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特許7035455車載電気機器用のカバー及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】車載電気機器用のカバー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 5/02 20060101AFI20220308BHJP
   H01R 13/74 20060101ALI20220308BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20220308BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20220308BHJP
   H05K 5/03 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H05K5/02 J
H01R13/74 Z
B23K26/00 H
B23K26/352
H05K5/03 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017211410
(22)【出願日】2017-10-31
(65)【公開番号】P2019083298
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】特許業務法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】木下 雄介
(72)【発明者】
【氏名】矢野 順也
(72)【発明者】
【氏名】江波 慎吾
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-220921(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038316(WO,A1)
【文献】特開2013-173170(JP,A)
【文献】特開2017-094708(JP,A)
【文献】特許第4020957(JP,B2)
【文献】特開2007-227163(JP,A)
【文献】特開2014-193569(JP,A)
【文献】特開2016-180402(JP,A)
【文献】特開2012-193660(JP,A)
【文献】特開2014-194169(JP,A)
【文献】特開2012-112354(JP,A)
【文献】特開2011-103446(JP,A)
【文献】特開2017-117928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/02
H01R 13/74
B23K 26/00
B23K 26/352
H05K 5/03
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電気回路を収めるための車載電気機器用のカバーであって、
前記カバーは、鉄系の母材と、前記母材における前記電気回路の反対側に形成される亜鉛系のメッキ層とを有し、
前記カバーには、前記母材及び前記メッキ層を貫通する貫通孔が形成されるとともに、前記カバーの外部と前記電気回路とを電気的に接続するコネクタが設けられ、
前記コネクタは、前記貫通孔に挿通されて前記電気回路と接続される端子と、前記カバーに形成され、前記端子を囲う熱可塑性樹脂系のコネクタハウジングとを有し、
前記カバーには、前記貫通孔を囲う環状をなし、前記メッキ層から前記母材まで延びるレーザ加工痕が形成され、
前記レーザ加工痕の内部には、レーザの照射で溶融した前記メッキ層及び前記母材によって複数の凹凸が形成され、
前記コネクタハウジングは、前記レーザ加工痕の内部において、前記メッキ層から前記母材まで延在し
前記メッキ層は、アルミニウムを含有していることを特徴とする車載電気機器用のカバー。
【請求項2】
前記カバーには、前記母材と前記メッキ層との境界面に位置し、前記レーザ加工痕を臨んで前記レーザ加工痕と一体化された溝が形成され、
前記コネクタハウジングは、前記レーザ加工痕の内部において、前記溝内に進入している請求項1記載の車載電気機器用のカバー。
【請求項3】
前記レーザ加工痕は複数であり、
前記各レーザ加工痕は、前記貫通孔を同心としている請求項1又は2記載の車載電気機器用のカバー。
【請求項4】
前記レーザ加工痕は複数であり、
隣り合う前記レーザ加工痕同士の間には、前記メッキ層と前記母材とが接合される領域が存在している請求項1乃至のいずれか1項記載の車載電気機器用のカバー。
【請求項5】
前記コネクタハウジングは、前記熱可塑性樹脂よりも強度の高い材質からなる強化繊維を含んでいる請求項1乃至のいずれか1項記載の車載電気機器用のカバー。
【請求項6】
内部に電気回路を収めるための車載電気機器用のカバーの製造方法であって、
鉄系の母材と、前記母材上に形成される亜鉛系のメッキ層とを有するとともに、前記母材及び前記メッキ層を貫通する貫通孔が形成された初期基体を準備する準備工程と、
前記初期基体に対して、前記貫通孔を囲う環状にレーザの照射を行い、前記メッキ層から前記母材まで延びるレーザ加工痕を形成するレーザ照射工程と、
前記貫通孔に対し、前記電気回路と電気的に接続する端子を取り付ける端子取付工程と、
前記端子を囲うとともに、前記レーザ加工痕の内部において前記メッキ層から前記母材まで延在する熱可塑性樹脂系のコネクタハウジングを形成するコネクタハウジング形成工程とを備え、
前記レーザ加工痕の内部には、前記レーザの照射で溶融した前記メッキ層及び前記母材によって複数の凹凸が形成され
前記メッキ層は、アルミニウムを含有していることを特徴とする車載電気機器用のカバーの製造方法。
【請求項7】
前記レーザ照射工程では、前記母材と前記メッキ層との境界面に位置し、前記レーザ加工痕を臨んで前記レーザ加工痕と一体化された溝を形成し、
