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特許7035063phoP-phoRを過剰発現する組換えBCG
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】phoP-phoRを過剰発現する組換えBCG
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220307BHJP
   A61P 31/06 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 39/04 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20220307BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220307BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220307BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220307BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
A61P31/06
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K39/04
A61K39/39
A61P37/04
A61K35/74 A
C12N15/31
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019538338
(86)(22)【出願日】2017-04-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 CN2017079665
(87)【国際公開番号】W WO2018184188
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2019-08-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519251438
【氏名又は名称】ジュン・リウ
【氏名又は名称原語表記】Jun LIU
(73)【特許権者】
【識別番号】519251449
【氏名又は名称】チェンドゥ・ヨンアン・ファーマシューティカル・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CHENGDU YONGAN PHARMACEUTICAL CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・リウ
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/130878(WO,A1)
【文献】BMC Genomics, 2008, Vol.9, No.413, pp.1-12
【文献】Database Uniprot [online], Accession No. A0A0H3M2A3, Last modified : September 16, 2015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過剰発現できる核酸であって、PhoPおよびPhoRたんぱく質をコードする核酸を含む、生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株。
【請求項2】
PhoPおよびPhoRたんぱく質が、マイコバクテリウム・ツベルクローシスまたはマイコバクテリウム・ボビス由来である、請求項1に記載の生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株。
【請求項3】
核酸が、
(i)配列番号1で示されるアミノ酸配列;または
(ii)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1つ以上のアミノ酸の置換、付加、または欠失を有する、PhoPたんぱく質、
(iii)配列番号3で示されるアミノ酸配列;または
(iv)配列番号3で示されるアミノ酸配列において、1つ以上のアミノ酸の置換、付加、または欠失を有する、PhoRたんぱく質、
をコードする、請求項1に記載の生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株。
【請求項4】
核酸が、
(i)配列番号2で示されるヌクレオチド配列;
(ii)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(i)のヌクレオチド配列とハイブリダイズする配列;または
(iii)配列番号2で示されるヌクレオチド配列と、少なくとも90%の配列同一性を有する配列、
(iv)配列番号4で示されるヌクレオチド配列;
(v)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(iv)のヌクレオチド配列とハイブリダイズする配列;または
(vi)配列番号4で示されるヌクレオチド配列と、少なくとも90%の配列同一性を有する配列、
を含む、請求項1に記載の生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株。
【請求項5】
核酸分子が修飾されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株。
【請求項6】
マイコバクテリウム・ボビス―BCG株が現存するBCG株から選択され、現存するBCG株が、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Russia(ATCC番号:35740)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Moreau(ATCC番号:35736)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Japan(ATCC番号:35737)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Sweden(ATCC番号:35732)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Birkhaug(ATCC番号:35731)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Prague(ATCC番号:35742)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Glaxo(ATCC番号:35741)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Denmark(ATCC番号:35733)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Tice(ATCC番号:35743、27289)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Frappier(ATCC:35746、SM-R;ATCC:35747、INH-R)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-コンノート(ATCC:35745)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Phipps(ATCC番号:35744)、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Pasteur(ATCC番号:35734)およびBCG-Mexican(ATCC番号:35738)を含むが、これらに限定されない、請求項1~のいずれか一項に記載の、生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株を含む、医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株を含む、マイコバクテリアによる負荷に対する、哺乳動物の治療または予防のための、ワクチンまたは免疫原性組成物。
