(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】移動体
(51)【国際特許分類】
B60W 50/10 20120101AFI20220308BHJP
B62K 5/05 20130101ALI20220308BHJP
G05D 1/08 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B60W50/10
B62K5/05
G05D1/08 Z
(21)【出願番号】P 2017207110
(22)【出願日】2017-10-26
【審査請求日】2020-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 渉
(72)【発明者】
【氏名】安藤 充宏
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-004373(JP,A)
【文献】特開2017-046491(JP,A)
【文献】特開2017-010529(JP,A)
【文献】特開2008-250995(JP,A)
【文献】特開2017-184358(JP,A)
【文献】特開2003-269966(JP,A)
【文献】特開2008-143510(JP,A)
【文献】特開2005-049963(JP,A)
【文献】特開2011-218075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/08
B62K 5/05
B60W 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体であって、
搭乗者の操作指示を受け付ける入力部と、
前記移動体が走行する空間の3次元情報を検知する第1の検知部と、
前記移動体の状態を検知する第2の検知部と、
前記検知された3次元情報に対応した仮想空間における仮想路面の形状と前記検知された移動体の状態と
前記受け付けられた操作指示とに基づいて、前記移動体に対応した仮想移動体を前記移動体の
路面上の走行より先行させて前記仮想空間内の前記仮想路面上で走行させた場合における前記仮想移動体の転倒可能性を予測し、予測された転倒可能性に応じた制御を行う制御部と、
を備えた移動体。
【請求項2】
前記検知された移動体の状態は、前記移動体の進行方向、前記移動体の姿勢、前記移動体の重心位置、前記移動体の速度、前記移動体の加速度、前記移動体の荷重状態、及び前記移動体の接地状態のうち少なくとも1つを含む
請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記転倒可能性の警告を報知させる
請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項4】
前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記仮想路面における前記転倒可能性の原因となる部分を前記路面又は前記仮想路面から識別可能に表示装置又は前記路面に表示させる
請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項5】
前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記移動体の走行速度を制限させる
請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項6】
前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記仮想路面における前記転倒可能性の原因となる部分に対応した前記路面における部分を回避するように前記移動体の走行を制御する
請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項7】
前記制御部は、
前記入力部で前記操作指示を受けて前記移動体を走行させる第1のモードと前記移動体の自律走行を行う第2のモードとを有し、前記第2のモードにおいて、第1のルートに沿って前記移動体の自律走行を行うと前記転倒可能性がある場合に、前記仮想路面における前記転倒可能性の原因となる部分を回避する第2のルートを求め、前記第1のルートに代えて前記第2のルートに沿って前記移動体の自律走行を行う
請求項1又は2に記載の移動体。
【請求項8】
記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記転倒可能性が存在する位置として予測された予測位置情報を取得し、前記予測位置情報を前記記憶部に格納し、前記検知された空間から生成される仮想空間における仮想路面の形状と前記検知された移動体の状態と
前記受け付けられた操作指示と前記格納された予測位置情報とに基づいて、前記仮想移動体の転倒可能性を予測する
請求項1から7のいずれか1項に記載の移動体。
【請求項9】
記憶部をさらに備え、
前記制御部は、前記転倒可能性が存在する位置として予め登録された登録位置情報を取得し、前記登録位置情報を前記記憶部に格納し、前記検知された空間から生成される仮想空間における仮想路面の形状と前記検知された移動体の状態と
前記受け付けられた操作指示と前記格納された登録位置情報とに基づいて、前記仮想移動体の転倒可能性を予測する
請求項1から7のいずれか1項に記載の移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体は、その前方に段差や障害物などの転倒原因が存在すると、転倒原因の位置まで走行したときに転倒する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
移動体の転倒を避けるためには、移動体の転倒可能性について移動体の走行に先立って高精度に予測することが望まれる。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、転倒可能性を高精度に予測できる移動体を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る移動体は、例えば、移動体であって、搭乗者の操作指示を受け付ける入力部と、前記移動体が走行する空間の3次元情報を検知する第1の検知部と、前記移動体の状態を検知する第2の検知部と、前記検知された3次元情報に対応した仮想空間における仮想路面の形状と前記検知された移動体の状態と前記受け付けられた操作指示とに基づいて、前記移動体に対応した仮想移動体を前記移動体の路面上の走行より先行させて前記仮想空間内の前記仮想路面上で走行させた場合における前記仮想移動体の転倒可能性を予測し、予測された転倒可能性に応じた制御を行う制御部とを含む。これにより、転倒可能性を高精度に予測でき、予測された転倒可能性に応じた制御を適切に行うことができる。
