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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
B41J2/01 305
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018057685
(22)【出願日】2018-03-26
(65)【公開番号】P2019166778
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植竹 重夫
(72)【発明者】
【氏名】黒須 重隆
(72)【発明者】
【氏名】牧井 厚人
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-129982(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0013672(US,A1)
【文献】特開2017-073241(JP,A)
【文献】特開2008-044743(JP,A)
【文献】特開2005-324877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される記録材の帯電を調整する帯電調整装置と、帯電調整された前記記録材にインクジェット方式により画像を形成する画像形成部と、を有し、
前記帯電調整装置は、
前記記録材を搬送する搬送部材と、
搬送される前記記録材と対向するように配置され、一の極性の電荷を供給する第1の帯電調整部と、
前記第1の帯電調整部よりも搬送方向の下流側に前記記録材と対向するように配置され、前記第1の帯電調整部が供給する電荷とは逆極性の電荷を供給する第2の帯電調整部と、
前記第1の帯電調整部に対し直流電源を供給する第1の直流電源部と、
前記第2の帯電調整部に対し前記第1の直流電源部とは逆極性の直流電源を供給する第2の直流電源部と、を備え
前記第2の帯電調整部に面する前記記録材の表面と前記搬送部材の一部又は全部から構成された電極との間の静電容量が、前記第1の帯電調整部に面する前記記録材の表面と前記搬送部材の一部又は全部から構成された電極との間の静電容量よりも小さく、かつ、前記第1の帯電調整部と前記第2の帯電調整部との間において前記記録材の表面又は裏面のいずれかが前記搬送部材に接触している
インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記搬送部材として、前記記録材と接触する面を持つ第1の案内部材と、前記第1の案内部材よりも搬送方向の下流側に配置され、前記記録材と接触する面を持つ第2の案内部材と、前記第1の案内部材と前記第2の案内部材の双方に当接するように配置された中間案内部材と、を備え、
前記第2の案内部材の表面の静電容量は、前記第1の案内部材の表面の静電容量よりも小さい
請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記第2の帯電調整部が、前記第2の案内部材と前記中間案内部材とのニップ部に対向するように配置されている
請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記中間案内部材に対し、前記第1の帯電調整部が供給する電荷と同じ極性の電圧を印加する第3の直流電源部、を更に備える
請求項又はに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記第1の案内部材、前記第2の案内部材、及び前記中間案内部材は、導体性のローラーを有し、前記第2の案内部材の前記ローラーの円周面上には絶縁層が被覆されている
請求項乃至のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記画像形成部は、前記第2の帯電調整部に対向するように配置され前記記録材が巻き掛けられた部材の表面近傍、かつ前記第2の帯電調整部の下流側に配置されており、前記画像形成部による前記画像の形成が前記部材上で行われる
請求項1乃至のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第1の帯電調整部及び前記第2の帯電調整部は、放電電極と、前記放電電極と前記記録材の間に位置するグリッド電極と、を有し、前記グリッド電極に印加される電圧によって前記記録材へ供給する電荷量が調整される
請求項1乃至のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記第2の帯電調整部による前記記録材の帯電電位が、前記画像形成部が備えるノズルから吐出されるインク液滴の帯電極性に応じて調整される
請求項1乃至のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
搬送される記録材の帯電を調整する帯電調整装置と、帯電調整された前記記録材にインクジェット方式により画像を形成する画像形成部と、を有し、
前記帯電調整装置は、
前記記録材を搬送する搬送部材と、
搬送される前記記録材と対向するように配置され、一の極性の電荷を供給する第1の帯電調整部と、
前記第1の帯電調整部よりも搬送方向の下流側に前記記録材と対向するように配置され、前記第1の帯電調整部が供給する電荷とは逆極性の電荷を供給する第2の帯電調整部と、
前記第1の帯電調整部に対し直流電源を供給する第1の直流電源部と、
前記第2の帯電調整部に対し前記第1の直流電源部とは逆極性の直流電源を供給する第2の直流電源部と、を備え、
前記搬送部材は、前記第1の帯電調整部に対向し前記記録材と接触する面を有する第1のガイド部と、前記第2の帯電調整部に対向し前記記録材と接触する面を有する第2のガイド部とが連続するように構成され、
前記第2のガイド部の静電容量は、前記第1のガイド部の静電容量よりも小さい
ンクジェット記録装置。
【請求項10】
前記画像形成部は、前記第2の帯電調整部に対向するように配置され前記記録材が巻き掛けられた部材の表面近傍、かつ前記第2の帯電調整部の下流側に配置されており、前記画像形成部による前記画像の形成が前記部材上で行われる
請求項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記第1の帯電調整部及び前記第2の帯電調整部は、放電電極と、前記放電電極と前記記録材の間に位置するグリッド電極と、を有し、前記グリッド電極に印加される電圧によって前記記録材へ供給する電荷量が調整される
請求項9又は10に記載のインクジェット記録装置。
【請求項12】
前記第2の帯電調整部による前記記録材の帯電電位が、前記画像形成部が備えるノズルから吐出されるインク液滴の帯電極性に応じて調整される
請求項乃至11のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁性の高い、樹脂フィルムや合成紙などのシート状記録材(以下「記録材」と総称する)は、その製造工程、コロナ処理などの表面処理工程、搬送工程などにおける摩擦帯電や剥離放電、コロナ放電により記録材に帯電した電荷が減衰せず、表面に残留する。これらの帯電電荷は、記録材表面に一様には分布せず、局所的に正負の両極性の電荷に帯電しているなど、不均一な状態であることが多い。このような絶縁性の高い記録材にインクジェット(IJ)印字を行うと、記録材の帯電に起因して、次のような画像ノイズが生じることが分かっている。
