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特許7035276情報処理装置、プログラムおよびシミュレーション方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-04
(45)【発行日】2022-03-14
(54)【発明の名称】情報処理装置、プログラムおよびシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/367 20200101AFI20220307BHJP
   G06F 30/331 20200101ALI20220307BHJP
【FI】
G06F30/367
G06F30/331
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021508607
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013642
(87)【国際公開番号】W WO2020194674
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390015587
【氏名又は名称】株式会社図研
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 諭
(72)【発明者】
【氏名】安藤 真人
(72)【発明者】
【氏名】明瀬 雅史
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-081978(JP,A)
【文献】特開平6-019997(JP,A)
【文献】特表2009-541891(JP,A)
【文献】特開平6-076014(JP,A)
【文献】国際公開第2009/050768(WO,A1)
【文献】特開平5-135131(JP,A)
【文献】特開2012-089107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子群および出力端子群を有する電気回路の構成を示す回路構成データを、変数群に対して与えられる引数群と前記入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データに変換する変換部と、
前記電気回路におけるユーザによって指定された節点をノイズが印加されるノイズ印加節点として設定する印加節点設定部と、を備え、
前記印加節点設定部によって前記ノイズ印加節点が設定された場合に、前記変換部は、前記ノイズ印加節点に対して前記ノイズを与えるためのノイズ入力端子を前記回路計算データに加え、
前記引数群は、前記電気回路を構成する回路素子の特性を示す定数、および、前記ノイズ入力端子を介して前記ノイズ印加節点に印加される前記ノイズに関する値を含む、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記引数群は温度に関する値を含み、前記定数は前記回路素子の温度係数を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記電気回路における観察節点を設定する観察節点設定部を更に備え、
前記変換部は、前記出力信号群が前記観察節点の電気的な値を示す出力信号を含むように前記回路計算データを発生する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記回路計算データが組み込まれたプロセッサに引数群を与え、前記プロセッサを動作させるシミュレーション実行部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記シミュレーション実行部は、
前記プロセッサに第1引数群を与えて、前記第1引数群と前記入力信号群とに対応する第1出力信号群を前記プロセッサに発生させる第1動作を実行し、
前記第1動作の後に、前記プロセッサに前記第1引数群とは異なる第2引数群を与えて、前記第2引数群と前記入力信号群とに対応する第2出力信号群を前記プロセッサに発生させる第2動作を実行し、
前記第1動作と前記第2動作との間において、前記プロセッサに前記回路計算データが新たに組み込まれない、
ことを特徴とする請求項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記第1引数群は、前記回路素子の特性を示す定数に関する第1値を含み、前記第2引数群は、前記回路素子の特性を示す定数に関する第2値を含む、
ことを特徴とする請求項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記第1引数群は、温度に関する第1値を含み、前記第2引数群は、温度に関する第2値を含む、
ことを特徴とする請求項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記第1引数群は、前記ノイズに関する第1値を含み、前記第2引数群は、前記ノイズに関する第2値を含む、
