(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20220308BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/12 B
B60C11/12 D
(21)【出願番号】P 2018058488
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】川崎 雄三
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01685981(EP,A1)
【文献】特開2017-043208(JP,A)
【文献】特開2016-168991(JP,A)
【文献】特開2018-008585(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106864177(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に延びる第1エッジとタイヤ周方向に延びる第2エッジとにより区画された陸部を有し、
前記陸部には、前記第1エッジから前記第2エッジまで延びる複数のサイプが設けられており、
前記サイプは、少なくとも2つの要素が折れ曲がるように接続された少なくとも1つの屈曲部を有する屈曲サイプを含み、
前記屈曲サイプは、第1サイプと、第2サイプとを含み、
前記第1サイプの前記要素は、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜する第1要素と、タイヤ軸方向に対して前記第1方向とは逆向きに傾斜する第2要素とを含み、
前記第2サイプは、前記第1方向に傾斜する前記要素のみからな
り、
前記第1エッジにおける前記第1サイプと前記第2サイプとのタイヤ周方向の最小距離は、タイヤ周方向に隣接する前記第2サイプ間のタイヤ周方向の距離の30%~48%である、
タイヤ。
【請求項2】
前記陸部には、前記第1エッジから延びて前記陸部内で終端する第3サイプと、前記第2エッジから延びて前記陸部内で終端する第4サイプとが設けられる、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に延びる第1エッジとタイヤ周方向に延びる第2エッジとにより区画された陸部を有し、
前記陸部には、前記第1エッジから前記第2エッジまで延びる複数のサイプが設けられており、
前記サイプは、少なくとも2つの要素が折れ曲がるように接続された少なくとも1つの屈曲部を有する屈曲サイプを含み、
前記屈曲サイプは、第1サイプと、第2サイプとを含み、
前記第1サイプの前記要素は、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜する第1要素と、タイヤ軸方向に対して前記第1方向とは逆向きに傾斜する第2要素とを含み、
前記第2サイプは、前記第1方向に傾斜する前記要素のみからな
り、
前記陸部には、前記第1エッジから延びて前記陸部内で終端する第3サイプと、前記第2エッジから延びて前記陸部内で終端する第4サイプとが設けられる、
タイヤ。
【請求項4】
前記第3サイプ及び前記第4サイプは、それぞれ、前記第1方向に傾斜している、請求項
2又は3に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第1エッジにおける前記第2サイプと前記第3サイプとのタイヤ周方向の最小距離は、タイヤ周方向に隣接する前記第2サイプ間のタイヤ周方向の距離の30%~48%である、請求項
2ないし4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第1サイプは、前記第1要素と前記第2要素とをつなぐ第3要素を含み、
前記第3サイプ及び前記第4サイプの少なくとも一方は、前記第3要素の延長線上に配されている、請求項
2ないし5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第1サイプは、前記第1要素と前記第2要素とをつなぐ第3要素を含む、請求項
1ないし5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第3要素は、前記第1方向に傾斜している、請求項
6又は7に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記第2要素と前記第3要素とは、90~100°の角度を有する、請求項
6ないし8のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記第2サイプは、前記要素がタイヤ軸方向の両端部を構成する第4要素及びタイヤ軸方向の中央部を構成する第5要素を含む、請求項
