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特許7034818増殖性ヘルパーワクシニアウイルスを使用するポックスウイルスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】増殖性ヘルパーワクシニアウイルスを使用するポックスウイルスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/863 20060101AFI20220307BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20220307BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C12N15/863 Z
C12N7/02
C12N7/01 ZNA
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018080741
(22)【出願日】2018-04-19
(65)【公開番号】P2019187249
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100156111
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】末永 清剛
(72)【発明者】
【氏名】沖田 剛
(72)【発明者】
【氏名】栗山 幸子
(72)【発明者】
【氏名】坂口 正士
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/076422(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012570(WO,A1)
【文献】Yoshikawa, T. et.al.,Construction and characterization of bacterial artifical chromosomes harboring the full length genome of a highly attenuated vaccinia virus LC16m8,PLOS one,2018年02月23日,vol.13, no.2,pp1-25,e0192725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポックスウイルスの製造方法であって、
(1)培養細胞にヘルパーウイルスとして増殖性のヘルパーワクシニアウイルスを感染させ培養する工程と、
(2)培養細胞に目的ポックスウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、
(3)前記培養細胞から目的ポックスウイルスを回収する工程と、
を含み、前記工程(1)と工程(2)とはいずれかの工程の後に他の工程を行う、
方法。
【請求項2】
前記ヘルパーワクシニアウイルスとして安全性の高いワクシニアウイルスが使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記安全性の高いワクシニアウイルスは、ワクチン株又はワクチン株に由来することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記安全性の高いワクシニアウイルスは、New York City Board of Health (NYCBH)株、EM-63株、Lister株、Paris株、Copenhagen株、Bern株、Ankara株、Temple of Heaven株、Vaccinia Tian Tan株、Dairen株、ACAM2000株、LC16m8株、Modified Vaccinia Ankara (MVA)株、Dairen I (DIs)株又はLC16mO株のいずれかである、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記ワクチン株が、LC16m8であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ヘルパーウイルスが、蛍光タンパク質を発現することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
蛍光タンパク質がGFPであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記安全性の高いワクシニアウイルスは、野生型ワクシニアウイルスと比較して、B5R遺伝子の機能を欠損する改変が加えられていることを特徴とする、請求項2から請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ヘルパーワクシニアウイルスとして、正常細胞での増殖性を抑制し、腫瘍細胞では増殖可能となるような改変が加えられたヘルパーワクシニアウイルスを使用する、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ヘルパーワクシニアウイルスは、野生型ワクシニアウイルスと比較して、チミジンキナーゼ(TK)、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、O1L、リボヌクレオチド還元酵素(RR)、γ34.5、α47の少なくとも一つの機能を欠損する改変が加えられていることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヘルパーワクシニアウイルスは、野生型ワクシニアウイルスと比較して、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)とO1Lを欠損させたウイルスを使用する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記目的ポックスウイルスDNAはワクシニアウイルスDNAであることを特徴とする、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ワクシニアウイルスDNAは、正常細胞での増殖性を抑制し、腫瘍細胞で増殖可能であるように改変が加えられていることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ワクシニアウイルスDNAの改変として、チミジンキナーゼ(TK)、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、O1L、RR、γ34.5及びα47よりなる群から選ばれた少なくとも一つの改変が加えられていることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ワクシニアウイルスDNAの改変として、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、O1Lの機能を欠損させる改変が加えられていることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ワクシニアウイルスDNAの改変は、Bacterial artificial chromosome (BAC)システムを使用することを特徴とする、請求項13から請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ポックスウイルスの製造方法であって、
(1)第1培養細胞に増殖性のヘルパーワクシニアウイルスを感染させ培養する工程と、
(2)第1培養細胞に第1目的ポックスウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、
(3)前記第1培養細胞から第1目的ポックスウイルスを回収する工程と、
(4)第2培養細胞にヘルパーウイルスとして第1目的ポックスウイルスを感染させ培養する工程と、
(5)第2培養細胞に第2目的ポックスウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、
(6)前記第2培養細胞から第2目的ポックスウイルスを回収する工程と、
を含み、前記工程(1)と工程(2)、および前記工程(4)と工程(5)とは、いずれかの工程の後に他の工程を行う、方法。
【請求項18】
前記目的ポックスウイルスを回収する工程は、
目的ポックスウイルスが感染している細胞を回収する工程と、
回収した細胞を凍結する工程と、
凍結した細胞を融解する工程と、
融解した細胞を超音波処理する工程と、
超音波処理した細胞液を遠心分離し、上清からウイルス液のみを得る工程と、
ウイルス液を限界希釈し培養細胞へ感染する工程と、
培養細胞に目的ポックスウイルスのみが感染していることを確認する工程と、
目的ポックスウイルスのみが感染した培養細胞から目的ポックスウイルスを回収する工程と、
を有することを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記目的ポックスウイルスの回収工程において目的ポックスウイルスのみが感染している細胞が存在しない場合は、再度ウイルスの回収工程を繰り返すことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記目的ポックスウイルスDNAまたは前記ヘルパーワクシニアウイルスのいずれか一方のみには、蛍光タンパク質が発現するウイルスを使用し、蛍光顕微鏡を用いて蛍光タンパク質の発現を確認することで前記目的ポックスウイルスのみが感染している細胞を確認することを特徴とする、請求項18または請求項19に記載の方法。
