(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】クロルヘキシジン塩基、生体消毒薬及び非生体消毒薬組成物の可溶化
(51)【国際特許分類】
A01N 47/44 20060101AFI20220307BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220307BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20220307BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20220307BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220307BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220307BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20220307BHJP
A61P 31/06 20060101ALI20220307BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20220307BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220307BHJP
A61K 47/16 20060101ALI20220307BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220307BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20220307BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20220307BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
A01N47/44
A01P3/00
A01N25/30
A01N25/04 102
A61P17/00 101
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/06
A61K31/155
A61K9/08
A61K47/16
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/20
A61K47/10
(21)【出願番号】P 2020542524
(86)(22)【出願日】2018-03-07
(86)【国際出願番号】 RU2018000146
(87)【国際公開番号】W WO2019083397
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2020-06-29
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】520141874
【氏名又は名称】ザ リミティッド ライアビリティ カンパニー “サン システムス”
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】カルダシュ,ゲナディ グリゴーリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】アルテマン,ジーン-クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】リツァレフ,アレクサンダー ユーリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ハプキナ,エレナ ニコラエヴナ
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-081536(JP,A)
【文献】特表昭62-500240(JP,A)
【文献】特表2017-510581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロルヘキシジン塩基をアミンオキシドの存在下で封入することを含む、クロルヘキシジン塩基を可溶化する方法
で、
封入中に、可溶化プロセスを向上するためにアミノ酸が添加され、
前記アミンオキシドが、N-ラウリル-N,N-ジメチルアミノオキシド、N,N-ジメチルドデカン-1-アミンオキシド、ラウリルジメチルアミンオキシド、タロウビス(2-ヒドロキシエチル)アミンオキシド、С12~18-アルキルジメチルアミンオキシドの群の1つであり、前記アミノ酸が、ロイシン、チロシン、セリン、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、アラニン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、システイン、バリン、プロリン、メチオニン、スレオニン、ヒドロキシリジンの群の1つである、クロルヘキシジン塩基をアミンオキシドの存在下で封入することを含む、クロルヘキシジン塩基を可溶化する方法。
【請求項2】
クロルヘキシジン塩基及びアミンオキシドを含む生体消毒剤組成物または非生体消毒剤組成物であって、前記生体消毒剤組成物は、細菌細胞または真菌細胞の成長を阻害し、かつ水またはアルコールに可溶で
あり、
前記組成物が、アミノ酸をさらに含み、
