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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】角度位置保持装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20220307BHJP
   B22F 5/08 20060101ALI20220307BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20220307BHJP
   F16D 41/20 20060101ALI20220307BHJP
   F16D 43/21 20060101ALI20220307BHJP
【FI】
F16D7/02 F
B22F5/08
F16D1/02 210
F16D41/20 A
F16D43/21
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021125305
(22)【出願日】2021-07-30
【審査請求日】2021-08-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】磯部 太郎
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-130077(JP,A)
【文献】特開2010-164113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00- 9/00
41/00-47/00
B22F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側機器及び出力側機器を相互に接続する継手部材と、前記継手部材に所要制動トルクを付与する制動トルク付与手段とを具備し、入力側機器から回転トルクが入力されると、前記継手部材は前記所要制動トルクに抗して前記制動トルク付与手段に対して摺動回転し、入力側機器から回転トルクが入力されないときは、前記継手部材は前記所要制動トルクによって保持される角度位置保持装置の製造方法において、
前記継手部材は同軸上の軸方向の異なる位置に配置された雄係合部及び雌係合部を備え、前記雄係合部及び係止部を備えた雄部材と、前記雌係合部及び被係止部を備えた雌部材とを各別に粉末冶金にて形成した後に、前記係止部と前記被係止部とを係止させて前記雄部材と前記雌部材とを相対回転不能に組み合わせて製造される、ことを特徴とする角度位置保持装置の製造方法。
【請求項2】
前記雄係合部及び前記雌係合部は共に歯車状である、請求項1に記載の角度位置保持装置の製造方法。
【請求項3】
前記雄係合部のピッチ円直径は前記雌係合部のピッチ円直径以下である、請求項2に記載の角度位置保持装置の製造方法。
【請求項4】
前記雄係合部は雄セレーション、前記雌係合部は雌セレーションである、請求項2又は3に記載の角度位置保持装置の製造方法。
【請求項5】
前記雄部材には前記雄係合部の一端が固定されたフランジ部が、前記雌部材には前記フランジ部を受容する凹部が夫々設けられ、前記係止部は前記フランジ部の外周面において径方向外方に突出する突起であると共に、前記被係止部は前記凹部の内周面において前記突起が嵌め合わされる没入部である、請求項1乃至4のいずれかに記載の角度位置保持装置の製造方法。
【請求項6】
前記継手部材の少なくとも前記雌部材を固定のハウジングの内側に配置し、前記継手部材を、前記ハウジングが備える端板及び前記ハウジングに装着されるシールドによって軸方向の両側から支持する、請求項1乃至5のいずれかに記載の角度位置保持装置の製造方法。
【請求項7】
前記制動トルク付与手段はコイルばねであって、線材が螺旋状に巻回された巻回部と前記巻回部から前記線材が径方向外方に延出するフック部とを備え、
自由状態における前記巻回部の内径は前記継手部材の前記雌部材の外径よりも小さく、前記コイルばねは、前記巻回部の内径が拡径された状態で前記雌部材の外周面に装着され、
