(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】中空ボール用ゴム組成物及び中空ボール
(51)【国際特許分類】
A63B 39/00 20060101AFI20220308BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20220308BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20220308BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220308BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20220308BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220308BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20220308BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
A63B39/00 Z
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/34
C08K3/36
C08K7/06
C08L21/00
(21)【出願番号】P 2017209399
(22)【出願日】2017-10-30
【審査請求日】2020-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 建彦
(72)【発明者】
【氏名】田口 順則
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 文哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡明
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 邦夫
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029769(JP,A)
【文献】特表2011-530619(JP,A)
【文献】特開昭61-143455(JP,A)
【文献】特開2002-017899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材ゴムと、多数の扁平粒子からなる無機充填剤と、炭素系充填剤とを含んでおり、
上記炭素系充填剤の平均粒子径D
50
c(μm)を、その平均厚さTc(μm)で除すことにより求められる扁平度DLcが50以上であり、
上記炭素系充填剤の量Mcと、上記無機充填剤の量Miとの質量比Mc/Miが、0.01以上1.00以下である中空ボール用ゴム組成物。
【請求項2】
その40℃における窒素ガス透過係数N
2A(cm
3・cm/cm
2/sec/cmHg)が、下記式(1)を満たす請求項1に記載のゴム組成物。
N
2A / N
2B ≦ 0.95 (1)
(ここで、式(1)中、N
2Bは、扁平度DLcが50以上の炭素系充填剤を、扁平度DLcが1の炭素系充填剤に置換して得られるゴム組成物の、40℃における窒素ガス透過係数(cm
3・cm/cm
2/sec/cmHg)である。)
【請求項3】
上記炭素系充填剤は、その構成成分の90質量%
以上が炭素原子である請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
上記炭素系充填剤が、カーボンファイバー、グラファイト、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群から選択される請求項1から3のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項5】
上記炭素系充填剤の平均粒子径D
50
cが0.01μm以上100μm以下である請求項1から4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
上記無機充填剤の平均粒子径D
50
i(μm)を、その平均厚さTi(μm)で除すことにより求められる扁平度DLiが5以上である請求項1から5のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項7】
上記無機充填剤が、タルク、カオリンクレー及びマイカからなる群から選択される請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
上記無機充填剤の平均粒子径D
50
iが0.01μm以上100μm以下である請求項6又は7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
上記基材ゴム100質量部に対する上記無機充填剤の量は、1質量部以上150質量部以下である請求項1から8のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項10】
上記基材ゴムが、ブタジエンゴム及び天然ゴムを含んでおり、この基材ゴム中のブタジエンゴムの配合量Bの天然ゴムの配合量Nに対する質量比B/Nが、1.4以下である請求項1から9のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項11】
硫黄含有量が0.01質量%以上10質量%以下である請求項1から10のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項12】
上記窒素ガス透過係数N
2Aが、3.0×10
-9(cm
3・cm/cm
2/sec/cmHg)以下である請求項
2に記載のゴム組成物。
【請求項13】
ショアA硬度Haが20以上88以下である請求項1から12のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項14】
20℃における損失正接tanδが、1.0以下である請求項1から13のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項15】
JIS K6251に準拠して得られる破断点伸びEB(%)と、上記硬度Haとの積が、1,000以上100,000以下である請求項
13に記載のゴム組成物。
【請求項16】
JIS K6258に準拠して得られるトルエン膨潤率SW(%)と、上記硬度Haとの積が、2,500以上50,000以下である請求項
13又は15に記載のゴム組成物。
【請求項17】
