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特許7035054炭素の添加による炭素非含有カンラン石の脱リチウム化
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】炭素の添加による炭素非含有カンラン石の脱リチウム化
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/37 20060101AFI20220307BHJP
   H01M 4/58 20100101ALN20220307BHJP
【FI】
C01B25/37 Z
H01M4/58
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019531729
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 IB2017057971
(87)【国際公開番号】W WO2018109727
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-27
(31)【優先権主張番号】62/434,661
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513138072
【氏名又は名称】ハイドロ-ケベック
(73)【特許権者】
【識別番号】518219631
【氏名又は名称】セイセ エネルヒグネ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ガルセラン メストレス, モンセラート
(72)【発明者】
【氏名】カサス カバナス, モンセラート
(72)【発明者】
【氏名】ゲルフィ, アブデルバスト
(72)【発明者】
【氏名】アルマンド, ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ザグヒブ, カリム
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-528899(JP,A)
【文献】特表2013-533577(JP,A)
【文献】D.Lepega et al,Delithiation Kinetics study of carbon coated and carbon free LiFeO4,Journal of Power Sources,2013年12月24日,256,pp61-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/37
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素非含有カンラン石の脱リチウム化の方法であって、酸化剤の存在下で前記炭素非含有カンラン石を炭と接触させて脱リチウム化カンラン石を得るステップを含み、炭素のカンラン石に対する重量比は、0.01%~15%の範囲内である、方法。
【請求項2】
前記炭素非含有カンラン石が、式LiMPOのものであり、式中、MはFe、Ni、Mn、Co、またはそれらの組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素非含有カンラン石が、式LiFe(1-x)M’POのものであり、式中、M’はNi、Mn、Co、またはそれらの組合せであり、0≦x<1である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
M’がMnであり、0<x<1である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
xが0.1~0.9の範囲ら選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
xが0.2~0.8の範囲から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
xが0.2~0.6の範囲から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
xが0であり、前記カンラン石がLiFePOであ、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記酸化剤が過硫酸塩である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化剤が過硫酸カリウムまたは過硫酸ナトリウムである、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化剤が過硫酸ナトリウム(Na)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記炭が、カーボンブラック、アセチレンブラック、Ketjen black(登録商標)、Denka(商標)black、Super P(商標)炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、およびそれらの任意の混合物から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、水中または水性溶媒中で行われる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
界面活性剤の添加をさらに含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記界面活性剤がアルキルフェノールエトキシレート界面活性剤(例えばTriton(商標)X-100)である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
のカンラン石に対する重量比が、0.05%~10%の間ある、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
炭素のカンラン石に対する重量比が、0.1%~5%の間である、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2016年12月15日に出願された米国仮出願第62/434,661号に対する優先権を主張する。この米国仮出願の内容は、全ての目的で、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
技術分野
技術分野は一般に、カンラン石の脱リチウム化の方法に関し、より具体的には炭素の添加による炭素非含有カンラン石の脱リチウム化の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
最近数十年間に、バッテリーは携帯用途および据え置き用途の両方の電気エネルギー貯蔵(EES)システムとして広く使用されてきた。特に、リチウムイオンは携帯型デバイスにおいて最も広く使用されるバッテリーであり、現在では自動車業界にも広がっている(J. M. TarasconおよびM. Armand、Nature、2001年、414巻、359頁;M. Armand、J.M. Tarascon、Nature、2008年、451巻、652頁)。
【0004】
トリフィライト(カンラン石)リン酸鉄リチウムおよびリン酸マンガンリチウム、LiFePO(LFP)およびLiMnPO(LMnPまたはLMP)は、Liイオンバッテリーに適した材料と認められてきた(A. Padhiら、J. Electrochem. Soc.、1997年、144巻、1188頁;B. L. Ellisら、Chem. Mater.、2010年、22巻、691頁)。特に、LFPは現在、安全な電圧窓において最も高い容量(約170mAh g-1)を送達するので(H. Hyandら、Electrochem. Solid State Lett.、2001年、A、A170~A171頁)、商業的に成功していると考えられており、低コスト、非毒性、および高い熱安定性(K. Zaghibら、J. Power Sources、2013年、232巻、357頁)などのいくつかの特徴を示す。