【請求項21】
蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質(GFP)であることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルパーウイルスを使用したウイルスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ワクシニアウイルスをワクチン開発のためのベクターとして用いたり、あるいは癌治療薬として開発することが検討されている。前者の一例として、特開2003-321391(特許文献1)には、ウイルス遺伝子治療の一例の免疫療法に関する研究として、ワクシニアウイルスLC16m8株にヒト免疫不全ウイルス(HIV)のエンベロープタンパクをコードするように改変したHIVワクチンが開示されている。その他に、Expert Rev Vaccines. 2011 Aug;10(8):1221-40(非特許文献1)に幾つかの例が示されている。
【0003】
癌治療への応用としては、腫瘍特異的に増殖するウイルスに関する研究としてWO2015/076422(特許文献2)に、腫瘍溶解性ウイルスとして使用する改変ワクシニアウイルスが開示されている。具体的には、ワクシニアウイルスLC16m0株のワクシニアウイルス増殖因子(VGF)とO1Lの機能が欠損するように改変を加えることにより、腫瘍細胞特異的に増殖するように改変したワクシニアウイルスが開示されている。その他に、J Microbiol. 2015 Apr;53(4):209-18(非特許文献2)にいくつかの例が示されている。
【0004】
この様なワクチン開発、あるいは腫瘍溶解性ウイルスの作出のためには、ワクシニアウイルスゲノムの改変が必要である。そのための改変方法としてUS7494813(特許文献3)には、ワクシニアウイルスをBacterial Artificial Chromosome(BAC)システムを使用して改変する方法が開示されている。US7494813では、改変したワクシニアウイルスの回収のために、ヘルパーウイルスとして非増殖性のウイルス、または、弱毒Fowlpoxウイルスを感染させた哺乳類の動物細胞に、改変ワクシニアウイルスDNAをトランスフェクションして培養することで改変ワクシニアウイルスを複製している。また、特表2014-513938(特許文献4)には、Lister株由来のワクシニアウイルスの回収のために、ヘルパーウイルスとして紫外線不活化ワクシニアウイルスまたは弱毒Fowlpoxウイルスを使用することが開示されている。また、US5866383(特許文献5)には、ワクシニアウイルス温度感受性株をヘルパーウイルスとして用い、当該ヘルパーウイルスが増殖しない条件で使用することが開示されている。このような手法は、最新報告でも同様であり、PLoS One.Feb 23;13(2):e0192725(2018)(非特許文献3)においても、ヘルパーウイルスとしてFowlpoxウイルスを使用することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-321391
【文献】WO2015/076422
【文献】US7494813
【文献】特表2014-513938
【文献】US5866383
【非特許文献】
【0006】
【文献】Expert Rev Vaccines.2011 Aug;10(8):1221-40
【文献】J Microbiol. 2015 Apr; 53(4):209-18
【文献】PLoS One.Feb 23;13(2):e0192725 (2018)
【文献】Antiviral Res. 84, 1-13 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来は、ポックスウイルスの回収のために使用するヘルパーウイルスとして哺乳動物細胞では増殖性を示さない弱毒Fowlpoxウイルスが用いられ、あるいはワクシニアウイルスを増殖させない状態で使用する方法がとられていた。しかしながら、ヘルパーは、ウイルスDNAの転写、複製に関与する酵素の供給を目的としていることから、目的改変ウイルスを回収する効率の点からは、増殖性のウイルスを用いた方が良いと考えられる。これまではヘルパーウイルスとして非増殖性のウイルスが用いられ、あるいは増殖させない状態でワクシニアウイルスが用いられている背景には、増殖性のウイルスを用いると、回収した目的ウイルスにヘルパーウイルスが混入したり、目的ウイルスとヘルパーウイルス間で望ましくない組換えが起こる危険性が生じる点にあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、増殖性のワクシニアウイルスを用いても目的とするウイルスの効率の良い回収が達成可能であること、ヘルパーウイルスとしてワクチン株あるいはヒトに投与され安全性が確認されている株、これらの株に由来するウイルスを用いることで、予期せぬ病原体の混入の可能性を低減し、実用化に際して、安全性の観点からより好ましい目的ウイルスの作出が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明は以下を含む。
[1]ポックスウイルスの製造方法であって、
(1)培養細胞にヘルパーウイルスとして増殖性のヘルパーワクシニアウイルスを感染させ培養する工程と、
(2)培養細胞に目的ウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、
(3)前記培養細胞から目的ウイルスを回収する工程と、
を含み、前記工程(1)と工程(2)とはいずれかの工程の後に他の工程を行う、方法。
[2]前記ヘルパーワクシニアウイルスとして安全性の高いワクシニアウイルスが使用されることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]前記安全性の高いワクシニアウイルスは、ワクチン株又はワクチン株に由来することを特徴とする、[2]に記載の方法。
[4]前記安全性の高いワクシニアウイルスは、New York City Board of Health (NYCBH)株、EM-63株、Lister株、Paris株、Copenhagen株、Bern株、Ankara株、Temple of Heaven株、Vaccinia Tian Tan株、Dairen株、ACAM2000株、LC16m8株、Modified Vaccinia Ankara (MVA)株、Dairen I (DIs)株又はLC16mO株のいずれかである、[2]又は[3]に記載の方法。
[5]前記ワクチン株が、LC16m8であることを特徴とする、[3]又は[4]に記載の方法。
[6]前記ヘルパーウイルスが、蛍光タンパク質を発現することを特徴とする、[1]から[5]のいずれかに記載の方法。
[7]蛍光タンパク質がGFPであることを特徴とする、[6]に記載の方法。
[8]前記安全性の高いワクシニアウイルスは、野生型ワクシニアウイルスと比較して、B5R遺伝子の機能を欠損する改変が加えられていることを特徴とする、[2]から[7]のいずれかに記載の方法
[9]前記ヘルパーワクシニアウイルスとして、正常細胞での増殖性を抑制し、腫瘍細胞では増殖可能となるような改変が加えられたヘルパーワクシニアウイルスを使用する、[1]から[8]のいずれかに記載の方法。
[10]前記ヘルパーワクシニアウイルスは、野生型ワクシニアウイルスと比較して、チミジンキナーゼ(TK)、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、O1L、リボヌクレオチド還元酵素(RR)、γ34.5、α47の少なくとも一つの機能を欠損する改変が加えられていることを特徴とする、[9]に記載の方法。
[11]前記ヘルパーワクシニアウイルスは、野生型ワクシニアウイルスと比較して、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)とO1Lを欠損させたウイルスを使用する、[10]に記載の方法。
[12]前記目的ウイルスDNAはワクシニアウイルスDNAであることを特徴とする、[1]から[11]のいずれかに記載の方法。
[13]前記ワクシニアウイルスDNAは、正常細胞での増殖性を抑制し、腫瘍細胞で増殖可能であるように改変が加えられていることを特徴とする、[12]に記載の方法。
[14]前記ワクシニアウイルスDNAの改変として、チミジンキナーゼ(TK)、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、O1L、RR、γ34.5及びα47よりなる群から選ばれた少なくとも一つの改変が加えられていることを特徴とする、[13]に記載の方法。
[15]前記ワクシニアウイルスDNAの改変として、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、O1Lの機能を欠損させる改変が加えられていることを特徴とする、[14]に記載の方法。
