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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】切削加工方法及び切削加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/08 20060101AFI20220308BHJP
   B23B 5/00 20060101ALI20220308BHJP
   B23B 27/12 20060101ALI20220308BHJP
   B23B 29/03 20060101ALI20220308BHJP
   B23C 3/02 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B23B27/08 A
B23B5/00 Z
B23B27/12
B23B29/03 Z
B23C3/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017216520
(22)【出願日】2017-11-09
(65)【公開番号】P2018118371
(43)【公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2017008716
(32)【優先日】2017-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 孝司
(72)【発明者】
【氏名】成澤 正美
(72)【発明者】
【氏名】黒▲柳▼ 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】七里 嘉信
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-051003(JP,A)
【文献】特開昭58-143908(JP,A)
【文献】特開昭60-161011(JP,A)
【文献】特開2012-202281(JP,A)
【文献】特表2013-530058(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0047885(US,A1)
【文献】特開2011-161628(JP,A)
【文献】実開昭60-007905(JP,U)
【文献】特開平03-055115(JP,A)
【文献】米国特許第4223580(US,A)
【文献】特開昭53-137482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 1/00 - 29/34
B23C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する円筒状のワークの内周面を、先端に丸コマチップが取り付けられた直線状の工具によって切削加工する方法であって、
前記工具は、前記丸コマチップと軸線が共通し、
前記ワークの軸方向一方側の側面をチャック装置側の接触面に当てた状態で当該ワークを当該チャック装置によって把持し、
前記工具を、前記ワークの軸方向他方側の外側から前記ワークの内側にわたって配置し、
前記ワークの回転中心線と、前記丸コマチップの軸線に平行でかつ当該回転中心線と交差する仮想直線との交差角度を45度未満とし、
前記ワークの内周面に対する前記丸コマチップの送り方向を、当該ワークの軸方向他方側から軸方向一方側に向かう方向として、前記軸線回りに前記工具とともに回転する当該丸コマチップによって当該ワークの内周面を切削加工する、切削加工方法。
【請求項2】
前記ワークの前記回転中心線を含む鉛直仮想平面を基準として当該鉛直仮想平面の一方側を第一領域とし他方側を第二領域とした場合に、
前記工具が有する直線軸部は、前記第一領域側から前記第二領域側に前記先端が向かうように延びて配置されており、
前記直線軸部の前記先端に取り付けられている前記丸コマチップは、前記第二領域において前記ワークの内周面と接触する、請求項1に記載の切削加工方法。
【請求項3】
前記工具は、前記工具の軸線が前記回転中心線に対してねじれの位置にある状態で配置されている、請求項1又は2に記載の切削加工方法。
【請求項4】
前記ワークの軸方向他方側の外側に設けられた回転駆動部によって、前記ワークと前記丸コマチップとの回転速度差を小さくする方向に、前記工具及び前記丸コマチップを軸線回りに回転させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の切削加工方法。
【請求項5】
