(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】電動オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 14/28 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
F04C14/28 B
(21)【出願番号】P 2018019576
(22)【出願日】2018-02-06
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香川 弘毅
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-235976(JP,A)
【文献】特開2000-161244(JP,A)
【文献】特開2007-177735(JP,A)
【文献】特開2000-249079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 14/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のギヤ歯が設けられたギヤ部を有する駆動ギヤ及び従動ギヤ
、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを収容するポンプハウジング
、ならびに前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転軸線方向に沿って前記ギヤ部に押し付けられるサイドプレートを有するポンプ部と、
前記駆動ギヤを回転させる電動モータと、
前記電動モータを制御する制御部と、を備え、
前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転により前記ポンプハウジング内にオイルを吸入して吐出する電動オイルポンプであって、
前記制御部は、
所定周期毎に得られた前記電動モータの回転速度及び出力トルクならびに前記オイルの温度と前記ポンプ部の寿命に関する指標値との関係が定義されたマップ情報を記憶すると共に、前記マップ情報を参照して前記ポンプ部の寿命を判定する寿命判定手段を有
し、
前記指標値は、前記サイドプレートの単位時間あたりの摩耗量である、
電動オイルポンプ。
【請求項2】
前記寿命判定手段は、前記サイドプレートの摩耗量の積算値が閾値を超えたとき、前記ポンプ部が寿命に達したと判定する、
請求項1に記載の電動オイルポンプ。
【請求項3】
複数のギヤ歯が設けられたギヤ部を有する駆動ギヤ及び従動ギヤ、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを収容するポンプハウジング、ならびに前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを支持する滑り軸受を有するポンプ部と、
前記駆動ギヤを回転させる電動モータと、
前記電動モータを制御する制御部と、を備え、
前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転により前記ポンプハウジング内にオイルを吸入して吐出する電動オイルポンプであって、
前記制御部は、所定周期毎に得られた前記電動モータの回転速度及び出力トルクならびに前記オイルの温度と前記ポンプ部の寿命に関する指標値との関係が定義されたマップ情報を記憶すると共に、前記マップ情報を参照して前記ポンプ部の寿命を判定する寿命判定手段を有し、
前記指標値は、前記滑り軸受の単位時間あたりの摩耗量である、
電動オイルポンプ。
【請求項4】
前記寿命判定手段は、前記滑り軸受の摩耗量の積算値が閾値を超えたとき、前記ポンプ部が寿命に達したと判定する、
請求項3に記載の電動オイルポンプ。
【請求項5】
複数のギヤ歯が設けられたギヤ部を有する駆動ギヤ及び従動ギヤ、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを収容するポンプハウジング、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転軸線方向に沿って前記ギヤ部に押し付けられるサイドプレート、ならびに前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを支持する滑り軸受を有するポンプ部と、
前記駆動ギヤを回転させる電動モータと、
前記電動モータを制御する制御部と、を備え、
前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転により前記ポンプハウジング内にオイルを吸入して吐出する電動オイルポンプであって、
