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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】透析濃縮液
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20220307BHJP
   A61M 1/28 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
A61M1/16 163
A61M1/28 100
A61M1/16 181
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018550756
(86)(22)【出願日】2017-05-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2017060771
(87)【国際公開番号】W WO2017191302
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-01
(31)【優先権主張番号】1650612-3
(32)【優先日】2016-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501473877
【氏名又は名称】ガンブロ・ルンディア・エービー
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188857
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 智文
(74)【代理人】
【識別番号】100199277
【弁理士】
【氏名又は名称】西守 有人
(74)【代理人】
【識別番号】100207354
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 康正
(72)【発明者】
【氏名】ヴィースランデル, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】カールション, オラ
(72)【発明者】
【氏名】サンディン, カリン
(72)【発明者】
【氏名】エナション, サイモン
(72)【発明者】
【氏名】ハンコック, ヴィクトリア
【審査官】小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表平05-502614(JP,A)
【文献】特開2015-218141(JP,A)
【文献】特開2006-000482(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083612(WO,A1)
【文献】米国特許第6610206(US,B1)
【文献】欧州特許出願公開第2965747(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
A61M 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸イオンとカルシウムイオンを含む第1の濃縮液であり、前記第1の濃縮液は+4°Cの温度における沈殿に対する高められた安定性を有し、前記第1の濃縮液は、前記第1の濃縮液を、水、及びグルコース製剤を含む第2の濃縮液、と混合することにより、すぐに使える透析液を調製するために有用であり、前記第1の濃縮液の乳酸イオン濃度Lconc(1リットルあたりのモル数(M)で表される)は、
a)Lconc>0.75M、および
b)Lconc<(1.9-0.4×Caready)Mの条件を満たし、
Careadyは、1リットルあたりのミリモル数(mM)で表される、前記すぐに使える透析液のカルシウム濃度であることを特徴とする、第1の濃縮液。
【請求項2】
c)Lconc<(1.85-0.4×Caready)Mの条件をさらに満たし、ここでCareadyは請求項1と同じ意味をもつ、請求項1に記載の第1の濃縮液。
【請求項3】
conc>0.80Mである、請求項1又は2に記載の第1の濃縮液。
【請求項4】
比率R=Lconc/Caconcは、20~40の範囲内にあり、Caconcは、1リットルあたりのモル数(M)で表される、前記第1の濃縮液のカルシウム濃度である、請求項1から3のいずれか1項に記載の第1の濃縮液。
