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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】タイヤの試験方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
B60C19/00 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018004963
(22)【出願日】2018-01-16
(65)【公開番号】P2019123360
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井藤 仁
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和美
(72)【発明者】
【氏名】中川 恒之
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185851(JP,A)
【文献】特開2013-221808(JP,A)
【文献】特開2012-240506(JP,A)
【文献】特開2015-141017(JP,A)
【文献】特開2016-010928(JP,A)
【文献】特開2015-055581(JP,A)
【文献】国際公開第2009/019942(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0005616(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
G02M 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードと、一方のビードと他方のビードとの間を架け渡すカーカスと、当該カーカスの半径方向外側に位置するベルトと、当該ベルトの半径方向外側に位置し外周面がトレッド面をなすトレッドとを備えるタイヤを、回転する駆動ドラムの周面と接触させて、当該タイヤを走行させることにより、当該タイヤの耐久性を評価するための試験方法であって、
前記タイヤに荷重を付与して前記タイヤを一定の速度で走行させる第一工程と、
前記タイヤに荷重を付与して前記タイヤの速度を段階的に上昇させながら前記タイヤを走行させる第二工程と
を含み、
前記第一工程において前記タイヤに付与される荷重が、正規荷重よりも軽く、
前記第二工程において前記タイヤに付与される荷重が、正規荷重よりも重く、
前記第一工程における前記トレッドのショルダー部分の到達温度が80℃以上120℃以下であり、
前記第二工程における前記トレッドのショルダー部分の到達温度が120℃以上である、タイヤの試験方法。
【請求項2】
前記第一工程において、前記タイヤに付与される荷重が正規荷重の60%以上90%以下である、請求項1に記載のタイヤの試験方法。
【請求項3】
前記第一工程において、前記タイヤの速度が70km/h以上100km/h以下である、請求項1又は2に記載のタイヤの試験方法。
【請求項4】
前記第二工程において、前記タイヤに付与される荷重が正規荷重の110%以上150%以下である、請求項1から3のいずれかに記載のタイヤの試験方法。
【請求項5】
前記第二工程において、前記タイヤの速度の上昇幅が5km/h以上15km/h以下であり、
前記第二工程の開始の時点における、前記タイヤの速度と、前記第一工程における当該タイヤの速度との差が-10km/h以上10km/h以下である、請求項1から4のいずれかに記載のタイヤの試験方法。
【請求項6】
前記タイヤが更生タイヤである、請求項1からのいずれかに記載のタイヤの試験方法。
【請求項7】
前記トレッドのショルダー部分の到達温度が、前記トレッドの内部の温度であって、前記ベルトの端とトレッド面の端との中間部分における温度であり、
