(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】音響波エネルギーの利用を増大させる音響波マイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
B05B 17/06 20060101AFI20220307BHJP
A61M 11/00 20060101ALI20220307BHJP
A61M 15/08 20060101ALI20220307BHJP
A61M 15/00 20060101ALI20220307BHJP
B06B 1/02 20060101ALI20220307BHJP
A24F 47/00 20200101ALI20220307BHJP
【FI】
B05B17/06
A61M11/00 300A
A61M15/08
A61M15/00 A
B06B1/02 Z
A24F47/00
(21)【出願番号】P 2017559067
(86)(22)【出願日】2016-05-13
(86)【国際出願番号】 AU2016050363
(87)【国際公開番号】W WO2016179664
(87)【国際公開日】2016-11-17
【審査請求日】2019-05-13
(32)【優先日】2015-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506018639
【氏名又は名称】ロイヤル・メルボルン・インスティテュート・オブ・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】ROYAL MELBOURNE INSTITUTE OF TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096921
【氏名又は名称】吉元 弘
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ、タン
(72)【発明者】
【氏名】アムガド、レスク
(72)【発明者】
【氏名】ヘバ、アーメド
(72)【発明者】
【氏名】レスリー、ヨー
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/150629(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/132228(WO,A1)
【文献】特開2004-190537(JP,A)
【文献】特開2000-176014(JP,A)
【文献】特表2012-525944(JP,A)
【文献】特表2007-513729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 17/00-17/08
B06B 1/00- 3/04
A61M 11/00-19/00
A24F 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイスであって、
基板上の電気音響トランスデューサと、
前記電気音響トランスデューサに電磁波エネルギーを供給するための電源と、
液体物質の供給源と
を備えており、
前記電気音響トランスデューサおよび前記基板は、前記供給源から前記基板への前記物質の移動、および前記基板上での前記物質の霧化または噴霧化に使用される音響波エネルギーを生成するように構成されており、
前記音響波エネルギーは、表面音響波と表面反射バルク波との組み合わせを含み、前記表面反射バルク波は、前記
基板の第1
の表面および
前記基板の前記第1の表面と反対側の第2の表面の
間における内部反射によって前記第1および第2の表面に沿って伝播し、
前記デバイスは、前記基板の厚さが、前記表面音響波の波長にほぼ等しいように構成されている、デバイス。
【請求項2】
前記表面音響波と表面反射バルク波との組み合わせは、前記供給源から前記基板への前記物質の移動、および前記基板上での前記物質の霧化または噴霧化に使用される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記音響波エネルギーは、前記電気音響トランスデューサにおける定在音響波をさらに含み、前記音響波エネルギーは、前記物質を前記供給源から前記基板に沿って前記電気音響トランスデューサへと薄い液体膜として移動させ、前記電気音響トランスデューサにおける前記定在音響波は、前記薄い液体膜を霧化または噴霧化させる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記物質の前記供給源は、前記基板の表面、前記基板の側縁、前記基板の端縁、またはこれらの組み合わせの上、内部、または近接して配置されている、請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記基板は、単結晶圧電基板を備える、請求項1から4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記物質は、薬物、可溶性物質、ポリマー、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、細胞、幹細胞、香水、香料、ニコチン、化粧品、農薬、殺虫剤、およびこれらの組み合わせから選択される機能性または治療用の作用薬を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記液体物質は、1ml/分以上の速度で霧化または噴霧化される、請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイスを使用することを備える方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイスを備える、肺へと薬物を送達するための吸入器またはネブライザ。
