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特許7034983コラーゲン構築物、およびコラーゲン構築物を生成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】コラーゲン構築物、およびコラーゲン構築物を生成する方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/24 20060101AFI20220307BHJP
   D02G 3/10 20060101ALI20220307BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20220307BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
A61L27/24
D02G3/10
A61L27/50
A61F2/08
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019098397
(22)【出願日】2019-05-27
(62)【分割の表示】P 2017519247の分割
【原出願日】2015-10-12
(65)【公開番号】P2019177154
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2019-06-21
(31)【優先権主張番号】2014904065
(32)【優先日】2014-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】514316178
【氏名又は名称】オーソセル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ハオ・ツェン
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-509638(JP,A)
【文献】特表2008-511405(JP,A)
【文献】特表2003-500162(JP,A)
【文献】国際公開第2012/114707(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/185173(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
A61F 2/00
A61P 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のコラーゲン線維を含むコラーゲン膜から切断された複数の細長いストリップを含む腱または靭帯の補綴物のためのコラーゲン構築物であって、前記線維の大部分は共通の方向に、実質的に互いに平行に整列し、各ストリップはある長さを有し、
各ストリップが、それぞれのストリップの長さに沿って実質的に整列している複数のコラーゲン線維を含み、
前記ストリップが寄せ集まって、前記コラーゲン構築物を生成し、
各ストリップの少なくとも1つの前記コラーゲン線維が、それぞれのストリップの全長に沿って連続的に延び、
各ストリップの厚さが50μm~400μmであり、
ただし、前記靭帯の補綴物は前十字靭帯の補綴物を含まない、コラーゲン構築物。
【請求項2】
各ストリップの少なくとも50%の前記コラーゲン線維が、それぞれのストリップの全長に沿って連続的に延びる、請求項1に記載のコラーゲン構築物。
【請求項3】
各ストリップの少なくとも80%の前記コラーゲン線維が、それぞれのストリップの全長に沿って連続的に延びる、請求項2に記載のコラーゲン構築物。
【請求項4】
各ストリップの厚さが100μm~200μmである、請求項1~3に記載のコラーゲン構築物。
【請求項5】
各ストリップの幅が50μm~5mmである、請求項1~4の何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
【請求項6】
各ストリップの幅が1mm~3mmである、請求項5に記載のコラーゲン構築物。
【請求項7】
前記複数のストリップをまとめて編む、組む、織る、または捻って、1本以上のコラーゲン縄を形成する、請求項1~6の何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
【請求項8】
複数の前記コラーゲン縄をまとめて編む、組む、織る、または捻って、1本以上のコラーゲンケーブルを形成する、請求項7に記載のコラーゲン構築物。
【請求項9】
長さが0.5cm~50cmである、請求項1~8の何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
【請求項10】
長さが2cm~20cmである、請求項9に記載のコラーゲン構築物。
【請求項11】
