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特許7035522配向セラミックスおよびその製造方法、圧電素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】配向セラミックスおよびその製造方法、圧電素子
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20220308BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20220308BHJP
   H01L 41/314 20130101ALI20220308BHJP
   H01L 41/43 20130101ALI20220308BHJP
   C04B 35/472 20060101ALI20220308BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20220308BHJP
   A61B 8/14 20060101ALI20220308BHJP
   G01N 29/24 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
C04B35/01
H01L41/187
H01L41/314
H01L41/43
C04B35/472
H04R17/00 330Y
A61B8/14
G01N29/24
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2017251958
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019108260
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2017243239
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017244244
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】峯本 尚
(72)【発明者】
【氏名】加藤 純一
(72)【発明者】
【氏名】内藤 達也
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-205048(JP,A)
【文献】特開2006-188414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0295138(US,A1)
【文献】特開2016-160172(JP,A)
【文献】特開平11-060333(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0375174(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/01
H01L 41/187
H01L 41/314
H01L 41/43
C04B 35/472
H04R 17/00
A61B 8/14
G01N 29/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BiScO3およびPbTiO3を含有するとともに、さらに、Pb(B1,B2)O 3 型(ただし、B1およびB2は互いに異なるペロブスカイトを構成するBサイト元素である)の複合ペロブスカイトを含有し、前記B1はIn、YbまたはScのうち少なくとも1種類であり、
擬立方晶表示で(100)配向し、ロットゲーリングファクターより求めた配向度が60%以上であることを特徴とする配向セラミックス。
【請求項2】
前記B1は、Yb、Sc、Inのうち少なくとも1種類から選ばれた元素であり、B2はNbまたはTaのうち少なくとも1種類から選ばれた元素であることを特徴とする請求項1に記載の配向セラミックス。
【請求項3】
BiScO3およびPbTiO3を含有し、擬立方晶表示で(100)配向し、ロットゲーリングファクターより求めた配向度が60%以上であり、
ペロブスカイトを組成式ABO 3 で表す時、Aサイトの10at%までが、BaおよびSrの少なくとも1種類の元素で置換されていることを特徴とする配向セラミックス。
【請求項4】
BiScO3およびPbTiO3を含有し、擬立方晶表示で(100)配向し、ロットゲーリングファクターより求めた配向度が60%以上であり、
ペロブスカイトを組成式ABO 3 で表す時、Aサイトの5at%までがNdおよびLaの少なくとも1種類の元素で置換されていることを特徴とする配向セラミックス。
【請求項5】
BiScO3およびPbTiO3を含有し、擬立方晶表示で(100)配向し、ロットゲーリングファクターより求めた配向度が60%以上であり、
PbTiO 3 のTiの一部がZrで置換されていることを特徴とする配向セラミックス。
【請求項6】
BiScO3およびPbTiO3を含有し、擬立方晶表示で(100)配向し、ロットゲーリングファクターより求めた配向度が60%以上であり、
不純物として、ドナー又はアクセプター、あるいは、両方がドープされていることを特徴とする配向セラミックス。
【請求項7】
ドナー不純物がBi、La、Nb、Nd、Ta、Wの少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の配向セラミックス。
【請求項8】
アクセプター不純物がMn、Fe、Al、Ga、Sc、Co、Ni、Crの少なくとも1種であることを特徴とする請求項6に記載の配向セラミックス。
【請求項9】
ペロブスカイトを組成式ABO3で表す時、前記不純物の量が、0.01at%以上、5at%未満であり、前記不純物は置換されているか、又は添加されていることを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載の配向セラミックス。
【請求項10】
菱面体晶又は菱面体晶と他の結晶系の組成相境界であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の配向セラミックス。
【請求項11】
対向する主面に垂直な方向の厚みが0.4mm以下であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の配向セラミックス。
【請求項12】
前記主面に対して、その主面を形成する長辺が2cm以上である請求項11に記載の配向セラミックス。
【請求項13】
前記主面の表面粗さがRaで0.5μm以下であることを特徴とする請求項1または1記載の配向セラミックス。
【請求項14】
シード粒子と、配向セラミックスを構成する平均粒子径が1μm以下であるマトリックス粒子を含むスラリーをシート状に成形したのちシートを焼結することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の配向セラミックスの製造方法。
【請求項15】
シード粒子として、すくなくともBaTiO3、SrTiO3、CaTiO3のいずれかを用いることを特徴とする請求項14に記載の配向セラミックスの製造方法。
【請求項16】
配向セラミックス原料中のPbまたはBiの少なくともいずれかが、組成式ABO3(AがPbまたはBi、およびその置換元素、BはTi、Sc、Zr、Yb、Sc、In、NbまたはTaである)100at%に対して0.01~5at%未満の範囲で過剰に添加されていることを特徴とする請求項1または15に記載の配向セラミックスの製造方法。