[16]前記ワクシニアウイルスDNAの改変は、Bacterial artificial chromosome (BAC)システムを使用することを特徴とする、[13]から[15]のいずれかに記載の方法。
[17]ポックスウイルスの製造方法であって、
(1)第1培養細胞に増殖性のヘルパーワクシニアウイルスを感染させ培養する工程と、
(2)第1培養細胞に第1目的ウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、
(3)前記第1培養細胞から第1目的ウイルスを回収する工程と、
(4)第2培養細胞にヘルパーウイルスとして第1目的ウイルスを感染させ培養する工程と、
(5)第2培養細胞に第2目的ウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、
(6)前記第2培養細胞から第2目的ウイルスを回収する工程と、
を含み、前記工程(1)と工程(2)、および前記工程(4)と工程(5)とは、いずれかの工程の後に他の工程を行う、方法。
[18]前記目的ウイルスを回収する工程は、
目的ウイルスが感染している細胞を回収する工程と、
回収した細胞を凍結する工程と、
凍結した細胞を融解する工程と、
融解した細胞を超音波処理する工程と、
超音波処理した細胞液を遠心分離し、上清からウイルス液のみを得る工程と、
ウイルス液を限界希釈し培養細胞へ感染する工程と、
培養細胞に目的ウイルスのみが感染していることを確認する工程と、
目的ウイルスのみが感染した培養細胞から目的ウイルスを回収する工程と、
を有することを特徴とする、[17]に記載の方法。
[19]前記目的ウイルスの回収工程において目的ウイルスのみが感染している細胞が存在しない場合は、再度ウイルスの回収工程を繰り返すことを特徴とする、[18]に記載の方法。
[20]前記目的ウイルスDNAまたは前記ヘルパーワクシニアウイルスのいずれか一方のみには、蛍光タンパク質が発現するウイルスを使用し、蛍光顕微鏡を用いて蛍光タンパク質の発現を確認することで前記目的ウイルスのみが感染している細胞を確認することを特徴とする、[18]または[19]に記載の方法。
[21]蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質(GFP)であることを特徴とする、[20]に記載の方法。
【0010】
本発明の第1の様態では、ウイルスの製造方法であって、培養細胞にヘルパーウイルスとして増殖性のヘルパーワクシニアウイルスを感染させ培養する工程と、培養細胞に目的ウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、培養細胞から目的ウイルスを回収する工程と、を有する方法を提供する。
【0011】
本発明の別の様態では、ウイルスの製造方法であって、第1培養細胞にヘルパーウイルスとして増殖性を有するヘルパーワクシニアウイルスを感染させ培養する工程と、第1培養細胞に第1目的ウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、第1培養細胞から第1目的ウイルスを回収する工程と、第2培養細胞にヘルパーウイルスとして第1目的ウイルスを感染させ培養する工程と、第2培養細胞に第2目的ウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、第2培養細胞から第2目的ウイルスを回収する工程と、を有する方法を提供する。
【0012】
本発明で用いられるヘルパーウイルスとしては、ヒトにおいて安全性が確認されているワクシニアウイルス、あるいは当該ウイルスに由来するウイルス、あるいはこれらのウイルスの増殖性を低下させ、あるいはマーカー遺伝子を発現するように改変したウイルスが例示される。
【0013】
ワクシニアウイルスのワクチン株の例としては、New York City Board of Health (NYCBH)株、EM-63株、Lister株、Paris株、Copenhagen株、Bern株, Ankara株, Temple of Heaven株、Vaccinia Tian Tan株、Dairen株、ACAM2000株、LC16m8株、Modified Vaccinia Ankara (MVA)株、 Dairen I (DIs) 株などがある(Antiviral Res. 84, 1-13(2009)(非特許文献4))。また、ワクチン株ではないが、ヒトに投与しその安全性が確認されている株として、LC16mO株がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、増殖性のワクシニアウイルスを用いながら、目的とするウイルスの効率の良い回収を達成することができる。さらに、ヘルパーウイルスとしてワクチン株あるいはヒトに投与され安全性が確認されている株、これらの株に由来するウイルスを用いることで、予期せぬ病原体の混入の可能性を低減し、実用化に際して、安全性の観点からより好ましい目的ウイルスの作出を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明は、増殖性を有するワクシニアウイルスをヘルパーウイルスとして使用するポックスウイルスの製造方法に関する。本発明のウイルスの製造方法では、培養細胞にヘルパーウイルスとして増殖性を有するヘルパーワクシニアウイルスを感染させ培養する工程と、培養細胞に目的ウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、培養細胞から目的ウイルスを回収する工程と、を有していてもよい。ヘルパーウイルスを感染させる工程と目的ウイルスDNAをトランスフェクションする工程は前後しても良い。
【0017】
「培養細胞」とは、ウイルスを培養するための細胞のことで、任意の細胞腫であってよい。本発明の培養細胞を限定するものではないが、培養細胞としてPRK細胞、 RK13細胞、HeLa細胞、HeLaS3細胞、Vero細胞、BSC-1細胞、EB66細胞、CHO細胞、AsPC-1細胞、BxPC-3細胞などを使用してもよい。
【0018】
「増殖性」とは、正常細胞、癌細胞問わず、上記培養細胞において増殖することができる能力を指す。
【0019】
「目的ウイルスDNA」とは、目的ウイルスをコードしているDNAであり、DNAとしては、線状ウイルスゲノム、環状ウイルスゲノム、ウイルスBACmidであってもよい。
【0020】
「目的ウイルス」はポックスウイルスである。ポックスウイルスとしては、ワクシニアウイルス、Fowlpoxウイルス、天然痘ウイルス、牛痘ウイルスなど、どのようなポックスウイルス種であってもよい。また、それらのウイルスの使用方法としては、ウイルスをベクターとして使用してもよいし、ウイルス自体で疾病を治療してもよい。具体的には、治療遺伝子の発現、免疫を惹起するための抗原タンパクの発現、免疫を惹起するサイトカイン遺伝子の発現、ウイルス直接的な腫瘍溶解作用、癌抗原の発現、腫瘍選択性向上遺伝子発現等による治療であってもよい。
【0021】
「ヘルパーワクシニアウイルス」とは、ウイルス複製に必要な酵素を提供するワクシニアウイルスを指す。ヘルパーワクシニアウイルスの株は、Lister株、Lister株から得られたLC16株、Wyeth株、コペンハーゲン株など特に限定されない。
【0022】
ヘルパーウイルスの一例として、安全性の高いワクシニアウイルスを使用してもよい。「安全性が高い」とは、ヒトに投与しても安全であるウイルス株のことをいい、ワクチン株として承認され、ヒト以外の外来性の因子を含まないものであってもよい。ワクチン株として承認されている株の一例として、LC16m8株、Lister株、New York City Board of Health (NYBH)株など特に限定されない。
【0023】
安全性の高いワクシニアウイルスとして、野生型ワクシニアウイルスと比較してB5R遺伝子の機能的な欠損を含むヘルパーワクシニアウイルスを使用してもよい。また、ヘルパーワクシニアウイルスとして、ワクシニアウイルスLC16m8株を使用してもよい。
【0024】
「野生型ワクシニアウイルス」とは、例えば、ワクシニアウイルスLC16m0株(GenBankの登録番号:KX061501.1)、ワクシニアウイルスLister株(GenBankの登録番号:AY678277.1)、ワクシニアウイルスWestern Reserve株(GenBankの登録番号:AY243312.1)などを指す。
【0025】
「機能を欠損する改変」とは、遺伝子の全体または一部を欠損する改変、または遺伝子中に別の遺伝子を挿入または置換することにより機能を欠損させる改変のことを指す。
【0026】
「ワクシニアウイルスLC16m8株」とは、臨床分離株(Lister株)から得られた温度変異株であり、40.8℃以上で増殖することができず、鶏卵漿尿膜に小型のポックを形成する性質を有する。LC16m8株は、親株であるLC16m0株を低温培養で3代後に小さなポックを形成するウイルスとしてクローニングされたもので、B5R遺伝子のフレームシフト変異によるB5Rタンパクが欠損している。
【0027】
