IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国科学院大▲連▼化学物理研究所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】亜鉛-ヨウ化物フロー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20220307BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20220307BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20220307BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/02
H01M4/96 M
H01M4/86 M
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020524473
(86)(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-28
(86)【国際出願番号】 CN2018112535
(87)【国際公開番号】W WO2019091304
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】201711090856.2
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201711091359.4
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503190796
【氏名又は名称】中国科学院大▲連▼化学物理研究所
【氏名又は名称原語表記】DALIAN INSTITUTE OF CHEMICAL PHYSICS,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】李先鋒
(72)【発明者】
【氏名】謝聰▲しん▼
(72)【発明者】
【氏名】張華民
【審査官】松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0147673(US,A1)
【文献】国際公開第2018/207367(WO,A1)
【文献】特開2019-053869(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016595(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105742656(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/02
H01M 4/96
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池又は亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池に関連する亜鉛-ヨウ化物フロー電池であって、
前記シングルフロー電池は、負電極側電解液貯蔵タンクを備え、亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池は、シングル電池、又は直列に接続された3以上のシングル電池の回路に組み立てられたセルスタックを含み、
前記シングル電池は、正電極側エンドプレート、正電極側集電体、フローフレームを備えた正電極、隔膜、フローフレームを備えた負電極、負電極側集電体、及び負電極側エンドプレートを含み、
前記負電極側電解液貯蔵タンク内の電解液は、負電極側キャビティと前記負電極側電解液貯蔵タンクとの間で、ポンプによって循環させられ、ここで、前記隔膜と前記負電極側集電体との間のキャビティが前記負電極側キャビティと称され、前記負電極側キャビティには負電極側入口と負電極側出口が設けられており、
前記負電極側電解液貯蔵タンクは、前記負電極側入口及び出口に、それぞれ配管の負電極側入口及び出口を介して接続されており、
それと共に、前記配管の前記負電極側入口及び出口には、正電極側電解液の循環のための分岐がそれぞれ設けられており、
前記隔膜と前記正電極側集電体との間のキャビティは、正電極側キャビティと称され、前記正電極側キャビティには、正電極側入口と正電極側出口が設けられ、
前記配管の負電極側入口の分岐は、前記正電極側キャビティの前記正電極側入口に接続され、且つ前記配管の前記負電極側出口の分岐は前記正電極側キャビティの前記正電極側出口に接続されており、
前記デュアルフロー電池は、シングル電池、又は直列に接続された3以上のシングル電池の回路に組み立てられたスタックで構成され、
前記シングル電池は、正電極側エンドプレート、集電体、フローフレームを備えた正電極、隔膜、フローフレームを備えた負電極、集電体、及び負電極側エンドプレートを含み、
前記正電極側電解液貯蔵タンク内の前記正電極側電解液は、前記配管とポンプとによって前記正電極を通って流れ、
前記負電極側電解液貯蔵タンク内の前記負電極側電解液は、前記配管とポンプとによって前記負電極を通って流れ、
前記正電極側電解液と前記負電極側電解液とは同じであり、ヨウ化塩と亜鉛塩の混合水溶液であり、