上記中空ボールがテニスボールである請求項1から16のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項18】
基材ゴムと、その平均粒子径D
50
c(μm)を、その平均厚さTc(μm)で除すことにより求められる扁平度DLcが50以上である炭素系充填剤とを混合して、マスターバッチを得る第一工程と、
上記マスターバッチに、多数の扁平粒子からなる無機充填剤を添加して、この無機充填剤をなす多数の扁平粒子を上記基材ゴム中に配向させる第二工程とを含んでおり、
上記炭素系充填剤の量Mcと、上記無機充填剤の量Miとの質量比Mc/Miが、0.01以上1.00以下である中空ボール用ゴム組成物の製造方法。
【請求項19】
ゴム組成物からなる中空のコアを備えており、
上記ゴム組成物が、基材ゴムと、多数の扁平粒子からなる無機充填剤と、炭素系充填剤とを含んでおり、
上記炭素系充填剤の平均粒子径D
50
c(μm)を、その平均厚さTc(μm)で除すことにより求められる扁平度DLcが50以上であり、
上記炭素系充填剤の量Mcと、上記無機充填剤の量Miとの質量比Mc/Miが、0.01以上1.00以下である中空ボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空ボール用ゴム組成物に関する。詳細には、本発明は、スポーツ等に用いられる中空ボール用ゴム組成物及び中空ボールに関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツに用いられる代表的な中空ボールの例として、テニスボールがある。テニスボールは、ゴム組成物からなるコアを備えている。このコアは、中空の球体である。硬式テニスで使用されるテニスボールでは、コアの内部に、大気圧よりも40kPaから120kPa高い圧力の圧縮ガスが充填されている。このテニスボールは、加圧テニスボール(プレッシャーボール)とも称される。
【0003】
テニスのプレーでは、反発性能の高いテニスボールが有利である。また、適度な反発性能を有するテニスボールは、プレーヤーに良好な打球感を与える。加圧テニスボールでは、大気圧よりも高いコアの内圧により、優れた反発性能と良好な打球感とが付与される。一方、コアの内圧が大気圧よりも高いことに起因して、充填された圧縮ガスが徐々にコアから漏出する。ガスの漏出によって、コアの内圧が大気圧付近まで減少する場合がある。コアの内圧が減少したテニスボールは、反発性能及び打球感に劣る。反発性能及び打球感の経時変化が少ないテニスボールが要望されている。
【0004】
特開昭61-143455号公報では、ガスの漏出を防止するための材料として、鱗片状ないし平板状充填剤を配合したゴム材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開昭61-143455号公報が開示するゴム材料では、鱗片状又は平板状充填剤がガスの透過を阻害して漏出防止に寄与する。しかし、鱗片状又は平板状充填剤の場合、その配合量によっては、ゴム材料中で充填剤同士の接触が生じるため、このゴム材料の損失正接tanδが増大する要因ともなっていた。ゴム材料の損失正接tanδは、このゴム材料を用いて得られるテニスボールの反発性能と相関する。損失正接tanδの増大は、テニスボールの反発性能を低下させる。反発性能が低下したテニスボールは、打球感も劣る。
【0007】
特に、競技用のテニスボールの場合、公平性の観点から、国際テニス連盟により、その外形、重量、反発性能(リバウンド)等が所定範囲内に制限されている。反発性能がこの規定を満たさないテニスボールは、公式競技で使用することができない。適正な反発性能及び良好な打球感を有し、かつ、ガスの漏出を効果的に防止しうる中空ボール用ゴム材料は、未だ提案されていない。
【0008】
本発明の目的は、ガスの漏出防止効果が高く、適正な反発性能及び良好な打球感が長期間維持されうる耐久性に優れた中空ボール用ゴム組成物及び中空ボールの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る中空ボール用ゴム組成物は、基材ゴムと、多数の扁平粒子からなる無機充填剤と、炭素系充填剤とを含んでいる。この炭素系充填剤の平均粒子径D50
c(μm)を、その平均厚さTc(μm)で除すことにより求められる扁平度DLcは50以上である。この炭素系充填剤の量Mcと無機充填剤の量Miとの質量比Mc/Miは、0.01以上1.00以下である。
【0010】
好ましくは、このゴム組成物の40℃における窒素ガス透過係数N2A(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)は、下記式(1)を満たしている。
N2A / N2B ≦ 0.95 (1)
(ここで、式(1)中、N2Bは、扁平度DLcが50以上の炭素系充填剤を、扁平度DLcが1の炭素系充填剤に置換して得られるゴム組成物の、40℃における窒素ガス透過係数(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)である。)
【0011】
好ましくは、この炭素系充填剤の構成成分の90質量%以上は、炭素原子である。好ましくは、この炭素系充填剤は、カーボンファイバー、グラファイト、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群から選択される。好ましくは、この炭素系充填剤の平均粒子径D50
cが0.01μm以上100μm以下である。
【0012】
好ましくは、この無機充填剤の平均粒子径D50
i(μm)を、その平均厚さTi(μm)で除すことにより求められる扁平度DLiは5以上である。
【0013】
好ましくは、この無機充填剤は、タルク、カオリンクレー及びマイカからなる群から選択される。好ましくは、この無機充填剤の平均粒子径D50
iは0.01μm以上100μm以下である。
【0014】
好ましくは、この基材ゴム100質量部に対する無機充填剤の量は、1質量部以上150質量部以下である。
【0015】
好ましくは、この基材ゴムは、ブタジエンゴム及び天然ゴムを含んでいる。好ましくは、この基材ゴム中のブタジエンゴムの配合量Bの天然ゴムの配合量Nに対する質量比B/Nは、1.4以下である。
【0016】
好ましくは、このゴム組成物の硫黄含有量は、0.01質量%以上10質量%以下である。
【0017】
好ましくは、このゴム組成物の40℃における窒素ガス透過係数N2Aは、3.0×10-9(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)以下である。
【0018】
好ましくは、このゴム組成物のショアA硬度Haは20以上88以下である。好ましくは、このゴム組成物の20℃における損失正接tanδは1.0以下である。