断面積が0.002mm ~18mm である、請求項1~10の何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
【請求項12】
断面積が0.6mm ~2mm である、請求項1~11の何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
【請求項13】
破壊されずに、またはいかなる恒久的な変形もしくは損傷も負わずに、650Nの引張荷重に耐えることができる、請求項9~12の何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
【請求項14】
腱または靭帯の補綴物を含む、請求項1~13の何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
【請求項15】
(a)請求項1~14の何れか一項に記載のコラーゲン構築物、および(b)前記コラーゲン構築物を封入する無菌包装体を含み、ただし、前記靭帯は前十字靭帯を含まない、腱または靭帯の置換のための医療用キット。
【発明の詳細な説明】
【分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン構築物、およびコラーゲン構築物を生成する方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、腱および靭帯、たとえば断裂した前十字靭帯(ACL)と置換するために用いられる、紐状または縄状のコラーゲン構築物に関する。
【背景】
【0003】
靭帯は、異なる臓器または組織を接合し、骨同士をつなぐ、特殊な結合軟部組織である。骨同士をつなぐ場合、靭帯は、骨の自然な動きを可能にするのに十分な可撓性により関節の安定性をもたらすが、かかった力に対する抵抗を防ぐための強度と非伸張性もある。腱は、筋肉と骨を接合し、張力に耐え得る。加えて、腱は、運動中、受動的に力を調節し、能動的な働きをせずにさらなる安定性をもたらす。弾性特性により、腱は高効率でエネルギーを貯蔵、回復することが可能となる。腱および靭帯において、コラーゲン線維束は、プロテオグリカン成分で構成された接合マトリクスに埋め込まれている。これらコラーゲン線維束は、荷重負担要素をもたらす。腱では、コラーゲン線維は、ほぼ平行な編成で配列されており、ゆえに高い一方向性の荷重に耐え得る。靭帯では、コラーゲン線維は、それ程には平行ではない編成で配列されており、したがって一方向で主要な引張応力に耐え、他の方向ではより小さい応力に耐え得る。
【0004】
毎年、何十万もの人が、特に膝、肩、および足首の靭帯を捻挫する、引き裂く、もしくは断裂し、または上下肢の、特に肩、膝、足、および足首の、腱の傷害に悩まされている。これらのタイプの傷害に影響を受けることが多いこうした靭帯の1つは、膝の前十字靭帯(ACL)である。ACLは、前方への脛骨の移動に対する主要な安定部として、また外反-内反の膝のくの字姿勢に対する副次的な安定部として働き、スポーツ傷害や交通事故に関わる屈曲-回旋-外反の力から生じる断裂または引き裂きを、多くの場合受けやすい。断裂または引き裂きは、多くの場合、下記のような結果をもたらす:可動性の重度の制限;疼痛および不快感;ならびに、スポーツや運動に参加できないこと。合衆国だけで200,000人余りが、毎年、ACLを引き裂きまたは断裂し、ACL再建術および長いリハビリのためにおよそ30億ドルのコストを掛けている。ACLは治癒能力が乏しいことが広く知られている。ACLが著しい引き裂きまたは断裂を受けた結果、関節が不安定になると、全体の外科的な置換および再建が必要となる。最も一般的な方法は、自家移植片としても知られている、患者自身の組織で引き裂かれた靭帯を置換することにより、引き裂かれたACLを再建することである。置換靭帯に対する他の選択肢として、同種移植片としても知られている、別の生体からのドナー組織、ならびに人工移植片が挙げられる。
【0005】
外科医は、コラーゲン線維、生分解性ポリマーおよびその複合物を含む靭帯構築物を検討してきた。人工移植片となった場合、移植材料は、時に、天然コラーゲン線維を直線状に配列することからなるが、この配列は多くの場合、断裂したまたは切り裂かれた腱の修復を困難にしている。また、修復の性質に応じて、その引張強度は最適ではない。したがって、特にACLのための置換材料は引き続き必要であり、これは外科的移植を可能とする適切な機械的強度および適切な物理特性の両方を有する。
【0006】
ここで任意の先行技術の刊行物を参照とする場合、こうした参照は、刊行物が任意の国での当該技術の一般常識の一部を形成することについての承認を与えるものではないことは理解されるべきである。
【概要】
【0007】
一側面において、
各々がある長さを持つ複数の細長いストリップを含むコラーゲン構築物であって、
各ストリップは、それぞれのストリップの長さに沿って実質的に整列した複数のコラーゲン線維を含み、