前記隔膜は、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルイミド(PEI)、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)のうちの1以上を含んでいる、イオン交換基を有さない多孔質膜又は、その表面に緻密なポリマー層で被覆された、イオン交換基を有さない多孔質膜であり、前記ポリマー層の材料が、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ナフィオン樹脂、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のうちの1以上である、複合膜である、上記亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項2】
前記シングルフロー電池及び前記デュアルフロー電池の前記隔膜は、両方ともイオン交換基を有さない多孔質膜又は複合膜である、
請求項1に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項3】
前記ヨウ化塩がCaI、MgI、KI、及びNaIのうちの1以上であり、且つ前記電解液中の前記ヨウ化塩のモル濃度が2~8 mol/Lであり、
前記亜鉛塩は、ZnNO、ZnBr、ZnSO、及びZnClのうちの1以上であり、前記電解液中の前記亜鉛塩のモル濃度が1~4 mol/Lである
請求項1に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項4】
前記電解液中のヨウ化物と亜鉛のモル比は、2:1であり、亜鉛塩は、ZnBr であり、ヨウ化塩は、KIである、
請求項3に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項5】
前記電解質溶液は支持電解質を含み、且つシングルフロー電池の前記支持電解質はKCl、KBr、及びNaClのうちの1以上であり、
デュアルフロー電池の前記電解質は、KCl、KSO、KBrのうちの1以上であり、
この濃度は1~2 mol/Lである
請求項1又は3又は4に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項6】
前記支持電解質は、KClである、
請求項5に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項7】
記は、シングルフロー電池の多孔質膜の厚さ100~1000μmであり、
前記デュアルフロー電池に使用される隔膜の厚さは、150~1000μmである、
請求項1又は2に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項8】
前記デュアルフロー電池に使用される隔膜の厚さは、500~1000μmであり、
前記多孔質膜の材料は、PE、PP、であり、孔径は1~10nmであり、且つ多孔度は20%~70%である、
請求項7に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項9】
前記複合膜は、その表面緻密なポリマー層の被覆の厚さ1~10μmである、
請求項1又は2に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項10】
前記ポリマー層の材料は、ナフィオン樹脂である、
請求項9に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項11】
充電中、前記正電極側電解液中のIが酸化反応を受けて、I 及びIのうちの1つ以上を生成し、前記負電極上でZn2+は還元反応を受けて、Znを形成し、
放電中、I 又はIは還元反応を受けて前記正電極でIを生成し、Znは酸化反応を受けてZn2+を生成する、
ことを特徴とする、
請求項1に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項12】
充電中、前記正電極側電解液中のI が酸化反応を受けて、I を生成する、
ことを特徴とする、
請求項11に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項13】
前記電極の材料が、カーボンフェルト、グラファイトプレート、金属プレート、又はカーボンクロスのうちの1つである、
請求項1に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【請求項14】
前記電極の材料が、カーボンフェルトである、
請求項13に記載の亜鉛-ヨウ化物フロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロー電池の分野、特に亜鉛-ヨウ化物フロー電池の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
化石エネルギーの大量消費は、エネルギー危機及び環境問題を引き起こしている。再生可能エネルギーの開発及び利用は、世界中で大きな注目を集めている。しかし、再生可能エネルギー(例えば、風力及び太陽エネルギー)の不連続性及び不安定性はその利用を困難にする。したがって、大規模エネルギー貯蔵技術による再生可能エネルギーの継続的な供給の実現は、上記の問題を解決するための鍵である。柔軟な設計(エネルギーと電力は別々に設計される)、高い安全性、長いサイクリング寿命、地形に制限されないという利点により、フロー電池は大規模なエネルギー貯蔵に最適な技術の1つになっている。その中でも、全てのバナジウムフロー電池は、その独自の技術的利点を有する商用デモ段階に入っている。
【0003】
