(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】真空バルブ用接点材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01H 33/662 20060101AFI20220307BHJP
H01H 33/664 20060101ALI20220307BHJP
H01H 11/04 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
H01H33/662 F
H01H33/664 B
H01H33/664 C
H01H11/04 B
(21)【出願番号】P 2018083192
(22)【出願日】2018-04-24
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草野 貴史
(72)【発明者】
【氏名】染井 宏通
(72)【発明者】
【氏名】関 経世
(72)【発明者】
【氏名】山本 敦史
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遥
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛
(72)【発明者】
【氏名】関森 裕希
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【審査官】藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-024476(JP,A)
【文献】特開平01-258330(JP,A)
【文献】特開昭62-229620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/00- 1/04
11/00-11/06
33/60-33/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料および耐弧材料からなる接点材料用原料を用意する工程と、
前記接点材料用原料または前記接点材料用原料を溶融させる溶融装置の少なくとも一方を鉛直方向に移動させながら、前記溶融装置の溶融領域内にある前記接点材料用原料を鉛直方向に垂直な水平方向にわたって溶融する工程と、
前記接点材料用原料または前記溶融装置の少なくとも一方を鉛直方向に移動させながら、溶融した接点材料用原料を前記溶融装置の溶融領域外に移動させて冷却する工程と、
を有し、
前記導電材料および前記耐弧材料は、板状の延設部材であると共に、前記導電材料の長手方向と前記耐弧材料の長手方向とが平行となるように互いに密着していることを特徴とす
る真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項2】
導電材料および耐弧材料からなる接点材料用原料を用意する工程と、
前記接点材料用原料または前記接点材料用原料を溶融させる溶融装置の少なくとも一方を鉛直方向に移動させながら、前記溶融装置の溶融領域内にある前記接点材料用原料を鉛直方向に垂直な水平方向にわたって溶融する工程と、
前記接点材料用原料または前記溶融装置の少なくとも一方を鉛直方向に移動させながら、溶融した接点材料用原料を前記溶融装置の溶融領域外に移動させて冷却する工程と、
を有し、
前記導電材料および前記耐弧材料は、粒子状であり、前記接点材料用原料は、耐熱容器に収容されており、
前記導電材料および前記耐弧材料の混合粒子は、前記耐熱容器内において流動性を有する状態であることを特徴とす
る真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項3】
前記溶融する工程において、前記接点材料用原料または前記溶融装置の少なくとも一方を鉛直方向に0.1mm/min以上30.0mm/min以下で移動させることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項4】
前記冷却する工程の後に、非酸化性雰囲気中で、前記接点材料を前記接点材料の融点以下で加熱する工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項5】
前記導電材料はCuであり、前記耐弧材料はCrであることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項6】
前記接点材料用原料は、Crの融点よりも高い融点を有する高融点補助材料、またはCuの融点よりも低い融点を有する低融点補助材料をさらに含有することを特徴とする請求項
5に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項7】
前記高融点補助材料は、Nb、V、およびMoからなる群より選択される少なくとも1種の元素から構成されることを特徴とする請求項
6に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項8】
前記低融点補助材料は、Bi、Te、およびSbからなる群より選択される少なくとも1種の元素から構成されることを特徴とする請求項
6に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項9】
前記導電材料はAgであり、前記耐弧材料はWCであることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【請求項10】
前記接点材料用原料は、Co、Ni、Fe、Crからなる群より選択される少なくとも1種の元素から構成される補助材料をさらに含有することを特徴とする請求項
9に記載の真空バルブ用接点材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空バルブ用接点材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空バルブ用接点材料(以下、単に接点材料ともいう)は、主に、導電成分や耐弧成分などによって構成されている。そして、真空バルブの用途に応じて、接点材料を構成する材料は、適宜選択される。
