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特許7034576電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータの故障検知機構を備えた電動アクチュエータ
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  • 特許-電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータの故障検知機構を備えた電動アクチュエータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータの故障検知機構を備えた電動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 7/116 20060101AFI20220307BHJP
   B64C 13/50 20060101ALI20220307BHJP
   B64D 45/00 20060101ALI20220307BHJP
   F16H 3/66 20060101ALI20220307BHJP
   F16H 3/72 20060101ALI20220307BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20220307BHJP
   H02K 11/20 20160101ALI20220307BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
H02K7/116
B64C13/50
B64D45/00 Z
F16H3/66 A
F16H3/72 A
G01R31/34 A
H02K11/20
H02P5/46 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2016015819
(22)【出願日】2016-01-29
(65)【公開番号】P2016146738
(43)【公開日】2016-08-12
【審査請求日】2018-12-28
【審判番号】
【審判請求日】2020-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2015019344
(32)【優先日】2015-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】安井 努
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】関口 哲生
【審判官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-173627(JP,A)
【文献】特開2009-254114(JP,A)
【文献】特開2005-180924(JP,A)
【文献】特開2006-340423(JP,A)
【文献】特開2007-113874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K7/116
F16H3/66
G01R31/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1モータと、
前記第1モータによって回転される第1太陽歯車と、前記第1太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第1遊星歯車と、前記第1遊星歯車が噛み合う内歯を有し、回転が規制された第1内歯歯車とを含む第1歯車機構と、
第2モータと、
前記第2モータによって回転される第2太陽歯車と、前記第2太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第2遊星歯車と、前記第2遊星歯車が噛み合う内歯を有し、前記第1太陽歯車の軸周りの前記第1遊星歯車の公転に伴って回転する第2内歯歯車とを含む第2歯車機構と、
前記第1歯車機構に基づく回転速度と前記第2歯車機構に基づく回転速度とが加算された速度で回転し、前記第2太陽歯車の軸周りの前記1つ又は複数の第2遊星歯車の公転に伴って回転する出力部と、
前記第1モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する第1センサと、
前記第2モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する第2センサと、
前記第1センサによる第1検知値と前記第2センサによる第2検知値との比較結果に基づいて故障を判定する比較部と、を備え、
前記比較部は、前記第1検知値及び前記第2検知値の少なくとも一方の周期的な変動に基づいて故障を判定し、
前記第1検知値及び前記第2検知値の少なくとも一方において基準との第1偏差が定常的に生じている場合に、前記比較部は、故障寸前の状態であると判定し、前記第1検知値及び前記第2検知値の少なくとも一方において基準との、前記第1偏差より大きな第2偏差が定常的に生じている場合に、前記比較部は、故障が生じていると判定する、
電動アクチュエータの故障検知機構。
【請求項2】
第1モータと、前記第1モータによって回転される第1太陽歯車と、前記第1太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第1遊星歯車と、前記第1遊星歯車が噛み合う内歯を有し、回転が規制された第1内歯歯車とを含む第1歯車機構と、第2モータと、前記第2モータによって回転される第2太陽歯車と、前記第2太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第2遊星歯車と、前記第2遊星歯車が噛み合う内歯を有し、前記第1太陽歯車の軸周りの前記第1遊星歯車の公転に伴って回転する第2内歯歯車とを含む第2歯車機構と、前記第1歯車機構に基づく回転速度と前記第2歯車機構に基づく回転速度とが加算された速度で回転し、前記第2太陽歯車の軸周りの前記1つ又は複数の第2遊星歯車の公転に伴って回転する出力部とを備える電動アクチュエータの故障検知機構において、
前記第1モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する第1センサと、
前記第2モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する第2センサと、
前記第1センサによる第1検知値と前記第2センサによる第2検知値との比較結果に基づいて故障を判定する比較部と、を備え、
前記比較部は、前記第1検知値及び前記第2検知値の少なくとも一方の周期的な変動に基づいて故障を判定し、
前記第1検知値及び前記第2検知値の少なくとも一方において基準との第1偏差が定常的に生じている場合に、前記比較部は、故障寸前の状態であると判定し、前記第1検知値及び前記第2検知値の少なくとも一方において基準との、前記第1偏差より大きな第2偏差が定常的に生じている場合に、前記比較部は、故障が生じていると判定する、
電動アクチュエータの故障検知機構。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電動アクチュエータの故障検知機構を備えた電動アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車機構を備える電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータの故障検知機構を備えた電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
電動アクチュエータは、従来から、種々の機器に用いられている。例えば、航空機の分野に関して、航空機の電気化に伴ってアクチュエータを電動化する技術の方向性が見られる。例えば、ジャッキスクリューを含む電動アクチュエータは、既知である。例えば、特許文献1は、遊星歯車機構を有する電動アクチュエータを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第4578993号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ジャッキスクリューを有する電動アクチュエータに関して、スクリューとギアの間への異物の噛み込みやギアの焼き付きなどによって引き起こされる固着状態(故障状態)であるか、外部負荷と出力が拮抗することによって電動アクチュエータが伸長しない状態であるかを判断することは困難である。したがって、電動アクチュエータが正常であっても、外部負荷によって電動アクチュエータが伸長しない状態が続くと、上位システムは、電動アクチュエータが故障しているという誤検知をすることがある。
【0005】
特許文献1の電動アクチュエータは、一組の遊星歯車と、別組の遊星歯車と、遊星歯車の損傷を検出するボールランプ検出装置と、を備える。しかしながら、特許文献1のボールランプ検出装置は、複数組の遊星歯車のうちの何れの組の遊星歯車において損傷が発生したかを検出することができない。
【0006】
