ32をピンセット2先端から十分離れた復帰位置まで移動させてやることにある。
また、スライダ位置復帰機構34Bのもう1つの役割は、スライダ32に外力が加わっていないときに、復帰位置にあるスライダ32を、復帰位置に安定的にとどめておくことにある。
【0069】
上記の趣旨に鑑み、ピンセット2の接合部分JNにある磁石34B-2の磁極は、この磁石34B-2に面している磁石34B-1の磁極と引合うように配置する。
例えば、磁石34B-2に面する磁石34B-1の磁極が「S極」であれば、磁石34B-2側の磁極は「N極」(磁石34B-1の磁極とは逆極性)とする。
磁石34B-1と磁石34B-2間の引力により、復帰位置にあるスライダ32を継続して復帰位置に係留したままにでき、ピンセット機能の安定性が担保される。
【0070】
一方、磁石34B-3の磁極は、この磁石34B-3に面する磁石34B-1の磁極と反発し合うように配置する。
例えば、磁石34B-3と面する磁石34B-1の磁極が「N極」であれば、磁石34B-3側の磁極も「N極」(磁石34B-1の磁極と同極性)とする。
これにより、ナイフ機能の終了後、ピンセット2先端の外側にあるスライダ32を同ピンセット2の内側にむけて押戻す際に(
図8)、磁石34B-1と磁石34B-3の反発力により付勢される。
【0071】
[変形例:ゴム板を用いた、切断刃の位置調節機能]
本例では、ピンセット2側において、
図3の小孔23に代えて、
図9・
図10(b)のようにゴム板23Aを設けるようにしてもよい。
この構成下では、ナイフ機能を発揮させるために、ピンセット2の両棒状部材を握ってピンセット2を閉じている際、
図10(a)の突起部材321が、
図10(b)のゴム板23Aに食い込むことで、ピンセット2とスライダ32の相対位置が固定される。
この場合、スライダ32をゴム板23Aの領域内の任意の位置で係止できるため、離散的でない連続的な無段階の切断刃33位置調節が可能となる。
【0072】
[変形例:磁石を用いた、切断刃の位置調節機能]
本例では、
図11に示すように、スライダ32側の被係止部(被係止磁石322)と、ピンセット2側の係止部(係止磁石23B)が磁力の作用で引合うように構成してもよい。
このような構成下でも、ピンセット2に対し、スライダ32(ひいては切断刃33)の相対位置を固定することが可能となる。
【0073】
なお、
図12(b)に示すように、係止磁石23B(23B-1~23B-5)は、ピンセット2棒状部材の内側に固着される。
図12(b)の例では、5つの係止磁石23B-1~23B-5が設けてあるが、係止磁石23Bの個数は任意でよい。
係止磁石23Bの設置数が多いほど、スライダ32の固定位置を離散的に多段階で切替えることが可能になる。
【0074】
さらに、磁石を利用し切断刃33の位置調節機能を実現する場合、
図12(b)の係止磁石23Bに代えて、
図13(b)のように長尺状の鉄片23Cを配設してもよい。
このようにすることで、磁石322により構成した切断刃固定機構においても、離散的でない無段階の切断刃33の位置調節が実現される。
なお、鉄片23Cの構成材料としては、鉄その他の強磁性体であることが望ましい。
【0075】
[変形例:交換可能な、各種工具機能をもつ付替用工具部材]
本例では、スライダ32に設けた差込溝323に切断刃33を着脱可能に構成しておき、切断刃33以外の工具機能を有する付替用工具部材と交換(入替)できるように構成してもよい。
このように構成する場合、
図5(a)のようにスライダ32内部に挿通された切断刃33を同スライダ32から抜き出せるよう、切断刃33の一端を
図14(a)の差込溝323に嵌合した(差込んだ)だけの状態としておく。
【0076】
このとき、切断刃33を含め、
図14(b)に示す各種工具機能をもつ付替用工具部材33・33A・33Bは、差込溝323に着脱可能となっている。
図14(c)は、切断刃33に代えて、穿孔針33Aをスライダ32に取付けた状態である。
図14(b)においては、切断刃33のほか、対象物に孔を穿ったり貫通するための穿孔針33A・ねじ回し33Bが、付替用工具部材として例示されている。
この変形例によれば、ピンセット機能と同居させる機能がナイフ機能だけに限定されず、摺動ナイフ付ピンセット1を、きわめて多岐にわたる使用目的に活用できる。
また、現在使用中の切断刃33が劣化した場合でも、新たな切断刃33に交換することが可能となる。
さらには、付替用工具部材の工具機能として、小型のはさみ(図示略)を選択することもできる。ピンセット2と小型はさみ(図示略)の2つを多用する利用シーンの一例としては、医療現場における縫合行為などが挙げられる。
【0077】
[変形例:飛出防止機構]
本例では、使用時以外の切断刃33の不要な飛出しを防止できるよう、飛出防止機構35を設けることも可能である(
図15)。
この場合、
図16のように、スライダに固着された軸棒31の周囲に、肉厚の円筒形の中空パイプ311を取付けておく。
