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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】電解液用添加剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20220308BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220308BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20220308BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20220308BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01G11/64
H01G11/60
C07F7/08 F
C07F7/08 J
C07F7/08 W
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018017255
(22)【出願日】2018-02-02
(65)【公開番号】P2019133895
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 現
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-125950(JP,A)
【文献】特開平10-172610(JP,A)
【文献】Electrochimica Acta,2015年,173,687-697
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M 6/00- 6/22
H01G11/00-11/86
C07F 7/00- 7/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される、トリアルキルシリル基を分子中に有する中性化合物からなる電解液用添加剤。
【化1】
〔式中、R1は、互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表し、R2は、互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表し、Aは、炭素数1~10のアルキレン基を表し、Xは、下記式(2)~(4)で表されるいずれかの連結基から選ばれる1種を表し、mは、2または3の整数を、nは、0の整数を表すが、m+nは、Xが、下記式(2)で表される連結基または下記式(3)で表される連結基の場合は2であり、Xが下記式(4)で表される連結基の場合は3である。
【化2】
(式(3)中、R3は、炭素数1~8のアルキル基を表す。)〕
【請求項2】
前記R 1 が、互いに独立して炭素数1~4のアルキル基を表し、前記Xが、前記式(2)および(3)で表されるいずれかの連結基から選ばれる1種を表し、前記mが、2である請求項1記載の電解液用添加剤。
【請求項3】
前記R1が、全てメチル基である請求項1または2記載の電解液用添加剤。
【請求項4】
前記Aが、炭素数2~5のアルキレン基である請求項1~3のいずれか1項記載の電解液用添加剤。
【請求項5】
下記式(1B)および(1D)で表されるいずれかの化合物からなる請求項1記載の電解液用添加剤。
【化3】
(式中、Meは、メチル基を意味する。)
【請求項6】
電解液の耐電圧向上剤である請求項1~5のいずれか1項記載の電解液用添加剤。
【請求項7】
電解液用溶媒である請求項1~5のいずれか1項記載の電解液用添加剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の電解液用添加剤と、有機溶媒と、電解質塩とを含む電解液。
【請求項9】
前記有機溶媒が、カーボネート類を含む請求項8記載の電解液。
【請求項10】
前記有機溶媒が、2種以上のカーボネート類を含む請求項9記載の電解液。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項記載の電解液用添加剤と、電解質塩とを含み、有機溶媒を含まない電解液。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか1項記載の電解液を用いて構成される蓄電デバイス。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項記載の電解液用添加剤を用いて構成される蓄電デバイス。
【請求項14】
二次電池または電気二重層キャパシタである請求項12または13記載の蓄電デバイス。
【請求項15】
請求項1~7のいずれか1項記載の電解液用添加剤を、溶媒および電解質塩を含む電解液に加え、電解液の耐電圧を向上させる方法。
【請求項16】
下記式(1B)で表される化合物。
【化4】
(式中、Meは、メチル基を意味する。)
【請求項17】
下記式(1D)で表される化合物。
【化5】
