(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】免疫療法向けのT細胞組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20220307BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220307BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C12N5/0783
A61K35/17 Z
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2018569009
(86)(22)【出願日】2017-06-28
(86)【国際出願番号】 US2017039846
(87)【国際公開番号】W WO2018005712
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-06-26
(32)【優先日】2016-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518460440
【氏名又は名称】ジーニアス・バイオテクノロジー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アルフレッド・イー・スラネッツ
(72)【発明者】
【氏名】テリー・ワイ・ナカガワ
(72)【発明者】
【氏名】マリッサ・エー・ヘルマン
【審査官】西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-520436(JP,A)
【文献】特表2014-516538(JP,A)
【文献】特表2005-535328(JP,A)
【文献】国際公開第2016/033690(WO,A1)
【文献】特表2013-502235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞を含む組成物を作製する方法であって、以下ステップ:
(a)T細胞を含む初期細胞集団を得ることと、
(b)前記細胞集団を1つ以上の標的抗原及びサイトカインに曝露することにより、T細胞を刺激することと、
(c)前記細胞集団をサイトカインを含む培地中で培養することと、
(d)前記細胞集団の抗原特異的反応性を試験することと、
(e)前記得られたT細胞を含む組成物を採取することと
を含み、
細胞集団中のT細胞のポリクローナル刺激をさらに含み
、ポリクローナル刺激は、ステップ(c)の後に、CD3、CD28、及びCD2に結合する四量体抗体に細胞集団を曝露することを含み、
前記1つ以上の標的抗原が、
(i)1つ以上のサブドミナント抗原、
(ii)1つ以上のネオ抗原、
及び/又は
(iii)ウイルス抗
原
に由来するポリペプチドを含む、前記方法。
【請求項2】
ウイルス抗原が、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトRSウイルス、ワクシニアウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、黄熱病ウイルス、エボラウイルス、及びジカウイルスのうちの1つ以上に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
T細胞を含む組成物を作製する方法であって、以下ステップ:
(a)T細胞を含む初期細胞集団を得ることと、
(b)前記細胞集団を1つ以上の標的抗原及びサイトカインに曝露することにより、前記T細胞を刺激することと、
(c)T細胞活性化マーカーの発現に基づいてT細胞を選択することと、
(d)T細胞のポリクローナル刺激と、
(e)前記得られたT細胞を含む組成物を採取することと
を含み
、
ポリクローナル刺激は、ステップ(c)の後に、CD3、CD28、及びCD2に結合する四量体抗体に細胞集団を曝露することを含み、
前記1つ以上の標的抗原が、
(i)1つ以上のサブドミナント抗原、
(ii)1つ以上のネオ抗原、
及び/又は
(iii)ウイルス抗
原
に由来するポリペプチドを含む、前記方法。
【請求項4】
ウイルス抗原が、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトRSウイルス、ワクシニアウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、黄熱病ウイルス、エボラウイルス、及びジカウイルスのうちの1つ以上に由来する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記初期細胞集団において、総T細胞(CD3+)、CD8+、及びCD4+ T細胞、単球、B細胞、ならびにNK細胞の量を試験することをさらに含む、請求項1
から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(b)及び(c)における前記サイトカインが、個別に、
(a)IL-2、IL-7、IL-15、及びIL-21のうちの1つ以上;または
(b)IL-7及びIL-15
を含む、請求項1
から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)が、前記細胞集団を1つ以上の標的抗原及びサイトカインに曝露することにより前記T細胞を刺激することの約7日後に実施される、請求項
3又は4に記載の方法。
【請求項8】
前記サイトカインが、
(a)IL-2、IL-7、IL-15、及びIL-21のうちの1つ以上、または
(b)IL-7及びIL-15
を含む、請求項
3、4または
7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の標的抗原が
、エプスタイン・バーウイルス抗原、LMP1、LMP2、及びEBNA1、サイトメガロウイルス抗原、pp65、がん/精巣抗原1(NY-ESO-1)、及びサバイビンのうちの1つ以上に由来するポリペプチドを含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項10】
免疫療法用の組成物であって、前記組成物が、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法により作製される、前記組成物。
【請求項11】
処置を必要とする患者に、1つ以上のEBV抗原に対し反応性のT細胞が豊富化されたT細胞組成物を投与することにより、非ホジキンリンパ腫、胃癌、または上咽頭癌を処置するためのT細胞組成物であって、前記T細胞組成物が、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法により作製される、前記T細胞組成物。
【請求項12】
処置を必要とする患者に、pp65、がん/精巣抗原1(NY-ESO-1)、及びサバイビンのうちの1つ以上に対し反応性のT細胞が豊富化されたT細胞組成物を投与することにより、神経膠芽細胞腫を処置するためのT細胞組成物であって、前記T細胞組成物が、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法により作製される、前記T細胞組成物。
【請求項13】
免疫療法用の、T細胞を含む組成物であって、前記組成物が50万個超のCD3+細胞を含み、生細胞が70%超のCD3+ T細胞を含み、前記T細胞が、CD4+ T細胞に対して主としてCD8+ T細胞であり、かつ主としてエフェクターメモリーT細胞である、前記組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養子免疫療法に有用な、選択された抗原に対し反応性の不均質なT細胞集団を含む組成物、及びこのようなT細胞組成物を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの免疫系が最初に抗原に接してから何日かの期間にわたり、T細胞集団は抗原の生成を認識し、これらのT細胞はその抗原に対するその後の応答の性質を決定する。T細胞による抗原認識及び特異性は、細胞表面に発現するT細胞受容体(TCR)の構造的特徴によって付与される。1つのT細胞は、特異的な主要組織適合複合体、すなわちMHCと組み合わせて提示される1つの抗原に結合することができるTCRを有する。そのため、T細胞の抗原特異性は、細胞が示す特異的なTCRの存在及び機能によって特徴づけられる。複数のサブタイプの関与細胞が存在する一方、概して、出現するT細胞は、様々な細胞表面マーカー(CD4+:TH1、TH2、Treg、T濾胞性ヘルパー、TH17、TH22、TH9;CD8+:CTLなど)により特性決定され、細胞または液性免疫応答の結果は、これらの異なる細胞サブタイプの機能によるものである。加えて、集団におけるT細胞のある特定のサブセットは免疫抑制的であり(例えば、Treg、TH17、アネルギー化T細胞)、これらの存在は免疫寛容を誘導し得る。
【0003】
早くも1990年代には、ex vivoで増大された抗原特異的T細胞の養子移入がCMV及びEBVに対し免疫を付与することが示された(Riddell et al.Science 1992;257:238)(Rooney et al.Blood 1998;92:1549-55)。しかし、腫瘍進行の過程で、腫瘍に対する免疫応答が、腫瘍退縮の促進に効果のない少数の「ドミナント」抗原に集中するようになった。ex vivoで増大されたT細胞を免疫療法に使用する過去の試みでは、腫瘍関連のドミナントな抗原反応性T細胞が誤って増大され、結果の非一貫性につながった。
【0004】
Kawakami et alによる研究では、ほとんどの黒色腫患者が、ヒトメラニン細胞特異的抗原(MART-1/メランA)に対し細胞傷害性Tリンパ球(CTL)活性を示したが、もう1つの腫瘍関連抗原gp100に対し活性を示す患者は少数に過ぎなかった。腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を養子療法に使用した場合、腫瘍退縮は、gp100反応性T細胞との相互関連はあったが、MART-1反応性T細胞との相互関連はなかった。(Kawakami Y.et al.,J.Immunol.1995,154(8):3961-8)。別の研究では、がん抗原を有する黒色腫患者の免疫処置により循環CD8+ CTLの数が増加したが、腫瘍退縮との相互関連はなかった(Rosenberg et al.,1998,Nature Medicine 4:321)。
【0005】
このような非一貫性は、腫瘍の微小環境が複雑であり、腫瘍の微小環境が、主に、T細胞の細胞傷害性効果を下方制御することにより腫瘍生存を促進するという事実に関係する。制御性T細胞(すなわちTreg)媒介の免疫寛容原性応答が発生し、これは主に、免疫優性腫瘍抗原を認識する、高存在量、高結合活性を示す腫瘍浸潤T細胞に対し向けられることが多い。加えて、抗原の損失は、腫瘍が免疫反応性を逃れる手段をもたらし得る。したがって、腫瘍から単離されたT細胞(例えば、TIL)を高い抗原認識及び増大のためにex vivoで選択し、患者に再注入する場合、当該細胞はほとんどの場合、ドミナントな腫瘍抗原(複数可)に向けられ、腫瘍負荷の一時的な低減をもたらすにとどまる。このような腫瘍は、処置レジメンで複数の抗原標的化T細胞集団を使用した場合であっても、以後の投与に対し抵抗性を有する可能性がある(Rosenberg et al.,J.Immunother.2003,26(5):385-393)。また、先行研究では、養子T細胞療法の利点は、事前のリンパ枯渇処理(lymphodepletion)で抑制的なリンパ球機能を打ち消すことにより増強されることが指摘されている。過去の事例では、化学療法で予め宿主の条件を整えることで、後続の免疫療法に対する応答が増大した(Dudley M.E.et al.,Science.2002,Oct 25;298(5594):850-4;Dudley M.E.et al.,J.Clin.Oncol.,2005,Apr 1;23(10):2346-57);(米国特許第8,034,334号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Riddell et al.Science 1992;257:238
【文献】Rooney et al.Blood 1998;92:1549-55
【文献】Kawakami Y.et al.,J.Immunol.1995,154(8):3961-8
【文献】Rosenberg et al.,1998,Nature Medicine 4:321
【文献】Rosenberg et al.,J.Immunother.2003,26(5):385-393
【文献】Dudley M.E.et al.,Science.2002,Oct 25;298(5594):850-4
【文献】Dudley M.E.et al.,J.Clin.Oncol.,2005,Apr 1;23(10):2346-57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、より良好な養子T細胞療法が依然必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明は、1つ以上の標的抗原に対し反応性のT細胞が豊富化された、養子細胞療法に有用な組成物を作製する方法を提供する。一実施形態において、本発明は、T細胞を含む組成物を作製する方法であって、以下ステップ:
(a)T細胞を含む初期細胞集団を得ることと、
(b)細胞集団を1つ以上の標的抗原及びサイトカインに曝露することにより、T細胞を刺激することと、
(c)細胞集団をサイトカインを含む培地中で培養することと、
(d)細胞集団の抗原特異的反応性を試験することと、
(e)得られたT細胞を含む組成物を採取することと
を含む、方法を提供する。
【0010】
一実施形態において、T細胞を含む初期細胞集団は、患者血液からの末梢血単核球(PBMC)である。一実施形態において、初期細胞集団は凍結され、当該方法の開始前に解凍される。一実施形態において、当該方法は、初期細胞集団において、総T細胞(CD3+)と、CD8+及びCD4+ T細胞、単球、B細胞、ならびにNK細胞の量とを試験することをさらに含む。
【0011】
一実施形態において、細胞集団を抗原特異的反応性について試験することは、T細胞活性化マーカーの検出を含む。一実施形態において、T細胞活性化マーカーの検出は、フローサイトメトリー、及び細胞内サイトカイン染色による抗原誘導サイトカイン産生量の測定、ELISA、またはELISPOTのうちの1つ以上によって遂行される。フローサイトメトリーによるT細胞活性化尺度のマーカーには、CD45RO、CD137、CD25、CD279、CD179、CD62L、HLA-DR、CD69、CD223(LAG3)、CD134(OX40)、CD183(CXCR3)、CD27(IL-7Ra)、CD366(TIM3)、CD80、CD152(CTLA-4)、CD28、CD278(ICOS)、CD154(CD40L)のうちの1つ以上が含まれる。抗原誘導サイトカイン(TNFa、IFNg、IL-2、及びCD107a)は、刺激に応答してCTL中で動員され、また、フローサイトメトリーによりサイトカインと共に測定することもできる。
【0012】
諸実施形態において、ステップ(b)及び(c)におけるサイトカインは、個別に、IL-2、IL-7、IL-15、及びIL-21のうちの1つ以上を含む。別の実施形態において、ステップ(b)及び(c)におけるサイトカインは、IL-7及びIL-15を含む。諸実施形態において、ステップ(b)及び(c)で使用するサイトカインは同じである。他の諸実施形態において、ステップ(b)及び(c)で使用するサイトカインは、異なるまたは重複する群のサイトカインである。
本発明の諸実施形態において、上記の方法は、ステップ(b)を繰り返すことをさらに含む。諸実施形態において、上記の方法は、細胞集団中のT細胞のポリクローナル刺激をさらに含む。一実施形態において、ポリクローナル刺激は、ステップ(c)の後に、細胞集団をCD3、CD28、及びCD2に結合する四量体抗体に曝露することを含む。
【0013】
本発明の諸実施形態において、細胞集団は、複数のサブ集団に分割され、その各々は、異なる標的抗原への曝露により刺激される。さらなる諸実施形態において、複数の刺激されたサブ集団は、ステップ(c)の前に組み合わされる。他の実施形態において、複数の刺激されたサブ集団は、ステップ(e)の前に組み合わされる。
【0014】
本発明の諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、1つ以上の標的抗原に由来する複数の重複ポリペプチドを含む。本発明の諸実施形態において、重複ペプチドは15~50アミノ酸長である。好ましい実施形態において、ポリペプチドは15アミノ酸長である。
【0015】
本発明の諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、1つ以上の標的ウイルス抗原に由来するポリペプチドを含む。諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、1つ以上の標的ウイルス抗原に由来するポリペプチドを含む。さらなる諸実施形態において、標的抗原は、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトRSウイルス、ワクシニアウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、黄熱病ウイルス、エボラウイルス、及びジカウイルスのうちの1つ以上により発現するタンパク質である。諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、エプスタイン・バーウイルス抗原、LMP1、LMP2、及びEBNA1のうちの1つ以上に由来するポリペプチドを含む。他の諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、サイトメガロウイルス抗原、pp65、がん/精巣抗原1(NY-ESO-1)、及びサバイビンのうちの1つ以上に由来するポリペプチドを含む。
【0016】
本発明の諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、1つ以上のサブドミナント抗原または1つ以上のネオ抗原に由来するポリペプチドを含む。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、T細胞を含む組成物を作製する方法であって、以下ステップ:
(a)T細胞を含む初期細胞集団を得ることと、
(b)T細胞活性化マーカーの発現に基づいてT細胞を選別することと、
(d)T細胞のポリクローナル刺激と、
(e)得られたT細胞を含む組成物を採取することと
を含む、方法を提供する。
【0018】
