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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20220308BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220308BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20220308BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20220308BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20220308BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018015596
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019131073
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小寺 隆志
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/068711(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/109676(WO,A1)
【文献】特開2017-074874(JP,A)
【文献】特開平09-221052(JP,A)
【文献】特開2013-018354(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0015945(US,A1)
【文献】特開2013-151207(JP,A)
【文献】特開2014-151881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵させるための機構に付与される駆動力の発生源であるモータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する操舵制御装置であって、
舵輪の転舵動作に連動して回転する回転体の目標回転角を操舵状態に基づき演算する第1の演算部と、
前記目標回転角に前記回転体の実際の回転角を一致させるフィードバック制御を通じて前記指令値を演算する第2の演算部と、
前記目標回転角に基づき前記機構における慣性成分、粘性成分、およびばね成分の少なくとも一つを補償するべく前記指令値に反映させる補償量である補正角度を演算する補償制御部と、を備え、
前記補償制御部は、
前記第1の演算部により演算される前記目標回転角に基づき前記補正角度を演算する補償量演算部と、
前記補償量演算部により演算される前記補正角度を前記第1の演算部により演算される前記目標回転角に加算することにより前記指令値の演算に使用される最終的な目標回転角を演算する加算器と、を有し
前記補償量演算部は、前記機構の特性に応じて、前記慣性成分、前記粘性成分、および前記ばね成分を選択的に補償するように構成されている操舵制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵制御装置において、
前記モータは、前記機構を構成する転舵シャフトに駆動力を付与する転舵モータである操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が知られている。この操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。車両が走行しているとき、操舵装置の制御装置(操舵制御装置)は、反力モータを通じて操舵反力を発生させる反力制御を実行するとともに、転舵モータを通じて転舵輪を転舵させる転舵制御を実行する。
【0003】
たとえば特許文献1の操舵制御装置は、つぎのような転舵制御を実行する。すなわち、操舵制御装置は、操舵角に応じた制御量である定常ステア制御量、および操舵角速度に応じた制御量である微分ステア制御量を演算し、これら定常ステア制御量と微分ステア制御量とを加算した値を転舵輪の目標転舵角として設定する。操舵制御装置は、実際の転舵角を目標転舵角に一致させるように転舵モータへの給電を制御する。操舵制御装置は、車両の走行モード(ノーマルモード、スポーツモードなど)に応じて微分ステア制御量を演算する。これにより、操舵角速度に対する転舵角の位相を走行モードに適合させること、ひいては目標の転舵応答を得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-151881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、車両の高機能化あるいは高性能化に向けた様々な車載制御装置の開発が進められている。操舵制御装置についても、転舵応答を含めステアリングホイールの操作に対する転舵輪の動作について、更なる改善が検討されている。
【0006】
本発明の目的は、転舵輪に適切な転舵動作を行わせることができる操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得る操舵制御装置は、車両の転舵輪を転舵させるための機構に付与される駆動力の発生源であるモータを操舵状態に応じて演算される指令値に基づき制御する。操舵制御装置は、操舵状態に応じて演算される、転舵輪の転舵動作に連動して回転する回転体の目標回転角に基づき前記機構における慣性成分、粘性成分、およびばね成分の少なくとも一つを補償するべく前記指令値に反映させる補償量を演算する補償制御部を有している。
【0008】
転舵輪を転舵させるための機構毎に、転舵輪の転舵動作に対する慣性成分、粘性成分、およびばね成分の影響の大きさが異なることが考えられる。このため、従来の微分ステアリング制御では必ずしも転舵輪の転舵動作に対する各成分(慣性、粘性、ばね)の影響を抑えることができないおそれがある。
【0009】
この点、上記の操舵制御装置によれば、転舵輪を転舵させるための機構における慣性成分、粘性成分、およびばね成分の少なくとも一つを補償するための補償量が指令値に反映される。たとえば慣性成分が転舵輪の転舵動作に及ぼす影響は大きいものの、粘性成分およびばね成分は問題にならない機構の場合、慣性成分のみを補償すればよい。また、慣性成分およびばね成分が転舵輪の転舵動作に及ぼす影響は大きいものの、粘性成分は問題にならない機構の場合、慣性成分およびばね成分のみを補償すればよい。また、慣性成分、粘性成分、およびばね成分のすべてが転舵輪の転舵動作に影響を及ぼす機構の場合、慣性成分、粘性成分、およびばね成分のすべてを補償すればよい。このように、転舵輪を転舵させるための機構の特性に応じて、慣性成分、粘性成分およびばね成分を選択的に補償することにより、転舵輪の転舵動作に影響を及ぼす成分(慣性、粘性、ばね)を好適に抑えることができる。したがって、補償量が反映された指令値に基づきモータが制御されることにより、転舵輪は適切な転舵動作を行う。転舵輪の転舵応答性を確保することも可能である。
【0010】
上記の操舵制御装置において、前記回転体の目標回転角を操舵状態に基づき演算する第1の演算部と、前記目標回転角に前記回転体の実際の回転角を一致させるフィードバック制御を通じて前記指令値を演算する第2の演算部と、を備えていることが好ましい。この場合、前記補償制御部は、前記第1の演算部により演算される目標回転角に基づき前記補償量を演算する補償量演算部と、前記補償量演算部により演算される補償量を前記第1の演算部により演算される目標回転角に加算することにより前記指令値の演算に使用される最終的な目標回転角を演算する加算器と、を有していることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、補償制御部により演算される補償量は、第1の演算部により演算される目標回転角に加算されることにより指令値に反映される。
上記の操舵制御装置において、前記モータは、前記機構を構成する転舵シャフトに駆動力を付与する転舵モータであることが好ましい。
【0012】
この構成によるように、ステアリングホイールと離れている箇所である転舵シャフトに駆動力を付与する場合、上述のように慣性成分、粘性成分、およびばね成分の少なくとも一つを補償することが、転舵輪に適切な転舵動作を行わせるうえで効果的である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、転舵輪に適切な転舵動作を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】操舵制御装置の第1の実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ方式の操舵装置の構成図。
