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特許7035039電気化学的プロセスを制御するための方法およびプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】電気化学的プロセスを制御するための方法およびプロセス
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/02 20210101AFI20220307BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20220307BHJP
   C25B 11/043 20210101ALI20220307BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20220307BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20220307BHJP
   B01J 21/18 20060101ALI20220307BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B15/00 302
C25B11/043
H01M8/04858
H01M4/90 Z
B01J21/18 M
B01J27/24 M
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019519315
(86)(22)【出願日】2017-10-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 AU2017051106
(87)【国際公開番号】W WO2018068094
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】2016904139
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】300030406
【氏名又は名称】ニューサウス・イノベイションズ・プロプライエタリー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Newsouth Innovations Pty Limited
(73)【特許権者】
【識別番号】519121740
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・クイーンズランド
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF QUEENSLAND
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・キャンベル・スミス
(72)【発明者】
【氏名】シン・タン
(72)【発明者】
【氏名】ハッサン・タヒニ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンホア・ジュー
(72)【発明者】
【氏名】シャオヨン・シュー
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-004124(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0296173(US,A1)
【文献】国際公開第2008/147399(WO,A1)
【文献】特開2013-049888(JP,A)
【文献】特開2006-249545(JP,A)
【文献】特開2002-317291(JP,A)
【文献】特開平08-239800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの作用電極を利用する電気化学的プロセスを行う改善方法であって、
電気化学的反応が行われるように作用電極に主電圧を印加する前に
正味の電荷を作用電極にもたらすまで電場を作用電極に印加することによって、作用電極の電荷を主電圧と独立に調節する第1の工程、および
電荷を調節した作用電極との反応が行われるように電荷を調節した作用電極に主電圧を印加する次の工程
を含んで成り、
作用電極に正味の電荷を有すると、反応に必要な結合エネルギーおよび過電位が減少することで、反応効率に積極的に影響を与える、方法。
【請求項2】
作用電極の電荷を調節する第1の工程は、電子が作用電極内に流れることまたは作用電極から出るように流れることを可能とする、地電位に対して下方にまたは上方に作業電極のフェルミ・レベルをシフトさせる電場をもたらすのに、電荷を調節される作用電極に近接して位置付けられる更なる電極に制御電圧を印加する工程を含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