【0019】
好ましくは、このゴム組成物の、JIS K6251に準拠して得られる破断点伸びEB(%)と、硬度Haとの積は、1,000以上100,000以下である。好ましくは、このゴム組成物の、JIS K6258に準拠して得られるトルエン膨潤率SW(%)と、硬度Haとの積は、2,500以上50,000以下である。
【0020】
好ましくは、この中空ボールはテニスボールである。
【0021】
この中空ボール用ゴム組成物の製造方法は、
(1)基材ゴムと、その平均粒子径D50
c(μm)を、その平均厚さTc(μm)で除すことにより求められる扁平度DLcが50以上である炭素系充填剤とを混合して、マスターバッチを得る第一工程と、
(2)このマスターバッチに、多数の扁平粒子からなる無機充填剤を添加して、この無機充填剤をなす多数の扁平粒子を基材ゴム中に配向させる第二工程と
を含んでいる。この炭素系充填剤の量Mcと、無機充填剤の量Miとの質量比Mc/Miは、0.01以上1.00以下である。
【0022】
この中空ボールは、ゴム組成物からなる中空のコアを備えている。このゴム組成物は、基材ゴムと、多数の扁平粒子からなる無機充填剤と、炭素系充填剤とを含んでいる。この炭素系充填剤の平均粒子径D50
c(μm)を、その平均厚さTc(μm)で除すことにより求められる扁平度DLcは50以上である。この炭素系充填剤の量Mcと無機充填剤の量Miとの質量比Mc/Miは、0.01以上1.00以下である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る中空ボール用ゴム組成物では、扁平度DLcが50以上である炭素系充填剤を少量含むことにより、無機充填剤をなす多数の扁平粒子の配向性が向上する。無機充填剤の配向性の向上により、得られるゴム組成物のガス透過係数が減少する。このゴム組成物からなるコアは、ガスバリア性に優れている。このコアを備えた中空ボールでは、無機充填剤の過剰な配合に起因する反発性能及び打球感の低下が抑制される。この中空ボールでは、適正な反発性能及びそれに伴う良好な打球感が維持されうる。この中空ボールは、耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る中空ボールの一部切り欠き断面図である。
【
図2】
図2は、実施例1のゴム組成物からなる試験片のSEM写真である。(2a)は試験片の鉛直方向からの観察画像であり、(2b)は試験片の水平方向からの観察画像である。
【
図3】
図3は、比較例1のゴム組成物からなる試験片のSEM写真である。(3a)は試験片の鉛直方向からの観察画像であり、(3b)は試験片の水平方向からの観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る中空ボール2が示された一部切り欠き断面図である。この中空ボール2は、テニスボールである。このテニスボール2は、中空のコア4と、このコア4を被覆する2枚のフェルト部6と、この2枚のフェルト部6の間隙に位置するシーム部8とを有している。コア4の厚みは、通常、3mmから4mm程度である。コア4の内部には、圧縮ガスが充填されている。コア4の表面には、2枚のフェルト部6が、接着剤により貼り付けられている。
【0027】
コア4は、ゴム組成物からなる。本発明の一実施形態に係るゴム組成物が、このコア4の形成に好適に用いられる。このゴム組成物は、基材ゴムと、無機充填剤と、炭素系充填剤とを含んでいる。なお、本願明細書において、炭素系充填剤は、無機充填剤の概念には含まれない。
【0028】
無機充填剤は、多数の扁平粒子からなる。炭素系充填剤の平均粒子径D50
c(μm)を平均厚さTc(μm)で除すことにより求められる扁平度DLcは50以上である。換言すれば、この炭素系充填剤も、多数の扁平粒子からなる。本発明に係るゴム組成物では、炭素系充填剤をなす多数の扁平粒子が、無機充填剤をなす多数の扁平粒子と共に、ゴム成分のマトリックスに分散している。マトリックスに分散する多数の扁平粒子は、気体分子の移動を阻害する。
【0029】
本発明において、ゴム組成物の製造方法は、特に限定されないが、典型的には、マトリックスの主成分である基材ゴムと、無機充填剤と、炭素系充填剤とを配合して、既知の混練機等で加熱混練することにより得られる。加熱されることにより、基材ゴムは流動する。基材ゴムの流動にともなって、無機充填剤をなす多数の扁平粒子と、炭素系充填剤をなす多数の扁平粒子とが移動する。
【0030】
炭素系充填剤と基材ゴムとの相互作用は、強い。強い相互作用により、炭素系充填剤をなす多数の扁平粒子は、流動する基材ゴムとともに移動して、この基材ゴムの流動方向に沿って配置される。このゴム組成物では、炭素系充填剤をなすほとんどの扁平粒子の長軸方向が、概ね基材ゴムの流動方向を向いている。このゴム組成物のマトリックス中における炭素系充填剤の配向性は、高い。配向性が高く、かつ扁平度DLcが50以上の多数の扁平粒子による気体分子の移動阻害効果は、大きい。
【0031】
一方、無機充填剤と基材ゴムとの相互作用は、弱い。従って、通常、無機充填剤をなす多数の扁平粒子の移動方向はランダムであり、基材ゴムの流動方向と必ずしも一致しない。ランダムに分散した多数の扁平粒子による気体分子の移動阻害効果は、小さい。
【0032】
しかし、本発明に係るゴム組成物では、無機充填剤をなす多数の扁平粒子が、基材ゴムの流動方向に沿って配置される炭素系充填剤の粒子間を移動する。換言すれば、このゴム組成物では、炭素系充填剤が、流動する基材ゴム中の整流板として機能する。この炭素系充填剤による整流作用により、基材ゴムとの相互作用の弱い無機充填剤をなす多数の扁平粒子も、基材ゴムの流動方向に沿って配置される。このゴム組成物のマトリックス中における無機充填剤の配向性は、高い。配向性の高い無機充填剤による気体分子の移動阻害効果は、大きい。
【0033】
このゴム組成物では、扁平度DLcが50以上の炭素系充填剤によって、多数の扁平粒子からなる無機充填剤の配向性が向上する。これにより、無機充填剤を過剰に配合することなく、ゴム組成物のガス透過係数が十分に低減されうる。このゴム組成物からなるコア4は、ガスバリア性に優れている。このコア4を備えた中空ボール2では、無機充填剤の過剰な配合に起因する反発性能及び打球感の低下が抑制される。この中空ボール2では、適正な反発性能及びそれに伴う良好な打球感が維持されうる。この中空ボール2は、耐久性に優れている。
【0034】
ガス透過係数低減の観点から、無機充填剤の平均粒子径D50