【請求項17】
対向する2つの主面に電極が作製されている請求項1~10のいずれか1項に記載の配向セラミックスを有することを特徴とする圧電素子。
【請求項18】
圧電素子の主面に垂直な方向の厚みが、0.4mm以下であることを特徴とする請求項17に記載の圧電素子。
【請求項19】
圧電素子の主面に垂直な方向の厚みが0.1mm以下であることを特徴とする請求項18に記載の圧電素子。
【請求項20】
前記圧電素子の前記主面の長辺が2cm以上である事を特徴とする請求項1719のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項21】
前記主面の表面粗さがRaで0.5μm以下であることを特徴とする請求項1720のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項22】
レンズ、整合層、圧電素子、背面負荷材を備えた超音波探触子であって、
圧電素子として、請求項1721のいずれか1項に記載の圧電素子を備えることを特徴とする、超音波探触子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータや超音波トランスデューサ等に適用される圧電素子の材料である配向セラミックス及びその製造方法に関し、特に主成分としてBiScO3とPbTiO3とを含有する配向セラミックスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電圧を印加することにより伸縮したり、圧力を印加することにより電圧を発生する圧電材料が広く利用されている。圧電材料の代表的な適用例としては、インクジェットヘッドにおけるアクチュエータや、超音波用探触子において超音波を送受信するトランスデューサ等が知られている。
【0003】
圧電材料としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛、PbTiO3-PbZrO3)に代表される圧電セラミック等が挙げられる。その内でも、圧電定数や電気機械結合係数を含む特性の高さや、価格や、取り扱いの容易性等の観点から、PZTが最も普及している。
【0004】
PZT等の主要な圧電セラミックスの結晶構造はペロブスカイト型結晶であり、ペロブスカイト型結晶構造(組成式ABO3)は、酸素によって形成されている複数の8面体が、頂点を共有して配列されている構造(頂点共有構造)を有している。また、そのように並べられている8個の8面体の中心付近(Aサイト)、及び、各8面体の中心(Bサイト)には、元素が配置されている。一般に、PZTのように圧電性能の高い酸化物においては、Aサイトに配置されている元素(Aサイト元素)が鉛を含んでいる。また、ペロブスカイト構造の圧電酸化物の中では、Bサイトに配置されている元素(Bサイト元素)としては、例えばニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等が知られている。
【0005】
ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスにおいては、その結晶を配向させることによって、例えば表1に示すように、圧電セラミックスの各種特性が向上することが知られている。
【0006】
【表1】
【0007】
※Ecを大きくするのに有利なBiScO3を含む系は、融液からの成長が困難なため、工業的サイズの単結晶を作製できない。このため、工業的に利用できる単結晶の抗電界EcはそのほとんどがBiScO3を含まない系であり、そのEcは比較的小さいのが現状である。
【0008】
特許文献1(特開平11-60333号公報)には、菱面体晶を主相として含むペロブスカイト型セラミックスよりなり、且つ、擬立方体晶表示で(100)面が配向している結晶配向セラミックスが提案されている。
【0009】
さらに、特許文献2(WO2013/116616)にはPMN-PZT系の配向セラミックス及び圧電素子、特許文献3(WO2013/088926)には、例えばPMN-PZT系を主成分とするは磁場配向セラミクスが開示されている。
【0010】
大きな圧電性能を得るには菱面体晶側の組成で(100)配向させる必要がある。しかしながら、PZT系、PMN-PT(マグネシウム・ニオブ酸鉛・チタン酸鉛固溶体)系などの配向セラミックスでは、菱面体晶側の組成になるとEcが小さくなる。
これに対し、BiScO3を含む系は、菱面体晶側で大きなEcを持つため配向セラミックスとして有望であるが、BiScO3系配向セラミックスで無配向セラミックスに比べて性能が向上した配向セラミックスは実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平11-60333号公報
【文献】WO2013/116616
【文献】WO2013/088926
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、大きな抗電界と大きな誘電率を両立する材料であり、超音波プローブ用に十分な大きさを有する新規な配向セラミックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、配向セラミックスとして、BiScO3とPbTiO3を含有する擬立方晶表示で(100)配向の配向セラミックスは、Ecが大きく、かつ誘電率と圧電性能が大きな配向セラミックスを実現できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明の構成は以下の通りである。
[1]BiScO3およびPbTiO3を含有し、擬立方晶表示で(100)配向していることを特徴とする配向セラミックス。
[2]菱面体晶又は菱面体晶と他の結晶系の組成相境界であることを特徴とする[1]の配向セラミックス。
[3]ロットゲーリングファクターより求めた配向度が60%以上であることを特徴とする[1]又は[2]の配向セラミックス。
[4]さらに、Pb(B1,B2)O3型(ただし、B1およびB2は互いに異なるペロブスカイトを構成するBサイト元素である)の複合ペロブスカイトを含有することを特徴とする[1]~[3]の配向セラミックス。
[5]前記B1は、Mg、Zn、Ni、Fe、Yb、Sc、Inのうち少なくとも1種類から選ばれた元素であり、B2はNbまたはTaのうち少なくとも1種類から選ばれた元素である事を特徴とする[4]の配向セラミックス。
[6]前記B1はIn、YbまたはScのうち少なくとも1種類であることを特徴とする[5]の配向セラミックス。
[7]ペロブスカイトを組成式ABO3で表す時、Aサイトの10at%までが、BaおよびSrの少なくとも1種類の元素で置換されていることを特徴とする[1]~[6]の配向セラミクス。
[8]ペロブスカイトを組成式ABO3で表す時、Aサイトの5at%までがNdおよびLaの少なくとも1種類の元素で置換されていることを特徴とする[1]~[7]の配向セ
ラミックス。
[9]PbTiO3のTiの一部がZrで置換されていることを特徴とする[1]~[8]
の配向セラミックス。
[10]不純物として、ドナー又はアクセプター、あるいは、両方がドープされている事を特徴とする[1]~[9]の配向セラミックス。
[11]ドナー不純物がBi、La、Nb、Nd、Ta、Wの少なくとも1種である[10]の配向セラミックス。