本発明の目的は、電動アクチュエータが備える複数の歯車機構のうちの何れの歯車機構において固着などによる故障が生じているかを検知する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係る電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータは、第1モータと、前記第1モータによって回転される第1太陽歯車と、前記第1太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第1遊星歯車と、前記第1遊星歯車が噛み合う内歯を有し、回転が規制された第1内歯歯車とを含む第1歯車機構と、第2モータと、前記第2モータによって回転される第2太陽歯車と、前記第2太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第2遊星歯車と、前記第2遊星歯車が噛み合う内歯を有し、前記第1太陽歯車の軸周りの前記第1遊星歯車の公転に伴って回転する第2内歯歯車とを含む第2歯車機構と、前記第1歯車機構に基づく回転速度と前記第2歯車機構に基づく回転速度とが加算された速度で回転し、前記第2太陽歯車の軸周りの前記1つ又は複数の第2遊星歯車の公転に伴って回転する出力部と、前記第1モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する第1センサと、前記第2モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する第2センサと、前記第1センサによる第1検知値と前記第2センサによる第2検知値との比較結果に基づいて故障を判定する比較部と、を備える。本発明の他の一局面に係る電動アクチュエータの故障検知機構は、第1モータと、前記第1モータによって回転される第1太陽歯車と、前記第1太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第1遊星歯車と、前記第1遊星歯車が噛み合う内歯を有し、回転が規制された第1内歯歯車とを含む第1歯車機構と、第2モータと、前記第2モータによって回転される第2太陽歯車と、前記第2太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第2遊星歯車と、前記第2遊星歯車が噛み合う内歯を有し、前記第1太陽歯車の軸周りの前記第1遊星歯車の公転に伴って回転する第2内歯歯車とを含む第2歯車機構と、前記第1歯車機構に基づく回転速度と前記第2歯車機構に基づく回転速度とが加算された速度で回転し、前記第2太陽歯車の軸周りの前記1つ又は複数の第2遊星歯車の公転に伴って回転する出力部とを備える電動アクチュエータの故障検知機構において、前記第1モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する第1センサと、前記第2モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する第2センサと、前記第1センサによる第1検知値と前記第2センサによる第2検知値との比較結果に基づいて故障を判定する比較部と、を備える。
【0008】
電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータは、第1モータ側に接続された第1歯車機構と、第2モータ側に接続された第2歯車機構と、を有する。何れの歯車機構にも固着などの故障が生じていない正常時において、出力部は、第1歯車機構に基づく回転速度と第2歯車機構に基づく回転速度とが加算された速度(いわゆる速度サミングされた回転速度)で回転することができる。したがって、本発明では、速度サミングされない従来の歯車機構を備えた電動アクチュエータに比べて、出力部を高速で動作させることができる。
【0009】
速度サミング式の歯車機構を備えた電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータに関して、第1センサは、第1モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する。第2センサは、第2モータを駆動する電流値又はこの電流値と相関する値を検知する。比較部は、第1センサによる第1検知値と第2センサによる第2検知値との間の比較結果に基づいて、故障を判定する。したがって、電動アクチュエータの故障検知機構は、固着(ジャミング)などの故障状態であるか、外部負荷と出力が拮抗することによって電動アクチュエータが動作しない状態であるかの判別を行うことができる。電動アクチュエータの故障検知機構は、誤検知を引き起こしにくい。比較部が、第1センサによる第1検知値と第2センサによる第2検知値との間の比較結果に基づいて故障を判定するので、電動アクチュエータの故障検知機構は、故障が、第1歯車機構及び第2歯車機構のうちの何れの遊星歯車機構に生じているかを検知することができる。
【0010】
上記の速度サミング式の遊星歯車機構を備える電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータに関して、何れの歯車機構にも固着が生じていない正常時においては、2つの検知値の比又は差(すなわち、第1センサによる第1検知値と第2センサによる第2検知値の比又は差)は、第1歯車機構と第2歯車機構によってほぼ一意に決まる。第1歯車機構と第2歯車機構の両方が正常状態である場合には、第1検知値と第2検知値の比又は差は、例えば、歯車、軸受などの効率によって多少変動するけれども、第1歯車機構の減速比と、第2歯車機構の減速比と、によってある程度決まる。したがって、第1検知値と第2検知値の比又は差は、所定の範囲内に収まる。
【0011】
第1歯車機構及び第2歯車機構の何れかにおいて、固着などの故障が生じた場合には、故障状態の歯車機構において、例えば、コントローラなどの制御手段からの回転速度指令と実際の回転速度との間に差が生じる。したがって、コントローラは、故障状態の歯車機構に対応するモータを駆動する電流値を増やし、回転速度を上げようとする制御を行う。一方、正常状態の歯車機構に関して、対応するモータは、コントローラからの回転速度指令通りに動作している。したがって、故障状態における2つの検知値の比(又は差)と、正常状態における2つの検知値の比(又は差)と、の間には差異が生じる。
【0012】
比較部は、第1センサによる第1検知値と第2センサによる第2検知値とを比較した結果に基づいて、固着などの故障の有無を判定することができる。この結果、電動アクチュエータの故障検知機構は、誤検知を引き起こしにくい。加えて、電動アクチュエータの故障検知機構は、第1歯車機構及び第2歯車機構のうちの何れの歯車機構において故障が生じているかを検知することができる。電動アクチュエータの故障検知機構は、速度サミングのために設けられた第1モータと第2モータとを利用し、何れの歯車機構において故障が生じているかを検知することができる。
【0013】
そして、これら上述の電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータに関して、前記比較部は、前記第1検知値及び前記第2検知値の少なくとも一方の周期的な変動に基づいて故障を判定する。したがって、電動アクチュエータの故障検知機構は、例えば、長期にわたる使用下での歯車の疲労や部分的な破損を検知することができる。
【0014】
歯車が有する多数の歯の一部(例えば、1つ又はいくつかの歯)に疲労や破損が発生することがある。疲労や破損が、歯車の一部の歯に発生した場合、異常を有する歯が隣の歯車と噛み合う度に回転時の抵抗に変化が生じる。したがって、異常を有する歯が隣の歯車と噛み合う度に、電流値も変化する。すなわち、疲労や破損が、歯車の一部の歯に発生した場合、第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方は、周期的に変化する。したがって、比較部は、第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方の周期的な変動に基づいて、例えば、疲労や部分的な破損が歯車などに生じているという判定をすることができる。
【0015】
さらに、これら上述の電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータに関して、前記第1検知値及び前記第2検知値の少なくとも一方において基準との第1偏差が定常的に生じている場合に、前記比較部は、故障寸前の状態であると判定し、前記第1検知値及び前記第2検知値の少なくとも一方において基準との、前記第1偏差より大きな第2偏差が定常的に生じている場合に、前記比較部は、故障が生じていると判定する。電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータは、例えば長期にわたる使用下での、故障寸前の状態やモータ能力の低下を検知することができる。
【0016】
電動アクチュエータの駆動源として用いられるモータの磁気回路は、長期にわたる過酷な使用下で発生する熱によって、蓄積的に損傷を受ける。この結果、モータは、定格能力を維持できなくなる。モータの能力が低下した場合、第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方に関する基準との偏差が定常的に生じることになる。したがって、第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方において基準との偏差が定常的に生じている場合に、比較部は、モータの能力が低下した故障が発生したことを判定することができる。
【0017】