ヘルパーワクシニアウイルスとして、正常細胞における増殖性を抑制し腫瘍細胞で増殖可能となるような改変を加えられたワクシニアウイルスを使用してもよい。ヘルパーワクシニアウイルスとして、野生型ワクシニアウイルスと比較して、B5R、チミジンキナーゼ(TK)、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、O1L、リボヌクレオチド還元酵素(RR)、γ34.5、α47の少なくとも一つの機能を欠損する改変が加えられたヘルパーワクシニアウイルスを使用してもよい。また、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)とO1Lの機能を欠損させたヘルパーワクシニアウイルスを使用してもよい。
【0028】
目的ウイルスDNAは、ワクシニアウイルスDNAであってもよい。ワクシニアウイルスDNAは、正常細胞での増殖性を抑制し腫瘍細胞での増殖可能となるように改変が加えられていてもよい。正常細胞での増殖性を抑制し腫瘍細胞での増殖可能となるような改変として、チミジンキナーゼ(TK)、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、O1L、リボヌクレオチド還元酵素(RR)、γ34.5、α47の少なくとも一つの改変であってもよい。また、正常細胞での増殖性を抑制し腫瘍細胞での増殖可能となるような改変として、ワクシニアウイルス増殖因子(VGF)、O1Lの機能を欠損させてもよい。
【0029】
ワクシニアウイルスDNAの改変にはBacterial Artificial Chromosome (BAC)システムを使用してもよい。「Bacterial Artificial Chromosome (BAC)システム」とは、BAC配列を組み込まれたゲノム(ウイルスゲノム)を大腸菌内で保持し、大腸菌の遺伝学を駆使して、ゲノム(ウイルスゲノム)の組換えを行うシステムである。
【0030】
本発明のウイルスの製造方法では、第1培養細胞にヘルパーウイルスとして増殖性を有するヘルパーワクシニアウイルスを感染させ培養する工程と、第1培養細胞に第1目的ウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、第1培養細胞から第1目的ウイルスを回収する工程と、第2培養細胞にヘルパーウイルスとして第1目的ウイルスを感染させ培養する工程と、第2培養細胞に第2目的ウイルスDNAをトランスフェクションし培養する工程と、第2培養細胞から第2目的ウイルスを回収する工程と、を有していてもよい。ヘルパーウイルスを感染させる工程と目的ウイルスDNAをトランスフェクションする工程は前後しても良い。
【0031】
「第1培養細胞」、「第2培養細胞」とは、ウイルスを培養するための細胞のことで、任意の細胞種であってよい。本発明では第1培養細胞と第2培養細胞とは同じ培養細胞としてもよいし、別の培養細胞としてもよい。本発明の第1培養細胞と第2培養細胞を特に限定するものではないが、例えば、PRK細胞、RK13細胞、HeLa細胞、HeLaS3細胞、Vero細胞、BSC-1細胞、EB66細胞、CHO細胞、AsPC-1細胞、BxPC-3細胞を使用してもよい。
【0032】
「第1目的ウイルスDNA」、「第2目的ウイルスDNA」は、異なる改変が加えられたウイルスDNAである。ここで異なる改変とは、遺伝子の欠損、挿入、置換どのような改変であっても異なっているものを指す。特に限定されるものではないが、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)が挿入されているものと挿入されていないものの改変であってもよい。
【0033】
このように、「第1培養細胞」、「第2培養細胞」、「第1目的ウイルスDNA」、「第2目的ウイルスDNA」を用いることにより、様々な種類の目的ウイルスの回収が容易となる。例えば、第1培養細胞において、GFPのようなマーカー遺伝子を有する第1目的ウイルスDNAを用いて、GFPを有する第1目的ウイルスを獲得した上で、第2培養細胞において、これをヘルパーウイルスとして用いることで、GFPを有さない第2目的ウイルスDNAから、GFPを有さない第2目的ウイルスを回収することができる。さらには、第1培養細胞において、第2目的ウイルスよりも増殖性の低い第1目的ウイルスを獲得した上で、第2培養細胞において、これをヘルパーウイルスとして用いることで、容易に第2目的ウイルスを回収することができる。
【0034】
ウイルスを回収する工程は、目的ウイルスが感染している細胞を回収する工程と、回収した細胞を凍結する工程と、凍結した細胞を融解する工程と、融解した細胞を超音波処理する工程と、超音波処理した細胞液を遠心分離し、上清からウイルス液のみを得る工程と、ウイルス液を限界希釈し培養細胞へ感染する工程と、培養細胞に目的ウイルスのみが感染していることを確認する工程と、目的ウイルスのみが感染した培養細胞から目的ウイルスを回収する工程と、を有していてもよい。
【0035】
ウイルスの回収工程において目的ウイルスのみが感染している細胞が存在しない場合は、再度ウイルスの回収工程を繰り返してもよい。目的ウイルスのみが感染していることを確認するために、目的ウイルスDNAまたはヘルパーワクシニアウイルスのいずれか一方のみに緑色蛍光タンパク質(GFP)、その改変体であるEGFP、赤色蛍光タンパク質(DsRed)、青色蛍光タンパク質(BFP)などが発現するようにし、蛍光顕微鏡を用いて蛍光を確認することで目的ウイルスのみが感染しているか否かを確認してもよい。
【0036】
「目的ウイルスのみが感染している」ことの確認方法とは、各種セレクションにより、目的ウイルスのみが感染していることの確認をいい、例えば、「ウイルスプラーク数=目的のGFP発現数」により目的ウイルスのみが感染していることを確認してもよい。
【0037】
本発明の目的ウイルスDNAから目的ウイルスを発現させる方法では、ワクシニアウイルスLC16m8株をヘルパーウイルスとして使用してもよい。
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
BACmidの作製
細胞培養相同組換えでワクシニアウイルスLC16m8にBAC配列を挿入したBACウイルスを作製し、BACウイルスのゲノムを環状化してLC16m8-BACmidを作製した。
【0040】
<インサーションプラスミドの構築>
LC16m8にBACgfp配列を導入するためのインサーションプラスミド(pUC-VVTK-BAC-EGFP)の構築を行った。まず、ワクシニアウイルスLC16m8株ゲノム(GenBank:AY678275.1)を鋳型に、TK1プライマーFw:CGGGGTACCATAAATTAGAAGCCGTGGGTC(配列番号1)、TK1プライマーRe:CCTTAATTAAGAAAAATATTATGAGTCGATGTAACACTTT(配列番号2)を用いてTK1を増幅し、また、同株ゲノムを鋳型に、TK2プライマーFw:CCTTAATTAATATATTTTTTATCTAAAAAACTAAA(配列番号3)、TK2プライマーRe:GCTCTAGACGGTAGTATATCTCAGTAGTACGTT(配列番号4)を用いてTK2を増幅した。次に、TK1に制限酵素KpnI(Takara、製品番号:1068A)及びPacI(NEB、製品番号:R0547L)を処理し、また、TK2に制限酵素XbaI(Takara、製品番号:1093A)及びPacIを処理した後、アガロースゲルから目的断片を精製した(TK1/KpnI/PacI/elution:約0.88kb、TK2/PacI/XbaI/elution:約1.1kb)。次に、pUC119プラスミド(GenBank:U07650.1)に制限酵素KpnI及びXbaIを処理、精製し、アルカリフォスファターゼ処理したプラスミド(pUC119/KpnI/XbaI/elution/BAP)のKpnI/XbaIサイトに、上で精製した二つの断片TK1/KpnI/PacI/elution及びTK2/PacI/XbaI/elutionをクローニングし、pUC119-TK1-2を構築した。
【0041】
次に、pUCIDT-KAN-op7.5+EGFPプラスミド(配列番号5)を人工合成し、制限酵素PacIを処理後、アガロースゲルから約1.1kbの目的断片を精製した(pUCIDT-KAN-op7.5+EGFP/PacI/elution)。さらに、pUC119-TK1-2に制限酵素PacIを処理、精製し、アルカリフォスファターゼ処理したプラスミド(pUC119-TK1-2/PacI/elution/BAP)のPacIサイトに、pUCIDT-KAN-op7.5+EGFP/PacI/elutionをクローニングし、pUC-VVTK-op7.5+EGFPプラスミドを構築した。
【0042】
最後に、pBSIIプラスミド(GenBank:U25267.1)にpBeloBAC11配列(GenBank:CVU51113.1)をクローニングしたプラスミドに、制限酵素NotI(Takara、製品番号:1166A)を処理後、アガロースゲルから約7kbの目的断片を精製した(pBeloBAC11+pBSII/NotI/elution)。次に、pUC-VVTK-op7.5+EGFPに制限酵素NotIを処理、精製後、アルカリフォスファターゼ処理したプラスミド(pUC-VVTK-op7.5+EGFP/NotI/elution/BAP)のNotIサイトに、pBeloBAC11+pBSII/NotI/elutionをクローニングし、pUC-VVTK-BAC-EGFPプラスミドを構築した。