前記制御部は、所定周期毎に得られた前記電動モータの回転速度及び出力トルクならびに前記オイルの温度と前記ポンプ部の寿命に関する指標値との関係が定義されたマップ情報を記憶すると共に、前記マップ情報を参照して前記ポンプ部の寿命を判定する寿命判定手段を有し、
前記指標値は、前記サイドプレートの単位時間あたりの摩耗量、及び前記滑り軸受の単位時間あたりの摩耗量である、
電動オイルポンプ。
【請求項6】
前記寿命判定手段は、前記サイドプレートの摩耗量の積算値及び前記滑り軸受の摩耗量の積算値の少なくとも何れかが閾値を超えたとき、前記ポンプ部が寿命に達したと判定する、
請求項5に記載の電動オイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源とする電動オイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータを駆動源とする電動オイルポンプが、例えばトランスミッションやパワーステアリング装置あるいはブレーキ装置のような車載装置や、各種機械設備等の様々な用途に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の電動オイルポンプは、電動モータと、電動モータにより駆動される駆動ギヤと、駆動ギヤとのギヤ歯の噛み合いによって回転する従動ギヤと、駆動ギヤ及び従動ギヤのギヤ部に押し付けられるサイドプレートと、駆動ギヤ及び従動ギヤをサイドプレートと共に収容するポンプハウジングとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構成された電動オイルポンプにおいて、例えば長期の使用によってサイドプレートが摩耗すると、ポンプハウジング内におけるオイルのシール性が劣化し、容積効率が低下してしまうおそれがある。この場合には、十分な吐出圧や吐出量が得られなくなるので、寿命が近づいたときには使用者等に警告を発して交換や修理を促すことが好ましい。しかし、例えば単に累積使用時間に基づいて寿命を判定すると、実際にはシール性が十分に確保されていても寿命と判定してしまう場合や、過酷な使用条件によって容積効率の低下が著しいのに寿命がまだ先であると判定してしまう場合がある。なお、ここで容積効率とは、駆動ギヤ及び従動ギヤが1回転したときに吐出されるオイルの量の理論値に対する実際値の割合であり、各部の摩耗等によってポンプハウジング内におけるオイルの漏れ量が多くなると容積効率が低下する。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い正確性をもってポンプ部の寿命を判定することが可能な電動オイルポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、複数のギヤ歯が設けられたギヤ部を有する駆動ギヤ及び従動ギヤ、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを収容するポンプハウジング、ならびに前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転軸線方向に沿って前記ギヤ部に押し付けられるサイドプレートを有するポンプ部と、前記駆動ギヤを回転させる電動モータと、前記電動モータを制御する制御部と、を備え、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転により前記ポンプハウジング内にオイルを吸入して吐出する電動オイルポンプであって、前記制御部は、所定周期毎に得られた前記電動モータの回転速度及び出力トルクならびに前記オイルの温度と前記ポンプ部の寿命に関する指標値との関係が定義されたマップ情報を記憶すると共に、前記マップ情報を参照して前記ポンプ部の寿命を判定する寿命判定手段を有し、前記指標値は、前記サイドプレートの単位時間あたりの摩耗量である、電動オイルポンプを提供する。
また、本発明は、上記の目的を達成するため、複数のギヤ歯が設けられたギヤ部を有する駆動ギヤ及び従動ギヤ、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを収容するポンプハウジング、ならびに前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを支持する滑り軸受を有するポンプ部と、前記駆動ギヤを回転させる電動モータと、前記電動モータを制御する制御部と、を備え、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転により前記ポンプハウジング内にオイルを吸入して吐出する電動オイルポンプであって、前記制御部は、所定周期毎に得られた前記電動モータの回転速度及び出力トルクならびに前記オイルの温度と前記ポンプ部の寿命に関する指標値との関係が定義されたマップ情報を記憶すると共に、前記マップ情報を参照して前記ポンプ部の寿命を判定する寿命判定手段を有し、前記指標値は、前記滑り軸受の単位時間あたりの摩耗量である、電動オイルポンプを提供する。
