(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】抗HLA-G特異的抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20220307BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220307BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220307BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220307BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220307BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220307BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220307BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220307BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220307BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220307BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220307BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K47/68
A61K39/395 N
A61P35/00
G01N33/50 Z
G01N33/53 V
(21)【出願番号】P 2018563104
(86)(22)【出願日】2017-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2017063503
(87)【国際公開番号】W WO2017207775
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-04-28
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515267851
【氏名又は名称】アンヴェクティ
【氏名又は名称原語表記】INVECTYS
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・ラングラード・ドゥモイヤン
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー・ユエ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・コーマルタン
(72)【発明者】
【氏名】マリア・ルストー
(72)【発明者】
【氏名】マリア・ヴェーブ
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/072534(WO,A1)
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2003年,Vol. 100,p. 8856-8861
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00 - 16/46
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒト白血球抗原G(HLA-G)抗体またはその抗原結合断片であって、該抗体または抗原結合断片は、
(a)配列番号8の重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、配列番号10の重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)および配列番号12の重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む、重鎖可変領域(VH);およ
び
(b)配列番号2の軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、配列KVSの軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)および配列番号5の軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含む、抗体または抗原結合断片。
【請求項2】
VHが配列番号64
を含み、VLが配列番号63
を含む、請求項
1に記載の抗体
または抗原結合断片。
【請求項3】
抗体が、2つの重鎖および2つの軽鎖を含む完全長免疫グロブリンGである、請求項1または2に記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項4】
ヒト化
またはキメラである、請求項
1に記載の抗体
または抗原結合断片。
【請求項5】
VH、VL、または、VHおよびVLの両方が、ヒト免疫グロブリンフレームワーク領域配列を含む、請求項1または4に記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項6】
抗体が免疫グロブリン定常領域を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項7】
抗原結合断片が、Fv、dsFv、scFv、Fab、Fab’、またはF(ab’)
2
である、請求項1に記載の抗原結合断片。
【請求項8】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項1から7のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合断片。
【請求項9】
細胞傷害性薬物と結合された、請求項
1から8のいずれか一項に記載の抗体
または抗原結合断片を含む複合体。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合断片または請求項9に記載の複合体、および薬学的担体を含む、医薬組成物。
【請求項11】
請求項
1から8のいずれか一項に記載の抗体
または抗原結合断片の
、VH、VL、または、VHおよびVLの両方をコードするヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項12】
請求項
11に記載の核酸を含む、ベクター、好ましくは発現ベクター。
【請求項13】
請求項
11に記載の核酸または請求項
12に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項14】
請求項
13に記載の宿主細胞を、抗体
またはその抗原結合断片の発現を可能にする条件下で培養することを含む、抗HLA-Gモノクローナル抗体
またはその抗原結合断片を産生する方法。
【請求項15】
癌の処置
における使用のための、請求項
1から8のいずれか一項に記載の抗体
または抗原結合断片、請求項
9に記載の複合体
または請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項16】
生物学的サンプルにおいてHLA-Gを検出またはモニタリングするためのインビトロ診断法における、請求項
1から8のいずれか一項に記載の抗体
または抗原結合断片の使用。
【請求項17】
請求項
1から8のいずれか一項に記載の抗体
または抗原結合断片を含む、診断用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト白血球抗原G(HLA-G)タンパク質のα3ドメインに由来する免疫原性ペプチドに対する抗体またはその抗原結合断片に関する。
【背景技術】
【0002】
技術的背景
癌において、1つの主要な免疫逃避機構は、T細胞シグナル伝達を損なう細胞表面上の阻害分子の発現である。これらの阻害分子の多くは、免疫チェックポイント(ICP)とみなされ、自己免疫寛容(self-tolerance)を維持し、末梢組織内の生理学的免疫応答の持続時間および強度を調節して副次的な組織損傷を回避することが最初に示された多数の阻害経路を意味する。
【0003】
HLA-Gは、最近、その特定の受容体との相互作用により免疫細胞サブセットに浸潤するエフェクター機能を阻害し、腫瘍細胞においてしばしば上方制御される、ICP分子として同定された(Carosella et al., 2015).
【0004】
さらに、HLA-Gはまた、ウイルス感染、自己免疫疾患および炎症性疾患のような病理学的状態または同種移植後において、新たに発現され得る、および/または上方制御され得る。
【0005】
例えば、HCMV(ヒトサイトメガロウイルス)、HSV-1(ヘルペス単純ウイルス)、RABV(狂犬病ウイルス)、HCV(C型肝炎ウイルス)、IAV(A型インフルエンザウイルス)およびHIV-1(ヒト免疫不全ウイルスI型)などのウイルスは、HLA-Gの発現を上方制御して、感染細胞がCTL細胞およびNK細胞により認識され攻撃されるのを防ぐと考えられている。HLA-Gはまた、CD8細胞をアポトーシスに誘導し、その細胞傷害性に影響を与えることにより、HIV感染細胞に対するCD8 T細胞応答を制御し得る(Tripathi and Agrawal, 2007)。
【0006】
HLA-Gは、絨毛癌細胞において最初に同定された非古典的MHCクラスI分子である。MHCクラスI抗原としては、β2-ミクログロブリン(β2M)に関連する3つの細胞外球状ドメイン(α1、α2およびα3)を示す古典的抗原HLA-A、HLA-BおよびHLA-C、ならびに非古典的抗原HLA-E、HLA-FおよびHLA-Gが挙げられる。
【0007】
古典的なMHCクラスI分子とは異なり、HLA-Gは、(i)限定された多型、(ii)組織特異的発現、および(iii)その機能による相違、によって特徴付けられる。
【0008】
HLA-G分子をコードする8つのエクソン遺伝子は、第6番染色体上の4.4kbに及ぶ(Geraghty et al., 1987; Ellis et al., 1990)。エクソン2、3および4は、それぞれα1、α2およびα3細胞外ドメインをコードしている。一次RNA転写物は、選択的にスプライシングされて7つのイソ型の発現をもたらし得て、そのうち4つは、膜結合型(HLA-G1、HLA-G2、HLA-G3およびHLA-G4)であり、3つは、可溶性(HLA-G5、HLA-G6およびHLA-G7)である。HLA-G1およびHLA-G5は、記載されている最も主要なイソ型であり、これはおそらく部分的には、抗体などの限られたHLA-G試薬のためである。それらの構造は、古典的なHLAクラスI分子の典型である:重鎖が、β2-ミクログロブリン(β2M)に非共有結合した3つの細胞外球状ドメインからなり、他のイソ型であるペプチドはより短く、重鎖の1つまたは2つの球状ドメインを欠失しており、β2Mとの会合はない。
【0009】
HLA-Gの免疫阻害活性は、3つの阻害受容体:白血球免疫グロブリン様受容体B1(LILRB1/ILT2/CD85j)、LILRB2(ILT4/CD85d)およびKIR2DL4(または、CD158d)への特異的結合を介して生じる。
【0010】
これらの受容体との相互作用を介して、古典的MHCクラスI分子とは異なり、HLA-Gは、免疫系の主要な機能を下方制御するものとして作用し、刺激機能も同種HLA-Gに対する応答も、今日まで報告されていない(Carosella et al., 2008a)。
【0011】
他のMHCクラスI分子と同様に、LILRB受容体は、HLA-Gのα3ドメインと相互作用する。LILRB1受容体は、B細胞、ある種のT細胞、ある種のNK細胞およびAPC(単球および樹状細胞)上で発現されるが、LILRB2発現は、骨髄系列に限定され、単球および樹状細胞でのみ発現される。
【0012】
LILRB1およびLILRB2受容体は、それぞれ、α3ドメイン/β2M複合体またはα3ドメインのみを介して、広範な古典的MHC分子に結合する。実際に、LILRB1は、β2M結合HLA-G複合体のみに結合し、一方で、LILRB2は、β2M結合HLA-G分子および未β2M結合HLA-G分子の両方、ならびに短縮型α1-α3ドメインイソ型を認識する。
【0013】
HLA-Gは、古典的MHCクラスI分子と比べて、LILRB2受容体に最も高い親和性を有するリガンドである。LILRB1およびLILRB2受容体に対するHLA-Gの高親和性は、古典的なMHCクラスI分子がその表面に発現されているとしても、腫瘍細胞の表面に提示されるHLA-GがLILRB1および/またはLILRB2受容体に結合し得るという事実によって特に示される。LILRB受容体に対するHLA-Gのこの優先的相互作用は、免疫エフェクター細胞の細胞傷害性機能を阻害するのに十分である。
【0014】
LILRB1および2受容体は、同じHLA-G型に結合せず、単量体構造よりもHLA-G多量体に対して高い親和性を示す(HoWangYin et al., 2012)。HLA-Gに対するLIRB受容体のこの高い親和性は、古典的MHCクラスI分子には存在しないHLA-Gのα3ドメイン内の芳香族アミノ酸であるPhe195およびTyr197の存在に関連することが示されている。
【0015】
エフェクター細胞を阻害するために腫瘍細胞によって用いられる逃避機構としてのHLA-G発現の関連性は、広く実証されている(Loustau et al., 2013)。腫瘍細胞拒絶を媒介する目的を有するHLA-Gを標的とするいくつかのアプローチが開発されている(Carosella et al., 2008b; Yan, 2011)。わずかな抗HLA-G抗体が作製されており、たった1つのブロッキング抗体のみが利用可能である(87G)(Blaschitz et al., 2000; Menier et al., 2003)。このモノクローナル抗体87Gは、β2Mに結合するHLA-Gの重鎖のα1ドメインと相互作用する。HLA-G中和することができ、それ故にインビトロおよびインビボでの腫瘍拒絶を回復することができると記載されているが(Agaugue et al., 2011)、その適用可能性は、HLA-Gが未β2M結合完全長分子または短縮型イソ型として発現することが多いために、損なわれる。これらの種々のイソ型は、LILRB2阻害受容体に結合することもできる。
【0016】
HLA-G免疫化は著しく困難であり、特異的抗体はほとんど得られなかった。この中和抗体の生成の失敗の理由は明らかにされている。腎臓移植患者において、HLA-Gの存在が抗体産生に有利に働かないことが実証された(Qiu et al., 2006)。最近のインビトロ研究により、HLA-G/LILRB1相互作用が、ヒトにおけるB細胞成熟および抗体産生を損なうことが確認されている(Naji et al., 2014)。HLA-Gはまた、モノクローナル抗体を産生するために一般的に用いられる種であるマウスにおいて免疫寛容機能(tolerogenic function)を発揮することも知られている(Favier et al., 2001)。HLA-Gは、マウスB細胞において発現され、ヒトLILRB1およびLILRB2と機能的に相同である、PIR-B受容体と相互作用する(Liang et al., 2002)。HLA-G/PIR-B相互作用は、B細胞の阻害をもたらして、マウスにおける抗体産生を阻止し得る。
【0017】
見かけ上、TP25.99と称される古典的MHCクラスI分子のα3ドメインに対するモノクローナル抗体が開発されている(Tanabe et al., 1992)。しかしながら、他のものは、HLA-Gのα3ドメインに結合しないことが示されている(Desai et al., 2000; Moy et al., 2000)。この相違は、抗体産生に好ましくないHLA-G α3ドメインの疎水性の特徴によって説明できる。
【0018】
国際特許出願WO2014/072534は、HLA-Gの完全α3ドメインを用いたDNA免疫化によって抗HLA-G抗体を産生および開発するための方法を提案しているが、全てのHLA-Gイソ型を認識し、HLA-Gに関して改善された特異性を示す、抗HLA-G抗体が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0019】
発明の概要
本発明者らは、今般、HLA-Gタンパク質のα3ドメインから免疫原性ペプチドを設計することにより、特異的抗HLA-G抗体を産生する困難性を回避することに成功した。
【0020】
本発明の第一の目的は、配列 X1-THHPVFDYEATLR-X2(配列番号49)(ここで、X1は存在しない、システイン、バリン、またはKTHV(配列番号50)もしくはCKTHV(配列番号51)からなる群より選択される配列であり、X2は、存在しない、またはシステインである。)からなる単離されたペプチドである。
【0021】