作用電極の電荷を調節する第1の工程は、電荷を調節される作用電極に近接して位置付けられるキャパシター配置に電荷調節電圧を印加することを含んで成り、それによりキャパシター配置は、作用電極の近傍に配置された対となる帯電電極を含み、かつ電子を対の電荷を帯びたキャパシター電極から作用電極内へと流れ込むこと、または作用電極から電子を流出させることを容易にする電場を供するように、キャパシター配置に電圧を印加することを含んで成り、それによって作用電極上に正味の負の電荷または正味の正の電荷をもたらす請求項1に記載の方法。
【請求項4】
作用電極の電荷を調節する第1の工程は、キャパシター・プレートでの電荷分離を容易にする電場を供するように、独立のキャパシター配置に電荷調節電圧を印加することを含んで成り、それによって接地時の作用電極上の正味の負の電荷または正味の正の電荷の局在化を誘起する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
作用電極は、電気化学的反応のための触媒作用を有する材料を含んで成、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
電気化学的反応は、酸素還元反応(ORR)、水素発生反応(HER)、およびCO還元反応のいずれかである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
作用電極は、未ドープのグラフェン、Nドープ・グラフェン、Bドープ・グラフェン、ガラス状炭素またはグラフェン堆積のガラス状炭素を含んで成る、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
電気化学的反応を含む電気化学的プロセスを行うための装置であって、
正味の電荷を有する作用電極、
電気化学的反応を行うために作用電極に電圧を印加する主回路、および
電気化学的反応を行う前に作用電極上に正味の電荷をもたらすように作用電極の電荷を調節するための制御配置
を有して成る、装置。
【請求項9】
制御配置は、作用電極に近接して位置付けられ、作用電極上に正味の電荷をもたらすように配置されるゲート電極を有して成る、請求項に記載の装置。
【請求項10】
制御配置は、作用電極上に正味の負の電荷または正味の正の電荷をもたらすように電子が作用電極内に流れることまたは作用電極から出るように流れることを可能とする、地電位に対して下方にまたは上方に作業電極のフェルミ・レベルをシフトさせる電荷を調節する電場を生じるようにゲート電極に電圧を印加する二次的な回路を有して成る、請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
制御配置は、作用電極に近接して位置付けられ、作用電極上に正味の電荷をもたらすように配置されるキャパシター配置を有して成る、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
キャパシター配置が、対となる帯電電極、および、対を成して容量性電極を形成する作用電極によって形成されている、請求項8または11に記載の装置。
【請求項13】
キャパシター配置が、電荷を調節される作用電極に近接して位置付けられ、それによりキャパシター配置は、作用電極の近傍に配置された対となる帯電電極を含み、キャパシター配置に電圧を印加することによって作用電極上に正味の負の電荷または正味の正の電荷をもたらす、請求項8、11または12に記載の装置。
【請求項14】
キャパシター配置が、キャパシターを形成し、作用電極に近接して位置付けられる対を成す更なる電極を有して成る、請求項8または11に記載の装置。
【請求項15】
制御配置は、キャパシター・プレートでの電荷分離を容易にする電場を供するように、作用電極に連結された独立のキャパシター配置に電荷調節電圧を印加するように配置した電荷を調節する二次的な回路を更に有して成り、それによって接地時の作用電極上の正味の負の電荷または正味の正の電荷の局在化を誘起する、請求項14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的プロセス(electrochemical process)を制御するための方法および装置に関する。特に制限するわけではないが、本発明は、電極触媒反応(または電気触媒反応、electrocatalytic reaction)を制御するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的反応および電極触媒反応は、水素発生反応(HER:Hydrogen Evolution Reaction)、水からの酸素形成、すなわち、酸素発生反応(OER:Oxygen Evolution Reaction)、水への酸素の還元、すなわち、酸素還元反応(ORR:Oxygen Reduction Reaction)、ならびに、多くの他のレドックス反応などの用途に広く用いられている。それらは、工業的スケールで適用されている。電気化学的プロセスを行うための典型的なアレンジメントは、電流/電圧源、一対の電極、および電解質を有して成る。電極は、帯電される(又は電荷を帯びる)作用電極(WE)、および対電極(CE)を有して成り得る。電極触媒反応において、作用電極は、電気化学的反応を助力する(電気化学的反応に触媒作用を及ぼす)材料であり得る。