ことを特徴とする請求項記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、リアルタイムOSを有するプロセッサである、
ことを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、FPGAを有するプロセッサである、
ことを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項11】
前記入力端子群に対応する、前記プロセッサの端子群には、前記入力端子群に接続される装置から信号が供給される、
ことを特徴とする請求項4乃至10のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項12】
入力端子群および出力端子群を有する電気回路の構成を示す回路構成データから変換され、変数群に対して与えられる引数群と前記入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データ、が組み込まれたプロセッサに前記引数群を与え、前記プロセッサを動作させるシミュレーション実行部を備え、
前記引数群は、前記電気回路を構成する回路素子の特性を示す定数、および、ユーザによって指定されたノイズ印加節点に印加されるノイズに関する値を含み、
前記回路計算データは、前記ノイズ印加節点に対して前記ノイズを与えるためのノイズ入力端子を含み、
前記ノイズに関する前記値は、前記ノイズ入力端子を介して前記ノイズ印加節点に印加される、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項13】
前記引数群は温度に関する値を含み、前記定数は前記回路素子の温度係数を含む、
ことを特徴とする請求項12に記載の情報処理装置。
【請求項14】
前記出力信号群は、前記電気回路における観察節点の電気的な値を示す出力信号を含む、
ことを特徴とする請求項13に記載の情報処理装置。
【請求項15】
前記シミュレーション実行部は、
前記プロセッサに第1引数群を与えて、前記第1引数群と前記入力信号群とに対応する第1出力信号群を前記プロセッサに発生させる第1動作を実行し、
前記第1動作の後に、前記プロセッサに前記第1引数群とは異なる第2引数群を与えて、前記第2引数群と前記入力信号群とに対応する第2出力信号群を前記プロセッサに発生させる第2動作を実行し、
前記第1動作と前記第2動作との間において、前記プロセッサに前記回路計算データが新たに組み込まれない、
ことを特徴とする請求項12乃至14のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項16】
前記第1引数群は、温度に関する第1値を含み、前記第2引数群は、温度に関する第2値を含む、
ことを特徴とする請求項15に記載の情報処理装置。
【請求項17】
前記第1引数群は、前記回路素子の特性を示す定数に関する第1値を含み、前記第2引数群は、前記回路素子の特性を示す定数に関する第2値を含む、
ことを特徴とする請求項16に記載の情報処理装置。
【請求項18】
前記第1引数群は、ノイズに関する第1値を含み、前記第2引数群は、ノイズに関する第2値を含む、
ことを特徴とする請求項16に記載の情報処理装置。
【請求項19】
前記プロセッサは、リアルタイムOSを有するプロセッサである、
ことを特徴とする請求項12乃至18のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項20】
前記プロセッサは、FPGAを有するプロセッサである、
ことを特徴とする請求項12乃至18のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項21】
前記入力端子群に対応する、前記プロセッサの端子群には、前記入力端子群に接続される装置から信号が供給される、
ことを特徴とする請求項12乃至18のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項22】
コンピュータを請求項1乃至11のいずれか1項に記載の情報処理装置として動作させることを特徴とするプログラム。
【請求項23】
コンピュータを請求項12乃至21のいずれか1項に記載の情報処理装置として動作させることを特徴とするプログラム。
【請求項24】
入力端子群および出力端子群を有する電気回路におけるユーザによって指定された節点をノイズが印加されるノイズ印加節点として設定する印加節点設定工程と、
前記電気回路の構成を示す回路構成データを、変数群に対して与えられる引数群と前記入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データに変換する変換工程と、
前記回路計算データをプロセッサに組み込む組込工程と、
前記回路計算データが組み込まれた前記プロセッサに前記引数群を与え、前記プロセッサを動作させるシミュレーション実行工程と、を含み、