かかるペプチドは、HLA-Gタンパク質イソ型のα3ドメインに特異的な抗体、好ましくはモノクローナル抗体を産生するための免疫原として有用である。
【0022】
本発明のさらなる目的は、本明細書で定義されるペプチドを特異的に認識する抗HLA-G抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0023】
抗体は、完全長抗体、その抗原結合断片、または二重特異性抗体であってもよい。
【0024】
本発明のさらなる目的は、そのような抗体および薬学的に許容される担体を含む組成物である。
【0025】
本発明の別の目的は、本明細書で定義される抗体の、抗体重鎖可変領域(VH)、抗体軽鎖可変領域(VL)または両方をコードするヌクレオチド配列を含む核酸である。
【0026】
該核酸を含むベクター、好ましくは発現ベクターもまた提供される。
該核酸またはベクターを含む宿主細胞がさらに記載される。
【0027】
抗HLA-G抗体を産生するための方法がさらに提供される。好ましい態様において、抗HLA-Gモノクローナル抗体を産生する方法であって、該核酸または該ベクターを含む宿主細胞を、抗体の発現を可能にする条件下で培養することを含む方法が記載される。
【0028】
抗体、該抗体を発現させる核酸またはベクターは、癌またはウイルス感染の処置に特に有用である。
【0029】
本発明のさらなる目的は、生体試料においてHLA-Gを検出またはモニタリングするためのインビトロ診断法における、本明細書に記載の抗HLA-G抗体の使用である。
【0030】
該抗体を含む診断キットがさらに包含される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1.抗原の設計、抗HLA-G抗体の免疫化および産生。A.ヒトHLA-Gタンパク質とHLA-E、A2、B7、B44およびCW3とのアミノ酸配列アライメント。配列アライメントは、HLA-Gの3つの免疫グロブリンドメイン:α1、α2およびα3について提供される。灰色で示された残基は、HLA-Gとの相違を示す。LILRB1/2結合に関与するα3ドメイン中の領域は、黒色の両方向の矢印で示されている。HLA-G特異的PC-1ペプチドのアミノ酸配列に下線を付し、太字で示す。B.免疫化したマウスにおける抗HLA-G抗体の産生。免疫化したBALB/cマウス(黒色線/濃い灰色のヒストグラム)および免疫化していない対照マウス(薄い灰色線およびヒストグラム)由来の抗HLA-G血清反応性の代表的なフローサイトメトリーヒストグラム。破線は、それより高いシグナルは正であるとみなされる閾値を示す。血清を調製し、希釈し、そしてHLA-G5被覆ビーズと共にインキュベートして、その後、FITC結合ヤギ抗マウスIgG二次抗体と共にインキュベートした。蛍光をフローサイトメトリーにより分析した。血清の4つの希釈物が示されている。C.ビオチン結合PC1ペプチドに対するR4C-C3(菱形記号/点線)およびR5C-D8(丸記号/破線)scFv抗体をELISAにより評価した。ScFv抗体を連続的に希釈し、ストレプトアビジンマイクロプレート上にコーティングしたビオチン-PC1を用いた直接ELISAにより試験した。非HLA-Gビオチニル化ペプチドを対照として用いた(四角および三角記号/太線)。
【
図2】
図2.A.15E7のκ軽鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列。抗体の“相補性決定領域”(CDR1、CDR2およびCDR3)の位置、ならびに“フレームワーク領域”(FR1、FR2、FR3およびFR4)の位置を示す。B.15E7のκ軽鎖可変領域のアミノ酸配列と対応するマウス生殖細胞系アミノ酸配列との配列アライメント。生殖系列配列とは異なる15E7 κ軽鎖の配列中のアミノ酸を太字で示す。CDRの位置が示されている。
【0032】
【
図3】
図3.A.15E7の重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列。抗体のCDR1、CDR2およびCDR3配列の位置、ならびにFRの位置を示す。B.15E7の重鎖可変領域のアミノ酸配列と対応するマウス生殖細胞系アミノ酸配列との配列アライメント。生殖系列配列とは異なる15E7重鎖の配列中のアミノ酸を太字で示す。CDRの位置が示されている。
【
図4】
図4.A.scFv R4C-C3のκ軽鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列。scFvのCDR1、CDR2およびCDR3配列の位置、ならびにFRの位置を示す。B.scFv R4C-C3のκ軽鎖可変領域のアミノ酸配列と対応するマウス生殖細胞系アミノ酸配列との配列アライメント。生殖系列配列とは異なるscFv R4C-C3 κ軽鎖の配列中のアミノ酸を太字で示す。CDRの位置が示されている。
【
図5】
図5.A.scFv抗体R4C-C3の重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列。scFv抗体のCDR1、CDR2およびCDR3配列の位置、ならびにFRの位置を示す。B.scFv抗体R4C-C3の重鎖可変領域のアミノ酸配列と対応するマウス生殖細胞系アミノ酸配列との配列アライメント。生殖系列配列とは異なるscFv抗体R4C-C3重鎖の配列中のアミノ酸を太字で示す。CDRの位置が示されている。
【0033】
【
図6】
図6.A.15E7モノクローナル抗体のSDS-PAGE分析。レーン1:分子量マーカー- 上から下へ順に、75kDa、50kDa、37kDa、25kDaおよび20kDa。レーン2:対照としてのマウスIgG。レーン3:15E7モノクローナル抗体。タンパク質をSDS-PAGEにより分離し、クマシーブリリアントブルーBで染色した。Blitzバイオレイヤ干渉計システムを用いた、15E7モノクローナル抗体のPC-1ペプチドへの結合の反応速度分析。15E7モノクローナル抗体をアミノカップリングによりAR2Gチップに固定化した。種々の濃度のPC-1ペプチド/BSA(5~600nM)を、バイオセンサー表面に結合した15E7と共にインキュベートした。分析を、120秒間(結合段階)の30秒の時点で開始し、その後、緩衝液のみを100秒間インキュベートして、15E7からのPC-1/BSAの解離を記録した。点線(150秒)の左側は会合速度を示し、右側は解離段階を示す。上の線は、15E7の最高濃度のペプチド(600nM)への結合に対応し、下の線は、最低濃度のペプチド(5nM)への結合に対応する。結合はペプチド濃度に比例した(中間線)。
【
図7】
図7.モノクローナル抗体15E7のその標的への用量依存的結合:cPC-1ペプチド(
図7A);HLA-G5組換えタンパク質(
図7B)またはHLA-G6組換えタンパク質(両方とも、β2M結合のないタンパク質)(
図7C)。種々の連続濃度の15E7を用いて、用量依存的結合活性を判定した。PE結合ヤギ抗マウス抗体を用いたフローサイトメトリーにより、結合検出を行った。結合は、アイソタイプ対照(IgG2a)での染色と比べて、15E7での陽性標識ビーズの割合として表される。15E7のEC
50を、cPC-1ペプチドでは2ng/mLで、HLA-G5タンパク質では28ng/mLで、およびHLA-G6タンパク質では120ng/mLで評価した。測定はトリプリケートで行った(n=3);エラーバーはSDを示す。黒色線はリガンド被覆ビーズへの15E7の結合を表し、灰色線は、対照ビーズ[変異ペプチド(
図7A)または非結合ビーズ(
図7Bおよび7C)で被覆したビーズ]への15E7の結合を表す
【0034】
【
図8】
図8.K562細胞表面上に発現された未β2M結合HLA-G1に対する抗HLA-Gモノクローナル抗体15E7の用量依存的結合。種々の濃度(0-80μg/mL)の15E7を用いて、HLA-G1陽性細胞(K562-G1) 対 HLA-G陰性対照細胞(K562-PV)に対する15E7の特異的用量依存的結合活性を判定した。15E7の検出を、PE結合ヤギ抗マウス抗体を用いてフローサイトメトリーにより行った。15E7は、標的K562-G1細胞に用量依存的結合を示すが(黒色線)、対照細胞株K562-PVでは結合は検出されなかった(灰色線)。
【
図9】
図9.未処理のまたは酸処理したK562-G1およびK562-PV細胞(A、B)ならびにJEG-3細胞(C)上の表面HLA-G抗原のフローサイトメトリー分析。表面HLA-G抗原を、以下のmAb:MEM-G/9(天然HLA-G複合体に特異的)、抗hβ2Mおよび15E7によって分析した。ヒストグラム:明るい灰色:非染色;灰色:アイソタイプ対照(高β2MについてIgM、15E7 mAbについてIgG2aおよび4H84についてIgG1);暗灰色;示された抗体。
【
図10】
図10.15E7モノクローナル抗体は、HLA-Gに特異的に結合し、古典的MHCクラスI分子に結合しない。15E7の特異性を評価するこれらの結合アッセイを、ヒト古典的MHCクラスI分子をその表面に発現するが、HLA-Gを発現しないリンパ腫細胞株(LCL DES、LCL BROおよびRPMI8866)を用いて行い、フローサイトメトリーにより分析した。15E7を終濃度20μg/mLで用いた。結合は、アイソタイプ対照(IgG2a)と比べて、15E7での陽性染色細胞の割合として表される。K562-G1細胞およびK562-PV細胞をそれぞれ陽性対照および陰性対照として用いた。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
HLA-G治療用および診断用抗体は、B細胞の成熟および抗体分泌に対するHLA-G免疫寛容機能のために不十分である。本発明者らは、抗HLA-G特異的抗体を誘導することができたHLA-G-α3ドメインに由来するペプチドを用いることにより、この阻害を回避することに成功した。
【0036】
本発明は、HLA-Gに特異的に結合し、多くの望ましい特性を示す、抗HLA-Gモノクローナル抗体を提供する。実際に、生成された抗HLA-G抗体は、古典的MHCクラスI分子との交差反応性がない場合、組換えまたは内生のいずれかのHLA-Gタンパク質に強く結合する。
【0037】
本発明はまた、患者の細胞のいくつかの表面上でのHLA-Gの病理学的発現から生じる免疫系を回復させるためのかかる抗体の使用に関する。従って、抗体は、患者において診断された状態が、HLA-Gタンパク質の存在のために、患者において免疫系の下方制御の利点を有するとき、該患者の状態を処置または軽減するための使用に適している。本発明の抗体はまた、患者の状態の診断またはモニタリングのために使用され得る。
【0038】
定義
抗体は、それが他の物質と結合するよりも、より高い親和性、結合活性で、より容易に、および/またはより長い持続時間で結合する場合、標的抗原に“特異的に結合する(specifically binds)”。“特異的結合(Specific binding)”または“優先的結合(preferential binding)”は、排他的結合を(それを含み得るが)必ずしも必要としない。一般的には、必ずしもそうではないが、結合への言及は優先的結合を意味する。結合の親和性は、結合速度定数および解離速度定数またはKD(平衡解離)によって定義される。一般的に、抗体に関して用いられるとき、特異的結合とは、10-8M未満、例えば10-9M未満または10-10M未満の親和性(KD)値でその標的(複数可)に特異的に結合する(“認識する”)抗体を意味する。10-9MのKD値が10-8MのKD値より高い結合親和性を示すため、より低いKD値は、より高い結合親和性(すなわち、より強い結合)を表す。
【0039】
本発明において、本発明の抗体または抗原結合断片による“HLA-Gタンパク質結合”は、本発明の抗体または抗原結合断片が、α3ドメインを提示するHLA-Gタンパク質イソ型を認識するか、またはα3ドメインと結合することが見いだされたが、β2-ミクログロブリンタンパク質もしくはその断片と結合するかまたは結合しないことがさらに見出されたことを意味する。
【0040】
“結合する(associated)”とは、考慮されるドメイン間またはドメインおよびタンパク質間の密接な(非共有的な)相互作用を意味する。このような相互作用は、水素結合、ファンデルワールス相互作用、またはイオン結合の形成によって達成され得る。
【0041】
本発明の抗体またはその抗原結合断片の“特異的結合”特性とは、抗体またはその抗原結合断片が、HLA-Gタンパク質の他のドメインを除いて、または他のヒトタンパク質への結合を除いて、特に他のHLAタンパク質への結合を除いて、HLA-Gタンパク質のα3ドメインに直接的に結合することを意味する。結合能は、本発明の技術分野において公知の従来の試験に従って、HLA-Gタンパク質のα3ドメインに対する結合親和性の判定によって測定することができ、特に結合親和性は、ELISAまたはウェスタンブロット分析によりアッセイすることができる。特定の態様に従い、“特異的結合”は、本発明の抗体またはその抗原結合断片とHLA-Gタンパク質のα3ドメインとの間のこのような特異的結合を介した相互作用が、本発明の抗体またはその抗原結合断片と他のヒトタンパク質、または他のHLA-Gドメインまたは他のHLAタンパク質との間の相互作用よりも安定であることを意味する。安定性は、抗原-抗体複合体の、経時的または競合条件下での持続性を比較することによって、特に、HLA-Gタンパク質のα3ドメインを認識する抗体の解離定数を測定することによって、評価することができる。
【0042】
“ブロッキング抗体”は、HLA-Gタンパク質と、その受容体のいずれかまたは全てとの、例えばLILRB1受容体および/またはLILRB2受容体との相互作用を阻害する抗体である。従って、“ブロッキング”とは、一般的に、α3ドメインまたはそれらの受容体を介するHLA-Gタンパク質間の結合によってもたらされる生物学的機能が、本発明の抗体または抗原結合断片の存在下でなくなる、または著しく減少することを意味する。本明細書に記載の生物学的機能とは、本明細書に記載され、文献で評価されている、α3ドメインを示すHLA-Gタンパク質の免疫阻害活性である。従って、抗体または抗原結合断片は、HLA-Gタンパク質のアンタゴニスト物質、またはα3ドメインを有するHLA-Gタンパク質の作用のアンタゴニスト物質であると言える。なぜなら、かかるHLA-Gタンパク質の活性と干渉するおよび/またはその活性に少なくとも部分的にまたは完全に、直接的または間接的に反対(逆)だからである。好ましくは、HLA-G受容体のいずれかまたは全てとの相互作用、すなわち結合の減少は、少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは100%である。活性は、当技術分野で公知の結合アッセイによって測定することができる。
【0043】
用語“Kabatの番号付け”、“Kabatの定義”および“Kabatのラベル付け”は、本明細書中、互換的に用いられる。当技術分野で認識されるこれらの用語は、抗体またはその抗原結合部分の重鎖および軽鎖可変領域中の他のアミノ酸残基よりもより可変的(すなわち、超可変的)であるアミノ酸残基を番号付けるシステムを意味する(Kabat et al. 1971; Kabat, et al. 1991)。
【0044】
本明細書で用いる用語“CDR”は、抗体可変配列内の相補性決定領域を意味する。重鎖および軽鎖の可変領域のそれぞれに3のCDRが存在し、それらは、可変領域のそれぞれについて、CDRl、CDR2およびCDR3と称される。本明細書で用いる用語“CDRセット”は、抗原に結合することができる単一の可変領域に存在する3つのCDRの一群を意味する。これらのCDRの正確な境界は、異なるシステムに従って異なって定義されている。Kabat(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987) および (1991))に記載されるシステムは、抗体の任意の可変領域に適用可能な明白な残基の番号付けシステムを提供するだけでなく、3つのCDRを定義する正確な残基の境界も提供する。これらのCDRは、KabatのCDRと称され得る。Chothiaおよび共同研究者ら(Chothia et al, 1987 および Chothia et al., 1989)は、KabatのCDR内の特定のサブ部分が、アミノ酸配列レベルで大きな多様性を有するにも関わらず、ほぼ同一のペプチド骨格コンフォメーションを有することを見出した。
【0045】
本発明の抗体の“抗原結合断片”は、抗体の一部、すなわちHLA-Gタンパク質のα3ドメインの抗原結合能を示す、本発明の抗体の構造の一部に対応する分子を意味する。特定の態様において、該断片は、完全な抗体構造を有する抗体の抗原結合能と実質的に同じ該ドメインに対する抗原結合能を示す。この抗原結合能は、標的抗原に対する抗体の親和性および考慮される抗原結合断片の親和性を測定することにより判定され得る。
【0046】