[12]アクセプター不純物がMn、Fe、Al、Ga、Sc、Co、Ni、Crの少なくとも1種である[11]の配向セラミックス。
[13]ペロブスカイトを組成式ABO3で表す時、前記不純物の量が、0.01at%以上、5at%未満であり、前記不純物は置換されているか、又は添加されている事を特徴とする[10]~[12]の配向セラミックス。
[14]対向する主面に垂直な方向の厚みが0.4mm以下である[1]~[13]の配向セラミックス。
[15]前記主面に対して、その主面を形成する長辺が2cm以上である[14]の配向セラミックス。
[16]前記主面の表面粗さがRaで0.5μm以下である[14]または[15]の配向セラミックス。
[17]シード粒子と、配向セラミックスを構成する平均粒子径が1μm以下であるマトリックス粒子を含むスラリーをシート状に成形したのちシートを焼結する[1]の配向セラミックスの製造方法。
[18]シード粒子として、すくなくともBaTiO3、SrTiO3、CaTiO3のいずれかを用いる[17]の配向セラミックスの製造方法。
[19]配向セラミックス原料中のPbまたはBiの少なくともいずれかが、組成式ABO3(AがPbまたはBi、およびその置換元素、BはTi、Sc、Zr、または前記B1、B2である)100at%に対して0.01~5at%未満の範囲で過剰に添加されていることを特徴とする[17]または[18]の配向セラミクスの製造方法。
[20]対向する2つの主面に電極が作製されている[1]の配向セラミックスを有することを特徴とする圧電素子。
[21]圧電素子の主面に垂直な方向の厚みが、0.4mm以下である[20]の圧電素子。
[22]圧電素子の主面に垂直な方向の厚みが0.1mm以下である[21]の圧電素子。
[23]前記圧電素子の前記主面の長辺が2cm以上である[20]~[22]の圧電素子。
[24]前記主面の表面粗さがRaで0.5μm以下であることを特徴とする[20]~[23]の圧電素子。
[25]レンズ、整合層、圧電素子、背面負荷材を備えた超音波探触子であって、 圧電素子として、[20]~[24]の圧電素子を備えることを特徴とする、超音波探触子。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる新規配向セラミックスは、抗電界Ecが大きく、かつ誘電率と圧電性能が大きい。このため、圧電板の共振周波数を例えば5MH以上の高周波とする事ができ、超音波プローブとして最適な厚みの圧電セラミックスを実現する事ができ、セクター型の超音波プローブを実現するのに好適な圧電板を実現できる。
また、本発明の配向セラミックスは駆動のための電界強度が大きくなる、積層型圧電素子やハナフィー型圧電素子に好適な圧電材料である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】BiScO3系セラミックスの相図とMPB近傍でのEcの変化を示す。
図2】PZT系セラミックスの相図とMPB近傍でのEcの変化を示す。
図3】本発明にかかる配向セラミックスの製造方法で採用されるTGG法の概略フローを示す。
図4】本発明にかかる配向セラミックスの製造方法で採用される、強磁場配向法の概略フローを示す。
図5】超音波探触子の構成概要図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を以下に説明するが、本発明はこれらに限定的に解釈されるものではない。
なお、本明細書における下記略号を使用しているが、下記組成を示すものである。
BS:BiScO3
PT:PbTiO3
PZ:PbZrO3
PMN:Pb(Mg1/3Nb2/3)O3
PNN:Pb(Ni1/3Nb2/3)O3
PSN:Pb(Sc1/2Nb1/2)O3
PZN:Pb(Zn1/3Nb2/3)O3
PIN:Pb(In1/2Nb1/2)O3
PYN:Pb(Yb1/2Nb1/2)O3
また、本願明細書中では、結晶系が擬立方晶表示であるため(100)面と(001)面は等価として扱う。
【0018】
配向セラミックス
本発明にかかる配向セラミックスは、BiScO3およびPbTiO3を含有し、擬立方晶表示で(100)配向していることを特徴とする。BiScO3は抗電界Ecを大きくするのに有効な量が含まれれば、特に制限されない。より望ましくは1mol%以上であり、さらに望ましくは6mol%以上である。
また、添加物(不純物)は、5mol%未満の量で含まれ、具体的には、ドナー(Bi、La、Nb、Nd、Ta、W等)、アクセプター(Mn、Fe、Al、Ga、Sc、Co、Ni、Cr等)である。不純物にはこれらのドーパントの他に過剰のBiやPbも含まれる。過剰のPbや、Biは焼結助剤又はシードとの濡れ性を良くするために添加される。
組成としては菱面体晶または菱面体晶と他の結晶系の組成相境界(MPB)近傍組成が好ましい。また配向方向としては、擬立方晶表示で(100)面方向が望ましい。前記他の結晶系としては、正方晶、斜方晶、単斜晶、擬立方晶、立法晶、六方晶などが挙げられる。
【0019】
組成相境界とは、少なくとも2種類以上の結晶構造が共存する組成領域をいう。
本発明は、各微結晶が特定の面方位を有するセラミックス(いわゆる配向セラミックス)である。BiScO3を含有し、菱面体晶または、菱面体晶と他の組成相境界での配向セラミックスは検討されていなかった。さらにこのBiScO3含有した、前記配向セラミックスにおいて、無配向セラミックスより特性の良好な配向セラミックスはまったく知られていなかった。上記特定の面方位はいかなる方向でもよいが、擬立方晶表示で(001)であることが、圧電性をより高める観点から好ましい。
【0020】
従来、大きな圧電性能を得るには菱面体晶側で(001)配向させる必要がある。しかしながら、従来のPZT系、PMN-PT系では、菱面体側になると抗電界(Ec)が小さくなるという性質がある。これに対して、本発明の配向セラミックスは、菱面体側で比較的大きなEcを持つという特性を有する。この関係は、図1および2の特に矢印周辺に示される。
【0021】
図1は本発明のBiScO3系配向セラミックスの相図とMPB近傍でのEcの変化を示す。図2は、従来のPZT系セラミックスの相図とMPB近傍でのEcの変化を示す。
本発明では、ロットゲーリングファクターより求めた配向度が60%以上であることが好ましい。ロットゲーリングファクターの算出法は、対象とする結晶面から回折されるエックス線のピーク強度を用いて、式1により計算する。
F=(P-P0)/(1-P0) (式1)
ここで、P0は無配向セラミックス試料のエックス線の回折強度(I0)を用いて計算され、全回折強度の和に対する、(00l)面の回折強度の合計の割合として、式2により求める。
P0=ΣI0(00l)/ΣI0(hkl) (式2)
(h、k、lは整数であり、面指数を表す。)
【0022】
Pは配向セラミックス試料のエックス線の回折強度(I)を用いて計算され、(001)配向した正方晶結晶の場合、全回折強度の和に対する、(00l)面の回折強度の合計の割合として、上式2と同様に式3により求める。
P=ΣI(00l)/ΣI(hkl) (式3)
セラミックスの配向度の指標としてロットゲーリングファクターを算出するために、銅管球を用いたX線回折測定を行い、2θが20から60°又は20から80°程度の範囲に現れる回折線の強度をロットゲーリングファクターの算出に用いる。
【0023】
本発明では、回折角度20~60°の範囲で(100)、(110)、(111)、(200)、(210)、(220)のピーク強度より算出する。