前記変換工程では、前記印加節点設定工程で前記ノイズ印加節点が設定された場合に、前記ノイズ印加節点に対して前記ノイズを与えるためのノイズ入力端子を前記回路計算データに加え、
前記引数群は、前記電気回路を構成する回路素子の特性を示す定数、および、前記ノイズ入力端子を介して前記ノイズ印加節点に印加される前記ノイズに関する値を含む、
ことを特徴とするシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、プログラムおよびシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FPGA(Field Programmable Gate Array)やリアルタイムOSを有するプロセッサを用いたHILS(Hardware In the Loop Simulation)が知られている。HILSでは、シミュレーション対象物の一部の動作がFPGAやリアルタイムOSを有するプロセッサを使って計算されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-014393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気回路の動作をFPGAによってシミュレーションする方法において、例えば、ある回路素子の定数が第1値である場合における該電気回路の動作をシミュレーションした後、該定数が該第1値とは異なる第2値である場合における該電気回路の動作をシミュレーションしたい場合がある。この場合、該定数が第1値である場合における該電気回路の動作をシミュレーションするようにFPGAをプログラムしシミュレーションを実行した後に、該定数が第2値である場合における該電気回路の動作をシミュレーションするようにFPGAを再プログラムする必要がある。しかし、この場合、定数を変更する度にFPGAに組み込むためのデータを生成し、それをFPGAに組み込む必要があり、これが該電気回路を含む検証対象の検証作業の遅延を招く。このような問題は、リアルタイムOSを有するプロセッサを使ってシミュレーションを実行する場合にも起こる。
【0005】
本発明は、上記の課題認識を契機としてなされたものであり、検証作業の効率化に有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面は、情報処理装置に係り、前記情報処理装置は、入力端子群および出力端子群を有する電気回路の構成を示す回路構成データを、変数群に対して与えられる引数群と前記入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データに変換する変換部を備え、前記引数群は、前記電気回路を構成する回路素子の特性を示す定数を含む。
【0007】
本発明の第2の側面は、入力端子群および出力端子群を有する電気回路の構成を示す回路構成データから変換され、変数群に対して与えられる引数群と前記入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データ、が組み込まれたプロセッサに引数群を与え、前記プロセッサを動作させるシミュレーション実行部を備え、前記引数群は、前記電気回路を構成する回路素子の特性を示す定数を含む。
【0008】
本発明の第3の側面は、プログラムに係り、前記プログラムは、コンピュータを、入力端子群および出力端子群を有する電気回路の構成を示す回路構成データを、変数群に対して与えられる引数群と前記入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データに変換する変換部を備える情報処理装置として動作させ、前記引数群は、前記電気回路を構成する回路素子の特性を示す定数を含む。
【0009】
本発明の第4の側面は、プログラムに係り、前記プログラムは、コンピュータを、入力端子群および出力端子群を有する電気回路の構成を示す回路構成データから変換され、変数群に対して与えられる引数群と前記入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データ、が組み込まれたプロセッサに引数群を与え、前記プロセッサを動作させるシミュレーション実行部を備え、前記引数群は、前記電気回路を構成する回路素子の特性を示す定数を含む。
【0010】
本発明の第5の側面は、シミュレーション方法に係り、前記シミュレーション方法は、入力端子群および出力端子群を有する電気回路の構成を示す回路構成データを、変数群に対して与えられる引数群と前記入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データに変換する変換工程と、前記回路計算データをプロセッサに組み込む組込工程と、前記回路計算データが組み込まれた前記プロセッサに引数群を与え、前記プロセッサを動作させるシミュレーション実行工程と、を含み、前記引数群は、前記電気回路を構成する回路素子の特性を示す定数を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、検証作業の効率化に有利な技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態のシミュレーションシステムおよびシミュレーション方法を例示的に示す図。
