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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】免疫誘導剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20220308BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220308BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220308BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220308BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220308BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220308BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220308BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20220308BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20220308BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20220308BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20220308BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/04
A61K45/00
A61K31/7088
A61K38/20
A61K38/21
C12N5/0783
C07K14/705
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017539040
(86)(22)【出願日】2017-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2017012334
(87)【国際公開番号】W WO2017170365
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2016064034
(32)【優先日】2016-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】岡野 文義
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-528087(JP,A)
【文献】特表2003-513610(JP,A)
【文献】国際公開第2011/144718(WO,A1)
【文献】特開2012-110328(JP,A)
【文献】特表2013-522276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39/44
A61K 45/00
A61K 48/00
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(d)のいずれかのポリペプチドから選択され、かつ免疫誘導活性を有する少なくとも1つのポリペプチド、又は該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、かつ生体内で該ポリペプチドを発現可能である組換えベクター、を有効成分として含有する、MCEMP1を発現する癌の治療及び/又は予防のための免疫誘導剤。
(a)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列の全長アミノ酸から成るポリペプチド
(b)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつMCEMP1を発現する癌に対する免疫誘導活性を有するポリペプチド
(c)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつMCEMP1を発現する癌に対する免疫誘導活性を有するポリペプチド
(d)前記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドを部分配列として含み、かつMCEMP1を発現する癌に対する免疫誘導活性を有するポリペプチド
【請求項2】
前記癌が白血病、骨髄異形成症候群、骨肉腫、胸腺腫、肥満細胞腫又は肛門周囲腺癌である、請求項1に記載の免疫誘導剤。
【請求項3】
免疫増強剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の免疫誘導剤。
【請求項4】
前記免疫増強剤が、フロイントの不完全アジュバント、モンタニド、ポリIC及びその誘導体、CpGオリゴヌクレオチド、インターロイキン12、インターロイキン18、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンω、インターフェロンγ並びにFlt3リガンドから成る群より選ばれる少なくとも一つである、請求項3記載の免疫誘導剤。
【請求項5】
請求項1に定義するポリペプチドと被験体由来の抗原提示細胞とをex vivo又はインビトロで接触させることを含む、該ポリペプチドとMHC分子との複合体を含む抗原提示細胞の作製方法。
【請求項6】
前記抗原提示細胞が、MHCクラスI分子を保有する樹状細胞又はB細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の方法によって得られる抗原提示細胞と被験体由来のT細胞とをex vivo又はインビトロで接触させて該T細胞を活性化することを含む、請求項1に定義するポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療及び/又は予防剤等として有用な新規な免疫誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は全死亡原因の第一位を占める疾患であり、現在行われている治療は手術療法を主体に放射線療法と化学療法を組み合わせたものである。近年の新しい手術法の開発や新たな抗癌剤の発見にも関わらず、一部の癌を除いて、癌の治療成績はあまり向上していないのが現状である。近年、分子生物学や癌免疫学の進歩で癌に反応する細胞障害性T細胞により認識される癌抗原、癌抗原をコードする遺伝子などが同定されており、抗原特異性免疫療法への期待が高まっている。
【0003】
Mast Cell-Expressed Membrane Protein 1(MCEMP1)は2型の膜貫通タンパク質であり、肥満細胞特異的に細胞膜に発現していることが報告されており、肥満細胞の分化、免疫反応、アレルギー反応に関与する可能性が示唆されている(非特許文献1)。しかし、MCEMP1タンパク質が癌細胞に対する免疫誘導活性を有し、それによって該タンパク質が癌の治療や予防に有用であるという報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Kang Li. et al.Genomics,86:68-75(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、癌の治療及び/又は予防剤等として有用な新規なポリペプチドを見出し、該ポリペプチドの免疫誘導剤への使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、イヌ精巣由来cDNAライブラリーと白血病患犬の血清を用いたSEREX法により、担癌生体由来の血清中に存在する抗体と結合するタンパク質をコードするcDNAを取得し、そのcDNAを基にして、配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するイヌMast Cell-Expressed Membrane Protein 1(以下、MCEMP1と記載する)のポリペプチドを作製した。また、取得したイヌ遺伝子のヒト、ネコ及びマウス相同性遺伝子を基にして、配列番号2、6、8で示されるアミノ酸配列を有するヒト、ネコ及びマウスMCEMP1ポリペプチドを作製した。そしてこれらMCEMP1ポリペプチドが白血病、骨髄異形成症候群、骨肉腫、胸腺腫、肥満細胞腫、及び肛門周囲腺癌に特異的に発現していることを見出した。さらにまた、これらMCEMP1を生体に投与することによって、生体内にMCEMP1に対する免疫細胞を誘導することができること、及びMCEMP1を発現する生体内の腫瘍を退縮させることができることを見出した。さらにまた、MCEMP1のポリペプチド又はその断片をコードするポリヌクレオチドを発現可能な組換えベクターが、MCEMP1を発現する癌に対し生体内で抗腫瘍効果を誘導することを見出した。
【0007】
さらにまた、MCEMP1のポリペプチドが、抗原提示細胞により提示されて、該ポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞を活性化及び増殖させる能力(「免疫誘導活性」とも称する。)を有すること、このため、該ポリペプチドが癌の治療及び/又は予防に有用であり、また、該ポリペプチドと接触した抗原提示細胞や、該抗原提示細胞と接触したT細胞が癌の治療及び/又は予防に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
従って、本発明は、以下の(1)~(11)の特徴を包含する。