【0003】
記録材等が帯電していると、その帯電電荷とインクジェットヘッド間に形成される電界によって、インク液滴の飛翔特性が影響を受ける。それにより、飛翔速度や飛翔方向が変化し、インク液滴が記録材の意図しないところに着弾するなどの問題が生じる。特に液滴サイズが小さい場合、空気抵抗による減速が大きいため、電界の影響を受けやすく、ミストとなったインク液滴(副滴)が電界によってインクジェットヘッド側に戻されて付着したり、インク液滴が記録材の意図せぬところに付着して地汚れとなったりするなどの問題が発生する。目標の着弾位置からずれた副滴はサテライトとも呼ばれる。
【0004】
図1に、インクジェット方式の画像形成処理における記録材の帯電と画像ノイズの関係を示す。図1Aはインクジェットヘッドから射出された飛翔中のインク液滴が受ける影響の例、図1Bは着弾後のインク液滴の例である。
【0005】
図1Aは、インクジェットヘッド10から射出されたインク液滴が、体積の大きい主滴11と、主滴11の形成過程で生じた副滴11a(ミスト)で構成される場合を示している。図1Aにおいて空気抵抗の大きい副滴11aに着目し、副滴11aがプラス電荷を持っている場合を考える。記録材20が比較的一様にプラス帯電し、図1Aにおいて垂直方向電界が形成されている場所では、副滴11aは、飛翔方向とは逆方向のインクジェットヘッド10へ向かう静電気力を受ける(図1A中央部)。
【0006】
また、記録材20の帯電ムラにより水平方向電界が形成されている場所(図1A左側及び右側)では、副滴12aが記録材20表面に近接すると横方向の静電気力を受ける。このような静電気力によって、インク液滴の速度や方向が変化した結果、本来意図した位置とは異なる位置に副滴12aが着弾し、画像ノイズとなる。また、静電気力によって副滴11aがインクジェットヘッド10に付着すると、インクジェットヘッド10の汚れとなり、特に副滴11aがノズル近傍に付着すると射出曲がり等の不具合を引き起こす。
【0007】
さらに、記録材20等の帯電電荷は、着弾直後のインク液滴にも影響することが分かった。例えば、図1Bに示すように、記録材20の帯電ムラによる面方向の電界によって、着弾したインク液滴13に静電誘導が生じ、電界方向に静電気力が作用するため、ドット形状が乱れる問題も生じる。ドット形状の乱れ(変形)の大きさは、面方向電界が、静電誘導された電荷がドット変形に伴って移動することによってどれだけ打ち消されたかに影響される。そのため、ドット形状の乱れの抑制には記録材20の電荷密度のムラを小さくすることも必要となる。特に記録材が薄い場合には、帯電電荷のある記録材表面と記録材背面側の電極との間の静電容量が大きいため、帯電電位が比較的小さい場合であっても、電荷密度は大きいことがあり、ドット形状の乱れを抑制するには電荷密度ムラの低減が重要となる。
【0008】
記録材を除電する除電装置に関して、複数の除電部を有する以下のようなものが知られている。特許文献1には、インクジェットヘッドより絶縁性の記録媒体に液滴を吐出して記録するインクジェット記録装置であって、記録媒体の帯電を中和する中和手段と、記録媒体の帯電状態を検出する検出部と、検出結果に基づいて中和手段が発生するイオンの量を制御する制御手段と、記録媒体に接触し、アース接続された導電性部材と、を有するインクジェット記録装置が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、記録媒体の記録面にインク滴を吐出することによって記録を行う記録装置であって、記録媒体を搬送する搬送経路において記録面に当接する従動ローラーの材料が、記録面を構成する部材の材料より、帯電列において、インク滴の吐出に伴い発生するミストが帯電する極性と反対極性側に位置する材料であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2017-119407号公報
【文献】特開2016-010865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、帯電を中和する手段としてイオナイザの開示があるが、特許文献1に記載のものは、フィルムの帯電ムラ部の閉じた電気力線のため、イオナイザで生成した電荷には静電気力が作用せず、帯電ムラに応じた電荷供給が困難である(帯電ムラを十分に消すことができない)。
【0012】
また、特許文献2に記載のものは、摩擦帯電によってフィルムを帯電しているため、均一に帯電させることや帯電量の制御が困難である。
【0013】
このような記録材表面の帯電ムラ(帯電電位ムラ、電荷密度ムラ)は、画質を維持する上で、電子写真方式等の他の画像形成処理においてもない方が望ましい。
【0014】
本発明は、上記の状況を考慮してなされたものであり、画質に影響を及ぼす記録材表面の帯電ムラを除去し、不要な電界の影響を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様のインクジェット記録装置は、搬送される記録材の帯電を調整する帯電調整装置と、帯電調整された前記記録材にインクジェット方式により画像を形成する画像形成部と、を有する。上記帯電調整装置は、記録材を搬送する搬送部材と、搬送される記録材と対向するように配置され、一の極性の電荷を供給する第1の帯電調整部と、該第1の帯電調整部よりも搬送方向の下流側に前記記録材と対向するように配置され、第1の帯電調整部が供給する電荷とは逆極性の電荷を供給する第2の帯電調整部と、第1の帯電調整部に対し直流電源を供給する第1の直流電源部と、第2の帯電調整部に対し第1の直流電源部とは逆極性の直流電源を供給する第2の直流電源部と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明の少なくとも一態様によれば、記録材の電荷密度ムラに起因する見かけの帯電電位ムラだけでなく、電荷密度ムラをも小さくすることができる。それにより、顔料を記録材に付着させる画像形成処理において、帯電ムラによる不要な電界の影響を抑制できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】インクジェット方式の画像形成処理において記録材の帯電と画像ノイズの関係を示す説明図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る帯電調整装置を備えたインクジェット記録装置の構成の一例を示す説明図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る、図2のインクジェット記録装置の制御系の一例を示すブロック図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る帯電調整装置の各部における、位置ごとの帯電電荷及び帯電電位の一例を示すグラフである。