【0005】
LiFePOの化学的脱リチウム化は最近数十年にわたって広く研究されてきた。不活性雰囲気下のアセトニトリル中NOPFおよびNOBF(A Padhiら、上記;A. R. Wizanskyら、J. Solid State Chem.、1989年、81巻、203頁;C. Delacourtら、J. Electrochem. Soc.、2005年、152巻(5号)、A913頁)、またはBr(Anna S. Anderssonら、Solid State Ionics、2000年、130巻、41頁) などのいくつかの酸化剤は、LiFePOを脱リチウム化することが公知である。しかし、これらの試薬は環境に優しいと見なすことはできない。
したがって、脱リチウム化カンラン石の改善された製造方法を開発することが非常に望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. M. TarasconおよびM. Armand、Nature、2001年、414巻、359頁
【文献】M. Armand、J.M. Tarascon、Nature、2008年、451巻、652頁
【文献】A. Padhiら、J. Electrochem. Soc.、1997年、144巻、1188頁
【文献】B. L. Ellisら、Chem. Mater.、2010年、22巻、691頁
【文献】H. Hyandら、Electrochem. Solid State Lett.、2001年、A、A170~A171頁
【文献】K. Zaghibら、J. Power Sources、2013年、232巻、357頁
【文献】A Padhiら、上記;A. R. Wizanskyら、J. Solid State Chem.、1989年、81巻、203頁
【文献】C. Delacourtら、J. Electrochem. Soc.、2005年、152巻(5号)、A913頁
【文献】Anna S. Anderssonら、Solid State Ionics、2000年、130巻、41頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様によれば、カンラン石の脱リチウム化の方法が記載され、より具体的には酸化剤の存在下での炭素の添加による炭素非含有カンラン石の脱リチウム化が記載される。より具体的には、本発明の技術は炭素非含有カンラン石の脱リチウム化の方法であって、酸化剤の存在下で炭素非含有カンラン石を炭素源と接触させて脱リチウム化カンラン石を得るステップを含む、方法に関する。
【0008】
一実施形態では、炭素非含有カンラン石は式LiMPOのものであり、式中、MはFe、Ni、Mn、Co、またはそれらの組合せである。別の実施形態では、炭素非含有カンラン石は式LiFe(1-x)M’POのものであり、式中、M’はNi、Mn、Co、またはそれらの組合せであり、かつ例えば0≦x<1である、あるいはM’はMnであり、かつ0<x<1であるか、またはxは0.1~0.9の範囲から、もしくは0.2~0.8の範囲から、もしくは0.2~0.6の範囲から選択される。別の実施形態では、xは0である(すなわちカンラン石はLiFePOである)。
【0009】
別の実施形態では、酸化剤は過硫酸塩および過酸化物から選択される。好ましくは、酸化剤は過硫酸塩、例えば過硫酸カリウムまたは過硫酸ナトリウム、例えば過硫酸ナトリウムである。
【0010】
さらなる実施形態では、炭素源は、Ketjenblack(登録商標)、アセチレンブラック、例えばDenka(商標)blackまたはShawinigan black(商標)、炭素繊維、Super P(商標)炭素、グラフェン、グラファイト、およびそれらの任意の混合物から選択される。例えば、炭素源のカンラン石に対する重量比は0.05%~10%の間、または0.1%~5%の間である。
【0011】
さらに別の実施形態では、方法は水性溶媒中、例えば水中で行われる。例えば、方法は界面活性剤を反応混合物へ添加するステップをさらに含む。例えば、界面活性剤はポリエチレングリコールに基づく非イオン性界面活性剤である。
【0012】
添付の図面を参照して本明細書における下記の説明を読むと、本発明の技術の他の特徴および利点がさらに良く理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、文献からのLFPおよびFPのデータと比較した、比較例1による、脱リチウム化後に得られた試料FPccおよびFPnccのX線回折パターンを示す。
【0014】
図2図2は、比較例1による、(a)LFPcc出発材料および(b)脱リチウム化後に得られたFPccのSEM画像を示す。
【0015】
図3図3は、文献からのLFPおよびFPデータと比較した、実施例1で得られたFPnccKBsolおよびFPnccKBspexについて得られたX線回折パターンを示す。
【0016】
図4図4は、実施例1の(a)原料LFPncc;(b)FPnccKBsol;および(c)FPnccKBspexのSEM画像を示す。
【0017】
図5図5は、実施例2のFPnccDkについてのLe Bailプロファイルマッチングを示す。
【0018】
図6図6は、(a)LFPncc;(b)~(c)FPnccDkのSEM画像;および(d)(c)のBSED画像を示し、すべて実施例2のものである。
【0019】
図7図7は、実施例3のFPnccVGCFについてのLe Bailプロファイルマッチングを示す。
【0020】
図8図8は、(a)LFPncc;(b)~(c)FPnccVGCFのSEM画像;および(d)(c)のBSED画像を示し、すべて実施例3のものである。
【0021】
図9図9は、実施例4のFPnccSPについてのLe Bailプロファイルマッチングを示す。
【0022】
図10図10は、実施例4で得られた、(a)FPnccSPのSEM画像;および(b)(a)のBSED画像を示す。
【0023】
図11図11は、実施例5のFPnccGrphtについてのLe Bailプロファイルマッチングを示す。
【0024】
図12図12(a)および(b)は、実施例5で得られたFPnccGrphtのSEM画像を示す。
【0025】
図13図13は、実施例6のFPnccGrphnVGCFについてのLe Bailプロファイルマッチングを示す。
【0026】
図14図14(a)および(b)は、実施例6で得られたFPnccGrphnVGCFのSEM画像を示す。
【0027】
図15図15は、実施例7のFPnccGrphtKbについてのLe Bailプロファイルマッチングを示す。
【0028】
図16図16(a)および(b)は、実施例7で得られたFPnccGrphtKbのSEM画像を示す。
【0029】
図17図17は、実施例8のFPnccGrphtDkについてのLe Bailプロファイルマッチングを示す。
【0030】
図18図18(a)および(b)は、実施例8で得られたFPnccGrphtDkのSEM画像を示す。
【0031】
図19図19は、実施例9のFPnccGrphtSPについてのLe Bailプロファイルマッチングを示す。
【0032】
図20図20(a)および(b)は、実施例9で得られたFPnccGrphtSPのSEM画像を示す。
【0033】