また、本発明は、上記の目的を達成するため、複数のギヤ歯が設けられたギヤ部を有する駆動ギヤ及び従動ギヤ、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを収容するポンプハウジング、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転軸線方向に沿って前記ギヤ部に押し付けられるサイドプレート、ならびに前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを支持する滑り軸受を有するポンプ部と、前記駆動ギヤを回転させる電動モータと、前記電動モータを制御する制御部と、を備え、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの回転により前記ポンプハウジング内にオイルを吸入して吐出する電動オイルポンプであって、前記制御部は、所定周期毎に得られた前記電動モータの回転速度及び出力トルクならびに前記オイルの温度と前記ポンプ部の寿命に関する指標値との関係が定義されたマップ情報を記憶すると共に、前記マップ情報を参照して前記ポンプ部の寿命を判定する寿命判定手段を有し、前記指標値は、前記サイドプレートの単位時間あたりの摩耗量、及び前記滑り軸受の単位時間あたりの摩耗量である、電動オイルポンプを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電動オイルポンプによれば、高い正確性をもってポンプ部の寿命を判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る外接ギヤポンプを示す断面図である。
【
図2】外接ギヤポンプのポンプ部を示す分解斜視図である。
【
図3】外接ギヤポンプの動作状態を説明する説明図である。
【
図5】第1のマップ情報の具体例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
(外接ギヤポンプの構造)
図1は、本発明の実施の形態に係る外接ギヤポンプの断面図である。
図2は、外接ギヤポンプのポンプ部を示す分解斜視図である。
図3は、外接ギヤポンプの動作状態を説明する説明図である。この外接ギヤポンプは、本発明の電動オイルポンプの一態様である。
【0012】
外接ギヤポンプ1は、ポンプ部10と、ポンプ部10を駆動する電動モータ2と、電動モータ2を制御する制御部7とを有している。ポンプ部10は、電動モータ2のトルクによって回転する駆動ギヤ3と、駆動ギヤ3の回転により回転する従動ギヤ4と、第1及び第2のサイドプレート51,52と、第1及び第2のサイドプレート51,52に保持された円筒状の滑り軸受53~56と、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4を第1及び第2のサイドプレート51,52ならびに滑り軸受53~56と共に収容するポンプハウジング6とを備えている。第1及び第2のサイドプレート51,52は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4よりも硬度が低い材料からなる。より具体的には、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4が例えば鉄系金属からなり、第1及び第2のサイドプレート51,52が例えばアルミニウム合金もしくは樹脂からなる。
【0013】
この外接ギヤポンプ1は、例えば車両に搭載され、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転によりポンプハウジング6内に車載装置の動作のためのオイルを吸入して吐出する。この車載装置としては、例えばトランスミッションやパワーステアリング装置が挙げられる。
図3では、電動モータ2が正回転する場合の駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転方向を矢印A
1,A
2で示し、オイルの吸入方向及び吐出方向を白抜きの矢印で示している。なお、電動モータ2が逆回転する場合には、オイルの吸入方向及び吐出方向が逆向きとなる。
【0014】