ストリップが寄せ集まって、コラーゲン構築物を生成している
コラーゲン構築物を提供する。
【0008】
各ストリップの少なくとも1つのコラーゲン線維は、それぞれのストリップの全長に沿って連続的に延びていてもよい。
【0009】
各ストリップの少なくとも50%、あるいは少なくとも80%のコラーゲン線維が、それぞれのストリップの全長に沿って連続的に延びていてもよい。
【0010】
一態様において、各ストリップの厚さは50μm~400μmであってもよい。別の態様において、各ストリップの厚さは100μm~200μmであってもよい。
【0011】
一態様において、各ストリップの幅は50μm~5mmであってもよい。別の態様において、各ストリップの幅は1mm~3mmである。
【0012】
複数のストリップをまとめて編む、組む、織る、または捻って、1本以上のコラーゲン縄を形成していてもよい。
【0013】
複数のコラーゲン縄をまとめて編む、組む、織る、または捻って、1本以上のコラーゲンケーブルを形成していてもよい。
【0014】
コラーゲン構築物の長さは0.5cm~50cmであってもよい。一態様において、コラーゲン構築物の長さは2cm~20cmであってもよい。
【0015】
コラーゲン構築物の断面積は0.002mm2~18mm2であってもよい。一態様において、コラーゲン構築物の断面積が0.6mm2~2mm2であってもよい。
【0016】
コラーゲン構築物は、破壊されずに、またはいかなる恒久的な変形もしくは損傷も負わずに、650Nの引張荷重に耐え得ていてもよい。
【0017】
コラーゲン構築物は、腱または靭帯の補綴物を含んでいてもよい。一態様において、補綴物が前十字靭帯の補綴物であってもよい。
【0018】
別の側面において、
a)多くのコラーゲン線維を含むコラーゲン膜を形成する工程であって、線維の大部分を共通の方向に、実質的に互いに平行に整列する工程;
b)共通の方向と実質的に平行に配向した切断線に沿って膜を切断し、それにより膜から細長いストリップを分離する工程;および
c)細長いストリップを寄せ集めて、コラーゲン構築物を形成する工程
を含む、コラーゲン構築物を生成する方法を提供する。
【0019】
方法は、アセトンで膜を処理し、その後、膜を乾燥させ、それにより配向の揃ったコラーゲン線維を固定する工程を含んでいてもよい。
【0020】
方法は、少なくとも1つのコラーゲン線維がそれぞれのストリップの全長に沿って連続的に延びるのに十分な幅を、各ストリップが有するように、膜を切断することを含んでいてもよい。
【0021】
ストリップを集める工程は、複数のコラーゲンストリップをまとめて編む、組む、織る、捻る、または巻いて、コラーゲン縄を作製することを含んでいてもよい。
【0022】
方法は、コラーゲン縄の断面積が0.002mm2~18mm2となるように、十分なストリップを集めることを含んでいてもよい。
【0023】
方法は、十分なストリップを寄せ集め、前十字靭帯の補綴物として用いるのに十分なサイズのコラーゲン縄を作製することを含んでいてもよい。
【0024】
本発明は、無菌包装体に封入するここで記載のコラーゲン構築物を含む、前十字靭帯置換のための医療用キットを提供することまで及ぶ。
【0025】
本発明は、ここで記載のコラーゲン構築物、および、腱または靭帯、たとえば前十字靭帯の置換に用いられる、ここで記載の方法により生成されるコラーゲン構築物までさらに及ぶ。
【0026】
別の側面において、
ここで記載のコラーゲン構築物を用意すること;
コラーゲン構築物を移植し、前十字靭帯を増大、修復または置換すること;および
定位置でコラーゲン構築物を固定すること
を含む、部分的または完全な、前十字靭帯の引き裂きを修復する方法を提供する。
【0027】
本開示のさらに他の態様は、断裂した靭帯または腱、たとえば前十字靭帯(ACL)に対して、新規で代替的な置換を提供する、縄状の移植可能なコラーゲン構築物を目的としている。
【0028】
いくつかの態様において、移植可能なコラーゲン構築物は、まとめて編まれ、および/または織られた複数のコラーゲン線維から構築され、その結果、破壊されずに、またはいかなる恒久的な変形もしくは損傷も負わずに、650Nの最大引張荷重に耐え得る。一態様において、コラーゲン構築物の直径は≦10mmであり、断面積は約75~80mm2である。
【0029】
本発明のさらなる特徴、利点および詳細を、以下の態様の図面および詳細な説明を読むことで、当業者は認識するであろうし、こうした記載は本発明の例証に過ぎない。
【0030】
本発明は、これより、添付した概略図を参照に、例として記載する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、細長いストリップに切断されるように配列されたコラーゲン足場を示す。