図5】本発明の第2の実施形態に係る帯電調整装置の一例を示す説明図である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る、図5の帯電調整装置を備えたインクジェット記録装置の構成の一例を示す説明図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る帯電調整装置の各部における、位置ごとの帯電電荷及び帯電電位の一例を示すグラフである。
図8】本発明の第1の実施形態に係る各案内部材の表面の静電容量についての説明図である。
図9】一般的な帯電調整装置の一例を示す説明図である。
図10】本発明の第2の実施形態に係る案内部材と記録材の間の空隙距離に対する空隙電位差を計算した結果を示すグラフである。
図11】本発明の第3の実施形態に係る帯電調整装置の一例を示す説明図である。
図12】本発明の第4の実施形態に係る帯電調整装置の一例を示す説明図である。
図13】本発明の第5の実施形態に係る帯電調整装置の一例を示す説明図である。
図14】実施例1~5と比較例1~2のそれぞれの測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と記述する)の例について、添付図面を参照しながら説明する。本明細書及び添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0019】
<第1の実施形態>
[帯電調整装置及びインクジェット記録装置の構成]
まず、本発明の第1の実施形態に係る帯電調整装置とその帯電調整装置を備えたインクジェット記録装置の構成例について説明する。
【0020】
図2は、第1の実施形態に係る帯電調整装置30を備えたインクジェット記録装置200の構成の一例を示す説明図である。図2に示すインクジェット記録装置200は、本発明が適用される画像形成装置の一例である。
【0021】
図2に示すように、インクジェット記録装置200は、記録材20が巻かれた送り出しロール110、帯電調整装置30、基本色のそれぞれに対応する4つのヘッドユニット24を含む画像形成部35、画像形成後の記録材20を巻き取る巻取りロール150を備える。また、インクジェット記録装置200は、送り出しロール110から送り出された記録材20を、帯電調整装置30及び画像形成部35を介して、巻取りロール150へ搬送する搬送ローラーや従動ローラーからなる搬送機構を有する。図2の例では、送り出しロール110と帯電調整装置30(第1の案内部材120)の間には、従動ローラー111、搬送ローラー対112、及び従動ローラー113が設けられている。また、画像形成部35(第1の案内部材120)と巻取りロール150の間には、従動ローラー151、搬送ローラー対152、及び従動ローラー153が設けられている。
【0022】
帯電調整装置30は、インクジェット記録装置200の搬送経路上のヘッドユニット24の下流側に設けられ、帯電調整対象である絶縁性の記録材20の帯電状態を調整する。帯電調整装置30により帯電ムラが均一化された記録材20には、その下流側に設けられた画像形成部35においてインクジェット方式により画像形成面に画像が形成される。即ち、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)に対応する紫外線硬化型インク(以下、単に「インク」と記述する。)が搭載されたインクジェットヘッド242(図3参照)により、記録材20に画像が形成され、下流側の定着部25が備える紫外線照射光源(UVランプ)によりインクが硬化されて、定着画像が得られる。
【0023】
(帯電調整装置)
ここで、帯電調整装置30についてより詳細に説明する。帯電調整装置30は、第1の案内部材120、第1の帯電調整部27、第2の帯電調整部28、第1の直流電源部271(図3参照)、及び第2の直流電源部281(図3参照)を備える。
【0024】
第1の案内部材120は、搬送される記録材20と接触する面を有するように形成されている。第1の案内部材120は、搬送部材の一例であり、搬送方向に垂直な回転軸を持つローラー等の回転体で構成される。帯電調整対象である記録材20は、第1の案内部材120巻き掛けられて搬送される。第1の案内部材120は、例えばアルミニウム等で形成された金属ローラー121(低抵抗の導電性ローラーの一例)からなり、接地されている。金属ローラー121は、搬送部材の一部又は全部から構成された電極の一例である。
【0025】
第1の帯電調整部27は、第1の案内部材120の記録材20と接触する面(表面)に対向するように配置される。第1の帯電調整部27は、第1の直流電源部271(図3図5参照)から直流電圧が印加されると一の極性の電荷を発生させ、第1の案内部材120の方向に一の極性の電荷を供給する。第1の帯電調整部27に印加された電圧と接地された第1の案内部材120との間に電界が形成され、第1の案内部材120の表面に巻き掛けられた記録材20に電荷が供給される。
【0026】
第2の帯電調整部28は、第1の案内部材120の記録材20と接触する面(表面)に対向するように配置される。第2の帯電調整部28は、第2の直流電源部281(図3参照)から直流電圧が印加されると、第1の帯電調整部27が供給する電荷とは逆極性の電荷を発生させて、第1の案内部材120の方向に逆極性の電荷を供給する。第2の帯電調整部28に印加された電圧と接地された第1の案内部材120との間に電界が形成され、第1の案内部材120の表面に巻き掛けられた記録材20に逆極性の電荷が供給される。
【0027】
第1の直流電源部271は、第1の帯電調整部27に対し、直流電圧(第1の直流電源)を供給する電源回路部である。また、第2の直流電源部281は、第2の帯電調整部28に対し、第1の直流電源部271とは逆極性の直流電圧(第2の直流電源)を供給する電源回路部である。
【0028】
第1の帯電調整部27及び第2の帯電調整部28として、コロナ帯電器やローラー帯電器を用いることができる。本実施形態では、図5に示すように主走査方向に延在するワイヤー状のコロナ放電電極27a(28b)と被帯電体(本実施形態では記録材20)の間にグリッド電極27b(28b)を設けた、スコロトロン帯電器(コロナ帯電器の一種)を用いている。スコロトロン帯電器は、グリッド電極27bへ印加される電圧によってグリッド電極27bを介して記録材20へ供給する電荷量を調整する。即ち、コロナ放電電極27a(28a)による電荷生成とグリッド電極27b(28b)による電界形成の2つの機能を分離でき、記録材20の静電容量に応じた電荷供給量が得られる。また、スコロトロン帯電器は、電界を形成するグリッド電極27b(28b)を記録材20に近接して配置できる。このことから、スコロトロン帯電器は、帯電ムラの均一化及び帯電量調整の点で特に好ましい。
【0029】
本実施形態では、帯電調整対象の記録材20としては、樹脂性のフィルムや電気的に高抵抗の記録材を想定している。例えば合成紙やコート紙は、高抵抗の用紙である。湿度が低い場合、用紙の抵抗が標準的湿度の場合と比較して高くなるため、このような用紙も帯電調整対象となり得る。
【0030】