【0007】
また、実施形態に係る移動体において、例えば、前記検知された移動体の状態は、前記移動体の進行方向、前記移動体の姿勢、前記移動体の重心位置、前記移動体の速度、前記移動体の加速度、前記移動体の荷重状態、及び前記移動体の接地状態のうち少なくとも1つを含む。これにより、転倒可能性を高精度に予測できる。
【0008】
また、実施形態に係る移動体において、例えば、前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記転倒可能性の警告を報知させる。これにより、予測された転倒可能性に応じた適切な運転を移動体の搭乗者に促すことができる。
【0009】
また、実施形態に係る移動体において、例えば、前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記仮想路面における前記転倒可能性の原因となる部分を前記路面又は前記仮想路面から識別可能に表示装置又は前記路面に表示させる。これにより、予測された転倒可能性に応じた適切な運転を移動体の搭乗者に促すことができる。
【0010】
また、実施形態に係る移動体において、例えば、前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記移動体の走行速度を制限させる。これにより、予測された転倒可能性に応じた制御を適切に行うことができる。
【0011】
また、実施形態に係る移動体において、例えば、前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記仮想路面における前記転倒可能性の原因となる部分に対応した前記路面における部分を回避するように前記移動体の走行を制御する。これにより、移動体の転倒を避けることができる。
【0012】
また、実施形態に係る移動体において、例えば、前記制御部は、操作指示を受けて前記移動体を走行させる第1のモードと前記移動体の自律走行を行う第2のモードとを有し、前記第2のモードにおいて、第1のルートに沿って前記移動体の自律走行を行うと前記転倒可能性がある場合に、前記仮想路面における前記転倒可能性の原因となる部分を回避する第2のルートを求め、前記第1のルートに代えて前記第2のルートに沿って前記移動体の自律走行を行う。これにより、移動体の転倒を避けることができる。
【0013】
また、実施形態に係る移動体は、例えば、記憶部をさらに備え、前記制御部は、前記転倒可能性がある場合に、前記転倒可能性が存在する位置として予測された予測位置情報を取得し、前記予測位置情報を前記記憶部に格納し、前記検知された空間から生成される仮想空間における仮想路面の形状と前記検知された移動体の状態と前記格納された予測位置情報とに基づいて、前記仮想移動体の転倒可能性を予測する。これにより、転倒可能性を高精度に予測できる。
【0014】
また、実施形態に係る移動体は、例えば、記憶部をさらに備え、前記制御部は、前記転倒可能性が存在する位置として予め登録された登録位置情報を取得し、前記登録位置情報を前記記憶部に格納し、前記検知された空間から生成される仮想空間における仮想路面の形状と前記検知された移動体の状態と前記格納された登録位置情報とに基づいて、前記仮想移動体の転倒可能性を予測する。これにより、転倒可能性を高精度に予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係る移動体の外観構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る移動体の機能構成を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る移動体の動作を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る移動体の動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態における走行空間を検知する処理を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態におけるエレベーションマップを生成する処理を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態における仮想空間を生成する処理を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態における仮想空間内で仮想移動体を走行させる処理を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態における転倒可能性を予測する処理を示す図である。
【
図10】
図10は、実施形態における転倒可能性を予測する処理を示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態における転倒可能性を予測する処理を示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態の変形例における転倒可能性を予測する処理を示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態の他の変形例に係る移動体の機能構成を示す図である。
【
図14】
図14は、実施形態の他の変形例における移動体の状態を検知するための構成を示す図である。
【
図15】
図15は、実施形態の他の変形例における移動体の状態に応じた転倒可能性の予測を示す図である。
【
図16】
図16は、実施形態の他の変形例における表示装置の構成を示す図である。
【
図17】
図17は、実施形態の他の変形例における表示装置の動作を示す図である。
【
図18】
図18は、実施形態の他の変形例における表示装置の動作を示す図である。
【
図19】
図19は、実施形態の他の変形例における表示装置の動作を示す図である。
【
図20】
図20は、実施形態の他の変形例に係る移動体の機能構成を示す図である。
【
図21】