図2】第1の実施の形態における制御装置の制御ブロック図。
図3】第1の実施の形態における目標舵角演算部の制御ブロック図。
図4】第1の実施の形態における車両モデルの制御ブロック図。
図5】第1の実施の形態における補償制御部の制御ブロック図。
図6】第1の実施の形態における目標転舵角および実際の転舵角の時間に対する変化を示すグラフ。
図7】第2の実施の形態における補償制御部の要部を示す制御ブロック図。
図8】第3の実施の形態における制御装置の要部を示す制御ブロック図。
図9】第3の実施の形態における転舵角および転舵状態判定値の時間に対する変化を示すグラフ。
図10】操舵制御装置の第4の実施の形態が搭載される電動パワーステアリング装置の構成図。
図11】第4の実施の形態における操舵制御装置の制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1の実施の形態>
操舵制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第1の実施の形態を説明する。
【0016】
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。
【0017】
<操舵反力を発生させるための構成:反力ユニット>
また、操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0018】
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相(U,V,W)のブラシレスモータが採用される。反力モータ31(正確には、その回転軸)は、減速機構32を介して、ステアリングシャフト12に連結されている。減速機構32は、ステアリングシャフト12におけるステアリングホイール11と反対側の部分に設けられている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
【0019】
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θを検出する。反力モータ31の回転角θは、舵角(操舵角)θの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である舵角θとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θに基づき舵角θを求めることができる。
【0020】
トルクセンサ34は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わる操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32よりもステアリングホイール11側の部分に設けられている。
【0021】
<転舵力を発生させるための構成:転舵ユニット>
また、操舵装置10は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
【0022】
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41(正確には、その回転軸)は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は車幅方向(図中の左右方向)に沿って移動する。
【0023】
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14をハウジング(図示略)の内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる支持機構(図示略)によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0024】
なお、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14と共に転舵輪16,16を転舵させるための機構である転舵機構を構成する。
<制御装置>
また、操舵装置10は、制御装置50を有している。制御装置50は、各種のセンサの検出結果に基づき反力モータ31、および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501がある。車速センサ501は、車両に設けられて車両の走行速度である車速Vを検出する。
【0025】
制御装置50は、反力モータ31の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。制御装置50は操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力、操舵トルクTおよび車速Vに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。制御装置50は、実際の舵角θを目標操舵角に追従させるべく実行される舵角θのフィードバック制御を通じて舵角補正量を演算し、この演算される舵角補正量を目標操舵反力に加算することにより操舵反力指令値を演算する。制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
【0026】
制御装置50は、転舵モータ41の駆動制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。このピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。制御装置50は、前述した目標操舵角を使用して目標ピニオン角を演算する。そして制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
【0027】
<制御装置の詳細構成>
つぎに、制御装置50について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置50は、反力制御を実行する反力制御部50a、および転舵制御を実行する転舵制御部50bを有している。
【0028】
<反力制御部>
反力制御部50aは、目標操舵反力演算部51、目標舵角演算部52、舵角演算部53、舵角フィードバック制御部54、加算器55、および通電制御部56を有している。
【0029】
目標操舵反力演算部51は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力T を演算する。
目標舵角演算部52は、目標操舵反力T 、操舵トルクTおよび車速Vに基づきステアリングホイール11の目標舵角θを演算する。目標舵角演算部52は、目標操舵反力T および操舵トルクTの総和を入力トルクとするとき、この入力トルクに基づいて理想的な舵角を定める理想モデルを有している。この理想モデルは、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路が機械的に連結された操舵装置を前提として、入力トルクに応じた理想的な転舵角に対応する舵角(操舵角)を予め実験などによりモデル化したものである。目標舵角演算部52は、目標操舵反力T と操舵トルクTとを加算することにより入力トルクを求め、この入力トルクから理想モデルに基づいて目標舵角θ(目標操舵角)を演算する。
【0030】
舵角演算部53は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づきステアリングホイール11の実際の舵角θを演算する。舵角フィードバック制御部54は、実際の舵角θを目標舵角θに追従させるべく舵角θのフィードバック制御を通じて舵角補正量T を演算する。加算器55は、目標操舵反力T に舵角補正量T を加算することにより操舵反力指令値Tを算出する。
【0031】