なお、本実施形態では、紫外線硬化型インクを用いたインクジェット記録装置200の例を示したが、画像形成方法はこれに限定されるものではない。例えば水性インク、溶剤インクなどを用いて画像形成するようにしてもよい。また、画像形成に用いる色は、色の種類や数はこれに限定されるものではない。
【0031】
[インクジェット記録装置の制御系]
次に、インクジェット記録装置200の制御系の構成について図3を参照して説明する。図3は、インクジェット記録装置200の制御系の構成例を示すブロック図である。
【0032】
図3に示すように、インクジェット記録装置200は、制御部40を備えている。制御部40は、例えばCPU(Central Processing Unit)41と、CPU41の作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)42と、CPU41が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)43と、を有する。さらに、制御部40は、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)等からなる記憶部44を有している。記憶部44には、画像読取部26が読み取った画像のデータ、帯電調整を行うための情報、インクジェットヘッド242のノズルの吐出不良を検出するためのテストチャート、ノズルの吐出不良検出動作を行うための情報などが格納される。
【0033】
また、インクジェット記録装置200は、不図示の画像形成ドラム、用紙排出部や用紙反転部等の搬送系の駆動を行う搬送駆動部51と、操作表示部52と、入出力インターフェース53とを有している。
【0034】
制御部40のCPU41は、加熱部23、ヘッドユニット24、定着部25、画像読取部26、RAM42、ROM43、及び記憶部44にそれぞれシステムバス54を介して接続され、装置全体を制御する。また、CPU41は、搬送駆動部51、操作表示部52、入出力インターフェース53にそれぞれシステムバス54を介して接続されている。
【0035】
操作表示部52は、液晶表示装置(LCD)又は有機ELD(Electro Luminescence Display)等のディスプレイからなるタッチパネルである。この操作表示部52は、ユーザに対する指示メニュー、ノズルの吐出検出動作に関する情報や取得した画像データに関する情報等を表示する。さらに、操作表示部52は、複数のキーを備え、ユーザのキー操作による各種の指示、文字、数字などのデータの入力を受け付ける入力部としての役割を持つ。
【0036】
入出力インターフェース53は、外部装置4と通信可能に接続されている。そして、入出力インターフェース53は、外部装置4から印刷ジョブ(画像データ、出力設定)を受信する。入出力インターフェース53は、受信した画像データを制御部40に出力する。そして、制御部40は、入出力インターフェース53から受信した画像データを画像処理する。また、制御部40が、受信した画像データに対し、必要に応じて、シェーディング補正、画像濃度調整、画像圧縮等の画像処理を行うように構成してもよい。
【0037】
また、ヘッドユニット24は、制御部40によって画像処理された画像データを受け取り、画像データに基づいて記録材20上に所定の画像を形成する。具体的には、ヘッドユニット24は、ヘッド駆動部241を駆動することで、インクジェットヘッド242からインクを所定の位置に吐出させる。ヘッドユニット24の上流側には、制御部40の制御により、近傍を通過する記録材20が所定の温度となるように発熱を行う加熱部23が設けられている。
【0038】
ヘッドユニット24は、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、及びブラック(K)のに応じて4つ設けられている。4つのヘッドユニット24は、記録材20の搬送方向に対して上流側から、イエロー、マゼンダ、シアン、ブラックの順に配置されている。
【0039】
ヘッドユニット24は、記録材20の搬送方向と直交する方向(主走査方向)において記録材20の全体を覆う長さ(幅)に設定されている。すなわち、インクジェット記録装置200は、ワンパス方式のラインヘッド型インクジェット記録装置である。4つのヘッドユニット24は、それぞれ吐出するインクの色が異なるのみで、互いに同一の構成を有している。
【0040】
本実施形態では、ヘッドユニット24による記録材20への画像形成に先立って、制御部40が第1の直流電源部271及び第2の直流電源部281を制御して、第1の帯電調整部27及び第2の帯電調整部28が供給する電荷を制御し、記録材20の帯電を調整する(図2参照)。制御部40は、記録材20の種類(例えば抵抗、比誘電率や厚みの情報)や画像形成条件(例えば画像濃度や印字面積率)などの情報に基づいて、第1の帯電調整部27及び第2の帯電調整部28から供給される電荷量を調整する。
【0041】
ヘッドユニット24により記録材20に形成された画像は、画像読取部26によって読み取られ、その画像データが制御部40に送られる。また、ノズルの吐出不良検出動作を行う際、制御部40は、画像読取部26から送られた画像データに基づいて吐出不良が生じているノズルを判別する。そして、制御部40は、例えば、インクジェットヘッド242の吐出不良が発生したノズルに隣接するノズルからのインクの吐出量を増やすことで、ヘッドユニット24の補正処理を行う。
【0042】
(帯電調整作用)
次に、図4を用いて、帯電調整装置30による帯電調整作用(帯電ムラのある状態を均一に除電する処理)を説明する。図4の(1)~(6)は、帯電調整装置30の各部における、記録材20上の位置ごとの帯電電荷及び帯電電位の一例を示すグラフである。図4の(1)~(6)の横軸は記録材20上の位置、図4の(奇数番号)の縦軸は電荷密度、図4の(偶数番号)の縦軸は帯電電位を表す。
【0043】
例えば図4の(1)に示すように、絶縁性の記録材20表面に不均一に帯電電荷が存在していると、その表面近傍では電荷密度ムラに応じた帯電電位が形成される(図4の(2)の実線)。しかし、図1Aの左側及び右側に示したように、記録材20表面の近くにある反対極性の電荷同士で電気力線が閉じてしまうため、表面から距離が離れると電荷密度ムラによる帯電電位は平均化される(図4の(2)の破線)。一般的に除電に用いられるイオン発生器(帯電器)では、生成した電荷が、帯電電荷が形成する帯電電位(この例では図4の(2)の破線)により吸引される。そのため、平均化によって帯電電荷が中和されると、いずれの極性の電荷に対しても記録材20へ向かう静電気力が作用せず、このような記録材20表面の不均一な帯電を十分に除電することができない。
【0044】
そこで、第1の帯電調整部27では、第1の帯電調整部27により一方の極性の電荷(ここでは負電荷)を生成し、第1の案内部材120との間で生成した電荷を供給し得る電界を形成することで、記録材20全体を一方の極性に帯電させる。これによって、記録材20表面の閉じた電気力線の領域(図1A参照)にも電荷を供給でき、帯電ムラに応じた電気力線に沿った電荷の移動が生じ、帯電ムラが緩和される(図4の(3)(4))。この際、第1の帯電調整部27は、記録材20表面の帯電ムラを形成する電荷量と比較して、十分な電荷量を供給する(一の極性に帯電させる)ことが望ましい。
