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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】ブラシレスモータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/278 20220101AFI20220307BHJP
【FI】
H02K1/278
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018047393
(22)【出願日】2018-03-15
(65)【公開番号】P2019161921
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内舘 高広
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 実紅
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-519581(JP,A)
【文献】特開2015-065768(JP,A)
【文献】特開2001-339888(JP,A)
【文献】特開2006-296020(JP,A)
【文献】特開2017-063610(JP,A)
【文献】特開2007-236019(JP,A)
【文献】特開2015-053757(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150487(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/278
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
該ステータの内部に回転自在に軸支されるロータと、
を備えたブラシレスモータであって、
前記ロータは、
シャフトが挿通される円筒形状のロータコアと、
該ロータコアの外周に接着剤を介して固定されるリングマグネットと、
前記シャフトに取り付けられ、前記ロータコアおよび前記リングマグネットの軸方向端面を覆うマグネットカバーと、を有し、
該マグネットカバーに軸方向に突出する複数の凸部が設けられ、
該複数の凸部は前記リングマグネットの内周面に当接するように配置され、
前記マグネットカバーに、前記ロータコアと前記リングマグネットとの間に連通する接着剤ポケットを設けた、ブラシレスモータ。
【請求項2】
請求項1記載のブラシレスモータにおいて、
前記凸部が嵌め合わされる受け部を、前記ロータコアに設けた、ブラシレスモータ。
【請求項3】
請求項2記載のブラシレスモータにおいて、
前記ロータコアは、積層された複数の標準型鋼板と複数の切欠き付き鋼板とからなり、
前記標準型鋼板は中心部に前記シャフトが挿通されるシャフト孔が設けられた円形状であり、
前記切欠き付き鋼板は中心部に前記シャフトが挿通されるシャフト孔と、前記受け部に対応する箇所に切欠き部が設けられている、ブラシレスモータ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のブラシレスモータにおいて、
前記凸部は前記マグネットカバーの円周方向に等間隔置きに4つ設けられている、ブラシレスモータ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のブラシレスモータにおいて、
前記マグネットカバーは、
径方向に延在する本体部と、
該本体部に設けられ、前記ロータコアに向けて突出し前記シャフトと同心円の内側リブと、
前記本体部に前記内側リブよりも径方向外方に設けられ、前記リングマグネットに向けて突出し前記内側リブと同心円の外側リブと、を有し、
前記接着剤ポケットは、前記本体部と前記内側リブと前記外側リブとにより形成される、ブラシレスモータ。
【請求項6】
請求項記載のブラシレスモータにおいて、
前記内側リブと前記ロータコアとの少なくとも一方に、空気抜き用の溝を設けた、ブラシレスモータ。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のブラシレスモータにおいて、
前記マグネットカバーは、樹脂材料からなる、ブラシレスモータ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のブラシレスモータにおいて、
該ブラシレスモータは自動車のブレーキ装置駆動用に用いられる、ブラシレスモータ。
【請求項9】
ステータと、
シャフトおよび該シャフトが挿通されるロータコアを有し、前記ステータの内部に回転自在に軸支されるロータと、
を備えたブラシレスモータの製造方法であって、