通電制御部56は、操舵反力指令値Tに応じた電力を反力モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部56は、操舵反力指令値Tに基づき反力モータ31に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部56は、反力モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ57を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流値Iを検出する。この電流値Iは、反力モータ31に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部56は、電流指令値と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ31に対する給電を制御する(電流Iのフィードバック制御)。これにより、反力モータ31は操舵反力指令値Tに応じたトルクを発生する。運転者に対して路面反力に応じた適度な手応え感を与えることが可能である。
【0032】
<転舵制御部>
図2に示すように、転舵制御部50bは、ピニオン角演算部61、舵角比変更制御部62、補償制御部63、ピニオン角フィードバック制御部64、および通電制御部65を有している。
【0033】
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオンシャフト44の実際の回転角であるピニオン角θを演算する。前述したように、転舵モータ41とピニオンシャフト44とは減速機構42を介して連動する。このため、転舵モータ41の回転角θとピニオン角θとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して転舵モータ41の回転角θからピニオン角θを求めることができる。さらに、これも前述したように、ピニオンシャフト44は、転舵シャフト14に噛合されている。このため、ピニオン角θと転舵シャフト14の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θは、転舵輪16,16の転舵角θを反映する値である。
【0034】
舵角比変更制御部62は、車両の走行状態(たとえば車速V)に応じて舵角θに対する転舵角θの比である舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角を演算する。舵角比変更制御部62は、車速Vが遅くなるほど舵角θに対する転舵角θがより大きくなるように、また車速Vが速くなるほど舵角θに対する転舵角θがより小さくなるように、目標ピニオン角θ を演算する。舵角比変更制御部62は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、目標舵角θに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を目標舵角θに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角θ を演算する。
【0035】
補償制御部63は、たとえばステアリングホイール11の操作に対する転舵輪16,16の応答性(以下、「転舵応答性」という。)を向上させるための制御を実行する。補償制御部63は、舵角比変更制御部62により演算される目標ピニオン角θ に基づき、操舵装置10の転舵機構の慣性成分、粘性成分、およびばね成分を補償するための補償量を演算する。補償制御部63は、補償量を舵角比変更制御部62により演算される目標ピニオン角θ に加算することにより、最終的な目標ピニオン角θ を演算する。補償制御部63については、後に詳述する。
【0036】
ピニオン角フィードバック制御部64は、実際のピニオン角θを、補償制御部63により演算される最終的な目標ピニオン角θ に追従させるべくピニオン角θのフィードバック制御(PID制御)を通じてピニオン角指令値T を演算する。
【0037】
通電制御部65は、ピニオン角指令値T に応じた電力を転舵モータ41へ供給する。具体的には、通電制御部65は、ピニオン角指令値T に基づき転舵モータ41に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部65は、転舵モータ41に対する給電経路に設けられた電流センサ66を通じて、当該給電経路に生じる実際の電流値Iを検出する。この電流値Iは、転舵モータ41に供給される実際の電流の値である。そして通電制御部65は、電流指令値と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する(電流Iのフィードバック制御)。これにより、転舵モータ41はピニオン角指令値T に応じた角度だけ回転する。
【0038】
<目標舵角演算部>
つぎに、目標舵角演算部52について詳細に説明する。
前述したように、目標舵角演算部52は、目標操舵反力T および操舵トルクTの総和である入力トルクから理想モデルに基づいて目標舵角θを演算する。この理想モデルは、ステアリングシャフト12に印加されるトルクとしての入力トルクTin が、次式(A)で表されることを利用したモデルである。
【0039】
in =Jθ*′′+Cθ*′+Kθ …(A)
ただし、「J」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12の慣性モーメント、「C」は転舵シャフト14のハウジングに対する摩擦などに対応する粘性係数(摩擦係数)、「K」はステアリングホイール11およびステアリングシャフト12をそれぞればねとみなしたときのばね係数である。
【0040】
式(A)から分かるように、入力トルクTin は、目標舵角θの二階時間微分値θ*′′に慣性モーメントJを乗じた値、目標舵角θの一階時間微分値θ′に粘性係数Cを乗じた値、および目標舵角θにばね係数Kを乗じた値を加算することによって得られる。目標舵角演算部52は、式(A)に基づく理想モデルに従って目標舵角θを演算する。
【0041】
図3に示すように、式(A)に基づく理想モデルは、ステアリングモデル71、および車両モデル72に分けられる。
ステアリングモデル71は、ステアリングシャフト12および反力モータ31など、操舵装置10の各構成要素の特性に応じてチューニングされる。ステアリングモデル71は、加算器73、減算器74、慣性モデル75、第1の積分器76、第2の積分器77および粘性モデル78を有している。
【0042】
加算器73は、目標操舵反力T と操舵トルクTとを加算することにより入力トルクTin を演算する。
減算器74は、加算器73により算出される入力トルクTin から後述する粘性成分Tvi およびばね成分Tsp をそれぞれ減算することにより、最終的な入力トルクTin を演算する。
【0043】
慣性モデル75は、式(A)の慣性項に対応する慣性制御演算部として機能する。慣性モデル75は、減算器74により算出される最終的な入力トルクTin に慣性モーメントJの逆数を乗ずることにより、舵角加速度αを演算する。
【0044】
第1の積分器76は、慣性モデル75により算出される舵角加速度αを積分することにより、舵角速度ωを演算する。
第2の積分器77は、第1の積分器76により算出される舵角速度ωをさらに積分することにより、目標舵角θを演算する。目標舵角θは、ステアリングモデル71に基づくステアリングホイール11(ステアリングシャフト12)の理想的な回転角である。
【0045】
粘性モデル78は、式(A)の粘性項に対応する粘性制御演算部として機能する。粘性モデル78は、第1の積分器76により算出される舵角速度ωに粘性係数Cを乗ずることにより、入力トルクTin の粘性成分Tvi を演算する。
【0046】
車両モデル72は、操舵装置10が搭載される車両の特性に応じてチューニングされる。操舵特性に影響を与える車両側の特性は、たとえばサスペンションおよびホイールアライメントの仕様、および転舵輪16,16のグリップ力(摩擦力)などにより決まる。車両モデル72は、式(A)のばね項に対応するばね特性制御演算部として機能する。車両モデル72は、第2の積分器77により算出される目標舵角θにばね係数Kを乗ずることにより、入力トルクTin のばね成分Tsp (トルク)を演算する。
【0047】
このように構成した目標舵角演算部52によれば、ステアリングモデル71の慣性モーメントJおよび粘性係数C、ならびに車両モデル72のばね係数Kをそれぞれ調整することによって、入力トルクTin と目標舵角θとの関係を直接的にチューニングすること、ひいては所望の操舵特性を実現することができる。
【0048】
また、目標ピニオン角θ は、入力トルクTin からステアリングモデル71および車両モデル72に基づき演算される目標舵角θが使用されて演算される。そして、実際のピニオン角θが目標ピニオン角θ に一致するようにフィードバック制御される。前述したように、ピニオン角θと転舵輪16,16の転舵角θとの間には相関関係がある。このため、入力トルクTin に応じた転舵輪16,16の転舵動作もステアリングモデル71および車両モデル72により定まる。すなわち、車両の操舵感がステアリングモデル71および車両モデル72により決まる。したがって、ステアリングモデル71および車両モデル72を調整することにより所望の操舵感を実現することが可能となる。