【請求項5】
前記比率Rが22~33の範囲内にある、請求項4に記載の第1の濃縮液。
【請求項6】
pHが5.5~9.0の範囲内にある、請求項1から5のいずれか1項に記載の第1の濃縮液。
【請求項7】
pHが6.5~8.0の範囲内にある、請求項6に記載の第1の濃縮液。
【請求項8】
前記第1の濃縮液は、Na、K、Mg2+、およびClの群から選択されるイオンをさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の第1の濃縮液。
【請求項9】
最終滅菌されている、請求項1から8のいずれか1項に記載の第1の濃縮液。
【請求項10】
腹膜透析液を調製するための要素のキットであって、
請求項1から9のいずれか1項に記載の第1の濃縮液である第1の要素と、
酸性グルコース濃縮液である第2の要素と、
を備える要素のキット。
【請求項11】
前記酸性グルコース濃縮液のpHが1.5~4の範囲内にある、請求項10に記載の要素のキット。
【請求項12】
前記酸性グルコース濃縮液のpHが2.0~3.2の範囲内にある、請求項11に記載の要素のキット。
【請求項13】
前記酸性グルコース濃縮液は、塩酸を添加することにより酸性にされている、請求項10から12のいずれか1項に記載の要素のキット。
【請求項14】
前記酸性グルコース濃縮液は、30%~70%の範囲内のレベルまで飽和しているグルコース濃縮液である、請求項10から13のいずれか1項に記載の要素のキット。
【請求項15】
前記酸性グルコース濃縮液が最終滅菌されている、請求項10から14のいずれか1項に記載の要素のキット。
【請求項16】
前記第1の濃縮液が第1室に格納され、前記酸性グルコース濃縮液が第2室に格納されている、請求項10から15のいずれか1項に記載の要素のキットを格納する多室袋。
【請求項17】
透析液を生成する方法であって、
a)請求項10から15のいずれか1項に記載の要素のキットの第1および第2の要素を調製するステップと、
b)熱により前記第1及び第2の要素を滅菌するステップと、
c)任意的に精製されている水を提供するステップと、
d)適量の前記滅菌された第1及び第2の要素を混合し、さらに適量の前記水と混合し、こうしてすぐに使える透析液を得るステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療分野に関する。より具体的に、本発明は透析療法に用いられる溶液に関する。特に、本発明は、精製水及び/又は滅菌水及び/又は1つ以上の追加濃縮液と混合した後に、すぐに使える透析液を調製するために使用できる第1の濃縮液に関する。さらに、本発明は、すぐに使える透析液を調製するための、少なくとも第1及び第2の濃縮液を含むキットに関するものであり、前記すぐに使える透析液は、前記少なくとも第1及び第2の濃縮液を、任意的に精製された、水と混合して調製される。
【背景技術】
【0002】
人の腎臓系不全は、病気、損傷、又は他の原因によって起きうる。原因を問わず、腎不全においてはいくつかの生理学的錯乱が生じる。腎不全の際、水と、ミネラルと、日常の代謝負荷の排泄とのバランス機能が不可能になる。腎不全の間は、窒素代謝の毒性最終生成物(例えば尿素、クレアチニン、尿酸、その他)が血液及び組織内に蓄積し得る。
【0003】
腎不全および腎機能の低下は、透析で治療されてきた。透析は、通常は正常に機能する腎臓に取り除かれる老廃物、毒素、および過剰水を身体から取り除く。腎機能の代わりをする透析治療は、命を救う治療であるため、多くの人にとっては欠かせない治療である。
【0004】
血液透析、血液ろ過、および腹膜透析は、一般に腎機能喪失を治療するために用いられる透析治療法の3つの種類である。血液透析療法は、老廃物、毒素、および過剰水を患者の血液から直接取り除くものである。患者を血液透析機に接続し、患者の血液を、透析機を通してポンプで送るようにする。例えば、患者の静脈または動脈に針やカテーテルを挿入し、血流が透析機へ往復するように接続できる。血液が血液透析機におけるダイアライザーを通ると、ダイアライザーは患者の血液から老廃物、毒素、および過剰水を取り除き、血液を患者に注入し戻すために返す。多くの血液透析機は、血液を透析するために、1回の血液透析治療で大量の透析液、例えば約90~120リットルの透析液を使用する。そして、使用済みの透析液またはダイアリセートは処分される。血液透析治療は数時間かかり、一般には週に約3回、治療センターで行われる。