(式中、Meは、メチル基を意味する。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液用添加剤に関し、さらに詳述すると、トリアルキルシリル基を有する中性分子からなる電解液用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット機器などの携帯電子機器の普及がめざましく、これに伴って、それらの機器の電源として用いられる、充電により繰り返し使用できる二次電池等の蓄電デバイスの需要が大きく伸びるとともに、その高容量化、高エネルギー密度化の要望がますます高まりつつある。
これらの蓄電デバイスでは、一般に、非プロトン性の有機溶媒に、イオン導電性塩を溶解させた溶液が電解液として使用されている。
【0003】
ところで、高電圧作動を目指す蓄電デバイスでは、電解液の耐電圧がデバイスの上限電位を決める要因となるが、高電圧下では、電解液を構成する有機溶媒やイオン導電性塩が高電圧にさらされ、電極表面で電気的に分解される場合があり、より耐電圧性に優れた電解液が求められる。
この電解液の耐電圧を向上する技術として、電解液中に各種添加剤を加える手法が報告されている(例えば、特許文献1~4参照)が、耐電圧向上効果や内部抵抗上昇抑制という点でさらなる改良の余地がある。
また、イオン液体は耐電圧が高いことが知られているものの、一般的な有機溶媒と比較して低温から常温域でのイオン導電性という点で問題があり、低温で高電圧作動するデバイスには不向きである。
【0004】
これらの点に鑑み、本出願人は、ケイ素含有スルホン酸アニオンを有する化合物を、既存の電解液に添加することで、電解液の耐電圧が向上し、この電解液を用いることで、寿命性能の良好な二次電池やキャパシタ等の蓄電デバイスが得られることを既に報告している(特許文献5)。
しかし、特許文献5に記載されたケイ素含有スルホン酸アニオンを有する化合物は、LiPF6系の電解質を含む電解液に添加すると、速やかにPF6アニオンと塩交換を起こし、使用する電解液溶媒に難溶性のLi塩に変換されて析出する場合があることから、リチウムイオン電池の電解液への適用は困難な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-123867号公報
【文献】特開2007-165125号公報
【文献】特開2010-205870号公報
【文献】特開2012-038900号公報
【文献】特開2017-62955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、電解液の耐電圧を向上し得、リチウムイオン二次電池の電解液にも適用可能な新たな電解液用添加剤、および当該添加剤に適したトリアルキルシリル基を分子中に有する所定の中性分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、少なくとも1つのトリアルキルシリル基を分子中に有する所定の中性分子を、既存の電解液に添加したり、電解液そのものとして用いたりすることで、耐電圧が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 式(1)で表される、トリアルキルシリル基を分子中に有する中性化合物からなる電解液用添加剤、
【化1】
〔式中、R1は、互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表し、R2は、互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表し、Aは、炭素数1~10のアルキレン基を表し、Xは、単結合、メチレン基および下記式(2)~(4)で表されるいずれかの連結基から選ばれる1種を表し、mは、1~3の整数を、nは、0~2の整数を表すが、m+nは、Xが単結合、メチレン基、下記式(2)で表される連結基または下記式(3)で表される連結基の場合は2であり、Xが下記式(4)で表される連結基の場合は3である。
【化2】
(式(3)中、R3は、炭素数1~8のアルキル基を表す。)〕
2. 前記mが、2または3であり、前記nが、0である1の電解液用添加剤、
3. 前記R1が、全てメチル基である1または2の電解液用添加剤、
4. 前記Aが、炭素数2~5のアルキレン基である1~3のいずれかの電解液用添加剤、
5. 下記式(1A)~(1D)で表されるいずれかの化合物からなる1の電解液用添加剤、
【化3】
(式中、Meは、メチル基を意味する。)
6. 電解液の耐電圧向上剤である1~5のいずれかの電解液用添加剤、
7. 電解液用溶媒である1~5のいずれかの電解液用添加剤、
8. 1~7のいずれかの電解液用添加剤と、有機溶媒と、電解質塩とを含む電解液、
9. 前記有機溶媒が、カーボネート類を含む8の電解液、
10. 前記有機溶媒が、2種以上のカーボネート類を含む9の電解液、

11. 1~7のいずれか1項記載の電解液用添加剤と、電解質塩とを含み、有機溶媒を含まない電解液、
12. 8~11のいずれかの電解液を用いて構成される蓄電デバイス、
13. 1~7のいずれかの電解液用添加剤を用いて構成される蓄電デバイス、
14. 二次電池または電気二重層キャパシタである12または13の蓄電デバイス、
15. 1~7のいずれかの電解液用添加剤を、溶媒および電解質塩を含む電解液に加え、電解液の耐電圧を向上させる方法、