図2図2は、100倍に拡大した、図1のコラーゲン足場の走査電子顕微鏡(SEM)像を示す。
図3図3は、図1のコラーゲン足場から切断された、引き延ばされたストリップから作製されたコラーゲン構築物を、コラーゲン縄の形で示す。
【具体的態様の詳細な説明】
【0032】
本発明は、これより、添付した図面を参照に、以下でより完全に記載し、この中で本発明の態様を示す。しかし、本発明は、多くの異なる形で具体化されてもよく、ここで明らかにする態様で制限されるように解釈すべきでない。むしろ、これらの態様は、本開示が徹底的で完全であり、当業者に本発明の範囲を完全に伝えるために提供される。
【0033】
似た数字は、終始、似た要素を指す。図において、特定の線、層、成分、要素または特徴の太さは、明確にするために誇張していてもよい。破線は、別段の定めがない限り、任意の特徴または操作を例示している。
【0034】
ここで使用する専門用語は、特定の態様のみを記載することを目的とし、本発明を制限することを意図していない。ここで使用する単数形「a」、「an」および「the」は、文脈から明らかに別のことを指示しない限り、複数形も含むことを意図する。用語「含む(comprises)」および/または「含む(comprising)」は、本明細書で使用する場合、明言された特徴、整数、工程、操作、要素、および/または成分の存在を特定するが、1つ以上の他の特徴、整数、工程、操作、要素、成分、および/またはその群の存在または追加を排除しないことをさらに理解されよう。
【0035】
ここで使用する用語「および/または」は、1つ以上の関連する列挙された項目のあらゆる組合せを含む。ここで使用する語句、たとえば「X~Y」および「約X~Y」は、XおよびYを含むと解釈されるべきである。ここで使用する語句、たとえば「約X~Y(between about X and Y)」は、「約X~約Y(between about X and about Y)」を意味する。ここで使用する語句、たとえば「約X~Y(from about X to Y)」は、「約X~約Y(from about X to about Y)」を意味する。
【0036】
別段の定義がない限り、ここで使用する全ての用語(技術的および科学的用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者に普通に理解されるものと同様の意味を有する。用語、たとえば普通に使用される辞書で定義されたものは、本明細書の文脈および関連技術における意味と矛盾しない意味を有するものと解釈されるべきであり、ここで明確に定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されるべきでないことをさらに理解されよう。周知の機能または構造は、簡潔さおよび/または明確さのために、詳細に記載されないこともある。
【0037】
要素が、別の要素の「上に」、それに「付着した」、それに「接合された」、それに「連結された」、それに「接触する」等であると言及される場合、直接、その別の要素の上に、それに付着して、それに接合して、それに連結されて、もしくはそれに接触することができ、または介在する要素も存在していてもよいことは理解されよう。これに対して、要素が、たとえば、別の要素の「直接上に」、それに「直接付着した」、それに「直接接合された」、それに「直接連結された」、それに「直接接触する」と言及される場合、介在する要素は存在しない。別の特徴に「隣接して」配置された構造または特徴への言及は、隣接する特徴と重複するまたはその下にある部分を有していてもよいことも、当業者は認識できよう。
【0038】
用語、第1、第2等が、様々な要素、成分、領域、層、および/または断片を記載するためにここで使用していてもよいが、これらの要素、成分、領域、層、および/または断片が、これらの用語で制限されるべきではないことは理解されよう。これらの用語は、1つの要素、成分、領域、層、または断片を、別の領域、層または断片と区別する場合のみ使用される。したがって、後で考察される第1の要素、成分、領域、層、または断片は、本発明の教示から逸脱せずに、第2の要素、成分、領域、層、または断片と表現されることができる。操作(または工程)の順序は、別段具体的な指示がない限り、請求項または図面に存在する順に制限されない。
【0039】
用語「移植片」および「補綴物」および「構築物」は、ここで互換的に使用され、(獣医学または医学(ヒト)への適用のため)哺乳類の対象の(少なくとも一部分の)天然の腱または天然の靭帯と置換するように形成されたコラーゲン縄または紐の形で移植可能なコラーゲン構築物を示す。靭帯は前十字靭帯であり得る。用語「移植可能な」は、コラーゲン構築物が、患者の体表または体内に、挿入され、埋め込まれ、移植され、または、さもなければ慢性的につながれ、もしくは設置され得ることを意味する。
【0040】