【0045】
続いて、第2の帯電調整部28では、第1の帯電調整部27で帯電させた図4の(4)に示す帯電電位を利用して第1の帯電調整部27より供給された電荷とは逆極性の適量の電荷を供給することで、記録材20の帯電量を所望のレベル(ここではゼロ)となるように調整する。第2の帯電調整部28は、第1の案内部材120を搬送される記録材20の帯電電位を0Vに近づける(図4の(6))ように調整することで、記録材20に帯電する電荷量をより狙いの電荷量(望ましくはゼロ)へ近づけることが可能となる(図4の(5))。
【0046】
上述したように第1の実施形態においては、第1の案内部材120に対向配置された第1の帯電調整部27と、その下流側に配置された第2の帯電調整部28とを有し、制御部40が、第1の直流電源部271と第2の直流電源部281を制御して、第1の帯電調整部27と第2の帯電調整部28が供給するそれぞれの電荷の極性を逆極性とする。これにより、制御部40は、第2の帯電調整部28により第1の案内部材120を搬送される記録材20の帯電電位を0Vに近づけることで、記録材20に帯電する電荷量をより狙いの電荷量(望ましくはゼロ)へ近づけることが可能となる。それゆえ、記録材20表面の帯電ムラが除去され、不要な電界の影響を抑制することが可能となる。
【0047】
<第2の実施形態>
絶縁性の記録材20として極薄いフィルム(例えば厚さ30μm以下)を用いる場合、フィルムの静電容量が大きいため、フィルム表面の帯電電荷により生じる電位が小さく、第1の実施形態に係る帯電調整装置30を用いても帯電量の微調整が難しい。そこで、図5に示すように、第1の帯電調整部27に対向する第1の案内部材120(第1の対向部材)と、第2の帯電調整部28に対向する第2の案内部材140(第2の対向部材)をそれぞれ設け、第2の案内部材140表面に容量成分(絶縁層142)を形成することで、帯電電荷により生じる電位を大きくすることができ、帯電量の微調整が容易となる。
【0048】
以下、第2の実施形態に係る帯電調整装置の構成例について説明する。図5は、第2の実施形態に係る帯電調整装置の一例を示す説明図である。
【0049】
図5に示す帯電調整装置30Aは、第1の案内部材120、第2の案内部材140、中間案内部材130、第1の帯電調整部27、第2の帯電調整部28、第1の直流電源部271、及び第2の直流電源部281を備える。
【0050】
第1の案内部材120、第2の案内部材140、及び中間案内部材130はそれぞれ、搬送される記録材20と接触する面を有するように形成されている。第2の案内部材140は、第1の案内部材120よりも搬送方向の下流側に配置される。中間案内部材130は、第1の案内部材120と第2の案内部材140の間において、記録材20を介して双方に当接するように配置されている。第1の案内部材120、第2の案内部材140、及び中間案内部材130はそれぞれ、搬送部材の一例であり、搬送方向に垂直な回転軸を持つローラー等の回転体を用いて構成される。
【0051】
第2の案内部材140は、表面に絶縁層142が被覆されたアルミニウム等で形成された金属ローラー141からなり、接地されている。金属ローラー141は、搬送部材の一部又は全部から構成された電極の一例である。絶縁層142は、例えば絶縁性の樹脂により形成される。
【0052】
帯電調整対象である絶縁性の記録材20は、第1の案内部材120、中間案内部材130、及び第2の案内部材140の各表面に、順次、巻き掛けられて搬送される。中間案内部材130により、記録材20にテンションがかかった状態で、記録材20の搬送経路が規定される。
【0053】
第1の帯電調整部27は、第1の案内部材120の表面に対向するように配置される。記録材20が第1の案内部材120に搬送されてきた場合には、第1の帯電調整部27は、記録材20の第1の案内部材120と接触しない面(表面)に対向した状態となる。第1の帯電調整部27は、第1の直流電源部271から直流電圧が印加されると一の極性の電荷を発生させ、第1の案内部材120の方向に一の極性の電荷を供給する。第1の帯電調整部27に印加された電圧と接地された第1の案内部材120との間に電界が形成され、第1の案内部材120の表面に巻き掛けられた記録材20に電荷が供給される。
【0054】
第2の帯電調整部28は、第2の案内部材140の表面に対向するように配置される。記録材20が第2の案内部材140に搬送されてきた場合には、第1の帯電調整部27は、記録材20の第1の案内部材120と接触しない面(表面)に対向した状態となる。第2の帯電調整部28は、第2の直流電源部281から直流電圧が印加されると、第1の帯電調整部27が供給する電荷とは逆極性の電荷を発生させて、第2の案内部材140の方向に逆極性の電荷を供給する。印加された直流電圧に応じた第2の帯電調整部28の電位と、接地された第2の案内部材140上の記録材20の帯電電荷によって形成される電位との間に電界が形成され、第2の案内部材140の表面(絶縁層142)に巻き掛けられた記録材20に逆極性の電荷が供給される。
【0055】
中間案内部材130は、第1の案内部材120と第2の案内部材140の双方に当接するように配置された導電性ローラー(例えば金属ローラー)である。中間案内部材130は、第1の案内部材120及び第2の案内部材140との接触を確保するため、表面に弾性部材が形成されたローラーであることが望ましい。中間案内部材130が第1の案内部材120と第2の案内部材140とに介在することにより、第1の帯電調整部27によって帯電された記録材20は、記録材20の表裏のいずれかが常に第1の案内部材120、中間案内部材130、第2の案内部材140のいずれかと接触した状態を維持して第2の帯電調整部28まで搬送される。
【0056】
なお、第1の案内部材120、第2の案内部材140、及び中間案内部材130はそれぞれ、回転可能なローラーに限らず、固定の部材を用いて構成してもよい。ローラーを用いることにより、記録材20の表面の摩耗が抑制される。
【0057】
[インクジェット記録装置の構成]
図6は、図5の帯電調整装置30Aを備えたインクジェット記録装置の構成の一例を示す説明図である。図6に示すインクジェット記録装置200Aは、本発明が適用される画像形成装置の一例である。
【0058】
図6に示すように、本実施形態のインクジェット記録装置200Aは、インクジェット記録装置200(図2参照)の帯電調整装置30及び画像形成部35を、帯電調整装置30A及び画像形成部35Aに置き替えた構成である。インクジェット記録装置200Aは、送り出しロール110から送り出された記録材20を、帯電調整装置30A及び画像形成部35Aを介して、巻取りロール150へ搬送する。図6の例では、送り出しロール110と帯電調整装置30A(第1の案内部材120)の間に、従動ローラー111、搬送ローラー対112、及び従動ローラー113が設けられている。また、画像形成部35A(第2の案内部材140)と巻取りロール150の間に、従動ローラー151、搬送ローラー対152、及び従動ローラー153が設けられている。