電動モータ2は、モータハウジング20と、モータシャフト21と、モータハウジング20に保持された環状の固定子22と、固定子22の内側に配置された回転子23と、モータシャフト21を支持する転がり軸受24,25と、固定子22に対するモータシャフト21の回転角を検出する回転角センサ26とを有している。
【0015】
固定子22は、鉄心221と、鉄心221に取り付けられたインシュレータ222と、インシュレータ222に巻き付けられた巻線223とを有している。巻線223には、制御部7からモータ電流が供給される。回転子23は、モータシャフト21に固定されたコア231と、コア231の外周面に取り付けられた複数の永久磁石232とを有している。回転角センサ26は、モータシャフト21の一端部に設けられたフランジ211に固定され、複数の磁極を有する永久磁石261と、モータハウジング20に固定され、永久磁石261の磁極の磁界を検出する磁気センサ262とを有している。磁気センサ262の検出信号は制御部7に送られる。
【0016】
駆動ギヤ3は、複数の外歯31が設けられたギヤ部32と、ギヤ部32の中心部から軸方向一側に突出した第1の軸部33と、ギヤ部32の中心部から軸方向他側に突出した第2の軸部34とを一体に有している。第1の軸部33は、その先端部331がカップリング(軸継手)27によって電動モータ2のモータシャフト21に連結されている。電動モータ2は、制御部7からモータ電流の供給を受けて駆動ギヤ3を回転駆動するトルクを発生し、モータシャフト21と一体に回転するように連結された駆動ギヤ3を回転させる。
【0017】
従動ギヤ4は、駆動ギヤ3と同様に、複数の外歯41が設けられたギヤ部42と、ギヤ部42の中心部から軸方向一側に突出した第1の軸部43と、ギヤ部42の中心部から軸方向他側に突出した第2の軸部44とを一体に有している。駆動ギヤ3の複数の外歯31及び従動ギヤ4の複数の外歯41は、本願の請求項に係る発明のギヤ歯に相当し、ポンプハウジング6のポンプ室600内で互いに噛み合っている。従動ギヤ4は、駆動ギヤ3との外歯31,41同士の噛み合いによって回転する。
【0018】
ポンプハウジング6は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の外歯31,41の歯先面31a,41a(
図3参照)に対向する内面60aを有する筒部60と、筒部60をその中心軸方向に挟む平板状の第1及び第2の側板部61,62とを有している。筒部60と第1及び第2の側板部61,62ならびにモータハウジング20とは、複数のボルト63によって締結されている。
【0019】
筒部60には、オイルが流通する第1及び第2の流通孔601,602が形成されている。電動モータ2が正回転するとき、第1の流通孔601からポンプ室600内に吸入されたオイルが第2の流通孔602から吐出され、電動モータ2が逆回転するとき、第2の流通孔602からポンプ室600内に吸入されたオイルが第1の流通孔601から吐出される。
【0020】
図1に示すように、第1の側板部61には、駆動ギヤ3の第1の軸部33を挿通させる挿通孔611が形成されており、この挿通孔611の内周面と第1の軸部33の外周面との間にシール部材64が配置されている。第1のサイドプレート51は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4のギヤ部32,42と第1の側板部61との間に配置され、第2のサイドプレート52は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4のギヤ部32,42と第2の側板部62との間に配置されている。
【0021】
第1のサイドプレート51には、駆動ギヤ3の第1の軸部33を挿通させる挿通孔511、及び従動ギヤ4の第1の軸部43を挿通させる挿通孔512が形成されている。挿通孔511には駆動ギヤ3の第1の軸部33を支持する滑り軸受53が内嵌されており、挿通孔512には従動ギヤ4の第1の軸部43を支持する滑り軸受54が内嵌されている。
【0022】
第1のサイドプレート51における第1の側板部61との対向面51aには凹溝513が形成されており、この凹溝513にゴム等の弾性体からなるサイドシール65が圧縮された状態で収容されている。第1のサイドプレート51は、サイドシール65の復元力により、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転軸線方向に沿ってギヤ部32,42に押し付けられている。より具体的には、第1のサイドプレート51における第1の側板部61との対向面51aとは反対側で駆動ギヤ3及び従動ギヤ4のギヤ部32,42に対向する対向面51bが、ギヤ部32,42における第1の軸部33,43側の軸方向端面32a,42aに押し付けられている。