【0005】
血液ろ過は、対流(convection)に基づく血液浄化法である。血液は静脈または動脈を経由してアクセスできる。血液が血液フィルタを通ると、血液のコンパートメントと限外ろ過液のコンパートメントの間に生じる膜間圧力勾配によって、血漿水が高透過性の膜を通してろ過される。水は、膜を通ると小分子と大分子を膜を通過して対流させ、それにより血液を浄化する。ろ過により、血漿水の過剰量が除去される。したがって、体内水分のバランスを保つためには、静脈に注入する平衡電解質溶液(補液[replacement fluid]または置換液[substitution fluid])で持続的に流体を置換する必要がある。この置換液は、血液フィルタに入る動脈ライン(前希釈)または血液フィルタから出る静脈ライン(後希釈)に注入できる。
【0006】
腹膜透析は無菌透析液を利用し、無菌透析液は、患者の腹膜腔に、そして患者の腹膜に接触するように注入される。老廃物、毒素、および過剰水は、患者の血流から、腹膜を通って、ダイアリセートへ移動する。滞留期間中に老廃物、毒素、および過剰水は、拡散および対流によって血流からダイアリセートへ移送される。対流搬送は、ダイアリセートの中の浸透圧性物質が膜間に浸透勾配を生じさせることにより駆動される。その後、患者から老廃物、毒素、および過剰水を取り除くために、ダイアリセートを患者の腹膜腔から排出する。
【0007】
腹膜透析治療にはいくつかの種類があり、持続携行式腹膜透析(CAPD: Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis)および自動腹膜透析(APD: Automated Peritoneal Dialysis)を含む。CAPDは手動の透析治療であり、その治療において患者は、新しい透析液の袋にカテーテルを接続し、老廃物、毒素、および過剰水を患者の血流から透析液へ搬送させるために腔内に透析液を滞留させる。滞留期間の経過後、患者はダイアリセートを排出させ、手動の透析手順を繰り返す。患者が行う必要のある接続の数を減らす、液および排出袋のための「Y」コネクターを含むチューブセットは入手可能である。チューブセットは事前に取り付けてある袋を含み得、当該袋は例えば空の袋と透析液を充填した袋を含む。
【0008】
CAPDにおいて、患者は1日の間に排出、充填、滞留のサイクルを数回、例えば1日約4回行う。排出、充填、および滞留のステップを含む各治療サイクルは、約4~12時間かかる。
【0009】
APDとCAPDは、透析治療が排出、充填、および滞留のサイクルを含む点については類似する。しかし、APDにおいては、透析機が腹膜透析治療のサイクルを3回以上、一般的には患者が寝ている間に夜を通して自動的に行う。
【0010】
自動腹膜透析は、インプラントされたカテーテルに流動的に接続する自動化した透析機を伴う。自動透析機はさらに、新しい透析液の源または袋と、流体ドレンに流動的に接続する。透析機はポンプでダイアリセートを腹膜腔から、カテーテルを介して、ドレンへ送る。その後、透析機はポンプで新しい透析液を透析液源から、カテーテルを介して、患者の腹膜腔へ送る。自動化した機械は、患者の血流から老廃物、毒素、および過剰水の移送を可能にするために、透析液を腔内に滞留させる。患者が透析機に接続されている際に、例えば患者が寝ている間に、透析治療が自動的に行われるように、自動透析機はコンピュータに制御される。すなわち、透析システムは自動的かつ順次的に、腹膜腔に透析液を充填し、ダイアリセートを腹膜腔からポンプで吸い出し、そしてその手順を繰り返す。
【0011】
治療中に排出、充填、および滞留のサイクルは数回繰り返される。そして、一般には最終の容積「ラストフィル」が自動透析治療の最後に使用され、患者がその日に透析機から切り離されるときに患者の腹膜腔内に残る。自動腹膜透析は、日中に排出、滞留、および充填のステップを手動に行う必要性から患者を解放する。
【0012】
一般に、標準の腹膜透析液は、水および代謝老廃物の腹膜間輸送をもたらすために、1.5重量%~4.25重量%の濃度のグルコースを含む。グルコースは、特に短い滞留での交換に関しては、安全かつ有効な浸透圧性物質として広く認識されている。グルコースを基にする腹膜透析液は、一般にpH5.0~5.5で調製される。それは、グルコースが過剰分解しない一方、注入中の不快感及び/又は痛みを避けるためである。
【0013】