i(μm)を、その平均厚さTi(μm)で除すことにより求められる扁平度DLiは5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上がさらに好ましい。基材ゴムヘの分散性及び流動性の観点から扁平度DLiは200以下が好ましく、150以下がより好ましく、100以下がさらに好ましい。なお、無機充填剤が、複数の粒子の集合体又は凝集体を含む場合、扁平度DLiは、この集合体又は凝集体を含んだ状態で測定して得られる平均粒子径D50
i及び平均厚さTiから算出される。
【0035】
本願明細書において、無機充填剤の平均粒子径D50
i(μm)とは、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、セイシン企業社製のLMS-3000)によって測定される粒度分布において、小径側から累積して50体積%となる平均粒子径を意味する。ガス透過係数低減の観点から、無機充填剤の平均粒子径D50
iは、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上が特に好ましい。基材ゴムとの混合性の観点から、平均粒子径D50
iは、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましい。
【0036】
ガス透過係数低減の観点から、無機充填剤の平均厚さTiは、1.00μm以下が好ましく、0.50μm以下がより好ましく、0.20μm以下が特に好ましい。基材ゴムとの混合性の観点から、平均厚さTiは0.002μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましく、0.010μm以上が特に好ましい。無機充填剤の平均厚さTiは、後述する炭素系充填剤の平均厚さTcと同様の方法にて測定される。
【0037】
扁平度DLiが5以上の無機充填剤の例として、タルク、カオリンクレー、マイカ、ベントナイト、ハロサイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ノントロナイト、バーミキュライト、イライト、アロフェン等が挙げられる。好ましくは、タルク、カオリンクレー及びマイカからなる群から選択される。ゴム組成物が2種以上の無機充填剤を含んでもよい。
【0038】
ガス透過係数低減の観点から、無機充填剤の配合量Miは、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、25質量部以上が特に好ましい。反発性能及び打球感の観点から、この配合量Miは、150質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、70質量部以下が特に好ましい。
【0039】
本発明の効果が阻害されない限り、扁平度DLiが5未満の他の無機充填剤が併用されてもよい。この他の無機充填剤として、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛等が例示される。扁平度DLiが5未満の無機充填剤が併用される場合、その配合割合は、ガス透過係数低減の観点から、無機充填剤の総配合量の50質量%が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0040】
炭素系充填剤の主構成成分は、炭素原子である。好ましくは、その構成成分の90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上が炭素原子である炭素系充填剤である。
【0041】
前述した通り、本発明に係るゴム組成物に配合される炭素系充填剤の扁平度DLcは、50以上である。ガス透過係数低減及び整流効果の観点から、炭素系充填剤の扁平度DLcは、70以上が好ましく、100以上がより好ましく、150以上がさらに好ましく、200以上が特に好ましい。基材ゴムへの分散性及び流動性の観点から、好ましい扁平度DLcは1000以下である。なお、炭素系充填剤が、複数の粒子の集合体又は凝集体を含む場合、扁平度DLcは、この集合体又は凝集体を含んだ状態で測定して得られる平均粒子径D50
c及び平均厚さTcから算出される。
【0042】
本願明細書において、炭素系充填剤の平均粒子径D50
c(μm)とは、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、セイシン企業社製のLMS-3000)によって測定される粒度分布において、小径側から累積して50体積%となる平均粒子径を意味する。ガス透過係数低減及び整流効果の観点から、炭素系充填剤の平均粒子径D50
cは0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1.0μm以上が特に好ましい。基材ゴムとの混合性及び流動性の観点から、平均粒子径D50
cは100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、70μm以下が特に好ましい。
【0043】
本願明細書において、炭素系充填剤の平均厚さTc(μm)は、透過型電子顕微鏡等の顕微鏡観察により測定される。具体的には、炭素系充填剤から採取した複数の粒子を、透過型電子顕微鏡(例えば、日立ハイテクノロジーズ社製のH-9500)で観察して得られた画像から、この炭素系充填剤の平均粒子径D50
cと同等の大きさの粒子を選択してその厚さを測定する。12個の粒子について得られた測定値の平均値が、平均厚さTcとされる。
【0044】
ガス透過係数低減及び整流効果の観点から、炭素系充填剤の平均厚さTcは、1.00μm以下が好ましく、0.50μm以下がより好ましく、0.20μm以下が特に好ましい。基材ゴムとの混合性及び流動性の観点から、平均厚さTcは0.002μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましく、0.010μm以上が特に好ましい。
【0045】
本発明に係るゴム組成物において、扁平度DLcが50以上である限り、炭素系充填剤の種類は特に限定されない。ガス透過係数低減及び整流効果の観点から、好ましくは、カーボンファイバー、グラファイト、グラフェン及びカーボンナノチューブからなる群から選択される。より好ましくは、グラファイト及びグラフェンであり、さらに好ましくは、グラフェンである。ゴム組成物が、2種以上の炭素系充填剤を含んでもよい。
【0046】
通常、グラフェンは、多数の炭素原子が平面状に結合した単層構造をなしており、グラフェンシートとも称される。グラフェンが、グラフェンシートの積層体又は集合体を含んでもよい。ガス透過係数低減の観点から、グラフェンシートの積層数は、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。
【0047】