前記アミンオキシドが、N-ラウリル-N,N-ジメチルアミノオキシドであり、前記アミノ酸が、ロイシン、チロシン、セリン、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、アラニン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、システイン、バリン、プロリン、メチオニン、スレオニン、ヒドロキシリジンの群の1つである、生体消毒剤組成物または非生体消毒剤組成物。
【請求項3】
前記組成物が、多耐性MDR菌株、非常に耐性の高いXDR菌株及び汎耐性PDR菌株などの菌株のうちの少なくとも1つ
を含む結核菌株に対して、治療的または予防的使用を意図している、請求項
2に記載の生体消毒剤組成物または非生体消毒剤組成物。
【請求項4】
前記組成物が、細菌細胞または真菌細胞から形成されたバイオフィルムを破壊する、請求項
2に記載の生体消毒剤組成物または非生体消毒剤組成物。
【請求項5】
前記組成物が、濃縮物であり、かつグリセリン、染料及び水を、
クロルヘキシジン塩基-0.1~1.0%、
アミンオキシド-0.2~5.0%、
アミノ酸-0.05~2.0%、
グリセリン-0.0~5.0%、
染料-0.01~0.1%、
水-最大で100%の成分比、質量分率%でさらに含む、請求項
2に記載の生体消毒剤組成物または非生体消毒剤組成物。
【請求項6】
前記アミンオキシドが、N-ラウリル-N,N-ジメチルアミノオキシドであり、前記アミノ酸は、ロイシン、チロシン、セリン、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、アラニン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、システイン、バリン、プロリン、メチオニン、スレオニン、ヒドロキシリジンの群の1つであり、前記染料は、アントラキノン染料、カルモイシン(E122)またはトリアリールメタン染料(E133)の群から選択される、請求項
5に記載の生体消毒剤組成物または非生体消毒剤組成物。
【請求項7】
前記組成物が、濃縮物であり、かつポリエチレングリコール、染料及び水を、
クロルヘキシジン塩基-0.5~5.0%、
アミンオキシド-5.0~30.0%、
ポリエチレングリコール-0.2-3.0%、
アミノ酸-0.05~2.0%、
染料-0.01~0.1%、
水-最大で100%の成分比、質量分率%でさらに含む、請求項
2に記載の生体消毒剤組成物または非生体消毒剤組成物。
【請求項8】
前記組成物が、濃縮物であり、かつアルコール、染料及び水を、
クロルヘキシジン塩基-0.5-65.0%、
アミンオキシド-0.2~5.0%、
アミノ酸-0.1~2.0%、
染料-0.01~0.1%、
アルコール-5~50%の成分比、質量分率%でさらに含む、請求項
2に記載の生体消毒剤組成物または非生体消毒剤組成物。
【請求項9】
前記アミンオキシドが、N-ラウリル-N,N-ジメチルアミノオキシドであり、前記アルコールは、エチルアルコールであり、前記染料は、E133染料である、請求項
8に記載の生体消毒剤組成物または非生体消毒剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロルヘキシジン塩基、アミンオキシドの存在下でのクロルヘキシジン塩基及びアミノ酸を含有する可溶化形態の調製に関する。これは医学及び製薬産業、特に多耐性MDR、非常に耐性の高いXDR及び汎耐性のPDRなどの菌株の結核菌、細菌胞子、真菌などに対して活性であり、かつ殺ウイルス活性を有する新規生体消毒剤組成物及び非生体消毒剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クロルヘキシジン塩基は、ビグアナイド類に属する。化学的には、クロルヘキシジン塩基は1,1’-ヘキサメチレンビス-[5-(4-クロロフェニル)-ビグアニド]である。構造式の形態のクロルヘキシジン分子C22H30CL2N10の式を以下に示す。
【0003】
【0004】
クロルヘキシジン塩基は、白色の結晶性粉末であり、水及びアルコールにはほとんど溶けない。
通常、クロルヘキシジン塩基の溶解性が低いため、クロルヘキシジンは、主にpiazetta、重グルコン酸塩または二塩酸塩の形態で使用される[Ruppert М.,Schlagenhauf U.La clorhexidina en Odontologia.Aspectos generales.Quintessence(編.Espanola)2005;18:12-23;Franch M.,Pascual A.,Santos A.Colutorios en periodon-cia.Parte II.Arch Odontoestomatologia,2005; 21:471-87]。
【0005】
重グルコン酸塩は、水及びアルコールに最も溶けやすいため、この形態が、液体の口洗液、ゲル、及びニスに使用される。[Arevalo J.M.,Arribas J.L.,Calbo L.,Hernandez M.J.,Lizan M.,Herruzco R.Guia del grupo de trabajo sobre desinfectantes у antisepticos.Revision 1998.Medicina Preventiva,1998;4:38-43.]。さらに、この形態は、生理学的pH値により、正のイオン電荷を有する活性成分が放出されるため、さらなる利点を有する[Albertos J.M.,Junquera L.M.,Albertos М.Т.,Olay S.,Lopez-Arranz E.La clorhexidina.Perspectiva actual.Ann Odontoestomatologia,1996;5:217-23.]。