(1)以下の(a)~(d)のいずれかのポリペプチドから選択され、かつ免疫誘導活性を有する少なくとも1つのポリペプチド、又は該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、かつ生体内で該ポリペプチドを発現可能である組換えベクター、を有効成分として含む免疫誘導剤。
(a)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列中の連続する7個以上から全長以下のアミノ酸からなるポリペプチド
(b)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
(c)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
(d)上記(a)~(c)のポリペプチドを部分配列として含むポリペプチド
(2)抗原提示細胞の処理剤である、上記(1)に記載の免疫誘導剤。
(3)癌の治療及び/又は予防剤の有効成分である、上記(1)に記載の免疫誘導剤。
(4)上記癌がMCEMP1を発現する癌である、上記(3)に記載の免疫誘導剤。
(5)上記癌が白血病、骨髄異形成症候群、骨肉腫、胸腺腫、肥満細胞腫又は肛門周囲腺癌である、上記(3)又は(4)に記載の免疫誘導剤。
(6)免疫増強剤をさらに含む、上記(1)~(5)のいずれかに記載の免疫誘導剤。
(7)上記免疫増強剤が、フロイントの不完全アジュバント、モンタニド、ポリIC及びその誘導体、CpGオリゴヌクレオチド、インターロイキン12、インターロイキン18、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンω、インターフェロンγ、及びFlt3リガンドから成る群より選ばれる少なくとも一つである、上記(6)に記載の免疫誘導剤。
(8)(1)に定義するポリペプチドと被験体由来の抗原提示細胞とをex vivo又はインビトロで接触させることを含む、該ポリペプチドとMHC分子との複合体を含む抗原提示細胞の作製方法。
(9)上記抗原提示細胞が、MHCクラスI分子を保有する樹状細胞又はB細胞である、上記(8)に記載の方法。
(10)上記(8)又は(9)に記載の方法によって得られる抗原提示細胞と被験体由来のT細胞とをex vivo又はインビトロで接触させて該T細胞を活性化することを含む、上記(1)に定義するポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞の作製方法。
(11)以下の(a)~(d)のポリペプチドから選択され、かつ免疫誘導活性を有する少なくとも1つのポリペプチド、又は該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、かつ生体内で該ポリペプチドを発現可能である組換えベクター、を被験体に投与することを含む、免疫誘導方法。
(a)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列中の連続する7個以上から全長以下のアミノ酸からなるポリペプチド
(b)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列において、1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
(c)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチド
(d)上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドを部分配列として含むポリペプチド
本発明により、癌の治療及び/又は予防等に有用な新規な免疫誘導剤が提供される。後述の実施例において具体的に示されるように、本発明で用いられるポリペプチドを被験体に投与すると、生体内において免疫細胞を誘導することができ、さらに、既に生じている癌を縮小もしくは退縮させることができる。従って、該ポリペプチドは癌の治療や予防に有用である。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-064034号の開示内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】同定したMCEMP1遺伝子の、イヌの腫瘍組織での発現パターンを示す図である。参照番号1;イヌMCEMP1遺伝子の、図示したイヌの各腫瘍組織での発現パターンを示す。
図2】同定したMCEMP1遺伝子の、ヒトの各組織及び癌細胞株での発現パターンを示す図である。参照番号2;ヒトMCEMP1遺伝子の、図示したヒトの各正常組織での発現パターンを示す。参照番号3;ヒトMCEMP1遺伝子の、図示したヒトの各癌細胞株での発現パターンを示す。図中、PBMCは末梢血単核球を指す。
図3】同定したMCEMP1遺伝子の、マウスの各癌細胞株での発現パターンを示す図である。参照番号4;マウスMCEMP1遺伝子の、図示したマウスの各癌細胞株での発現パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明をさらに詳細に説明する。
1.ポリペプチド
本発明の免疫誘導剤に有効成分として含まれるポリペプチドとしては、以下の(a)~(d)のポリペプチドが挙げられる。なお、本明細書において、「ポリペプチド」とは、複数のアミノ酸がペプチド結合することによって形成される分子をいい、構成するアミノ酸数が多いポリペプチド分子のみならず、アミノ酸数が少ない低分子量の分子(オリゴペプチド)や、全長タンパク質も包含される。
(a)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド中の連続する7個以上から全長以下のアミノ酸からなり、免疫誘導活性を有するポリペプチド。
(b)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列において1~数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ免疫誘導活性を有するポリペプチド。
(c)配列表の配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ免疫誘導活性を有するポリペプチド
(d)上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドを部分配列として含み、かつ免疫誘導活性を有するポリペプチド。
【0012】
なお、本発明において、「アミノ酸配列を有する」とは、アミノ酸残基がそのような順序で配列しているという意味である。従って、例えば、「配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド」とは、配列番号8に示されるMet,His,Ala,Ser,Ala・・(中略)・・Gln,Pro,Ser,Thrのアミノ酸配列を持つ、183アミノ酸残基のサイズのポリペプチドを意味する。また、例えば、「配列番号8で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド」を「配列番号8のポリペプチド」と略記することがある。「塩基配列を有する」という表現についても同様である。この場合、「有する」という用語は、「からなる」という表現で置き換えてもよい。
【0013】
ここで、「免疫誘導活性」とは、生体内でインターフェロン等のサイトカインを分泌する免疫細胞を誘導する能力を意味する。
【0014】
上記ポリペプチドが免疫誘導活性を有するか否かは、例えば公知のエリスポットアッセイ等を用いて確認することができる。具体的には、免疫誘導活性を評価すべきポリペプチドを投与した生体から末梢血単核球等の細胞を得て、該細胞を該ポリペプチドと共存培養し、該細胞からのサイトカイン産生量を、特異抗体を用いて測定することにより、該細胞中の免疫細胞数を測定することができるので、これにより免疫誘導活性を評価することができる。
【0015】
また、後述の実施例に記載されるように、上記(a)~(d)の組換えポリペプチドを担癌生体に投与すると、その免疫誘導活性により腫瘍を退縮させることもできる。よって、上記免疫誘導活性は、癌細胞の増殖を抑制し又は癌組織(腫瘍)を縮小若しくは消滅させる能力(以下、「抗腫瘍活性」という)として評価することもできる。ポリペプチドの抗腫瘍活性は、例えば後述の実施例に具体的に記載されるように、実際に該ポリペプチドを担癌生体に投与して腫瘍が縮小等されるか否かを調べることよって確認することができる。また、該ポリペプチドを担癌生体に投与して誘導された細胞障害性T細胞が、腫瘍に対して細胞障害活性を示すか否かを調べることによってポリペプチドの抗腫瘍活性を評価することもできる。生体内におけるT細胞の細胞障害活性の測定は、例えばT細胞を生体内から除去する抗体を投与することで腫瘍が増大等されるか否かを調べることよって確認することができるがこれに限定されない。
【0016】
あるいは、該ポリペプチドで刺激したT細胞(すなわち、該ポリペプチドを提示する抗原提示細胞と接触させたT細胞)が、生体外で腫瘍細胞に対して細胞障害活性を示すか否かを調べることによって、該ポリペプチドの抗腫瘍活性を評価することもできる。T細胞と抗原提示細胞との接触は、後述するように、両者を液体培地中で共存培養することにより行なうことができる。細胞障害活性の測定は、例えばInt.J.Cancer,58:p317,1994に記載された51Crリリースアッセイと呼ばれる公知の方法により行なうことができる。上記ポリペプチドを癌の治療及び/又は予防用途に用いる場合には、特に限定されないが、抗腫瘍活性を指標として免疫誘導活性を評価することが好ましい。
【0017】