前記フック部は前記ハウジングの内周面に形成されたフック溝に嵌め合わされて、前記コイルばねは前記ハウジングに対して回転不能であり、前記継手部材が回転すると、前記フック溝内で前記フック部が前記コイルばねの緩み方向に押される、請求項に記載の角度位置保持装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角度位置保持装置、殊に、雄係合部及び雌係合部が同軸上の軸方向の異なる位置に配置された継手部材を具備する角度位置保持装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、電動モーターの如き入力側機器からの回転トルクを車両のハッチバックの如き出力側機器に伝達するシャフトに装着されて、入力側機器から回転トルクが入力されると、シャフトは制動トルク付与手段が備える所要制動トルクに抗して回転し、入力側機器から回転トルクが入力されないときは、シャフトは上記所要制動トルクによって保持される、つまり入力側機器の駆動を停止しても出力側機器の角度位置が保持される角度位置保持装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6815567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された角度位置保持装置にあっては、入力側機器から延びるシャフトが出力側機器に直接的に接続されていたが、入力側機器及び出力側機器の構成によっては、入力側機器及び出力側機器の双方に回転を伝達するシャフトが設けられ、両シャフトを角度位置保持装置で接続、つまり角度位置保持装置に継手としての機能を持たせて、入力側機器から延びるシャフトと出力側機器から延びるシャフトとを継手を介して間接的に接続することが必要となる場合がある。ここで、入力側機器から延びるシャフト及び出力側機器から延びるシャフトが共に雌被係合部を備えている場合には、かかる雌被係合部と係合する雄係合部を備えた継手部材を、両シャフトが共に雄被係合部を備えている場合には、かかる雄被係合部と係合する雌係合部を備えた継手部材を用意することで両シャフトを接続することができるが、入力側機器から延びるシャフト及び出力側機器から延びるシャフトが雌被係合部及び雄被係合部を相互に備えている場合には、上記雄係合部及び上記雌係合部が同軸上に夫々配置された継手部材を用意する必要がある。
【0005】
また、上記特許文献1に開示された角度位置保持装置が備える制動トルク付与手段はコイルばねであって、これは、内側を上記シャフトが貫通する内輪の外周面に装着されており、内輪はコイルばねの締付力に起因した制動トルクに抗して回転、つまり内輪はコイルばねに対して摺動する。そのため、内輪は耐摩耗性を含む相当な強度を有する必要があり、粉末冶金により製造される。
【0006】
ところで、上述した継手部材、つまり雄係合部及び雌係合部が同軸上に夫々配置された継手部材を上記特許文献1に開示された角度位置保持装置の内輪として使用する場合には、継手部材にはコイルばねを装着するための円筒形状部を設ける必要があることから、雄係合部と雌係合部とを同軸上の軸方向の同じ位置に配置することはできず、同軸上の軸方向の異なる位置に配置する必要がある。かような継手部材(内輪)を粉末冶金により一体的に製造するには、後に図面を参照して詳述するとおり、軸方向に延在する有底凹部を備えた雌金型と、この雌金型内に進入可能な雄金型とにより構成される成形金型が用いられる。雄金型には雌係合部を規定するために軸方向に突出する突起が設けられている。このような成形金型を用いて継手部材を製造するには、雌金型の内側に粉末を充填した後に雄金型を雌金型内に進入せしめて粉末を圧縮することで成形体を形成し、その後にかかる成形体を成形金型から取り出して焼結する。
【0007】