ここで使用する用語「コラーゲン構築物」は、コラーゲンを含む材料を指す。コラーゲン構築物は、使用するための完成形もしくは最終形、または未完成性もしくは前最終形であり得る。コラーゲン構築物は、自然なコラーゲン、自然なコラーゲン組織、合成コラーゲン、および/またはこれらの任意の組合せを含み得る。ここで使用する用語「合成コラーゲン」は、自然発生的な状態から、コラーゲン線維の細長い線維または束に、形成された、または化学的および/もしくは物理的に変更されたコラーゲン材料を指す。一態様において、コラーゲン材料は、WO2013/185173に記載の方法によって生成されたコラーゲン膜から得られ得る。他の態様において、コラーゲンは、非変性コラーゲン、たとえば、腱または皮膚からの、全体または細分化された本来のコラーゲン線維であり得る。
【0041】
例証的なコラーゲン構築物として、制限されないが、コード、捻ったコード、ストリップ、編み紐、組み紐、織り、ケーブル、靭帯または腱の補綴物などに配列されたコラーゲン線維およびコラーゲン線維束が挙げられる。コラーゲン線維または線維束は、紡いで、捻って、織って、組んで、または編んで、それぞれの紡いだ、捻った、織った、組んだ、または編んだコラーゲン構築物を画定し得る。
【0042】
コラーゲン線維は、絡み合って右旋三重らせんを形成する、3本のポリペプチド鎖から構成される。各コラーゲンポリペプチド鎖は、α鎖と命名され、グリシン、プロリンおよびヒドロキシプロリンが豊富である。コラーゲンの異なるタイプに相当する、いくつかの異なるα鎖あるいはこれらα鎖の異なる組合せが存在する。いくつかの態様において、本発明のコラーゲン膜は、I型コラーゲンを含む。I型コラーゲンは、2本のα1鎖と1本のα2鎖から構成される。
【0043】
いくつかの態様において、コラーゲン線維または束は、ソースから単離された密性結合組織からもたらされる。ここで使用する用語「密性結合組織」は、全哺乳類の腱、靭帯および真皮で見られる、I型コラーゲン線維または束を主に含むマトリクスを指す。密性結合組織は「疎性結合組織」と異なる。疎性結合組織は、疎性的に配列された線維および多量の細胞によって特徴づけられ、たとえば、体表を覆う上皮下に存在し、内臓を裏打ちする。
【0044】
いくつかの態様において、本発明は、80%超のI型コラーゲンを含むコラーゲン膜を提供する。他の態様において、コラーゲン膜は、少なくとも85%のI型コラーゲンを含む。さらに他の態様において、コラーゲン膜は、90%超のI型コラーゲンを含む。
【0045】
コラーゲン「細線維」、「原線維」、「線維」および「自然な線維」は、靭帯で見られる自然発生的な構造を指す。細線維の直径は、約3.5~50nmである。原線維の直径は、約50nm~50μmである。自然な線維の直径は、50μm超である。いくつかの態様において、線維および/またはコラーゲン構築物は、細胞、操作された細胞、幹細胞など、ならびに上記の組合せを含有し得る。
【0046】
用語「縫合糸」は、コラーゲン構築物を標的の解剖学的構造につなぎ、体内の位置へのコラーゲン構築物の固定を助けるのに用いる、可撓性の細長い材料を指す。縫合糸は、再吸収性または非再吸収性で、合成または天然であってもよい。縫合糸は、少なくとも約1週間の移植後の最初の期間、位置に移植片を固定するために形成され得るが、恒久的に体内にとどまっていてもよく、また、上に指摘したように、実質的に経時的な再吸収性であってもよい。縫合糸は、標的の構造、典型的には骨および/または組織に、移植片の一部を固定する、またはつなぐために用いられ得る、単一フィラメントまたは多重フィラメント(で編まれた)糸、フロス、テグス、もしくはワイヤー、またはそれらの組合せであってもよい。縫合糸は、再吸収性または非再吸収性の生体適合性材料を含んでいてもよい。縫合糸材料の例として、エラストマー材料、たとえばVicryl(商標)を含む、ポリマー、コポリマー、および/またはそれらの誘導体、ならびに、NITINOLを含む他の材料、ならびにそれらの組合せが挙げられる。縫合糸は、縫合糸アンカー(骨または組織アンカー)と用いていてもよい。
【0047】
用語「可撓性」は、いわゆる部材が曲げられ、または折られ得ることを意味する。
【0048】
用語「編まれた」および「織られた」ならびにそれらの派生語は、手動、または自動で、織ること、編むこと、編みもの、および/または結ぶことならびにこれらの、または他の連結した、もしくは織り合わせた構造の組合せを含む、複数の、典型的には3本以上の線維または線維束を、任意の方法で、まとめて編む、ならびに/または織り(交ぜる)、織り合わせるおよび/もしくは連結することを意味する。
【0049】
図1を参照すると、コラーゲン膜12を含むコラーゲン足場10が示されている。膜12は、膜12全体をストリップ14のように切断するまでか、十分なストリップ14が得られるまでかのどちらかで、それぞれの細長いストリップ14を繰返し切断できる実質的に平坦なウェブまたはシートの形である。こうした切断は、通常、レーザー切断機を用いて行われるが、従来の機械的な切断機または鋏を用いても行われる。