【0059】
帯電調整装置30Aにより帯電ムラが均一化された記録材20は、その下流側に設けられた画像形成部35Aにおいてインクジェット方式により画像形成面に画像が形成される。第2の案内部材140の表面に設けられた絶縁層142は、定着部25における紫外線硬化時の熱によって第2の案内部材140の温度が変動することを抑制する断熱層の役割も果たす。
【0060】
また、インク液滴の帯電特性(帯電極性)に応じて、第2の帯電調整部28による記録材20の帯電電位を調整することで、インクジェットヘッド242と記録材20間に所定の電界が形成されるようにしてもよい。第2の帯電調整部28で記録材20を所定の帯電電位に帯電する場合、第2の帯電調整部28に対向する第2の案内部材140上で画像形成を行うことにより、記録材20の帯電電位を変化させる静電容量の変化が生じず、第2の帯電調整部28で調整した帯電電位によって所望の電界を形成することができる。
【0061】
特に、第1の実施形態のインクジェット記録装置200(図2参照)のように導体の第1の案内部材120上で記録材20の帯電電位を制御する場合には、狙いの帯電電位を得るための電荷量が大きくなり、剥離放電が生じる恐れがある。そのため、記録材20の帯電調整を行った案内部材上でインクジェット方式の画像形成をすることが望ましい。また、同じ案内部材上で紫外線硬化まで実施することで、画像形成後に剥離放電が生じても画像が乱されることを抑制できる。それゆえ、インクジェットヘッド242と記録材20間の電界を適切に制御した状態で画像形成を実施することが可能となる。
【0062】
(帯電調整作用)
次に、図7を用いて、帯電調整装置30による帯電調整作用(帯電ムラのある状態を均一に除電する処理)を説明する。図7の(1)~(8)は、帯電調整装置30の各部における、記録材20上の位置ごとの帯電電荷及び帯電電位の一例を示すグラフである。図7の(1)~(8)の横軸は記録材20上の位置、図7の(奇数番号)の縦軸は電荷密度、図3の(偶数番号)の縦軸は帯電電位を表す。ここで、図7の(1)~(4)は、図3の(1)~(4)と同じであるため、説明を割愛する。
【0063】
被帯電体である記録材20の静電容量を大きくした方が、供給電荷による帯電電位の上昇幅が小さくなるため、第1の帯電調整部27によって形成する電界を小さくすることができる(低い電圧で十分な電荷を供給することができる)。そのため、第1の案内部材120を、記録材20と接触する面(記録材20裏面側)に導体を用いたローラーとすることで、第1の案内部材120の表面の静電容量を最大化することが望ましい。本例では、第1の案内部材120に金属ローラーを用いている。
【0064】
一方、第2の案内部材140においては、表面に絶縁層142が形成されており、その上に記録材20が重なる。そのため、図8に示すように、第2の帯電調整部28の領域では、第1の帯電調整部27の領域と比較して、記録材20の静電容量C1と絶縁層142の静電容量C0(第2の案内部材140の表面の静電容量)の合成静電容量C2が小さくなる。ここで、第1の帯電調整部27の領域とは、第1の帯電調整部27で発生した電荷の影響が及ぶ範囲(帯電調整可能エリア)である。第2の帯電調整部28の領域についても同様に定義する。それゆえ、第2の帯電調整部28では、第1の帯電調整部27で帯電された電荷(図7の(5))による帯電電位が、電位差gだけ大きくなる(図7の(6))。このように、第2の帯電調整部28の領域では、その静電容量が小さいため、帯電電荷量に対する帯電電位の変化が大きい。
【0065】
そこで、第2の帯電調整部28では、図7の(6)に示す帯電電位を利用して第1の帯電調整部27より供給された電荷とは逆極性の適量の電荷を供給することで、記録材20の帯電量を所望のレベル(ここではゼロ)となるように調整する。第2の帯電調整部28は、第2の案内部材140を搬送される記録材20の帯電電位を0Vに近づける(図7の(8))ように調整することで、記録材20に帯電する電荷量をより狙いの電荷量(望ましくはゼロ)へ近づけることが可能となる(図7の(7))。
【0066】
上述の帯電ムラの均一化で説明したように、帯電ムラの均一化のためには第1の帯電調整部27により、記録材20の帯電ムラの領域に対して一方の極性に帯電するよう十分多い電荷を供給し(そのために第1の帯電調整部27の静電容量を大きくする)、静電容量の小さい第2の帯電調整部28で記録材20表面の電荷量を調整する。ここで、第1の案内部材120から第2の案内部材140へ記録材20を搬送する際に剥離放電が生じないように、第1の案内部材120と第2の案内部材140の双方に接触する中間案内部材130を設けることが望ましい。即ち、本実施形態では、搬送される記録材20が中間案内部材130に接触した状態で、第1の帯電調整部27の領域と第2の帯電調整部28の領域で静電容量が変わるように構成されている。
【0067】
(中間案内部材の作用)
次に、中間案内部材130の作用について図9及び図10を参照して説明する。図9は、一般的な帯電調整部の一例を示す説明図である。図9において、導体ローラーである第1の案内部材120により搬送される記録材20に対し帯電調整部15から一の極性の電荷が供給される。帯電調整部15は、グリッド電極を持たないコロナ帯電器である。図10は、案内部材と記録材20の間の空隙距離に対する空隙電位差を計算した結果を示すグラフである。
【0068】
中間案内部材130の作用を説明するため、比較として図9に示すように、表面が帯電された第1の案内部材120を記録材20から剥離した場合に、第1の案内部材120と記録材20との間に形成される空隙(剥離部A)の空隙電位差を求めた。さらに、図5の第2の案内部材140と中間案内部材130により形成されるニップ部の入口B、及び中間案内部材130と第2の案内部材140により形成されるニップ部の出口Cの空隙電位差を求めた。
【0069】
記録材20の帯電電荷密度200μC/m、記録材20の厚み10μm、比誘電率2、また第2の案内部材140表面の絶縁層142の厚み100μm、比誘電率2として、空隙距離に対する空隙電位差を計算した結果を、図10に示す。図10には、パッシェンの法則に従う空気層の絶縁破壊電圧Vthの近似式(Vth=312+6.2d(dは空隙距離、単位μm))の計算結果も示した。帯電した記録材20を第1の案内部材120から剥離する図4の構成では、空隙距離が10μmを超えた付近で放電が発生した。これに対し、中間案内部材130を配置した図5の構成は、図9の構成と比較して、空隙電位差を低く抑えることが可能であり、剥離放電を抑制できることがわかる。
【0070】
上述したように第2の実施形態においては、記録材20の搬送方向上流側に配置された第1の帯電調整部27と下流側に配置された第2の帯電調整部28を有し、第1の帯電調整部27と第2の帯電調整部28が供給するそれぞれの電荷の極性を逆極性とする。また、本実施形態において、第2の案内部材140に接触する記録材20表面(非接触面)と第2の案内部材140の電極との間の静電容量が、第1の案内部材120に接触する記録材20表面(非接触面)と第1の案内部材120の電極との間の静電容量よりも小さい。即ち、第2の帯電調整部28に面する記録材20表面と第2の案内部材140の電極との間の静電容量が、第1の帯電調整部27に面する記録材20表面と第1の案内部材120の電極との間の静電容量よりも小さい。