抗体の抗原結合断片は、免疫原性ペプチドの認識部位を包含するCDRまたはその一部(複数可)と称される超可変ドメインを含む断片を包含する。4鎖免疫グロブリンの各軽鎖および重鎖(それぞれVLおよびVH)は、それぞれVL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3およびVH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3と称される3つのCDRを有する。従って、本発明は、VL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3ならびにVH-CDR1、VH-CDR2およびVH-CDR3のうち全てのまたは選択されたCDRまたはその機能的部分、すなわち、HLA-Gタンパク質のα3ドメインに対して、所望の結合能を示す、好ましくは高い親和性を有する部分を含むかまたはそれからなる本発明の抗体の断片(抗原結合断片)に関する。
【0047】
用語“モノクローナル抗体”は、任意の真核生物、原核生物またはファージクローンを含む単一のクローンに由来する抗体を意味し、それが産生される方法によらない。従って、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。
【0048】
“ポリクローナル血清”とは、特異的抗原に対して産生された多数の異なる抗体またはそのフラグメントの異種集団を含む血清を意味し、即ち、それらは、該特異的抗原に見出される多数の異なる抗原決定基に特異的である。
【0049】
本明細書で用いる“キメラ抗体”は、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来する抗体、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において対応する配列と同一かまたは相同であるが、残りの鎖(複数可)が、別の種に由来する抗体、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体、ならびにかかる抗体の断片において対応する配列と同一化または相同である抗体であって、それらが所望の生物学的活性を示す限り、かかる抗体を意味する。本明細書で用いる“ヒト化抗体”は、“キメラ抗体”のサブセットである。
【0050】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の“ヒト化”形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。一態様において、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域(HVR)由来の残基が、所望の特異性、親和性および/またはその標的に対する能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト哺乳動物などの非ヒト種(ドナー抗体)のHVRからの残基で置換されている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある例において、ヒト免疫グロブリンの相補性決定領域の残基が、対応する非ヒト残基によって置換されている場合もある。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にも、またはドナー抗体中にも見られない残基を含み得る。これらの改変は、結合親和性などの抗体の性能をさらに精緻化するために行われる。一般的には、ヒト化抗体は、超可変ループのすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリン配列のものに対応し、フレームワーク(FR)領域のすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列のものであるが、FR領域は、結合親和性、異性化、免疫原性などの抗体の性能を改善する、1つ以上の個々のFR残基置換を含んでいてよい、少なくとも1つ、および一般的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含む。FRにおけるこれらのアミノ酸置換の数は、一般的にH鎖では6以下であり、L鎖では3以下である。ヒト化抗体は、場合により、免疫グロブリン定常領域(Fc)の、一般的にはヒト免疫グロブリンのFcの少なくとも一部分も含む。
【0051】
“ヒト抗体”は、ヒトにより産生される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものであり、および/またはファージディスプレイライブラリーを含む、当技術分野で公知のヒト抗体の作製技術のいずれかを用いて作製されたものである。ヒト抗体のこの定義は、特に、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除く。
【0052】
2つのアミノ酸配列の“同一性パーセント”は、Karlin and Altschul, 1993で修正された、Karlin and Altschul, 1990に記載のアルゴリズムを用いて決定することができる。このようなアルゴリズムは、Altschulら(1990)のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。BLASTタンパク質検索を、目的のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて行うことができる。2つの配列間にギャップが存在する場合、Altschulら(1997)に記載のギャップ付きBLASTを利用することができる。BLASTおよびギャップ付きBLASTプログラムを利用するとき、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを用いることができる。
【0053】
“保存的置換”は、そのような修飾がなされた元の分子と同様の機能的および化学的特性を有する分子を産生し得る。例えば、“保存的アミノ酸置換”は、あるアミノ酸残基の極性または電荷にほとんどまたは全く影響を及ぼさないように、その位置の該アミノ酸残基を別の残基で置換することを含み得る。所望のアミノ酸置換(保存的であろうと非保存的であろうと)は、当業者により決定され得る。例えば、アミノ酸置換を用いて、分子配列の重要な残基を同定するか、または本明細書に記載の分子の親和性を増減させることができる。1以上の保存的アミノ酸置換を含む変異体は、当業者に知られているポリペプチド配列を改変する方法、例えば係る方法を記載する参考文献、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook, et al., eds., Second Edition、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989、またはCurrent Protocols in Molecular Biology, F.M. Ausubel, et al., eds., John Wiley & Sons, Inc., New Yorkに見出される方法に従って調製され得る。アミノ酸の保存的置換には、以下の群中のアミノ酸間でなされる置換が含まれる:(a)M、I、L、V;(b)F、Y、W;(c)K、R、H;(d)A、G;(e)S、T;(f)Q、N;および、(g)E、D。
【0054】
用語“対象”、“個体”および“患者”は、本明細書中互換的に用いられ、処置について評価されるべき、および/または処置されるべき哺乳動物を意味する。対象は、ヒトであってもよいが、他の哺乳動物、特にヒト疾患の実験モデルとして有用な哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌなども包含される。
【0055】
用語“処置”または“処置する”とは、ヒトを含む対象が、該対象の状態(病状)を直接的または間接的に改善する目的で医療援助を受ける、動作、適用または治療を意味する。特に、この用語は、いくつかの態様において、発症率の低下、症状の緩和、再発をなくす、再発を少なくする、発症の予防、症状の改善、予後の改善またはそれらの組合せを意味する。当業者は、処置が必ずしも症状の完全な撤廃または除去をもたらすとは限らないことを理解し得る。例えば、癌に関して、“処置”または“処置する”とは、腫瘍性または悪性の細胞増殖(cell growth)、増殖(proliferation)または転移を遅らせること、腫瘍性または悪性の細胞増殖、増殖または転移の発生を予防または遅延させること、あるいはそれらのいくつかの組合せを意味し得る。
【0056】
免疫原性ペプチド
本発明者らは、古典的MHCクラスI分子に対して交差反応性のない、HLA-Gに特異的な抗HLA-G抗体を開発するための免疫原性ペプチドを設計した。
HLA-Gアミノ酸配列は、
図1Aに示すように、他のMHCクラスI分子(HLA-E、A2、B7、B44およびCW3)とは異なる。HLA-Gの配列と比べてMHCクラスI配列のアミノ酸における変異を灰色で強調し、異なるドメイン内に多くのホットスポットが示されている。特に、HLA-Gの高度に特異的な配列が、位置194-197のα3ドメイン内で同定された。HLA-G α3ドメインのこの部分は、HLA-Gとその受容体との間の相互作用に必須のアミノ酸を包含する(
図1A)。
【0057】
これに基づいて、本発明者らは、配列X1-THHPVFDYEATLR-X2(配列番号49)からなる免疫原性ペプチドを設計した(ここで、X1は存在しないか、システイン、バリンであるか、またはKTHV(配列番号50)もしくはCKTHV(配列番号51)からなる群より選択される配列であり、X2は存在しないか、またはシステインである)。
【0058】
好ましい態様において、ペプチドは環状であり、以下の配列からなる:
a.CTHHPVFDYEATLRC(配列番号52)、
b.CKTHVTHHPVFDYEATLRC(配列番号53)、
ここで、ジスルフィド結合はN末端およびC末端のシステイン残基を連結する。
【0059】
別の好ましい態様において、ペプチドは直線状であり、以下からなる群より選択される配列からなる:
THHPVFDYEATLR(配列番号54);
THHPVFDYEATLRC(配列番号55);
VTHHPVFDYEATLRC(配列番号56);
VTHHPVFDYEATLR(配列番号57);
CTHHPVFDYEATLR(配列番号58);
KTHVTHHPVFDYEATLR(配列番号59);
KTHVTHHPVFDYEATLRC(配列番号60)および
CKTHVTHHPVFDYEATLR(配列番号61)。
【0060】
ペプチドは、当技術分野で公知の任意の技術、例えば化学合成または組換えにより製造され得る。
該ペプチドをコードする核酸も提供される。
【0061】
本発明はまた、核酸のクローニングおよび/または発現のためのベクター、とりわけ宿主細胞におけるクローニングおよび/または発現に適するプラスミドに関する。
特定の態様により、転写および発現の調節配列を加えることができる。
【0062】
組換え発現ベクターは、一般的に、構成的または誘導可能のいずれかで、プロモーターに作動可能に連結された発現するための配列をコードする核酸を含む。ベクターは、原核生物、真核生物、またはその両方における複製および組込みに適し得る。一般的なベクターは、転写および翻訳ターミネーター配列、開始配列、および前記免疫原性ペプチドをコードする核酸の発現調節に有用なプロモーターを含む。ベクターは、場合により、少なくとも1つの独立したターミネーター配列、真核生物および原核生物の両方においてカセットの複製を可能にする配列、すなわちシャトルベクター、ならびに原核システムおよび真核システムの両方のための選択マーカーを含む、一般的な発現カセットを含む。
【0063】
以下にさらに詳細に記載するように、免疫原性ペプチドは、免疫化によって抗HLA-G抗体を産生するために有用である。
【0064】
抗HLA-G抗体
本発明は、上記に定義の免疫原性ペプチドに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0065】
本発明の抗HLA-G抗体はすべて、HLA-Gタンパク質のα3ドメインを認識する。
【0066】
特定の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、HLA-Gを発現する細胞において天然に見出される立体構造を有するHLA-Gタンパク質のα3ドメインに特異的に結合する。換言すれば、本発明のかかる抗体またはその抗原結合断片は、HLA-Gを発現する細胞において天然に見出されるHLA-Gのα3ドメインの特異的エピトープを認識する。
【0067】
本発明の目的は、α3ドメインを包含するHLA-Gイソ型に対する、またはα3ドメインに関連するHLA-Gイソ型を認識する、特異的抗HLA-G抗体を産生することである。従って、HLA-Gタンパク質への結合を言及するとき、本発明は、とりわけ、α3ドメインを表すHLA-Gイソ型への結合に関する。
【0068】
特定の態様において、HLA-Gの可溶性形態を認識する抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0069】
別の態様において、HLA-Gの膜アンカー型を認識する抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0070】
最も好ましい態様において、本発明の抗体は、直線状または環状のいずれかの免疫原性ペプチド、ならびに可溶性形態のHLA-Gタンパク質および細胞表面の(すなわち、天然立体構造の)HLA-Gプロテインを認識する。
【0071】
上記のように、HLA-Gタンパク質は、一般にイソ型と呼ばれる、いくつかの構造的形態(または三次元形態)で見いだされ得る。HLA-G1およびHLA-G5は、それぞれ、β2-ミクログロブリンタンパク質と関連してまたは関係なく見出される膜結合または分泌型HLA-Gタンパク質である。対照的に、HLA-G2、HLA-G3およびHLA-G4は、同時にα2およびα3ドメインの全てを示さない膜結合型HLA-Gタンパク質イソ型である。HLA-G1イソ型はまた、細胞表面で二量体形態として見出され得る。HLA-G6およびHLA-G7は、同時に全てのα2およびα3ドメインを示さない分泌型HLA-Gタンパク質イソ型である。
【0072】
有利には、本発明の抗HLA-G抗体は、α3ドメインをを示すHLA-Gのすべてのイソ型を認識する。
【0073】
好ましい態様において、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、HLA-G1、HLA-G2、HLA-G5およびHLA-G6(単量体および二量体イソ型)から選択されるHLA-Gタンパク質イソ型の少なくとも1つまたは幾つかに結合する。
【0074】
特定の態様において、本発明の抗HLA-G抗体は、β2-ミクログロブリンタンパク質と結合している、または結合していないにかかわらず、HLA-Gタンパク質を認識する。
【0075】
しかしながら、ある場合に、HLA-Gタンパク質に結合して見いだされ得るβ2-ミクログロブリンタンパク質は、HLA-Gタンパク質の全てのイソ型に体系的に存在するわけではない。上記に詳述したように、結合したβ2-ミクログロブリンタンパク質の存在も、HLA-Gタンパク質のLILRB2阻害受容体への結合を可能にするために必ずしも必要ではない。
【0076】
従って、本発明において、“β2-ミクログロブリン未結合HLA-Gタンパク質”は、β2-ミクログロブリンタンパク質に結合していないHLA-Gタンパク質に関する。“β2-ミクログロブリン未結合短縮型HLA-Gタンパク質イソ型”または“α3ドメイン提示するβ2-ミクログロブリン未結合短縮型HLA-Gタンパク質イソ型”とは、HLA-Gタンパク質に見出され得る全てのドメインを提示せず、かつβ2-ミクログロブリンタンパク質と結合しない、HLA-Gタンパク質を意味する。
【0077】
本発明の特定の態様において、抗体またはその抗原結合断片は、HLA-G、特にβ2-ミクログロブリン未結合HLA-G、すなわち、α3ドメインを示すβ2-ミクログロブリン未結合HLA-Gまたはα3ドメインを示すβ2-ミクログロブリン未結合短縮型HLA-Gに存在するとき、α3ドメインに特異的に結合する
【0078】
特定の態様において、HLA-Gタンパク質が単量体または二量体の形態であるとき、このタンパク質のα3ドメインに結合する、抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0079】
特定の態様により、本発明の抗体またはその抗原結合断片は両方とも、HLA-Gタンパク質が単量体および/または二量体の形態であるとき、該タンパク質のα3ドメインに結合し、およびβ2-ミクログロブリンタンパク質が結合しているか否かに関わらず、HLA-Gタンパク質に存在するとき、α3ドメインに結合する。
【0080】