しかし、このpHでグルコースは有意に分解することができ、その結果、通称グルコース分解生成物(GDPs: Glucose Degradation Products)と呼ばれるいくつかの反応生成物が生じる。GDPsは、腹膜透析治療に関連して大きな問題を起こす可能性がある。このような問題とその他の問題を回避するために、WO2005/011631において、少なくとも2つの別々の溶液要素(parts)として腹膜透析液を調製することが提案された。第1の要素はグルコース濃縮液を含み、第2の要素は緩衝濃縮液を含む。第1と第2の要素は、酸性のpHであって、滅菌され、そして腹膜透析中に患者へ注入するなどの使用前に混合される。このような溶液要素の2つを混合することにより調製された透析液は、グルコース分解生成物の低下したレベルなどの、向上した生体適合性特性を有する。
【0014】
自動腹膜透析を受ける患者は、一般に、夜に4~10回透析サイクルを行い、日中に2回までのサイクルを行う。サイクル毎の充填容量は、身体のサイズおよび治療の種類に依存するが、一般には1サイクル毎に0.5~3.0リットルである。したがって、典型的な消費量は、24時間に8~17リットルの範囲内にあり得る。輸送費を削減し、環境への影響を低減し、および溶液容器の取り扱いを容易化するために、WO2005/011631に開示された2要素溶液に基づく濃縮液を生成することが提案されている。しかし、このような濃縮液は不安定で、保管中に溶解成分が沈殿することがあり得、特に乳酸とカルシウムを含む濃縮液を低温度(約+4°C)で保管する間にそうであることが判明した。医用製剤は、安定であること、および患者に対する最低限のリスクで利用可能であることが必須である。したがって、安定で濃縮された溶液であり、希釈と混合後にすぐに使える透析液の調製のために使用できる溶液が求められる。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、+4°Cから+40°Cの温度で保管された際に、沈殿に対する向上した安定性を有する第1の濃縮液を提供することにより、この課題を解決する。
【0016】
第1の実施態様において、本発明は、乳酸およびカルシウムのイオンを含む水性の第1の濃縮液を提供し、前記第1の濃縮液は、約+4°Cの温度において沈殿に対する向上した安定性を有する。前記第1の濃縮液は、前記第1の濃縮液を水と、任意に、グルコースを含む第2の濃縮液と混合することにより、すぐに使える透析液を調製するために有用である。第1の濃縮液の乳酸の濃度Lconc(1リットルあたりのモル数Mで表現される)は、次の条件を満たす:
a)Lconc>0.75M、および
b)Lconc<(1.9-0.4×Caready)Mであり、
Careadyは、1リットルあたりのミリモル数(mM)で表現される、すぐに使える透析液のカルシウム濃度である。
【0017】
ある好ましい実施態様において、前記第1の濃縮液はさらに次の条件を満たす:
c)Lconc<(1.7-0.4×Caready)Mであり、
Careadyは、上記と同じ意味を持つ。
【0018】
ある好ましい実施態様において、前記第1の濃縮液はさらにLconc>0.80Mの条件を満たす。
【0019】
ある好ましい実施態様において、Lconc/Caconc=Rの比率は、20~40の範囲内にあり、Caconcは、1リットルあたりのモル数(M)で表現される、前記第1の濃縮液のカルシウム濃度である。
【0020】
より好ましい実施態様において、前記比率Rは22~33の範囲内にある。
【0021】
ある好ましい実施態様において、前記第1の濃縮液のpHは、5.5~9.0の範囲内にある。
【0022】
より好ましい実施態様において、前記第1の濃縮液のpHは、6.5~8.0の範囲内にある。
【0023】
本発明の別の実施態様によって、前記第1の濃縮液のpHは、6.0~8.5の範囲内にある。
【0024】
ある好ましい実施態様において、第1の濃縮液は、Na、K、Mg2+、およびClからなる群から選択されるイオンをさらに含む。
【0025】
ある好ましい実施態様において、前記第1の濃縮液は最終滅菌される。
【0026】
第2の実施態様において、本発明は、腹膜透析液を調製するための要素のキットを提供し、前記キットは、
発明の第1の態様による濃縮組成物である第1の濃縮液と、
酸性グルコース濃縮液である第2の濃縮液を含む。
【0027】
ある好ましい実施態様において、前記第2の濃縮液のpHは、1.5~4の範囲内にある。
