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特許7035383リング状部材の研削装置および研削方法、並びに、ラジアル軸受の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】リング状部材の研削装置および研削方法、並びに、ラジアル軸受の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 5/18 20060101AFI20220308BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20220308BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20220308BHJP
   F16C 19/04 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B24B5/18 D
B24B41/06 J
F16C33/64
F16C19/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017168178
(22)【出願日】2017-09-01
(65)【公開番号】P2019042864
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】毛利 英司
(72)【発明者】
【氏名】大坂 剛士
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-213398(JP,A)
【文献】特開2014-034071(JP,A)
【文献】米国特許第06148248(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 5/18
B24B 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のリング状部材を回転駆動するための回転駆動軸と、
前記リング状部材の外周面を研削するために、該リング状部材の外周面に対して押し付けられる砥石と、
前記リング状部材の外周面のうち、前記砥石により研削される部分から円周方向に外れた部分をそれぞれ支持する1対のシューとを備え、
前記リング状部材の外周面を前記砥石により研削する際に、前記リング状部材に対し、該リング状部材の外周面を、前記1対のシューのうちで前記砥石に近い側の第1のシューに向けて押し付ける方向のモーメントを作用させており、
前記1対のシューのうちで前記砥石から遠い側の第2のシューの径方向内側面のうち、前記第1のシューから遠い側の端部から前記リング状部材に加わる力が、前記第1のシューに近い側の端部から前記リング状部材に加わる力よりも大きくなっている、
リング状部材の研削装置。
【請求項2】
前記第2のシューが、前記回転駆動軸と平行に配置された揺動軸を中心とする揺動が可能となっており、
前記揺動軸が、前記第2のシューの円周方向中央位置よりも、円周方向に関して前記第1のシューから遠い側に位置している、
請求項に記載のリング状部材の研削装置。
【請求項3】
前記第2のシューが、径方向内側面の円周方向両端部に、径方向内方に突出した1対のワーク支持部を有する、請求項またはに記載のリング状部材の研削装置。
【請求項4】
請求項1~のうちの何れか1項に記載のリング状部材の研削装置を使用するリング状部材の研削方法であって、
前記1対のシューにより前記リング状部材の径方向に関する位置決めを図った状態で、前記回転駆動軸を回転駆動することで、前記リング状部材を回転駆動させながら、該リング状部材の外周面に前記砥石を押し付けることにより、前記リング状部材の外周面を研削する、リング状部材の研削方法。
【請求項5】
ラジアル軸受を構成する何れかの部材の外周面を、請求項に記載のリング状部材の研削方法により研削する、
ラジアル軸受の製造方法。
【請求項6】
前記ラジアル軸受が、外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備えるラジアル転がり軸受であり、
前記何れかの部材が、前記内輪または前記外輪である、