前記ロータコアよりも大径であって前記ロータコアの一方の端面を覆うマグネットカバーをシャフトに装着し、前記マグネットカバーに設けられた複数の凸部を前記ロータコアの一端部に前記ロータコアの外周面よりも外方に突出させるとともに軸方向に延在させる装着工程と、
前記ロータコアの外周面に接着剤を塗布する塗布工程と、
前記ロータコアの他方の端面側から前記マグネットカバーに向けてリングマグネットを軸方向に移動することにより、前記ロータコアと前記リングマグネットとの間に接着剤層を形成しつつ、前記リングマグネットの内周面に前記凸部を当接させて前記ロータコアとの中心軸に前記リングマグネットの中心軸を一致させる芯出し工程と、
を有するブラシレスモータの製造方法。
【請求項10】
請求項記載のブラシレスモータの製造方法において、
前記マグネットカバーを前記シャフトに装着するときに、前記凸部を前記ロータコアの端部に設けられた受け部に嵌め合わせる、ブラシレスモータの製造方法。
【請求項11】
請求項または10記載のブラシレスモータの製造方法において、
前記リングマグネットを前記マグネットカバーに向けて軸方向に移動するときに、
前記マグネットカバーに設けられた接着剤ポケットに接着剤を漏出させる、ブラシレスモータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアユニットに接着されるリングマグネットからなるロータを有するブラシレスモータの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータは、磁界用マグネットが設けられたロータと、電機子巻き線が設けられたステータとを有している。ロータの位置は磁気感応素子であるホール素子により検出され、ホール素子の検出信号に基づいて各ステータコイルに対する通電タイミングがインバータにより制御される。ロータには、ロータの外周に複数のマグネットが貼り付けられた表面磁石型(SPM)と、複数の永久磁石がロータに埋め込まれた埋込磁石型(IPM)とがある。さらに、ロータにはリングマグネットを備えたタイプがあり、このタイプのロータは、磁性材料からなる円筒部材に磁極としてのN極とS極が円周方向にずらして交互に着磁されたリングマグネットを備えている。
【0003】
特許文献1はリングマグネットを備えたロータつまり回転子を開示しており、特許文献2はロータ部へのリングマグネットの接着方法を開示している。
【0004】
一方、特許文献3はブラシレスモータを有する車両のパーキング用のブレーキ装置を開示しており、このブラシレスモータは表面磁石型のロータを有している。このブレーキ装置は、車軸に取り付けられたブレーキディスクの一部を跨ぐように配置されるキャリパを有している。キャリパはピストンが設けられたシリンダ部と、シリンダ部にディスクを介して対向する爪部とを備え、ピストンと爪部とにはブレーキディスクに押圧されるパッドが設けられている。ブレーキペダルが操作されると、ピストンに液圧が供給されてブレーキディスクにはそれぞれのパッドが押圧されて車軸に制動力が加えられる。ブラシレスモータにより減速機を介して回転駆動される送りねじ部材がピストンにねじ結合されており、パーキングブレーキスイッチが操作されると、送りねじ部材によりピストンが駆動されて車軸に制動力が加えられる。特許文献3はパーキング用のブレーキ装置であるが、パッドが設けられた往復動部材をピストンに代えてモータ駆動するようにすると、車両走行時にも使用される電動ブレーキとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-182294号公報
【文献】特開2010-187499号公報
【文献】特開2016-125512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リングマグネットを備えたロータは、磁性材料により一体に形成された円筒形状の部材に、磁極を着磁することにより形成されるので、円周方向に均等に磁極を割り付けることができる。さらに、少ない組み立て工数でロータを製造することができる。これにより、リングマグネットを備えたロータは、高精度のブラシレスモータを低コストで製造することができるというメリットがある。
【0007】