現在、比較的成熟したフローシステム技術は、全てのバナジウムフロー電池、亜鉛-臭素フロー電池、多硫化ナトリウム-臭素及びその他のシステムを包含している。しかし、バナジウムフロー電池に関しては、電解液の高コスト、酸性度、及び腐食性、並びに強酸化性の硫酸とVO により、隔膜に対して高い要件が求められる。亜鉛-臭素及び多硫化ナトリウム-臭素フロー電池は、充電プロセス中に腐食性の臭素を発生する。同時に、Brの高い蒸気圧、激しい揮発性、環境汚染をさらに考慮しなければならない。
【0004】
亜鉛-ヨウ化物フロー電池は、中性の亜鉛とヨウ化塩(ヨウ化物)を電解質として使用する。これは、溶解度とエネルギー密度が高いという利点がある。ClやBrと比較して、ヨウ素は腐食性が少ない。一方、ヨウ素はI の形で存在し、蒸気圧がはるかに低いために、亜鉛-ヨウ化物フロー電池は有望なシステムになる。一般的なフロー電池と同様に、亜鉛-ヨウ化物フロー電池(PCT出願においては「亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池」に置き換えられた)は、デュアルポンプ及び配管設計を採用している。充放電プロセス中、正及び負電極側電解液は、電池キャビティと電解液貯蔵タンクの間を循環する。しかし、電池は、電解液循環システム(例えば、ポンプや貯蔵タンク)を必要とするため、このシステムのエネルギー効率を低下させる。一方、電池補助装置(例えば、ポンプや貯蔵タンク)は、電池システムを複雑にし、このシステムのエネルギー密度を低下させる。したがって、デュアルフローシステムに基づくシングルフロー電池及びこのシステムのエネルギー損失の削減の研究は、システム全体のエネルギー利用効率とエネルギー密度を改善するための重要な方法である。さらに、現在報告されている亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池は、高価なナフィオン(Nafion(商標))膜を通常使用するが、上記のイオン交換膜は、亜鉛-ヨウ化物システムにおいて簡単に汚染され、オーム抵抗の増加と電池のサイクル安定性の低下を引き起こす。さらに、亜鉛-ヨウ化物フロー電池は、電解質としてZnIを使用しており、これは空気によって容易に酸化されてZnO沈殿物を生成する。同時に、Iが正電極に付着し、これにより電解液の安定性、さらにはサイクル寿命も制限される。したがって、報告されている動作電流密度は、10mA/cm未満であり、低電力密度である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の問題を解決するため、本発明の内容は以下の通りである。
【0006】
亜鉛-ヨウ化物フロー電池は、シングル電池又はスタックのいずれかを含む。上記シングルフロー電池は、多孔質電極と、電解液で満たされている正電極側のキャビティとを含んでいる。亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池において、正又は負電極側の電解液が、電池内部及び貯蔵タンク内をポンプ及び配管を介して循環する。シングルフロー電池の場合、正電極側にはポンプ又は配管はなく、電解液は多孔質電極及びキャビティに保存される。負電極側については、電池内及び負電極側貯蔵タンク内の電解液は、ポンプ及び配管を介して循環することができ、且つ上記配管は、正電極側電解液の循環用の分岐部を備えている。上記デュアルフロー電池は、また正及び負電極側電解液貯蔵タンクを備え、それらは各々正及び負電極側電解液を含む。
【0007】
上記電池が充電されるとき、Iは上記正電極上でI 又はIへと酸化され、上記負電極上のZn2+はZnへと還元される。放電中、正電極側電解質はIへと還元され、ZnはZn2+へと酸化される。正電極と負電極との間の隔膜は、支持電解質を伝導しつつ、I が負電極に移動するのを防ぐ。
【0008】
上記デュアルフロー電池と比較すると、上記亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池は、正電極側貯蔵タンク及び正電極側のポンプを除去し、上記正電極側電解液は、正電極側多孔質電極内に密封されている。さらに、上記負電極側パイプには、正電極側電解液循環のための分岐管が設けられている。上記シングルフロー電池の構造は、正及び負電極側のエンドプレート、隔膜、正電極、負電極、集電体、フローフレーム、ポンプ、及び配管を含む。上記デュアルフロー電池の構造は、正電極側エンドプレート、負電極側エンドプレート、隔膜、正電極、負電極、集電体、フローフレーム、ポンプ、配管を含む。
【0009】
正電極側電解液組成物は、ヨウ化塩、亜鉛塩、及び支持電解質を含む。ヨウ化塩は、2~8 mol/Lの濃度を有する、CaI、MgI、KI、及びNaIの1つ以上である。負電極側電解液中の活物質は、Zn(NO)、ZnBr、ZnSO、ZnClの1つ以上であり、濃度は1~4 mol/L、デュアルフロー電池の電解液中のヨウ化物と亜鉛のモル比は、2:1であり、シングルフロー電池の支持電解質は、KCl、KBr、NaClの1つ以上であり、濃度は1~2 mol/Lである。これらのうち、KIは好ましいヨウ化塩であり、ZnBrは好ましい亜鉛塩であり、KClは好ましい支持電解質であり且つ濃度はデュアルフロー電池では1 mol/Lである。
【0010】
電極材料は、カーボンフェルト、グラファイトプレート、金属プレート又はカーボンクロスのうちの1つである。電極材料は、好ましくはカーボンフェルトである。
【0011】