本発明が開示する配列表の配列番号2、4、6、又は8にそれぞれ示されるアミノ酸配列は、イヌ精巣由来cDNAライブラリーと担癌犬の血清を用いたSEREX法により、担癌犬由来の血清中に特異的に存在する抗体と結合するポリペプチド及びそのヒト、ネコ、及びマウス相同因子として単離された、MCEMP1のアミノ酸配列である(実施例1参照)。イヌMCEMP1のヒト相同因子であるヒトMCEMP1では、配列同一性が塩基配列70%、アミノ酸配列51%であり、ネコ相同因子であるネコMCEMP1では配列同一性は塩基配列83%、アミノ酸配列64%であり、マウス相同因子であるマウスMCEMP1では配列同一性は塩基配列65%、アミノ酸配列47%である。
【0018】
上記(a)のポリペプチドは、配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド中の連続する7個以上、好ましくは連続する8、9又は10個以上のアミノ酸から成るポリペプチドであって、免疫誘導活性を有するものである。特に好ましくは、該ポリペプチドは、配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列を有する。なお、この分野で公知の通り、約7アミノ酸残基以上のポリペプチドであれば抗原性及び免疫原性を発揮できる。従って、配列番号2、4、6、又は8のアミノ酸配列中の連続する7アミノ酸残基(7個)以上から全アミノ酸残基(全長)以下のアミノ酸からなるポリペプチドであれば、免疫誘導活性を有し得るので、本発明の免疫誘導剤の調製に用いることができる。
【0019】
また、癌抗原ポリペプチドを投与することによる免疫誘導の原理として、ポリペプチドが抗原提示細胞に取り込まれ、その後該細胞内でペプチダーゼによる分解を受けてより小さな断片となり、該細胞の表面上に提示され、それを細胞障害性T細胞等が認識し、その抗原を提示している細胞を選択的に殺していくということが知られている。抗原提示細胞の表面上に提示されるポリペプチドのサイズは比較的小さく、アミノ酸数で7~30程度である。従って、抗原提示細胞上に提示させるという観点からは、上記(a)のポリペプチドとしては、配列番号2、4、6、又は8に示されるアミノ酸配列中の連続する7~30程度であることが好ましい態様のひとつであり、より好ましくは8~30もしくは9~30程度のアミノ酸から成るものであれば十分である。これら比較的小さなサイズのポリペプチドは、抗原提示細胞内に取り込まれることなく、直接抗原提示細胞上の細胞表面に提示される場合もある。
【0020】
また、抗原提示細胞に取り込まれたポリペプチドは、該細胞内のペプチダーゼによりランダムな位置で切断を受けて、種々のポリペプチド断片が生じ、これらのポリペプチド断片が抗原提示細胞表面上に提示されるので、配列番号2、4、6、又は8の全長領域のように大きなサイズのポリペプチドを投与すれば、抗原提示細胞内での分解によって、抗原提示細胞を介する免疫誘導に有効なポリペプチド断片が必然的に生じる。従って、抗原提示細胞を介する免疫誘導にとっても、サイズの大きなポリペプチドを好ましく用いることができ、アミノ酸数を30以上、さらに好ましくは100以上、さらに好ましくは200以上、さらに好ましくは配列番号2、4、6、又は8の全長領域のポリペプチドとしてもよい。
【0021】
上記(c)のポリペプチドは、上記(a)のポリペプチドのうちの少数の(好ましくは、1個もしくは数個の)アミノ酸残基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリペプチドであって、元の配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上又は99.5%以上の配列同一性を有し、かつ、免疫誘導活性を有するポリペプチドである。一般に、タンパク質抗原において、該タンパク質のアミノ酸配列のうち少数のアミノ酸残基が置換され、欠失され又は挿入された場合であっても、元のタンパク質とほぼ同じ抗原性を有している場合があることは当業者において広く知られている。従って、上記(c)のポリペプチドも免疫誘導活性を発揮し得るので、本発明の免疫誘導剤の調製に用いることができる。また、上記(b)のポリペプチドは、配列番号2、4、6、又は8で示されるアミノ酸配列のうち、1個~数個のアミノ酸残基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリペプチドであることも好ましい。本明細書中の「数個」とは、2~10の整数、好ましくは2~6の整数、さらに好ましくは2~4の整数を表す。
【0022】
ここで、アミノ酸配列又は塩基配列の「配列同一性」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列(又は塩基配列)のアミノ酸残基(又は塩基)ができるだけ多く一致するように両アミノ酸配列(又は塩基配列)を整列させ、一致したアミノ酸残基数(又は一致した塩基数)を全アミノ酸残基数(又は全塩基数)で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方又は双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTALW等の周知のアルゴリズムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記全アミノ酸残基数は、1つのギャップを1つのアミノ酸残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全アミノ酸残基数が、比較する2つの配列間で異なる場合には、配列同一性(%)は、長い方の配列の全アミノ酸残基数で、一致したアミノ酸残基数を除して算出される。
【0023】
なお、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸は、低極性側鎖を有する中性アミノ酸(Gly,Ile,Val,Leu,Ala,Met,Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸(Asn,Gln,Thr,Ser,Tyr,Cys)、酸性アミノ酸(Asp,Glu)、塩基性アミノ酸(Arg,Lys,His)、芳香族アミノ酸(Phe,Tyr,Trp)のように類似の性質を有するものにグループ分けでき、これらの間での置換であればポリペプチドの性質が変化しないことが多いことが知られている。従って、本発明の上記(a)のポリペプチド中のアミノ酸残基を置換する場合には、これらの各グループの間で置換することにより、免疫誘導活性を維持できる可能性が高くなるため、好ましい。
【0024】
上記(d)のポリペプチドは、上記(a)~(c)のいずれかのポリペプチドを部分配列として含み、免疫誘導活性を有するポリペプチドである。すなわち、(a)又は(b)のポリペプチドの一端又は両端に他のアミノ酸又はポリペプチドが付加されたものであって、免疫誘導活性を有するポリペプチドである。このようなポリペプチドも、本発明の免疫誘導剤の調製に用いることができる。
【0025】
上記のポリペプチドは、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して常法により合成することもできる。また、公知の遺伝子工学的手法を用いて、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製し、該ポリヌクレオチドを発現ベクターに組み込んで宿主細胞に導入し、該宿主細胞中でポリペプチドを生産させることにより、目的とするポリペプチドを得ることができる。
【0026】
上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法や市販の核酸合成機を用いた常法により、容易に調製することができる。例えば、配列番号3の塩基配列を有するDNAは、イヌ染色体DNA又はcDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号3に記載した塩基配列を増幅できるように設計した一対のプライマーを用いてPCRを行うことにより調製することができる。配列番号1の塩基配列を有するDNAであれば、上記鋳型としてヒト染色体DNA又はcDNAライブラリーを使用することで同様に調製できる。PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒~1分間(アニーリング)、72℃で1分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件などを挙げることができるが、これに限定されない。また、本明細書中の配列表の配列番号1、3に示される塩基配列及びアミノ酸配列の情報に基づいて、適当なプローブやプライマーを調製し、それを用いてヒトやイヌなどのcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、所望のDNAを単離することができる。cDNAライブラリーは、配列番号2、4のタンパク質を発現している細胞、器官又は組織から作製することが好ましい。上記のプローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、ならびに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、モレキュラークロニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラバイオロジー等に記載された方法に準じて行うことができる。このようにして得られたDNAから、上記(a)のポリペプチドをコードするDNAを得ることができる。また、各アミノ酸をコードするコドンは公知であるから、特定のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列は容易に特定することができる。従って、上記の(b)~(d)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列も容易に特定することができるので、そのようなポリヌクレオチドも、市販の核酸合成機を用いて常法により容易に合成することができる。