図2】本発明の一実施形態のシミュレーションシステムおよびシミュレーション方法を例示的に示す図。
図3】変換部を備える情報処理装置の構成例を示す図。
図4】変換部を備える情報処理装置の動作例を示す図。
図5】電気回路の構成例を示す図。
図6A】ノイズ印加節点の設定例を示す図。
図6B】観察節点の設定例を示す図。
図7A】抵抗をそれに対応する回路素子モデルに変換する例を示す図。
図7B】キャパシタをそれに対応する回路素子モデルに変換する例を示す図。
図7C】インダクタをそれに対応する回路素子モデルに変換する例を示す図。
図8】変換された電気回路を例示する図。
図9】本発明の一実施形態において構築されうる行列表現の方程式のひな型を例示する図。
図10】スタンプルールを例示する図。
図11】行列表現の方程式を例示する図。
図12】行列表現の方程式の操作を例示する図。
図13】行列操作の結果を例示する図。
図14】抽出された数式を例示する図。
図15】本発明の一実施形態のシミュレーションシステムにおけるシミュレーション方法を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
図1および図2には、本発明の一実施形態のシミュレーションシステム1およびシミュレーション方法が例示的に示されている。シミュレーションシステム1は、例えば、情報処理装置100、プロセッサ200およびシミュレーション実行装置300を備えうる。シミュレーション実行装置300は、シミュレーション実行部のようなモジュールとして情報処理装置100に組み込まれてもよい。情報処理装置100は、電気回路ECを設計するための設計機能(CAD機能)を有してもよい。そのような設計機能は、情報処理装置100にCADプログラムを組み込むことによって提供されうる。電気回路ECは、入力端子群および出力端子群を有し、該入力端子群に与えられる入力信号群に対応する出力信号群を該出力端子群から出力しうる。
【0015】
情報処理装置100は、電気回路ECの構成を示す回路構成データ10を、変数群に対して与えられる引数群と電気回路ECの入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データ20に変換する機能を備えうる。該引数群は、電気回路ECを構成する回路素子(例えば、抵抗、キャパシタ、インダクタ、トランジスタ、LSI等)の特性を示す定数(数値)を含みうる。該引数群は、温度に関する値を含むことができ、この場合、該定数は、該回路素子の温度係数を含むことができる。該引数群は、電気回路ECに印加されるノイズに関する値を含んでもよい。
【0016】
回路計算データ20は、情報処理装置100により、または、他の装置により、プロセッサ200に組み込まれうる。回路計算データ20が組み込まれたプロセッサ200には、電気回路ECに対応する仮想的な電気回路が構築される。プロセッサ200は、例えば、リアルタイムOSを有するプロセッサでありうる。この場合、情報処理装置100によって生成される回路計算データ20は、リアルタイムOSを有するプロセッサ200に組み込むことができる形式のデータであるか、そのような形式に変換可能なデータである。リアルタイムOSを有するプロセッサは、例えば、与えられた入力信号に対応する出力信号を微小時間(例えば、数マイクロ秒~数百マイクロ秒)内に発生することができる。プロセッサ200は、例えば、FPGAを有するプロセッサであってもよい。この場合、回路計算データ20は、FPGAに組み込むことができる(FPGAをプログラムすることができる)形式のデータであるか、そのような形式に変換可能なデータである。
【0017】
シミュレーション実行装置300は、回路計算データ20が組み込まれたプロセッサ200の変数群(プロセッサ200に組み込まれた回路計算データ20の変数群)に引数群(数値)を与え、プロセッサ200を動作させる情報処理装置でありうる。シミュレーション実行装置300は、プロセッサおよびメモリ等を含むコンピュータに対して、それをシミュレーション実行装置300として動作させるプログラムを組み込むことによって構成されうる。シミュレーション実行装置300がプロセッサ200に与える引数群は、回路計算データ20の変数群に与えられる引数群である。該引数群は、電気回路ECを構成する回路素子(例えば、抵抗、キャパシタ、インダクタ、トランジスタ、LSI等)の特性を示す定数(数値)を含みうる。該引数群は、温度に関する値を含むことができ、この場合、該定数は、該回路素子の温度係数を含みうる。該引数群は、電気回路ECに印加されるノイズに関する値を含みうる。
【0018】