本発明の諸実施形態において、当該方法は、細胞集団を1つ以上の標的抗原及びサイトカインに曝露することにより、T細胞を刺激することをさらに含む。
【0019】
一実施形態において、T細胞を含む初期細胞集団は、患者血液からの末梢血単核球(PBMC)である。一実施形態において、初期細胞集団は凍結され、当該方法の開始前に解凍される。一実施形態において、当該方法は、初期細胞集団において、総T細胞(CD3+)と、CD8+及びCD4+ T細胞、単球、B細胞、ならびにNK細胞の量とを試験することをさらに含む。
【0020】
諸実施形態において、ステップ(b)は初期細胞集団(例えば、PBMC)に対し実施される。他の諸実施形態において、ステップ(b)は、ステップ(b)の6~11日後、好ましくは約7日後に実施される。
【0021】
諸実施形態において、サイトカインは、IL-2、IL-7、IL-15、及びIL-21のうちの1つ以上を含む。好ましい諸実施形態において、サイトカインは、IL-7及びIL-15を含む。
【0022】
本発明の諸実施形態において、ステップ(b)のT細胞活性化マーカーは、CD69、CD279(PD-1)、CD223(LAG3)、CD134(OX40)、CD183(CXCR3)、CD27(IL-7Ra)、CD137(4-1BB)、CD366(TIM3)、CD25(IL-2Ra)、CD80、CD152(CTLA-4)、CD28、CD278(IOS)、CD154(CD40L)、及びCD45ROのうちの1つ以上を含む。
【0023】
本発明の諸実施形態において、ポリクローナル刺激は、細胞集団をCD3、CD28、及びCD2に結合する四量体抗体に曝露することを含む。
【0024】
本発明の諸実施形態において、上記の方法で使用する1つ以上の標的抗原は、標的抗原に由来する複数の重複ペプチドを含む。本発明の諸実施形態において、重複ペプチドは15~50アミノ酸長である。好ましい実施形態において、ポリペプチドは15アミノ酸長である。
【0025】
本発明の諸実施形態において、上記の方法で使用する1つ以上の標的抗原は、1つ以上の標的ウイルス抗原に由来するポリペプチドを含む。諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトRSウイルス、ワクシニアウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、黄熱病ウイルス、エボラウイルス、及びジカウイルスのうちの1つ以上からの1つ以上の標的ウイルス抗原に由来するポリペプチドを含む。諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、エプスタイン・バーウイルス抗原、LMP1、LMP2、及びEBNA1のうちの1つ以上に由来するポリペプチドを含む。他の諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、サイトメガロウイルス抗原、pp65、がん/精巣抗原1(NY-ESO-1)、及びサバイビンのうちの1つ以上に由来するポリペプチドを含む。
【0026】
本発明の諸実施形態において、1つ以上の標的抗原は、1つ以上のサブドミナント抗原または1つ以上のネオ抗原に由来するポリペプチドを含む。諸実施形態において、ネオ抗原に由来するポリペプチドは15~50アミノ酸長の範囲である。好ましい長さは、15~25アミノ酸を含む。
【0027】
本発明の諸実施形態において、上記の方法は、養子T細胞療法に有用なT細胞組成物を提供する。本発明の諸実施形態において、上記の方法は、主としてCD8+対CD4+ T細胞を含む70%超のCD3+ T細胞を含むT細胞組成物を提供する。さらなる諸実施形態において、当該方法は、例えば、抗原に対する細胞内のサイトカイン応答(主にTNFα及びIFNγ)及びCD107a動員を測定することにより、総CD3+細胞の約1%超が標的抗原(1つまたは複数)に対し反応性のT細胞組成物を提供する。諸実施形態において、当該方法は、総CD3+細胞の約5%が標的抗原(1つまたは複数)に対し反応性のT細胞組成物を提供する。諸実施形態において、上記の方法から得られたT細胞組成物は、CD62L、CCR7、またはCXCR3の表面発現上昇と、1つ以上の活性化/疲弊マーカーLAG3、CD244(2B4)、CD160、TIM-3、CTLA-4の表面発現低下とを有するT細胞を含む。
【0028】
一態様において、本発明は、処置を必要とする患者に、1つ以上のEBV抗原に対し反応性のT細胞が豊富化されたT細胞組成物を投与することにより、非ホジキンリンパ腫、胃癌、または上咽頭癌を処置する方法を提供する。本発明の諸実施形態において、T細胞組成物は本発明の方法により作製され、このときT細胞は、細胞集団を、エプスタイン・バーウイルス抗原、LMP1、LMP2、及びEBNA1のうちの1つ以上に由来するポリペプチドに曝露することにより、刺激される。
【0029】
一態様において、本発明は、処置を必要とする患者に、サイトメガロウイルス抗原、pp65、がん/精巣抗原1(NY-ESO-1)、及びサバイビンのうちの1つ以上に対し反応性のT細胞が豊富化されたT細胞組成物を投与することにより、神経膠芽細胞腫を処置する方法を提供する。本発明の諸実施形態において、T細胞組成物は本発明の方法により作製され、このときT細胞は、細胞集団を、pp65、がん/精巣抗原1(NY-ESO-1)、及びサバイビンのうちの1つ以上に由来するポリペプチドに曝露することにより、刺激される。
【0030】
一態様において、本発明は、免疫療法向けのT細胞を含む組成物であって、当該組成物が約500,000個超(好ましくは約750,00個超、より好ましくは約100万個超)のCD3+細胞を含み、生細胞が70%超のCD3+ T細胞を含み、T細胞が、主としてCD8+対CD4+ T細胞であり、かつ主としてエフェクターメモリーT細胞である、組成物を提供する。好ましい諸実施形態において、組成物中のT細胞は、最小限の疲弊マーカー、高発現レベルのリンパ球ホーミング及び輸送マーカー、ならびに高い抗原反応性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】ex vivoでの刺激及び増大により不均質なT細胞を生成するための一実施形態におけるステップ及びタイミングを提供する全般的概略図である。
【
図2】ex vivoでの刺激及び増大により不均質なT細胞を生成するための別の実施形態におけるステップ及びタイミングを示す全般的概略図である。
【
図3】不均質なT細胞を単離しex vivoで増大させる一実施形態におけるステップ及びタイミングの一例を提供する概略図である。
【
図4】不均質なT細胞を単離しex vivoで増大させる別の実施形態におけるステップ及びタイミングの一例を提供する概略図である。
【
図5A】0、1、2、及び3型ウイルス潜伏の間に選択的に発現するEBVウイルス抗原の図である。EBV抗原2型潜伏は、EBNA1、LMP1、及びLMP2タンパク質の発現を特徴とし、いくつかのEBER+癌において同定されている。
【
図5B】LMP1、LMP2、EBNA1ポリペプチド混合物(「pepmix」)を使用して、16名の正常で健康なドナーのPBMCのT細胞反応性をスクリーニングした。
【
図5C】正常なドナー408のHLA遺伝子型タイピングを行い、LMP2マトリックスプールELISPOT解析によりLMP2反応性エピトープを同定して、認識される特異的なCD8+ T細胞リガンドを決定した。
【
図5D】正常なドナー915のHLA遺伝子型タイピングを行い、マトリックスプールスクリーニングにより、複数のCD8+ HLA/LMP2ペプチドT細胞リガンドを同定した。ドナー915のCD8 T細胞は、2つの異なるHLAアレル上の3つの異なるLMP2ペプチドを認識する。
【
図5E】正常なドナー109のPBMCを用いて実施したマトリックスプールスクリーニングが、高い、中程度、及び低いT細胞頻度の応答を示している。
【
図6A】3つのサイトカイン条件(KI:1000IU/mlのIL-2、10ng/mlのIL-15/IL-21;10ng/mlのIL7/15;10ng/mlのIL15単体)によるスモールスケール増大で、6名の正常なドナー及びLMP1、LMP2、EBNA1に対する抗原特異的CD107a応答を評価している。
【
図6B】正常なドナー109及び707のEBNA1応答における個別の及びプールされたLMP1、LMP2、及びEBNA1 pepmix刺激。矢印は、LMP1及びLMP2 pepmixで刺激されたときに、EBNA1が他のpepmixと競合しやすいことを示している。LMP1、LMP2、及びEBNA1 pepmixは、EBNA1反応性T細胞の損失を防止するために、374のペプチド全てを一緒にプールするのではなく、個々にPBMCでパルスされるべきである。
【
図6C】ドナー109をLMP2 pepmix及びサイトカインを用いて培養した。11日目に、T細胞培養物の79.0%が五量体B40:01-IEDPPFNSLに認識された。同様に高いCD107a、IFNγ、及びTNFαの抗原特異的産生により、高い抗原反応性が確認された。
【
図6D-1】LMP2 pepmixで刺激されたCD8+ T細胞は、CD45RAナイーブ細胞からCD45ROエフェクターメモリー細胞へ表現型を転換する。もう1つのメモリーマーカーCD62L、ならびに活性化マーカーCD25及びCD137は、7~11日目の間の培養で明らかに上方制御されている。
【
図6E】ドナー423は、LMP2及びEBNA1に対し>5%を示したが、LMP1 pepmixに対しては応答しなかった。
【
図6F】ドナー915は、3つ全てのEBV潜伏型タンパク質に対し>5%の抗原特異的T細胞反応性を示している。
【
図7A-1】NHL患者試料HemaCare815からのPBMCを、IL7/15またはIL2/7/15(KI)のサイトカインの組合せで、14日目におけるCD3/CD28/CD2ポリクローナル刺激のありまたはなしで、研究スケールで増大させた。細胞を28日目に採取し、生存能、CD3細胞の%(
図7a)について評価した。
【
図7B-1】NHL患者試料HemaCare815からのPBMCを、IL7/15またはIL2/7/15(KI)のサイトカインの組合せで、14日目におけるCD3/CD28/CD2ポリクローナル刺激のありまたはなしで、研究スケールで増大させた。細胞を28日目に採取し、生存能、抗原刺激に応答してのCD107aの%(
図7b)について評価した。
【
図7C-1】NHL患者試料HemaCare815からのPBMCを、IL7/15またはIL2/7/15(KI)のサイトカインの組合せで、14日目におけるCD3/CD28/CD2ポリクローナル刺激のありまたはなしで、研究スケールで増大させた。細胞を28日目に採取し、生存能、CD197+(メモリーマーカー発現)(
図7c)について評価した。
【
図7D】ステージI濾胞性リンパ腫を有する患者からのLMP1、LMP2、及びEBNA1特異的T細胞の増大を示している。IL7/15サイトカインを用いたスモール増大条件と、個別のpepmixパルス及びその後のプールとにおいて、得られた細胞集団は3つ全ての抗原に対し>5%の応答を示した。
【
図8A】
図8a[4b]。フローサイトメトリーによる、正常なドナーの増大されたT細胞産物の特性決定。28日目の採取材料は98.7%のCD3+であり、62.5%のCD8及び33.5%のCD4であった。CD3+集団の12.5%は、様々な二次リンパ臓器へのT細胞のホーミングに関与するマーカーであるCD197(CCR7)を発現し、CD3+集団の53.0%は、白血球輸送を制御できるマーカーであるCD183(CXCR3)を発現した。
【
図8B-1】DMSO、LMP1、LMP2、及びEBNA1による刺激に対する、正常なドナーの増大されたT細胞産物の応答の特性決定。CD107a脱顆粒、ならびにTNFα、IFNγ、及びIL-2の分泌の検出は、同じLMP2>EBNA1>LMP1のランキング順に従う。
【
図8C】20:1、10:1、及び5:1のエフェクター:標的比におけるドナー109 T細胞増大産物による、標的(LMP2またはEBNA1 pepmixで装填されたT細胞芽細胞)に対する用量依存性選択的殺滅。
【
図9A】神経膠芽細胞腫及び膵臓の患者からのPBMCを、個々にDMSO対照、CMVpp65 pepmix、NYESO-1 pepmix、及びサバイビンpepmixで、1μg/mlにて7日間、サイトカイン(IL2、IL15、IL21)を追加した培地中で刺激した。各抗原に特異的な活性化細胞の%は、CD137+CD25+ゲートの隣に収載されている。
【
図9B】14日目の培養物において、細胞内サイトカイン染色により、細胞腫瘍抗原に応答したTNFα産生量を解析したが、バックグラウンドを3.6倍上回るに過ぎない。
【
図9C】14日目の培養物において、細胞内サイトカイン染色により、細胞腫瘍抗原に応答したTNFα産生量を解析したが、バックグラウンドを7~9倍上回るに過ぎない。
【
図9D】ドナー109のT細胞において、6日目及び日におけるCD137発現及びLMP2特異的五量体染色を評価した。五量体陽性CD8+ T細胞のパーセンテージは、CD137+CD25+についてゲーティングされた細胞と同様である。CD137+CD25+マーカーは抗原活性化T細胞集団を示し、このマーカーは、T細胞培養物からまたは直接患者血液からの抗原特異的T細胞の単離に使用することができる。
【
図9E-1】CD137+CD25+集団に加えて、T細胞上の追加的な活性化マーカーを、抗原特異的T細胞の単離に使用することができた。LMP2 Pepmix活性化の9日目のPBMC及び7日目におけるPHA活性化T細胞芽細胞上に発現した細胞表面マーカーの評価。細胞を、以下の表面マーカーを用いて染色した:CD69、CD279(PD-1)、CD223(LAG3)、CD134(OX40)、CD183(CXCR3)、CD27(IL-7Ra)、CD137(4-1BB)、CD366(TIM3)、CD25(IL-2Ra)、CD80、CD152(CTLA-4)、CD28、CD278(IOS)、CD154(CD40L)、CD45RO。染色されていない細胞を陰性対照として使用し、ヒストグラムプロットの覆われた(overlayed)ピーク高さを最大に設定した。したがって、in vitroの培養から、または直接患者の血液からの両方で活性化T細胞を単離するために、PD-1、CD137、及びCD25に加えてまたはこれらの代わりに、CD28、CD154、CD134、CD366、CD45ROを使用することができた。
【
図9F】ドナー109の7日目の培養物をTyto(Miltenyi Biotec)上で選別し、>90%の純度であった。
【
図9G】選別された細胞は、良好な生存能、回収率、及び形態も示した(回収された選別後のT細胞の形態(上パネル)及び選別後のT細胞の培養及び回収率(下パネル))。
【
図9H】(
図9f及び9gからの)選別された細胞は、IL7/15サイトカインを含有する培地中で増大され、標的としてのペプチド装填T細胞芽細胞に対する選択的な細胞傷害性を示した。
【
図10】同定された遺伝子における変異頻度。標準的なMutsig解析を上記のコホートで用いて、患者のコホートからの神経膠芽細胞腫(GBM)において11種の遺伝子を同定した。各カラムは1人の患者である。2番目のカラムは、全GBM患者における変異の頻度である。例えば、1番目の患者は、PIK3R、PTEN、p53、及びRBにおいて変異を有する。
【
図11-1】選択された遺伝子に従った、GBM患者における変異の分布。
【
図12】
図11における遺伝子内の選択変異ホットスポット。一部はストップコドンを含有するため、全てのホットスポットが以下に報告されているわけではない。合計17のアミノ酸変化を伴う8つのネオ抗原ホットスポットが選択された:BRAF:V600E;EGFR:A289I A289N A289T A289V;IDH1:R132G R132H;NF1:L844F L844P;PDGFRA:E229K;PIK3CA:E545A E545K;PIK3R1:G376R;TP53:R175H R248L R248W R282W。選択されたネオ抗原及び変異ホットスポットは、コホートにおける291名中58名(20%)の神経膠芽細胞腫患者を網羅しており、少なくとも1つは患者のMHCに結合するが、野生型タンパク質と交差反応するT細胞を生成しない。
【
図13】ヒトのがんで見られる最も一般的な変異ホットスポットの概要を実施し、このような改変により標的化されるがん徴候当たりの患者のパーセンテージを言葉とグラフにより概括している。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本出願は、2016年6月28日に出願された米国仮出願第62/355,458号、第62/355,506号、及び第62/355,553号の優先権を主張し、各々の全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0033】
一態様において、本発明は、免疫療法に有用なT細胞組成物を対象とする。本発明の諸実施形態において、T細胞組成物は、増大された抗原限定のT細胞の不均質な集団である。他の態様において、本発明は、患者から得られたT細胞を含む細胞集団からの標的抗原(複数可)に結合可能なT細胞を増大させることにより、1つ以上の標的抗原に対し特異性を有する組成物を創出する方法を提供する。ある特定の実施形態において、細胞集団は、標的抗原への曝露により(in vivoまたはex vivoのいずれかで)過去に活性化されたT細胞を豊富化するために、増大及び採取の前に選別される(本明細書に記載の「Tセレクト」法)。他の実施形態において、細胞集団は、標的抗原(複数可)を認識するT細胞の増大を刺激するために、1つ以上の標的抗原(及びある特定のサイトカイン)に曝露される(本明細書に記載の「Tダイレクト」法)。本発明の諸実施形態において、標的抗原刺激に応答して活性化されたT細胞の細胞選別を伴う方法は、1つ以上の標的抗原に対する反応性が総T細胞集団(例えば、CD3+細胞)の約1%を下回る場合に実施される。
【0034】
本発明の諸実施形態は、複数の抗原に対し反応性の(すなわち、それらに限定されている)、培養で増大されたTリンパ球の不均質な集団を対象とし、抗原の選択は、不均質なT細胞集団を養子移入することで疾患の低減または改善につながるように、患者の疾患状態における抗原の広まりに基づいて行われる。本発明はさらに、不均質なT細胞集団を生成する方法を提供する。初期のT細胞は、患者の末梢血、骨髄、または腫瘍の試料から得ることができ、これらは次にin vitroで操作し、すなわち、特異的な抗原に対しプライミングし、次に、最終組成物中の抗原応答性細胞傷害性T細胞の数を最大化する目標で増大させる。
【0035】
本発明は、この不均質なT細胞集団を生成する方法を提供し、このT細胞集団は患者の末梢血、骨髄、または腫瘍の試料から開始し、次にT細胞数を増大するようにin vitroで操作され、T細胞は、抗原限定になるように(再)プログラムされる。さらに、本発明は、T細胞サブ集団の選別及び選択ならびに豊富化、または不均質な細胞プール中の様々なサブ集団の除去を提供する。