【0049】
しかし、運転者の操舵方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)である操舵反力(ステアリングを通じて感じる手応え)は目標舵角θに応じたものにしかならない。すなわち、車両挙動あるいは路面状態(路面の滑りやすさなど)によって操舵反力が変わらない。このため、運転者は操舵反力を通じて車両挙動あるいは路面状態を把握しにくい。そこで本例では、こうした懸念を解消する観点に基づき、車両モデル72をつぎのように構成している。
【0050】
<車両モデル>
図4に示すように、車両モデル72は、仮想ラックエンド軸力演算部90、理想軸力演算部91、推定軸力演算部92、推定軸力演算部93、推定軸力演算部94、軸力配分演算部95および換算部96を有している。
【0051】
仮想ラックエンド軸力演算部90は、目標舵角θに基づき、ステアリングホイール11の操作範囲を仮想的に制限するための仮想ラックエンド軸力Fendを演算する。仮想ラックエンド軸力Fendは、反力モータ31に発生させる操舵方向と反対方向のトルク(操舵反力トルク)を急激に増大させる観点に基づき演算される。仮想ラックエンド軸力演算部90は、制御装置50の図示しない記憶装置に格納された仮想ラックエンドマップを使用して仮想ラックエンド軸力Fendを演算する。仮想ラックエンド軸力Fendは、目標舵角θが角度しきい値に達した以降に発生するとともに、目標舵角θの増加に対して急激に増大する。
【0052】
理想軸力演算部91は、目標ピニオン角θ に基づき、転舵輪16,16を通じて転舵シャフト14に作用する軸力の理想値である理想軸力F1を演算する。理想軸力演算部91は、制御装置50の図示しない記憶装置に格納された理想軸力マップを使用して理想軸力F1を演算する。理想軸力F1は、目標ピニオン角θ (あるいは目標ピニオン角θ に所定の換算係数を乗算することにより得られる目標転舵角)の絶対値が増大するほど、また車速Vが遅いほど、より大きな絶対値に設定される。なお、車速Vは必ずしも考慮しなくてもよい。
【0053】
推定軸力演算部92は、転舵モータ41の電流値Iに基づき、転舵シャフト14に作用する推定軸力F2(路面反力)を演算する。ここで、転舵モータ41の電流値Iは、路面状態(路面摩擦抵抗)に応じた外乱が転舵輪16に作用することに起因して目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの間の差が発生することによって変化する。すなわち、転舵モータ41の電流値Iには、転舵輪16,16に作用する実際の路面反力が反映される。このため、転舵モータ41の電流値Iに基づき路面状態の影響を反映した軸力を演算することが可能である。推定軸力F2は、車速Vに応じた係数であるゲインを転舵モータ41の電流値Iに乗算することにより求められる。
【0054】
推定軸力演算部93は、車両に設けられる横加速度センサ502を通じて検出される横加速度LAに基づき、転舵シャフト14に作用する推定軸力F3を演算する。推定軸力F3は、車速Vに応じた係数であるゲインを横加速度LAに乗算することにより求められる。横加速度LAには路面摩擦抵抗などの路面状態が反映される。このため、横加速度LAに基づき演算される推定軸力F3は実際の路面状態が反映されたものとなる。
【0055】
推定軸力演算部94は、車両に設けられるヨーレートセンサ503を通じて検出されるヨーレートYRに基づき、転舵シャフト14に作用する推定軸力F4を演算する。推定軸力F4は、ヨーレートYRを微分した値であるヨーレート微分値に、車速Vに応じた係数である車速ゲインを乗算することにより求められる。車速ゲインは、車速Vが速くなるほどより大きな値に設定される。ヨーレートYRには路面摩擦抵抗などの路面状態が反映される。このため、ヨーレートYRに基づき演算される推定軸力F4は実際の路面状態が反映されたものとなる。
【0056】
軸力配分演算部95は、仮想ラックエンド軸力Fend、理想軸力F1、推定軸力F2、推定軸力F3、および推定軸力F4に対してそれぞれ個別に設定される分配比率(ゲイン)を乗算した値を合算することにより、入力トルクTin に対するばね成分Tsp の演算に使用される最終的な軸力Fspを演算する。分配比率は、車両挙動、路面状態あるいは操舵状態が反映される各種の状態量に応じて設定される。
【0057】
換算部96は、軸力配分演算部95により演算される最終的な軸力Fspに基づき入力トルクTin に対するばね成分Tsp を演算(換算)する。この最終的な軸力Fspに基づくばね成分Tsp が入力トルクTin に反映されることによって、車両挙動あるいは路面状態に応じた操舵反力をステアリングホイール11に付与することが可能となる。
【0058】
<補償制御部>
つぎに、補償制御部63について詳細に説明する。
図5に示すように、補償制御部63は、4つの演算部101,102,103,104、2つの微分器105,106、および加算器107を有している。
【0059】
演算部101は、舵角比変更制御部62により演算される目標ピニオン角θ にゲインGを乗算することにより演算値θpaを演算する。ゲインGは、たとえば次式(B)に基づき求められる。
【0060】
=1/K …(B)
ただし、「K」は転舵機構のマウント剛性(車体に対する支持剛性)である。
微分器105は、演算部101により演算される演算値θpaを微分することにより演算値θpa′を演算する。微分器106は、微分器105により演算される演算値θpa をさらに微分することにより演算値θpa ′′を演算する。
【0061】
演算部102は、演算部101により演算される演算値θpaにゲインGを乗算することにより、転舵機構のばね成分(剛性成分)を補償するためのばね補償量(剛性補償量)θpbを演算する。ゲインGは、たとえば次式(C)に基づき求められる。
【0062】
=2・Cff・ξ …(C)
ただし、「Cff」はコーナリングフォース、「ξ」はトレールである。
演算部103は、微分器105により演算される演算値θpa にゲインGを乗算することにより、転舵機構の粘性成分を補償するための粘性補償量θpcを演算する。次式(D)で表されるように、ゲインGは転舵機構の粘性Cに基づき設定される。
【0063】
=C …(D)
演算部104は、微分器106により演算される演算値θpa ′′にゲインGを乗算することにより、転舵機構の慣性成分を補償するための慣性補償量θpdを演算する。次式(E)で表されるように、ゲインGは転舵機構の慣性Jに基づき設定される。
【0064】
=J …(E)
ばね補償量θpb、粘性補償量θpc、および慣性補償量θpdは、目標ピニオン角θ に対する補正角度である。
【0065】
加算器107は、舵角比変更制御部62により演算される目標ピニオン角θ に、ばね補償量θpb、粘性補償量θpcおよび慣性補償量θpdを合算することにより、最終的な目標ピニオン角θ を演算する。
【0066】
ピニオン角フィードバック制御部64は、この最終的な目標ピニオン角θ に基づくピニオン角θのフィードバック制御を通じてピニオン角指令値T を演算する。これにより、操舵装置10における転舵機構のマウント剛性およびコーナリングフォースなどによるばね成分、転舵機構(ピニオンシャフト44および転舵シャフト14など)の粘性およびキングピンの粘性などによる粘性成分、ならびに転舵機構の慣性および転舵輪16の慣性などによる慣性成分が補償される。
【0067】
ここで、目標ピニオン角θ (目標転舵角)、実際の転舵角θ、および比較例としての転舵角θwexの時間に対する変化の一例を説明する。転舵角θは、ピニオン角θに所定の換算係数を乗算することにより得ることができる。目標転舵角は、目標ピニオン角に所定の換算係数を乗算することにより得ることができる。比較例としての転舵角θwexは、制御装置50として補償制御部63を割愛した構成を採用した場合の転舵角である。
【0068】
図6のグラフに矢印P1で示すように、転舵機構のばね成分が補償されることにより、実際の転舵角θは、比較例と比べて目標ピニオン角θ (目標転舵角)に対して、より近似した値となる。転舵機構のばね成分は、ピニオン角θに対する転舵シャフト14の軸力をより減少させるように作用することに基づく。
【0069】