回転する円筒状のワークの内周面を切削加工する切削加工装置であって、
前記ワークの軸方向一方側の側面を当てる接触面を有し当該ワークを把持するチャック装置と、
先端に丸コマチップが取り付けられ、前記丸コマチップと軸線が共通する直線状の工具と、
前記ワークの回転中心線と、前記丸コマチップの軸線に平行でかつ当該回転中心線と交差する仮想直線との交差角度が45度未満となるように前記工具を取り付けているッドと、
前記ワークの内周面に対する前記丸コマチップの送り方向を、当該ワークの軸方向他方側から一方側に向かう方向とする送り機構と、
を備え
前記ヘッドは、
前記ワークの軸方向他方側の外側に配置され、
前記ワークの軸方向他方側の外側から前記ワークの内側にわたって配置される前記工具を、前記丸コマチップとともに軸線回りに回転可能として支持する、切削加工装置。
【請求項6】
前記工具は、先部に前記丸コマチップが取り付けられているホルダと、前記ホルダと前記丸コマチップとを固定するためのボルトと、を有し、
前記丸コマチップには、前記ボルトの軸部を挿通させる貫通孔が前記軸線に沿って形成されており、
前記ホルダには、前記ボルト用のねじ穴が形成されており、
前記ねじ穴に対する前記ボルトの回転による締め付け方向と、切削の際の前記丸コマチップの軸線回りの回転方向とを反対としている、請求項に記載の切削加工装置。
【請求項7】
前記工具は、先部に前記丸コマチップが取り付けられているホルダを有し、
前記ホルダは、前記丸コマチップの外周面と全周にわたって接触する環状壁部を有している、請求項又はに記載の切削加工装置。
【請求項8】
前記ヘッドは、前記工具及び前記丸コマチップを当該丸コマチップの軸線回りに回転駆動させる回転駆動部を有し、前記ワークと前記丸コマチップとの回転速度差を小さくする方向に当該丸コマチップを回転させる、請求項のいずれか一項に記載の切削加工装置。
【請求項9】
前記ヘッドは、前記工具の軸線が前記回転中心線に対してねじれの位置にある状態で、前記工具を支持する、請求項5~8のいずれか一項に記載の切削加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状のワークを切削加工する方法、及び、この方法のための切削加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状のワークを切削して所定形状を得るための手段として、ロータリー切削が知られている。ロータリー切削は、加工装置のヘッドに取り付けられている工具の先端に丸コマチップ(以下、チップという。)が装着されており、ワークを回転させながら工具(チップ)も回転させ、チップを送りながらワークを切削する方法である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来のロータリー切削では、図9に示すように、ワーク90の回転中心線Cxを水平とした場合、直線状である工具99の軸線C1の方向が、鉛直方向に対して30度以下で傾斜した方向に設定されており(A≦30度)、工具99(チップ98)の送り方向を、図9の矢印Y1方向(チップ98の半径方向に近い方向)としている。チップ98の軸線は、工具99の軸線C1と一致しており、工具99が軸線C1回りに回転することでチップ98は回転する。ロータリー切削の場合、チップ98が回転することから、通常のシングルポイント加工に比べてチップ98の寿命が長く、また、加工効率が良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-68831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9に示すように、円筒状のワーク90は軸方向の端部91においてチャック装置95によって把持されている。切削加工が始まると、ワーク90と工具99との間に大きな切削抵抗が生じ、この切削抵抗は図9の矢印X方向(ワーク90の接線方向)に大きくなるため、チャック装置95によってワーク90を強固に把持する必要がある。つまり、図9に示すチャック装置95は、円筒状のワーク90を径方向内側から掴んで把持する構成であり、このように把持することでワーク90を支持する方向と、ワーク90に作用する前記大きな切削抵抗の方向(矢印X方向)とが、同じ方向(平行)となるため、この大きな切削抵抗に抗する把持力がチャック装置95に必要となる。特にワーク90が熱処理されて高硬度となっている場合、切削抵抗が更に大きくなる。切削抵抗に応じてチャック装置95の把持力を大きくすればよいが、この場合、ワーク90に歪が生じ、加工後の精度が低下してしまう。このため、ロータリー切削は仕上げ加工に不向きであるという認識が一般的である。