リングマグネットはシャフトに取り付けられたコアユニットつまりロータコアの外側に接着剤を使用して接着される。このため、ロータコアの表面にリングマグネットを接着する際に、ロータコアの中心軸とリングマグネットの中心軸とが同軸とならないと、ロータコアとリングマグネットとの間の接着剤の厚みに偏りが発生することがある。接着剤の厚みに偏りが発生すると、ブラシレスモータの品質低下をもたらすことになる。リングマグネットとロータコアの芯出しを容易に行うことが困難であることから、例えば、特許文献2に記載されるように、ロータ部つまりロータコアとリングマグネットとの間に接着剤を介在させた状態で、接着剤が固化するまでロータコアとリングマグネットを備えたロータを回転させるようにしたリングマグネットの接着方法が提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載されるように、ロータを接着剤が固化するまで回転させるようにすると、モータの製造設備として、ロータを回転させる設備が必要となり、製造コストが高くなる。さらに、モータを製造する際には、ロータを回転させるための時間を余分に必要とし、製造効率を向上させることができないという課題がある。
【0009】
本発明の目的は、リングマグネットを備えたブラシレスモータの品質および製造効率を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のブラシレスモータは、ステータと、該ステータの内部に回転自在に軸支されるロータと、を備えたブラシレスモータであって、前記ロータは、シャフトが挿通される円筒形状のロータコアと、該ロータコアの外周に接着剤を介して固定されるリングマグネットと、前記シャフトに取り付けられ、前記ロータコアおよび前記リングマグネットの軸方向端面を覆うマグネットカバーと、を有し、該マグネットカバーに軸方向に突出する複数の凸部が設けられ、該複数の凸部は前記リングマグネットの内周面に当接するように配置され、前記マグネットカバーに、前記ロータコアと前記リングマグネットとの間に連通する接着剤ポケットを設けた
【0011】
本発明のブラシレスモータの製造方法は、ステータと、シャフトおよび該シャフトが挿通されるロータコアを有し、前記ステータの内部に回転自在に軸支されるロータと、を備えたブラシレスモータの製造方法であって、前記ロータコアよりも大径であって前記ロータコアの一方の端面を覆うマグネットカバーをシャフトに装着し、前記マグネットカバーに設けられた複数の凸部を前記ロータコアの一端部に前記ロータコアの外周面よりも外方に突出させるとともに軸方向に延在させる装着工程と、前記ロータコアの外周面に接着剤を塗布する塗布工程と、前記ロータコアの他方の端面側から前記マグネットカバーに向けてリングマグネットを軸方向に移動することにより、前記ロータコアと前記リングマグネットとの間に接着剤層を形成しつつ、前記リングマグネットの内周面に前記凸部を当接させて前記ロータコアとの中心軸に前記リングマグネットの中心軸を一致させる芯出し工程と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
ブラシレスモータのロータは、ロータコアの外周に接着剤により固定されるリングマグネットを有し、ロータコアとリングマグネットの軸方向端面は、シャフトに取り付けられるマグネットカバーにより覆われる。マグネットカバーにはリングマグネットの内周面に当接する凸部が設けられているので、マグネットカバーをロータコアに軸方向に移動して装着すると、マグネットカバーはロータコアの中心軸に一致して芯出しされる。これにより、高精度に芯出しされたロータを効率的に組み立てることができ、ブラシレスモータの製造効率を向上させることができる。マグネットカバーに接着剤ポケットを設けると、ロータコアの外周にリングマグネットを嵌着させるときには、接着剤は接着剤ポケット内に入り込んで、ロータの外部に漏出することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施の形態であるブラシレスモータを示す斜視図である。
図2図1の縦断面図である。
図3図2の横断面図である。
図4】モータの回転制御回路を示すブロック図である。
図5図1に示されたロータの斜視図である。
図6図5の拡大縦断面図である。
図7図6におけるA-A線断面図である。
図8】マグネットカバーの内面側を示す斜視図である。
図9図8の平面図である。
図10】マグネットカバーの変形例を示す斜視図である。
図11】(A)~(D)はロータの製造方法の一例を示す工程図である。
図12】(A)~(C)はロータの他の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1および図2に示されるように、ブラシレスモータ10はモータケース11を備えている。モータケース11は、金属板を深絞り等のプレス加工を施すことにより形成され、図2に示されるように、底壁部11aと円筒部11bを有し、円筒部11bの開口端部12にはフランジ部11cが設けられている。フランジ部11cには、樹脂材料からなるブラケット13が複数のねじ部材14により取り付けられる。
【0015】