【0003】
電気化学および電気化学的反応の効率および効能を改善するために、使用される電極材料の種類、電解質、および回路における印加電圧を変更することは知られている。例えば電極触媒のための作用電極を形成する種々の材料の設計に関して多くのことが為されている。これらの材料の多くは高価であり、それを用いることは難しい。
【発明の概要】
【0004】
第1の要旨では、本発明は、少なくとも1つの電極を利用する電気化学的プロセスを行う方法であって、
電気化学的反応が行われるように電極に電圧を印加する工程、および
電気化学的反応に影響を与える(affect)ように電極の電荷(又は帯電もしくはチャージ、charge)を制御する工程
を含んで成る、方法を提供する。
【0005】
ある態様では、電極は、電気化学的プロセスにおける作用電極(working electrode)である。常套的なプロセスにおいて、電荷の層(または帯電層、layer of charge)は作用電極にて形成され得ることが知られている。これは、電気化学的プロセスの効率を損なうものと通常考えられている。作用電極が例えば触媒である場合、電荷は、電極で生じる反応の結合エネルギーに有害に影響を与え得る。
【0006】
本願出願人は、ある態様において、電荷の個別制御が化学反応に有利かつ積極的に影響を与え得ることを見出した。例えば、電極上の電荷量の制御は、電極触媒反応に必要な過電位を減じるのに実施され得、それゆえ、反応効率を改善するのに実施され得る。
【0007】
作用電極の電荷レベルを制御できることは、電気化学的プロセスのための更なる制御ツール(control tool)を供することになり、それは、従前に存在していなかったものである。ある態様では、これは、電気化学的反応の効率の改善、安い使用、作用電極のための容易に利用可能な合成材料、および、他の利点を可能とし得る。
【0008】
電極触媒作用(electrocatalysis)において、本発明の態様は、従前で探求されていなかった電極触媒活性を制御することにつき全体的に新しいレベルを可能にし得る。
【0009】
ある態様において、電極の電荷(charge on the electrode)を制御する工程は、電極に電場(または電界、electric field)を印加する(又は加える)工程を含んで成る。ある態様では、電場は、電極に近接して位置付けられる更なる電極を介して印加され得る。更なる電極は、ゲート電極であってよく、かかる電極に電圧が印加されて、電極の電荷が調整される。
【0010】
ある態様では、電場は、電極に近接して(または電極に接近して若しくは電極の近くに、proximate the electrode)位置付けられるキャパシター配置(またはキャパシター・アレンジメント、capacitor arrangement)によって印加され得る。キャパシター配置は、キャパシターを構成すべく互いに相対的に位置付けられる更なる電極および前記電極を有して成るものであってよい。つまり、作用電極が、キャパシター配置に組み込まれている。代替的な態様では、キャパシターを形成する対を成す電極が、作用電極に近接して位置付けられていてよい。
【0011】
第2の要旨では、本発明は、電気化学的プロセスを行うための装置であって、
電極、
電気化学的反応を行うために電極に電圧を印加する主回路(primary circuit)、および
電気化学的反応に影響を与えるように電極の電荷を制御するための制御配置(control arrangement)
を有して成る装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の特徴および利点は、例示的にすぎないものの添付の図面を参照した以下の態様の説明から明らかになるであろう。
図1図1は、ある態様にて電気化学的プロセスのための電極の電荷を制御する装置の図である。
図2図2は、更なる態様にて電気化学的プロセスのための電極の電荷を調節(modulate)する装置の図である。
図3図3は、更なる態様にて電気化学的プロセスのための電極の電荷を制御(control)する装置の図である。
図4図4は、3つの異なる伝導性グラフェンが関連する電極材料のための電荷密度の水素発生反応(HER)の中間結合エネルギー(intermediate binding energy)の依存性を示すプロットである。
図5図5は、ある態様にて水素発生反応を行う例示的な装置の図である。
図6図6は、図5の装置を用いて行われる水素発生反応の性能を表す種々のプロットを示している。
図7図7は、図5の装置を用いて行われる水素発生反応の性能を表す種々のプロットを示している。
図8図8は、図5の装置を用いて行われる水素発生反応の性能を表す種々のプロットを示している。