また、図6のグラフに矢印P2で示すように、転舵機構の粘性成分が補償されることにより、実際の転舵角θの位相は、比較例と比べて目標ピニオン角θ (目標転舵角)の位相に対して、より近似するように進められる。これは、転舵機構の粘性成分は、ピニオン角θに対する転舵シャフト14の軸力を増大させる方向に作用することに基づく。
【0070】
また、図6のグラフに矢印P3で示すように、転舵機構の慣性成分が補償されることにより、実際の転舵角θの時間に対する変化量(傾き)は、比較例と比べて目標ピニオン角θ (目標転舵角)の時間に対する変化量に対して、より近似した値となる。転舵機構の慣性成分は、ピニオン角θの増大に対する転舵シャフト14の軸力の変化度合いをより減少させるように作用することに基づく。
【0071】
このように、転舵角θは、比較例と比べて目標ピニオン角θ (目標転舵角)に対して、より一致するかたちで変化する。
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0072】
(1)舵角比変更制御部62により演算される目標ピニオン角θ に対して、ばね補償量θpb、粘性補償量θpc、および慣性補償量θpdが加算される。これにより、操舵装置10における転舵機構のマウント剛性およびコーナリングフォースなどによるばね成分、転舵機構の粘性およびキングピン粘性などによる粘性成分、ならびに転舵機構の慣性および転舵輪16の慣性などによる慣性成分が補償される。このため、転舵遅れが改善、すなわち転舵応答性が向上する。また、転舵輪16,16は、目標ピニオン角θ に応じて適切に転舵動作を行う。ステアリングホイール11と離れた箇所に設けられた転舵シャフト14に駆動力を付与する場合、上述のように慣性成分、粘性成分、およびばね成分を補償することが転舵輪16,16に適切な転舵動作を行わせるうえで効果的である。
【0073】
ここで、補償制御部63に代えて従来の微分ステアリング制御部を設けた場合について検討する。微分ステアリング制御部は、舵角比変更制御部62により演算される目標ピニオン角θ の変化速度(目標ピニオン角θ の微分値)にゲインを乗算することにより得られる補正角度を、舵角比変更制御部62により演算される目標ピニオン角θ に加算する、いわゆる微分ステアリング制御を実行する。この微分ステアリング制御の実行を通じて目標ピニオン角θ の位相が進められることにより、転舵遅れが改善される。
【0074】
しかし、微分ステアリング制御は、転舵機構(ピニオンシャフト44および転舵シャフト14など)の粘性成分を補償するものであるといえる。このため、先の図6のグラフに矢印P2で示されるように、目標ピニオン角θ の位相を進めることにより、たしかに転舵遅れに対する改善効果はあるかもしれない。しかし、従来の微分ステアリング制御では、図6のグラフに矢印P1および矢印P3で示されるような転舵機構のばね成分および慣性成分の補償を行うことができない。これらばね成分および慣性成分が、ステアリングホイール11の操作に対する転舵輪16,16の転舵応答性、あるいは適切な転舵動作に影響を及ぼすことも考えられる。この点、補償制御部63によれば、転舵機構の粘性成分のみならず、ばね成分および慣性成分も補償される。したがって、転舵輪16,16の転舵応答性を向上させることができる。また、転舵輪16,16は、目標ピニオン角θ に応じて適切に転舵動作を行う。
【0075】
<第1の実施の形態の変形例>
ちなみに、ゲインG,G,G,Gは、つぎのようにして求めてもよい。
まず、ゲインGはピニオンシャフト44から転舵輪16までの動力伝達経路におけるばね成分のうち少なくとも一以上を使用して求めればよい。すなわち、ゲインGは2つ以上のばね成分に基づき求めてもよい。たとえば、次式(B1)で表されるように、転舵機構のマウント剛性K、および転舵輪16(タイヤホイール)の剛性Kを使用してゲインGを演算してもよい。
【0076】
=1/(K+K) …(B1)
つぎに、ゲインGは、次式(C1)で表されるようにトレールξを使用せずに求めてもよいし、次式(C2)で表されるようにコーナリングフォースCffを使用せずに求めてもよい。
【0077】
=2・Cff …(C1)
=2・ξ ……(C2)
また、ゲインGは、次式(C3)で表されるように、コーナリングフォースCffおよびトレールξに加えて、車両の重心から転舵輪16の中心(前輪のタイヤ中心)までの距離Lを使用して求めてもよい。
【0078】
=2・Cff・ξ・L ……(C3)
なお、式(C),(C1),(C3)におけるコーナリングフォースCffは、タイヤ力検出装置(図示略)を通じて検出されるタイヤ横力から推定してもよいし、定数であってもよい。また、式(C),(C2),(C3)におけるトレールξは、タイヤ力検出装置(図示略)通じて検出されるタイヤ横力および転舵輪16の垂直軸周りのモーメントから推定してもよいし、定数であってもよい。
【0079】
つぎに、ゲインGはピニオンシャフト44から転舵輪16までの動力伝達経路における粘性成分のうち少なくとも一以上を使用して求めればよい。すなわち、ゲインGは2つ以上の粘性成分に基づき求めてもよい。たとえば、次式(D1)で表されるように、転舵機構の粘性C、転舵輪16におけるタイヤホイールの粘性Cww、および転舵輪16におけるタイヤの粘性Cwtを合算することによりゲインGを求めてもよい。
【0080】
=C+Cww+Cwt …(D1)
最後に、ゲインGはピニオンシャフト44から転舵輪16までの動力伝達経路における慣性成分のうち少なくとも一以上を使用して求めればよい。すなわち、ゲインGは2つ以上の慣性成分に基づき求めてもよい。たとえば、次式(E1)で表されるように、転舵機構の慣性J、転舵輪16におけるタイヤホイールの慣性JCww、および転舵輪16におけるタイヤの慣性Jwtを合算することによりゲインGを求めてもよい。
【0081】
=J+Jww+Jwt …(E1)
また、ゲインG,G,Gは、車速センサ501を通じて検出される車速V、あるいはタイヤ力検出装置(図示略)を通じて検出される荷重に応じて変化させてもよい。
【0082】
<第2の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には図1図5に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。
【0083】
転舵輪16,16が切り込み方向へ転舵する場合と、転舵輪16,16が切り返し方向へ転舵する場合とでは、転舵シャフト14における力の釣り合い方向、すなわち転舵輪16,16(タイヤ)に作用するトルクの符号が逆になる。このため、演算部102により演算されるばね補償量θpbの正負の符号は、転舵状態(転舵方向)に応じて反転させることが好ましい。
【0084】
ちなみに、転舵輪16,16の切り込み方向とは、ステアリングホイール11が切り込み方向へ操作された場合における転舵輪16,16の転舵方向をいう。また、転舵輪16,16の切り返し方向とは、ステアリングホイール11が切り返し方向へ操作された場合における転舵輪16,16の転舵方向をいう。
【0085】
転舵輪16,16の転舵状態は、たとえば次式(F)で表されるように、ピニオントルクTとピニオン角速度(転舵速度)ωとを乗算した値である判定値Hに基づき判定することができる。ピニオントルクTは、転舵モータ41の電流値Iに基づき得られる。
【0086】
=T・ω …(F)
たとえば判定値Hが正の値である場合、転舵輪16は切り込み方向へ向けて転舵している切り込み動作状態である。また、判定値Hが負の値ある場合、転舵輪16は切り返し方向へ向けて転舵している切り返し動作状態である。また、判定値Hが「0」である場合、転舵輪16は転舵角θが一定値に維持されている状態である。このことを利用して、本実施の形態では、補償制御部63をつぎのように構成している。
【0087】
図7に示すように、補償制御部63は図5に示される構成に加えて、さらに微分器111、乗算器112、ゲイン演算部113、および乗算器114を有している。
微分器111は、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θを微分することにより、ピニオン角速度ωを演算する。
【0088】
乗算器112は、ピニオントルクTとピニオン角速度ωとを乗算することにより転舵状態の判定値Hを演算する。
ゲイン演算部113は、ゲインマップMを使用して判定値Hに応じたゲインGを演算する。ゲインマップMは、判定値HとゲインGとの関係を規定するマップであって、判定値Hが正の値である場合には正の値のゲインGが、判定値Hが負の値である場合には負の値のゲインGが演算されるように設定されている。ちなみに、ゲインGの絶対値は「1」である。