16. 下記式(1B)で表される化合物、
【化4】
(式中、Meは、メチル基を意味する。)
17. 下記式(1D)で表される化合物
【化5】
(式中、Meは、メチル基を意味する。)
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトリアルキルシリル基を分子中に有する中性化合物を既存の電解液に添加したり、電解液として用いたりすることで、耐電圧を向上させることができる。
この化合物は、イオン性ではないため、電解質と塩交換を起こして析出することがなく、金属イオン電池系でも問題なく使用できる。
本発明の電解液用添加剤を含む電解液を備えて構成された蓄電デバイスは、作動上限電圧が上昇し、高電圧化、高容量密度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】合成例1で得られた化合物(1B)の1H-NMRスペクトル図である。
図2】合成例2で得られた化合物(1D)の1H-NMRスペクトル図である。
図3】実施例1~4および比較例1のサイクリックボルタンメトリー測定結果(酸化側)を示す図である。
図4】実施例2~4および比較例1のサイクリックボルタンメトリー測定結果(還元側)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る電解液用添加剤は、式(1)で表される、トリアルキルシリル基を分子中に有する中性化合物からなる。
【0012】
【化6】
【0013】
式(1)において、R1は、互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表し、R2は、互いに独立して炭素数1~8のアルキル基を表す。
炭素数1~8のアルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、c-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、c-ブチル、n-ペンチル、c-ペンチル、n-ヘキシル、c-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
中でも、R1およびR2としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、メチル基がより一層好ましい。
【0014】
Aは、炭素数1~10のアルキレン基を表す。
炭素数1~10のアルキレン基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン基等が挙げられる。
中でも、Aとしては、炭素数2~5のアルキレン基が好ましく、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン基がより好ましく、エチレン、トリメチレン基がより一層好ましい。
【0015】
Xは、単結合、メチレン基および下記式(2)~(4)で表されるいずれかの連結基から選ばれる1種を表す。
【0016】
【化7】
【0017】
式(3)のR3は、炭素数1~8のアルキル基を表し、その具体例としては、上記R1で例示した基と同様のものが挙げられる。
中でも、R3としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0018】
式(1)におけるmは、1~3の整数を、nは、0~2の整数を表すが、m+nは、Xが単結合、メチレン基、上記式(2)で表される連結基または上記式(3)で表される連結基の場合は2であり、Xが上記式(4)で表される連結基の場合は3である。
特に、mが、2または3であり、nが、0である化合物が好ましい。
【0019】
式(1)で表される化合物の具体例としては、下記式(1A)~(1D)で表されるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
【化8】
(式中、Meは、メチル基を意味する。)
【0021】
上述した各種トリアルキルシリル基を分子中に有する中性化合物は、公知の方法で合成できる。
例えば、化合物(1B)は、1,1’-カルボニルジイミダゾールと3-トリメチルシリル-1-プロパノールとを反応させる等の方法で合成することができる。
また、化合物(1D)は、メチルホスホン酸ジクロリドと3-トリメチルシリル-1-プロパノールとを、ジイソプロピルエチルアミン等の塩基の存在下で反応させる等の方法で合成することができる。
なお、化合物(1A)および化合物(1C)はいずれも公知物質であり、化合物(1A)は、例えば、文献M. Philipp et al.,Electrochimica Acta 173 (2015) 687記載の方法等で合成することができ、化合物(1C)は、例えば、新実験化学講座12 有機金属化学 丸善株式会社 昭和51年3月20日発行 340ページ記載の方法等で合成することができる。
【0022】
本発明の電解液用添加剤は、有機溶媒と、電解質塩とを含む電解液に添加して用いることができる。