図21図21は、文献からのLFPおよびFPデータと比較した、実施例10の脱リチウム化した試料FPnccKBsol、FPnccKBsol25、FPnccKBsol1、FPnccKBsol05、FPnccKBsol01のX線回折パターンを示す。
【0034】
図22図22は、実施例11のFPnccTについてのLe Bailプロファイルマッチングを示す。
【0035】
図23図23は、文献からのLFPおよびFPデータと比較した、実施例12(a)および12(b)におけるようにH/酢酸を使用したLFPnccおよびLFPccのXRDパターンを示す。
【0036】
図24図24は、文献からのLFPおよびFPデータと比較した、実施例12(c)~12(h)におけるように水性媒体中のH/アセトニトリルまたはNaを使用したLFMPnccおよびLFMPcc試料のXRDパターンを示す。
【0037】
図25図25は、LiFe0.8Mn0.2POの、Vegardの法則による、単位格子パラメーターの展開を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
カンラン石LFPは水中で安定である。強力な酸化剤であるKおよびNaのような過硫酸塩は、水性媒体中で使用できる。さらに、KおよびNaは、NOBFの200分の1の安さであり、このことは、特に工業生産スケールで使用される場合、費用競争力のある脱リチウム化プロセスに必須である。
【0039】
LFPのようなカンラン石は一般に、それらの導電率が不十分であることを考慮し炭素被覆粒子として使用されるので、LFPの脱リチウム化に対する炭素の影響を、例えばKまたはNaのような過硫酸塩などの酸化剤を使用して評価した。以下の比較例1で示すように、炭素被覆LFPのみが水性媒体中のNaを使用して良好に脱リチウム化された。
【0040】
水性媒体中のKを使用した非炭素被覆LFPの脱リチウム化が2つの発行物で報告された(K. Amineら、Electrochemistry Communications、2005年、7巻、669頁、およびJ. L. Doddら、Electrochemical and Solid-State Letters、2006年、9巻(3号)、A151~A155頁)。しかし、これらの場合、LFPの上流調製は鉄源としてシュウ酸鉄を使用した固体状態合成により行われ、この方法は合成後の粒子表面上への炭素の堆積をもたらすことが公知である(J. Wang およびX. Sun、Energy Environ. Sci.、2012年、5巻、5163頁)。
【0041】
2014年、D. Lepageら(Journal of Power Sources、2014年、256巻、61頁)は、水熱法により得られる市販の非炭素被覆および炭素被覆LiFePOの良好な脱リチウム化を行うために、酸化剤として酢酸中の過酸化水素(H)を使用することを報告した。しかし、使用される合成法は前駆体からの炭素の生成を伴う場合があるにもかかわらず、この結論は本明細書において観察されることと一致しない。それらの発行物では、著者らは、使用されるLFPが水熱法により得られ、Saint-Bruno de Montarville(Canada)のClariant(Canada)inc.(Phostech Lithium Inc)により供給されたと記載していた。その論文では合成は報告されていないので、D. Lepageらの論文のように共著者がClariantおよびモントリオール大学出身である論文を探し出した。記載されるLFP合成は溶液中のFe、LiHPO、およびクエン酸を使用して水熱法により行われた。第1のステップで、LiFePO(OH)が得られる(L. Chengら、J. Pow. Sources、2013年、242巻、656頁)。β-ラクトースの存在下で高温で熱処理した後、炭素被覆LFPが得られる。ラクトースの非存在下で焼成ステップを行った場合、非炭素被覆LFPが生じると考えられる。しかし、初期の段階でクエン酸が存在するとLFP粒子上にいくらかの炭素残渣が存在する可能性が高くなる。
【0042】
したがって本発明の技術は、過硫酸塩などの酸化剤の存在下で外部炭素源を添加することにより炭素非含有カンラン石を脱リチウム化して脱リチウム化カンラン石を得る方法に関する。炭素非含有カンラン石は一般に式LiMPOにより定義することができ、式中、MはFe、Ni、Mn、Co、またはそれらの組合せである。例えば、カンラン石は式:LiFe(1-x)M’POのものであり、式中、M’はNi、Mn、Co、またはそれらの組合せであり、かつ0≦x<1である、あるいはM’はMnであり、かつ0<x<1であるか、またはxは0.1~0.9の範囲、もしくは0.2~0.8の範囲、もしくは0.2~0.6の範囲から選択される。カンラン石の一例はLiFePO(LFP)である。
【0043】
様々な酸化剤を使用してもよく、例えば過硫酸塩および過酸化物を使用してもよい。好ましくは、酸化剤は過硫酸塩であり、例えばKまたはNa、好ましくはNaである。酸化剤の量は反応の化学量論に従って調整される。例えば、2つの鉄原子をFe(II)からFe(III)へ酸化させるのに1分子の過硫酸塩が必要とされるので、約2:1のカンラン石:過硫酸塩のモル比を使用することができる。
【0044】
本明細書に記載の結果によれば、カンラン石へ添加しようとする炭素源は、その多孔性またはその固体状態とは関係なく任意の公知の導電性炭素から選択してもよく、例えば炭素源は、カーボンブラック、例えばKetjen black(登録商標)、Super P(商標)炭素、およびアセチレンブラック(例えばDenka(商標)black、Shawinigan black(商標))、炭素繊維(例えばVGCF)、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、またはそれらの任意の混合物から選択してもよい。カンラン石に添加される炭素の量は非常に少なくてもよく、なぜなら脱リチウム化ステップを触媒するのに少量のみが必要とされるからである。例えば、反応混合物に添加される炭素の重量パーセントは、使用されるカンラン石の重量に対して0.01%~15%の間、または0.05%~10%の間、または0.1%~5%の間である。
【0045】
方法は、例えば任意の水含有溶媒(すなわち水性溶媒)中で行ってもよい。好ましくは、方法は溶媒としての水中で実現される。水中の炭素源のより良好な分散を可能にするために、界面活性剤を組成物に添加することもできる。界面活性剤の例は、当技術分野で公知であり、ポリエチレングリコールに基づく非イオン性界面活性剤(エトキシレートとも呼ばれ、例えば脂肪アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、および脂肪酸エトキシレート)、例えばアルキルフェノールエトキシレート界面活性剤、例えばTriton(商標)X-100(すなわちC17(OC9~10OH)が挙げられる。
【実施例
【0046】
以下の非限定的な例は例示的な実施形態であり、本開示の範囲をさらに限定するものとして解釈されるべきではない。
【0047】
(比較例1)
実験はIREQ(Varennes、Canada)により供給される市販の非炭素被覆および炭素被覆LiFePO(LFP)を使用して行われ、これらは非炭素被覆(炭素非含有LFP)についてはLFPnccと表示され、炭素被覆についてはLFPccと表示される。Zaghibらの研究(Journal of Power Sources、2009年、187巻、555頁)およびIntaranontらにより行われた最新の研究(Journal of Materials Chemistry A、2014年、2巻(18号)、6374頁)に従って、LFPの脱リチウム化を行った。
【0048】