【0036】
Tダイレクト法
【0037】
一態様において、本発明は、患者から得られたT細胞を含む細胞集団からの標的抗原(複数可)に反応するT細胞を増大させることにより、1つ以上の標的抗原に対し特異性を有する組成物を創出する方法を提供する。ex vivoでの刺激及び増大により不均質なT細胞を生成するためのこの方法の諸実施形態における、ステップ及びタイミングの例を提供する全般的概略図は、
図1及び2に示されている。
【0038】
一実施形態において、本発明は、1つ以上の標的抗原に対し反応性のT細胞が豊富化された組成物を作製する方法であって、以下ステップ:
(a)T細胞を含む初期細胞集団を得ることと、
(b)細胞集団を1つ以上の標的抗原及びサイトカインに曝露することにより、T細胞を刺激することと、
(c)細胞集団をサイトカインを含む培地中で培養することと、
(d)細胞集団の抗原特異的反応性を試験することと、
(e)得られたT細胞を含む組成物を採取することと
を含む、方法を提供する。
【0039】
本発明の諸実施形態において、上記の方法は、ステップ(b)を繰り返すことをさらに含む。さらなる諸実施形態において、上記の方法は、細胞集団中のT細胞のポリクローナル刺激のステップを含む。一実施形態において、T細胞を含む初期細胞集団は、患者血液からの末梢血単核球(PBMC)である。一実施形態において、初期細胞集団は凍結され、当該方法の開始前に解凍される。
【0040】
この方法及び本明細書に記載の変形形態により、ナイーブT細胞及び/または既にin vivoで標的抗原(複数可)に曝露されたT細胞は、患者の組織から得られ、in vitroでプライミングされ、標的抗原及び本明細書に記載のある特定のサイトカインへの曝露により増大される。
【0041】
具体的なT細胞増大の方法は、処置対象の疾患に有用な特定の免疫療法の観点から所望される細胞タイプに依存することになる。細胞は、特定の表現型及び機能に細胞を誘導する薬剤の使用により、培養下で修飾される。この修飾は、培養下での0日目から約21日目までの単離された細胞集団の生理学的特徴の改変により例示され、このとき、記載されているように、細胞集団により発現する表面マーカーは改変され、このような改変の進行は経時的に監視される。
【0042】
Tセレクト法
【0043】
一態様において、本発明は、標的抗原(複数可)への曝露により活性化されるT細胞を選択し、得られた細胞を増大させることにより、1つ以上の標的抗原に対し特異性を有するT細胞が豊富化された組成物を創出する方法を提供する。不均質なT細胞を単離しex vivoで増大させるためのこの方法の諸実施形態における、ステップ及びタイミングの例を提供する全般的概略図は、
図3及び4に示されている。別の実施形態において、本発明は、T細胞を含む組成物を作製する方法であって、以下ステップ:
(a)T細胞を含む初期細胞集団を得ることと、
(b)T細胞活性化マーカーの発現に基づいてT細胞を選択することと、
(c)T細胞のポリクローナル刺激と、
(d)得られたT細胞を含む組成物を採取することと
を含む、方法を提供する。
【0044】
諸実施形態において、当該方法は、細胞集団を1つ以上の標的抗原及びサイトカインに曝露することにより、T細胞を刺激することをさらに含む。さらなる諸実施形態において、ステップ(c)は、初期細胞集団(例えば、PBMC)に対し実施される。他の諸実施形態において、ステップ(c)は、細胞を刺激することの6~11日後、好ましくは約7日後に実施される。一実施形態において、当該方法は、初期細胞集団において、総T細胞(CD3+)と、CD8+及びCD4+ T細胞、単球、B細胞、ならびにNK細胞の量とを試験することをさらに含む。一実施形態において、T細胞を含む初期細胞集団は、患者血液からの末梢血単核球(PBMC)である。一実施形態において、初期細胞集団は凍結され、当該方法の開始前に解凍される。
【0045】
T細胞は、細胞選別または当技術分野で公知の他の適切な技法により、T細胞活性化マーカーの発現に基づいて選択される。本発明の諸実施形態において、選択ステップは、細胞集団の抗原反応性が約1%未満である場合に実施される。例えば、7日目に、細胞は、DMSO陰性対照培養に基づいてCD137/CD25発現でゲートにかける。例えば、GBM及び膵臓の増大は、DMSO対照を上回ってこの象限内の細胞のパーセンテージを有した。このような試料は、TダイレクトよりもTセレクトにとって良好な候補である。細胞集団における抗原反応性が十分に高い場合、例えば約1%、2%、または3%を超える場合、細胞集団は、本明細書に記載のTダイレクト法を用いて刺激し増大させることができる。
【0046】
T細胞刺激向けの標的抗原
【0047】
本発明の方法は、T細胞を含む細胞集団を1つ以上の抗原ポリペプチド(または他の抗原)に曝露し、T細胞を本明細書に記載のサイトカインに曝露することにより、選択及び/または増大向けのT細胞を刺激することを伴う。ある特定の実施形態において、当該抗原は、対象が特定の疾患に応答して過少に表されるまたは表されない1つ以上の抗原である。諸実施形態において、当該抗原は、サブドミナント免疫応答に関与するT細胞により認識される。諸実施形態において、当該抗原はネオ抗原である。本発明の諸実施形態において、T細胞増大を刺激するために使用される抗原(1つまたは複数)は、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトRSウイルス、ワクシニアウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、黄熱病ウイルス、エボラウイルス、及びジカウイルスからの1つ以上のウイルスタンパク質である。
【0048】
好ましい諸実施形態において、標的抗原は、標的抗原に由来する複数のポリペプチドとして、T細胞を含む細胞集団に提示される。当該ポリペプチドは、好ましくは、APCによる効率的な提示に好適な長さである。諸実施形態において、この複数のポリペプチドは、15~50アミノ酸長の、好ましくは約15アミノ酸長の重複ポリペプチドを含む。諸実施形態において、この複数のポリペプチドは、抗原性及び/またはドミナント/サブドミナントな状態を決定するようにスクリーニングされたポリペプチドを含む。
【0049】
ある特定の抗原は、核酸のように非ペプチド起源である。例としては、RNA(例えば、ウイルスRNA)、CpG豊富なオリゴヌクレオチド、脂質などが挙げられる。トール様受容体、すなわちTLRのような細胞内認識分子の活性化は、T細胞の刺激及び増殖を駆動することが報告されている。
【0050】
本発明のある特定の実施形態は、抗原選択レパートリー内の腫瘍転移に関する抗原を含む。転移抗原に対し生成されるT細胞は、腫瘍が身体の他の臓器に拡散するのを制限することができる。本発明は、転移抗原に対する免疫担当T細胞の生成に関する実施形態を含む。
【0051】
抗原に対するサブドミナントT細胞の応答(複数可)
【0052】
本発明の方法で有用な抗原は、複数のアプローチに基づいて同定される。参照により本明細書に組み込まれる米国出願第14/122,036号は、免疫応答を再プログラムするためのサブドミナント抗原の使用について詳述している。
【0053】
がん抗原-ウイルスタンパク質
【0054】
ある特定のウイルスタンパク質は、特定のタイプのがんに関連し、特定のタイプのがんで発現する。エプスタイン・バーウイルス(EBV)は、ヒトにおいて最も一般的なウイルスの1つであり、リンパ腫(ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)に関連する状態、例えば、毛状白板症及び中枢神経系リンパ腫)、胃癌、及び上咽頭癌に関連する。EBVは、ある特定の細胞タイプ、例えばB細胞に感染すると、潜伏型になる。潜伏型の場合であっても、EBVはある特定のタンパク質を発現させ、これは、本発明の方法により標的化して、1つ以上のEBVタンパク質を認識する増大されたT細胞集団を生成することができ、そのためEBVタンパク質が発現する細胞に対し免疫応答を生成する養子療法で使用することができる。一実施形態において、刺激することによりT細胞を増大させるために使用されるEBV抗原は、LMP1、LMP2、EBNA1、及びBZLF-1のうちの1つ以上である。他の実施形態において、EBV III型潜伏タンパク質は標的抗原である。一実施形態において、T細胞を刺激するために使用される抗原は、LMP1、LMP2、及びEBNA1のうちの1つ以上に由来する複数のポリペプチドである。
【0055】
本発明の方法により作製する、EBV潜伏型タンパク質(例えば、LMP1、LMP2、及び/またはEBNA1)を抗原の供給源として用いたT細胞組成物は、これらのタンパク質を発現させる細胞または組織に対象の免疫系を標的化させることが有益な疾患の処置に有用である。非ホジキンリンパ腫(NHL)、胃癌、及び上咽頭癌のような様々ながんは、しばしば、潜伏型EBVタンパク質の発現を特徴とする。したがって、本発明の諸態様は、患者に、潜伏型EBVタンパク質(例えば、LMP1、LMP2、及び/またはEBNA1)を認識するT細胞を増大させるための本発明の方法により生成されるT細胞組成物を投与することにより、このようながんを処置することに関する。
【0056】
同様に、CMVタンパク質は、神経膠芽細胞腫、神経膠腫、結腸癌、唾液腺癌のようなある特定のがんで発現する。一実施形態において、本発明の方法は、CMV抗原タンパク質を認識するT細胞が豊富化されたT細胞集団を生成するために使用される。一実施形態において、刺激することによりT細胞を増大させるために使用されるCMV抗原は、pp65である。がん/精巣抗原1(NY-ESO-1)及びサバイビンは、pp65のように、神経膠芽細胞腫で発現する。一実施形態において、T細胞を刺激するために使用される抗原は、pp65、がん/精巣抗原1(NY-ESO-1)、及びサバイビンのうちの1つ以上に由来する複数のポリペプチドである。
【0057】
がん抗原-過剰発現抗原
【0058】
標的抗原に対し反応性のT細胞が豊富化された組成物を生成するための本発明の方法においてT細胞を刺激し増大させるために使用され得る標的抗原には、特定のがんで過剰発現または異所発現する抗原が含まれる。このようながん関連抗原の例は、神経膠芽細胞腫におけるがん/精巣抗原1(NY-ESO-1)及びサバイビンである。
【0059】
抗原PSMAは健康な組織上に見られるが、前立腺腫瘍では上方制御され、転移性腫瘍では極めて上方制御されるため、本発明の方法における標的抗原として使用することができる。
【0060】
がん抗原-ネオ抗原
【0061】
一態様において、本発明は、新規の免疫調整療法をもたらす準備となるネオ抗原の選択、産生、及び使用に関する。ある特定の実施形態において、本明細書に記載の発明は、ネオ抗原組成物、及びネオ抗原限定のT細胞を含む組成物を生成する方法に関する。
【0062】
本明細書において「ネオ抗原」とは、正常/ナイーブなヒトゲノム中には存在しないが、がん細胞中には変異、再構成、またはエピジェネティックな変化に起因して存在する、抗原ポリペプチドである。したがって、ネオ抗原は、腫瘍特異的抗原(TSA)である。
【0063】
ネオ抗原は、例えばがんの処置向けの、養子療法で有用なネオ抗原反応性T細胞集団を産生するための本発明の方法で使用することができる。サブドミナント抗原に対する寛容を誘導するドミナント抗原を避けて免疫応答の抗原特異性を再プログラムするアプローチに加えて、本発明は、免疫応答が向けられ得る代替的な抗原標的として働くネオ抗原組成物を提供する。このようなネオ抗原は、患者の免疫応答内のサブドミナント抗原を既に反映している場合もあれば、患者のT細胞レパートリー内に表されていない場合もある。ネオ抗原反応性T細胞の使用は、概して、自己反応性抗原及び一部の腫瘍関連抗原の場合がそうであろうように、中枢のT細胞寛容の影響を受けないことから、このような細胞の調製物は治療剤及びワクチンとして極めて望ましいものとなる。
【0064】
本明細書に記載の方法において、有用なネオ抗原は、その腫瘍タイプに普遍的であり得る、または患者特異的かつ腫瘍特異的なネオ抗原であり得る、腫瘍特異的抗原であり、違いはネオ抗原反応性T細胞集団の増大及び選択にあり、ネオ抗原の選択にはない。簡潔に述べると、Tダイレクトは、抗原編集T細胞技術を用いて、T細胞をプライミングし増大させてがんに関連する複数のネオ抗原にする。このようなT細胞を患者に投与することで、複数の抗原に反応性のT細胞によって腫瘍を有効に標的化する、新規の免疫応答が創出される。Tセレクトは、PBMCを利用して、血液から、複数のネオ抗原に対し特異的な反応性を有する腫瘍活性化T細胞を選択する。この方法は、各患者の腫瘍向けに個別化されたT細胞療法を提供する。Tセレクトにより、ネオ抗原T細胞療法が実際的なものとなり、各患者向けの個人的なネオ抗原ペプチドを予め同定し合成する必要はない。
【0065】
ネオ抗原は、疾患状態を解析し、疾患に存在するが好ましくは健康な組織中には存在しない抗原(例えば、細胞変異の結果として)を同定することにより、第1の態様において本発明に好適なものとして判定される。患者特異的なアプローチに関しては、患者の免疫応答は、エピトープマッピングにより判定され得るように、特異的なドミナント抗原に偏っている可能性があり、これは、免疫刺激効果のネオ抗原候補を選択する場合には回避すべきであるが、免疫減弱効果の候補を選択する場合には有用であり得る。好ましいネオ抗原は、疾患状態と一意的に関連する抗原であるが、疾患状態で上方制御される腫瘍関連抗原も好適である。したがって、BRCA2変異、EGFR変異(例えば、EGFR L858R)、ALK遺伝子融合、ROS1遺伝子融合、BCR-ABL1融合、BRAFV600E、TP53 R273H、及び同様の変異は全て、優れたネオ抗原候補を提供する。
【0066】
腫瘍抗原にのみ特異的な高親和性T細胞は、有用なネオ抗原の供給源である。腫瘍は、成長し免疫系を回避するに伴い、通常、遺伝子変異を蓄積する。ある特定のがん、例えば、肺癌、膀胱癌、乳癌、及び黒色腫は、500以上の変異を含有し得る。様々ながんで頻繁に変異することが知られている特異的なゲノム座位が存在し、これは一般に「ホットスポット」と呼ばれ、例えば、結腸癌及び肺癌で一般に観察されるKRAS遺伝子変異や、様々ながん遺伝子に他の「ロングテール」ホットスポット変異が存在する。変異ホットスポットの集中を伴う他の遺伝子としては、黒色腫患者の50%に見られるBRAF(この変異の90%がV600Eである)、CML患者の95%に見られるBCR/Abl転座、70%~90%の神経膠腫/神経膠芽細胞腫患者に見られるIDH1、及び多くのがんに見られるp53変異が挙げられる。
【0067】
高スループット超並列シークエンシング(「次世代シークエンシング」またはNGS)の到来により、大量のゲノム情報を識別するのに有効な方法がもたらされる。野生型に対する腫瘍表面抗原内の変異は、腫瘍特異的であるため、参照抗原の有用な候補を提供する。患者からの遺伝子配列情報は、変異を評価するベースラインを提供し、また、発明者らの関連出願に記載されているT-ダイレクト及びT-セレクト様式との関連で有用である。腫瘍または病的組織のシークエンシングにより、ホットスポットにおける遺伝子変異の同定が可能になる。既知のがん遺伝子(「遺伝子パネル」)、全エクソーム、全ゲノム、及び/または全トランスクリプトームのアプローチは、がん変異を検出し、そのため腫瘍を標的化するカスタマイズされた免疫療法を開発するための有用な方法を提供する。例えば、NGSは、減算的な遺伝子解析、例えば、遺伝子的差異を判定するための原発性腫瘍及び転移性腫瘍のシークエンシング、または参照配列と比較するための患者腫瘍のシークエンシング、または非がん性組織の遺伝子的読出しとの比較のための患者の腫瘍ゲノムのシークエンシングを可能にする。曝露された抗原エピトープにおける変異は、特に良好なネオ抗原候補である。腫瘍特異的(体細胞)変異、コピー数の変化、及び転座は、次世代シークエンシング(凍結または固定した腫瘍vs正常な組織)により同定される。体細胞腫瘍特異的な変異及び転座は、共有の腫瘍特異的ネオ抗原になる。コピー数の変化は腫瘍関連のネオ抗原になる。Tダイレクト及びTセレクトをこれらの診断と組み合わせることにより、発明者らは、実際的な方法で、ネオ抗原に対しカスタマイズされたT細胞療法を迅速に創出するシステムを創出する。また、腫瘍細胞は血液中にも溢出することから、循環DNA中の検出も可能である。血液から得られたネオ抗原をTダイレクト及びTセレクトと組み合わせることで、血液試料から、ネオ抗原と、増大されたT細胞療法の産生向けの供給源T細胞とを同定する、完全なシステムが創出される。これは、患者からの1回の採取により遂行することができ、経時的に進化し得る、またはアーカイブした血液に由来し得る、カスタマイズされた「ワンスティック」治療薬が可能になる。
【0068】
個人のゲノムにおいて、極めて具体的な個人的変異をシークエンシングすることで、一意的なネオ抗原を得る可能性が顕著に増加し、そのネオ抗原に対し極めて有効なT細胞が生成され得る。一方で、有効な療法を設計する前に個別のゲノムシークエンシングを行うコストは、経済的ではない。そのため、代替的な戦略としては(各患者に一意的ではなく腫瘍により共有された)共有の腫瘍特異的ネオ抗原が挙げられ、これは、ゲノム腫瘍進化モデルで得られた知識を用いた効果的なネオ抗原として標的化され得る。点変異は、がんサブクラスまたは共通のがん進化基幹部、すなわち、「ドライバー変異」及び「基幹抗原」(すなわち、系統発生マップ上の)に対し一意的であり、ネオ抗原限定のT細胞集団を生成するための優れた選択をもたらす。原発性腫瘍と転移性腫瘍との間のゲノム進化研究は、養子T細胞療法向けに免疫応答を起こすためのネオ抗原の混合物の選択に有用である。腫瘍進化の基幹部における共通の変異を標的化することにより、原発性腫瘍や任意の再発を排除することができる。
【0069】
ネオ抗原の事前同定は、血液から得られたT細胞を使用する場合には必要ではない。このようなT細胞は、原発性腫瘍上及び転移上の抗原に対し反応性となり、腫瘍内で見られる抗原に対し反応性となるTILSとは対照的である。神経膠芽細胞腫、結腸盲腸癌、卵巣癌、黒色腫、及び肝細胞癌は、共有された腫瘍特異的ネオ抗原の選択や血液からの反応性T細胞の成長に最も適しており(全>1000;>70% ctDNA)、その後に膀胱癌、胃食道癌、膵臓癌、頭頸部癌が続く(全>500;>70% ctDNA)。Bettegowda et al.Sci Transl Med(2014) 6(224):224(参照により本明細書に組み込まれる)は、血液中の腫瘍からのネオ抗原の検出性の頻度を提供している。血液は、がん及び重篤な疾患を処置するための新規の独自システムを、患者から実験室へ、そして(再び)ある患者/その患者へという直接経路で提供する。血液を得ることにより、T細胞に患者の腫瘍(血液腫瘍及び固形悪性腫瘍の両方)を探索し破壊するように教示することが可能である。
【0070】