【0006】
クロルヘキシジンは、細胞膜のレベルで作用し、その透過性を高める[Hugo W.B.Disinfection mechanisms.In:Russell A.D.,Hugo W.B.,Ayliffe G.A.J.,編、Principles and Practice of Disinfection,Preservation and Sterilization.Oxford:Blackwell,1992:187-210]。
【0007】
細菌表面と相互作用するジカチオン性分子を形成する、ヘキサメチレンの親油性鎖に付着したクロロフェニルグアニドの2つの対称的な主要の基が存在することによる、クロルヘキシジン作用の最初の段階は、微生物壁へ高速に吸着することである[Musteata F.M.,Pawliszyn J.Assay of stability,free and total concentration of chlorhexidine in saliva by solid phase microextraction.J Pharm Biomedical Analysis,2005;37:1015-24]。それらの結合条件は、中性またはわずかにアルカリ性のpHにおいて最も有利である。吸着されるクロルヘキシジンの量は、剤の濃度に依存する。細菌細胞壁の外層は負の電荷を保持しており、通常、Mg2+及びCa2+などのカチオンの存在下で安定する。これは、クロルヘキシジンなど、ほとんどのカチオン性生体消毒剤の作用の基礎であり、細菌の細胞壁に対して高い親和性を有する[Gilbert P.,Moore L.E.Cationic antiseptics:diversity of action under a common epithet.J Appl Microbiol,2005;99:703-15。
【0008】
クロルヘキシジンの塩、特に重グルコン酸塩は、殺菌効果及び殺真菌効果を備えた生体消毒剤である。殺ウイルス剤とは見なされていないが、HIV、ヘルペス1型、2型、インフルエンザAなどのウイルスの脂質膜に関連して、ある程度わずかな活性が確認された[Bemimoulin J.P.Recent concepts in plaque formation.J Clin Periodontology,2003;30:7-9.]。重グルコン酸クロルヘキシジンは、胞子の成長を阻害し、特定の細菌に対して静菌作用を発揮することができるが、耐酸性細菌への影響は有さない[Junco-Lafuente М.Р,Baca-Garcia Р.,Mesa-Aguado F.L.Utilizacion de la clorhexidina en la prevencion oral de pacientes de la tercera edad.Revista del Ilustre Consejo General de Colegios de Odontologos у Estomatologos de Espana,2001;6:81-9]。
【0009】
低濃度では、重グルコン酸クロルヘキシジンは静菌剤であるが、その環境から取り除かれたときに、細菌細胞の機能が回復する[Fardal О.,Turnbull R.S.A review of the literature on use of chlorhexidine in dentistry.J American Dental Association,1986;112:863-9]。
【0010】
生体消毒剤及び非生体消毒剤として、クロルヘキシジン塩は様々な分野でのその用途が見出されている。
【0011】
クロルヘキシジン塩を含む数十の無菌及び非生体消毒剤組成物が登録され、製造されている。重グルコン酸クロルヘキシジンの活性成分は、フランスの企業「PIERRE-FABRE MED」によって生成された薬物Citeal(重グルコン酸クロルヘキシジンならびにヘキサミジン及びクロロクレゾール)の一部であり、グルコン酸クロルヘキシジンを含むエマルジョンの形態で、クロアチアの企業「PLIVA」によって生成された薬物「Plivasept」の組成物の一部である。
【0012】
7つの特許が、クロルヘキシジン誘導体及びそれに基づく組成物の調製及び適用に特化しており[(国際公開第95/012395号「Calgon Vestal Lab」(USA);欧州特許出願第306455号明細書「Warner Lambert Co」(USA);国際公開第93/009770号「Pierre Fabre」(France);欧州特許出願第200607号明細書「P.F.Cosmetique」(France)及びその他]Firm「Ivoclar AG」(Germany)、練り歯磨きにおけるクロルヘキシジンとHFとの併用を示唆している(西独国特許出願公開第415397号明細書、欧州特許出願第539811号明細書、米国特許第5393516号明細書)。
【0013】