本発明では、配向セラミックスは、Pb(B1,B2)O3で表される複合ペロブスカイト酸化物をさらに含有する事が望ましい(ただし、B1およびB2は互いに異なるペロブスカイトを構成するBサイト元素である)。これによりEcの値を用途にあわせて調節する事ができる。
【0024】
前記B1は、Mg、Zn、Ni、Fe、Yb、Sc、Inのうち少なくとも1種類から選ばれた元素であり、B2はNb又はTaのうち少なくとも1種類から選ばれた元素であることが好ましく、さらに、前記B1はIn、Yb又はScであることがより好ましい。
【0025】
さらに、ペロブスカイトをABO3で表したときに、ペロブスカイト全体のAサイトの10at%までが、BaおよびSrの少なくとも1種類の元素で置換され、Aサイトの5at%までがNdおよびLaの少なくとも1種類の元素で置換されている複合ペロブスカイトも好ましい態様である。上記により、キュリー温度を低減できる結果、より誘電率を向上する事が可能となる。
配向セラミックスには、不純物としてドナー、アクセプター、または両方がドープされていてもよい。ドナー不純物としては、Bi、La、Nb、Nd、Ta、Wを用いる事ができる。またアクセプター不純物としては、Mn、Fe、Al、Ga、Sc、Co、Ni、Cr等を用いる事ができる。
ドーパントとしては、ABO3の化学量論に対して、前記不純物の量が、0.01at%以上、5at%未満であり、また前記不純物は置換されているか、又は添加されてもよい。
【0026】
配向セラミックス中の各成分の含有比は、擬立方晶表示で(001)配向しており、抗電界Ecを大きくするのに有効なBiScO3が含まれれば、特に制限されない。BiScO3およびPbTiO3のモル比率をA:Bとすると、35:65~45:55比率にあることが望ましい。
前記複合ペロブスカイトを含有する場合(ドーパントで置換された場合も含む)、複合ペロブスカイトをCとすると、(A+B):Cが、100:0~50:50にあり、A:Bの比率は、45:55~0.1:99.9の範囲である。さらに(A+B):Cが95:5~60:40であり、A:Bの比率が45:55~1:99であることがより望ましい。
さらに、PbTiO3のTiの一部を50at%以下の量でZrに置換されていてもよい。これにより、より圧電性能を向上できる場合がある。
配向セラミックスの具体的な組成系としては、BS-PT、BS-PMN-PT、BS-PNN-PT、BS-PSN-PT、BS-PIN-PT、BS-PYN-PT、(BS-PZ)-PMN-PT、(BS-PZ)-PSN-PT、(BS-PZ)-PIN-PT 、(BS-PZ)-PYN-PT、等があげられる。
ここで、BSの効果は、図1に示す通り、菱面体側で抗電界Ecを大きく保持するのに有効である。また複合酸化物やBa、Srの置換は、誘電率を向上するのに有効である。さらにPSN、PIN、PYNといったA(B1、B2)O3型のぺロブスカイトに於いてB1とB2が1:1の比率の複合ペルブスカイトは、ドナーもアクセプターも有効に作用するため所望の特性を実現しやすく、特に有効である。
なお、上記の組成や実施例に関しては、仕込み時の組成であり、焼結後では、主にPbやBiや、場合によっては酸素元素の比率が、仕込み時から変化している場合があるが、ペロブスカイト型構造を保っていればよく、これらは、いずれも本発明の範囲である。
【0027】
配向セラミックス中には、圧電性能を損なわない限り、その他の成分が含まれていてもよく、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、及びアクリル樹脂等の炭素系高分子化合物、シリコーン樹脂等のケイ素系高分子化合物など、およびアルミナ等の酸化物などが電着材として含まれていてもよい。
【0028】
本発明にかかる配向セラミックスの好ましい態様は、厚みを0.4mm以下、好ましくは0.1mm以下とする事である。これにより、圧電板の共振周波数を例えば5MH以上の高周波とする事ができ、超音波プローブとして最適な厚みの圧電セラミックスを実現できる。なお、配向セラミックスの形状は特に制限されず、板状に加工された成形体でも、粉粒体であってもよい。粉粒体の場合、所定形状の型枠内に充填したものでもよい。さらに望ましい形態としては、圧電板の主面の長辺を2cm以上とすることである。さらに望ましい形態としては、圧電板の主面の長辺を2cm以上とすることである。これにより、セクター型の超音波プローブを実現するのに十分な大きさの超音波プローブに適した圧電板を実現できる。主面とは、面積が比較的大きい表裏面をいう。
【0029】
前記主面の表面粗さがRaで0.5μm以下であることが、圧電性能が高く、かつ圧電体の内部に蓄積される応力を低減するために好ましい。表面粗さは、表面粗さ計により測定し、原子数比は、XRF(蛍光X線分析)による組成分析に基づいて算出する。各種元素の含有量は、例えばセラミックスの場合は、原料の仕込み量より算出可能であり、より精密には誘導結合プラズマ(ICP)発光分析などを用いることできる。また、粒子サイズは、SEMやレーザ散乱計を用いて測定する事ができる。
【0030】
配向セラミックス製造方法
配向セラミックスの製造方法としては、公知の方法を用いることが可能であり、例えば、シード粒子とマトリクス粒子を用いるTGG法、途中に反応を伴うRTGG法、ローラーを用いマトリックス中のシード粒子を配向させる方法、磁場配向法など用いることができる。また、磁場配向法の場合は、必ずしもシード粒子を用いる必要はない。
【0031】
本発明の製造方法の一態様例として、シードとして擬立法表示で(100)面を主面としてもったBaTiO3の場合に関して説明する。
TGG法の概略を図3に示す。図3ではBaTiO3シード粒子をテンプレート粒子として、配向セラミックスを構成するマトリックス粒子を含むスラリーを、テープキャスト法等の方法で異方形状のシード粒子の配置を制御した後、焼成することで配向制御を行う。
【0032】
シード粒子としては既知の例えばKCLをフラックスとした2段階の合成方法を用いて行う事ができる。
(参考文献Japanese Journal of Applied Physics. Vol. 45 pp7377-7381 (2006))
ここで、出発原料としてSrCO3を用いれば、SrTiO3のシード粒子と、出発原料として、BaCO3を用いれば、BaTiO3のシード粒子を合成する事ができる。
つぎにマトリックス粒子を作製する。マトリックス粒子は通常の固相法により作製可能であり、所望の組成の原料を仮焼き、粉砕して得る事ができる。また、共沈法等の方法を用いて、粒径の小さな原料を作成する事も可能である。
【0033】
例えばBiScO3-PbTiO3系の場合は、所望のモル比のBi23、PbO、TiO2、Sc23を秤量する。これを一度ボールミルで12時間から24時間混合粉砕した後、乾燥させて所望の混合原料を得る。次にこの原料を700から800℃で仮焼きして、目的のBiScO3-PbTiO3の紛体を得る。次に得られた粉体を再度ボールミルにかけ、所望の粒子径のマトリックス粒子を得る。
【0034】
粉砕条件を適宜選定すれば、マトリックス粒子の大きさを調整でき、平均粒径1μm以下が望ましく、さらに望ましくは0.05~0.5μm程度であることが望ましい。