1ないし9のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記第5要素のタイヤ軸方向に対する角度は、前記第4要素のタイヤ軸方向に対する角度よりも大きい、請求項
10に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記第1サイプと前記第2サイプとは、タイヤ周方向に交互に配される、請求項
1ないし11のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記第1サイプは、タイヤ軸方向の両端部が前記第1要素で構成されており、タイヤ軸方向の中央部が前記第2要素で構成されている、請求項
1ないし12のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項14】
前記陸部は、タイヤ赤道上に配されている、請求項
1ないし13のいずれか1項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライ路面での操縦安定性能と氷雪上性能とを両立し得るタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、氷雪上路面での操縦安定性能(以下、「氷雪上性能」という。)を向上させたタイヤが知られている。例えば、下記特許文献1は、タイヤ周方向に連続して延びる主溝に区分された陸部に、主溝から延びて陸部内で終端する複数のラグ溝と複数のサイプとを設けたタイヤにおいて、氷雪上性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のタイヤは、ラグ溝を連結するサイプと、陸部を横断するサイプとが設けられているので、陸部の剛性が低下しており、ドライ路面における操縦安定性能において、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ドライ路面での操縦安定性能と氷雪上性能とを両立し得るタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に延びる第1エッジとタイヤ周方向に延びる第2エッジとにより区画された陸部を有し、前記陸部には、前記第1エッジから前記第2エッジまで延びる複数のサイプが設けられており、前記サイプは、少なくとも2つの要素が折れ曲がるように接続された少なくとも1つの屈曲部を有する屈曲サイプを含み、前記屈曲サイプは、第1サイプと、第2サイプとを含み、前記第1サイプの前記要素は、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜する第1要素と、タイヤ軸方向に対して前記第1方向とは逆向きに傾斜する第2要素とを含み、前記第2サイプは、前記第1方向に傾斜する前記要素のみからなることを特徴とする。
【0007】
本発明のタイヤにおいて、前記第1サイプと前記第2サイプとは、タイヤ周方向に交互に配されるのが望ましい。
【0008】
本発明のタイヤにおいて、前記第1エッジにおける前記第1サイプと前記第2サイプとのタイヤ周方向の最小距離は、タイヤ周方向に隣接する前記第2サイプ間のタイヤ周方向の距離の30%~48%であるのが望ましい。
【0009】
本発明のタイヤにおいて、前記第1サイプは、タイヤ軸方向の両端部が前記第1要素で構成されており、タイヤ軸方向の中央部が前記第2要素で構成されているのが望ましい。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、前記第1サイプは、前記第1要素と前記第2要素とをつなぐ第3要素を含むのが望ましい。
【0011】
本発明のタイヤにおいて、前記第3要素は、前記第1方向に傾斜しているのが望ましい。
【0012】
本発明のタイヤにおいて、前記第2要素と前記第3要素とは、90~100°の角度を有するのが望ましい。
【0013】
本発明のタイヤにおいて、前記第2サイプは、前記要素がタイヤ軸方向の両端部を構成する第4要素及びタイヤ軸方向の中央部を構成する第5要素を含むのが望ましい。
【0014】
本発明のタイヤにおいて、前記第5要素のタイヤ軸方向に対する角度は、前記第4要素のタイヤ軸方向に対する角度よりも大きいのが望ましい。
【0015】
本発明のタイヤにおいて、前記陸部には、前記第1エッジから延びて前記陸部内で終端する第3サイプと、前記第2エッジから延びて前記陸部内で終端する第4サイプとが設けられ、前記第3サイプ及び前記第4サイプは、それぞれ、前記第1方向に傾斜しているのが望ましい。
【0016】
本発明のタイヤにおいて、前記陸部には、前記第1エッジから延びて前記陸部内で終端する第3サイプと、前記第2エッジから延びて前記陸部内で終端する第4サイプとが設けられ、前記第3サイプ及び前記第4サイプの少なくとも一方は、前記第3要素の延長線上に配されているのが望ましい。