グラフェンの製造方法は特に限定されない。例えば、グラファイト、グラファイト酸化物等から、剥離法、超音波処理法、化学蒸着法、エピタキシャル成長法等、既知の方法により得られてもよい。本発明の目的が達成される限り、市販されているグラフェンを用いてもよい。具体的には、XG Sciences社の商品名「xGnP-M-5」、イーエムジャパン社の商品名「G-12」、Graphene Laboratories社の商品名「GNP-C1」、アイテック社の商品名「iGrafen」等が例示される。
【0048】
グラファイトは、複数のグラフェンシートが、1層毎に少しずつずれた状態で積層してなる炭素材料であり、黒鉛とも称される。グラファイトの種類及び製造方法は特に限定されない。例えば、土状黒鉛、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、半鱗状黒鉛等の天然黒鉛、天然黒鉛を加工して得られる膨張黒鉛及び膨張化黒鉛、無定型炭素を熱処理して得られる人造黒鉛等が挙げられる。本発明の目的が達成される限り、市販されているグラファイトを用いてもよい。具体的には、イメリス社の商品名「SFG44」、「C-THERM 011」及び「P44」、日本黒鉛社の商品名「CP」、「UP」及び「GR」等が例示される。
【0049】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(Single-walled carbon nanotube;SWNT)であってもよく、多層カーボンナノチューブ(Multi-walled carbon nanotube;MWNT)であってもよく、それらの混合物であってもよい。また、そのカーボンナノチューブは、アームチェア型構造であってもよく、ジグザグ型構造であってもよく、らせん型構造であってもよく、それらの混合物であってもよい。
【0050】
本発明に係るゴム組成物では、扁平度DLcが50以上の炭素系充填剤の配合量Mcと、無機充填剤の配合量Miとの質量比Mc/Miが、0.01以上1.00以下に設定される。この比Mc/Miが0.01以上のゴム組成物では、炭素系充填剤の整流効果により無機充填剤の配向性が向上する。この観点から、比Mc/Miは、0.05以上が好ましく、0.1以上が特に好ましい。比Mc/Miが1.00以下のゴム組成物からなるコア4を備えた中空ボール2は、反発性能及び打球感に優れている。この観点から、比Mc/Miは、0.50以下が好ましく、0.30以下が特に好ましい。
【0051】
炭素系充填剤の配合量Mcは特に限定されず、質量比Mc/Miが0.01以上1.00以下となるように、適宜調整される。ガス透過係数低減及び整流効果の観点から、この配合量Mcは、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上が特に好ましい。コスト低減の観点から、この配合量Mcは、150質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、50質量部以下が特に好ましい。
【0052】
本発明の効果が阻害されない限り、扁平度DLcが50未満の他の炭素系充填剤が併用されてもよい。この他の炭素系充填剤として、カーボンブラック、活性炭、フラーレン等が例示される。扁平度DLcが50未満の炭素系充填剤が併用される場合、その配合割合は、ガス透過係数低減及び整流効果の観点から、炭素系充填剤の総配合量の50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0053】
好適な基材ゴムとしては、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリクロロプレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体及びアクリルゴムが例示される。より好ましい基材ゴムは、天然ゴム及びポリブタジエンである。基材ゴムとして、2種以上が併用されてもよい。
【0054】
天然ゴムとポリブタジエンとが併用される場合、打球感の観点から、天然ゴムの配合量Nに対するポリブタジエンゴムの配合量Bの質量比B/Nは、1.4以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.4以下が特に好ましい。基材ゴムの全量が、天然ゴムであってもよい。
【0055】
このゴム組成物は、さらに、加硫剤、加硫促進剤及び加硫助剤を含みうる。加硫剤として、例えば、粉末硫黄、不溶性硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄等の硫黄;モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド等の硫黄化合物が挙げられる。加硫剤の配合量は、その種類に応じて調整されるが、反発性能の観点から、基材ゴム100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。加硫剤の配合量は5.0質量部以下が好ましい。
【0056】
好適な加硫促進剤として、例えば、グアニジン系化合物、スルフェンアミド系化合物、チアゾール系化合物、チウラム系化合物、チオウレア系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物、アルデヒド-アミン系化合物、アルデヒド-アンモニア系化合物、イミダゾリン系化合物、キサンテート系化合物等が挙げられる。反発性能の観点から、加硫促進剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましい。加硫促進剤の配合量は、6.0質量部以下が好ましい。
【0057】
加硫助剤としては、ステアリン酸等の脂肪酸、亜鉛華等の金属酸化物、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩が例示される。本発明の効果を阻害しない範囲で、ゴム組成物が、さらに老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、加工助剤、着色剤等の添加剤を含んでもよい。
【0058】
好ましくは、このゴム組成物は硫黄を含んでいる。ゴム組成物に含まれる硫黄は、架橋構造の形成に寄与しうる。ゴム組成物の架橋密度は、このゴム組成物から得られる中空ボール2の反発性能及び打球感に影響する。反発性能の観点から、このゴム組成物の硫黄含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。打球感の観点から、硫黄含有量は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、7質量%以下が特に好ましい。本願明細書において、ゴム組成物の硫黄含有量は、第17改正日本薬局方、一般試験法に記載の酸素フラスコ燃焼法に準じて測定される硫黄元素の量である。このゴム組成物中の硫黄は、単体としての硫黄であってもよく、硫黄化合物を構成する硫黄原子でもよい。この硫黄が、加硫剤又は加硫促進剤に由来するものであってもよい。