図21は、実施形態の他の変形例に係る移動体の動作を示す図である。
【
図22】
図22は、実施形態の他の変形例におけるルートを再作成する処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかる移動体を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施形態)
2輪車や3輪車などの移動体は、その前方に段差や障害物などの転倒原因が存在すると、転倒原因の位置まで走行したときに転倒する可能性がある。移動体の転倒を避けるためには、移動体の転倒可能性について移動体の走行に先立って高精度に予測することが望まれる。
【0018】
これに対して、車両に取り付けた測距センサから時系列で走行路面までの距離値を取得し、距離値の時系列変化から段差の検出と段差の種類とを判別し、段差が車両から所定の距離より近づいた場合に、乗員に警告あるいは停止することによって転落を防止する第1の制御が考えられる。
【0019】
第1の制御では、段差や溝への転落防止を対象としており、所定数(例えば、5つ)の決まったパターンの路面形状に対応することになり、搭乗者が使うことができるシーンが限られたものとなる可能性がある。自車両と路面との相対的な距離で転落の可能性を判定しており、自車両の傾きを考慮していないため、自車両が傾斜上に存在するときに間違った路面形状パターンを用いて判定を行い、本来なら転倒するところを誤って走行できると判断する可能性がある。
【0020】
また、段差の継続距離と所定の踏破可能距離から段差の規模が踏破可能かを判断し、踏破可能である時に警告あるいは停止することによって、転落を防止する第2の制御が考えられる。
【0021】
第2の制御では、段差や溝の踏破性の判断が、段差の継続距離と所定の踏破可能性距離といった形状を使って行われるが、実際は乗員の重心、車両の重心・速度などの目に見えない潜在的な要素を考慮していない。そのため、正確な踏破性の判断ができない可能性がある。
【0022】
そこで、本実施形態では、移動体において、移動体の走行に先行して、移動体周辺の空間の3次元状情報に対応した仮想空間内で移動体の状態の情報に基づき仮想移動体を走行させてその転倒可能性を予測することで、転倒可能性の予測の高精度化を図る。
【0023】
具体的には、移動体が走行中にリアルタイムでコンピュータ内部のグローバル仮想空間上に空間を把握するセンサと移動体の状態を把握するセンサのデータを元に、路面形状を復元する。そして、実移動体と同じ仕様(パラメータ)を持った仮想移動体を仮想路面上に生成し、実移動体の進路上を移動体と路面形状の状態に応じて可変する時間に基づく仮想移動体に先取り走行させる。その際、仮想路面と仮想移動体との接触面にて物理シミュレーションを行い、仮想移動体の姿勢変化等により転倒可能性を判定し、転倒可能性がある場合は警告や速度制限や回避させる制御を行う。
【0024】
すなわち、実環境を模擬した仮想環境を構築し、仮想移動体により転倒予測するアプローチをとることで、移動体がどのような転倒可能性を伴うか(例えば左に横転、後輪が脱輪し急ブレーキがかかるなど)を移動体の動きとして判明させることができる。これにより、具体的な転倒可能性に伴った対処方法を搭乗者にフィードバックでき、場合によっては移動体自身が判断し転倒を回避することが可能になる。その結果、搭乗者へ過度に警告や速度制限をかけたり、本来なら行けないところへ行けると判断することなく、快適に走行できる環境を提供することが可能となる。
【0025】
移動体1は、例えば、パーソナルモビリティであり、
図1に示すような外観構成を有する。
図1は、移動体1の外観構成を示す図である。以下では、水平面における移動体1の走行方向に対応した方向をX方向とし、鉛直上方向をZ方向をとし、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向とする。
【0026】
移動体1は、車輪2、補助車輪3、フレーム4、駆動部5、軸受部材6、ステイ7、ハンドル8、座席11、入力部12、制御部13、検知部(第1の検知部)14、及び検知部(第2の検知部)15を有する。
【0027】
車輪2及び補助車輪3は、X方向に離間して配されている。車輪2は、Y方向に離間して一対で(-X側から見た場合における右側の車輪2-R及び左側の車輪2-Lとして)設けられている。フレーム4は、両車輪2-R,2-L及び補助車輪3間に配置されて、それら両車輪2及び補助車輪3を回転可能に支持する。フレーム4は、両車輪2-R,2-Lが互いに異なる回転速度で回転することで旋回可能である。
【0028】
フレーム4は、ホルダ部4a、荷物置き部4b、足置き部4c、及び支持部4dを有する。ホルダ部4aは、両車輪2-R,2-Lの軸線方向(Y方向)に沿って延在する略筒形状を有する。ホルダ部4aは、両車輪2-R,2-Lを回転駆動する駆動部5としてのモータ5R,5Lを収容する。荷物置き部4bは、ホルダ部4aからXY面と略平行に補助車輪3に近付くように-X方向に延びている。足置き部4cは、荷物置き部4bのX方向における中間位置から+Y方向及び-Y方向に一対で突出している。荷物置き部4b及び足置き部4cは、+Z側から見た場合に略十字形状を形成する。支持部4dは、荷物置き部4bの-X側の端部に接続され、-X方向に向かうに従い+Z方向に向かうように湾曲する。
【0029】
駆動部5は、モータ5R,5Lを有する。モータ5R,5Lは、制御部13により互いに独立して制御され得る。制御部13による制御のもと、モータ5Rは、車輪2-Rを回転させ、モータ5Lは、車輪2-Lを回転させる。
【0030】
軸受部材6は、支持部4dの-X側の端部近傍に設けられ、支持部4dへ補助車輪3を回転可能に支持している。フレーム4は、軸受部材6がZ方向周りに回転することで旋回可能である。
【0031】
ステイ7は、アーム部7R,7Lを有する。アーム部7R,7Lは、Y方向に各車輪2-R,2-L及びホルダ部4aの間に挟まれてY方向周りに回動可能に連結されている。両アーム部7R,7Lは、+Z方向に向かうに従いY方向に互いに近付くように傾斜する。
【0032】
ハンドル8は、両アーム部7R,7Lの+Z側の端部に配されている。ハンドル8は、両アーム部7R,7Lに挟まれた状態でY方向周りに回動自在に支持されている。ハンドル8は、延出部9R,9L及び把持部10R,10Lを有する。延出部9R,9Lは、両アーム部7R,7LにY方向に隣接してそれらの+Z側の端部から一対で延出する。把持部10R,10Lは、延出部9R,9Lの+Z側の端部から互いに相反するY方向に一対で突出する。延出部10Rの+Y側の端部と延出部10Lの-Y側の端部とは互いに接続されている。