【0027】
上記宿主細胞としては、上記ポリペプチドを発現可能な細胞であればいかなるものであってもよく、原核細胞の例としては大腸菌など、真核細胞の例としてはサル腎臓細胞COS1、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO等の哺乳動物培養細胞、出芽酵母、分裂酵母、カイコ細胞、アフリカツメガエル卵細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
宿主細胞として原核細胞を用いる場合、発現ベクターとしては、原核細胞中で複製可能なオリジン、プロモーター、リボソーム結合部位、DNAクローニング部位、ターミネーター等を有する発現ベクターを用いる。大腸菌用発現ベクターとしては、pUC系、pBluescriptII、pET発現システム、pGEX発現システムなどが例示できる。上記ポリペプチドをコードするDNAをこのような発現ベクターに組み込み、該ベクターで原核宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養すれば、上記DNAがコードしているポリペプチドを原核宿主細胞中で発現させることができる。この際、該ポリペプチドを、他のタンパク質との融合タンパク質として発現させることもできる。
【0029】
宿主細胞として真核細胞を用いる場合、発現ベクターとしては、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する真核細胞用発現ベクターを用いる。そのような発現ベクターとしては、pKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK-CMV、pBK-RSV、EBVベクター、pRS、pcDNA3.1、pSecTag(A、B、C)、pMSG、pYES2等が例示できる。上記と同様に、上記ポリペプチドをコードするDNAをこのような発現ベクターに組み込み、該ベクターで真核宿主細胞を形質転換したのち、得られた形質転換体を培養すれば、上記DNAがコードしているポリペプチドを真核宿主細胞中で発現させることができる。発現ベクターとしてpIND/V5-His、pFLAG-CMV-2、pEGFP-N1、pEGFP-C1等を用いた場合には、Hisタグ、FLAGタグ、mycタグ、HAタグ、GFPなど各種タグを付加した融合タンパク質として、上記ポリペプチドを発現させることができる。
【0030】
発現ベクターの宿主細胞への導入は、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の周知の方法を用いることができる。
【0031】
宿主細胞から目的のポリペプチドを単離精製するためには、公知の分離操作を組み合わせて行うことができる。例えば尿素などの変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒分別沈殿法、透析、遠心分離、限外ろ過、ゲルろ過、SDS-PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
以上の方法によって得られるポリペプチドには、上述した通り、他の任意のタンパク質との融合タンパク質の形態にあるものも含まれる。例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)やHisタグとの融合タンパク質などが例示できる。このような融合タンパク質の形態のポリペプチドも、上記の(d)のポリペプチドとして本発明の範囲に含まれる。さらに、形質転換細胞で発現されたポリペプチドは、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。このような翻訳後修飾されたポリペプチドも、免疫誘導活性を有する限り、本発明の範囲に含まれる。この様な翻訳修飾としては、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、糖鎖付加、細胞内プロテアーゼによる限定分解、ミリストイル化、イソプレニル化、リン酸化などが例示できる。
【0033】
2.免疫誘導剤
後述の実施例に具体的に記載される通り、上記の免疫誘導活性を有するポリペプチドを担癌生体に投与すると、腫瘍を退縮させることができる。従って、本発明の免疫誘導剤は、癌の治療及び/又は予防剤として用いることができる。また、上記の免疫誘導活性を有するポリペプチドは、免疫誘導による癌の治療及び/又は予防方法に用いることができる。
【0034】
ここで、「腫瘍」及び「癌」という用語は、悪性新生物を意味し、互換的に使用される。
【0035】
この場合、対象となる癌としては、MCEMP1を発現する癌であれば特に限定されないが、好ましくは正常細胞よりも有意に多くMCEMP1を発現している癌であり、具体的には白血病、骨髄異形成症候群、骨肉腫、胸腺腫、肥満細胞腫又は肛門周囲腺癌であり、これらの特定の癌には、例えば、急性非リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性顆粒球性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性前骨髄球性白血病、成人T細胞白血病、無白血病性白血病、白血球血症性白血病(leukocythemic leukemia)、好塩基球性白血病、芽細胞性白血病、ウシ白血病、慢性骨髄球性白血病、皮膚白血病、胎生細胞性白血病、好酸球性白血病、グロス白血病、リーダー細胞性白血病、シリング白血病、幹細胞性白血病、亜白血性白血病、未分化細胞性白血病、有毛状細胞性白血病、血球芽細胞性白血病(hemoblastic leukemia)、血球芽細胞性白血病(hemocytoblastic leukemia)、組織球白血病、幹細胞性白血病、急性単球性白血病、白血球減少性白血病、リンパ性白血病、リンパ芽球性白血病、リンパ球性白血病、リンパ向性白血病、リンパ様白血病、リンパ肉腫細胞性白血病、肥満細胞白血病、巨核球性白血病、小骨髄芽球性白血病、単球性白血病、骨髄芽球性白血病、骨髄球性白血病、骨髄顆粒球性白血病、骨髄単球性白血病、ネーゲリ白血病、形質細胞白血病、形質細胞性白血病、前骨髄球性白血病、不応性貧血(RA)、鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS)、芽球増加を伴う不応性貧血(RAEB)、移行期RAEB(RAEB-T)、前白血病及び慢性骨髄単球性白血病(CMML)、骨内通常型骨肉腫と亜系骨肉腫(骨内高分化型骨肉腫、円形細胞骨肉腫、表在骨肉腫、傍骨骨肉腫、骨膜骨肉腫又は表在高悪性骨肉腫)、胸腺腫、肥満細胞腫、肛門周囲腺腫、肛門周囲腺癌が包含されるが、これらに限定されない。
【0036】
また、対象となる被験体(動物)は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくは霊長類、ペット動物、、動物園等で飼育されている動物、家畜類、競技用動物などを含む哺乳動物であり、特に好ましくはヒト、イヌ又はネコである。
【0037】
本発明の免疫誘導剤の生体への投与経路は、経口投与でも非経口投与でもよいが、筋肉内投与、皮下投与、静脈内投与、動脈内投与等の非経口投与が好ましい。癌の治療目的で該免疫誘導剤を用いる場合には、抗癌作用を高めるため、治療対象となる腫瘍の近傍の所属リンパ節に投与することもできる。投与量は、免疫誘導するのに有効な量であればよく、例えば癌の治療及び/又は予防に用いるのであれば、癌の治療及び/又は予防に有効な量であればよい。癌の治療及び/又は予防に有効な量は、腫瘍の大きさや症状等に応じて適宜選択されるが、通常、対象動物に対し1日当りの有効量として0.0001~1000μg、好ましくは0.001~1000μgであり、1回又は数回に分けて投与することができる。好ましくは、数回に分け、数日ないし数月おきに投与する。後述の実施例に具体的に示されるとおり、本発明の免疫誘導剤は、腫瘍を退縮させることができる。従って、発生初期の少数の癌細胞にも抗癌作用を発揮し得るので、癌の発症前や癌の治療後に用いれば、癌の発症や再発を防止することができる。すなわち、本発明の免疫誘導剤は、癌の治療と予防の双方に有用である。
【0038】
本発明の免疫誘導剤は、ポリペプチドのみから成っていてもよいし、各投与形態に適した、薬理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤等の添加剤を適宜混合させて製剤することもできる。製剤方法及び使用可能な添加剤は、医薬製剤の分野において周知であり、いずれの方法及び添加剤をも用いることができる。添加剤の具体例としては、生理緩衝液のような希釈剤;砂糖、乳糖、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等のような賦形剤;シロップ、ゼラチン、アラビアゴム、ソルビトール、ポリビニルクロリド、トラガント等のような結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、タルク、シリカ等の滑沢剤等が挙げられるが、これらに限定されない。製剤形態としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口剤、吸入剤、注射剤、座剤、液剤などの非経口剤などを挙げることができる。これらの製剤は一般的に知られている製法によって作ることができる。