而して、上述したとおりにして継手部材を成形金型で成形する際には、雌係合部が軸方向に貫通していないことに起因して、雄金型を雌金型内に進入せしめて粉末を圧縮する際には、以下のとおりの問題が生じる。即ち、(1)突起の自由端面には上記圧縮による軸方向荷重が集中するため突起は座屈しやすく、雄金型は相当な強度を有する必要がある、(2)突起の前方に存在する粉末の一部は軸方向ではなく径方向外方に強制させられることから粉末の流動性が良好ではなく、雄金型を雌金型内に進入させる際に過大な抵抗が発生、つまり雄金型を雌金型内に進入させるのに過大な力を要する、(3)突起の前方に存在する粉末のみが比較的高密度に圧縮され、従って成形体を構成する粉末の密度分布にムラが生じる。成形体を構成する粉末の密度分布にムラが存在すると、成形体を焼結した際にクラックが生じる。
【0008】
また、上述した継手部材(内輪)、即ち、雄係合部と雌係合部とが同軸上の軸方向の異なる位置に配置された継手部材(内輪)を高強度で製造する他の方法として、金属ブロックから削り出す方法も考えられるが、かかる方法は製造効率及びコストの観点から著しく不利であり、現実的ではない。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、入力側機器及び出力側機器を相互に接続するための雄係合部及び雌係合部が同軸上の軸方向の異なる位置に配置された継手部材を具備する角度位置保持装置の製造方法において、上記継手部材を粉末冶金により高品質且つ容易に製造することのできる、新規の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、雄係合部を備えた雄部材と雌係合部を備えた雌部材とを各別に粉末冶金にて形成した後に、雄部材と雌部材とを相対回転不能に組み合わせることによって、上記主たる技術的課題を達成できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を達成する継手部材の製造方法として、入力側機器及び出力側機器を相互に接続する継手部材と、前記継手部材に所要制動トルクを付与する制動トルク付与手段とを具備し、入力側機器から回転トルクが入力されると、前記継手部材は前記所要制動トルクに抗して前記制動トルク付与手段に対して摺動回転し、入力側機器から回転トルクが入力されないときは、前記継手部材は前記所要制動トルクによって保持される角度位置保持装置の製造方法において、
前記継手部材は同軸上の軸方向の異なる位置に配置された雄係合部及び雌係合部を備え、前記雄係合部及び係止部を備えた雄部材と、前記雌係合部及び被係止部を備えた雌部材とを各別に粉末冶金にて形成した後に、前記係止部と前記被係止部とを係止させて前記雄部材と前記雌部材とを相対回転不能に組み合わせて製造される、ことを特徴とする角度位置保持装置の製造方法が提供される。
【0012】
好ましくは、前記雄係合部及び前記雌係合部は共に歯車状である。この場合には、前記雄係合部のピッチ円直径は前記雌係合部のピッチ円直径以下であるのが好適である。さらに、前記雄係合部は雄セレーション、前記雌係合部は雌セレーションであるのがよい。前記雄部材には前記雄係合部の一端が固定されたフランジ部が、前記雌部材には前記フランジ部を受容する凹部が夫々設けられ、前記係止部は前記フランジ部の外周面において径方向外方に突出する突起であると共に、前記被係止部は前記凹部の内周面において前記突起が嵌め合わされる没入部であるのが好適である。前記継手部材の少なくとも前記雌部材を固定のハウジングの内側に配置し、前記継手部材を、前記ハウジングが備える端板及び前記ハウジングに装着されるシールドによって軸方向の両側から支持するのがよい。また、前記制動トルク付与手段はコイルばねであって、線材が螺旋状に巻回された巻回部と前記巻回部から前記線材が径方向外方に延出するフック部とを備え、自由状態における前記巻回部の内径は前記継手部材の前記雌部材の外径よりも小さく、前記コイルばねは、前記巻回部の内径が拡径された状態で前記雌部材の外周面に装着され、前記フック部は前記ハウジングの内周面に形成されたフック溝に嵌め合わされて、前記コイルばねは前記ハウジングに対して回転不能であり、前記継手部材が回転すると、前記フック溝内で前記フック部が前記コイルばねの緩み方向に押されるのがよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、雄係合部を備えた雄部材と雌係合部を備えた雌部材とを各別に粉末冶金にて形成した後に雄部材と雌部材とを相対回転不能に組み合わせることで継手部材が製造されるため、雌部材において雌係合部を軸方向に貫通させることができ、これにより、雄係合部及び雌係合部が同軸上の軸方向の異なる位置に配置された継手部材を粉末冶金にて一体的に製造する場合に生じる上記問題に直面することなく、雄係合部及び雌係合部が同軸上の異なる位置に配置された継手部材を粉末冶金により高品質且つ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に従って構成される製造方法によって製造された角度位置保持装置の好適実施形態の全体構成を示す図。
