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特許7035006多孔性固体材料がクローズドセルを含む、セルロースナノファイバー(CNF)を含む多孔性固体材料の薬物担体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】多孔性固体材料がクローズドセルを含む、セルロースナノファイバー(CNF)を含む多孔性固体材料の薬物担体
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/38 20060101AFI20220307BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 9/68 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20220307BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220307BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20220307BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220307BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20220307BHJP
【FI】
A61K47/38
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/68
A61K9/06
A61K9/70 401
A61K8/02
A61K8/73
A23L5/00 N
A23L29/00
A23L33/10
A23L33/125
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019500461
(86)(22)【出願日】2017-07-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-18
(86)【国際出願番号】 SE2017050765
(87)【国際公開番号】W WO2018009139
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】1651018-2
(32)【優先日】2016-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】513148369
【氏名又は名称】セルテック アーベー
(73)【特許権者】
【識別番号】513232222
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ・オブ・コペンハーゲン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・ユスティーナ・ハンネル
(72)【発明者】
【氏名】コルビニアン・レープマン
(72)【発明者】
【氏名】アネッテ・ミュラツ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・バー-シャロム
(72)【発明者】
【氏名】ラース-エリック・ヴォグベリ
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-533296(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068787(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/068771(WO,A1)
【文献】特表2015-523443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61K 8/00- 8/99
A23L 5/00-29/10
A23L 31/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの活性物質の制御放出のための構造物であって、前記構造物が、少なくとも、前記活性物質と、セルロースナノファイバー(CNF)を含む多孔性固体材料とを含み、前記構造物が、1000kg/m3未満の密度を有し、前記多孔性固体材料のセルの総体積の50%超が、クローズドセルである、構造物。
【請求項2】
前記制御放出が、遅延放出、持続放出、迅速放出又はバースト放出である、請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記制御放出が、持続放出である、請求項2に記載の構造物。
【請求項4】
前記多孔性固体材料が、前記活性物質のための賦形剤として使用される、請求項1から3のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項5】
前記多孔性固体材料が、コーティングとして使用される、請求項1から4のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項6】
前記活性物質が、薬学的に許容される薬剤、触媒、化学試薬、栄養素、食品成分、酵素、殺細菌剤、殺虫剤、殺真菌剤、消毒薬、香料、風味剤、肥料及び微量栄養素から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項7】
前記活性物質が、薬学的に許容される薬剤である、請求項1から6のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項8】
前記薬学的に許容される薬剤が、治療的、予防的、及び診断的に活性な物質である、請求項7に記載の構造物。
【請求項9】
前記薬学的に許容される薬剤の、経口投与、局所投与、経皮投与、皮下投与、腔内投与及び鼻腔内投与のいずれか1つから選択される投与のための、請求項8に記載の構造物。
【請求項10】
錠剤、ピル、トローチ剤、カプセル、顆粒、サシェ、チューインガム、層状構造物、注射可能な薬物担体、ゲル、経皮パッチ、生体接着剤、足場、デバイス及びインプラントのいずれか1つから選択される形態である、請求項1から9のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項11】
浮遊型薬物送達構造物である、請求項1から10のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項12】
頬粘膜薬物送達構造物である、請求項1から10のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の構造物を調製する方法であって、
a)水性溶媒中にCNFを含む分散物を用意する工程、
b)(a)の分散物に少なくとも1つの活性物質を添加して混合物を得る工程、
c)(b)で得られた混合物から湿式フォームを調製する工程であって、前記湿式フォームが、発泡前の前記混合物の密度の98%未満の密度を有する、工程、及び
d)(c)で得られた湿式フォームを乾燥させて、多孔性固体材料と少なくとも1つの活性物質とを含む構造物を得る工
を含む、方法。
【請求項14】
前記活性物質が、薬学的に許容される薬剤である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
セルロースナノファイバー(CNF)のクローズドセルと少なくとも1つの活性物質とを含む請求項1に記載の多孔性固体材料の、前記活性物質の制御放出のための組成物における使用。
【請求項16】
医薬組成物、医療器具、化粧品、パーソナルケア、家庭用用途、食品科学用途、獣医学的医療用組成物、工業用途又は農業における使用のための、請求項1から12のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項17】
治療法における使用のための、請求項1から12のいずれか一項に記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性物質の制御放出のための構造物であって、活性物質と、セルロースナノファイバー(CNF)又は修飾CNFを含む多孔性固体材料(cellular solid material)とを含む構造物、構造物を調製する方法、及び前記活性物質の制御放出のための構造物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
活性物質の制御放出により、時間的、空間的、又はその両方の意味において、前記成分の放出が所望の効果を奏するように調整される。この概念は、医療、農業、工業的プロセス、パーソナルケア、家庭用品、栄養及び食品、栄養補助食品、獣医学用製品及び他の用途等の、活性物質の制御放出が求められる様々な分野で適用できる。薬物の場合、制御放出は、薬物の薬物動態を変化させるために用いる。薬学的活性物質の放出を制御することによって、薬物放出が予測でき、又は投与頻度を少なくすることができるため、患者コンプライアンス及び安全性を改善できる。短い生物学的半減期を有する薬物にとり、制御放出は、それが薬物のバイオアベイラビリティを改善しうるという点で特に重要である。薬物送達の制御は、作用を長期化させ、また治療的ウインドウにおける薬物レベルの維持につながることもあり、また時間の関数としての血液中の薬物濃度を最適にし、その結果、薬物毒性による副作用が低下すると予想され、また薬物の浪費の抑制にもつながる。
【0003】
セルロース及びその誘導体は、医薬賦形剤として広く用いられている。種々のセルロースの中で、微結晶性セルロース(MCC)、カルボキシメチルセルロース及びその他は、例えば錠剤中の充填剤及び結合剤として等、固体剤形で一般的に用いられ、また架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロースナトリウム)は、医薬の製造においては崩壊剤として一般的に用いられる。エチルセルロースは、製薬業界において、修飾放出型の剤形におけるコーティング剤、風味固定剤、錠剤結合剤及び充填剤、塗膜形成剤として用いられる。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(別名ヒプロメロース)は、持続放出剤形用の放出速度制御用ポリマーとしても用いられている。
【0004】
セルロースは、地球上で最も豊富に存在する再生可能な天然ポリマーであり、工業的スケールで大量に用いられる。β-(1-4)-D-グルコピラノース繰り返し単位を有するセルロース鎖は、植物において、長いナノフィブリルとして束ねられており、植物の供給源に応じて5~30nmの断面径を有する。セルロース鎖は、水素結合により平行に配列されてシート状の構造を有することにより、約130GPaのヤング係数を有する結晶構造となる。これらの結晶ドメインは、天然セルロース(結晶形I)がかかる高い係数及び強さを有する理由となる。セルロース由来ナノフィブリル(CNF)は、ナノスケールでの材料工学用の構成単位として新規な分野を開拓したものである。これらの物質は、機械的破砕によって、パルプファイバーの細胞壁から放出させることができ(A.F.Turbakら、J Appl Polym Sci、1983年、37、815頁)、それはパルプファイバーの酵素的又は化学的な前処理により促進される(M. Henrikssonら、Eur Polym J、2007年、43、3434頁、T. Saitoら、Biomacromolecules、2007年、8、2485頁、及びM. Ghandapour、Biomacromolecules、2015年、16、3399~3410頁)。
【0005】
セルロースナノファイバー(CNF)を主成分とした薬物送達構造物は、研究が進行中の新規な概念である(Kolakovicら、International Journal of Pharmaceutics、2012年、430、47~55頁、Kolakovicら、Eur. J. Pharm. Biopharm. 2012年、82、308~315頁、Gaoら、ChemPlusChem 2014年、79、725~731頁)。Kolakovicらは、薬物をロードされたCNF微小粒子及びCNFフィルムを紹介している(国際公開第2013/072563号パンフレットを参照)。Valoらは、Eur. J. Pharm. Sci. 2013年、50、69~77頁において、薬物放出用の薬物ナノ粒子を含む冷凍乾燥CNFエアロゲルを調製している。