請求項に記載のラジアル軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ラジアル転がり軸受を構成する内輪など、金属製のリング状部材の外周面に研削加工を施すための研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジアル転がり軸受を構成する内輪の内輪軌道や外輪の外周面、滑り軸受の外周面、円筒状の嵌合面など、金属製のリング状部材の外周面には、面精度や表面粗さを向上させるために、研削加工が施される。図5および図6は、特開2004-195651号公報に記載されている、研削装置1の構造を示している。研削装置1は、リング状部材6の外周面に、リング状部材6の内周面を支持したり、外周面をチャックにより把持したりすることなく、研削加工を施すことができるいわゆる芯なし研削盤である。このような研削装置1は、先端部にバッキングプレート2を有する回転駆動軸3と、該回転駆動軸3と平行な回転軸4を有する砥石5と、被加工物(ワーク)である金属製のリング状部材6の径方向に関する位置決めを図るための1対のシュー7a、7bとを備える。
【0003】
リング状部材6の外周面に研削加工を施す際には、リング状部材6をバッキングプレート2の先端面に支持するとともに、リング状部材6の外周面に1対のシュー7a、7bの先端部を接触させることにより、リング状部材6の径方向に関する位置決めを図る。この状態で、回転駆動軸3を回転駆動することにより、リング状部材6を回転駆動させながら、回転軸4を中心に回転する砥石5の外周面である研削面8を、リング状部材6の外周面に押し付けることにより、リング状部材6の外周面を研削する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-195651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
芯なし研削では、砥石5をリング状部材6の外周面に押し付けることにより、リング状部材6が、図7(A)に示す状態から、図7(B)に誇張して示すように楕円形に弾性変形する。このような弾性変形は、リング状部材6の径方向に関する剛性が小さいほど顕著になる。リング状部材6が弾性変形すると、1対のシュー7a、7bのうち、砥石5の押し付け方向に関して該砥石5に近い側の第1のシュー7aの先端面と、リング状部材6の外周面との接触圧が小さくなり、著しい場合には第1のシュー7aの先端面とリング状部材6の外周面とが離れてしまう。研削加工中に、第1のシュー7aの先端面と、リング状部材6の外周面との接触圧が小さくなると、リング状部材6の姿勢が不安定になって、リング状部材6の外周面にビビリが発生する可能性がある。
【0006】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、リング状部材の外周面にビビリが発生するのを有効に防止することができる手段を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリング状部材の研削装置は、金属製のリング状部材の外周面に研削加工を施すためのものであって、回転駆動軸と、砥石と、1対のシューとを備える。
前記回転駆動軸は、前記リング状部材を回転駆動するためのものである。
前記砥石は、前記リング状部材の外周面を研削するために、該リング状部材の外周面に押し付けられる。
前記1対のシューは、前記リング状部材の外周面のうち、前記砥石により研削される部分から円周方向に外れた部分をそれぞれ支持する。
前記リング状部材の外周面を前記砥石により研削する際に、前記リング状部材に対し、該リング状部材の外周面を、前記1対のシューのうちで前記砥石に近い側の第1のシューに向けて押し付ける方向のモーメントを作用させる。
【0008】
前記1対のシューのうちで前記砥石から遠い側の第2のシューの径方向内側面うち、前記第1のシューから遠い側の端部から前記リング状部材に加わる力を、前記第1のシューに近い側の端部から前記リング状部材に加わる力よりも大きくすることができる。
【0009】
前記第2のシューを、前記回転駆動軸と平行に配置された揺動軸を中心とする揺動が可能なものとし、前記揺動軸を、前記第2のシューの円周方向中央位置よりも、円周方向に関して前記第1のシューから遠い側に位置させることができる。
【0010】
前記第2のシューを、径方向内側面の円周方向両端部に、径方向内方に突出した1対のワーク支持部を有するものとすることができる。
【0011】
本発明のリング状部材の研削装置を使用する、本発明のリング状部材の研削方法は、前記1対のシューにより前記リング状部材の径方向に関する位置決めを図った状態で、前記回転駆動軸を回転駆動することで、前記リング状部材を回転駆動させながら、該リング状部材の外周面に前記砥石を押し付けることにより、前記リング状部材の外周面を研削する。
【0012】