図2図1に示す角度位置保持装置を構成部品毎に分解して示す斜視図。
図3図1に示す角度位置保持装置の継手部材を構成する雄部材を単体で示す図。
図4図1に示す角度位置保持装置の継手部材を構成する雌部材を単体で示す図。
図5図1に示す角度位置保持装置のハウジングを単体で示す図。
図6図1に示す角度位置保持装置のシールドを単体で示す図。
図7図1に示す角度位置保持装置の継手部材を一体的に成形する場合の成形金型を示す図。
図8図7に示す成形金型を用いて成形する際の問題を説明するための図。
図9図3に示す雄部材を製造するための成形金型の一例を示す図。
図10図4に示す雌部材を製造するための成形金型の一例を示す図。
図11手部材の変形例を構成する雄部材を単体で示す図。
図12図11に示す雄部材と組み合わせられる雌部材を単体で示す図。
図13手部材の他の変形例を構成する雄部材を単体で示す図。
図14図13に示す雄部材と組み合わせられる雌部材を単体で示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に従って構成される角度位置保持装置の製造方法の好適実施形態について、添付図面を参照して更に詳細に説明する。なお、以下の説明における「軸方向片側」及び「軸方向他側」とは、特に指定しない限り、図1のA-A断面に示される状態を基準として、「軸方向片側」は同図において左側を、「軸方向他側」は同図において右側のことを言う。
【0016】
図1及び図2を参照して説明すると、全体を番号2で示す角度位置保持装置は、継手部材4と、継手部材4に所要制動トルクを付与する制動トルク付与手段6と、固定のハウジング8とを備えている。図1のB-B断面においては、容易に理解できるように、制動トルク付与手段6(後述するとおり、これは図示の実施形態においてはコイルばねである)には薄墨を付して示している。
【0017】
継手部材4は入力側機器から延びるシャフトS1と出力側機器から延びるシャフトS2とを接続して、シャフトS1の回転をシャフトS2に伝達するものであり、継手部材4の回転軸をoで示す。シャフトS1は雌被係合部S1aを、シャフトS2は雄被係合部S2aを夫々備えており、継手部材4は雌被係合部S1aと係合する雄係合部10、及び雄被係合部S2aと係合する雌係合部12を備えている。後述するとおり、図示の実施形態においては、雄係合部10は雄セレーション、雌係合部12は雌セレーションであることから、雌被係合部S1aは雌セレーション、雄被係合部S2aは雄セレーションである。継手部材4は後述するとおり制動トルク付与手段(コイルばね)8に対して滑りながら回転(つまり摺動)することから耐摩耗性を含む相当な強度を有する必要があり、従って粉末冶金により製造される。本発明にあっては、継手部材4が、雄係合部10を備えた雄部材14と、雌係合部12を備えた雌部材16とを各別に粉末冶金にて形成した後に、雄部材14と雌部材16とを相対回転不能に組み合わせて製造されることが重要である。
【0018】
図1及び図2と共に図3を参照して説明すると、雄部材14が備える雄係合部10は、図示の実施形態においては雄セレーションであって、軸方向に延びる円筒形状の軸部18の外周面において軸方向に直線状に延びる多数の外歯20により構成される。雄係合部10の一端、つまり軸方向他側端はフランジ部22に固定されている。フランジ部22の外周面、さらに詳しくはその軸方向他側部には径方向外方に突出する突起からなる係止部24が形成されている。係止部24は周方向に等角度間隔をおいて複数(図示の実施形態においては8個)形成されている。図示の実施形態においては、係止部24は雄の角形スプラインを構成する。雄係合部10及びフランジ部22の中心軸は回転軸oと同一であり、雄部材14は回転軸oに沿って軸方向に直線状に延びる貫通穴26を備えている。