【請求項9】
音響波エネルギーを使用して、液体物質を前記液体物質の供給源から基板へと移動させるステップと、
前記混成音響波エネルギーを使用して、前記基板の少なくとも一方の表面上の前記物質を霧化または噴霧化するステップと
を含んでおり、
前記音響波エネルギーは、前記基板の前記少なくとも1つの表面に沿って伝播する表面音響波を、前記基板の前記少なくとも一方の表面と前記基板の少なくとも1つの別の表面との間を内部反射する表面反射バルク波との組み合わせにて含み、
前記基板の厚さは、前記表面音響波の波長にほぼ等しい、方法。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイスを使用して、溶解物質を霧化または噴霧化し、1nm~1mmの直径を有する粒子、粉末、または結晶を生成するステップ
を含む方法。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか一項に記載のデバイスを使用して、1nm~1mmの直径を有する粒子または粉末で治療の目的のための薬物分子をコーティングし、あるいは包むステップ
を含む方法。
【請求項12】
請求項1から6のいずれか一項に記載の前記デバイスを使用して、三次元(3D)のバルクの形態から二次元(2D)の剥離した形態へと材料を剥離させるステップ
を含み、
前記材料は、グラフェン、チッ化ホウ素(BN)、遷移金属ジカルコゲナイド、遷移金属酸化物、黒リン、シリセン、ゲルマネン、およびこれらの組み合わせを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響波エネルギーの利用を増大させる音響波マイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
表面音響波(SAW)噴霧化または霧化装置など、音響波マイクロ流体デバイスが、肺への薬物の送達および幅広くさまざまな他のマイクロ流体の用途に向けて提案されている。SAWマイクロ流体デバイスは、圧力基板上に指間状のトランスデューサ(interdigital transducer)(IDT)を備える。IDTに高周波(RF)電力を印加することによってSAWが生成され、SAWが、基板上の液体を通過してエアロゾル滴を生成する。基板は、純粋なSAWのみが霧化に使用されるよう、基板内部のバルク波の伝播を抑制するために、ニオブ酸リチウムの回転Yカットとして慎重に選択される。
【0003】
現在のSAWマイクロ流体デバイスは、1~100μl/分の間の限られた噴霧化または霧化速度しか有していない。このような低い霧化速度は、肺への薬物の送達において患者に有効な量をもたらすには不充分である。患者に有効な量をもたらすべく充分に高い霧化速度を達成するために単純にRF電力のレベルおよび/または液体の供給速度を高めることは、実用的でない。
【0004】
RF電力のレベルを高めると、基板および/またはデバイスの構成部品への熱負荷が増大し、大型でかさばる電源も必要になる。さらに、RF電力のレベルを高めると、送達される薬物について、複雑な分子または細胞の変性による付随的損傷の可能性も大きくなる。最後に、液体の供給速度を増すと、デバイスが液体に浸かり、霧化が完全に停止することを引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような背景において、マイクロ流体の取り扱いの能力を高めるべく入力されるRF電力および出力される音響波エネルギーの利用を増大させる音響波マイクロ流体デバイスが、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
基板上の電気音響トランスデューサと、
前記電気音響トランスデューサに電磁波エネルギーを供給するための電源と、
前記基板に対して移動可能な物質の供給源と
を備えており、
前記電気音響トランスデューサおよび前記基板は、前記供給源から前記基板への前記物質の移動および前記基板上での前記物質の取り扱いに使用される音響波エネルギーを生成するように構成されている、デバイスが提供される。
【0007】
前記音響波エネルギーは、前記基板の第1の表面、前記基板の反対側の第2の表面、またはこれらの組み合わせに沿って伝播するSAWを含むことができる。
【0008】
前記基板は、前記音響波エネルギーの波長に相当する厚さを有することができる。
【0009】
前記音響波エネルギーは、SAWと表面反射バルク波(SRBW)との組み合わせを含むことができる。本明細書において使用されるとき、「SRBW」は、前記第1および第2の表面の間の前記基板における内部反射によって前記第1および第2の表面に沿って伝播するバルク音響波(BAW)を指す。前記SAWとSRBWとの組み合わせを、前記供給源から前記基板への前記物質の移動および前記基板上での前記物質の取り扱いに使用することができる。
【0010】
前記音響波エネルギーは、SAWと前記電気音響トランスデューサにおける定在音響波との組み合わせを含むことができ、SAWは、前記物質を前記供給源から前記基板に沿って前記電気音響トランスデューサへと薄い液体膜として移動させるために使用され、前記電気音響トランスデューサにおける前記定在音響波は、前記薄い液体膜の霧化または噴霧化に使用される。
【0011】