前記トレッド面の端が、路面と接触する前記トレッドの外周面の端である、請求項1から6のいずれかに記載のタイヤの試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの試験方法に関する。詳細には、本発明はタイヤの耐久性を評価するための試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、トレッド、ベルト、カーカス、サイドウォール等の部材を組み合わせて構成される。タイヤの耐久性を向上させるにあたり、これら部材の状態を確認することは極めて重要である。このような事情から、試験機においてタイヤを走行させてタイヤの構成部材の状態を確認することができる、タイヤの試験方法について、様々な検討が行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1では、サイドウォールにクラックを発生させることができるタイヤの試験方法について検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-124952公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、トラック等の大型車輛に用いられるタイヤに、更生タイヤがある。更生タイヤは、使用履歴のあるタイヤから摩耗したトレッドを除いて台タイヤを得て、この台タイヤに新しいトレッドを再建することにより得られる。
【0006】
更生タイヤにおけるベルトやカーカスの状態を確認するために、試験機において更生タイヤを走行させて評価を行うことがある。しかし、この場合、ベルトとカーカスとの境界や、ベルトプライとこのベルトプライに積層された他のベルトプライとの境界で損傷が生じる前に、トレッドと台タイヤとの境界で損傷が生じる傾向にあり、ベルトやカーカスの状態を確認することが困難な状況にある。このような状況から、損傷を生じさせたい部分で損傷を生じさせることができるタイヤの試験方法の確立が求められている。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、タイヤのベルトやカーカスの状態を確認するために、ベルトとカーカスとの境界や、ベルトプライとこのベルトプライに積層された他のベルトプライとの境界で損傷を生じさせることができる、言い換えれば、損傷を生じさせたい部分で損傷を生じさせて、タイヤの状態を正しく評価することができる、タイヤの試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るタイヤの試験方法は、一対のビードと、一方のビードと他方のビードとの間を架け渡すカーカスと、当該カーカスの半径方向外側に位置するベルトと、当該ベルトの半径方向外側に位置し外周面がトレッド面をなすトレッドとを備えるタイヤを、回転する駆動ドラムの周面と接触させて、当該タイヤを走行させることにより、当該タイヤの耐久性を評価するための試験方法であって、
(1)前記トレッドのショルダー部分の温度が80℃以上120℃以下になるように、前記タイヤを走行させる第一工程と、
(2)前記トレッドのショルダー部分の温度が120℃以上になるように、前記タイヤを走行させる第二工程と
を含んでいることを特徴としている。
【0009】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記第一工程において、前記タイヤに付与される荷重は正規荷重よりも軽い。
【0010】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記第一工程において、前記タイヤの速度は70km/h以上100km/h以下である。
【0011】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記第二工程において、前記タイヤに付与される荷重は正規荷重よりも重い。
【0012】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記第二工程において、前記タイヤの速度は段階的に上昇させられる。この場合、より好ましくは、前記第二工程において、前記タイヤの速度の上昇幅は5km/h以上15km/h以下であり、前記第二工程の開始の時点における、前記タイヤの速度と、前記第一工程における当該タイヤの速度との差は-10km/h以上10km/h以下である。
【0013】
好ましくは、このタイヤの試験方法では、前記タイヤは更生タイヤである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るタイヤの試験方法は、タイヤとして、例えば、更生タイヤを用いたとしても、トレッドと台タイヤとの境界で損傷を生じさせることなく、ベルトとカーカスとの境界や、ベルトプライとこのベルトプライに積層された他のベルトプライとの境界で損傷を生じさせることができる。このタイヤの試験方法は、例えば、更生タイヤにおけるベルトやカーカスの状態を正しく評価することができる。このタイヤの試験方法によれば、意図しない損傷の発生を防止しながら、損傷を生じさせたい部分で損傷を生じさせることができるので、タイヤの状態の正しい評価が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの試験方法に用いられる試験機の一例を概略的に示す斜視図である。