【0019】
図1及び図2と共に図4を参照して説明すると、雌部材16は円筒形状であって回転軸oに沿って軸方向に直線状に延びる貫通穴28を備えている。図示の実施形態においては、雌係合部12は雌セレーションであって、雌部材16の内周面において軸方向に直線状に延びる多数の内歯30により構成され、雄係合部10の雄セレーション及び雌係合部12の雌セレーションのピッチ円直径は同一である。雄係合部10のピッチ円直径は雌係合部12のピッチ円直径以下であるのが良い。雌部材16の軸方向片側端部には、内径を局所的に増大せしめてなる凹部32が設けられており、凹部32の内周面には、径方向内方に突出する突起34が形成されている。突起34は雄部材14に設けられた係止部24と対応して周方向に等角度間隔をおいて複数(従って図示の実施形態においては8個)形成されており、周方向に隣接する2つの突起34の間には夫々径方向外方に没入する被係止部35が画成されている。図示の実施形態においては、被係止部35は雌の角形スプラインを構成する。雌部材16の凹部32が雄部材14のフランジ部22を受容して、雌部材16の被係止部35に雄部材14の係止部24が嵌め合わされることで、雄部材14及び雌部材16は相対回転不能に係止する。雌部材16の軸方向他側端面には外周縁に沿って周方向に連続して延在する円筒形状の被支持壁36が形成されている。被支持壁36はハウジング8の後述する支持壁54と端板42の接続部50とによって支持される。
【0020】
図1及び図2に示すとおり、制動トルク付与手段6はコイルばねであって(以下、コイルばねを番号8で示す)、金属製の線材が螺旋状に巻回された巻回部38と巻回部38から上記線材が径方向外方に延出するフック部40とを備えている。フック部40は上記線材の両端部により構成され、従って、フック部40は巻回部38の軸方向両端に夫々設けられている。コイルばね6が自由状態にあるときの、つまりコイルばね6が何らの外力を受けていない状態にあるときの、巻回部38の内径は継手部材4の雌部材16の外径よりも小さく、コイルばね6は巻回部38の内径が拡径された状態で雌部材16の外周面に装着される。そして、2つのフック部40は共通してハウジング8に形成された後述するフック溝62に嵌め合わされ、コイルばね6はハウジング8に対して回転不能となる。
【0021】
図1及び図2と共に図5を参照して説明すると、ハウジング8は適宜の合成樹脂から成形され、回転軸oに対して垂直に配置される端板42と、端板42の外周縁から軸方向片側に延びる円筒形状の外周壁44とを備えたカップ状であり、継手部材4の雌部材16を内側に収容している。端板42は軸方向に見ると円形であるが、端板42の中央部46(これもまた円形である)は円環形状の外周部48よりも軸方向他側に幾分変位されており、中央部46の外周縁と外周部48の内周縁とを接続する円筒形状の接続部50を備えている。これにより、端板42には、中央部46と接続部50とによって、継手部材4の雌部材16の軸方向他側端部を軸受けする円形の軸受け凹部52が設けられている。端板42の中央部46の軸方向片側面の外周縁部には周方向に連続して延在する円筒形状の支持壁54が形成されており、雌部材16に形成された被支持壁36が支持壁54と端板42の接続部50との間に進入することで、継手部材4はハウジング8に対して安定して回転することが可能となる。端板42の中央には軸方向に貫通する円形の貫通穴56が形成されており、シャフトS2の雄被係合部S2aが貫通穴56を通って継手部材4の雌部材16に形成された雌係合部12と係合する。端板42の軸方向他側面の外周部48には軸方向他側に起立する所要形状のリブ58が配設されており、これにより、端板42には軸方向他側及び径方向外側に向かって開放された固定凹部60が形成されている。固定凹部60は周方向に等角度間隔に4つ形成されており、ハウジング8を車両等に固定する際に使用される。
【0022】