クロルヘキシジンのフェニル誘導体及びシアン誘導体は、非常に活性の高い殺菌剤として考えられている。フェニル-グアニジン-イミダゾール及びテトラヒドロピリミジン(欧州特許出願公開第279343号明細書)の駆虫剤の誘導体の組成物に基づいて開発された。BASF(Germany)(特許)西独国特許出願公開第2812945号明細書、西独国特許出願公開第3922232号明細書)、企業「American Cyanamid Co」(USA)(欧州特許出願公開第406699号明細書、欧州特許出願公開第534501号明細書、米国特許第5449809号明細書)、企業「Coro Jokko K.K.」(Japan)特開昭61-025706号公報、特開昭61-000027号公報)、企業「Hakko Chemical」(India)(米国特許第5116838号明細書)が、新しい殺生物剤を開発した。しかし、環境要件が高いため、ならびにフェノール系及びシアン化物含有廃棄物の処分が困難であるため、これらの産業の見通しは非常に小さい。
クロルヘキシジンの殺生物特性は、ヨウ素(欧州特許出願公開第473320号明細書)またはオイゲノール(国際公開第93/9770号)化合物を組成物に導入することによって向上させ得る。
【0014】
グアニジン-ポリヘキサメチレンビグアニジン及びその誘導体に基づく殺生物剤の有望な群は、ロシア国特許出願公開第2351365号明細書「Antiseptic composition「CHLORDIX」」に提示されており、これには、既知の、一般に入手可能で安価な生体消毒剤ビグルコネートクロルヘキシジン及びジオキシジンの組み合わせを含み、またロシア国特許出願公開第2147032号明細書「Bactericidal-detergent」に提示されており、ここでは、主な活性物質が、重グルコン酸クロルヘキシジンまたはグルコン酸クロルヘキシジン、またはクロルヘキシジン塩である。ヘリコバクターピロリ及び結核菌などの細菌の酸耐性形態に対する作用での活性は、ロシア国特許出願公開第2351365号明細書に記載の組成物内で認められた。
【0015】
しかし、この記載には、研究に参加した結核菌の菌株の種類及び耐性の程度については明記されていない。この研究では、抗菌薬に感受性のある菌株が使用されていたと想定され得る。クロルヘキシジン塩をベースとするすべての既知の製品及び記載された製品は、グラム陽性菌及びグラム陰性菌に対して広範囲の活性であり、迅速かつ強力な殺菌効果を有し、殺精子活性、細菌の酸耐性形態に対する活性を有する。クロルヘキシジン塩を含むそれぞれの既知の調製物は、消費者の品質を改善するために、例えば、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(カタミンAB)または塩化ジデシルジメチルアンモニウム、非イオン性界面活性物質、第四級アンモニウム塩、プロピレントリマーなどをベースにした水溶性オキシエチル化モノアルキルフェノールなど、1つまたは別の物質により向上されており、特定の種類の細菌に対して作用するが、耐性結核菌、細菌胞子、真菌に対しては効果がなく、低い殺ウイルス活性を有する。
【0016】
多くの生体消毒剤組成物及び非生体消毒剤組成物では、すでに微生物からの耐性を発達させているため、微生物細胞に対するクロルヘキシジンの作用機序及びクロルヘキシジン塩基の可能性により、水及びアルコールに可溶な他の形態のクロルヘキシジン塩基を得る方法を探し求めることができる。
【0017】
1つの方法は、クロルヘキシジン塩基可溶化剤を入手することである。
報告書「Associations based on chlorhexidine and a synergistic effect」(G.Kardash et al.//Materials of the VIII All-Russian Congress of Epidemiologists,Microbiologists and Parasitologists:v.4.Moscow.Rosineks,2002,P.21-22)では、クロルヘキシジン塩基を可溶性形態に変換し、クロルヘキシジン塩基及びグリシン会合体を形成することによる殺生物活性の相乗的増加へのアプローチを概説していた。この報告書では、クロルヘキシジン塩基及びグリシン会合体の殺生物活性に関する比較データを提示しており、Gr+(黄色ブドウ球菌)、Gr+(肺炎桿菌)、及び緑膿菌の試験培養に対する相乗効果を示している。しかし、クロルヘキシジン塩基及びグリシンの会合体は早急に安定性を喪失する。
【0018】
クロルヘキシジン塩基可溶化形態の調製へのアプローチは、報告書「Solubilization of chlorhexidine in aqueous micellar solutions of nonionic surfactants」//Abstracts of the XXIII All-Russian Conference「Structure and Dynamics of Molecular Systems」,Moscow,2016,P.74-74)に記載されている。
【0019】
この作業では、クロルヘキシジンを非イオン性界面活性剤のミセルで固定化する方法を、UV分光法、屈折率測定法、及び動的光散乱法によって研究した。ミセル水溶液中でのクロルヘキシジンの平衡溶解度は、非イオン性界面活性剤の濃度の上昇と共に線状に増加することが示された。ミセル中のクロルヘキシジン分子の数と非イオン性界面活性剤の数との比を特徴付けるクロルヘキシジンに対するミセルの可溶化能力が決定された。非イオン性界面活性剤分子内でのヒドロキシエチル単位の数が増えると、次の順序で可溶化能力値が増加する:Lutensol XL-79、Neonol 9-10、Tween80。可溶化の標準ギブスエネルギーを計算し、非イオン性界面活性剤のミセルサイズに対する可溶化クロルヘキシジンの影響を計算した。クロルヘキシジンは、ミセルのオキシエチル層に局在し、炭化水素コアには局在しないことがわかった。すべての場合のpH値は6~8の範囲であり、これはクロルヘキシジンの最大殺菌活性の出現に最適である。しかし、非イオン性界面活性剤を使用して得られた可溶化クロルヘキシジン塩基が、実際に最大の殺菌活性及び他のタイプの活性を示すことは証明されていない。