【0006】
Cervinら(Biomacromolecules、2013年、14、503~511頁)は、界面活性剤との組み合わせにおける、フォームのピカリング安定化のためのCNFの使用を示している。 国際公開第2014/011112号パンフレットは、カチオン性疎水性アミンの吸着による、疎水性化されたアニオン性CNFからの疎水性化された湿式フォームの調製を開示している。国際公開第2016/068771号パンフレット及び国際公開第2016/068787号パンフレットは、セルロースナノファイバー(CNF)と、アニオン界面活性剤又は非イオン性界面活性剤とを含む多孔性固体材料、並びにそれらの調製を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/072563号パンフレット
【文献】国際公開第2014/011112号パンフレット
【文献】国際公開第2016/068771号パンフレット
【文献】国際公開第2016/068787号パンフレット
【文献】国際公開第2005/014594号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【文献】A.F.Turbakら、J Appl Polym Sci、1983年、37、815頁
【文献】M. Henrikssonら、Eur Polym J、2007年、43、3434頁
【文献】T. Saitoら、Biomacromolecules、2007年、8、2485頁
【文献】M. Ghandapour、Biomacromolecules、2015年、16、3399~3410頁
【文献】Kolakovicら、International Journal of Pharmaceutics、2012年、430、47~55頁
【文献】Kolakovicら、Eur. J. Pharm. Biopharm. 2012年、82、308~315頁
【文献】Gaoら、ChemPlusChem 2014年、79、725~731頁
【文献】Valoら、Eur. J. Pharm. Sci. 2013年、50、69~77頁
【文献】Cervinら、Biomacromolecules、2013年、14、503~511頁
【文献】C. Aulinら、Biomacromolecules 2010年、11、872~882頁
【文献】Hasani, Mら、Cationic surface functionalization of cellulose nanocrystals. Soft Matter 2008年、4 (11)、2238~2244頁
【文献】L.H. Nielsenら、European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 85 (2013年) 942~951頁
【文献】K L obmannら、 Eur. J. Pharm. Biopharm. 2013年、85、873~881頁
【文献】M G Issaら、Dissolut. Technol. 2011年、18、6~13頁
【文献】S A Surwaseら、Molecular Pharmaceutics 2013年、10、4472~4480頁
【文献】C J Strachan、T. Rades、K. C. Gordon、Journal of Pharmacy and Pharmacology 2007年、59、261~269頁
【文献】Crank, J.、The mathematics of diffusion. 2d ed.; Clarendon Press: Oxford, Eng、1975年; p viii, 414頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、少なくとも1つの活性物質の制御放出のための構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、少なくとも1つの活性物質の制御放出のための構造物であり、構造物は、前記活性物質と、セルロースナノファイバー(CNF)を含む多孔性固体材料とを含み、構造物は、1000kg/m3未満の密度を有し、多孔性固体材料のセルの総体積の10%超は、クローズドセル(closed cells)である。
【0011】
本発明の別の態様は、少なくとも1つの活性物質の制御放出のための構造物を調製する方法であり、構造物は、前記活性物質と、セルロースナノファイバー(CNF)を含む多孔性固体材料とを含み、方法は、
a)水性溶媒中にCNFを含む分散物を用意する工程と、
b)(a)の分散物に少なくとも1つの活性物質を添加して混合物を得る工程と、
c)(b)で得られた混合物から湿式フォームを調製する工程であって、該湿式フォームが、発泡前の混合物の密度の98%未満の密度を有する、工程と、
d)(c)で得られた湿式フォームを乾燥させて、多孔性固体材料と少なくとも1つの活性物質とを含む構造物を得る工程と
を含む。
【0012】
本発明の更なる態様は、セルロースナノファイバー(CNF)及び少なくとも1つの活性物質を含む多孔性固体材料の、前記活性物質の制御放出のための構造物における使用である。
【0013】
本発明の更なる態様は、本発明に係る構造物の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】多孔性固体材料(7)の形成方法を例示する略図である。
図2】多孔性固体材料(1)の層の組合せから調製される層状組成物(4)、本発明の構造物、すなわち活性物質(2)を含む多孔性固体材料、及び乾燥後に多孔性固体材料層(1)に接着する湿式フォーム(3)を例示する。
図3】21重量%(図3a)、50重量%(図3b)のフロセミドをロードした、得られた多孔性固体材料の断面図、並びに、未溶解のフロセミド粒子を含む、異なる多孔性固体材料(それぞれ図3c及び図3d)のセル壁の拡大図を示す。
図4】ニートCNFフィルム、活性物質フロセミド、並びに21重量%及び50重量%のフロセミドを有する多孔性固体材料のFTIRスペクトルを示す。
図5】時間の関数としての、フロセミドサンプル(フロセミド(21重量%及び50重量%)をロードされた錠剤及び多孔性固体材料)の累積的な薬物放出を示す。
図6】多孔性固体材料の様々な厚さ及び形状、並びに多孔性固体材料(7)をロードしたカプセルの例を例示する。
図7】ニートCNF/ラウリン酸多孔性固体材料(a)の断面図、リボフラビンを14重量%ロードしたフィルム(b)、リボフラビンをそれぞれ14重量%(c)及び50重量%(d)ロードした多孔性固体材料、リボフラビン結晶(e)を有するセル壁の拡大図、並びにニートCNF/ラウリン酸多孔性固体材料(f)のセル壁の拡大図を示す。
図8】ニートCNFフィルム、活性物質リボフラビン、並びにそれぞれ14重量%及び50重量%のリボフラビンを有する多孔性固体材料のFTIRスペクトルを示す。
図9】純粋な結晶形状の活性物質インドメタシン(γ形状及びα形状)、及びアモルファスのインドメタシン(INDam)、ニートナノセルロースフィルム(CNF)、並びにそれぞれ21重量%(21%IND)及び51重量%のインドメタシン(51%IND)をロードしたナノセルロースフィルムのIRスペクトルを示す。21重量%のインドメタシンを有する多孔性固体材料のIRスペクトルは、21重量%のインドメタシンを有するフィルムのIRスペクトルと重複し、したがって、これらのIRスペクトルを1つのみ含める。
図10】(a)では、活性物質としてリボフラビンを含む、錠剤(「錠剤」)、フィルム(「フィルム」)、それぞれ14重量%(14%Ribo)及び50重量%のリボフラビン(50%Ribo)を含む薄型の多孔性固体材料、並びに14重量%のリボフラビン(「厚型多孔性固体、14%」)を含む厚型の多孔性固体材料、の各構造物の時間の関数としての累積的な薬物放出を示す。(b)では、いずれも14重量%のリボフラビンを含む、フィルム(「フィルム」)、並びに2つの異なる厚さの多孔性固体材料(薄型多孔性固体、14%Ribo、及び厚型多孔性固体、14%)における薬物放出を示す。
図11】様々な構造物からインドメタシンの放出を示す。図(a)では、21%のINDを含むフィルム(21%IND)、21%のINDを含む多孔性固体材料(多孔性固体)及び51%のINDを含むフィルム(51%IND)における、時間の関数としてのインドメタシンの累積的な薬物放出を示す。図(b)では、21%のINDを含むフィルム(21%IND)、21%のINDを含む多孔性固体材料(多孔性固体)、51%のINDを含むフィルム(51%IND)、INDアモルファス(INDamorph)並びに結晶形状(α形状)のINDにおける、時間の関数としてのインドメタシン(mg/cm2)の固有の溶解性を示す。
図12】時間(分)の関数としての、フィルムを通過したリボフラビンの総量(mg)を示す。実線は、実験データに最もフィットさせた曲線である。
図13】時間(分)の関数としての、多孔性固体材料を通過したリボフラビンの総量(mg)を示す。実線は、実験データに最もフィットさせた曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願において用いる全ての用語及び省略形は、特に明記しない限り、関連する技術の当業者が通常理解する意味を有するものと解釈する。しかしながら、明確化のため、一部の用語については以下に具体的に定義する。1つの態様及び/又は実施形態に係る部分に記載される本発明の実施形態、特徴又は利点は、本発明の他の全ての態様及び/又は実施形態にも適用できる点に留意すべきである。
【0016】
本明細書の用語「CNF」は、木材パルプから、又は例えば植物、被嚢類及び細菌からなる群から選択される他の供給源から、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-l-オキシル(TEMPO)で酸化させてTEMPO酸化型CNFとするか、又はカルボキシメチル化してカルボキシメチル化CNFとするか、又は、エンドグルカナーゼ等による酵素処理によって酵素処理されたCNFとする等の化学的前処理を行った後に、機械的粉砕によって遊離させたセルロースナノファイバーを指すものとして使用する。CNFは典型的には最も小さく2~100nmの範囲の直径を有する一方で、長さは数マイクロメートル(例えば最高10μm)であり得、したがって、CNFのアスペクト(長さと直径の比)比は非常に大きい。木材パルプ由来のCNFを使用することの利点は、豊富な木系セルロースの存在、並びにパルプ及び繊維の取扱い及び処理に関する既存の効率的なインフラストラクチャーが存在することである。
【0017】
本明細書全体における用語「多孔性固体材料」は、一緒にされたセルの集合体であって、セル壁が固体材料であるものを指すものとして用いる。セル壁は、セルの端部及び表面を含みうる。固体材料がセルの端部及び表面に含まれ、セルがその隣りから閉鎖される場合には、多孔性固体材料のセルはクローズドセルという。セル壁(すなわち固体材料)が端部のみに含まれ、セルが開いた表面を通じてそれらの隣りと連通する場合、材料のセルはオープンセルという。
【0018】
用語「賦形剤」は、本明細書において、例えば安定化の目的で、活性物質を含む製剤を増量する目的で(例えば増量剤、充填剤、希釈剤)、又は、最終的な剤形中の活性成分の治療的効果を高めるために、薬物の吸収性を強化し、粘性を低下させ、放出を制御し、又は溶解性を向上させる目的で、活性物質と一緒に製剤化される天然又は合成物質を指すものとして用いる。賦形剤は、製造プロセスにおいて、例えば予想される貯蔵期間における変性又は凝集の防止等のインビトロ安定性を高めることに加えて、例えば粉体の流動性又は非粘着特性を強化することによって、関連する活性物質の取り扱いを容易にするのに有用である場合もある。適切な賦形剤の選択はまた、投与経路及び剤形、並びに活性物質及び他の因子に依存する。
【0019】