【0023】
第2のサイドプレート52には、駆動ギヤ3の第2の軸部34を挿通させる挿通孔521、及び従動ギヤ4の第2の軸部44を挿通させる挿通孔522が形成されている。挿通孔521には駆動ギヤ3の第2の軸部34を支持する滑り軸受55が内嵌されており、挿通孔522には従動ギヤ4の第2の軸部44を支持する滑り軸受56が内嵌されている。
【0024】
第2のサイドプレート52における第2の側板部62との対向面52aには凹溝523が形成されており、この凹溝523にゴム等の弾性体からなるサイドシール66が圧縮された状態で収容されている。第2のサイドプレート52は、サイドシール66の復元力により、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転軸線方向に沿ってギヤ部32,42に押し付けられている。より具体的には、第2のサイドプレート51における第2の側板部62との対向面52aとは反対側で駆動ギヤ3及び従動ギヤ4のギヤ部32,42に対向する対向面52bが、ギヤ部32,42における第2の軸部34,44側の軸方向端面34b,44bに押し付けられている。
【0025】
(外接ギヤポンプの動作)
上記のように構成された外接ギヤポンプ1は、電動モータ2によって駆動ギヤ3が回転駆動される。また、駆動ギヤ3の外歯31に従動ギヤ4の外歯41が噛み合うことで、従動ギヤ4が駆動ギヤ3とは逆方向に回転する。駆動ギヤ3の周方向に隣り合う2つの外歯31の間、及び従動ギヤ4の周方向に隣り合う2つの外歯41の間には、それぞれ油室Cが形成されている。第1の流通孔601又は第2の流通孔602から吸入されたオイルは、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転に伴い、油室Cによってポンプ室600内の低圧室側から高圧室側に移動する。高圧室側では、駆動ギヤ3の外歯31と従動ギヤ4の外歯41とが噛み合うことによる容積変化によってオイルの圧力が高められる。
【0026】
本実施の形態では、駆動ギヤ3と従動ギヤ4の外径及び歯数が共通であり、駆動ギヤ3のギヤ部32及び従動ギヤ4のギヤ部42には、それぞれ12個の外歯31,41が放射状に設けられている。駆動ギヤ3と従動ギヤ4は、これらの外歯31,41のうち少なくとも1つの外歯31の歯面31bと外歯41の歯面41bとが当接し、この当接部が低圧室側と高圧室側とを区画するシール部Sとなる。
【0027】
(制御部の構成及び制御内容)
図4は、制御部7の構成例を示す概略構成図である。制御部7は、CPUが予め記憶されたプログラムを実行することにより、速度制御部70、電流制御部71、2相3相変換部72、PWM制御部73、位相算出部74、3相2相変換部75、速度算出部76、瞬時摩耗量演算部77、摩耗量積算部78、及び寿命判定部79として機能する。制御部7のCPUは、所定の演算周期ごとに後述する各処理を実行する。また、制御部7は、複数のスイッチング素子を有するインバータ回路81、及びインバータ回路81から出力されるU相、V相、及びW相の各相電流をそれぞれ検出する3つの電流センサ82を有している。瞬時摩耗量演算部77、摩耗量積算部78、及び寿命判定部79は、本願の請求項に係る発明の寿命判定手段に相当する。
【0028】
制御部7は、速度制御部70において、上位コントローラから電動モータ2の回転速度指令値ω*を受け付け、モータ電流の目標値である電流指令値を演算する。より詳細には、この回転速度指令値ω*と後述する速度算出部76によって演算される電動モータ2の実際の回転速度を示す実回転速度ωとの偏差(ω*-ω)に対して比例積分演算(PI演算)を行うことにより、電動モータ2に供給するモータ電流のトルク成分の目標値であるq軸電流指令値Iq*を演算する。
【0029】
電流制御部71は、速度制御部70によって演算されたq軸電流指令値Iq*に基づいて、電動モータ2に印加すべき電圧の目標値である電圧指令値を演算する。より詳細には、q軸電流指令値Iq*ならびに後述する3相2相変換部75によって演算されるq軸電流検出値Iq及びd軸電流検出値Idに基づいて比例積分演算を行い、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を演算する。
【0030】