まず、非炭素被覆または炭素被覆LFP(それぞれLFPnccおよびLFPccと名付ける)ならびにNa(Sigma-Aldrich、98%)を以下の反応に従って2:1のモル比で脱イオン水と混合した:
2LiFePO4+Na2S2O8 ←→ 2FePO4+Li2SO4+Na2SO4 式1
【0049】
次いで、溶液を撹拌下で室温にて24時間維持した。最終溶液の色は非炭素被覆LFPについては緑色、炭素被覆LFPについては黒色であった。24時間後、析出物を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、60~75℃で一晩乾燥させた。
【0050】
図1は、脱リチウム化後の化合物のXRDパターンを示す。この図で分かるように、脱リチウム化は炭素被覆LFPにおいてのみ実現することができ、それによりFePO(FPcc)が調製される。反対に、非炭素被覆試料は、FPnccと名付けられるが(本開示の全体を通して同じ体系的命名に従うため)、依然としてカンラン石LFPの特徴的な回折ピークを示す。このことは、Le Bail法による精密化によって決定される精密化された単位格子パラメーターから裏付けられ、これらは文献値と共に表1に示される。
【0051】
【表1】
【0052】
LFPccのみが良好な脱リチウム化を生じるので、この試料についてのみ電子顕微鏡法によるモルフォロジーの研究を行った。脱リチウム化後に得られた被覆LFPccおよびFPccの均質度および粒径をそれぞれ図2(a)および(b)に示す。この実験は、LFPの良好な脱リチウム化の実現において炭素が役割を果たすことを示す。
【0053】
(実施例1)
Ketjen black(登録商標)(5wt%)
第1の試験において、5.21g Na(Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させた(無色溶液)。溶解後、式1に従って6.7gのLFPnccを溶液へ添加し、均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、Ketjen black(登録商標)(0.337g)を溶液へ添加し、炭素を溶液中に分散させるのを助ける、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として添加した。次いで、溶液を撹拌下で室温にて24時間維持し、より濃い色の溶液が得られた。次いで、溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、次いで析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。未処理LFPncc粉末および得られた最終FP(このレポートではFPnccKBsolと呼ぶ)を比較した。
【0054】
第2の試験において、4.21g Na(Sigma-Aldrich、98%)を200mLの脱イオン水に溶解させた。次いで、高エネルギーボールミリングSPEX(登録商標)を使用して、5.7gのLFPnccおよび0.3gのKetjen black(登録商標)を30分間混合した。その後、均質な混合物(LFPncc+Ketjen black(登録商標))をNaの溶液へ添加し、撹拌下で室温にて24時間維持した。次いで溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、得られた析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。未処理の粉末LFPnccおよび得られた最終FP(この報告ではFPnccKBspexと呼ぶ)を比較した。
【0055】
得られた両方のFP(それぞれFPnccKBsolおよびFPnccKBspex)を比較すると、後者がより濃い色を有することが分かる。この事実はLFPnccおよびKetjen black(登録商標)の混合においてSPEX(登録商標)を使用したことに起因する可能性があり、この場合炭素はLFPncc粒子の表面上に機械的に被覆された可能性がある。
【0056】
X線回折を構造特定および相同定のために使用した。図3は両方の化合物FPnccKBsolおよびFPnccKBspexについて得られたX線回折パターンを示し、これを文献からのLFPおよびFPデータと比較した。さらに、Le Bail法を使用してこれらのパターンを精密化して表2に報告される両方の化合物の単位格子パラメーターが決定され、これはFePOに相当する。
【0057】
【表2】
【0058】
図4は、脱リチウム化プロセス後に得られた両方のFP(FPnccKBsolおよびFPnccKBspex)のSEM画像を示し、これらは原料(LFPncc、図4(a))と同じ粒径を示す。FPnccKBsolについては、画像は凝集体間のKetjen black(登録商標)のランダムな分布を表している(図4(b)、炭素をハイライト表示)。一方、FPnccKBspex(図4(c))は、炭素およびLFPnccが共にボールミリング処理されたので、この特徴を示さない。
【0059】
(実施例2)
Denka(商標)炭素(5wt%)
Na(5.1994g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させ、式1に従ってLFPncc(7.0207g)を溶液へ添加した。得られた混合物を、均質化した溶液が得られるまで撹拌した。次いで、0.3567gのDenka(商標)炭素を溶液へ添加した。炭素粉末を溶液中に分散させるのを助けるために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として混合物へ添加した。次いで、混合物を撹拌下で室温にて24時間維持し、より濃い色の溶液が得られた。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccDkと呼ぶ灰色粉末が得られた。
【0060】
X線回折を構造特定および相同定のために使用した。図5はLe Bail法による精密化を示し、これは化合物が特徴的な斜方晶系カンラン石の相(Pnma)を有して結晶化していることを明らかにしている。決定された単位格子パラメーターはa=9.8189(5)Å、b=5.7967(3)Å、およびc=4.7880(2)Åであり、これらはFPについて報告されているものと一致している(下記の表3を参照)。
【0061】
走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して粒径およびモルフォロジーの研究を行った。両方の材料(LFPおよびFP)は良好な均質性を示したが、小さい粒子の塊状凝集体の存在も示した。LFPnccは球状凝集体を示す(図6(a))が、一方FPnccDkでは球状凝集体は壊れている(図6(b)および6(c))。しかし、両方の材料の粒径は同じナノメートルの範囲内である。反射電子検出器(BSED)を使用して、異なる化学組成を有する区域間、この場合はFPnccDkとDenka(商標)炭素の間のコントラストを検出した。最も重い元素は軽い元素(この場合はDenka(商標)炭素)よりも電子を強く後方散乱させ、画像の中でより明るいコントラストを示す(図6(d))。
【0062】
(実施例3)
VGCF(5wt%)
Na(5.2205g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させ、式1に従ってLFPncc(7.054g)を溶液へ添加した。得られた混合物を、均質化した溶液が得られるまで撹拌した。次いで、0.3587gのVGCFを溶液へ添加し、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として添加した。溶液を撹拌下で室温にて24時間維持し、その後溶液はより濃い色になった。その後、溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccVGCFと呼ぶ灰色粉末が得られた。