本明細書で使用される用語「制御放出」、は、刺激又は時間に応じた活性物質の送達を含むことが意図される。かかる刺激の例としては、酵素、pH、光、温度、浸透圧、水分量、超音波、力、圧力及び崩壊作用の使用である。活性物質の制御放出とは、従来の剤形からの活性物質の即時放出よりも放出を遅延化させた放出プロファイルを意味するものとして通常理解されるが、活性物質を従来の剤形よりも迅速に標的部位に送達することで放出を強化することも含まれうる。用語は、強化された、又は迅速な放出、パルス放出、持続放出、長期的放出及び延長放出、並びに遅延放出を含む。活性物質の制御放出は、物質の作用を延長できるだけでなく、有効なウインドウにおいて活性物質のレベルを維持して、潜在的に有害でありうる物質の濃度ピークを迎えるのを回避し、該物質の効率を最大にすることもできる。
【0020】
本明細書の説明全体にわたり用いられる用語「持続放出」は、同じ経路により投与された従来の放出剤形よりも遅い、活性物質の放出を示す剤形を指すものとして用いる。薬物の持続放出製剤は、長期にわたる治療的ウインドウにおいて薬物濃度を維持することができ、それにより、従来の剤形と比較し、薬物投与の頻度を減少させることができる。本明細書における用語「遅延放出」とは、製剤がその標的部位に到達するまで、又は特定の時間、活性物質の放出を遅延させる製剤を指すものとして用いる。本明細書における用語「迅速放出(fast release)」又は「バースト放出」は、例えば口蓋を通じた摂取、又はガムの経口投与を通じて、投与後に、活性物質の迅速な放出を可能にする製剤を指すものとして用いる。例えば遅延バースト放出等の上記の組合せも考えられる。本明細書における用語「強化された放出」とは、活性物質のより完全な、又はより迅速な放出、例えば従来の剤形と比較し、剤形中に含まれる活性物質の全て又はほとんどの放出を可能にする製剤を指すものとして用いる。
【0021】
本発明による構造物は、幾つかの分野において使用することができ、例えば、医薬分野(例えば薬学的に許容される薬剤の放出、並びに医療器具)、工業用途(例えば発酵、触媒の放出、冷却剤の放出、又は例えば化学試薬の放出等の化学的反応)、食品科学用途(例えば機能性食品の成分の輸送及び放出)、家庭用品用途(例えば消毒薬、食器洗い用洗剤、食器洗い用錠剤、洗濯用洗剤及びエアーフレッシュナー)、パーソナルケア用途(例えば化粧品及び香水)、獣医学的用途、及び農業用途(例えば肥料、殺虫剤及び微量栄養の放出)が挙げられる。ゆえに、本発明の構造物において使用される活性物質は、特定の標的で、又は制御された速度で、又はその両方で、輸送され、また構造物から送達されて所望の効果を実現するか若しくは実現に向けて機能すべき物質である。
【0022】
活性物質は、小分子(例えば900ダルトン未満の分子量を有する分子)、巨大分子(例えば900ダルトン以上の分子量を有する分子)、バイオ医薬、又はビヒクル(例えばワクチン及び非特異的免疫応答エンハンサー用)から選択されうる。活性物質は、放出剤(例えば溶媒、体液及び組織だが、これに限定されない)への構造物の曝露の後で、多孔性固体材料中を拡散できなければならない。本発明に用いられる活性物質の例としては、薬学的に許容される薬剤、触媒、化学試薬、栄養成分、食品成分、酵素、殺細菌剤、殺虫剤、殺真菌剤、消毒薬、香料、風味剤、肥料及び微量栄養から選択されるものが挙げられる。好ましくは、活性物質は、薬学的に許容される薬剤である。薬学的に許容される薬剤は、治療的、予防的、及び診断的に活性な物質であってもよい。
【0023】
活性物質の相対量は、制御放出についての構造物の意図される使用に依存する。本発明による構造物は、構造物の総重量に対して算出される、90重量%以下、80重量%以下、又は50重量%以下の活性物質を含んでもよい。本発明による構造物は、構造物の総重量に対して算出される、少なくとも0.2重量%又は少なくとも0.5重量%の活性物質を含んでもよい。
【0024】
本発明で使用する多孔性固体材料は、賦形剤として、又は活性物質のコーティングとして使用してもよい。しかしながら、本発明による構造物は、多孔性固体材料に加えて更なる賦形剤を含んでもよい。
【0025】
本発明による多孔性固体材料において、またその製造方法において使用するCNFは、酵素処理されたCNF、TEMPO-CNF、リン酸官能化CNF、塩化グリシジルトリメチルアンモニウム官能化CNF、及びカルボキシメチル化CNFからなる群から選択されるセルロースナノファイバー、又は、これらのCNFの2つ以上の組合せであってもよい。これらのCNFは、本発明の構造物の調製の前処理において、又は後処理として、更に化学修飾されてもよい。本発明による多孔性固体材料において使用されるCNFは、アニオン性でもよく、カチオン性でもよく、又は非イオン性でもよい。
【0026】
本発明による構造物は、構造物の総重量に対して算出される、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%、少なくとも40重量%、少なくとも50重量%又は少なくとも60重量%のCNFを含んでもよい。構造物は、構造物の総重量に対して算出される、99.8重量%以下のCNF、99.5重量%以下のCNF、99重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、80重量%以下、又は70重量%以下のCNFを含んでもよい。
【0027】
本発明はこのように、活性物質の制御放出のための構造物に関し、該構造物は、少なくとも1つの活性物質と、セルロースナノファイバー(CNF)又は修飾CNFとを含む多孔性固体材料を含み、該構造物は、1000kg/m3未満の密度を有する。好ましい実施形態では、本発明による構造物は、500kg/m3未満、又は100kg/m3未満、又は50kg/m3未満の密度を有してもよい。多孔性固体材料の密度は、少なくとも1kg/m3又は少なくとも5kg/m3であってもよい。密度の低い構造物は、例えば胃液等の水性媒体において浮遊することができる。
【0028】
本発明による構造物は、浮遊型薬物送達構造物(floating drug delivery structure、FDDS)であってもよい。構造物は、浮遊型薬物送達構造物の一部であってもよい。浮遊型薬物送達構造物による利点は、それが活性物質の放出を標的部位で発生する(例えば消化管の規定の部位で)よう、更には、その標的部位における活性物質の放出速度を制御できるということである。典型的には、活性物質の胃内の滞留時間は平均1.5時間であり、また非常に可変的で、予測不可能である。ゆえに遅延放出のための構造物(すなわち胃内保持型の構造物)は、薬物のバイオアベイラビリティを改良できる。
【0029】
多孔性固体材料の多孔度とは、多孔性固体材料に存在する全セル(すなわち両方の閉鎖した及び開放セル)の総体積を表す。多孔性固体材料の多孔度(Φ)は、方程式〔1〕を使用することにより算出され、式中、ρは、本発明による多孔性固体材料の密度であり、ρcell wallは、セル壁の乾燥固体状態での密度である。乾燥固体状態のセルロースからなるセル壁の密度は、1.5g/cm3である。
【数1】
【0030】
本発明による構造物において使用される多孔性固体材料の多孔度は、少なくとも67%、又は少なくとも93%、又は少なくとも97%であってもよい。
【0031】
セル壁の理論的密度(ρcell wall)は、方程式〔2〕:
ρcell wall= vCNFρCNF + vactive subρactive sub 〔2〕
により算出され、vCNFは、CNFの体積分率であり、vactive sub(=1-vCNF)は、活性物質の体積分率である。ρCNFは、乾燥固体CNFの密度であり、ρactive subは活性物質の密度である。
【0032】
多孔性固体材料のセルの総体積に対するクローズドセルの比率は、体積パーセント(%VC)として表すことができ、方程式3:
【数2】
を用いて算出され、
mxは、一塊の既知の体積の多孔性固体材料(VCSM)に加えるのに必要な質量であって、(クローズドセルの存在のため最初は浮遊する)多孔性固体材料の該塊に水を浸漬させて水面下に保持するのに必要な外部からの質量であり、
m cell wallは、既知の体積の多孔性固体材料VCSMの乾燥部分におけるセル壁の質量であり、
ρwは、水の密度であり、
ρcell wallは、固体乾燥状態のセル壁の密度であり、
Φは、方程式〔1〕により算出される多孔性固体材料の多孔度である。
【0033】
測定は、好ましくは5×5×2cm(L*B*H)の寸法を有する、すなわち既知の50cm3の体積(VCSM)となる一塊の多孔性固体材料を用いて行うべきである。
【0034】
クローズドセルを含む多孔性固体材料は、セルがオープンセルであるか又はフィルム形状である構造物と比較して、構造物からの活性物質の持続放出をもたらす。本発明による構造物の多孔性固体材料のセルの総体積に対し、好ましくは10%超がクローズドセルである。より好ましくは、セルの総体積に対し、30%超、50%超又は90%超が、クローズドセルである。セルの直径又は最大断面長は、少なくとも10μm、少なくとも200μm又は少なくとも300μmでありうる。セルの直径又は最大断面長は、10000μm、又は5000μm、又は1000μm、又は800μm程度でありうる。
【0035】
賦形剤又はコーティングの構造は、封入される活性物質の放出プロファイルに影響を与える。本発明において、多孔性固体材料は、クローズドセルにトラップされた気泡の形状中に、非浸透性の物体を含む。かかる多孔性固体材料からの活性化合物の放出は、該気泡が、泡を囲んでいる多孔性材料を通って活性物質を拡散させるために長く、かつ蛇行する経路を提供するため、典型的には拡散により左右されると考えられる。したがって、多孔性固体材料を含まない同等の厚さを有する同様の構成のCNFフィルムと比較し、かかる材料による拡散はより遅い。修飾されていないCNFベースのフィルムは、乾燥状態では優れたバリア特性を有するが、これらの特性は、ナノファイバー間の強い水素結合の破壊のため、湿潤状態では、主にその乾燥状態での高いバリア特性が急速に失われ、封入された成分の急速な放出の原因となる。本発明で使用される多孔性固体材料による利点は、多孔性の構造物及び気泡が、溶解の間に保持されうるということである。CNFによる吸湿能力、並びに多孔性の構造物及び気泡が保持される能力は、フィルムによる拡散と比較し、CNF材料を通じた活性物質の拡散を変化させる。湿潤状態のCNF多孔性固体材料における活性物質の吸着、拡散及び放出動態は、このようにして制御されうる。更に、セル及び高い多孔性が保持されることは、浮遊能力を有する材料の提供にもつながる。
【0036】
製薬的な観点から、薬物の溶解特性をテーラーメイドすることは、それが薬物のバイオアベイラビリティ及び/又は薬物動態を改善しうるため、非常に重要な問題となりうる。薬物は、胃腸を移動する間、身体により吸収されるために十分に溶解し、満足な治療効果を奏することを必要とする。可溶性が十分でない物質の場合、このことは、例えばアモルファス形態の物質を調製する等、溶解又は分解を可能にする薬物送達ストラテジーより初めて実現できるのが通常である。しかしながら、多くのアモルファス物質は貯蔵の際に再び結晶化する。本発明のようなCNFを含む多孔性固体材料を含む構造物による利点は、貯蔵時にアモルファス形態の活性物質が再結晶せずに維持されうるということである。CNFを含む多孔性固体材料中の薬物の固体としての状態は、結晶質(様々な多形、溶媒和化合物、水和物、共晶及び塩)から、液晶、更にはアモルファス、又は様々な固体形状の組合せと多岐にわたる。
【0037】
吸収部位における長時間の放出は、可溶性が十分でない物質のバイオアベイラビリティを向上させうる。迅速放出型の製剤が有害作用を生じさせうるような狭い治療ウインドウにおいては、可溶性が十分でない薬物による遅延放出プロファイルは重要である場合がある。治療ウインドウとは、治療的有効投与量と、耐えられない副作用又は毒性をもたらす投与量との間の濃度範囲である。好ましくない効果を回避するため、かかる薬物は、1日に数回、少ない投与量において投与させるのが通常である。遅延放出製剤の使用により、製剤が胃腸を移動する数時間にわたる間で治療効果を奏する。一方では、迅速放出製剤は、多くの他の場合、例えば進行中の心筋梗塞又はてんかん発作の治療等、投与後に即時に薬物の作用を確実に生じさせる際に用いるのが望ましい。