【0059】
このゴム組成物の40℃における窒素ガス透過係数N2Aは、3.0×10-9(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)以下が好ましい。窒素ガス透過係数N2Aが3.0×10-9(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)以下のゴム組成物からなるコア4を備えた中空ボール2は、耐久性に優れる。この中空ボール2では、適度な反発性能と良好な打球感が維持されうる。この観点から、窒素ガス透過係数N2Aは、9.9×10-10(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)以下がより好ましく、7.0×10-10(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)以下が特に好ましい。
【0060】
好ましくは、このゴム組成物の40℃における窒素ガス透過係数N2A(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)は、下記式(1)を満たしている。
N2A / N2B ≦ 0.95 (1)
ここで、式(1)中、N2Bは、扁平度DLcが50以上の炭素系充填剤を、扁平度DLcが1の炭素系充填剤に置換して得られるゴム組成物の、40℃における窒素ガス透過係数(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)である。本願明細書において、窒素ガス透過係数N2A及びN2Bは、JIS K7126-1に記載の差圧法に準拠して測定される。測定方法の詳細については、後述する。
【0061】
上記式(1)を満たすゴム組成物からなるコア4では、ガスの漏出が効果的に低減される。このコア4を備えた中空ボール2では、適度な反発性能と良好な打球感とが、長期間維持されうる。この観点から、窒素ガス透過係数N2Aと、窒素ガス透過係数N2Bとの比N2A/N2Bは、0.85以下がより好ましく、0.75以下が特に好ましい。比N2A/N2Bは、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上が特に好ましい。
【0062】
反発性能の観点から、このゴム組成物のショアA硬度Haは、20以上が好ましく、40以上がより好ましく、50以上が特に好ましい。打球感の観点から、硬度Haは、88以下が好ましく、85以下がより好ましく、80以下が特に好ましい。硬度Haは、自動硬度計(H.バーレイス社の商品名「デジテストII」)に取り付けられたタイプAデュロメータによって測定される。測定には、熱プレスで成形された、厚みが約2mmであるスラブが用いられる。23℃の温度下に2週間保管されたスラブが、測定に用いられる。測定時には、3枚のスラブが重ね合わされる。
【0063】
ゴム組成物の20℃における損失正接tanδは、このゴム組成物からなるコア4を備えた中空ボール2の反発性能と相関する。適度な反発性能が得られるとの観点から、このゴム組成物の20℃における損失正接tanδは、1.0以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.7以下が特に好ましい。好ましくは、このゴム組成物の20℃における損失正接tanδは0.05以上である。
【0064】
反発性能の観点から、このゴム組成物の破断点伸びEB(%)とショアA硬度Haとの積(EB×Ha)は、1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、5,000以上が特に好ましい。打球感の観点から、積(EB×Ha)は、100,000以下が好ましく、80,000以下がより好ましく、50,000以下が特に好ましい。
【0065】
ゴム組成物の破断点伸びEBは、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」の記載に準拠して測定される。反発性能の観点から、このゴム組成物の破断点伸びEBは、50%以上が好ましく、100%以上がより好ましく、300%以上が特に好ましい。打球感の観点から、破断点伸びEBは、700%以下が好ましい。
【0066】
反発性能及び打球感の両立の観点から、このゴム組成物のトルエン膨潤率SW(%)とショアA硬度Haとの積(SW×Ha)は、2,500以上が好ましく、4,000以上がより好ましく、6,000以上が特に好ましい。同様の観点から、積(SW×Ha)は、50,000以下が好ましく、40,000以下がより好ましく、30,000以下が特に好ましい。
【0067】
ゴム組成物のトルエン膨潤率SWは、JIS K6258「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐液性の求め方」の記載に準じて測定される。トルエン膨潤率SWは、ゴム組成物の架橋密度の指標である。打球感の観点から、トルエン膨潤率SWは80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、100%以上が特に好ましい。反発性能の観点から、好ましいトルエン膨潤率は、300%以下である。
【0068】
本発明の目的が達成される限り、このゴム組成物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等既知の混練機に、基材ゴムと、多数の扁平粒子からなる無機充填剤と、扁平度DLcが50以上の炭素系充填剤と、適宜選択された他の添加剤等を投入して混練して得られる混練物を加熱及び加圧することにより、このゴム組成物が製造されてもよい。なお、混練条件及び加硫条件は、ゴム組成物の配合により選択される。好ましい混練温度は50℃以上180℃以下である。好ましい加硫温度は、140℃以上180℃以下である。加硫時間は2分以上60分以下が好ましい。
【0069】
ガス透過係数低減の観点から、好ましいゴム組成物の製造方法は、基材ゴムと、扁平度DLcが50以上の炭素系充填剤とを混合して、マスターバッチを得る第一工程と、このマスターバッチに、多数の扁平粒子からなる無機充填剤を添加する第二工程とを含んでいる。この製造方法では、第一工程において、基材ゴムに、この基材ゴムとの強い相互作用を有する炭素系充填剤が添加され、混合される。これにより得られるマスターバッチには、炭素系充填剤をなす多数の粒子が均一に分散する。第二工程において、このマスターバッチに無機充填剤が添加されることにより、無機充填剤をなす多数の扁平粒子の配向性が向上する。本発明の目的が達成される限り、この製造方法において、基材ゴム、無機充填剤及び炭素系充填剤以外の他の添加剤を配合する順序及び時機は特に限定されず、他の添加剤の種類及びゴム組成物の配合により、適宜設定される。