【0028】
より好ましい実施態様において、前記第2の濃縮液のpHは、2.0~3.2の範囲内にある。
【0029】
ある好ましい実施態様において、前記第2の濃縮液は、塩酸を追加することによって、酸性にされる。
【0030】
ある好ましい実施態様において、前記第2の濃縮液は、30%~70%の範囲内のレベルまでに飽和されたグルコース濃縮液である。
【0031】
ある好ましい実施態様において、前記第2の濃縮液は最終滅菌される。
【0032】
第3の実施態様において、本発明は、第2の態様による要素のキットを保存するための多室袋を提供し、第1室に前記第1の濃縮液が保存され、第2室に前記第2の濃縮液が保存される。
【0033】
第4の実施態様において、本発明は、透析液を生成する方法を提供し、前記方法は、
i)発明の第2の態様による要素のキットの第1および第2の濃縮液を調製するステップ、
ii)前記第1と第2の濃縮液を滅菌するステップ、
ii)任意的に精製された、水を提供するステップ、および
iii)前記滅菌された第1と第2の濃縮液の適量を混合し、さらに前記任意的に精製された、水の適量と混合し、よってすぐに使える透析液を取得するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】前記水性の第1の濃縮液における乳酸濃度を、最終のすぐに使える透析液のカルシウム濃度の関数として示す図である。
【0035】
図2】本発明の第2の実施態様による要素のキットから始めて、すぐに使える透析液を生成する仕方の概要を図面で表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は概して、透析液に関する。特に、本発明は、すぐに使える透析液を製造するための濃縮液に関する。このようなすぐに使える透析液は、様々な適切な用途に使用可能である。好ましくは、透析液は、自動腹膜透析等の腹膜透析中に使用される。
【0037】
しかし、本発明は、腎不全を治療するための様々な異なる適切な透析療法で使用可能であることは認識されるべきである。本書を通して用いられる用語として、透析療法、そしてそれに類似する用語は、患者から老廃物、毒素、および過剰水を取り除くために、患者の血液を利用する療法の適切な形態をすべて含み包囲する意味を有する。このような療法、例えば血液透析、血液ろ過、および血液透析ろ過などは、持続的腎臓代替療法(CRRT: Continuous Renal Replacement Therapy)に使用される間欠療法と持続療法の両方を含む。持続療法は、例えば緩徐な持続的限外ろ過(SCUF: Slow Continuous Ultrafiltration)、持続的静静脈血液ろ過(CVVH: Continuous Venovenous Hemofiltration)、持続的静静脈血液透析(CVVHD: Continuous Venovenous Hemodialysis)、持続的静静脈血液ろ過透析(CVVHDF: Continuous Venovenous Hemodiafiltration)、持続的動静脈血液透析(CAVHD: Continous Arteriovenous Hemodialysis)、持続的動静脈血液ろ過透析(CAVHDF: Continuous Arteriovenous Hemodiafiltration)、持続的限外ろ過周期的間欠的血液透析(continous ultrafiltration periodic intermittent hemodialysis)等を含む。好ましくは、透析液は腹膜透析中、例えば自動腹膜透析、持続携行式腹膜透析、持続流動腹膜透析等に使用される。また、ある実施態様において本発明は、慢性腎不全または慢性腎疾患を患う患者に透析療法を提供する方法において利用できるが、本発明は急性透析の必要に応じて、例えば救急処置室の環境でも利用可能であることは認識されるべきである。最後に、当業者が認識するように、間欠的な形の療法(すなわち、血液ろ過、血液透析、腹膜透析、および血液ろ過透析)は、センター、もしくはセルフケア・限られたケア、もしくは居宅の環境で使用可能である。
【0038】
血液透析は、身体から血液を取り出し、体外血液回路で浄化し、そして浄化した血液を身体に戻すことを含む。体外の血液回路は、半透膜を含むダイアライザーを含む。半透膜は血液側とダイアリセート側を有し、老廃物と過剰な液体は、半透膜の血液側を通る血液から、半透膜を通して半透膜のダイアリセート側へ取り除かれる。