前記物質の前記供給源を、前記基板の表面、前記基板の側縁、前記基板の端縁、またはこれらの組み合わせの上、内部、または近接し隣接して配置することができる。
【0012】
前記電気音響トランスデューサは、前記基板の前記第1の表面、前記基板の前記第2の表面、またはこれらの組み合わせに配置された1つ以上の指間状のトランスデューサを備えることができる。
【0013】
前記基板は、ニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムの回転Yカットなど、単結晶圧電基板を備えることができる。
【0014】
前記電源、基板、および供給源を、ユニバーサル・シリアル・バス(USB)ホルダに統合化させることができる。
【0015】
前記電源は、電池を備えることができる。
【0016】
前記物質は、液体、固体、気体、あるいはこれらの組み合わせまたはこれらの混合物を含む移動可能な物質であってよい。前記物質は、薬物、可溶性物質、ポリマー、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、細胞、幹細胞、香水、香料、ニコチン、化粧品、農薬、殺虫剤、およびこれらの組み合わせから選択される機能性または治療用の作用薬を含むことができる。
【0017】
前記物質を、1ml/分以上の速度で霧化または噴霧化させることができる。
【0018】
本発明は、
混成音響波エネルギーを使用して、物質を物質の供給源から基板へと移動させるステップと、
前記混成音響波エネルギーを使用して、前記基板の少なくとも一方の表面上の前記物質を取り扱うステップと
を含んでおり、
前記混成音響波エネルギーは、前記基板の前記少なくとも1つの表面に沿って伝播する表面音響波と、前記基板の前記少なくとも一方の表面と前記基板の少なくとも1つの別の表面との間を内部反射するバルク音響波とを含む、方法をさらに提供する。
【0019】
本発明は、上述のデバイスを備える肺へと薬物を送達するための吸入器またはネブライザも提供する。
【0020】
本発明は、上述のデバイスを備える眼へと薬物を送達するための眼鏡類をさらに提供する。
【0021】
本発明は、上述のデバイスを備える電子たばこも提供する。
【0022】
本発明は、上述のデバイスを備えるにおい発生器をさらに提供する。
【0023】
本発明は、上述のデバイスを使用して物質についてマイクロ流体操作を実行するステップを含んでおり、前記マイクロ流体操作は、霧化、噴霧化、移動、輸送、混合、噴出、ストリーム化、遠心分離、捕捉、分離、選別、コーティング、カプセル化、取り扱い、脱塩、精製、剥離、積層、およびこれらの組み合わせを含む、方法も提供する。
【0024】
本発明は、上述のデバイスを使用して可溶性物質を霧化または噴霧化し、1nm~1mmの直径を有する粒子、粉末、または結晶を生成するステップ、を含む方法をさらに提供する。
【0025】
本発明は、上述のデバイスを使用して1nm~1mmの直径を有する粒子または粉末で治療の目的のための薬物分子をコーティングし、あるいは包むステップ、を含む方法をさらに提供する。
【0026】
本発明は、上述のデバイスを使用して液体から塩、結晶、または不純物を分離することによって前記液体の精製または脱塩を行うステップ、を含む方法も提供する。
【0027】
本発明は、上述のデバイスを使用して三次元(3D)のバルクの形態から二次元(2D)の剥離した形態へと材料を剥離させるステップ、を含む方法をさらに提供する。
【0028】
前記材料は、グラフェン、チッ化ホウ素(BN)、遷移金属ジカルコゲナイド(TMD)、遷移金属酸化物(TMO)、黒リン、シリセン、ゲルマネン、およびこれらの組み合わせを含むことができる。
【0029】
前記材料の前記3Dのバルクの形態は、液体中または挿入材料中の前記材料を含むことができる。
【0030】
前記材料の前記2Dの剥離した形態は、シート、量子ドット(QD)、フレーク、層、フィルム、あるいはこれらの組み合わせまたは複数もしくは構造を含むことができる。
【0031】
前記材料の前記2Dの剥離した形態は、1nm~2000nmの間の横方向の寸法を有することができる。
【0032】
次に、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して、あくまでも例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態による音響波マイクロ流体デバイスの概略図である。
【
図3】デバイスのさらに別の実施形態の斜視図である。
【
図7(a)】純粋なSAWを生成するように構成されたデバイスのレーザドップラ振動(LDV)画像である。
【
図7(b)】純粋なSAWを生成するように構成されたデバイスのレーザドップラ振動(LDV)画像である。
【
図7(c)】純粋なSAWを生成するように構成されたデバイスの概略図である。
【
図8(a)】純粋なSRBWおよび純粋なSAWをそれぞれ生成するように構成されたデバイスのLDV画像である。
【
図8(b)】純粋なSRBWおよび純粋なSAWをそれぞれ生成するように構成されたデバイスの概略図である。
【
図9(a)】純粋なSRBWを生成するように構成されたデバイスのLDV画像である。
【
図9(b)】純粋なSRBWを生成するように構成されたデバイスの液滴のサイズおよび体積のグラフである。
【
図9(c)】純粋なSRBWを生成するように構成されたデバイスの概略図である。
【
図10(a)】純粋なSAWを生成するように構成された場合のデバイスのLDV画像である。
【