電気回路ECに接続される装置210、220の動作を検証する検証作業、または、電気回路ECの動作を検証する検証作業、または、電気回路ECおよびそれに接続される装置210、220の動作を検証する検証作業において、シミュレーション実行装置300は、回路計算データ20が組み込まれたプロセッサ200に引数群を与え、プロセッサ200を動作させる。この際に、装置210からプロセッサ200に信号群が供給され、プロセッサ200から装置220に信号群が供給されうる。あるいは、装置210からプロセッサ200に信号群が供給され、プロセッサ200から装置210に信号群が供給されてもよい。また、装置220からプロセッサ200に信号群が供給され、プロセッサ200から装置220に信号群が供給されてもよい。シミュレーション実行装置300は、プロセッサ200から信号群を取り込んでもよい。
【0019】
回路計算データ20は、情報処理装置100からシミュレーション実行装置300に転送され、シミュレーション実行装置300によってプロセッサ200に組み込まれてもよい。また、上記の引数群(例えば、電気回路ECを構成する回路素子の特性を示す定数、温度に関する値)の全部または一部は、情報処理装置100からシミュレーション実行装置300に転送され、それを受けてシミュレーション実行装置300がプロセッサ200に引数群を与えてもよい。
【0020】
図3には、情報処理装置100の構成例が示されている。情報処理装置100は、コンピュータにプログラム150を組み込むことによって構成されうる。プログラム150は、例えば、メモリ媒体に格納された形態でコンピュータに提供されうる。あるいは、プログラム150は、通信回線を介してコンピュータに提供されうる。
【0021】
情報処理装置100は、例えば、CPU(プロセッサ)110と、入力デバイス120と、出力デバイス130と、通信デバイス140と、メモリ160とを含みうる。入力デバイス120は、例えば、キーボードおよびポインティングデバイス等を含みうる。出力デバイス130は、例えば、ディスプレイを含みうる。通信デバイス140は、例えば、他の装置と通信するための、あらゆるデバイスを含みうる。メモリ160は、1又は複数のメモリデバイスを含みうる。該複数のメモリデバイスは、例えば、揮発性メモリデバイス、および、不揮発性メモリデバイスを含みうる。不揮発性メモリデバイスの概念には、電気的に書き込みおよび消去が可能な半導体メモリデバイス、ディスクメモリ、バッテリーでバックアップされた半導体メモリデバイス等が含まれうる。
【0022】
プログラム150は、例えば、変換部151を備える装置として情報処理装置100を動作させるプログラムモジュールを含みうる。変換部151は、電気回路ECの構成を示す回路構成データを、変数群に与えられる引数群と電気回路ECの入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する数式群を含む回路計算データ20に変換する。プログラム150は、電気回路ECにおける、ノイズが印加される節点(以下、ノイズ印加節点)を設定する印加節点設定部152を備える装置として情報処理装置100を動作させるプログラムモジュールを含んでもよい。プログラム150は、電気回路ECにおける観察節点を設定する観察節点設定部153を備える装置として情報処理装置100を動作させるプログラムモジュールを含んでもよい。変換部151は、出力信号群が観察節点の電気的な値を示す出力信号を含むように回路計算データ20を発生しうる。更に、前述のように、シミュレーション実行装置300は、情報処理装置100に組み込まれてもよく、この場合、プログラム150は、シミュレーション実行装置300に相当するシミュレーション実行部154を構成する装置として情報処理装置100を動作させるプログラムモジュールを含みうる。
【0023】
図4には、情報処理装置100の動作例が示されている。ここでは、図5に示された電気回路ECの構成を示す回路構成データ10を回路計算データ20に変換する例を説明する。工程S300は、任意的に実行されうる。工程S300では、ユーザによる入力デバイス120の操作に従って、印加節点設定部152によって、電気回路ECにおけるノイズ印加節点が設定されうる。図6Aには、抵抗RとインダクタLとを接続する節点がノイズ印加節点として設定された例が示されている。工程S300では、ユーザによる入力デバイス120の操作に従って、観察節点設定部153によって、電気回路ECにおける観察節点が設定されてもよい。図6Bには、抵抗RとインダクタLとを接続する節点が観察節点Nm1として設定された例が示されている。図6A、6Bに示された例では、ノイズ印加節点に対してノイズ源としての電圧源Vnが接続されているが、ノイズ印加節点に対してノイズ源としての電流源が追加されてもよい。ノイズ源としての電流源の追加は、その電流源によって流される電流がノイズ印加節点を流れるようになされうる。
【0024】