【0043】
<LC16m8ゲノムへのBACgfp配列の導入>
6ウェルプレートにフルシートさせたPRK細胞(自家調製)に、ワクシニアウイルスLC16m8株(自家調製)をMOI=10で感染させ、30℃、5%CO2下で1時間培養後、培地を除き、TrypLE(Invitrogen、製品番号:12563-001)で細胞を回収した。回収細胞をHeBSバッファー(Sigma、製品番号:51558)で1×107cells/mLに調製後、制限酵素HindIII(Takara、製品番号:1060A)で線状化したpUC-VVTK-BAC-EGFPプラスミドを0.5μg/10μLになるように加え、エレクトロポレーション装置(Invitrogen、機器名:Neon Transfection System)を用いて、1.4kV、20ms、2pulseの条件でエレクトロポレーションを行った。次に、エレクトロポレーション液を10倍限界希釈し、96ウェルプレートにフルシートさせたPRK細胞に感染させ、30℃、5%CO2下で48時間程度培養した。蛍光顕微鏡を用いて、GFP発現を観察し、希釈倍率の高いウェルでGFP(+)プラークもしくはCPEが得られたものを選択した。選択したウェルの細胞にTrypLEを添加し、剥がれた細胞を5%FBS添加イーグルMEM培地(ニッスイ、製品番号:05900、05901、05902)で洗いこみ回収を行った。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。以降、本作業を繰り返し、2回連続で、ウイルスプラークが全てGFP(+)になったところで、LC16m8にBACgfp配列が挿入されたBACウイルスとしてLC16m8-BACgfpの回収を完了とした。
【0044】
<LC16m8-BACgfpゲノムの環状化と大腸菌へのクローニング(LC16m8-BACmidの作製)>
2%FBS添加イーグルMEM培地(ニッスイ、製品番号:05900、05901、05902)に1/100量の1mg/mL IBT(Pfaltz & Bauer、製品番号:487-16-1)(終濃度0.01mg/mL)と、上記で得たLC16m8-BACgfpをMOI=5となるように混合し、6ウェルプレートにフルシートさせたPRK細胞に1mL/ウェルで接種した。30℃、5%CO2下で1時間吸着させ、0.01mg/mL IBTを添加した2%FBS添加イーグルMEM培地で培地交換を行った。30℃、5%CO2下で24時間培養後、イーグルMEM培地100μL中にpCAGGS-Creプラスミド1μg、X-tremeGENE HP(Sigma-Aldrich、製品番号:06366236001) 3μLを混合した後、室温で15分間静置し、培養液中に混合液を100μL/ウェル添加することでpCAGGS-Creプラスミド(自家調製)のトランスフェクションを行った。30℃、5%CO2下で24時間培養後、環状化したウイルスゲノムとしてLC16m8-BACmidを抽出し、エレクトロポレーション装置(BIO-RAD、機器名:GenePulserII)を用いて、大腸菌GS1783(WO2014077096A1)に、1.8kV、200Ω、25μFの条件でエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション液を、クロラムフェニコールを添加したCG寒天培地にプレーティングし、32℃において、48時間程度培養した。BACmidを保持した大腸菌の選択は、BACgfp配列中のクロラムフェニコール耐性をマーカーとして行い、目的のクローンをグリセロールストックした。得られたクローンについて、BACmidを抽出し、常法により塩基配列を確認した結果、目的とするTK遺伝子領域にEGFP発現カセットとpBeloBAC11の配列が挿入されていることを確認した。
【実施例2】
【0045】
BACmidの改変
発現カセットをLC16m8-BACmidに組み込み、発現カセットを保持する組換えウイルスゲノム(改変BACmid)を取得した。
【0046】
<発現カセットの作製>
改変BACmid作成のための発現カセットとして、配列番号6のBACgfp除去カセットと、配列番号11のLC16m0型B5R発現カセットと、配列番号15のVGF欠損カセットと、配列番号19のO1L欠損カセットを準備し、表1に記載の各改変BACmidを作製した。
【0047】
<BACgfp除去配列カセット(SBTKdup配列)>
BACgfp配列を除いたウイルスを回収するためにBACgfp除去配列カセット(配列番号6)を作製した。具体的には、まず、J Virol 81(23): 13200-13208を参考に、pUC119-BAC-SBTKdupプラスミドを構築した。その手法は、pUC119プラスミド(GenBank:U07650.1)に制限酵素HincII(Takara、製品番号:1059A)及びBamHI(Takara、製品番号:1010A)を処理、精製後、アルカリフォスファターゼを処理した(pUC119/HincII/BamHI/elution/BAP)。次に、インサーションプラスミドの構築時に用いたpBeloBAC11+pBSIIプラスミドに制限酵素XbaI(Takara、製品番号:1093A)を処理後、アガロースゲルから約7.9kbの目的断片を精製した(pBeloBAC11+pBSII/XbaI/elution)。精製した断片に、制限酵素ScaI(Takara、製品番号:1084A)及びBglII(Takara、製品番号:1021A)を処理後、アガロースゲルから約1.7kbの目的断片を精製した(pBeloBAC11+pBSII/XbaI/elution/ScaI/BglII/elution)。次に、pUC119/HincII/BamHI/elution/BAPとpBeloBAC11+pBSII/XbaI/elution/ScaI/BglII/elutionをライゲーションさせ、pUC119-pBeloSBを構築し、さらに、pUC119-pBeloSBに制限酵素NruI(Takara、製品番号:1168A)を処理し、精製した(pUC119-pBeloSB/NruI/elution)。
【0048】
また、ワクシニアウイルスLC16m8株ゲノム(GenBank:AY678275.1)を鋳型に、TKプライマーFw:CCGCGGACTTTGTGATTAGTTTGATGCGATT(配列番号7)、TKプライマーRe:ACAGGTATTTATTCGCCGCGGAAGGTTGTAACATTTTATTACCGTGTG(配列番号8)を用いてTK領域を増幅し、また、pEPkan-S(Addgene、製品番号:41017)を鋳型に、カナマイシンプライマー1Fw:TCACAAAGTCCGCGGCGATAAGCTCATGGAGCGGCGTAACCGTCGCACAGGAAGGACAGAGAAAGTAAGTAGGGATAACAGGGTAAT(配列番号9)、カナマイシンプライマー1Re:TCCATGAGCTTATCGTGCCAGTGTTACAACCAATTAACCA(配列番号10)を用いてPCRを行い、カナマイシン耐性遺伝子を増幅させた。2つのPCR産物を精製し、上で構築したpUC119-pBeloSB/NruI/elutionとともに、In-Fusion HD Cloning Kit(Takara、製品番号:639648、639649、639650)を用いて、3つの断片を50℃、15分間反応させた。反応液を大腸菌JM109(Takara、製品番号:9052)へ導入し、42℃、1分間反応させた後、アンピシリン、カナマイシン及びクロラムフェニコールを添加したCG寒天培地にプレーティングし、37℃において、24時間程度培養した。得られたコロニーからプラスミドを抽出し、制限酵素HindIII(Takara、製品番号:1060A)及びEcoRV(Takara、製品番号:1042A)を処理し、アガロースゲル電気泳動におけるバンドパターンから、目的のプラスミド(pUC119-BAC-SBTKdup)を保持したクローンが得られたことを確認した。
【0049】
最後に、pUC119-BAC-SBTKdupに制限酵素PstI(Takara、製品番号:1073A)及びKpnI(Takara、製品番号:1068A)を処理、精製してpUC119-BAC-SBTKdup/PstI/KpnI/elution(SBTKdup配列)を作製し、BACgfp除去配列(配列番号6)としてBACmidの改変に用いた。
【0050】
<B5R改変カセット>