外周壁44の内周面には所定角度範囲に亘って内径を増大せしめてなる円弧形状のフック溝62が形成されている。フック溝62は軸方向に直線状に延在しており、図1のB-B断面に示すとおり、フック溝62にはコイルばね6が備える2つのフック部40が共通して嵌め合わされる。図示の実施形態においては、外周壁44の内周面においてフック溝62とは直径方向の反対側にもフック溝62と同一形状のダミー溝64が形成されている。ダミー溝64は組み立て性を考慮して設けられており、ダミー溝64をフック溝62として使用することもできる。外周壁44の自由端面つまり軸方向片側端面には、軸方向片側に向かって更に延出する円弧形状の周方向係止片66が周方向に等角度間隔をおいて6個設けられており、夫々の周方向係止片66の内側面の延出端部には、径方向内側に突出する軸方向係止突起68が設けられている。
【0023】
ハウジング8の開放端、つまり外周壁44の軸方向片側端はシールド70によって閉塞される。図1及び図2と共に図6を参照して説明すると、シールド70は合成樹脂製であって、全体的に円環形状である。シールド70の外周面には径方向外側に延出した円弧形状の周方向被係止片72が設けられている。シールド70の外周面には更に径方向外側に突出した軸方向被係止突起74が設けられている。周方向被係止片72と周方向係止片66とが周方向に、軸方向被係止突起74と軸方向係止突起68とが軸方向に夫々係止することで、シールド70はハウジング8に固定される。シールド70の内周面における軸方向他側端には径方向内側に延出すると共に周方向に連続して延在する円環形状の支持片76が形成されている。支持片76は継手部材4の雄部材14及び雌部材16を同時に軸方向片側から支持する。図1のA-A断面を参照することによって理解されるとおり、支持片76の軸方向他側面は雄部材14に設けられた係止部24の軸方向片側面と対向することから、雌部材16の突起34の軸方向片側面とも対向する。シールド70の軸方向他側面の内周縁部には、軸方向他側に突出して周方向に連続して延在する円筒形状の支持壁78が形成されている。支持壁78はその内側に配置される継手部材4の雌部材16の軸方向片側端部を回転可能に軸受けすると共に、コイルばね6の軸方向の移動を制限する。
【0024】
角度位置保持装置2は以下のようにして作動する。即ち、入力側機器から延びるシャフトS1及び継手部材4並びに出力側機器から延びるシャフトS2は一体であることから、入力側機器から回転トルクが入力されると、継手部材4はコイルばね6と共に回転しようとするが上述したとおりコイルばね6はハウジング8に対して回転不能であるため、ハウジング8に形成されたフック溝62内において2つのフック部40のいずれか一方がフック溝62を規定するハウジング8の内側面によって相対的にコイルばね6が緩む方向に押され、継手部材4はコイルばね6の締め付け力による制動トルクに抗してコイルばね6(及びハウジング8)に対して摺動回転する。つまり、入力側機器からの回転トルクが出力側機器に伝達されてこれを駆動させる。一方、入力側機器からの回転トルクが入力されないときは、コイルばね6による所要制動トルクによって継手部材4が保持され、これにより、出力側機器の角度位置も保持される。
【0025】
上述したとおり、本発明の継手部材4の製造方法にあっては、雄係合部10を備えた雄部材14と、雌係合部12を備えた雌部材16とを各別に粉末冶金にて形成した後に、雄部材14と雌部材16とを相対回転不能に組み合わせることが重要である。雄係合部10´及び雌係合部12´が同軸上の軸方向の異なる位置に配置された継手部材4´(図7において二点鎖線で示す)を粉末冶金により一体成形することも不可能ではないが、以下の理由から好ましくない。その理由について以下に詳述する。以下の説明においては、継手部材4´における上述した継手部材4と対応する部位については同一の番号に「´」を付して示す。また、継手部材4´を粉末冶金により形成する場合には、継手部材4´の軸方向を上下方向とする必要があるため、以下の説明においては、上述した軸方向片側を下方に、軸方向他側を上方として説明する。
【0026】