【0006】
ワーク90が円筒状である場合、その外周の加工については、図9に示すように従来のロータリー切削方法を採用することは可能であるが、内周の加工についてはそのまま採用することができない。つまり、工具99(チップ98)を矢印Y1方向に送ると、工具99がワーク90に干渉するため加工が不可能となる。干渉を防ぐために、図10に示すように、工具99の突き出し長さLを大きくすればよいが、この場合、工具99の剛性が低下して切削が困難となる。このように、ロータリー切削は、工具99とワーク90との配置の関係により、ワーク90の外周の切削加工に用いられている。
【0007】
そこで、本発明は、ワークを回転させながら丸コマチップも回転させて行う切削加工を、円筒状のワークの内周に対しても可能とし、かつ、高い加工精度を確保することができる方法、及び、この方法を行うための切削加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、回転する円筒状のワークの内周面を、先端に丸コマチップが取り付けられた直線状の工具によって切削加工する方法であって、前記ワークの軸方向一方側の側面をチャック装置側の接触面に当てた状態で当該ワークを当該チャック装置によって把持し、前記ワークの回転中心線と、前記丸コマチップの軸線に平行でかつ当該回転中心線と交差する仮想直線との交差角度を45度未満とし、前記ワークの内周面に対する前記丸コマチップの送り方向を、当該ワークの軸方向他方側から軸方向一方側に向かう方向として、前記軸線回りに回転する当該丸コマチップによって当該ワークの内周面を切削加工する。
【0009】
この切削加工方法によれば、前記交差角度を45度未満で小さくするほど、丸コマチップの軸線の方向はワークの軸方向と近くなり、円筒状のワークに工具が干渉せず内周面の加工が可能となる。また、丸コマチップを前記方向に送ることで、丸コマチップとワークとの間に大きな切削抵抗が作用するが、前記交差角度を45度未満で小さくするほど、丸コマチップの軸線の方向はワークの軸方向と近くなるため、ワークに作用する切削抵抗は、ワークの軸方向に大きくなり、この軸方向に直交する方向には小さくなる。そこで、本発明では、ワークをチャック装置によって保持した状態で、このワークの軸方向一方側の側面を接触面に当てていることから、ワークに作用する大きな前記切削抵抗を前記接触面で受け、ワークを安定して支持することができる。また、前記交差角度を45度未満で小さくするほど、ワークの軸方向に直交する方向に作用する切削抵抗は小さくなることから、この小さい切削抵抗に抗する程度の把持力でチャック装置はワークを把持すればよい。このため、チャック装置の把持力によるワークの歪を抑えることができ、高い加工精度を確保することが可能となる。
【0010】
また、前記ワークの前記回転中心線を含む鉛直仮想平面を基準として当該鉛直仮想平面の一方側を第一領域とし他方側を第二領域とした場合に、前記工具が有する直線軸部は、前記第一領域側から前記第二領域側に前記先端が向かうように延びて配置されており、前記直線軸部の前記先端に取り付けられている前記丸コマチップは、前記第二領域において前記ワークの内周面と接触するのが好ましい。この方法によれば、工具の直線軸部は、円筒状のワークに更に干渉し難くなる。
【0011】
また、前記ワークと前記丸コマチップとの回転速度差を小さくする方向に、当該丸コマチップを軸線回りに回転させるのが好ましい。ワークと丸コマチップとの回転速度差を小さくすることで、ワークの内周面に対して丸コマチップが接触する切削点での実切削速度が小さくなる。このため、切削点の温度上昇を抑えることができ、耐酸化温度が比較的低い材料による安価な丸コマチップを採用することも可能となる。また、ワークの回転速度を高めても、それに応じて、丸コマチップを高速で回転させることで、両者の回転速度差を小さくし、実切削速度を小さくすることができ、切削点の温度上昇を抑えることができる。しかも、丸コマチップの送りは、ワーク一回転当たりのチップの進む量で設定されることから、ワークの回転速度を高めることで、丸コマチップの送りが大きくなり、加工効率を向上させることが可能となる。
【0012】
また、本発明は、回転する円筒状のワークの内周面を切削加工する切削加工装置であって、前記ワークの軸方向一方側の側面を当てる接触面を有し当該ワークを把持するチャック装置と、先端に丸コマチップが取り付けられている直線状の工具と、前記ワークの回転中心線と、前記丸コマチップの軸線に平行でかつ当該回転中心線と交差する仮想直線との交差角度が45度未満となるように前記工具を取り付けていると共に、当該工具を回転可能として支持するヘッドと、前記ワークの内周面に対する前記丸コマチップの送り方向を、当該ワークの軸方向他方側から一方側に向かう方向とする送り機構と、を備えている。