【0020】
しかし、クロルヘキシジン塩基の得られた可溶化形態の実際の殺菌活性は示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】国際公開第95/012395号
【文献】欧州特許出願第306455号明細書
【文献】国際公開第93/009770号
【文献】欧州特許出願第200607号明細書
【文献】西独国特許出願公開第415397号明細書
【文献】欧州特許出願第539811号明細書
【文献】米国特許第5393516号明細書
【文献】欧州特許出願公開第279343号明細書
【文献】西独国特許出願公開第2812945号明細書
【文献】西独国特許出願公開第3922232号明細書
【文献】欧州特許出願公開第406699号明細書
【文献】欧州特許出願公開第534501号明細書
【文献】米国特許第5449809号明細書
【文献】特開昭61-025706号公報
【文献】特開昭61-000027号公報
【文献】米国特許第5116838号明細書
【文献】欧州特許出願公開第473320号明細書
【文献】国際公開第93/009770号
【文献】ロシア国特許出願公開第2351365号明細書
【文献】ロシア国特許出願公開第2147032号明細書
【文献】ロシア国特許出願公開第2351365号明細書
【非特許文献】
【0022】
【文献】Ruppert М.,Schlagenhauf U.La clorhexidina en Odontologia.Aspectos generales.Quintessence(編.Espanola)2005;18:12-23;Franch M.,Pascual A.,Santos A.Colutorios en periodon-cia.Parte II.Arch Odontoestomatologia,2005; 21:471-87
【文献】Arevalo J.M.,Arribas J.L.,Calbo L.,Hernandez M.J.,Lizan M.,Herruzco R.Guia del grupo de trabajo sobre desinfectantes у antisepticos.Revision 1998.Medicina Preventiva,1998;4:38-43
【文献】Albertos J.M.,Junquera L.M.,Albertos М.Т.,Olay S.,Lopez-Arranz E.La clorhexidina.Perspectiva actual.Ann Odontoestomatologia,1996;5:217-23
【文献】Hugo W.B.Disinfection mechanisms.In:Russell A.D.,Hugo W.B.,Ayliffe G.A.J.,編、Principles and Practice of Disinfection,Preservation and Sterilization.Oxford:Blackwell,1992:187-210
【文献】Musteata F.M.,Pawliszyn J.Assay of stability,free and total concentration of chlorhexidine in saliva by solid phase microextraction.J Pharm Biomedical Analysis,2005;37:1015-24
【文献】Gilbert P.,Moore L.E.Cationic antiseptics:diversity of action under a common epithet.J Appl Microbiol,2005;99:703-15
【文献】Bemimoulin J.P.Recent concepts in plaque formation.J Clin Periodontology,2003;30:7-9
【文献】Junco-Lafuente М.Р,Baca-Garcia Р.,Mesa-Aguado F.L.Utilizacion de la clorhexidina en la prevencion oral de pacientes de la tercera edad.Revista del Ilustre Consejo General de Colegios de Odontologos у Estomatologos de Espana,2001;6:81-9
【文献】Fardal О.,Turnbull R.S.A review of the literature on use of chlorhexidine in dentistry.J American Dental Association,1986;112:863-9