【0089】
乗算器114は、演算部102により演算されるばね補償量θpbとゲインGとを乗算することにより最終的なばね補償量θpbを演算する。
判定値Hが正の値(「1」)であるとき、すなわち転舵輪16が切り込み動作状態であるとき、最終的なばね補償量θpbは正の値となる。判定値Hが負の値(「-1」)であるとき、すなわち転舵輪16が切り返し動作状態であるとき、最終的なばね補償量θpbは負の値となる。
【0090】
<第2の実施の形態の効果>
したがって、第2の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(2)演算部102により演算されるばね補償量θpbの正負の符号を判定値Hに基づき反転させることによって、転舵輪16が切り込み方向へ転舵する場合および転舵輪16が切り返し方向へ転舵する場合の双方において、転舵機構のばね成分を適切に補償することができる。
【0091】
<第2の実施の形態の変形例>
ちなみに、判定値Hは、次式(F1),(F2),(F3)のうちいずれか一に基づき演算してもよい。
【0092】
=T・ω・G+dT・θ・G…(F1)
ただし、「dT」はピニオントルクTの微分値、「θ」はピニオン角である。また、「G」,「G」は所定のゲインである。
【0093】
=T・ωs …(F2)
ただし、「T」は操舵トルク、「ωs」は操舵速度である。操舵速度は、舵角θを微分することにより得られる。
【0094】
=T・ωs・G+dT・θ・G…(F3)
なお、本実施の形態では、ゲインGを演算部102により演算されるばね補償量θpbに乗算することにより最終的なばね補償量θpbの符号を決定したが、演算部102がゲインGに基づきゲインGの正負を反転するようにしてもよい。
【0095】
<第3の実施の形態>
つぎに、操舵制御装置の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には図1図5に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。
【0096】
本実施の形態では、操舵装置10における転舵側の様々な情報を使用して転舵状態を判定する。転舵状態を示す判定値Hは、次式(G1)または次式(G2)に基づき演算することができる。
【0097】
=X・X …(G1)
ただし、「X」には、下記(a)~(a13)のいずれか一の状態量、あるいは下記(a)~(a13)のいずれか二以上の状態量の積が代入される。「X」には、下記(a)~(a13)の微分値のいずれか一つの状態量、あるいは下記(a)~(a13)の微分値のいずれか二以上の状態量の積が代入される。下記(a)~(a13)の状態量におけるすべての組み合わせが有効である。
【0098】
=Y+Y …(G2)
ただし、「Y」には、下記(a)~(a13)のいずれか一の状態量と所定のゲインとの積、あるいは下記(a)~(a13)のいずれか二以上の状態量にそれぞれ所定のゲインを乗算した値の積が代入される。「Y」には、下記(a)~(a13)のいずれか一の状態量の微分値と所定のゲインとの積、あるいは下記(a)~(a13)のいずれか二以上の状態量の微分値にそれぞれ所定のゲインを乗算した値の積が代入される。下記(a)~(a13)の状態量におけるすべての組み合わせが有効である。
【0099】
(a)目標ピニオン角θ (あるいは目標転舵角)。
(a)ピニオン角θ(あるいは転舵角)
(a)ピニオン角指令値T (あるいは電流指令値)
(a)転舵モータ41の電流値I
(a)推定軸力F2
(a)横加速度LA
(a)推定軸力F3
(a)ヨーレートYR
(a)推定軸力F4
(a10)横加速度LAの微分値とヨーレートYRの微分値に基づく推定軸力
(a11)理想軸力F1
(a12)転舵輪16の横力
(a13)転舵輪16のセルフアライニングトルク(検出値または推定値)
ここで、操舵装置10の制御装置50は、操舵状態に応じて反力制御および転舵制御を実行するところ、製品仕様などによっては転舵状態を考慮して反力制御および転舵制御を実行することが要求される。
【0100】
そこで、本実施の形態では、転舵状態(切り込み動作状態、切り返し動作状態)に応じた判定値Hを使用して、反力制御および転舵制御を実行する際の制御パラメータを演算する。
【0101】
ここでは、目標操舵反力演算部51により演算される制御パラメータである目標操舵反力T に転舵状態を反映させる場合について説明する。ただし、判定値Hとしては、(a)の状態量である転舵モータ41の電流値I、および(a)の状態量であるピニオン角θの微分値(ピニオン角速度ω)を先の式(G1)に適用して得られるものを使用する。
【0102】
この場合、ピニオン角θおよび判定値Hの時間に対する変化の一例は、図9のグラフに示される通りである。
図9のグラフに矢印P4で示すように、転舵輪16が切り込み動作状態であるとき、すなわちピニオン角θの転舵中立位置に対応する0度を基準とする絶対値が大きくなるとき、判定値Hは正の値となる。また、図9のグラフに矢印P5で示すように、転舵輪16が切り返し動作状態であるとき、すなわちピニオン角θが0度に向かっていくとき、判定値Hは負の値となる。ピニオン角θが(転舵輪16,16の転舵位置)が保持されているとき、あるいはピニオン角θが車両の直進状態に対応する角度であるとき、判定値Hは「0」となる。
【0103】
さて、制御装置50の構成を説明する。
図8に示すように、制御装置50(反力制御部50a)は、微分器121、乗算器122、ゲイン演算部123、および乗算器124を有している。
【0104】
微分器121は、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θを微分することにより、ピニオン角速度ωを演算する。
乗算器122は、転舵モータ41の電流値Iとピニオン角速度ωとを乗算することにより転舵状態(転舵方向)の判定値Hを演算する。
【0105】
ゲイン演算部123は、ゲインマップMG2を使用して判定値Hに応じたゲインGh2を演算する。ゲインマップMG2は、判定値HとゲインGh2との関係を規定するマップであって、判定値Hが正の値である場合にはゲインGh21が、判定値Hが負の値である場合にはゲインGh22が演算されるように設定されている。ゲインGh21,Gh22はいずれも正の値であって、ゲインGh21はゲインGh22よりも小さい値に設定されている。
【0106】
乗算器124は、目標操舵反力演算部51により演算される目標操舵反力T とゲインGh2とを乗算することにより最終的な目標操舵反力T を演算する。
制御装置50は、乗算器124により演算される最終的な目標操舵反力T を使用することにより、転舵状態に応じた適切な反力制御および転舵制御を実行することができる。
【0107】
<第3の実施の形態の効果>
したがって、第3の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(3)制御装置50は、転舵状態(転舵輪16,16が切り込み動作状態であるのか切り返し動作状態であるのか)を推定し、この推定される転舵状態に応じたゲインGh2を制御パラメータ(ここでは、目標操舵反力T )に乗算する。制御装置50は、転舵状態に応じた制御パラメータを使用することにより、転舵状態に応じた適切な転舵制御、および転舵状態に応じた適切な反力制御を実行することができる。また、転舵状態によらず一律に同じ制御パラメータを使用して転舵制御および反力制御を実行する場合と異なり、転舵制御および反力制御の双方の制御性能を改善することができる。
【0108】
ちなみに、判定値Hを演算するための構成(乗算器122に相当する構成)、およびゲインGh2を演算するための構成(ゲイン演算部123に相当する構成)は、製品仕様などに応じて、制御装置50における少なくとも一の演算部または制御部に対応して設ければよい。すなわち、判定値Hを演算するための構成、およびゲインGh2を演算するための構成は、制御装置50における目標操舵反力演算部51以外の1つの演算部または制御部に設けてもよいし、制御装置50のすべての演算部および制御部(図2の例では全部で10個)、またはすべてではない複数の演算部および制御部に対応して設けてもよい。
【0109】
<第4の実施の形態>
つぎに、車両用制御装置を電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」と略記する。)に適用した第4の実施の形態を説明する。なお、第1の実施の形態と同様の部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0110】