この切削加工装置により、前記切削加工方法が可能となる。
【0013】
また、前記工具は、先部に前記丸コマチップが取り付けられているホルダと、前記ホルダと前記丸コマチップとを固定するためのボルトと、を有し、前記丸コマチップには、前記ボルトの軸部を挿通させる貫通孔が前記軸線に沿って形成されており、前記ホルダには、前記ボルト用のねじ穴が形成されており、前記ねじ穴に対する前記ボルトの回転による締め付け方向と、切削の際の前記丸コマチップの軸線回りの回転方向とを反対としているのが好ましい。この構成によれば、切削の負荷でボルトは締め付けられ、丸コマチップの脱落を防ぐことができる。
【0014】
また、前記工具は、先部に前記丸コマチップが取り付けられているホルダを有し、前記ホルダは、前記丸コマチップの外周面と全周にわたって接触する環状壁部を有しているのが好ましい。この構成によれば、ホルダに対して丸コマチップを振れ防止して取り付けることが可能となり、加工精度を向上させることができる。
【0015】
また、前記ヘッドは、前記工具及び前記丸コマチップを当該丸コマチップの軸線回りに回転駆動させる回転駆動部を有し、前記ワークと前記丸コマチップとの回転速度差を小さくする方向に当該丸コマチップを回転させるのが好ましい。ワークと丸コマチップとの回転速度差を小さくすることで、ワークの内周面に対して丸コマチップが接触する切削点での実切削速度が小さくなる。このため、切削点の温度上昇を抑えることができ、耐酸化温度が比較的低い材料による安価な丸コマチップを採用することも可能となる。また、ワークの回転速度を高めても、それに応じて、丸コマチップを高速で回転させることで、両者の回転速度差を小さくし、実切削速度を小さくすることができ、切削点の温度上昇を抑えることができる。しかも、丸コマチップの送りは、ワーク一回転当たりのチップの進む量で設定されることから、ワークの回転速度を高めることで、丸コマチップの送りが大きくなり、加工効率を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、円筒状のワークに工具が干渉せず内周面の加工が可能となると共に、チャック装置の把持力によるワークの歪を抑制することができ、高い加工精度を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の切削加工装置の一部及び加工の対象となるワークについての実施の一形態を示す平面図である。
図2】ワーク及び工具の簡略化した平面図である。
図3図2の正面図であり、回転中心線に沿った方向から見た図である。
図4図2の側面図であり、回転中心線に直交する方向から見た図である。
図5】工具の説明図である。
図6】ワークの内周面及びチップの説明図である。
図7】ワークの内周面及びチップの説明図である。
図8】実切削速度の説明図である。
図9】従来のロータリー切削の説明図である。
図10】従来のロータリー切削により円筒状のワークの内周面を切削加工する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の切削加工装置の一部及び加工の対象となるワークについての実施の一形態を示す平面図である。切削加工装置10は、ワーク7を把持するチャック装置14、直線状の工具20、工具20を回転可能として支持するヘッド15、及び、工具20を所定方向に送る送り機構16を備えている。チャック装置14、ヘッド15及び送り機構16は、床に設置されている図外の装置本体に搭載されている。
【0019】
切削加工装置10は、ヘッド15から延びる工具20の先端21に丸コマチップ30(以下、チップ30という。)が装着されており、図1及び図6に示すように、ワーク7を回転させながら工具20(チップ30)も回転させ、チップ30を送りながらワーク7の切削を行うロータリー切削加工装置である。ワーク7は円筒状の部材であり、切削加工装置10によって、その内周面8が切削加工される。ワーク7の例としては、円すいころ軸受の軌道輪(内輪、外輪)や、円筒ころ軸受の軌道輪(内輪、外輪)であり、本実施形態では、円すいころ軸受の外輪を加工対象としている。
【0020】