またマトリックス粒子は、さらに望ましくは、マトリックス組成物をPb又はBiの少なくとも一方をABO3の化学組成で表される場合に0.01%から5%の範囲で過剰に添加されている事か好ましい。これらの添加物は、仮焼きの時に添加してもよいし、スラリーを作成する時に添加してもよい。これにより、シード粒子との濡れ性の向上や低温での焼結が可能となり、配向度の高い配向セラミックスを製造できる。
【0035】
シート成形方法は特に制限されないがテープキャストを用いることが可能である。
上記工程で作製したBaTiO3とBiScO3-PbTiO3のマトリックス粒子をバインダに分散させスラリーを作製する。この時、シード粒子としては、マトリックス粒子+シード粒子の合計質量に対して、0.5~30質量%程度である。シード粒子は少なければ少ないほど望ましいが、すくな過ぎると配向度が低下し、多すぎると組成ずれの原因になったり、焼結体中の内部応力や歪の原因となり好ましくない。このスラリーを、ドクターブレード法等を用いてシート状に成形して、グリーンシートを作製する。グリーンシート作製用組成物に公知の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、以下に挙げるものに限定されず、本発明の効果を損なわない限りにおいて、潤滑剤、帯電防止剤等、他の添加剤が添加されてもよい。
【0036】
組成物に含まれうる分散剤としては、特に制限されないが、たとえば、リン酸エステル系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤等が挙げられる。これらの中でも、リン酸エステル系分散剤を用いると好ましい。なお、上記分散剤は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0037】
分散剤の使用量は、特に制限されないが、シード粒子とマトリックス粒子の全質量(合計質量)に対して、0.1~5質量%であると好ましく、0.3~3質量%であるとより好ましく、0.5~1.5質量%であると特に好ましい。上記範囲とすることにより、分散剤として十分な効果が得られると共に、得られる誘電体セラミックス中に含まれる不純物を少なくすることができる。その結果、配向度の高い誘電体セラミックスを得ることができる。
【0038】
さらにまた、組成物に含まれうるバインダとしては、特に制限されないが、たとえば、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル系樹脂が挙げられる。なお、上記バインダは、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0039】
バインダの使用量は、特に制限されないが、シード粒子とマトリックス粒子の全質量(合計質量)に対して、0.1~50質量%であると好ましく、3~30質量%であるとより好ましく、5~25質量%であると特に好ましい。上記範囲とすることにより、バインダとして十分な効果が得られると共に、得られる誘電体セラミックス中に含まれる不純物を少なくすることができる。その結果、配向度の高い誘電体セラミックスを得ることができる。
【0040】
さらにまた、グリーンシート作製用組成物に含まれうる可塑剤としては、特に制限されないが、たとえば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOP)、フタル酸ジ(2-エチルブチル)などのフタル酸系可塑剤、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DOA)などのアジピン酸系可塑剤、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール系可塑剤、トリエチレングリコールジブチレート、トリエチレングリコールジ(2-エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ(2-エチルヘキサノエート)などのグリコールエステル系可塑剤などが挙げられる。これらの中でも、組成物を用いてグリーンシートとしたときに、シートの柔軟性が良好であることから、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等などのフタル酸系可塑剤を用いると好ましい。なお、上記可塑剤は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0041】
可塑剤の使用量は、特に限定されないが、シード粒子とマトリックス粒子の全質量(合計質量)に対して、0.1~20質量%であることが好ましく、1~10質量%であるとより好ましく、1.5~8質量%であると特に好ましい。上記範囲とすることにより、可塑剤として十分な効果が得られると共に、得られる誘電体セラミックス中に含まれる不純物を少なくすることができる。その結果、配向度の高い誘電体セラミックスを得ることができる。
【0042】
湿式混合を行う場合に用いる溶媒としては、特に制限されないが、たとえば、水;エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒等が挙げられる。後に、組成物に含まれる各種添加剤の溶解性や分散性を考慮すると、上記湿式混合の溶媒としてはアルコール系溶媒、芳香族系溶媒が好ましい。これらの中でも、アルコール系溶媒としては、メタノールやエタノール等、芳香族系溶媒としては、トルエン等の低沸点溶媒を用いることが好ましい。なお、上記溶媒は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。二種以上の溶媒を混合するときは、上記アルコール系溶媒と、芳香族系溶媒を混合すると特に好ましい。
【0043】
溶媒の使用量は、シード粒子とマトリックス粒子の全質量(合計質量)の全質量に対して0.5~10倍程度であると好ましく、1~5倍程度であるとより好ましい。上記範囲とすることにより、シード粒子、マトリックス粒子、添加剤が十分に混合されると共に、後に溶媒を除去する操作を簡便に行うことができる。
【0044】
また、湿式混合を行う場合は、湿式ボールミルまたは撹拌ミルにより行われると好ましい。湿式ボールミルにおいてジルコニアボールを用いる場合には、直径0.1~10mmの多数のジルコニアボールを用いて8~24時間、好ましくは10~20時間湿式混合すると好ましい。
グリーンシートの厚さ(乾燥後の厚さ)は、特に制限されないが、50μm以下にあると好ましく、30μm以下であるとより好ましい。一方、その下限は特に限定されないが、実質的には0.3μm以上である。
【0045】
さらに、得られたグリーンシートを所望の厚さになるまで、切削したり、あるいは積層し、その後加熱圧着を行ってもよい。このとき、全体の厚さ(乾燥後の厚さ)が0.1~5mm程度、好ましくは1~3mm程度となるまで積層すると好ましい。また、加熱圧着時の条件は特に制限されないが、温度は50~150℃程度であると好ましく、圧力は10~200MPa程度であると好ましく、加圧時間は1~10分程度であると好ましい。
【0046】
その後、グリーンシートを積層したものを裁断して所望のチップ形状とし、グリーンチップを作製してもよい。
さらに、得られたグリーンシート(またはグリーンチップ)中に含まれるバインダ成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行うことが好ましい。脱脂処理の条件は特に制限されず、使用したバインダの種類にも依存するが、500℃~600℃であればよく、脱脂処理時間としては、特に制限されない。
【0047】