ブラケット13には複数のカラー15が取り付けられており、それぞれのカラー15を貫通するねじ部材により、ブラシレスモータ10は図示しない部材に取り付けられる。このブラシレスモータ10は、自動車のブレーキ装置駆動用に適用することができ、その場合には、モータケース11はカラー15を貫通するねじ部材により減速機に取り付けられる。
【0016】
図2に示されるように、モータケース11の円筒部11bには、ステータ16が固定され、ステータ16の内部にはロータ17がエアギャップつまり隙間18を介して回転自在に軸支される。ロータ17はモータのシャフト19を有し、シャフト19の基端部は軸受21によりモータケース11に回転自在に軸支され、先端部は軸受22によりブラケット13に回転自在に軸支される。軸受21は、モータケース11の底壁部11aに設けられた筒部23に装着され、軸受22はブラケット13に取り付けられたホルダー24に装着される。
【0017】
シャフト19の図2における下端部をシャフト19の基端部とし、上端部を先端部とすると、先端部にはピニオンギヤ25が取り付けられる。ピニオンギヤ25の回転は、図示しない減速歯車機構を介して送りねじ軸に伝達される。送りねじ軸は、ブレーキ装置のキャリパに軸方向に往復動自在に装着された往復動部材にねじ結合されている。往復動部材とこれに対向するキャリパの爪部とには、それぞれ自動車の電動ブレーキ装置のブレーキディスクに押圧されるパッドが設けられており、ブラシレスモータ10により自動車には制動力が加えられる。
【0018】
図3に示されるように、ロータ17は円筒形状のロータコア26を有し、ロータコア26の挿通孔27にはシャフト19が貫通して挿入される。ロータコア26の外周には接着剤28によりリングマグネット29が固定される。挿通孔27には複数の凹溝31が軸方向に延びて設けられている。ロータコア26は、プレス加工により略環状に打ち抜かれた金属板(電磁鋼板)を複数枚積層することにより形成される。それぞれの金属板には、積層時の位置決め用の貫通孔32と、ロータコア26の軽量化のための貫通孔33とが形成されている。
【0019】
リングマグネット29は、磁性材料からなる円筒形状の部材に、磁極としてのN極とS極とを円周方向にずらして交互に着磁することにより形成される。図3に示されるリングマグネット29には、円周方向に10個の磁極が着磁されており、ロータ17は10極の極数を有している。図3においては、リングマグネット29の磁極の境界部分が破線で示されている。このように、ブラシレスモータ10は、リングマグネット型であり、前述のように、表面磁石型や埋込磁石型のロータと相違して、円周方向に均等に磁極を割り付けることができるとともに、少ない組み立て工数でロータ17を製造することができる。表面磁石型のロータは、円筒形状の部材の外周面に貼り付けられた円弧形状の磁石が外れることが考えられるが、リングマグネット29によりモータの耐久性を向上させることができる。
【0020】
ステータ16は、略円筒形状のステータコア34を有している。ステータコア34は、図3に示されるように、9つのティース部35を円周方向に組み合わせることにより形成される。それぞれのティース部35は、プレス加工により打ち抜かれた金属板(電磁鋼板)を複数枚積層することにより形成される。それぞれの金属板には、積層時の位置決め用の図示省略した貫通孔が設けられている。それぞれのティース部35には絶縁性の樹脂材料からなるインシュレータ36が装着され、インシュレータ36の外側にはコイル37が巻き付けられている。9つのティース部35にコイル37が巻き付けられており、図3に示されるステータ16は、9つのコイル37を有している。
【0021】
それぞれのコイル37は、円周方向に順にU相、V相、W相の3相を構成し、それぞれの相は、3つのコイル37により形成される。図2に示されるように、ステータ16の先端側の端面にはバスバーユニット38が配置されている。バスバーユニット38により各コイル37の端子と外部電源とが電気的に接続される。シャフト19には、ロータ17の回転方向の位置を検出するために、センサディスク41が取り付けられている。センサディスク41は、シャフト19に嵌合される円筒部42aと円筒部42aの一端に設けられたディスク部42bとを備えた基部42と、円筒部42aに設けられた環状部43とを有し、環状部43にはマグネットが設けられている。ブラケット13には、センサディスク41に対向してセンサ基板44が取り付けられており、センサディスク41に設けられたマグネットの磁力に感応するホール素子45が設けられている。
【0022】