前記コネクタハウジングは、前記レーザ加工痕の内部において、前記溝内に進入している請求項記載の車載電気機器用のカバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載電気機器用のカバー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に従来の車載電気機器用のカバー(以下、単にカバーという。)が開示されている。これらの特許文献1、2において、カバーは、具体的には車載用電動圧縮機のカバーである。
【0003】
特許文献1のカバーは、内部に電気回路が収められている。また、カバーにはコネクタが設けられている。コネクタは、カバーの外部と電気回路と電気的に接続することにより、電気回路に電力を供給する。コネクタは、電気回路と接続される端子と、端子を囲うコネクタハウジングとを有している。カバーとコネクタハウジングとは接合領域で一体化されている。接合領域は、コネクタハウジングに形成された通し孔と、通し孔に整合するように蓋体に形成されたネジ孔と、通し孔を挿通してネジ孔に螺合するボルトとからなる。
【0004】
特許文献2のカバーは金属製であり、内部に電気回路が収められている。また、カバーにはコネクタが設けられている。このコネクタも、カバーの外部と電気回路と電気的に接続することにより、電気回路に電力を供給する。コネクタは、複数本のバスバーと、金属製の第1取付プレート及び第2取付プレートとを有している。カバーとコネクタとは接合領域で一体化されている。接合領域は、第1取付プレート及び第2取付プレートに形成された挿通孔と、挿通孔に整合するようにカバーに形成されたネジ孔と、挿通孔を挿通してネジ孔に螺合するボルトとからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-34960号公報
【文献】特開2016-98664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車載電気機器では、車両への搭載性を向上させるために小型化が求められる。このため、カバーについても更なる小型化が求められる。しかし、上記従来のカバーでは、コネクタとの接合領域がボルトやネジ孔等を有しているため、接合領域にボルトやネジ孔等のためのスペースを確保する必要がある。また、これらのカバーでは、コネクタとの間の気密性を確保するために、カバーとコネクタとの間にシール部材等を設ける必要がある。これらのため、これらのカバーでは、更なる小型化が難しい。
【0007】
そこで、例えば、カバーに対して樹脂系のコネクタハウジングを射出成形することにより、カバーとコネクタハウジングとを接合領域で一体化させることが考えられる。この場合、接合領域にボルトやネジ孔等のためのスペースを確保する必要がない。また、カバーとコネクタとの間の気密性を確保するに当たって、シール部材等を設ける必要もない。この結果、カバーを小型化できる。
【0008】
しかしながら、このようなカバーでは、ボルトを用いる場合に比べて、カバーとコネクタハウジングとの接合強度を十分に確保することが難しく、カバーからコネクタハウジングが剥離し易い。特に、車載電気機器では、コネクタが車両に搭載された他の機器から生じた振動や車両の走行によって生じた振動等の影響を受けるため、カバーとコネクタハウジングとがより剥離し易くなる。このため、このようなカバーでは、コネクタが電気回路に対して電力を好適に供給できなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、小型化を実現しつつ、コネクタが電気回路に対して電力を好適に供給可能な車載電気機器用のカバー及びその製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車載電気機器用のカバーは、内部に電気回路を収めるための車載電気機器用のカバーであって、
前記カバーは、鉄系の母材と、前記母材における前記電気回路の反対側に形成される亜鉛系のメッキ層とを有し、
前記カバーには、前記母材及び前記メッキ層を貫通する貫通孔が形成されるとともに、前記カバーの外部と前記電気回路とを電気的に接続するコネクタが設けられ、
前記コネクタは、前記貫通孔に挿通されて前記電気回路と接続される端子と、前記カバーに形成され、前記端子を囲う熱可塑性樹脂系のコネクタハウジングとを有し、
前記カバーには、前記貫通孔を囲う環状をなし、前記メッキ層から前記母材まで延びるレーザ加工痕が形成され、
前記レーザ加工痕の内部には、レーザの照射で溶融した前記メッキ層及び前記母材によって複数の凹凸が形成され、
前記コネクタハウジングは、前記レーザ加工痕の内部において、前記メッキ層から前記母材まで延在し
前記メッキ層は、アルミニウムを含有していることを特徴とする。
【0011】
本発明のカバーには、コネクタハウジングが形成されており、このコネクタハウジングはレーザ加工痕の内部において、メッキ層から母材にまで延在している。このため、このカバーでは、コネクタとの接合領域にボルトやネジ孔等が存在せず、接合領域にこれらのためのスペースが不要となる。また、このカバーでは、カバーとコネクタとの間の気密性を確保するためのシール部材等も不要となる。
【0012】
ここで、レーザ加工痕は、レーザによってカバーの母材及びメッキ層が溶融することで形成される。この際、母材はレーザによって高温となる。そして、母材の熱は、母材とメッキ層との境界面に伝わり、境界面に接するメッキ層を溶融させる。この結果、境界面にはレーザ加工痕を臨むように溝が形成され、この溝はレーザ加工痕と一体化される。これにより、このカバーでは、接合領域において、コネクタハウジングは、レーザ加工痕だけでなく溝内にも侵入しつつ、母材およびメッキ層と複雑に絡み合って係合する。このため、カバーとコネクタハウジング、すなわち、カバーとコネクタとは強固に一体化される。この結果、このカバーでは、車両に搭載された他の機器から生じた振動や車両の走行によって生じた振動等の影響を受けても、コネクタが剥離し難い。