前記電動アクチュエータの故障検知機構および電動アクチュエータに関して、前記第1歯車機構は、前記第1モータによって回転する第1太陽歯車と、前記第1太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第1遊星歯車と、前記第1遊星歯車が噛み合う内歯を有し、回転が規制された第1内歯歯車と、を備えてもよい。前記第2歯車機構は、前記第2モータによって回転する第2太陽歯車と、前記第2太陽歯車に噛み合う1つ又は複数の第2遊星歯車と、前記第2遊星歯車が噛み合う内歯を有し、前記第1遊星歯車が前記第1太陽歯車の軸周りに公転するのに伴って回転する第2内歯歯車と、を備えてもよい。前記出力部は、前記第2遊星歯車が前記第2太陽歯車の軸周りに公転するのに伴って回転してもよい。
【0018】
上述の構成によれば、第1内歯歯車の回転が規制されている。第2内歯歯車は、第1内歯歯車の内歯に噛み合う第1遊星歯車の公転に伴って回転する。したがって、何れか一方の歯車機構に生じた固着が、遊星歯車の軸周りの回転を不能にしても、電動アクチュエータは、タイムラグをほとんど生じさせることなく、出力部を継続的に回転させることができる。この結果、電動アクチュエータは、高い信頼性を有することができる。
【0019】
第1遊星歯車は、回転が規制された第1内歯歯車の内歯に噛み合っている。したがって、固着が、第1遊星歯車の軸周りの回転を不能にすると、第1太陽歯車の軸周りを公転も生じない。この結果、第2内歯歯車も、回転しない。その一方で、固着が生じていない第2遊星歯車は、第2太陽歯車の軸周りの公転を許容するので、第2太陽歯車の公転に伴う出力部の回転は、継続的に可能である。すなわち、第1遊星歯車の固着が生じた直後であっても、出力部は、第1遊星歯車の固着に邪魔されることなく、且つ、タイムラグをほとんど生じさせることなく、継続的に回転することができる。
【0020】
固着が、第2遊星歯車の軸周りの回転を不能にした場合、複数の第2遊星歯車は、それぞれの軸周りに回転しながら第2太陽歯車の軸周りを公転することはできなくなる。しかしながら、第2遊星歯車は、第2太陽歯車との噛み合い位置及び第2内歯歯車との噛み合い位置を変えることなく、第2内歯歯車を引き連れて第2太陽歯車の軸周りを公転することはできる。したがって、出力部は、第2遊星歯車の公転に伴う回転を継続することができる。すなわち、第2遊星歯車の固着が生じた直後であっても、出力部は、第2遊星歯車の固着に邪魔されることなく、且つ、タイムラグをほとんど生じさせることなく、継続的に回転することができる。
【0021】
何れの歯車機構にも固着が生じていない正常時において、第1モータによって与えられる動力は、第1太陽歯車、第1遊星歯車及び第2内歯歯車の順に伝達される。この結果、第2内歯歯車は、回転することができる。このとき、第2内歯歯車の内歯に噛み合う第2遊星歯車は、第2内歯歯車の回転に伴って、第2内歯歯車に引き連れられて第2太陽歯車の軸周りを公転することになる。一方、第2モータによって与えられる動力は、第2太陽歯車及び第2遊星歯車の順に伝達される。この結果、第2遊星歯車は、第2遊星歯車の軸周りに自転し、且つ、第2太陽歯車の軸周りに公転することができる。すなわち、第2遊星歯車は、第1モータによる第2内歯歯車の回転に伴う公転の速度及び第2モータによる公転の速度が足し合わされた回転速度(いわゆる速度サミングされた回転速度)で回転することが可能になる。第2遊星歯車の公転に伴って回転する出力部は、速度サミングされた回転速度で回転することになるので、速度サミングされていない従来の構成に比べて、出力部は、高速で動作することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の故障検知機構は、電動アクチュエータが備える複数の歯車機構のうちの何れの歯車機構において固着などによる故障が生じているかを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】例示的な電動アクチュエータの故障検知機構を示す概略構成図である。
図2】例示的な電動アクチュエータを示す正面図である。
図3】取付対象機器に固定された電動アクチュエータの側面図である。
図4】例示的な電動アクチュエータの故障検知機構の制御例1を示すフローチャートである。
図5】例示的な電動アクチュエータの故障検知機構の制御例2を示すフローチャートである。
図6】例示的な電動アクチュエータの故障検知機構の制御例3を示すフローチャートである。
図7】例示的な電動アクチュエータを示す斜視図である。
図8】例示的な電動アクチュエータの歯車の構成を示す分解立体図である。
図9】例示的な電動アクチュエータの動力伝達図である。
図10】別の例示的な電動アクチュエータの故障検知機構を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[故障検知機構]
例示的な電動アクチュエータ1の故障検知機構100が、図面を参照して、以下に説明される。図1に示されるように、本実施形態の故障検知機構100は、電動アクチュエータ1と、電動アクチュエータ1の動作を制御するコントローラ51と、を備える。図1及び図2に示されるように、電動アクチュエータ1は、第1モータ11と、第2モータ21と、第1モータ11側に接続された第1遊星歯車機構10(第1歯車機構)と、第2モータ21側に接続された第2遊星歯車機構20(第2歯車機構)と、出力部30と、ケース40(図2を参照)と、を備える。
【0026】
本実施形態の故障検知機構100は、電動アクチュエータ1が故障状態であるか、外部負荷と出力が拮抗することによって電動アクチュエータ1が動作しない状態であるかの判別を行うことができる。電動アクチュエータ1の遊星歯車機構において生じる固着(ジャミング)は、故障として例示される。しかしながら、故障の原因は、固着に限られない。例えば、固着は、遊星歯車機構への異物の噛み込みや遊星歯車機構における焼き付きなどによって発生することもある。しかしながら、固着の発生原因は、これらに限られない。
【0027】
図3に示されるように、電動アクチュエータ1は、取付対象機器2に設けられる。取付対象機器2は、機器本体3と、動作部材4と、を備える。電動アクチュエータ1は、動作部材4を、機器本体3に対して相対移動させることができる。例えば、ケース40が機器本体3に取り付けられる一方で、出力部30は、動作部材4に取り付けられる。出力部30が、ケース40に対して相対移動すると、動作部材4は、機器本体3に対して相対移動する。
【0028】
本実施形態に関して、取付対象機器2は、飛行機やヘリコプターなどの航空機である。機器本体3は、翼本体である。動作部材4は、舵面稼働部(動翼)である。動作部材4は、動作部材4の表面の少なくとも一部を形成する舵面5を有する。この場合、出力部30が、ケース40に対して相対移動すると、翼本体(機器本体3)に対する舵面稼働部(動作部材4)の舵面5の角度は、変更される。動作部材4は、電動アクチュエータ1の出力部30だけでなく、それ以外のところでも機体の構造部分と結合されてもよい。
【0029】
第1モータ11及び第2モータ21のそれぞれは、電流の供給下で回転方向の駆動力を発生させる駆動源として設けられた電動モータである。第1モータ11及び第2モータ21の一方又は両方は、回転方向を反転可能(正逆回転可能)である。コントローラ51からの指令に基づくフィードバック制御は、第1モータ11及び第2モータ21の一方又は両方に対して行われる。各モータは、ハウジング内に設けられたステータ(図示せず)やロータ(図示せず)などを備える。
【0030】
出力部30は、第1遊星歯車機構10に基づく回転速度と第2遊星歯車機構20に基づく回転速度とが加算された速度(いわゆる速度サミングされた回転速度)で回転することができる。
【0031】
本実施形態の故障検知機構100は、種々のセンサを備える。コントローラ51は、これらのセンサによる検知値に基づいて、電動アクチュエータ1を制御する。故障検知機構100は、位置センサ60(角度センサ)と、第1速度センサ61と、第2速度センサ62と、第1センサ71と、第2センサ72と、を備える。これらのセンサは、電動アクチュエータ1に設けられていてもよく、コントローラ51に設けられていてもよく、或いは、上位システム50に設けられていてもよい。
【0032】
位置センサ60は、出力部30の位置を検知する。例えば、角度センサ(回転角センサ)などは、位置センサ60として好適に用いられる。角度センサは、回転する物体と回転しない物体との間の回転の差分を検出することができる。本実施形態に関して、角度センサは、例えば、回転する出力部30とケース40(図2を参照)などの回転しない物体との間の回転の差分を検出する。例えば、レゾルバ、ロータリーエンコーダなどのセンサは、角度センサとして例示される。代替的に、他のセンサ装置が角度センサとして用いられてもよい。本実施形態の原理は、角度センサとして用いられる特定の装置に限定されない。位置センサ60からの位置信号(角度信号)は、コントローラ51に入力される。
【0033】
第1速度センサ61は、第1モータ11の回転速度(回転数)を検知する。第2速度センサ62は、第2モータ12の回転速度(回転数)を検知する。第1速度センサ61は、第1モータ11に取り付けられる。第2速度センサ62は、第2モータ21に取り付けられる。これらの速度センサからの速度信号は、コントローラ51に入力される。
【0034】