【請求項9】
マイコバクテリアが、マイコバクテリウム・ツベルクローシスまたはマイコバクテリウム・ボビスである、請求項8に記載のワクチンまたは免疫原性組成物。
【請求項10】
さらに、医薬的に許容される担体を含む、請求項7または8に記載のワクチンまたは免疫原性組成物。
【請求項11】
さらに、アジュバントを含む、請求項7または8に記載のワクチンまたは免疫原性組成物。
【請求項12】
さらに、1つ以上の他の病原菌由来の免疫原性物質を含む、請求項8~11のいずれか一項に記載のワクチンまたは免疫原性組成物。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか一項に記載の生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株を含む、マイコバクテリウム・ツベルクローシスまたはマイコバクテリウム・ボビスによる負荷に対する、哺乳動物の治療または予防のための組成物。
【請求項14】
哺乳動物がウシである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
哺乳動物がヒトである、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
さらに、アジュバントを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
請求項1~6のいずれか一項に記載の生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株を含む、癌に対する哺乳動物の治療または予防のための組成物。
【請求項18】
さらに、アジュバントを含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
癌が膀胱癌である、請求項17または18に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、結核(TB)ワクチンに関する。特に、本発明は、phoP-phoR二成分制御系を過剰発現し、結核に対する増強された防御を付与する、組換えBCGを提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
マイコバクテリウム・ツベルクローシス(結核菌、Mycobacterium tuberculosis(M.tb))により引き起こされる結核(TB)は、世界中の感染症による死亡の主な原因としてHIV/AIDSと並んでランク付けされている。2014年には、結核により150万人が死亡し、960万人が新たに感染した。予防ワクチンの不足、薬剤耐性結核菌株の出現、および高い結核菌/HIV同時感染率が、TBの流行を助長し続けている。カルメット・ゲラン桿菌(Bacille Calmette-Guerin(BCG))は唯一の認可TBワクチンであり、小児の播種性結核に対して有効であるが1、2、最も一般的で伝染性の結核である、成人の肺結核に対する防御は限定的である。臨床試験により、0~80%の範囲の様々な効果が示されている3~5
【0003】
BCGの効果の変動を説明するための1つの仮説は、BCG株の多様性に関するものである。BCGはマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)の毒性株由来であり、1908年から1921年にかけてのインビトロ継代によるものであった。その後の世界的な配布と1960年代までの継続的な継代により、いくつかのBCG亜系をもたらした。ゲノム領域の欠失および重複、並びに一塩基多型(SNP)を含む、BCG株の間の遺伝的差異は、十分に立証されている7ー12。これらの違いが結核に対するBCGの効果に影響するかどうかは議論の余地があり6、13、現在のところは、複数のBCG株を直接比較している臨床試験が少ないために、特定の菌株を推奨するにはデータが不十分である14。
【0004】
TBワクチンを改善するための現在の戦略には、サブユニットワクチンおよび弱毒生ワクチンの開発がある15、16。しかしながら、動物モデルにおいて、BCGワクチンよりも優れていることが証明されたサブユニットワクチンはない。最近の臨床試験で、BCGワクチン接種を受けた乳児において、MVA85A(最先端のサブユニットワクチン)の予防効果が見られないことから17、生ワクチン研究の重要性がさらに強調されている18。組換えBCGおよび弱毒結核菌株の作製を含む、生ワクチンを開発するための多くのアプローチが探求されてきた。これらのうち、臨床試験に入った3つの生ワクチン(rBCG30、VPM1002、およびMTBVAC)を含む、ごくわずかのアプローチが、動物モデルにおいて、BCGより優れていることが証明されている16。rBCG30は抗原Ag85Bを過剰発現する組み換えBCGーTice株である。モルモットのrBCG30のワクチン接種とそれに続く結核菌の負荷(challenge)は、親BCGで免疫されたモルモットと比較して、細菌の負荷量(burden)の0.5~1.0 log10の減少と、生存期間の延長をもたらした19、20。しかしながら、BCG-コンノートにおけるAg85Bの過剰発現が、防御を改善しないため、この効果は、BCG-Ticeに特異的であった20。VPM1002は、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)のリステリオリジンを発現する組換えBCGである。このワクチンの背後にある理論的根拠は、リステリオリジンがマクロファージのサイトゾルへの、BCGのファゴソームエスケープを促進し、それによって抗原提示を増加させるという考えであった21。VPM1002を接種したBALB/cマウスは、親株と比較して結核菌の負荷量が0.5~1.0 log10減少した21、22;しかし、このような防御の改善はモルモットモデルでは観察されなかった23。弱毒結核菌はBCGよりも、結核菌の臨床株と、より多くの抗原を共有する可能性があるという理由で、結核菌のphoP欠失変異体株をワクチン候補として評価した24。結核菌ΔphoPは、結核菌負荷に対して、マウスではBCGと同様の防御を示したが、モルモットではより優れた防御を示した24、25。安全性を確実にするために、fadD26を欠失させて、結核菌ΔphoPをさらに弱毒化させ(MTBVAC)、その株はSCIDマウスにおいてBCG-PasteurまたはBCG-Danishに匹敵する安全性プロファイルを示した26
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明は、phoP-phoRの二成分制御系を過剰発現する組換えマイコバクテリア株を含む、結核ワクチンを提供する。現行のBCGワクチン株の免疫原性は、宿主において、結核に対して最適な防御を誘導するのに十分ではない。対照的に、phoP-phoRを過剰発現する本発明の遺伝子改変されたBCG株は、より免疫原性が高く、結核に対してより優れた防御を提供する。PhoP-PhoRに制御される遺伝子またはたんぱく質の2倍の(またはそれを超える)誘導を引き起こすのに十分なレベルでphoP-phoRを過剰生産する、任意の遺伝子改変されたマイコバクテリアが、本発明の実施において有利に使用され得る。本発明の組換えマイコバクテリアが哺乳動物の宿主に投与されると、CD4T細胞によるIFN-γの生産が宿主において増加し、当該組換えマイコバクテリアは結核に対する防御を提供する。
【0006】
ヒトにおいて様々なBCG株により誘導される免疫応答を比較した研究は、十数回を超えて行われている14、27。しかしながら、これらの研究の大多数に含まれていたのは2つ~3つのBCG株のみであった。BCG株の選択、予防接種時の年齢、および集団の大きさなどの研究デザインの違いにより、決定的な結果は得られていない14。とはいえ、これらのうちの最大の研究(1970年代にWHOにより主導された)では、小児において、11個のBCG株を比較した28。BCG-Pragueは、BCG-Danish、-Pasteur、-Glaxo、-Japan、-Russia、および-Moreauを含む他のBCG株よりも、低いツベルクリン反応性を示す異常値であることが判明した28、29。その低い免疫原性に対する懸念により、30年近く使用された後の1981年にチェコスロバキアでBCG-Russiaに置き換えられた30。BCG-Pragueのツベルクリン反応性が低い理由は、不明のままである。しかしながら、本発明者は、BCG-PragueのphoPが偽遺伝子であり、C末端DNA結合ドメインを破壊する1bpの挿入を含むことを見出した。他の全てのBCG株は野生型(WT)phoPを含有するため、この変異はBCG-Pragueに特異的である。PhoPはPhoPーPhoR二成分系の応答制御因子であり、サブユニットワクチンの構築に使用されてきた2つのT細胞抗原(Ag85A、PPE18)を含む、結核菌における40を超える遺伝子を正に制御する16、31。このように、本発明者は、BCG-Pragueの低い免疫原性はphoP変異の結果であり、BCGにおけるphoPの過剰発現は免疫原性を高め、それ故予防効果を高めるための有効な手段を提供し得ると仮定した。一貫して、本発明者は、国際公開第2011/130878A1号において、WT phoPによるBCG-Pragueの補完、またはBCGーJapanにおけるphoPの過剰発現が、IFN-γの生産を増加させることを示した。