図10(b)】純粋なSAWを生成するように構成された場合のデバイスの液滴のサイズおよび体積のグラフである。
【
図10(c)】純粋なSAWを生成するように構成された場合のデバイスの概略図である。
【
図11(a)】SAWとSRBWとの組み合わせを生成するように構成された場合のデバイスのLDV画像である。
【
図11(b)】SAWとSRBWとの組み合わせを生成するように構成された場合のデバイスの液滴のサイズおよび体積のグラフである。
【
図11(c)】SAWとSRBWとの組み合わせを生成するように構成された場合のデバイスの概略図である。
【
図12】SAWとSRBWとの組み合わせのLDVプロファイルである。
【
図13】純粋なSAWのLDVプロファイルである。
【
図14】眼への薬物の送達のためのデバイスが組み込まれた眼鏡類の概略図である。
【
図16】3Dのバルク材料を2Dの剥離後材料へと剥離させるように構成されたデバイスの概略図である。
【
図17】デバイスによって形成された2D QDの透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図18】2D QDの薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1および
図2は、本発明の実施形態による音響波マイクロ流体デバイス10を示している。デバイス10は、一般に、基板14上の電気音響トランスデューサ12と、電気音響トランスデューサ12にRF電力などの電磁波エネルギーを供給するための電源(図示せず)とを備えることができる。デバイス10は、基板14へと移動することができる物質の供給源16をさらに備えることができる。物質は、音響波エネルギーによって供給源16から基板14へと移動することができる形態の物質または材料を含むことができる。物質は、液体、固体、気体、あるいはこれらの組み合わせまたはこれらの混合物を含むことができる。例えば、物質は、液体、溶液、分散液、などとしての物質または材料を含むことができる。
【0035】
電気音響トランスデューサ12は、基板14の第1の表面18、基板14の反対側の第2の表面20、またはそれらの組み合わせに配置された多数のIDT電極を備えることができる。他の同等または代替の電気音響トランスデューサも、使用可能である。基板14は、ニオブ酸リチウム(LN)またはタンタル酸リチウムの回転Yカットなどの単結晶圧電基板であってよい。例えば、基板14は、128°回転のY軸のX軸伝播のニオブ酸リチウム結晶カット(128YX LN)を備えることができる。他の同等または代替の圧電基板も、使用可能である。
【0036】
図示されていないが、基板14の一端を、RF電力を供給する2つ以上の接触プローブの間に機械的に固定および支持することができる。さらに、基板14の1つの支持端を、電気音響トランスデューサ12によって基板14へと付与される振動エネルギーの減衰を最小限にすべく基板14との接触面積を最小にするようにIDTフィンガ電極12とは反対側の第1の表面18上の1つ以上のバネおよび/または固定具によって取り付けることができる。したがって、基板14を、基板14の反対側の自由端において最大の音響振動が可能になるように、音叉と同様のやり方で弾性的に支持された一端において機械的な固定具から突き出させることができる。
【0037】
物質の供給源16を、基板14の側縁22、基板14の端縁24、またはこれらの組み合わせを介して、基板14の第1および/または第2の表面18、20の上、内部、または近接し隣接して、接触または非接触の関係で配置することができる。
図1を参照すると、一実施形態において、供給源16は、液体物質のリザーバ26と、基板14の側縁および/または端縁22,24に接触するように配置された芯(wick)28とを備えることができる。
図2を参照すると、別の実施形態において、供給源16は、基板14の端縁24に直接接触するように配置されたリザーバ
26のみを備えることができる。他の同等または代替の物質源の配置も、使用可能である。
【0038】
電気音響トランスデューサ12および基板14を、液体物質の供給源16から基板14上への薄い液体膜としての移動(例えば、吸い出し、引き出し、さらには/あるいは薄くする)ならびに薄い液体膜の霧化または噴霧化の両方に使用される音響波エネルギーを生成するように構成することができる。例えば、デバイス10の一実施形態において、音響波エネルギーは、基板14の第1の表面18、基板14の第2の表面20、あるいは基板14の第1および第2の両方の表面18,20に沿って伝搬するSAWとして現れることができる。すなわち、SAWは、第1の表面18に沿い、端縁24を巡り、基板14の第2の表面20に沿って伝搬することができる。いかなる特定の理論にも拘束されるつもりはないが、SAWは、基板14の第1および第2の表面18,20の各々において、電気音響トランスデューサ12に対して順方向および逆方向の両方に伝搬することができると考えられる。第1および/または第2の表面18,20上を逆方向に移動するSAWは、リザーバ26および/または芯28から液体物質を吸い出し、引き出し、薄くする役割を少なくとも部分的に果たすことができると考えられる。
【0039】