本発明のラジアル軸受の製造方法は、ラジアル軸受を構成する何れかの部材の外周面を、上述のような本発明のリング状部材の研削方法により研削する。具体的には、前記ラジアル軸受を、外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備えるラジアル転がり軸受とし、前記何れかの部材を前記内輪または前記外輪とする。なお、本発明の対象となり得るラジアル転がり軸受には、深溝型やアンギュラ型などの玉軸受に限らず、円筒ころ軸受や円すいころ軸受なども含まれる。あるいは、前記ラジアル軸受を、ラジアル滑り軸受とすることもできる。このような本発明のラジアル軸受の製造方法により得られるラジアル軸受は、自動車や工作機械などの各種機械装置に組み込んで使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リング状部材の外周面にビビリが発生するのを有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例を示す側面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態の第2例を示す側面図である。
図3図3は、比較例の研削装置の構造を示す側面図である。
図4図4(A)は、実施例のリング状部材の外周面の断面形状を、最小二乗平均円に対する誤差の大きさで表した図であり、図4(B)は、比較例のリング状部材の外周面の断面形状を、最小二乗平均円に対する誤差の大きさで表した図である。
図5図5は、リング状部材の研削装置の従来構造の1例を示す側面図である。
図6図6は、図5の上方から見た状態を示す平面図である。
図7図7(A)は、リング状部材に砥石を押し付ける以前の状態を示す側面図であり、図7(B)は、リング状部材に砥石を押し付けた状態を誇張して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の研削装置1aは、被加工物である金属製のリング状部材6の外周面に研削加工を施すためのいわゆる芯なし研削盤で、回転駆動軸3(図5参照)と、砥石5と、1対のシュー7c、7dとを備える。
【0016】
回転駆動軸3は、電動モータなどの駆動源により回転駆動可能となっており、先端部にバッキングプレート2を有する。本例では、回転駆動軸3は、水平方向に配置されている。リング状部材6は、軸方向側面をバッキングプレート2の先端面に磁気吸着することにより、回転駆動軸3と同軸に支持される。
【0017】
砥石5は、外周面に円筒状の研削面8を有し、かつ、中心部に回転駆動軸3と平行な回転軸4(図5および図6参照)を有する。すなわち、砥石5は、回転軸4を中心として回転駆動可能となっている。また、回転軸4は、回転駆動軸3に対する径方向の遠近動が可能となっている。すなわち、研削面8が、回転駆動軸3に支持されたリング状部材6の外周面に対して押し付け可能となっている。本例では、研削面8は、リング状部材6の外周面のうち、水平方向片端部(図1の右端部)に押し付け可能となっている。
【0018】
1対のシュー7c、7dは、それぞれの先端部を、リング状部材6の外周面に対し、円周方向の摺動を可能に接触させることにより、リング状部材6の径方向に関する位置決めを図るためのものである。
【0019】
1対のシュー7c、7dのうち、リング状部材6の外周面に対する砥石5(研削面8)の押し付け方向に関して砥石5に近い側(図1の右側)の第1のシュー(フロントシュー)7cは、リング状部材6の水平方向片側部の鉛直方向下側部の径方向外方に設置されている。
【0020】
また、第1のシュー7cは、径方向内側面のうち、円周方向に関して、リング状部材6の外周面と研削面8との接触部(摺接部)に近い側の端部に、径方向内方に突出したワーク支持部9aを有し、径方向内側面のうち、円周方向に関して、リング状部材6の外周面と研削面8との接触部から遠い側の端部に、径方向内方に突出したワーク支持部9bを有する。
【0021】
1対のシュー7c、7dのうち、リング状部材6の外周面に対する砥石5の押し付け方向に関して砥石5から遠い側(図1の左側)の第2のシュー(リアシュー)7dは、リング状部材6の水平方向他側部(図1の左側部)の鉛直方向下側部の径方向外方に設置されている。
【0022】
また、第2のシュー7dは、径方向内側面のうち、円周方向に関して第1のシュー7cに近い側の端部に、径方向内方に突出したワーク支持部9cを有し、径方向内側面のうち、円周方向に関して第1のシュー7cから遠い側の端部に、径方向内方に突出したワーク支持部9dを有する。
【0023】
ワーク支持部9a~9dは、それぞれの先端部を、リング状部材6の下半部外周面に接触(摺接)させることにより、リング状部材6の径方向に関する位置決めを図っている。このために、ワーク支持部9a~9dのそれぞれの先端部に接触する円筒面の中心軸を、回転駆動軸3の中心軸に対して水平方向にわずかに偏心させている。これにより、リング状部材6の外周面の研削加工中に、ワーク支持部9a~9dのそれぞれの先端部と、リング状部材6の外周面との接触部の面圧を、常に発生させることができる。
【0024】