【0007】
本発明は、BCG-JapanなどのBCG株における、phoP-phoRの過剰発現がその免疫原性および予防効果を高めたという本発明者の発見に基づいており、これがBCGを改善するための一般的に適用可能なアプローチであり得ることを示唆する。本発明において、組換え株rBCG-Japan/PhoPRによるC57BL/6マウスのワクチン接種が、親BCGに比べて、CD4T細胞によるより高いレベルのIFN-γ生産を誘導することが証明された。rBCG-Japan/PhoPRをワクチン接種したモルモットは、マイコバクテリウム・ツベルクローシスによる負荷に対してより優れた防御を受け、親BCGで免疫した動物と比較して、有意に長い生存期間、低減された細菌負荷量、およびより軽度の病態を示した。まとめると、phoP-phoRを過剰発現する本発明の組換えBCGは、現行のBCGよりも、結核に対する防御が強化されることが確認された。
【0008】
PhoPの例示的なアミノ酸配列は、図1A[配列番号1]に提示しており、PhoPをコードする例示的なヌクレオチド配列は、図1B[配列番号2]に提示している。PhoRの例示的なアミノ酸配列は、図1C[配列番号3]に提示しており、PhoRをコードする例示的なヌクレオチド配列は、図1D[配列番号4]に提示している。これらの配列は、パスツール研究所(Pasteur Institute)のウェブサイト(http://genodb.pasteur.fr/cgi-bin/WebObjects/GenoList)で入手可能なゲノム配列に示されているように、BCG-Pasteur由来のPhoPおよびPhoRを表す。
【0009】
本発明は、PhoP[配列番号1;配列番号2]およびPhoR[配列番号3;配列番号4]をコードするDNAを過剰発現する、組換えマイコバクテリウム・ボビスBCGに関する。
【0010】
本発明は、過剰発現することができる核酸であって、PhoP[配列番号1;配列番号2]およびPhoR[配列番号3;配列番号4]をコードする核酸を含む、組換えマイコバクテリウム・ボビスBCGに関する。
【0011】
一実施形態において、組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株は、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Russia、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Moreau、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Japan、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Sweden、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Birkhaug、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Prague、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Glaxo、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Denmark、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Tice、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Frappier、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-コンノート、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Phipps、マイコバクテリウム・ボビス-BCG-Pasteur、およびマイコバクテリウム・ボビス-BCG-Chinaからなる群から選択される。
【0012】
加えて、本発明の組換えマイクバクテリアは、BCGの株に限定される必要はない。当業者であれば、結核菌の弱毒株を含む、他のマイコバクテリア株も使用できることを、認識するであろう。
【0013】
さらに別の実施形態において、本発明のワクチンは、サブユニットワクチンまたはDNAワクチンであってよい。いくつかの実施形態において、ワクチンは、肺病原菌を介して送達されるであろう。例えば、PhoPおよびPhoRをコードするDNA配列は、弱毒緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、または他の既知の弱毒真菌もしくはウイルスなどの、肺病原菌の染色体または染色体外核酸に含まれ得る。あるいは、PhoPおよびPhoRレギュロンをコードする核酸は、当業者に知られている他の手段によって、例えば、リポソーム、アデノウイルスなどを介して、送達され得る。
【0014】
本発明の別の局面は、過剰発現することができる核酸であって、PhoP[配列番号1;配列番号2]およびPhoR[配列番号3;配列番号4]をコードする核酸を含む、生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株を含む、医薬組成物である。
【0015】
本発明のさらなる局面において、過剰発現することができる核酸であって、PhoP[配列番号1;配列番号2]およびPhoR[配列番号3;配列番号4]をコードする核酸を含む、生組換えマイコバクテリウム・ボビス―BCG株を含む、マイコバクテリアによる負荷に対する、哺乳動物の治療または予防のための、ワクチンまたは免疫原性組成物がある。
【0016】
本発明の別の局面は、本発明のワクチンまたは免疫原性組成物を、哺乳動物に投与することを含む、マイコバクテリウム・ツベルクローシスまたはマイコバクテリウム・ボビスによる負荷に対する、哺乳動物の治療または予防のための方法に関する。一実施形態において、哺乳動物はウシ(cow)である。別の実施形態において、哺乳動物はヒトである。さらに別の実施形態において、ワクチンまたは免疫原性組成物は、アジュバントの存在下で投与される。
【0017】
本発明のさらなる局面は、本発明のワクチンまたは免疫原性組成物を哺乳動物に投与することを含む、癌に対する哺乳動物の治療または予防のための方法である。一実施形態において、癌は膀胱癌である。別の実施形態において、ワクチンまたは免疫原性組成物は、アジュバントの存在下で投与される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、PhoP-phoR配列を示している。(a)BCG-PasteurのPhoPのアミノ酸配列;(b)BCG-PasteurのphoPのDNA配列。(c)BCG-PasteurのPhoRのアミノ酸配列;(d)BCG-PasteurのphoRのDNA配列。
【0019】
図2図2は、クローニングベクターpMEを示している。
【0020】
図3図3は、構築された、phoPおよびphoP-phoRについての発現ベクターを示している。
【0021】
図4図4は、rBCG-Japan/PhoPRが、親BCGよりも、CD4T細胞によるより多くのIFN-γ生産を誘導することを、示している。
【0022】
図5図5は、rBCG-Japan/PhoPRが、結核菌に感染したモルモットの生存期間を延長させることを、示している。
【0023】
図6図6は、rBCG-Japan/PhoPRが、結核菌に感染したモルモットの肺の病態を軽減させることを、示している。