図9図9は、作用電極として用いられるグラフェンまたはドープされたグラフェンの種々の反応および中間構造(または中間体構造、intermediate structure)を示している。
図10図10は、作用電極として“さら”のグラフェン(または“そのままの”もしくは未ドープのグラフェン、pristine graphene)を用いたOERのコンピューター結果を示す(図10(a):作用電極に電荷を加えられず、過電位は1.33Vである。図10(b):電荷は-3.3eであって、過電位は0.54Vである場合の結果を得るべく作用電極に異なる電荷が加えられる)。
図11図11は、帯電した“さら”のグラフェンがRuOに匹敵するOER活性を有し得ることを示している。
図12図12は、作用電極として“さら”のグラフェンを用いたORRのコンピューター結果を示す(図12(a):作用電極に電荷を加えられず、過電位は1.93Vである。図12(b):電荷は-6.65eであって、過電位は0.58Vである場合の結果を得るべく“さら”の電極に異なる電荷が加えられる)。
図13図13は、電荷を帯びた“さら”のグラフェンがPt電極に匹敵するORR活性を有し得ることを示している。
図14図14は、電荷を帯びたNドープ・グラフェン(Nがドーピングされたグラフェン、N-doped graphene)およびBドープ・グラフェン(Bがドーピングされたグラフェン、B-doped graphene)が、より良好なOERおよびORR活性を有し得、そのようなものがPtおよびRuOに匹敵することを示している(図中において、最小過電位は-ηである)。
図15図15は、SrTiOがOERに対して不良材料(~1.1.Vといったその大きな過電位に起因して不良材料)となることを示している。
図16図16は、記述子(descriptor)としてΔG-ΔGOHを用いた際に現れるボルカノ・プロットを示す。最も低い過電圧は1eの電荷時に生じ、中立的なケースから40%改善である~0.68Vに相当する。
図17図17は、シミュレーションで使用されるNドープ・グラフェンの構造、および、態様に関する実施の他の例を示している。
図18図18は、CO還元プロセスのための種々の基本的な(elementary)還元工程のためのNドープ・グラフェンの中間構造を示している。
図19図19は、Nドープ・グラフェン電極の電荷の異なる程度に対するCO還元プロセスに関係する素反応(elementary reaction)の自由エネルギーのバリエーションを示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
態様の詳細な説明
図1は、電気化学的プロセスを実施および制御するための装置を示す。主たる電圧回路アレンジメント(primary voltage circuit arrangement)101は、作用電極11と対電極12との間で電圧V1を印加し、それにより電気化学的プロセスを実施するために用いられている。制御アレンジメント103は、作用電極11の電荷(又は帯電もしくはチャージ)を制御し、それにより電気化学的プロセスの性能に影響を与えるべく用いられている。
【0014】
かかる態様において、主たる電圧回路アレンジメント101は、作用電極11と対電極12との間に電位差Vを供すべくアレンジされている主電圧源13から構成されている。作用電極11は、特定の電気化学的プロセスに適するいずれの材料(例えば炭素またはグラフェン)から形成され得る。特定の態様では、制御アレンジメント103は、作用電極11がゲート電極15に対して連結(couple)されている電圧ゲート・システムである。かかる連結は、作用電極11に緊密に近接するようにゲート電極15を配置することによって達成される。ゲート電圧源14はゲート電極15に接続されている。ゲート電極15への電圧Vの印加は、地電位(earth potential)に対して相対的に下方に(又は加えられるV2に応じて上方に)作業電極11の固有フェルミ・レベルをシフトさせる電場をもたらす。これは、電子が作用電極11内に流れること(または作用電極11から出るように流れること)を可能とし、作用電極11に正味の負電荷(または正電荷)をもたらす。(スイッチ18bを開にすることで)接地を解除し、(スイッチ18cを閉にすることにより)主電圧源13の接続を行うことによって、電荷を帯びた作用電極が、主電圧Vで作動できると共に、その電極上に正味の電荷を有することとなる。
【0015】