【0013】
したがって、本発明の車載電気機器用のカバーによれば、小型化を実現しつつ、コネクタが電気回路に対して電力を好適に供給することが可能となる。
【0014】
本発明において「鉄系の母材」とは、母材を構成する成分のうち、鉄が最も多いものを意味する。また、「亜鉛系のメッキ層」とは、メッキ層を構成する成分のうち、亜鉛が最も多いものを意味する。また、「熱可塑性樹脂系のコネクタハウジング」とは、コネクタハウジングを構成する成分のうち、熱可塑性樹脂が最も多いものを意味する。
【0015】
メッキ層は、アルミニウムを含有している発明者の知見によれば、メッキ層が亜鉛とアルミニウムとを含んでいる場合、亜鉛よりもアルミニウムの方が融点が高いため、これらの亜鉛とアルミニウムとは必ずしも均等に混ざり合ってはおらず、メッキ層中には、フレーク状のアルミニウムが存在している。このため、レーザ加工痕では、メッキ層の部分が亜鉛よりも溶け難いフレーク状のアルミニウムによって、複雑な形状となる。このため、このカバーでは、レーザ加工痕内において、コネクタハウジングが複雑な形状のメッキ層と絡み合って係合する。これにより、カバーとコネクタとがより強固に一体化される。また、境界面においてレーザ加工痕を臨むよう形成された溝についても同様に複雑な形状となる。このため、コネクタハウジングが複雑な形状の溝と絡み合って係合し、カバーとコネクタとがより強固に一体化される。
【0016】
レーザ加工痕は複数であり得る。そして、各レーザ加工痕は、貫通孔を同心としていることが好ましい。この場合には、カバーとコネクタとがより強固に一体化することで、カバーとコネクタとがより剥離し難くなる。また、カバーとコネクタとの間の気密性をより高く確保することができる。
【0017】
また、レーザ加工痕は複数であり得る。そして、隣り合うレーザ加工痕同士の間には、メッキ層と母材とが接合される領域が存在していることも好ましい。この場合には、隣り合うレーザ加工痕同士は、メッキ層と母材とが接合される領域が存在する程度、つまり、境界面において、メッキ層の全てが溶解することがない程度に離れている。このため、境界面に溝が好適に形成され、隣り合うレーザ加工痕は、境界面に形成された溝と一体化する。このため、カバーとコネクタとがより強固に一体化することで、カバーとコネクタとがより剥離し難くなる。
【0018】
コネクタハウジングは、熱可塑性樹脂よりも強度の高い材質からなる強化繊維を含んでいることが好ましい。この場合には、強化繊維もレーザ加工痕と絡み合うことから、カバーとコネクタとがより強固に一体化し、カバーとコネクタとがより剥離し難くなる。また、コネクタハウジングに強化繊維が含まれることにより、コネクタハウジングの強度も高くすることができる。このため、コネクタに対してケーブル等の接続やその解除が繰り返し行われても、コネクタハウジングが損傷し難くなる。
【0019】
本発明の車載電気機器用のカバーの製造方法は、内部に電気回路を収めるための車載電気機器用のカバーの製造方法であって、
鉄系の母材と、前記母材上に形成される亜鉛系のメッキ層とを有するとともに、前記母材及び前記メッキ層を貫通する貫通孔が形成された初期基体を準備する準備工程と、
前記初期基体に対して、前記貫通孔を囲う環状にレーザの照射を行い、前記メッキ層から前記母材まで延びるレーザ加工痕を形成するレーザ照射工程と、
前記貫通孔に対し、前記電気回路と電気的に接続する端子を取り付ける端子取付工程と、
前記端子を囲うとともに、前記レーザ加工痕の内部において前記メッキ層から前記母材まで延在する熱可塑性樹脂系のコネクタハウジングを形成するコネクタハウジング形成工程とを備え、
前記レーザ加工痕の内部には、前記レーザの照射で溶融した前記メッキ層及び前記母材によって複数の凹凸が形成され
前記メッキ層は、アルミニウムを含有していることを特徴とする。
【0020】
本発明の製造方法によれば、上記の特徴を有するカバーを製造することが可能となる。
【0021】
したがって、本発明の車載電気機器用のカバーの製造方法によれば、小型化を実現しつつ、コネクタが電気回路に対して電力を好適に供給することが可能なカバーを製造できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の車載電気機器用のカバーによれば、小型化を実現しつつ、コネクタが電気回路に対して電力を好適に供給することが可能となる。また、本発明の車載電気機器用のカバーの製造方法によれば、小型化を実現しつつ、コネクタが電気回路に対して電力を好適に供給することが可能なカバーを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、実施例1の電動圧縮機を示す部分断面図である。
図2図2は、実施例1の電動圧縮機に係り、インバータカバー及びコネクタを示す要部拡大断面図である。
図3図3は、実施例1の電動圧縮機に係り、インバータカバーの製造工程を示す断面図である。図(A)は、初期基体を示す断面図である。図(B)は、インバータカバーにシールド及び給電アッセンブリが取り付けられた状態を示す断面図である。図(C)は、インバータカバーにコネクタハウジングが形成された状態を示す断面図である。
図4図4は、実施例1の電動圧縮機に係り、レーザの照射によってレーザ加工痕を形成する過程を示す模式図である。
図5図5は、実施例1の電動圧縮機に係り、図4におけるA-A断面を示す拡大断面図である。
図6図6は、実施例1の電動圧縮機に係り、コネクタハウジングが形成されたインバータカバーを示す拡大断面写真である。
図7図7は、実施例1の電動圧縮機に係り、インバータカバーにコネクタハウジングが形成された状態を示す図5と同方向の拡大断面図である。