図4はモータの回転制御回路を示すブロック図である。回転制御回路は、3相のコイルに対応させて3つのホール素子45a~45cを有し、それぞれのホール素子は上述のように、図2に示したセンサ基板44に取り付けられている。図2のセンサ基板44には、1つのホール素子45が示されているが、円周方向にずらして3つのホール素子45a~45cがセンサ基板44に設けられている。それぞれのホール素子45a~45cは、環状部43に設けられたマグネットの磁束を検出することにより、ロータ17の磁極部の極性がN極からS極の中性点となったときに検出信号を出力する磁界検出素子であり、ホール素子からの検出信号に基づいてロータ17の位置を検出し、それぞれのコイル37に対する通電切換動作が行われる。回転位置を検出するためのセンサとしては、ホール素子のみな限られず、コンパレータの機能を有する電子素子とホール素子をワンチップ化したホールICを用いるようにしても良い。
【0023】
モータの回転制御回路は、U相、V相およびW相の各コイル37に対する駆動電流を制御するためのインバータ回路46を有している。インバータ回路46は、3相フルブリッジインバータ回路であり、それぞれ直列に接続された2つのスイッチング素子T1、T2と、2つのスイッチング素子T3、T4と、2つのスイッチング素子T5、T6とを有し、それぞれは直流電源47の正極と負極の出力端子に接続される。2つのスイッチング素子T1、T2の間には、U相のコイル37の一方の接続端子が接続される。2つのスイッチング素子T3、T4の間には、V相のコイル37の一方の接続端子が接続される。2つのスイッチング素子T5、T6の間には、W相のコイル37の一方の接続端子が接続される。U相、V相およびW相のそれぞれのコイル37の他方の接続端子は、相互に接続されており、各コイル37はスター結線となっている。なお、結線方式としては、デルタ結線としても良い。それぞれのスイッチング素子に供給される制御信号のタイミングを調整することにより、各コイル37に対する転流動作が制御される。
【0024】
モータの回転制御回路は、コントローラ48を有しており、コントローラ48からは制御信号出力回路49を介してインバータ回路46に制御信号が送られる。回転位置検出センサとしてのホール素子45a~45cの検出信号は、回転子位置検出回路50に送られる。回転子位置検出回路50からはコントローラ48に信号が送られる。コントローラ48は制御信号を演算するマイクロプロセッサと、制御プログラムおよびデータ等が格納されるメモリとを有している。
【0025】
インバータ回路46、コントローラ48、回転子位置検出回路50等はモータの外部に設けられており、各相のコイルの一方の接続端子とインバータ回路46とを接続するリード線は、図1に示されるように、ブラケット13に設けられたケーブルガイド51を通って外部に案内される。3つのホール素子45a~45cと回転子位置検出回路50とを接続するリード線は、ブラケット13に設けられたケーブルガイド52を通って外部に案内される。
【0026】
図5図1に示されたロータの斜視図であり、図6図5の拡大縦断面図であり、図7図6におけるA-A線断面図である。図8はマグネットカバーの内面側を示す斜視図であり、図9図8の平面図である。
【0027】
シャフト19の基端部側にはロータコア26が装着されるコア装着部19aが設けられており、コア装着部19aは他の部分よりも大径である。コア装着部19aに近付けてマグネットカバー53がシャフト19に装着される。マグネットカバー53は、樹脂材料からなり、シャフト19の外周面に嵌合されるボス部54と、ボス部54から径方向外方に延在する円板形状の本体部55とを有し、ロータコア26とリングマグネット29の一方の軸方向端面を覆う。
【0028】
マグネットカバー53の本体部55には、ロータコア26の径方向の内側部分に向けて突出する内側リブ56が設けられている。内側リブ56はシャフト19と同心円である。つまり、シャフト19の中心軸と同心であり、かつシャフト19の軸方向から見て円形である。本体部55には、リングマグネット29に向けて突出する外側リブ57が設けられている。外側リブ57は、内側リブ56よりも径方向外方に位置させて本体部55に設けられており、内側リブ56と同心円である。内側リブ56と外側リブ57と本体部55におけるこれらのリブの間の部分により、接着剤ポケット58が形成される。接着剤ポケット58は環状溝形状であり、ロータコア26とリングマグネット29の軸方向端面に向けて接着剤ポケット58は開口する。接着剤ポケット58は、ロータコア26の外周面とリングマグネット29の内周面との間の隙間、つまり接着剤28が介在する部分に連通する。
【0029】