第2の表面20に沿って移動する音響波エネルギーの使用は、第1の表面18のみが使用される従来からのSAWマイクロ流体デバイスとは反対である。利用可能な音響波エネルギーのこの顕現および利用は、SAWの波長に相当する(例えば、ほぼ等しい)厚さを有するように基板14を構成することによって達成できる。換言すると、デバイス10を、λSAW/h~1の関係を満たすように構成することができ、ここで、hは基板14の厚さを表し、λSAWはデバイス10の共振周波数に対応するSAWの波長を表す。SAWの波長を、少なくとも部分的には、例えばIDT電極の間隔などの電気音響トランスデューサ12の構成によって決定することができる。多数のIDTフィンガ(例えば、約40~60のフィンガに等しく、あるいはそれよりも多い)の質量負荷および約10~20MHzの間の低周波数のIDT設計を、SAWとSRBWとの最適な組み合わせを与えるように選択することができる。電気音響トランスデューサ12および基板14について、他の同等または代替の構成も使用可能である。
【0040】
さらに、基板14の厚さを音響波エネルギーの波長に相当するように構成することにより、デバイス10の別の実施形態における音響波エネルギーは、第1および第2の表面18,20の間の基板14を通過する内部反射によって第1および第2の表面18,20に沿って伝搬するSRBWとして現れることができる。やはりいかなる特定の理論にも拘束されるつもりはないが、SRBWも、基板14の第1および第2の表面18,20の各々において、電気音響トランスデューサ12に対して順方向および逆方向の両方に伝搬することができると考えられる。第1および/または第2の表面18,20上を逆方向に移動するSRBWは、リザーバ26および/または芯28から液体物質を吸い出し、引き出し、薄くする役割を少なくとも部分的に果たすことができると考えられる。次いで、SAWとSRBWとの組み合わせを、液体物質の液体供給源16から基板14上への薄い液体膜としての吸い出しおよび薄い液体膜の霧化の両方に使用することができる。例えば、
図1に示される実施形態において、基板14の第1および第2の表面18,20に沿って進むSAWおよびSRBWの組み合わせを、液体物質の供給源16から基板14の第1の表面18への薄い液体膜としての吸い出しならびに基板14の第1の表面18上の薄い液体膜の霧化または噴霧化の両方に使用することができる。
【0041】
デバイス10のさらなる実施形態においては、電気音響トランスデューサ12および基板14を、電気音響トランスデューサ12内または電気音響トランスデューサ12上の定在音響波として現れることができる音響波エネルギーを生成するように構成することができる。SAWを、液体物質を供給源16から基板14に沿って電気音響トランスデューサ12上へと薄い液体膜として吸い出すために使用することができる。次いで、定在音響波を、電気音響トランスデューサ12上で直接的に薄い液体膜を霧化させるために使用することができる。例えば、
図2に示される実施形態において、基板14の第1の表面18に沿って移動するSAWを、液体物質を供給源16から第1の表面18に沿って電気音響トランスデューサ12上へと薄い液体膜として吸い出すために使用することができる。次いで、電気音響トランスデューサ12内または電気音響トランスデューサ12上の定在音響波を、薄い液体膜を直接的に霧化または噴霧化するために使用することができる。IDT 12上の音響波エネルギーが最強であるため、ここでの効率が、マイクロ流体の取り扱いに関して最高である。換言すると、リザーバ26からIDT 12へと液体膜を吸い出し、移動させ、薄くすることによるIDT 12上での直接的な霧化は、例えば1ml/分以上のきわめて高くかつ効率的な霧化速度をもたらすことができる。
図15が、デバイス10のこの実施形態のIDT 12上で直接的に生成される強力なエアロゾルジェットまたは液体ストリームを示している。
【0042】
図3および
図4を参照すると、デバイス10の一実施形態においては、電源、基板14、および供給源16を、USBホルダ30に統合することができる。例えば、上述した基板14の1つの支持端のための弾性支持部および結合部を、USBホルダ30の本体に統合化させることができる。さらに、電気音響トランスデューサ12のための電源を、USBホルダ30に統合化させることができ、あるいはUSBホルダ30を介して設けることができる。例えば、電源は、USBホルダ30に組み込まれた電池を備えることができる。
【0043】
さらに、液体物質の供給源16を、USBホルダ30上に統合化させることができる。
例えば、供給源16は、リザーバ26を芯28へと流体的に接続するようにUSBホルダ30の下方に配置された供給源本体31をさらに備えることができる。リザーバ26を、USBホルダ30の後部に配置することができ、芯28を、基板14の自由端縁24に隣接させて供給源本体31上に配置することができる。芯28を、第1および第2の表面18,20の間の基板14の下側の側縁22に流体に関して接触させることができる。
【0044】
上述したように、電気音響トランスデューサ12および基板14を集合的に、デバイス10によって液体物質を供給源16から基板14の第1および第2の表面18,20の各々へと薄い液体膜として移動させ、あるいは吸い出し、第1および第2の表面18,20の各々の薄い液体膜を霧化または噴霧化して、液体のエアロゾル滴の2つの反対方向の外向きジェット、ストリーム、またはミストを生成するために集合的に使用することができるSAWとSRBWとの組み合わせが生み出されるように、構成することができる。
図5および
図6は、デバイス10のこの実施形態による1対のエアロゾルジェットの生成を示している。
【0045】