得られたグリーンシート(またはグリーンチップ)を、焼結温度800℃~1200℃で焼結する。また、焼結時間としては、特に制限されないが、2~200時間であればよい。
また焼結中にPbやBiの蒸発を防ぐために、焼結容器内に、マトリックス粒子と同一組成の原料やPbZrO3やPbOの紛体、ペレット等を配置してもよい。
また図4に示す、強磁場配向法を採用することも可能であり、スラリーを基材上に設置する工程と、前記スラリーに対して磁場を印加し凝固させて成形体層を形成したのち、同様に磁場を印加させて凝固させる工程を繰り返したのち、焼成する方法も採用可能である(特開2011-230373号公報)。
【0048】
圧電素子
上記圧電セラミックスは、圧電素子に好適に用いられる。当該圧電素子は、公知の構成と特段の変更なく採用できる。
【0049】
上記で得られた配向セラミックスは、所望の大きさに切断し、さらに所望の厚みに研磨を行う。圧電素子の主面に垂直な方向の厚みは、0.4mm以下であり、好ましくは0.1mm以下であるが、周波数の高い場合は、さらに薄い間合いも可能である。配向セラミックスの対向する主面を平滑に研磨する。周波数の高い圧電素子の場合には、表面での音波の散乱や反射が最少となるように、研磨面を光学面(表面粗さ0.5μm以下)にする事も有効である。前記したように超音波探触子として用いるために、主面の長辺が2cm以上であることが好ましい。
【0050】
圧電セラミックスに対して少なくとも二つの電極が、配置される。電極としては、Au/Cr、Au/NiCr、Au/Ti、Ag、Cu、Ni等を用いることが可能である。
電極の作成方法としては、スパッタ、蒸着、メッキ、ペーストの焼付けなどを用いることができる。
【0051】
得られた素子をオイルバスに浸漬し、分極温度でのEcの1倍から4倍、好ましくは2倍から3倍程度分極電界を10分から30分程度印加して分極処理を行う。
【0052】
当該分極処理は、高温のオイルバス中で行うことが可能であるが、他の方法としては、高真空中や絶縁性の高い紛体中でも行うことも可能である。当該分極処理は、圧電セラミックスに電極を配置する前に行ってもよいし、圧電セラミックスに電極を配置した後に行ってもよい。分極処理のためには、例えば、20~250℃で10~100kV/cmの電界を、さらに好ましくは80℃~180℃で温度であり、20~70kV/cmの電界を印加する。印加電界は必ずしも直流である必要はなく、矩形波、のこぎり波、バースト波などの高周波でもよいし、直流成分に上記の電界を重畳させてもよい。
【0053】
本発明にかかる圧電素子は、分極処理を再現性よく行うことが可能となるので、所期の圧電定数を呈する圧電素子を生産性よく得ることが可能である。上記圧電素子は、各種アクチュエータ、インクジェットヘッド、センサーに用いることが可能であるが、特に、超音波探触子に好適に利用することができる。
【0054】
超音波探触子
本発明にかかる超音波探触子は、上記圧電素子を有する以外は、公知の超音波探触子と同様に構成することが可能である。各圧電素子には、フレキシブルプリント基板(FPC)にて電極が取り付けられ、当該超音波探触子が接続された超音波撮像装置で制御される超音波の送受信駆動により、任意のビームフォーミングが可能となる。
【0055】
本発明にかかる超音波探触子は、たとえば、前記圧電素子以外に、超音波ビームを焦点に集めるための音響レンズ、超音波の反射を防ぐ音響整合層、圧電素子を担持する担体であって超音波を吸収する背面負荷材などを備える。さらに、当該超音波探触子は、水中もしくは含水環境にて用いることができるように、パリレンコーティングなどの防水加工を、例えば音響レンズを接着する前の超音波探触子の前面に、施してもよい。なお、「パリレン」は、日本パリレン合同会社の登録商標である。
【0056】
上記超音波探触子は、超音波撮像装置に好適に用いられる。当該超音波撮像装置は、上記超音波探触子以外の部分は、公知の超音波撮像装置と同様に構成し得る。当該超音波撮像装置は、例えば、医療用超音波診断装置や非破壊超音波検査装置などに好適である。
このような超音波探触子の詳細な構造については、特開2016-163027号公報などに開示されている。
【0057】
音響整合層は、圧電セラミックスと音響レンズとの音響特性を整合させるための層である。音響整合層は、圧電セラミックスと音響レンズとの概ね中間の音響インピーダンスZa(×106kg/(m2秒))を有し、圧電セラミックスの被検体側(表面側)に、例えば、前述の他方の電極を介して配置される。
【0058】
音響整合層を構成する材料の例には、アルミニウム、アルミニウム合金(例えばAl-Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイトおよび樹脂が含まれる。当該樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン6やナイロン66などのナイロン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。上記添加剤の例には、亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン、ガラス繊維およびシリコーン粒子が含まれる。
【0059】
音響レンズは、例えば、被検体と音響整合層との中間のZaを有する軟質の高分子材料により構成される。当該高分子材料の例には、シリコーン系ゴム、ブタジエン系ゴム、ポリウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、および、エチレンとプロピレンとを共重合させてなるエチレン-プロピレン共重合体ゴム、が含まれる。中でも、上記高分子材料は、シリコーン系ゴムおよびブタジエン系ゴムからなることが好ましい。
【0060】
背面負荷材の材料の例には、天然ゴム、エポキシ樹脂、熱可塑性樹脂、および、これらの材料の少なくともいずれかと酸化タングステンや酸化チタン、フェライトなどの粉末との混合物をプレス成形した樹脂系複合材などが含まれる。上記熱可塑性樹脂の例には、塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ABS樹脂、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂、ポリエチレングリコール、および、ポリエチレンテレフタレート-ポリエチレングリコール共重合体などが含まれる。
本発明の超音波撮像装置は、医療用の超音波診断装置に適用される。超音波撮像装置は、この他にも、魚群探知機(ソナー)や非破壊検査用の探傷機などの、超音波による探査結果を画像や数値などで表示する装置に適用され得る。
【実施例
【0061】
以下、本発明に関してさらに詳細に実施例を用いて説明する。なお、以下の実施例では、本発明における配向セラミックスおよびそれを有する圧電素子の標準的な製造方法を説明する。以下では、シード粒子としてBaTiO3を用いたTGG法について説明するが、シード粒子としては、他のシードを用いることも可能であり、また、磁場配向等他の方法を用いる事も可能である。
【0062】
[実施例1]
マトリックス粒子として0.58BiScO3-0.42PbTiO3の原料を以下のようにして作製した。
マトリックス粒子:0.58BiScO3-0.42PbTiO3となるように、Bi23、PbO、TiO2、Sc23を秤量し、これを一度ボールミルで12時間から24時間混合粉砕した後、乾燥させて混合原料を得た。次にこの原料を700から800℃で仮焼きして、目的のBiScO3-PbTiO3の紛体を得る。次に得られた粉体を再度ボールミルにかけ、所望の粒子径(平均粒径0.5μm)のマトリックス粒子を得た。