【文献】G.Kardash et al.,「Associations based on chlorhexidine and a synergistic effect」,Materials of the VIII All-Russian Congress of Epidemiologists,Microbiologists and Parasitologists:v.4.Moscow.Rosineks,2002,P.21-22
【文献】「Solubilization of chlorhexidine in aqueous micellar solutions of nonionic surfactants」//Abstracts of the XXIII All-Russian Conference「Structure and Dynamics of Molecular Systems」,Moscow,2016,P.74-74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、クロルヘキシジン塩基の十分な溶解性の可溶化物を作製すること、多剤耐性MDR、非常に耐性の高いXDR、及び汎耐性PDRである菌株などの結核菌、細菌胞子、真菌に対して活性であり、殺ウイルス活性、高い安全性を有し、手頃な価格である、可溶化形態のクロルヘキシジン塩基をベースとした生体消毒剤組成物及び非生体消毒剤組成物を作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の第1の態様では、アミンオキシドの存在下でクロルヘキシジン塩基及びアミノ酸(アラニン、グルタミン酸、グルタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、システイン、メチオニン、グリシン、アスパラギン酸、アスパラギンなど)が会合することにより、水及びアルコールにおいて十分に溶解する、形態学的構造であるミセル型及びラメラ型の可溶化物が形成されることが発見された。
アミンオキシドの存在下でのクロルヘキシジン塩基及びアミノ酸可溶化形態は、ミセル型及びラメラ型の液体結晶の滑らかなラメラ形成物を構成することが判明した。
【0025】
UV及びNMR分光法、EPRでのデータでは、ラメラ状ミセルの可溶化プロセス中に、クロルヘキシジン塩基がミセルの内部に入り、炭化水素末端間に局在し、それによって分子鎖の層を押し離して、樹状または液体結晶を形成することが示された。液晶の新しい形態学的構造が形成されるが、これは、クロルヘキシジン塩基及びアミノ酸(グリシン)の初期成分の形態とは異なる。新しい結晶変形態の出現は、静電及び水素分子間結合を含む溶液中で分子の秩序立った状態が先行するため、低濃度の成分(0.1~1%)で異常に高い粘度の出現が引き起こされる。
【0026】
新しい形態学的構造は、多剤耐性MDR株、非常に耐性の高いXDR、及び汎耐性PDR株の結核菌、細菌胞子、真菌、及びウイルスなどの微生物に対する相乗的な殺生物活性を示した。
【0027】
相乗効果のメカニズムを理解するために、クロルヘキシジン分子のイミノ基のプロトン化、ならびにクロルヘキシジン塩基及びアミノ酸(グリシン)の希釈溶液中の液晶の新しい形態構造の存在を示す様々な物理化学的方法を使用して研究が行われた。
【0028】
クロルヘキシジン塩基、クロルヘキシジン-グリシン可溶化物、アミンオキシドの固体試料のIRスペクトルは、M-40機器(Germany)において、EHFにより圧縮された粉末の形で得た。
【0029】
IRスペクトルを分析すると、グリシンのカルボキシル基は荷電形態-COO-であると論じることができる。
【0030】
1700cm-1での-COOH基の吸収のフィールドでは、グリシンのスペクトルにも、グリシンとクロルヘキシジン塩基との混合物のスペクトルにもバンドは見られない。同時に、1600cm-1及び1400cm-1のCOO吸収基のフィールドには、両方のスペクトルに強いバンドが存在する。
【0031】
これらのデータは、クロルヘキシジン塩基のプロトン化によって起こる、水溶液中でのクロルヘキシジン塩基可溶化物の溶解のメカニズムを証明している。
【0032】
UV分光光度計M-80(Germany)によって得られたクロルヘキシジン可溶化物のUVスペクトルにより、アミンオキシドの存在下でのアミノ酸(グリシン)溶液中のクロルヘキシジン塩基の溶解の原因に関するIR分光データの結論が確認され、これは、アミノ酸(グリシン)からクロルヘキシジン塩基へプロトンが移動したことによる。
【0033】
本発明の第2の態様では、多剤耐性MDR菌株、非常に耐性の高いXDR及び汎耐性PDRなどの結核性マイコバクテリアに対して有効なクロルヘキシジン塩基及び補助物質の可溶化物を使用して、生体消毒剤組成物及び非生体消毒剤組成物を得た。
【0034】
濃縮物の形態の生体消毒剤組成物のモデルのうちの1つには、クロルヘキシジン塩基、アミノ酸、アミンオキシド、賦形剤が次の比(重量%)で含まれている:
クロルヘキシジン塩基-0.1~1.0%
アミンオキシド-0.2~5.0%
アミノ酸-0.05~2.0%
グリセリン-0.0~5.0%
染料-0.01~0.1%
水-最大100%
【0035】
アミノ酸としては、ロイシン、チロシン、テリン(therin)、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、アラニン、リジン、アルゲニン、ヒスチジン、グリシン、システイン、バリン、プロリン、メチオニン、スレオニン、ヒドロキシリジンが使用される。
【0036】
アミンオキシドは、N-ラウリル-N,N-ジメチルアミンオキシド(Barlox-12)(会社「Lonza」のカタログ)が使用されている。