2相3相変換部72は、後述する位相算出部74によって演算される回転角θを用いて、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*をU相、V相、及びW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する。PWM制御部73は、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*のそれぞれに対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号、及びW相PWM制御信号を生成し、インバータ回路81に供給する。インバータ回路81は、各相のPWM制御信号に応じてスイッチング素子をオン又はオフさせ、電動モータ2に三相交流電流をモータ電流として供給する。
【0031】
位相算出部74は、電動モータ2の回転角センサ26の検出信号に基づいて、電動モータ2のモータシャフト21の回転角θを算出する。3相2相変換部75は、位相算出部74で算出される回転角θを用いて、3つの電流センサ82によって求められた各相の相電流をq軸電流検出値Iq及びd軸電流検出値Idに変換する。なお、U相,V,W相の相電流の総和がゼロになる関係性に基づき、3つの電流センサ82のうちの1つを省略することも可能である。速度算出部76は、前回の演算周期の回転角θと今回の演算周期の回転角θとの差に基づいて、所定の演算周期ごとに電動モータ2の実回転速度ωを算出する。
【0032】
(寿命判定処理)
寿命判定手段としての瞬時摩耗量演算部77、摩耗量積算部78、及び寿命判定部79は、少なくとも所定周期毎に得られた電動モータ2の回転速度に基づいて、ポンプ部10の寿命を判定する。本実施の形態では、所定周期毎に得られた電動モータ2の出力トルク及びオイルの温度(油温)を加味してポンプ部10の寿命を判定する。
【0033】
瞬時摩耗量演算部77は、速度算出部76によって演算される電動モータ2の実回転速度ω、3相2相変換部75によって演算されるq軸電流検出値Iqにトルク定数Ktを乗じて得られるトルク換算値Tm、及び油温を所定周期毎に取得する。トルク換算値Tmは、電動モータ2の出力トルクを示す。油温は、例えばオイルの供給対象である車載装置に設けられた油温計の検出値である。なお、ポンプハウジング6に形成した孔に油温計を配置し、その油温計の検出値を油温として取得するようにしてもよい。
【0034】
制御部7は、このようにして得られた電動モータ2の実回転速度ω及びトルク換算値Tmならびに油温と、ポンプ部10の寿命に関する指標値との関係が定義されたマップ情報を記憶している。本実施の形態では、制御部7が第1のマップ情報771及び第2のマップ情報772を記憶している。これら第1及び第2のマップ情報771,772は、実験やシミュレーションの結果に基づいて定義され、予め不揮発性メモリに記録されている。
【0035】
第1のマップ情報771におけるポンプ部10の寿命に関する指標値は、第1及び第2のサイドプレート51,52の単位時間あたりの摩耗量である。第1及び第2のサイドプレート51,52は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転により、主としてギヤ部32,42に対向する対向面51b,52bが摩耗する。この摩耗量が大きくなると、ポンプ室600内の高圧室側から低圧室側へのオイルの漏れ量が多くなり、ポンプ部10の容積効率が低下してしまう。
【0036】
第2のマップ情報772におけるポンプ部10の寿命に関する指標値は、滑り軸受53~56の単位時間あたりの摩耗量である。滑り軸受53~56は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転により、第1の軸部33,43及び第2の軸部34,44の外周面に対向する内周面が摩耗する。この摩耗量が大きくなると、ポンプ室600内における駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の傾きやガタつきが発生しやすくなり、各摺動部の偏摩耗が発生しやすくなってポンプ部10の容積効率が低下してしまう。
【0037】
第1及び第2のマップ情報771,772には、複数の油温ごとに、電動モータ2の回転速度及び出力トルクと単位時間あたりの摩耗量との関係が三次元マップの形式で定義されている。この単位時間及び瞬時摩耗量演算部77が実回転速度ω等を取得する所定周期は、上記の演算周期と同じでもよいが、演算周期の整数倍であってもよい。複数の油温は、例えば常温を含む中温域、中温域よりも高い高低温域、及び中温域よりも低い低温域である。
【0038】
図5は、第1のマップ情報771の具体例を示すグラフであり、(a)は高温域、(b)は中温域、(c)は低温域における電動モータ2の回転速度及び出力トルクと第1及び第2のサイドプレート51,52の単位時間あたりの摩耗量との関係を示している。
【0039】