【0039】
血液透析は、血液透析、血液ろ過、および血液ろ過透析の3つの異なる治療モードで実行できる。3つの治療モードに共通する点は、患者は血液ラインを介して透析機に接続され、当該透析機は持続的に患者から血液を取り出す点である。すると、血液は、ダイアライザー内の半透膜の血液側に、流れながら接触するようにされる。
【0040】
血液透析においては、透析液と呼ばれる水溶液が膜の反対面、つまりダイアリセート側に、流れながら接触するようにされる。主に拡散により、老廃物(毒素)および溶質が除去/制御される。過剰な液体は、半透膜に膜間圧を加えることにより除去される。溶質や栄養物は、半透膜を通して血液へ、透析液とは反対方向に拡散し得る。
【0041】
血液ろ過においては、半透膜のダイアリセート側に透析液は接触しない。その代わり、半透膜に膜間圧を加えるだけで、液体や老廃物が、血液から半透膜壁を通してダイアリセート側へ取り除かれる(対流)。すると、液体や老廃物はドレンに送られる。取り除かれた液体の一部の入れ替わりとして、正しくバランスした電解質・バッファー透析液(輸液、補液、または置換液ともいう)が体外血液回路に注入される。この注入は、ダイアライザーの前(前注入モード)またはダイアライザーの後(後注入モード)、または両方に行ってもよい。
【0042】
血液ろ過透析は、血液透析と血液ろ過の組み合わせであり、拡散と対流による、半透膜壁を通じる老廃物と過剰な液体の搬送を組み合わせる治療モードである。よって、ここで透析液は持続的に流れながら半透膜のダイアリセート側に接触させられ、透析液(注入液または補液ともいう)は、前注入モード、後注入モード、またはその両方で体外血液回路に注入するために使用される。
【0043】
多くの患者に関しては、血液透析は週3回、3~5時間をかけて実行する。通常は透析センターで実行されるが、在宅透析も可能である。在宅透析の場合、患者はより高い頻度で透析を行う自由、そしてより穏和な治療をより長い治療期間にわたってする自由、つまり週5~7回の治療にし、1回の治療を4~8時間にする自由を有する。用量と治療時間も、患者の異なる要求に応じて調整可能である。急性腎不全を患う患者の場合、患者の状態によって用いられる療法は、数週間までにわたって1日の大部分を通じた持続的な療法、持続的腎代替療法(CRRT)、または間欠的腎代替療法(IRRT)である。さらに、ここで老廃物と過剰な液体を患者から除去するのは、血液透析、血液ろ過、および血液ろ過透析の治療モードのいずれか又はその組み合わせにより行われる。
【0044】
腹膜透析治療においては、高張透析液が患者の腹膜腔に注入される。この治療では、患者の腹膜の毛細血管において、溶質と水が前記高張透析液と交換される。この方法の原理は、腹膜間の濃度勾配による溶質拡散搬送と、浸透差(osmotic difference)による水分移動である。
【0045】
上記の透析方法のすべてにおいて使用される透析液は、主にナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、酸/塩基緩衝系、および任意にグルコースまたはグルコースに類似する化合物を含む。透析液の成分のすべては、血液における電解質のレベルと酸・塩基の平衡を制御し、血液から老廃物を除去するために選択されたものである。
【0046】
自動腹膜透析を受ける患者の1日あたりの透析液の消費量は、血液透析を受ける患者に比較してずっと低いが、それにしてもかなり大きい。一般に、自動腹膜透析を受ける患者は、各治療セッションで約12~15リットルの透析液を消費する。これほど大量の消費はいくつかの問題を招く。第1に、透析液の重い容器を運びまわるのは、患者や介護者にとって容易でもなく不都合である。第2に、この重い容器を製造者や分配者から患者やクリニックへ運送し分配するコストもとても高い。したがって、患者や介護者による取り扱いを容易化し、かつ運送の必要性を低減する道を見つける明確な動機が存在する。
【0047】
取り扱いを容易化し、運送の必要性を低減させる方法の1つは、すぐに使える再構成透析液を生成するために、任意的に精製及び/又は滅菌された、水で希釈できる濃縮液を開発することである。このような濃縮液に適する容器は、より小さく、より軽く、よってより取り扱いやすい。また、等価な量のすぐに使える溶液に比較して、濃縮液は長持ちするため、運送のコストも低減する。濃縮液の製造と運送による環境への影響も低減する。