第1センサ71は、第1モータ11を駆動する電流の値又はこの電流値と相関する値を検知する。第1モータ11を駆動する電流の値と相関する値は、例えば、その相関値から第1モータ11を駆動する電流値を算出できるような値であればよい。本実施形態の原理は、特定の相関値に限定されない。例えば、第1モータ11に印加される電圧の値や第1モータ11のシャフト11などのひずみ量などは、相関値として例示される。本実施形態に関して、第1センサ71は、第1モータ11を駆動する電流の電流値を測定する電流センサである。代替的に、第1センサ71は、例えば、第1モータ11に印加される電圧の電圧値を測定する電圧センサであってもよい。更に、第1モータ11のシャフト11などに設けられ、その部位のひずみ量を測定するひずみセンサであってもよい。本実施形態の原理は、第1センサ71として用いられる特定のセンサ装置に限定されない。
【0035】
第2センサ72は、第2モータ21を駆動する電流の値又はこの電流値と相関する値を検知する。第2モータ21を駆動する電流値と相関する値は、例えば、その相関値から第2モータ21を駆動する電流値を算出できるような値であればよい。本実施形態の原理は、特定の相関値に限定されない。例えば、第2モータ21に印加される電圧の値や第2モータ21のシャフト21などのひずみ量などは、相関値として例示される。本実施形態に関して、第2センサ72は、第2モータ21を駆動する電流の電流値を測定する電流センサである。代替的に、第2センサ72は、例えば、第2モータ21に印加される電圧の電圧値を測定する電圧センサであってもよい。更に、第2モータ21のシャフト21などに設けられ、その部位のひずみ量を測定するひずみセンサであってもよい。本実施形態の原理は、第2センサ72として用いられる特定のセンサ装置に限定されない。
【0036】
図1に示される第1センサ71は、第1モータ11と第1ドライバ54とを接続する駆動線56を流れる電流の電流値を検知する。第2センサ72は、第2モータ21と第2ドライバ55とを接続する駆動線57を流れる電流の電流値を検知する。検知された第1検知値及び第2検知値は、比較部53に入力される。第1モータ11には、動力源から駆動線56を介して電圧が印加される。第2モータ21には、動力源から駆動線57を介して電圧が印加される。
【0037】
図1に示されるように、コントローラ51は、演算部(演算器)52と、比較部(比較器)53と、第1ドライバ54と、第2ドライバ55と、フィードバックループと、を備える。例えば、フィードバックループは、位置センサ60(図9を参照:角度センサ)の指示値と、上位システム50からの指令値と、の間の差を用いてもよい。コントローラ51は、上位システム50や各種センサなどから入力される信号に基づいて、第1モータ11及び第2モータ21の回転を制御する。本実施形態に関して、第1センサ71及び第2センサ72は、コントローラ51に設けられる。代替的に、第1センサ71及び第2センサ72は、他の部位に設けられてもよい。本実施形態の原理は、第1センサ71及び第2センサ72の特定の配置位置に限定されない。
【0038】
コントローラ51及び上位システム50のそれぞれは、中央演算処理装置(CPU)、メモリ、インターフェースなどを備える。例えば、CPUが、メモリに記憶されたそれぞれのプログラムを実行すると、演算部52、比較部53、第1ドライバ54及び第2ドライバ55は、機能する。
【0039】
コントローラ51は、電動アクチュエータ1に設けられていてもよい。例えば、航空機などの上位システム50に設けられていてもよい。例えば、図3に示される取付対象機器2に設けられた制御システムは、上位システム50として例示される。代替的に、他の制御システムが、上位システム50として用いられてもよい。図1及び図7に示される上位システム50は、フライトコントロールシステム(FCS)である。
【0040】
演算部52は、フィードバック回路を有する。フィードバック回路は、位置センサ60から入力される出力部30の回転角検出値と、上位システム50から送信される出力部30の角度指令と、を比較し、第1ドライバ54に第1モータ11の回転速度指令を出すだけでなく、第2ドライバ55に第2モータ21の回転速度指令を出す。ケース40に対する出力部30の相対位置は、演算部52のフィードバック回路によって制御される。
【0041】
第1ドライバ54及び第2ドライバ55のそれぞれは、演算部52からの指令に基づいて、動力源からモータに印加される電圧によりモータの回転数を制御する。この結果、第1ドライバ54及び第2ドライバ55のそれぞれは、電動アクチュエータ1の動作を制御することができる。
【0042】
第1ドライバ54は、演算部52からの回転速度指令に基づいて、第1モータ11に印加される電圧を制御する。第1ドライバ54は、第1速度センサ61により検出される速度信号(回転数信号)と演算部52からの回転速度指令との間の差に基づいて、第1モータ11を制御するフィードバック回路を有する。第1モータ11の回転数は、第1ドライバ54のフィードバック回路によって制御される。
【0043】
第2ドライバ55は、演算部52からの回転速度指令に基づいて、第2モータ21に印加される電圧を制御する。第2ドライバ55は、第2速度センサ62により検出される速度信号(回転数信号)と演算部52からの回転速度指令との間の差に基づいて第2モータ21を制御するフィードバック回路を有する。第2モータ21の回転数は、第2ドライバ55のフィードバック回路によって制御される。
【0044】
第1ドライバ54及び第2ドライバ55は、動力源からの電力を用いて、第1モータ11及び第2モータ21を駆動する。様々な装置が、駆動源として用いられてもよい。本実施形態の原理は、駆動源として用いられる特定の装置に限定されない。図1に示される例に関して、エンジン6を利用した発電装置6Aが、動力源として用いられる。例えば、エンジン6を利用した発電装置6A以外の他の発電機などの補助的な動力源が用いられてもよい。
【0045】
比較部53は、電動アクチュエータ1の故障を判定するために設けられる。第1センサ71による第1検知値(本実施形態では電流値信号)及び第2センサ72による第2検知値(本実施形態では電流値信号)は、比較部53に入力される。比較部53は、第1検知値及び第2検知値に基づいて、電動アクチュエータ1に故障が生じているか否かを判定する。比較部53は、何れかの遊星歯車機構が故障状態であると判定すると、比較部53は、演算部52に故障信号を送る。演算部52は、上位システム50に故障信号を適時に送る。
【0046】
[故障検知機構の制御例]
本実施形態に係る故障検知機構100の例示的な制御が説明される。故障検知機構100の制御の原理は、以下の具体例に限定されない。
【0047】
(制御例1)
図4は、本実施形態に係る故障検知機構100の制御例1を示すフローチャートである。制御例1に関して、比較部53は、第1センサ71による第1検知値と第2センサ72による第2検知値とを比較した結果に基づいて、故障を検知する。
【0048】
図4に示される制御例1に関して、何れの遊星歯車機構にも固着が生じていない正常時には、コントローラ51は、上位システム50や各種センサなどから入力される信号に基づいて、第1ドライバ54及び第2ドライバ55を介して、第1モータ11及び第2モータ21を制御する(ステップS1)。
【0049】
次に、コントローラ51の比較部53は、第1センサ71による第1検知値と第2センサ72による第2検知値とを比較する。比較部53は、比較結果に基づいて、何れかの遊星歯車機構において固着などの故障が発生しているか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2において比較部53は、例えば、以下の如く、故障の判定を行うことができる。
【0050】
電動アクチュエータ1の遊星歯車機構の何れにも固着が生じていない正常時には、2つの電流値の比(すなわち、第1センサ71による第1検知値と第2センサ72による第2検知値の比)は、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20とによりほぼ一意に決まる。第1検知値と第2検知値の比は、例えば、歯車や軸受などの効率によって多少変動する。しかしながら、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20の両方が正常状態である場合には、第1検知値と第2検知値の比は、第1遊星歯車機構10の減速比と、第2遊星歯車機構20の減速比と、によってある程度決まり、所定の範囲内に収まる。
【0051】
一方、固着などの故障が、第1遊星歯車機構10及び第2遊星歯車機構20の何れかに生じた場合には、実際の回転速度が低下するため、故障状態の遊星歯車機構の演算部52からの回転速度指令と実際の回転速度との間に差が生じる。したがって、第1ドライバ54又は第2ドライバ55は、故障状態の遊星歯車機構に対応するモータを駆動する電圧を高めて回転速度を上げようとする制御を行う。電圧が高められると、その結果として電流値が増加する。一方、正常状態の遊星歯車機構に関して、対応するドライバにより制御されるモータは、演算部52からの回転速度指令通りに動作しているので、検知値の電流値に変化はない。この結果、故障状態における2つの検知値(電流値)の比と、正常状態における2つの検知値(電流値)の比と、の間には差が生じる。
【0052】
したがって、比較部53が、第1検知値と第2検知値とを比較し、その比較結果が判定基準から逸脱したときには、比較部53は、電動アクチュエータ1が故障状態であると判定することができる。
【0053】