【0063】
X線回折を使用して構造特定および相同定を行った。Le Bail法による精密化によって、化合物がa=9.8176(6)Å、b=5.7946(3)Å、およびc=4.7863(3)Åを単位格子パラメーターとして有する斜方晶系カンラン石の相(Pnma)において結晶化していることが明らかとなり(下記の図7および表3)、このことは脱リチウム化が完了したことを示す。26.5°付近のさらなるピークはグラファイトに起因する(図7の挿入図を参照)。
【0064】
さらに、走査電子顕微鏡法を使用してモルフォロジー上の特徴および粒径を決定した。LFPnccは球状凝集体を示し(図8(a))、これはFPnccVGCFでは壊れていると思われる(図8(b))。VGCFに起因するナノ繊維も観察できる(図8(c))。原料(LFPncc)およびFPnccVGCFは同じナノメートルの範囲の粒径を示す。図8(d)は図8(c)に対応するBSED画像であり、これは異なる化学組成を有する区域間、この場合はFPnccVGCFとVGCF(繊維)の間のコントラストを示す。
【0065】
(実施例4)
Super P(商標)炭素(5wt%)
Na(5.2215g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させ、式1に従ってLFPncc(7.0526g)を溶液へ添加した。均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、0.3582gのSuper P(商標)炭素を溶液へ添加した。溶液中の炭素の良好な分散を実現するために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として混合物へ添加した。混合物を撹拌下で室温にて24時間維持し、より濃い色の溶液が得られた。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、次いで析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccSPと呼ぶ暗灰色粉末が得られた。
【0066】
X線を使用して構造特定を行った。図9は脱リチウム化後に得られた化合物のLe Bail法による精密化を示す。XRDパターンは、化合物が特徴的な斜方晶系カンラン石の相(Pnma)において結晶化していることを明らかにしており、決定された単位格子パラメーターはa=9.8146(3)Å、b=5.7938(2)Å、およびc=4.7833(2)Åであり、FPについて報告されているものと一致していた(下記の表3を参照)。
【0067】
図10(a)は、脱リチウム化後に得られた化合物のSEM画像を示す。FPnccSPは、良好な均質度を示し、粒径は原料(LFPncc、図8(a)を参照)と同じ範囲内である。図10(b)は図10(a)に対応するBSED画像である。異なる化学組成を有する区域間の差を観察するためにBSED分析を行った。最も重い元素(FPnccSP)は画像においてより明るく見えるが、一方最も軽い元素(Super P(商標))はより暗い領域で見られる。
【0068】
(実施例5)
グラファイト(5wt%)
Na(5.2297g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させ、式1に従ってLFPncc(7.0206g)を溶液へ添加した。均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、0.3360gのグラファイトを溶液へ添加した。溶液中の炭素の良好な分散を得るために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として添加した。混合物を撹拌下で室温にて24時間維持し、より濃い色の溶液が得られた。次いで溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。最後に、FPnccGrphtと呼ぶ緑色粉末が得られた。
【0069】
構造特定および相同定のためにX線回折測定を使用した。図11は脱リチウム化後に得られた化合物のLe Bail法による精密化を示す。XRDパターンは、化合物が特徴的な斜方晶系カンラン石の相(Pnma)において結晶化していることを明らかにしている。決定された単位格子パラメーターはa=9.8143(9)Å、b=5.7946(5)Å、およびc=4.7843(5)Åであり、これらはFPについて報告されているものと一致している(下記の表3を参照)。26.5°付近のさらなるピークはグラファイトに起因する(図11の挿入図を参照)。
【0070】
図12は、グラファイトを使用したLFPnccの脱リチウム化後に得られた化合物のSEM画像に相当する。上記の実施例におけるように、試料は良好な均質度を示し、球状凝集体を示す。
【0071】
(実施例6)
グラフェン/VGCF(2.5:2.5wt%)
Na(5.2256g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させ、式1に従ってLFPncc(7.0538g)を溶液へ添加した。均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、0.3559gのグラフェン/VGCF(50:50)の混合物を溶液へ添加した。溶液中の炭素の良好な分散およびより良好な均質性のために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として混合物へ添加した。次いで混合物を室温で24時間撹拌し、より濃い色の溶液が得られた。混合物を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccGrphnVGCFと呼ぶ緑色粉末が得られた。
【0072】
構造特定および相同定のためにX線回折測定を使用した。図13は脱リチウム化後に得られた化合物のLe Bail法による精密化を示す。パターンは、化合物が特徴的な斜方晶系カンラン石の相(Pnma)を有して結晶化していることを明らかにしている。決定された単位格子パラメーターはa=9.815(2)Å、b=5.795(1)Å、およびc=4.785(1)Åであり、FPについて報告されているものと一致していた(下記の表3を参照)。26.5°付近のさらなるピークはグラファイトに起因する(図13の挿入図を参照)。
【0073】
図14は、脱リチウム化後に得られたFPnccGrphnVGCFの2つのSEM画像を示す。試料は、良好な均質度を示し、前駆体LFPncc(図8(a))と同じナノメートルの範囲の粒径を示す。両方の画像において、VGCF繊維(図14(a))およびグラフェン(図14(b))も観察できる。
【0074】
(実施例7)
グラファイト/Ketjen black(登録商標)(2.5:2.5wt%)
Na(5.2296g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させ、式1に従ってLFPncc(7.0388g)を溶液へ添加した。均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、0.17749gのグラファイトおよび0.1786gのKetjen black(登録商標)(混合物 50:50)を溶液へ添加した。溶液中の炭素の良好な分散を得るために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として溶液へ添加した。次いで、溶液を室温で24時間撹拌し、より濃い色の溶液が得られた。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccGrphtKbと呼ぶ灰色粉末が得られた。