【0039】
本発明の免疫誘導剤は、生体内での免疫学的応答を強化することができる免疫増強剤と組み合わせて用いることができる。免疫増強剤は、本発明の免疫誘導剤に含まれていてもよいし、別個の組成物として本発明の免疫誘導剤と併用して患者に投与してもよい。
【0040】
上記免疫増強剤としては、例えばアジュバントを挙げることができる。アジュバントは、抗原の貯蔵所(細胞外又はマクロファージ内)を提供し、マクロファージを活性化し、かつ特定組のリンパ球を刺激することにより、免疫学的応答を強化し得るので、抗癌作用を高めることができる。従って、特に、本発明の免疫誘導剤を癌の治療及び/又は予防に用いる場合、免疫誘導剤は、有効成分である上記ポリペプチドに加えてさらにアジュバントを含むことが好ましい。多数の種類のアジュバントが当業界で周知であり、いずれのアジュバントでも用いることができる。アジュバントの具体例としては、MPL(SmithKline Beecham)、サルモネラ属のSalmonella minnesota Re 595リポ多糖類の精製及び酸加水分解後に得られる同類物;QS21(SmithKline Beecham)、Quillja saponaria抽出物から精製される純QA-21サポニン;PCT出願WO96/33739(SmithKline Beecham)に記載されたDQS21;QS-7、QS-17、QS-18及びQS-L1(ソ(So)、外10名、「モレキュルズ・アンド・セル(Molecules and cells)」、1997年、第7巻、p.178-186);フロイントの不完全アジュバント;フロイントの完全アジュバント;ビタミンE;モンタニド;ミョウバン;CpGオリゴヌクレオチド(例えば、クレイグ(Kreig)、外7名、「ネイチャー(Nature)」、第374巻、p.546-549)を参照);ポリIC及びその誘導体(ポリICLC等)ならびにスクアレン及び/又はトコフェロールのような生分解性油から調製される種々の油中水エマルションが挙げられる。中でも、フロイントの不完全アジュバント、モンタニド、ポリIC及びその誘導体、並びにCpGオリゴヌクレオチドが好ましい。上記アジュバントとポリペプチドの混合比は、典型的には約1:10~10:1、好ましくは約1:5~5:1、より好ましくは約1:1である。ただし、アジュバントは上記例示に限定されず、当業界で公知の上記以外のアジュバントも本発明の免疫誘導剤を投与する際に用いられ得る(例えば、ゴッディング(Goding)著,「モノクローナル・アンチボディーズ:プリンシプル・アンド・プラクティス(Monoclonal Antibodies:Principles and Practice)」、第2版、1986年を参照)。ポリペプチド及びアジュバントの混合物又はエマルションの調製方法は、予防接種の当業者には周知である。
【0041】
また、上記免疫増強剤としては、上記アジュバント以外にも、対象の免疫応答を刺激する因子を用いることもできる。例えば、リンパ球や抗原提示細胞を刺激する特性を有する各種サイトカインを免疫増強剤として本発明の免疫誘導剤と組み合わせて用いることができる。そのような免疫学的応答を増強可能な多数のサイトカインが当業者に公知であり、その例としては、ワクチンの防御作用を強化することが示されているインターロイキン-12(IL-12)、GM-CSF、IL-18、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンω、インターフェロンγ及びFlt3リガンドが挙げられるが、これらに限定されない。このような因子も上記免疫増強剤として用いることができ、本発明の免疫誘導剤に含ませて又は別個の組成物として本発明の免疫誘導剤と併用して患者に投与することができる。
【0042】
3.抗原提示細胞又は細胞障害性T細胞
本発明はさらに、上記のポリペプチドと被験体由来の抗原提示細胞とをex vivo又はインビトロ(in vitro)で接触させることを含む、該ポリペプチドとMHC分子との複合体を含む抗原提示細胞の作製方法を提供する。
【0043】
本発明はまた、この方法によって得られる、かつ上記のポリペプチドとMHC分子との複合体を含むことを特徴とする、抗原提示細胞を提供する。
【0044】
上記ポリペプチドと抗原提示細胞とをex vivo又はインビトロで接触させることにより、該ポリペプチドを抗原提示細胞に提示させることができる。すなわち、上記(a)~(d)のポリペプチドは、抗原提示細胞の処理剤として利用し得る。本明細書中、抗原提示細胞としては、MHCクラスI分子を保有する樹状細胞又はB細胞を好ましく用いることができる。種々のMHCクラスI分子が同定されており、周知である。ヒトにおけるMHC分子はHLAと呼ぶ。HLAクラスI分子としては、HLA-A、HLA-B、HLA-Cを挙げることができ、より具体的には、HLA-A1、HLA-A0201、HLA-A0204、HLA-A0205、HLA-A0206、HLA-A0207、HLA-A11、HLA-A24、HLA-A31、HLA-A6801、HLA-B7、HLA-B8、HLA-B2705、HLA-B37、HLA-Cw0401、HLA-Cw0602などを挙げることができる。
【0045】
MHCクラスI分子を保有する樹状細胞又はB細胞は、周知の方法により末梢血から調製することができる。例えば、骨髄、臍帯血あるいは患者末梢血から、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)とIL-3(あるいはIL-4)を用いて樹状細胞を誘導し、その培養系に腫瘍関連ペプチドを加えることにより、腫瘍特異的な樹状細胞を誘導することができる。
【0046】
この樹状細胞を有効量投与することで、癌の治療に望ましい応答を誘導できる。用いる細胞は、健康人から提供された骨髄や臍帯血、患者本人の骨髄や末梢血等を用いることができるが、患者本来の自家細胞を使う場合は、安全性が高く、重篤な副作用を回避することも期待できる。末梢血又は骨髄は新鮮試料、低温保存試料及び凍結保存試料のいずれでもよい。末梢血は、全血を培養してもよいし、白血球成分だけを分離して培養してもよいが、後者の方が効率的で好ましい。さらに白血球成分の中でも単核球を分離してもよい。また、骨髄や臍帯血を起源とする場合には、骨髄を構成する細胞全体を培養してもよいし、これから単核球を分離して培養してもよい。末梢血やその白血球成分、骨髄細胞には、樹状細胞の起源となる単核球、造血幹細胞又は未成熟樹状細胞やCD4陽性細胞等が含まれている。用いられるサイトカインは、安全性と生理活性が確認された特性のものであれば、天然型、あるいは遺伝子組み換え型等、その生産手法については問わないが、好ましくは医療用に用いられる品質が確保された標品が必要最低量で用いられる。添加するサイトカインの濃度は、樹状細胞が誘導される濃度であれば特に限定されず、通常サイトカインの合計濃度で10~1000ng/mL程度が好ましく、より好ましくは20~500ng/mL程度である。培養は、白血球の培養に通常用いられている周知の培地を用いて行うことができる。培養温度は白血球の増殖が可能であれば特に限定されないが、ヒトの体温である37℃程度が最も好ましい。また、培養中の気体環境は白血球の増殖が可能であれば特に限定されないが、5%COを通気することが好ましい。さらに培養期間は、必要数の細胞が誘導される期間であれば特に限定されないが、通常3日~2週間の間で行われる。細胞の分離や培養に供される機器は、適宜適当なものを用いることができるが、医療用に安全性が確認され、かつ操作が安定して簡便であることが好ましい。特に細胞培養装置については、シャーレ、フラスコ、ボトル等の一般的容器に拘わらず、積層型容器や多段式容器、ローラーボトル、スピナー式ボトル、バッグ式培養器、中空糸カラム等も用いることができる。
【0047】
上記ポリペプチドと抗原提示細胞とをex vivo又はインビトロで接触させる方法自体は、周知の方法により行なうことができる。例えば、抗原提示細胞を、上記ポリペプチドを含む培養液中で培養することにより行なうことができる。培地中のペプチド濃度は、特に限定されないが、通常1~100μg/ml程度、好ましくは5~20μg/ml程度である。培養時の細胞密度は特に限定されないが、通常10~10細胞/ml程度、好ましくは5x10~5x10細胞/ml程度である。培養は、常法に従い、37℃、5%CO雰囲気中で行なうことが好ましい。なお、抗原提示細胞が表面上に提示できるペプチドの長さは、通常、最大で30アミノ酸残基程度である。従って、特に限定されないが、抗原提示細胞とポリペプチドをex vivo又はインビトロで接触させる場合、該ポリペプチドをおよそ30アミノ酸残基以下の長さに調製してもよい。
【0048】
上記ポリペプチドの共存下において抗原提示細胞を培養することにより、ペプチドが抗原提示細胞のMHC分子に取り込まれ、抗原提示細胞の表面に提示される。従って、上記ポリペプチドを用いて、該ポリペプチドとMHC分子の複合体を含む、単離抗原提示細胞を調製することができる。このような抗原提示細胞は、生体内又はex vivo又はインビトロにおいて、T細胞に対して該ポリペプチドを提示し、該ポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞を誘導し、増殖させることができる。
【0049】
本発明はさらに、上記の抗原提示細胞と被験体由来のT細胞とをex vivo又はインビトロで接触させて該T細胞を活性化することを含む、上記のポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞の作製方法を提供する。