図2図2は、タイヤの試験方法に用いられるタイヤの一例が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0017】
[試験機]
図1には、本発明の一実施形態に係る試験方法に用いられる試験機2が示されている。この試験方法では、この試験機2においてタイヤ4の耐久性が評価される。この試験機2は、駆動ドラム6と、支持装置8とを備えている。駆動ドラム6及び支持装置8は、架台10に設置されている。
【0018】
駆動ドラム6は、回転可能に架台10に支持されている。駆動ドラム6は、図示されない駆動手段により回転させられる。駆動手段としては、電動モーターが挙げられる。
【0019】
支持装置8は、リム12と、回転軸14とを備えている。リム12は、試験用である。このリム12に、タイヤ4が嵌め合わされる。リム12は、回転軸14に支持されている。回転軸14は、図示されない軸受により回転可能に支持装置8に支持されている。
【0020】
図示されていないが、支持装置8は、回転駆動機構及びブレーキ機構をさらに備えている。この支持装置8では、回転軸14を回転自在にすること、駆動ドラム6に依らず回転軸14を回転駆動すること、及び、回転軸14を拘束することが可能である。この試験機2では、リム12に装着されたタイヤ4を加速すること、減速すること、そして、停止することが可能である。
【0021】
この支持装置8には、流体圧シリンダーのような昇降装置(図示されず)が設けられている。この昇降装置によって、駆動ドラム6に対するタイヤ4の位置が調整される。この調整により、タイヤ4は駆動ドラム6の周面16(以下、路面ともいう。)に接触させられる。タイヤ4を駆動ドラム6の周面16に押し当てることにより、所定の荷重がタイヤ4に付与される。この試験機2では、支持装置8の回転軸14は回転自在とし、所定の荷重をタイヤ4に付与した状態で駆動ドラム6が回転させられる。これにより、タイヤ4が駆動ドラム6の周面16を走行する。なお、図示されていないが、この支持装置8には、回転軸14の、駆動ドラム6に対する角度を調整する角度調整手段がさらに設けられている。この角度調整手段により、タイヤ4のキャンバー角が調整される。この試験方法では、キャンバー角は0°に設定される。
【0022】
[タイヤ]
図2には、図1に示された試験機2に装着されるタイヤ4(以下、供試タイヤ4ともいう。)の一例が示されている。この図2において、上下方向がタイヤ4の半径方向であり、左右方向がタイヤ4の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ4の周方向である。この図2において、一点鎖線CLはこのタイヤ4の赤道面である。
【0023】
このタイヤ4は、トレッド18、一対のサイドウォール20、一対のビード22、カーカス24及びベルト26を備えている。このタイヤ4は、トラック、バス等の車輛に装着される。このタイヤ4は、重荷重用である。
【0024】
トレッド18は、ベルト26の半径方向外側に位置している。トレッド18の外周面28は、トレッド面をなす。タイヤ4は、トレッド面28において、路面と接触する。このタイヤ4では、周方向に延在する複数本の主溝30が設けられている。これらの主溝30は、軸方向に間隔をあけて配置されている。
【0025】
それぞれのサイドウォール20は、トレッド18の端の部分から半径方向略内向きに延在している。それぞれのビード22は、タイヤ4の半径方向内側部分に位置している。ビード22は、コア32と、このコア32から半径方向外向きに延びるエイペックス34とを備えている。
【0026】
カーカス24は、一方のビード22と他方のビード22との間を架け渡している。このカーカス24は、カーカスプライ36を備えている。カーカスプライ36は、それぞれのコア32の周りにて軸方向内側から外側に向かって折り返されている。このカーカス24が2枚以上のカーカスプライ36で構成されてもよい。
【0027】
図示されていないが、カーカスプライ36は並列された多数のカーカスコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのカーカスコードは、赤道面に対して傾斜している。このタイヤ4では、カーカスコードが赤道面に対してなす角度は70°以上90°以下の範囲で設定される。このタイヤ4のカーカス24は、ラジアル構造を有している。このタイヤ4では、カーカスコードの材質はスチールである。有機繊維からなるコードが、カーカスコードとして用いられてもよい。
