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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 29/00 20060101AFI20220308BHJP
   B25J 13/00 20060101ALI20220308BHJP
   B24B 27/00 20060101ALI20220308BHJP
   B23Q 3/12 20060101ALI20220308BHJP
   B23B 31/02 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B24B29/00 J
B25J13/00 Z
B24B27/00 A
B24B29/00 E
B23Q3/12 A
B23B31/02 601A
B23B31/02 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017157838
(22)【出願日】2017-08-18
(65)【公開番号】P2019034381
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100116920
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 光
(72)【発明者】
【氏名】林 浩一郎
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-322966(JP,A)
【文献】特開2014-079850(JP,A)
【文献】特開平07-040253(JP,A)
【文献】特開2003-103448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/00、29/00
B25J 13/00
B24B 27/00
B23Q 3/12
B23B 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工装置のロボットアームを用いて加工具を移動させて被加工物を加工する加工方法であって、
前記加工具として、加工部の中間位置を拘束部により拘束し前記拘束部を前記加工部に対し移動可能とし前記拘束部の移動により前記加工部の拘束位置を変更可能としたものを用い、前記拘束部と前記加工部を相対的に移動させ、前記拘束部の拘束位置から突出する前記加工部の突出長を調整する調整工程と、
前記加工部の突出長を調整した前記加工具を用いて前記被加工物を加工する加工工程と、を含み、
前記ロボットアームは、複数のリンク及び複数の関節部を有し、前記加工具に作用する外力を検出するセンサを有し、
前記加工装置は、前記ロボットアームを作動させて前記加工具の位置制御及び姿勢制御を行う制御部を備え、
前記調整工程において、前記センサの外力検知及び前記関節部の角度に基づき前記制御部によって前記加工部の先端位置及び外部物の当接位置を認識しておき、前記拘束部を前記外部物に当接させた状態で前記加工具を当接させた方向へ移動させることにより前記拘束部と前記加工部を相対的に移動させ、前記加工部の突出長を所望の長さに調整する、
加工方法。
【請求項2】
前記加工具の前記加工部が複数の線材を束ねて構成されるブラシである、
請求項1に記載の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の加工を行う加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工物(ワーク)の加工を行う加工方法として、例えば、特開2015-139831号公報に記載されるように、加工具をワークの表面に沿って移動させ、ワークの表面を研磨する加工方法が知られている。この加工方法は、ロボットアームを備えた研磨ロボットを用い、加工具を回転させながら予め設定された軌道に沿って加工具を移動させ、ワークの表面を研磨する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-139831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した加工方法においては、適切な加工が行えない場合がある。例えば、加工により加工具が摩耗する場合、加工具の長さが変わることとなる。このため、加工具の摩耗が大きくなると、加工状態が変化し、所望の加工を行うことが難しくなる。
【0005】