図7には、継手部材4´を粉末冶金にて形成するための成形金型100が示されている。かかる成形金型100は、固定の雌金型102と、この雌金型102に対して軸方向に移動可能な雄金型104とから構成されている。雌金型102は軸方向に延在する有底凹部を備え、かかる有底凹部は継手部材4´の外周面を規定する内周面106と、継手部材4´の軸方向片側端面(下側端面)を規定する内底面108とを有している。そして、内周面106において内底面108の外周縁から軸方向に延びる内周面下部110が継手部材4´の雄係合部10´を規定する。雄金型104は雌金型102の有底凹部と軸方向において整合して配置されてこれの内側に進入可能であり、継手部材4´の軸方向他側端面(上側端面)を規定する下面112を有する。下面112の中央には、雌金型102の内底面108に向かって下方に突出する突起114が形成されており、突起114の外周面116が継手部材4´の雌係合部12´を規定する。
【0027】
図8を参照して説明を続けると、継手部材4´を製造するには、最初に、図8(a)に示すとおり、雌金型102内に金属製の粉末Pを充填する。次いで、図8(b)に示すとおり、雄金型104を降下させて雌金型102内に進入せしめ、これによって同図において矢印で示すとおり、粉末Pを圧縮して成形体を形成する。その後に、成形金型100を開いて(つまり雌金型102に対して雄金型104を上昇させて離隔せしめて)これから上記成形体を取出し、かかる成形体を焼結する。
【0028】
ここで、成形金型100によって成形しようとする継手部材4´にあっては、雌係合部12´が軸方向に貫通していないことに起因して、雄金型104を雌金型102内に進入せしめて粉末を圧縮する際には、以下のとおりの問題が生じる。即ち、(1)突起114の自由端面には上記圧縮による軸方向荷重が集中するため突起114は座屈しやすく、突起114を備えた雄金型104は相当な強度を有する必要がある、(2)突起114の前方(図示の実施形態にあっては下方)に存在する粉末の一部は軸方向ではなく径方向外方に強制させられることから粉末の流動性が良好ではなく、雄金型104を雌金型102内に進入させる際に過大な抵抗が発生、つまり雄金型104を雌金型102内に進入させるのに過大な力を要する、(3)突起114の前方に存在する粉末のみが比較的高密度に圧縮され、従って成形体を構成する粉末の密度分布にムラが生じる。成形体を構成する粉末の密度分布にムラが存在すると、成形体を焼結した際にクラックが生じる。
【0029】
この点、本発明の製造方法のように、雄係合部10を備えた雄部材14と雌係合部12を備えた雌部材16とを各別に粉末冶金にて製造すれば、雌部材16において雌係合部12を軸方向に貫通させることができ、上記問題を生じることはない。以下、雄部材14及び雌部材16の製造工程の一例について図9及び図10を参照して説明する。
【0030】
図9には、同図中において二点鎖線で示される雄部材14を成形するための成形金型200の一例が示されている。かかる成形金型200は、固定の雌金型202と、この雌金型202に対して軸方向に移動可能な雄金型204と、雌金型202の内側において軸方向に直線状に延びる中子206とから構成される。雌金型202は軸方向に延在する有底凹部を備え、かかる有底凹部は雄部材14の外周面を規定する内周面208と、雄部材14の軸方向片側端面(下側端面)を規定する内底面210とを有している。内周面208において内底面210の外周縁から軸方向に延びる内周面下部212が雄部材14の雄係合部10を規定する。雄金型204は雌金型202の有底凹部と軸方向において整合して配置されてこれの内側に進入可能であり、雄部材14の軸方向他側端面(上側端面)を規定する下面214を有する。かかる下面214及び内底面210には中子206が貫通する穴が同軸上に形成されており、かかる穴を中子206が貫通することで貫通穴26が規定される。かような成形金型200によれば、雌金型202内に金属製の粉末を充填した後に、雄金型204を降下させて雌金型202内に進入せしめ、これによって粉末を圧縮すれば、中子206に軸方向の荷重がかかることなく雄部材14を形成することができる。
【0031】