【0003】
例えば、Cu-Cr系の接点材料では、Cuが導電性を有し、Crが耐弧性を有している。このようなCu-Cr系の接点材料を製造する方法として、従来では、Cuの融点とCrの融点との差を利用し、スケルトン状のCrの構造体をCuの融液に含侵させる溶浸法や、Cuの原料粉およびCrの原料粉を混合した混合粉の圧粉体を焼結させる焼結法などが挙げられる。しかしながら、溶浸法では、Crの構造体を用いるので、製造可能な接点材料の組成比が限られてしまう。また、焼結法では、プロセス上、焼結時間が長い。
【0004】
そこで、近年では、CuおよびCrの混合粉の圧粉体を溶融させる溶融法が検討されている。このような溶融法では、耐熱容器内の圧粉体を溶融して得られた融液を鋳型に流して冷却することによって、接点材料が製造される。ここで、CuおよびCrの圧粉体を溶融すると、Cuの密度とCrの密度との差に起因して、CuとCrとが2相に分離しやすい。そして、このようなCuおよびCrの相分離が生じると、CuおよびCrの組成比が接点材料の鉛直方向で不均一になり、接点材料のさまざまな特性が悪化する。
【0005】
このような接点材料における組成比の不均一性を抑制させるために、CuおよびCrの相分離を抑制させる補助成分を圧粉体に添加することがある。融液中では、Crが補助成分上に晶出されるため、CuおよびCrの密度差に起因する相分離は抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-032036号公報
【文献】特開2006-024476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した溶融法において、相分離を抑制させる補助成分を添加しても、接点材料を構成する各成分の密度差によって、接点材料を構成する成分の組成比は接点材料の鉛直方向で不均一になることがある。また、融液と耐熱容器の親和性、および融液と鋳型の親和性から、耐熱容器や鋳型を構成する成分が接点材料中に固溶や析出することがあるため、接点材料の組成比は鉛直方向に垂直な水平方向でも不均一になることがある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、溶融法によって製造しても、均質かつ優れた耐電圧特性を有する真空バルブ用接点材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の真空バルブ用接点材料の製造方法は、導電材料および耐弧材料からなる接点材料用原料を用意する工程と、前記接点材料用原料または前記接点材料用原料を溶融させる溶融装置の少なくとも一方を鉛直方向に移動させながら、前記溶融装置の溶融領域内にある前記接点材料用原料を鉛直方向に垂直な水平方向にわたって溶融する工程と、前記接点材料用原料または前記溶融装置の少なくとも一方を鉛直方向に移動させながら、溶融した接点材料用原料を前記溶融装置の溶融領域外に移動させて冷却する工程とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態の真空バルブ用接点材料の製造方法で用いる溶融装置の一部を模式的に示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態の真空バルブ用接点材料の製造方法で製造された真空バルブ用接点材料を備える真空バルブを模式的に示す断面図である。
【
図4】第1の実施形態の真空バルブ用接点材料の製造方法で製造された真空バルブ用接点材料を備える真空バルブの接点構成を模式的に示す拡大断面図である。
【
図5】第2の実施形態の真空バルブ用接点材料の製造方法で用いる溶融装置の一部を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の真空バルブ用接点材料の製造方法で用いる溶融装置の一部を模式的に示す断面図である。
図2は、
図1のA-A線に沿った断面図である。
【0013】
第1の実施形態の真空バルブ用接点材料(以下、単に接点材料ともいう)の製造方法は、接点材料用原料1を用意する工程S1(以下、用意工程S1ともいう)と、接点材料用原料1を溶融する工程S2(以下、溶融工程S2ともいう)と、溶融した接点材料用原料1を冷却する工程S3(以下、冷却工程S3ともいう)とを有する。
【0014】
まず、用意工程S1について説明する。
【0015】
用意工程S1で用意する接点材料用原料1は、
図1に示すように、導電材料2および耐弧材料3とからなる。導電材料2および耐弧材料3は、それぞれ、板状の延設部材である。導電材料2および耐弧材料3は、例えばインゴットである。
【0016】
図1に示すように、導電材料2および耐弧材料3は、導電材料2の長手方向と耐弧材料3の長手方向とが平行となるように、互いに密着しており、接点材料用原料1は、導電材料2および耐弧材料3を積層させた積層体である。接点材料用原料1が溶融装置に設置されると、
図1に示すように、接点材料用原料1を構成する導電材料2および耐弧材料3は鉛直方向に沿って延設される。具体的には、導電材料2と耐弧材料3とが密着している密着面4は、鉛直方向に沿って延びている。
【0017】
図1に示すように、溶融装置に設置された接点材料用原料1の一端側は、支持部材5によって支持されている。ここでは、
図1に示すように、接点材料用原料1の下端は、支持部材5によって支持されている。例えば、支持部材5は不図示の駆動部と接続されており、支持部材5が駆動部によって鉛直方向に移動すると、支持部材5によって支持されている接点材料用原料1は鉛直方向に移動することができる。
【0018】
なお、ここでは、支持部材5が
図1に示すように接点材料用原料1の下端側を支持している一例について示しているが、不図示の支持部材が接点材料用原料1の上端側を把持しながら支持してもよい。また、不図示の支持部材は、支持部材5と同様に、不図示の駆動部と接続されてもよい。この場合、不図示の支持部材は、駆動部によって鉛直方向に移動することができる。
【0019】