図8図8は、実施例1の電動圧縮機に係り、レーザ加工痕の深さと引張強度との関係を示すグラフである。
図9図9は、実施例2の電動圧縮機に係り、コネクタを示す要部拡大断面図である。
図10図10は、実施例2の電動圧縮機に係り、レーザの照射によってレーザ加工痕を形成する過程を示す模式図である。
図11図11は、実施例2の電動圧縮機に係り、図10におけるB-B断面を示す拡大断面図である。
図12図12は、実施例2の電動圧縮機に係り、インバータカバーにコネクタハウジングが形成された状態を示す図11と同方向の拡大断面図である。
図13図13は、実施例3の電動圧縮機に係り、図5と同様の拡大断面図である。
図14図14は、実施例3の電動圧縮機に係り、インバータカバーにコネクタハウジングが形成された状態を示す図13と同方向の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した実施例1~3を図面を参照しつつ説明する。これらの電動圧縮機はいずれも車両に搭載されており、車両用空調装置の冷凍回路を構成している。電動圧縮機は、本発明における「車載電気機器」の一例である。
【0025】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の電動圧縮機は、ハウジング1と、電動機構3と、圧縮機構5と、インバータカバー71と、インバータ回路9とを備えている。インバータカバー71は本発明における「車載電気機器用のカバー」の一例である。また、インバータ回路9は本発明における「電気回路」の一例である。ハウジング1は、第1ハウジング11と第2ハウジング13とを有している。
【0026】
本実施例では、第2ハウジング13が位置する側を電動圧縮機の前方側とし、インバータカバー71が位置する側を電動圧縮機の後方側として、電動圧縮機の前後方向を規定している。また、図1の紙面の上方を電動圧縮機の上方とし、図1の紙面の下方を電動圧縮機の下方として、電動圧縮機の上下方向を規定している。そして、図2以降では、図1に対応させて前後方向及び上下方向を規定している。なお、電動圧縮機は、搭載される車両等に対応して、その姿勢が適宜変更される。
【0027】
第1ハウジング11はアルミニウム合金製である。第1ハウジング11には、電動圧縮機の径方向に延びる第1底壁11aと、第1底壁11aと連続し、第1底壁11aから電動圧縮機の軸方向で前方に延びる第1側壁11bとが形成されている。これらの第1底壁11a及び第1側壁11bにより、第1ハウジング11は、前方側が開口した有底の略筒状をなしている。第1側壁11bには吸入口(図示略)が設けられている。
【0028】
第2ハウジング13もアルミニウム合金製である。第2ハウジング13には、電動圧縮機の径方向に延びる第2底壁13aと、第2底壁13aと連続し、第2底壁13aから電動圧縮機の軸方向で後方に延びる第2側壁13bとが形成されている。これらの第2底壁13a及び第2側壁13bにより、第2ハウジング13は、後方側が開口した有底の略筒状をなしている。第2底壁13aには、吐出口(図示略)が形成されている。
【0029】
第2ハウジング13は、複数のボルト15によって、第1ハウジング11の前端に接合されている。これにより、第1ハウジング11と第2ハウジング13とが一体化されている。なお、第1、2ハウジング11、13をアルミニウム合金以外で形成することもできる。
【0030】
電動機構3は、第1ハウジング11内に収容されている。電動機構3は、ステータ17と、ロータ19と、駆動軸21と、接続部(図示略)とを有している。ステータ17は、第1側壁11bの内周面に固定されており、図示しないコイルを有している。ロータ19は、ステータ17の内側に配置されている。駆動軸21は、ロータ19に固定されており、ロータ19と一体的に回転する。
【0031】
圧縮機構5は、第1ハウジング11内において、電動機構3の前方側に収容されている。圧縮機構5としては、公知のスクロール型圧縮機構が採用されている。圧縮機構5は、第1側壁11bの内周面に固定された固定スクロールと、固定スクロールに対向して配置された可動スクロールとを有している。可動スクロールは駆動軸21と動力伝達可能に接続されおり、駆動軸21によって回転可能となっている。固定スクロールと可動スクロールとは噛合して両者の間に圧縮室を形成している。また、固定スクロールと第2ハウジング13との間に吐出室が形成されている。なお、固定スクロール、可動スクロール、圧縮室及び吐出室については、いずれも図示を省略する。また、圧縮機構5として、ベーン型圧縮機構等を採用しても良い。
【0032】
図2に示すように、インバータカバー71には、コネクタ73が設けられている。インバータカバー71とコネクタ73、より具体的には、インバータカバー71とコネクタ73のコネクタハウジング73aとは、接合領域X1で一体化されている。なお、コネクタハウジング73aについては後述する。
【0033】
インバータカバー71は、鉄系の母材71aと、亜鉛系のメッキ層71bとを有している。母材71aは、具体的には鉄鋼製である。図1に示すように、母材71aには、電動圧縮機の径方向に延びる第3底壁710と、第3底壁710と連続し、第3底壁710から電動圧縮機の軸方向で前方に延びる第3側壁711とが形成されている。これらの第3底壁710及び第3側壁710により、母材71a、ひいては、インバータカバー71は、前方側が開口した有底の略筒状をなしている。また、第3底壁710には、母材71a及びメッキ層71bを貫通する貫通孔712が貫設されている。インバータカバー71は、図示しないボルトによって第1ハウジング11の後端に接合されている。こうして、第1底壁11aとインバータカバー71との間に収容室25が形成されている。
【0034】