本発明の特定の態様を説明する目的で、該抗体のCDRを含む可変ドメインを含む抗体の抗原結合断片は、Fv、dsFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2を包含し、それらは、KabatおよびまたRoitt Iら(Fundamental and Applied Immunology MEDSI/McGraw-Hill)を参照して明確に定義されている。Fv断片は、疎水性相互作用によって互いに結合した抗体のVLドメインおよびVHドメインからなる;dsFv断片において、VH:VLヘテロ二量体は、ジスルフィド結合によって安定化されている;scFv断片において、VLドメインおよびVHドメインは、フレキシブルなペプチドリンカーを介して互いに連結され、従って一本鎖タンパク質を形成している。Fab断片は、抗体のパパイン消化によって得られる単量体断片である;それらは、ジスルフィド結合を介して互いに結合したL鎖全体、およびH鎖のVH-CH1断片を含む。F(ab’)2断片は、ヒンジ領域のジスルフィド結合部の抗体のペプシン消化によって産生され得る;それは、2つのFab’断片を含み、さらに免疫グロブリン分子のヒンジ領域の一部を含む。Fab’断片は、ヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することによってF(ab’)2断片から得られ得る。F(ab’)2断片は二価であり、すなわち、それらは、天然の免疫グロブリン分子のように2つの抗原結合部位を含む;一方、Fv(Fabの可変部分を構成するVH-VL二量体)、dsFv、scFv、FabおよびFab’ 断片は、一価であり、すなわち、それらは、1つの抗原結合部位を含む。
【0081】
最も好ましい態様において、scFv断片が提供される。
【0082】
VH-CDR3および/またはVL-CDR3もしくはそれらの機能的部分を含むか、またはそれからなる断片は、CDR3領域が抗原認識特異性の決定因子であると思われるとき、特に好ましい。特定の抗原結合断片は、抗体のVHおよび/またはVLのCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。
【0083】
本発明のこれらの抗原結合断片は、二重特異性抗体、トリボディー(tribodies)またはテトラボディー(tetrabodies)などの多価抗原結合断片を得るために共に組み合わされ得る。これらの多価抗原結合断片も本発明の一部である。
【0084】
同一または異なる抗原上の2つの異なるエピトープに同時に結合することができる、二重特異性抗体または多重特異性抗体もまた、包含される。二重特異性抗体または多重特異性抗体は、2つの抗体の化学結合、2つの抗体を産生する細胞株の融合、または組換え二重特異性抗体もしくは多重特異性抗体分子が得られる遺伝的アプローチなどの種々の生化学的方法によって得ることができる。
【0085】
本発明の特定の態様において、本発明の抗体はモノクローナル抗体である。従って、本発明はモノクローナル抗体にも関し、これらの抗体の組成物は、抗原結合特異性に関して、従って、可変領域組成に関して、同一である抗体を含むことを意味する。
【0086】
本発明のさらなる態様において、抗体またはその抗原結合断片は、ポリクローナル血清として提供されるか、またはポリクローナル血清から精製される。
【0087】
本発明において、抗体は、非ヒト哺乳動物抗体、例えばマウス抗体、またはキメラ抗体であってよい。好ましい態様において、抗体は、ヒト化されていてよい。特定の態様において、ヒト抗体が包含される。
【0088】
別の態様において、本発明はまた、本明細書に記載の定義のいずれかによる抗体またはその抗原結合断片を含む構築物であって、ここで、該抗体またはその抗原結合断片が、機能的に異なる分子と複合体を形成している、構築物に関する。
【0089】
本発明の構築物は、共有結合、移植(grafting)、化学的もしくは生物学的基もしくは分子との化学結合、例えば保護基もしくはインビボでのプロテアーゼ切断からの保護に適する分子、抗体または抗原結合断片の安定性および/もしくは半減期の改善のための分子など、生物学的に活性な分子、とりわけ治療的に有効な成分、例えば毒素もしくは細胞傷害性薬物、ヒト身体の特定の細胞もしくは組織に対して抗体または抗原結合断片を標的化するのに適するベクター(とりわけタンパク質ベクターを含む)との化学結合、または標識、例えば放射性元素との化学結合、または、とりわけ抗体の断片がも用いられるとき、リンカーとの化学結合を含む、任意の好適な結合形態から生じる融合タンパク質または複合体のいずれかであり得る。
【0090】
好ましい抗体またはその抗原結合断片の例を以下に記載する。
【0091】
特定の態様において、
(a)配列番号8の重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、および/または配列番号10の重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および/または配列番号12の重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む、重鎖可変領域(VH);および/または
(b)配列番号2の軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、および/または配列KVSの軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)、および/または配列番号5の軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含む、抗HLA-G抗体が提供される。
【0092】
好ましくは、かかる抗体は、
(a)配列番号8の重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、配列番号10の重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および配列番号12の重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む、重鎖可変領域(VH);および/または
(b)配列番号2の軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、配列KVSの軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)および配列番号5の軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0093】
さらに好ましくは、かかる抗体は、
(a)配列番号64を含むか、または配列番号64と80%を超える、好ましくは90%を超える、さらに好ましくは95%を超える同一性を示す相同配列を含む、重鎖可変領域(VH);および/または
(b)配列番号63を含むか、または配列番号63と80%を超える、好ましくは90%を超える、さらに好ましくは95%を超える同一性を示す相同配列を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含み得る。
【0094】
特定の態様において、該相同配列は、アミノ酸の保存的置換によってのみ異なる。
別の態様において、該相同配列は、ヒト化配列である。
【0095】
特定の側面において、抗体は、配列番号64を含む可変領域(VH)を含む2つの重鎖;ならびに、配列番号63を含む可変領域(VL)を含む2つの軽鎖を含む、完全長免疫グロブリンGである。かかる抗体は、15E7と称され、実施例部分に、より詳細に記載されている。
【0096】
別の特定の態様において、
(a)配列番号23の重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、および/または配列番号25の重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および/または配列番号27の重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む、重鎖可変領域(VH);および/または
(b)配列番号15の軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、および/または配列KVSの軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)、および/または配列番号18の軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含む抗体を提供する。
【0097】
好ましくは、かかる抗体は、
(a)配列番号23の重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、配列番号25の重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および配列番号27の重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む、重鎖可変領域(VH);および/または
(b)配列番号15の軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、の配列KVS軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)、および配列番号18の軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0098】
さらに好ましくは、かかる抗体は、
(a)配列番号67を含むか、または配列番号67と80%を超える、好ましくは90%を超える、さらに好ましくは95%を超える同一性を示す相同配列を含む、重鎖可変領域(VH);および/または
(b)配列番号65を含むか、または配列番号65と80%を超える、好ましくは90%を超える、さらに好ましくは95%を超える同一性を示す相同配列を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含み得る。
【0099】
特定の態様において、該相同配列は、アミノ酸の保存的置換によってのみ異なる。
別の態様において、該相同配列は、ヒト化配列である。
【0100】
好ましい側面において、配列番号67を含む重鎖可変領域(VH)および配列番号65を含む軽鎖可変領域(VL)を含むscFvを提供する。かかるscFv断片は、R4C-C3と称され、実施例部分により詳細に記載されている。
【0101】
別の特定の態様において、
(a)配列番号23の重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、および/または配列番号25の重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および/または配列番号27の重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む、重鎖可変領域(VH);および/または
(b)配列番号15の軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、および/または配列KVSの軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)、および/または配列番号20の軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含む抗体を提供する。
【0102】
好ましくは、かかる抗体は、
(a)配列番号23の重鎖相補性決定領域1(HC CDR1)、配列番号25の重鎖相補性決定領域2(HC CDR2)、および配列番号27の重鎖相補性決定領域3(HC CDR3)を含む、重鎖可変領域(VH);および/または
(b)配列番号15の軽鎖相補性決定領域1(LC CDR1)、配列KVSの軽鎖相補性決定領域2(LC CDR2)および配列番号20の軽鎖相補性決定領域3(LC CDR3)を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含む。
【0103】
さらに好ましくは、かかる抗体は、
(a)配列番号67を含むか、または配列番号67と80%を超える、好ましくは90%を超える、さらに好ましくは95%を超える同一性を示す相同配列を含む、重鎖可変領域(VH);および/または
(b)配列番号66を含むか、または配列番号66と80%を超える、好ましくは90%を超える、さらに好ましくは95%を超える同一性を示す相同配列を含む、軽鎖可変領域(VL)
を含み得る。
【0104】
特定の態様において、該相同配列は、アミノ酸の保存的置換によってのみ異なる。
別の態様において、該相同配列は、ヒト化配列である。
【0105】
別の側面において、配列番号67を含む重鎖可変領域(VH)および配列番号66を含む軽鎖可変領域(VL)を含むscFvを提供する。かかるscFv断片は、R5C-D8と称される。
【0106】
抗体の可変領域の配列は配列表に列記され、以下に記載される。
抗体15E7のVL κ鎖:
FR1: DVLMTQIPFSLPVSLGDQASISCRSS (配列番号1)
CDR1: QSIVHRSGNTY (配列番号2)
FR2: LEWYLQKPGQSPKLLIY (配列番号3)
CDR2: KVS
FR3: NRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYYC (配列番号4)
CDR3: FQGSHLPPT (配列番号5)
FR4: FGGTTLEIK (配列番号6)
抗体15E7のVH鎖:
FR1: QVQLQQPGAELVRPGSSVKLSCKAS (配列番号7)
CDR1: GYTFTDYW (配列番号8)
FR2: MDWVKQRPGQGLEWIGT (配列番号9)
CDR2: IYPSDSST (配列番号10)
FR3: HYNQEFKGKATMTVDKSSSTAYMHLSSLTSEDSAVYYC (配列番号11)
CDR3: AREGLAGVFYFDY (配列番号12)
FR4: WGQGTTLTVSS (配列番号13)
scFv R4C-C3のVL κ鎖:
FR1: DVLMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSS (配列番号14)
CDR1: QSLVHSNGNTY (配列番号15)
FR2: LHWYLQKPGQSPKLLIY (配列番号16)
CDR2: KVS
FR3: NRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFC (配列番号17)
CDR3: SQSTHFPPT (配列番号18)
FR4: FGGGTKLEII (配列番号19)
scFv R5C-D8のVL κ鎖:
FR1: DVLMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSS (配列番号14)
CDR1:QSLVHSNGNTY (配列番号15)
FR2:LHWYLQKPGQSPKLLIY (配列番号16)
CDR2: KVS
FR3: NRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFC (配列番号17)
CDR3: SQSTHVPPT (配列番号20)
FR4: FGAGTKLELK (配列番号21)
scFv R4C-C3およびR5C-D8のVH鎖:
FR1: QVQLKQSGPQLVRPGASVKIPCKAS (配列番号22)
CDR1:GYSFTNYW (配列番号23)
FR2:MHWVKQRPGQGLEWIGM (配列番号24)
CDR2: IAPSDSDS(配列番号25)
FR3: RLNQNFKDKATLTVDKSSSTAYMQLSSPTSEDSAVYYC (配列番号26)
CDR3: AREGVTMITTGLDY (配列番号27)
FR4: WGQGTTLTVSS (配列番号28)
【0107】
さらなる抗体(N27F12およびN38F4と称される)ならびにscFv(3157-C57-R6B-C10、3157-C57-R6B-G3および3157-C57-R6B-H10と称される)が産生されている。該さらなる抗体およびscFvの可変領域の配列は配列表に列記され、以下に記載される。
抗体N27F12のVL κ鎖:
FR1: ENVLTQSPAIMAASLGEKVTMTCSAS (配列番号68)
CDR1: SSVSSNF (配列番号69)
FR2: LHWYQQKSGTSPKLWIY (配列番号70)
CDR2: GTS
FR3: NLASGVPARFSGSGTGISYSLTVSNMEAENDAAYYC (配列番号71)
CDR3: QQWNAYPFT (配列番号72)
FR4: FGAGTKLELK (配列番号21)
抗体N27F12のVH鎖:
FR1: EVKLEESGGGLVQPGGSMKLSCVAS (配列番号73)
CDR1: GFTFSSYW (配列番号74)
FR2: LSWVRQSPEKGLEWVAE (配列番号75)
CDR2: VRLKSDNYAT (配列番号76)
FR3: SYAESVKGKFTISRDDANSRLYLQMNSLRPEDTGIYYC (配列番号77)