【0075】
構造特定および相同定のためにX線回折測定を使用した。図15は脱リチウム化後に得られた化合物のLe Bailプロファイルマッチングを示す。XRDパターンは、化合物が特徴的な斜方晶系カンラン石の相(Pnma)を有して結晶化していることを明らかにしており、決定された単位格子パラメーターはa=9.8150(6)Å、b=5.7937(4)Å、およびc=4.7843(3)Åであり、FPについて報告されているものと一致していた(下記の表3を参照)。26.5°付近のさらなるピークはグラファイトに起因していた(図15の挿入図を参照)。
【0076】
走査電子顕微鏡法を使用してモルフォロジー上の特徴および粒径を決定した(図16)。FPnccGrphtKbは、良好な均質度を示し、前駆体(LFPncc、図8(a))と同じナノメートルの範囲の粒径を示す。図16(b)において、炭素を有するいくつかの領域も観察できる。
【0077】
(実施例8)
グラファイト/Denka(商標)(2.5:2.5wt%)
Na(5.2307g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させ、式1に従ってLFPncc(7.0290g)を溶液へ添加した。均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、0.1837gのグラファイトおよび0.1774gのDenka(商標)炭素(混合物 50:50)を溶液へ添加した。炭素の良好な分散のために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として添加した。混合物を室温で24時間撹拌し、より濃い色の溶液が得られた。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccGrphtDKと呼ぶ灰色粉末が得られた。
【0078】
X線を使用して構造特定を行った。図17は脱リチウム化後に得られた化合物のLe Bailプロファイルマッチングを示す。XRDパターンは、化合物が特徴的な斜方晶系カンラン石の相(Pnma)において結晶化していることを明らかにしており、決定された単位格子パラメーターはa=9.8163(6)Å、b=5.7948(3)Å、およびc=4.7858(3)Åであり、これらはFPについて報告されているものと一致している(下記の表3を参照)。26.5°付近のさらなるピークはグラファイトに起因する(図17の挿入図を参照)。
【0079】
図18は、脱リチウム化後に得られたFPnccGrphtDkの2つのSEM画像を示す。試料は良好な均質性を示し、前駆体LFPncc(図8(a))と同じナノメートルの範囲の粒径を示す。
【0080】
(実施例9)
グラファイト/Super P(商標)(2.5:2.5wt%)
Na(5.2379g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させた。式1に従ってLFPncc(7.0244g)を溶液へ添加し、均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、0.1758gのグラファイトおよび0.1752gのSuper P(商標)(混合物 50:50)を溶液へ添加した。良好な炭素の分散を実現するために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として添加した。混合物を室温で24時間撹拌し、より濃い色の溶液が得られた。その後、溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccGrphtSPと呼ぶ灰色粉末が得られた。
【0081】
X線回折測定により構造特定を行った。図19は脱リチウム化後に得られた化合物のLe Bailプロファイルマッチングを示す。XRDパターンは、化合物が特徴的な斜方晶系カンラン石の相(Pnma)において結晶化していることを明らかにしており、決定された単位格子パラメーターはa=9.8146(5)Å、b=5.7935(3)Å、およびc=4.7838(3)Åであり、FPについて報告されているものと一致していた(下記の表3を参照)。26.5°付近のさらなるピークはグラファイトに起因する(図19の挿入図を参照)。
【0082】
図20では、脱リチウム化後に得られたFPnccGrphtSPのSEM画像が見られる。この試料は、良好な均質度、および前駆体LFPncc(図8(a))と同じナノメートルの範囲の粒径を示す。
【0083】
【表3】
【0084】
(実施例10)
脱リチウム化に対する炭素量の効果
(a)2.5wt%のKetjen black(登録商標)
Na(5.2072g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させた。式1に従ってLFPncc(7.0342g)を溶液へ添加し、均質化した溶液が得られるまで溶液を撹拌した。次いで、0.1729gのKetjen black(登録商標)を溶液へ添加した。良好な炭素の分散を実現するために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として溶液へ添加した。次いで、混合物を室温で24時間撹拌し、より濃い色の溶液が得られた。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccKbsol25と呼ぶ緑色粉末が得られた。
【0085】
(b)1wt%のKetjen black(登録商標)
Na(5.2252g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させた。その後、式1に従って7.0249gのLFPnccを溶液へ添加し、均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、0.0710gのKetjen black(登録商標)を溶液へ添加した。良好な炭素の分散を実現するために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として添加した。次いで、混合物を室温で24時間撹拌し、より濃い色の溶液が得られた。次いで、混合物を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccKbsol1と呼ぶ緑色粉末が得られた。
【0086】
(c)0.5wt%のKetjen black(登録商標)
Na(2.9813g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させた。その後、式1に従って4.0205gのLFPnccを溶液へ添加し、均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、0.0201gのKetjen black(登録商標)を溶液へ添加した。良好な炭素の分散を実現するために、2滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として添加した。次いで、溶液を室温で24時間撹拌し、より濃い色の溶液が得られた。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、次いで析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccKbsol05と呼ぶ緑色粉末が得られた。