また、飛出防止機構35を、ピンセット2の棒状部材に対して回動可能に取付ける。
【0078】
飛出防止機構35は、
図16のように、飛出防止爪351と、レバー352と、ピン353と、ピン差込穴354と、を有している。
【0079】
図15のように、レバー352は、使用者により把持される部材であり、飛出防止機構35をピンセット2に対して回動させる際の力点となる。
【0080】
また、ピン353は、飛出防止機構35(ピン孔354)に挿通されることで、同防止機構35をピンセット2に対し回動可能に固定する。
ピン353は、飛出防止機構35を回動させる際の支点となる。
【0081】
飛出防止爪351は、飛出防止機構35の先端に設けられる爪状部材である。
同防止爪351は、軸棒31の周囲に取付けられた中空パイプ311と係合することで、飛出防止機構35の中空パイプ311に対する作用点として機能する。
【0082】
使用者がレバー操作をしておらず、レバー352がピンセット2棒状部材から離れた位置にある場合(
図15)、飛出防止爪351は中空パイプ311に係合し、スライダ32が復帰位置よりもピンセット前方に移動することを妨げる。
すなわち、
図15のように、飛出防止機構35の飛出防止爪351が軸棒31側の中空パイプ311を係止している限り、スライダ32に対し復帰位置よりもピンセット2前方に動かそうとする力が加わっても、飛出防止爪351がスライダ32の移動(切断刃33の飛出し)を阻み、摺動ナイフ付ピンセット1の非使用時における安全性が確保される。
【0083】
また、使用者がレバー352を握ることで、
図17のようにレバー352がピンセット2棒状部材に接近すると、中空パイプ311は飛出防止爪351による拘束から解放される。すると、スライダ32は、復帰位置よりもピンセット2前方に移動可能になる。
このように、必要時には正常なナイフ機能が担保される一方、使用時以外の不要な切断刃33の飛出しが未然防止できる。
【0084】
図17に示した飛出防止機構35のように、使用者が掌で握って操作するレバー352が設けられていると、器具(摺動ナイフ付ピンセット1)全体の大きさに対して、飛出防止機構が大がかりなものになってしまう。
飛出防止機構のサイズを大幅に小型化するために、
図18(a)のように、使用者が指先で操作できるような飛出防止機構(スライド留具35A)を構成することも可能である。
【0085】
図18(b)のように、スライド留具35Aは、飛出防止爪351Aが設けられるとともに、細線状のツマミ355を有している。
飛出防止爪351Aは、中空パイプ311に係合し、スライダ32が復帰位置よりもピンセット前方に移動することを妨げる。
また、ツマミ355は、使用者が指先でつまむことにより、スライド留具35Aをピンセット2内側に押込む方向に動かしたり、ピンセット2の内側から外側へスライド留具35Aを引っ張り出したりすること可能である。
なお、スライド留具35Aは、内部にばねを有する位置保持機構(図示略)に連結されており、使用者によるツマミ355の押込操作または引張操作に応じて、その操作がなされる都度、飛出防止爪351Aが中空パイプ311を解放または拘束する(
図18中に示した矢印参照)。
【0086】
ツマミ355の引張操作により、飛出防止爪351Aが中空パイプ311に係合し、当該パイプ311を拘束している間は、飛出防止爪351Aが切断刃33の飛出しを阻んでいる。そのため、摺動ナイフ付ピンセット1の非使用時における安全性が確保される。
また、ツマミ355の押込操作により、飛出防止爪351Aと中空パイプ311が分離し、同パイプ311が拘束から解放されると、ナイフ機能が利用可能になる。
【0087】
[変形例:防護カバー]
本例では、
図19のように、切断刃33を覆うようなC字型断面を有する防護カバー36を、ピンセット2側面に設けることもできる。
当該カバー36の取付位置は、同
図19のように、スライダ32が復帰位置にあるときの切断刃33のちかくである。
【0088】
スライダ32が復帰位置にある場合、摺動ナイフ付ピンセット1が有する複数機能のうち、ピンセット機能を使うときに該当する。
この場合、使用対象でない切断刃33は防護カバー36に囲まれているので、使用者に対し安全性を確保できる。
また、ナイフ機能の使用時は、
図20のように、防護カバー36の空間内を通り抜けて切断刃33の刃先を露出できるため、ナイフ機能も担保される。
【0089】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が理解し得る各種の変形が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 摺動ナイフ付ピンセット
2 ピンセット
22 誘導溝
31 軸棒
32 スライダ
33 切断刃
23、321 切断刃固定機構
34 スライダ位置復帰機構
35 飛出防止機構
36 防護カバー