【0050】
膜12は、平面図で見る場合、長方形であることが示されるが、膜12は、任意の他の幾何形状、たとえば円、楕円、または台形を提供し得ることは認識されよう。膜12の特定の形状は、膜12が得られるソースに依存していてもよい。ここで使用する用語「ソース」は、任意の哺乳類の密性結合組織を含有する任意のコラーゲン組織を指す。いくつかの態様において、密性結合組織を含有する組織は腱である。腱は、哺乳類の筋肉と骨を接合する組織である。いくつかの態様において、コラーゲン含有組織は、限定されないが、ヒツジ、ウシ、ブタ、またはヒトを含む任意の哺乳動物から単離されていてもよい。他の態様において、コラーゲン含有組織はヒトから単離される。
【0051】
例示的な態様において、膜12は、WO2013/185173に記載の方法により生成される。
【0052】
膜12は、断片から全ての非コラーゲン組織を除去するために処理した、ブタの内臓の内側から得られた組織片を含有するコラーゲンを含む。最初の処理で、全ての脂肪組織は、物理的に組織片から除去され、次に、組織片は、化学的処理を受け、非コラーゲンタンパク質を編成させた。その後、組織片を遠心分離、洗浄して、組織片から残液と核酸を除去した。組織片を枠上で延ばして、断面の厚さを減らし、所望の厚さの膜12を得た。膜12の厚さは、コラーゲン構築物の意図された用途、たとえば、膜12から形成されるコラーゲン構築物の必要な直径によって選択され、たとえば断裂した前十字靭帯(ACL)を置換するために用いられ得る。一態様において、膜12の厚さは、50μm~400μmである。別の態様において、膜12の厚さは、100μm~200μmである。またさらなる態様において、膜12の厚さは、約100μmである。
【0053】
膜12は、アセトンで処理し、枠で延ばしている間に風乾し得、その結果、その中のコラーゲン線維および線維束は、それらの自然な配列で固定される。しかし、それらの自然な配列でコラーゲン線維を固定する他の方法たとえば膜12のアルカリ性-酸性処理も可能であることは認識されよう。次に、膜12は、圧縮し、および/または、回転させ、膜12の対向面上に平滑面を形成し得る。
【0054】
図2は、膜12の走査電子顕微鏡(SEM)像(100倍)を示す。膜12は多くの線維16を含み、その大部分が、共通の方向に互いに実質的に整列していることが分かる。線維16の多くは、互いに実質的に平行であってもよい。見て分かるように、線維16の整列によって、紙のシートで見出されるのと同様な、明らかな微視的粒子を有する膜12が生じる。線維16は、より小さい線維または原線維に分岐し得、これは互いにまたは他の線維16と組み換え得る。したがって、線維16は、膜12において連結したウェブを形成する。多くの細線維および/または原線維20は、線維16から横方向に突出し、これが、膜12のウェブの連結を補助する。
【0055】
膜12からストリップ14を切断する場合、膜12が切断される切断線18の方向または配向には、微視的粒子が整列している、すなわち、線維16が延びている方向と一致している。切断線18は、図2で、破線で表している。切断線18は、互いに比較的近くに位置しており、約250μmの間隔しかないことが図2で示されているが、近接する切断線18は様々な程度の間隔をとって、所望の幅のストリップ14を生成し得ることは認識されよう。一態様において、ストリップ14の幅は、50μm~5mmである。別の態様において、ストリップ14の幅は、1mm~3mmである。また別の態様において、ストリップ14の幅は、約2mmである。このように、それぞれのストリップ14は、ストリップ14の全長に沿って連続的に延びている少なくともいくつかの線維16を含むことになる。いくつかの態様において、ストリップ14の幅の選択と、切断線18の配列の選択が、ストリップ14の少なくとも50%の線維16がストリップ14の全長に沿って連続的に延びるように行われる。別の態様において、ストリップ14の少なくとも80%の線維16は、その全長に沿って連続的に沿う。さらにさらなる態様において、ストリップ14の少なくとも90%の線維16は、その全長に沿って連続的に沿う。
【0056】
いくつかの態様において、ストリップ14は単一の線維16を含むように切断できることは認識されよう。
【0057】