LC16m8においては、B5R遺伝子配列中の1塩基欠損(グアニン欠損)によるフレームシフトにより不完全なB5Rタンパク質が産生されることが知られている。そこで、実施例1で構築したLC16m8-BACmidのB5R遺伝子配列を、完全なB5R遺伝子配列をもつLC16m0の配列に改変したBACmidを構築するためB5R改変カセット(配列番号11)を作製した。その具体的な手法は、まず、LC16mOのB5R遺伝子配列中の、上記グアニンから上流、下流それぞれ約1kb、計2132bpを人工合成し、pUCFk-B5RmO(配列番号12)を構築した。その後、制限酵素EcoRI(Takara、製品番号:1040A)を処理、精製後、アルカリフォスファターゼを処理した(pUCFk-B5RmO/EcoRI/elution/BAP)。また、pEPkan-Sプラスミド(Addgene、製品番号:41017)を鋳型に、カナマイシンプライマー2Fw:CCGGAATTCCACCATGACACTAAGTTGCAACGGCGAAACAAAATATTTTCGTTTAAGTAGGGATAACAGGGTA(配列番号13)、カナマイシンプライマー2Re:CCGGAATTCTGCCAGTGTTACAACCAATTAACCAATTCT(配列番号14)を用いてPCRを行い、カナマイシン耐性遺伝子を増幅させ、精製後、制限酵素EcoRIを処理し、さらに精製することでrKanI/elution/EcoRIを作製した。その後、pUCFk-B5RmO/EcoRI/elution/BAPとrKanI/elution/EcoRIをライゲーションさせ、pUCFk-B5RmO-rKanIを構築した。pUCFk-B5RmO-rKanIに制限酵素XbaI(Takara、製品番号:1093A)及びDraI(Takara、製品番号:1037A)を処理後、アガロースゲルから約3.2kbの目的断片を精製してpUCFk-B5RmO-rKanI/XbaI/DraI/elutionを作製した。これをB5R発現カセット(配列番号11)としてBACmidの改変に用いた。
【0051】
<VGF欠損カセット>
VGFの機能を不活化したウイルスを回収するためにVGF欠損カセット(配列番号15)を作製した。VGF欠損カセット作製の具体的な手法は、まず、VGF遺伝子配列の開始コドンから制限酵素AccIサイトまでの255bpを欠損させた配列及びその前後約1kbを人工合成し、pUC57-ΔVGF(配列番号16)を構築した。次に、pUC57-ΔVGFに制限酵素AccI(Takara、製品番号:1001A)を処理、精製後、アルカリフォスファターゼを処理してpUC57-ΔVGF/AccI/elution/BAPを作製した。
【0052】
pEPkan-Sプラスミド(Addgene、製品番号:41017)を鋳型に、PCR試薬(Takara、製品番号:RR001A、RR001B)、カナマイシンプライマー3Fw:CAAAATCCATCAAAAGTAGACTATCAACGTTCAGAAAACCCAAACACTACAACGTCATAT(配列番号17)、カナマイシンプライマー3Re:TTCTGAACGTTGATAGTCTACTGCCAGTGTTACAACCAATTAACCAATTCT(配列番号18)を用いてPCRを行い、カナマイシン耐性遺伝子を増幅させ、アガロースゲルから約1kbの目的断片を精製後、TOPOベクター(Invitrogen、製品番号45-0641)にクローニングした。反応液を大腸菌JM109(Takara、製品番号9052)へ導入し、得られたコロニーからプラスミドを抽出してTOPO-rKanIを作製した。TOPO-rKanIに制限酵素AccIを処理し、精製後、制限酵素ScaI(Takara、製品番号:1084A)を処理し、アガロースゲルから約1kbの目的断片を精製してrKanI/AccI/ScaI/elutionを作製した。次に、pUC57-ΔVGF/AccI/elution/BAPとrKanI/AccI/ScaI/elutionをライゲーションさせ、pUC57-ΔVGF-rKanIを構築した。pUC57-ΔVGF-rKanIに制限酵素ScaIを処理することで、ベクター配列を切断し、さらに、制限酵素BamHI(Takara、製品番号:1010A)及びEcoRI(Takara、製品番号:1040A)を処理し、アガロースゲルから約8kbの目的断片を精製してpUC57-ΔVGF-rKanI/ScaI/BamHI/EcoRI/elution(配列番号15)を作製し、これをVGF欠損カセットとしてBACmidの改変に用いた。なお、ここでは、目的断片は約8kbとしたが、pUC57-ΔVGF/AccI/elution/BAPとrKanI/AccI/ScaI/elutionのライゲーションの際、インサートであるrKanI/AccI/ScaI/elutionが複数個結合する場合や一つの断片のみがインサートされる場合などが想定されるため、アガロースゲルから精製する目的断片は、ベクター配列以外の断片とする。
【0053】
<O1L欠損カセット>
O1Lの機能を欠損したウイルスを回収するためにO1L欠損カセット(配列番号19)を作製した。O1L欠損カセット作製の具体的な手法は、まず、O1L遺伝子配列の開始コドンから制限酵素XbaIサイトまでの1049bpを欠損させ、次に、J Virol 81(23): 13200-13208を参考に、上記XbaIサイト直後50bpに、カナマイシン耐性遺伝子配列(Addgene、製品番号:41017)を挿入した配列を人工合成し、pUC57-ΔO1L-rKanI(配列番号20)を構築した。pUC57-ΔO1L-rKanIに、制限酵素ScaI及びEcoRIを処理し、アガロースゲルから約2.7kbの目的断片を精製しpUC57-ΔO1L-rKanI/ScaI/EcoRI/elutionを作製し、これをO1L欠損カセット(配列番号19)としてBACmidの改変に用いた。
【0054】
<BACmidの改変>
LC16m8-BACmidを保持した大腸菌を培養し、各改変BACmid作製に必要な発現カセットをエレクトロポレーション(1.8kV、200Ω、25μF)により導入し、表1に記載の各改変BACmidを作製した。エレクトロポレーション溶液を、クロラムフェニコール及びカナマイシンを添加したCG寒天培地にプレーティングし、32℃において、24~48時間程度培養した。各発現カセット中のカナマイシン耐性をマーカーとして、発現カセットが導入されたクローンを選択し、グリセロールストックした。次に、カナマイシン耐性遺伝子除去操作を行い(J Virol 81(23): 13200-13208参照)、BAC配列中のクロラムフェニコール耐性をマーカーとして、目的クローンを取得し、グリセロールストックした。
【0055】
【表1】
【0056】
各改変BACmidを抽出後、PCR試薬(Takara、製品番号:R045A、R045B)とBACgfp除去確認プライマー、B5R確認プライマー、VGF欠損確認プライマー、O1L欠損確認プライマーを使用したPCR及び塩基配列解析を行った。
【0057】
BACgfp除去確認プライマーは、BACgfp除去確認プライマー1をFw: GTCCCGTTCCGTATCTATTATCG(配列番号21)、Re: TCAGCATCGCAACCGCATCAG(配列番号22)とし、BACgfp除去確認プライマー2をFw: CGGGGTACCATAAATTAGAAGCCGTGGGTC(配列番号23)、Re: GCTCTAGACGGTAGTATATCTCAGTAGTACGTT(配列番号24)とし、BACgfp除去確認プライマー3をFw: CGGGACTATGGACGCATGATAAG(配列番号25)、Re: AAATCCGCCGTACTAGGTTCATT(配列番号26)とした。
【0058】
B5R確認プライマーは、Fw: ATCCAAGAAGCTGGATGCGG(配列番号27)、Re: TGGATGATGGAGACCCCGTT(配列番号28)とした。
VGF欠損確認プライマーは、Fw: AGAACCAGCTGCTCCATGATT(配列番号29)、Re: GATACGGAACCACCCACTGT(配列番号30)とした。
O1L欠損確認プライマーは、Fw: TGTCAACGGACCCCAACATC(配列番号31)、Re: ACATGGACGCATTGGGTGAT(配列番号32)とした。
解析の結果、得られた各BACmidは、目的の改変BACmidであることを確認した。
【実施例3】
【0059】
LC16m8-BACgfpの作製
ヘルパーワクシニアウイルスとしてLC16m8株(乾燥細胞培養痘そうワクチン「LC16”化血研”」、製造番号:V01、V11)を用いて、実施例1で作製したLC16m8-BACmid由来のウイルスとしてLC16m8-BACgfpを作製した。
【0060】
<ウイルスの作製>
イーグルMEM培地(ニッスイ、製品番号:05900)を用いて、6ウェルプレートコンフルエント手前まで培養したRK13細胞に、ヘルパーワクシニアウイルスとしてLC16m8(乾燥細胞培養痘そうワクチン「LC16”化血研”」、製造番号:V01、V11)をMOI=2で接種し、30℃、5%CO2の条件で1時間培養した。培養後、上清を除き、培地としてMEMを2mL加えた。次に、LC16m8-BACmid 1μgとトランスフェクション試薬(Roche、製品番号:066366236001) 3μLを混合し、室温で15分間静置した。混合液100μLを、上記のRK13細胞へ添加し、30℃、5% CO2の条件で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認後、細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。
【0061】
<ウイルスの純化>