様々な実施形態において、ネオ抗原は、標的組織中に存在するのではなく、抗原限定免疫応答の標的対象となる組織に導入される。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍の感染により腫瘍に付加される。特に、ラッサ-VSVは、静脈注射または頭蓋内注射の後に、神経膠腫のような脳内のがん細胞を標的化する。ラッサ-VSVは、黒色腫や卵巣がんも標的化する。ラッサ-VSVは、転移がん細胞に感染し、正常な細胞には感染しない。ラッサ-VSVは、強力な免疫応答、特にT細胞応答を生成し、感染細胞からの複数の抗体に対する高親和性抗体を生成する。ラッサ-VSV限定T細胞移植は、担がん(GBM)動物の生存期間を不定に増加させ、また化学療法耐性のがんを排除し、一部のがんを完全に排除するように思われる。そのため、本発明によれば、ラッサ-VSVの調製物を腫瘍に導入し、次に、感染を標的化し取り除くことにより腫瘍負荷を低減する、ラッサ-VSV反応性のT細胞調製物を提供する。
【0071】
疾患関連物の他の抗原マーカーは科学文献や医学文献に記載されており、本明細書に記載の発明は、古典的なネオ抗原のみに、または同定された特異的なネオ抗原のみに、または明記された抗原タイプもしくは疾患状態のみに限定されるように意図されるものではない。ネオ抗原の選択は、当業者には明らかであろうように、処置対象の疾患状態に鑑みて、特異的なタイプの所望される免疫応答調整によって動機付けられる。さらに、ネオ抗原選択は、T細胞反応性を検証し最適化することができる特異的なエピトープの同定により誘導され得る。
【0072】
ネオ抗原は、特異的な免疫応答の調整(すなわち、上方制御または寛容化)に有用である。本明細書に記載のように選択されている所与の候補ネオ抗原は、直接使用してもよく、または、アミノ酸変異誘発、環化、グリコシル化、もしくは他の化学的修飾(例えば、ハプテンの付加を含む)を含む、当技術分野で公知の一般的方法によりさらに修飾してもよい。例えば、ネオ抗原候補は、アミノ酸置き換えにより修飾して、より高い親和性でMHCクラスI構造に結合するペプチドを産生することができる。
【0073】
検証されたネオ抗原は、免疫療法に適した疾患状態に関連しているものとして説明され、このネオ抗原はMHCクラスI及び/またはクラスIIに結合可能であり、CD4+及び/またはCD8+サブ集団におけるT細胞活性化、増殖、及び/またはメモリー応答を引き起こすという点において、T細胞に対し免疫原性である。好ましくは、検証されたネオ抗原は、標的患者においてサブドミナントでもある。より好ましくは、1つ以上の検証されたネオ抗原は、不均質なT細胞プール中で免疫応答を誘導するために使用される。様々な他の実施形態において、3つ以上のネオ抗原が調製され検証される。T細胞の免疫化に使用される調製物中のネオ抗原の数は、10、15、または20以上の個別のネオ抗原を含み得る。様々なネオ抗原の免疫原性は等しくないと考えられるため、免疫化プロトコルは、ドミナントな応答の創出を回避するように設計され得る。
【0074】
Rasは、構造的に関係する低分子GTPアーゼタンパク質のファミリーであり、全ての細胞に発現し、細胞の成長、分化、及び生存に関与する制御遺伝子に関与する。3つのRas遺伝子の変異(HRas、KRas、及びNRas)がヒトのがんにおいて最も一般的ながん遺伝子であり、制御されない増殖を引き起こす。Ras変異は、全てのヒト腫瘍の20%~25%、ある特定のタイプのがんでは最大90%に見られる。
【0075】
恒常活性型Rasは、GTP加水分解を排除または低減する1つ以上の変異を含有することができ、その結果、タンパク質が永続的に活性となる。最も一般的なRas変異は、Pループ内のグリシン残基G12、そして触媒残基Q61に見られる。残基12におけるグリシンからバリンへの変異により、RasのGTPアーゼドメインは、GTPアーゼ活性化タンパク質による不活性化に非感受性となり、よって恒常活性となる。残基61におけるグルタミンはGTP加水分解の移行状態を安定化させ、Q61のリジンへの変異は加水分解を有効に排除する。他の重要な変異としては、S17N及びD119Nが挙げられる。
【0076】
本発明によれば、Rasベースのネオ抗原候補は、以下のように設計及び検証する。Rasを含めた患者のゲノムの一部をシークエンシングし、患者の腫瘍をシークエンシングし、またはコンセンサス腫瘍配列を誘導し、2つの間の差異を確認する。上述のRas変異は予測されるシークエンシング結果に典型的であり、優れたネオ抗原候補を提供する。およそ8~10アミノ酸長のペプチド配列が、変異部位にわたって(すなわち、1番目、2番目、3番目等から8番目までのアミノ酸位置)創出される。これらの候補ペプチドにおいて、コンピューターモデリングにより、潜在的なMHCクラスI結合適合性を評価する。最も適合した候補を先に進める。この配列を、腫瘍配列を用いて15~24アミノ酸長まで延ばす。この長いペプチドをクラスII結合適合性向けにモデリングし、任意選択で、当該ペプチドがMHCクラスIIに結合する能力を実験に基づき検証する。MHCクラスI及び/またはクラスII構造に結合することができるペプチド配列は、発明者らの関連出願に記載されているT細胞のプライミングに使用される。具体的な諸実施形態において、MHCハプロタイプCW8、A3、及びA68が好ましい。全体で、これらのMHCアレルは患者の約40~50%に示される。これらのMHCタイプは、KRas点変異を含有する長いペプチドに特異的に結合することができ、一方正常なRas配列には結合しない。これらのHLAタイプは、IFNg/TNFアルファICS及びCD107aの刺激に対し陽性である。これらのMHCアレルを用いると、KRasへの応答は、野生型Ras配列に対する自己反応性のリスクを冒さず、一方KRasは、膵臓がんの90%、結腸癌の30~60%、及び肺腺癌の20~30%で変異する。他の実施形態において、血液から得られたT細胞はRasペプチドのパネルに対しスクリーニングされ、反応性の集団が増幅される。
【0077】
免疫化された細胞集団中の細胞から選択された、ネオ抗原反応性の刺激されたCD8+及び/またはCD4+T細胞からのT細胞受容体は、このような反応性T細胞が免疫原性を大きく左右するため、ネオ抗原の検証に有用である。T細胞受容体は、例えばPCRにより、シークエンシング及びクローニングすることができる。Boria et al,Primer sets for cloning the human repertoire of T cell Receptor Variable regions,BMC Immunol.2008;9:50;Guo,et al.,Rapid cloning,expression,and functional characterization of paired αβ and γδ T-cell receptor chains from single-cell analysis,Molecular Therapy-Methods & Clinical Development 3,Article number:15054(2016)を参照。また、Simon et al.,Functional TCR Retrieval from Single Antigen-Specific Human T Cells Reveals Multiple Novel Epitopes,Cancer Immunol Res December 2014 2;1230も参照。TCRは、トランスフェクションの配列を含有するベクターを含めた、複数の好適なベクターにクローニングすることができる。ある特定の実施形態において、好ましいベクターは、導入遺伝子としてクローニングTCR配列を標的T細胞に導入するための統合配列を有する。様々な実施形態において、ネオ抗原はT細胞応答を起こすために使用され、CD8+及びCD4+集団はネオ抗原反応性の選別及びスクリーニングが行われ、このような細胞は極めて免疫原性のサブ集団にさらにふるい分けられ、T細胞受容体配列がシークエンシング及びクローニングされる。ある特定の実施形態において、ネオ抗原限定のT細胞からのTCRは、メモリー細胞にクローニングされる。他の実施形態において、ネオ抗原限定のT細胞からのTCRは、Tregにクローニングされる。
【0078】
キメラ抗原受容体T細胞(CART)は、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変領域を、T細胞受容体における細胞内シグナリング鎖に連結することにより生成される。CARTは、活性化に関してMHC構造との相互作用に限定されない。Pule,et al.,Virus-specific T cells engineered to coexpress tumor-specific receptors:persistence and antitumor activity in individuals with neuroblastoma.Nature Medicine 14,1264-1270(2008)を参照。また、Davila et al.,Efficacy and Toxicity Management of 19-28z CAR T Cell Therapy in B Cell Acute Lymphoblastic Leukemia,Sci Transl Med.2014 Feb 19;6(224)も参照。さらなる背景については、Dotti,et al.,Design and Development of Therapies using Chimeric Antigen Receptor-Expressing T cells,Immunol Rev.2014 Jan;257(1):10.1111/imr.12131を参照。また、患者において観察されたCARTの強力な抗原特異的活性から、抗CD19 CART細胞の注入が一部のB細胞悪性腫瘍の標準療法となり得ることが示唆されると結論付けている、Kochenderfer JN,Rosenberg SA.,Treating B-cell cancer with T cells expressing anti-CD19 chimeric antigen receptors.Nat Rev Clin Oncol.2013 May;10(5):267-76も参照。したがって、ある特定の実施形態において、本発明は、ネオ抗原を対象とするCART集団を提供する。このようなCARTを生成するために、ネオ抗原に特異的な抗体は、CARTの標的化構成成分の創出に使用されるIg重鎖及び軽鎖の供給源を提供する。このような抗体は、免疫化及び選択の方法により生じさせることができ、またはクローニングにより生成するか、もしくは配列情報から合成することができる。
【0079】
抗原の検証
【0080】
本発明の方法は、T細胞を含む細胞集団を抗原ポリペプチド(または他の抗原)に曝露することにより、選択及び/または増大向けのT細胞を刺激することを伴う。本発明の諸実施形態において、抗原は、その免疫原性を確認することにより検証される。抗原の免疫原性、すなわち、抗原が免疫応答を作動させる能力は、多数のタイプの抗原提示細胞(APC)(例えば、以下に限定されないが、樹状細胞(DC))によるT細胞への提示に大きく依存する。APCは、典型的には、抗原が示される文脈において主要組織適合クラス(MHC)構造(クラスI及びクラスII)を示す。上記の観点からの抗原の検証は、抗原が好適な断片を提供するか、すなわち、抗原がMHCクラスI及び/またはクラスII分子と結合することができるか、そして、抗原が、CD4+及び/またはCD8+サブ集団内でT細胞活性化、増殖、及び/またはメモリー応答を引き起こすという点においてT細胞に対し免疫原性であるかを判定することにより、遂行される。
【0081】
MHCクラスI分子(HLA-A、B、C、E、F、及びG)は、抗原タンパク質のペプチド断片をCD8+細胞傷害性T細胞に示し、CD8+細胞傷害性T細胞は、標的抗原に対するT細胞からの直接応答を作動させる。MHCクラスII分子(HLA-DM、HLA-DO、HLA-DP、HLA-DQ、及びHLA-DR)は、APC、例えば、DC、単核食細胞、ある特定の内皮細胞(例えば、胸腺上皮細胞)、グループ3自然リンパ球、及びB細胞上に見られる。MHCクラスII分子は、ネオ抗原タンパク質のペプチド断片をCD4+ヘルパーT細胞に示し、CD4+ヘルパーT細胞は、様々な免疫応答、例えば、B細胞の活性化及び液性応答、食細胞の動員による炎症及び腫脹、ならびに長期免疫記憶を作動させる。機能的には、MHCクラスII分子は、(抗原が、ウイルスペプチド抗原のように細胞質であるクラスI分子とは異なり)細胞外抗原を提示する。本発明の1つの目的は、抗原の使用を通じて自然免疫応答を再プログラムすることであり、したがって、本発明の技法は、例えば、典型的には細胞外の抗原に対し細胞傷害性T細胞の応答を作動させ、及び/または、典型的には細胞質の抗原に対しヘルパーT細胞の応答を作動させる手段を提供することができる。これを遂行するために、抗原は、MHCクラスI及びクラスIIの結合能力について検証され得る。
【0082】
MHCクラスI分子は、α鎖及びβ2-ミクログロブリン(b2m)軽鎖を有し、b2m及びα3ドメインの相互作用を通じて非共有結合的に連結しているヘテロ二量体である。α3鎖は多型性でありHLA遺伝子によりコードされ、一方b2mは遍在性である。α3ドメインは形質膜スパニングに及び、CD8+共受容体と相互作用し、CD8+共受容体はα1-α2ヘテロ二量体におけるT細胞受容体(TCR)とMHCクラスI分子との間の相互作用を安定化させる。α1及びα2ドメインは折り重なって、8~10アミノ酸長のペプチドのための溝を形成する。TCRは、溝に保持されたネオ抗原断片に対する抗原性の判定を媒介する。
【0083】
MHCクラスII分子は、2つの相同なペプチド、α鎖及びβ鎖からなるヘテロ二量体である。MHCクラスII分子の抗原結合溝は両端がオープンであり、クラスI分子上の対応する溝が各端でクローズドであるのとは対照的である。したがって、MHCクラスII分子により提示されるネオ抗原は、15~24アミノ酸長であり得る。MHCクラスIIはCD4に結合し、さらにT細胞及びDC上の他の複数の細胞受容体(例えば、LAG-3)にも結合する。
【0084】
候補がMHCクラスIペプチド溝で結合するかの判定を補助するために使用され得るツールは多数存在する。様々なクラスI及び/またはクラスII抗原複合体について結合パラメーターが視覚的に説明された構造的データセットが科学文献に存在する。加えて、変異誘発技法を通じて結合ポケットの溝及び床のパラメーターが解明されており、当該分子やその抗原結合パラメーターについて非常に多くのことが分かっている。したがって、当業者が利用可能なバイオインフォマティクスベースの予測モデリングプログラムが存在し、これらを使用して候補の結合をin silicoでモデル化しスクリーニングすることができる(Hong et al.,Evaluation of MHC class I peptide binding prediction servers:Applications for vaccine research,BMC Immunology 20089:8,DOI:10.1186/1471-2172-9-8,16 March 2008;Wang,et al.,A Systematic Assessment of MHC Class II Peptide Binding Predictions and Evaluation of a Consensus Approach,PLOS,April 4,2008;Ruppert et al.,Prominent role of secondary anchor residues in peptide binding to HLA-A2.1 molecules,Cell,Volume 74,Issue 5,10 September 1993,Pages 929-937、さらに、Nielsen et al.,NN-align.An artificial neural network-based alignment algorithm for MHC class II peptide binding prediction,BMC Bioinformatics 200910:296,18 September 2009,DOI:10.1186/1471-2105-10-296を参照)。これらのクラスI及びクラスIIモデル及び知識を候補ネオ抗原に適用することで、提案ネオ抗原がCD8+及びまたはCD4+ T細胞の応答を誘発する能力を予測する有用な情報がもたらされることになる。これは、ネオ抗原の断片選択において助けとなり、ネオ抗原の構造的特性及び化学的特性のさらなる修飾のための基盤を提供することができる。
【0085】
in silicoのスクリーニングが良好になったのと同じ程度に、MHCクラスI及びクラスII分子における抗原結合を評価するための現時点で好ましい方法は、例えば結合アッセイによる、実験に基づいたエピトープ結合の判定を伴う。例示的な結合アッセイにおいて、様々なハプロタイプを代表するMHCクラスI及びクラスII分子のパネルが創出され、各それぞれの分子が候補抗原ペプチドに結合する能力についてスクリーニングされる。このようなパネルは、当技術分野で記載されている手段により調製することができ、例えば、Justesen et al,Functional recombinant MHC class II molecules and high-throughput peptide-binding assays,Immunome Research,December 2009,5:2を参照。抗原を広範囲の一般的ハプロタイプに結合させることは、抗原が様々な患者の遺伝的背景と共に一般使用のT細胞療法向けに調製される場合には重要であるが、患者特異的アプローチについては、患者の特定の生理学が標的化され得る。Immunitrack(Copenhagen,Denmark)は、MHCクラスII結合アッセイの供給業者であり、現在以下のアレルを示している:DP:DPA1*0103、DPA1*0202、DPB1*0401、DPB1*0402;DQ:DQA1*0101、DQB1*0301、DQB1*0501;DR:DRA1*0101、DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*1101、DRB1*1501、DRB3*0101、DRB3*0202、DRB4*0101、及びDRB5*0101。EpiVax,Inc.(Providence,RI)は、DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、及びDRB1*1501を提供している。現時点では、このより好ましい方法には、免疫原性の判定、例えば、T細胞の増殖及び応答アッセイが含まれる。抗原の免疫原性の測定に好適なT細胞アッセイとしては、様々な活性化サイトカインのレベルを測定するELISA、及びサイトカイン産生細胞の頻度を定量化するELISpotが挙げられる。フローサイトメトリーは、活性化T細胞の多数のマーカーを測定することに加えて、集団中のT細胞サブセットの相対的割合を特徴づけることを可能にする。活性化マーカーの発現に対する核酸ベースのアッセイ、及び細胞増殖アッセイは有用であり、広く説明されている。患者由来のPBMCは、T細胞アッセイにより、メモリー応答についてスクリーニングすることができ、これはエピトープ特異的ペプチドを用いてエピトープマッピングすることができる。したがって、抗原がサブドミナントであるか、そして抗原がこの状態を維持するかについては、患者から治療過程にわたって評価することができる。