【0071】
このように、本実施形態では、第1の帯電調整部27側の静電容量が大きいため、電荷密度ムラによる記録材20の表面の電位(帯電電位)の変動が小さく、かつ記録材20への電荷供給が容易である。そのため、記録材20に帯電電位ムラがあっても記録材20を一方の極性に帯電させて、帯電ムラを小さくすることが可能となる。一方で、第2の帯電調整部28側の静電容量が小さいため、記録材20の表面の電位を均一化した際の記録材20の電荷密度ムラがより小さくなるように調整することができる。
【0072】
また、本実施形態は、第1の帯電調整部27の領域と第2の帯電調整部28の領域との間で静電容量を切り替える際に懸念される剥離放電を抑制する目的で、中間案内部材130を用いて記録材20の表面又は裏面のいずれかが第1の案内部材120又は第2の案内部材140に接触するように構成されている。それにより、本実施形態は、第1の帯電調整部27での供給電荷量の上限を拡大することができ、記録材20のより大きな帯電ムラも除去することが可能となる。
【0073】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態では、剥離放電を抑制して本発明の効果を得るための別の構成として、第2の実施形態における第2の帯電調整部28の配置を変更した例を説明する。
【0074】
図11は、第3の実施形態に係る帯電調整装置の一例を示す説明図である。
上述した第2の実施形態では、中間案内部材130と第2の案内部材140により形成されるニップ部の出口Cにおける空隙電位差が大きくなってしまい、剥離放電が発生する可能性がある。そこで、図11に示す帯電調整装置30Bでは、第2の帯電調整部28Aを、中間案内部材130と第2の案内部材140とのニップ部の出口Cに対向するように配置する。
【0075】
第2の帯電調整部28Aを、ニップ部の出口Cの近くに配置することで、グリッド電極28bとニップ部の出口Cにおける第2の案内部材140上の記録材20との間に生じる電界を強くすることができる。それにより、中間案内部材130と第2の案内部材140とのニップ部の出口Cに電荷が供給され、ニップ部の出口Cにおける空隙電位差が大きくなることが抑制される。この場合、単に第2の帯電調整部28Aを第2の案内部材140と中間案内部材130とのニップ部に対向させるだけではなく、記録材20へ適切に電荷を供給する観点から、グリッド電極28bを第2の案内部材140の表面に近接させることが望ましい。
【0076】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態では、剥離放電を抑制して本発明の効果を得るための別の構成として、第2の実施形態の中間案内部材130に電圧を印加する例を説明する。
【0077】
図12は、第4の実施形態に係る帯電調整装置の一例を示す説明図である。
図12に示す帯電調整装置30Cは、第1の帯電調整部27が供給する電荷と同じ極性の直流電圧を、中間案内部材130に印加する第3の直流電源部131(電源回路部)を備える。このように、第3の直流電源部131により、中間案内部材130に対し第1の帯電調整部27と同極性の電圧を印加することで、空隙電位差が大きくなることが緩和され、剥離放電を防止することができる。
【0078】
<第5の実施形態>
次に、第5の実施形態では、剥離放電を抑制して本発明の効果を得るための別の構成として、第2の実施形態における第1の案内部材120と第2の案内部材140を一体的に構成した例を説明する。
【0079】
図13は、第5の実施形態に係る帯電調整装置の一例を示す説明図である。
図13に示す帯電調整装置30Dは、第1の帯電調整部27に対向し記録材20と接触する面を有する第1のガイド部161と、第2の帯電調整部28に対向し記録材20と接触する面を有する第2のガイド部162とが、連続するように一体化して形成されたガイド部材160(搬送部材の一例)を備える。このガイド部材160は、記録材20が巻き架けられ、記録材20を搬送する際に記録材20を案内する機能を有する。
【0080】
第1のガイド部161は、記録材20の回転方向に対して直交する方向(主走査方向)に中心軸を持つ円筒形状(断面が円環状(図13では略半円))である。その第1のガイド部161の外周面に、任意の部分(図13では頂点)から下流側の端部にかけて、第2のガイド部162の厚みに応じた深さの切り欠き161aが形成されている。そして、第2のガイド部162が、第1のガイド部161の切り欠き161aの面に接触した状態に設けられている。ここで、第1のガイド部161と第2のガイド部162の各々の記録材20と接触する各面は、滑らかに連続して段差のない一つの面を形成する。
【0081】
例えば、第1のガイド部161を、湾曲形状を有する導電体(金属等)により形成し、また第2のガイド部162を、湾曲形状を有する絶縁性の樹脂により形成する。本実施形態では、上記の構成と材料の選択により、第2のガイド部側の静電容量が、第1のガイド部側の静電容量よりも小さくなるように構成される。第1のガイド部161と第2のガイド部材162から構成されるガイド部材160は、搬送部材の一部又は全部から構成された電極の一例である。
【0082】
図13に示すように、第2のガイド部162に対向するように、4つのヘッドユニット24が配置されるとともに、ヘッドユニット24の下流側に定着部25が配置される。
【0083】
上述のように構成された第5の実施形態によれば、第1の帯電調整部27の領域と第2の帯電調整部28の領域で静電容量を切り替える際に、記録材20の裏面がガイド部材160の第1のガイド部161と第2のガイド部162に接触した状態で搬送されるため、剥離放電が生じる空隙が形成されない。それにより、中間案内部材130も不要となり、帯電調整装置の小型化が可能となる。
【0084】
<測定結果>
以下、複数の実施例及び複数の比較例の構成を用いて、各実施形態におけるインクジェット記録装置で絶縁性の記録材20に画像を形成し、帯電調整の効果を確認した結果について、図14を参照して説明する。図14は、実施例1~5と比較例1~2のそれぞれの測定結果を示す表である。
【0085】
・実施例1
実施例1では、図2に示すインクジェット記録装置200(帯電調整部27,28はスコロトロン帯電器)を用いた。
・実施例2
実施例2では、図6に示すインクジェット記録装置200A(帯電調整部27,28はスコロトロン帯電器)を用いた。また第2の案内部材140の表面に、絶縁層142として、厚さ100μmのPET(polyethylene terephthalate)層を形成した。
・実施例3
実施例3では、図6に示すインクジェット記録装置200A(帯電調整部27,28はスコロトロン帯電器)を用いた。また第2の案内部材140の表面に、絶縁層142として、厚さ100μmのPET(polyethylene terephthalate)層を形成した。中間案内部材130に-300Vの電圧を印加した。