1つ以上のストリップ14は、その後、コラーゲン構築物を形成するように集められる。こうして集める前に、ストリップ14は、任意に、それらの長さに沿って、すなわち、線維16の配列と平行な向きに回転させ、円柱または筒形を形成していてもよい。あるいは、ストリップ14は、捻る、または紡いで、引き延ばされた糸を形成し得る。図3で示される一態様において、ストリップ14は、まとめて編んで、コラーゲン縄22の形でコラーゲン構築物を形成する。編み紐は、比較的きつい編み紐であり、比較的厳密な円柱構造のコラーゲン縄22を形成し得る。あるいは、編み紐は、低い構造剛性であり、ゆえによりしなやかさをもたらす比較的ゆるい編み紐であり得る。きつい編み紐またはゆるい編み紐の選択は、腱または靭帯の置換を必要とする患者の身体の目標位置、および示される必要のある必須の機械的特性に依存するであろう。いくつかの態様において、ゆるい編み紐または組み紐パターンは、コラーゲン縄22を曲げるまたは引っ張る間、隣接するストリップ14からの当接圧により、ストリップ14内の剪断力を下げるのが好ましい。
【0058】
いくつかの態様において、コラーゲン縄22は、まとめて編む3つ以上のストリップ14を含み得る。他の態様において、コラーゲン縄22は、1つに組む3つ以上のストリップ14を含み得る。コラーゲン縄22よりさらに厚い結果として生じるコラーゲン構築物を有することを所望する場合、多重コラーゲン縄22は、まとめて編むまたは組んで、コラーゲンケーブルを形成し得る。
【0059】
いくつかの態様において、コラーゲン縄22の長さは、0.5~50cmであり、典型的には約1~25cmであり、いくつかの態様においては、約2~20cmである。いくつかの態様において、コラーゲン縄22の断面積は、約0.002~6mm2であり得、典型的には約0.6~2mm2であり得る。いくつかの態様において、コラーゲンケーブルの断面積は、約1~18mm2であり得る。一態様において、コラーゲン構築物の直径は≦10mmであり、断面積は約75~80mm2である。いくつかの態様において、コラーゲン縄22またはコラーゲンケーブルは、破壊されずに、またはいかなる恒久的な変形もしくは損傷も負わずに、650Nの最大引張荷重に耐え得る。ここで使用する用語「最大引張荷重」は、コラーゲン縄が耐え得る最大引張荷重を指す。荷重対伸張曲線上で、これは曲線上のピーク荷重によって表される。
【0060】
コラーゲン縄22は、ゲルまたは他の材料を任意に含み得る、たとえば、それで被覆、含浸、および/または混合し得る。被覆は、線維芽細胞を増進する、および/または、1つ以上の抗炎症剤、抗生物質または他の治療剤を含むように配置してもよい。
【0061】
コラーゲン縄22は、生体適合性であり、経時的に、吸収され、再吸収され、および/または、生分解性であってもよい。
【0062】
コラーゲン縄22は、自然な腱または靭帯、たとえば、自然な前十字靭帯(ACL)に対応する、同様のまたはより強い、引張強度、剛性および動的な屈曲性を有するように形成され得る。本開示の態様は、断裂していてもよい腱および靭帯、特にACLの増大、修復または置換に特に適する。こうした場合、コラーゲン縄22は、ACLを画定するように形成し、大きさを決め、および形作られる。任意に、コラーゲン縄22は、1つ以上の縫合糸、縫合糸アンカー、骨アンカー、骨孔などを用いて、患者に移植され得る。典型的には、コラーゲン縄22は、修復部位に移植され、当業者に公知の従来の任意の手段、たとえば、縫合、縫合糸アンカー、骨固定装置および骨または生分解性ポリマーのスクリューで定位置に固定されることになる。
【0063】
コラーゲン縄22は、ACL置換のための医療用キット中に提供し得る。医療用キットは、上記の移植可能なコラーゲン構築物、およびコラーゲン構築物をその中に密封して封入した無菌包装体を含む。
【0064】
上記は、本発明の例証であり、それを制限するように解釈すべきでない。少数の本発明の例示的な態様を記載してきたが、当業者なら、本発明の新規の教示および利点から大きく逸脱せずに、多くの改変が例示的な態様において可能であることは、容易に認識されよう。したがって、全てのこうした改変は、請求項に定義されたように本発明の範囲内に含まれることを意図される。本発明は、ここに含まれる請求項と同等である、以下の請求項により定義される。
【0065】
本発明の、以下の請求項および先行する記載において、文脈で特別な言語または必要な含蓄により別段の必要性がある以外、単語「含む(comprise)」または変化形、たとえば「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」は、包含的に、すなわち、言明した特徴の存在を明示するが、本発明の様々な態様におけるさらなる特徴の存在または追加は排除しないで、使用される。
以下に、本発明の実施態様を付記する。
[1]
各々がある長さを持つ複数の細長いストリップを含むコラーゲン構築物であって、
各ストリップが、それぞれのストリップの長さに沿って実質的に整列している複数のコラーゲン線維を含み、
前記ストリップが寄せ集まって、前記コラーゲン構築物を生成している、コラーゲン構築物。
[2]
各ストリップの少なくとも1つの前記コラーゲン線維が、それぞれのストリップの全長に沿って連続的に延びる、[1]に記載のコラーゲン構築物。