【0048】
このような濃縮液は、合理的な保存温度のすべてにおいて、例えば+4°Cから+40°C等において安定であることが重要である。特に重要なのは、このような保存条件で沈殿物が生じないことである。乳酸塩に加えてカルシウムイオンを含む濃縮液においては、特に+4°Cに近い温度と、高い乳酸塩濃度および高いカルシウムイオン濃度において、沈殿物が生じるリスクがある。しかし、ある濃縮液に沈殿物が形成されるかどうかを数学的に表現できることが判明された。
【0049】
すなわち、乳酸塩濃度Lconc(1リットルあたりのモル数Mで表現される)が次の条件を満たした場合に、乳酸塩とカルシウムイオンを両方含む、安定した第1の濃縮液が得られたことがわかる。
a)Lconc>0.75M、および
b)Lconc<(1.9-0.4×Caready)M
Careadyは、1リットルあたりのミリモル数(mM)で表現される、すぐに使える透析液のカルシウム濃度である。Lconc>0.80Mである、少し濃度が高い溶液を用いることが好ましい。
【0050】
沈殿のリスクを最小限に抑えるために、濃縮液の組成は次の条件も満たすべきである。
c)Lconc<(1.85-0.4×Caready)M
Careadyは、上記と同じ意味を持つ。条件c)の式に類似する他の式も考慮可能であり、例えばLconc<(1.75-0.4×Caready)M、Lconc<(1.7-0.4×Caready)M、Lconc<(1.8-0.4×Caready)M、およびLconc<(1.65-0.4×Caready)Mも可能である。
【0051】
第1の濃縮液の異なる変形例の安定性は図1に示され、そこには第1の濃縮液における乳酸塩濃度を、すぐに使える透析液のカルシウム濃度の関数として示す。図1のダイアグラムにおいて、沈殿物が生じた第1の濃縮液は四角で示され、沈殿物が生じなかった第1の濃縮液は三角で示される。最上の曲線は上記条件b)に対応し、真ん中の曲線は上記条件c)に対応する。
【0052】
本発明の第1の濃縮液は、いくつかの異なる成分を含み得る。すでに示したように、第1の濃縮液は乳酸塩により緩衝される。緩衝pHは、濃縮組成物を調製し滅菌するために有効であり、その後に第1の濃縮液と、酸性グルコースの濃縮液に加えて、任意的に精製された、水を含む第2の濃縮液との混合物を含む、すぐに使える透析液の調製に有効である、任意の適切なレベルを含んでもよい。第1の濃縮液のpHは5.5~9.0の範囲内にあるべきであり、好ましくは6.5~8.0の範囲内である。第1の濃縮液は、Ca2+に加えて、Cl、Na、Mg2+、およびK等のほかの電解質を含んでもよい。また、水酸化ナトリウム、塩酸、及び/又はそれに類似するもの等の、pH調整剤を第1の濃縮液に追加してもよい。電解質の典型的な濃度は、
塩化ナトリウム 1.5~3.3M
塩化カルシウム 0.025~0.0375M
塩化マグネシウム 0~0.008M である。
【0053】
第1の濃縮液は、腹膜透析の組成物を調製するための要素のキットの一部として使用されることが意図されている。当該キットは、酸性グルコース濃縮液である第2の濃縮液を含む。ある実施態様において、酸性濃縮液のpHは、1.5~4.0の範囲内、好ましくは2.0~3.2の範囲内にある。第2の濃縮液は、pH調整剤も含んでもよい。pH調整剤の例は、塩酸等の無機酸を含む。一般に、前記第2の濃縮液は、30%~70%の範囲内のレベルまでに飽和される。第2の濃縮液は、最終滅菌されてもよい。
【0054】
第1と第2の濃縮液は、便利のために、多室袋において格納されてもよい。そして、第1の濃縮液は第1室に格納され、第2の濃縮液は第2室に格納される。このような多室袋は、濃縮液が混合され希釈される混合ユニットに室を接続するための接続部や導管を備え得る。
【0055】
酸性グルコース濃縮液、濃縮液組成物、および精製水は、使用前に、例えば腹膜透析による注入の前に、いかなる適切な方法で調製、滅菌、および混合されてもよい。水は微生物学および化学の観点から安全であると考えられる範囲内にあるべきである。例えば、この水は「精製水(purified water)」、「高度精製水(highly purified water)」、「超純水(ultrapure water)」、「注射用水(WFI: water for injection)」、「滅菌WFI(sterile WFI)」、「血液透析用水(water for hemodialysis)」、「蒸留水(distilled water)」、「滅菌精製水(sterile purified water)」、および「医薬用水(water for pharmaceutical use)」であってもよい。ある実施態様において、特定の量の第1と第2の濃縮液を含む混合液と、精製水とが、混合により、所望の腹膜透析液へと調製する。