常套の電気化学では、電気化学的プロセスを実施するための電極間に電位差を供する主電圧源のみが用いられている。種々の要因が、電気化学的プロセスの速度(rate)を遅くさせるのに関係している。例えば、異なる活性化バリア(または活性化障壁、activation barrier)、電極表面障害、抵抗、および、電極で生じる非所望の化学反応は、そのような電気化学的プロセスの速度を遅くさせるのに関係している。1つの問題は、作用電極上の電荷層が電極表面で結合エネルギーの増加をもたらし得ることである。電極の表面で起こる酸化または還元の半反応(half reaction)は、増加した結合エネルギーを克服すべく更なるエネルギーを要する。それゆえ、電極間で適用される電位差がより大きいことが求められる。この電極表面での増加した結合エネルギーを克服するのに要する付加的な電位は、過電位(over-potential)として知られている。電極へとより高い電位(標準電位+過電位)を供すべく主電圧源を調整することは知られている。しかしながら、これは、電気化学的プロセスの効率および性能に大きな改善がもたらされず高いエネルギー消費につながる。
【0016】
本願発明者は、図1に示されるような電極表面11の電荷の量を操作する(manipulate)ための制御アレンジメント103を導入することで、常套的な回路における電気化学的プロセスの性能がある態様で向上し得ることを見出した。電極11上の電荷の操作は、電極に加えられる主電圧Vとは独立している。これは、電気化学および電極触媒作用に影響を与える全体的に新しいツールをもたらす。
【0017】
制御アレンジメント103によって、主電圧13源によって決められるいずれの主電圧Vで作動されている間において正味の電荷(正または負の電荷)が電極11上で維持されることが可能になる。ある態様において、電極11上の電荷の操作は、結合エネルギー、および、電極11付近の酸化/還元半反応を行うのに必要とされる過電位に影響を与える。出願人は、電極11の電荷の適当な調節が結合エネルギーまたは過電位の低減をもたらし得、ひいては、電気化学的プロセスの効率向上につながると考えている。
【0018】
図4は、水素発生反応(HER)のための制御アレンジメントを使用して電極に配置される電荷量の結合エネルギーの依存性を示している。グラフ40は、3つの異なる伝導性グラフェン、すなわち、グラフェン(四角形のデータ・ポイント)、Bドープ・グラフェン(円形のデータ・ポイント)およびNドープ・グラフェン(三角形のデータ・ポイント)が関連する電極材料のための計算された中間結合エネルギー(触媒材料に結合されるH原子)のプロットを示す。点線は、“至高の目標(holy grail)”を示しており、すなわち、ゼロの過電位におけるHERの駆動を示している。これらの結果は、作用電極上の電荷が主電圧と独立に操作されることによって、これらの3つの材料が優れたHER電極触媒として機能できることを示唆している。
【0019】
更なる態様が図2に示されている。かかる図は、電気化学的プロセスを行うための装置を示している。かかる装置では、制御アレンジメント203が、作用電極21上の電荷の調節を制御するために用いられており、それをキャパシター・アレンジメント内に組み込むことによって、そのようなことが為されるようになっている。キャパシター・アレンジメントは、作用電極21の近傍に配置された対となる帯電(又は電荷を伴なう)電極25、および、キャパシター電圧源24から構成されている。主たる電圧回路アレンジメント201は、作用電極21と対電極22との間で主電圧Vを供するために用いられている。スイッチ28aは、電圧Vを印加するために閉状態にされる。電圧Vの印加は、電子を対の電荷を帯びたキャパシター電極25(極左)から作用電極内へと流れ込む(または作用電極から電子を流出させる)ことを容易にする電場を供し、それによって作用電極31上に正味の負(または正)の電荷をもたらす。キャパシター電圧源24の接続を断つこと、および、主電圧源23の接続を行うことは、帯電した作用電極21が、正味の電荷を独立的に持ちつつも、主電圧Vで作用することを可能とする。
【0020】
本発明の更なる態様は、図3で示されている。かかる装置では、作用電極31上の正味の電荷の調節は、それを独立のキャパシター35とつなぐことによって行われる。電圧Vをキャパシター35に印加することは、キャパシター・プレート35a,35bでの電荷分離を容易にする電場を供する。これは、ひいては、作用電極31上の電荷の局在化を誘起する。キャパシター・プレート35aは、負(正)の電荷を有し、キャパシター・プレート35bは、その上に正(負)の電荷を伴うことになる。これは、作用電極31上の負(正)の電荷の量が等しくなることを助力する。主電圧源33の接続は、電荷を帯びた作用電極31が、正味の電荷を伴いつつも制御された電圧Vで作動することを可能にする。
【実施例
【0021】
図5を参照すると、水素発生反応(HER)ための装置の例が示されている。かかる装置は、図2に示される構成に従うものの、キャパシター・プレート間に絶縁部26を有している。かかる装置50では、制御アレンジメント52は、ガラス状炭素材料(glassy carbon material)から形成された作用電極(WE)51の正味の電荷を制御すべく配置されている。作用電極51は、別の電極52b(これもまたガラス状炭素から形成されている電極)と連結されており、一体化されたキャパシティーを形成している。キャパシターを形成する2つの電極は、絶縁材52aによって分けられている。キャパシターは、作用電極51上の電荷を調節すべく、電極間にキャパシター・電圧Vを印加することによってまずチャージされる。そして、電圧源Vについてはスイッチが切られ、主回路電圧Vが作用電極51(WE)および対電極(CE)に印加され、HER実験が開始される。また、装置は、Agを含んで成る参照電極(RE)を備えている。