【0033】
座席11は、両アーム部7R,7Lの+Z側の端部に配されている。座席11は、略サドル形状を有し、ハンドル8の両延出部9R,9Lに挟まれた状態でY方向周りに回動自在に支持されている。座席11は、取手部11a及び本体部11bを有する。本体部11bは、搭乗者により着座されるべき部分である。取手部11aは、本体部11bの-X側の端部に接続され、Z方向に開口されている。
【0034】
入力部12は、操作インターフェース12aを有する。操作インターフェース12aは、ハンドル8の把持部10R又は把持部10Lに設けられている。操作インターフェース12aは、例えばジョイスティックなどであり、移動体1が走行すべき方向や走行速度などについての操作指示を受け付け可能に構成されている。
【0035】
制御部13は、電子制御装置13aを有する。電子制御装置13aは、移動体1の適宜箇所(例えば、補助車輪3付近)に設置され、移動体1の各部を統括的に制御する。例えば、電子制御装置13aは、搭乗者による操作に応じた操作指示(操作信号)を操作インターフェース12aから受け、操作指示に応じた制御動作を行うことができる。
【0036】
検知部14は、移動体1が走行する空間の3次元情報を検知する。検知部14は、測距センサ14a及びアーム部14bを有する。アーム部14bは、ホルダ部4aから+Z方向に延び、移動体1の前方(+X側)における距離を測定可能なように測距センサ14aを保持している。
【0037】
測距センサ14aは、例えば、LiDAR(Light Detection And Ranging)技術を用いて移動体1の前方を3次元的に測距することができる。測距センサ14aは、レーザ光を放射状に出力して移動体1の前方(+X側)におけるXY平面内をスキャンすることで、移動体1の前方における路面等の3次元的な距離の情報を検知可能である。測距センサ14aは、レーザ光の照射した角度と照射してから反射するまでに要した時間とに基づいてある時点での測定方向についてのレーザ光を反射した路面の距離を検出する、いわゆるTOF(Time of Flight)の原理による検知(センシング)を行う。なお、測距センサ14aは、LiDAR技術を用いたセンサである代わりに、超音波を発射してその反射波を捉えるソナーであってもよい。
【0038】
検知部15は、移動体1の状態を検知する。検知部15は、車輪速センサ151R,151L及び姿勢センサ152を有する。複数の車輪速センサ151R,151Lは、例えばそれぞれエンコーダ(ホイールエンコーダ)であり、複数の車輪2-R,2-Lに対応している。各車輪速センサ151R,151Lは、対応する車輪2-R,2-Lの単位時間当たりの回転角又は回転数を検出し、検出結果(センサ値)を出力する。姿勢センサ152は、例えばジャイロセンサ(慣性センサ)であり、移動体1の姿勢を示す傾き角を検出できる。傾き角は、Y方向回りの傾きを示すピッチ角ΨとYZ面内の傾きを示すロール角θとを含む。ピッチ角Ψは、反時計回りを+とし、時計回りを-とすることができる。ロール角θは、反時計回りを+とし、時計回りを-とすることができる。
【0039】
機能的な側面から見ると、移動体1は、例えば、
図2に示すように構成される。
図2は、移動体1の機能構成を示す図である。
【0040】
移動体1は、入力部12、検知部14、検知部15、駆動部5、出力部16、及び制御部13を有する。入力部12は、操作インターフェース12aを有する。検知部14は、測距センサ14aを有する。検知部15は、車輪速センサ151及び姿勢センサ152を有する。駆動部5は、モータ5R,5Lを有する。出力部16は、表示装置161及び音声出力装置162を有する。
【0041】
制御部13は、電子制御装置13aを有する。電子制御装置13aは、計算部131、地図作成部132、路面再構成部133、シミュレーション部134、転倒可能性判定部135、報知部136、走行制御部137、及び車輪制御部138を有する。
【0042】
計算部131は、車輪速センサ151からのセンサ値(車輪2の単位時間当たりの回転角又は回転数)に応じて車速(検知された車速)を求め、車速の情報を走行制御部137へ供給する。走行制御部137は、操作指示に示された車速を目標車速とし、検知された車速の目標車速からの偏差を求め、偏差に応じて(例えば、偏差をゼロに近づけるように)車輪制御部138を介してモータ5R,5Lの回転を加減速させる。また、走行制御部137は、操作指示に示された走行方向が旋回動作を指示している場合、その旋回動作に応じた左右の車輪2-R,2-Lの速度差が生成されるように、車輪制御部138を介して各モータ5R,5Lの回転を加減速させる。
【0043】
すなわち、制御部13は、操作インターフェース12aからの操作指示(操作信号)に応じてモータ5R,5Lを駆動制御する。制御部13は、モータ5R,5Lの駆動制御による両車輪2-R,2-Lの回転制御によって、移動体1の走行を制御する。例えば、制御部13は、モータ5R,5Lを正転させることで、車輪2が補助車輪3に対して先行する走行方向(以下、「順走行方向」ともいう)に移動体1を直進させる。反対に、制御部13は、モータ5R,5Lを逆転させることで、車輪2が補助車輪3に対して追従する走行方向(以下、「逆走行方向」ともいう)に移動体1を直進させる。
【0044】
また、計算部131は、車輪速センサ151からのセンサ値(車輪2の単位時間当たりの回転角又は回転数)に応じて、計測された車輪の位置及び向きを計算して地図作成部132へ供給する。地図作成部132は、測距センサ14aからの3次元情報(前方における3次元的な路面の凹凸情報)と計測された車輪の位置及び向きとに応じてエレベーションマップを作成する。エレベーションマップは、3次元的な凹凸を含むローカルマップである。地図作成部132は、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を用いて、移動体1の移動に伴いリアルタイムで自己位置(実車輪の位置及び向き)の推定と周囲の路面の凹凸分布を表すエレベーションマップの作成とを行う。地図作成部132は、エレベーションマップを路面再構成部133へ供給し、実車輪の位置及び向きをシミュレーション部134へ供給する。路面再構成部133は、姿勢センサ152から移動体1の傾き角の情報を受け、移動体1の傾き角に応じてエレベーションマップを補正(再構成)し、再構成された仮想路面を含む仮想空間の情報を生成してシミュレーション部134へ供給する。