【0028】
ベルト26は、トレッド18とカーカス24との間に位置している。ベルト26は、カーカス24の半径方向外側に位置している。
【0029】
このタイヤ4では、ベルト26は4枚のベルトプライ38からなる。このタイヤ4では、ベルト26を構成するベルトプライ38の枚数に特に制限はない。このベルト26の構成は、タイヤ4の仕様が考慮され適宜決められる。
【0030】
このタイヤ4では、それぞれのベルトプライ38は並列された多数のベルトコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのベルトコードは、赤道面に対して傾斜している。このタイヤ4では、半径方向において最も内側に位置するベルトプライ38Aでは、コードが赤道面に対してなす角度は40°以上60°以下の範囲で設定される。このベルトプライ38Aの半径方向外側に位置するベルトプライ38B、ベルトプライ38C及びベルトプライ38Dでは、コードが赤道面に対してなす角度は10°以上30°以下の範囲で設定される。このタイヤ4では、4枚のベルトプライ38のうち、ベルトプライ38Aとベルトプライ38Cとの間に位置するベルトプライ38Bが最大の軸方向幅を有している。半径方向において最も外側に位置するベルトプライ38Dが、最小の軸方向幅を有している。このタイヤ4では、ベルトコードの材質はスチールである。有機繊維からなるコードが、ベルトコードとして用いられてもよい。
【0031】
このタイヤ4では、トレッド18以外は台タイヤ40である。このタイヤ4は、使用履歴のあるタイヤから摩耗したトレッドを除いて台タイヤ40を得て、トレッド18のためのゴム組成物を用いてこの台タイヤ40にトレッド18を再建することにより得られる。言い換えれば、このタイヤ4は、一対のビード22、カーカス24及びベルト26を備え、使用履歴を有するタイヤの外周面を除去した台タイヤ40と、この台タイヤ40の半径方向外側に位置するトレッド18とを備えている。このタイヤ4は、更生タイヤである。
【0032】
本発明では、タイヤ4の各部材の寸法及び角度は、特に言及がない限り、タイヤ4が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ4に空気が充填された状態(正規状態ともいう。)で測定される。測定時には、タイヤ4には荷重がかけられない。
【0033】
本明細書において正規リムとは、タイヤ4が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0034】
本明細書において正規内圧とは、タイヤ4が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0035】
本明細書において正規荷重とは、タイヤ4が依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最高負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0036】
[試験方法]
前述したように、このタイヤ4の試験方法では、回転する駆動ドラム6の周面16にタイヤ4を接触させて、このタイヤ4を走行させることにより、このタイヤ4の耐久性が評価される。具体的には、この試験方法では、タイヤ4を走行させて、ベルト26とカーカス24との境界や、ベルトプライ38とこのベルトプライ38に積層された他のベルトプライ38との境界で意図的に損傷を生じさせることで、タイヤ4の耐久性が評価される。
【0037】
この試験方法は、装着工程及び走行工程を含んでいる。以下に、装着工程及び走行工程について詳述する。なお、本発明においては、ベルト26とカーカス24との境界での損傷は、ブレーカー/プライ・セパレーションと称される。ベルトプライ38とこのベルトプライ38に積層された他のベルトプライ38との境界での損傷は、ブレーカー/ブレーカー・セパレーションと称される。
【0038】
[装着工程]
この試験方法では、タイヤ4がリム12に組み込まれる。タイヤ4をリム12に組み込んだ後、タイヤ4の内部に空気が充填される。これにより、タイヤ4の内圧が正規内圧に調整される。内圧の調整後、リム12が回転軸14に取り付けられ、タイヤ4が支持装置8に取り付けられる。このリム12は試験用ではあるが、正規リムと同様の仕様で構成されている。