上記亜鉛-ヨウ化物フロー電池に関しては、上記亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池に使用される隔膜は、イオン交換基を有さない多孔質膜又は複合膜である。デュエルフロー電池に使用される隔膜は、イオン交換基を有さない多孔質膜又は複合膜である。基板は多孔質膜であり、そこの隔膜は、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の1つ以上を含む。膜厚は100~1000μm、好ましくは500~1000μm、である。細孔径は約10~100nmで、30%~70%の多孔率である。ポリエチレン(PE)及びポリプロピレン(PP)は、好ましい多孔質基材である。さらに、亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池の場合、多孔質隔膜は、電池のクーロン効率(充放電効率ともいう)を向上させるために、緻密なポリマー層でコーティングされ、その材料は、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ナフィオン樹脂、(ポリテトラフルオロエチレン)PTFEを含む。ナフィオン樹脂が好ましく、そのコーティングの厚さは、1~10μmである。
【0012】
本発明は、以下の有益な効果を有する。
【0013】
1.上記デュアルフロー電池と比較して、亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池の構造は、大幅に簡素化され、電池のエネルギー密度を向上させている。同時に、システムのエネルギー損失が減少させられ、そのことはシステムのエネルギー効率を向上させる。さらに、電解質の濃度が非常に高く、このことはシングルフロー電池の設計に適している。デュアルフロー電池と同じように、亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池は、電解液の強い酸及びアルカリの問題を解決し、電解液のコストは比較的低くなる。同時に、電池の高電流密度及び出力密度(パワー密度ともいう)もまた達成されうる。
【0014】
2.正及び負電極側電解液は同じであり、正及び負電極側電解液の浸透圧が似ているため、クロスオーバーの問題が効果的に緩和される。したがって、クーロン効率を大幅に改善でき、電解液の移動によるシステム保守コストを効果的に削減できる。さらに、電解液はオンラインで回収されうるため、電解液の交換コストが大幅に節約され、優れたアプリケーションの見通しが示される。
【0015】
3.ヨウ化塩及び亜鉛塩は、低コストで環境に優しいデュアルフロー電池の反応物として用いられうる。亜鉛塩及びヨウ化塩の高い溶解度は、高エネルギー密度を達成した。さらに、電解質の高い電気化学的活性により、電池の高い電流密度及び出力密度が可能になる。同時に、電解質のごくわずかな腐食性は環境負荷を大幅に減らすことができる。発明された亜鉛-ヨウ化物フロー電池は、電解質の強い酸及びアルカリの問題を解決する。さらに、支持電解質は、電解液の導電率を向上させ、電圧効率を向上させうる。
【0016】
4.低コストの多孔質隔膜は、従来のナフィオン115膜に取って代わり、スタックのコストを大幅に削減する。さらに、隔膜の多孔質構造は中性イオンの伝導性を改善し、電池の電流密度は140mA/cmに達する可能性があり、これは電圧効率の大幅な改善を意味する。最も重要なのは、多孔質膜の多孔質構造が酸化されたI で満たされていることである。これにより、過充電後のデンドライト(樹枝状結晶)亜鉛によって引き起こされる短絡の問題が緩和されるため、電池が自己回復し、電池の安定性が大幅に向上する。さらに、ナフィオン被膜はI/I クロスオーバーを効果的に軽減し、シングルフロー電池のクーロン効率を大幅に(98%以上)改善する。
【0017】
5.従来の亜鉛-ヨウ化物フロー電池は、反応物としてZnIを使用する。これは、室温で酸化されてZnOになる傾向があり、電池のサイクル安定性を低下させる。ZnIをKIで置き換えることは、正電極側電解液の安定性を大幅に向上させ、且つKIの価格はZnIの価格よりもはるかに安いため、電解液のコストを大幅に削減できる。
【0018】
6.ZnBrによるBrの導入は、Iと錯化してIBrを形成し、電池が高SOC及び高電流密度で動作するときにIの沈殿を抑制し、電池のサイクル安定性を大幅に改善する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池の構成図である。この図の中で、参照符号1は夫々正及び負電極側の二極のプレートを指し、参照符号2は正及び負電極側の各集電体を指し、参照符号3は正及び負電極側の各フローフレームを指し、参照符号4は隔膜である。参照符号5は正電極側電解液の入口バルブ及び出口バルブを指し。参照符号6は電解液貯蔵タンクであり、参照符号7はポンプである。
図2】実施例1による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のシングル電池サイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:4M、KI:8M、KCl:1Mであり、多孔質膜は900μmの厚さを有する。
図3】実施例1による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のエネルギー密度図である。正及び負電極側の電解質はZnBr:4M、KI:8M、KCl:1Mであり、多孔質膜は900μmの厚さを有する。
図4】実施例3による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:4M、KI:8M、KCl:1Mであり、多孔質膜は500μmの厚さを有する。