図10には、同図中において二点鎖線で示される雌部材16を成形するための成形金型300の一例が示されている。かかる成形金型300は、固定の雌金型302と、この雌金型302に対して軸方向に移動可能な雄金型304と、雌金型302の内側において軸方向に直線状に延びる中子306とから構成される。雌金型302は軸方向に延在する有底凹部を備え、かかる有底凹部は雌部材16の外周面を規定する内周面308と、雌部材16の軸方向片側端面(下側端面)を規定する内底面310とを有している。雄金型304は雌金型302の有底凹部と軸方向において整合して配置されてこれの内側に進入可能であり、雌部材16の軸方向他側端面(上側端面)を規定する下面312を有する。かかる下面312及び内底面310には中子306が貫通する穴が同軸上に形成されており、かかる穴を中子306が貫通し、中子306の外周面によって雌係合部12(内歯30)が規定される。かような成形金型300によれば、雌金型302内に金属製の粉末を充填した後に、雄金型304を降下させて雌金型302内に進入せしめ、これによって粉末を圧縮すれば、中子306に軸方向の荷重がかかることなく雌部材16を形成することができる。
【0032】
従って、本発明の製造方法によれば、継手部材4は、雄係合部10を備えた雄部材14と雌係合部12を備えた雌部材16とを各別に粉末冶金にて形成した後に、雄部材14と雌部材16とを相対回転不能に組み合わせることにより製造されるため、雌部材16において雌係合部12を軸方向に貫通させることができ、これにより、雄係合部及び雌係合部が同軸上の軸方向の異なる位置に配置された継手部材を粉末冶金にて一体的に製造する場合に生じる上記問題に直面することなく、雄係合部及び雌係合部が同軸上の異なる位置に配置された継手部材を粉末冶金により高品質且つ容易に製造することができる。
【0033】
以上、本発明に従って構成された角度位置保持装置の製造方法について添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、雄係合部は雄セレーション、雌係合部は雌セレーションであったが、雄係合部及び雌係合部は夫々スプラインの如き歯車状であれば任意であってよい。また、雄セレーション及び雌セレーションのピッチ円直径は必ずしも同一でなくてもよい。雄部材と雌部材とを相対回転不能に係止する方法は任意の手段であって良く、図示の実施形態においては、雄部材14に設けられた係止部24は雄の角形スプラインを構成すると共に雌部材16に設けられた被係止部35は雌の角形スプラインを構成していたが、係止部24及び被係止部35を他の形状のスプライン(例えばインボリュートスプライン)としたり、図11及び図12に示す変形例のようにセレーションとしたり(図11及び図12では、図3及び図4に示す構成と同一の構成については同一の番号に「´」を付して示している)、図13及び図14に示す他の変形例のように多角形(図示の実施形態においては正8角形)としたりすることもできる(図13及び図14では、図3及び図4に示す構成と同一の構成については同一の番号に「´´」を付して示している)。図示の実施形態においては、角度位置保持装置において雌部材に所要制動トルクを付与する制動トルク付与手段はコイルばねであったが、制動トルク付与手段は、板ばねやトレランスリング或いは輪ばね等であってもよく、従って制動トルク付与手段は必ずしもハウジングに対して回転不能でなくてもよい。
【符号の説明】
【0034】
2:角度位置保持装置
4:継手部材
6:制動トルク付与手段(コイルばね)
8:ハウジング
10:雄係合部
12:雌係合部
14:雄部材
16:雌部材
24、24´、24´´:係止部
35、35´、35´´:被係止部
【要約】
【課題】雄係合部及び雌係合部が同軸上の軸方向の異なる位置に配置された継手部材を粉末冶金により高品質且つ容易に製造することのできる、新規の製造方法を提供すること。
【解決手段】雄係合部10を備えた雄部材14と雌係合部12を備えた雌部材16とを各別に粉末冶金にて形成した後に、雄部材14と雌部材16とを相対回転不能に組み合わせる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14