【0024】
図7図7は、rBCG-Japan/PhoPRが、SCIDマウスにおいて安全であることを、示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
TBに対する防御には細胞性免疫が必要であり、これは完全には理解されていないが、CD4およびCD8T細胞を含む複数の成分を包含する16、32、33。BCGは、ヘルパーT細胞1(Th1)型応答を誘導し、主にCD4T細胞によるIFN-γ生産を誘導する34。伝統的に、BCGの免疫原性は、ワクチン接種前にツベルクリン陰性であった小児において、ワクチンによって誘導されるツベルクリン(PPD、結核菌の精製たんぱく体)感受性を測定することによって決定された30。ツベルクリン反応性は、防御の代替的指標としてのその使用が近年疑問視されている一方で35、36、細胞性免疫応答のためのインビボアッセイおよび免疫原性のためのマーカーとして、使用され続けている19、37。これを支持して、BCGワクチンを接種した乳児におけるツベルクリン反応性とPPD特異的IFN-γレベルの間には強い関連がある38。さらに、ツベルクリン反応性およびIFN-γ生産は、若年者における抗TB免疫の非重複(non-redundant)で補完的な指標であることが見出された39。1970年代の研究では、BCG-Pragueが、試験した他の10個のBCG株よりも、小児およびモルモットで有意に低いツベルクリン反応性を一貫して示すことがわかった28、29。その低い免疫原性に対する懸念により、30年近く使用された後の1981年にチェコスロバキアでBCG-Russiaに置き換えられた30
【0026】
BCG-Pragueのツベルクリン反応性が低減した理由は、不明である。本発明者らの以前の研究で発見したBCG-PragueのphoP変異が、その免疫原性の低減に寄与していると、本発明者は仮定した。
【0027】
この仮説を調べるために、最初にインタクトなphoP遺伝子でBCG-Pragueを補完し、免疫原性に対するその効果を決定した。BCG-Pasteur由来のWT phoP遺伝子を、マルチコピーシャトルベクターpMEにクローニングし、BCG-Pragueに導入した(rBCG-Prague/PhoP)。C57BL/6マウスに、組換えBCG-Prague株をワクチン接種して、PPD特異的IFN-γの生産をELISAにより測定した。一貫して、rBCG-Prague/PhoPは、C57BL/6マウスにおいて、より高いレベルのPPD特異的IFN-γの放出を誘導し、これは親株で免疫されたマウスの約2.4倍であった(図4a、p<0.05)。
【0028】
phoPの過剰発現が、BCG免疫原性を改善するための一般的に適用可能な方法として使用できるかどうかを試験するために、別のBCG株、BCG-Japanにおいて、phoPを過剰発現する組換えBCGを構築し、rBCGーJapan/PhoPを作製した。PhoRは、未知の細胞外シグナルを感知してPhoPをリン酸化するヒスチジンキナーゼである31。BCG-Japanはそのゲノム中に共転写されるインタクトなphoPーphoRを有するため、この二成分系の機能比を維持するために、phoPおよびphoRの両方を過剰発現する、rBCGーJapan/PhoPRも作製した。
【0029】
BCG-Pragueで得られた結果と一致して、rBCG-Japan/PhoPおよびrBCGーJapan/PhoPRは両方とも、C57BL/6マウスにおいて、親株よりも有意に高いレベルのPPD特異的IFN-γの生産を誘導した(図4b)。興味深いことに、3つの株のうち、rBCG-Japan/PhoPRが最も高いレベルのIFN-γを誘導した。
【0030】
組換えBCG株によって誘導されたIFN-γの起源を決定するために、細胞内サイトカイン染色およびFACS解析も行った。CD4T細胞が、IFN-γ放出の増強の原因である可能性が高いことを本発明者らは見出した(図4c)。rBCG-Japan/PhoPRをワクチン接種したマウスにおけるIFN-γ生産CD4T細胞の頻度は、親株をワクチン接種したマウスの約3.5倍であり、これは、これらの2つのグループ間の全IFN-γ生産の倍率差(約2.6倍)と一致する(図4b、c)。
【0031】
対照的に、どちらの組換えBCG-Japan株も、偽免疫化コントロールと比較して、強いCD8+T細胞応答を誘導しなかった。組換えBCG-Japan株による他のサイトカイン(IL-2、TNF、IL-12、IL-4、IL-5、およびIL-10)の有意な誘導は検出されなかった。
【0032】
まとめると、これらの結果は、phoP変異が、BCG-Pragueの低い免疫原性の原因の一部であることを示唆している。さらに重要なことに、BCG-JapanにおけるphoP-phoRの過剰発現が、さらにCD4T細胞によるIFN-γ生産をブーストしたが、このことは、これがBCGの予防効果を高めるための一般的に適用可能なアプローチであり得ることを示唆している。
【0033】
phoP-phoRの過剰発現が結核菌感染に対するBCG媒介防御を改善するかどうかを調べるために、本発明者らは長期(10ヶ月)のモルモット生存実験を行った。モルモット(1グループ当たり11匹)にrBCG-Japan/PhoPR、親株、またはPBSを接種し、ワクチン接種後8週間で、1,000CFU/肺の結核菌H37Rvを、噴霧により負荷した。モルモットを、人道的なエンドポイントで安楽死させ、カプラン・マイヤー分析を用いて生存曲線をプロットした。
【0034】
PBS、親、およびrBCGーJapan/PhoPRグループの生存期間中央値は、それぞれ18、27、および39週間であった(図5a)。ログランク解析により、rBCG-Japan/PhoPRグループは親BCGグループ(p<0.05)およびPBSグループ(p<0.0001)よりも、有意に長く生存したことが明らかになった。親グループはまた、PBSグループよりも、有意に長く生存した(p<0.01)。
【0035】
ワクチン未接種のモルモットと比較して、親BCGはモルモットの生存を9週間延長し、一方rBCG-Japan/PhoPRはモルモットの生存を21週間延長した(親グループに対して133%の改善)。実験終了後の負荷後43週目では、親グループでは1匹のモルモットのみが生き残ったのに対して、rBCGーJapan/PhoPRグループでは4匹のモルモットが生き残った。PBSグループの全てのモルモットは25週目までに感染に屈した。
【0036】
さらに、モルモットを、人道的または実験的なエンドポイントで安楽死させた後に、モルモットの肺および脾臓を、さらに解析した。以前の観察と同様に、rBCG-Japan/PhoPRグループは、肺において、親BCGグループよりも約1.7log10少ない結核菌の数であった(図5b、p<0.05)。BCG-Japan/PhoPRグループの脾臓における、結核菌の負荷量もまた、親BCGグループよりも約1.0log10少なく、この差は、ほぼ有意に近い(p=0.066)。一貫して、rBCG-Japan/PhoPRグループは、他の2つのグループと比較して、肺および脾臓の重量が最も低かった(図5d、e)。
【0037】
5匹のモルモットの肺を、組織学的解析に供した。それら5匹には、人道的なエンドポイントに達した、各グループから1匹のモルモットが含まれ、43週目の、親グループの唯一の生存動物、およびrBCG-Japan/PhoPRグループの4匹の生存動物のうち1匹が含まれる。興味深いことに、モルモットの死亡は、下葉(caudal lobe)の組織損傷の程度と関連しているようであった。実験終了前に安楽死させた3匹のモルモットは、上葉(Cranial lobe)の大規模な硬化(consolidation)に加えて、下葉の大規模な硬化(図6a)または部分的な硬化(図6b、c)を有していた。対照的に、親グループ由来の1匹も上葉に大規模な組織損傷があったという事実にもかかわらず、2匹の生存動物は下葉では健康な組織を有しているように見えた(図6d)。驚くべきことに、rBCG-Japan/PhoPRグループの生存動物は、いずれの肺葉においても正常な肺を有し、肺の硬化は見られなかった(図6e)。
【0038】
PhoPは、結核菌の病原性因子であると考えられており24、その理由の一つは、PhoPが、結核菌の病原性の重要なエフェクターである、EsxAの分泌を正に制御することにある40。従って、BCGにおけるphoP-phoRの過剰発現は、病原性を高め、安全性を危うくし得る。一方で、esxAはすべてのBCG株のゲノムに存在しないregion of difference 1(RD1)の一部であるため12、phoP-phoRの過剰発現がBCGの病原性に寄与する程度は不明のままである。