図5】実施例5による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnCl:4M、KI:8M、KCl:1Mであり、多孔質隔膜は900μmの厚さを有する。
図6】実施例7による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:4M、NaI:8M、KCl:1Mであり、多孔質隔膜は900μmの厚さを有する。
図7】実施例7による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のエネルギー密度図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:4M、NaI:8M、KCl:1Mであり、多孔質隔膜は900μmの厚さを有する。
図8】比較例2による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質はZnI:4Mであり、多孔質膜は900μmの厚さを有する。
図9】比較例3による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:4M、NaI:8M、KCl:1Mであり、ナフィオン(Nafion(商標))115膜の厚は125μmである。
図10】比較例5による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:4M、NaI:8M、KCl:1Mであり、多孔質膜の厚さは65μmである。
図11】多孔質膜を用いた亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池の構造図である。参照符号1は正及び負電極側の各ポンプを指し、参照符号2は正及び負電極側の各電解液貯蔵タンクを指し、参照符号3は正及び負電極側の各エンドプレートを指す。参照符号4は正及び負電極側の各集電体を指し、参照符号5は正及び負電極側の各フローフレームを指す。参照符号6は隔膜である。
図12】実施例1による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のシングル電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質はZnBr:2.5M、KI:5M、KCl:1Mであり、多孔質膜の厚さは900μmである。
図13】実施例2による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のシングル電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:3M、KI:6M、KCl:1Mであり、多孔質膜の厚さは900μmである。
図14】実施例1による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のシングルセルのエネルギー密度図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:2.5M、KI:5M、KCl:1Mであり、多孔質膜の厚さは900μmである。
図15】実施例2による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のシングル電池のエネルギー密度図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:3M、KI:6M、KCl:1Mであり、多孔質膜の厚さは900μmである。
図16】実施例3による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のシングル電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:2M、KI:4M、KCl:1Mであり、多孔質隔膜の厚さは900μmである。
図17】実施例4による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のシングルセルのサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:1M、KI:2M、KCl:1Mであり、多孔質膜の厚さは900μmである。
図18】実施例6による亜鉛-ヨウ素デュアルフロー電池のシングル電池のサイクル性能図を示す。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:3M、KI:6M、KCl:1Mであり、多孔質膜の厚さは500μmである。
図19】実施例12による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のシングル電池のサイクル性能図である。正及び負電極の電解質は、ZnSO:3M、KI:6M、KCl:1Mであり、多孔質膜の厚さは900μmである。
図20】実施例14による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のシングル電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:3M、KI:6Mであり、多孔質膜の厚さは900μmである。