また、1対のシュー7c、7dはそれぞれ、回転駆動軸3と平行な揺動軸10a、10bを有し、揺動軸10a、10bを中心とした揺動が可能となっている。このような構成により、ワーク支持部9a~9dを、研削加工の進行に伴うリング状部材6の外周面の縮径に追従させて、リング状部材6の外周面が縮径した場合でも、リング状部材の6の径方向に関する位置決めを図ることができる。
【0025】
本例では、第1のシュー7cは、円周方向中央位置に揺動軸10aを有している。ただし、第1のシュー7cは、揺動軸10aを有しない構成、すなわち、揺動不能な構成とすることもできる。
【0026】
一方、第2のシュー7dは、円周方向中央位置よりも、円周方向に関して第1のシュー7cから遠い側に外れた位置に揺動軸10bを有している。すなわち、リング状部材6の中心軸O6と揺動軸10bの中心軸O10bとに直交する基準線L0と、リング状部材6の中心軸O6に直交し、かつ、リング状部材6の外周面とワーク支持部9cの先端部との接触部を通る仮想直線L1とのなす角度θ1が、基準線L0と、リング状部材6の中心軸O6に直交し、かつ、リング状部材6の外周面とワーク支持部9dの先端部との接触部を通る仮想直線L2とのなす角度θ2よりも大きくなっている(θ1>θ2)。
【0027】
また、第1のシュー7cと第2のシュー7dとの円周方向に関する位置関係は、次のように規制されている。すなわち、リング状部材6の中心軸O6と揺動軸10aの中心軸O10あとに直交する仮想直線LAと、基準線L0とのなす角度φが、180度よりも小さくなるようにしている(φ<180)。
【0028】
このような本例の研削装置1aを用いて、リング状部材6の外周面に研削加工を施す際には、まず、リング状部材6をバッキングプレート2の先端面に磁気吸着することにより、リング状部材6を回転駆動軸3と同軸に、かつ、該回転駆動軸3と同期した回転を可能に支持する。また、リング状部材6の下半部外周面に、ワーク支持部9a~9dのそれぞれの先端部を接触させることにより、リング状部材6の径方向に関する位置決めを図る。この状態で、回転駆動軸3を回転駆動することで、リング状部材6を回転駆動させながら、該リング状部材6の水平方向片端部に、回転軸4を中心に、かつ、リング状部材6の回転方向と反対方向に回転する砥石5の研削面8を押し付けることにより、リング状部材6の外周面に研削加工を施す。
【0029】
上述のような本例によれば、金属製のリング状部材6の外周面にビビリが発生することを有効に防止することができる。この理由について、次に説明する。
【0030】
リング状部材6の外周面に研削加工を施す際に、リング状部材6の外周面の水平方向片端部に砥石5の研削面8を押し付けると、リング状部材6の水平方向他側部の下半部外周面が、第2のシュー7dのワーク支持部9c、9dのそれぞれの先端部に押し付けられる。本例では、第2のシュー7dの揺動軸10bを、第2のシュー7dの円周方向中央位置よりも、円周方向に関して第1のシュー7cに対し遠い側に外れた位置に配置している。したがって、リング状部材6の水平方向他側部の下半部外周面が、ワーク支持部9c、9dのそれぞれの先端部に押し付けられることに伴って、ワーク支持部9dからリング状部材6に加わる反力Fr2が、ワーク支持部9cからリング状部材6に加わる反力Fr1よりも大きくなる(Fr2>Fr1)。このため、リング状部材6には、該リング状部材6の水平方向片側部の下半部外周面を、第1のシュー7cのワーク支持部9a、9bのそれぞれの先端部に向けて押し付ける方向のモーメントMが加わる。したがって、リング状部材6の外周面に砥石5の研削面8を押し付けることによって、リング状部材6が楕円形に弾性変形した場合でも、第1のシュー7cのワーク支持部9a、9dと、リング状部材6の外周面とが離れるのを防止することができる。この結果、研削加工中のリング状部材6の姿勢を安定させることができて、リング状部材6の外周面にビビリが形成されるのを有効に防止でき、リング状部材6の真円度を向上することができる。
【0031】
なお、本発明を実施する場合には、1対のシューの径方向内側面にワーク支持部を設けず、該1対のシューの径方向内側面を、リング状部材の外周面の曲率半径と同じ曲率半径を有する部分円筒状の凹曲面とすることもできる。なお、1対のシューの径方向内側面のうちの円周方向複数箇所に、径方向内方に突出した凸部を設け、該凸部の先端面を、リング状部材の外周面の曲率半径と同じ曲率半径を有する部分円筒状の凹曲面とすることもできる。この場合でも、第2のシューの揺動軸を、円周方向中央位置よりも、円周方向に関して第1のシューから遠い側に外れた位置に設置する。これにより、第2のシューの径方向内側面のうち、第1のシューから遠い側の端部からリング状部材に加わる力を、第1のシューに近い側の端部からリング状部材に加わる力よりも大きくできて、リング状部材に対し、該リング状部材の外周面を、第1のシューの径方向内側面に向けて押し付ける方向のモーメントを作用させることができる。