図2に示すように、接点材料用原料1の長手方向に垂直な導電材料2および耐弧材料3の断面形状は、それぞれ矩形である。ここでは、接点材料用原料1の長手方向に垂直な断面において、導電材料2の長辺2aを含む側面が、耐弧材料3の長辺3aを含む側面に密着している一例について示しているが、導電材料2の長辺2aを含む側面が、耐弧材料3の短辺3bを含む側面に密着してもよいし、導電材料2の短辺2bを含む側面が、耐弧材料3の長辺3aを含む側面に密着してもよいし、導電材料2の短辺2bを含む側面が、耐弧材料3の短辺3bを含む側面に密着してもよい。
【0020】
また、ここでは、接点材料用原料1の長手方向に垂直な断面において、導電材料2の長辺2aの長さおよび耐弧材料3の長辺3aの長さが全て同じである一例について示しているが、長辺2aの長さおよび長辺3aの長さは一部で異なっていてもよい。
【0021】
また、接点材料用原料1の長手方向に垂直な断面において、矩形状である導電材料2の短辺2bおよび耐弧材料3の短辺3bは、2.0mm以上8.0mm以下であることが好ましく、4.0mm以上6.0mm以下であることがより好ましい。当該短辺2b,3bが2.0mm以上であると、接点材料用原料1における導電材料2および耐弧材料3の表面積が低下するので、製造される接点材料中のガス含有量の増加が抑制される。また、当該短辺2b,3bが8.0mm以下であると、後述する溶融工程S2において、接点材料用原料1が水平方向にわたって容易に溶融される。
【0022】
なお、ここでは、接点材料用原料1は、導電材料2の2つと耐弧材料3の2つとから構成され、導電材料2と耐弧材料3とは、導電材料2および耐弧材料3の積層方向に沿って交互に積層されているが、導電材料2および耐弧材料3の積層数および積層構成は、特に限定されるものではなく、接点材料が所望の組成比となるように適宜選択される。例えば、接点材料用原料1は、導電材料2の1つと耐弧材料3の1つとから構成されてもよい。また、例えば、導電材料2や耐弧材料3の複数が積層方向に沿って連続して積層されてもよい。
【0023】
また、接点材料用原料1の長手方向に垂直な導電材料2および耐弧材料3の断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば正方形であってもよい。また、導電材料2および耐弧材料3の断面形状は、互いに、同じであってもよいし、異なってもよい。接点材料用原料1を構成する導電材料2や耐弧材料3が複数である場合、導電材料2や耐弧材料3の断面形状は、全て同じであってもよいし、一部で異なってもよい。導電材料2および耐弧材料3の断面形状は、接点材料が所望の組成比となるように適宜選択される。
【0024】
また、導電材料2および耐弧材料3は、
図2に示すように積層方向に垂直な方向に1列で積層されているが、積層方向に垂直な方向に2列以上で積層されてもよい。導電材料2および耐弧材料3が積層方向に2列以上で積層されている場合、各列における導電材料2および耐弧材料3の積層数や積層構成は、全て同じであってもよいし、一部で異なってもよい。
【0025】
また、後述するように、接点材料用原料1が高融点補助材料、低融点補助材料、または補助材料をさらに含有する場合、導電材料2や耐弧材料3と同様に、これらの補助材料は、板状の延設部材であり、導電材料2および耐弧材料3の長手方向に平行となるように、導電材料2や耐弧材料3に密着している。そして、接点材料用原料1は、導電材料2、耐弧材料3、および上記補助材料を積層させた積層体である。
【0026】
また、接点材料用原料1の長手方向に垂直な上記補助材料の断面形状、導電材料2と耐弧材料3と上記補助材料との積層数および積層構成などは、特に限定されるものではなく、接点材料が所望の組成比となるように適宜選択される。
【0027】
接点材料用原料1には、例えば、導電材料2がCuであって耐弧材料3がCrである接点材料用原料(以下、Cu-Cr系の接点材料用原料ともいう)や、導電材料2がAg(銀)であって耐弧材料3がWC(炭化タングステン)である接点材料用原料(以下、Ag-WC系の接点材料用原料ともいう)などがある。
【0028】
Cu-Cr系の接点材料用原料1を溶融および冷却して得られるCu-Cr系の接点材料では、耐弧性を有する微細なCr相が導電性を有するCu相の内部に均一に分散している。
【0029】
Cu-Cr系の接点材料用原料1において、Cuである導電材料2の質量比は、例えば5質量%以上90質量%以下、さらには25質量%以上70質量%以下である。5質量%以上であると、接点材料の導電特性は向上する。また、90質量%以下であると、接点材料の耐電圧特性や遮断特性は向上する。
【0030】
Cu-Cr系の接点材料用原料1において、Crである耐弧材料3の質量比は、例えば5質量%以上50質量%以下、さらには10質量%以上40質量%以下である。接点材料1に含まれるCrの質量比が5質量%以上であると、接点材料の耐弧性は増加する。また、Crの質量比が50質量%以下であると、CuとCrとの相分離が抑制されて、耐弧材料3が均一に分散される。そのため、接点材料の耐電圧特性や遮断特性は向上する。
【0031】
Cu-Cr系の接点材料用原料1は、Crの融点よりも高い融点を有する高融点補助材料、またはCuの融点よりも低い融点を有する低融点補助材料をさらに含有してもよい。高融点補助材料や低融点補助材料は、製造される接点材料において、Cu相の内部にCr相を微細かつ均一に分散させることができるので、Cu相およびCr相の相分離が抑制される。
【0032】
高融点補助材料は、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、およびMo(モリブデン)からなる群より選択される少なくとも1種の元素から構成される。接点材料用原料1は、接点材料用原料1の全体に対して高融点補助材料を質量比で、例えば0.1質量%以上10質量%以下、さらには1質量%以上5質量%以下含有する。接点材料用原料1に含まれる高融点補助材料の質量比が0.1質量%以上であると、製造される接点材料において、Cu相およびCr相の相分離が効率的に抑制される。高融点補助材料は、1種の元素から構成されてもよく、2種以上の元素から構成されてもよい。