有機溶媒としては、従来、電解液用溶媒として用いられている各種有機溶媒から適宜選択して用いることができ、その具体例としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、メチルジグライム、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、エチルグライム、エチルジグライム、ブチルジグライム、エチルセルソルブ、エチルカルビトール、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4,4-ジメチル-1,3-ジオキサン等の複素環式エーテル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、3-エチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン等のラクトン類;N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン等のアミド類;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のカーボネート類;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のイミダゾリン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;アジポニトリル、グルタロニトリル等のジニトリル類;スルホラン、エチルメチルスルホン、エチル2-メトキシエチルスルホン等のスルホン類;メチルホスフェート、トリエチルホスフェート等のリン酸エステル類、およびこれらのフッ素置換体などが挙げられ、これらは単独で、または2種以上混合して用いることができる。
中でも、カーボネート類を含む有機溶媒が好ましく、2種以上のカーボネート類を含む有機溶媒がより一層好ましい。
【0023】
一方、電解質塩は蓄電デバイスの種類に応じて適宜選択されるものであり、その具体例としては、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムヘキサフルオロフォスフェート、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、トリフルオロ酢酸リチウム、安息香酸リチウム、p-トルエンスルホン酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のリチウム塩;テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラプロピルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、メチルトリエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムパークロレート等の4級アンモニウム塩;リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドなどが挙げられる。
特に、本発明の電解液用添加剤は中性分子であるため、リチウムヘキサフルオロフォスフェートをはじめとするリチウム塩を電解質塩とする場合でも好適に用いることができる。
【0024】
電解液中における電解質塩の濃度は特に限定されるものではなく、通常、0.5~3mol/L程度であるが、0.8~2mol/L程度が好ましく、0.9~1.5mol/L程度がより好ましい。
【0025】
電解液中における本発明の電解液用添加剤の添加量は、耐電圧向上効果が発揮される限り特に限定されるものではないが、効率的に耐電圧向上効果を発揮させることを考慮すると、電解液全体(100質量%)中に、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がより一層好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。
また、その上限は溶媒としても使用可能であることから特に限定されるものではない。
【0026】
また、本発明の電解液用添加剤は、電解液用溶媒として用いることができる。
この場合、本発明の電解液用添加剤のみを電解液用溶媒として用いても、上述した各種電解液用溶媒と組み合わせて用いてもよい。電解液の耐電圧をより高めるという観点から、本発明の電解液用添加剤のみを電解液用溶媒として用いることが好ましいが、電解質塩の溶解性を勘案し、適宜他の電解液と混合しても良い。
【0027】
本発明における蓄電デバイスとしては、特に限定されるものではなく、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスキャパシタ、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム空気電池、プロトンポリマー電池等の各種蓄電デバイスが挙げられる。