【0038】
本発明による活性物質の制御放出のための構造物のセルロースナノファイバー(CNF)を含む多孔性固体材料を使用することによる利点は、該構造物が、従来産業的に用いられている紙製の運搬用構造物を使用して製造できるということである。固体剤形は、多孔性固体材料から所望の量の活性物質を含む適切なサイズの部分を個々に切り離すことによって容易に区分されうる。パーソナライズされた投与量は、製薬業界のみならず、患者に対する良好な薬物送達のためにも大変興味深いものである。
【0039】
本発明による、セルロースナノファイバー(CNF)の多孔性固体材料と、少なくとも1つの活性物質とを含む構造物は、エンベロープ等の層状集合体として、活性物質、粒子、多数粒子又は液体の放出に使用することができる。例えば、かかる集合体は、セルロースナノファイバー(CNF)と少なくとも1つの活性物質とを含む多孔性固体材料を含む構造物をコーティングする多孔性固体材料の1つ以上の層を、あたかもラビオリ構成のように含んでもよい。セルロースナノファイバー(CNF)の多孔性固体材料がエンベロープ等の層状集合体(4)として使用される本発明の実施形態を図2に示すが、そこでは、多孔性固体材料(1)の外層が、少なくとも1つの活性物質を含む一塊の固体多孔性材料(2)と、乾燥後に固体多孔性材料(1)と接着する湿式フォーム部分(3)とを含む中間層を被覆している。多孔性固体材料層、及び層状集合体中の活性物質の様々な組合せを使用することにより、活性物質の制御放出を更にテーラーメイドすることが可能となる。
【0040】
本発明の構造物においてCNFを含む多孔性固体材料を使用することにより、CNF及び対応する活性物質を含むフィルムと比較し、活性物質のより遅く、より良好な制御放出が可能となる。厚さを増加させることにより、フラットフィルムと比較し、材料の重量を増加させずに放出を長時間化することができる。多孔性固体材料において、活性物質は材料中のCNFベースのセル壁を拡散し、それにより放出速度が効率的に減少する。クローズドセル(例えば無傷の気泡)の存在のため、薬物が無傷の気泡中を拡散できず、セル壁を通じてのみ拡散できるため、蛇行した、長い拡散経路が形成され、それにより活性物質の見かけの拡散性が低下する。多孔性固体材料の外部表面上、又はその付近に位置する、活性物質を含む構造物は、前記活性物質を最初に即時放出により提供でき、それに続き、(多孔性固体材料に位置する)活性物質の遅延放出が行われるが、それは同じ成分であってもよく、又は異なる成分でもよい。更に、CNFの存在により、活性物質(例えばインドメタシン)の溶解性が増加しうる。
【0041】
例えば制御放出は、医薬用デバイス及び組成物、化粧品、パーソナルケア、家庭用品用途、食品科学用途、獣医学的用途、並びに農業用途において使用できる。医薬用デバイス及び組成物での用途は、薬学的活性物質の放出が主なものである。化粧品、パーソナルケア及び食品科学での用途は、香料又は風味剤の放出が主なものである。本発明による構造物において、制御放出は、遅延放出、持続放出、迅速放出又はバースト放出でありうる。迅速放出は、多孔性固体材料のセルをパンクさせることにより実施できる。例えば、封入された活性物質を口腔内で迅速に放出させるために、本発明による構造物を噛むことによって、かかるパンクを実施できる。好ましくは、本発明による構造物からの制御放出は、遅延放出又は持続放出、より好ましくは持続放出である。本発明による構造物は、吸収部位(すなわち胃及び上部腸管)における長期にわたる薬物送達能を有する、胃内保持的な薬物送達に使用できる。
【0042】
制御放出のための構造物は、例えば修飾及び長期放出剤形、胃内保持的な薬物送達、咀嚼の間多孔性固体材料が安定に維持される、多孔性固体材料の咀嚼による薬物送達、咀嚼の間多孔性固体材料が破壊される、多孔性固体材料の咀嚼による薬物送達、バイオ接着性の送達(例えば腸に連続的に薬物を放出する接着性フィルム/多孔性固体材料)、チューインガムの咀嚼代用物、及びサンドイッチ多孔性固体材料等による経口投与、例えば薬剤の迅速放出のための舌下投与、例えば長時間作用性の蚊よけ剤又は活性絆創膏等の経皮投与等の局所投与、(例えばベースラインのニコチン、抗炎症薬、鎮痛剤、広範囲な初回通過代謝能を有する薬物、吸収ウインドウの狭い薬物による)維持療法における長時間にわたる放出用の生体接着性(頬側)送達における、並びに、唾液刺激的、滑沢剤放出的な多孔性固体材料を用いた頬側投与、手術における連続的な抗生物質の放出、微生物により分解可能にすることによる結腸送達、膣内投与、直腸内投与、並びに鼻腔内投与等に使用できる。
【0043】
迅速放出製剤の本発明の具体的な投与方法の例は、例えば片頭痛の治療用薬剤、心臓病薬(例えばニトログリセリンの放出)、タンパク質、ワクチン、鎮痙剤、抗癌治療剤、癲癇、痛み又はパーキンソン病等の治療剤、又は、キック感を得るためのニコチンの迅速放出剤等の、迅速放出薬剤の舌下投与である。
【0044】
本発明の制御放出のための構造物は、多孔性固体材料の嚥下が容易であるため、小児科的な使用も可能である。多孔性固体材料は、唾液との接触により滑沢剤としての機能を生じさせ、錠剤の嚥下が困難な患者による薬物送達を容易にする。構造物は、嚥下がより容易である小型ユニットに切り分けることもできる。構造物は、食用のサシェとして提供することもできる。
【0045】
本発明による制御放出のための構造物は、例えば創傷、慢性創傷又は火傷の治療用の担体材料、石膏材料、創傷内部の凝固促進剤、及び抗生物質放出用の、ドレッシング(すなわち創傷包帯)において使用することもできる。本発明による構造物のための他の用途は、パーソナライズ医療における使用である。構造物は、コンベヤベルトにおいて製造でき、次に所望の量の活性物質を含むカスタムサイズに切り分けることが可能である。本発明による構造物の更なる用途は、味覚マスキングにおける使用であり、それは例えば小児科的及び獣医学的用途において有用である。かかる用途において、多孔性固体材料中の良好な風味成分の封入により、他の物質の風味をマスキングすることができる。
【0046】
本発明による構造物の用途の他の例としては、組織工学的な使用、香水(例えば香水サンプル用の長時間作用性の香水担体又は室内芳香剤)、フィルター素材(例えば濾過によるナノ粒子の精製、又は分子濾過器用)、消毒薬、並びに水族館及び水産養殖における抗菌処理が挙げられる。
【0047】
本発明による構造物は、薬学的活性物質の投与用に使用でき、薬学的活性物質の投与は、経口投与、頬粘膜投与等の局所投与、経皮投与、皮下投与、腔内投与(例えば子宮内投与、腹膜内投与、肋膜内投与又は膀胱内投与、好ましくは子宮内投与又は膀胱内投与)、直腸内投与、膣内投与、並びに鼻腔内投与のいずれか1つ、又はこれらの2つ以上の組合せから選択される。好ましくは、投与は、経口投与、局所投与、経皮投与、皮下投与、腔内投与、並びに鼻腔内投与のいずれか1つ、又はこれらの2つ以上の組合せから選択される。本発明による構造物は、頬粘膜薬物送達構造物であってもよい。
【0048】
剤形の形状は、制御放出、例えば浮遊デバイスの胃内滞留時間に影響を及ぼしうる。図6は、本発明による構造物の様々な使用例を示す。異なる厚みを有する多孔性固体材料(7)(図6a及び図6e)、例えばリング型又はスラブ型等の形状(図6a図6d及び図6e)、また薬物ロードを調製してもよい。薄型の多孔性固体材料(7)(図6a)の場合、柔軟性により、本発明による構造物を折り畳み、又は小型の状態に丸める(図6b)ことができ、それを嚥下に適するカプセル(13)の状態で送達することができる(図6c)。本発明による少なくとも1つの活性物質の制御放出のための構造物は、様々な構成において、例えば錠剤、ピル、トローチ剤(lozenge)、カプセル、顆粒、サシェ、チューインガム、サンドイッチ積層体等の層状構造物、注射可能な担体、ゲル、ローション剤、経皮パッチ、生体接着剤、長時間作用性の香水サンプル又は室内芳香剤用の担体等の足場(scaffold)、インプラント、並びにフィルター等の他のデバイスとして提供することができる。薬学的に許容される薬剤の制御放出のための好ましい構成は、錠剤、ピル、トローチ剤、カプセル、顆粒、サシェ、チューインガム、層状構造物、注射可能な薬物担体、ゲル、経皮パッチ、生体接着剤、足場、膣内リング等のデバイス、並びに体内又は体表面上の一時的な放出又は非一時的な放出用のインプラント等のインプラント、例えば避妊用インプラントから選択される。最終生成物は、シート状の多孔性固体材料又は押し出しプロファイルからカットされた一片、又は直接鋳型成形された一片として提供してもよい。更に、本発明による構造物は、コーティングを有する形態で提供してもよい。コーティングは、構造物の味覚をマスキングし、初回負荷量(すなわち投与後遅滞なく放出される別々の量の活性物質)を含有し、放出プロファイルを更に修飾し、構造物を保護し、活性物質が構造物から放出されうる露出表面を制限し、官能性(例えばテクスチャー又は口内における構造物の感触)を改良するものであってもよい。
【0049】
本発明は更に、セルロースナノファイバー(CNF)と、少なくとも1つの活性物質とを含む多孔性固体材料を含む、少なくとも1つの活性物質の制御放出のための構造物を調製する方法に関し、該方法は、
a)水性溶媒中にセルロースナノファイバー(CNF)を含む分散物を用意する工程と、
b)(a)の分散物に少なくとも1つの活性物質を添加して混合物を得る工程と、
c)(b)で得られた混合物から湿式フォームを調製する工程であって、該湿式フォームが、発泡前の混合物の密度の98%未満の密度を有する、工程と、
d)(c)で得られた湿式フォームを乾燥させて、多孔性固体材料と少なくとも1つの活性物質とを含む構造物を得る工程と
を含む。
【0050】
工程(a)の分散物のCNF濃度は、前記分散物の総重量に対して算出される、少なくとも0.0001重量%、少なくとも0.2重量%、少なくとも0.3重量%、少なくとも0.4重量%又は少なくとも0.5重量%であってもよい。分散物の総重量に対して算出される少なくとも1重量%のCNFの分散物を、本発明による方法で使用してもよい。より高いCNFの濃度を有する利点としては、湿式フォームを乾燥させる時間が減少するということがある。CNF分散物の粘度は、実質的にCNF濃度の増加により増加し、CNFの濃度の上限は、利用できる発泡手段(例えばミキサーの能力)に依存する。典型的には、工程(a)の分散物中のCNFの濃度は、前記分散物の総重量に対して算出される30重量%以下、又は10重量%以下のCNF、又は2重量%以下、又は1重量%以下のCNFであってもよい。
【0051】
工程(a)のCNF分散物の作製に使用される水性溶媒は、水、又は水と有機溶媒(例えばエタノール)との混合液であってもよい。かかる水及び有機溶媒の混合液は、水性溶媒の総重量に対して算出される、少なくとも0.1%、少なくとも3%、少なくとも10%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%又は少なくとも95%の含水量であってもよい。
【0052】
工程(a)又は(b)においては、活性物質に加え、1つ以上のアニオン性、カチオン性、又は非イオン性の界面活性剤を添加することも可能である。しかしながら、本発明による制御放出のための構造物を有する利点は、いかなる界面活性剤を添加することなく、多孔性固体材料を調製することができるということである。工程(c)の発泡の間に形成される気泡は、活性物質の存在及びCNFの固有の生理化学的性質のため、安定し、保持される。ある種の実施形態では、例えば、医薬品として承認申請しようとする構造物(例えば医薬組成物)を調製する方法においては、成分の数を最小化し、少数の成分のみ、又は十分に特徴付けられた成分のみを使用することが有利と考えられる。本発明の方法は、本発明に係る構造物の部分である多孔性固体材料中の泡を、最初に使用する同一の活性物質により安定化し、また、制御された形態において、同じ活性物質が得られた構造から後に放出されうるという利益を与えるものである。本発明による方法は、更なる成分(例えば可塑剤、架橋剤、無機若しくは有機ナノ粒子、粘土、セルロース、ナノクリスタル又はポリマー)の添加を必要としないにもかかわらず、例えば工業用途において、意図する使用に必要とされる特定の性質を提供するために、構造物の調製方法において、かかる成分を添加することができる。