【0033】
低融点補助材料は、Bi(ビスマス)、Te(テルル)、およびSb(アンチモン)からなる群より選択される少なくとも1種の元素から構成される。接点材料用原料1は、接点材料用原料1の全体に対して低融点補助材料を質量比で、例えば0.1質量%以上10質量%以下、さらには1質量%以上5質量%以下含有する。接点材料用原料1に含まれる低融点補助材料の質量比が0.1質量%以上であると、製造される接点材料において、Cu相およびCr相の相分離が効率的に抑制される。低融点補助材料は、1種の元素から構成されてもよく、2種以上の元素から構成されてもよい。
【0034】
また、Ag-WC系の接点材料用原料1を溶融および冷却して得られるAg-WC系の接点材料では、耐弧性を有する微細なWC相が導電性を有するAg相の内部に均一に分散している。
【0035】
Ag-WC系の接点材料用原料1において、Agである導電材料2の質量比は、例えば5質量%以上90質量%以下、さらには25質量%以上70質量%以下である。5質量%以上であると、接点材料の導電特性は向上する。また、90質量%以下であると、接点材料の耐電圧特性や遮断特性は向上する。
【0036】
Ag-WC系の接点材料用原料1において、WCである耐弧材料3の質量比は、例えば5質量%以上50質量%以下、さらには10質量%以上40質量%以下である。接点材料1に含まれるCrの質量比が5質量%以上であると、接点材料の耐弧性は増加する。また、Crの質量比が50質量%以下であると、AgとWCとの相分離が抑制されて、耐弧材料3が均一に分散される。そのため、接点材料の耐電圧特性や遮断特性は向上する。
【0037】
Ag-WC系の接点材料用原料1は、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Fe(鉄)、Crからなる群より選択される少なくとも1種の元素から構成される補助材料をさらに含有してもよい。補助材料は、製造される接点材料において、Ag相の内部にWC相を微細かつ均一に分散させることができる。補助材料は、1種の元素から構成されてもよく、2種以上の元素から構成されてもよい。
【0038】
接点材料用原料1は、接点材料用原料1の全体に対して補助材料を質量比で、例えば0.1質量%以上10質量%以下、さらには1質量%以上5質量%以下含有する。接点材料用原料1に含まれる補助材料の質量比が0.1質量%以上であると、製造される接点材料において、Ag相内に分散しているWC相の均一化が向上する。
【0039】
次に、溶融工程S2について説明する。
【0040】
溶融工程S2では、
図1に示すように、接点材料用原料1または接点材料用原料1を溶融させる溶融装置の少なくとも一方を鉛直方向に移動させながら、溶融装置の加熱部8の溶融領域9内にある接点材料用原料1を鉛直方向に垂直な水平方向にわたって溶融する。
【0041】
接点材料用原料1を鉛直方向に移動させる場合、支持部材5または不図示の支持部材が鉛直方向に移動することによって、接点材料用原料1は移動する。また、溶融装置を鉛直方向に移動させる場合、溶融装置に設けられている加熱部8が鉛直方向に移動する。
【0042】
ここでは、溶融装置の加熱部8は移動せずに、接点材料用原料1が支持部材5によって鉛直方向下方に移動する構成を示しているが、接点材料用原料1は移動せずに、加熱部8が鉛直方向上方に移動してもよく、接点材料用原料1と加熱部8とが共に移動してもよい。接点材料用原料1と加熱部8とが移動する場合には、接点材料用原料1および加熱部8の移動方向は異なってもよいし、同じであってもよい。
【0043】
ここで、接点材料用原料1が溶融されるとは、接点材料用原料1を溶融して生じる接点材料用原料1の融液6が、導電材料2または耐弧材料3の一方の融液中に、導電材料2または耐弧材料3の他方が溶融されずに分散している形態、または導電材料2と耐弧材料3との混合融液であるときである。
【0044】
溶融装置は、接点材料用原料1の全体を一度に溶融せずに、接点材料用原料1を局所的に溶融する。具体的には、溶融装置は、接点材料用原料1の長手方向の一部、すなわち接点材料用原料1の長手方向に所定の長さを有する接点材料用原料1の一部を、鉛直方向に垂直な水平方向にわたって全面的に溶融する。溶融装置は、例えば高周波誘導加熱式の溶融装置である。
【0045】
溶融装置の加熱部8は、接点材料用原料1の長手方向の一部の全周を覆うように、接点材料用原料1の外側に設けられる。例えば、加熱部8は、コイルなどから構成され、鉛直方向に垂直な加熱部8の断面形状は、環状である。加熱部8の溶融領域9は、加熱部8の内側であって、加熱部8によって接点材料用原料1を溶融可能な領域である。
【0046】
図1に示すように、接点材料用原料1が溶融領域9を通過している間、溶融領域9内の接点材料用原料1は誘導加熱によって高温に加熱されて溶融される。すなわち、接点材料用原料1の全てが溶融されるのではなく、接点材料用原料1の長手方向における溶融領域9内の部分が水平方向にわたって全面的に溶融される。そして、接点材料用原料1が下方に移動することによって、加熱部8の溶融領域9は、接点材料用原料1に対して相対的に上方に移動しながら、接点材料用原料1は、下端側から上端側に向かって逐次溶融される。
【0047】
溶融工程S2において、接点材料用原料1または溶融装置の加熱部8の少なくとも一方を鉛直方向に、好ましくは0.1mm/min以上30.0mm/min以下、より好ましくは1.0mm/min以上10.0mm/min以下で移動させる。すなわち、鉛直方向における接点材料用原料1と加熱部8との間の相対速度は、接点材料用原料1を構成する材料の種類や加熱部8の出力エネルギーなどに依存するが、0.1mm/min以上30.0mm/min以下であることが好ましく、1.0mm/min以上10.0mm/min以下であることがより好ましい。
【0048】
上記の相対速度が0.1mm/min以上であると、導電材料2と耐弧材料3との相分離が抑制されるので、製造される接点材料の鉛直方向における導電材料2および耐弧材料3の組成比の均一性が向上する。さらに、接点材料の生産性が向上する。また、相対速度が30.0mm/min以下であると、導電材料2および耐弧材料3の未溶融部分の発生が抑制されるので、導電材料2および耐弧材料3の組成比の均一性が向上する。