そこで、加工により加工具が摩耗しても適切な加工が行える加工方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る加工方法は、加工装置のロボットアームを用いて加工具を移動させて被加工物を加工する加工方法であって、加工具として加工部の中間位置を拘束部により拘束し拘束部を加工部に対し移動可能とし拘束部の移動により加工部の拘束位置を変更可能としたものを用い、拘束部と加工部を相対的に移動させ、拘束部の拘束位置から突出する加工部の突出長を調整する調整工程と、加工部の突出長を調整した加工具を用いて被加工物を加工する加工工程とを含み、ロボットアームは、複数のリンク及び複数の関節部を有し、加工具に作用する外力を検出するセンサを有し、加工装置はロボットアームを作動させて加工具の位置制御及び姿勢制御を行う制御部を備え、調整工程において、センサの外力検知及び関節部の角度に基づき制御部によって加工部の先端位置及び外部物の当接位置を認識しておき、拘束部を外部物に当接させた状態で加工具を当接させた方向へ移動させることにより拘束部と加工部を相対的に移動させ、加工部の突出長を所望の長さに調整する。この加工方法によれば、拘束部の移動により加工部の拘束位置を変更可能とした加工具を用いて被加工物を加工するにあたり、被加工物の加工による加工部の摩耗量に応じて加工具の拘束部を移動させ、拘束部の拘束位置から突出する加工部の突出長を調整する。このため、拘束部を移動させることにより加工部の突出長の調整が行える。従って、加工に適した加工部の突出長にて被加工物の加工が行え、加工によって加工具が摩耗しても適切な加工が行える。また、この加工方法によれば、調整工程にて、拘束部を外部物に当接させた状態で加工具を当接させた方向へ移動させることにより、拘束部を加工部に対し移動させる。このため、加工装置による拘束部の移動が容易に行える。
【0008】
また、本発明の一態様に係る加工方法において、加工具の加工部が複数の線材を束ねて構成されるブラシであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加工により加工具が摩耗しても適切な加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る加工方法に用いられる加工装置の構成概要図である。
図2図1の加工装置における加工具の斜視図である。
図3図1の加工装置における加工具を示す図である。
図4】実施形態に係る加工方法の一例を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る加工方法における加工具の端面生成の説明図である。
図6】実施形態に係る加工方法における加工具の面取りの説明図である。
図7】実施形態に係る加工方法における加工具の位置設定の説明図である。
図8】実施形態に係る加工方法における加工具の突出長の調整の説明図である。
図9】実施形態に係る加工方法におけるワークの加工の説明図である。
図10】実施形態に係る加工方法における加工具の位置設定の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る加工方法に用いられる加工装置1の構成概要図である。図1に示されるように、加工装置1は、加工具2を回転させてワークWの加工を行う自動加工機である。ワークWは、加工装置1により加工される被加工物であり、保持台91に固定されて保持される。ワークWとしてはあらゆる部品を適用することができる。ワークWの例としては、金型、エンジン構成部品など挙げられる。加工装置1は、ワークWの角部の面取り加工やバリ切削加工に適している。また、保持台91には、成形砥石92が取り付けられている。成形砥石92は、加工具2のブラシ22の成形に用いられる。この成形の詳細については、後述する。
【0013】
加工装置1は、加工具2の位置及び姿勢の調整を行うロボットアーム3を備えている。ロボットアーム3は、加工具2を用いて加工を実行する加工実行部として機能する。ロボットアーム3は、複数のリンク部31~34及び複数の関節部35~37を有し、加工具2の位置及び姿勢を変更可能に構成されている。リンク部31~34は、軸方向に延びる棒状の部材である。リンク部31は鉛直方向に向けられ、その基端側がベース部材38の上面に取り付けられている。リンク部31は、このリンク部31の軸線を中心に回転可能に構成されている。リンク部31の先端側には、関節部35を介してリンク部32が取り付けられている。関節部35は、水平方向の軸線を中心に回転可能に構成されている。関節部35の回転動作により、リンク部32が関節部35の回転軸を中心に回転する。
【0014】
リンク部32の先端側には、関節部36を介してリンク部33が取り付けられている。関節部36は、水平方向の軸線を中心に回転可能に構成されている。関節部36の回転動作により、リンク部33が関節部36の回転軸を中心に回転する。リンク部33は、このリンク部33の軸線を中心に回転可能に構成されている。リンク部33の先端側には、関節部37を介してリンク部34が取り付けられている。関節部37は、水平方向の軸線を中心に回転可能に構成されている。関節部37の回転動作により、リンク部34が関節部37の回転軸を中心に回転する。リンク部34は、このリンク部34の軸線を中心に回転可能に構成されている。
【0015】
リンク部34の先端側には、スピンドルモータ4が取り付けられている。スピンドルモータ4は、加工具2を回転させる回転部として機能する。なお、加工装置1の回転部としては、加工具2を回転させることができれば、スピンドルモータ4以外のものを用いてもよく、例えばスピンドルとモータが別体に構成されたものを用いることができる。
【0016】
スピンドルモータ4の先端側には、加工具2が取り付けられている。加工具2は、ワークWに当接されて回転して、ワークWを加工する部材である。この加工具2の詳細については、後述する。