図5に示すように、第1及び第2のサイドプレート51,52の摩耗量は、電動モータ2の回転速度が高いほど小さく、電動モータ2の出力トルクが大きいほど大きく、油温が高いほど大きい。電動モータ2の回転速度が高いほど摩耗量が小さいのは、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転速度が高速であるとギヤ部32,42と第1及び第2のサイドプレート51,52との間に油膜が形成されてオイルによる潤滑が促進されるためである。電動モータ2の出力トルクが大きいほど摩耗量が大きいのは、吐出圧の増大に伴って駆動ギヤ3及び従動ギヤ4が傾きやすくなり、油膜が切れやすくなるためである。また、油温が高いほど摩耗量が大きいのは、油温が高いとオイルの粘性が低下して油膜が形成されにくくなるためである。なお、図示は省略しているが、第2のマップ情報772も同様の摩耗特性を示している。
【0040】
摩耗量積算部78は、瞬時摩耗量演算部77によって求められた第1及び第2のサイドプレート51,52ならびに滑り軸受53~56の単位時間当たりの摩耗量を積算し、積算値を演算する。この積算値は、外接ギヤポンプ1の使用開始当初からの累積値であり、制御部7の電源がオフされた際にはパワーダウン処理において不揮発性メモリにそれまでの積算値が記憶され、再度電源がオンされた際には不揮発性メモリに記憶された積算値を読み出してさらに積算を重ねる。
【0041】
寿命判定部79は、第1及び第2のサイドプレート51,52の摩耗量の積算値が所定の閾値を超えると、ポンプ部10が寿命に達したと判定する。また、寿命判定部79は、滑り軸受53~56の摩耗量の積算値が所定の閾値を超えたときにも、ポンプ部10が寿命に達したと判定する。すなわち、寿命判定部79は、第1及び第2のサイドプレート51,52の摩耗量の積算値及び滑り軸受53~56の摩耗量の積算値の少なくとも何れかが閾値を超えたとき、ポンプ部10が寿命に達したと判定する。これらの閾値は、予め実験やシミュレーションの結果に基づいて定められ、例えばプログラム中の定数として定義されている。
【0042】
寿命判定部79は、ポンプ部10が寿命に達したと判定したとき、警報信号を出力し、警報装置9がこの警報信号を受けて警報を発する。この警報の態様は、外接ギヤポンプ1の適用対象に応じて様々なものを採用し得るが、例えば外接ギヤポンプ1が車両に搭載された場合には、インスツルメンツパネルの警告灯を点灯させることにより、運転者に警報を発することができる。
【0043】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本発明の実施の形態によれば、高い正確性をもってポンプ部10の寿命を判定することが可能となる。これにより、例えば外接ギヤポンプ1を容積効率が大きく低下した状態で使い続けることや、容積効率が大きく低下していないのに交換等を促してしまうことが抑制される。
【0044】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0045】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、制御部7が電動モータ2の回転速度(実回転速度ω)、電動モータ2の出力トルク(トルク換算値Tm)、及び油温に基づいてポンプ部10の寿命を判定する場合について説明したが、これに限らず、例えば電動モータ2の回転速度及び出力トルクによって、あるいは電動モータ2の回転速度のみによって、ポンプ部10の寿命を判定してもよい。
【0046】
また、上記の実施の形態では、制御部7のCPUがプログラムを実行することにより各部の機能が実現される場合について説明したが、各部の機能の一部又は全部をASIC(特定用途向け集積回路)等のハードウェアにより実現してもよい。また、
図1乃至
図3に示した外接ギヤポンプ1の機械的な構成は、一例として示したものであり、駆動ギヤが電動モータにより駆動され、駆動ギヤとのギヤ歯同士の噛み合いにより従動ギヤが回転する構成であれば、様々な機械構成の電動ギヤポンプに本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…外接ギヤポンプ(電動オイルポンプ) 10…ポンプ部
2…電動モータ 3…駆動ギヤ
31…外歯(ギヤ歯) 32…ギヤ部
4…従動ギヤ 41…外歯(ギヤ歯)
42…ギヤ部 51…第1のサイドプレート
52…第2のサイドプレート 53~56…滑り軸受
6…ポンプハウジング 7…制御部
77…瞬時摩耗量演算部(寿命判定手段) 771…第1のマップ情報
772…第2のマップ情報 78…摩耗量積算部(寿命判定手段)
79…寿命判定部(寿命判定手段)