【0045】
シミュレーション部134は、車輪速センサ151のセンサ値や姿勢センサ152のセンサ値を受け、それらに応じて移動体1の状態(移動体1の進行方向、移動体1の姿勢、移動体1の重心位置、移動体1の速度、移動体1の加速度、移動体1の荷重状態、及び移動体1の接地状態のうち少なくとも1つ)を特定する。例えば、シミュレーション部134は、移動体1に搭乗者が乗っている場合に、移動体1の質量中心と搭乗者が標準的な着座位置に着座したときの搭乗者の質量中心との中間点に対して移動体1の加速度及び姿勢に応じた補正量を作用させた位置を移動体1の重心位置として求めることができる。シミュレーション部134は、実車輪の位置及び向きに応じて、仮想空間内に仮想移動体を配置する。仮想移動体は、移動体1の仕様(形状、質量中心の位置、剛性、材質、車輪の数及び位置、車輪の路面に対する摩擦係数など)が反映され実際の移動体1と同様に動作可能な仮想的な移動体である。シミュレーション部134は、仮想空間における仮想路面の形状と検知された移動体の状態とに基づいて、仮想移動体を移動体1の路面上の走行より先行させて仮想空間内の仮想路面上で走行させる物理シミュレーションを行う。シミュレーション部134は、仮想空間内における仮想移動体の位置及び向きを物理シミュレーションの結果として転倒可能性判定部135へ供給する。
【0046】
転倒可能性判定部135は、仮想空間内における仮想移動体の位置及び向きに応じて、仮想移動体の転倒可能性を予測し、転倒可能性の有無を判定する。転倒可能性判定部135は、判定結果を報知部136及び走行制御部137へ供給する。
【0047】
報知部136は、判定結果により転倒可能性があることが示される場合、転倒可能性の警告を報知させる。例えば、報知部136は、転倒可能性がある場合に、警告表示指令を表示装置161へ供給してもよいし、警告音声指令を音声出力装置162へ供給してもよい。例えば、表示装置161は、LEDなどの表示灯であり、警告表示指令を受けた場合、転倒可能性があることを示す点灯表示を行う。あるいは、例えば、音声出力装置162は、警告音を発生可能なブザーであり、警告音声指令を受けた場合、警告音を出力する。
【0048】
走行制御部137は、判定結果により転倒可能性があることが示される場合、速度制限指令を生成して車輪制御部138へ供給する。車輪制御部138は、減速するようにモータ5R,5Lを制御する。
【0049】
すなわち、移動体1は、
図3に示すように動作する。
図3は、移動体1の動作を示す図である。移動体1において、制御部13は、物理シミュレーションを活用し、走行中にリアルタイムで
図3(a)に示すような実世界(Actual World)に基づいて
図3(b)に示すような仮想空間(Virtual Space)を生成する。そして、
図3(b)に示すように、制御部13は、仮想空間に復元した路面形状上に仮想移動体を走行させ、仮想移動体の姿勢変化などにより転倒可能性を判定し、判定結果に応じた制御(警告の報知、速度制限、回避動作など)を
図3(a)に示すような実世界における移動体1に対して行う。
【0050】
より具体的には、移動体1は、
図4に示すように動作する。
図4は、移動体1の動作を示すフローチャートである。
【0051】
移動体1は、走行をスタートすると、走行しながら走行空間を検知する(S1)。例えば、
図5に示すように、検知部14の測距センサ14aは、LiDAR技術を用いて、移動体1前方周辺の点群の3次元座標を獲得して制御部13へ供給する。
図5は、走行空間を検知する処理を示す図である。
【0052】
図4に戻って、移動体1は、走行をスタートすると、S1の検知と並行して、移動体1の状態を検知する(S2)。例えば、検知部15の車輪速センサ151は、車輪2の単位時間当たりの回転角又は回転数を検知してセンサ値を制御部13へ供給する。検知部15の姿勢センサ152は、移動体1の姿勢を示す傾き角(ロール角θ、ピッチ角Ψ)を検出してセンサ値を制御部13へ供給する。
【0053】
移動体1は、S1,S2の検知結果に応じて、仮想路面を含む仮想空間を生成する(S3)。
【0054】
例えば、制御部13は、
図6に示すように、SLAM(自己位置推定と環境地図作成を同時実施)技術を用い、S1で獲得した点群(移動体1前方周辺の点群の3次元座標)に対応する格子を生成し、各点がどの格子に属するかを判定する。このとき、制御部13は、デッドレコニング(相対的自己位置推定法)技術を用いて、車輪速センサ151のセンサ値と姿勢センサ152のセンサ値とに応じて各点の位置を補正できる。制御部13は、補正後の各点がどの格子に属するかを判定した結果に応じて、整合性のとれた地図(エレベーションマップ:Elevation Map)の生成と自己位置の推定とを行う。
図6は、エレベーションマップを生成するための処理を示す図である。
【0055】
そして、制御部13は、
図7に示すように、エレベーションマップの各格子において、格子中央且つ付加された高さの位置に頂点を生成し、各格子上の頂点と隣り合う2つの格子上の頂点から3角メッシュを生成する。制御部13は、これをすべての格子に対して行うことで、路面形状を復元する(仮想路面の形状を生成する)。これにより、制御部13は、仮想路面を含む仮想空間を生成できる。
図7は、仮想空間を生成するための処理を示す図である。
【0056】
図4に戻って、移動体1は、仮想空間内に仮想移動体を配置し、実移動体に先行して仮想移動体を仮想空間内で走行させる(S4)。例えば、制御部13は、
図8に示すように、S3で推定された自己位置に対応する仮想空間内の位置に所定の周期(例えば、一定周期)で仮想移動体を配置し、実移動体の現在の車輪速を仮想移動体として仮想移動体を仮想路面上に走行させる。制御部13は、仮想移動体を仮想路面上に所定の時間(例えば、一定時間)走行させた後に消滅させる。この際に、制御部13は、仮想移動体と仮想路面との接触面にて物理シミュレーションを実施し、仮想移動体の姿勢を計算する。ここで、制御部13は、実移動体と等速度で走行させた場合における仮想移動体の動作(物理現象)についての物理シミュレーションを、実時間の数倍速で(例えば、5倍速で)実行することにより、実移動体の予測進路上を仮想移動体で先取りして安全確認することが可能となる。