【0022】
図6は、装置50を用いて得られる例示的なLSV分極プロットを示している。図6aにおいて、ガラス状炭素電極51,52bから形成されているキャパシターは、HER反応の開始前に時間長さを変えるべくV=3Vの電圧でチャージされる。電極51上にたまった電荷は、時間とともに消失し得る。より短いチャージ時間に相当するカーブ、LSVカーブ出発が、走査(スキャン)において後の非チャージの電極のためのトレンド(すなわち、大きくとも-ve電圧)に向かうように戻るように復帰する。図6bは、異なる手法で得られるかかる挙動を示しており、電極がまず3Vで9分間チャージされ、そして、LSV走査が順次6回繰り返される。かかる後の走査は、非チャージのケースのためのプロファイルに向かうような進行性反転を表しており、経時的な進行性放電を示している。
【0023】
図7(a)および7(b)は、図6に対する類似プロットを示しているものの、実験を行う前にガラス状炭素電極がグラフェンの堆積を有する場合のプロットを示している。それゆえに、図7では、ガラス状炭素の代わりにグラフェンが活性表面層となっている。しかしながら、定性的には同様の挙動が観察される。グラフェンが堆積した電極は、より緩やかな放電速度を呈する。
【0024】
図8aおよび8bは、プレチャージされた(又は予め帯電させた)電極(図8(a):ガラス状炭素電極、図8(b):グラフェン堆積のガラス状炭素)が主回路に-1.5Vの電圧で接続された際のHER電流を表しており、かかる電圧において電荷が持続的に電極上に維持され、非チャージ・ケース(又は予め帯電させていないケース)と比べてより高められた速度でHERがより長い期間で進行することが示されている。
【0025】
HERに加えて、電極触媒プロセス、特に酸素発生反応(OER)、酸素還元反応(ORR)およびCO還元プロセスに関する他の例の範囲があり、それらにつき、予測第1原則モデル化(predictive first-principle modelling)では、それらの性能および効率の相当な向上は、作用電極が適当な電荷調節を受けた際に達成できることを示している。
【0026】
図9(a)および9(b)は、作用電極としてベア・グラフェン(bare graphene)、Bドープ・グラフェン、Nドープ・グラフェンを有するOERおよびORR反応中間構造を表している。
【0027】
図10(a)および10(b)は、作用電極として“さら”のグラフェンを有するOERのコンピューター結果を表している。図10(a)は、0V、1.23Vおよび2.56Vといった3つの異なる主電圧に対する“さら”のグラフェン又はその近くで生じる種々の素反応の自由エネルギーを示している。かかる場合、“さら”のグラフェンには電荷が加えられない。図10(b)では、異なる素反応の自由エネルギーが、グラフェンの異なる電荷値に対して表されている。主電圧は、かかる場合では一定に維持され、すなわち、V=1.23Vの一定に維持されている。かかる図から、作用電極に負電荷が配置される際には過電位の相当な低減がOERプロセスに対して予測されることが分かる。
【0028】
触媒電極の工業において、RuOおよびPtは、それぞれOERおよびORRのための効率がより高い触媒電極と考えられている。
【0029】
図11は、最適な電荷を伴う“さら”のグラフェン電極が、RuO材料に匹敵するOER活性を供し得ることができることを示している。-3.3eの電荷を伴う“さら”のグラフェン電極で予測される最小の過電位は0.54Vである。これは、グラフェンのような安価な電極上に適当な電荷を維持することによりOERプロセスのためのRuO電極と同様の性能が供されることを示している。
【0030】
ここで図12(a)では、“さら”のグラフェンを作用電極として有するORRプロセスに対するコンピューター計算の結果が示されている。種々の素反応の自由エネルギーが、-0.7V,0Vおよび1.23Vといった3つの異なる主電位に対して示されている。かかる場合、グラフェン電極上に電荷は維持されていない。図12(b)では、異なる素反応に対する自由エネルギーが、グラフェンの異なる電荷値に対して示されている。かかる場合、主電圧は、V=1.23Vに維持されている。
【0031】
図13は、最適な電荷を伴う“さら”のグラフェン電極がPt電極に匹敵するORR活性を供し得ることを示している。-6.65eの電荷を伴う“さら”のグラフェン電極で予測される最小の過電位は0.58Vである。
【0032】