【0032】
[実施の形態の第2例]
図2は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の研削装置1bでは、リアシューである第2のシュー7eは、円周方向中央位置に、回転駆動軸3と平行な揺動軸10cを有する。また、本例では、第2のシュー7eに対し、該第2のシュー7eを、図2の時計方向(図中の矢印αの方向)に回転させる方向の弾力を付与している。これにより、ワーク支持部9dからリング状部材に加わる力Fr2を、ワーク支持部9cからリング状部材6に加わる力Fr1よりも大きくしている。そして、この結果、リング状部材6に、該リング状部材6の水平方向片側部の下半部外周面を、第1のシュー7aのワーク支持部9a、9bのそれぞれの先端部に向けて押し付ける方向のモーメントMが作用するようにしている。その他の部分の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0033】
なお、本発明を実施する場合、リング状部材に、リング状部材の外周面を、フロントシューである第1のシューの先端部に向けて押し付ける方向のモーメントを作用させるための構造は、実施の形態の第1例および第2例のように、リアシューである第2のシューとして、揺動軸を中心に揺動可能なピボットシューを使用する構造に限定されるものではない。具体的には、たとえば、第2のシューを、ボールジョイントにより支持したり、コイルばねなどの弾性部材により、径方向、水平方向または鉛直方向の弾力を付与されたものとしたりすることができる。何れの構造の場合にも、リング状部材の外周面の研削加工中に、リング状部材の外周面を、フロントシューである第1のシューの先端部に向けて押し付ける方向のモーメントを作用させられるように、第2のシューの設置態様や変位可能な方向、付与する弾力の大きさなどを適切に規制する。
【実施例
【0034】
本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。本実験では、リング状部材6の外周面に、本発明の技術的範囲に属する研削装置により研削加工を施した場合と、本発明の技術的範囲からは外れる研削装置により研削加工を施した場合とで、研削加工後のリング状部材の外周面の断面形状の真円度を測定した。実施例では、図1に示す実施の形態の第1例の研削装置1aを使用した。一方、比較例では、図3に示すような、本発明の技術的範囲から外れる研削装置1cを使用した。すなわち、研削装置1cでは、リアシューである第2のシュー7fは、円周方向中央位置よりも、円周方向に関して第1のシュー7cに近い側に外れた位置に揺動軸10dを有している。リング状部材6および研削装置1a、1cの諸元は、以下のとおりである。
【0035】
「リング状部材6」
材質:高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)
外径: 101mm
幅 : 13mm
「研削装置1a」
角度θ1:約15度
角度θ2:約10度
「研削装置1c」
角度θ1:約10度
角度θ2:約15度
【0036】
なお、実施例の研削装置1aを構成する1対のシュー7c、7dのそれぞれの円周方向位置と、比較例の研削装置1cを構成する1対のシュー7c、7fのそれぞれの円周方向位置とは、互いに一致している。
【0037】
研削加工完了後のリング状部材6の外周面の断面形状について、ハーモニック解析により3山成分を取り出して、その振幅を測定したところ、実施例では、約0.2[μm]であり、比較例では、約0.5μmであった。なお、図4(A)は、実施例のリング状部材6の外周面の断面形状を、最小二乗平均円に対する誤差の大きさで表した図であり、図4(B)は、比較例のリング状部材6の外周面の断面形状を、同様にして表した図である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の対象となるリング状部材としては、ラジアル転がり軸受を構成する内輪や外輪、ラジアル滑り軸受、外周面に円筒状の嵌合面を有する部材などが挙げられる。リング状部材をラジアル転がり軸受の内輪とした場合、砥石として、いわゆる総型砥石を使用することにより、内輪軌道と肩部外周面とに同時に研削加工を施すことが好ましい。ただし、内輪軌道と肩部外周面とに別々に研削加工を施すこともできる。
【符号の説明】
【0039】
1、1a、1b、1c 研削装置
2 バッキングプレート
3 回転駆動軸
4 回転軸
5 砥石
6 リング状部材
7a、7b、7c、7d、7e、7f シュー
8 研削面
9a~9d ワーク支持部
10a、10b、10c 揺動軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7