工程S301では、変換部151によって、電気回路ECを構成する各回路素子が予め設定された変換ルールに従って回路素子モデル(等価回路モデル)に変換されうる。ここで、図7A図7B図7Cには、それぞれ抵抗R、キャパシタC、インダクタLを回路素子モデルに変換する変換ルールが例示されている。この変換によって、例えば、図5に例示された電気回路ECが図8に例示された電気回路EC’に変換されうる。電気回路EC’は、電気回路ECの等価回路である。
【0025】
工程S302では、変換部151によって、電気回路ECの構成を示す回路構成データ10から、例えば修正節点解析法(MNA)等に従って、行列表現の方程式が構築されうる。図9には、工程S302において構築されうる行列表現の方程式のひな型が例示されている。G11~Gnnを要素とする行列は、コンダクタンス行列である。なお、コンダクタンスの値は、抵抗の値の逆数である。コンダクタンスGは、抵抗Rに対応し(Rの値の逆数)、コンダクタンスGは、抵抗Rに対応する(Rの値の逆数)。x~xは、変数ベクトルであり、節点N~N(例えば、N、N、N、N)の電圧値、または、電圧源(例えば、Vin、V)の電流値(例えば、Ivin、IVL)でありうる。A~Aは、入力ベクトルであり、電圧源(例えば、Vin、V)または電流源(例えば、I)でありうる。ここで、図10に例示されるように節点N~Nを決定し、図10に例示されるスタンプルールに従って、回路素子ごとに、コンダクタンス行列の要素および入力ベクトルの要素が決定されうる。各回路素子の定数は、特定の数値ではなく、変数として扱われ、コンダクタンス行列の要素は、その変数とされる。このようにして、図11に例示される行列表現の方程式が構築されうる。
【0026】
工程S303では、変換部151によって、工程S302で構築された行列表現の方程式が図12に例示されるように操作されうる。この操作には、例えば、ガウス消去法が適用されうる。すなわち、コンダクタンス行列と入力ベクトルを連結した行列が作成され、コンダクタンス行列が単位行列となるように操作を行うことによって、入力ベクトルとして、求めるべき電気信号の値を計算するための数式が得られる。図13には、行列操作の結果が例示されている。
【0027】
工程S304では、変換部151によって、工程S303で得られた数式から、プロセッサ200に組み込むべき数式が抽出される。抽出対象の数式には、電気回路ECの出力端子に現れる電気信号の値を与える数式の他、工程S300において観察節点設定部153によって設定された観察節点に現れる電気信号の値を与える数式が含まれうる。図14には、工程S304において抽出されうる数式が例示されている。
【0028】
工程S300において印加節点設定部152によってノイズ印加節点が設定された場合には、工程S306において、そのノイズ印加節点の電気信号の値を計算するための数式も抽出されうる。これによって、生成される回路計算データ20には、ノイズ印加節点に対してノイズを与えるための入力端子が加えられる。これは、検証動作において、シミュレーション実行装置300が、プロセッサ200に構築された仮想的な電気回路におけるノイズ印加節点に対して、ノイズを与えることを可能にする。
【0029】
工程S304では、温度に依存した電気回路ECのシミュレーションを可能にするために、回路素子の定数を設定するための変数に対して、温度に依存した値を与えるための数式が構築されてもよい。例えば、抵抗Rの抵抗値を示す変数Rに関しては、R=R’(1+dT×kr1)、キャパシタCのキャパシタンス値を示す変数Cに関しては、C=C’(1+dT×kc1)、インダクタLのインダクタンス値を示す変数Lに関しては、L=L’(1+dT×kl1)という数式が構築されうる。ここで、R’は、基準温度Tにおける抵抗Rの抵抗値を示す変数、dTは、基準温度Tとシミュレーションを実行する温度T’との差分(T-T’)を示す変数、kr1、kc1、Kl1は、温度係数を示す変数である。R’、C’、L’、kr1、kc1、Kl1は、検証作業において、シミュレーション実行装置300がプロセッサ200に温度に関する情報を与えることを可能にする。工程S304では、キャパシタCから変換された抵抗Rcの両端の電位差VcからキャパシタCを流れる電流Iを求める数式、例えば、I=G等が構築されてもよい。
【0030】
工程S306では、変換部151によって、工程S304で抽出された数式および工程S305で構築された数式を含む数式群を含む回路計算データ20が生成される。回路計算データ20の数式群は、回路素子の定数等が引数群として与えられる第1変数群、および、入力端子群に与えられる入力信号群が引数群として与えられる第2変数群、を変数群とする関数群である。すなわち、回路計算データ20の数式群は、変数群に与えられる引数群に従った関数値を戻り値として提供する。工程S307では、変換部151によって、工程S306で生成された回路計算データ20が、情報処理装置100から、例えば、プロセッサ200、シミュレーション実行装置300または他の装置に出力されうる。例えば、情報処理装置100は、回路計算データ20をプロセッサ200に組み込むように動作しうる。あるいは、情報処理装置100から回路計算データ20を受け取ったシミュレーション実行装置300または他の装置は、回路計算データ20をプロセッサ200に組み込むように動作しうる。