【0063】
BaTiO3シード粒子をシード粒子+マトリックス粒子に対し3.75質量%、過剰のPbOをシード粒子+マトリックス粒子の合計に対して0.8mol%、および前記BiScO3-PbTiO3のマトリックス粒子とともに、(バインダ:ポリビニルブチラール、溶剤:酢酸ブチル、可塑剤:ジブチルフタラート)に分散させスラリーを作製する。このスラリーを、ドクターブレード法を用いてグリーンシート(形状:厚さ20~30μm)を作成する。次に得られたシートを30~40枚積層し厚み1~1.5mm厚の積層体を作成する。さらに積層体を熱プレスを用いて圧着し、厚み0.5から1mm程度の圧着体を得る。得られた圧着体を長さ25から50mm、幅10~20mmに切断する。
次にこの圧着体を500℃4時間程度脱脂した後、焼結温度900℃で36時間焼結した。
得られた圧電板を6×6mmにダイアモンドカッターにより切断して試験片を作成し、XRDのロットゲーリング法より配向度を求めたところ、試験片は菱面体晶であり、配向度は79%であった。
そして、圧電セラミックスを研磨し、スパッタによって電極を配置し、ダイアモンドカッターにて所望の大きさ(4mm×1.5mm×0.4mm)に切断し試験片を作製した。
【0064】
さらに、分極処理を、オイルバス中の120℃~150℃のオイル中で40kV/cmの電圧を30分間印加することで行い、こうして圧電素子を得た。
圧電素子を用いて、上記圧電セラミックスの圧電定数d33を、ベルリンコート式のd33メータを用いて測定した。その結果、d33=235pC/N、ε33 T0=723であり、抗電界=20kV/cmであった。
【0065】
[比較例1]
実施例1において、BaTiO3シード粒子をマトリックス粒子に加えない以外は同様にしてスラリーを作成し、シートを形成した。得られたシートを実施例1と同様にして積層体、焼結体を作製した。この時得られた焼結体の結晶系は菱面体晶であった。次に実施例1と同様に圧電素子を作製した。その結果、d33=172pC/N、ε33 T0=420であり、抗電界=22kV/cmであった。
擬立方晶表示で(100)配向している実施例1は、配向させていない比較例1に対して、d33で1.4倍、ε33 T0で1.7倍に圧電性能が向上していることが判明した。
【0066】
[実施例2]
シード粒子は実施例1と同様のものを使用した。
マトリックス粒子において複合ペロブスカイトとして、PMNを15at%用い、PTのTiの約45at%をZrで置換した場合に関し、以下実施例を用いて説明する。なお、本実施例では、シード粒子との濡れ性、配向性を改善するために、過剰のBi23を用いた。
0.44(0.25BiScO3-0.75PbZrO3)-0.15Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-0.41PbTiO3となるように、Bi23、PbO、TiO2、Sc23、ZrO2、MgNbO4を秤量し、これを一度ボールミルで12時間から24時間混合粉砕した後、乾燥させて混合原料を得た。次にこの原料を700から800℃で仮焼きして、目的組成の紛体を得た。次に得られた粉体を再度ボールミルにかけ、所望の粒子径(平均粒径0.3μm)のマトリックス粒子を得た。
【0067】
BaTiO3シード粒子をマトリックス粒子+シード粒子の合計に対し3.75質量%、Bi23を0.4mol%、マトリックス粒子とともに、実施例1と同様にしてスラリーとした。このスラリーを用いてドクターブレード法で得られたグリーンシート、及び圧着体を作製した。次にこの圧着体を20×20mmの大きさいに切断し、500℃で脱脂後、900℃で108時間焼結した。なお、焼結時間が長いため、同時に同じ組成の紛体及び過剰のPbOの紛体を焼結容器の中に配置し、鉛抜けを防止した。
得られたシートのXRDのロットゲーリング法より求めた配向度は60%であり、結晶系は菱面体晶であった。実施例1と同様に加工して、圧電素子を得たところ、d33=346pC/N、ε33 T0=1280であり、抗電界=11kV/cmであった。
【0068】
[比較例2]
実施例2において、BaTiO3シード粒子をマトリックス粒子に加えない以外は同様にしてスラリーを作成し、続いて積層体、焼結体を作製した。この時得られた焼結体の結晶系は菱面体晶であった。得られたシートを実施例1と同様に処理して、圧電素子を作製した。その結果、d33=270pC/N、ε33 T0=670であり、抗電界=11kV/cmであった。
その結果、擬立方晶表示で(100)配向している実施例2は、配向させていない比較例2に対して、d33で1.3倍、ε33 T0で1.9倍に圧電性能が向上していることが判明した。
【0069】
[実施例3]
シード粒子は実施例1と同様のものを使用した。マトリックス粒子において複合ペロブスカイトとして、PMNを10at%用いた場合に関し、以下実施例を用いて説明する。
マトリックス粒子として、0.36BiScO3-0.1Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-0.54PbTiO3となり、さらに上記PbTiO3のPbをBiに0.6at%置換するようにBi23、PbO、TiO2、Sc23、MgNbO4を秤量した。これを一度ボールミルで12時間から24時間混合粉砕した後、乾燥させて混合原料を得た。次にこの原料を700から800℃で仮焼きして、目的の組成の紛体を得た。次に得られた粉体を再度ボールミルにかけ、所望の粒子径のマトリックス粒子を得た。
【0070】
BaTiO3シード粒子をマトリックス粒子+シード粒子の合計に対し3.75質量%、PbOを同じく1.6mol%加え、前記マトリックス粒子とともに、実施例1と同様にしてスラリーとしたのち、ドクターブレード法で得られたグリーンシートを作製し、900℃で4時間焼結した。
得られたシートのXRDのロットゲーリング法より求めた配向度は82%であり、結晶系は菱面体晶であった。実施例1と同様に加工して、圧電素子を得たところ、d33=302pC/N、ε33 T0=1210であり、抗電界=16.5kV/cmであった。
【0071】
[比較例3]
実施例3において、BaTiO3シード粒子をマトリックス粒子に加えない以外は同様にしてスラリーを作製し、シート、積層体、焼結体を作製した。この時得られた焼結体の結晶系は菱面体晶であった。得られたシートを実施例3と同様に処理して、圧電素子を作製した。その結果、d33=250pC/N、ε33 T0=800であり、抗電界=16kV/cmであった。
その結果、擬立方晶表示で(100)配向している実施例3は、配向させていない比較例3に対して、d33で1.2倍、ε33 T0で1.5倍に圧電性能が向上していることが判明した。
【0072】
[実施例4]
シード粒子は実施例1と同様のものを使用した。マトリックス粒子において複合ペロブスカイトとして、PSNを15at%用い、PTのTiの約28at%をZrで置換した場合に関し、以下実施例を用いて説明する。