【0053】
工程(b)において添加される活性物質(例えばインドメタシン、フロセミド及びラウリン酸ナトリウム塩)は、水性媒体に十分に溶解しなくてもよく、又は水溶性であってもよい。工程(b)において添加される活性物質は、薬学的に許容される薬剤、触媒、化学試薬、栄養素、食品成分、酵素、殺細菌剤、殺虫剤、殺真菌剤、消毒薬、香料、風味剤、肥料及び微量栄養素等から選択されうる。好ましくは、工程(b)において添加される活性物質は、薬学的に許容される薬剤である。複数の活性物質を工程(b)において添加してもよい。
【0054】
活性物質の添加とともに、1つ以上の賦形剤(例えば薬学的に許容される賦形剤)を、工程(b)において添加してもよい。(b)で得られた混合物の密度は、混合物中の成分の重量を混合物の体積で除算することにより算出される。
【0055】
工程(b)において得られた混合物にガスを導入することによって、方法の工程(c)の湿式フォームを調製できる。ガスは、例えば打撃、撹拌、振とう及びホイッピング等の混合工程、バブリング、又はフォーム形成に適する他のいずれかの手段により導入することができる。このように、ガスの存在下で、CNFと少なくとも1つの活性物質とを含む混合物を混合することにより、発泡させることができる。或いは、ガスの噴射、又は混合物への起泡剤の添加により発泡させることもできる。(c)において調製される湿式フォームの密度は、発泡前の混合物中の成分の重量を湿式フォームの体積で除算することにより算出される。工程(c)において、調製される湿式フォームに対し更なる活性物質(例えばリボフラビン)及び/又は1つ以上の賦形剤を添加することも可能である。本発明の方法の(c)において得られた湿式フォームは、十分な安定性を有し、それにより乾燥させてもそれが崩壊せず、湿式フォームの多孔性の構造物が長期間維持される。
【0056】
工程(c)において得られた湿式フォームは、方法の工程(d)における乾燥工程の前に、所望の形態に形成されうる。例えば、湿式フォームは、乾燥させる前に層又はシートに成型されてもよく、又はより具体的な形状に成形されてもよい。
【0057】
本発明の方法の工程(d)の湿式フォームの乾燥は、5~95℃、5~80℃、10~70℃、10~60℃、10~50℃、20~50℃又は35~45℃の温度で実施してもよく、又は、湿式フォームの総重量に対し98重量%未満又は90重量%未満、80重量%未満、70重量%未満、60重量%未満又は50重量%未満の液体含有量に到達するまで、湿式フォームを5~95℃、5~80℃、10~70℃、10~60℃、10~50℃、20~50℃又は35~45℃の温度下に置くことにより実施してもよい。乾燥は、好ましくは室温において実施されるが、オーブン(例えば熱対流炉)又は電子レンジにおいて、又は赤外線放射、又はこれらのいかなる組合せによって実施してもよい。乾燥後の多孔性固体材料の液体含有量は、0重量%、少なくとも1重量%、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、少なくとも30重量%又は少なくとも40重量%であってもよい。工程(d)のフォームの乾燥は、5~1000kPa、10~500kPa、20~400kPa、30~300kPa、40~200kPa又は好ましくは50~150kPaの圧力で実施してもよい。このように、活性物質を含む湿式フォームを乾燥させる際に資源集約型の方法(例えば凍結乾燥又は超臨界乾燥)を回避できつつ、クローズドセルを有する多孔性の構造物を得ることができる。本発明による方法はこのように、クローズドセルを含む多孔性材料の調製を提供する。本発明による温度及び圧力で実施される乾燥は、特に大規模で成分及びシートが形成されるときに、多孔性固体材料の割れの傾向が少なくなるという利点がある。このように、フォームが乾燥するときに多孔質の構造は維持されうる。
【0058】
本発明による構造物を調製する方法の一実施形態を図1の略図に示すが、そこでは、任意に溶媒中に溶解させた、少なくとも1つの活性物質(6)を、セルロースナノファイバー(5)を含む分散物に添加し、続いて発泡(8)及び成型(9)を行い所望の形状とし、次に乾燥させることにより、少なくとも1つの活性物質(7)を含む多孔性固体材料が調製される。
【0059】
本発明による多孔性固体材料は、少なくとも0.05mm、少なくとも0.1mm、少なくとも0.5mm又は少なくとも1mmの厚さで提供しうる。多孔性固体材料は、500cm以下、100cm以下、又は50cm以下の厚さで提供しうる。
【0060】
製造工程の間、加工条件及び分散媒体を変更し、またCNFの固有の化学物理的性質、並びにCNFと活性物質との間の分子親和性を利用して、階層構造を修飾してもよい。これにより、迅速放出から持続放出まで、活性物質の放出特性がテーラーメイドされた製剤の調製が可能となる。
【0061】
本発明による制御放出のための構造物は、本発明による方法により製造することができる。或いは、制御放出のための構造物は、セルロースナノファイバー(CNF)及び界面活性剤を含む湿式フォームを用意し、そこに薬学的活性物質を添加し、湿式フォームを乾燥させ、1000kg/m3未満又は500kg/m3未満の密度を有する多孔性固体材料を得ることにより製造できる。
【0062】
本発明による構造物は、医薬組成物、医療器具、化粧品、パーソナルケア、家庭用用途、食品科学用途、獣医学的医療用組成物、工業用途又は農業において使用することができる。セルロースナノファイバー(CNF)のクローズドセルと少なくとも1つの活性物質とを含む多孔性固体材料の、活性物質の制御放出のための組成物への使用も、本発明の一態様である。好ましくは、多孔性固体材料のセルの総体積のうち、10%超、50%超又は90%超がクローズドセルである。多孔性固体材料は、前記活性物質の制御放出のために、活性物質の賦形剤、少なくとも1つの活性物質又はこれらの組合せのコーティングとして使用してもよい。
【0063】
本発明の更なる態様は、医薬組成物、医療器具、化粧品、パーソナルケア、家庭用用途、食品科学用途、獣医学的用途、工業用途及び農業から選択される用途における、本発明による構造物の使用である。
【0064】
本発明の更なる態様は、治療法における、本発明による構造物の使用である。本発明はまた、セルロースナノファイバー(CNF)のクローズドセルを含む多孔性固体材料及び医薬品の、制御放出用の薬物送達組成物への使用に関する。
【0065】
以下の実施例により本発明を記載するが、それらは本発明をいかなる意味においても限定するものではない。全ての引用文献及び参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0066】
材料
フロセミド(結晶形I)及びブタの胃粘膜由来のペプシンを、Sigma Aldrich社から購入した。市販のFurosemid-ratiopharm(登録商標)の錠剤(20mgのフロセミド、Ratiopharm GmbH社、Ulm、ドイツ)は、地域の薬局から購入した。リボフラビンは、Unikem社(Copenhagen、デンマーク)から購入した。ラウリン酸ナトリウム塩は、Acros Organics社から得た。市販のビタミンB2の錠剤(10mg)JENAPHARM(登録商標)(10mgのリボフラビン、mibe GmbH社、Brehna、ドイツ)は、地域の薬局から購入した。インドメタシン(γ型)及び塩化グリシジルトリメチルアンモニウムは、それぞれ、Hawkins Pharmaceutics社及びSigma Aldrich社から購入した。FaSSIF、FeSSIF及びFaSSGF Powderは、Biorelevant社から購入し、FaSSGF培地(pH1.6、タウロコール酸ナトリウム:0.08mM、レシチン:0.02mM、塩化ナトリウム:34.2mM及び塩酸:25.1mM、製造業者Biorelevant社による指定)の調製において使用し、この培地にペプシン450U/mLを添加した。全ての実施例において、トウヒ材(無乾燥パルプ)由来の亜硫酸漂白されたパルプを、カチオン性ナノセルロース(Nordic Paper Seffle AB、スウェーデン)の製造において使用した。カチオン性ナノセルロースの製造は、文献に詳述されるとおりである(例えばC. Aulinら、Biomacromolecules 2010年、11、872~882頁を参照)。パルプ分散物(MilliQ水中、乾燥物含量16重量%)を次に、イソプロパノールで希釈し(g繊維(乾燥重量)当たり17mLのイソプロパノール)、そこに1gの繊維(乾燥重量)あたり0.08gのNaOHを添加した。NaOHを、添加前に同重量のMilliQ水に溶解させた。パルプファイバーと塩化グリシジルトリメチルアンモニウムとを1:1の重量比で反応させ、カチオン性NFCを調製した。2時間50℃で反応させた。修飾パルプを過剰量のMilliQ水で洗浄し、懸濁液(およそ2重量%の固形分)を、高圧ホモジナイザ(M-110P、Microfludics社、米国)を使用し、1650barでホモジナイズした(チャンバー400/100μm)。合計2回のパスを行った。カチオン基の量は0.44mmol/g繊維であり、文献記載の方法(Hasani, Mら、Cationic surface functionalization of cellulose nanocrystals. Soft Matter 2008年、4 (11)、2238~2244頁)に従い、塩化物イオンの伝導度滴定により測定した。0.44mmolのカチオン基/g繊維を有するCNFを実施例3において使用した。0.13mmol/g繊維のカチオン基を有するカチオン性NFCは、上記の通り調製したが、変更点として、反応温度を段階的に1時間の間に40℃から50℃に上昇させ、次に1時間50℃に維持した。また、化学修飾パルプファイバー(Milli-Q水中、固形分1.3重量%)を3回高圧ホモジナイズした。0.13mmolのカチオン基/g繊維を有するCNFを、実施例1、2及び4において使用した。AFM高さ測定の結果、ナノファイバーの幅は5±1nmであり、ファイバーの長さは数μmであった。特に低いカチオン含量を有するCNFでは、最終生成物において、非フィブリル化ファイバーのスポットも存在した。
【0067】
(実施例1)
フロセミド
方法
CNF及びフロセミドベースの多孔性固体材料の調製。
96体積%のEtOH(6)に溶解させたフロセミド(濃度:それぞれ15.9mg/mL及び58.6mg/mL、21重量%及び50重量%のフロセミドを有する多孔性固体材料を調製)、激しく磁気撹拌しながら0.28重量%のカチオン性CNF懸濁液(5)(pH=9.6)に添加し、フロセミド(7)を含む多孔性固体材料を調製した(図1の概略図を参照)。ストック懸濁液(1.321重量%の固形分)をMilli-Q水で希釈して0.28重量%のCNF懸濁液を調製し、pHを1MのNaOHで9.6に調整し、続いて超音波処理した(3分、90%の振幅、1/2インチチップ)。2分間の超音波処理工程(80%の振幅、1/2インチチップ、20秒超音波処理、10秒休止、Sonics Sonifier使用、750W)を経て、CNF/フロセミド懸濁液を発泡させた(8)。泡状の懸濁液(20g)を成型し(ペトリ皿、直径8.8cm)(9)、室温条件で暗所で乾燥させた。多孔性固体材料(n>12)の厚さを光学顕微鏡により分析した。多孔度は、算出においてセル壁の理論密度(ρcell wall)を用いる、方程式〔1〕:
ρcell wall = vCNFρCNF + vactive subρactive sub 〔2〕
により算出したが、vCNFは、CNFの体積分率であり、vactive sub(=1-vCNF)は、活性物質(フロセミド)の体積分率である。CNF及びフロセミドについての、密度ρCNF=1.5 g/cm3及びρactive sub=1.6 g/cm3をそれぞれ、ρcell wallの算出において使用した。
【0068】
特徴付け