・実施例4
実施例4では、図6に示すインクジェット記録装置200Aにおいて、帯電調整装置に図11に示す帯電調整装置30B(帯電調整部27,28はスコロトロン帯電器)を用いた。またガイド部材160の第2の帯電調整部28の領域にある第2のガイド部162として、厚さ100μmのPET層(絶縁層)を形成した。
・実施例5
実施例5では、図6に示すインクジェット記録装置200Aにおいて、帯電調整装置に図13に示す帯電調整装置30B(帯電調整部27,28はスコロトロン帯電器)を用いた。またガイド部材160の第2のガイド部162として、厚さ100μmのPET層(絶縁層)を形成した。
【0086】
・比較例1
比較例1では、図2に示すインクジェット記録装置200において、帯電調整装置30を取り除いた構成とした。
・比較例2
比較例2では、図2に示すインクジェット記録装置200において、第1の帯電調整部27と第2の帯電調整部28に代えて、第1の案内部材120と従動ローラー113との間にイオン発生器を配置した。
【0087】
評価は、帯電調整対象の記録材20として、厚さ12μmのPETからなる記録材(以下「PET記録材」と記す。)と厚さ30μmのOPP(延伸ポリプロピレン)からなる記録材(以下「PET記録材」と記す。)を用い、インクジェット記録装置でハーフトーン(孤立ドット)画像を出力した。各実施例及び各比較例の構成において、第1の帯電調整部27のコロナ放電電極27aへの印加電圧を負極性(-7kV)、グリッド電圧を-50V,-100V,-150V,-300Vとし、第2の帯電調整部28のコロナ放電電極28aへの印加電圧を正極性(7kV)、グリッド電圧を0V,-100Vとして、帯電調整を行った。
【0088】
出力された画像の均一性を目視により評価し、画像が均一な場合(画像ムラなし)を「○」、僅かに画像ムラがある場合を「△」、画像ムラが多い場合を「×」で表した。また、画像出力後のインクジェットヘッド242へのインク付着状態も観察し、インク付着がほとんどない場合を「○」、軽微なインク付着がある場合を「△」、インク付着が多い場合を「×」で表した。
【0089】
実施例1~5と比較例1~2についての測定結果を、図14の表にまとめた。表に示すように、比較例1~2の構成では、不規則な輪郭状の画像ムラ(したがって画像均一性「×」)が確認され、画像ムラを解消することができなかった。これに対し、実施例の構成では、12μmPETにおいて、第1の帯電調整部27のグリッド電圧を適切な設定(-100V以上)にすることで画像ムラ解消の効果を確認できた。この輪郭状の画像ムラ部分を拡大観察したところ、ドット形状が乱れており楕円形状をしていることが確認された。
【0090】
さらに、実施例1~5の結果について詳細に検証する。
実施例1の構成では、他の実施例と比較して、12μmPETにおいて第1の帯電調整部27のグリッド電圧が-100Vでは画像ムラ解消の効果は十分ではなく、グリッド電圧を-150Vまで大きくする必要があることがわかる。これは、第2の帯電調整部28の領域の案内部材(対向部材)の静電容量の違いを反映している。実施例1の構成では、第2の帯電調整部28の領域の静電容量が大きいため、電荷密度ムラによって生じる電位ムラが小さく表れるため、画像ムラを消す効果が小さいと考えられる。
【0091】
実施例2の構成では、他の実施例と比較して、第1の帯電調整部27のグリッド電圧が大きい(12μmPETの-150V)時に画像ムラが生じていることがわかる。これは、第1の帯電調整部27と第2の帯電調整部28との間で静電容量を切り替える際に、剥離放電が生じたためである。
【0092】
実施例3~5の構成では、良好な画像ムラ解消の効果が確認できた。
【0093】
一方、インクジェットヘッド242の汚れに着目すると、30μmOPPに関しては、第2の帯電調整部28のグリッド電圧によってその特性が決まっていることがわかった。即ち、実施例1~5において確認したインクジェット記録装置においては、30μmOPPに対し第2の帯電調整部28のグリッド電圧を-100Vとすることが良好であることがわかった。別途、12μmPETにおいても、第2の帯電調整部28のグリッド電圧をー100Vとした場合にも、同様にインクジェットヘッド242の汚れが良好となる効果が得られることが確認できた。
【0094】
以上の測定結果から、上述した本発明の各実施形態の例によって記録材表面の帯電ムラを抑制し、帯電ムラに起因した画像ノイズを解消可能であることを確認することができた。即ち、本発明の各実施形態の例によって画像品質の向上が可能である。
【0095】
[各実施形態の効果]
上述した第1~第5の実施形態によれば、樹脂フィルム等の記録材の電荷密度ムラに起因する見かけの帯電電位ムラだけでなく、電荷密度ムラをも十分小さくすることが可能となる。即ち、顔料(インク液滴)を記録材に付着させる画像形成処理において、帯電ムラによる不要な電界の影響を抑制できる。例えば、インクジェット方式の画像形成処理において、インク液滴の飛翔や着弾後の液滴形状に影響を及ぼす記録材等の帯電ムラを除去し、インク液滴の飛翔を適切に制御することができる。それゆえ、インク液滴の飛翔時の不要な電界の影響を抑制できると共に、記録材に着弾した液滴の静電誘導に伴うドット変形を抑制可能となる。
【0096】
さらに、本発明は上述した各実施形態例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
【0097】
例えば、上述した実施形態例は本発明を分かりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細且つ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、ある実施形態例の構成の一部を他の実施形態例の構成要素に置き換えることは可能である。また、ある実施形態例の構成に他の実施形態例の構成要素を加えることも可能である。また、各実施形態例の構成の一部について、他の構成要素の追加、削除、置換をすることも可能である。
【0098】
また、上記の各構成要素、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路の設計などによりハードウェアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0099】
20…記録材、 27…第1の帯電調整部、 28…第2の帯電調整部、 30,30A,30B,30C,30D…帯電調整装置、 120…第1の案内部材、 121…金属ローラー、 130…中間案内部材、 131…第3の直流電源部、 140…第2の案内部材、 141…金属ローラー、 142…絶縁層、 160…ガイド部材、 160…第1のガイド部、 161…第2のガイド部、 200,200A…インクジェット記録装置、 271…第1の直流電源部、 281…第2の直流電源部
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