図1において、チャック装置14は、図外の前記装置本体が備えているワーク主軸13に設けられており、ワーク主軸13の中心線Cx回りに回転する。本実施形態では、中心線Cxを水平としている。チャック装置14は、ワーク7を掴む機構を有しており、本実施形態では、周方向に複数に設けられた治具41を備え、これら治具41によってワーク7を軸方向から挟んで固定する構成となっている。このために、チャック装置14は、ワーク7の軸方向一方側S1(図1では上側)の側面9を当てる接触面42を有しており、この側面9を接触面42に当てた状態でワーク7を把持する。治具41による締め付け力及び加工の際に生じる後述の切削抵抗に起因してワーク7に作用する軸方向の力は、接触面42を介してワーク主軸13が安定して受けることができる構成となっている。ワーク主軸13及びチャック装置14は、中心線Cx回りに回転駆動することで、ワーク7をこの中心線Cx回りに回転させる。中心線Cxが、ワーク7の回転中心線となる。以下、ワーク7の回転中心線の符号を「Cx」とする。
【0021】
工具20は、直線軸部22と、ホルダ23とを有しており、ホルダ23にチップ30がボルト24によって取り付けられている。直線軸部22及びホルダ23が直線的に並ぶことで直線状の工具20が構成されており、この工具20の先端にチップ30が取り付けられている。チップ30は一般的に広く用いられているものであり、円すい台形状を有している。工具20の軸線(中心線)とチップ30の軸線(中心線)とは、同一直線上に位置している。つまり、工具20の軸線とチップ30の軸線とは共通しており、この軸線の符号を「Cz」とする。
【0022】
ヘッド15は、工具20(直線軸部22)を回転可能として支持している。なお、ロータリー切削には、ワーク7の回転に連れられてチップ30が回転する従動型と、チップ30が自ら回転する駆動型との二種類ある。本発明においては従動型と駆動型とのいずれであってもよい。例えば、ヘッド15はクラッチ機構を有しており、装置本体に設けられているモータの回転力を工具20に伝達する(クラッチ接続状態とする)ことで前記駆動型となり、クラッチ接続を解除した状態で、工具20は空転することができ、前記従動型となることができる。
【0023】
図2は、ワーク7及び工具20の簡略化した平面図である。図3は、図2の正面図であり、回転中心線Cxに沿った方向から見た図である。図4は、図2の側面図であり、回転中心線Cxに直交する水平方向から見た図である。図2及び図4では、ワーク7を断面として示している。これらの図及び図6に示すように、回転中心線Cxと軸線Czとは、ねじれの位置の関係にある。
【0024】
このために、図1に示すように、工具20の長手方向、つまり、チップ30の軸線Czの方向が所定の方向となるように、前記装置本体に対してヘッド15は向けられた状態にある。本実施形態では、ワーク7の回転中心線Cxと、チップ30の軸線Czに平行でかつ回転中心線Cxと交差する仮想直線Lとの交差角度Bが、45度未満となるように、ヘッド15は工具20を取り付けている。本実施形態では、前記交差角度Bが得られるように、ヘッド15がワーク主軸13に対して傾いている。
【0025】
前記交差角度Bは45度未満であればよく(B<45度)、好ましくは30度以下(B≦30度)であり、更に好ましくは20度以下(B≦20度)である。なお、交差角度Bの下限値については5度とするのが好ましい(B≧5度)。
【0026】
送り機構16(図1参照)は、例えばモータ(サーボモータ)、モータの出力を減速する減速機、及びモータによって回転するボールねじ等を含む構成とすることができる。送り機構16は、ヘッド15を所定の方向に移動させる構成であり、本実施形態では、切削加工のために、ヘッド15をワーク7の軸方向他方側S2から一方側S1に向かう方向に直線移動させている。送り機構16は、このようにヘッド15を移動させることで、ワーク7の内周面8に対するチップ30の送り方向を、ワーク7の軸方向他方側S2から一方側S1に向かう方向とすることができる。図示しているワーク7は、内周面8がテーパ形状となっているため、チップ30の送り方向は、このテーパ形状に沿ってワーク7の軸方向他方側S2から一方側S1に向かう方向となる。チップ30の送り方向を、回転中心線Cxに対して、このテーパ形状を成す傾斜角度について傾斜した方向とすることで、内周面8に対して一定の切り込み量による切削が可能となる。なお、ワーク7の内周面8は円筒面形状であってもよく、この場合、チップ30の送り方向は、ワーク7の軸方向他方側S2から一方側S1に向かう方向として、回転中心線Cxに平行な方向となる。
【0027】