FEI Quanta 3D FEG(FEI、Oregon、米国)を使用して、走査型電子顕微鏡(SEM)イメージを得た。多孔性固体材料を鋭いかみそり刃でカットし、断面図を得た。4nmの金をスパッタリングしてサンプルをコーティングした。ABB MB3000(ABB社、Switzerland)を使用して、全反射モード(減衰全反射法アクセサリ)にて、64のスキャンを用い、2cm-1の解像度で赤外分光(IR)スペクトルを得た。測定は、真空オーブン中50℃で終夜乾燥させたサンプルに対して行った。
【0069】
フロセミド-ratiopharm(登録商標)錠剤(20mgのフロセミド)、及びフロセミドを約7.3mg含む多孔性の固体サンプルを用い、溶解実験を行った。サンプルは、ペトリ皿の約半分のサイズ(約28cm2)、又はペトリ皿の約1/8のサイズ(約6.6cm2)で、それぞれ21重量%及び50重量%のフロセミド(乾燥重量ベース)をロードした多孔性固体材料を用いた。ビーカーを装備したUSP Apparatus 2溶解試験装置(Erweka社、Heusenstamm、ドイツ)において、実験を行い、各ビーカーに撹拌パドルを設け、加熱水浴に置いた。ペプシン(450U/mL、ブタの胃粘膜由来、Sigma Aldrich社)及び人工胃液を含むFaSSGF培地(pH 1.6)をビーカーに添加した。培地の組成を下記の「材料」に示す。FaSSGF培地の体積は、フロセミド-ratiopharm(登録商標)錠剤の場合900mL、及びフロセミド多孔性固体材料の場合320mLとした。実験は、37℃にて、多孔性の固体サンプルの場合は100rpmのパドル撹拌速度、錠剤の場合は50rpmで行った。多孔性固体材料は、実験全体にわたりFaSSGF培地を浮遊していたが、錠剤は培地中で添加2分後以内に崩壊した。1つの錠剤又は多孔性固体材料の一片をビーカー毎に試験した。サンプルを2、5、10、20、30、60、120、240、480及び1440分の時点で採取し(それぞれ、多孔性固体材料及び錠剤において2mL及び5mL)、274nmの波長について、UV-vis分光光度計(Agilent Cary 60 UV-vis)により分析した。回収したサンプルを、ペプシンを450U/mL含む等量の新規なFaSSGF培地で直ちに置換した。累積的な薬物放出(%)を時間の関数としてプロットし、全ての報告データポイントを3回の測定値の平均とした。
【0070】
結果
21重量%及び50重量%のフロセミドをロードして得られた多孔性固体材料の多孔性構造を示す断面図を、それぞれ図3a及び図3bに示す。異なる多孔性固体材料のセル壁の拡大図を、図3c(21重量%)及び図3d(50重量%)に示す。セル壁に存在する未溶解のフロセミド粒子(図3c及び図3dの矢)が存在し、より多くの薬物(50重量%)をロードした多孔性固体材料では、更に多くの粒子が観察できた。これらは、フロセミド粉末の不完全な溶解によるバルクのフロセミド結晶粒子(I型)である。得られた多孔性固体材料の密度は、21重量%及び50重量%のフロセミドをロードしたフロセミド/CNF多孔性固体材料において、それぞれ0.04g/cm3(多孔度Φ=97.5%)及び0.03g/cm3(Φ=98.2%)であった。IRデータは、21重量%のフロセミドを含む多孔性の固体サンプル中に、フロセミドが主にアモルファスのフロセミドナトリウム塩として存在することを示した。これは、図4の21重量%のフロセミドを有するフロセミド多孔性固体材料のIR-スペクトルにおいて、1608cm-1(非対称のCOO-及びC=O)の新規なバンド及び1670cm-1(カルボン酸ダイマー、COOH基)のバンド高の減少として観察することができる。アモルファスフロセミド塩の存在は、50重量%のフロセミドを有するサンプルにも明らかだった(1608cm-1の肩)(L.H. Nielsenら、European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 85 (2013年) 942~951頁)。しかしながら、この場合、結晶性フロセミド(I型)の存在は、バルクフロセミドのためのスペクトルに匹敵する程明瞭であった。得られた多孔性固体材料は明らかな浮力を示した。多孔性固体材料の浮揚可能な特性は、大部分は得られた多孔性固体材料のクローズドセルの存在を更に確認するものであった。多孔性固体材料の部分は、各種の形状に折り畳むことができ、50重量%のフロセミドを含む2つの多孔性固体材料を圧延し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルにロードした。全フロセミド含量は、19.4mgのフロセミド(市販フロセミド錠剤(20mg)と同等)であった。湿気を帯びるとカプセルは膨張し、カプセル壁が溶解し、小片が放出された。カプセルからの放出の後、多孔性固体材料は溶解容器に浮いたままだった。21重量%のフロセミドの多孔性固体材料の放出プロファイルは、市販錠剤のそれよりも僅かに低かった(図5を参照)。50重量%のフロセミドのロードでは、更なる遅延放出が観察される。市販の錠剤は2分以内に崩壊したのに対し、全ての多孔性固体材料は24時間(実験における測定時間)にわたる全実験時間の間浮遊していた。
【0071】
(実施例2)
リボフラビン
方法
ラウリン酸ナトリウム塩及びリボフラビンを主成分とする多孔性固体材料の調製。
ストック懸濁液(1.321重量%の固形分)をMilli-Q水で希釈して0.28重量%のCNF懸濁液を調製し、続いて超音波処理(3分、90%の振幅、1/2インチチップ)し、次にpHを調整した(約9.7、1MのNaOHにより調整)。(96体積%の)EtOH中に溶解したラウリン酸ナトリウム塩0.395mL(EtOH mL当たり10mgのラウリン酸濃度、及びEtOH mL当たり60μlの1M NaOH)を、磁気撹拌しながら128gのカチオン性CNF懸濁液(固形分0.28重量%、pH=9.7)に添加し、多孔性固体材料を調製した。2分間の超音波処理工程(80%の振幅、1/2インチチップ、20秒超音波処理、10秒休止、Sonics Sonifier使用、750W)を使用し、泡を形成させた。リボフラビンの水分散物(1重量%又は6重量%の固形分で、それぞれ、14重量%又は50重量%のリボフラビン(乾燥重量ベース)を含む多孔性固体材料を調製)を、磁気撹拌しながら湿式フォームに添加した。湿式フォーム(22g)をペトリ皿(直径:8.8cm)において成型し、暗所、室温条件で乾燥させた。薄型多孔性固体材料を一段階工程で調製し、一方、薄型多孔性固体材料片の間に湿式フォーム(約15g)を用いて幾つかの薄型多孔性固体材料片を積層し、ペトリ皿(直径8.8cm)中、室温、暗所で乾燥させることにより、厚型多孔性固体材料を調製し、14重量%のリボフラビンを含む1つの厚型多孔性固体材料サンプルを調製する際、全体で206gの懸濁液を使用した。薄型多孔性固体材料の厚さを光学顕微鏡(n>20)により分析し、厚型多孔性固体材料の厚さをデジタルカリパス副木を使用して分析した。方程式(1)及び(2)を用いて前記のように多孔度を算出した。以下の密度を、セル壁密度の理論値の算出において使用した:1.65g/cm3(リボフラビン)、1.5g/cm3(CNF)。非常に低含量であったため、ラウリン酸ナトリウム塩は考慮しなかった。
【0072】
CNFフィルムの調製(比較用)
14重量%のリボフラビンを含むCNFフィルムを、多孔性固体材料のそれと同様に調製したが、CNF/ラウリン酸/EtOH懸濁液の超音波処理工程の後、気泡を除去するために懸濁液を脱気し、リボフラビン分散物を緩やかに磁気撹拌しながら添加した。懸濁液(22g)をペトリ皿(直径:8.8cm)において成型し、暗所、室温条件下で乾燥させ、乾燥用の塩を有するデシケータに格納した。ニートCNF懸濁液を室温条件でキャスティングし、乾燥させることにより、ニートCNFフィルム(参照フィルム)を調製した。2つの乾燥ラウリン酸/CNFフィルム(各々51gの懸濁液から調製)を、脱気されたCNF/ラウリン酸/EtOH懸濁液と共に積層することにより、拡散実験において使用するラウリン酸/CNFフィルムを調製し、その際、合計182gの脱気された懸濁液を1枚のフィルムの調製に使用した。リボフラビンをロードしたフィルムの厚さを、走査型電子顕微鏡イメージ(n>60)から測定した。ラウリン酸/CNFフィルムの乾湿厚さは、Digimatic Indicator(Mitutoyo社、米国)により分析した(n>5)。
【0073】
特徴付け
走査型電子顕微鏡(SEM)イメージを、FEI Quanta 3D FEG(FEI社、Oregon、米国)を使用して得た。多孔性固体材料サンプルを鋭いかみそり刃でカットして断面を調製したが、フィルムは破れた。サンプルを、イメージング前に2nmのAuでスパッターコーティングした。
【0074】
PANalytical X'Pert PRO X線回折装置(PW3040/60、PANalytical社、Almelo、Netherlands)を使用し、反射モードで操作されるCu Ka放射線照射(λ=1.54Å、電圧45kV、電流40mA)によりX線回折(XRD)を行った。0.0262606°(2θ)のステップサイズを使用し、5~35°(2θ)まで測定を行った。
【0075】
拡散係数測定
磁気撹拌ブロックに配置された、ドナーチャンバー(約4.2mL、注入ポートを有する閉鎖したチャンバー)及び加熱レセプターチャンバー(6.9mL、磁気撹拌、1つのサンプリングポート)からなるFranz拡散セル(拡散面積A=2.01cm2)を使用し、ラウリン酸/CNFフィルム(直径:2.8cm)を実験に供した。サンプルを、ドナー及びレセプターチャンバーの間に挟んだ。37℃で実験を実施した。ペプシンを450U/mL有するFaSSGF中のリボフラビンを、ドナー側(4mL、8.3mgのリボフラビン/L)に添加し、レセプター側を、リボフラビン不含有培地で充填した。サンプル(350μl)を所定の時間にレセプター側から取り除き、等量の新鮮な培地で直ちに置換した。リボフラビンの量を、蛍光分光測定(FLOUStar OPTIMA MicroPlate Reader、BMG Labtech GmbH社、ドイツ)により、λexc=450nmの励起波長、及びλem=520nmの検出波長(正面測定)使用し、分析した。フィルムを通過したリボフラビンの総量、及びフィルムの両側の濃度差(ΔC)を、時間の関数として算出した。拡散係数(D)は、累積薬物対時間のプロット線の定常部分(25~45分の短時間、シンク条件、ΔC~定数)の傾斜(s)から算出した。拡散面積で傾斜を除算したのがフラックス(F=s/A)である。フィルムの湿潤厚さ(l=570±30μm)をDの算出において使用した(Crank, J.、The mathematics of diffusion. 2d ed.; Clarendon Press: Oxford, Eng、1975年):
【数3】
【0076】
ラウリン酸/CNFフィルムの報告された拡散係数は、2回の測定の平均である。フィルムの乾燥厚さは、89±14μmであった。
【0077】
溶解実験
市販のリボフラビン錠剤及びCNF多孔性固体材料/フィルム塊の、時間の関数としての累積薬物放出(%)を測定する実験を行った。リボフラビンを約2.3mg含む多孔性固体材料又はフィルムサンプルを用い、実験を行った。フィルム(厚さ9μm)及び薄型多孔性固体材料(0.6mm)(両方とも14重量%のリボフラビンを有する)のサイズは、同じ面積(ペトリ皿の1/4、約14cm2)であったが、異なる厚さを有した。厚型多孔性固体材料片は約8×8×16mm(H×W×L)であり、50重量%のリボフラビンをロードした薄型多孔性固体材料サンプル(0.7mmの厚さ)は、約2.25cm2(ペトリ皿の約1/25)のトップ面積を有した。USP Apparatus 2溶解試験機(Erweka社、Heusenstamm、ドイツ)及びスペシャルインサート及び250mLの容器(Erweka DT 70、Heusenstamm、ドイツ)を有するUSP Apparatus 2のスケールダウンバージョンを用い、実験を行った。ペプシン(450U/mL、ブタの胃粘膜由来、Sigma Aldrich社)を含むFaSSGF培地(pH 1.6)をビーカーに添加し、胃液をシミュレーションした。FaSSGF培地の量は、錠剤(JENAPHARM(登録商標))の場合900mL(通常のUSP Apparatus 2)であり、リボフラビン多孔性固体材料又はフィルムの場合225mL(USP Apparatus 2のスケールダウン版)とした。実験は、37±0.1℃及びpH 1.6、100rpm(錠剤の場合50rpm)のパドル撹拌速度で行った。多孔性固体材料を浮遊させる方法(錠剤及びフィルムは浮遊しない)、又は溶解ビーカーの底にある金属バスケット中にサンプルを置く方法、のいずれか2つの方法で溶解実験を行った。これらの実験は、胃が上部にガス入りの部分を有する場合、又は胃が液体で完全に満たされ、サンプルが培地に完全に潜没する場合、の2つの潜在的シナリオをシミュレーションする。サンプル(多孔性固体材料/フィルム及び錠剤でそれぞれ2mL及び5mL)を2、5、10、20、30、60、120、240、480及び1440分の時点で採取し、ペプシン450U/mLを含む等量の新規なFaSSGF培地と置換した。溶解したリボフラビンの量を、266nmの波長で、UV-vis分光光度計(Agilent Cary 60 UV-vis)により分析した。全ての報告された値は、3回の測定の平均である。