【0050】
本発明はまた、この方法によって得られる、かつ上記のポリペプチドに特異的であることを特徴とする、細胞障害性T細胞を提供する。
【0051】
上記のようにして調製される、上記ポリペプチドとMHC分子の複合体とを含む抗原提示細胞を、T細胞とex vivo又はインビトロで接触させることにより、該ポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞を誘導し、増殖させることができる。これは、上記抗原提示細胞とT細胞とを液体培地中で共存培養することにより行なうことができる。例えば、抗原提示細胞を液体培地に懸濁して、マイクロプレートのウェル等の容器に入れ、これにT細胞を添加して培養することにより行なうことができる。共存培養時の抗原提示細胞とT細胞の混合比率は、特に限定されないが、通常、細胞数の比率で1:1~1:100程度、好ましくは1:5~1:20程度である。また、液体培地中に懸濁する抗原提示細胞の密度は、特に限定されないが、通常、100~1000万細胞/ml程度、好ましくは10000~100万細胞/ml程度である。共存培養は、常法に従い、37℃、5%CO雰囲気中で行なうことが好ましい。培養時間は、特に限定されないが、通常、2日~3週間、好ましくは4日~2週間程度である。また、共存培養は、IL-2、IL-6、IL-7及びIL-12のようなインターロイキンの1種又は複数の存在下で行なうことが好ましい。この場合、IL-2及びIL-7の濃度は、通常5~20U/ml程度、IL-6の濃度は通常500~2000U/ml程度、IL-12の濃度は通常5~20ng/ml程度であるが、これらに限定されるものではない。上記の共存培養は、新鮮な抗原提示細胞を追加して1回ないし数回繰り返してもよい。例えば、共存培養後の培養上清を捨て、新鮮な抗原提示細胞の懸濁液を添加してさらに共存培養を行なうという操作を、1回ないし数回繰り返してもよい。各共存培養の条件は、上記と同様でよい。
【0052】
上記の共存培養により、該ポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞が誘導され、増殖される。従って、上記ポリペプチドを用いて、該ポリペプチドとMHC分子の複合体に選択的に結合する、単離T細胞を調製することができる。
【0053】
後述の実施例に記載される通り、MCEMP1遺伝子は、白血病、骨髄異形成症候群、骨肉腫、胸腺腫、肥満細胞腫もしくは肛門周囲腺癌に特異的に発現している。従って、これらの癌種においては、MCEMP1が正常細胞よりも有意に多く存在していると考えられる。したがって、癌細胞内に存在するMCEMP1のポリペプチドの一部が癌細胞表面上のMHC分子に提示されるよう、上記のようにして調製した細胞障害性T細胞が生体内に投与されると、これを目印として細胞障害性T細胞が癌細胞を障害することができる。また、MCEMP1のポリペプチドの一部を提示する抗原提示細胞は、生体内においても該ポリペプチドに特異的な細胞障害性T細胞を誘導し、増殖させることができるので、該抗原提示細胞を生体内に投与することによっても、癌細胞を障害することができる。すなわち、上記ポリペプチドを用いて調製された上記細胞障害性T細胞や上記抗原提示細胞もまた、本発明の免疫誘導剤と同様に、癌の治療及び/又は予防剤として有用である。
【0054】
上記の単離抗原提示細胞や単離T細胞を生体に投与する場合には、これらの細胞を異物として攻撃する生体内での免疫応答を回避するために、治療を受ける患者から採取した抗原提示細胞又はT細胞を、上記のように上記(a)~(d)のポリペプチドを用いて調製したものであることが好ましい。
【0055】
抗原提示細胞又は単離T細胞を有効成分として含む癌の治療及び/又は予防剤の投与経路は、静脈内投与や動脈内投与のような非経口投与が好ましい。また、投与量は、症状や投与目的等に応じて適宜選択されるが、通常1個~10兆個、好ましくは100万個~10億個であり、これを数日ないし数月に1回投与するのが好ましい。製剤は、例えば、細胞を生理緩衝食塩水に懸濁したもの等であってよく、他の抗癌剤やサイトカイン等と併用することもできる。また、製剤分野において周知の1又は2以上の添加剤を添加することもできる。
【0056】
4.DNAワクチン
上記(a)~(d)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを対象動物の体内で発現させることによっても、該生体内で抗体生産や細胞障害性T細胞を誘導することができ、ポリペプチドを投与するのと同等の効果が得られる。すなわち、本発明の免疫誘導剤は、上記(a)~(d)のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、生体内で該ポリペプチドを発現可能な組換えベクターを有効成分として含むものであってもよい。後述の実施例に示されるように、このような抗原ポリペプチドを発現可能な組換えベクターは、DNAワクチンとも呼ばれる。
【0057】
DNAワクチンを製造するために用いるベクターは、対象動物細胞内(好ましくは哺乳動物細胞内)で発現可能なベクターであれば特に限定されず、プラスミドベクターでもウイルスベクターでもよく、DNAワクチンの分野で公知のいかなるベクターを用いてもよい。なお、上記ポリペプチドをコードするDNAやRNA等のポリヌクレオチドは、上述した通り、常法により容易に調製することができる。また、ベクターへの該ポリヌクレオチドの組み込みは、当業者に周知の方法を用いて行なうことができる。
【0058】
DNAワクチンの投与経路は、好ましくは筋肉内投与、皮下投与、静脈内投与、動脈内投与等の非経口投与経路であり、投与量は、抗原の種類等に応じて適宜選択することができるが、通常、体重1kg当たり、DNAワクチンの重量で0.1μg~100mg程度、好ましくは1μg~10mg程度である。
【0059】
ウイルスベクターによる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連(「アデノ随伴」とも称する。)ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス等のRNAウイルス又はDNAウイルスに、上記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組み込み、これを対象動物に感染させる方法が挙げられる。この中で、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルス等を用いた方法が特に好ましい。
【0060】
その他の方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、特にDNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。
【0061】
本発明で用いられる上記ポリペプチドをコードする遺伝子を実際に医薬として作用させるには、遺伝子を直接体内に導入するin vivo方法、及び対象動物からある種の細胞を採取し体外で遺伝子を該細胞に導入しその細胞を体内に戻すex vivo方法があるが(日経サイエンス,1994年4月,p20-45、月刊薬事,1994年,第36巻,第1号,p.23-48、実験医学増刊,1994年,第12巻,第15号、及びこれらの引用文献等)、in vivo方法がより好ましい。
【0062】
in vivo方法により投与する場合は、治療目的の疾患、症状等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することが出来る。in vivo方法により投与する場合は、例えば、液剤等の製剤形態をとりうるが、一般的には、有効成分である本発明の上記ポリペプチドをコードするDNAを含有する注射剤等とされ、必要に応じて、慣用の担体を加えてもよい。また、該DNAを含有するリポソーム又は膜融合リポソーム(センダイウイルス(HVJ)-リポソーム等)においては、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤の形態とすることができる。
【0063】
なお、本明細書において、例えば「配列番号1に示される塩基配列」と言った場合には、配列番号1に実際に示されている塩基配列の他、これと相補的な配列も包含する。従って、例えば「配列番号1に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド」と言った場合には、配列番号1に実際に示されている塩基配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、その相補的な塩基配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、及びこれらから成る二本鎖ポリヌクレオチドが包含される。本発明で用いられるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを調製する場合には、適宜いずれかの塩基配列を選択することとなるが、当業者であれば容易にその選択をすることができる。
【実施例
【0064】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。しかしながら、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
[実施例1] SEREX法による新規癌抗原タンパクの取得
(1)cDNAライブラリーの作製
犬の精巣から酸-グアニジウム-フェノール-クロロフォルム法(Acid guanidium-Phenol-Chloroform法)により全RNAを抽出し、Oligotex-dT30 mRNA purification Kit(宝酒造株式会社製)を用いてキット添付のプロトコールに従ってポリA RNAを精製した。