以上の構成を備えた切削加工装置(図1参照)によって行われる切削加工方法について説明する。この方法は、ワーク7の軸方向一方側の側面9をチャック装置14側の接触面42に当てた状態でこのワーク7をチャック装置14によって把持し、ワーク7の回転中心線Cxと、チップ30の軸線Czに平行でかつ回転中心線Cxと交差する仮想直線Lとの交差角度Bを45度未満とし、ワーク7の内周面8に対するチップ30の送り方向を、ワーク7の軸方向他方側S2から軸方向一方側S1に向かう方向として、軸線Cz回りに回転するチップ30によって、回転中心線Cx回りに回転するワーク7の内周面8を切削加工することにより行われる。
【0028】
この切削加工方法では、前記交差角度Bを45度未満で小さくするほど、工具20及びチップ30の軸線Czの方向は、ワーク7の軸方向と近くなる。このため、内周面8を切削する場合において、ワーク7に工具20が干渉せず、加工が可能となる。なお、図示している形態では交差角度Bを15度としている。
【0029】
また、チップ30を前記のとおりワーク7の軸方向他方側S2から軸方向一方側S1に向かう方向へ送りながら切削加工を行うことで、チップ30とワーク7との間に大きな切削抵抗Fが作用する。この切削抵抗Fのうち、軸線Cxに平行な方向の成分を、各図において矢印Fxで示し、その直交方向の成分を矢印Frで示している。本実施形態の切削加工方法によれば、前記交差角度Bが小さい値として15度に設定されていることにより、チップ30の軸線Czの方向はワーク7の軸方向と近くなるため(つまり、回転中心線Cxと平行に近づくため)、ワーク7に作用する切削抵抗Fは、矢印Fxで示すように、ワーク7の軸方向(回転中心線Cxに平行な方向)に大きくなり、矢印Frで示すように、この軸方向に直交する方向には小さくなる。そこで、本実施形態の切削加工方法では、ワーク7をチャック装置14によって保持した状態で、このワーク7の軸方向一方側S1の側面9を接触面42に当てている。このため、矢印Fx方向の切削抵抗成分は大きくなるが、これを接触面42で受けることができ、ワーク7を安定して支持することが可能となる。また、矢印Fr方向の切削抵抗成分は小さいことから、この小さい切削抵抗成分に抗する程度の把持力でチャック装置14はワーク7を把持すればよい。このため、チャック装置14の把持力によるワーク7の歪を抑えることができ、高い加工精度を確保することが可能となる。本実施形態の切削加工によれば、加工精度を高く確保することができることから、荒加工以外にも仕上げ加工に適用することが可能である。なお、ワーク7は鋼製であり、熱処理(焼入れ処理)がされて硬いものであっても、本実施形態の切削加工が可能である。
【0030】
また、本実施形態では、図3に示すように、ワーク7の下点(底点)7bを基準として、所定の位相角Kの位置でチップ30がワーク7の内周面8に接触しており、送り機構16は、この位相角Kを保ってワーク7の軸方向他方側S2から一方側S1にチップ30を送る。この位相角Kによれば、工具20の直線軸部22(図1参照)は、円筒状のワーク7に対して、より一層干渉し難くなる。つまり、図1図2及び図3において、ワーク7の回転中心線Cxを含む鉛直仮想平面Qを基準として、この鉛直仮想平面Qの水平方向の一方側(図1図2及び図3では右側)を第一領域P1とし、水平方向の他方側を第二領域P2とした場合に、工具20が有する直線軸部22は、第一領域P1側から第二領域P2側に先端21が向かうように延びて配置されており、この直線軸部22の先端21に取り付けられているチップ30は、第二領域P2においてワーク7の内周面8と接触する。このように工具20を配置させて切削加工を行うことにより、工具20の直線軸部22はワーク7に干渉し難くなり、軸方向に長いワーク7についても内周面8の切削加工が可能となる。なお、前記位相角Kを0度よりも大きく、45度以下(0≦K≦45)に設定することができる。または、前記位相角は0度であってもよい。
【0031】
図5により、工具20に対するチップ30の取り付け構造について説明する。工具20の直線軸部22には軸状のホルダ23が固定されており、このホルダ23の先部にチップ30が取り付けられている。工具20は、更に、ホルダ23とチップ30とを固定するためのボルト24を有している。ホルダ23には、ボルト24用のねじ穴25が前記軸線Czに沿って形成されており、チップ30には、ボルト24の軸部24aを挿通させる貫通孔31が前記軸線Czに沿って形成されている。貫通孔31は、座ぐり穴付であり、ボルト24の頭部24bを挿通不能としている。ボルト24をねじ穴25に螺合させることで、チップ30をホルダ23に固定することができる。また、ボルト24を緩めることでチップ30をホルダ23から取り外すことが可能となる。
【0032】