【0086】
T細胞のex vivo選択/増大向けの細胞集団
【0087】
反応性のT細胞集団を創出するには、T細胞の供給源が必要である。末梢血単核球(PBMC)が現時点では好ましく、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が代替的な供給源となる。具体的な諸実施形態において、T細胞は、骨髄、リンパ節、または他の組織供給源から得ることができる。
【0088】
患者の末梢血から得られた循環リンパ球、そして外科的外植片から得られた臓器特異的または組織特異的リンパ球は、養子免疫療法向けのex vivoでの増大及び調製のための細胞集団の豊富な供給源である。患者の疾患部位に存在するT細胞は、疾患に関する抗原に対し反応性である。しかし、このようなT細胞は、疾患の自然進行の結果として、炎症または腫瘍のような疾患部位における免疫抑制的環境にも供されている。がん及び腫瘍に関する条件の場合には、腫瘍抗原(典型的にはドミナント抗原)経験のある腫瘍浸潤リンパ球、すなわちTILが単離される。腫瘍反応性T細胞は、アネルギーを示す可能性がある。
【0089】
末梢血は循環T細胞の供給源であり、その少なくとも一部分は腫瘍抗原を経験しており、そのためプライミングまたは活性化されている。各T細胞は、T細胞が発現させるT細胞受容体(TCR)によって特徴づけられる、1つの抗原形態にのみ応答することができる。特定の抗原に対しTCR特異性を示すこれらのプライミングされた細胞は、同族抗原にさらに曝露されたときに、指数関数的成長、ある特定の表面活性化マーカーの高レベル発現によって応答し、また、抗原特異的五量体結合アッセイに対し陽性である。対象におけるドミナント及びサブドミナント抗原の同定は、抗原の存在下で細胞をex vivoで成長させることにより実施され、このとき、ドミナント抗原に応答したT細胞の成長及び活性化は、サブドミナント抗原に反応性のものにまさる可能性がある。
【0090】
免疫療法の一部の場合において、例えば、自己免疫疾患または炎症性疾患の場合、疾患改善には免疫応答の抑制を要する。免疫制御性表現型の細胞(例えば、Treg)は、疾患部位から、または循環血から、または他の関連組織から単離し選択することができ、記載の方法を用いて好適に増大させることができる。好適な細胞表面マーカーとしては、CD4+、CTLA-4、CD39、CD73、及びCD25+を含む選択マーカーが挙げられる。単離した細胞集団を所与のマーカーによって選別して、豊富化された制御性T細胞を生成し、次にこれを増大させる。
【0091】
代替的に、例えば、効率的な免疫応答の増強に要する条件において、高反応性のT細胞を移すために、標準的技法を用いてTregを細胞集団から選び出すことができる。
【0092】
循環T細胞は、メモリー表現型を示すCD45RO、ナイーブな表現型を示すCD45RA、NKT表現型を示すCD56、CD57、ナイーブなセントラルメモリー表現型を示すCD27及びCD28、または他の表面タンパク質、例えば、ケモカイン受容体、組織ホーミング受容体、及び活性化マーカーを発現させる。転移性疾患の場合には、循環リンパ球が転移抗原反応性T細胞の供給源であり、これは、起源となる腫瘍中の腫瘍抗原にのみ反応性である腫瘍浸潤細胞(TIL)とは異なる。
【0093】
抗原ナイーブT細胞及び抗原同族T細胞の両方がヒト末梢血中に存在し、正常な対象における細胞構成成分の約0.7~4パーセントを構成する。本発明の最適化された細胞生物学技法を使用して、末梢血から単離された細胞の混合集団を方向付け、サブドミナント抗原及びネオ抗原の方向付けられたセットに対し反応性である、特異的なサブタイプのT細胞を、細胞媒介の療法向けに生成することが可能になった。
【0094】
また、T細胞は、疾患部位、例えば、炎症、自己免疫反応、腫瘍、または感染、すなわち、ウイルス、細菌、真菌、外来、もしくは潜伏感染にも存在する。自己T細胞は、免疫反応性療法向けの細胞集団を得るための本発明の最適化された細胞培養法によるin vitroでの増大のために、患者の組織試料から得られる。具体的な諸実施形態において、T細胞は、別のヒト対象からの骨髄由来細胞から得ることができる。
【0095】
疾患部位に存在するT細胞は、疾患に関する抗原を本質的に認識しそれに対し反応性であるが、このようなT細胞の大部分は、ドミナント抗原に対し応答性である。このようなT細胞は、今度は免疫抑制的応答の一部となる可能性があり、これが疾患進行につながり得る。このようなT細胞はアネルギーを示す可能性がある。
【0096】
末梢血は循環T細胞の供給源であり、その一部は、腫瘍抗原のような疾患抗原に遭遇しているため、プライミングされている。また、循環T細胞は、メモリー表現型を示すCD45RO、ナイーブな表現型を示すCD45RA、NKT表現型を示すCD56、CD57、ナイーブなセントラルメモリー表現型を示すCD27及びCD28も発現させることができる。加えて、循環リンパ球は、起源となる腫瘍中の腫瘍抗原にのみ反応性である腫瘍浸潤細胞(TIL)とは異なる、転移抗原反応性T細胞の供給源である。具体的な諸実施形態において、T細胞は、骨髄、リンパ節、または他の組織供給源から得ることができる。
【0097】
初期細胞集団の解析/培養セットアップ
【0098】
細胞は、健康なドナーの血液から、またはがん、感染症、または自己免疫障害のような医学的障害を有する対象から、過去に凍結されて、または新たに単離されて得られる。末梢血単核球は、対象(ドナーまたは患者)から標準的な方法により得られる。ある特定の実施形態において、PBMCは、解凍してから本発明の方法で後ほど使用するために、凍結される。障害を有する患者において、PBMCは当該障害に関する抗原を経験している可能性がある。細胞は、G-Rex10(Wilson Wolf Manufacturing)ガス透過性デバイスに播種するか、または、当業者により実現可能とみなされる任意の好適な容器もしくはデバイス内で成長させることができる。
【0099】
血液由来細胞を用いた例として、PBMCを細胞培養培地に懸濁させる。本明細書に示すある特定の例では、3,000万~1億個のPBMCを完全培地に懸濁させる。有用な製剤は、10%のヒトAB型血清(Corning Inc.)及び1%のGlutaMAX-1(ThermoFisher Scientific)を追加したCellGenix CellGro培地(CellGenix GmbH)を、ミリリットル当たりおよそ200~300万細胞の濃度にしたものである。細胞をCTL Anti-Aggregate Wash培地(Cellular Technology Limited)(CTL-AA-005)で洗浄し、CellGenix CellGro培地に再懸濁させる。典型的には、細胞培養手順は、標準的な温度及び湿度条件(5%のCO2において37度)を用いて実施する。
【0100】
初期集団からの細胞の一部において、抗体を用いたフローサイトメトリー(または他の好適な方法)により、以下のマーカーを解析して、出発集団中の生存可能なT細胞、B細胞、単球、及びNK細胞を確認する:生/死染色、CD3、CD4、CD8、CD14、CD16、CD19、CD56。
【0101】
T細胞の刺激及び増大
【0102】
本明細書に記載の方法において、培養下の細胞集団は抗原に曝露され、連続培養中に1つ以上のサイトカインで処理される。一実施形態において、細胞集団中のT細胞の刺激(プライミングを含む)は、細胞集団を1つ以上の標的抗原に由来するペプチド混合物に曝露することにより、実施することができる。本発明の諸実施形態において、細胞は、個別の標的抗原(または標的抗原に由来するポリペプチド)で順次刺激される。他の諸実施形態において、細胞は、複数の標的抗原(または複数の標的抗原に由来するポリペプチド)で同時に刺激される。
【0103】
本発明の諸実施形態において、細胞集団は2つ以上のサブ集団に分割され、その各々は、異なる標的抗原に由来するペプチド混合物に曝露される。刺激は、最終採取の前にプールされた(スプリットプールプロトコル)、またはMiltenyi TytoのようなGMP適合性のFACS装置を用いて選別された、3つの別々の培養物として実施される。諸実施形態において、細胞は、各抗原に対し別々に培養下で増大させ、患者投与の前にプールすることができる。代替的に、細胞は、プールし、次に、代替の抗原調製物に順次接触させてもよい。
【0104】
細胞は、任意選択で、初期成長フェーズの後に分割させてもよく、これは抗原ペプチドの混合物の存在下で生じる。次のフェーズにおいて、各々が1つの抗原に応答性であるサブ集団を、別々に成長させて、専用の抗原の存在下、様々な抗原応答性細胞の等価的表現を促進する。ある特定の抗原応答性細胞が、共刺激分子または細胞成長に及ぼす影響の競合で消失し得ることは考えられる。1つの抗原の存在下で成長した細胞は、異なる成長要件及び統計値を有する。例えば、EBNA1抗原の場合において、個別の抗原刺激は、21日目に、プールされたペプチド混合物よりも高い細胞収量をもたらす。分割培養からの細胞は、最終的には、多様な抗原特異的細胞の組成物向けに一緒にプールされる。分割またはプールされた細胞集団は、免疫療法の出荷基準について同じ品質管理試験を受ける。
【0105】
T細胞の刺激は、様々な方法を用いて遂行することができる。ポリペプチド抗原は、MHC構造を、(上で論じられているように)細胞集団(例えば、PBMCまたはPBMCに由来する細胞集団)中の抗原提示細胞に装填する上で有用である。精製されたT細胞を使用する場合、抗原が装填されたAPC集団をT細胞培養物に添加してもよい。本発明の諸実施形態において、ペプチド抗原は、MHCクラスIまたはクラスIIに最適化されている。
【0106】
ポリペプチドは、一般的に、食塩水、またはジメチルスルホキシド(DMSO)に懸濁させ、さらに、細胞培地に添加する前に必要な濃度に希釈してもよい。抗原濃度は、プライミング技法及び抗原の毒性に応じて変動することになるが、概して、培地ml当たりポリペプチド1ナノグラム~10マイクログラムの範囲になる。
【0107】
ex vivoで細胞を刺激するための、1つ以上の標的抗原に由来するポリペプチドのプールの使用により、標的抗原(1つまたは複数)を認識するT細胞が豊富化された異種特異的なT細胞集団がもたらされる。このような異種特異的なT細胞集団は、複数の抗原に対し、高活性のエフェクター細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を作動するように生成される。
【0108】
サイトカイン、追加物質、及び増大する不均質なT細胞集団
【0109】
細胞培養におけるT細胞の刺激及び増大は、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、及びIL-21のようなサイトカインの組合せにより支援され、その結果、異種特異的なT細胞の比例的増加を得、このT細胞を特異的な機能的サブタイプに変換する。好ましい実施形態において、IL-7及びIL-15は、本発明の方法でT細胞を刺激し増大させるために使用される。別の好ましい実施形態において、IL-2、IL-15、及びIL-21は、本発明の方法でT細胞を刺激し増大させるために使用される。
【0110】
各サイトカインは、単体であっても組合せであっても、表2に記載のように、細胞集団の表現型的特徴に一定の結果をもたらす。培養物は、1つのサイトカインまたはセットのサイトカインにある特定の時間期間供することができ、次に組成物は培養手順の進行に適合するように改変される。以下の表は、培養下でのリンパ球の特異的な増大に対するサイトカインの組合せの使用を例示するものであり、これは、細胞培養物が所与濃度の1つ以上のサイトカインに一定時間曝露され得ることに基づいている。
【0111】
【0112】
T細胞培養下でIL-7を使用する具体的利点の1つは、IL-7が抗原特異的CD4+ T細胞の増大を促進することであり、マウスにおいてリンパ球の生存能及びCD62Lマーカー発現を保持することが示されている(Ceserta,S.et al.,2010,Eur.J.Immunol.,40:470-479;Montes,M.et al.,2005,Clin.Exp.Immunol.,142:292-302を参照)。Rosenthal et al.は、特異的なCMV抗原に応答したCD8+ T細胞増大は、IL-7またはIL-2と比べて、IL-15の存在下で最も高かったと報告している。US2014/356398は、IL-15がセントラルメモリー表現型を有するCD8+ T細胞を死から救出したが、IL-7は救出しなかったことを開示している。
【0113】
細胞集団の解析及び抗原活性化T細胞の選択
【0114】
細胞のex vivoでの増大及び修飾のプロセス全体において、細胞は、定期的に取り出され、細胞表面マーカーの解析による品質管理検査向けにサンプル採取され、条件付きで、免疫療法向けの不均質な細胞集団を得るための最良な細胞の組合せを達成するためにプロトコルのバリエーションに供される。
【0115】
本発明の諸実施形態において、細胞集団中のT細胞は、1つ以上の標的抗原を認識するT細胞を豊富化するように選択される。一態様において、本発明は、(i)体内での抗原への曝露、または(ii)本明細書に記載のT細胞刺激法の使用により既に刺激されたT細胞を単離する方法を提供する。ある特定の実施形態において、細胞は閉鎖系の選別機内で選別される。細胞は、1つ以上の活性化マーカー、及び細胞生存能に基づいて選別される。抗原曝露細胞活性化プロファイルの判定に使用されるマーカーとしては、CD3、CD4、CD8、CD137(4-1BB)、CD297(PD-1)、CD25、CD45RO、CD45RA、CD197(CCR7)、CD62Lが挙げられる。
【0116】
一実施形態は、細胞をPD-1発現についてスクリーニングすることと、PD-1陽性細胞の選択と、細胞のロバストな増大を可能にする細胞培養条件下で細胞を成長させることと、を含む。
【0117】
別の実施形態は、細胞において、培養下の単離された細胞上における抗原曝露マーカーとしてのCD137の発現をスクリーニングすることと、CD137マーカーを有する細胞を、細胞のロバストな増大を可能にする細胞培養条件に供することと、を含む。別の実施形態において、CD-137及びPD-1を含めた多数の発現マーカーは、ex vivoでの増大向けの細胞を選択するために使用される。in vivoで抗原にプライミングされた細胞をスクリーニングするための発現マーカーとしては、CD8、CD274、CD62L、CD45RA、CD45RO、CD-27、CD28、CD69、CD107、CCR7、CD4、CD44、CD137(4-1BB)、CD137L(4-1BBL)、CD279(PD-1)、CD223(LAG3)、CD134(OX40)、CD278(ICOS)、CD183(CXCR3)、CD127(IL-7Rα)、CD366(TIM3)、CD25(IL-2Rα)、CD80(B7-1)、CD86(B7-2)、VISTA(B7-H5)、CD152(CTLA-4)、CD154(CD40L)、CD122(IL-15Rα)、CD360(IL-21R)、CD71(トランスフェリン受容体)、CD95(Fas)、CD95L(FasL)、CD272(BTLA)、CD226(DNAM-1)、CD126(IL-6R)、アデノシンA2A受容体(A2AR)を含む群から選択される1つ以上のメンバーが挙げられる。
【0118】
本発明の方法を実行するための好ましいシステムとしては、高精度と、手順中に最大限の細胞生存率を保つ細胞上の穏やかな条件とをサポートする選別デバイスが挙げられる。このデバイスは、好ましくは、自動化され、選別された細胞を直接培養容器に取込み及び払い出しを行うための無菌動作システムを維持する。
【0119】
集団におけるT細胞のある特定のサブセットは免疫抑制的であり(例えば、Treg、TH17、アネルギー化T細胞)、これらの存在は免疫寛容を誘導する。このようなT細胞サブセットは、好ましいサブ集団について選別して、増強または抑制の方向に免疫応答を調整することができる。代替的に、このような細胞は、自己T細胞が患者における免疫応答を活気付けるために使用されるex vivo増大T細胞集団から選別し、排除してもよい。
【0120】
本発明の一実施形態は、単離された細胞集団から、抗原に予め曝露され活性化した細胞を選択することを含む。黒色腫患者からのCD8+腫瘍浸潤Tリンパ球(TIL)上におけるPD-1(T細胞疲弊マーカーとも考えられる)、リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3、別称CD223)、T細胞免疫グロブリン、及びムチンドメイン3(TIM-3)の発現強化は、抗原曝露及び活性化との相互関連がある。しかし、TILのおよそ16%がPD-1、LAG-3、TIM-3を発現するのに対し、これらのマーカーに対し陽性であるのは、黒色腫患者からのPBMCのわずか0.3%±0.1%に過ぎない(Gros,A.et al.,2014,J.Clin.Invest,124(5):2245-2259を参照)。ex vivoの抗原曝露後のPBMC由来T細胞においてピークPD1発現が観察されたが、培養中に減少する。もう1つの抗原曝露マーカーである4-1BB(CD137)は、TNF受容体ファミリーの共刺激マーカーである。
【0121】
本発明の諸実施形態において、細胞は、CD25、CD107a、CD154、CD137、CD279、CD3、LAG-3、もしくはTIM-3、または抗原にプライミングされた活性化細胞向けの任意の好適なマーカーを含めた、プライミング及び作用マーカーの発現について選別される。磁気ビーズ分離及びFACSは、細胞分離の技法である。本発明の諸実施形態において、選別された細胞は、抗原限定の増大及びまたはポリクローナル刺激向けのin vitroの培養系に戻される。細胞の効率的な高純度選別は、採取前に(例えば、21日目までに)、選別した日に対し、抗原指向T細胞集団の少なくとも約50倍~約250倍の増加をもたらす。
【0122】
本発明の諸実施形態において、五量体アッセイは、抗原特異的T細胞の増大を測定するために使用される。五量体は、特異的なペプチドで結合した特異的なMHCアレルから構成される組換えタンパク質である。この組合せは、特定の特異性のT細胞受容体に直接結合することができる。五量体は、フローサイトメトリーで使用するためにビオチン化することも他の方法で標識することもできる。
【0123】
再刺激
【0124】
本発明の諸実施形態において、刺激ステップは、最初の刺激と同じプロトコルで繰り返される。最初及び2番目の刺激からの培養物は、集団を多様化するためにプールされる。