図2に示すように、メッキ層71bは、母材71aにおけるインバータ回路9の反対側、つまり、母材71aの外周面上に形成されている。メッキ層71bは、亜鉛とマグネシウムとアルミニウムとで構成されている。ここで、図5及び図7に示すように、メッキ層71bにおいて、亜鉛とマグネシウムとアルミニウムとは、均等に混ざり合ってはいない。このため、メッキ層71b中には、フレーク状のアルミニウムであるアルミフレーク713が複数存在している。なお、図5及び図7では、説明を容易にするため、メッキ層71b及び各アルミフレーク713等の形状を誇張して図示している。後述する図11図14も同様である。また、図1では、メッキ層71bの図示を省略している。
【0035】
図2に示すように、コネクタ73は、熱可塑性樹脂系のコネクタハウジング73aと、シールド73bと、給電アッセンブリ73cとを有している。コネクタハウジング73aは、ガラス繊維730bを含んだ基材730aによって形成されている。基材730aは、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイドからなる。ガラス繊維730bは、本発明における「強化繊維」の一例である。なお、基材730aはポリフェニレンサルファイド以外の熱可塑性樹脂であっても良い。また、図2等では、説明を容易にするため、ガラス繊維730bを誇張して図示している。
【0036】
シールド73bは金属製であり、筒状をなしている。シールド73bは、給電アッセンブリ73cに装着されている。給電アッセンブリ73cは、金属製の端子731が絶縁性樹脂732にインサート成形されることで形成されている。
【0037】
接合領域X1は、貫通孔712の外周側に設けられている。接合領域X1には、複数のレーザ加工痕75が形成されている。各レーザ加工痕75は、貫通孔712を同心とする環状をなしており、貫通孔712を囲っている。
【0038】
以下、インバータカバー71の製造方法について具体的に説明する。まず始めに、準備工程として、図3の(A)に示す初期基体700を準備する。初期基体700は、上記の母材71aとメッキ層71bとを有している。また、初期基体700には、上記の貫通孔712が形成されている。このような初期基体700は、例えば、メッキ鋼板を打ち抜き加工することで準備することができる。
【0039】
次に、レーザ照射工程を行い、初期基体700に各レーザ加工痕75を形成することで、図3の(B)や図5等に示すインバータハウジング71を得る。具体的には、レーザ照射工程では、図4に示すレーザ照射装置100を用いる。レーザ照射装置100は公用品である。そして、初期基体700に対し、R1方向で貫通孔712の外周側を周回するようにレーザ照射装置100を移動させつつ、メッキ層71b側からレーザ照射装置100によってレーザ101を照射する。これにより、初期基体700においてレーザ101が照射された部分が溶融する。この際、レーザ101がメッキ層71bを越えて母材71aまで届くように、レーザ照射装置100の出力を調整したり、レーザ101を照射しつつ、R1方向にレーザ照射装置100を複数周回させたりする。その後、レーザ101によって溶融した部分が固化することにより、貫通孔712の外周側に1つ目のレーザ加工痕75が形成される。図5に示すように、レーザ加工痕75は深さL1となっており、メッキ層71bを貫通して母材71aまで延びている。次に、1つ目のレーザ加工痕75と重ならないように、レーザ加工痕75の幅方向に第1距離L2だけレーザ照射装置100を移動させる。ここで、第1距離L2は、レーザ加工痕75の深さL1よりも短く設定されている。そして、1つ目のレーザ加工痕75と同様、図4に示すように、レーザ101を照射しつつ、R1方向にレーザ照射装置100を移動させる。これにより、1つ目のレーザ加工痕75の外周側に、1つ目のレーザ加工痕75とともに貫通孔712を同心とする2つ目のレーザ加工痕75が形成される。これらを順次繰り返すことにより、初期基体700に対して、互いに同心をなすとともに貫通孔712を同心とする複数のレーザ加工痕75が形成される。つまり、各レーザ加工痕75は、貫通孔712の外周側において、貫通孔712を周回するように形成される。こうして、初期基体700からインバータカバー71が得られることで、レーザ照射工程が終了する。ここで、貫通孔712を同心とするとは、各レーザ加工痕75の中心と貫通孔712の中心とが同心であることをいう。なお、レーザ加工痕75の個数は適宜設計することができる。
【0040】
ここで、レーザ加工痕75を形成するレーザ101は高温であるため、レーザ101の反射熱でレーザ加工痕75の周囲の母材71aは高温となる。そして、この母材71aの熱は、母材71aとメッキ層71bとの境界面71cに伝わる。このため、境界面71cに接するメッキ層71bが溶融する。この結果、境界面71cには、レーザ加工痕75を臨むように溝71dが形成される。そして、この溝71dは隣接するレーザ加工痕75と一体化する。このように、溝71dはメッキ層71bが溶融することで形成されるため、溝71dは複雑な形状となる。
【0041】
さらに、メッキ層71bには複数のアルミフレーク713が存在する。亜鉛よりもアルミニウムの方が融点が高いことから、レーザ101の照射によってメッキ層71bが溶融する際、アルミフレーク713によってメッキ層71bは不規則な形状に溶融する。これにより、レーザ加工痕75においてメッキ層71bの部分は複雑な形状となっている。また、レーザ加工痕75においては、メッキ層71bと母材71aとにそれぞれ複数の第1凸部751と複数の第2凸部752が、レーザ101の照射時にバリとして形成される。これらにより、接合領域X1には、母材71aから離れるようにメッキ層71bから突出する複数の第1凸部751と、母材71aから突出する複数の第2凸部752と、複数の溝71dとが存在する。ここで、第2凸部752は溝71d内にも突出し得る。このため、溝71dは、第2凸部752によって、より複雑な形状となる。