【0078】
結果
得られたCNFベースの多孔性固体材料の幾つかの異なる例を調製し、この調製経路の用途の広さを示すこととした。異なる厚さ、形状及び薬物ロード量(最高50重量%)の多孔性固体材料を調製し、それを図6a図6eに示す。薄型多孔性固体材料(7)(図6a)の柔軟性により材料が折り畳まれ、又は小さく丸められ(図6b)、嚥下に適するカプセル(13)の形態で送達されるものとなった(図6c)。また、リング構造のCNF(図6d)、並びに異なる厚さの多孔性固体材料片(図6a及び図6e)を形成した。多孔性固体材料は、クローズドセル構造を有した。ニートCNF/ラウリン酸多孔性固体材料の構造(a)、リボフラビンをロードしたフィルム(14重量%(b))、並びに14(c)及び50重量%(d)のリボフラビンをロードしたCNF/ラウリン酸多孔性固体材料を示すSEM顕微鏡写真を図7に示す。図7cに示す構造は、14重量%のリボフラビンを有する厚いCNF多孔性固体材料の構造である。図7eにおいて、50重量%のリボフラビンをロードした多孔性固体材料のセル壁の拡大図を示し、CNFベースのセル壁に埋め込まれたリボフラビン結晶を示す(矢印)。リボフラビン結晶(矢印)は、フィルム(b)においても観察できる。比較として、ニートCNF/ラウリン酸多孔性固体材料のセル壁を図7fに示す。得られた多孔性固体材料の密度は、以下の測定値であった:
0.01g/cm3(ラウリン酸/CNF、Φ=99.0)、0.02g/cm3(14重量%のリボフラビン、Φ=98.7)、0.03g/cm3(50重量%のリボフラビン、Φ=98.0)。多孔性固体材料に多くのリボフラビンをロードしたとき、密度の増加(及び多孔度の減少)が観察された。本試験において使用したリボフラビンは、無水のI型で典型的なXRDピークを示した(例えば国際公開第2005/014594号パンフレットの図Aに相当)。14重量%又は50重量%のリボフラビンをローディングした多孔性固体材料及びフィルムの場合、リボフラビンの結晶形への変化は、ニートリボフラビン粉末サンプルとは異なり、観察できなかった(図8のXRD回折図を参照)。
【0079】
450U/mLペプシンを含む人工FaSSGF培地(pH 1.6)において、薬物放出の動態を評価した。リボフラビンをロードした全てのCNFサンプルは、同一量(約2.3mg)のリボフラビンを含んでいた。多孔性固体材料は、薬物放出試験の間にわたり浮遊可能なままだったが、これは、気泡を有するクローズドセル多孔性固体材料構造物が実験時間枠(24時間しか試験しなかった)の間で無傷なままであることを示唆する。クローズドセル構造物を、前のSEMイメージと整列させる。トラップされた気泡及び高い多孔性は、浮遊能力を有する多孔性固体材料を提供する。異なる厚さ及びリボフラビンローディングを有する多孔性固体材料からの放出特性を図10に示す。比較として、14重量%のリボフラビンを有する市販の錠剤及びニートCNFフィルムも含めた。実験は、溶解培地において自由にサンプルを移動させる方法(図10a)、又は溶解ビーカーの底にある金属バスケットにサンプルを置く方法(図10bに結果を示す)、の2つの方法で行った。CNFベースのサンプルの薬物放出データは、いずれの場合も同様であった(図10a及び図10bを比較)。最初の薬物放出速度は、全てのCNFベースのサンプルも急速で、それはサンプルの外部表面に存在し、溶解培地に曝露されているリボフラビンによるものであった(サンプルを試験前に洗浄しなかったため、図10a及び図10bを参照)。市販の錠剤(ビタミンB2 10mg、JENAPHARM(登録商標))からの放出プロファイルは、フィルムよりわずかに速く、それは錠剤の迅速な崩壊(2分以内)、及び、おそらくリボフラビンの他の結晶形(同定できない、図10aを参照)の組合せによるものであった。予想されるように、14重量%のリボフラビンを含むCNFベースのフィルム(厚さ9μm)は、急速に全ての薬物を放出したが、多孔性固体材料の放出プロファイルはまた、厚さに強く依存した。ニートCNF/ラウリン酸フィルムを通過するリボフラビンの拡散係数は、湿潤状態において非常に高く(すなわち2.2×10-6(±0.13×10-6)cm2/s)、それは水中の小分子拡散(20℃、約10-5cm2/ s)と比較し、約1桁低かった(Freitas、R.A.Nanomedicine、Landes Bioscience:Austin、TX、1999年)。換言すれば、リボフラビン拡散速度は、図10に示すフィルムの全体の薬物放出動態にほとんど影響を及ぼさないと考えられる。本発明のCNFベースのフィルムからの観察された迅速な薬物放出は、仮定していたものと良好にフィットしていた。CNFフィルムの正確な拡散速度は、例えばナノフィブリル化の程度及びナノファイバーの表面修飾の結果としての、ナノファイバーのパッキングなどの要因に依存すると考えられる。本発明のラウリン酸/CNFフィルムは、若干の肉眼で観察できる大規模な非フィブリル化フラグメントを含んでいた。
【0080】
14重量%をロードした多孔性固体材料(厚み0.6mm)、及び50重量%のリボフラビンを有するそれ(0.7mm)は、いずれも同等な厚さであり、薬物放出プロファイルも重なり合った(図10aを参照)。多孔性固体材料は、フィルムと比較し放出をより遅延させた。フィルムサンプルは、崩壊した薄型の多孔性固体材料サンプルと考えられ、またそれらは同じタイプの懸濁液から調製されたものである(詳細は実験セクションを参照)。薬物の放出特性に対する構造の効果を更に例示するために、3つの異なるCNFベースのタイプのサンプルを図10bにおいて明確に比較した。サンプルは、同一量のリボフラビン及び全固形分含量(リボフラビン+CNF+ラウリン酸)を含むが、異なる階層構造(フィルム又は多孔性固体材料)及びサンプルサイズを有するものであった。フィルム(厚さ9μm)及び薄型多孔性固体材料(厚さ0.6mm)の上部表面積(また底部)は同等であったが、厚さは気泡の存在のために異なる。厚型多孔性固体材料片は、8×8×16mm(H×W×L)のサイズであり、すなわち非常に小さい合計表面積を有するものであった。予想されるように、フィルムが最も迅速に放出したのに対し、厚型の多孔性固体材料片は最も遅い薬物放出プロファイルを示した。これらの結果は、CNFベースの薬物送達系の構造を容易に変化させて正確に薬物放出プロファイルを修飾するために、CNFの固有の特性をどのように利用できるかを明らかに例示するものである。
【0081】
(実施例3)
インドメタシン
方法
多孔性固体材料、アモルファスインドメタシン及びα型インドメタシンの調製
インドメタシンをロードした多孔性固体材料(7)を単純な溶媒キャスティング工程を使用して調製し、それを図1の略図で示す。カチオン性CNF(5)を、0.28重量%となるまでMilliQ-水で希釈し、120秒、70%の振幅で、超音波処理により分散させた(Sonics Sonifier、750 W、1/2インチチップ、20秒のパルス、10秒の休止)。CNF懸濁液のpHは7.8であった。インドメタシンを96体積%のエタノールに溶解させ(EtOHのmL当たり15mgのインドメタシンの濃度)(6)、激しく磁気撹拌しながらカチオン性CNF水懸濁液に滴下して添加した。得られた懸濁液を超音波処理した(120秒、80%の振幅、20秒のパルス、10秒の休止、水冷)。懸濁液の起泡性は懸濁液のpHに強く依存し、21重量%(乾燥重量含量)のインドメタシンをロードした場合に、湿式の安定なフォームが得られた。21重量%の多孔性固体材料の調製において使用した、得られた懸濁液のpHは4.9であった。21重量%のインドメタシンを有する多孔性固体材料を作成するために、湿式フォーム(22.8g)をペトリ皿(8.8cm)で成型し(9)、2日間室温条件で乾燥させた。多孔性固体材料は、ペトリ皿の底に強く付着した。溶解試験において使用した典型的なサンプルの厚さは、多孔性固体材料では1180±260μmであった(カリパス副木及び光学顕微鏡によって正確に測定)。多孔性固体材料の密度は、0.01g/cm3であった(多孔性、Φ=99.2%、前述の方程式1及び2を用いて算出、及びインドメタシンの密度ρindo=1.379g/cm3)。
【0082】
フィルムの調製(比較用として)
フォームの場合と同様のプロトコルを使用するが、超音波処理工程の後に脱気工程を行って気泡を除去し、フィルムを調製した。51重量%のフィルムの調製において使用した、得られた懸濁液のpHはpH=5.5であった。整合したフィルムを形成するため、懸濁液を減圧下で脱気して空気を除き、ペトリ皿(8.8cm)において溶媒キャストを行い(21及び51重量%のインドメタシンを有するフィルムで、それぞれ懸濁液28.8g及び18.6g)、52℃で2日間、加熱キャビネットにおいて乾燥させた。ニートカチオン性CNF懸濁液を成型することによりニートCNFフィルムを調製し、続いて52℃で乾燥させた。
【0083】
フィルムはペトリ皿の底に強く付着した。得られたフィルムは、21重量%及び51重量%のインドメタシンのローディングで、それぞれ19±1.6μm及び15±2.7μm(Digimatic Indicator、Mitutoyo社、米国)であった。エタノール(約80℃)に溶解したインドメタシンに蒸留水を添加し、α型のインドメタシンを調製した。沈殿物を濾過し、室温で24時間、真空下で乾燥した。アモルファスのインドメタシンは、ホットプレート上で170°Cでインドメタシンを溶融させ(γ型)、続いて冷却(室温)金属プレートでクエンチ冷却することにより調製した。
【0084】
特徴付け
多孔性固体材料の光学顕微鏡イメージは、Zeiss光学顕微鏡(stereo Discovery V.8、Zeiss社、ドイツ)及びAxioVixion Rel 4.8ソフトウェアを使用して得た。多孔性固体材料のセルの直径は、n=75セルから分析した。
【0085】
IRスペクトルは、ABB MB3000(ABB社、スイス)を使用し、全反射モード(減衰全反射アクセサリ)で得た。乾燥サンプルを用いて測定を実施し、スペクトルを400~4000cm-1(64のスキャン、2cm-1の分解能)から収集した。
【0086】
溶解実験を行い、時間(分)の関数としての固有の溶解曲線(mg/cm2)及び時間(分)の関数としての累積的な薬物放出曲線(%)を決定した。放出(mg/cm2)は、インドメタシンによって占められる表面積の理論計算値を使用して、前記のように導出した(K Lobmannら、 Eur. J. Pharm. Biopharm. 2013年、85、873~881頁)。固定ディスク方法(M G Issaら、Dissolut. Technol. 2011年、18、6~13頁)を使用し、ペトリ皿(表面積58.6297cm-2)中のフィルム及び多孔性固体材料に対して試験を行った。前記の通り、フィルム及び多孔性固体材料はペトリ皿の表面に強く接着し、薬物の放出はペトリ皿の開放側からのみであった。磁石をペトリ皿の下に(テープで)固定し、浮遊するのを回避した。回転ディスク装置(Woodの装置)(Issa、2011年)を使用して、インドメタシンの結晶及びアモルファスに固有の溶解を行わせた。水圧プレス(Hydraulische PresseモデルIXB-102-9、PerkinElmer社、ドイツ)を用い、10秒間、124.9MPaの圧力によりステンレス鋼製シリンダー(表面積0.7854cm-2)に直接圧縮をかけ、粉末固結物(150mg)を得た。サンプルを、50rpmの回転速度を用い、900mLの0.01Mのリン酸緩衝液(pH 7.2、37℃)に添加した(USP Apparatus 2溶解試験装置、Erweka社、Heusenstamm、ドイツ)。サンプル(5mL)を所定の時間(5、10、20、40、120、240、1440分)に採取し、リン酸緩衝液と直ちに置換した。インドメタシンの量は、UV-vis分光光度計(Evolution 300、Thermo Fisher Scientific社、米国)を使用し、λ=263nmで分析した。全ての値は、単一の測定であった多孔性固体材料の24時間目のデータポイントを除き、3回の測定の平均である。