【0017】
スピンドルモータ4の基端側には、力覚センサ5が取り付けられている。力覚センサ5は、加工具2に作用する外力を検出するセンサである。力覚センサ5は、当該力覚センサ5よりも先端側の部分に作用する外力を検出する。力覚センサ5としては、例えば直交三軸方向の力と各軸回りのトルクを計測可能な六軸センサが用いられる。このため、力覚センサ5は、加工具2に作用する六自由度の外力と三軸回りのトルクを検出することができる。なお、外力を検出する力センサは、加工具2に作用する外力が検出できるものであれば、力覚センサ5以外のセンサを用いてもよい。
【0018】
加工装置1は、制御部6を備えている。制御部6は、加工装置1の加工制御を行う制御ユニットである。制御部6は、例えば、一つのコンピュータ又は電子制御ユニットにより構成されていてもよいし、パーソナルコンピュータ及びコントローラにより構成してもよい。制御部6において、加工具2の目標加工データが入力されることにより、ワークWの加工における加工具2の移動の目標軌道が設定される。制御部6は、スピンドルモータ4に制御信号を出力して、スピンドルモータ4を回転させ加工具2を回転させる。この状態で、制御部6は、ロボットアーム3を作動させて目標軌道に従って加工具2を移動させ、ワークWの加工を行わせる。
【0019】
制御部6は、加工具2における端面成形(図5参照)、加工具2の面取り(図6参照)、調整後の加工具2の位置認識(図7参照)、加工具2のブラシ22の突出長の調整(図8参照)などにおける加工具2の移動制御及び姿勢制御、並びに、加工具2の回転制御について、ロボットアーム3を作動させて制御する。
【0020】
図1に示すように、制御部6は、ロボットアーム3と電気的に接続され、関節部35~37及びリンク部31、33、34に対し制御信号を出力して関節部35~37及びリンク部31、33、34の回転動作を調整する。また、制御部6は、関節部35~37及びリンク部31、33、34の回転情報を入力し、関節部35~37及びリンク部31、33、34の回転状態を認識する。制御部6は、力覚センサ5と電気的に接続され、力覚センサ5の検知信号を入力し、加工具2の押付力を認識する。
【0021】
加工装置1は、例えば、加工具2の力制御及び位置制御により、ワークWの加工を行う。制御部6は、設定された押付力で加工具2がワークWを押し付けるようにロボットアーム3を作動させて力制御を行う。上述したように制御部6には力覚センサ5の検知信号により加工具2の実際の押付力が入力されるため、押付力のフィードバック制御が可能である。また、制御部6は、加工具2の進行方向に対して位置制御を行う。例えば、ワークWの角部の面取り加工する場合、制御部6にはワークWの角部に沿って目標軌道が設定される。これにより、制御部6は、ワークWの角部に沿って加工具2が移動するようにロボットアーム3を作動させて、加工具2の位置制御を行う。
【0022】
図2は加工具2の斜視図であり、図3は加工具2の側方から見た断面図である。図2に示すように、加工具2は、スピンドルモータ4の先端に取り付けられ、スピンドルモータ4の回転に応じて回転する。加工具2は、研磨ブラシ又は砥石ブラシなどと称される加工具であり、ワークWのバリ取り、面取り、研磨などの加工に用いられる。加工具2は、スリーブ21、ブラシ22及び保持部23を備えている。ブラシ22は、ワークWに当接されて加工を行う加工部である。ブラシ22は、複数の線材を束ねて構成されている。線材としては、例えばセラミックスの線状体が用いられる。なお、線材として、他の材料の線状体を用いられてもよい。保持部23は、棒状の部材であり、ブラシ22の基端を保持している。例えば、保持部23の基端側はスピンドルモータ4に取り付けられ、保持部23の先端側はブラシ22を取り付けて保持している。スリーブ21は、ブラシ22の中間位置を拘束する拘束部として機能する部位である。例えば、スリーブ21は、ブラシ22及び保持部23を挿通させて設けられる筒体であり、ブラシ22及び保持部23に対し相対的に移動可能に設けられている。
【0023】
図3に示すように、スリーブ21の内周には、周方向へ延びる複数の溝21bが形成されている。溝21bは、軸方向へ複数並設されている。保持部23には、外周面から突出する突起23aが設けられている。突起23aは、スリーブ21の溝21b内に入り込み、保持部23に対しスリーブ21が容易に移動しないように掛止する。突起23aは、保持部23の径方向に形成される孔23cに挿通され、バネ23bにより保持部23の外側へ付勢されている。このため、突起23aは、溝21bに掛け止められた状態でスリーブ21が軸方向へ移動する力が加えられると、バネ23bの付勢に抗して孔23cの内側へ押し込まれ、スリーブ21の移動を許容する。突起23aが異なる溝21bに入り込むことにより、スリーブ21は異なる位置で保持される。つまり、スリーブ21は、保持部23及びブラシ22に対し軸方向へ移動し、移動した位置において保持される。このように、突起23a及び溝21bが形成されることにより、スリーブ21の保持部23及びブラシ22に対する移動が可能となり、スリーブ21が容易に移動しないように保持することが可能となっている。なお、スリーブ21の取付構造は、上述した構造に限られるものでなく、スリーブ21がブラシ22に対し相対的に移動可能であり移動した位置で保持される構造であれば、他の取付構造を用いてもよい。