上述の如く、ステップS2において、比較部53が、第1検知値と第2検知値との間の比較結果に基づいて故障が発生しているか否かを判定するとき、2つの電流値の比(第1検知値と第2検知値の比)が用いられる。代替的に、比較部53は、ステップS2において、他の判定手法を用いてもよい。ステップS2においては、例えば、比較部53が第1検知値と第2検知値との比較結果に基づいて故障が発生しているか否かを判定するときに、2つの電流値の差(第1検知値と第2検知値の差)が用いられてもよい。
【0054】
例えば、予め設定された値又は範囲、必要に応じてその都度選択される値又は範囲、必要に応じて演算されて得られる値又は範囲などは、上述の判定基準として、好適に利用可能である。代替的に、他の判断基準が用いられてもよい。判定基準は、例えば、正常状態において2つの検知値の比(又は差)が収まる前記所定の範囲に設定されてもよい。このような判定基準としての前記所定の範囲は、第1検知値と第2検知値の比(又は差)に基づく故障状態の判定がなされるように、例えば、実験やシミュレーションなどの手法を用いて予め設定されてもよい。
【0055】
第1検知値と第2検知値の比(又は差)が、上述の判定基準(すなわち、正常範囲)を逸脱しているときには(ステップS2においてYes)、比較部53は、演算部52に故障信号を送信する(ステップS3)。故障信号を受けた演算部52は、上位システム50に故障信号を適時に送信する(ステップS4)。
【0056】
故障信号を受けた上位システム50は、例えば、ユーザーに対して故障が発生していることを報知する。この結果、ユーザーは、故障が発生していることを知ることができる。したがって、ユーザーは、その後、適切な処置をとることができる。例えば、ユーザーの視覚によって確認可能なディスプレーなどの表示装置に故障発生の表示をすることやユーザーの聴覚によって確認可能なブザーなどの音響装置によって音を発することは、報知方法として適切である。代替的に、故障の発生をユーザーに知らせる他の技術が用いられてもよい。本実施形態の原理は、故障の発生をユーザーに知らせるための特定の技術に限定されない。
【0057】
ステップS2において、比較部53が、故障が生じていないと判定した場合には(ステップS2においてNo)、コントローラ51は、モータの制御を継続する(ステップS1)。
【0058】
(制御例2)
図5は、本実施形態に係る故障検知機構100の制御例2を示すフローチャートである。制御例2に関し、比較部53は、第1センサ71による第1検知値及び第2センサ72による第2検知値の少なくとも一方における周期的な変動に基づいて故障を検知する。
【0059】
図5に示される制御例2に関し、何れの遊星歯車機構にも固着が生じていない正常時には、コントローラ51は、上位システム50や各種センサなどから入力される信号に基づいて、第1ドライバ54及び第2ドライバ55を介して、第1モータ11及び第2モータ21を制御する(ステップS11)。
【0060】
次に、コントローラ51の比較部53は、第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方の周期的な変動が生じているか否かを判定する(ステップS12)。ステップS12において比較部53は、例えば、以下の如く、故障の判定を行うことができる。
【0061】
電動アクチュエータ1の遊星歯車機構10,20に関して、歯車が有する多数の歯の一部(例えば、1つ又はいくつかの歯)に疲労や破損が発生することがある。疲労や破損が、回転下の歯車の一部の歯に発生すると、異常を有する歯が隣の歯車と噛み合う度に回転時の抵抗に変化が生ずる。この結果、異常を有する歯が隣の歯車と噛み合う度に、電流値(第1検知値、第2検知値)も変化する。すなわち、第1遊星歯車機構10の歯車の一部の歯に疲労や破損が発生した場合には、第1検知値が周期的に変化する。第2遊星歯車機構20の歯車の一部の歯に疲労や破損が発生した場合には、第2検知値が周期的に変化する。
【0062】
したがって、比較部53は、第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方における周期的な変動に基づいて、例えば、歯車などに生じることのある疲労や部分的な破損を検知することができる。第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方の周期的な変動が生じているときには(ステップS12においてYes)、比較部53は、故障信号や整備要求の信号などを、演算部52に送信する(ステップS13)。故障信号を受けた演算部52は、上位システム50に故障信号や整備要求の信号などを適時に送信する(ステップS14)。
【0063】
故障信号を受けた上位システム50は、例えば、ユーザーに対して、故障が発生していることや整備が必要なことなどを報知する。この結果、ユーザーは、故障が発生していること、整備が必要なことなどを知ることができる。したがって、ユーザーは、その後、適切な処置をとることができる。
【0064】
ステップS12において、比較部53が、故障が生じていないと判定した場合には(ステップS12においてNo)、コントローラ51は、モータの制御を継続する(ステップS11)。
【0065】
(制御例3)
図6は、本実施形態に係る故障検知機構100の制御例3を示すフローチャートである。制御例3に関して、第1センサ71による第1検知値及び第2センサ72による第2検知値の少なくとも一方において基準との偏差が定常的に生じているならば、比較部53は、故障が生じていると判定する。制御例3に関して、比較部53は、例えば、長期にわたる使用下で、モータに生じることのある能力の低下を検知することができる。
【0066】
図6に示される制御例3に関して、何れの遊星歯車機構にも固着が生じていない正常時には、コントローラ51は、上位システム50や各種センサなどから入力される信号に基づいて、第1ドライバ54及び第2ドライバ55を介して、第1モータ11及び第2モータ21を制御する(ステップS21)。
【0067】
次に、コントローラ51の比較部53は、第1検知値及び第2検知値において基準との偏差が定常的に生じているか否かを判定する(ステップS22)。ステップS22において、比較部53は、例えば、以下の如く、故障の判定を行うことができる。
【0068】
長期にわたる過酷な使用下で発生する熱は、電動アクチュエータ1の動力源である第1モータ11及び第2モータ21のそれぞれの磁気回路の損傷の蓄積に帰結する。この結果、第1モータ11及び第2モータ21のそれぞれは、定格能力を維持できなくなる。第1モータ11の能力が低下した場合、第1検知値に関する基準からの偏差が定常的に生じることになる。また、第2モータ21の能力が低下した場合、第2検知値に関する基準からの偏差が定常的に生じることになる。モータの定格能力は、このような基準として例示される。代替的に、他の基準が用いられてもよい。
【0069】
例えば、初期(使用前)における第1検知値と第2検知値との比又は差(初期値)は、他の基準として用いられてもよい。すなわち、長期の使用後における第1検知値と第2検知値との比又は差が、初期値と比較されるならば、比較部53は、初期値からの偏差が定常的に生じているか否かを判定することができる。したがって、比較部53は、故障の判定を適切に行うことができる。
【0070】
制御例3に関し、基準からの小さな偏差が定常的に生じている場合には、比較部53は、第1モータ11及び第2モータ21のうち少なくとも一方が故障寸前の状態であると判断することもできる。一方、基準からの大きな偏差が急に発現した場合には、比較部53は、制御例1に関連して説明された如く、固着や機械故障が発生したと判定することもできる。
【0071】
したがって、第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方において基準との偏差が定常的に生じている場合に、制御例3の比較部53は、モータの能力が低下した故障であると判定することができる。制御例3のステップS22において、第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方に関して、基準からの偏差が予め定められた範囲を超える状態が定常的に生じている場合に、比較部53は、モータの能力が低下した故障であると判定してもよい。
【0072】
第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方に関して、基準からの偏差が定常的に生じている場合には(ステップS22においてYes)、比較部53は、演算部52に故障信号や整備要求の信号などを送信する(ステップS23)。故障信号を受けた演算部52は、上位システム50に、故障信号や整備要求の信号などを適時に送信する(ステップS24)。
【0073】
故障信号を受けた上位システム50は、例えば、ユーザーに対して故障が発生していることや整備が必要なことなどを報知する。この結果、ユーザーは、故障が発生していることや整備が必要なことなどを知ることができる。したがって、ユーザーは、その後、適切な処置をとることができる。
【0074】
ステップS22において比較部53が、故障が生じていないと判定した場合には(ステップS22においてNo)、コントローラ51は、モータの制御を継続する(ステップS21)。
【0075】
[電動アクチュエータの詳細構造]
電動アクチュエータ1の構造が、詳細に説明される。故障検知機構100に用いられる電動アクチュエータ1は、以下に示される具体的な構造に限定されない。図7は、電動アクチュエータ1を示す斜視図である。図7に示されるケース40の一部は、破断され、電動アクチュエータ1の内部構造が示されている。図8は、電動アクチュエータ1の歯車の構造を示す分解立体図である。図9は、電動アクチュエータ1の動力伝達図である。