【0065】
この得られたmRNA(5μg)を用いてcDNAファージライブラリーを合成した。cDNAファージライブラリーの作製にはcDNA Synthesis kit,Zap-cDNA Synthesis Kit,ZAP-cDNA GigapackIII Gold Cloning Kit(STRATAGENE社製)を用い、キット添付のプロトコールに従ってライブラリーを作製した。作製したcDNAファージライブラリーのサイズは1×10pfu/mlであった。
【0066】
(2)血清によるcDNAライブラリーのスクリーニング
上記作製したcDNAファージライブラリーを用いて、イムノスクリーニングを行った。具体的にはΦ90×15mmのNZYアガロースプレートに約2500クローンとなるように宿主大腸菌(XL1-Blue MRF')に感染させ、42℃、3~4時間培養し、溶菌斑(プラーク)を作らせ、IPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトシド)を浸透させたニトロセルロースメンブレン(Hybond C Extra:GE Healthecare Bio-Sciece社製)でプレートを37℃で4時間覆うことによりタンパク質を誘導・発現させ、メンブレンにタンパク質を転写した。その後メンブレンを回収し0.5%脱脂粉乳を含むTBS(10mM Tris-HCl、150mM NaCl pH7.5)に浸し4℃で一晩振盪することによって非特異反応を抑制した。このフィルターを500倍希釈した患犬血清と室温で2~3時間反応させた。
【0067】
上記患犬血清としては、白血病の患犬より採取した血清を用いた。これらの血清は-80℃で保存し、使用直前に前処理を行った。血清の前処理方法は、以下の方法による。すなわち、外来遺伝子を挿入していないλ ZAP Expressファージを宿主大腸菌(XL1-BLue MRF')に感染させた後、NZYプレート培地上で37℃、一晩培養した。次で0.5M NaClを含む0.2M NaHCOpH8.3のバッファーをプレートに加え、4℃で15時間静置後、上清を大腸菌/ファージ抽出液として回収した。次に、回収した大腸菌/ファージ抽出液をNHS-カラム(GE Healthecare Bio-Science社製)に通液して、大腸菌・ファージ由来のタンパク質を固定化した。このタンパク固定化カラムに患犬血清を通液・反応させ、大腸菌及びファージに吸着する抗体を血清から取り除いた。カラムを素通りした血清画分は、0.5%脱脂粉乳を含むTBSにて500倍希釈し、これをイムノスクリーニング材料とした。
【0068】
かかる処理血清とタンパク質をブロットした上記メンブレンをTBS-T(0.05% Tween20/TBS)にて4回洗浄を行った後、二次抗体として0.5%脱脂粉乳を含むTBSにて5000倍希釈を行ったヤギ抗イヌIgG(Goat anti Dog IgG-h+L HRP conjugated:BETHYL Laboratories社製)を、室温1時間反応させ、NBT/BCIP反応液(Roche社製)を用いた酵素発色反応により検出し、発色反応陽性部位に一致するコロニーをΦ90×15mmのNZYアガロースプレート上から採取し、SM緩衝液(100mM NaCl、10mM MgClSO、50mM Tris-HCl、0.01% ゼラチン pH7.5)500μlに溶解させた。発色反応陽性コロニーが単一化するまで上記と同様の方法で、二次、三次スクリーニングを繰り返し、血清中のIgGと反応する約10000個のファージクローンをスクリーニングして、1個の陽性クローンを単離した。
【0069】
(3)単離抗原遺伝子の配列同一性検索
上記方法により単離した1個の陽性クローンを塩基配列解析に供するため、ファージベクターからプラスミドベクターに転換する操作を行った。具体的には宿主大腸菌(XL1-Blue MRF')を吸光度OD600が1.0となるよう調製した溶液200μlと、精製したファージ溶液100μlさらにExAssist helper phage (STRATAGENE社製)1μlを混合した後37℃で15分間反応後、LB培地を3ml添加し37℃で2.5~3時間培養を行い、直ちに70℃の水浴にて20分間保温した後、4℃、1000×g、15分間遠心を行い、上清をファージミド溶液として回収した。次いでファージミド宿主大腸菌(SOLR)を吸光度OD600が1.0となるよう調製した溶液200μlと、精製したファージ溶液10μlを混合した後37℃で15分間反応させ、50μlをアンピシリン(終濃度50μg/ml)含有LB寒天培地に播き37℃一晩培養した。トランスフォームしたSOLRのシングルコロニーを採取し、アンピシリン(終濃度50μg/ml)含有LB培地37℃にて培養後、QIAGEN plasmid Miniprep Kit(キアゲン社製)を使って目的のインサートを持つプラスミドDNAを精製した。
【0070】
精製したプラスミドは、配列番号9に記載のT3プライマーと配列番号10に記載のT7プライマーを用いて、プライマーウォーキング法によるインサート全長配列の解析を行った。このシークエンス解析により配列番号3に記載の遺伝子配列を取得した。この遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列を用いて、配列同一性検索プログラムBLASTサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を行い既知遺伝子との配列同一性検索を行った結果、得られた遺伝子はMCEMP1遺伝子であることが判明した。イヌMCEMP1のヒト相同因子であるヒトMCEMP1では、配列同一性が塩基配列70%、アミノ酸配列51%であり、ネコMCEMP1では、配列同一性が塩基配列83%、アミノ酸配列64%であり、マウス相同因子であるマウスMCEMP1では、配列同一性が塩基配列65%、アミノ酸配列47%であった。ヒトMCEMP1の塩基配列を配列番号1、アミノ酸配列を配列番号2に、ネコMCEMP1の塩基配列を配列番号5、アミノ酸配列を配列番号6にマウスMCEMP1の塩基配列を配列番号7、アミノ酸配列を配列番号8に示す。
【0071】
(4)各組織での遺伝子発現解析
上記方法により得られた遺伝子に対しイヌ、ヒト及びマウスの各種正常組織、各種腫瘍組織及び各種癌細胞株における発現をRT-PCR(Reverse Transcription-PCR)法により調べた。逆転写反応は以下の通り行った。すなわち、各組織50~100mg及び各細胞株5~10×10個の細胞からTRIZOL試薬(Life technology社製)を用いて添付のプロトコールに従い全RNAを抽出した。この全RNAを用いてSuperscript First-Strand Synthesis System for RT-PCR(Life technology社製)により添付のプロトコールに従いcDNAを合成した。ヒト正常組織(脳、精巣、結腸、胎盤)のcDNAは、ジーンプールcDNA(Life technology社製)、QUICK-Clone cDNA(クロンテック社製)及びLarge-Insert cDNA Library(クロンテク社製)を用いた。PCR反応は、取得した遺伝子特異的なプライマー(イヌプライマーは配列番号11及び12、ヒトプライマーは配列番号13及び14、マウスプライマーは配列番号15及び16に記載)を用いて以下の通り行った。すなわち、逆転写反応により調製したサンプル0.25μl、上記プライマーを各2μM、0.2mMの各dNTP、0.65UのExTaqポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を25μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、94℃-30秒、55℃-30秒、72℃-1分のサイクルを30回繰り返して行った。その結果、図1に示すように、イヌMCEMP1遺伝子は、イヌ腫瘍組織では肥満細胞腫、肛門周囲腺癌で強い発現が見られた(図1)。ヒトMCEMP1遺伝子発現においては、健常なヒト組織ではほとんどの組織で発現が見られず、一方ヒト癌細胞では白血病、骨髄異形成症候群、骨肉腫の細胞株で強い発現が見られた(図2)。さらに、マウスMCEMP1遺伝子の発現は、白血病、胸腺腫の細胞株で発現が検出された(図3)。
【0072】
[実施例2] MCEMP1の生体内での癌抗原性の解析
(1)生体内でマウスMCEMP1を発現する組換えベクターの作製
配列番号7の塩基配列を基に、以下の方法にて、生体内でマウスMCEMP1を発現する組換えベクターを作製した。PCRは、実施例1において発現の見られたマウス白血病細胞株EL4(ATCCより購入)より調製した。cDNAを1μl、EcoRI及びNotI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号17及び18に記載)を各0.4μM、0.2mM dNTP、1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造株式会社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、98℃-10秒、55℃-15秒、72℃-1分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号8のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1%アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて約550bpのDNA断片を精製した。