上述のデバイス10の実施形態を、例えば1ml/分以上など、100μl/分よりも大きい速度で液体物質を霧化または噴霧化するために使用することができる。液体物質は、薬物、可溶性物質、ポリマー、タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、細胞、幹細胞、香水、香料、ニコチン、化粧品、農薬、殺虫剤、およびこれらの組み合わせから選択される機能性または治療用の作用薬を含むことができる。例えば生物学的物質、医薬物質、香気物質、化粧物質、抗菌物質、抗真菌物質、かび防止(antimould)物質、殺菌剤、除草剤、防かび剤、殺虫剤、肥料、など、他の同等または代替の機能的または治療用の作用薬を液体中に混合、溶解、分散、または懸濁させることができる。また、デバイス10を、1nm~1mmの直径を有する粒子、粉末、または結晶を生成するために可溶性物質を霧化または噴霧化するために使用することもできる。さらに、デバイス10を、1nm~1mmの直径を有する粒子または粉末で治療の目的のための薬物分子をコーティングし、あるいは包むために使用することができる。また、デバイス10を、他の同等または代替の生体マイクロ流体、マイクロ流体、マイクロ粒子、ナノ粒子、ナノ医薬、微結晶化、マイクロカプセル化、および微粉化の用途に使用することもできる。例えば、デバイス10は、霧化、噴霧化、移動、輸送、混合、噴出、ストリーム化、遠心分離、捕捉、分離、選別、コーティング、カプセル化、取り扱い、脱塩、精製、剥離、積層、およびこれらの組み合わせを含む物質についての音響波マイクロ流体操作を実行するように構成することができる。他の代替または同等のマイクロ流体操作も、デバイス10を使用して実行することができる。
【0046】
デバイス10を、幅広くさまざまな他のデバイス、システム、および装置への組み込みに適した低フォームファクタの低コストな小型サイズにて電池の電力で実現することができる。例えば、デバイス10は、肺への薬物の送達のための吸入器またはネブライザに組み込まれてよく、あるいは肺への薬物の送達のための吸入器またはネブライザとして構成されてよい。また、デバイス10は、ニコチンおよび/または香料を含有する液体を霧化させるために電子たばこに組み込まれてもよい。さらに、デバイス10は、におい発生器として構成され、ゲーム機に組み込まれてもよい。あるいは、
図14に示されるように、デバイス10を、眼科の薬物を送達するために、ゴーグルまたは眼鏡などの眼鏡類36に組み込むことができる。デバイス10のための電源38を、眼鏡類36のアームに設けることができる。眼鏡類36を、眼疾患の治療のために、薬物を含むエアロゾル、粒子、および粉末、ならびに薬物を包むポリマー粒子を送達するために使用することができる。デバイス10の他の同等または代替の用途も、使用可能である。
【0047】
上述のデバイス10を、液体から塩、結晶、粒子、不純物、またはこれらの組み合わせを分離することによる液体の精製または脱塩に使用することもできる。例えば、デバイス10による生理食塩水の噴霧化は、同じ溶液を含むエアロゾル滴の生成をもたらすことができ、その蒸発は、沈殿した塩結晶の形成をもたらす。それらの質量ゆえに、塩結晶は沈殿し、したがって水蒸気から慣性によって分離でき、したがって水蒸気の凝縮により、精製水が回収される。したがって、多数のデバイス10を並列に備えるプラットフォームへのデバイス10の拡大(すなわち、数を増やす)が、大規模脱塩のためのエネルギー効率の良い方法をもたらすことができる。あるいは、単一または少数のデバイス10からなる小型化されたプラットフォームを、第三世界の環境において有用となり得る電池動作の携帯型浄水システムとして使用することができる。
【0048】
他の実施形態においては、デバイス10を、材料を3Dのバルクの形態から2Dの剥離された形態へと剥離させるために使用することができる。材料は、例えばグラフェン、BN、TMD、TMO、黒リン、シリセン、ゲルマネン、およびこれらの組み合わせを含むことができる。他の代替または同等の材料も、使用することができる。材料の3Dのバルクの凝集形態は、液体材料または挿入材料中の材料を含むことができる。材料の2Dの剥離された形態は、シート、QD、フレーク、層、フィルム、あるいはこれらの組み合わせまたは複数もしくは構造を含むことができる。材料の2Dの剥離された形態は、例えば1nm~2000nmの間の横方向の寸法を有することができる。
【0049】
これらの実施形態において、HYDRAデバイス10を、HYDRAデバイス10によって生成された高周波数の音波を水中または挿入材料を用いた剥離前ステップの存在下で使用して、例えばTMO、TMD、および2D材料の他のホスト(ただし、これらに限られるわけではない)の大きなシートおよびQDを生成するための独自の高スループットの迅速な剥離方法を提供するために使用することができる。HYDRAデバイス10によるバルク溶液の噴霧化は、
図16に示されるように、単一または少数の層のフレークを生成する3Dバルク材料内の層間結合のせん断をもたらすことができる。図示の実施形態において、3Dバルク材料溶液
33を、HYDRAデバイス10の基板14の中心線に沿って紙芯28の助けによって導管26を介して供給することができる。噴霧化の最中に生成される高周波の音波が、飛行中の3Dバルク材料
33のせん断をもたらして、2Dの剥離した材料32を形成することができる。
図17は、数層のMoS
2 QDを有するHYDRA噴霧化滴を示すTEM画像である。
図18は、2μmx2μmをカバーするMoS
2 QDの薄膜のAFM画像である。この用途において、HYDRAデバイス10は、電界効果トランジスタ(FET)、メモリデバイス、光検出器、太陽電池、水素発生反応(HER)用の電解触媒、およびリチウムイオン電池(ただし、これらに限られるわけではない)における応用の目的に適した調節可能な膜のパターンおよび厚さを生み出す基板上の2D材料の連続的な噴霧化を通じて広い面積をカバーすることができる能力を提供することができる。