【0039】
これに対処するために、最初にSCIDマウスに組換えBCG-Japan株を感染させ、最大6週間、標的臓器中の細菌増殖をモニターした。興味深いことに、実験の過程で、肺または脾臓におけるrBCG-Japan/PhoPRと親BCGとの増殖の間に有意差はなかった(図7a、b)。しかしながら、phoP単独の過剰発現は、親株およびrBCGーJapan/PhoPRの両方と比較して、SCIDマウスにおけるBCGーJapanの複製を、増加させた。
【0040】
次に、長期間SCIDマウス生存実験を行った。BCG株の中で最も毒性が高い株である、BCG-Pasteur41もまた、比較のために本実験に含めた。BCG-Pasteur、rBCG-Japan/PhoP、およびrBCG-Japan/PhoPRで感染させたSCIDマウスの生存期間中央値は、それぞれ、7週間、14週間、および19週間であった(図7c)。親株またはPBSで感染させた全てのSCIDマウスは、実験を終了させた時点である20週目まで生存した。ログランク解析により、rBCG-Japan/PhoPRグループ(p=0.02)や親グループ(p<0.001)と比較して、rBCG-Japan/PhoPグループの生存期間が有意に短縮されたことが明らかになり、短期間感染実験において、本グループで見られた高い細菌負荷量と一致している(図7a、b)。BCG-Japan/PhoPRグループはまた、親グループと比較して生存期間の短縮を示した(P=0.02)。重要なことに、SCIDマウスでは、rBCGーJapan/PhoPRおよびrBCGーJapan/PhoPの両方が、BCGーPasteurよりも有意に毒性が低かった(p<0.001)。まとめると、これらの結果は、BCG-JapanにおけるphoP-phoRの過剰発現はSCIDマウスにおいてその複製を増加させず、病原性の中程度の増加のみを引き起こすことを示唆している。
【0041】
まとめると、本発明者らは、phoP-phoRを過剰発現する組換えBCGが、結核に対する防御を強化することを実証した。rBCG-Japan/PhoPRの優れた防御が、モルモットにおいて証明され、これは動物モデルにおいて新規ワクチンを試験するための証明(hallmark)である、有意に延長された生存期間および軽減された病態によって証明された。モルモットは、TBワクチンの効果を試験するための、「ゴールドスタンダード」動物モデルである20。疾患の病態形成、病理学的病変およびBCGワクチン接種への応答は、ヒトで記述されたものに類似している。
【0042】
新規TBワクチン候補は、発見段階から前臨床開発へ進むための基準を満たさなければならないというコンセンサスがある。これらの基準には、確立された動物モデルにおける、IFN-γの強力な誘導、BCGよりも優れた予防効果、およびBCGに匹敵する安全性プロファイルが含まれる42。rBCG-Japan/PhoPR株は、すでにこれらの基準を満たしており、したがって、将来の臨床開発のための有望な候補である。
【0043】
マイコバクテリウム・ボビスBCG(M.Bovis BCG)はまた、膀胱癌の治療にも使用される。多数のランダム化比較臨床試験は、BCGの膀胱内投与が腫瘍の再発を予防するか、または遅らせることができることを示している43。BCGがいかにしてこの効果を発揮するかの詳細は、まだ特定されていない。しかしながら、抗腫瘍反応は、インタクトなT細胞応答を必要とし、Th1型サイトカインの発現の増加を包含する44。このように、Th1サイトカインIFN-γの増加を示すrBCG-Japan/PhoPRなどのBCG株は、抗腫瘍活性を増強する可能性がある。
【0044】
要約すると、本発明者らはTBや他のマイコバクテリアの感染を防ぐために、phoPーphoRを過剰発現する組換えBCG株を、ワクチンとして使用する。これらの組換えBCGワクチンは、結核に対するより優れた防御免疫を誘導する。
【0045】
本発明の遺伝子改変された(すなわち、組換え)マイコバクテリアにおいて、PhoPおよびPhoRたんぱく質が過剰発現される。すなわち、これらの2つのたんぱく質が、PhoPおよびPhoRを過剰発現するように遺伝子改変されていない同じマイコバクテリアなどの、好適なコントロール生物を超えるレベルで、発現される。当業者であれば、たんぱく質活性の比較測定、およびそれらの測定のための好適なスタンダードおよびコントロールの使用に精通しているであろう。
【0046】
マイコバクテリアにおける、PhoPおよびPhoRたんぱく質の過剰発現は、当業界で知られている任意の好適な方法により実施され得る。一般に、該方法は、PhoPおよびPhoRたんぱく質をコードする核酸配列を、本来phoPおよびphoR遺伝子に連結していない発現制御配列に連結することを包含するであろう。当業者であれば、多くのこれらの発現制御配列が公知であること、および本発明における使用に好適であろうことを認識するであろう。例えば、phoPおよびphoR遺伝子の構成的発現が望まれる場合、発現制御配列(例えば、プロモーターおよび関連配列)は、限定されるものではないが、以下のものを含む:マイコバクテリア最適プロモーター:hsp65、aceまたはmsp 12プロモーター、T7プロモーターなど。あるいは、phoPおよびphoRの過剰発現は、誘導性であってよく、例えば、テトラサイクリン誘導性プロモーター下であってよい。
【0047】
本発明に従いコードされるたんぱく質、ポリペプチド、もしくはペプチドには、天然のたんぱく質、ポリペプチド、もしくはペプチド、または天然のたんぱく質、ポリペプチド、もしくはペプチドと同じ機能を有するこれらのホモログが含まれる。これらのホモログには、天然のたんぱく質、ポリペプチド、もしくはペプチドのアミノ酸配列、例えば、配列番号1および配列番号3に示されるアミノ酸配列に、少なくとも60%、好ましくは約70%以上、80%以上、および最も好ましくは90%以上、例えば、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有する、たんぱく質、ポリペプチド、もしくはペプチドが含まれる。これらのホモログには、天然のたんぱく質、ポリペプチド、もしくはペプチドのアミノ酸配列(例えば、配列番号1および配列番号3に示されるアミノ酸配列)において、1つ以上(例えば、1~50、1~20、1~10、1~5個)のアミノ酸残基の置換、付加、および欠失を有する、たんぱく質、ポリペプチド、もしくはペプチドが含まれる。これらのホモログには、特に、保存アミノ酸置換を有する、たんぱく質、ポリペプチド、もしくはペプチドが含まれる。
【0048】
本明細書で用いられる、「PhoP」および「PhoR」という用語は、二成分制御系 PhoP-phoRを指す。PhoPは応答制御因子であり、PhoRはヒスチジンキナーゼである。本発明に従いコードされるPhoPまたはPhoRには、例えば、マイコバクテリウム属由来の、好ましくはマイコバクテリウム・ツベルクローシス、またはマイコバクテリウム・ボビス由来の、天然の、機能的PhoPおよびPhoR、または、上述したそれらのホモログが含まれる。PhoPおよびPhoRの例示的なアミノ酸配列は、図1aの配列番号1および図1cの配列番号3に、提示されている。
【0049】
本明細書で使用される「過剰発現する(overexpress)」、「過剰発現している(overexpressing)」または「過剰発現(overexpression)」という用語は、組換えバクテリアで発現される標的遺伝子のたんぱく質レベルが、組換えされていない最初のバクテリアで発現される同じたんぱく質のレベルよりも高いことを指す。例えば、組換えバクテリアで発現される目的のたんぱく質は、非組換えバクテリアの、1.1倍、1.5倍、2倍、4倍、10倍、20倍、50倍、100倍、500倍、1000倍以上である。過剰発現は、マルチコピープラスミドの使用および/または強力なプロモーターの使用などの、遺伝子操作によって実施することができる。
【0050】
核酸分子のバリエーション
修飾