【0057】
移動体1は、S4の結果(物理シミュレーションの結果)に応じて、仮想移動体の転倒可能性の有無を判定する(S5)。
【0058】
例えば、
図9に示すように、制御部13は、仮想移動体のロール角θに応じて、転倒可能性の有無を判定できる。このとき、制御部13は、仮想移動体の重心が仮想移動体の支持可能範囲から外れる限界のロール角をロール角の閾値θth(又は-θth)とし、仮想移動体のロール角θと閾値θthとを比較することで仮想移動体の転倒可能性の有無を判定できる。
【0059】
図9(a)に一点鎖線で示すように、YZ断面視において、仮想移動体の車輪2-R,2-Lの接地位置を+Z方向に延長した直線で挟まれた範囲が移動体1の支持可能範囲SR1であるとする。
図9(a)の場合、仮想移動体の重心CG1が支持可能範囲SR1に収まっており、ロール角θ=θ1が閾値θthより小さいので、転倒可能性がないと判定できる。
図9(b)の場合、仮想移動体の重心CG2が支持可能範囲SR2に収まっており、ロール角θ=θ2が閾値θthより小さいので、転倒可能性がないと判定できる。
図9(c)の場合、仮想移動体の重心CG3が支持可能範囲SR3から外れており、ロール角θ=θ3が閾値θthより大きいので、転倒可能性があると判定できる。
図9は、転倒可能性を予測するための処理を示す図である。
【0060】
あるいは、例えば、
図10に示すように、制御部13は、仮想移動体のピッチ角Ψに応じて、転倒可能性の有無を判定できる。このとき、制御部13は、仮想移動体の重心が仮想移動体の支持可能範囲から外れる限界のピッチ角をピッチ角の閾値Ψth(又は-Ψth)とし、仮想移動体のピッチ角Ψと閾値Ψthとを比較することで仮想移動体の転倒可能性の有無を判定できる。
【0061】
図10(a)に一点鎖線で示すように、XZ断面視において、仮想移動体の車輪2及び補助車輪3の接地位置を+Z方向に延長した直線で挟まれた範囲が移動体1の支持可能範囲SR11であるとする。
図10(a)の場合、仮想移動体の重心CG11が支持可能範囲SR11に収まっており、ピッチ角Ψ=Ψ1が閾値Ψthより小さいので、転倒可能性がないと判定できる。
図10(b)の場合、仮想移動体の重心CG12が支持可能範囲SR12に収まっており、ピッチ角Ψ=Ψ2が閾値Ψthより小さいので、転倒可能性がないと判定できる。
図10(c)の場合、仮想移動体の重心CG13が支持可能範囲SR13から外れており、ピッチ角Ψ=Ψ3が閾値Ψthより大きいので、転倒可能性があると判定できる。
図10は、転倒可能性を予測するための処理を示す図である。
【0062】
図9及び
図10をまとめると、
図11に示すように、支持可能範囲SRは、ロール角θが-θth≦θ≦θthであり且つピッチ角Ψが-Ψth≦Ψ≦Ψthである範囲である。ロール角θ及びピッチ角Ψが支持可能範囲SRから外れている領域(
図11に斜線のハッチングで示す領域)に属する場合に転倒可能性があると判定でき、ロール角θ及びピッチ角Ψが支持可能範囲SRに収まっている場合に転倒可能性がないと判定できる。
図11は、転倒可能性を予測するための処理を示す図である。
【0063】
なお、
図9~
図11に示す判定基準は一例であり、実際の移動体1の状態や搭乗者の属性によって閾値を決めることができる。例えば、移動体1の速度が所定の速度以上である場合に閾値を厳しめに決め、移動体1の速度が所定の速度未満である場合に閾値を緩めに決めることができる。あるいは、例えば、搭乗者が高齢者や未成年である場合に閾値を厳しめに決め、搭乗者が高齢者でない成年である場合に閾値を緩めに決めることができる。
【0064】
図4に戻って、移動体1は、仮想移動体の転倒可能性がないと判定した場合(S5でNo)、処理をS7へ進め、仮想移動体の転倒可能性があると判定した場合(S5でYes)、転倒可能性に応じた制御を行う(S6)。例えば、制御部13は、音や光で搭乗者や周辺の歩行者に対し警告することができる。あるいは、制御部13は、搭乗者の操作入力により計算される目標速度が所定の速度(例えば、1km/h)以上の場合は目標速度を所定の速度に制限することで減速し、搭乗者による転倒可能性のある路面部分を回避する運転操作(停止、旋回など)を行いやすくすることができる。
【0065】
移動体1は、処理を終了すべきか否かを判断する(S7)。移動体1は、処理を終了すべきでないと判断した場合(S7でNo)、処理をS1,S2へ戻し、例えば運転停止の操作が搭乗者から受け付けられるなど処理を終了すべきであると判断した場合(S7でYes)、処理を終了する。
【0066】
以上のように、実施形態では、移動体1において、移動体1の走行に先行して、移動体1周辺の空間の3次元状情報に対応した仮想空間内で仮想移動体を移動体1の状態の情報に基づき仮想的に走行させてその転倒可能性を予測する。これにより、転倒可能性の予測の精度を向上でき、転倒可能性に応じた制御を適切に行うことができるので、移動体1の転倒を適切に回避できる。
【0067】
なお、
図2に示す地図作成部132は、エレベーションマップに代えて、点群マップ、マルチレベルサーフェスマップ(Multi-Level Surface Map)、オクトマップ(OctoMap)などの高さ情報を有する地図表現を作成してもよい。
【0068】
また、転倒可能性の判定(S5)は、多段階的に行ってもよい。例えば、
図12に示すように、支持可能範囲SRの内側に安定支持範囲SR’を追加することができる。支持可能範囲SRは、ロール角θが-θth≦θ≦θthであり且つピッチ角Ψが-Ψth≦Ψ≦Ψthである範囲である。安定支持範囲SR’は、ロール角θが-θth’≦θ≦θth’であり且つピッチ角Ψが-Ψth’≦Ψ≦Ψth’である範囲である。このとき、-θth<-θth’<0<θth’<θthであり、-Ψth<-Ψth’<0<Ψth’<Ψthである。
【0069】
例えば、ロール角θ及びピッチ角Ψが支持可能範囲SRから外れている領域(
図12に間隔の広い斜線のハッチングで示す領域)に属する場合に転倒可能性があると判定できる。ロール角θ及びピッチ角Ψが支持可能範囲SRに収まっているが安定支持範囲SR’から外れている領域(
図12に間隔の狭い斜線のハッチングで示す領域)に属する場合に転倒可能性がないが要注意レベルであると判定できる。ロール角θ及びピッチ角Ψが安定支持範囲SR’に収まっている場合に転倒可能性がなく安全レベルであると判定できる。