【0050】
ここ数年において、2D材料の研究は、ナノサイエンスの最も活気のある分野の1つになっている。この分野は、当初はグラフェンの研究が主であったが、その後にBN、MoS2およびWSe2などのTMD、MoO3およびRuO2などのTMO、ならびに黒リン、シリセン、およびゲルマネンなどの他のホストを含む幅広い範囲の2D材料を含むように広がっている。これらの材料は、きわめて多様であり、エネルギーからエレクトロニクスおよび触媒作用に至る分野の幅広い範囲の用途に使用されている。
【0051】
大量の2Dナノシートをそれらの3Dバルク材料から調製するために、これまでに提案されたナノシート製造方法は、機械的剥離または液相剥離(LPE)(または、「スコッチテープ法」)のいずれかを含む。機械的剥離から生じる高品質の単層ゆえに、この方法は、固有のシート製造および基礎研究に広く使用されている。それにもかかわらず、この方法は、その低い収量ならびにシートのサイズおよび層数の制御における欠点ゆえに、大規模な実際的な用途には適していない。
【0052】
LPE法においては、通常は粉末の形態である層状の結晶が、通常は適切な溶媒または界面活性剤溶液中で、超音波処理またはせん断混合によって剥離させられる。未剥離の粉末を除去するための遠心分離の後で、この方法は、高品質のナノシートを大量に含む分散液をもたらす。化学的剥離は、機械的剥離と比較して大幅に生産を増加させることができるが、このプロセスにおける超音波処理は、2D格子構造に欠陥を引き起こし、フレークのサイズを数千ナノメートルに減少させ、大規模集積回路および電子デバイスの分野における2Dナノシートの応用を制限する。
【0053】
近年において、大面積の一様性を有する2D TMDの制御可能な作成は、依然として大きな課題である。化学気相成長(CVD)法は、大規模集積エレクトロニクスなどの実用的な用途に向けた大きな可能性を示すウェーハスケールでの2D TMDの合成が可能であるため、大きな注目を集めている。この方法は、一定の厚さを有する連続した単一膜を調製できるだけでなく、層ごとの移送プロセスの際に導入される界面汚染を大幅に回避する直接成長層状ヘテロ構造を強調する。しかしながら、この方法は、スループットが低く、時間がかかり、専門的技術が必要である。上述の文脈において、本発明のデバイス10の実施形態は、従来からのCVD、LPE、および機械的剥離方法の有用な代替を提供する。
【0054】
次に、本発明を、以下の実施例に関して、あくまでも例示として、さらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、本明細書の全体における説明の開示の一般性を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0055】
実施例1:純粋なSAW
図7(a)~
図7(c)を参照すると、音響波マイクロ流体デバイス10を、標準的なフォトリソグラフィ技術を使用して128YX LN基板14(Roditi Ltd、London、UK)上でmm開口の40組のフィンガの10nm Cr/250nm Al IDT 12をパターニングすることによって製作することができる。デバイス10は、基板14の下面がIDT 12によってSAWを生成される表面を構成するように、
図1に対して反転させられていることに留意されたい。デバイス10は、IDT 12の方向が下面に示されている点を除き、上述してこれまでの図に示したデバイス10とおおむね同様である。関連する設計パラメータは、IDTフィンガ12の幅およびギャップによって決定されるλ
SAWと基板14の厚さhとの間の比であってよい。これらの例において、hを一定に維持し、デバイス10の共振周波数f、したがってλ
SAWを変更することによって、種々の漸近の事例を実証することができる。SAWを、信号発生器(SML01、Rhode & Schwarz、North Ryde、NSW、オーストラリア)および増幅器(ZHL-5W-1 Mini Circuits、Mini Circuits、Brooklyn、NY 11235-0003、米国)によってIDT 12へと10MHzの共振周波数で正弦波電気入力を印加することによって生成することができる。室温の脱イオン(DI)水を、試験流体として使用することができる。
【0056】
したがって、
図7(c)の概略図および
図8(b)の下段に示されるように、従来からの純粋なSAWデバイスは、λ
SAW<<1hの場合であり、すなわち周波数が高い場合である。この構成において、SAWが生成される下面に隣接する貫通深さ内に閉じ込められるSAWエネルギーは、基板14の厚さを通る長さスケールexp(-βz)にわたって急速に減衰させられ、ここでβは垂直z方向の固体におけるSAWの減衰の減衰係数であり、したがってSAWエネルギーは、基板14の上面に到達する前に完全に減衰させられる。換言すると、基板14(すなわち、IDT 12がパターン加工されている側)を通るSAWエネルギーの漏れによるこの面の振動は存在しない。代わりに、下面のSAWは、縁へと伝播し、さらにIDT 12の組によって反射させられない場合には上面へと伝播するが、そのエネルギーは、その伝播方向xに沿って基板表面においてexp(-αx)として減衰し、ここでαは、無限流体中、すなわち空気中、またはデバイス10上に液体が存在する場合には液体中のいずれかのSAWの長手方向減衰係数である。これを、基板14の両面におけるSAWの存在を確認する