図10に示すように、EPS150は、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路として機能するステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の往復直線運動は、転舵シャフト14の両端にそれぞれ連結されたタイロッド15を介して左右の転舵輪16,16に伝達される。
【0111】
また、EPS150は、操舵補助力(アシスト力)を生成する構成として、アシストモータ151、減速機構152、トルクセンサ34、回転角センサ153および制御装置154を有している。回転角センサ153はアシストモータ151に設けられて、その回転角θを検出する。
【0112】
アシストモータ151は、操舵補助力の発生源であって、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。アシストモータ151は、減速機構152を介してピニオンシャフト44に連結されている。アシストモータ151の回転は減速機構152によって減速されて、当該減速された回転力が操舵補助力としてピニオンシャフト44から転舵シャフト14を介してピニオンシャフト13に伝達される。
【0113】
制御装置154は、アシストモータ151に対する通電制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵補助力を発生させるアシスト制御を実行する。制御装置154は、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクT、車速センサ501を通じて検出される車速V、回転角センサ153を通じて検出される回転角θに基づき、アシストモータ151に対する給電を制御する。
【0114】
図11に示すように、制御装置154は、ピニオン角演算部161、基本アシスト成分演算部162、目標ピニオン角演算部163、ピニオン角フィードバック制御部(ピニオン角F/B制御部)164、加算器165、および通電制御部166を備えている。
【0115】
ピニオン角演算部161は、アシストモータ151の回転角θを取り込み、この取り込まれる回転角θに基づきピニオンシャフト44の回転角であるピニオン角θを演算する。
【0116】
基本アシスト成分演算部162は、操舵トルクTおよび車速Vに基づいて基本アシスト成分Ta1 を演算する。基本アシスト成分演算部162は、操舵トルクTと基本アシスト成分Ta1 との関係を車速Vに応じて規定する三次元マップを使用して、基本アシスト成分Ta1 を演算する。基本アシスト成分演算部162は、操舵トルクTの絶対値が大きくなるほど、また車速Vが遅くなるほど、基本アシスト成分Ta1 の絶対値をより大きな値に設定する。
【0117】
目標ピニオン角演算部163は、基本アシスト成分演算部162により演算される基本アシスト成分Ta1 、および操舵トルクTを取り込む。目標ピニオン角演算部163は、基本アシスト成分Ta1 および操舵トルクTの総和を入力トルクとするとき、入力トルクに基づいて理想的なピニオン角を定める理想モデルを有している。理想モデルは、入力トルクに応じた理想的な転舵角に対応するピニオン角を予め実験などによりモデル化したものである。目標ピニオン角演算部163は、基本アシスト成分Ta1 と操舵トルクTとを加算して入力トルクを求め、この求められる入力トルクから理想モデルに基づいて目標ピニオン角θ を演算する。なお、目標ピニオン角演算部163は、目標ピニオン角θ を演算するに際しては車速V、およびアシストモータ151に対する給電経路に設けられた電流センサ167を通じて検出される電流値Iを加味する。この電流値Iは、アシストモータ151に供給される実際の電流の値である。
【0118】
ピニオン角フィードバック制御部164は、目標ピニオン角演算部163により算出される目標ピニオン角θ およびピニオン角演算部161により算出される実際のピニオン角θをそれぞれ取り込む。ピニオン角フィードバック制御部164は、実際のピニオン角θが目標ピニオン角θ に追従するように、ピニオン角のフィードバック制御としてPID(比例、積分、微分)制御を行う。すなわち、ピニオン角フィードバック制御部164は、目標ピニオン角θ と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように基本アシスト成分Ta1 の補正成分Ta2 を演算する。
【0119】
加算器165は、基本アシスト成分Ta1 に補正成分Ta2 を加算することによりアシスト指令値T を演算する。アシスト指令値T は、アシストモータ151に発生させるべき回転力(アシストトルク)を示す指令値である。
【0120】
通電制御部166は、アシスト指令値T に応じた電力をアシストモータ151へ供給する。具体的には、通電制御部166は、アシスト指令値T に基づきアシストモータ151に対する電流指令値を演算する。また、通電制御部166は電流センサ167を通じて検出される電流値Iを取り込む。そして通電制御部166は、電流指令値と実際の電流値Iとの偏差を求め、当該偏差を無くすようにアシストモータ151に対する給電を制御する。これにより、アシストモータ151はアシスト指令値T に応じたトルクを発生する。その結果、操舵状態に応じた操舵アシストが行われる。
【0121】
このEPS150によれば、入力トルク(基本アシスト成分Ta1 および操舵トルクTの総和)から理想モデルに基づいて目標ピニオン角θ が設定され、実際のピニオン角θが目標ピニオン角θ に一致するようにフィードバック制御される。前述したように、ピニオン角θと転舵輪16,16の転舵角θとの間には相関関係がある。このため、入力トルクに応じた転舵輪16,16の転舵動作も理想モデルにより定まる。すなわち、車両の操舵感が理想モデルにより決まる。したがって、理想モデルの調整により所望の操舵感を実現することが可能となる。
【0122】
また、実際の転舵角θが、目標ピニオン角θ に応じた転舵角θに維持される。このため、路面状態あるいはブレーキングなどの外乱に起因して発生する逆入力振動の抑制効果も得られる。すなわち、転舵輪16,16を介してステアリングシャフト12などの操舵機構に振動が伝達される場合であれ、ピニオン角θが目標ピニオン角θ となるように補正成分Ta2 が調節される。このため、実際の転舵角θは、理想モデルにより規定される目標ピニオン角θ に応じた転舵角θに維持される。結果的にみれば、逆入力振動を打ち消す方向へ操舵補助が行われることにより、逆入力振動がステアリングホイール11に伝わることが抑制される。
【0123】
しかし、運転者の操舵方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)である操舵反力(ステアリングを通じて感じる手応え)は目標ピニオン角θ に応じたものにしかならない。すなわち、たとえば乾燥路および低摩擦路などの路面状態によっては操舵反力が変わらないため、運転者は手応えとして路面状態を把握しにくい。
【0124】
そこで本例では、たとえば先の第1の実施の形態における目標舵角演算部52の演算機能を目標ピニオン角演算部163に持たせている。
目標ピニオン角演算部163は、先の図3に示される目標舵角演算部52と同様の機能的な構成を有している。先の目標舵角演算部52が目標操舵反力T を取り込むのに対し、本例の目標ピニオン角演算部163は、基本アシスト成分Ta1 を取り込む。また、先の目標舵角演算部52が転舵モータ41に供給される電流の電流値Iを取り込むのに対し、本例の目標ピニオン角演算部163は、アシストモータ151に供給される電流の電流値Iを取り込む。目標ピニオン角演算部163が操舵トルクTおよび車速Vを取り込むことについては、先の目標舵角演算部52と同じである。また、先の目標舵角演算部52が目標舵角θを演算することに対し、本例の目標ピニオン角演算部163は目標ピニオン角θ を演算する。取り込む信号の一部、および生成する信号が異なるだけであって、目標ピニオン角演算部163の内部的な演算処理の内容は、先の目標舵角演算部52と同じである。
【0125】
ここで、図10に二点鎖線で示されるように、EPS150にはVGR機構(Variable-Gear-Ratio/可変ギヤ比機構)170が設けられることもある。VGR機構170は、操舵性の向上を目的として、ステアリングシャフト12(ステアリングホイール11とトルクセンサ34との間の部分)にVGRモータ171を設け、当該VGRモータ171を使用して舵角θsと転舵角θとの比率(ギヤ比)を変化させる。VGRモータ171のステータ171aは、ステアリングシャフト12のステアリングホイール11側の部分である入力シャフト12aに連結されている。VGRモータ171のロータ171bは、ステアリングシャフト12におけるピニオンシャフト13側の部分である出力シャフト12bに連結されている。