本出願で開示される核酸分子DNA配列には、多くの修飾がなされてもよく、このことは、当業者には明らかであろう。本発明には、本出願で開示されているたんぱく質またはペプチドと同じ機能を有するたんぱく質またはペプチドを、細菌または哺乳動物細胞においてコードする、本出願で開示される配列(またはその断片)のヌクレオチド修飾が含まれる。修飾には、1つ以上の(例えば、1~50、1~20、1~10、1~5個の)ヌクレオチドの置換、挿入、もしくは欠失、または、1つ以上の(例えば、1~50、1~20、1~10、1~5個の)ヌクレオチドの相対的位置もしくは順序の変更が含まれる。
【0051】
核酸分子は、PhoPおよびPhoRたんぱく質における保存的アミノ酸変化をコードし得る。本発明は、PhoPおよびPhoRたんぱく質において、保存的アミノ酸変化をコードし、サイレントアミノ酸変化を生み出す、機能的に同等な核酸分子を含む。経験的に保存アミノ酸置換基を特定するための方法は当業界において周知である(例えば、Wu, Thomas D. “Discovering Emperically Conserved Amino Acid Substitution in Databases of Protein Families” (http://www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=8877523&dopt=Abstract)を参照されたい)。
【0052】
核酸分子は、phoPおよび/またはphoR遺伝子における、非保存的アミノ酸置換、付加または欠失をコードし得る。本発明には、PhoPおよびPhoRたんぱく質のアミノ酸配列内に、非保存的アミノ酸変化を生じさせる、機能的に同等な核酸分子が含まれる。機能的に同等な核酸分子には、非保存的アミノ酸置換(好ましくは、化学的に類似したアミノ酸の置換)、付加、または欠失を有するが、本出願で開示されるPhoPおよびPhoRたんぱく質またはペプチドと同じ、または類似の機能を保持する、ペプチド、ペプチドおよびたんぱく質をコードする、DNAおよびRNAが含まれる。本発明には、PhoPおよびPhoRたんぱく質の断片または変異体をコードする、DNAまたはRNAが含まれる。
【0053】
該断片は、免疫原として有用であり、免疫原性組成物に含まれる。
【0054】
これらの断片および変異体のPhoPおよびPhoR様活性は、以下に記載のアッセイにより特定する。
【0055】
配列同一性
本発明の核酸分子にはまた、本発明の核酸分子と、少なくとも約60%の同一性、少なくとも70%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、または最も好ましくは、少なくとも99%または99.5%の同一性を有する核酸分子(またはその断片)であって、細菌または哺乳動物細胞において、核酸分子の発現が可能である核酸分子が含まれる。同一性とは、最高位の一致が得られるように整列された、2つのヌクレオチド配列の類似性を指す。同一性は、当業界で公知の方法に従い、計算される。例えば、ヌクレオチド配列(「配列A」と呼ぶ)が配列番号2の一部と90%の同一性を有する場合、配列Aは、配列番号2の参照部分のヌクレオチド100個あたり、10個の点変異(他のヌクレオチドによる置換など)を含み得ることを除いて、配列番号2の参照部分と同一であろう。
【0056】
配列同一性(各構築物は、好ましくは、コード化核酸分子インサートを有さない)は、好ましくは、配列番号2で提供される配列またはその相補的配列に対して、少なくとも約70%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも98%の同一性、または最も好ましくは、少なくとも99%または99.5%の同一性に、設定される。配列同一性は、好ましくは、Bioinformatics(ウィスコンシン大学)のGCGプログラムで、計算されるであろう。他のプログラムもまた、配列同一性を計算する上で、利用可能である。例えば、Clustal Wプログラム(好ましくは、デフォルトパラメータ使用;Thompson, JD et al., Nucleic Acid Res. 22: 4673-4680)、BLAST P、BLAST Xアルゴリズム、ゲノム研究所(The Institute for Genomic Research)でのマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)のBLASTN(http:tigrblast.tigr.org/)、Wellcome Trust Sanger Instituteでのマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium Bovis)、マイコバクテリウム・ボビスBCG(M.Bovis BCG) (Pastuer)、マイコバクテリウム・マリヌム(M.marinum)、ライ菌(M.leprae)、結核菌(M.tuberculosis)のBLASTN(http://www.sanger.ac.uk/Projects/Microbes/)、パスツール研究所(Institute Pasterur)での結核菌(M.tuberculosis)のBLAST検索(Tuberculist)(http://genolist.pasteur.fr/TubercuList/)、パスツール研究所(Institute Pasterur)でのライ菌(M.leprae)のBLAST検索(http://genolist.pasteur.fr/Leproma/)、ミネソタ大学微生物ゲノムプロジェクトでのヨーネ菌(M.Paratuberculosis)のBLASTN(http://www.cbc.umn.edu/ResearchProjects/Ptb/およびhttp://www.cbc.umn.edu/ResearchProjects/AGAC/Mptb/Mptbhome.html)、米国の国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)での様々なBLAST検索(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)、およびGenomeNet(化学研究所バイオインフォマティクスセンター)での様々なBLAST検索(http://blast.genome.ad.jp/)が挙げられる。
【0057】
遺伝暗号は縮重しているので、配列番号2および配列番号4の核酸配列は、PhoPおよびPhoR活性を有するポリペプチドをコードし得る唯一の配列ではない。本発明は、配列番号2および配列番号4に記載される核酸分子と同じ必須遺伝情報を有する核酸分子を含む。本出願に記載の配列と比較して1つ以上の核酸変化を有し、配列番号1および配列番号3に示されるポリペプチドの生産をもたらす核酸分子(RNAを含む)は、本発明の範囲内である。
【0058】
PhoPおよびPhoRたんぱく質をコードする核酸の、他の機能的等価形態は、従来のDNA-DNAまたはDNA-RNAハイブリダイゼーション技術を用いて単離することができる。
【0059】
ハイブリダイゼーション
本発明は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするために、本出願に記載される核酸分子に、十分な同一性を有する配列を有するDNAを含む(ハイブリダイゼーション技術は、当業界で周知である)。本発明はまた、配列番号2および配列番号4の配列またはそれらの相補的配列の1つ以上にハイブリダイズする核酸分子も含む。これらの核酸分子は、好ましくは、高ストリンジェンシー条件下で、ハイブリダイズする(Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Most Recent Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照されたい)。高ストリンジェンシー洗浄は、好ましくは、低塩濃度(好ましくは約0.2%SSC)および約50~65℃の温度を有する。
【0060】
ワクチン