チップ30の脱落を防ぐために、ホルダ23に対してチップ30を回り止めして取り付ける必要がある。そこで、回り止めのためにチップ30やホルダ23を特殊な形状としてもよいが、本実施形態では、ねじ穴25に対するボルト24の回転による締め付け方向と、切削の際のチップ30の軸線Cz回りの回転方向とを反対としており、これにより、切削の負荷でボルト24が締め付けられるように構成されている。つまり、チップ30がワーク7に接触して切削加工が行われると、チップ30は、工具20の回転方向と同方向に回転するが、その反対方向の負荷が生じる。このような負荷が生じるとチップ30はボルト24を相互間の摩擦力によって前記反対方向に回そうとする。そこで、この反対方向を、ボルト24がねじ穴25に締め付けられる方向とすれば、切削の際にボルト24は緩むことがなく、別途回り止めを付する必要がない。
回り止めのために、チップ30やホルダ23を特殊な形状とする場合、市販の(単純な形状の)チップ30の採用が困難であり、また、刃具コストが高くなるという問題点があるが、本実施形態によれば、チップ30において脱落防止のための特殊な加工が不要であり、市販のものを採用することが可能となる。
【0033】
また、前記のとおり、工具20は、先部にチップ30が取り付けられているホルダ23を有しており、このホルダ23は、チップ30の外周面32と全周にわたって接触する環状壁部26を有している。つまり、ホルダ23の先端部には、軸線Czを中心とする輪郭形状が円形である有底の凹穴が形成されており、この凹穴にチップ30の一部が嵌め入れられている。そして、この状態で、ボルト24によってチップ30がホルダ23に締め付けられる。この構成によれば、ホルダ23に対してチップ30を振れ防止して取り付けることが可能となり、加工精度を向上させることができる。
【0034】
以上のように、本実施形態の切削加工はロータリー切削によるものであり、チップ30が回転することから、通常のシングルポイント加工に比べてチップ30の寿命が長く、また、加工効率が良い。このため、刃具費用を含む設備費用を低減することができ、加工コストの削減が可能となる。
【0035】
前記のとおり、ロータリー切削は、ワーク7の回転に連れられてチップ30が回転する従動型と、チップ30が自ら回転する駆動型とのいずれであってもよい。以下において、駆動型とする場合について説明する。
駆動型のロータリー切削の場合、チップ30の軸線Cz回りにチップ30を回転駆動させる。チップ30の回転方向は、ワーク7の回転方向と合わせる。つまり、ワーク7の回転方向の成分を有する方向にチップ30を回転させる。このために、ヘッド15は(図1参照)回転駆動部17を有し、回転駆動部17は、工具20及びチップ30をチップ30の軸線Cz回りに回転駆動させる。回転駆動部17は、モータ及び減速機を含む構成であり、チップ30の回転速度を変更する機能も備えている。
【0036】
図7は、ワーク7の内周面8及びチップ30の説明図である。ワーク7の中心線Cx回りの回転速度、つまりワーク切削速度を「Vw(m/min)」とし、チップ30の軸線Cz回りの回転速度、つまり工具切削速度を「Vt(m/min)」とした場合、Vw>Vtとなるように、ワーク7の回転速度及びチップ30の回転速度が設定される。ワーク7の内周面8に対してチップ30が接触する切削点U(加工点)での実切削速度(実質的な切削速度)Vaは、次の式(1)により表される(図8参照)。
Va=Vw-Vt・cosB ・・・(1)
【0037】
前記式(1)中の「B」は、ワーク7とチップ30との交差角度であり、図7に示すように、ワーク7の回転中心線Cxと、チップ30の軸線Czに平行でかつ回転中心線Cxと交差する仮想直線Lとの交差角度と等しい。前記式(1)中の「Vt・cosB」は、工具切削速度Vtのワーク回転方向の速度成分である。前記式(1)は、ワーク7とチップ30とのワーク回転方向における相対速度差が、実切削速度Vaとなることに基づく式である。この式(1)によれば、角度Bを小さくするほど、実切削速度Vaは小さくなる。実切削速度Vaを小さくするためには、角度Bを小さくすればよく、前記のとおり、45度未満であればよく(B<45度)、好ましくは30度以下(B≦30度)であり、更に20度以下(B≦20度)とするのが好ましい。
【0038】