【0087】
(d)0.1wt%のKetjen black(登録商標)
Na(2.9910g、Sigma-Aldrich、98%)を200mLの脱イオン水に溶解させた。その後、式1に従って4.0078gのLFPnccを溶液へ添加し、均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、0.0043gのKetjen black(登録商標)を溶液へ添加した。良好な炭素の分散を実現するために、1滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)も界面活性剤として添加した。次いで、混合物を室温で24時間撹拌し、より濃い色の溶液が得られた。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、次いで析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccKbsol01と呼ぶ緑色粉末が得られた。
【0088】
X線回折により、脱リチウム化後に得られた各試料を分析した(図21)。XRDパターンは、すべての化合物が特徴的な斜方晶系カンラン石の相(Pnma)において結晶化していることを明らかにしており、Le Bail法による精密化によって決定された単位格子パラメーターを表4にまとめる。すべての場合において脱リチウム化が完了していた。
【0089】
【表4】
【0090】
(実施例11)
脱リチウム化に対する温度(炭素の添加なし)の効果
Na(5.2263g、Sigma-Aldrich、98%)を250mLの脱イオン水に溶解させた。その後、式1に従って7.0180gのLFPnccを溶液へ添加し、均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、溶液を60℃で24時間撹拌し、緑色の溶液が得られた。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、次いで析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。FPnccTと呼ぶ緑色粉末が得られた。
【0091】
X線回折パターンを使用して構造特定および相同定を行った。図22は60℃における脱リチウム化後に得られた化合物のXRDを示し、これは化合物が特徴的な斜方晶系カンラン石の相(Pnma)を有して結晶化していることを明らかにしており、Le Bail法による精密化によって決定された単位格子パラメーターはa=9.8088(7)Å、b=5.7889(4)Å、およびc=4.7808(4)Åであり、FPについて報告されているものと一致していた。しかし、図22の挿入図で印をつけたいくつかのピークも観察され、未確認の不純物に帰属された。
【0092】
(実施例12)
他の脱リチウム化手順
この実施例では、酢酸中のHを酸化剤として試験する。使用した試料は、上記の実施例におけるようなLFPncc、ならびにCIC EnergiGUNEで固体状態により合成された炭素被覆および非炭素被覆LiFe0.8Mn0.2POとした。実施例12(a)~12(f)では、H酢酸を酸化剤として使用するが、実施例12(g)~12(h)では、Naを比較のために使用することにする(炭素の存在下、被覆に由来するものまたは粉末として添加したもののいずれか)。異なる反応時間も実施例12(e)および12(f)において調べた。
【0093】
(a)LFPncc(0.2013g)を、1mLの過酸化水素(Fischer Scientific、30%w/v)および1mLの酢酸(Sharlau、高純度)を含有する30mLの脱イオン水の溶液へ添加した。溶液を1時間強く撹拌した。次いで、溶液を濾過し、脱イオン水で洗浄した。析出物を60℃で一晩乾燥させ、試料をFPnccH_1hと表示した。
【0094】
(b)LFPcc(0.2007g)を、1mLの過酸化水素(Fischer Scientific、30%w/v)および1mLの酢酸(Sharlau、高純度)を含有する30mLの脱イオン水の溶液へ添加した。溶液を1時間強く撹拌し、濾過し、脱イオン水で洗浄した。次いで析出物を60℃で一晩乾燥させ、試料をFPccH_1hと表示した。
【0095】
(c)非炭素被覆LiFe0.8Mn0.2PO(0.2002g)を、1mLの過酸化水素(Fischer Scientific、30%w/v)および1mLの酢酸(Sharlau、高純度)を含有する30mLの脱イオン水の溶液へ添加した。溶液を1時間強く撹拌し、濾過し、脱イオン水で洗浄した。次いで析出物を60℃で一晩乾燥させ、試料をFMPnccH_1hと表示した。
【0096】
(d)炭素被覆LiFe0.8Mn0.2PO(0.2008g)を、1mLの過酸化水素(Fischer Scientific、30%w/v)および1mLの酢酸(Sharlau、高純度)を含有する30mLの脱イオン水の溶液へ添加した。溶液を1時間強く撹拌し、濾過し、脱イオン水で洗浄した。得られた析出物を60℃で一晩乾燥させ、試料をFMPccH_1hと表示した。
【0097】
(e)非炭素被覆LiFe0.8Mn0.2PO(0.2004g)を、1mLの過酸化水素(Fischer Scientific、30%w/v)および1mLの酢酸(Sharlau、高純度)を含有する30mLの脱イオン水の溶液へ添加した。溶液を24時間強く撹拌し、濾過し、脱イオン水で洗浄した。得られた析出物を60℃で一晩乾燥させ、試料をFMPnccH_24hと表示した。
【0098】
(f)炭素被覆LiFe0.8Mn0.2PO(0.2011g)を、1mLの過酸化水素(Fischer Scientific、30%w/v)および1mLの酢酸(Sharlau、高純度)を含有する30mLの脱イオン水の溶液へ添加した。溶液を24時間強く撹拌し、濾過し、脱イオン水で洗浄した。得られた析出物を60℃で一晩乾燥させ、試料をFMPccH_24hと表示した。
【0099】
(g)Na(0.1491g、Sigma-Aldrich、98%)を20mLの脱イオン水に溶解させた。式1に従って非炭素被覆LiFe0.8Mn0.2PO(0.2008g)を溶液へ添加し、均質化した溶液が得られるまで混合物を撹拌した。次いで、炭素の良好な分散のための界面活性剤としての1滴のTriton(商標)X-100(Sigma-Aldrich)と共に、0.0102gのKetjen black(登録商標)(5%)を溶液へ添加した。次いで、溶液を撹拌下で室温にて24時間維持した。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、次いで析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。試料をFMPnccS_24hと表示した。
【0100】
(h)Na(0.1527g、Sigma-Aldrich、98%)を20mLの脱イオン水に溶解させた。次いで、式1に従って炭素被覆LiFe0.8Mn0.2PO(0.2009g)を溶液へ添加し、混合物を室温で24時間撹拌した。溶液を遠心分離し、脱イオン水で洗浄し、次いで析出物を60~75℃で一晩乾燥させた。試料をFMPccS_24hと表示した。
【0101】
X線回折測定による構造特定を行って酸化剤の効果を評価した。図23は、過酸化水素を使用したLFPnccおよびLFPccの脱リチウム化(実施例12(a)および12(b))後に得られた試料のXRDパターンを示す。両方の場合において、脱リチウム化は良好に実現された(FPnccH_1hおよびFPccH_1hと表示された試料)。しかし、ピークの左側に肩も観察された。この事実は、同定されていない不純物またはLi1-xFePOに関連する他の組成物に起因する可能性がある。XRD回折パターンは、主な相の単位格子パラメーター(表5)を決定するためにLe Bailプロファイルマッチングによりやはり精密化されており、FPについて報告されているものと一致する。