【0042】
また、隣り合うレーザ加工痕75同士は、レーザ加工痕75の幅方向に第1距離L2だけ離間している。このため、隣り合うレーザ加工痕75同士の間には、メッキ層71bと母材71aとが接合される領域Yが存在する。これにより、隣り合うレーザ加工痕75同士の間では、境界面71cにおいて、メッキ層71bの全てが溶解することがない。
【0043】
次に、端子取付工程を行う。端子取付工程では、図3の(B)に示すように、貫通孔712に対してシールド73b及び給電アッセンブリ73cを取り付ける。これにより、インバータカバー71に対して、シールド73b及び給電アッセンブリ73cが固定される。
【0044】
次に、コネクタハウジング形成工程を行う。コネクタハウジング形成工程では、図3の(C)に示すように、成形金型79を準備し、成形金型79をインバータカバー71に組み付ける。これにより、インバータカバー71と、シールド73bと、給電アッセンブリ73cと、成形金型79の内面とによりキャビティC1が形成される。そして、キャビティC1に対して、ガラス繊維730bを含んだ基材730aを射出することにより、コネクタハウジング73aを形成する。この際、基材730aはガラス繊維730bとともに各レーザ加工痕75に侵入する。こうして、図6に示すように、コネクタハウジング73aには、各レーザ加工痕75によって、複数の係合部77が一体で形成される。各レーザ加工痕75は貫通孔712を周回するように形成されているため、各係合部77は、貫通孔712を周回するように形成されている。このように、各レーザ加工痕75によって、各係合部77が形成されることにより、コネクタハウジング73aは、各レーザ加工痕75の内部において、メッキ層71bから母材71aまで延在している。そして、図7に示すように、接合領域X1には、第1凸部751に対応するように各係合部77に凹設された複数の第1凹部771と、第2凸部752に対応するように各係合部77に凹設された複数の第2凹部772と、各溝71dに進入するように各係合部77に形成された複数の第3凸部773とが存在する。
【0045】
そして、キャビティC1内で基材730aが固化することにより、接合領域X1において、各第1凸部751と各第1凹部771とが係合するとともに、各第2凸部752と各第2凹部772とが係合する。さらに、各溝71dと各第3凸部773とが係合する。こうして、各レーザ加工痕75と各係合部77とが係合する。これにより、インバータカバー71とコネクタハウジング73aとは、互いに密着しつつ接合領域X1で一体化される。その後、インバータカバー71から図3の(C)に示す成形金型79を取り外すことにより、コネクタハウジング形成工程が完了し、インバータカバー71が完成する。
【0046】
図1に示すように、インバータ回路9は、収容室25内に収容されている。インバータ回路9には、給電アッセンブリ73cの端子731が接続されている。また、インバータ回路9は、リード線9aによって、接続端子23と接続されている。接続端子23は電動機構3の接続部に接続されている。これにより、インバータ回路9と電動機構3とが接続されている。
【0047】
以上のように構成された電動圧縮機では、インバータカバー71において、コネクタ73が図示しないケーブルを介して、インバータカバー71の外部に設けられた電源(図示略)に接続される。これにより、インバータ回路9には電源から直流電力が供給される。そして、インバータ回路9は、直流電力を交流電力に変換しつつ、電動機構3に交流電力を供給することで、電動機構3の駆動制御を行う。そして、交流電力が供給された電動機構3では、ロータ19及び駆動軸21が回転する。これにより、圧縮機構5が駆動する。こうして、圧縮機構5では、吸入口から吸入された冷媒ガスを圧縮し、圧縮された冷媒ガスを吐出口から吐出する。
【0048】
ここで、この電動圧縮機のインバータカバー71では、図2に示すように、接合領域X1において、各レーザ加工痕75と各係合部77とが係合することにより、インバータカバー71とコネクタハウジング73aとが互いに密着しつつ、接合領域X1で一体化されている。このため、このインバータカバー71では、接合領域X1にはボルトやネジ孔等は存在しておらず、接合領域X1には、これらのためのスペースが不要となっている。また、このインバータカバー71では、コネクタ73との間の気密性を確保するためのシール部材等も不要となっている。これらのため、インバータカバー71では接合領域X1を小さくすることが可能となっている。これにより、インバータカバー71は小型化を実現している。
【0049】
また、このインバータカバー71は、図7に示すように、母材71aとメッキ層71bとを有している。そして、レーザ加工痕75は、メッキ層71bを貫通して母材71aまで延びるとともに、溝71dと一体化している。これにより、このインバータカバー71では、接合領域X1において、コネクタハウジング73aの各係合部77は、レーザ加工痕75だけでなく溝71d内にも侵入している。
【0050】
ここで、各レーザ加工痕75は深さL1に形成されており、十分な深さを有している。これらのため、このコネクタ7では、接合領域X1において、各係合部77が各レーザ加工痕75に深く侵入しつつ、各第1凸部751と各第1凹部771とが係合するとともに、各第2凸部752と各第2凹部772とが係合する。さらに、各溝71dと各第3凸部773とが係合する。
【0051】