【0070】
この場合、転倒可能性に応じた制御(S6)も多段階的に行うことができる。例えば、制御部13は、LED等の表示灯を、転倒可能性が安全レベルであると判定された場合に青く光らせ、転倒可能性が要注意レベルであると判定された場合に黄色く光らせ、転倒可能性があると判定された場合に赤く光らせることで、多段階的な警告を行うことができる。
【0071】
また、実施形態では、移動体1の搭乗者が標準的な着座位置に座っているものとして移動体1の重心等の状態を検知する場合を例示しているが、
図13に示すように、検知部15は、移動体1の状態をより高精度に検知するための構成として、感圧センサ153U,153Dをさらに有していてもよい。
図13は、実施形態の他の変形例における移動体1の機能構成を示す図である。この場合、
図14に示すように、感圧センサ153Uを座席11の座面に設けられた着座センサとすることができ、感圧センサ153Dをフレーム4の荷物置き部4b及び足置き部4cに設けられたフットセンサとすることができる。
図14は、移動体1の状態を検知するための構成を示す図である。
【0072】
各感圧センサ153U,153Dは、荷重(圧力)の大きさを検知でき、制御部13のシミュレーション部134は、
図13に示すように、各感圧センサ153U,153Dで検知された荷重の大きさや双方の荷重の相関により、搭乗者及び/又は荷物の重心を高精度に推定できる。
【0073】
また、各感圧センサ153U,153Dは、複数の感圧素子が2次元的に配列された構成を有し、2次元的に荷重の大きさを検知できるように構成されていてもよい。これにより、制御部13のシミュレーション部134は、各感圧センサ153U,153Dのセンサ値(圧力分布)により、搭乗者及び/又は荷物の重心をより高精度に推定できる。
【0074】
シミュレーション部134は、搭乗者の重心を推定したら、シミュレーション時の仮想車両に乗員の重心を反映させ、物理シミュレーションを実施してその結果を転倒可能性判定部135へ供給する。転倒可能性判定部135は、物理シミュレーションの結果に応じて、転倒可能性の有無を判定する。
【0075】
例えば、
図15のように移動体1で上り坂を上るシーンでは、搭乗者の重心により、転倒可能性の有無が変わり得る。
図15は、移動体1の状態に応じた転倒可能性の予測を示す図である。すなわち、
図15(a)に示すように、搭乗者が座席11に深く座り後方に重心が置かれる場合、仮想移動体の重心も後方にあり、仮想移動体が上り坂を登るときに後方に転倒すると予測される。このとき、転倒可能性があるものとして、搭乗者へ警告又は速度制限のフィードバックを行う。一方、
図15(b)に示すように、搭乗者が前かがみに座り前方に重心が置かれる場合、仮想移動体の重心も前方にあり、仮想移動体が転倒せずに上り坂を上ることができると予測される。すなわち、転倒可能性がないものとされる。
【0076】
このように、搭乗者の搭乗状態や姿勢変化による重心移動を仮想移動体に反映させることで、走行時に常に変化する全体の重心を起点として高精度に転倒可能性の予測が可能になる。すなわち、搭乗者の重心を仮想移動体の荷重状態として仮想移動体の物理シミュレーションに反映させることで、より精度の高い転倒可能性の判定が行え、搭乗者へ状況にあった適切なフィードバックが行える。そのため、過度に安全機能を働かせる必要がなく、本来なら行けないところを行けると判断することなく、搭乗者にとってより利便性と安全性の高い移動体を提供できる。
【0077】
また、実施形態では、表示装置161が表示灯である場合が例示されているが、表示装置161は他の形態であってもよい。例えば、
図16(a)に示すように、表示装置161は、画面161a1を有するモニタ161aであり、警告表示指令を受けた場合、仮想路面における転倒可能性の原因となる部分を路面又は仮想路面から識別可能に画面161a1上に表示する。あるいは、
図16(b)に示すように、表示装置161は、路面に画像を投影可能なプロジェクタ161bであり、警告表示指令を受けた場合、仮想路面における転倒可能性の原因となる部分を路面から識別可能に路面に表示させる。あるいは、図示しないが、表示装置161は、ヘッドマウントディスプレイなど他の形態でもよい。
図16は、表示装置161の構成を示す図である。
【0078】
例えば表示装置161がモニタ161aである場合、前方路面に転倒につながる大きな石が落ちているシーンでは、
図17(a)に示すように、画面161a1において、実路面又は仮想路面の画像203上に石の画像201が表示されるとともに、その石が転倒可能性の原因となる部分であることを示す枠オブジェクト202が表示される。さらに、
図17(b)に示すように、拡大された石の画像204及び拡大された枠オブジェクト205が表示されるようにしてもよい。あるいは、
図18(a)に示す枠オブジェクト202に代えて、
図18(b)に示すように、仮想移動体の転倒可能性を示す画像206が石の画像201の近傍に表示されてもよい。
図17、
図18は、表示装置161の動作を示す図である。
【0079】
このように、転倒可能性を分かりやすく伝えるインターフェースとして表示装置161を構成することで、転倒可能性の原因(根拠)を分かりやすく搭乗者に伝えることができる。これにより、搭乗者により安心感を与えるとともに、より安全に走行させるための人の搭乗状態を教えることで転倒を搭乗者に回避させることが可能になる(搭乗者の未来に何が起きるかが分かり、その対応も分かる)。すなわち、搭乗者に転倒可能性の原因となる部分(例えば、石)を回避する運転を行うように促すことができる。
【0080】
また、表示装置161がモニタ161aである場合、
図19に示すように、搭乗者の姿勢を示す画像207を表示してもよく、搭乗姿勢の改善を促す矢印オブジェクト208をさらに表示してもよい。これにより、搭乗姿勢に起因した移動体の転倒可能性を軽減させるように搭乗者に促すことができる。
図19は、表示装置161の動作を示す図である。
【0081】
あるいは、移動体1は、操作指示を受けて移動体1を走行させる操作運転モード(第1のモード)と移動体1の自律走行を行う自立運転モード(第2のモード)とを有していてもよい。この場合、移動体1は、例えば
図20に示すように構成される。