【0056】
図2は、所望の腹膜透析液を調製する方法を1つ示す計画100を提供する。第1の濃縮液を含む容器10と、第2の濃縮液を含む容器12は、それぞれ導管によって混合機16に接続される。ある実施態様において、容器10、12は、多室袋50における室であってもよい。精製水の源14も、導管によって混合機16に接続される。混合機16は、ユーザインタフェース20からの入力に基づいて、制御部18により制御される。このようなユーザ入力と制御部18からの制御信号にしたがって、混合機16は第1の濃縮液と、任意に第2の濃縮液に加え、特定の量の水を、前記の源10、12、14から受け、出力/容器22を介して提供される、すぐに使える透析液を生成する。
【実施例
【0057】
濃縮液組成の候補を代表する試験液は、固体の成分を異なる量で容器に加え、最後に所望の体積まで精製水を加えて調製された。試験液は、加熱滅菌され、+4°Cで2か月超インキュベートされた。
【0058】
各実施例の最後に、それぞれの実施例の、第1および第2の濃縮液に基づく、すぐに使える透析液の表が提供される。
【0059】
実施例1
【表1】
【0060】
すぐに使える溶液のCareadyは1.75mM、例1の第1の濃縮液のLconcは1.40Mである。Lconcは0.75Mより大きいため、条件a)は満たされる。1.9-0.4×1.75mM=1.2はLconcより小さいため、条件b)は満たされない。第1の濃縮液に沈殿物が見出された。
【0061】
実施例2
【表2】
【0062】
すぐに使える溶液のCareadyは1.25mM、例1の第1の濃縮液のLconcは1.40Mである。Lconcは0.75Mより大きいため、条件a)は満たされる。1.9-0.4×1.25mM=1.4はLconcに等しいため、条件b)は満たされない。第1の濃縮液に沈殿物が見出された。
【0063】
実施例3
【表3】
【0064】
すぐに使える溶液のCareadyは1.75mM、例1の第1の濃縮液のLconcは1.20Mである。Lconcは0.75Mより大きいため、条件a)は満たされる。1.9-0.4×1.75mM=1.2はLconcに等しいため、条件b)は満たされない。第1の濃縮液に沈殿物が見出された。
【0065】
実施例4
【表4】
【0066】
すぐに使える溶液のCareadyは1.75mM、例1の第1の濃縮液のLconcは0.80Mである。Lconcは0.75Mより大きいため、条件a)は満たされる。1.9-0.4×1.75mM=1.2はLconcより大きいため、条件b)は満たされる。第1の濃縮液に沈殿物は見出されなかった。
【0067】
実施例5
【表5】
【0068】
すぐに使える溶液のCareadyは1.25mM、例1の第1の濃縮液のLconcは0.80Mである。Lconcは0.75Mより大きいため、条件a)は満たされる。1.9-0.4×1.25mM=1.4はLconcより大きいため、条件b)は満たされる。第1の濃縮液に沈殿物は見出されなかった。
【0069】
実施例6
【表6】
【0070】
すぐに使える溶液のCareadyは1.25mM、例1の第1の濃縮液のLconcは1.20Mである。Lconcは0.75Mより大きいため、条件a)は満たされる。1.9-0.4×1.25mM=1.4はLconcより大きいため、条件b)は満たされる。第1の濃縮液に沈殿物は見出されなかった。
【0071】
実施例7
【表7】
【0072】
すぐに使える溶液のCareadyは1.75mM、例1の第1の濃縮液のLconcは1.00Mである。Lconcは0.75Mより大きいため、条件a)は満たされる。1.9-0.4×1.75mM=1.2はLconcより大きいため、条件b)は満たされる。第1の濃縮液に沈殿物は見出されなかった。
【0073】
本発明は、現在最も実用的な実施態様と考えられるものに関して記載されているが、本発明は開示された実施態様に限定されないものと理解されるべきであり、むしろ添付のクレームの真の趣旨および範囲に含まれる様々な変更や均等物を包含することが意図されている。
図1
図2