マグネットカバー53の内面には、図7図9に示されるように、4つの凸部59が軸方向に突出している。凸部59がマグネットカバー53の内面から軸方向に突出する長さは、内側リブ56および外側リブ57よりも長く、凸部59はリングマグネット29の内周面に当接する。それぞれの凸部59は、円周方向に等間隔置きにマグネットカバー53に一体に設けられており、それぞれの凸部59の円周方向の中心部は円周方向に90度ずつずれている。凸部59の径方向の位置は、内側リブ56と外側リブ57の間であり、凸部59は接着剤ポケット58内に突出している。凸部59がリングマグネット29の内周面に当接するので、リングマグネット29をロータコア26の外側に装着すると、図7に示されるように、それぞれの凸部59の径方向外面がリングマグネット29の内周面に当接し、ロータコア26とリングマグネット29は両方の中心軸が同軸となるように芯出しされる。凸部59の数は、3つ以上であれば、芯出し機能を得ることができるが、図示するように4つあるいはそれ以上設けると、より容易に芯出しすることができる。
【0030】
ロータコア26の一端部には、凸部59が嵌め合わされる受け部60が設けられている。受け部60は、図7に示されるように、ロータコア26の外周面に設けられた円弧面形状の溝により形成されている。このように、ロータコア26に受け部60を設けると、ロータコア26にマグネットカバー53を突き当てシャフト19にマグネットカバー53を取り付けると、凸部59が受け部60に嵌め合わせられ、マグネットカバー53はロータコア26に組み付け固定されるとともに、マグネットカバー53の中心軸はシャフト19およびロータコア26の中心軸に一致して芯出しされる。
【0031】
ロータコア26は、上述のように、円形状の電磁鋼板を複数枚積層することにより形成されており、ロータコア26は、図6に示されるように、複数の標準型鋼板30aと複数の切欠き付き鋼板30bとを有している。切欠き付き鋼板30bは、中心部にシャフト19が挿通されるシャフト孔つまり挿通孔27が形成され、受け部60に対応する箇所に受け部60の形状に対応した円弧面形状の切欠き部が外周部に形成されている。一方、標準型鋼板30aは、シャフト19が挿通される挿通孔27が中心部に形成され、切欠きは形成されていない。このように、ロータコア26は、複数枚の標準型鋼板30aと、挿通孔27と切欠きが形成された複数枚の切欠き付き鋼板30bとにより形成されている。切欠き付き鋼板30bは、凸部59が内側リブ56の先端面から突出する長さ寸法に対応した厚みを構成する枚数によりロータコア26の一端部が形成される。
【0032】
ロータコア26にマグネットカバー53が装着された状態でロータコア26の外周面には接着剤28が塗布される。塗布された接着剤28が接着剤ポケット58内に入り込むと、入り込んだ接着剤28により、マグネットカバー53はロータコア26とリングマグネット29に接着される。マグネットカバー53は、ロータ17がステータ16に組み込まれると、図2に示されるように、センサディスク41よりもモータの軸方向内側に配置される。したがって、マグネットカバー53がロータコア26とリングマグネット29から離れたとしても、マグネットカバー53の軸方向のずれ移動は、センサディスク41により抑制される。
【0033】
ロータコア26とマグネットカバー53とを別部材としても良く、金属製のロータコア26と樹脂製のマグネットカバー53とを予め組み合わせた一体型部材としても良い。別部材とした形態においては、ロータコア26とマグネットカバー53とが順次シャフト19に装着される。一方、一体型部材とした場合には、ロータコア26とマグネットカバー53の組立体がシャフト19に装着される。マグネットカバー53が一体となった一体型のロータコア26を製造するには、ロータコア26を形成するための金属板を樹脂成形金型に配置した状態でマグネットカバー53をインサート成形する。インサート成形するときには、金属板に凹凸部や貫通孔を予め形成しておけば、樹脂と金属板との密着性が高められる。樹脂と組み合わされた金属板を他の金属板に積層することにより、ロータコア26を製造することができる。また、複数枚の金属板を積層してロータコア26を組み立てた後に、マグネットカバー53をロータコア26にインサート成形しても良い。
【0034】
図11はロータ17の製造方法を示す組立工程図である。このロータ17はロータコア26とマグネットカバー53とが別部材となっている。図11(A)は、シャフト19にロータコア26を装着している第1の装着工程を示す。第1の装着工程においては、シャフト19は基端部を下側として、シャフト19の上方端側つまり一端部側からロータコア26が矢印で示されるようにシャフト19に軸方向に装着される。これにより、シャフト19はロータコア26の内部に挿入され、図11(B)に示されるように、コア装着部19aの位置にロータコア26が固定される。