図20は、実施形態の他の変形例における移動体1の機能構成を示す図である。制御部13の電子制御装置13aは、走行経路作成部139をさらに有する。移動体1は、記憶部17及び通信部18をさらに有する。記憶部17には、自律走行を行う候補となる経路を含む地図情報であるグローバルマップ171が予め格納される。また、路面再構成部133で作成された仮想空間情報172が格納され得る。
【0082】
例えば、走行制御部137は、自立運転モードで動作する旨の操作指示を操作インターフェース12aから受けた場合、移動体1の運転モードを操作運転モードから自立運転モードへ切り替える。走行制御部137は、自立運転モードを解除する旨の操作指示を操作インターフェース12aから受けるまで、自立運転モードで各部を制御する。
【0083】
自立運転モードでは、通信部18は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を有し、GNSS受信機で受信された移動体1の位置情報を走行経路作成部139へ供給する。走行経路作成部139は、記憶部17を参照してグローバルマップ171を取得し、
図21(a)に示すように、グローバルマップ171上における移動体1の位置を特定しスタート地点SP1としてマッピングする。走行経路作成部139は、予め登録された又は予め操作インターフェース12a経由で搭乗者から受けた目的地の情報に応じて、グローバルマップ171上におけるその位置を特定し目的地点TP1としてマッピングする。走行経路作成部139は、スタート地点SP1から目的地点TP1までの経路を計算し、計算された経路RT1を示す走行経路情報173を生成して記憶部17に格納する。そして、走行制御部137は、グローバルマップ171及び走行経路情報173を参照するとともに通信部(GNSS受信機)18で受信された位置情報により移動体1の現在位置を特定しながら、自律走行を行うよう各部を制御する。
【0084】
また、移動体1は、経路RT1に沿って自律走行をスタートすると、
図4に示すS1~S7と同様の動作を行う。例えば、移動体1は、経路RT1について仮想空間内で仮想移動体を実移動体に先行して走行させる(S4)。
図21(b)に示すように、経路RT1における
図21(a)に破線で囲って示す注意地点CP1において仮想空間内の仮想移動体で転倒可能性ありと判定された場合(S5でYes)、移動体1は、自律的に転倒可能性の原因となる部分を回避する運転を行う(S6)。すなわち、
図21(c)に示すように、移動体1は、仮想空間内の仮想移動体で転倒可能性の原因となる部分を回避する経路を再計算し、再計算後の経路RT1aについて、再び、仮想空間内で仮想移動体を実移動体に先行して走行させ(S4)、転倒可能性の判定を行う(S5)。
【0085】
移動体1は、注意地点CP1において仮想空間内の仮想移動体で転倒可能性なしと判定された場合(S5でNo)、経路RT1aの安全性が確認されたものとして、再計算された経路RT1aを示す走行経路情報173aを生成して記憶部17に格納する。このとき、移動体1は、走行経路情報173に上書きで走行経路情報173aを格納する。これにより、移動体1は、走行経路情報173に代えて走行経路情報173aを参照しながら、自律走行を行うよう各部を制御することができる。
【0086】
また、移動体1は、再計算後の経路RT1aについても仮想空間内の仮想移動体で転倒可能性ありと判定された場合(S5でYes)、又は、再計算せずに経路RT1上の注意地点CP1で転倒可能性ありと判定された(S5でYes)時点で、移動体1は、転倒可能性の原因となる部分(例えば、
図22(a)、
図22(b)に示す注意地点CP1)を回避する別のルートを求め、そのルートに沿って自律走行の運転を行う(S6)。すなわち、
図22(c)、
図22(d)に示すように、移動体1は、仮想空間内の仮想移動体で転倒可能性の原因となる部分を回避する経路を再計算し、再計算後の経路RT2について、再び、仮想空間内で仮想移動体を実移動体に先行して走行させ(S4)、転倒可能性の判定を行う(S5)。
【0087】
移動体1は、再計算後の経路RT2内の各地点において仮想空間内の仮想移動体で転倒可能性なしと判定された場合(S5でNo)、経路RT2の安全性が確認されたものとして、再計算された経路RT2を示す走行経路情報173bを生成して記憶部17に格納する。このとき、移動体1は、走行経路情報173に上書きで走行経路情報173bを格納する。これにより、移動体1は、走行経路情報173(又は走行経路情報173a)に代えて走行経路情報173bを参照しながら、自律走行を行うよう各部を制御することができる。
【0088】
したがって、自律走行時に走行しながら、自分の走っている道の安全を確認し、シミュレーションにより近い将来自律走行している本体に起きうる結果から自分で走行経路を引き直して走ることで、自律走行の安全性を向上できる。
【0089】
また、移動体1は、注意地点CP1の位置の情報を、転倒可能性が存在する位置として予測された予測位置情報174に格納することができる。また、移動体1は、注意地点CP1の位置の情報を通信部18から通信回線(無線回線及び/又は有線回線)経由でクラウドコンピュータ(インターネット上のサーバ)200に登録位置情報としてアップロードして登録しておく。また、移動体1は、通信部18から通信回線(無線回線及び/又は有線回線)経由でクラウドコンピュータ(インターネット上のサーバ)200にアクセスし、他の移動体1によりアップロードされた登録位置情報175を取得して記憶部17に格納しておく。これにより、移動体1は、自律走行の経路を計算する際に、転倒可能性が存在する位置(登録位置情報175で示される位置)を避けて経路を計算できる。
【0090】
また、移動体1が操作運転モードで搭乗者が搭乗して運転しているときのシミュレーション結果に基づく不安全な場所(人の操作により回避できたとしても)を不安全度に応じたレベルでGPSなどの衛星情報やWiFiなどの狭小エリア通信などを用いて場所を特定してもよい。
【0091】
本実施形態の制御部13で実行される制御処理プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
【0092】
さらに、制御処理プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、本実施形態で実行される制御処理プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1…移動体、13…制御部、14…検知部、15…検知部。