【0125】
ある特定の実施形態において、細胞の単離及び刺激の後に、細胞は、完全培地をさらに追加され、再刺激される。一実施形態において、細胞は、1つ以上のサイトカインの存在下で、自己フィーダー抗原提示細胞によって再刺激される。ある特定の再刺激の方法は、抗原プールに事前に曝露し、照射されていないPBMCを利用し、培養物に直接添加し、次に選別により、または培養プレートへの細胞の接着により取り出される。当該方法の変形形態において、抗原に刺激され、ただし照射されたPBMCは、成長T細胞を再刺激するために使用される。代替的に、抗原活性化樹状細胞は、PBMCの代わりに再刺激に使用される。
【0126】
再刺激の一方法は、抗原プールに事前に曝露し、照射されていないPBMCを利用し、培養物に直接添加し、次に選別により、または培養プレートへの細胞の接着により取り出される。当該方法の変形形態において、抗原に刺激され、ただし照射されたPBMCは、成長T細胞を再刺激するために使用される。代替的に、抗原活性化樹状細胞は、PBMCの代わりに再刺激に使用される。ただし、DCは、抗原が非ペプチド抗原、具体的にはヌクレオチド抗原またはRNA抗原である場合、好ましい抗原提示方法である。好ましいペプチド抗原は、MHCクラスIまたはクラスIIに最適化されている。ペプチドは、一般的に、食塩水、またはジメチルスルホキシド(DMSO)に懸濁させ、さらに、細胞培地に添加する前に必要な濃度に希釈してもよい。抗原濃度は、プライミング技法及び抗原の毒性に応じて変動することになるが、概して、培地ml当たりペプチド1ナノグラム~10マイクログラムの範囲になる。
【0127】
この段階において、T細胞は様々な細胞表面活性化マーカーを示す。表面マーカーは、表面タンパク質に対する抗体反応により、またはFACSを実施することにより、同定される。細胞のex vivoでの増大及び修飾のプロセス全体において、細胞は、定期的に取り出され、細胞表面マーカーの解析による品質管理検査向けにサンプル採取され、条件付きで、免疫療法向けの不均質な細胞集団を得るための最良な細胞の組合せを達成するためにプロトコルのバリエーションに供される。
【0128】
ポリクローナル刺激
【0129】
ある特定の実施形態において、所望の標的抗原(複数可)を認識するT細胞の増大は、T細胞を含有する細胞集団のポリクローナル刺激によって促進される。好ましい諸実施形態において、ポリクローナル刺激は、T細胞が、1つ以上の標的抗原及び本明細書に記載のある特定のサイトカインへの曝露により増大するように刺激された後に生じる。好ましくは、ポリクローナル刺激は、細胞採取の少なくとも約2週間前に実施される。
【0130】
このポリクローナル刺激は、T細胞数の非特異的な増大を引き起こす任意の手段により、遂行することができる。好ましい実施形態において、ポリクローナル刺激は、細胞集団をCD3、CD28、及びCD2に結合する四量体抗体に曝露することを含む。他の非特異的なT細胞活性化物質をT細胞のポリクローナル刺激に使用してもよく、これにはPHA(フィトヘマグルチニン)及びPMA/イオノマイシンが含まれるが、限定されない。
【0131】
T細胞の採取
【0132】
細胞は採取され、生存能及び好適な細胞表面マーカー、例えば、CD279、CD137、CD223、TIM-3、及び機能的有効性を実証する他の活性化マーカーについて解析され、またはサイトカイン放出アッセイのような機能的アッセイにより解析される。好ましくは、細胞は培養され、環境的に密封された(無菌の)閉鎖系、例えばTito(Miltenyi Biotech)で選別される。採取された細胞は、将来使用するために凍結保存されるか、プールされるか、または直接使用するために患者への注入向けに調製される。
【0133】
免疫療法向けのT細胞組成物
【0134】
一態様において、本発明は、本発明の方法によりもたらされる養子細胞療法で使用することができるT細胞集団を提供する。養子細胞療法(細胞養子免疫療法)は、免疫系が疾患(例えば、がんやある特定のウイルスによる感染症)と戦うのを助けるために使用される処置である。T細胞は(通常は患者から)収集され、がん細胞を認識し殺滅させる、または感染症を認識しそれと戦うことができるT細胞の数を増加させるために、ex vivoで増大される。このような増大されたT細胞は患者に戻されて、免疫系が疾患と戦うのを助ける。
【0135】
本発明のT細胞組成物は、以下のうちの1つ以上を含めた、養子T細胞療法での使用において利点である特性を有する:10億個超のCD3+細胞、70%超のCD3+ T細胞、主としてCD8+対CD4+ T細胞、最小限の疲弊を伴う主としてエフェクターメモリーT細胞、高発現レベルのリンパ球ホーミング及び輸送マーカー、ならびに高い抗原反応性(過去に公開された学術的プロトコルよりも高い)。本発明の方法により作製されるT細胞組成物は、腫瘍へのホーミング強化(標的細胞に対しより効率的)、及び恒久的な応答に対するより少ない疲弊をもたらす。
【0136】
本発明の諸実施形態において、T細胞組成物は、組成物中の総生細胞のパーセンテージとして50%、60%、70%、80%、または90%超のCD3+ T細胞を含む。好ましい諸実施形態において、CD3+ T細胞の%は70%超である。
【0137】
本発明の諸実施形態において、T細胞組成物は、主として(50%超)CD8+対CD4+ T細胞である。
【0138】
本発明のさらなる諸実施形態において、T細胞組成物は、メモリー及び疲弊についての細胞表面マーカーに対するフローサイトメトリーにより測定されるところの最小限の疲弊を伴う、主としてエフェクターメモリーT細胞である。
【0139】
本発明のさらなる諸実施形態において、T細胞組成物は、フローサイトメトリーにより測定されるところの高発現レベルのリンパ球ホーミング及び輸送マーカーを有する。
【0140】
本発明のさらなる諸実施形態において、T細胞組成物は、ELISPOTアッセイにより測定されるところの高い抗原反応性(過去に公開された学術的プロトコルよりも高い)を有する。
【0141】
単離されex vivoで増大されるT細胞は、成長因子、刺激物質、例えば抗原、サイトカイン、及びケモカインの形態で培養物に適用される環境的刺激に応答して絶えず変化する、動的な細胞集団に相当する。ヒト試料から得られる集団は、不均質な細胞集団である。不均質性は、細胞表面マーカーの発現及び抗原認識から明らかである。本出願に記載のプロトコルのような増大プロトコルの完了時には、細胞集団は、細胞培養手順の教示下の単離されたプールとは異なる、構造的及び機能的な特徴を獲得することになる。このような培養条件に基づけば、得られた細胞集団は、細胞がex vivoの細胞培養中に曝露された抗原に対し応答性の細胞を少なくとも5%含むことが予想される。したがって、細胞集団は、第1の抗原に対し応答する生きている活性化T細胞を少なくとも5%、及び第2の抗原、または第3の抗原などに対し応答する生きている活性化細胞を少なくとも5%含み、このとき、これらの抗原は患者におけるドミナント抗原ではない。
【0142】
増大されたT細胞集団とは、ドナーの身体から単離した後にin vitroで成長したT細胞を指す。このような細胞はin vitroでかなりの変換ステップを経るように操作され、得られる細胞が、患者内で優勢な状況下では、または任意の自然成長もしくは変換プロセスではin vivoで見いだされなかったであろうものにする。例えば、当該変換ステップは、組織から単離された細胞を、サブドミナント抗原及びネオ抗原を含み得る複数の抗原に供することと、細胞集団が主に、他のエフェクター細胞を伴って抗原限定のCD8+細胞傷害性T細胞として発生するように、細胞培養条件を調節することと、を含む。細胞傷害性T細胞は、標的細胞の溶解にも有効である。エフェクター細胞のサブ集団は、in vitroで増大される長期抗原特異的記憶を付与するCD8+メモリー細胞及び抗原限定のCD4+ヘルパーT細胞をさらに含む。単離された細胞が、ex vivoで特殊化されることなく単に増大され体内に再導入される場合、腫瘍微小環境の影響により、自然の免疫優性が引き継ぐ結果となり得る。
【0143】
本明細書において「不均質なT細胞」の集団とは、1つ以上の異なる抗原に対する反応性を有する複数のT細胞を指す。不均質な集団は、1つの抗原の複数のエピトープに対し反応性であり得る。不均質なT細胞とは、均一ではないT細胞集団を指す。また、不均質なT細胞は、機能により同定可能な別々のT細胞サブ集団(例えば、細胞傷害性T細胞及びメモリーT細胞)の混合物を含むことも期待される。これに対し、異種特異的なT細胞とは、その集団の抗原反応性を指す。不均質な集団は、異種特異的でもあり得る。
【0144】
ex vivoで増大されたT細胞を用いた養子免疫療法
【0145】
本出願で開示されているex vivoのT細胞増大の方法を使用すると、約3,000万~1億個のPBMCの培養物の播種により、典型的には、約21日の培養後に、免疫療法向けのおよそ1,000万~1億個の有効なT細胞がもたらされ得る。ある特定の実施形態において、T細胞の数における約10~100倍またはそれ以上の増大は、当該方法を用いた21日の培養後に達成される。
【0146】
ex vivoで増大された細胞は、免疫療法に適合しているとみなされるために適切な出荷基準について試験される。本質的には、(a)養子療法に必要とされる有効な細胞数、(b)細胞生存能、(c)有効な抗原認識多様性のための細胞表面マーカーの発現、(d)所望される表現型の有効な混合、(e)標的細胞のためのサイトカイン生成及び細胞傷害性に対する細胞応答が、出荷基準に含まれる。全般的な治療プロトコルは、発明者らの関連特許出願(U.S.S.N.14/122,036及びPCT/EP2015/053107)に開示されているように従い、ただし臨床条件により求められる変更を伴う。当該方法により生成されたT細胞を注入する際、当該療法は、少数または1つのドミナント抗原に対する応答性から複数の抗原に対する細胞傷害性応答へと免疫ヒエラルキーのバランスをリセットして、腫瘍の有効な治療をもたらすため、患者は免疫再プログラミングを経る。複数の抗原を標的化することにより、腫瘍領域のより広い適用範囲が促進され、より迅速で有効な療法が可能になる。
【0147】
注入後、当該療法の有効性を評価するため、また、必要と認められる場合は当該療法を調整するため、患者は、時々、寛容及び免疫応答をアッセイすることにより再プロファイルされる。PBMCまたは疾患の免疫応答を反映する組織試料の単離は、頻繁な間隔で得られ、抗原応答について、特に、五量体アッセイによる任意の抗原応答性の潜在的損失について検証され得る。腫瘍の退縮は、主要な結果として監視される。当該療法の主要な評価基準は、対象の病態に依存する。
【0148】
疾患の処置
【0149】
ある特定の実施形態において、本発明は、T細胞を含む細胞集団を刺激し増大させるために抗原のプールを使用して、複数の標的抗原に対する特異性を有するT細胞を含む免疫療法または養子免疫細胞療法向けの組成物を生成することを提供する。一実施形態において、本発明は、免疫療法向けの自己T細胞集団であって、当該療法が複数の抗原(例えば、ウイルス抗原、腫瘍関連抗原、サブドミナント抗原、及び/またはネオ抗原)を対象とする、自己T細胞集団を提供する。このようなT細胞組成物は、一次療法をもたらし、また化学療法を必要とすることなく効果的な長期腫瘍退縮をもたらす能力を有する。優先的には、このような不均質なT細胞集団は、複数の抗原(例えば、ウイルス抗原、腫瘍関連抗原、サブドミナント抗原、及び/またはネオ抗原)に対し極めて活性のエフェクター細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を作動するように開発される。
【0150】
ある特定の実施形態において、本発明の組成物及び方法は、以下に限定されないが、がん、固形腫瘍、血液関連障害、自己免疫、炎症性、及び感染性疾患の処置を対象とする。ある特定の実施形態において、当該方法は、免疫寛容化または免疫抑制を少なくとも部分的に特徴とする任意の慢性疾患を、原因要素に対する急性応答にリダイレクトすることに適している。具体的な例としては、肝炎のような慢性感染症、または結核のような潜伏感染、及びある特定のウイルス感染症が挙げられ得る。本発明の組成物及び方法の変形形態を用いて、病原体の複数のサブドミナント抗原及びネオ抗原に対し、抑制された免疫応答を活性の応答にリダイレクトすることにより、疾患を改善することが可能である。
【0151】
当該組成物及び方法は、以下に限定されないが、神経膠芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、胃、上咽頭、膵臓、肺、及び他の固形腫瘍、ならびに血液癌を対象とする。神経膠芽細胞腫は、脳における極めて悪性の攻撃的な腫瘍形態であるため、特に重要である神経膠芽細胞腫は星状細胞から生じるが、混合の細胞タイプを含有する。この腫瘍内には異なる細胞タイプ及びグレードが存在するため、処置が困難である。加えて、複雑なアーキテクチャーが外科的切除を困難にしている。当該疾患の進行を遅くするために照射及び化学療法が使用されており、生存期間中央値は、攻撃的な神経膠芽細胞腫を有する成人において約14.6ヵ月である(American Brain Tumor Association,http://www.abta.org/brain-tumor-information/types-of-tumors/glioblastoma.html)。この腫瘍の異種性により、「多型性」神経膠芽細胞腫として適切に知られている。
【0152】
EGFRvIII CAR細胞を用いた神経膠芽細胞腫の治療的試みは、腫瘍の82%がEGFRvIII発現を消失したことから、当初は成功したものの、その後腫瘍が再発する結果となった(Johnson L.A.et al.,2015,Sci.Trans.Med,7(275):275ra22を参照)。そのため、1つの特異的抗原における神経膠芽細胞腫の標的化は、十分な利益をもたらさず、そのため本発明が特に有用である1つの例示的事例である。特にこのタイプのがんにおいて、戦略の改善の必要性は可視化されており、複数のサブドミナント抗原及びネオ抗原を標的化する免疫療法は、このタイプのがんに対する唯一の有効な療法であり得る。
【0153】
腫瘍に編集されたT細胞応答は、ドミナント抗原に対するT細胞固定や、腫瘍抗原に対する選択圧の増加をもたらし、腫瘍抗原はそれに応答して変異する。米国出願第14/122,036号(参照により本明細書に組み込まれる)は、サブドミナント抗原に対するT細胞応答を強化することによる免疫応答の再プログラミングについて詳述しており、免疫寛容を破壊し、細胞及び体液の抗腫瘍応答を回復させるために、1つのドミナント抗原を避けて別の抗原に向けるように細胞のホメオスタシス及び免疫応答の性質を治療的に変化させる細胞を使用する。
【0154】
組織培養下で、ドナーまたは患者からの特定の抗原を認識するT細胞を刺激し成長させ、次に患者にT細胞を移植することにより、十分な数のT細胞が増大され移植される場合、移植された細胞は、内因性ドミナント抗原限定のT細胞を圧倒し、免疫応答を新たな抗原に向けるように変更する。メモリー細胞が確立すると、メモリー細胞はこの新たな免疫優性ヒエラルキーを反映させて、所望される治療効果が長く続くようにする。実際上、特定の抗原(複数可)(例えば、ネオ抗原)に反応性の外因的に生成されたT細胞の移植は、プライミングと、標的抗原に対する患者の免疫応答のリバランスとを再現し、治療的利益をもたらす。
【0155】
がん治療法に加えて、免疫再プログラミングの原理は、記載の方法により検証することができる他の疾患関連抗原、例えば、慢性感染病原体及び潜伏感染病原体(例えば、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫、またはプリオンに関連する病原体)に関連する抗原に適用される。代替的に、自己免疫、神経変性、アレルギー、炎症、または臓器移植拒絶、または移植片対宿主疾患に関連するある特定の抗原については、長期寛容を誘導することが望ましい。そのため、ある特定の抗原は、Th1及びTh2応答、炎症性サイトカイン、NK細胞応答、及び補体経路の寛容または下方制御を誘導するとして検証され得る。
【0156】
がんの他にも、有効な免疫応答をマウントするために、患者の免疫優性ヒエラルキーを複数の過少表示されたまたは表示されていない抗原を標的化するようにリダイレクトすることを含む、本明細書に記載の免疫療法の方法は、様々な他の免疫学的疾患に極めて適応可能である。当該方法は、慢性の状態及び免疫破壊的な感染症(例えば、慢性肝炎感染症)、ならびに潜伏感染(例えば、結核)、ならびに異なる種類のウイルス感染症を、有効な急性免疫表現型に変換するのに特に有用である。同様に、記載された免疫療法の方法は、歪んだ免疫応答、または過活性のアレルギー免疫反応、及び他の慢性の病気(自己免疫を含むが、限定されない)に関する状態を特徴とする疾患状態を処置するのに適している。
【0157】
本明細書で開示される本発明の原理における変形形態が当業者により考案され得ることは、理解及び予想されるべきものであり、このような変更は本発明の範囲内に含まれるべきであるように意図されている。以下の実施例は本発明をさらに例示するものであるが、いかなる形でも本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。本明細書で引用されている全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0158】
実施例1 T細胞増大プラットフォーム
【0159】
実験手順
【0160】
抗原選択:PepMixは、対象となる標的抗原のペプチドスキャンに由来するペプチド(本明細書では「ポリペプチド」とも呼ばれる)のプールであり(各ペプチドは11アミノ酸の重複を伴う15アミノ酸である)、HLA制限を知る必要なくCD4+及びCD8+ T細胞を刺激することができる。LMP1、LMP2、EBNA1、CMV、NYESO-1、及びサバイビン向けのPepMixをJPT Peptide Technologies(Berlin)から購入した。pepmixの各バイアルは、およそ15nmolまたは25マイクログラムの70%純度の各ペプチドからなるものであった。個別のLMP2ペプチド及びカスタムエピトープマッピングマトリックスプールもJPT Peptide Technologies(Berlin)から購入した。
【0161】
PepMix組成物、ならびに正常なドナー及びがん患者からのT細胞を増大させるために使用した抗原のタンパク質配列の供給源を収載する。
・PepMix EBV(LMP1):潜伏型膜タンパク1(Latent membrane protein 1)に由来する94ペプチドのプール、Swiss-Prot ID:エプスタイン・バーウイルス(HHV4)のP03230。
・PepMix EBV(LMP2):潜伏型膜タンパク2に由来する122ペプチドのプール、Swiss-Prot ID:エプスタイン・バーウイルス(HHV4)のP13285。