【0049】
また、溶融工程S2において、接点材料用原料1の溶融時間は、1分以上10分以下であることが好ましく、3分以上7分以下であることがより好ましい。接点材料用原料1の溶融時間が1分以上であると、導電材料2および耐弧材料3の未溶融部分の発生が抑制されるので、接点材料の均質性が向上する。また、溶融時間が10分以下であると、導電材料2と耐弧材料3との相分離が抑制されるので、製造される接点材料の均質性が向上する。
【0050】
次に、冷却工程S3について説明する。
【0051】
冷却工程S2では、
図1に示すように、接点材料用原料1または溶融装置の少なくとも一方を鉛直方向に移動させながら、溶融した接点材料用原料1を溶融装置の溶融領域9外に移動させて冷却する。
【0052】
溶融工程S2と同様に、冷却工程S3において接点材料用原料1を鉛直方向に移動させる場合、支持部材5または不図示の支持部材が鉛直方向に移動することによって、接点材料用原料1は移動する。また、溶融装置を鉛直方向に移動させる場合、加熱部8が鉛直方向に移動する。ここでは、加熱部8は移動せずに、接点材料用原料1が支持部材5によって鉛直方向下方に移動する構成を示している。
【0053】
溶融した接点材料用原料1、すなわち接点材料用原料1の融液6が溶融領域9を通過すると、溶融した接点材料用原料1は、溶融領域9を出て、溶融領域9の下方に移動する。溶融領域9外に移動した接点材料用原料1は溶融装置によって加熱されなくなるため、接点材料用原料1の融液6は自然に冷却される。そして、接点材料用原料1の融液6が常温に冷却されると、接点材料が得られる。
【0054】
ここで、上記のように、溶融工程S2において、接点材料用原料1が鉛直方向下方に移動して溶融領域9に到達すると、溶融領域9内の接点材料用原料1は溶融される。そして、冷却工程S3において、接点材料用原料1がさらに下方に移動すると、溶融した接点材料用原料1は溶融領域9外に移動することによって冷却される。このとき、溶融工程S2を実施後、所定の時間間隔を空けて、冷却工程S3を実施してもよいし、所定の時間間隔を空けずに、接点材料用原料1の移動を継続させて、溶融工程S2および冷却工程S3を連続的に実施してもよい。
【0055】
また、溶融工程S2と同様に、冷却工程S3において、接点材料用原料1または溶融装置の加熱部8の少なくとも一方を鉛直方向に、好ましくは0.1mm/min以上30.0mm/min以下、より好ましくは1.0mm/min以上10.0mm/min以下で移動させる。上記速度が0.1mm/min以上であると、接点材料の生産性が向上する。
【0056】
また、第1の実施形態の接点材料の製造方法は、冷却工程S3の後に、接点材料を加熱する工程S4(以下、加熱工程S4ともいう)をさらに有してもよい。
【0057】
加熱工程S4は、冷却工程S3で得られた接点材料を真空雰囲気などの非酸化性雰囲気中で、好ましくは接点材料の融点TM以下、より好ましくはTM-400℃以上TM-20℃以下で加熱することが好ましい。冷却工程S3で得られた接点材料が非酸化性雰囲気において上記温度範囲で加熱されると、製造された接点材料の残留応力が低下するので、接点材料の絶縁破壊電圧が増加する。
【0058】
次に、第1の実施形態の接点材料の製造方法で製造された接点材料を備える真空バルブについて説明する。
【0059】
図3は、第1の実施形態の接点材料の製造方法で製造された接点材料21a,21bを備える真空バルブ20を模式的に示す断面図である。
図4は、第1の実施形態の接点材料の製造方法で製造された接点材料21a,21bを備える真空バルブ20の接点構成を模式的に示す拡大断面図である。
【0060】
図3に示すように、筒状の真空絶縁容器22の両端開口面には、固定側の封着金具23a、および可動側の封着金具23bが、それぞれろう付けによって設けられている。固定側の封着金具23aには、固定側の通電軸24aが貫通固定されている。
【0061】
図4に示すように、固定側の通電軸24aの下端部には、固定側の電極25aがろう材26aによって固着されている。また、固定側の電極25aの下面には、固定側の接点材料21aがろう材27aによって固着されている。なお、固定側の電極25aは、固定側の通電軸24aにかしめ等によって圧着接続されてもよい。
【0062】
また、固定側の接点材料21aに対向して接離自在に、可動側の接点材料21bがろう材27bによって可動側の電極25bの上面に固着されている。可動側の電極25bは、ろう材26bによって、可動側の通電軸24bの上端部に固着されている。なお、可動側の電極25bは、可動側の通電軸24bにかしめ等によって圧着接続されてもよい。
【0063】
また、
図3に示すように、可動側の通電軸24bは、可動側の封着金具23bの中央開口部を移動自在に貫通する。可動側の通電軸24bと可動側の封着金具23bの開口部との間には、伸縮自在のベローズ28がろう付けによって設けられている。
【0064】
また、固定側の接点材料21aおよび可動側の接点材料21bを包囲する筒状のアークシールド29の外周には、支持部材30がろう付けされている。支持部材30は、真空絶縁容器22の内面から突き出た突出部22aに固定されている。
【0065】
真空バルブ20がこのような構成を有することによって、真空絶縁容器22内を真空に保ちながら、可動側の接点材料21aが固定側の接点材料21bと接離することができる。
【0066】
真空バルブ20は、例えば真空遮断器に適用することができる。耐電圧特性や遮断特性を向上させた接点材料21a,21bが真空遮断器の開閉器に使用されると、真空遮断器の特性は向上する。
【0067】
上記したように、第1の実施形態の接点材料の製造方法によれば、導電材料2および耐弧材料3からなる接点材料用原料1を移動させながら、接点材料用原料1の長手方向の一部を水平方向にわたって溶融し、さらに接点材料用原料1を移動させながら、溶融した接点材料用原料1を冷却することによって、優れた耐電圧特性を有すると共にガス含有量の少ない接点材料を製造することができる。さらに、このような製造方法を用いることによって、導電材料2と耐弧材料3との相分離を抑制させる補助材料を接点材料用原料1に加えなくても、相分離が抑制され、接点材料の鉛直方向の均質性が向上する。