回収したウイルス液を、イーグルMEM培地を用いて限界希釈し(10倍~10000倍)、96ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、ウイルス希釈液を100μL/ウェルで接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認し、GFP(+)プラークの割合が多いウェルから細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。以降、本作業を繰り返し、2回連続で、RK13細胞におけるウイルスプラークが全てGFP(+)になったところでウイルス純化完了とし、LC16m8-BACgfpウイルスを作製した。
【実施例4】
【0062】
LC16m8の作製
実施例3で作製したLC16m8-BACgfpをヘルパーウイルスとして用いて、実施例2で作製したLC16m8-SBTKdup-BACmid由来のウイルスを作製した。
【0063】
<ウイルスの作製>
イーグルMEM培地(ニッスイ、製品番号:05900)を用いて、6ウェルプレートコンフルエント手前まで培養したRK13細胞(DSファーマ、製品番号:EC00021715)に、ヘルパーウイルスとして実施例3で回収したLC16m8-BACgfpをMOI=2で接種し、30℃、5%CO2下で1時間培養した。培養後、上清を除き、培地としてMEM(Thermo scientific、製品番号:11095080)を2mL加えた。次に、LC16m8-SBTKdup-BACmid 1μgとトランスフェクション試薬(Roche、製品番号:066366236001)3μLを混合し、室温で15分間静置した。混合液100μLを、上記のRK13細胞へ添加し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認後、細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。
【0064】
<ウイルスの純化>
回収したウイルス液を、イーグルMEM培地を用いて限界希釈し(10倍~10000倍)、96ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、ウイルス希釈液を100μL/ウェルで接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認し、GFP(-)プラークの割合が多いウェルから細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。以降、本作業を繰り返し、2回連続で、RK13細胞におけるウイルスプラークが全てGFP(-)になったところでウイルス純化完了とした。
【0065】
<回収したウイルスの遺伝子配列解析>
回収したLC16m8を拡張するため、まず、イーグルMEM培地を用いて、6ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、回収したLC16m8を接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、ゲノム抽出キット(QIAGEN、製品番号:69504、69506)を用いてウイルスゲノムを抽出した。抽出したウイルスゲノムを鋳型とし、PCR試薬(Takara、製品番号:RR001A、RR001B)と実施例2で使用したBACgfp配列除去確認プライマー2(配列番号23、配列番号24)を用いてPCRを行ったところ、バンドサイズからBACgfp配列の除去が確認できた。さらに、より詳細な解析を行うため、PCR産物を精製し、塩基配列解析を行ったところ、BACgfp配列挿入部位から当配列が除去されていることを確認した。
【0066】
以上の結果より、ヘルパーウイルスとしてLC16m8-BACgfpを用いて、RK13細胞からLC16m8-SBTKdup-BACmid由来ウイルス(LC16m8)の回収に成功した。
【実施例5】
【0067】
LC16m8-B5RmOの作製
実施例3で作製したLC16m8-BACgfpをヘルパーウイルスとして用いて、実施例2で作製したLC16m8-B5RmO-SBTKdup-BACmid由来のウイルスを作製した。
【0068】
<ウイルスの作製>
イーグルMEM培地(ニッスイ、製品番号:05900)を用いて、6ウェルプレートコンフルエント手前まで培養したRK13細胞(DSファーマ、製品番号:EC00021715)に、ヘルパーウイルスとして実施例3で回収したLC16m8-BACgfpをMOI=0.01~2で接種し、30℃、5%CO2下で1時間培養した。培養後、上清を除き、培地としてOptiProTM SFM(Thermo scientific、製品番号:12309019)を3mL加えた。次に、LC16m8-B5RmO-SBTKdup-BACmid 1μgとトランスフェクション試薬(Roche、製品番号:066366236001)1~3μLを混合し、室温で15分間静置した。混合液200μLを、上記のRK13細胞へ添加し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認後、細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。
【0069】
<ウイルスの純化>
回収したウイルス液を、イーグルMEM培地を用いて限界希釈し(10倍~10000倍)、96ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、ウイルス希釈液を100μL/ウェルで接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認し、GFP(-)プラークの割合が多いウェルから細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。以降、本作業を繰り返し、2回連続で、RK13細胞におけるウイルスプラークが全てGFP(-)になったところでウイルス純化完了とした。
【0070】
<回収したウイルスの遺伝子配列解析>
回収したLC16m8-B5RmOを拡張するため、まず、イーグルMEM培地を用いて、6ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、LC16m8-B5RmOを接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、ゲノム抽出キット(QIAGEN、製品番号:69504、69506)を用いてウイルスゲノムを抽出した。抽出したウイルスゲノムを鋳型とし、実施例2で使用したBACgfp配列除去確認プライマー3(配列番号25、配列番号26)及びB5R配列確認プライマー(配列番号27,配列番号28)とPCR試薬(Takara、製品番号:R045A、R045B)を用いてPCRを行ったところ、バンドサイズからBACgfp配列の除去が確認できた。さらに、より詳細な解析を行うため、両PCR産物を精製し、塩基配列解析を行ったところ、BACgfp配列挿入部位から当配列が除去されていること、さらに、B5R遺伝子配列中の特定の位置に、欠損されている塩基(グアニン)が挿入されていること(LC16mO型への改変)を確認した。
【0071】
以上の結果より、ヘルパーウイルスとしてLC16m8-BACgfpを用いて、RK13細胞からLC16m8-B5RmO-SBTKdup-BACmid由来ウイルス(LC16m8-B5RmO)の回収に成功した。
【実施例6】
【0072】
MD-RVVの作製
実施例3で作製したLC16m8-BACgfpをヘルパーウイルスとして用いて、実施例2で作製したMD-RVV-SBTKdup-BACmid由来のウイルスを作製した。
【0073】
<ウイルスの作製>
イーグルMEM培地(ニッスイ、製品番号:05900)を用いて、6ウェルプレートコンフルエント手前まで培養したRK13細胞(DSファーマ、製品番号:EC00021715)に、ヘルパーウイルスとして実施例3で回収したLC16m8-BACgfpをMOI=0.01~2で接種し、30℃、5%CO2下で1時間培養した。培養後、上清を除き、培地としてOptiProTM SFM(Thermo scientific、製品番号:12309019)を3mL加えた。次に、実施例2で作製したMD-RVV-SBTKdup-BACmid 1μgとトランスフェクション試薬(Roche、製品番号:066366236001)1~3μLを混合し、室温で15分間静置した。混合液200μLを、上記のRK13細胞へ添加し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認後、細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。
【0074】
<ウイルスの純化>
回収したウイルス液を、イーグルMEM培地を用いて限界希釈し(10倍~10000倍)、96ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、ウイルス希釈液を100μL/ウェルで接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認し、GFP(-)プラークの割合が多いウェルから細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。以降、本作業を繰り返し、2回連続で、RK13細胞におけるウイルスプラークが全てGFP(-)になったところでウイルス純化完了とした。