【0102】
CIC EnergiGUNEで固体状態により合成された炭素被覆および非被覆LiFe0.8Mn0.2POはまた、出発リチウム化相として使用された。この化合物LiFe0.8Mn0.2POは、構造中のマンガンの存在に起因してより高い酸化還元電位を有する。第1の試験では、酢酸中のHを酸化剤として使用し、撹拌時間は1時間(実施例12(c)および12(d))および24時間(実施例12(e)および12(f))であった。図24は、撹拌時間の関数としての、炭素被覆および非被覆LiFe0.8Mn0.2POのXRDパターンの展開を示す。すべての場合において、同定されていない不純物(で印をつけた)に起因するさらなるピークが観察された。さらに、Le Bail法による精密化の後に得られた主な相の単位格子パラメーターは、それらが報告されたFe0.8Mn0.2POの単位格子パラメーターよりも高いことを示した。この事実は、脱リチウム化が完了しなかったことを示す(表5を参照)。したがって、H/酢酸を酸化剤として使用した脱リチウム化プロセス後に得られたLi1-xFe0.8Mn0.2PO試料の最終組成を見積もるために、それらの格子パラメーターをLiFe0.8Mn0.2POおよびFe0.8Mn0.2POの格子パラメーターと共にプロットした(図25)。Vegardの法則を使用して見積もられたLi1-xFe0.8Mn0.2POの最終組成を表5に記載する。
【0103】
最後に、リチウム化相として炭素被覆または非被覆LiFe0.8Mn0.2POを使用して(実施例12(g)および12(h))、Naを酸化剤として試験した(実施例1~10におけるように)。図24および表5は、X線回折パターンおよびLe Bail法による精密化によって決定された単位格子パラメーターをそれぞれ示す(FMPnccS_24hおよびFMPccS_24h)。これらの結果に基づくと、炭素被覆LiFe0.8Mn0.2PO(FMPccS_24h)において完全な脱リチウム化が実現され、XRDパターンおよび単位格子パラメーターの両方がFe0.8Mn0.2POについて報告されているものと一致している。その他の場合では、非被覆LiFe0.8Mn0.2POを使用した場合(FMPnccS_24h)、反応媒体中に炭素が添加されていたにもかかわらず第2の相の存在も観察された();しかし、脱リチウム化はほぼ完了していた。この事実はVergardの法則により見積もられる最終組成と一致しており(図25および表5)、このことは構造中に非常に少量の残留Liが存在することを示す(Li≒0.06Fe0.8Mn0.2PO)。
【表5】
【0104】
比較例1および実施例1~10に示されるように、溶液中に少なくとも少量の炭素が存在しないと、室温において酸化剤としてのNa/HOを使用して非炭素被覆LFPを脱リチウム化させることができない。脱リチウム化手順において任意の種類の炭素を炭素源として使用してよい。
【0105】
溶液中の炭素を使用せず酸化剤としてNaを使用するが温度が60℃である場合、非炭素被覆LFPの脱リチウム化を実現できる。一方、最終化合物はいくらかの不純物を示す。
【0106】
NaはLiFe0.8Mn0.2POを脱リチウム化することができるが、H/酢酸の使用は常にLiFe0.8Mn0.2POの部分的な脱リチウム化を生じさせる。H/酢酸を酸化剤として使用して炭素被覆および非被覆LiFePOの脱リチウム化が実現されたが、最終化合物のXRDパターンは不純物に起因し得るさらなるピークを示す。
【0107】
理論によって拘束されることを望まないが、酸化還元電位を考慮すると、HおよびNaの両方が自発的な脱リチウム化を生じるはずなので、関与する速度論的効果が存在し得る。
【化1】
【0108】
様々なFe/Mn比を有する、例えばx>0.50を有する、LiFe1-xMnPOを含めた他のカンラン石について、脱リチウム化条件を使用することができる。
【0109】
本発明の範囲を逸脱することなく上記の実施形態のいずれかに対して多数の修正を行うことができる。本開示で参照されるいずれの参考文献、特許、または科学文献も、あらゆる目的のためにそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
炭素非含有カンラン石の脱リチウム化の方法であって、酸化剤の存在下で前記炭素非含有カンラン石を炭素源と接触させて脱リチウム化カンラン石を得るステップを含む、方法。
(項目2)
前記炭素非含有カンラン石が、式LiMPO のものであり、式中、MはFe、Ni、Mn、Co、またはそれらの組合せである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記炭素非含有カンラン石が、式LiFe (1-x) M’ PO のものであり、式中、M’はNi、Mn、Co、またはそれらの組合せであり、0≦x<1である、項目1に記載の方法。
(項目4)
M’がMnであり、0<x<1である、項目3に記載の方法。
(項目5)
xが0.1~0.9の範囲、または0.2~0.8の範囲、または0.2~0.6の範囲から選択される、項目4に記載の方法。
(項目6)
xが0である(すなわち前記カンラン石がLiFePO である)、項目3に記載の方法。
(項目7)
前記酸化剤が過硫酸塩である、項目1から6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記酸化剤が過硫酸カリウムまたは過硫酸ナトリウムである、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記酸化剤が過硫酸ナトリウム(Na )である、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記炭素源が、カーボンブラック、アセチレンブラック、Ketjen black(登録商標)、Denka(商標)black、Super P(商標)炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、およびそれらの任意の混合物から選択される、項目1から9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記方法が、水中または水性溶媒中で行われる、項目1から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
界面活性剤の添加をさらに含む、項目1から11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記界面活性剤がアルキルフェノールエトキシレート界面活性剤(例えばTriton(商標)X-100)である、項目12に記載の方法。
(項目14)
炭素源のカンラン石に対する重量比が、0.05%~10%の間、または0.1%~5%の間である、項目1から13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
項目1から14のいずれか一項に記載の方法により調製される、脱リチウム化カンラン石。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図6(c)】
図6(d)】
図7
図8(a)】
図8(b)】
図8(c)】
図8(d)】
図9
図10(a)】
図10(b)】
図11
図12(a)】
図12(b)】
図13
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