【0126】
ステアリングホイール11を回転させるとき、VGRモータ171のステータ171aはステアリングホイール11と同じ量だけ回転する。また、制御装置154は、ステアリングホイール11の回転および車速Vに応じてVGRモータ171のロータ171bを回転させる。このため、入力シャフト12aに対する出力シャフト12bの相対的な回転角θsgは、次式(H)で表される。
【0127】
θsg=θ …(H)
ただし、「θ」は操舵角、「θ」はVGRモータの回転角である。
したがって、VGRモータ171の回転角θを制御することにより、任意のギヤ比を実現することができる。
【0128】
図11に括弧書きで示されるように、目標舵角演算部としての目標ピニオン角演算部163は、舵角θsおよびVGRモータ171の回転角θの合計値、すなわち入力シャフト12aに対する出力シャフト12bの相対的な回転角θsgの目標値を演算する。また、当該目標舵角演算部としての目標ピニオン角演算部163は、回転角θsgの目標値を演算するとき、操舵速度ωsおよびVGRモータ171の回転速度の合計値を使用する。舵角フィードバック制御部としてのピニオン角フィードバック制御部164は、回転角θsgの目標値と実際の回転角θsgとの偏差を求め、当該偏差を無くすように基本アシスト成分Ta1 の補正成分Ta2 を演算する。
【0129】
VGR機構170を有するEPS150の制御装置154には、VGRモータ171を制御する部分として、舵角比変更制御部および微分ステアリング制御部が設けられる。舵角比変更制御部は、たとえば舵角θ(操舵角)および車速Vに基づきVGRモータ171の目標回転角を演算する。微分ステアリング制御部は、操舵速度ωおよび車速Vに基づきVGRモータ171の目標回転角を補正することにより、最終的な目標回転角を演算する。VGRモータ171の実際の回転角を目標回転角に一致させるフィードバック制御を通じて、VGRモータ171への給電が制御される。
【0130】
ここで、VGRモータ171を制御する部分としての微分ステアリング制御部に代えて、先の図5または図7に示される補償制御部63に準じた演算機能を持たせてもよい。また、VGR機構170を有するかどうかにかかわらず、先の図8に示される制御装置50の演算機能(転舵状態を示す判定値Hを演算する部分である乗算器122、およびゲインGh2を演算する部分であるゲイン演算部123)をEPS150の制御装置154に持たせてもよい。このようにすれば、EPS150の制御装置154として、先の第1~第3の実施の形態に準じた効果を得ることができる。
【0131】
なお、第4の実施の形態はつぎのように変更して実施してもよい。
すなわち、本実施の形態では、転舵シャフト14に操舵補助力を付与するEPS(電動パワーステアリング装置)150を例に挙げたが、ステアリングシャフトに操舵補助力を付与するタイプのEPSであってもよい。具体的には、つぎの通りである。
【0132】
図10に二点鎖線で示すように、アシストモータ151は、減速機構152を介して転舵シャフト14ではなくステアリングシャフト12に連結されている。ピニオンシャフト44は割愛することができる。この場合、制御装置154は、ピニオン角θのフィードバック制御ではなく、舵角θsのフィードバック制御を実行する。
【0133】
すなわち、図11に括弧書きで示されるように、ピニオン角演算部161は、アシストモータ151の電流値Iに基づき舵角θsを演算する舵角演算部として機能する。目標ピニオン角演算部163は、操舵トルクT、車速V、基本アシスト成分Ta1 および電流値Iに基づき舵角θsの目標値である目標舵角を演算する目標舵角演算部として機能する。目標舵角演算部は、先の図3に示される目標舵角演算部52と基本的には同様の構成を有している。ただし、制御装置154に設けられる微分器79は舵角θsを微分することにより操舵速度ωを演算する。ピニオン角フィードバック制御部164は、目標舵角と実際の舵角θsとの偏差を求め、当該偏差を無くすように基本アシスト成分Ta1 の補正成分Ta2 を演算する舵角フィードバック制御部として機能する。
【0134】
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1~第3の実施の形態における目標操舵反力演算部51は、操舵トルクTおよび車速Vに基づいて目標操舵反力T を求めるようにしたが、操舵トルクTのみに基づいて目標操舵反力T を求めるようにしてもよい。また、第4の実施の形態における基本アシスト成分演算部162は、操舵トルクTおよび車速Vに基づいて基本アシスト成分Ta1 を求めるようにしたが、操舵トルクTのみに基づいて基本アシスト成分Ta1 を求めるようにしてもよい。
【0135】
・第1~第4の実施の形態において、車両モデル72(図4参照)は、3つの推定軸力演算部92,93,94のうち少なくとも一を有していればよい。推定軸力演算部92,93,94のいずれか一により演算される推定軸力が入力トルクTin に反映されることにより、操舵反力に車両挙動あるいは路面状態を反映させることができる。
【0136】
・第1~第3の実施の形態において、操舵装置10にクラッチを設けてもよい。この場合、図1に二点鎖線で示すように、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト13とをクラッチ21を介して連結する。クラッチ21としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。制御装置50は、クラッチ21の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ21が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路が機械的に切断される。クラッチ21が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に連結される。
【0137】
・第1~第3の実施の形態では、転舵機構のばね成分、粘性成分、および慣性成分のすべてを補償するようにしたが、製品仕様などに応じて、ばね成分、粘性成分および慣性成分の少なくとも一つを補償するようにしてもよい。たとえば慣性成分が転舵輪16,16の転舵動作に及ぼす影響は大きいものの、粘性成分およびばね成分は問題にならない場合、慣性成分のみを補償すればよい。また、慣性成分およびばね成分が転舵輪16,16の転舵動作に及ぼす影響は大きいものの、粘性成分は問題にならない場合、慣性成分およびばね成分のみを補償すればよい。このように、転舵機構の特性に応じて、慣性成分、粘性成分およびばね成分を選択的に補償することにより、転舵輪16,16の転舵動作に影響を及ぼす成分(慣性、粘性、ばね)を好適に抑えることができる。転舵機構ごとの特性に柔軟に対応することが可能である。
【0138】
<他の技術的な思想>
つぎに、各実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)転舵輪の転舵状態(切り込み動作/切り返し動作)に応じてゲインを演算し、当該演算されるゲインを補償制御部により演算される補償量に乗算すること。
【0139】
(ロ)転舵輪の転舵状態に応じてゲインを演算し、当該演算されるゲインを前記指令値の演算過程で使用される制御パラメータに乗算すること。
【符号の説明】
【0140】
10,150…操舵装置、12…ステアリングシャフト、14…転舵機構を構成する転舵シャフト、16…転舵輪、41…転舵モータ、44…転舵機構を構成するピニオンシャフト(回転体)、50,154…制御装置(操舵制御装置)、52…第1の演算部を構成する目標舵角演算部、62…第1の演算部を構成する舵角比変更制御部、63…補償制御部、64…ピニオン角フィードバック制御部(第2の演算部)、102,103,104…演算部(補償量演算部)、107…加算器、151…アシストモータ、163…第1の演算部を構成する目標ピニオン角演算部、T …ピニオン角指令値、T …アシスト指令値、θp…ピニオン角、θ…目標舵角(目標回転角)、θ …目標ピニオン角(目標回転角)、θpb…ばね補償量、θpc…粘性補償量、θpd…慣性補償量。
図1
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