本発明の蓄電デバイスは、上述した電解液用添加剤を含む電解液を備えるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、正極集電体およびその表面に形成された正極活物質層を有する正極と、負極集電体およびその表面に形成された負極活物質層を有する負極と、これら各極間に介在するセパレータとを備える一般的な二次電池や、正極(空気極)層と負極層、および各極間に配置された電解液層を有する空気電池において、本発明の電解液用添加剤を含む電解液を適用したもの、あるいは、一対の分極性電極と、これら電極間に介在するセパレータと、電解液とを備えて構成される電気二重層キャパシタにおいて、本発明の電解液用添加剤を含む電解液を適用したものなどが挙げられる。
【0028】
上記二次電池を構成する各材料としては、従来公知のものから適宜選択して用いればよく、特に限定されるものではないが、その一例を挙げると次のとおりである。
正極集電体の具体例としては、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔等が挙げられ、これらの発泡体や不織布状などの三次元多孔質体を集電体に用いることもできる。
正極活物質の具体例としては、リチウムを可逆的に担持可能である、活性炭、カーボンナノチューブ等の炭素質材料、オリビン型の結晶構造、層状岩塩型の結晶構造、またはスピネル型の結晶構造を有するリチウム酸化物等が挙げられる。活性炭原料としては、やしがら、フェノール樹脂、石油コークス等が挙げられ、また活性炭原料の賦活方法としては水蒸気賦活法、溶融アルカリ賦活法等が挙げられる。リチウム酸化物としては、一般式LiMPO4(Mは、Fe(II)、Mn(II)、Co(II)、Ni(II)の一以上)で表される複合酸化物、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、LiNiO2、LiMnO2、Li2MnO3、LiNi0.8Co0.22等のNiCo系などが挙げられる。
【0029】
負極集電体の具体例としては、銅箔、銅合金箔、ニッケル箔、ニッケル合金箔、ステンレス箔、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔等が挙げられる。
負極活物質の具体例としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質であれば特に制限はないが、炭素質材料(黒鉛等)、ケイ素酸化物、ケイ素合金、錫酸化物、錫合金、リチウム単体やリチウム合金を形成することができる金属、例えば、アルミニウム、鉛、錫、インジウム、ビスマス、銀、バリウム、カルシウム、水銀、パラジウム、白金、テルル、亜鉛、ランタン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。炭素質材料またはリチウム複合酸化物が安全性の観点から好ましい。さらにTi(チタン)、Li(リチウム)またはTiおよびLiの双方を含有するもの(例えば、チタン酸リチウム等)が、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0030】
また、上記正極活物質および負極活物質は、導電材とともに用いてもよい。
導電材としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。
【0031】
正極および負極活物質層は、以上で説明した活物質、バインダーポリマー、並びに必要に応じて導電材および溶媒を含む電極スラリーを、集電体上に塗布し、必要に応じて加熱下で乾燥して形成することができる。
バインダーポリマーとしては、公知の材料から適宜選択して用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔P(VDF-HFP)〕、フッ化ビニリデン-塩化3フッ化エチレン共重合体〔P(VDF-CTFE)〕、ポリビニルアルコール、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。
溶媒としては、バインダーポリマーの種類に応じて選定されるものであるが、一般的には、N-メチル-2-ピロリドンや水が用いられる。
なお、活物質層を形成した電極は、必要に応じてプレスしてもよい。
【0032】
セパレータの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系セパレータ、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系セパレータ、ポリアミド系セパレータ、ポリイミド系セパレータ、セルロース系セパレータ、ガラス繊維系セパレータなどが挙げられる。
【0033】
また、上記電気二重層キャパシタを構成する各材料としても、従来公知のものから適宜選択して用いればよく、特に限定されるものではないが、その一例を挙げると次のとおりである。
一般的な分極性電極としては、炭素質材料とバインダーポリマーと必要に応じて導電材を含む組成物を集電体上に塗布したものが挙げられる。
炭素質材料としては、特に限定されるものではなく、従来公知の種々の炭素質材料が挙げられ、例えば、活性炭、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン等が挙げられる。
正極集電体の具体例としては、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔等が挙げられる。