【0024】
スリーブ21の端部には、開口21aが形成されている。開口21aは、ブラシ22を拘束するための孔である。開口21aは、スリーブ21の端面に形成され、例えば円形の形状とされる。保持部23に取り付けられたブラシ22は、開口21aに挿通されてスリーブ21から突出して設けられている。開口21aは、ブラシ22の中間位置に位置している。このため、スリーブ21は、ブラシ22の中間位置を拘束している。スリーブ21がブラシ22を拘束することにより、複数の線材により構成されるブラシ22の広がりが抑制され、ワークWの加工を安定させることができる。言い換えれば、このワークWの安定した加工を行うためには、スリーブ21に対するブラシ22の突出長L(図2参照)を一定に維持することが望ましい。ブラシ22は、ワークWの加工を行うことにより摩耗する工具である。すなわち、ブラシ22の先端はワークWの加工により摩耗し、ブラシ22の突出長Lは徐々に短くなる。このため、ブラシ22が摩耗したら、スリーブ21をブラシ22に対し移動させて拘束位置を変えることにより、ブラシ22を交換することなく、ブラシ22の突出長Lを加工前の長さに戻すことができる。これにより、安定した加工が行えることとなる。
【0025】
次に、本実施形態に係る加工方法について詳細に説明する。
【0026】
図4は、本実施形態に係る加工方法の一例を示すフローチャートである。この加工方法は、上述した加工装置1により加工具2を用いてワークWを加工する方法であり、ワークWの加工工程のほか、加工具2の調整などの工程を含んでいる。加工方法の各工程は、例えば加工装置1により実行される。
【0027】
まず、ステップS10に示すように、加工具2の端面成形が行われる。この端面成形は、加工具2のブラシ22の先端の端面を平坦に成形する工程であり、ワークWの加工前の準備工程である。図5に示すように、制御部6の制御信号に従ってロボットアーム3が作動し、加工具2が成形砥石92の上方に移動される。そして、加工具2は、ブラシ22の先端が成形砥石92の表面に向くように移動される。この状態で加工具2は回転させられ、ブラシ22の先端が一定の押付力で成形砥石92に押し付けられる。これにより、ブラシ22の先端面が研磨されて平坦となり、ワークWの加工に適した状態となる。また、ワークWの加工に応じて、図6に示すように、ブラシ22の角部の面取りを行ってもよい。例えば、制御部6の制御信号に従ってロボットアーム3が作動し、加工具2が成形砥石92の上方に移動される。そして、成形砥石92の上面に対し加工具2が斜めとなるようにロボットアーム3が作動され、その状態で加工具2のブラシ22が成形砥石92に当接される。このようにブラシ22の面取りを行うことにより、窪みのあるワークWの表面や凹凸のあるワークWの表面を円滑な形状に研磨又は切削することが可能となる。なお、ワークWの加工前にすでに加工具2の端面成形が行われている場合には、このステップS10の端面成形の工程を省略する場合もある。
【0028】
そして、図4のステップS12に示すように、加工具2の工具中心位置TCP(Tool Center Point)の設定が行われる。この工具中心位置TCPの設定は、先に行われたワークWの加工によりブラシ22の先端が摩耗した場合、工具中心位置TCPの校正として行われる。工具中心位置TCPの設定は、例えば、図7に示すように、加工具2のブラシ22の先端を基準面95に突き当てた状態とし、制御部6により工具中心位置TCPのXYZ座標値を設定し、ブラシ22の先端位置のXYZ座標値を認識しておく。このように工具中心位置TCPのXYZ座標値を設定し、ブラシ22の先端位置のXYZ座標値を認識することにより、加工具2の突出長の調整するための加工具2の移動の軌道の設定が円滑に行える。
【0029】
次に、図4のステップS14に示すように、加工具2の突出長の調整が行われる。この調整工程は、加工具2のブラシ22の突出長Lを調整する工程であり、ワークWの加工前の準備工程である。図8に示すように、ブラシ22は、スリーブ21から突出して設けられている。ブラシ22の突出長Lは、加工具2による加工状態に影響を与えるため、加工内容に応じて適した長さに調整される。例えば、制御部6の制御信号に従ってロボットアーム3が作動し、加工具2がワークWの近傍位置に移動される。そして、ワークWの隅部の上面にスリーブ21が掛止された状態で加工具2が下方へ押し下げられる。すなわち、ワークWの隅部の上面にスリーブ21が掛止され、その状態でスリーブ21以外の加工具2の部分、つまりブラシ22及び保持部23が下方へ移動される。これにより、加工具2において、ブラシ22に対しスリーブ21が基端側へ相対的に移動する。従って、ブラシ22の突出長Lを長くすることができる。このとき、制御部6は、ブラシ22の先端位置及びワークWの上面位置を認識することにより、ブラシ22の突出長Lを所望の長さに調整することが可能である。なお、ここでは、ワークWの隅部にスリーブ21を掛止させてブラシ22の突出長Lを調整する場合について説明したが、スリーブ21を掛止させる物は、加工装置1の外部物であればワークW以外の物であってもよく、例えば治具などであってもよい。なお、ワークWの加工前にすでに加工具2の突出長の調整が行われている場合には、このステップS14の調整工程を省略する場合もある。