特に、メッキ層71bは、亜鉛とマグネシウムとアルミニウムとで構成されている。このため、レーザ加工痕75では、メッキ層71bの部分がアルミフレーク713によって、複雑な形状となっている。また、境界面71cにおいて各レーザ加工痕75を臨むよう形成された各溝71dについても同様に複雑な形状となっている。これらのため、レーザ加工痕75内において、係合部77が複雑な形状のメッキ層71b及び各溝71dに絡み合って係合する。このため、接合領域X1において、インバータカバー71とコネクタハウジング73a、ひいては、インバータカバー71とコネクタ73とが強固に一体化されている。この作用について、比較例との対比を基に説明する。
【0052】
詳細な図示を省略するものの、比較例の電動圧縮機では、インバータカバー71のメッキ層71bが亜鉛のみで構成されている点を除いて、実施例1の電動圧縮機と同様の構成である。比較例の電動圧縮機では、メッキ層71bが亜鉛のみで構成されているため、実施例1の電動圧縮機に比べて、レーザ加工痕75において、メッキ層71bの部分や各溝71dが複雑な形状にならない。このため、比較例の電動圧縮機では、接合領域X1において、インバータカバー71とコネクタハウジング73aとがさほど複雑に絡み合うことがない。
【0053】
これにより、実施例1の電動圧縮機と比較例の電動圧縮機と比較すると、図8のグラフに示すように、実施例1の電動圧縮機は、レーザ加工痕75が深さL1であるときに、比較例の電動圧縮機よりもコネクタ73が高い引張強度を発揮する。この結果、実施例1の電動圧縮機のインバータカバー71では、車両に搭載された他の機器から生じた振動や車両の走行によって生じた振動の他、作動による電動圧縮機の振動等の影響を受けても、コネクタハウジング73a、ひいてはコネクタ73が剥離し難くなっている。
【0054】
したがって、実施例1の電動圧縮機におけるインバータカバー71では、小型化を実現しつつ、コネクタ73がインバータ回路9に対して電力を好適に供給可能である。
【0055】
特に、インバータカバー71では、レーザ加工痕75が複数形成されているため、1つのレーザ加工痕75と1つの係合部77とが係合する場合に比べて、インバータカバー71とコネクタ73とが強固に一体化させることが可能となっている。
【0056】
図5及び図7に示すように、レーザ加工痕75同士は、互いに第1距離L2で幅方向に離間している。この第1距離L2は、各レーザ加工痕75の深さL1よりも短い。このため、コネクタ7では、レーザ加工痕75同士の間隔が狭くなっている。また、レーザ加工痕75同士の間隔が狭くなることで、各係合部77同士の間隔も狭くなっている。これらのため、接合領域X1では、各係合部77が狭い間隔で各レーザ加工痕75にそれぞれ係合する。これにより、インバータカバー71では、コネクタハウジング73aが剥離し難くなっている。また、各係合部77が狭い間隔で各レーザ加工痕75にそれぞれ係合することにより、インバータカバー71とコネクタ73との間の気密性を十分に高くすることが可能となっている。
【0057】
ここで、レーザ加工痕75同士を第1距離L2で幅方向に離間させることで、上記のように、レーザ加工痕75同士の間隔を狭くしつつも、隣り合うレーザ加工痕75同士の間には、メッキ層71bと母材71bとが接合される領域Yが存在している。つまり、隣り合うレーザ加工痕75同士は、境界面71cにおいて、メッキ層71bの全てが溶解することがない程度に離れている。これにより、境界面71cに溝71dを好適に形成しつつ、隣り合うレーザ加工痕75は、溝71dとそれぞれ一体化する。この点においても、インバータカバー71とコネクタ73とが強固に一体化させることが可能となっている。
【0058】
さらに、コネクタハウジング73aはガラス繊維730bを含んでいることから、係合部77では、ガラス繊維730bもレーザ加工痕75と絡み合う。ここで、基材730aとしてのポリフェニレンサルファイドは分子の大きさが比較的小さいため、レーザ加工痕75や溝71d内に好適に侵入しつつ、各係合部77を形成する。これらの点においても、インバータカバー71とコネクタ73とを強固に一体化させることが可能となっている。また、ガラス繊維730bにより、コネクタハウジング73aの強度も高くなっている。このため、コネクタ73に対して図示しないケーブル等の接続やその解除が繰り返し行われても、コネクタハウジング73aが損傷し難くなっている。
【0059】
さらに、各レーザ加工痕75が貫通孔712を囲うように形成されることにより、各レーザ加工痕75及び各係合部77は、端子731を囲んで周回するように形成される。ここで、コネクタ73が電源と接続されることにより、端子731の周囲には、インバータカバー71からコネクタ73が剥離する方向への負荷が大きく作用する。この点、このインバータカバー71では、端子731に近い位置で各レーザ加工痕75と各係合部77とが係合する。このため、インバータカバー71とコネクタハウジング73aとが剥離し難くなっている。
【0060】
また、メッキ層71bが亜鉛とマグネシウムとアルミニウムとで構成されているため、母材71aの熱膨張係数とメッキ層71bの熱膨張係数とを近づけることが可能となっている。このため、レーザ101の照射によって母材71aの温度が変化する際、メッキ層71bが緩衝材のように機能することで、母材71aの温度が急激に変化することを抑制することができる。このため、レーザ照射工程において、各レーザ加工痕75を好適に形成することが可能となっている。
【0061】
また、このコネクタ7では、接合領域X1が小さくなるため、各レーザ加工痕75を形成する際のレーザ照射工程を短縮することが可能となっている。また、接合領域X1が小さくなるため、コネクタハウジング73aを小型化することが可能となっている。これらのため、このインバータカバー71では、製造コストの削減も実現している。
【0062】
(実施例2)
図9に示すように、実施例2の電動圧縮機では、インバータカバー71と、コネクタハウジング73aとが接合領域X2で一体化されている。接合領域X2には、レーザ加工痕76が形成されている。このレーザ加工痕76は、互いに同心をなすとともに貫通孔712を同心とする複数の第1レーザ加工痕76aからなる。