【0039】
この試験方法では、タイヤ4を支持装置8に取り付けた後、前述の昇降装置(図示されず)により、駆動ドラム6の周面16にタイヤ4が押し当てられる。これにより、タイヤ4に付与される荷重が調整される。調整後、駆動ドラム6に対するタイヤ4の位置が固定される。この試験方法では、このようにして、タイヤ4が試験機2にセットされる。
【0040】
[走行工程]
この試験方法では、試験機2へのタイヤ4のセット、すなわち、装着工程が完了すると、駆動ドラム6を回転させて、タイヤ4の走行が開始される。
【0041】
前述したように、このタイヤ4は更生タイヤである。このタイヤ4のトレッド18と台タイヤ40との境界には、界面42が存在する。この界面42は、損傷の起点になりやすい。この試験方法では、この界面42を起点とする損傷の発生を防止し、ブレーカー/プライ間セパレーション(以下、BP損傷ともいう。)や、ブレーカー/ブレーカー間セパレーション(以下、BB損傷ともいう。)を意図的に発生させるために、走行工程においては、ベルト26の端が近くに位置するトレッド18の端の部分、すなわち、トレッド18のショルダー部分44の温度が考慮される。本発明においては、トレッド18のショルダー部分44の温度は、ベルト26の端とトレッド面28の端との中間部分における温度によって表わされる。
【0042】
この試験方法では、走行工程は、次の第一工程及び第二工程を含んでいる。この試験方法では、第一工程を実施した後に、第二工程が実施される。
【0043】
[第一工程]
第一工程では、トレッド18のショルダー部分44の温度が80℃以上120℃以下になるようにタイヤ4が走行させられる。
【0044】
タイヤ4は、走行により熱を帯びる。そして、タイヤ4は熱を帯びることにより、柔軟性が増していく。前述したように、第一工程では、ショルダー部分44の温度が80℃以上になるようにタイヤ4が走行させられる。このため、トレッド18及び台タイヤ40が適度な柔軟性を有する。界面42においてトレッド18と台タイヤ40とが効果的に馴染むので、界面42を起点とした損傷の発生が効果的に防止される。
【0045】
一方、タイヤ4が熱を帯び過ぎると、トレッド18と台タイヤ40とが馴染む前に、界面42を起点とする損傷が発生する恐れがある。前述したように、第一工程では、ショルダー部分44の温度が120℃以下になるようにタイヤ4は走行させられる。トレッド18及び台タイヤ40の柔軟性が適切に維持されるので、トレッド18と台タイヤ40とが馴染む前に、界面42を起点とする損傷が発生することが効果的に防止される。なお、この試験方法では、ショルダー部分44の温度を120℃以下に効果的に設定できる観点から、送風機を用いてタイヤ4に風を吹き付けてもよい。
【0046】
[第二工程]
第二工程では、トレッド18のショルダー部分44の温度が120℃以上になるようにタイヤ4が走行させられる。
【0047】
タイヤ4が熱を帯び過ぎると、タイヤ4を構成するゴムは破断しやすくなる。この試験方法では、第一工程においてトレッド18と台タイヤ40とを十分に馴染ませた後に、第二工程において、ショルダー部分44の温度が120℃以上になるようにタイヤ4が走行させられる。このため、この試験方法では、界面42を起点とする損傷の発生を防止しながら、狙いとする、BP損傷やBB損傷を発生させることができる。しかもこの試験方法では、第二工程においてショルダー部分44の温度を120℃以上にすることにより、狙いとする損傷が発生するまでの時間の短縮も図ることができる。
【0048】
以上説明したように、この試験方法は、一対のビード22と、一方のビード22と他方のビード22との間を架け渡すカーカス24と、このカーカス24の半径方向外側に位置するベルト26と、このベルト26の半径方向外側に位置し外周面がトレッド面28をなすトレッド18とを備えるタイヤ4を、回転する駆動ドラム6の周面16と接触させて、このタイヤ4を走行させることにより、このタイヤ4の耐久性を評価するための試験方法であって、
(1)トレッド18のショルダー部分44の温度が80℃以上120℃以下になるように、タイヤ4を走行させる第一工程と、
(2)トレッド18のショルダー部分44の温度が120℃以上になるように、タイヤ4を走行させる第二工程と
を含んでいることを特徴としている。
【0049】