【0035】
ロータコア26に続いて、図11(B)に示されるように、シャフト19にマグネットカバー53が装着される。シャフト19にマグネットカバー53を装着する第2の装着工程においては、シャフト19の一端部側からマグネットカバー53が矢印で示されるようにシャフト19に軸方向に装着される。このときには、凸部59が受け部60に嵌め合わされ、マグネットカバー53は、ロータコア26に対する径方向の位置が所定の位置に設定されてロータコア26に組み付け固定される。
【0036】
マグネットカバー53がロータコア26に取り付けられると、内側リブ56はロータコア26の一方の端面の径方向内側部分に当接する。内側リブ56をロータコア26に軽く当接させると、内側リブ56の端面とロータコア26の端面との少なくともいずれか一方の表面粗さによって、内側リブ56とロータコア26との間には、図11(D)に示されるように、軸方向の幅寸法が0.1mm程度の極薄い幅の空隙61が形成される。この空隙61の軸方向の幅寸法としては、0.05~0.15mmに設定される。空隙61の幅寸法を一定値に設定するには、シャフト19にマグネットカバー53を装着するときに、厚みゲージをロータコア26の端面とマグネットカバー53との間に配置するようにしても良い。
【0037】
マグネットカバー53がシャフト19に取り付けられて、ロータコア26の端面がマグネットカバー53により覆われる。次いで、図11(C)に示されるように、シャフト19は上下が反転される。この状態のもとで、ロータコア26の外周面26aに接着剤28が塗布される。この塗布工程においては、接着剤28を図示しないノズルから吐出させながら、ロータコア26を回転させるとともにノズルをロータコア26に沿って軸方向に移動させることにより、外周面26aに螺旋状に接着剤28が塗布される。図11(C)は、このようにして、接着剤28が外周面26aに塗布された状態を示す。接着剤28の塗布方式としては、このような方式に限定されることなく、刷毛により接着剤28を外周面26aに塗布するようにしても良く、スプレーにより塗布するようにしても良い。
【0038】
図11(D)においては、ロータコア26の他方の端面側からリングマグネット29をロータコア26の外側に嵌め合わせて、マグネットカバー53に向けて、軸方向に移動させている状態が二点鎖線で示されている。リングマグネット29をマグネットカバー53に当接させる位置まで移動させて、リングマグネット29をロータコア26に嵌着させると、図11(D)において実線で示すように、リングマグネット29の一端部の内周面は4つの凸部59に当接し、リングマグネット29がマグネットカバー53の外側リブ57に当接される。このように、リングマグネット29の内周面に凸部59が当接すると、リングマグネット29とロータコア26は、それぞれの中心軸が同軸となるように芯出しされる。また、リングマグネット29が外側リブ57に当接することにより、リングマグネット29の軸方向の位置決めが達成される。これにより、ロータコア26の外周面26aとリングマグネット29の内周面29aとの間に接着剤28からなる接着剤層が形成される。接着剤層の厚みは全体的に均一になる。
【0039】
このように、マグネットカバー53の凸部59にリングマグネット29の内周面を当接させることにより、リングマグネット29の芯出しが達成されるので、上述した従来技術のように、ロータコアを回転させて遠心力により芯出しを行うことなく、リングマグネット29のロータコア26に対する芯出しを、リングマグネット29をロータコア26に軸方向に装着する動作のみにより、容易に行うことができる。したがって、リングマグネット29とロータコア26が同軸となった高品質のロータ17を効率的に製造することができる。常温硬化型の接着剤を用いた場合には、接着剤が固化するまで、図11(D)に示した状態で保持される。一方、熱硬化性の接着剤を使用した場合には、図11(D)に示した状態で加熱処理される。
【0040】
リングマグネット29の端部には、図11(D)に示されるように、端面に向けて径が大きくなったテーパ面62が設けられており、リングマグネット29をマグネットカバー53に当接させる位置まで移動させときに、外周面26aに塗布された接着剤28は確実にリングマグネット29の内周面29aと外周面26aとの間に入り込む。さらに、外周面26aに塗布された接着剤28の一部は、リングマグネット29の端面によりマグネットカバー53に向けて押されて、接着剤28は接着剤ポケット58内に入り込む。
【0041】