【0063】
この電動圧縮機では、実施例1の電動圧縮機と同様、準備工程において、図3の(A)に示す初期基体700を準備する。そして、レーザ照射工程では、図10に示すように、まず初めに、実施例1の電動圧縮機と同様の方法によって、貫通孔712の外周側に1つ目の第1レーザ加工痕76aを形成する。つまり、図11に示すように、第1レーザ加工痕76a、ひいてはレーザ加工痕76も深さL1となっている。次に、図10に示すように、1つ目の第1レーザ加工痕76aと一部が重なるように、第1レーザ加工痕76aの幅方向にレーザ照射装置100を移動させる。そして、レーザ101を照射しつつ、R1方向にレーザ照射装置100を移動させる。これにより、1つ目の第1レーザ加工痕76aに一部が重なった状態で、2つ目の第1レーザ加工痕76aが形成される。これらを順次繰り返すことにより、1つのレーザ加工痕76が形成される。
【0064】
このようにして形成されたレーザ加工痕76の溝幅は、図5に示す各レーザ加工痕75の溝幅に比べて大きくなっている(図11参照)。なお、レーザ加工痕76の溝幅は、第1レーザ加工痕76aの個数によって適宜変更可能である。
【0065】
この電動圧縮機では、コネクタハウジング形成工程において、コネクタハウジング73aを形成する際、図12に示すように、基材730aは、ガラス繊維730bとともにレーザ加工痕76内に侵入する。こうして、コネクタハウジング73aには、1つの係合部79が一体で形成される。係合部79も貫通孔712を周回するように形成されている。係合部79は、図7に示す各係合部77に比べて幅広に形成されている。
【0066】
図12に示すように、接合領域X2では、各第1凸部751と各第1凹部771とが係合するとともに、各第2凸部752と各第2凹部772とが係合する。さらに、各溝71dと各第3凸部773とが係合する。これにより、レーザ加工痕76と係合部79とが係合している。こうして、インバータカバー71とコネクタハウジング73aとが接合領域X2で一体化されている。この電動圧縮機における他の構成は、実施例1の電動圧縮機と同様であり、同一の構成については同一の符号を付して構成に関する詳細な説明を省略する。
【0067】
この電動圧縮機では、レーザ照射工程において、第1レーザ加工痕76a同士が幅方向で一部が重なるように、レーザ照射装置100を第1レーザ加工痕76aの幅方向に移動させつつレーザ101を照射する。このため、レーザ101の出力を大きくすることなく、レーザ加工痕76の幅を大きく形成することが可能となっている。このため、レーザ加工痕76と係合部79とを広い範囲で係合させることが可能となっている。これにより、インバータカバー71とコネクタハウジング73aとを接合領域X2で強固に一体化することが可能となっている。この電動圧縮機における他の作用は実施例1の電動圧縮機と同様である。
【0068】
(実施例3)
図13及び図14に示すように、実施例3の電動圧縮機では、インバータカバー71と、コネクタハウジング73aとが接合領域X3で一体化されている。接合領域X3には、各レーザ加工痕75及び各係合部77に加えて、接着層83が設けられている。
【0069】
詳細な図示を省略するものの、この電動圧縮機では、準備工程で準備される初期基体700のメッキ層71b上には、接着層83を構成する接着塗料が予め塗布されている。なお、接着塗料は貫通孔712の周囲に塗布されている。ここで、接着塗料のうち、レーザ照射工程において、レーザ101が照射された部分は、母材71a及びメッキ層71bとともに溶融する。このため、図13に示すように、インバータカバー71において、接着層83は、レーザ加工痕75同士の間など、レーザ101が照射されていない部分に存在する。そして、コネクタハウジング形成工程において、インバータカバー71にコネクタハウジング73aを形成する。これにより、図14に示すように、接合領域X3では、各係合部77が各レーザ加工痕75に侵入しつつ各レーザ加工痕75と係合する。また、接着層83によって、コネクタハウジング73aがインバータカバー71に接着される。こうして、インバータカバー71とコネクタハウジング73aとが接合領域X3で一体化される。この電動圧縮機における他の構成は、実施例1の電動圧縮機と同様である。
【0070】
このように、この電動圧縮機のコネクタ7では、接合領域X3が接着層83を有するため、接合領域X3において、インバータカバー71とコネクタハウジング73aとがより強固に一体化されている。また、接着層83によって接合領域X3が大型化することもない。この電動圧縮機における他の作用は実施例1の電動圧縮機と同様である。
【0071】
以上において、本発明を実施例1~3に即して説明したが、本発明は上記実施例1~3に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0072】
例えば、接合領域X2に接着層83が設けられても良い。
【0073】
また、レーザ加工痕75とレーザ加工痕76とを組み合わせて形成しても良い。
【0074】
さらに、コネクタハウジング形成工程を行った後に、端子取付工程を行っても良い。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、車両等に搭載される電気機器に利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
9…インバータ回路(電気回路)
71…インバータカバー(カバー)
71a…母材
71b…メッキ層
73…コネクタ
73a…コネクタハウジング
75、76…レーザ加工痕
101…レーザ
700…初期基体
712…貫通孔
730b…ガラス繊維(強化繊維)
731…端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14