この試験方法は、タイヤ4として、例えば、更生タイヤを用いたとしても、トレッド18と台タイヤ40との境界で損傷を生じさせることなく、ベルト26とカーカス24との境界や、ベルトプライ38とこのベルトプライ38に積層された他のベルトプライ38との境界で損傷を生じさせることができる。この試験方法は、タイヤ4におけるベルト26やカーカス24の状態を正しく評価することができる。この試験方法によれば、意図しない損傷の発生を防止しながら、損傷を生じさせたい部分で損傷を生じさせることができるので、タイヤ4の状態の正しい評価が可能である。
【0050】
この試験方法では、第一工程において、動的に熱と歪みとがタイヤ4に付与されることで、界面42において、トレッド18と台タイヤ40とを馴染ませると同時に、このタイヤ4の内部に熱的及び機械的疲労が与えられる。このため、この試験方法では、従来の試験方法のように、静的な熱劣化処理を施すことなく、損傷を生じさせたい部分で損傷を生じさせることができる。この試験方法では、評価の対象であるタイヤ4に静的な熱劣化処理は不要である。言い換えれば、この試験方法は、事前に劣化処理をすることなく、タイヤ4の耐久性を評価することができる。
【0051】
この試験方法では、第一工程においてタイヤ4に付与される荷重は正規荷重よりも軽いのが好ましい。これにより、タイヤ4に生じる歪みが適切に維持されるので、ショルダー部分44の温度が120℃を超えることが効果的に防止される。この観点から、第一工程においてタイヤ4に付与される荷重は正規荷重の90%以下に設定されるのがより好ましい。一方、タイヤ4に生じる歪みが小さすぎるとショルダー部分44の温度を上昇させることが困難となる。ショルダー部分44の温度を効果的に80℃以上にすることができる観点から、第一工程においてタイヤ4に付与される荷重は正規荷重の60%以上に設定されるのが好ましい。
【0052】
この試験方法では、第一工程におけるタイヤ4の速度は70km/h以上が好ましく、100km/h以下が好ましい。この速度が70km/h以上に設定されることにより、ショルダー部分44の温度を効果的に80℃以上にすることができる。この観点から、この速度は80km/h以上がより好ましい。この速度が100km/h以下に設定されることにより、ショルダー部分44の温度を効果的に120℃以下にすることができる。この観点から、この速度は90km/h以上がより好ましい。なお、この第一工程では、タイヤ4は一定の速度で走行させられる。
【0053】
この試験方法では、第一工程においてショルダー部分44の温度を80℃以上120℃以下の範囲に効果的に設定できる観点から、第一工程において、タイヤ4に付与される荷重は正規荷重よりも軽く、そして、タイヤ4の速度は70km/h以上100km/h以下であるのがさらに好ましい。
【0054】
この試験方法では、第二工程においてタイヤ4に付与される荷重は正規荷重よりも重いのが好ましい。これにより、タイヤ4に十分な歪みを生じさせることができるので、ショルダー部分44の温度を効果的に120℃以上にすることができる。この観点から、第二工程においてタイヤ4に付与される荷重は正規荷重の110%以上に設定されるのがより好ましい。一方、タイヤ4に生じる歪みが大きすぎると、ショルダー部分44の温度が異常に高くなり過ぎ、トレッド18のチャンキング等の意図しない損傷が発生する恐れがある。ショルダー部分44の異常な加熱を抑制し、意図しない損傷の発生を防止する観点から、第二工程においてタイヤ4に付与される荷重は正規荷重の150%以下に設定されるのが好ましい。
【0055】
この試験方法では、第二工程において、タイヤ4の速度は段階的に上昇させられのが好ましい。これにより、ショルダー部分44の温度を徐々に上昇させることができるので、チャンキング等の意図しない損傷を防止するとともに、BP損傷やBB損傷といった狙いの損傷が発生しやすくなる。この観点から、第二工程において、タイヤ4の速度の上昇幅は5km/h以上15km/h以下であり、この第二工程の開始の時点における、タイヤ4の速度と、第一工程におけるタイヤ4の速度との差は-10km/h以上10km/h以下であるのがより好ましい。
【0056】
この第二工程においては、設定した速度で所定時間保持した後、次の速度に設定される。この試験方法では、この設定した速度で保持する時間は通常、1時間から24時間の範囲で設定される。
【0057】
この試験方法では、第二工程においてショルダー部分44の温度を120℃以上とし、意図しない損傷を防止するとともに、BP損傷やBB損傷といった狙いの損傷が発生しやすくなる観点から、第二工程において、タイヤ4に付与される荷重は正規荷重よりも重く、タイヤ4の速度は段階的に上昇させられ、この速度の上昇幅は5km/h以上15km/h以下であり、第二工程の開始の時点におけるタイヤ4の速度と、第一工程におけるタイヤ4の速度との差は-10km/h以上10km/h以下であるのがさらに好ましい。