図21】実施例4による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池の比率性能図である。本シングルセル電池の構造は、正及び電極側エンドプレート、正電極側集電体、正電極側フローフレーム、隔膜、負電極側フローフレーム、負電極側エンドプレートを順次含む。本電池内の電解質の組成は、2M KI、1M ZnBr、及び2M KClであり、流量は10ml/分であり、充電電流密度は60~140mA/cmであり、本電池は容量と電圧の2重カットオフにより終了する。充電カットオフ時間は45分で、電圧は1.5Vであり、放電カットオフ電圧は0.1Vである。
図22】実施例4で組み立てられた亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池の温度依存性の図である。電池の温度依存性テスト:本シングル電池の構造は、正電極側エンドプレート、正電極側集電体、正電極側フローフレーム、隔膜、負電極側フローフレーム、負電極側エンドプレートである。本電池内の電解質の組成は、2M KI、1M ZnBr、及び2M KClで、流量は10ml/分であり、充電電流密度は80mA/cmであり、本電池は容量と電圧の二重カットオフにより終了する。充電カットオフ時間は45分で、電圧は1.5V、放電カットオフ電圧は0.1V、温度範囲は10℃~65℃である。
図23】実施例2の単一の亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池の電圧曲線の図である。本シングル電池の構造は、正電極側エンドプレート、正電極側集電体、正電極側フローフレーム、隔膜、負電極側フローフレーム、負電極側エンドプレートである。本電池内の電解質の組成は、6M KI、3M ZnBr、及び1M KClであり、流量は10ml/分であり、充電電流は80mA/cmであり、本電池は容量と電圧の二重カットオフにより終了する。充電カットオフ時間は45分であり、電圧は1.5Vであり、放電カットオフ電圧は0.1Vである。本電池が短絡するまで1時間充電し、充電時間を45分に減らして、電池サイクルを継続する。
図24】実施例2による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池スタックの電圧曲線図である。本スタックの構造は、正電極側エンドプレート、集電体、フローフレーム付き正電極を各々備える9個の電池、隔膜、フローフレーム付き負電極、最後に、直列に接続された集電体と負電極側エンドプレートである。本電池の電解質組成は、6M KI、3M ZnBr、及び1M KClであり、流量は10ml/分である。充電電流密度は80mA/cmで、充電カットオフ電圧は13Vで、放電カットオフ電圧は1Vである。本電池が短絡するまで1時間充電し、その後、本電池を継続的に評価するため、充電時間を45分に減らす。
図25】実施例2による亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池スタックのサイクル性能図である。本スタックは、直列に接続された9個のシングル電池で組み立てられている。
図26】比較例1によるシングルセルの亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:2.5M、:KI:5M、KCl:1Mであり、ナフィオン115隔膜は125μmの厚さである。
図27】比較例4による単一の亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のサイクル性能図である。正と負電極側の電解質は、ZnI:3Mで、多孔質膜の厚さは900μmである。
図28】比較例5による単一亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnI:3M、KI:5M、KCl:1Mであり、多孔質膜は65μmの厚さである。
図29】好ましい実施例1によるシングルセルの亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:4M、KI:8M、KCl:1Mであり、複合膜は7μmのナフィオン樹脂被膜を施したPE多孔質基板である。
図30】好ましい実施例1による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のエネルギー密度図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:4M、KI:8M、KCl:1Mであり、複合膜は7μmのナフィオン樹脂被膜を施したPE多孔質基板である。
図31】好ましい実施例2による亜鉛-ヨウ化物シングルフロー電池のサイクル性能図である。正及び負電極側の電解質は、ZnBr:4M、KI:8M、KCl:1Mであり、複合膜は7μmのナフィオン樹脂被膜を施したPE多孔質基板である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池とシングルフロー電池の評価:シングル電池の構造は、順番に、正電極側プレート、集電体、フローフレーム付きカーボンフェルト正電極、隔膜、フローフレーム付きカーボンフェルト負電極、及び負電極側エンドプレートである。電池内の電解液の流量は10ml/分、充電電流密度は80mA/cmであった。電池は、容量と電圧の二重カットオフで停止させられた。充電時間は45分、電圧は1.5V、放電カットオフ電圧は0.1Vであった。
【表1】

【表2】
【0021】
図2及び図3は、最も好ましい条件下での電池のサイクル性能とエネルギー密度のグラフである。電解質としてKI/ZnBrを使用すると、多孔質膜を組み込まれた電池は優れたサイクル安定性を実現した。一方、多孔質膜の適用はイオン伝導性を大幅に改善した。電池の動作電流密度は、高出力密度で80mA/cmに達しうる。同時に、電解質中のKIの濃度は、約8Mに達する可能性があり、エネルギー密度は90Wh/Lを超える。