【0017】
本発明のタイヤにおいて、前記第1エッジにおける前記第2サイプと前記第3サイプとのタイヤ周方向の最小距離は、タイヤ周方向に隣接する前記第2サイプ間のタイヤ周方向の距離の30%~48%であるのが望ましい。
【0018】
本発明のタイヤにおいて、前記陸部は、タイヤ赤道上に配されているのが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のタイヤにおいて、陸部には、第1エッジから第2エッジまで延びる複数のサイプが設けられており、前記サイプは、少なくとも2つの要素が折れ曲がるように接続された少なくとも1つの屈曲部を有する屈曲サイプを含んでいる。このような陸部は、屈曲サイプにより、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に大きいエッジ効果を発揮することができるので、タイヤの氷雪上性能を向上させ得る。
【0020】
本発明のタイヤにおいて、屈曲サイプは、第1サイプと、第2サイプとを含んでいる。このような屈曲サイプは、第1サイプと第2サイプとにより、陸部の剛性の分布を適正なものとし、ドライ路面でのタイヤの操縦安定性能を向上させ得る。
【0021】
本発明のタイヤにおいて、第1サイプの要素は、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜する第1要素と、タイヤ軸方向に対して前記第1方向とは逆向きに傾斜する第2要素とを含み、第2サイプの前記要素は、前記第1要素のみからなる。
【0022】
このような第1サイプは、第1要素と第2要素とにより、陸部の剛性が高まり、ドライ路面でのタイヤの操縦安定性能をより向上させ得る。また、この第1サイプは、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して、バランスよくエッジ効果を発揮させ得る。一方、第2サイプは、タイヤ軸方向に対して、大きいエッジ効果を発揮させ得る。このため、本発明のタイヤは、ドライ路面での操縦安定性能と氷雪上性能とをバランスよく両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のタイヤのトレッド部の一実施形態を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき詳細に説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2を示す展開図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用や重荷重用の空気入りタイヤ、及び、タイヤの内部に加圧された空気が充填されない非空気式タイヤ等の様々なタイヤに用いることができる。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用の空気入りタイヤとして好適に用いられる。
【0025】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、走行時に路面に接地するトレッド部2を有している。トレッド部2は、タイヤ周方向に延びる第1エッジ3とタイヤ周方向に延びる第2エッジ4とにより区画された陸部5を有するのが望ましい。
【0026】
図2は、陸部5の拡大図である。
図2に示されるように、陸部5には、第1エッジ3から第2エッジ4まで延びる複数のサイプ6が設けられるのが望ましい。このような陸部5は、複数のサイプ6により、大きいエッジ効果を確保することができるので、タイヤ1の氷雪上性能を向上させ得る。
【0027】
本実施形態のサイプ6は、少なくとも2つの要素7が折れ曲がるように接続された少なくとも1つの屈曲部8を有する屈曲サイプ9を含んでいる。このような陸部5は、屈曲サイプ9により、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に大きいエッジ効果を発揮することができるので、タイヤ1の氷雪上性能を向上させ得る。
【0028】
屈曲サイプ9は、例えば、第1サイプ9Aと、第2サイプ9Bとを含んでいる。このような屈曲サイプ9は、陸部5の剛性の分布を適正なものとし、ドライ路面でのタイヤ1の操縦安定性能を向上させ得る。
【0029】
本実施形態の第1サイプ9Aの要素7は、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜する第1要素7Aと、タイヤ軸方向に対して第1方向とは逆向きに傾斜する第2要素7Bとを含んでいる。このような第1サイプ9Aは、第1要素7Aと第2要素7Bとにより、陸部5の剛性が高まり、ドライ路面でのタイヤ1の操縦安定性能をより向上させ得る。また、この第1サイプ9Aは、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して、バランスよくエッジ効果を発揮させ得る。