・PepMix EBV(EBNA1):エプスタイン・バー核内抗原1に由来する158ペプチドのプール、Swiss-Prot ID:エプスタイン・バーウイルス(HHV4)のP03211。
・PepMix HCMVA(pp65):65kDaのリンタンパク質に由来する138ペプチドのプール、Swiss-Prot ID:ヒトサイトメガロウイルス(HHV-5)のP06725。
【0162】
PBMCの供給源:正常で健康なドナー及びがん患者からの凍結PBMCを販売業者から購入するか、または購入した白血球単位から単離し、インハウスで処理し、次に凍結保存し、気相の液体窒素の貯蔵容器に保管した。
【0163】
PBMC単離:末梢血単核球(PBMC)は、フィコール・ハイパック勾配による遠心分離により調製した。細胞を採取し、洗浄し、CryoStor 10凍結培地(BioLife Solutions)に再懸濁させ、バイアル当たり5,000万個の生細胞のアリコートにした。プログラム可能なレート制御フリーザー(Thermo Fisher)またはパッシブフリーザー(Nalgene,Mr.Frosty)を用いてバイアルを凍結させ、次に気相の液体窒素の貯蔵容器に移し、位置を記録した。凍結解凍されたPBMCの表面免疫表現型検査をフローサイトメトリーにより実施して、出発材料における単球、T細胞、B細胞、及びNK細胞の分布を決定した。
【0164】
ドナーPBMCのEBV反応性T細胞スクリーニング:酵素結合免疫スポット(Enzyme-linked immunospot)(ELISPOT)キットを使用して、EBV LMP1、LMP2、及びEBNA1 pepmix、マトリックスpepmix、ならびに個別のペプチド(JPT Peptide Technologies,Berlin,Germany)に応答してT細胞がインターフェロンガンマ(IFN-γ)を分泌する頻度を決定した。細胞を96ウェル当たり400,000~600,000個でプレーティングし、18~24時間培養し、製造業者のELISPOTキットプロトコル(CTL,Shaker Heights,OH)に従って処理し、GraphPad Prismソフトウェアを用いてデータをグラフ化した。
【0165】
結果
【0166】
EBVは、このウイルスに対するヒトT細胞応答ならびにその溶解及び潜伏の生活環の間に発現する遺伝子及びタンパク質が特性決定されているため、T細胞増大プラットフォームのモデルとして選択した。エプスタイン・バーウイルス(EBV)は、95%を超えるヒト成人集団において生涯にわたる潜伏型感染を確立するガンマヘルペスウイルスである。
図5aに示されている潜伏パターン2は、いくつかのEBV関連がんで発現する。ほぼ全ての上咽頭癌(II型潜伏)において、LMP1及びLMP2ならびにEBNA1が発現する。さらに、EBVに関連するがんからのPBMCについてスクリーニングすると、非ホジキンリンパ腫の10~20%、ホジキンリンパ腫の30~50%、及び胃癌の10%がEBER+(EBVコードRNA)であり、これらは2型潜伏抗原のEBNA1、LMP1、及びLMP2を発現させるはずである。
【0167】
16名の正常で健康なドナーからの凍結PBMCにおいて、ELISPOT(酵素結合免疫スポットアッセイ)により、インターフェロンγ(IFN-γ)をスクリーニングした。およそ500,000個の刺激されていないPBMCを、1μg/mlのLMP1、LMP2、及びEBNA1 pepmixならびにDMSO陰性対照及びPHA陽性対照を用いて、三重反復でプレーティングした。抗原特異的スポットの数を、DMSO単体のバックグラウンド数により分割して、各抗原に応答した総T細胞の相対頻度を決定した。試験を行った16名の正常なドナーのうち、16名中5名がLMP1に応答し、16名中10名がLMP2に応答し、16名中14名がEBNA1に応答した。16名の元のドナーのうち、5名からのPBMCは、3つの抗原全てに応答するT細胞を有し、これらを、スモールスケール培養条件のセットアップ及び最適化を行うための出発材料の供給源として選択した。
図5b。
【0168】
LMP2ペプチドエピトープマッピング:応答を1つのペプチドに制限したLMP2マトリックスペプチド混合物に応答するドナーをスクリーニングすることにより、LMP2 pepmix応答をさらに精緻化した。
図5c及び5dは、LMP2マトリックスプールに配置された個別のペプチド、マトリックスプール(1~23)に対する各正常なドナーのIFNγ ELISPOT応答、ならびに、ドナーに対し特異的な特定のクラスI HLA分子に結合するはずである個別のLMP2ペプチド及び最小限のペプチド配列のマトリックス選択を介した同定を収載している。
【0169】
LMP2サブドミナントエピトープマッピング:ドナーHHU20130423からのIFNγ ELISPOTにより、刺激されていないPBMCから潜在的なT細胞ドミナント及びサブドミナントペプチドエピトープの存在が実証された。ドミナントLMP2ペプチド50は、マトリックスプール6及び16で共有されることにより同定された。ペプチド112(マトリックスプール2及び22)ならびに69(マトリックスプール3及び18)に対するサブドミナントまたはより低い応答も同定された。このドナーは、同じLMP2分子内の3つの異なるペプチドエピトープを認識し、供血の時に1つのドミナントペプチド及び2つのサブドミナントペプチドの応答を伴うものとして同定された。
図5e。
【0170】
実施例2 T細胞培養条件
【0171】
実験手順
【0172】
サイトカイン:T細胞増大で使用するためのGMPグレードサイトカインをMiltenyi Biotechから購入し、ストック溶液を無菌dH20中25ug/mlにて調製し、摂氏-70度にて保管した。サイトカインは、ヒトIL-2は100IU/ml最終濃度、IL-7及びIL-15については10ng/mlにて使用した。
【0173】
凍結PBMCを、延長培養中に1ug/mlのPepmixで刺激し、または2時間のバルス中に3ug/mlで刺激し、次にプールした。1ug/mlのPepmix培養でのDMSO濃度は0.4%であり、細胞傷害性は観察されなかった。3ug/mlのPepmixでパルスされたPBMCはインキュベート中に1.2%のDMSO濃度を有し、これを延長細胞培養の前に洗い流した。フローサイトメトリーを、T細胞増大の0、7、14、21、及びまたは28日目からのアリコートに対し実施した。0日目の凍結PBMC試料の抗体に染色して、出発細胞集団を特性決定した:生/死、総T細胞に対し抗CD3、CD8及びCD4サブセット、単球に対しCD14/CD4、NK細胞に対しCD56、ならびにB細胞に対しCD19。7日目に、培養物において、生/死、CD3、CD4、CD8、五量体(利用可能な場合)、CD45RO、CD45RA、CD197、CD137、CD25、CD62L、CD297に加えて、T細胞活性化/成熟のマーカーを染色した。14、21、及びまたは28日目に、細胞において、pepmixに対する細胞内サイトカイン応答を試験する。ICS染色カクテルは、生/死、CD3、CD4、CD45RO、CD45RA、CD62L、CD107a、TNFa、IFNg、及びIL-2から構成される。メモリーT細胞マーカーは、21日目または28日目に培養物上で評価する。メモリーT細胞染色カクテルは、生/死、CD3、CD4、CD8、CD45RO、CD45RA、CD197、CD28、CD122、CD127、CD183、CD95、及びCD62Lから構成される。
【0174】
細胞内サイトカイン染色:CD107a及びサイトカイン(TNFa、IFNg、IL-2)が、10%のヒトAB血清、1%のGlutamax、及び2ug/mlのPepmixまたは対照としてのDMSOを含む100ulの培地中の10~100万個の細胞を刺激する。100ulの培地に抗CD107a及び2ul/mlのGolgiStopを添加する。細胞を摂氏37度にて5時間インキュベートする。沈降させてペレット状細胞にし、上清を除去し、表面抗体で染色する。細胞を100ulの2%ホルムアルデヒドに再懸濁させ、摂氏4度にて終夜放置する(ホイルで覆う)。翌日、細胞をIntracellular Staining Perm Wash緩衝液(Biolegend)で2~3回洗浄する。サイトカインに対する所望の細胞内抗体で染色し、Perm Wash緩衝液で希釈し、暗中摂氏4度にて30分インキュベートする。Perm Wash緩衝液中で2~3回洗浄する。細胞を100ulの2%ホルムアルデヒドに再懸濁させてから、フローサイトメーターに試料を流し、または暗中摂氏4度にて保管する。
【0175】
結果:
【0176】
LMP1、LMP2、EBNA1 pepmixを用いてスモールスケールで培養した6名の正常なドナー(
図6a)及び別の2名の正常なドナー(
図6b)からのPBMCの評価からは、3つのサイトカインカクテル(KI:1000IU/mlのIL-2、10ng/mlのIL-15/IL-21;10ng/mlのIL7/15;10ng/mlのIL15単体)間で実質的な優位性が実証されなかった(
図6a)。第2のサイトカイン評価研究(
図6b)は、3つ全てのpepmixを含む場合(合計374のペプチド)と個別のpepmixの場合(LMP1 94ペプチド;LMP2 122ペプチド;EBNA1 158ペプチド)とのT細胞応答における相違も評価した。
図6bの矢印は、3つのpepmixは全て、両方のPBMCドナーに対する刺激に使用するとEBNA1に対する応答を阻害することを示している。LMP2に対する応答は、両方のドナーにおいてより低いが、活性の低下はEBNA1反応性で見られたものほど厳しいものではない。EBNA1を刺激するエピトープ(複数可)は、LMP1及びまたはLMP2 pepmixにおけるペプチドと競合しやすい。この結果は、PBMCを次にパルスするためにpepmixを個々に使用し、ペプチドを除去し、各抗原刺激のためにPBMCを合わせるT細胞増大プロトコルの変更を導いた。
【0177】
図6c及び6dは、LMP2 pepmixのみで刺激されたドナー109のPBMCの結果を示している。11日目に、T細胞培養物の79.0%が五量体B40:01-IEDPPFNSLに認識され、同様の抗原特異的反応性がCD107a、TNFa、及びIFNg発現の増加により検出された。高い抗原反応性に加えて、
図6dは、LMP2 pepmixで刺激されたドナー109のCD8+ T細胞が、CD45RAナイーブ細胞からCD45ROエフェクターメモリーT細胞に表現型を転換することを示している。もう1つのメモリーマーカーCD62L、ならびに活性化マーカーCD25及びCD137は、7~11日目の間の培養で明らかに上方制御されている。
図6e及び6fは、pepmixで個々に刺激した場合のドナー423及び915における全体的な応答を示している。したがってPBMCは、採取の前に、プロセススケールで個々に刺激され、次にプールされてもよい。ただし、この方法ではバッチサイズが3倍になり、作業負荷及びコストが増加する。さらなる開発については、PBMCを複数のpepmixで刺激するために「パルス」して次に「プール」する方法が選択された。
【0178】
実施例3 非ホジキンリンパ腫臨床試料のTダイレクトスモールスケール増大。
【0179】
実験手順:
【0180】
フローサイトメトリー:標準的なフローサイトメトリー手順に従って、200,000個の細胞を抗体パネルで染色した。
【0181】
PBMCパネル:生/死、CD3、CD4、CD8、CD14、CD56、CD19。
【0182】
細胞内サイトカイン発現:生/死、CD3、CD4、CD8、CD45RO、CD45RA、CD107a、TNFa、IFNg、IL-2。
【0183】
T細胞活性化パネル:抗原特異的五量体、生/死染色、CD3、CD4、CD8、CD56、CD45RA、CD45RO、CD25、CD62L、CD137、CD197、及びCD279。
【0184】
T細胞メモリーパネル:生/死、CD3、CD4、CD8、CD45RO、CD45RA、CD197、CD28、CD122、CD127、CD183、CD95、及びCD62L。
【0185】
スモールスケール増大プロトコル:0日目に、2つのバイアルのNHL凍結PBMC(HemaCare、ドナーNHL 14103815)を、CTL抗凝集溶液を用いて、製造業者のプロトコルに従って解凍した。細胞を洗浄し、CellGro DC培地(CellGenix)+10%のヒトAB血清(Corning)+1%のGlutaMax(Gibco)に再懸濁させ、計数ならびにPBMC及びT細胞活性化パネルを用いたFACS解析のためにアリコートを取り出した。およそ200万個のPBMCを、3μg/mLのLMP1、LMP2、またはEBNA1 Pepmixで、37Cにて2時間パルスした。インキュベート時間の後、細胞を洗浄し、再懸濁させ、次に2mlの総体積についてプールし、GREX 24ウェルプレート(Wilson Wolf)の1ウェルに移した。サイトカインを、28日の培養のために、最終濃度10ng/mlのIL-7/IL-15または1000IU/mlのIL-2、10ng/mlのIL-15/21(KIサイトカイン)に添加した。7日目に、細胞を再懸濁させ、計数し、T細胞パネル(生/死、CD3、CD4、CD8、五量体(利用可能な場合)、CD45RO、CD45RA、CD197、CD137、CD25、CD62L、CD297)を用いて活性化マーカーについて染色した。培養物を、新たな凍結PBMCを用いて0日目の刺激プロトコルを繰り返すことにより再刺激し、次に7日目の培養物と合わせた(合計4ml)。培養物に、2~3日ごとにサイトカインを含有する新鮮培地を供給した。
【0186】
14日目に、培養物を、各培養物のアリコートを(i)DMSO、(ii)LMP1 Pepmix、(iii)LMP2 Pepmix、または(iv)EBNA1 Pepmixで再刺激することにより、細胞内サイトカイン染色により解析した。残りの14日目の培養物(約6mL)は、24ウェルプレートからGRex-10またはGRex 6ウェルプレートに移す。細胞培養物に、IL-7及びIL-15を含有する5mlのサイトカイン培地を供給し、次に250μL(25μl/ml)のImmunoCult CD3/CD28/CD2ヒトT細胞活性化物質(Stemcell Technologies)を添加した。15日目と18日目に、細胞培養物にサイトカイン培地を供給した。21日目に、試料において、細胞内サイトカイン発現を再試験した。28日目は培養の最終日であり、試料において、フローサイトメトリーにより、T細胞活性化パネル、T細胞メモリーパネル、及び細胞内サイトカイン発現を試験した。残りの試料を採取し、凍結保存した。
【0187】
結果:
【0188】
NHL試料のHemaCare、ドナーNHL 14103815を、2つの異なるサイトカインカクテル(10ng/mlのIL-7/IL-15または1000IU/mlのIL-2、10ng/mlのIL-15/21(KIサイトカイン))を用いて、ポリクローナルT細胞活性物質ImmunoCult CD3/CD28/CD2のありまたはなしで、合計28日間培養した。28日目の採取時における細胞の状態を評価したところ、CD3/CD28/CD2ポリクローナル刺激と組み合わせたIL7/15サイトカインカクテルは最良のプロファイル:>97%のCD3+(
図7a)で細胞を生成し、刺激に応答してCD107a発現を増加させた(LMP1:10.7%、LMP2:1.42%、EBNA1:0.77%、DMSO:0.49%)。
図7b。IL-7/15サイトカイン対KIサイトカイン、そしてCD3/CD28/CD2ポリクローナル刺激の添加からは、明確な成長の優位性が観察されなかった。しかし、CD3/CD28/CD2ポリクローナル刺激再導入の追加的な利益が28日目のメモリー染色において見られ、潜在的メモリー細胞のパーセンテージは、CD197及び他のマーカーの発現により測定されたように、CD3/CD28/CD2の存在下で増加した。
図7c。
【0189】
ステージ1濾胞性リンパ腫を有する患者からのもう1つのNHL試料を、同じIL-7/15及びImmunoCult CD3/CD28/CD2ポリクローナル刺激を用いて合計28日間培養した。
図7dは、このプロトコルが、LMP1(7.91%)、LMP2(26.0%)、及びEBNA1(5.09)と首尾よく特異的T細胞を増大させることを示した(DMSO対照0.91%)。サブドミナント潜伏型抗原LMP1、LMP2、及びEBNA1に特異的なT細胞は、樹状細胞を用いた刺激の必要なく、PBMCから直接増大することができる。このプロセスの利点は、樹状細胞及びウイルスが最大限にT細胞を刺激する必要がないことであり、また多数のT細胞の製造(>10億個)に対し線形的にスケーラブルであるはずである。
【0190】
実施例4 正常なドナーのPBMCのTダイレクトプロセススケール増大
【0191】
実験手順:
【0192】
Tダイレクト生産スケールプロトコル(収量>20億個の細胞):pepmixを100μlのCryoMACS GMPグレードDMSO(Miltenyi Biotec)に溶解し、完全に溶解させた(目視)。凍結保存されたPBMCをCTL抗凝集溶液を用いて解凍し、血清フリーRPMI-1640で2回洗浄した。細胞を、生産培地(CellGenix GMP DC培地、10%のAccess BiologicalsヒトAB血清、1%のGlutamax)中1,000万個/mlにて再懸濁させた。600~1,000万個のPBMCを、生産培地中1~5ug/mlにおけるそれぞれのpepmixを用いて、37℃にて2時間刺激した。インキュベート後、細胞を洗浄し、各pepmixで刺激された培養物を新たな生産培地に再懸濁させ、次に15mlの総体積に合わせ、GREX10培養容器に移した。IL-7及びIL-15サイトカインを添加して、10ng/mlの最終濃度にした。
【0193】
培養下で7日後、細胞を計数し、T細胞活性化パネル(抗原特異的五量体、生/死染色、CD3、CD4、CD8、CD56、CD45RA、CD45RO、CD25、CD62L、CD137、CD197、及びCD279)を用いて、フローサイトメトリーにより免疫表現型を決定した。細胞において、生/死、CD3+、及びCD137+CD25+ T細胞のパーセンテージをゲーティングし、抗原応答の代理マーカーとして評価した。0日目の刺激プロトコルを同じドナーのPBMC(15ml)を用いて繰り返し、7日目の培養物に、10ng/mlのIL-7及びIL-15を追加した生産培地中30mlの最終体積について添加した。培地を、培養物の目視に基づいて2~3日ごとに変えた。
【0194】
疎水性ペプチド配列は凝集して結晶を形成することが多く、細胞培養物のフィコール・ハイパック勾配における遠心分離により、または細胞濾過フィルターにより、14日目より前に除去されるべきである。代替的に、pepmixを希釈して生産培地中で適切な濃度にし、0.22ミクロンの無菌フィルターに通して不溶性のペプチド結晶の大部分を除去した。
【0195】