【0075】
<回収したウイルスの遺伝子配列解析>
回収したMD-RVVを拡張するため、まず、イーグルMEM培地を用いて、6ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、MD-RVVを接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、ゲノム抽出キット(QIAGEN、製品番号:69504、69506)を用いてウイルスゲノムを抽出した。抽出したウイルスゲノムを鋳型とし、実施例2で使用したBACgfp配列除去確認プライマー3(配列番号25、配列番号26)、B5R配列確認プライマー(配列番号27、配列番号28)、VGF配列確認プライマー(配列番号29、配列番号30)、O1L配列確認プライマー(配列番号31、配列番号32)とPCR試薬(Takara、製品番号:R045A、R045B)を用いてPCRを行ったところ、バンドサイズからBACgfp配列の除去、VGF配列の欠損及びO1L配列の欠損が確認できた。さらに、より詳細な解析を行うため、全てのPCR産物を精製し、塩基配列解析を行ったところ、BACgfp配列挿入部位から当配列が除去されていること、B5R遺伝子配列中の特定の位置に、欠損されている塩基(グアニン)が挿入されていること(LC16mO型への改変)、VGF配列及びO1L配列が想定通り欠損されていることを確認した。
【0076】
以上の結果より、ヘルパーウイルスとしてLC16m8-BACgfpを用いて、RK13細胞からMD-RVV-SBTKdup-BACmid由来ウイルス(MD-RVV)の回収に成功した。
【実施例7】
【0077】
LC16m8-B5RmO-BACgfpの作製
ヘルパーウイルスとしてLC16m8を用いて、実施例2で作製したLC16m8-B5RmO-BACmid由来のウイルスを作製した。
【0078】
<ウイルスの作製>
イーグルMEM培地(ニッスイ、製品番号:05900)を用いて、6ウェルプレートコンフルエント手前まで培養したRK13細胞(DSファーマ、製品番号:EC00021715)に、ヘルパーウイルスとしてLC16m8(乾燥細胞培養痘そうワクチン「LC16”化血研”」、製造番号:V01、V11)をMOI=0.01~2で接種し、30℃、5%CO2下で1時間培養した。培養後、上清を除き、培地としてOptiProTM SFM(Thermo scientific、製品番号:12309019)を3mL加えた。次に、実施例2で作製したLC16m8-B5RmO-BACmid 1μgとトランスフェクション試薬(Roche、製品番号:066366236001)1~3μLを混合し、室温で15分間静置した。混合液200μLを、上記のRK13細胞へ添加し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認後、細胞をハーベストし、凍結保存した(Thermo scientific、機器名:REVCO CXF)。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。
【0079】
<ウイルスの純化>
回収したウイルス液を、イーグルMEM培地を用いて限界希釈し(10倍~10000倍)、96ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、ウイルス希釈液を100μL/ウェルで接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認し、GFP(+)プラークの割合が多いウェルから細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。以降、本作業を繰り返し、2回連続で、RK13細胞におけるウイルスプラークが全てGFP(+)になったところでウイルス純化完了とした。
【0080】
<回収したウイルスの遺伝子配列解析>
回収したLC16m8-B5RmO-BACgfpを拡張するため、まず、イーグルMEM培地を用いて、6ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、LC16m8-B5RmO-BACgfpを接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、ゲノム抽出キット(QIAGEN、製品番号:69504、69506)を用いてウイルスゲノムを抽出した。抽出したウイルスゲノムを鋳型とし、実施例2で使用したB5R確認プライマー(配列番号27、配列番号28)とPCR試薬(Takara、製品番号:R045A、R045B)を用いてPCRを行った。次に、PCR産物を精製し、塩基配列解析を行ったところ、B5R遺伝子配列中の特定の位置に、欠損されている塩基(グアニン)が挿入されていること(LC16mO型への改変)を確認した。
【0081】
以上の結果より、ヘルパーウイルスとしてLC16m8を用いて、RK13細胞からLC16m8-B5RmO-BACmid由来ウイルス(LC16m8-B5RmO-BACgfp)の回収に成功した。
【実施例8】
【0082】
MD-RVV-BACgfpの作製
ヘルパーウイルスとして実施例6で作製したMD-RVVを用いて、実施例2で作製したMD-RVV-BACmid由来のウイルスを作製した。
【0083】
<ウイルスの作製>
イーグルMEM培地(ニッスイ、製品番号:05900)を用いて、6ウェルプレートコンフルエント手前まで培養したRK13細胞(DSファーマ、製品番号:EC00021715)に、ヘルパーウイルスとして実施例6で回収したMD-RVVをMOI=0.01~2で接種し、30℃、5%CO2下で1時間培養した。培養後、上清を除き、培地としてOptiProTM SFM(Thermo scientific、製品番号:12309019)を3mL加えた。次に、MD-RVV-BACmid 1μgとトランスフェクション試薬(Roche、製品番号:066366236001)1~3μLを混合し、室温で15分間静置した。混合液200μLを、上記のRK13細胞へ添加し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認後、細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。
【0084】
<ウイルスの純化>
回収したウイルス液を、イーグルMEM培地を用いて限界希釈し(10倍~10000倍)、96ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、ウイルス希釈液を100μL/ウェルで接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、蛍光顕微鏡(OLYMPUS、機器名:OLYMPUS IX70)を用いて、GFP発現を確認し、GFP(+)プラークの割合が多いウェルから細胞をハーベストし、凍結保存した。その後、超音波処理器(COSMO BIO CO., LTD.、機器名:BIORUPTOR UCW-310)を用いて250W、30sec×4の条件で超音波処置し、遠心分離機(TOMY、機器名:MUITIPURPOSE REFRIGERATED CENTRIFUGE LX120)を用いて4℃、2000rpm、5分間の条件で遠心後、上清をウイルス液として得た。以降、本作業を繰り返し、2回連続で、RK13細胞におけるウイルスプラークが全てGFP(+)になったところでウイルス純化完了とした。
【0085】
<回収したウイルスの遺伝子配列解析>
回収したMD-RVV-BACgfpを拡張するため、まず、イーグルMEM培地を用いて6ウェルプレートコンフルエントまで培養したRK13細胞に、MD-RVVを接種し、30℃、5%CO2下で24~48時間程度培養した。培養後、ゲノム抽出キット(QIAGEN、製品番号:69504、69506)を用いてウイルスゲノムを抽出した。抽出したウイルスゲノムを鋳型とし、実施例2で使用したB5R配列確認プライマー(配列番号27、配列番号28)、VGF配列確認プライマー(配列番号29、配列番号30)、O1L配列確認プライマー(配列番号31、配列番号32)とPCR試薬(Takara、製品番号:R045A、R045B)を用いてPCRを行ったところ、バンドサイズからVGF配列の欠損及びO1L配列の欠損が確認できた。さらに、より詳細な解析を行うため、全てのPCR産物を精製し、塩基配列解析を行ったところ、B5R遺伝子配列中の特定の位置に、欠損されている塩基(グアニン)が挿入されていること(LC16mO型への改変)、VGF配列及びO1L配列が想定通り欠損されていることを確認した。
【0086】
以上の結果より、ヘルパーウイルスとしてMD-RVVを用いて、RK13細胞からMD-RVV-BACmid由来ウイルス(MD-RVV-BACgfp)の回収に成功した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のウイルスの製造方法は、増殖性のワクシニアウイルスをヘルパーウイルスとして用いてウイルスを製造することができる。
【配列表】
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