【0070】
このゴム組成物を用いて、中空ボール2を製造する方法も、特に限定されない。例えば、このゴム組成物を所定の金型中で加硫成形することにより、半球状のハーフシェル2個を形成する。この2個のハーフシェルを、その内部にアンモニウム塩及び亜硝酸塩を含む状態で、貼り合わせた後、圧縮成形することにより、中空の球状体であるコア4を形成する。コア4の内部では、アンモニウム塩及び亜硝酸塩の化学反応により窒素ガスが発生する。この窒素ガスにより、コア4の内圧が高められる。次に、予め、ダンベル状に裁断し、その断面にシーム糊を付着させたフェルト部6を、このコア4の表面に貼り合わせることにより、中空ボール2が得られる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0072】
[実施例1]
80質量部の天然ゴム(商品名「SMR CV60」)、20質量部のポリブタジエンゴム(JSR社の商品名「BR01」)、15質量部のグラフェン(XG Sciences社の商品名「xGn-M-5」、扁平度DLc700)、56質量部のクレー(イメリス社の商品名「ECKALITE120」、扁平度DLi20)、5質量部のシリカ(東ソー・シリカ社の商品名「ニプシールVN3」、扁平度DLi1) 、5質量部の酸化亜鉛(正同化学社の商品名「酸化亜鉛2種」、扁平度DLi1)及び0.5質量部のステアリン酸(日油社の商品名「つばき」)をバンバリーミキサーに投入して、90℃で5分間混練した。得られた混練物に、3.6質量部の硫黄(三新化学社の商品名「サンフェルEX」、20%オイル含有)、1質量部の加硫促進剤DPG(三新化学社の商品名「サンセラーD」)、1質量の加硫促進剤CZ(大内新興化学社の商品名「ノクセラーCZ」)及び1.9質量部の加硫促進剤DM(大内新興化学社の商品名「ノクセラーDM」)を添加して、オープンロールを用いて50℃で3分間混練することにより、実施例1のゴム組成物を得た。
【0073】
[実施例2-13及び比較例1-20]
充填剤の種類及び配合量を表1-7に示されるものに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2-13及び比較例1-20のゴム組成物を得た。
【0074】
[実施例14]
80質量部の天然ゴム(商品名「SMR CV60」)、20質量部のポリブタジエンゴム(JSR社の商品名「BR01」)及び15質量部のグラフェン(XG Sciences社の商品名「xGn-M-5」、扁平度DLc700)をバンバリーミキサーに投入して、90℃で5分間混練して、マスターバッチを得た。次いで、このマスターバッチに、56質量部のクレー(イメリス社の商品名「ECKALITE120」、扁平度DLi20)、5質量部のシリカ(東ソー・シリカ社の商品名「ニプシールVN3」、扁平度DLi1) 、5質量部の酸化亜鉛(正同化学社の商品名「酸化亜鉛2種」、扁平度DLi1)及び0.5質量部のステアリン酸(日油社の商品名「つばき」)を添加し、90℃でさらに5分間混練した。得られた混練物に、3.6質量部の硫黄(三新化学社の商品名「サンフェルEX」、20%オイル含有)、1質量部の加硫促進剤DPG(三新化学社の商品名「サンセラーD」)、1質量の加硫促進剤CZ(大内新興化学社の商品名「ノクセラーCZ」)及び1.9質量部の加硫促進剤DM(大内新興化学社の商品名「ノクセラーDM」)を添加して、オープンロールを用いて50℃で3分間混練することにより、実施例14のゴム組成物を得た。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
表1-7に記載された化合物の詳細は、以下の通りである。
SMR CV60:天然ゴム
BR01:JSR社のポリブタジエンゴム
グラフェン(DLc700):XG Sciences社の商品名「xGnP-M-5」、平均粒子径(D50
c)5μm、平均厚さ(Tc)0.007μm、扁平度(DLc)700
グラファイト(DLc110):イメリス社の商品名「SFG44」、平均粒子径(D50
c)49μm、平均厚さ(Tc)0.45μm、扁平度(DLc)110
カーボンブラック(DLc1):キャボットジャパン社の商品名「ショウブラックN330」、平均粒子径(D50
c)0.03μm、扁平度(DLc)1
クレー(DLi20):イメリス社のカオリンクレー商品名「ECKALITE120」、平均粒子径(D50
i)4μm、平均厚さ(Ti)0.2μm、扁平度(DLi)20
タルク(DLi30):日本タルク社の商品名「K-1」、平均粒子径(D50
i)8μm、平均厚さ(Ti)0.27μm、扁平度(DLi)30
マイカ(DLi90):ヤマグチマイカ社の商品名「SYA-21」、平均粒子径(D50
i)27μm、平均厚さ(Ti)0.3μm、扁平度(DLi)90
シリカ(DLi1):東ソー・シリカ社の商品名「ニプシールVN3」、平均粒子径(D50
i)20μm、扁平度(DLi)1
酸化亜鉛(DLi1):正同化学社の商品名「酸化亜鉛2種」、平均粒子径(D50
i)0.6μm、扁平度(DLi)1
ステアリン酸:日油社の商品名「つばき」
硫黄:三新化学社の不溶性硫黄、商品名「サンフェルEX」、20%オイル含有
加硫促進剤DPG:三新化学社の1,3-ジフェニルグアニジン、商品名「サンセラーD」
加硫促進剤CZ:大内新興化学社のN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、商品名「ノクセラーCZ」
加硫促進剤DM:大内新興化学社のジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、商品名「ノクセラーDM」
【0083】
[走査型電子顕微鏡観察]
実施例1及び比較例1のゴム組成物を、それぞれモールドに投入して、160℃で2分間、プレス加硫することにより、平板状の試験片を作製した。得られた試験片の上面及び側面をクライオトームで切削し、走査型電子顕微鏡(フィリップス社製のXL-30)を用いて観察した。実施例1について得られた結果が
図2に示されている。比較例1について得られた結果が
図3に示されている。(2a)及び(3a)は、各試験片を鉛直上方から観察して得られたSEM写真である。(2b)及び(3b)は、各試験片を水平方向から観察して得られたSEM写真である。
【0084】
図2及び