負極集電体の具体例としては、銅箔、銅合金箔、ニッケル箔、ニッケル合金箔、ステンレス箔等が挙げられる。
その他、バインダーポリマー、導電材としては、二次電池で例示したものと同様のものが挙げられる。
また、上記組成物の調製時には溶媒を用いてもよい。この溶媒は、バインダーポリマーの種類に応じて選定されるものであるが、この場合も、N-メチル-2-ピロリドンや水が好適である。
セパレータの具体例としても、二次電池で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0034】
本発明の蓄電デバイスは、例えば、一対の電極間に、セパレータを介在させてなるデバイス構造体を積層、折畳、または捲回し、必要に応じてコイン型等に形成し、これを電池缶またはラミネートパック等の電池容器に収容した後、本発明の電解液用添加剤を含む電解液を充填し、電池缶であれば封缶して、一方、ラミネートパックであればヒートシール(熱溶着)して得ることができる。
【実施例
【0035】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した分析装置および条件は下記のとおりである。
[1]1H-NMRスペクトル
装置:日本電子(株)製 ECZ-400S
[2]サイクリックボルタンメトリー
装置:北斗電工(株)製 電気化学測定装置HSV-100
定温恒温槽:エスペック(株)SU-241
測定条件:ドライ環境下、温度25℃、作用極にグラッシーカーボン電極、対極に白金電極、参照極にAg/AgNO3電極を用いて、掃引速度5mV/secで測定を行った。
【0036】
[1]電解液用添加剤の合成
[合成例1]化合物(1B)の合成
【化9】
【0037】
ナス型フラスコに、1,1’-カルボニルジイミダゾール(東京化成工業(株)製)6.49gを量り取り、フラスコを氷冷した。氷冷下、撹拌した状態で3-トリメチルシリル-1-プロパノール(シグマアルドリッチ社製)11.64gをゆっくりと滴下した。
滴下終了後、氷浴を外し、室温に戻った後にオイルバスで80℃まで加熱し、この温度で2時間撹拌を続けた。オイルバスを外して室温に戻した後、ヘキサン(和光純薬工業(株)製)100mlを加え、分液ロートに移した。水100mlを加えて振盪、静置し、下層の水層を除去する洗浄作業を3回行った後、上層をエバポレータ、続いて真空ポンプを用いて溶媒留去して濃縮した。得られた反応混合物を展開溶媒ヘキサン:酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)=4:1(v/v)のシリカゲルカラムにかけて精製し、目的物である化合物(1B)10.06gを得た。化合物(1B)の1H-NMRチャート(溶媒:重クロロホルム)を図1に示す。
【0038】
[合成例2]化合物(1D)の合成
【化10】
【0039】
メチルホスホン酸ジクロリド(東京化成工業(株)製)7.67gおよび1H-テトラゾール(和光純薬工業(株)製)0.32gをトルエン(和光純薬工業(株)製)709mlに溶解した。激しく撹拌しながら、3-トリメチルシリル-1-プロパノール15.20gとジイソプロピルエチルアミン(東京化成工業(株)製)10.86mlを約2時間かけて滴下し、その後一晩撹拌した。翌日、反応溶液をそのままシリカゲルにチャージし、ジエチルエーテル(関東化学(株)製)-酢酸エチル=9:1(v/v)を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製し、目的物である化合物(1D)11.54gを得た。化合物(1D)の1H-NMRチャート(溶媒:重クロロホルム)を図2に示す。
【0040】
[合成例3]化合物(1A)の合成
【化11】
【0041】
化合物(1A)は公知物質であり、公知の方法で合成可能である。
ここでは、メチルクロロホルメートと3-トリエチルシリルプロパノールとの反応後、蒸留精製により化合物(1A)を得た。
【0042】
[合成例4]化合物(1C)の合成
【化12】
【0043】
化合物(1C)は公知物質であり、公知の方法で合成可能である。
ここでは新実験化学講座12 有機金属化学 丸善株式会社 昭和51年3月20日発行 340ページ記載の方法で化合物(1C)を合成した。
【0044】
[2]電解液の調製
[実施例1]
1MLiPF6ジメチルカーボネート(DMC)溶液に、化合物(1B)を1質量%の濃度となるように添加して電解液を調製した。
【0045】
[実施例2~4]
化合物(1D)、化合物(1A)または化合物(1C)を用いた以外は、実施例1と同様にして電解液を調製した。
【0046】
上記実施例1~4で調製した電解液および1MLiPF6DMC溶液(比較例1)について、サイクリックボルタンメトリー測定を行った。測定結果を図3,4に示す。
【0047】
図3に示されるように、本発明の電解液用添加剤を加えて調製した電解液は、当該添加剤を加えない電解液に比べ、酸化側の耐電圧が向上していることがわかる。一方、図4に示されるように還元側の電位窓には大きな影響を及ぼしていないことがわかる。
なお、図3,4中、αは化合物(1D)、βは化合物(1C)、γは化合物(1A)、δは化合物(1B)を表す。
図1
図2
図3
図4