生組換えワクチンの調製は、当業者に知られている。一般的には、これらのワクチンは、溶液または懸濁液のいずれかとして、注射用として調製される;注射前に液体に溶解または懸濁するのに好適な固体形態も、調製することができる。製剤は、乳化されてもよく、あるいは、該たんぱく質がリポソームに封入されてもよい。生きた免疫原性成分は、医薬的に許容され、かつ有効成分と適合する賦形剤と、しばしば混合される。好適な賦形剤は、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組み合わせである。さらに、必要に応じて、ワクチンには湿潤剤や乳化剤、pH緩衝剤、および/またはワクチンの効果を高めるアジュバントなどの補助物質が少量含まれ得る。有効であり得るアジュバントの例には、以下が含まれるが、これらに限定されない:水酸化アルミニウム、N-アセチル-ムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノルームラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(CGP11637、ノル-MDPと呼ばれる)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミル-L-アラニン-2-(1’-2’-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(CGP19835A、MTP-PEと呼ばれる)、およびRIBI(2%スクアレン/Tween80(商標)エマルジョン中に、微生物から抽出した3つの化合物である、モノホスホリルリピドA、トレハロースジミコレートおよび細胞壁骨格(MPL+TDM+CWS)を含む)。
【0061】
アジュバントの効果は、生組換えマイコバクテリウム・ボビス-BCGワクチン(これにも、様々なアジュバントが含まれている)の投与の結果生じる、マイコバクテリウム・ツベルクローシス抗原配列を含む免疫原性ポリペプチドに対する、抗体の量を測定することによって決定することができる。
【0062】
ワクチンは、慣習的に、非経口的に注射により投与され、例えば、皮下にまたは筋肉内に投与される。他の投与様式に適したさらなる製剤には坐剤が含まれ、場合によっては経口製剤が含まれる。坐剤の場合、伝統的な結合剤および担体には、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドが含まれ得る;これらの坐剤は、0.5%~10%の範囲、好ましくは1%~2%の範囲で有効成分を含有する混合物から形成され得る。経口製剤には、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの、通常使用される賦形剤が含まれる。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、持続放出製剤または散剤の形態をとり、10%~95%、好ましくは25%~70%の有効成分を含む。
【0063】
ワクチンは、剤形に適合する方法で、かつ、予防上および/または治療上有効となるような量で投与される。
【0064】
ワクチンは、単回投与スケジュールで与えられてもよく、または好ましくは反復投与スケジュールで与えられてもよい。反復投与スケジュールは、ワクチン接種の初回のコースが1~10回の別々の投与であり、その後に免疫応答を維持および/または補強するために必要な時間間隔で与えられる他の投与が続き得るものであり、例えば、1~4カ月で2回目の投与、また必要ならば、数ヶ月後にその後の投与が続く。投薬計画はまた、少なくとも一部は、個人のニーズによって決定されるであろうし、また、医師の判断に左右されるであろう。
【0065】
加えて、生組換えマイコバクテリウム・ボビス-BCGワクチンは、他の免疫調節剤、例えば免疫グロブリンと共に、投与される。
【0066】
本発明の対象はまた、上記のように規定された生組換えマイコバクテリウム・ボビスーBCGワクチンと、別のワクチン、特に、上記のように規定された別の生組換えマイコバクテリウム・ボビス-BCGワクチン(これらのワクチンは異なる挿入配列を含む)とを、混合物として、または、混合されるべきものとして含む、多価ワクチン処方である。
【0067】
医薬組成物
本発明の医薬組成物は、マイコバクテリウム・ツベルクローシスまたはマイコバクテリウム・ボビスによる負荷に対する、哺乳動物の治療または予防のために用いられる。本発明の医薬組成物はまた、変性疾患、障害または癌などの異常な身体状態を有する患者を治療するためにも用いられる。
【0068】
医薬組成物は、錠剤、エアロゾル投与、気管内注入および静脈内注射などの方法により、ヒトまたは動物に投与することができる。
【実施例
【0069】
実施例1: クローニングベクターpME
T7プロモーターを含むカナマイシン耐性シャトルベクターを、以下の通りに得た。pDriveクローニングベクター(Qiagenから入手)をEcoRIで切断し、自己連結させてpDRIを作製した。pDR1をSspIで消化し、1903pbの断片産物を単離した。pMD31シャトルベクター(Wu et al., 1993, Molecular Microbiology, 7, 407-417)を、SspIで消化し、3379bp断片を単離した。2つのSspIにより作製された断片を連結して、pME(5282bp)を作製した。これは、元のpDRIVEのT7プロモーターを含む。クローニングベクターpMEを、図2に示している。
【0070】
実施例2:phoPおよびphoP-phoRについての発現ベクターの構築
phoPおよびphoP翻訳開始部位の257bp上流領域を含む1028bp産物を、それぞれ、KpnIおよびPstI制限酵素部位(下線部)を含む、フォワードプライマーphoP-F(5’-AAAAAGGTACCGCTTGTTTGGCCATGTCAAC-3’)およびリバースプライマーphoP-R(5’-AAAAACTGCAGGCTGCCGATCCGATTAACTAC-3’)を用いて、PCRにより増幅した。これらの制限酵素部位を用いて、該PCR産物を、シャトルベクターpMEに連結させた(pME-PhoP)。同様に、phoPおよびphoR(並びに、2つの遺伝子の遺伝子間領域、phoP開始コドンの177bp上流、およびphoR終止コドンの78bp下流)を含有する2501bpのPCR産物を、pMEにクローニングすることにより、phoP-phoRオペロンを発現するベクター(pME-PhoPR)を構築した。該PCR産物は、BCG-PasteurゲノムDNAから、それぞれ、KpnIおよびPstI部位(下線部)を含む、フォワードプライマーphoPR-F(5’-AAAAAGGTACCGGTCGCAATACCCACGAG-3’)およびリバースプライマーphoPR-R(5’-AAAAACTGCAGCCTCAGTGATTTCGGCTTTG-3’)を用いて、PCRにより増幅した。構築物を、DNA配列決定により確認した。
【0071】
構築物ならびに空のベクターpMEを、別々にBCG-PragueおよびBCG-Japanにエレクトロポレーションした。組換えBCGの作製は、以下の通りに達成した:M.bovisBCG-Japan(ATCC35737)およびM.bovisBCG-Prague(ATCC35742)の細胞を、エレクトロポレーションによりプラスミドpME-PhoPまたはpME-PhoPRで形質転換し、エレクトロポレーションした細胞を、10%OADC(Difco)および25μg/mlのカナマイシンを添加した7H11培地プレート上にプレーティングした。37℃で4週間インキュベート後、個々のコロニーを選択し、10%ADC(Difco)および25μg/mlのカナマイシンを添加した7H9液体培地で増殖した。この培地で3週間培養後、選択されたクローンからプラスミドDNAを単離して、DNA配列決定により確認した。続いて、1mlの培養物を1mlの50%滅菌グリセロール溶液と混合することによって、組換えBCG株の冷凍ストックを作製し、-80℃で保存した。
【0072】
構築した、phoPおよびphoP-phoRについての発現ベクターを、図3に示す
【0073】
実施例3:rBCG-Japan/PhoPRは、親BCGよりも、CD4T細胞によってより多くのIFN-γ生産を誘導する。
雌C57BL/6マウスを、Charles River Laboratoriesから購入し、各実験内で週齢を一致させた(6週齢)。グループ当たり4匹のマウスに、0.2ml PBS/0.01% Tween80中のおよそ5×10CFUのBCG株を、首筋に皮下接種した。コントロールマウスには、0.2mlのPBS/0.01%Tween80を与えた。8週間後に、マウスを安楽死させ、脾細胞を単離した。IFN-γ生産の定量測定値は、OptEIA Mouse IFN-γELISAセット(BD Biosciences)を用いて、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて、決定した。ELISAに用いたサンプルは、PPD(10μg/ml)により、72時間刺激された脾細胞由来の上清であった。手短に言えば、捕捉抗体でプレコートされた96ウェル平底プレート(Nunc MaxiSorp)にサンプルを3連で添加し、以下の製造元のプロトコールに従い測定を実施した。吸光度をマイクロプレートリーダーにより、450nmで読み取った(TECAN infinite M200)。IFN-γレベルは、IFN-γスタンダードを用いて作成した検量線に基づいて計算した。結果を図4aおよび図4bに示す。PPD刺激なしのサンプルからの読み値を差し引いた後、データを平均値±SEMとして示す。図4aにおいて、両側独立スチューデントt検定を行った;図4bにおいて、一元配置ANOVAおよびボンフェローニ多重比較検定を実施した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0074】