【0031】
回路計算データ20の数式群は、変数群に対して与えられる引数群と入力端子群に対して与えられる入力信号群とに対応する出力信号群を発生する。該引数群は、電気回路ECを構成する各回路素子の特性を示す定数(例えば、R’、C’、L’)、温度に関する値(例えば、T,T’)、各回路素子の温度係数(例えば、kr1、kc1、Kl1)を含みうる。該引数群のそれぞれの値は、検証作業において、シミュレーション実行装置300によってプロセッサ200に供給される。したがって、例えば、電気回路ECを構成する各回路素子の特性を示す定数(例えば、R’、C’、L’)の値を変更しながら検証作業を実行する場合、各値について回路計算データ20を生成しプロセッサ200に組み込む必要はなく、シミュレーション実行装置300によってプロセッサ200に与える引数群(数値)を変更するだけでよい。
【0032】
図15には、シミュレーションシステム1におけるシミュレーション方法の実行手順が例示されている。工程S1601、S1602、S1603は、情報処理装置100によって実行され、工程S1601、S1602は、図4の工程S300に相当する。工程S1603(変換工程)は、図4の工程S301~S306に相当する。工程S1604(組込工程)は、図4の工程S307に相当する。
【0033】
工程S1605、S1606、S1607は、シミュレーション実行装置300によって制御されうる。工程S1605では、シミュレーション実行装置300は、プロセッサ200に組み込まれた回路計算データ20の変数群に対して引数群を与える。工程S1606では、シミュレーション実行装置300は、シミュレーション実行装置300は、プロセッサ200を動作させ、シミュレーションを実行する。この際に、装置210からプロセッサ200(電気回路ECの入力端子に対応して構築される仮想的な端子)に信号群が供給され、プロセッサ200(電気回路ECの出力端子に対応して構築される仮想的な端子)から装置220に信号群が供給されうる。あるいは、装置210からプロセッサ200に信号群が供給され、プロセッサ200から装置210に信号群が供給されてもよい。また、装置220からプロセッサ200に信号群が供給され、プロセッサ200から装置220に信号群が供給されてもよい。シミュレーション実行装置300は、プロセッサ200から信号群を取り込んでもよい。
【0034】
工程S1605では、シミュレーション実行装置300は、プロセッサ200によって構築される、電気回路ECに対応する仮想的な電気回路のノイズ印加節点に対して任意のノイズを与えることもできる。また、工程S1605では、観察節点の電気信号を観察することができる。
【0035】
工程S1607では、シミュレーション実行装置300は、引数群の少なくとも1つを変更してシミュレーションを再実行するかどうかを判断し、再実行する場合には、工程S1605に戻り、プロセッサ200に組み込まれた回路計算データ20の変数群に対して与える引数群を再設定して、工程S1606を再実行する。工程S1605およびS1606を含む処理の繰り返しにおいて、プロセッサ200に回路計算データ20が新たに組み込まれる必要はない。
【0036】
他の観点で説明をすると、シミュレーション実行装置300は、以下で説明される第1動作を実行した後に第2動作を実行しうる。該第1動作では、シミュレーション実行装置300は、プロセッサ200に組み込まれた回路計算データ20の変数群に対して第1引数群を与えて、該第1引数群と、装置210からの入力信号群とに対応する第1出力信号群をプロセッサ200に発生させる。該第2動作では、シミュレーション実行装置300は、プロセッサ200に組み込まれた回路計算データ20の変数群に対して該第1引数群とは異なる第2引数群を与えて、該第2引数群と、装置210からの入力信号群とに対応する第2出力信号群をプロセッサ200に発生させる。ここで、該第1動作と該第2動作との間において、プロセッサ200に回路計算データ20が新たに組み込まれることはない。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、回路素子の特性を示す定数等を含む引数群を外部(シミュレーション実行装置300)から設定可能な回路計算データ20をプロセッサ200に組み込んで、引数群を自由に変更しながらシミュレーションを実行することができる。したがって、本実施形態によれば、検証作業に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0038】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
EC:電気回路、10:回路構成データ、20:回路計算データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15