【0076】
上述の如く、電動アクチュエータ1は、第1遊星歯車機構10だけでなく、第2遊星歯車機構20を備える。したがって、電動アクチュエータ1は、2つの動力伝達経路を有する。電動アクチュエータ1の何れか一方の遊星歯車機構において固着(ジャミング)が生じ、遊星歯車がその軸周りに回転不可能となった場合であっても、電動アクチュエータ1は、タイムラグをほとんど生じさせることなく、出力部30を継続的に回転させることができる。したがって、電動アクチュエータ1全体としての固着は、生じにくい。
【0077】
ケース40は、第1モータ11、第2モータ21、第1遊星歯車機構10及び第2遊星歯車機構20が一体的に連結された構造を保持する。本実施形態に関し、ケース40は、電動アクチュエータ1の外面を形成する。
【0078】
本実施形態のケース40は、第1部分41と、第2部分42と、連結部材43,44と、を含む。第1部分41、第2部分42及び連結部材43,44は、第1モータ11と第2モータ21との間において、モータの軸方向に沿って整列される。第1部分41及び第2部分42は、第1遊星歯車機構10及び第2遊星歯車機構20が収容される収容空間を形成する。連結部材43は、第1モータ11と第1部分41との間に介在し、第1モータ11を第1部分41に連結する。連結部材44は、第2モータ21と第2部分42との間に介在し、第2モータ21を第2部分42に連結する。本実施形態に関して、第1部分41と第2部分42は、単一の部材によって形成される。代替的に、第1部分41は、第2部分42とは別異の部材によって形成されてもよい。設計者は、連結部材43,44を省略してもよい。この場合には、第1部分41は、第1モータ11に直接連結される一方で、第2部分42は、第2モータ21に直接的に連結される。
【0079】
複数のブラケット(クレビス)45,46は、ケース40に設けられる。複数のブラケット(クレビス)45,46は、電動アクチュエータ1を取付対象機器2の機器本体3に固定するために用いられる。本実施形態の複数のブラケット45,46は、ケース40の側面から同じ方向に突出する。ブラケット45,46は、固定部材(例えば、ボルト)が挿通される挿通孔を有する。図3に示される例に関して、ブラケット45,46は、機器本体3に設けられたブラケット3Aに固定される。単一のブラケットのみが、ケース40に設けられてもよい。
【0080】
[遊星歯車機構]
第1遊星歯車機構10は、第1モータ11の出力側に設けられた減速機構である。第2遊星歯車機構20は、第2モータ21の出力側に設けられた減速機構である。図7乃至図9に示されるように、第1遊星歯車機構10は、第1太陽歯車12と、複数の第1遊星歯車13と、第1内歯歯車14(リングギア14)と、を備える。第2遊星歯車機構20は、第2太陽歯車22と、複数の第2遊星歯車23と、第2内歯歯車24(リングギア24)と、を備える。図8及び図9に示されるように、本実施形態の第1太陽歯車12、第2太陽歯車22、第1内歯歯車14、第2内歯歯車24及び出力部30のそれぞれの軸A0(回転軸A0)は、一致し、同一線上に位置している。
【0081】
本実施形態に関し、第1遊星歯車機構10は、小歯車15及び小歯車15よりも径の大きな大歯車16を介して、第1モータ11に接続される。第2遊星歯車機構20は、小歯車25及び小歯車25よりも径の大きな大歯車26を介して、第2モータ21に接続されている。
【0082】
第1モータ11のシャフト11S(図9を参照)は、小歯車15に設けられた貫通孔15Cに挿通される。スプラインは、シャフト11Sの外側面に形成される。溝は、小歯車15に設けられた貫通孔15Cの内側面に形成される。スプラインは、溝に噛み合う。小歯車15の外側面に形成された外歯15Gは、大歯車16の外側面に形成された外歯16Gと噛み合う。
【0083】
第2モータ21のシャフト21S(図9を参照)は、小歯車25に設けられた貫通孔に挿通される。スプラインは、シャフト21Sの外側面に形成される。溝は、小歯車25に設けられた貫通孔の内側面に形成される。スプラインは、溝に噛み合う。小歯車25の外側面に形成された外歯25Gは、大歯車26の外側面に形成された外歯26Gと噛み合う。
【0084】
第1太陽歯車12の一端部は、大歯車16の中心に形成された貫通孔に挿通され、第1太陽歯車12は、大歯車16と一体化される。この結果、第1太陽歯車12は、大歯車16の回転に伴って回転する。したがって、第1モータ11のシャフト11Sの回転は、小歯車15及び大歯車16に伝達され、その後、第1太陽歯車12に伝達される。すなわち、第1太陽歯車12は、第1モータ11によって回転される。
【0085】
第2太陽歯車22の一端部は、大歯車26の中心に形成された貫通孔に挿通され、第2太陽歯車22は、大歯車26と一体化される。この結果、第2太陽歯車22は、大歯車26の回転に伴って回転する。したがって、第2モータ21のシャフト21Sの回転は、小歯車25及び大歯車26に伝達され、その後、第2太陽歯車22に伝達される。すなわち、第2太陽歯車22は、第2モータ21によって回転される。
【0086】
設計者は、第1遊星歯車機構10側において小歯車15及び大歯車16を省略してもよい。この場合には、第1モータ11のシャフト11Sは、第1太陽歯車12に直接的に接続される。同様に、設計者は、第2遊星歯車機構20側において小歯車25及び大歯車26を省略してもよい。この場合には、第2モータ21のシャフト21Sは、第2太陽歯車22に直接的に接続される。
【0087】
複数の第1遊星歯車13のそれぞれは、自身の軸周りに自転し、且つ、第1太陽歯車12の軸A0周りを公転する。本実施形態に関して、第1遊星歯車機構10は、2つの第1遊星歯車13を備える。代替的に、第1遊星歯車機構10は、3つ以上の第1遊星歯車13を備えてもよい。各第1遊星歯車13の外周面に形成された外歯13Gは、第1太陽歯車12の外周面に形成された外歯12Gに噛み合う。
【0088】
複数の第2遊星歯車23のそれぞれは、自身の軸周りに自転し、且つ、第2太陽歯車22の軸A0周りを公転する。本実施形態に関して、第2遊星歯車機構20は、2つの第2遊星歯車23を備える。代替的に、第2遊星歯車機構20は、3つ以上の第2遊星歯車23を備えてもよい。各第2遊星歯車23の外周面に形成された外歯23Gは、第2太陽歯車22の外周面に形成された外歯22Gに噛み合う。
【0089】
図8に示される第1内歯歯車14は、複数の遊星歯車13の外側に配置される。本実施形態に関し、第1内歯歯車14は、複数の遊星歯車13の周りを囲む略円筒形状を有し、軸方向の両側が開口している。第1内歯歯車14の内周面には、複数の遊星歯車13の外歯13Gに噛み合う内歯14Gが形成される。
【0090】
ケース40に対する第1内歯歯車14の回転は、規制される。言い換えると、第1内歯歯車14は、ケース40に対して相対回転しない。
【0091】
第1内歯歯車14は、円筒形状の歯車本体と、歯車本体の側面から径方向外側に突出した突出片とを備える。ケース40の第1部分41には、第1内歯歯車14の突出片が配置される凹部が形成される。凹部は、突出片の形状に沿った内側面を有する。突出片が、凹部内に配置されると、第1内歯歯車14の周方向の動きが規制される。この結果、ケース40に対する第1内歯歯車14の回転は、規制される。
【0092】
図8に示される第2内歯歯車24は、複数の遊星歯車23と噛み合い、複数の遊星歯車23に対して相対回転する。本実施形態に関して、第2内歯歯車24は、歯車本体24Aとキャリア24Bと、を備える。
【0093】
歯車本体24Aは、複数の遊星歯車23の外側に配置される。歯車本体24Aは、複数の遊星歯車23の周りを囲む略円筒形状を有する。歯車本体24Aは、第1内歯歯車14側とは反対側において開口している。歯車本体24Aの内周面には、複数の遊星歯車23の外歯に噛み合う内歯24Gが形成される。
【0094】
キャリア24Bは、歯車本体24Aと第1内歯歯車14との間に設けられる。キャリア24Bは、歯車本体24Aから第1内歯歯車14側に延びる略円柱形状を有する。キャリア24Bは、複数の第1遊星歯車13の公転を第2内歯歯車24の歯車本体24Aに伝達する。
【0095】
第1太陽歯車12の一端部12A、各第1遊星歯車13の一端部13A、第2太陽歯車22の一端部22A及び各第2遊星歯車23の一端部23Aは、キャリア24Bに配置される。キャリア24Bは、軸受配置部241と、軸受配置部242と、軸受配置部243と、を有する。
【0096】
軸受配置部241は、第1太陽歯車12及び第2太陽歯車22の軸A0上に設けられる。第1太陽歯車12の一端部12Aを支持する軸受B1及び第2太陽歯車22の一端部22Aを支持する軸受B2は、軸受配置部241に配置される。本実施形態に関し、軸受配置部241は、キャリア24Bを軸A0方向に貫通する貫通孔によって形成される。代替的に、軸受配置部241において軸受B1が配置される部分は、軸受配置部241において軸受B2が配置される部分とは連通していなくてもよい。
【0097】
軸受(図示せず)は、第1太陽歯車12の他端部(大歯車16側の第1太陽歯車12の端部)に設けられる。軸受B1及び第1太陽歯車12の他端部に設けられた軸受は、第1太陽歯車12を、支持し、軸A0周りの回転を許容する。軸受B6は、第2太陽歯車22の他端部22B(大歯車26側の第2太陽歯車22の端部22B)に設けられる。軸受B6及び軸受B2は、第2太陽歯車22を支持し、軸A0周りの第2太陽歯車22の回転を許容する。