組換えBCG株により誘導されたIFN-γの起源を決定するために、細胞内サイトカイン染色およびFACS解析もまた行った。手短に言えば、脾細胞を、100μl中、2×10細胞/ウェルで、三連で播種し、2.5μg/ウェルの精製たんぱく体(PPD)(Statens Serum Institute、Denmark)、またはコントロールとして完全RPMI(cRPMI;RPMI/10%FBS/1%L-グルタミン/1%ペニシリン/ストレプトマイシン)により刺激し、37℃、5%COでインキュベートした。19時間刺激後、GolgiPlug(BD Biosciences)を、1:1000の最終希釈倍率で添加し、さらに5時間インキュベートした。合計24時間の刺激後、プレートを、4℃で、1400rpmで5分間遠心分離した。上清を除去し、細胞ペレットを200μlのFACS Buffer(0.5%BSA/PBS)で洗浄し、FACS Bufferで希釈したFc Block(eBiosciences)(1:400)で再懸濁して、暗所にて氷上で15分間インキュベートした。FACS Bufferをさらに150μ添加して混合し、プレートを、4℃で、1400rpmで5分間遠心分離した。上清を除去して、細胞を細胞外T細胞表面マーカーについて染色し(FACS Bufferに希釈した、CD3-PE、CD4-FITC、およびCD8a-PercyPCy5.5(BD Biosciences))、暗所にて氷上で30分間遠心分離した。細胞外マーカー染色後、細胞を150μlのFACS Bufferで洗浄し、透過処理し、1×CytoFix/CytoPerm(BD Biosciences)で20分間固定した。その後、細胞を、1×PermWash(BD Biosciences)で洗浄し、IFN-γ-APC(BD Biosciences)で30分間インキュベートして、細胞内IFN-γについて染色した。細胞を上述のように遠心分離して、200μlのFACS Bufferに再懸濁し、BD FACSCalibur(商標)フローサイトメーター(BD Biosciences)で解析した。サンプルあたり合計300000事象がリンパ球ゲートに回収され、FlowJo V7.6を使用して解析した。解析用のゲートは、アイソタイプコントロールに基づき設定した。PPD刺激なしのサンプルからの読み値を差し引いた後、データを平均値±SEMとして示す。結果を図4cに示しており、一元配置ANOVAおよびボンフェローニ多重比較検定を、統計解析のために行った。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0075】
実施例4:rBCG-Japan/PhoPRは、結核菌に感染したモルモットの生存期間を延長させる。
11匹の雌ハートレイ系モルモット(200~250g)のグループを、Charles River Laboratoriesから購入し、0.2mlPBS/0.01%Tween80中の、pME(rBCG-Japan/pME)、pME-PhoPR(rBCG-Japan/PhoPR)を含有するBCG-Japanを、5×10CFUで、または、コントロールとしてPBS/0.01%Tween80単独を、皮下にワクチン接種した。ワクチン接種後8週目に、モルモットを、GlasColネブライザーを使用したエアロゾル経路で、1,000CFUの結核菌H37Rvを負荷した。モルモットを、人道的なエンドポイントで安楽死させ、カプラン・マイヤー法を用いて生存曲線をプロットした。結果を図5aに示す。ログランク検定を行い、生存曲線の各対を比較した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.0001。
【0076】
人道的なエンドポイントで安楽死させたモルモットの肺および脾臓を、回収した。脾臓と右肺全体を別々にホモジナイズし、7H11寒天培地にプレーティングして各臓器の結核菌負荷量を定量した。37℃で3週間インキュベート後、コロニーをカウントした。結果を図5bおよび図5cに示す。各グループの全てのモルモットの臓器重量を測定し、結果を図5dおよび図5eに示す。図5bおよび図5eのデータは、平均値±SEMとして示され、一元配置ANOVAおよびボンフェローニ多重比較検定を行った。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0077】
実施例5:rBCG-Japan/PhoPRは、結核菌に感染したモルモットの肺の病態を軽減させる。
図4に記載の実験から6匹のモルモットを、組織学的分析のために選択した。これらには、それぞれ25、27、および39週目に人道的なエンドポイントに到達した各グループからの1匹のモルモットが含まれる(図6a~図6c)。pME(図6b)およびPhoPR(図6c)のモルモットは、各グループから安楽死させた6番目のモルモットを表す(中央値)。pMEグループの唯一の生存動物(図6d)およびPhoPRグループのランダムに選ばれた1匹の生存動物(図6e)が、含まれた。各モルモットについて、左肺の下葉および上葉の切片を、ヘマトキシリン―エオシン染色により解析した。手短に言えば、ホルマリン固定組織をパラフィンブロックに包埋した。連続切片(5μm厚)を調製し、それらを、キシレンを3回交換して(各3分)、脱パラフィン処理を行い、その後4回のアルコール洗浄(100%、100%、95%、70%、各3分)で再水和した。切片を、ヘマトキシリンおよびエオシン(EMD Chemicals)で染色して、Cytation(商標)5(BioTek)を用いて調べた。
【0078】
実施例6:rBCG-Japan/PhoPRは、SCIDマウスにおいて、安全である。
短期間細菌負荷アッセイ:雌Fox Chase CB17 SCIDマウス(Charles River Laboratories)は、週齢を一致させた(7週齢)。12匹のマウスのグループに、0.2mLのPBS/0.01%Tween80中の10CFUのrBCG-Japan/pME、rBCG-Japan/PhoP、またはrBCG-Japan/PhoPRを、あるいは、コントロールとしてPBS/0.01%Tween80単独を、外側尾静脈を介して静脈内に感染させた。感染後1週目、3週目、および6週目に、マウス(各時点でn=4)を安楽死させて、肺および脾臓を回収し、PBSでホモジナイズして、7H11寒天培地にプレーティングして、肺(図7a)および脾臓(図7b)における細菌負荷量を決定した。データは、平均値±SDとして示す。二元配置ANOVAおよびボンフェローニ多重比較検定を行った。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【0079】
長期間生存アッセイ:Charles River Laboratories由来の、10匹の週齢を一致させた雌SCIDマウス(7週齢)のグループを、10CFUのBCG-Pasteur、3つの上述の組換えBCG-Japan株、または上述のPBS/0.01%Tween80で、外側尾静脈を介して静脈内に感染させた。感染後1日目に、各グループから3匹のマウスを安楽死させ(感染量を評価するため)、一方で、残りのマウスを、人道的なエンドポイント(最大体重の20%減)に達するまで毎週モニターした。生存曲線を、カプラン・マイヤー法を用いてプロットした。結果を図7cに示す。ログランク検定を行い、各対の生存曲線を比較した。*p<0.05、***p<0.001。
【0080】
参考文献
【0081】
【0082】
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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