【0037】
染料としては、アントラキノン染料、カルムアジン(Е122)またはトリアリールメタン染料(E133)が使用される。
【0038】
本発明による生体消毒剤組成物は、結核菌、殺真菌、殺ウイルス及び殺胞子活性に対する作用などの抗菌作用を有し、無菌の手による治療、医療機器の事前滅菌(軟性内視鏡及び器具など)、及び患者のケアの物品の消毒、医療スタッフの衛生、及び家庭用であることを目的としており、金属製品の腐食を引き起こすことはない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】クロルヘキシジン塩基、クロルヘキシジン-グリシン可溶化物及びアミンオキシドの固体試料のIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0040】
100mlの無菌組成物を室温で濃縮液の形態で得るために、100mlの水に溶解した1mlのアミンオキシドBarlox-12(Lonza社のカタログ)に0.15gクロルヘキシジン塩基、0.05gグリシン、0.01g染料E133を加える。得られたpH7.5~8を有する組成物は、無菌濃縮物である。
【実施例2】
【0041】
実施例1と同様に実施されるが、本組成物は、0.5gクロルヘキシジン塩基、3.5ml Barlox12、1.5gアラニン、2mlグリセロール、カルモイシン(E122)0.05gを含む。
【実施例3】
【0042】
実施例1と同様に実施されるが、本組成物は、1gクロルヘキシジン塩基、5ml Barlox12、グルタミン2.0g、2mlのグリセロール、アントラキノン染料0.05gを含む。
【0043】
一連の実験を実施して、結核菌、MDR多剤耐性株、及び極めて耐性の高いXDRに対して生体消毒剤組成物の活性が高いことを確認した。これらは、抗菌薬のクラス1、クラス2、クラス3の、及び汎耐性PDRに対して感受性がなく、すべてのクラスのすべての既知の抗菌薬に対する感受性はない。
【0044】
結核菌H37Rvの実験室株と、Central Research Institute of tuberculosis of the Russian Academy of medical Sciences(RAMS)の病院で治療された肺結核患者の診断材料から単離された臨床(野生)MDR、XDR、及びPDR株は、バイオテストとして使用した。
【0045】
2つの臨床株は、それらに対する抗TB薬の影響を考慮して、高感度でマークされたFEEL-1及びFEEL-2として特徴が明らかになっている。耐性の程度が異なる他の3つは、マークされたMDR、XDR、及びPDR菌株である。
【0046】
作業計画に従って、結核菌の選択された菌株の培養物は、高密度栄養培地レベンシュタイン・ジェンセン(国際標準)で21日間成長させた。成長させた培養物から、5x108の初期濃度で、すなわち1mlの溶液中に5億の微生物体を含む細菌の懸濁液を調製した。試験物質は、既製の溶液であった。結核菌の培養物への暴露時間は、30分及び60分であった。
【0047】
実験は、改変させた浸漬法を使用して実行した。結核菌の懸濁液と実施例2による無菌組成物との比(水100ml当たり濃縮物1mlの比で希釈)は、1:1であった。すなわち、様々な菌株の結核菌の懸濁液2ml及び無菌組成物濃縮液2mlを試験管に注いだ。したがって、この作業で使用した細菌懸濁液の濃度は5x104であった。懸濁液中の微生物体のこの濃度は、チール・ネールゼン(光学顕微鏡)方法によって染色された塗抹標本において、診断材料内でそれらを検出するために必要なマイコバクテリウムの数に対応する。所定の暴露後、混合物を15分間3000rpmで遠心した。得られた沈殿物を蒸留水で2回洗浄した。接種量は、Finn-2固体栄養培地を含む試験管あたり0.5mlの沈殿物及びMiddlebrook7N9液体栄養培地を含む試験管あたり0.5mlの沈殿物であった。使用した試験菌株のマイコバクテリウムの懸濁液を播種し、組成物の物質による処理を行わなかった対照管を使用した。高密度培地の収穫物を、サーモスタット内、温度37℃で、液体培地での作物を自動化システムBactec MGIT-960でインキュベートした。高密度栄養培地の結果は、播種時から28日後、42日後、及び70日後に収集した。液体栄養培地の結果は、Bartec MGIT-960装置で記録した。
【0048】
表1には、培養研究の抗菌組成物の結果を示す。規範的及び技術的文書order of the Ministry of health of the Russian Federation No.109dd.21.03.2003,AnnexNo.1,Sanitary rules SP 1.2.731-99による、the Central Research Institute of tuberculosis of the Russian Academy of medical Sciences(RAMS)におけるMDRの多耐性株、及び非常に耐性の高いXDR(クラス1、クラス2、及びクラス3の抗菌薬に対して感受性がない)、及び汎耐性PDR(すべてのクラスのすべての既知の抗菌薬に感受性がない)に対してなど、結核菌に対する殺菌活性のための組成物の微生物学的研究
【表1】
実施された研究の結果は、耐性の程度が異なる結核菌の毒性の強い臨床株に関して、高い安定した活性を示した。
【0049】
播種時から70日目またはそれ以降では、多耐性MDR菌株、非常に耐性の高いXDR及び汎耐性のPDRのコロニーの成長は検出されなかった。