【0087】
結果
光学顕微鏡で観察されるように、多孔性固体材料(インドメタシン及びCNFを組み合わせることにより作製)は、540±180μmのサイズのセルを有するクローズドセル構造物を有していた。得られた多孔性固体材料の密度は0.01g/cm3であり、それは99.2%の多孔性固体材料の多孔度に対応する。21又は51重量%のインドメタシンをロードしたフィルム、及び21重量%のインドメタシンを有する多孔性固体材料では、1733cm-1、1690cm-1、1679cm-1、1650cm-1にバンドが出現した(図9を参照)。4つのバンドは、α型の結晶性インドメタシンに特徴的であり(S A Surwaseら、Molecular Pharmaceutics 2013年、10、4472~4480頁)、ゆえに、IRの結果は、フィルム及び多孔性固体材料が結晶性の物質を含むことを示唆するものであった。多孔性固体材料のIRスペクトルを図9に含めなかったが、その理由は、21重量%のフィルムのそれと重複したからである。1615~1590cm-1の領域に相違が見られた。これらのバンドは、インドール及びクロロベンジル環の変形、並びにエーテルC-Oの伸張によるものである(C J Strachan、T. Rades、K. C. Gordon、Journal of Pharmacy and Pharmacology 2007年、59、261~269頁)。21重量%のインドメタシンのIRスペクトルは、この領域のアモルファスのインドメタシンのそれとより類似しており、薬物のアモルファスフラクションの存在を示唆するものであった。特に、1610cm-1の振動は、1592cm-1のそれより顕著ではなかった。しかしながら、51重量%でのロードでは、α-インドメタシンの明瞭なバンドは検出を困難にするため、そのような解釈はできない。図11aの薬物放出プロファイルから解るように、21重量%及び51重量%の薬剤をロードされたフィルムの場合、薬物が非常に急速に放出され、それぞれ10及び20分後にフィルムから完全に薬物が放出された。フィルムと比較し、多孔性固体材料は、非常に遅延された放出プロファイルを示した。累積的な薬物放出は最初は急速であり(図11aの多孔性固体材料についての総薬物放出プロファイルを参照)、その後非常に遅延された放出が行われた。24時間後、多孔性固体材料からインドメタシンの99.2%が放出された(最後の時点は図に含まれず)。多孔度はΦ=99.2%であり、多孔性固体材料はフィルムと比較し約60倍厚かった。薬物をロードされたフィルム及び多孔性固体材料の固有の溶解曲線は、図11bに示され、そこでは純粋なα型のインドメタシン結晶及びアモルファスインドメタシンの固有の溶解と比較している。21重量%のフィルムは、純粋なアモルファスインドメタシンと比較し非常に迅速な放出を示し、5分後に、アモルファスインドメタシンと比較し、面積当たりの2倍多くの薬物(またα多形体と比較し面積当たり4倍以上多くの薬物)がフィルムから放出された。10分後、このフィルムに存在する全てのインドメタシンが放出された(図11bの左側矢印)。他方、51重量%のフィルムの溶解動態はアモルファスインドメタシンのそれと同等であり、α多形体と比較し、未だ非常に迅速であった。理論的には、α-インドメタシン及びアモルファス薬物の混合物の溶解は、純粋なアモルファスの放出プロファイルとα型のインドメタシンのそれとの間であると考えられる。21重量%の多孔性固体材料の溶解は最初に迅速な放出を示し、続いて上記の通りの拡散制御機構による非常に遅延された溶解を示した。
【0088】
(実施例4)
リボフラビン
方法
リボフラビン多孔性固体材料への、多孔性固体材料コーティング(「ラビオリ」)の調製
ストック懸濁液(1.321重量%の固形分)をMilli-Q水で希釈することにより、0.28重量%のCNF懸濁液を調製し、続いて、超音波処理(3分、90%の振幅、1/2インチチップ)及び次のpH調整(約9.7)を行った。96体積%のEtOHに溶解させた0.395mLのラウリン酸ナトリウム塩の溶液(濃度10mg/mL EtOH、及びEtOH 1mL当たり60μlの1M NaOH)を、128gのカチオン性CNF懸濁液(固形分0.28重量%、pH約9.7)に磁気撹拌しながら添加し、多孔性固体材料を調製した。2分間の超音波処理工程(80%の振幅、1/2インチチップ、20秒超音波処理、10秒休止、Sonics Sonifier使用、750W)を使用し、泡を形成させた。14重量%のリボフラビンを含む多孔性固体材料を調製するためのリボフラビンの水分散物(1重量%の固形分)を、磁気撹拌しながら湿式フォームに添加した。湿式フォーム(22g)をペトリ皿(直径:8.8cm)において成型し、暗所、室温条件で乾燥させた。薄型多孔性固体材料を一段階工程で調製し、一方、薄型多孔性固体材料片の間に湿式フォーム(約15g)を用いて幾つかの薄型多孔性固体材料片を積層することにより、厚型多孔性固体材料を調製し、ペトリ皿(直径8.8cm)中、室温、暗所で乾燥させた。厚型ラウリン酸/CNF多孔性固体材料を、サンプル当たり合計97gの懸濁液を使用して調製した。最終的な多孔性固体材料を、乾燥用の塩を有するデシケータに格納した。ラウリン酸/CNFフィルムを、多孔性固体材料のそれと同様に調製したが、CNF/ラウリン酸/EtOH懸濁液の超音波処理工程の後、気泡を除去するために懸濁液を脱気した。2つの乾燥ラウリン酸/CNFフィルム(各々51gの懸濁液から調製)を、CNF/ラウリン酸/EtOH懸濁液と共に積層させ、その際、合計182gの脱気された懸濁液を1枚のフィルムの調製に使用した。ラビオリ構成(4)を調製するために、(図2に示す)、14重量%のリボフラビン多孔性固体材料を円形片(直径35mm)(2)としてカットした。図2に示すように、2つのラウリン酸/CNF多孔性固体片(1)(直径54.5mm)を、乾燥時に2つの多孔性固体材料(1)を接着させる3.7gの湿式フォーム(3)を使用して集合させた。その構成において室温で乾燥させた。
【0089】
特徴付け
拡散係数の測定は、磁気撹拌ブロックに配置された、ドナーチャンバー(約4.2mL、注入ポートを有する閉鎖したチャンバー)及び加熱レセプターチャンバー(6.9mL、磁気撹拌、1つのサンプリングポート)からなるFranz拡散セル(拡散面積A=2.01cm2)を使用し、ラウリン酸/CNF多孔性固体材料及びラウリン酸/CNFフィルム(直径:2.8cm)に対して行った。実験は37℃で実施した。修飾PBSバッファー(8g/LのNaCI、2.38g/ LのNa2HPO4、0.19g/ LのKH2PO4、pH7.5に調整)中のリボフラビンを使用し、90mg/Lのリボフラビンを含む3.8mLのバッファーをドナーチャンバーに添加した(t=0)。レセプター側を、リボフラビン不含有培地で充填した。サンプル(350μl)を所定の時間にレセプター側から取り除き、等量の新鮮な培地で直ちに置換した。リボフラビンの量を、蛍光分光測定(FLOUStar OPTIMA MicroPlate Reader、BMG Labtech GmbH社、ドイツ)により、λexc=450nmの励起波長、及びλem=520nmの検出波長(正面測定)使用し、分析した。フィルムを通過したリボフラビンの総量、及びフィルムの両側の濃度差(ΔC)を、時間の関数として算出した。拡散係数(D)は、累積薬物対時間のプロット線の定常部分(30~50分の短時間、シンク条件、ΔC~定数)の傾斜(s)から算出した(図12のプロット参照)。拡散面積で傾斜を除算したのがフラックス(F=s/A)である。フィルムの湿潤厚さ(l=460±12μm)を、方程式[3]による拡散係数Dの算出において使用した(Crank, J.、The mathematics of diffusion. 2d ed.; Clarendon Press: Oxford, Eng、1975年; p viii, 414頁):ラウリン酸/CNFフィルムの報告された拡散係数は、2回の測定の平均である。ラウリン酸/CNF多孔性固体材料(密度0.01g/cm3、湿潤厚さ約5mm)の拡散係数を、同じFranz拡散セルのセットアップを使用して推定した。多孔性固体材料の側面をワセリン(純粋なワセリン、Democal AG社、Bern)で覆い、次にパラフィルム(登録商標)によりラップすることにより、多孔性固体材料の側面からの蒸発/漏出(Franz拡散セルに固定したとき)を効果的に最小化した。レセプター側から蒸発が観察されたときは、新しいバッファーで置換した。修飾PBSバッファー(上記の組成物)中の3.5又は3.7mLのリボフラビン(90mg/L)をドナーチャンバー(t=0)に添加し、サンプルをレセプターチャンバー(350μL)から採取し、所定の時間に新しい培地で置換した。サンプルは、前記のようにFLOUStar Omega MicroPlate Readerを使用して分析した。拡散係数は、タイムラグ方法により算出した(Crank, J.、The mathematics of diffusion. 2d ed.; Clarendon Press: Oxford, Eng、1975年; p viii, 414頁)。この方法では、タイムラグ(θ)(一定の流速となる前の時間)が確立されており、サンプルの厚さ(l)を用いて、拡散係数(Dcomp)を算出できる。
【数4】
【0090】
拡散係数がリボフラビン濃度から独立している(すなわちDが定数であると)と仮定した。これはまた、タイムラグ(θ)がリボフラビン濃度から独立していることを意味する(方程式5より)。
【0091】
結果
多孔性固体材料及び湿式フォームの組合せを用いてラビオリ構成(図2に示す)を調製することが可能である。拡散性に対する多孔性固体材料コーティングの影響を理解するため、ラウリン酸/CNF多孔性固体材料対ラウリン酸/CNFフィルムの拡散性を比較した。ラウリン酸/CNFフィルムにおけるリボフラビン拡散性は、時間の関数としてフィルムを通過したリボフラビンの総量の定常状態部分から得た(典型的なプロット線である図12を参照)。拡散係数は、D0=4.7×10-6(±0.7×10-6)cm2/sであった。時間の関数として多孔性固体材料を通過したリボフラビンの総量を示す典型的な図面を図13に示す。テストした全ての多孔性固体材料において、リボフラビンがレセプター側で検出可能となるまでには、約2000分(1日超)が必要であり、多孔性固体材料の気泡の存在に起因する拡散性の著しい減少を示すものである。タイムラグθを得るため、確立された「定常状態」部分の曲線に回帰曲線をフィットさせ、時間軸との切片をθとした。方程式(5)を用いて拡散係数を得ることが可能である:
Dcomp=3×10-7(±0.4×10-7)cm2/s。
計測値は、2回の測定の平均である。上記の結果から、フィルムの拡散性と多孔性固体材料の拡散性との間の比率(すなわちD0/Dcomp=15.7)を算出することが可能であり、式中、D0がフィルムの拡散性であり、Dcompは多孔性固体材料の拡散性である。換言すれば、多孔性固体材料の拡散性は、フィルムの場合と比較し数桁低い。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図6(c)】
図6(d)】
図6(e)】
図7a
図7b
図7c
図7d
図7e
図7f
図8
図9
図10
図11
図12
図13