【0073】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR-Blunt(Life technology社)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをEcoRI及びNotI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、EcoRI及びNotI制限酵素で処理した哺乳類発現ベクターpcDNA3.1(Invitrogen社製)に挿入した(以下、マウスMCEMP1/pcDNA3.1)。このベクターの使用により哺乳類の細胞内でマウスMCEMP1タンパクが産生される。
【0074】
上記で作製したプラスミドDNA100μgに50μgの金粒子(Bio Rad社製)、スペルミジン100μl(SIGMA社製)、1M CaCl100μl(SIGMA社製)を添加し、ボルテックスによって攪拌し10分室温で静置した(以後金-DNA粒子と記載する)。3000rpmで1分遠心した後、上清を捨て100% エタノール(WAKO社製)によって3回洗浄した。金-DNA粒子に100% エタノール6mlを加えボルテックスによって十分に攪拌した後、金-DNA粒子をTefzel Tubing(Bio Rad社製)に流し込み、壁面に沈殿させた。金-DNA粒子が付着したTefzel Tubingのエタノールを風乾し、遺伝子銃に適した長さにカットした(以下、マウスMCEMP1/チューブ)。
【0075】
(2)DNAワクチン法によるマウスMCEMP1の抗腫瘍効果-1
5匹のA/Jマウス(7週齢、雄、日本SLC社から購入)に対して、上記で作製したチューブ(マウスMCEMP1/チューブ)を遺伝子銃に固定し、純ヘリウムガスを用いて400psiの圧力で、剃毛したマウスの腹腔にDNAワクチンを7日ごとに計3回、経皮投与した後に(プラスミドDNA接種量は2μg/匹になる)実施例1においてMCEMP1遺伝子の発現の見られたマウス白血病細胞株EL4細胞を移植して抗腫瘍効果を評価した(予防モデル)。なお、コントロールとして、マウスMCEMP1遺伝子が挿入されていないプラスミドDNAを予防モデルで5匹投与した。
【0076】
抗腫瘍効果は、腫瘍の大きさ(長径×短径/2)及び生存マウスの割合で評価した。本検討の結果、予防モデルにおいて、28日後には、コントロール群及びマウスMCEMP1プラスミド投与群で、それぞれ、1153mm、480mmとなり、マウスMCEMP1プラスミド投与群では腫瘍の顕著な退縮が観察された。また、生存の経過を観察した結果、予防モデルにおいて、コントロール群では投与後59日で全例死亡したのに対し、マウスMCEMP1プラスミド投与群では、60%のマウスが生存していた。以上の結果から、マウスMCEMP1プラスミド投与群はコントロール群に比べて有意な抗腫瘍効果が認められた。
【0077】
(3)DNAワクチン法によるマウスMCEMP1の抗腫瘍効果-2
5匹のA/Jマウス(7週齢、雄、日本SLC社から購入)に対して、上記で作製したチューブ(マウスMCEMP1/チューブ)を遺伝子銃に固定し、純ヘリウムガスを用いて400psiの圧力で、剃毛したマウスの腹腔にDNAワクチンを7日ごとに計3回、経皮投与した後に(プラスミドDNA接種量は2μg/匹になる)実施例1においてMCEMP1遺伝子の発現の見られたマウス白血病細胞株EG7細胞を移植して抗腫瘍効果を評価した(予防モデル)。なお、コントロールとして、マウスMCEMP1遺伝子が挿入されていないプラスミドDNAを予防モデルで5匹投与した。
【0078】
抗腫瘍効果は、腫瘍の大きさ(長径×短径/2)及び生存マウスの割合で評価した。本検討の結果、予防モデルにおいて、28日後には、コントロール群及びマウスMCEMP1プラスミド投与群で、それぞれ、982mm、521mmとなり、マウスMCEMP1プラスミド投与群では腫瘍の顕著な退縮が観察された。また、生存の経過を観察した結果、予防モデルにおいて、コントロール群では投与後68日で全例死亡したのに対し、マウスMCEMP1プラスミド投与群では、60%のマウスが生存していた。以上の結果から、マウスMCEMP1プラスミド投与群はコントロール群に比べて有意な抗腫瘍効果が認められた。
【0079】
(4)生体内でヒトMCEMP1を発現する組換えベクターの作製
配列番号1の塩基配列を基に、以下の方法にて、生体内でヒトMCEMP1を発現する組換えベクターを作製した。PCRは、実施例1において発現の見られたヒト白血病細胞株U937(ATCCより購入)より調製した。cDNAを1μl、EcoRI及びNotI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号19及び20に記載)を各0.4μM、0.2mM dNTP、1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造株式会社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、98℃-10秒、55℃-15秒、72℃-1分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号2のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1%アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて約550bpのDNA断片を精製した。
【0080】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR-Blunt(Life technology社)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをEcoRI及びNotI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、EcoRI及びNotI制限酵素で処理した哺乳類発現ベクターpcDNA3.1(Invitrogen社製)に挿入した(以下、ヒトMCEMP1/pcDNA3.1)。このベクターの使用により哺乳類の細胞内でヒトMCEMP1タンパクが産生される。
【0081】
上記で作製したプラスミドDNA100μgに50μgの金粒子(Bio Rad社製)、スペルミジン100μl(SIGMA社製)、1M CaCl100μl(SIGMA社製)を添加し、ボルテックスによって攪拌し10分室温で静置した(以後金-DNA粒子と記載する)。3000rpmで1分遠心した後、上清を捨て100%エタノール(WAKO社製)によって3回洗浄した。金-DNA粒子に100%エタノール6mlを加えボルテックスによって十分に攪拌した後、金-DNA粒子をTefzel Tubing(Bio Rad社製)に流し込み、壁面に沈殿させた。金-DNA粒子が付着したTefzel Tubingのエタノールを風乾し、遺伝子銃に適した長さにカットした(以下、ヒトMCEMP1/チューブ)。
【0082】
(5)全長ヒトMCEMP1定常発現細胞の樹立
上記で作製したヒトMCEMP1/pcDNA3.1をマウス神経芽細胞腫細胞株N2a細胞(ATCC社)へリポフェクション法により導入し、500μg/mlのG418(ナカライ社)による選抜により、全長ヒトMCEMP1を定常的に発現するN2a細胞株を樹立した(N2a-ヒトMCEMP1)。また、ヒトMCEMP1をコードするcDNAが挿入されていない発現ベクター(以下、emp/pcDNA3.1)を上記と同様に導入して選抜した細胞をコントロール細胞とした(以下、N2a-emp)。
【0083】
(6)DNAワクチン法によるヒトMCEMP1の抗腫瘍効果
5匹のA/Jマウス(7週齢、雄、日本SLC社から購入)に対して、上記で作製したチューブ(ヒトMCEMP1/チューブ)を遺伝子銃に固定し、純ヘリウムガスを用いて400psiの圧力で、剃毛したマウスの腹腔にDNAワクチンを7日ごとに計3回、経皮投与した後に(プラスミドDNA接種量は2μg/匹になる)上記で作製したN2a-ヒトMCEMP1を、またコントロール細胞としてN2a-empをそれぞれ移植して抗腫瘍効果を評価した(予防モデル)。なお、コントロールとして、ヒトMCEMP1遺伝子が挿入されていないプラスミドDNAを予防モデルで5匹投与した。
【0084】
抗腫瘍効果は、腫瘍の大きさ(長径×短径/2)及び生存マウスの割合で評価した。本検討の結果、N2a-ヒトMCEMP1の予防モデルにおいて、28日後には、コントロール群及びヒトMCEMP1プラスミド投与群で、それぞれ、1379mm、513mmとなり、ヒトMCEMP1プラスミド投与群では腫瘍の顕著な退縮が観察された。また、生存の経過を観察した結果、予防モデルにおいて、コントロール群では投与後61日で全例死亡したのに対し、ヒトMCEMP1プラスミド投与群では、60%のマウスが生存していた。以上の結果から、N2a-ヒトMCEMP1の予防モデルにおいて、ヒトMCEMP1プラスミド投与群はコントロール群に比べて有意な抗腫瘍効果が認められた。一方、N2a-empの予防モデルにおいては、ヒトMCEMP1プラスミド投与群はコントロール群に比べて有意な抗腫瘍効果は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、各種癌に対して抗腫瘍活性を発揮するポリペプチドを含む免疫誘導剤を提供するため、癌の治療及び/又は予防に有用である。
【0086】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
【配列表】
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