CDR3: TTGDY (配列番号78)
FR4: WGQGTTLTVSS (配列番号13)
抗体N38F4のVL κ鎖:
FR1: DVVMTQIPLSLPVSLGDQASISCRSS (配列番号79)
CDR1: QSLVNSNGNTL (配列番号80)
FR2: LHWYLQKPGQSPKLLIY (配列番号16)
CDR2: KVS
FR3: NRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFC (配列番号17)
CDR3: SQSTHVPWT (配列番号81)
FR4: FGGGTKLEIK (配列番号82)
抗体N38F4のVH鎖:
FR1: EVKLEESGGGLVQPGGSMKLSCVAS (配列番号73)
CDR1: GLTFSSYW (配列番号83)
FR2: MSWVRQSPEKGLEWVAE (配列番号84)
CDR2: IRLRSDNYVK (配列番号85)
FR3: QYADSVKGRFTISRDDSKGRLYLQMNRLRGDDTGIYFC (配列番号86)
CDR3: TTGDY (配列番号78)
FR4: WGQGTTLTVSS (配列番号13)
scFv 3157-C57-R6B-C10および3157-C57-R6B-G3のVL κ鎖:
FR1: DVLMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSS (配列番号14)
CDR1: QTIVHSNGNTY (配列番号87)
FR2: LEWYLQKPGQSPKLLIY (配列番号3)
CDR2: KVS
FR3: NRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYYC (配列番号4)
CDR3: FQGSHVPPT (配列番号88)
FR4: FGGGTKLEIK (配列番号82)
scFv 3157-C57-R6B-C10のVH鎖:
FR1: EVQLQQSGAELVKPGTSVKLSCKAS (配列番号89)
CDR1: GYTFTRNW (配列番号90)
FR2: ITWVRLRPGQGLEWIGD (配列番号91)
CDR2: IYPGDAST (配列番号92)
FR3: HYNGKFKNKATLTVDTSSSTAYLQVSSLTSEDSAVYYC (配列番号93)
CDR3: AREQVQFAMFFDV (配列番号94)
FR4: WGTGATVTVSS (配列番号95)
scFv 3157-C57-R6B-G3のVH鎖:
FR1: QVQLQQPRAELVKPGASVKMSCKAS (配列番号96)
CDR1: GYTFARYW (配列番号97)
FR2: ISWLKLRPGQGLEWIGD (配列番号98)
CDR2: IYPGDDST (配列番号99)
FR3: HYNGKFKNKATLTVDTSTSTAYIQLSSLTSEDSAVYYC (配列番号100)
CDR3: AREQVQFAMFFDV (配列番号94)
FR4: WGTGATVTVSS (配列番号95)
scFv 3157-C57-R6B-H10のVL κ鎖:
FR1: DVLMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSS (配列番号14)
CDR1: QSIVHSNGNTY (配列番号101)
FR2: LEWYLQKPGQSPKLLIY (配列番号3)
CDR2: KVS
FR3: NRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYYC (配列番号4)
CDR3: FQGSHVPPT (配列番号88)
FR4: FGGGTKLEIK (配列番号82)
scFv 3157-C57-R6B-H10のVH鎖:
FR1: QVQLQQPGAELVRPGSSVKLSCKAS (配列番号7)
CDR1: GYTFTDYW (配列番号8)
FR2: MDWVKQRPGQGLEWIGT (配列番号9)
CDR2: IYPSDSST (配列番号10)
FR3: HYNQEFKGKATMTVDKSSSTAYMHLGSLTSEDSAVYYC (配列番号102)
CDR3: AREGLAGVFYFDY (配列番号12)
FR4: WGQGTTLTVSS (配列番号13)
【0108】
本発明はまた、より高い結合親和性などの抗体の改善された生物学的特性を有する、上記の好ましい抗体の抗体変異体も提供する。該抗体のアミノ酸配列変異体は、適当なヌクレオチド変化を抗体核酸に導入すること、またはペプチド合成により、調製することができる。そのような修飾には、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失、および/または挿入および/または置換が含まれる。欠失、挿入および置換の任意の組合せを行って最終構築物とされ、ただし、該最終構築物は所望の特性を有する。抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当技術分野で公知の様々な方法によって調製することができる。これらの方法には、オリゴヌクレオチド媒介(または部位特異的)突然変異導入、PCR突然変異誘発、および先に調製した変異抗体または変異していない(天然の)抗体のカセット突然変異誘発が含まれるが、これらに限定されない。一態様において、本発明の抗体の平衡解離定数(KD)値は、10-8 M未満、特に10-9 M未満または10-10 M未満である。結合親和性は、ELISAまたは生物特異的相互作用分析(biospecific interaction analysis)などの当技術分野で公知の技術、または当技術分野で公知の他の技術を用いて決定され得る。
【0109】
本明細書に記載の抗体は、常套法に従って、抗原結合活性、抗原結合特異性、および生物学的機能などのそれらの特性を決定するために試験され得る。
【0110】
本明細書に記載の抗体は、例えばペグ化、グリコシル化などによって、当技術分野において公知であり、容易に利用可能なさらなる非タンパク質性部分を含有するように修飾することができる。血清半減期を延長し得る修飾が有用である。
【0111】
免疫化による抗HLA-G抗体の産生
本発明の一側面において、上記の免疫原性ペプチドは、HLA-Gタンパク質のα3ドメインに特異的な抗体を産生するための免疫原として有用であり得る。
【0112】
従って、説明を目的として、本発明の抗体またはそのフラグメントは、哺乳動物、特に齧歯動物、とりわけマウスまたはラットに、上記の免疫原性ペプチドを免疫化することで得られ得る。種々の哺乳動物の遺伝子型が、哺乳動物の免疫化を介して本発明を実施するのに適していると結論付けることができる。
【0113】
免疫化プロトコールは、プライミング(priming)工程およびブースティング(boosting)工程を包含してよく、より詳細には後述する。
【0114】
従って、本発明はまた、本発明の抗体または抗原結合断片の製造法であって、
a.非ヒト動物への、上記の免疫原性ペプチドの投与、
b.該動物から得られた血清または血漿サンプルからの誘発された抗体の回収、およびHLA-Gタンパク質のα3ドメインに対する特異性の検査、
c.要すれば、回収された抗体のクローニング、ならびに
d.要すれば、該回収された抗体からの抗原結合断片の調製
を含む方法に関する。
【0115】
生成された抗体または抗原結合断片の投与、回収、およびその後のクローニングは、当技術分野における常套法によって達成することができる。例えば、高度な配列決定法を用いたクローニングの前の特性化方法もまた当技術分野で周知である。
【0116】
回収された抗体からの抗原結合断片の調製はまた、当技術分野における常套方法、特にハイスループット合成技術によって達成することもできる。
【0117】
抗体または抗原結合断片の産生のための宿主動物は、ヒトを除く哺乳動物、とりわけ齧歯動物、特にマウスであり得る。
【0118】
特定の態様により、本明細書に記載の製造方法はまた、本発明の抗体の製造のために用いられる宿主動物を屠殺する工程を含む。
【0119】
特定の態様により、本発明の抗体またはその抗原結合断片の製造方法は、工程aにおいて、任意の成分、特に化合物として定義される、投与される抗原(複数可)または免疫原性抗原断片(複数可)と組み合わせて用いられるとき、抗原特異的免疫応答を補助、促進、延長または増強するように作用するアジュバントの同時投与を包含する。アジュバントは、免疫化(またはワクチン接種)および免疫療法の分野において周知である。
【0120】
特定の態様により、上記の方法の工程aによる投与は、活性免疫原性物質の第1の投与(プライム(prime)免疫化または投与)、その後の免疫化プロトコールの過程で第1の投与から時間を置いて、少なくとも1回のさらなる投与(ブースト(boost)免疫化またはブースト投与)を意味するプライムブースト免疫化プロトコールを用いて行われる。ブースト免疫化には、1回、2回、3回またはそれ以上の投与が含まれる。
【0121】
特定の態様において、用いるプライムブースト免疫化プロトコールは、同種(homologous)または異種(heterologous)の免疫化プロトコールのいずれかであり、投与された活性な免疫原性成分(例えば、抗体または断片)が、プライム投与およびブースト投与においてそれぞれ同じであるか、または異なることを意味する。
【0122】
特定の態様において、プライム投与が行われるとき、および/またはブースト免疫化が行われるときを含む、上記の方法の工程aにおける活性な免疫原性成分の投与は、アジュバント、例えばFreundのアジュバントと共に同時に行われる。アジュバントは、当技術分野で周知の物質である。
【0123】
特定の態様において、アジュバント投与は、特にポリペプチドまたはその免疫原性断片が免疫化に用いられるとき、プライム免疫化およびブースト免疫化の両方で実行される。
【0124】
免疫化を使用して抗体またはその抗原結合断片を産生することを目的とした免疫プロトコールを設計するためのベースであるか、またはベースとして用いることができる免疫プロトコールの詳細は、後記の実施例セクションに記載されている。
【0125】
別の態様において、哺乳動物は、該免疫原性ペプチドをコードする核酸またはベクターを用いて、例えばDNA免疫化の手段によって、免疫化される。
【0126】
DNA免疫化のための幾つかの送達方法、例えば、DNAを細胞外空間へ送達する、生理食塩溶液中の核酸またはベクターの筋肉内または皮内注射などが一般的に利用可能である。この方法は、生物学的組織の電気刺激を用いて一時的に細胞膜を透過させる“エレクトロポレーション”によって補助され得る。あるいは、細胞の細胞質にDNAを直接送達させ得る噴射式(Ballistic)装置を用いることにより、プラスミド被覆金粒子を用いて皮膚に衝突させることを含む、“遺伝子銃送達”を用いることができる。あるいは、プラスミドDNAを表皮および真皮の細胞に導入する力を圧力に依存する“ニードルフリー(無針)装置”を用いることができる。
【0127】
ポリクローナル抗体調製のために、免疫化された非ヒト動物から血清を得て、その中に存在する抗体を周知技術により単離する。血清は、抗HLA-G抗体を得るために固体支持体に結合させた上記の免疫原性ペプチドを用いてアフィニティー精製されてもよい。
【0128】
別の態様において、免疫化していない非ヒト哺乳動物由来のリンパ球を単離し、インビトロで増殖させ、その後、細胞培養において免疫原に曝露させる。その後、リンパ球を回収し、以下に記載の融合工程を実行する。
【0129】
モノクローナル抗体について、次の工程は、免疫化された非ヒト哺乳動物からの脾細胞の単離、およびその後の、抗体産生ハイブリドーマを形成するための、これらの脾細胞と不死化細胞との融合である(Harlow et al., 1988; Hammerling, et al, 1981に記載)。
【0130】
あるいは、本発明のモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、組換え技術およびファージ提示技術またはそれらの組み合わせの使用を含む、任意の他の公知の技術を用いて調製することができる。
【0131】
モノクローナル抗体またはそのフラグメントの組換え産生には、以下に記載の、適当な宿主細胞中で抗体またはそのフラグメントをコードする核酸を発現させることが含まれる。
【0132】
抗HLA-G抗体の組換え産生
本発明はまた、本明細書に記載の本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸分子に関する。
【0133】
特に、上記の抗HLA-G抗体の抗体重鎖可変領域(VH)、抗体軽鎖可変領域(VL)またはその両方をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。
【0134】
本明細書に記載のCDRのヌクレオチド配列は、容易に設計することができるか、または配列決定することができる。
【0135】
例示の目的で、モノクローナル抗体15E7の軽鎖および重鎖可変領域のヌクレオチド配列は、それぞれ、
図2Aおよび3Aに示す、配列番号35および配列番号38である。
【0136】
scFv R4C-C3の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は、
図4Aに示す配列番号41であり、R4C-C3重鎖ヌクレオチド配列、すなわち配列番号46は、
図5Aに示される。
【0137】
さらに、組換え抗体またはそのフラグメントを産生するための方法も記載される。
【0138】
本発明の抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸は、発現ベクターに挿入される。軽鎖および重鎖は、同じか、または異なる発現ベクター中にクローニングされる。免疫グロブリン鎖をコードするDNAセグメントは、免疫グロブリンポリペプチドの発現を確実にする発現べクター(複数可)内の調節配列に作動可能に連結されている。かかる調節配列には、シグナル配列、プロモーター、エンハンサーおよび転写終結配列が含まれる。発現ベクターは、一般的に、宿主生物において、エピソームとして、または宿主染色体DNAの不可欠な部分として複製可能である。一般的に、発現ベクターは、所望のDNA配列を用いて形質転換された細胞の検出を可能にするために、選択マーカー、例えばテトラサイクリンまたはネオマイシンを含み得る。
【0139】
一例において、重鎖および軽鎖の両方のコード配列は、1つの発現ベクターに含まれる。別の例において、抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれは、個々のベクター内にクローニングされる。後者の場合、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターは、インビボまたはインビトロのいずれかで無傷の(インタクトな)抗体を組み立てることを可能にする、両方の鎖の発現のために1つの宿主細胞に同時にトランスフェクトすることができる。あるいは、重鎖をコードする発現ベクターおよび軽鎖をコードする発現ベクターは、重鎖および軽鎖のそれぞれを発現させるために異なる宿主細胞に導入され得て、その後、それらを精製および組み立ててインビトロでインタクトな抗体を形成することができる。
【0140】
本明細書に記載の抗体またはそのフラグメントは、細菌細胞、酵母細胞、糸状菌細胞、昆虫細胞および哺乳動物細胞などの原核および真核発現系において産生され得る。本発明の組換え抗体はグリコシル化されるか、または真核細胞において発現される必要はない;しかしながら、哺乳動物細胞における発現が一般的に好ましい。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、ヒト胚性腎臓細胞株(293細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-または+DHFR(CHO、CHO-S、CHO-DG44、Flp-in CHO細胞)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO細胞)、およびヒト肝臓細胞(Hep G2細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
無傷の(インタクトな)免疫グロブリンを分泌することができる多数の好適な宿主細胞株が当技術分野で開発されているため、哺乳動物組織細胞培養は、ポリペプチドを発現し、産生するのに好ましく、それらには、CHO細胞株、種々のCos細胞株、HeLa細胞、好ましくは骨髄腫細胞株、または形質転換されたB細胞もしくはハイブリドーマが含まれる。
【0142】
これらの細胞のための発現ベクターは、複製起点、プロモーターおよびエンハンサーなどの発現制御配列、ならびにリボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写ターミネーター配列などの必要なプロセシング情報部位を含み得る。好ましい発現制御配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、サイトメガロウイルスなどに由来するプロモーターである。