【0030】
そして、図4のステップS16に示すように、ワークWの加工が行われる。この加工工程は、加工具2を用いてワークWを加工する工程である。例えば、制御部6の制御信号に従ってロボットアーム3が作動し、加工具2が回転しながら予め設定された目標軌道に従って移動する。図9に示すように、加工具2のブラシ22がワークWの表面に突き当たられた状態で回転する。これにより、ワークWの表面のバリが削除され、ワークWの角部の面取りが行われ、又はワークWの表面が研磨される。
【0031】
このとき、ブラシ22の先端は、加工により徐々に摩耗していく。このため、ブラシ22の先端位置と工具中心位置TCPが所定以上にずれを生じた場合、上述したS10~14の処理を加工工程の途中に順次行ってもよい。また、加工工程の途中にS14の突出長の調整を行った後、S12の工具中心位置TCPの調整を行ってもよい。この場合、工具中心位置TCPの調整は、以下の通りに行えばよい。例えば、図10に示すように、まず、加工具2のブラシ22の先端を基準面95に突き当てた状態とする。具体的には、加工具2を基準面95に低速で接近させ、加工具2の先端が基準面95に接触したことを力覚センサ5で検知して停止させる。この時のロボットアーム3の各関節部35~37の角度と加工前においてブラシ22の先端を基準面95に突き当てた時のロボットアーム3の各関節部35~37の角度との差に基づいて、ブラシ22の先端位置のXYZ座標値の変動量を算出する。そして、ブラシ22の先端位置のXYZ座標値が加工前のXYZ座標値と所定値以上に異なっている場合には、工具中心位置TCPのXYZ座標値の再設定が行われる。つまり、図10のように加工具2のブラシ22の先端が基準面95に突き当てられた状態において、加工前にはブラシ22の先端位置のXYZ座標値が(0、0、0)であったのに対し、加工後においてはブラシ22の先端位置のXYZ座標値が(0、0、-3)であった場合、加工によりブラシ22が3mm摩耗したため、ブラシ22の先端位置のXYZ座標値にずれを生じている。このため、ブラシ22の先端位置のXYZ座標値を(0、0、0)として再設定することにより、制御部6においてブラシ22の先端位置を正しく認識することができる。なお、工具中心位置TCPの校正(再設定)は、上述した方法に限定されるものでなく、接触センサにより加工具2の接触を検出する方法などを用いてもよい。そして、図4のS16の加工工程を終えたら、ワークWの加工を終了する。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る加工方法によれば、ワークWの加工によりブラシ22が摩耗する加工具2を用いて加工するにあたり、ワークWの加工によるブラシ22の摩耗量に応じて加工具2のスリーブ21を移動させ、スリーブ21の拘束位置から突出するブラシ22の突出長Lを調整する。このため、スリーブ21を移動させることによりブラシ22の突出長Lの調整が行える。従って、加工に適したブラシ22の突出長LにてワークWの加工が行え、加工によって加工具2が摩耗しても適切な加工が行える。
【0033】
また、本実施形態に係る加工方法によれば、加工によりブラシ22が摩耗した場合であっても加工具2を交換することなくブラシ22の突出長Lを延ばすことができる。このため、効率良く加工が行える。
【0034】
また、本実施形態に係る加工方法によれば、スリーブ21を外部物に当接させた状態で加工具2を当接させた方向へ移動させることでスリーブ21を移動させることができる。このため、自動で加工を行う加工装置1を用いてスリーブ21の移動が容易に行える。
【0035】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではない。本発明は、特許請求の範囲の記載の要旨を逸脱しない範囲で様々な変形態様を取ることができる。
【0036】
例えば、上述の実施形態では、加工実行部としてロボットアーム3を用いる場合について説明したが、加工具2の位置及び姿勢の調整を行い、加工具2を用いて加工を実行できるものであれば、ロボットアーム3以外の機構や機器などを用いてもよい。具体的には、関節部及びリンク部の設置数の異なるロボットアーム又はマニピュレータを用いてもよいし、加工具2を回転させながら目標軌道に沿って移動させ力制御可能な工作機械などを用いてもよい。
【0037】
また、本実施形態では、加工具2としてブラシを用いる場合について説明したが、加工により摩耗する加工具であれば、ゴム砥石など他の加工具を用いてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 加工装置
2 加工具
3 ロボットアーム
4 スピンドルモータ
5 力覚センサ
6 制御部
21 スリーブ(拘束部)
22 ブラシ(加工部)
W ワーク(被加工物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10