本発明の実施のための選択肢
【0050】
以下の成分比、質量分率%でのクロルヘキシジン塩基、アミンオキシド、第四級アンモニウム化合物(QAC)、酸性度調整剤、防食添加剤、増粘剤、補助物質を含む非生体消毒剤濃縮組成物の型:
選択肢1
クロルヘキシジン塩基は1.0~2.0%
アミンオキシド-1.0~15.0%
第四級アンモニウム化合物(QAC)-5.0~10.0%
酸性度調整剤-0.1~1.0%
防食添加剤-0.1~1.0%
染料-0.01~0.1%
水-最大100%
【0051】
QACが使用されるので、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム(カタミンAまたはB)が好ましい。好ましくは、トリエタノールアミン、トリロンA、BまたはCが防食添加剤として使用される。
【0052】
好ましくは、リンゴ酸が酸性度調整剤として使用される。使用する染料は染料Е133であることが好ましい。
【0053】
選択肢2-濃縮非生体消毒剤組成物は、クロルヘキシジン塩基、アミノ酸、アミンオキシド、賦形剤を、以下の成分比、質量分率%で含む。
クロルヘキシジン塩基-0.5~5.0%
アミンオキシド5.0~30.0%
ポリエチレングリコール-0.2~3.0%
アミノ酸は、0.0~2.0%である。
染料-0.01~0.1%
水-最大100%
【0054】
アミノ酸としては、ロイシン、チロシン、テリン、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、アラニン、リジン、アルゲニン、ヒスチジン、グリシン、システイン、バリン、プロリン、メチオニン、スレオニン、ヒドロキシリジンなどを使用した。
【0055】
アミンオキシドとして、N-ラウリル-N,N-ジメチルアミン(Barlox-12)(Lonza社のカタログ)を使用する。
【0056】
染料として、トリアリールメタン染料(E133)を使用する。
【0057】
選択肢3-濃縮非生体消毒剤組成物は、クロルヘキシジン塩基、アミノ酸、アミンオキシド、賦形剤を、以下の成分比、質量分率%で含む。
クロルヘキシジン塩基は0.5~65.0%
アミノ酸-0.1~2.0%
アミンオキシド-0.2~5.0%
染料-0.01~0.1%
アルコール-10.0~30.0%
【0058】
アミノ酸としては、ロイシン、チロシン、テリン、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、アラニン、リジン、アルゲニン、ヒスチジン、グリシン、システイン、バリン、プロリン、メチオニン、スレオニン、ヒドロキシリジンなどを使用した。
【0059】
アミンオキシドとして、N-ラウリル-N,N-ジメチルアミン(Barlox-12)(Lonza社のカタログ)を使用する。
【0060】
染料として、トリアリールメタン染料(E133)を使用する。
【0061】
アルコールとして、エタノール、プロパノール、メタノールを使用する。
【0062】
変形体1、2、及び3の非生体消毒剤組成物の濃縮物の調製は、実施例1と同様に、その成分を指定された割合の活性物質と室温で混合することによって実施した。
産業用用途
【0063】
結核菌株、グラム陰性菌及びグラム陽性菌、真菌に対する非生体消毒剤活性を調査するために、変形体1、2及び3による非生体消毒剤組成物の濃縮物を1:100の比で水で希釈した。
【0064】
エンテロバクター属、サイトロバクター属、クレブシエラ、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、ポリオ、カンジダなどの外科手術でよく見られる細菌性剤は、一般に認められた方法で栄養培地に播種され、規範的文書(ND)「Methods of laboratory researches and tests of disinfectants for an assessment of their efficiency and safety」(P4.2.2643-10)及びND「Normative indicators of safety and effectiveness of disinfectants, subject to control during the mandatory certification」No.01-12/75-97の要件に従って評価した。
【0065】
この研究は、RFのScientific Research Institute of Disinfectology of Rospotrebnadzorで行われた。
非生体消毒剤活性のデータを表2に示す。
【0066】
【0067】
したがって、本発明の生体消毒剤組成物は、MDRの多剤耐性株、クラス1、クラス2及びクラス3の抗生物質に感受性のない非常に高い薬物耐性XDR、及びすべてのクラスのすべての既知の抗生物質に対して感受性のない汎耐性PDRなど、結核菌に対する固有の殺菌活性を有する。
【0068】
非生体消毒剤組成物の変形体は、向上した品質である、広範囲の細菌(マイコバクテリウムテラエ、エンテロバクター属、サイトロバクター属、クレブシエラ、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、ポリオ、カンジダ)に影響を与える能力を有し、この化合物の塩及び誘導体の製造において半製品であるクロルヘキシジン塩基を使用すること、及び調製の容易さにより、低コストを有する。