【0143】
目的のポリヌクレオチド配列(例えば、重鎖および軽鎖をコードする配列ならびに発現制御配列)を含むベクターは、宿主細胞タイプによって変わる、周知の方法によって宿主細胞内に導入することができる。例えば、リン酸カルシウム処理またはエレクトロポレーションを、他の宿主細胞に使用することができる(一般的に、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press、2nd ed., 1989)を参照のこと)。重鎖および軽鎖が別個の発現ベクター上にクローニングされるとき、該ベクターを同時トランスフェクトして、発現させ、そして無傷の免疫グロブリンを得る。
【0144】
宿主細胞を、ベクターを用いて形質転換またはトランスフェクトし(例えば、化学的トランスフェクション法またはエレクトロポレーション法によって)、プロモーターを誘導するため、形質転換体を選択するため、または所望の配列をコードする遺伝子を増幅するために、常套の(または適宜修飾された)栄養培地中で培養する。
【0145】
一旦発現されると、本発明の抗体またはそのフラグメントは、さらなるアッセイおよび適用のために実質的に均一な調製物を得るためにさらに単離または精製され得る。当技術分野で公知の標準的なタンパク質精製法を用いることができる。例えば、好適な精製手順は、免疫親和性またはイオン交換カラムによる分画、エタノール沈殿、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、硫酸アンモニウム沈殿、およびゲル濾過を含み得る(一般的に、Scopes, Protein Purification, Springer-Verlag, N.Y., 1982を参照のこと)。少なくとも約90から95%の均質性の実質的に純粋な免疫グロブリンが好ましく、医薬用途のためには98から99%またはそれ以上の均質性が最も好ましい。
【0146】
ファージディスプレイ法
所望の結合特性を有する抗体は、ファージディスプレイライブラリーおよびスクリーニングを用いて産生させることもできる。
【0147】
特定のファージディスプレイ法では、VHおよびVL遺伝子のレパートリーを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により別個にクローニングし、ファージライブラリーに無作為に組み換え、その後、それをWinter et al., Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994)に記載の通りに、抗原結合ファージについてスクリーニングすることができる。ファージは、一般的には、一本鎖Fv(scFv)フラグメントまたはFabフラグメントとして、抗体フラグメントを提示する。免疫化された供給源からのライブラリーは、ハイブリドーマを構築する必要なく、免疫原に対して高親和性の抗体を提供する。あるいは、天然レパートリーをクローニングして(例えば、ヒトから)、免疫化工程なしに広範囲の非自己および自己抗原に対する抗体の単一供給源を提供することができる。最後に、天然ライブラリーを、幹細胞から再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、高度に可変性のCDR3領域をコードするランダム配列を含むPCRプライマーを用いて、インビトロで再編成することによって、合成的に作製することもできる。
【0148】
治療用途
抗HLA-G抗体またはその抗原結合断片、かかる抗体またはフラグメントをコードする核酸、あるいはそれらを発現するベクターは、癌または癌性疾患ならびに関連または併発疾患または状態などの病状の処置に、これらの病理がHLA-Gに関与する腫瘍の免疫回避機構と関連しているとき、有用である。より一般的には、抗HLA-G抗体またはその抗原結合断片は、宿主におけるHLA-Gタンパク質の不適切な発現を含む病状の治療に有用である。
【0149】
より具体的には、本明細書中、抗HLA-G抗体またはその抗原結合断片、かかる抗体またはフラグメントをコードする核酸、あるいはそれらを発現するベクターを含む組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、癌またはウイルス感染を処置するための方法が記載される。
【0150】
抗HLA-G抗体またはその抗原結合断片は、単一の有効成分として、または化学療法、放射線療法もしくは治療的ワクチン接種を含む別の免疫療法などの別の処置法と組み合わせて用いられ得る。
【0151】
本明細書に記載される抗HLA-G抗体は、単独で、または他の治療剤と組み合わせて、HLA-Gに関連する免疫回避機構に対抗するのに有用であり、全体的な抗腫瘍効果を高め、癌患者に有益である。
【0152】
特定の態様において、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、抗体をブロッキングし得る。“ブロッキング抗体”、または“中和抗体”は、少なくとも白血球免疫グロブリン様受容体B1(LILRB1/ILT2/CD85j)またはLILRB2(ILT4/CD85d)に対するHLA-G結合を阻害する抗体を意味する。
【0153】
特定の態様により、以下のHLA-Gタンパク質イソ型:HLA-G1、HLA-G2、HLA-G5またはHLA-G6の少なくとも1つまたは複数と、α3ドメインによって認識されるそれらの受容体との間の結合が阻止される。
【0154】
特定の態様において、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、α3ドメインを提示するHLA-Gタンパク質の、LILRB1またはLILRB2受容体の少なくとも一方への結合をブロックし、特に該HLA-Gタンパク質のLILRB1受容体およびLILRB2受容体の両方への結合をブロックする。
【0155】
別の態様において、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、細胞傷害性薬物と複合体化され得る。ある側面において、このような構築物(抗体-薬物複合体またはADCとも称される)は、ペプチドリンカーまたは非ペプチドリンカーであり得る、少なくとも1つのスペーサーまたはリンカーをさらに含む。かかるリンカーは、切断可能であっても切断不可能であってもよい。抗体を細胞傷害性薬物に連結させる幾つかの方法が当業者に公知である。ADCは、一般的に、表面に露出したリシンまたは鎖間ジスルフィド結合の還元により生成された遊離システインのいずれかの側鎖を介して抗体に該細胞傷害性薬物を結合させることによって生成される。
【0156】
細胞傷害性薬物または細胞毒素は、細胞の機能を阻害もしくは阻止し、および/または細胞の破壊(細胞死)を引き起こし、および/または抗腫瘍/抗増殖効果を発揮する、当技術分野で公知の任意の分子であり得る。細胞傷害性薬物の多くのクラスが、ADC分子に有用性を有する可能性があることが知られている。これらには、限定されないが、アマニチン、オーリスタチン、ダウノマイシン、ドキソルビシン、デュオカルマイシン、ドラスタチン、エンジイン、レキシトロプシン、タキサン類、ピューロマイシン、メイタンシノイド、ビンカアルカロイド、チューブリジンおよびピロロベンゾジアゼピンが含まれる。植物毒素および細菌毒素を含む毒素、例えば破傷風またはジフテリア毒素、リシン、サポニン、エンドトキシンAなどは、細胞傷害性薬物として用いることができる。
【0157】
特定の態様において、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、放射性核種に複合体化され得る。
【0158】
さらに別の態様において、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、それらが、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)または補体依存性細胞傷害(CDC)を促進するFc領域を含むように、改変(例えば、修飾またはキメラ化)され得る。多くのFc変異体が、その目的のために既報である(例えば、Lazar et al, 2006; Moore et al, 2010)。
【0159】
かかる抗体または複合体は、癌の処置に有用である。
【0160】
癌は任意のタイプの癌を意味し、好ましくは膀胱癌、腎癌、泌尿生殖器癌および黒色腫から選択され得る。癌疾患または腫瘍性状態の他の限定されない例は、白血病、基底細胞癌、乳癌、悪性中皮腫、光線性角化症、淡明細胞型腎細胞癌、網膜芽細胞腫、棘状細胞癌、上皮内癌(in situ carcinoma)、結腸直腸癌、卵巣癌、皮膚T細胞性リンパ腫、類内膜腺癌、古典的ホジキンリンパ腫、肺癌、皮膚B細胞リンパ腫、胃癌、大腸癌、胆道癌、膵管腺癌、食道扁平上皮癌、胞状奇胎である。
【0161】
ウイルス感染の間、HLA-G発現の上方制御は、免疫系による破壊を免れるために幾つかのウイルスによって用いられる戦略の一部を形成する。
本発明に従って処置され得るウイルス感染の限定されない例は、HIV感染、狂犬病ウイルス感染またはB型肝炎もしくはC型肝炎ウイルス感染、ならびにHCMV(ヒトサイトメガロウイルス)、HSV-1(ヘルペス単純ウイルス)またはIAV(A型インフルエンザウイルス)による感染である。
【0162】
別の側面において、本発明は、組成物、例えば、薬学的担体と共に製剤された、本明細書に記載の抗体またはそのフラグメントを含む医薬組成物を提供する。本明細書に記載の“薬学的担体”には、生理的に適合性の、任意のおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経腸、脊髄または上皮投与(例えば、注射または点滴による)に適する。
【0163】
本発明の組成物は、当技術分野で公知の様々な方法によって投与することができる。投与の経路および/または様式は、所望の結果によって変わってよい。
【0164】
選択された投与量レベルは、投与経路、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全般的な健康状態および過去の病歴などを含む種々の要因によって変わってよい。例えば、本発明の抗体は、3回/週から1回/月の範囲で0.2~20mg/kgの投与量で投与され得る。
【0165】
別の側面において、医薬またはワクチンは、該抗体もしくはフラグメントをコードする核酸、または該核酸を含むベクターを含む組成物である。
【0166】
ベクターは、有利には、ウイルスベクターであってよく、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、麻疹ウイルスベクターおよびアデノウイルス関連ベクターからなる群より選択されるウイルスベクターであり得る。
【0167】
核酸、ベクターまたは組成物は、直接投与することができるか、または投与前にリポソームにパッケージされ、または金コロイド粒子上にコーティングされ得る。特定の態様において、本発明の抗体をコードする核酸は、裸(naked)の形態で投与され得る。
【0168】
遺伝子による免疫化のために、ワクチン組成物は、好ましくは、注射またはガス圧駆動式パーティクルボンバードメント(gas driven particle bombardment)により腫瘍内または全てのタイプのリンパ系組織に、皮内、皮下、筋肉内に投与され、宿主における免疫応答を刺激するのに有効な量で送達される。本発明の好ましい態様において、投与は、注射工程に加えて、本明細書中“エレクトロトランスファー”という用語によっても記載されるエレクトロポレーション工程を含む。
【0169】
核酸はまた、リポソームトランスフェクション、パーティクルボンバードメントまたはウイルス形質導入(同時培養技術を含む)を用いて、エクスビボでリンパ系細胞または骨髄細胞に投与され得る。次いで、処置された細胞を免疫される対象に再導入する。
【0170】
さらに別の側面において、免疫原性ペプチド、該ペプチドをコードする核酸、または該ペプチドを発現するベクターは、患者における抗HLA-G抗体のインビボ産生のために使用される。
【0171】
診断方法およびキット
本発明はまた、HLA-Gタンパク質をインビトロで検出する、あるいは健康状態もしくは病状をモニタリングまたは診断するのに適する手段、ならびに健康状態もしくは病状をモニタリングまたは診断するための手段であって、そのような状態もしくは病状になりやすい患者に行う手段を提供する。
【0172】
特定の態様において、この病状は癌またはウイルス感染である。
【0173】
特に、本発明は、サンプル中のHLA-Gタンパク質を検出する、および/または特定の健康状態を示しやすい、もしくは病状を有しやすい患者から以前に得られたサンプルの分析により健康状態もしくは病状をモニタリングもしくは診断するためのインビトロ方法に関し、該方法は、以下の操作:
a.免疫複合体の形成を可能にする条件下で、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片をサンプルと接触させること、および
b.該抗体またはその抗原結合断片とHLA-Gタンパク質との間で形成される免疫複合体をインビトロで検出すること
を含む。
【0174】
特定の態様により、本発明は、サンプル、例えば妊娠しやすい患者から以前に得られたサンプルまたは臓器もしくは組織もしくは細胞移植(複数可)を受けた患者から得られたサンプル中の、HLA-Gタンパク質のインビトロ検出を可能にする。結果として、健康状態、すなわち病的状態の存在を必ずしも必要としない生理的状態のモニタリングを行うことができる。従って、その後の病的状態の存在または不存在の診断も行うことができる。
【0175】
サンプルが病的状態を呈する可能性のある患者から以前に得られたとき、そのような病的状態のその後のモニタリングまたは診断も行うことができる。特定の態様において、病的状態とは、上記に記載の状態を意味する。
【0176】
本発明はまた、上記のインビトロアッセイ法または診断方法のためのキットに関し、該キットは、以下のもの:
a.本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片、
b.(a)の抗体またはその抗原結合断片とアッセイするためのサンプルとの免疫複合体(複数可)の形成に適する試薬(複数可);
c.場合により、工程(b)の免疫複合体(複数可)の形成を検出するのに適する試薬(複数可)
を含む。
【0177】
HLA-Gタンパク質の検出は、免疫組織化学またはELISAアッセイなどの液相での検出のような、当技術分野で公知の任意の技術によって達成され得る。特定の態様により、(a)それに結合された固定化された抗HLA-G抗体を有する支持体(ここで、抗HLA-G抗体は本発明の抗体である);および、(b)それに結合されたレポーター分子を有する可動性(mobile)抗HLA-G抗体(HLA Gタンパク質の別のエピトープに結合する)を含むキットが提供される。レポーター分子は、定量的またはほぼ定量的に検出可能な任意の分子であり得る。例えば、レポーター分子は、比色分析試薬、蛍光測定試薬、放射性同位体試薬、または検出可能なエンドポイントを有する酵素剤であってもよい。
【0178】
本発明の方法は、要すれば、生物学的サンプル中で検出された標識の量をHLA-G標準と比較することによりHLA-Gを測定する工程を含み得る。
【0179】
本発明の方法は、生物学的サンプルを含む。そのようなサンプルは、組織サンプル、例えば腫瘍組織サンプル、血液サンプル、組織サンプルと接触する培地、および例えば単離された細胞を用いるとき、該細胞と接触する培地、羊水、胚と接触する培地から選択されてよいが、これらに限定されない。本発明の方法は、HLA-G発現を示す状態を診断または検出するために用いられ得る。この態様において、HLA-G発現を示す状態の対照値は、サンプル中に見出されるHLA-Gの量と比較され得る。HLA-Gが低いかまたは存在しない場合、特定の状態が示され得て、他の状態は、増加したHLA-Gレベルによって示され得る。当業者は、状態の診断に有用な指標レベルを容易に決定することができる。そのようなHLA-G指標状態は、子癇前症、子癇前症の危険性の増加、胎児の有害転帰(adverse fetal outcome)、胎児の有害転帰のリスクの増加、癌、または癌発症のリスクの増加を含み得るが、これらに限定されない。
【0180】
可溶性HLA-G(sHLA-G)はまた、ヒトの体外受精(IVF)における胚品質のバイオマーカーとして報告されている。従って、特定の態様において、本発明の抗体は、IVFでの移植の成功の可能性を評価するために、胚培養上清(ES)におけるHLA-Gタンパク質の存在をモニターするために有用である。
【0181】
従って、一般的に上記の本発明は、例示として提供され、本発明を限定するものではない、以下の実施例を参照することにより、より容易に理解されるであろう。
【0182】
略語
APC:抗原提示細胞
ATCC:アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション
β2M:ベータ-2-ミクログロブリン
BSA:ウシ血清アルブミン
CDR:相補性決定領域
CFA:完全フロイントアジュバント
CTL:細胞傷害性Tリンパ球
CTLA-4:細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4
DC:樹状細胞
DIC:ジイソプロピルカルボジイミド
DNA:デオキシリボ核酸
DMEM:ダルベッコの修飾イーグル培地
ELISA:酵素結合免疫吸着検定法
EC:有効濃度
FACS:蛍光活性化セルソーター
FCS:ウシ胎仔血清
FITC:フルオレセインイソチオシアネート
FR:フレームワーク領域
h:時間
HAT:ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン
HES:ヒドロキシエチルデンプン
HLA:ヒト白血球抗原
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
HRP:西洋わさびペルオキシダーゼ
ICP:免疫チェックポイント
ID:識別子(IDentity)
IFA:不完全フロイントアジュバント
IgG:免疫グロブリンG
ILT-2:免疫グロブリン様転写産物2
ILT-4:免疫グロブリン様転写産物4
IMDM:イスコフ改変ダルベッコ培地
IP:腹腔内
IPTG:イソプロピル β-D-1-チオガラクトピラノシド
IV:静脈内
IVF:体外受精
KDa:キロダルトン
KIR2DL4:キラー細胞免疫グロブリン様受容体2Igドメインおよび長い細胞質テイル4
KLH:キーホールリンペットヘモシアニン
LILRB1:白血球免疫グロブリン様受容体B1
LILRB2:白血球免疫グロブリン様受容体B2
M:モル
MEM:最小必須培地
MHC:主要組織適合遺伝子複合体
mL:ミリリットル
NK:ナチュラルキラー細胞
nM:ナノモル
OD:光学密度
ON:一晩
PAGE:ポリアクリルアミドゲル電気泳動
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
PC-1:拘束性(Constrained)ペプチド-1
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
PD―1:プログラムされた細胞死タンパク質1
PD-L1:プログラムされた細胞死リガンド1
PE:フィコエリスリン
PIR-B:抑制型(Paired)免疫グロブリン様受容体B
PS:ペニシリン/ストレプトマイシン
RNA:リボ核酸
RPM:毎分回転数
RT:室温
SB:スーパーブロス
scFv:一本鎖可変フラグメント
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
Sec:秒
SEQ:配列
sHLA-G:可溶性HLA-G
TBS:トリス緩衝生理食塩水
TMB:テトラメチルベンジジン
UV:紫外線
V:容量
VH:可変重鎖
VL:可変軽鎖
μL:マイクロリットル
【実施例】
【0183】
実施例
材料および方法
ペプチド合成
モノクローナル抗体を作製するために用いたPC-1ペプチド[VTHHPVFDYEATLRC(配列番号56)]を、MultiSynTechのSyro上でDICをアクティベーターとして用いてFmoc標準化学によって合成し、次いで逆相HPLC(RP-HPLC)により精製した。
【0184】
PC1ペプチドを液体クロマトグラフィー - 質量分析(LCMS)により分析した。
【0185】
免疫原の製造
PC1ペプチドを、以下のように側鎖C末端システインを介してKLHにカップリングさせた:5mgのペプチドを結合に用いた。PBSに溶解したKLHタンパク質(77600、ThermoFisher、Paris、France)を、sulfo-MBSリンカー(22312、ThermoFisher、Paris、France)を用いて活性化した。遊離リンカーを透析により除いた。PBSに溶解したペプチドを活性化KLHと共にインキュベートした。遊離ペプチドを透析により除去した。PC-1-KLH複合体をPBS 1X(pH7.2)に溶解させ、-20℃で貯蔵した。
【0186】
マウス免疫化
Janvier laboratories(Le Genest-St-Isle、France)から購入し、Pasteur Institute animal facility(Paris、France)で飼育した、2種のマウス系統(C57BL/6JおよびBALB/cJ)を免疫化に用いた。マウスは、最初の免疫原注射のとき7週齢であった。マウスを、完全フロイントアジュバント(CFA F5881; Sigma、Lyon、France)(v/v)と混合したKLHに結合させたPC-1ペプチド50μgのエマルジョンを用いて腹腔内(IP)免疫し、次いで、10日後に、不完全フロイントアジュバント(IFA;F5506; Sigma、Lyon、France)と混合したPC-1-KLH50μgをIP注射し、その後、最初の注射の20日後、30日後および185日後に、PC-1-KLH/IFA25μgを3回注射した。
【0187】
PC1-KLH/CFAまたはIFAエマルジョンを、暗所でRTにて30分間ボルテックスして調製した。
【0188】
免疫化マウスの眼窩後方出血(retro-orbital bleeding)により得られた血液から、フローサイトメトリー(FACS)およびELISA分析(以下に記載)により、抗体応答をモニターした。
【0189】
ハイブリドーマの作製
マウスに、安楽死処置の3日前に免疫原を静脈内(IV)に追加免疫した。脾臓を取り出し、脾細胞を、抗体産生ハイブリドーマを得るために、不死化ミエローマ細胞株sp2/0-Ag14とのその後の融合のために精製した。融合は、ポリエチレングリコールベースの標準プロトコールを用いて行った(Koehler, G., C. Milstein. Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity. Nature, 1975. 256(5517): p.495-7)。その後、得られたハイブリドーマを、L-グルタミン(4mM)、熱不活性化FCS(20%)、HAT(ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン、1X)、HES(ヒドロキシエチルデンプン130、2%)およびペニシリン/ストレプトマイシン(1%)を添加した選択DMEM培地中で培養した。ハイブリドーマを、コロニー形成および抗体産生のために選択培地中で7~14日間増殖させた。直鎖状および環状PC-1ペプチドを特異的に認識する抗体の産生を、それぞれELISAおよびフローサイトメトリー分析により評価した。陽性ハイブリドーマをクローニングし、目的のモノクローナル抗体を分泌する単一細胞由来のクローンを同定するために増殖させた。
【0190】
ファージディスプレイ技術
抗HLA-G 一本鎖抗体遺伝子ライブラリーの構築
各動物の脾臓から、業者指示書に従ってTri Reagent キット(Molecular Research Center Inc., Cincinnati、USA)を用いてRNAを単離するために、最後のブースト免疫後にサンプル採取した。RT-PCRによりRNAを逆転写し、得られたcDNAを、マウスVH、VLκおよびVLλをコードするDNAの増幅を目的とするプライマーを用いてPCRにより増幅させた。PCR産物を、初めに、業者指示書に従ってpGEM(登録商標)-T easy ベクター(Promega、Madison、Wisconsin)中にクローニングして、重鎖(VH)または軽(VLκ+VLλ)鎖のいずれかをコードする2つの抗体遺伝子サブライブラリーを得た。
【0191】
一本鎖抗体(scFv)ライブラリーの構築を以下のように行った:まず、VL(VLκおよびVLλ)PCR産物を、ファージミドベクターpTH中にクローニングした;第2に、VH PCR産物を、VLκまたはVLλレパートリーを含むpTH中にクローニングした。クローニング部位は、VHおよびVLクローニングのための制限酵素部位に隣接する(Gly4Ser)3リンカー配列と、それに続くヘキサヒスチジンタグおよびc-mycタグを含む。プラスミドおよびファージミドを、大腸菌XL1‐Blue MRF’ 細菌株(Stratagene、Amsterdam、Netherlands)内で増殖させた。scFv遺伝子ライブラリーを含む形質転換された細菌を採取し、Nucleobond Plasmid Midi キット(Macherey‐Nagel; Dueren、Germany)を業者指示書に従って用いて、該ライブラリーからプラスミド/ファージミドを単離し、その後アリコートに分けて-80℃で貯蔵した。
【0192】
最終的なscFvライブラリーのサイズは、PCRによって決定された約93%のフルサイズの挿入物を含む、1.2x107のクローンから構成された。次いで、細菌ライブラリーを、ヘルパーファージM13KO7を用いてファージ/scFvライブラリーとしてパッケージした。ファージ/scFvを30℃にて250rpmで16時間かけて生成させた。細胞を遠心分離によってペレット化し、ファージを含む上清をポリエチレングリコール法を用いて沈殿させた。沈殿したファージを再懸濁させ、0.45μMフィルターで濾過し、ファージ滴定まで4℃で貯蔵した。
【0193】
ライブラリーのスクリーニング
ファージ/scFvライブラリーのスクリーニングを、ストレプトアビジンELISA高容量プレート(15501、Piece)上にコーティングした1μg/mLのビオチニル化-PC1ペプチドを用いて行った。ストリンジェンシーを増強させながら5回のパンニング(パンニングの各ラウンド毎に2、4、8および15回の洗浄)を適用した。未結合HLA-G PC1ペプチド(TBS-Tween 20 0.1%中、10μg/mL)を、ファージ/scFv溶出の競合体(competitor)として用いた。選択されたファージの回収および増幅のために、指数関数的に増殖する大腸菌培養物を、各回のパンニング後に溶出したファージ懸濁液に感染させた。
【0194】
選択されたファージの反応性を評価するために、各回のパンニング後にビオチニル化HLA-G PC1ペプチドを抗原として用いてファージ-ELISAを行った。1回目と2回目のパンニング後、シグナルはバックグラウンドと同じレベルにあった。シグナルは、第4ラウンドのパンニングの後にバックグラウンドの3倍に増加した。ファージディスプレイ技術によれば、そのようなシグナル増加は、特異的結合体の濃縮に対応する。第5ラウンドのパンニングの後に、ファージミドDNAを該ライブラリーから抽出した。96個のクローンを単離し、ディープウェルマイクロタイタープレート(Maxisorp、Nunc、Danemark)上で作製した。ファージ粒子を含む上清をファージ-ELISA法によって試験し、6種のPC1特異的結合体(R4C-C3、R4C-B1、R4C-F2、R4C-F1、R4C-F12およびR5C-D8)を同定して、配列決定した。
【0195】
scFv産生
タンパク質発現のために、同定された陽性結合体から単離されたファージミドDNAを、非サプレッサー大腸菌株HB2151に形質転換させた。選択されたプレートから無作為に選択された単一コロニーを、カルベニシリンおよびグルコース(1%)を添加したSB培地(Super Broth)5mL中に接種した。培養物を、37℃にて一晩、撹拌しながらインキュベートし、その後、より大量のSB培養物に移した(500μLの培養物を500mLの新鮮なSB培地に移した)。培養物のOD600が1に達したときに、1mMのIPTG(イソプロピル β-D-1-チオガラクトピラノシド)を添加して標的タンパク質の発現を誘導した。細胞を16℃にて一晩(ON)増殖させて、その後遠心分離により回収した。scFvを抽出し、業者指示書に従ってニッケルカラム(Ni-NTA スピンカラム、Qiagen、Valencia、CA)を用いて精製した。
【0196】
フローサイトメトリー分析
細胞株
K562細胞は、ATCC(American Type Culture Collection CCL-243)から購入したヒト白血病細胞である。K562-G1およびK562-PVは、HLA-G1をコード化するベクターまたは対応する空(mock)ベクターをそれぞれ用いるK562野生型細胞のヌクレオフェクションによって得られた。これらの細胞株を、10%熱不活性化FCSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したIMDM培地中で培養した。
【0197】
古典的MHCクラスI分子を発現するが、HLA-Gは発現しない、リンパ芽球様細胞株LCL-DES、LCL-BROおよびRPMI8866は、D.Wiels(Institut Gustave Roussy、Villejuif、France)の好意によって贈呈された。これらの細胞を、10%の熱不活性化FCS、1%のペニシリン/ストレプトマイシン、10mM ナトリウムピルビンおよび200g/LDーグルコースを添加したRPMI 1640培地中で培養した。
【0198】
バイオプレックスビーズ、受容体およびモノクローナル抗体
バイオプレックスビーズ(MC10028-01およびMC10062-01)を、Bio-Rad(Marnes-la-Coquette、France)から購入し、PE結合マウスIgG1(クローンP.3.6.8.2.1.12-4714)をeBiosciences(Paris; France)から購入し、およびFITC結合ラットIgG2aをBD Biosciences(クローン:R35-95 553929、Le Pont de Claix; France)から購入した。
【0199】
HLA-G6およびHLA-G5タンパク質産生
HLA-G6遺伝子のα1α3ドメインおよびHLA-G5遺伝子のα1α2α3ドメインのコード配列を、pAcGP67バキュロウイルストランスファーベクターにクローニングした。異なる挿入物を含むpAcGP67バキュロウイルスベクターの遺伝子構築物およびプラスミド増幅物を、Genecust(Luxembourg)により作製した。プラスミドを、パスツール研究所(Institut Pasteur)のProteople施設(Paris、France)においてDH5細菌宿主中で増幅させた。トランスファーベクターおよびAcMNPV直鎖状DNA(BDのBaculoGold(商標))をヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(Sf9)細胞に同時トランスフェクトして、相同部位間の組み換えを可能にし、該トランスファーベクターからAcMNPV DNAに挿入物を移した。各タンパク質をコードする組換えウイルスを作製し、Sf9細胞を感染させて、その後組換えタンパク質を産生するために用いた。
【0200】
一旦、組換えタンパク質が発現したら、細胞を溶解し、溶解物を固定化StrepTactin親和性樹脂カラムに添加した。非特異的に結合したタンパク質を除去するために数回洗浄後、結合したStrepTagタンパク質を2.5mMのデスチオビオチンで溶出させた。精製した溶出タンパク質をSDS-PAGEで分析してHLA-G5の存在を確認し、その後アリコートに分けて、-20℃で貯蔵した。
【0201】
Bioplexビーズのカップリング
Bioplexビーズを、Bio-Rad(Marnes-la-Coquette; France)から提供されるキットを供給者指示書に従って用いて、標準的なアミノカップリング法によって、組換えHLA-G5、HLA-G6タンパク質で、または合成環状cPC-1ペプチド(CTHHPVFDYEATLRC、配列番号52)でコーティングした。特異性の(陰性)対照として、カップリングしていないビーズまたは変異ペプチドCTHHPVADAEATLRC(配列番号62)でコーティングしたビーズをそれぞれ用いた。
【0202】
環状cPC-1ペプチドは、先の結晶学的研究(Clements et al., 2005)によって決定されたHLA-Gのα3ドメイン内の位置189-203のVTHHPVFDYEATLRC(配列番号56)アミノ酸領域の立体配座を模倣するように設計された。立体配座の模倣は、PC-1ペプチドのN末端バリン残基をシステイン残基で置換することによって得られ、その結果、N末端およびC末端のシステイン残基間にジスルフィド結合が形成された。
【0203】
抗HLA-G血清およびモノクローナル抗体の分析
免疫化マウスの血清中またはクローン化ハイブリドーマ細胞培養上清中の特異的抗HLA-G抗体の検出を、フローサイトメトリーにより評価した。フローサイトメトリーを、最初に、HLA-G5、HLA-G6およびcPC-1ペプチドでコーティングされたビーズを用いて行った。
【0204】
ビーズを、RTにて1時間、モノクローナル抗体を含む血清または細胞培養上清の種々の希釈液と共にインキュベートし、その後、2回洗浄し、PE結合ヤギ抗マウスIgG抗体(405307、Biolegend、USA)と共にRTにて30分間インキュベートした。フローサイトメトリー分析をLSR FORTESSA(Beckton Dickinson、Le Pont-de-Claix、France)を用いて行った。データをFlowJo Xソフトウェア(Tree star、Ashland、USA)を用いて分析した。陽性染色ビーズの割合を決定するために、アイソタイプ・コントロールを用いて蛍光ビーズの99%を除去するように電子ゲートを設定した。従って、陽性染色ビーズは、アイソタイプ・コントロールの99%が示す染色強度より高い染色強度を有するものとして定義された。