【0068】
また、上記のような製造方法によれば、従来の接点材料用原料を溶融するときに、接点材料用原料を収容するために用いられている耐熱容器が不要になる。このように、接点材料用原料1の溶融時に耐熱容器を使用せずに接点材料を製造することができるので、溶融した接点材料用原料1と耐熱容器との親和性に起因する、耐熱容器を構成する成分による接点材料への固溶や析出が回避される。そのため、接点材料の水平方向の均質性は向上する。
【0069】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の接点材料の製造方法において、接点材料用原料101の構成が異なる以外は、第1の実施形態の接点材料の製造方法の構成と基本的に同じである。そのため、ここでは、その異なる構成について主に説明する。なお、以下に示す実施形態において、第1の実施形態の接点材料の製造方法の構成と重複する説明を省略または簡略する。
【0070】
図5は、第2の実施形態の接点材料の製造方法で用いる溶融装置の一部を模式的に示す断面図である。第2の実施形態の接点材料の製造方法は、接点材料用原料101を用意する工程S101(以下、用意工程S101ともいう)と、接点材料用原料101を溶融する工程S102(以下、溶融工程S102ともいう)と、溶融した接点材料用原料101を冷却する工程(以下、冷却工程S103ともいう)とを有する。
【0071】
まず、用意工程S101について説明する。
【0072】
用意工程S101で用意する接点材料用原料101は、
図5に示すように、導電材料102および耐弧材料103とからなる。導電材料102および耐弧材料103は、それぞれ粒子状である。また、接点材料用原料101は、耐熱容器110内に収容されている。
【0073】
粒子状である導電材料102は、複数の導電材料の粒子からなる。導電材料102の平均粒径は、メジアン径(D50)で、30μm以上50mm以下であることが好ましく、50μm以上40mm以下であることがより好ましい。導電材料102の平均粒径が30μm以上であると、製造される接点材料中のガス含有量の増加が抑制される。また、導電材料102の平均粒径が50mm以下であると、溶融時の導電材料102の分散性が増加する。
【0074】
また、粒子状である耐弧材料103は、複数の導電材料の粒子からなる。耐弧材料103の平均粒径は、メジアン径(D50)で、50μm以上70mm以下であることが好ましく、70μm以上60mm以下であることがより好ましい。耐弧材料103の平均粒径が50μm以上であると、製造される接点材料中のガス含有量の増加が抑制される。また、耐弧材料103の平均粒径が70mm以下であると、溶融時の耐弧材料103の分散性が増加する。
【0075】
以下では、平均粒径はメジアン径(D50)で示す。ここで、メジアン径(D50)とは、個数基準の粒度分布から積算分布曲線の50%に相当する粒子径として算出されるメジアン径である。
【0076】
また、接点材料用原料101が高融点補助材料、低融点補助材料、または補助材料をさらに含有する場合、導電材料102や耐弧材料103と同様に、これらの補助材料は、粒子状である。当該補助材料の平均粒径は、メジアン径(D50)で、500μm以上5mm以下であることが好ましく、700μm以上3mm以下であることがより好ましい。補助材料の平均粒径が500μm以上であると、製造される接点材料中のガス含有量の増加が抑制される。また、補助材料の平均粒径が5mm以下であると、溶融時の補助材料の分散性が増加する。なお、ここでは、接点材料用原料101は導電材料102および耐弧材料103からなる一例について説明する。
【0077】
耐熱容器110に収容されている接点材料用原料101の状態は、製造される接点材料が所望の組成比であれば、特に限定されるものではない。例えば、接点材料用原料101の状態は、導電材料102および耐弧材料103を混合した混合粒子が、一体化されておらずに、流動性を有する状態であってもよいし、混合粒子が、所定の圧力で成形された圧粉体のように、一体化されている状態であってもよい。
【0078】
耐熱容器110に収容されている接点材料用原料101の状態は、導電材料102および耐弧材料103の混合粒子が流動性を有する状態であることが好ましい。接点材料用原料101が流動性を有する状態であると、一体化されている状態に比べて、溶融前に接点材料用原料101内に存在するガスや溶融時に発生するガスは、溶融時に接点材料用原料101から容易に放出されるので、製造される接点材料のガス含有量が減少する。さらに、混合粒子を圧粉体に成形するプロセスが不要であるので、接点材料製造方法における作業性が向上する。
【0079】
例えば、上下に取り外し可能な容器内に流動性を有する接点材料用原料101を入れて、容器の上側部材を下側部材から取り外した後、下側部材の上端開口に盛り上がった接点材料用原料101をヘラでならすことによって形成される接点材料用原料101の表面を顕微鏡で観察することによって、当該組成比aを測定することができる。
【0080】
接点材料用原料101を収容している耐熱容器110は、筒体であり、耐熱容器110の下端は閉口している。また、耐熱容器110の上端は、開口していても、閉口していてもよい。耐熱容器110は、例えばルツボである。
【0081】
また、接点材料用原料1と同様に、溶融装置に設置された耐熱容器110の下端は、支持部材5によって支持されている。そして、支持部材5が不図示の駆動部によって鉛直方向に移動すると、支持部材5によって支持されている耐熱容器110が鉛直方向に移動するので、耐熱容器110内の接点材料用原料101は鉛直方向に移動することができる。なお、接点材料用原料1と同様に、不図示の支持部材が耐熱容器110の上端側を把持しながら支持してもよい。
【0082】
次に、溶融工程S102について説明する。
【0083】