【0098】
軸受配置部242は、複数の第1遊星歯車13のそれぞれの軸上に設けられる。対応する第1遊星歯車13の一端部13Aを支持する軸受B3は、軸受配置部242に配置される。本実施形態に関し、軸受配置部242は、キャリア24Bの第1遊星歯車13側の端面から軸方向に凹む凹部によって形成される。代替的に、軸受配置部242は、他の構造及び/又は形状を有してもよい。
【0099】
軸受は、各第1遊星歯車13の他端部(大歯車16側の各第1遊星歯車13の端部)に設けられる。軸受B3及び各第1遊星歯車13の他端部に設けられる軸受は、各第1遊星歯車13を支持し、各第1遊星歯車13の軸周りにおける各第1遊星歯車13の自転を許容する。
【0100】
軸受B3は、軸受配置部242(凹部242)に嵌合される。したがって、キャリア24Bに対するキャリア24Bの周方向への軸受B3の移動は、規制される。複数の第1遊星歯車13が、第1太陽歯車12の軸A0周りに公転すると、キャリア24Bも、複数の第1遊星歯車13の公転に連動して、軸A0周りに回転する。キャリア24Bは、歯車本体24Aと一体的である。したがって、キャリア24Bが、軸A0周りに回転すると、歯車本体24Aも軸A0周りに回転する。この結果、キャリア24Bは、複数の第1遊星歯車13の公転を第2内歯歯車24の歯車本体24Aに伝達することができる。
【0101】
軸受配置部243は、複数の第2遊星歯車23のそれぞれの軸上に設けられる。対応する第2遊星歯車23の一端部23Aを支持する軸受B4は、軸受配置部243に配置される。本実施形態に関し、軸受配置部243は、キャリア24Bの第2遊星歯車23側の端面から軸方向に凹む凹部によって形成される。代替的に、軸受配置部243は、他の構造及び/又は形状を有してもよい。
【0102】
図8に示されるように、各第2遊星歯車23の一端部23A(すなわち、各第2遊星歯車23の一端部23Aが挿通された軸受B4)は、キャリア24Bに設けられた軸受B5によって支持される。軸受B5は、キャリア24Bに対する各第2遊星歯車23の一端部23Aの回転を許容する。この結果、複数の第2遊星歯車23の外歯23Gが、第1太陽歯車22の外歯22G及び第2内歯歯車24の内歯24Gに噛み合いながら、複数の第2遊星歯車23は、第1太陽歯車22の軸A0周りに公転することができる。複数の第2遊星歯車23は、第2内歯歯車24に対して相対的に回転することができる。
【0103】
各第2遊星歯車23の他端部23B(大歯車26側の各第2遊星歯車23の端部23B)は、出力部30(後述される)に設けられた軸受B7(図7を参照)によって支持される。すなわち、軸受B7及び軸受B4は、各第2遊星歯車23を支持し、各第2遊星歯車23の軸周りにおける各第2遊星歯車23の自転を許容する。
【0104】
電動アクチュエータ1は、ケース40と第2内歯歯車24との間に設けられた軸受B8(図7を参照)を備える。第2内歯歯車24は、軸受B8によって支持される。軸受B8は、ケース40に対する第2内歯歯車24の回転を許容する。複数の第1遊星歯車13が、第1太陽歯車12の軸A0周りに公転すると、第2内歯歯車24は、複数の第1遊星歯車13と同じ回転数で回転する。
【0105】
[出力部]
図7に示される出力部30は、第2太陽歯車22の軸周りの複数の第2遊星歯車23の公転に伴って、回転する。図7に示される例に関して、出力部30は、ケース40内に配置された本体部30Aと、本体部30Aの外周面から径方向において外側に延出する延出部30Bと、を備える。延出部30Bの一部又は全部は、ケース40に設けられた溝G(図9を参照)を通じて、ケース40の外に突出する。ケース40の溝Gは、出力部30の回転範囲よりも長く形成されるので、ケース40は、延出部30Bの回転を邪魔しない。
【0106】
出力部30の本体部30Aは、第2内歯歯車24と大歯車26との間に配置される。本実施形態の本体部30Aは、略円柱形状を有する。本体部30Aは、第2太陽歯車22の他端部22Bが挿通される貫通孔31を有する。
【0107】
軸受B9は、出力部30とケース40との間に設けられる。軸受B9は、出力部30の本体部30Aを支持する。出力部30の本体部30Aは、ケース40に対して回転可能である。本実施形態に関し、軸受B9は玉軸受である。代替的に、他の種類の軸受部品が、軸受B9として用いられてもよい。
【0108】
各第2遊星歯車23の他端部23Bは、出力部30の本体部30Aに配置される。本体部30Aは、軸受配置部32を有する。軸受配置部32は、複数の第2遊星歯車23のそれぞれの軸上に設けられる。対応する第2遊星歯車23の他端部23Bを支持する軸受B7は、軸受配置部32に配置される。本実施形態に関し、軸受配置部32は、本体部30Aの第2内歯歯車24側の端面から軸方向に凹む凹部によって形成される。
【0109】
上述の如く、各第2遊星歯車23の一端部23Aは、第2内歯歯車24のキャリア24Bに設けられた軸受B4によって支持される。軸受B4及び軸受B7は、各第2遊星歯車23を支持する。各第2遊星歯車23は、各第2遊星歯車23の軸周りに自転可能である。
【0110】
[電動アクチュエータの動作]
図8及び図9を参照して、電動アクチュエータ1の例示的な動作が説明される。
【0111】
(正常時の動作)
電動アクチュエータ1の第1モータ11が、コントローラ51からの指令下で、作動すると、シャフト11Sに固定された小歯車15は、回転する。このとき、小歯車15の外歯15Gに噛み合う外歯16Gを有する大歯車16も回転する。大歯車16が回転すると、大歯車16に固定された第1太陽歯車12も、第1太陽歯車12の軸A0周りに回転する。このとき、第1太陽歯車12の外歯12Gに噛み合う外歯13Gを有する複数の第1遊星歯車13は、複数の第1遊星歯車13それぞれの軸周りに自転する。第1内歯歯車14は、ケース40に対して固定されている。したがって、第1内歯歯車14は、ケース40に対して回転しない。複数の第1遊星歯車13が、複数の第1遊星歯車13それぞれの軸周りに自転すると、複数の第1遊星歯車13は、第1内歯歯車14の内歯14Gに噛み合いながら第1太陽歯車12の軸A0周りを公転する。
【0112】
複数の第1遊星歯車13が、第1太陽歯車12の軸A0周りに公転すると、複数の第1遊星歯車13のそれぞれの一端部13Aが連結された第2内歯歯車24のキャリア24Bは、軸A0周りに回転する。キャリア24Bの回転は、複数の第1遊星歯車13の回転数と同じ回転数であり、且つ、同じ回転方向である。したがって、キャリア24Bと一体的に形成された第2内歯歯車24の歯車本体24Aも、軸A0周りに同じ回転数で同じ回転方向D1に回転する。
【0113】
軸A0周りの第2内歯歯車24の回転は、第2内歯歯車24の内歯24Gに噛み合う外歯23Gを有する複数の第2遊星歯車23を、同じ回転方向D1に回転させる。
【0114】
第2モータ21が、コントローラ51からの指令の下で、作動すると、シャフト21Sに固定された小歯車25は、回転する。この結果、小歯車25の外歯25Gに噛み合う外歯26Gを有する大歯車26も、回転する。大歯車26が回転すると、大歯車26に固定された第2太陽歯車22は、軸A0周りに回転する。第2太陽歯車22の外歯22Gに噛み合う外歯23Gを有する複数の第2遊星歯車23は、各第2遊星歯車23の軸周りに自転し、且つ、第2内歯歯車24の内歯24Gに噛み合いながら、第2太陽歯車22の軸A0周りを回転方向D2に公転する。
【0115】
第1モータ11によって第2内歯歯車24が回転する回転方向D1が、第2モータ21によって複数の第2遊星歯車23が軸A0周りに回転する回転方向D2に一致するならば、第1モータ11による回転速度(回転数)と、第2モータ21による回転速度(回転数)とが足し合わされ、これらの回転速度がいわゆる速度サミングされる。このように速度サミングされることによって、出力部30は、速度サミングされない従来の場合に比べて高速で回転することができる。速度サミングされる本実施形態において回転のトルクは足し合わされない。
【0116】
第1モータ11によって第2内歯歯車24が回転する回転方向D1が、第2モータ21によって複数の第2遊星歯車23が軸A0周りに回転する回転方向D2とは、反対方向であるならば、上記の速度サミングは、生じない。この場合には、第1モータ11及び第2モータ21のうち一方は、第1モータ11及び第2モータ21のうち他方の回転のブレーキをかける。
【0117】
出力部30が所定の位置まで回転したことが位置センサ60によって検知されると、位置センサ60の信号は、コントローラ51に入力される。第1モータ11及び第2モータ21は、コントローラ51の指令下で停止する。この結果、動作部材4は、所望の位置に配置される。
【0118】
(故障時の動作)
第1遊星歯車13及び第2遊星歯車23のうち一方がその軸周りに回転不可能となったときの電動アクチュエータ1の動作が、説明される。
【0119】
複数の第1遊星歯車13のそれぞれの外歯13Gは、回転が規制された第1内歯歯車14の内歯14Gに噛み合っている。したがって、第1遊星歯車13が、第1遊星歯車13の軸周りに回転不可能となった場合、第1遊星歯車13は、第1太陽歯車12の軸A0周りを公転することができなくなる。この結果、第1遊星歯車13は、第2内歯歯車24を回転させることができなくなる。その一方で、複数の第2遊星歯車23は、第2太陽歯車22の軸A0周りを公転することができる。したがって、出力部30は、複数の第2遊星歯車23の公転に伴う出力部30の回転は、継続的に可能である。すなわち、出力部30は、第1遊星歯車13の固着が生じた直後であっても、出力部30は、第1遊星歯車13の固着に邪魔されることなく、且つ、タイムラグがほとんど生じさせることなく、継続的に回転することができる。