接着剤28が接着剤ポケット58内に入り込むと、接着剤ポケット58内のエアは、空隙61から径方向内方に向けて排出される。このように、内側リブ56とマグネットカバー53との間に空隙61を設けると、接着剤ポケット58に押し込まれる接着剤28により、接着剤ポケット58内からエアが外部に排気されるので、接着剤28を容易に接着剤ポケット58内に入り込ませることができる。外側リブ57はリングマグネット29に当接しており、接着剤28がロータ17の外部に漏出することが防止される。このように、接着剤28がロータ17の外部に漏出することが防止されると、ロータ17を組み立てる組立治具に接着剤が付着することが防止され、ブラシレスモータ10の製造効率を向上させることができる。さらに、接着剤ポケット58内に入り込んだ接着剤28により、ロータコア26の端面とマグネットカバー53とが接着されるので、ロータコア26とマグネットカバー53のシャフト19に対する固定強度が高められる。
【0042】
ロータコア26の外周面26aへの接着剤28の塗布量は、リングマグネット29をロータコア26の外側に嵌着したときに、接着剤ポケット58から漏出しない量とすることが好ましいが、内側リブ56とロータコア26との間を通って接着剤ポケット58からシャフト19に向けて接着剤28を流出させるようにすれば、シャフト19とマグネットカバー53との間の隙間に接着剤28が入り込み、ロータ17の外部には接着剤28が漏出することなく、シャフト19とマグネットカバー53との接着強度が高められる。そのためには、内側リブ56をロータコア26の端面に軽く当接させる一方、外側リブ57にリングマグネット29の端面を強く当接させる。これにより、リングマグネット29の端面は外側リブ57に密着し、外側リブ57とリングマグネット29との間から接着剤28が漏出することを防止できる。
【0043】
図10はマグネットカバー53の変形例を示す斜視図である。マグネットカバー53の内側リブ56の端面には、複数の空気抜き用の溝61aが設けられている。このように、マグネットカバー53に溝61aを設けると、接着剤ポケット58に接着剤28が入り込むときに、接着剤ポケット58から空気抜き用の溝61aを介してエアを外部に排出することができる。なお、溝61aの深さ寸法は、0.05~0.15mmであり、図10においては、溝61aが誇張して示されている。なお、空気抜き用の溝61aをマグネットカバー53に設けることなく、ロータコア26のうち、マグネットカバー53の内側リブ56が当接する部分に、空気抜き用の溝61aを設けるようにしても良い。
【0044】
図12は、ロータ17の他の製造方法を示す工程図である。図12(A)は、上述のように、ロータコア26とマグネットカバー53とが予めインサート成形により組み合わせられた一体型のロータコア26を示す。一体型のロータコア26においても、ロータコア26とマグネットカバー53の内側リブ56との間には、上述した場合と同様に、空隙61が設けられている。図12(B)は、一体型のロータコア26をシャフト19に装着している状態を示す。図12(C)は、ロータコア26がコア装着部19aに嵌合する位置まで装着された状態を示す。
【0045】
このようにして、シャフト19にロータコア26とマグネットカバー53とが装着された後に、上述のように、図11(C)に示した塗布工程においてロータコア26の外周面26aに接着剤28が塗布される。さらに、図11(D)に示した嵌着工程においてロータコア26の外側にリングマグネット29が嵌着される。なお、図12(A)においては、ロータコア26を構成する全ての電磁鋼板にマグネットカバー53を装着しているが、切欠きが形成された複数の切欠き付き鋼板30bに、マグネットカバー53を装着するようにしても良い。
【0046】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、ロータ17に着磁される磁極の極数は、図示した10極に限られず、2極、4極、8極等とすることもできる。さらに、コイル37が巻き付けられるステータ16のティース部35の数は、図示した9つに限られず、3個、6個等の3の倍数であれば、いつくでも良い。
【符号の説明】
【0047】
11 モータケース
13 ブラケット
16 ステータ
17 ロータ
19 シャフト
19a コア装着部
26 ロータコア
26a 外周面
28 接着剤
29 リングマグネット
29a 内周面
34 ステータコア
35 ティース部
36 インシュレータ
37 コイル
38 バスバーユニット
41 センサディスク
42 基部
43 環状部
44 センサ基板
45a~45c ホール素子
53 マグネットカバー
54 ボス部
55 本体部
56 内側リブ
57 外側リブ
58 接着剤ポケット
59 凸部
61 空隙
61a 溝
62 テーパ面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12