溶融工程S102は、溶融工程S2と基本的に同じである。溶融工程S2では、耐熱容器110を使用せずに接点材料用原料1を溶融する一方、溶融工程S102では、耐熱容器110内で接点材料用原料101を溶融する。
【0084】
次に、冷却工程S103について説明する。
【0085】
冷却工程S103は、冷却工程S3と基本的に同じである。冷却工程S3では、耐熱容器110を使用せずに接点材料用原料1を冷却する一方、冷却工程S103では、耐熱容器110内で溶融した接点材料用原料101を冷却する。
【0086】
また、第2の実施形態の接点材料の製造方法は、冷却工程S103の後に、加熱工程S4をさらに有してもよい。
【0087】
上記したように、第2の実施形態の接点材料の製造方法によれば、接点材料用原料101を収容している耐熱容器110を移動させながら、接点材料用原料1の長手方向の一部を水平方向にわたって溶融し、さらに耐熱容器110を移動させながら、溶融した接点材料用原料1の融液106を冷却することによって、優れた耐電圧特性を有すると共にガス含有量の少ない接点材料を製造することができる。さらに、このような製造方法を用いることによって、導電材料2と耐弧材料3との相分離を抑制させる補助材料を接点材料用原料101に加えなくても、相分離が抑制され、接点材料の鉛直方向の均質性が向上する。
【0088】
また、上記のような製造方法によれば、接点材料用原料101が流動性を有する混合粒子からなる場合であっても、均質性に優れた接点材料を製造することができる。そのため、従来のような圧粉体を作製する作業が不要になり、接点材料製造方法における生産性は向上する。
【0089】
以上説明した実施形態によれば、溶融法によって製造しても、均質かつ優れた耐電圧特性を有する真空バルブ用接点材料の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されない。
【0091】
(実施例1)
実施例1では、Cu-30Crの接点材料E1を製造した。なお、元素記号の前の数字は質量%を示す。以下に、接点材料E1の製造方法を示す。
【0092】
まず、平均粒径70μmのCu粒子と平均粒径100μmのCr粒子とを質量比70:30で混合し、Cu粒子とCr粒子とからなる混合粒子を2kg得た。続いて、内径100mmの円筒形状の耐熱容器内に混合粒子2kgを入れた。こうして、耐熱容器に収容されている接点材料用原料を得た。
【0093】
続いて、溶融装置の加熱部を移動させずに、接点材料用原料を収容している耐熱容器を鉛直方向下方に10.0mm/minで移動させながら、接点材料用原料を水平方向にわたって溶融し、溶融した接点材料用原料を冷却した。こうして、直径50mmの円柱状の接点材料E1を製造した。接点材料E1には、引け巣がほとんど見られなかった。
【0094】
製造して得られた接点材料E1の組成分析を行った。具体的には、接点材料E1の下端部から10mm上方の部分の断面組織(下部)、接点材料E1の下端部と上端部との中間の部分の断面組織(中間部)、接点材料E1の上端部から10mm下方の部分の断面組織(上部)の、合計3か所の部分の組織について、光学顕微鏡を用いて組成分析を行った。組成分析の結果、接点材料E1におけるCrの含有率は、下部で29.8質量%、中間部で30.4質量%、上部で29.5質量%であった。この結果から、接点材料用原料におけるCrの含有率(30.0質量%)と接点材料E1の各部分におけるCrの含有率との差は±0.5質量%以内であり、接点材料E1は均質化されていた。
【0095】
また、製造して得られた接点材料E1のガス分析を行った。具体的には、接点材料E1におけるCrの含有率が30.0±1.0質量%の部分について、ガス分析を行った。ガス分析の結果、接点材料E1の酸素量は、250ppmであり、接点材料E1のガス含有量は減少していた。接点材料E1の酸素量は、一般的に好適とされている接点材料の酸素量500ppmよりも少なかった。
【0096】
また、製造して得られた接点材料E1におけるCrの含有率が30.0±1.0質量%の部分について、耐電圧特性の試験を行った。具体的には、耐電圧特性の試験は、
図3に示す真空バルブを模擬した真空チャンバに、直径20mmおよび厚さ3mmの円柱状に加工した当該部分の接点材料E1を1mmのギャップを介して対向配置し、絶縁破壊電圧を10回測定し、10個の測定値の算術平均値を絶縁破壊電圧として算出した。後述する比較例1の接点材料C1の絶縁破壊電圧を1(基準)として、実施例1の接点材料E1の絶縁破壊電圧は1.3倍であり、接点材料E1の耐電圧特性は向上した。
【0097】
(比較例1)
比較例1では、実施例1の組成と同様に、Cu-30Crの接点材料C1を製造した。以下に、接点材料C1の製造方法を示す。
【0098】
まず、実施例1と同様に、接点材料用原料を得た。
【0099】
続いて、接点材料用原料を収容している耐熱容器を真空雰囲気下に設置し、接点材料用原料を脱ガス処理しながら溶融した。すなわち、耐熱容器に収容されている接点材料用原料の全量を溶融した。続いて、減圧雰囲気下で、溶融した接点材料用原料を内径50mmの円筒形状の水冷鋳型内に流し込んで冷却した。こうして、直径50mmの円柱状の接点材料C1を製造した。接点材料C1には、引け巣が見られた。
【0100】
また、接点材料C1の組成分析を行った。具体的には、接点材料C1の下端部から10mm上方の部分の断面組織(下部)、接点材料C1の下端部と上端部との中間の部分の断面組織(中間部)、接点材料C1の上端部から20mm下方の部分の断面組織(上部、引け巣の直下部分)の、合計3か所の部分の組織について、光学顕微鏡を用いて組成分析を行った。接点材料C1におけるCrの含有率は、下部で27.0質量%、中間部で30.1質量%、上部で32.4質量%であった。この結果から、接点材料用原料におけるCrの含有率(30.0質量%)と接点材料C1の各部分におけるCrの含有率との差は±3.0質量%以内であり、接点材料C1の均質化は低下していた。
【0101】
また、実施例1と同様に、ガス分析および耐電圧特性の試験を行った。ガス分析の結果、接点材料C1の酸素量は800ppmであり、接点材料C1のガス含有量は接点材料E1のガス含有量よりも3倍以上に増加した。