図3において、ゴム組成物に含まれる扁平形状のクレー粒子が、白色部分として示されている。なお、実施例1のゴム組成物に含まれるグラフェンは、基材ゴムとの密度が近いため、SEM画像では観察されない。
【0085】
図2に示される通り、実施例1のゴム組成物では、観察方向によって、クレー粒子の分散状態が異なっている。この結果は、実施例1のゴム組成物において、クレーの扁平粒子の長軸方向が、試験片の鉛直方向と平行に配向されていることを示している。一方、比較例1のゴム組成物では、
図3に示される通り、いずれの観察方向においてもクレー粒子の分散状態は同様である。この結果は、比較例1のゴム組成物において、クレー粒子がランダムな方向を向いて分散していることを示している。
【0086】
[ガス透過係数測定]
実施例1-14及び比較例1-20のゴム組成物を、それぞれモールドに投入して、160℃で2分間、プレス加硫することにより、厚さ2mm、幅50mm、長さ50mmの試験片3枚を準備し、各試験片を23℃の温度下で2週間保管した。JIS K7126-1に記載の差圧法に準拠して、各試験片の厚さ方向の窒素ガス透過係数(cm3・cm/cm2/sec/cmHg)を測定した。測定には、GTRテック社製のガス透過試験機「GTR-30ANI」を使用した。測定条件は、サンプル温度40℃、測定セルの透過断面積15.2cm2、差圧0.2MPaとした。測定はすべて23±0.5℃の室内でおこなった。実施例1-14並びに比較例2-5、7、9、11、13、15及び17のゴム組成物について得られた窒素ガス透過係数が、N2Aとして下記表8-14に示されている。比較例1、6、8、10、12、14、16及び18-20のゴム組成物について得られた窒素ガス透過係数が、N2Bとして下記表8-14に示されている。下記表8-14に示されたN2A/N2Bは、実施例1-14について得られたN2Aと、実施例1-14に含まれるDLc50以上の炭素系充填剤を、DLcが1のカーボンブラックに置換して得た各比較例のN2Bとの比である。
【0087】
[硫黄含有量測定]
実施例1-14及び比較例1-20のゴム組成物の硫黄含有量を、第17改正日本薬局方、一般試験法に記載の酸素フラスコ燃焼法に準じて測定した。ゴム組成物10mgを燃焼させた後、合計55mLのメタノールを添加し、次いで0.005mol/Lの過塩素酸溶液20mLを正確に添加した。10分間放置して得られた溶液を、イオンクロマトグラフィー(島津製作所製のHIC-SP)を用いて測定することにより、硫黄含有量を定量した。得られた硫黄含有量(wt.%)が、表8-14に示されている
【0088】
[硬度]
実施例1-14及び比較例1-20のゴム組成物をそれぞれモールドに投入して、160℃で2分間、プレス加硫することにより、厚さ2mm、幅4mm、長さ30mmの試験片3枚を準備し、各試験片を23℃の温度下で2週間保管した。その後、「ASTM-D 2240-68」の規定に準拠して、それぞれ3枚に重ね合わせた試験片に、タイプAデュロメータを装着した自動硬度計(前述の「デジテストII」)を押し付けることにより硬度を測定した。得られたショアA硬度が、Haとして下記表8-14に示されている。
【0089】
[破断点伸び]
実施例1-14及び比較例1-20のゴム組成物をそれぞれモールドに投入して、160℃で2分間、プレス加硫することにより、厚さ2mmの3号ダンベル型試験片を作製した。JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準じて、室温下で引張試験を実施し、各試験片の破断点伸びを測定した。得られた測定値が、EB(%)として下記表8-14に示されている。
【0090】
[トルエン膨潤度]
実施例1-14及び比較例1-20のゴム組成物をそれぞれモールドに投入して、160℃で2分間、プレス加硫することにより、厚さ0.5mm、長さ10mm、幅5mmの試験片を準備した。各試験片を、室温下でトルエンに24時間浸漬し、その浸漬前後の試験片の質量変化から、トルエン膨潤度(質量変化率(%)=浸漬後の質量/浸漬前の質量)を算出した。得られたトルエン膨潤度が、SW(%)として下記表8-14に示されている。
【0091】
[粘弾性測定]
実施例1-14及び比較例1-20のゴム組成物をそれぞれモールドに投入して、160℃で2分間、プレス加硫することにより、厚さ2mm、幅4mm、長さ30mmの試験片を準備した。各試験片の0℃における損失正接を、粘弾性スペクトロメーター(ユービーエム社製のE4000)を用いて、引張モード、初期歪み10%、周波数10Hz、振幅0.05%で測定した。得られた損失正接がtanδとして、下記表8-14に示されている。
【0092】
[テニスボールの製造]
実施例1と同様にして得た未加硫のゴム組成物を、モールドに投入して、150℃で4分間加熱することにより、2枚のハーフシェルを形成した。1枚のハーフシェルに塩化アンモニウム、亜硝酸ナトリウム及び水を投入した後、他のハーフシェルと接着し、150℃で4分間加熱することにより、球状のコアを形成した。このコアの表面に、その断面にシーム糊を付着させたフェルト部2枚を貼り合わせることにより、テニスボールを製造した。同様に、実施例2-14及び比較例1-20のゴム組成物からなるコアをそれぞれ備えたテニスボールを製造した。
【0093】
[耐久性]
得られたテニスボールを、それぞれ、大気圧下、気温20℃、相対湿度60%の環境下に24時間静置して、その内圧(大気圧との差)を測定した。同じテニスボールを、さらに3ヶ月間、大気圧下で保管した後、その内圧を測定した。3ヶ月経過前後の内圧の低下率を算出し、以下の判定基準により耐久性を評価した。この結果が、下記表8-14に示されている。
S:10%未満
A:10%以上20%未満
B:20%以上30%未満
C:30%以上
【0094】
[打球感]
製造後、大気圧下、気温20℃、相対湿度60%の環境下に24時間静置した各テニスボールを、50名のプレーヤーにテニスラケットで打撃させ、その打球感を聞き取った。「打球感が良い」と回答したプレーヤーの数に基づき、以下の格付けをおこなった。この結果が、下記表8-14に示されている。
S:40人以上
A:30-39人
B:20-29人
C:19人以下
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
表8-14に示されるように、実施例のゴム組成物及びテニスボールは、比較例のゴム組成物及びテニスボールより、評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0103】
以上説明されたゴム組成物は、圧縮ガスが充填された種々の中空ボールの製造に適用されうる。
【符号の説明】
【0104】
2・・・中空ボール
4・・・コア
6・・・フェルト部
8・・・シーム部