このように、駆動型のロータリー切削では、ワーク7とチップ30との回転速度差を小さくする方向にチップ30を軸線Cz回りに回転させる。ワーク回転方向の成分を有する方向にチップ30を回転させることで、ワーク7とチップ30との回転速度差が小さくなり、式(1)により示されるように、切削点Uでの実切削速度Vaが小さくなる。このため、切削点Uの温度上昇を抑えることができ、耐酸化温度が比較的低い材料による安価なチップ30を採用することも可能となる。例えば、チップ30として、耐酸化温度は(CBNと比較して)低いが安価である超硬又は超硬コーティングによる丸コマチップとすることができる。超硬又は超硬コーティングによるチップ30の場合でも、前記のとおり切削点Uでの実切削速度Vaを小さくすることで、切削点Uの温度上昇を抑えることができ、チップ30の摩耗等が早期に生じるのを防ぐことができる。また、ワーク7の回転速度を高めても、それに応じてチップ30を高速で回転させることで、両者の回転速度差を小さくし、実切削速度Vaを小さくすることができ、切削点Uの温度上昇を抑えることができる。しかも、チップ30の送りはワーク一回転当たりのチップ30の進む量で設定されることから、ワーク7の回転速度を高めることでチップ30の送りが大きくなり、加工効率を向上させることが可能となる。チップ30の送りを例えば、0.1mm/revとすることができ、更には、この値よりも大きくすることが可能である。
【0039】
超硬コーティングによるチップ30の場合、CBNと比較して耐酸化温度が低いため、従来では、切削点Uの温度を低く抑える必要があり、このために、切削速度を下げている。切削速度を下げると加工効率が低下する。しかし、前記実施形態のロータリー切削によれば、ワーク7の回転速度を上げても実切削速度Vaを小さく抑えることができるので、切削による温度上昇を抑えることができ、加工効率を低下させないで済む。すなわち、本実施形態の駆動型のロータリー切削によれば、超硬又は超硬コーティングによるチップ30を採用することができると共に、高速での切削が可能となり、加工効率を高めることが可能となる。
【0040】
前記式(1)により求められる実切削速度Vaが100m/min以下となるように、ワーク7及びチップ30の回転速度を設定するのが好ましい。切削点Uの温度上昇を抑える観点から、実切削速度Vaを更に小さくするのが好ましく、70m/min以下となるようにワーク7及びチップ30の回転速度を設定してもよい。なお、実切削速度Vaの下限値を、例えば20m/min又は30m/minとすることができる。
【0041】
前記の説明では、チップ30を、超硬又は超硬コーティングによる丸コマチップとする場合について説明したが、これら以外であってもよく、耐酸化温度が高いCBNによる丸コマチップとしてもよい。この場合、ワーク7の回転速度を更に高めることができ、加工効率をより一層高めることが可能となる。
【0042】
以上のとおり説明した各ロータリー切削では、ワーク7の内周面8に対するチップ30の送り方向を、ワーク7の軸方向他方側S2から軸方向一方側S1に向かう方向としており、このロータリー切削はアキシャルフィード工法であると言える。
【0043】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の切削加工方法及び切削加工装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、チャック装置14を他の形態としてもよく、ワーク7の外周面を径方向から掴む爪を複数有する構成であってもよい。送り機構16も他の形態とすることができる。また、内周面8がテーパ形状であるワーク7の場合について説明したが、軸方向に直線的となる円筒形状であってもよい。本実施形態では、ワーク7の中心線Cxを水平としており、また、チップ30の軸線Czも水平となっているが、軸線Czは水平に対して少し(例えば水平に対して10度以下の角度で)傾斜していてもよい。なお、前記実施形態の切削加工は、円筒又は円柱形状のワークの外周面に対しても適用可能であり、この場合、前記説明の「内周面」を「外周面」に置き換えればよい。
また、駆動型のロータリー切削の場合、チップ30の回転方向をワーク7の回転方向と反対向きにして切削加工を行ってもよい。
【符号の説明】
【0044】
7:ワーク 8:内周面 9:側面
10:切削加工装置 14:チャック装置 15:ヘッド
16:送り機構 17:回転駆動部 20:工具
21:先端 22:直線軸部 23:ホルダ
24:ボルト 24a:軸部 25:ねじ穴
26:環状壁部 30:丸コマチップ 31:貫通孔
32:外周面 42:接触面 B:交差角度
Cx:ワークの回転中心線 Cz:軸線 L:仮想直線
P1:第一領域 P2:第二領域 Q:鉛直仮想平面
S1:軸方向一方側 S2:軸方向他方側 U:接触点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10