[3]
各ストリップの少なくとも50%の前記コラーゲン線維が、それぞれのストリップの全長に沿って連続的に延びる、[1]または[2]に記載のコラーゲン構築物。
[4]
各ストリップの少なくとも80%の前記コラーゲン線維が、それぞれのストリップの全長に沿って連続的に延びる、[3]に記載のコラーゲン構築物。
[5]
各ストリップの厚さが50μm~400μmである、先行する何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
[6]
各ストリップの厚さが100μm~200μmである、[5]に記載のコラーゲン構築物。
[7]
各ストリップの幅が50μm~5mmである、先行する何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
[8]
各ストリップの幅が1mm~3mmである、[7]に記載のコラーゲン構築物。
[9]
前記複数のストリップをまとめて編む、組む、織る、または捻って、1本以上のコラーゲン縄を形成する、先行する何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
[10]
複数の前記コラーゲン縄をまとめて編む、組む、織る、または捻って、1本以上のコラーゲンケーブルを形成する、[9]に記載のコラーゲン構築物。
[11]
長さが0.5cm~50cmである、先行する何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
[12]
長さが2cm~20cmである、[11]に記載のコラーゲン構築物。
[13]
断面積が0.002mm 2 ~18mm 2 である、先行する何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
[14]
断面積が0.6mm 2 ~2mm 2 である、先行する何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
[15]
破壊されずに、またはいかなる恒久的な変形もしくは損傷も負わずに、650Nの引張荷重に耐えることができる、[11]~[15]の何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
[16]
腱または靭帯の補綴物を含む、先行する何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
[17]
前記補綴物が前十字靭帯の補綴物である、[16]に記載のコラーゲン構築物。
[18]
a)多くのコラーゲン線維を含むコラーゲン膜を形成する工程であって、前記線維の大部分を共通の方向に、互いに平行に実質的に整列する工程、
b)共通の方向と実質的に平行に配向した切断線に沿って前記膜を切断し、それにより前記膜から細長いストリップを分離する工程、および
c)前記細長いストリップを寄せ集めて、前記コラーゲン構築物を形成する工程
を含む、コラーゲン構築物を生成する方法。
[19]
前記膜をアセトンで処理し、その後、前記膜を乾燥させ、それにより配向の揃った前記コラーゲン線維を固定する工程を含む、[18]に記載の方法。
[20]
少なくとも1つの前記コラーゲン線維がそれぞれのストリップの全長に沿って連続的に延びるのに十分な幅を、各ストリップが有するように、前記膜を切断することを含む、[18]または[19]に記載の方法。
[21]
前記ストリップを集める工程が、複数のコラーゲンストリップをまとめて編む、組む、織る、捻る、または巻いて、コラーゲン縄を作製することを含む、[18]~[20]の何れか一項に記載の方法。
[22]
前記コラーゲン縄の断面積が0.002mm 2 ~18mm 2 となるように、十分なストリップを集めることを含む、[21]に記載の方法。
[23]
前記ストリップを集める工程が、十分なストリップを寄せ集めて、前十字靭帯の補綴物として用いるのに十分なサイズのコラーゲン縄を作製することを含む、[18]~[22]の何れか一項に記載の方法。
[24]
(a)[1]~[17]の何れか一項に記載のコラーゲン構築物、および(b)前記コラーゲン構築物を封入する無菌包装体を含む、前十字靭帯置換のための医療用キット。
[25]
腱または靭帯の修復に用いられる、[1]~[17]の何れか一項に記載のコラーゲン構築物。
[26]
腱または靭帯の修復に用いられる、[18]~[23]の何れか一項に記載の方法により生成される、コラーゲン構築物。
[27]
[1]~[17]の何れか一項に記載のコラーゲン構築物を用意すること、
前記コラーゲン構築物を移植して、前十字靭帯を増大、修復または置換すること、および定位置で前記コラーゲン構築物を固定すること
を含む、部分的または完全な、前十字靭帯の引き裂きを修復する方法。
図1
図2
図3