【0022】
最も好ましい例と比較して、図4における電池は、はるかに薄い多孔質膜(500μm)を採用しており、電池のクーロン効率は電解質クロスオーバーの増加により低下する。図5における電解液は、ZnBrではなくZnClを使用しており、性能は大幅に低下し、安定性も低下している。これは電解液の不安定性によるものである。充電中、正電極に形成されたI析出及び負電極側電解液におけるZnClは、加水分解して沈殿する。図6において、NaIがKIに置き換えられたとき、電池効率は低下した。特に、電圧効率の低下は、主に電解液の導電率の低下によって引き起こされ、それは、図7における電池のエネルギー密度をさらに低下させた。
【0023】
図8~10は比較実験である。図8は、電池の電解質としてZnIを採用している。効率の低下は、主としてZnI溶液のイオン伝導率の低下が原因であった。さらに、電池性能は、電解質の析出により不安定になる。図9は、電池アセンブリにナフィオン(Nafion(商標))115膜を採用している。充放電プロセス中に、深刻な隔膜ファウリング(付着)が隔膜面上に発生し、これは、電池の分極を強め、且つ電池の性能を低下させた。図10では、はるかに薄い多孔質膜を使用しており、電解質の交差汚染が大幅に増大し、電池の効率、特にクーロン効率が大幅に低下した。
【0024】
好ましい実施例では、隔膜としてナフィオン被覆された複合膜を使用した。図29は、厚さ900μmの複合膜を使用した電池の性能を示している。電解液はKIとZnBrの混合溶液とした。ナフィオン被覆のドナン排除(Donnan exclusion)により、電池のクーロン効率が大幅に改善された。さらに、電池はより薄い複合膜(500μm)を使用しており、電池のクーロン効率はわずかに低下した。
【0025】
亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池及びシングルフロー電池の評価:シングル電池の構造は、正電極側プレート、集電体、フローフレーム付きカーボンフェルト正電極、隔膜、及びフローフレーム付き電池、フローフレーム付きカーボンフェルト負電極、及び負電極側エンドプレートを順に含んでいる。電池内の電解液の流量は10ml/分であり、電池は容量と電圧の二重カットオフによって終了された。充電カットオフ時間は45分、電圧は1.5Vであり、放電カットオフ電圧は0.1Vであった。
【表3】

【表4】
【0026】
図11~17は、活物質としてZnBr及びKIを、支持電解質としてKClを用いた、900μmの多孔質膜を備えた亜鉛-ヨウ化物デュアルフロー電池を示している。この電池は、80mA/cmで、1000サイクルを超えて連続して安定的に稼働できる。とりわけ、エネルギー効率は80%を超え、エネルギー密度は80Wh/Lを超える。上記システムの利点には以下のものが含まれる。BrのZnBrへの導入により、IBrの錯化剤が形成され、それによりIの沈殿が抑制される。従来のZnIのKIでの置き換えにより、充放電プロセス中に酸化亜鉛と水酸化物の形成を回避できる。多孔質膜の採用は、中性イオンの伝導を促進し、この電池の動作電流密度及び出力密度を向上させる。さらに、隔膜にイオン交換基が存在しないことで、隔膜の汚れの問題が大幅に軽減され、この電池のサイクル安定性が向上する。
【0027】
最も好ましい実施例との比較:図18はより薄い多孔質膜を採用しているため、性能、特にクーロン効率の低下をもたらす。これは主に、より深刻な相互汚染を引き起こす薄い隔膜の採用によるものである。図19において、ZnBrがZnSOに置き換えられ且つこの電池の電圧効率が大きく低下し、このことは硫化イオンが電解液の電気化学反応に影響を与えたことを示している。図20において、支持電解質が除去された場合、電池の電圧効率がわずかに低下した。
【0028】
図21~25は、好ましい条件下で、電池が優れたレート性能と温度依存性能を示したことを表している。さらに、多孔質膜は、細孔構造が酸化I (これは亜鉛デンドライトと反応しうる)で満たされているので、負電極に形成された亜鉛デンドライト(樹枝状結晶)を排除できる。したがって、シングル電池及び電池スタックは、微小な短絡が発生した後に自己回復でき、電池の安定性を大幅に向上させる。最も重要なのは、電池スタックが、80mA/cmで300サイクルを超えて安定して継続的に動作できることである。
【0029】
好ましい実施例との比較:図26の電池については、ナフィオン115膜が用いられた。膜の導電率が低いために、電池の電圧効率は最適な実施例よりも低くなったが、ナフィオン115膜の採用によりクロスオーバーの問題を大きく減らし、電池のクーロン効率を大きく改善した。しかし、この電池の性能は15サイクル後に急激に低下した。これは、IとZnデンドライトによるナフィオン115膜の深刻な隔膜ファウリング(付着)によるもので、膜抵抗が大幅に増加し、分極が強化された。図27は、電解質としてZnIを使用しており、電池性能は著しく低下した。これは、正及び負電極側電解液の不安定性が原因であった。正電極側電解液は充電プロセス中にI沈殿物を形成し、負電極側電解液は酸化亜鉛と水酸化物を形成した。図28は、はるかに薄い多孔質膜を使用し、電解液の相互汚染が激化し、電池のクーロン効率が大幅に低下した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31