【0205】
ELISAアッセイ
96ウェルマイクロプレートを、PBS中1μg/mL(100μL/ウェル)のPC-1ペプチドでコーティングし、RTにて一晩インキュベートし、その後150μL/ウェルのPBS-乾燥スキムミルクで、RTにて1時間ブロッキングした。PBS tween 0.05%で1回洗浄後、血清またはモノクローナル抗体の希釈液を、RTにて2時間添加した(50μL/ウェル)。プレートを3回洗浄し、ペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgGを、PBS-tween 0.05%、1% BSA(50μL/ウェル)中1/10000で、RTにて1時間添加した。3回洗浄後、プレートをTMB基質(KPL、Gaithersburg、USA)で染色し、OD450で読み取った。
【0206】
ファージディスプレイのために、HLA-G PC1の遊離ペプチドまたはBSAに結合したペプチドを、96ウェルマイクロタイタープレート(Maxisorp、Nunc、Danemark)上にコーティングした。抗ヒスチジンタグ抗体(Qiagen、Courtaboeuf、France)を用いて検出を評価した。
【0207】
モノクローナル抗体15E7のさらなる特徴付け
アイソタイプ特定
15E7アイソタイプを、Clonotyping Southern キット(Clinisciences、Nanterre、France)を業者指示書に従って用いて、ELISAアッセイによって決定した。簡単に説明すると、プレートを、4℃にて一晩、捕捉抗体(各アイソタイプに特異的)でコーティングし、その後PBS 0.05% Tweenで2回洗浄した。次いで、プレートをRTまで温め、15E7モノクローナル抗体を含むハイブリドーマ上清を、RTにて1時間、添加した。キットに含まれるHRP結合抗アイソタイプ二次抗体を、1/2000で用いた。プレートをTMB基質(Eurobio/KPL、Gaithersburg、USA)で染色し、OD450で読み取った。
【0208】
15E7モノクローナル抗体の作製
15E7ハイブリドーマを、マウスにおいて腹水としてインビボで増殖させた。所望のモノクローナル抗体を産生するのに十分増殖させた後、該モノクローナル抗体を含む腹水を精製した。精製は、標準的なプロテインA-セファロースカラムを用いてクロマトグラフィーにより達成した。15E7を含む溶出画分を集め、透析し、必要に応じて濃縮した。UVスキャンを用いてOD280で濃度を決定し、2mg/mLに調整した。
【0209】
結合親和性の決定(BLITZ技術)
結合親和性および結合速度を、BLITZ技術により決定した。15E7モノクローナル抗体を、標準的なアミンカップリング法を用いて第1級アミンを介してバイオセンサーチップAR2G(Pall ForteBio)に共有結合させた。結合を、15E7に結合したチップを種々の濃度のBSAに結合したPC-1ペプチドと共にインキュベートすることにより測定した。抗原-抗体結合速度を120秒間追跡し、解離速度を100秒間追跡した。結合曲線および解離曲線は1:1に適合する。
【0210】
実施例1:マウスにおける抗HLA-G抗体の産生
免疫原の設計
本発明者らは、“拘束ペプチド(Peptide Constrained):PC-1”(
図1A;太字および下線で示す)と称されるHLA-Gのα3アミノ酸領域189-203に対応する高度にHLA-G特異的なペプチドを設計し、マウスを免疫化するためにそれを用いた。
PC-1配列:VTHHPVFDYEATLRC(配列番号56)
PC-1免疫原は、β2M結合とは無関係に、HLA-G α3含有イソ型に特異的な治療に適する抗HLA-Gモノクローナル抗体を作製することが期待される。
【0211】
免疫化、ハイブリドーマ作製およびscFv産生
KLHに結合したPC-1ペプチドを用いた免疫化プロトコールは、材料および方法のセクションに記載されている。C57BL/6マウスおよびBALB/cマウスをペプチド免疫化に用いた。
【0212】
マウスを、CFA中のPC-1-KLH複合体を用いて腹腔内免疫し(primed)、IFA中の免疫原を4回IP追加(ブースト)免疫した。免疫化したマウス空の血清を、免疫化法の種々の時点で採取し、Bioplex-HLA-G5、HLA-G6およびcPC-1結合ビーズを用いて試験した。各実験について、陽性対照および陰性対照を、得られたポリクローナル抗体の特異的親和性を決定するために設定した。免疫化していないマウスからの血清を用いて標識されたものと比較して、HLA-G-ペプチドビーズがFACSにおいてピークシフトを示したとき、血清を陽性と見なした。
【0213】
BALB/cマウスおよびC57BL/6マウスをPC-1-KLHペプチドで免疫化したとき、各IP追加免疫後に、有意なレベルの抗HLA-G IgG抗体が血清中に検出された。
図1Bは、免疫化したBalb/cマウスおよびワクチン接種していない対照マウスから採取した血清の存在下で得られたHLA-G5でコートしたビーズの染色を示す。抗HLA-G抗体は、最低用量の血清(1/1000希釈)であっても用量依存的に有意に検出された。カップリングしていない対照ビーズを用いて、特異的結合は検出されなかった(データ示さず)。
【0214】
最高の抗HLA-G抗体力価を有するマウスを、ハイブリドーマ作製またはファージディスプレイのために用いた。
【0215】
材料および方法セクションに記載のように融合を行った。その後、ELISA陽性ハイブリドーマをクローニングし、再度、ELISAによって確認して、抗HLA-Gモノクローナル抗体を産生する目的のクローンを検出した。
【0216】
ファージディスプレイ法は、材料および方法部分に記載の通りに行った。scFvクローンであるR4C-C3、R4C-B1、R4C-F2、R4C-F1およびR5C-D8のHLA-Gペプチドに対する反応性を、ELISAにより評価した。R4C-C3およびR5C-D8クローンは、ビオチン結合PC1ペプチドに対して高い反応性を示した(
図1C)。R4C-C3は、HLAGタンパク質イソ型と反応した。
【0217】
ハイブリドーマクローン15E7およびscFvクローンR4C-C3を、さらなる分析のために選択した。
【0218】
実施例2:マウスモノクローナル抗体15E7およびscFv R4C-C3の遺伝学的特徴付け
モノクローナル抗体15E7の軽鎖および重鎖可変領域ならびにR4C-C3 scFvをコードするcDNA配列を、標準的なPCRおよびDNA配列決定法を用いて得た。
【0219】
モノクローナル抗体15E7
15E7の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を
図2Aに示す。
15E7の重鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を
図3Aに示す。
【0220】
軽鎖および重鎖における最も高度な可変性は、主に、抗体の特異性を定義する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域内に位置する。15E7 VLおよびVH配列の分析により、軽鎖および重鎖のそれぞれのCDR1、CDR2およびCDR3領域の描写を
図2Aおよび3Aに示す。
【0221】
15E7κ軽鎖の配列を、既知のマウス生殖細胞系免疫グロブリン軽鎖配列と比較した(
図2B)。15E7軽鎖は、マウス生殖系列IGKV1-117由来のVLセグメントおよびマウス生殖系列IGKJ1由来のJKセグメントを利用する。
【0222】
15E7重鎖(γ)配列と既知のマウス生殖細胞系免疫グロブリン重鎖配列との比較は、15E7重鎖が、マウス生殖系列IGHV1-61由来のVHセグメント、マウス生殖系列IGHJ2由来のJHセグメントおよびのマウス生殖系列IGHD4-1由来のDHセグメントを利用することを実証した(
図3B)。
【0223】
これらのアミノ酸配列の比較は、15E7の重鎖(93.1%)および軽鎖(94.6%)配列の対応するマウス生殖細胞系との高い相同性を明示する。軽鎖の配列における変異は、FR1およびFR4、ならびにCDR1およびCDR3領域に分布しているが(
図2B)、重鎖配列における変異は、主にCDR領域およびFR3に限定されている(
図3B)。従って、これらの結果は、15E7モノクローナル抗体が、親和性成熟プロセスを受け、特定のHLA-Gエピトープに対して強い特異性/親和性を獲得したマウスIgGであることを実証している。
【0224】
scFvクローンR4C-C3
scFv R4C-C3の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を
図4Aに示す。
R4C-C3重鎖ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を図
5Aに示す。scFv R4C-C3のVLおよびVH配列を分析し、軽鎖および重鎖のCDR領域を
図4Aおよび5Aに示すように描写した。
【0225】
scFv R4C-C3 κ軽鎖の配列を、既知のマウス生殖細胞系免疫グロブリン軽鎖配列と比較した。このアライメントは、scFv R4C-C3軽鎖が、マウス生殖系列IGKV1-110由来のVLセグメントおよびマウス生殖系列IGKJ1由来のJKセグメントを利用することを実証した。scFv R4C-C3とその対応するマウス生殖系列セグメントとの間の配列アライメントを
図4Bおよび5Bに示す。
【0226】
scFv重鎖(γ)配列と既知のマウス生殖細胞系免疫グロブリン重鎖配列との比較は、この鎖が、マウス生殖系列IGHV1S126由来のVHセグメント、マウス生殖系列IGHJ2由来のJHセグメントおよびのマウス生殖系列IGHD2-12由来のDHセグメントを利用することを実証した。scFv R4C-C3 VHと対応するマウス生殖系列との間の配列アライメントを図
5Bに示す。これらのアミノ酸アライメントにより、scFv R4C-C3の軽鎖および重鎖の配列が、該生殖系列配列に対して96.4%および82.8%相同であることが明らかとなった。軽鎖配列における変異は、主に、CDR3領域に位置するが(
図4B)、一方、重鎖配列における変異は、FR1、FR2、FR3および全てのCDRに分布している(図
5B)。重鎖配列における高い突然変異率は、scFv R4C-C3が、親和性成熟プロセスを受け、HLA-G由来ペプチドに対する強い親和性を獲得したことを証明する。
【0227】
実施例3:抗HLA-Gモノクローナル抗体15E7の特徴付け
タンパク質分析
15E7モノクローナル抗体をSDS-PAGEゲル電気泳動により分析した(図6A)。重鎖の分子量は、約50kDaであり、軽鎖の分子量は約25kDaである。各2個のコピーを有するため、15E7の分子量は150kDaと推定され、モノクローナル抗体15E7がマウスIgG 2aクラスに属することが確認される。
【0228】
アイソタイプ特定および親和性決定
15E7のアイソタイプをELISAにより評価した。15E7アイソタイプはIgG2aであると判定された。
15E7の親和性を、材料および方法セクションに記載のBLITZ技術により評価した。代表的なデータを図6Bに示す。5~600nMの範囲のBSAに結合したPC-1を種々の濃度で、バイオセンサーチップに結合した15E7と共にインキュベートした。各濃度について、結合速度(ka)および解離速度(kd)を測定し、親和性定数KD(ka/kd)を計算するために用いた。親和性定数は1.57nMと評価された。
【0229】
HLA-Gタンパク質およびペプチドに対する特異性
HLA-G5およびG6タンパク質ならびにcPC-1ペプチドとの15E7の反応性を決定するために、フローサイトメトリーに基づく滴定を実施した。
【0230】
15E7抗体を、hβ2Mを含まないHLA-G5、HLA-G6およびcPC-1ペプチドでコートしたビーズ、ならびにそれらの陰性対応物(カップリングしていないビーズまたは変異ペプチドでコーティングしたビーズ)に対して連続希釈して滴定した。
図7A、7Bおよび7Cに示される結果は、15E7がそれぞれ、2ng/mLのEC
50値でcPC-1ペプチドに、28ng/mLのEC
50値で組換えHLA-G5タンパク質に、および120ng/mLのEC
50値で組換えタンパク質HLA-G6に強力に結合することを示す。この分析は、特異的に異なるβ2Mを含まないHLA-Gイソ型に結合する15E7の能力を実証した。
【0231】
細胞表面上に発現されたβ2Mを含まないHLA-G1イソ型に結合する15E7の能力もまた評価した。実際に、HLA-G1不含有イソ型を発現するK562-G1細胞およびK562-PV細胞を15E7抗体の連続希釈物と共にインキュベートし、特異的結合を、アイソタイプ対照(IgG2a)と比較してフローサイトメトリーにより分析した。
図8に示す結果は、15E7が、5.0μg/mLのEC
50値でK562-G1細胞に特異的に結合するが、K562-PV細胞には結合しないことを示す。
【0232】
マイルドな酸処置により、細胞表面に結合したHLAクラスI不含有重鎖を残して、細胞表面β2M分子を放出する(Polakova et al., 1993; Storkus et al., 1993)。未処置およびpH3.0処置されたK562-G1細胞上のHLA-G抗原の発現を、天然HLA-G/β2M複合体に対するMEM-G/9 mAbを用いてフローサイトメトリーにより分析した。さらに、ヒトβ2mに対するmAbを実験の対象として用いて、その放出を確認した。MEM-G/9 mAbならびに抗β2M mAbは、未処置のK562-G1細胞に結合するが、酸処置は、それらの結合を減少させた。対照的に、15E7 mAbによる検出(marking)では結合が増え、このことは、それが未β2M結合HLA-G重鎖を認識することを証明している(図9A)。K562-PV細胞を陰性対照として用いた(図9B)。
【0233】
同じ実験を、内生HLA-G1/β2M複合体を発現するJEG-3細胞について行った。15E7 mAbは、未処置のJEG-3細胞に結合しなかったが、酸処置後に染色が増加し、一方で、MEM-G/9および抗β2M mAbの染色は、バックグラウンド値近くまで低下した(図9C)。
これらの結果は、15E7 Mabが免疫原性cPC-1ペプチドおよびβ2M不存在下で細胞表面HLA-G上に発現されるエピトープを認識することを確認する。
【0234】
古典的MHCクラスI分子に対する交差反応はない
上記のように、抗HLA-Gモノクローナル抗体の開発における主な懸案の1つは、古典的MHCクラスI(MHC-I)分子に対して交差反応性のないHLA-Gに対する高度に特異的な抗体を得ることであった。HLA-Gに対する15E7の特異性およびその古典的MHC-I分子との交差反応性の不存在を、HLA-Gを発現しない異なるヒトMHC-I陽性細胞株を用いたフローサイトメトリーによって評価した。
【0235】
実際に、その表面上にヒト古典的MHC-I分子を発現するが、HLA-Gを発現しない、ヒトリンパ腫細胞株(LCL-DES、LCL-BROおよびRPMI8866)を、一定濃度の15E7(20μg/mL;133nM)で染色した。この濃度は、K562-G1細胞の80%が染色され、アイソタイプ対照との非特異的結合がこの投与量で検出されなかったために、用いた。K562-G1およびK562-PV細胞をそれぞれ、陽性対照および陰性対照として用いた。図10は、15E7が、HLA-G1発現細胞(K562-G1)に強く結合するのに対して、古典的MHC-I分子を発現するHLA-G陰性細胞は染色されなかったことを示す。これは、15E7モノクローナル抗体がHLA-Gタンパク質に特異的であり、古典的MHCクラスI分子に対して交差反応性を示さないことを実証する。
【0236】
結論
本発明は、HLA-Gペプチド免疫化アプローチに基づいて抗HLA-G抗体を産生する方法を示す。免疫化に用いたペプチド(PC-1)は、古典的MHCクラスI分子と比較してHLA-Gに高度に特異的に設計され、全長HLA-Gとその受容体LILRB1およびLILRB2との相互作用に関与するアミノ酸を含む。
【0237】
本発明者らは、このHLA-G α3領域の疎水性特性にもかかわらず、異なる技術、融合(ハイブリドーマの作製)およびファージディスプレイを用いて抗HLA-Gモノクローナル抗体を開発することが可能であることを示した。
上記の抗HLA-G抗体は、HLA-Gのいくつかのイソ型を認識することができる。これらの抗体は、内因性細胞表面β2Mを含まないHLA-G1に結合する。それらは、古典的MHCクラスI分子と交差反応しないため、これらのHLA-G特異的抗体は、診断および治療目的のために用いられ得る。
【0238】
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