図7(a)および7(b)のLDVスキャン画像(LDV;UHF-120;Polytec PI、Waldbronn、ドイツ)から見て取ることができる。SAWのさらなる証拠を、
図8(a)のLDVスキャンの下段において、λ
SAWよりもはるかに大きい高さを有する液滴はエッカートの流れ(Eckart flow)に起因してSAWの伝搬の方向に移動することに鑑み、ミリメートル寸法の液滴38が上面および下面に置かれたときにSAWのもとで反対の方向に運ばれていることから見て取ることができる。
【0057】
実施例2:純粋なSRBW
図8(b)の上段の概略図を参照すると、基板14の厚さが中程度の周波数においてSAW波長に相当する(すなわち、λ
SAW/h~1)ようになる場合、基板の下面に沿って伝播するSAWに関するエネルギーが、基板の厚さ全体に伝わり、したがってもはや基板14の上側において完全には減衰していない。したがって、バルク波が基板
14の厚さ全体にわたって存在し、SAWとの位相不整合および基板14内での複数の内部反射ゆえに、SRBWと称することができる上面に沿った移動バルク表面波として現れる。そのような波の個別の正体は、おそらくはそれらが望ましくなく、抑制されるべきであるという1950年代以降の長年の考えの結果として、これまでは見過ごされ、あるいは単純に包括的なバルク音響波として基板14の厚さを貫く幅広くさまざまな他の不要なバルク波モードとまとめて言及され、もしくは混ぜ合わされてきた。
【0058】
純粋なSRBWの存在は、
図8(b)の上段に示されるLDVスキャンおよび対向する液滴の移動の挙動から確認することができる。SRBWが基板14の上面への吸収性ゲル40(Geltec Ltd、Yokohama、日本国)の配置によって抑制されると、純粋なSAWが存在し、その伝播の方向に基板14の下面に沿って付着性の液滴38を移動させるだけでなく、縁を巡って上面へと液滴を押すことも見て取ることができる。これとは対照的に、SAWが上面へと回り込むことがないように下面の縁のゲル40によって吸収される場合、SRBWが、SAWが縁を巡って基板14の上面へと移動した場合に生じさせると考えられる移動の方向とは反対であるSRBWの伝播の方向に沿って移動するように液滴を駆動する。
【0059】
実施例3:混成SAW/SRBW
図11(c)は、効率的なマイクロ流体の取り扱いのために基板14の両面におけるSAWとSRBWとの組み合わせを利用するように構成され、すなわちλ
SAW/h~1を必要とすることによって構成されたデバイス10を示す。
図9(a)~
図9(c)および
図10(a)~
図10(c)にそれぞれ示される純粋なSRBWまたは純粋なSAWによって駆動されるマイクロ流体の取り扱いまたは噴霧化と比較して、
図11(a)および
図11(b)は、例えば噴霧化速度が1桁大きくなるなど、以下では混成共振音響(HYbriD Resonant Acoustics)(HYDRA)と呼ばれることもある両方の現象の組み合わせ時のマイクロ流体の取り扱いまたは噴霧化性能の顕著な向上の存在を示している。他方で、レーザー回折(Spraytec、Malvern Instruments、Malvern、英国)によって割り出される生成されたエアロゾルのサイズ分布は、平均空気力学的直径が、肺胞領域へと薬物を最適に送達するために適した1~3μmの範囲内にあることを示している。この範囲を上回るエアロゾルは、呼吸器の高度に分岐した枝分かれのネットワークを進む際に吸入の気流の軌道に従うことができないがゆえに、大部分が上気道に付着してしまい、この範囲を下回るエアロゾルは、吐き出されてしまう傾向にある。
【0060】
図12は、この実施例において生成された混成SAW/SRBWの典型的なLDVプロファイルであり、
図13は、実施例1において生成された純粋なSAWの典型的なLDVプロファイルである。
【0061】
本発明の実施形態は、マイクロ流体の霧化または噴霧化速度を1ml/分以上へと高める必要がある用途および動作などの幅広い範囲のマイクロ流体の用途および動作に有用な音響波エネルギーの利用を向上させた小型でコンパクトな低コストの電池駆動の音響波マイクロ流体デバイスを提供する。流体および液滴の噴霧化および霧化に加えて、実施形態のデバイスによって実行されるマイクロ流体操作は、これらに限られるわけではないが、流体の輸送、混合、ジェット化、選別、遠心分離、粒子の捕捉、粒子の選別、コーティング、カプセル化、取り扱い、およびこれらの組み合わせなど、ニオブ酸リチウム(および、他の圧電基板)における全ての他の代替または同等の種類の音響波マイクロ流体操作を含むことができる。本発明の異なる実施形態は、異なるモードの音響波エネルギー(SAW、SRBW、および定在音響波)の異なる組み合わせを使用して、液体の霧化に利用可能な正味の音響波エネルギーを最適化するように異なって構成される。これは、これまでに提案されたデバイスと比較して、流体、液滴、液体、または反応のマイクロ流体的な取り扱いのきわめて高くかつ効率的な速度を提供することができる音響波マイクロ流体デバイスをもたらす。
【0062】
本明細書の目的において、用語「・・・を備えている/・・・を含んでいる(comprising)」は、「・・・を含むが、・・・に限られない」を意味し、用語「備える/含む(comprises)」は、対応する意味を有する。
【0063】
上述の実施形態は、あくまでも例示として示されているにすぎず、以下の特許請求の範囲の技術的範囲において変更が可能である。