【0058】
以上の説明から明らかなように、本発明のタイヤ4の試験方法によれば、意図しない損傷の発生を防止しながら、損傷を生じさせたい部分で損傷を生じさせることができるので、タイヤ4の状態の正しい評価が可能である。
【0059】
本発明においては、トレッド18のショルダー部分44の温度が計測されるが、この温度の計測方法に特に制限はない。ベルト26の端とトレッド面28の端との中間部分に先端が位置するように熱電対をタイヤに差し込んで、ショルダー部分44の温度が計測されてもよい。また、ショルダー部分44の温度を計測しながら、供試タイヤ4の耐久性を評価してもよいが、供試タイヤ4と同じ仕様のタイヤを用いて、ショルダー部分の温度プロファイルを事前に把握しておき、この温度プロファイルが把握された走行条件で、供試タイヤ4の耐久性が評価されてもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
[実施例]
図1に示された試験機を用いて、図2に示されたタイヤ(更生タイヤ、サイズ=275/80R22.5)の耐久性について評価を行った。
【0062】
この実施例では、タイヤをリム(サイズ=22.5×7.50)に組み込み、空気を充填することでタイヤの内圧を900kPaに調整した。
【0063】
第一工程では、タイヤに付与される荷重を23.01kNに設定した。JATMA規格に基づくこのタイヤの正規荷重が33.83kNであるので、正規荷重に対する荷重の比率は68%であった。タイヤの速度を80km/hに設定して、ショルダー部分の温度が100℃となるように、このタイヤを走行させた。
【0064】
第二工程では、タイヤに付与される荷重を40.26kNに設定した。正規荷重に対する荷重の比率は119%であった。
【0065】
この第二工程では、タイヤの速度は段階的に上昇させられた。第二工程開始時の速度を80km/h、速度の保持時間を12時間、速度の上昇幅を10km/h、そして第二工程終了時の速度を140km/hに設定し、ショルダー部分の温度が130℃となるように、タイヤを走行させた。
【0066】
第二工程終了後、タイヤを解体し、損傷の有無、及び、損傷の発生個所を確認した。その結果が、下記の表1に示されている。なお、この表1には、トレッドと台タイヤとの界面での剥離(以下、界面剥離という。)が発生した場合が「Y」で、この界面剥離が発生しなかった場合が「N」で表されている。BP損傷又はBB損傷が発生した場合が「Y」で、このBP損傷又はBB損傷が発生しなかった場合が「N」で表されている。
【0067】
[比較例1-3]
第一工程及び第二工程におけるタイヤの内圧及びタイヤに付与される荷重を下記の表1に示される通りに調整して、第一工程及び第二工程のそれぞれにおいて、タイヤのショルダー部分の温度が下記の表1に示された温度となるようにタイヤを走行させた他は実施例と同様にして、タイヤの耐久性について評価を行った。その結果が、下記の表1に示されている。なお、第一工程及び第二工程におけるタイヤの速度は、実施例の第一工程及び第二工程におけるタイヤの速度と同様に設定されている。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示されているように、比較例1-2では、BP損傷(又はBB損傷)ではなく、界面剥離が発生した。比較例3では、界面剥離もBP損傷(又はBB損傷)も発生しなかった。これらに対し実施例では、界面剥離は発生せずに、BP損傷(又はBB損傷)が発生した。以上の結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明されたタイヤの試験方法は、種々のタイプのタイヤの耐久性評価にも適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
2・・・試験機
4・・・タイヤ(供試タイヤ)
6・・・駆動ドラム
8・・・支持装置
10・・・架台
12・・・リム
14・・・回転軸
16・・・周面
18・・・トレッド
20・・・サイドウォール
22・・・ビード
24・・・カーカス
26・・・ベルト
28・・・外周面(トレッド面)
30・・・主溝
32・・・コア
34・・・エイペックス
36・・・カーカスプライ
38、38A、38B、38C、38D・・・ベルトプライ
40・・・台タイヤ
42・・・界面
44・・・ショルダー部分

図1
図2