マトリックス粒子の組成としては、0.38(0.5BiScO3-0.5PbZrO3)-0.15Pb(Sc1/2Nb1/2)O3-0.47PbTiO3とし、この内、Aサイト元素の0.6at%のPbをとBiで置換した分量で、Bi23、PbO、TiO2、ZrO2、ScNbO4を秤量した。次にこの原料を一度ボールミルで12時間から24時間混合粉砕した後、乾燥させて混合原料を得た。次にこの原料を700から800℃で仮焼きして、目的の組成の紛体を得た。次に得られた粉体を再度ボールミルにかけ、所望の粒子径(0.05~0.3μm)のマトリックス粒子を得た。
【0073】
BaTiO3シード粒子をマトリックス粒子+シード粒子の合計に対し3.75質量%加えた。こまた、シード粒子とマトリックス粒子の濡れ性を高めるためにシード粒子+マトリックス粒子の合計重量に対してPbOを2mol%過剰になるように添加し、シード粒子、マトリックス粒子、過剰PbOを実施例1と同様にして分散してスラリーを作製した。
次にドクターブレード法で得られたグリーンシートを作製し、さらに圧着体を作製し、950℃で36時間焼結した。この時同時に同じ組成の紛体及び過剰のPbOの紛体を焼結容器の中に配置し、鉛抜けを防止した。
得られた焼結体から6×6mmの試験片を作製しXRDパターンを測定し、ロットゲーリング法より求めた配向度は74%であり、結晶系は菱面体晶であった。実施例1と同様に加工して、圧電素子を得たところ、d33=298pC/N、ε33 T0=1080であり、抗電界=11.5kV/cmであった。
【0074】
[比較例4]
実施例4において、BaTiO3シード粒子をマトリックス粒子に加えない以外は同様にしてスラリーを作製し、実施例4と同様に焼結体を作製した。この時得られた焼結体の結晶系は菱面体晶であった。得られた焼結体を実施例4と同様に処理して、圧電素子を作製した。その結果、d33=187pC/N、ε33 T0=610であり、抗電界=12kV/cmであった。
その結果、擬立方晶表示で(100)配向している実施例4は、配向させていない比較例4に対して、d33で1.6倍、ε33 T0で1.8倍に圧電性能が向上していることが判明した。
【0075】
[実施例5-1]
シード粒子は実施例1と同様のものを使用した。マトリックス粒子において複合ペロブスカイトとして、PSNを30at%用い場合に関し、以下実施例を用いて説明する。
マトリックス組成として、0.21BiScO3-0.3Pb(Sc1/2Nb1/2)O3-0.49PbTiO3とし、上記組成式においてPb 0.6at%をBi 0.6at%で置換しドナードープするように、Bi23、PbO、TiO2、ScNbO4、Sc23を秤量した。この原料を一度ボールミルで12時間から24時間混合粉砕した後、乾燥させて混合原料を得た。次にこの原料を700から800℃で仮焼きして、目的の組成の紛体を得た。次に得られた粉体を再度ボールミルにかけ、所望の粒子径(平均粒径0.2μm)のマトリックス粒子を得た。
【0076】
BaTiO3シード粒子をシード粒子+マトリックス粒子の合計に対し3.75質量%加え、さらに追加でシード粒子+マトリックス原料の合計に対して、PbOを1.2mol%過剰添加した。シード粒子、マトリックス粒子、過剰PbOを実施例4と同様にしてスラリーとしたのち、ドクターブレード法で得られたグリーンシート圧着体を作製し、950℃で36時間焼結した。この時同時に同じ組成の紛体及び過剰のPbOの紛体を焼結容器の中に配置し、鉛抜けを防止した。
得られた焼結体の試験片のXRDのロットゲーリング法より求めた配向度は67%であり、結晶系は菱面体晶であった。実施例1と同様に加工して、圧電素子を得たところ、d33=374pC/N、ε33 T0=1800であり、抗電界=12kV/cmであった。
【0077】
[実施例5-2]
シードとの濡れ性をよくするために添加したPbOの量を1.2mol%から1.6mol%に変更した以外は、実施例5-1と同様に配向セラミックスを作製した。このセラミックスからきりだした試験片のロットゲーリング法より求めた配向度は80%であった。またこの時の結晶系は、菱面体晶と正方晶の両方の混合相(MPB)であった。これは、シード粒子がマトリックス粒子に一部固溶したためであると思われる。
この圧電板から実施例1と同様の圧電素子を得たところ、d33=349pC/N、ε33 T0=1630であり、抗電界=12kV/cmであった。
【0078】
[比較例5]
実施例5-1において、BaTiO3シード粒子をマトリックス粒子に加えない以外は同様にしてスラリーを作成し、シートを形成した。この時得られた焼結体の結晶系は菱面体晶であった。得られたシートを実施例3と同様に処理して、圧電素子を作製した。その結果、d33=280pC/N、ε33 T0=1250であり、抗電界=12kV/cmであった。
その結果、擬立方晶表示で(100)配向している実施例5-1は、配向させていない比較例5に対して、d33で1.3倍、ε33 T0で1.4倍に圧電性能が向上していることが判明した。また実施例5-2に対しては、d33で1.2倍、ε33 T0で1.3倍に向上していることが優れた特性を示す事がわかった。
結果をまとめて表2に示す。
【0079】
[実施例6]
実施例5-1と同様に作製したサンプルを用いて、超音波の発生を確認した。
実施例5-1と同様に作製した配向セラミックスを用いて、超音波探触子を作製した実施例を以下に説明する。
実施例5-1で積層体のサイズを4cm×1cmの長方形、厚み約0.8mmの積層体を作製した。さらにその積層体を500℃で脱脂した後、950℃36時間で焼結した。この時同時に同じ組成の紛体及び過剰のPbOの紛体を焼結容器の中に配置し、鉛抜けを防止した。これらの工程は前記積層体のサイズ以外は実施例5-1と同様である。次に、得られた圧電板を厚み170μmに両面研磨し、下地にAu/Crの電極を両方の主面に蒸着した。この時、圧電素子の表面粗さは、Ra=0.5μm以下とする事が可能であった。さらにサイズを0.5×3cmの大きさに切出した後、シリコーンオイル中で分極処理して圧電素子120を完成した。分極条件等は実施例5-1と同様であり、圧電特性も実施例5-1と同様であった。
この圧電板を用いて、公知の工程を用いて図5に示す超音波探触子202を作製した。
ここで、120は圧電素子、211はフェライトゴムよりなる背面負荷材、130は、グラファイト板及びエポキシ系樹脂板よりなる整合層、170はシリコーンゴムよりなる音響レンズであり、210は、超音波探触子ケースである。
また203は、圧電素子と駆動系をつなぐ信号ケーブルであり、フレキシブル基板は省略している。また、圧電素子120と整合層130はダイシングソー等を用いて200μmピッチで切断している。ダイサーで切断した溝が素子分割溝250である。作製した超音波探触子を用いて、超音波出射面を水中に浸漬し、水槽内に超音波反射板を設置して反射波の超音波信号を測定した。その結果、周波数帯域中心周波数7MHz程度に信号強度をもったパルス信号を観測でき、超音波探触子として機能する事が確認できた。
【0080】
以上、実施例を用いて説明したように、BiScO3とPbTiO3を含有し、菱面体晶、又は菱面体晶を含むMPB組成で(001)配向させた配向セラミックスは、抗電界Ecを大きくする事ができた。
無配向セラミックスに比べて1.2から1.8倍程度圧電特性を向上する事ができる。
この結果、超音波探触子に好適な圧電素子や超音波探触子を実現できる。
【0081】
【表2】
【符号の説明】
【0082】
120・・・圧電素子
130・・・整合層
170・・・音響レンズ
202・・・超音波探触子
203・・・信号ケーブル
210・・・超音波探触子ケース
211・・・背面負荷材
250・・・素子分割溝
図1
図2
図3
図4
図5