14日目に、培養物において、細胞表面活性化マーカーのCD107a、TNFa、IFNg、及びIL-2向けの細胞内サイトカイン染色により、抗原特異的反応性を試験した。細胞を再懸濁させて100万細胞/ml(典型的には、この段階において1億個の細胞)の濃度にし、GREX100M(1リットル容量)に移し、CD3/CD28/CD2 ImmunocultヒトT細胞活性化物質(StemCell Technologies)で刺激した。10ng/mlのIL-7及びIL-15を含む新たな生産培地を2~3日ごとに添加した。28日目に細胞を採取し、CD3細胞の%(>70%)及び無菌性について出荷試験を実施した。採取した材料をCryoStor 10に再懸濁させ、50mlのバッグ(Miltenyi Biotec)または低温バイアル(Corning)内で凍結させた。
【0196】
細胞傷害性アッセイ:LDH細胞傷害性検出キット。細胞傷害性Tリンパ球(CTL)において、PHA培養の最後の24時間の間にDMSOまたは特異的なpepmixでパルスされた自己T細胞芽細胞に対する特異的細胞傷害性を試験した。抗原特異的なT細胞エフェクター細胞における細胞媒介の細胞傷害性を、LDH細胞傷害性検出キット(Takara、カタログ番号MK401)を用いて測定した。自己PBMCをPHAで刺激して、T細胞芽細胞を生成した。T細胞芽細胞を、DMSOまたは特異的なpepmixで終夜パルスし、採取し、死細胞を除去し(ClioCell磁気ビーズ)、血清フリー培地にウェル当たり10,000細胞にてプレーティングした。21日目または28日目の産物からのエフェクターを採取し、フローサイトメトリーにより抗原反応性の特性決定を行い(細胞内サイトカイン染色)、次に標的のアッセイの準備ができるまで凍結した。アッセイは、エフェクター細胞の数に応じて5:1~20:1の範囲のエフェクター:標的(E:T)比でセットアップした。アッセイを6時間インキュベートし、上清を採取し、キットプロトコルを用いてLDH酵素活性の増加を測定した。
【0197】
結果:
【0198】
正常で健康なドナーのPBMCからのT細胞増大を、プロセススケールと考えられるスケールで実施した。
図2は、当該プロセスの重要なステップの概要を説明する概略図である。多数のEBV特異的T細胞を増大させるための過去の方法と比較すると、本明細書に記載の方法は単純明快であり、なおかつ有効である。28日目の採取における細胞数収量は、20億個を上回る生細胞で、CD3の%は>95%であった。産物は主としてCD8+(63%)であり、総CD3集団の12.5%がCCR7を発現し、CD3細胞の過半数がケモカイン輸送受容体CXCR3を発現した。
図8a。28日後、T細胞はCD107aを上方制御し、3つのpepmix抗原全てに応答してTNFa、IFNg、及びIL2を産生した(
図8b)。
図8cは、損傷細胞からのLDHを測定する非放射性細胞障害アッセイを用いて、20:1、10:1、及び5:1のエフェクター:標的比におけるドナー109 T細胞増大産物による、標的(LMP2またはEBNA1 pepmixで装填されたT細胞芽細胞)に対する用量依存性選択的殺滅を示している。
【0199】
実施例5 Tセレクトプロセス
【0200】
実験手順:
【0201】
Tセレクトプロセスは、既知の抗原(ウイルスタンパク質、過剰発現した細胞タンパク質、変異した細胞タンパク質、ペプチド)で刺激されたT増大培養物からの低存在量のT細胞の無菌細胞選別を伴う。T細胞を刺激する方法は、細胞が7日目から11日目の間に活性化(CD137及びCD25)について選別され、サイトカインを含有する培地を用いた培養に戻すことを除いて、実施例3に示される増大プロセスと同一である。抗原反応性(抗原に対する細胞内サイトカイン応答により判定)が、細胞選別及び培養の後に依然5%を下回る場合、CD3/CD28/CD2 ImmunocultヒトT細胞活性化物質試薬を使用する。
【0202】
活性化されたPBMCを選択されたpepmixで刺激し、CD137+CD25+CD8 T細胞のレベルを特性決定し、次にMacsQuant Tyto選別機(Miltenyi Biotec)上で選別し、IL7/15含有培地を用いた培養に戻した。細胞を、実施例4に記載の手順により特異的なpepmixで装填された自己T細胞芽細胞を殺滅するためのエフェクターとして使用した。
【0203】
結果:
【0204】
Gros et al.は、黒色腫患者の血液からの直接的ながんネオ抗原特異的T細胞の希少集団のキャプチャーを報告した(Gros et al.Nature Medicine:22,433-438,2016)。PD-1の発現は、末梢血における多様で患者特異的な抗腫瘍T細胞応答を同定した。PD-1に加えて、活性化または疲弊したT細胞の他のマーカーも、培養下で7日後に抗原特異的細胞の単離に使用することができた(
図9eを参照)。7日目の増大されたPBMCにおいて、CD137及びCD25を発現するT細胞の発現を評価した(
図9d)。CD3+CD137+CD25+集団を選別に使用し、前駆体頻度が極端に低い抗原反応T細胞について豊富化することができた。さらに、活性化マーカーの細胞選別による単離は、活性化T細胞のパーセンテージが7日目に5%を下回る場合、Tダイレクトの改善に適用することができた。7日目に、以下の個別の抗体または抗体の組合せを含むT細胞活性化パネルを用いて、細胞培養物を染色することになる:CD69、CD279(PD-1)、CD223(LAG3)、CD134(OX40)、CD183(CXCR3)、CD27(IL-7Ra)、CD137(4-1BB)、CD366(TIM3)、CD25(IL-2Ra)、CD80、CD152(CTLA-4)、CD28、CD278(IOS)、CD154(CD40L)、CD45RO。
【0205】
ドナー109のT細胞において、6日目及び8日目におけるCD137発現及びLMP2特異的五量体染色を評価した。五量体陽性CD8+ T細胞のパーセンテージは、CD137+CD25+についてゲーティングされた細胞と同様である。CD137+CD25+マーカーは抗原活性化T細胞集団を示し、このマーカーは、T細胞培養物からまたは直接患者血液からの抗原特異的T細胞の単離に使用することができる。ドナー109の7日目の培養物をTyto(Miltenyi Biotec)上で選別し、当該材料は>90%の純度、良好な生存能、回収率、及び選別後の形態を示した(
図9f及び9g)。選別された細胞は、IL7/15サイトカインを含有する培地中で増大され、標的としてのペプチド装填T細胞芽細胞に対する選択的な細胞傷害性を示した(
図9h)。
【0206】
ステージIV神経膠芽細胞腫及び膵臓癌のPBMC:PBMCを、スモールスケールで、KIサイトカインカクテル(100IU/mlのIL-2、10ng/mlのIL15/IL21)ならびにCMVpp65、NYESO-1、及びサバイビン向けの個別のpepmixを用いて培養した。抗原活性化T細胞の存在を、フローサイトメトリーを用いてCD137+CD25+CD8 T細胞の検出により評価した。CMVpp65特異的T細胞は、両方のドナーにおいて優勢であった。GBMの14日目の培養物において、細胞内サイトカイン染色によりTNFa産生量を解析し、細胞腫瘍抗原のNYESO-1及びサバイビンに対する応答はバックグラウンドを3.6倍上回るに過ぎなかった。NYESO-1及びサバイビンの集団は、膵臓がんの14日目の培養物のバックグラウンドを7~9倍上回った。
【0207】
実施例6 T細胞の選択及び増大プロトコルで使用するためのネオ抗原の同定及び選択。
【0208】
以下の実施例は、神経膠芽細胞腫及び他のがんに対し反応性である抗原限定のT細胞集団の生成に使用するための、ネオ抗原の選択について記載する。当該実施例は、神経膠芽細胞腫を標的化する免疫療法向けの腫瘍関連抗原の発現解析と、ネオ抗原特異的ペプチドを選択するためのゲノミクス及び腫瘍進化の使用とについて詳述する。本明細書では、個人的なネオ抗原(各患者に特異的)と、共有されたネオ抗原(すなわち、2名以上の患者からの腫瘍において、及び2つ以上の腫瘍タイプにおいて変異する遺伝子)との両方を例示する。そのため、ゲノミクス/腫瘍進化/バイオインフォマティクスを用いての、神経膠芽細胞腫における腫瘍関連抗原の検証は例示的なものであり、発明者らは他のがんにおいても同じアプローチを使用している。
【0209】
このような変異は、当該腫瘍にのみ特異的な発現タンパク質内の変異スポットにおける点変異または組換えであり、好ましくは原発及び再発(局所性及び/または転移性)内で共有された変異であり、より好ましくは当該腫瘍内の全て/ほとんどのがん細胞におけるものである。ゲノミクスアプローチにより選択されるこのようなペプチドは、個別に選び出し、(正味MHCまたはMHC結合及び/またはT細胞アッセイを用いて)結合についてさらに試験する必要があり得る。最も好ましくは、使用されるネオ抗原が、当該変異体に反応性であるが標的患者内の通常の(野生型)タンパク質には反応性ではないT細胞のみを増大させることを実証したい。
【0210】
本明細書におけるネオ抗原は、腫瘍のタイプ(例えば、神経膠腫または神経膠芽細胞腫)を代表する候補抗原のパネル、そしてpan-cancerパネルさえも提供する。このようなパネルが血液からのこのような変異のシークエンシング及び同定によりアラインメントされ得る程度において、血漿中の循環DNAのシークエンシングを用いて血液中の抗原を同定し、次に同じ患者からの血液からのPBMCからT細胞を成長させることができる。
【0211】
この実施例のためのある特定のデータは、The Cancer Genome Atlas(TCGA) Glioblastoma project(Cell 2013 Oct 10;155(2):462-77で発表)(参照により本明細書に組み込まれる)に由来する。この研究は580名の患者からのゲノムデータを提供した。次世代シークエンシングは291サンプルにおいて行われた。
【0212】
第1のステップは、数名の患者において反復的に変異する遺伝子を抽出することである。予想以上に変異している腫瘍において役割を有する遺伝子(ドライバー遺伝子)は、MutSig(Broad,Nature 499,214-218(2013))、MutComfocal(Columbia U.,Nature Genetics 2013)を含めたいくつかのツールを用いて見いだすことができる。標準的なMutsig解析を上記のコホートで用いて、11の遺伝子を同定した(PIK3R1 PTEN TP53 EGFR IDH1 BRAF PIK3CA RB1 NF1 PDGFRA LZTR1)。これらの遺伝子における点変異はGBM事例の70%で生じる。
図10及び下の表を参照。
【0213】
【0214】
図10は変異頻度を示している。各カラムは1人の患者である。2番目のカラムは、全GBM患者における変異の頻度である。例えば、1番目の患者は、PIK3R、PTEN、p53、及びRBにおいて変異を有する。これらの変異は独立しておらず、1人の患者がこれらの遺伝子にいくつかの改変を有する可能性は考えられる。このような関連性は、これらの遺伝子の一部において統計的に妥当である。発現タンパク質のみが抗原をもたらすことができたため、この変異解析は、発現タンパク質をもたらす点変異に対象を絞る。例えば、P53、IDH1、ならびに一緒に変異しているATRX及びCDK2aの間には関連性がある。しかし、ATRX及びCDK2aは変異欠失であるため、発明者らの解析には含めない。しかし、上記の対は発現した点変異であり、相互関連により、両方のネオ抗原は、同じ腫瘍内でTダイレクトまたはTセレクトを用いて直ちに標的化され得る。融合タンパク質も標的となり得る。標的として存在する1つの有用な融合タンパク質は、EGFR/TAC-3(NKB)である。この変異は常に同じところで起こり、神経膠芽細胞腫の3~5%に存在する組換えホットスポットであり、早期現象ドライバー現象(early event-driver event)と思われる(腫瘍全体に拡散)。EGFR/CEP14のような他の融合は腫瘍の8%に高発現するが、後期現象及びサブクローナルであるため、最適な標的ではない。
【0215】
次に、発症患者における変異がどのように選択遺伝子に分布しているかを調べる。
図11のBRAFを参照すると、顕著で集中的なホットスポットがあることから、良好な予備ネオ抗原候補標的となる。しかし、これは神経膠腫患者のごく一部(成人神経膠腫の<2%)にしか存在しない。しかし、存在する場合は極めて保存的な標的をもたらす。同様に、黒色腫の大部分(40~50%)はBRAF変異を示し、白血病(例えば、40%の毛様細胞白血病)もBRAF変異を有する。また、この変異は、結腸直腸癌(10%のBRAF変異)、肺及び乳頭様甲状腺癌にも存在し、ある特定の脳腫瘍もこれを有する(毛様細胞性星状細胞腫の10~15%、小児びまん性浸潤性神経膠腫、未分化星状細胞腫、及び神経膠芽細胞腫の5~10%、ならびに神経節膠腫の30%~60%)。
【0216】
図11はネオ抗原候補EGFRも示している。289のホットスポットが散在する変異がこれを有用な標的としている。
図11は、ネオ抗原IDH1が発明者らのT細胞療法に最適な標的であることも示している。IDH1 R132G/Hは常に同じ(極めて保存的なホットスポット)であり、ファウンダー現象であるため、原発及び再発ならびに本幹-全分岐の初期で見られる。この変異は、神経膠芽細胞腫の5~10%及び低グレード神経膠腫の70%で見られる。また、AML、末梢性T細胞リンパ腫、及び急性PML、ならびに前悪性への移行に関連することがある一部の脊髄形成異常症(MDS)でも見られる。低グレード神経膠腫及び神経膠芽細胞腫におけるIDH1変異は、より良好な予後との相互関連がある。
図11は、LZTR1も示している。これは有用なネオ抗原であり、標的化された変異はペプチドの複数の領域を代表し、重複または連続する断片はT細胞をプライミングするために使用される。逆に、ネオ抗原NFIについては、変異の多くが切断タンパク質に寄与するため、T細胞応答の生成に有用な抗原ではない。
図11を参照。ネオ抗原PDGFRAは全体にわたり変異を有する。
図11を参照。E229Kは有用な標的であり、患者の約2%に存在する。
図11の対応するパネルに示されているように、PIK3CAは標的化に良好なネオ抗原である。E545 A/Kは、神経膠腫及び神経膠芽細胞腫患者の5%に存在するホットスポットである。
図11は、PIK3R1がG376Rホットスポットに基づいて良好なネオ抗原標的であることも示しており、G376Rは患者の約4%に存在する。
図11はネオ抗原PTENも示している。PTENは、その長さによる高頻度の変異を有するが、ストップコドンを創出する不活性化変異を多く示している。そのため、当該抗原が一般的であり、同様に変異している他のネオ抗原遺伝子との相互関連がある一方、他のネオ抗原ほどT細胞応答の創出に有用というわけではない。同様に、
図11が示すRB1は古典的な腫瘍サプレッサーであるが、その変異は不活性化的(切断的)であるため、ネオ抗原ほど極めて有用というわけではない。
図11はネオ抗原TP53を示している。TP53は、多くの形態のがんで変異している。R282WならびにR175H、R248L/W、及び他の3つのような複数のホットスポットがこれを有用なネオ抗原にしている。
【0217】
次に、上記の遺伝子内で変異ホットスポットを選択する。一部はストップコドンを含有するため、全てのホットスポットが以下に報告されているわけではない。発明者らは、合計17のアミノ酸変化を伴う8つのネオ抗原ホットスポットを選択した:BRAF:V600E;EGFR:A289I A289N A289T A289V;IDH1:R132G R132H;NF1:L844F L844P;PDGFRA:E229K;PIK3CA:E545A E545K;PIK3R1:G376R;TP53:R175H R248L R248W R282W。選択されたネオ抗原及び変異ホットスポットは、コホートにおける291名中58名(20%)の神経膠芽細胞腫患者を網羅しており、少なくとも1つは患者のMHCに結合するが、野生型タンパク質と交差反応するT細胞を生成しない。一部の患者は、2つ以上の変異を有する(例えば、1名の患者がIDH1及びEGFRの両方の変異を有する)。組換えペプチドEGFR/TAC-3(NKB)もこの点変異のパネルに追加できると思われる。
図12を参照。
【0218】
これらの変異を網羅する25~30merのペプチド、及び野生の正常配列を網羅する対応ペプチドセット、すなわち、2つの17ペプチド混合物を生成し、その一方は変異を代表し、他方は付随する野生型配列を代表する。次に、これらのペプチドを使用して、神経膠芽細胞腫患者の血液中のPBMCから得られたT細胞を増大させる。ICSインターフェロンガンマ/TNFもしくはCD107aまたは殺滅アッセイは、これらのネオ抗原変異に特異的なT細胞が首尾よく増大されたことを示している。上で論じられているように、IDH1以外の他の変異は生存期間との相互関連がない。
【0219】
好ましいネオ抗原は、選択された改変、すなわち、ファウンダー対後期現象に対する時間経過の安定性、及び発現との関連性を示す。ここで、神経膠芽細胞腫で選択されたホットスポットが、他の神経膠腫及び他の腫瘍タイプにおけるホットスポットと重複するかについて検証する。
【0220】
上記の変異の各々につき少なくとも1つのペプチドからなるカクテルは、低グレード神経膠腫の96%を網羅する(大部分はIDH1による)。神経膠腫全体の(panglioma)データを用いたより包括的なドライバー遺伝子のリストを用いて、より広範なリストが開発され得る。
【0221】
他の腫瘍においては、ネオ抗原と関連する変異ホットスポットとの同じ組合せが、BRAFにより100%の毛様細胞白血病、BRAFにより40%の黒色腫、いくつかのホットスポットにより7%の肺扁平上皮癌を網羅した。
【0222】
発明者らの方法を用いて、全がんのネオ抗原カクテルを生成することが可能である。これらはホットスポットで生じる反復性の点変異を反映しており、腫瘍進化における早期現象/ファウンダー現象(全ての分岐、原発、再発、転移で共有される)である組換えホットスポットで生じる融合タンパク質は、クローナルではなく、むしろ腫瘍内の全てのがん細胞に存在し、高発現されるものである。
【0223】
異なる腫瘍にわたってヒトのがんで見られる最も一般的な変異ホットスポットを公開データベースで検索し、41のがんタイプにおいて、100の最も一般的に変異したホットスポットの存在を解析した(
図13を参照)。これらのホットスポットを使用して、患者間で共有され、原発、再発、及び転移または血液中の循環腫瘍DNAの間で系統発生的に保存されている、ネオ抗原の新たなパネルを創出する。この事前合成されたネオ抗原ペプチドのパネルを用いてTダイレクト増大を実施して、ネオ抗原特異的T細胞を増大させる(4週間)。これは、ヒトのがんで見られる最も一般的な変異ホットスポットの解析である。これらの変異ホットスポットは、異なる腫瘍にわたってみられる。詳細には、Nature Biotechnology 34,155-163(2016)内の論文(参照により本明細書に組み込まれる)は、41のがんタイプにわたる11,119のヒトの腫瘍における変異ホットスポットを同定し、275の遺伝子において470の体細胞置換ホットスポットを同定した。