【0102】
実施例1および比較例1より、接点材料C1に比べて、接点材料E1では、偏析が少なく、均質化が向上し、酸素などの不純物の量が大幅に低下した。そのため、接点材料E1の耐電圧特性は向上した。また、実施例1の製造方法は、優れた均質性を有すると共にガス含有量の非常に少ない接点材料を製造できることがわかったので、以下の実施例および比較例では主に接点材料の電気的特性である耐電圧特性について測定した。なお、以下の実施例の製造方法については、組成を変えた以外は実施例1と基本的に同様の製造方法であり、以下の実施例で製造される接点材料の均質性およびガス含有量については、実施例1と同等レベルである。
【0103】
(実施例2)
実施例2では、Cu-45Cr-5Nbの接点材料E2を製造した。以下に、接点材料E2の製造方法を示す。
【0104】
まず、Cu粒子とCr粒子とNb粒子とを質量比50:45:5で混合した以外は実施例1と同様にして、接点材料用原料を得た。
【0105】
続いて、耐熱容器を鉛直方向下方に30.0mm/minで移動させた以外は実施例1と同様にして、接点材料E2を製造した。接点材料E2には、引け巣がほとんど見られなかった。
【0106】
そして、接点材料E2の下端部と上端部との中間の部分を用いた以外は実施例1と同様にして、耐電圧特性の試験を行った。後述する比較例2の接点材料C2の絶縁破壊電圧を1(基準)として、実施例2の接点材料E2の絶縁破壊電圧は1.4倍であり、接点材料E2の耐電圧特性は向上した。
【0107】
(実施例3)
実施例3では、実施例2の組成と同様に、Cu-45Cr-5Nbの接点材料E3を製造した。以下に、接点材料E3の製造方法を示す。
【0108】
実施例2と同様にして、接点材料用原料を得た後、接点材料E2を製造した。
【0109】
続いて、接点材料E2を800℃、換言するとCuの融点よりも283℃低い温度で加熱した。こうして、接点材料E3を製造した。接点材料E3には、引け巣がほとんど見られなかった。
【0110】
そして、実施例2と同様に、耐電圧特性の試験を行った。接点材料C2の絶縁破壊電圧を1(基準)として、実施例3の接点材料E3の絶縁破壊電圧は1.5倍であり、接点材料E3の耐電圧特性はさらに向上した。
【0111】
(比較例2)
比較例2では、実施例2の組成と同様に、Cu-45Cr-5Nbの接点材料C2を製造した。以下に、接点材料C2の製造方法を示す。
【0112】
まず、実施例2と同様にして、接点材料用原料を得た。続いて、比較例1と同様にして、接点材料C2を製造した。接点材料C2には、引け巣が見られた。そして、実施例2と同様に、耐電圧特性の試験を行った。
【0113】
実施例2、3および比較例2より、接点材料C2に比べて、接点材料E2、E3の耐電圧特性は向上した。特に、接点材料E2を加熱処理して製造した接点材料E3では、残留応力が低下したため、耐電圧特性はさらに向上した。
【0114】
(実施例4)
実施例4では、Cu-20Cr-1Biの接点材料E4を製造した。以下に、接点材料E4の製造方法を示す。
【0115】
まず、Cu粒子とCr粒子とBi粒子とを質量比79:20:1で混合した以外は実施例1と同様にして、接点材料用原料を得た。続いて、実施例2と同様にして、接点材料E4を製造した。接点材料E4には、引け巣がほとんど見られなかった。
【0116】
そして、実施例2と同様に、耐電圧特性の試験を行った。後述する比較例3の接点材料C3の絶縁破壊電圧を1(基準)として、実施例4の接点材料E4の絶縁破壊電圧は1.3倍であり、接点材料E4の耐電圧特性は向上した。
【0117】
(比較例3)
比較例3では、実施例4の組成と同様に、Cu-20Cr-1Biの接点材料C3を製造した。以下に、接点材料C3の製造方法を示す。
【0118】
まず、実施例4と同様にして、接点材料用原料を得た。続いて、比較例1と同様にして、接点材料C3を製造した。接点材料C3には、引け巣が見られた。そして、実施例2と同様に、耐電圧特性の試験を行った。
【0119】
実施例4および比較例3より、接点材料C3に比べて、接点材料E4の耐電圧特性は向上した。
【0120】
(実施例5)
実施例5では、Ag-50WC-1Coの接点材料E5を製造した。以下に、接点材料E5の製造方法を示す。
【0121】
まず、Ag粒子とWC粒子とCo粒子とを質量比49:50:1で混合した以外は実施例1と同様にして、接点材料用原料を得た。続いて、実施例2と同様にして、接点材料E5を製造した。接点材料E5には、引け巣がほとんど見られなかった。
【0122】
そして、実施例2と同様に、耐電圧特性の試験を行った。後述する比較例4の接点材料C4の絶縁破壊電圧を1(基準)として、実施例5の接点材料E5の絶縁破壊電圧は1.2倍であり、接点材料E5の耐電圧特性は向上した。
【0123】
(比較例4)
比較例4では、実施例5の組成と同様に、Ag-50WC-1Coの接点材料C4を製造した。以下に、接点材料C4の製造方法を示す。
【0124】
まず、実施例5と同様にして、接点材料用原料を得た。続いて、比較例1と同様にして、接点材料C4を製造した。接点材料C4には、引け巣が見られた。そして、実施例2と同様に、耐電圧特性の試験を行った。
【0125】
実施例5および比較例4より、接点材料C4に比べて、接点材料E5の耐電圧特性は向上した。
【0126】
以上説明したように、実施例1~5で製造した接点材料E1~E5では、均質性が向上すると共にガス含有量が低下し、耐電圧特性が向上した。
【0127】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0128】
1,101…接点材料用原料、2,102…導電材料、3,103…耐弧材料、2a,3a…長辺、2b,3b…短辺、4…密着面、5…支持部材、6,106…融液、8…加熱部、9…溶融領域、20…真空バルブ、21a,21b…接点材料、22…真空絶縁容器、22a…突出部、23a,23b…封着金具、24a,24b…通電軸、25a,25b…電極、26a,26b,27a,27b…ろう材、28…ベローズ、29…アークシールド、30…支持部材、110…耐熱容器。