【0120】
第2遊星歯車23が、第2遊星歯車23の軸周りに回転不可能となった場合、複数の第2遊星歯車23は、複数の第2遊星歯車23それぞれの軸周りに回転しながら第2太陽歯車22の軸A0周りを公転することはできなくなる。しかしながら、複数の第2遊星歯車23は、第2太陽歯車22の外歯22Gとの噛み合い位置及び第2内歯歯車24の内歯24Gとの噛み合い位置を変えることなく、第2内歯歯車24を引き連れて第2太陽歯車22の軸A0周りを公転することはできる。したがって、出力部30は、複数の第2遊星歯車23の公転に伴った回転を継続することができる。すなわち、第2遊星歯車23の固着が生じた直後であっても、出力部30は、第2遊星歯車23の固着に邪魔されることなく、且つ、タイムラグをほとんど生じさせることなく、継続的に回転することができる。
【0121】
[実施形態のまとめ]
本実施形態に関し、第1モータ11側に接続された第1遊星歯車機構10及び第2モータ21側に接続された第2遊星歯車機構20が設けられる。何れの遊星歯車機構にも固着などの故障が生じていない正常時において、出力部30は、第1遊星歯車機構10に基づく回転速度と第2遊星歯車機構20に基づく回転速度とが加算された速度(いわゆる速度サミングされた回転速度)で回転することができる。したがって、速度サミングされない従来の遊星歯車機構を備えた電動アクチュエータに比べて、本実施形態の出力部30は、高速で動作することができる。
【0122】
本実施形態に関して、第1モータ11を駆動する電流の値は、第1センサ71によって検知される。第2モータ21を駆動する電流の値は、第2センサ72によって検知される。比較部53は、第1センサ71による第1検知値と第2センサ72による第2検知値との比較結果に基づいて、故障を判定する。本実施形態の原理は、固着(ジャミング)などの故障状態であるか、外部負荷と出力が拮抗することによって電動アクチュエータ1が動作しない状態であるかの判別を可能にする。誤検知は、生じにくい。本実施形態に関して、比較部53が、第1センサ71による第1検知値と第2センサ72による第2検知値との間の比較結果に基づいて、故障を判定するので、第1遊星歯車機構10及び第2遊星歯車機構20のうちの何れの遊星歯車機構において故障が生じているかを検知することができる。
【0123】
本実施形態に関し、比較部53は、第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方の周期的な変動に基づいて、故障を判定する。従来の電動アクチュエータは、一部の歯に疲労や破損が生じたことを検知する手段を備えていない。これに対し、本実施形態の原理は、長期にわたる使用下での歯車の疲労や部分的な破損を検知することを可能にする。
【0124】
第1検知値及び第2検知値の少なくとも一方に関して、基準との偏差が定常的に生じているならば、本実施形態の比較部53は、故障が生じていると判定する。従来技術は、モータの能力の低下を検知する手段を有していないので、作業者は、電動アクチュエータを定期的に取り外して整備する必要があった。これに対し、本実施形態の原理は、長期にわたる使用下でのモータの能力の低下を検知することができる。
【0125】
本実施形態の第1遊星歯車機構10は、第1太陽歯車12と、複数の第1遊星歯車13と、第1内歯歯車14と、を備える。第1太陽歯車12は、第1モータ11によって回転される。複数の第1遊星歯車13は、第1太陽歯車12に噛み合う。第1内歯歯車14は、第1遊星歯車13が噛み合う内歯14Gを有する。第1内歯歯車14の回転は、規制される。第2遊星歯車機構20は、第2太陽歯車22と、複数の第2遊星歯車23と、第2内歯歯車24と、を備える。第2太陽歯車22は、第2モータ21によって回転される。複数の第2遊星歯車23は、第2太陽歯車22に噛み合う。第2内歯歯車24は、第2遊星歯車23が噛み合う内歯24Gを有する。第1遊星歯車13が、第1太陽歯車12の軸A0周りに公転すると、第2内歯歯車24は、回転する。第2遊星歯車23が第2太陽歯車22の軸A0周りに公転すると、出力部30は、回転する。
【0126】
上述の構成に関し、第1内歯歯車14の回転は、規制される。第1内歯歯車14の内歯14Gに噛み合う第1遊星歯車13が、公転すると、第2内歯歯車24は、回転する。したがって、何れか一方の遊星歯車機構に生じた固着が、遊星歯車の軸周りの回転を不能にしても、出力部30は、タイムラグをほとんど生じさせることなく、継続的に回転することができる。したがって、本実施形態の原理は、高い信頼性をもたらす。
【0127】
[変形例]
本実施形態の原理は、上述の説明及び図示された構造に限定されない。当業者は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。第1歯車機構として、第1遊星歯車機構10を、第2歯車機構として第2遊星歯車機構20を例示したが、これらに代え、太陽ローラ、遊星ローラ、内歯ローラからなる遊星ローラ機構を用いることもできる。更に第1歯車機構や第2歯車機構として、入力される2つの駆動力を一つの駆動力として出力する歯車機構を用いることもできる。
【0128】
本実施形態に関し、機器本体3は、航空機の翼本体である。動作部材4は、舵面稼働部(動翼)である。代替的に、機器本体3は、航空機の機体であってもよい。動作部材4は、機体に設けられた出入口を開閉可能なドアなどであってもよい。
【0129】
本実施形態に関し、電動アクチュエータ1が取り付けられる取付対象機器2は、航空機である。代替的に、電動アクチュエータ1は、船舶や陸上車両などの他の取付対象機器2に取り付けられてもよい。
【0130】
上述の実施形態の故障検知機構100に関連して説明された制御例1の故障検知と組み合わせて、制御例2及び制御例3の少なくとも一方の故障検知が実行されてもよい。
【0131】
更に、例示的な電動アクチュエータ1の故障検知機構100aについて、図10を参照して以下に説明される。本実施形態の故障検知機構100aは、電動アクチュエータ1aと、電動アクチュエータ1aの動作を制御するコントローラ51と、を備える。図1及び図2に示されるように、電動アクチュエータ1aは、第1モータ11と、第2モータ21と、第1モータ11の出力が入力側に接続されるとともに、動作部材4(被駆動体)が出力側に接続される第1遊星歯車機構10a(第1歯車機構)と、第2モータ21の出力が入力側に接続されるとともに、動作部材4(被駆動体)が出力側に接続される第2遊星歯車機構20a(第2歯車機構)と、を備える。なお、第1遊星歯車機構10aと第2遊星歯車機構20aはいずれも遊星歯車(図示せず)とボールスクリュー(図示せず)を用いた直動機構として構成されている。更に第1遊星歯車機構10aの遊星歯車と第2遊星歯車機構20aの遊星歯車はいずれもクラッチとして働き、第1遊星歯車機構10aまたは第2遊星歯車機構20aのいずれか一方が故障したとしても他方に影響を与えないように切り離されるように構成されている。なお、クラッチとして遊星歯車を用いたものの他、電磁流体やクラッチ板を用いたものなど、公知の手段を用いることができる。
【0132】
本実施形態の故障検知機構100aは、電動アクチュエータ1aが故障状態であるか、外部負荷と出力が拮抗することによって電動アクチュエータ1aが動作しない状態であるかの判別を行うことができる。電動アクチュエータ1aの遊星歯車機構において生じる固着(ジャミング)は、故障として例示される。しかしながら、故障の原因は、固着に限られない。例えば、固着は、遊星歯車機構への異物の噛み込みや遊星歯車機構における焼き付きなどによって発生することもある。しかしながら、固着の発生原因は、これらに限られない。
【0133】
本実施形態に関して、取付対象機器2は、飛行機やヘリコプターなどの航空機である。機器本体3は、翼本体である。動作部材4は、舵面稼働部(動翼)である。動作部材4は、動作部材4の表面の少なくとも一部を形成する舵面5を有する。この場合、電動アクチュエータ1aが移動すると、翼本体(機器本体3)に対する舵面稼働部(動作部材4)の舵面5の角度は、変更される。
【0134】
本実施形態の位置センサ60aはボールスクリューの突出量を検知するためのストロークセンサであり、例えばLVDT(LINEAR VELOCITY DISPLACEMENT TRANSFORMER)を用いることができる。なお、上述の実施形態と同じ符号を付したものは上述の実施形態と同じものであるため、説明は省略する。
【0135】
その他については、先に説明された実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0136】
上述の実施形態の原理は、電動アクチュエータを利用する様々な技術分野に好適に利用される。
【符号の説明】
【0137】
1 電動アクチュエータ
4 動作部材(被駆動体)
10 第1の遊星歯車機構
11 第1モータ
12 第1太陽歯車
13 第1遊星歯車
14 第1内歯歯車
20 第2の遊星歯車機構
21 第2モータ
22 第2太陽歯車
23 第2遊星歯車
24 第2内歯歯車
30 出力部
53 比較部
71 第1センサ
72 第2センサ
100 電動アクチュエータの故障検知機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10