図14では、“さら”のグラフェン、Bドープ・グラフェン、およびNドープ・グラフェンに対するコンピューター計算された最小の過電位(各ケースでチャージされている最適材料についてのコンピューター計算された最小の過電位)を、OER(RuO)およびORR(Pt)に対する工業的な“ゴールド・スタンダード(究極の判断基準、gold standard)”と比較して纏めている。最小限のコンピューター計算された過電位を比べると、“さら”のグラフェン(グラファイトまたはガラス状炭素で存在するような“そのまま”のグラフェン)は、工業的なゴールド・スタンダードの材料であるRuO、Ptの性能に近いものとなっており、Bドープ・グラフェンおよびNドープ・グラフェンは、更により良い性能を示すことが分かる。
【0033】
別の態様では、本発明は、合成材料から形成された電極と共に用いることができる。かかるアプローチでは、化学反応の効率を2つの別個の効果を通じてより大きく高めることができる。つまり、まず、高められる触媒性能に対する合成電極材料の特性をまず利用することで、そして、次に合成電極材料の調節可能な電荷密度のレバー(lever)を用いることによって、化学反応の効率をより大きく高めることができる。
【0034】
図15および図16は、容易に利用できて安価な電極材料SrTiO上で適当な電荷を維持することによってOERの性能が高められることを示している。図15は、SrTiOから形成される作用電極に配置される電荷が無い場合のOERの種々の素プロセスのための高い自由エネルギーを表している。それゆえ、常套的な電極触媒プロセスがSrTiO電極上の電荷を維持せずに実施される場合、SrTiOはOERに対して不十分な材料となる。しかしながら、1eの電荷密度がSrTiO上で維持される場合では、0.68Vの過電位が予測され、それは電荷無しのケースから40%向上となる。
【0035】
本発明の態様を適用可能となる別の例は、CO還元の電極触媒プロセスであり、それによってギ酸(HCOOH)および他の短鎖有機物が形成される。かかる反応では、グラフェンまたは他の炭素ベースの材料を触媒電極として用いることは、通常、非常に非効率であり、典型的には1eVをゆうに超える過電位を伴う。コンピューター計算は、Nドープ・グラフェンに電荷調節を加えることが、かかるプロセスの効率を大きく高めることができることを示している。図17は、このようなコンピューター計算で用いられるNドープ・グラフェンの構造を示している。
【0036】
図18は、CO還元プロセスのための種々の素還元工程に対するNドープ・グラフェンの中間構造を示している。
【0037】
図19は、Nドープ・グラフェン電極上の異なる程度の電荷(-6e、-8e、および-10e)に対するCO還元プロセスに関与する素反応の自由エネルギーの変化(variation)を示している。これらの自由エネルギー・プロファイルは、小さい(small)負電荷、緩やかな(moderate)負電荷、およびより高い(higher)負電荷として示されている。図19で予測される結果は、Nドープ・グラフェンの小さい電荷(N=-6e)に対しては、大きな還元反応バリア(0.83eV)の弱い吸収が起こることを示している。Nドープ・グラフェンの中間的な電荷(N=-8e)は、僅か0.64Vの小さい過電位でギ酸(HCOOH)へのCOの電極触媒還元がもたらされる結果となり得る。一方、Nドープ・グラフェンの大きな電荷(N=-10e)は、中間体および大きな脱着バリア(1.00eV)の強い吸収がもたらされる。
【0038】
上述の態様および実施例では、HER、OER、ORR,CO還元を含む電気化学的な用途に言及している。しかしながら、本発明はそのような用途に限定されない。電気化学分野における多くの用途に対して上述の態様などは適用され得る。
【0039】
上記では、作用電極上の電荷を制御するのに利用できる多くの構成について説明してきた。これらは、キャパシター・アレンジメントおよびゲート電極アレンジメントを含んでいる。本発明はかかるアレンジメントに限定されない。電極上の電荷制御に用いることができる他のアレンジメントを、他の態様において利用してよい。
【0040】
上記の態様の説明において、電極は模式的に表したものであった。電極は、実験室で用いられる形態または工業的スケールで用いられる形態などのいずれの形態であってよく、また、いずれの形状であってもよいことは理解されよう。
【0041】
上記においては、電極の半反応の結合エネルギーに対する電極上の電荷を調節する効果について考慮されている。本発明はかかる効果に限定されない。作用電極上の電荷を管理は、電気化学的プロセスの多くの異なる基準(criteria)に影響を与えるべく利用され得る。
【0042】
広く説明された本発明の考えおよび範囲から逸脱することなく、特定の態様で示された本発明に対しては多数のバリエーションおよび/または変更が可能であることは当業者に理解されよう。それゆえ、本発明の態様は、あらゆる点で例示的であって非制限的なものである。
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