【0030】
本実施形態の第2サイプ9Bは、第1方向に傾斜する要素7のみからなる。このような第2サイプ9Bは、タイヤ軸方向に対して、大きいエッジ効果を発揮させ得る。このため、本実施形態のタイヤ1は、第1サイプ9Aと第2サイプ9Bとを含む屈曲サイプ9により、ドライ路面での操縦安定性能と氷雪上性能とをバランスよく両立することができる。
【0031】
第2サイプ9Bは、例えば、第1エッジ3及び第2エッジ4からタイヤ軸方向内側へ向けて凹むように設けられた凹部10から延びている。このような第2サイプ9Bは、凹部10と協働して、タイヤ1の氷雪上性能を向上させている。
【0032】
第1サイプ9Aと第2サイプ9Bとは、タイヤ周方向に交互に配されるのが望ましい。このような屈曲サイプ9は、陸部5の剛性をバランスよく適正化することができ、ドライ路面でのタイヤ1の操縦安定性能をより向上させ得る。
【0033】
第1エッジ3における第1サイプ9Aと第2サイプ9Bとのタイヤ周方向の最小距離L1は、好ましくは、タイヤ周方向に隣接する第2サイプ9B間のタイヤ周方向の距離L2の30%~48%である。このような第1サイプ9Aと第2サイプ9Bとは、互いに協働して、陸部5の剛性を維持しつつ、エッジ効果を発揮することができる。ここで、第2サイプ9Bの第1エッジ3におけるタイヤ周方向の位置は、第2サイプ9Bの凹部10に開口した位置である。
【0034】
本明細書において、特に言及されない場合、タイヤ1の各部の寸法等は、正規状態で測定された値である。また、タイヤ1の各部の長さ又は距離は、トレッド部2のタイヤ半径方向の最も外側の外面における長さ又は距離である。
【0035】
ここで、「正規状態」とは、空気入りタイヤの場合、タイヤ1が正規リムにリム組みされかつ正規内圧に調整された無負荷の状態である。
【0036】
「正規リム」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0037】
「正規内圧」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0038】
本実施形態の第1サイプ9Aは、タイヤ軸方向の両端部が第1要素7Aで構成されており、タイヤ軸方向の中央部が第2要素7Bで構成されている。第1サイプ9Aは、第1要素7Aと第2要素7Bとをつなぐ第3要素7Cを含むのが望ましい。
【0039】
本実施形態の第3要素7Cは、第1方向に傾斜している。第3要素7Cのタイヤ軸方向に対する角度θ3は、第1要素7Aのタイヤ軸方向に対する角度θ1よりも大きいのが望ましい。第3要素7Cの角度θ3は、好ましくは、タイヤ軸方向に対して、45~65°である。第2要素7Bと第3要素7Cとは、90~100°の角度θ2を有するのがより好ましい。このような第1サイプ9Aは、氷雪路面走行時、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向にバランスよくエッジ効果を発揮させ、タイヤ1の氷雪上性能を向上させ得る。
【0040】
第2要素7Bは、第1要素7Aよりも浅いのが望ましい。第3要素7Cは、例えば、第1要素7Aよりも浅く、第2要素7Bよりも深い。このような第1サイプ9Aは、その深さが一様ではないので、陸部5の剛性低下を抑止し、ドライ路面でのタイヤ1の操縦安定性能を向上させ得る。
【0041】
本実施形態の第2サイプ9Bは、要素7がタイヤ軸方向の両端部を構成する第4要素7D及びタイヤ軸方向の中央部を構成する第5要素7Eを含んでいる。第5要素7Eのタイヤ軸方向に対する角度θ5は、第4要素7Dのタイヤ軸方向に対する角度θ4よりも大きいのが望ましい。このような第2サイプ9Bは、タイヤ周方向に大きいエッジ効果を発揮させ、タイヤ1の氷雪上性能を向上させ得る。
【0042】
第5要素7Eは、第4要素7Dよりも浅いのが望ましい。第4要素7Dは、例えば、第1要素7Aと同じ深さを有している。また、第5要素7Eは、例えば、第3要素7Cと同じ深さを有している。このような第2サイプ9Bは、その深さが一様ではないので、陸部5の剛性低下を抑止し、ドライ路面でのタイヤ1の操縦安定性能を向上させ得る。
【0043】
本実施形態の陸部5には、第1エッジ3から延びて陸部5内で終端する第3サイプ11と、第2エッジ4から延びて陸部5内で終端する第4サイプ12とが設けられている。第3サイプ11及び第4サイプ12は、それぞれ、第1方向に傾斜するのが望ましい。
【0044】
第3サイプ11及び第4サイプ12の少なくとも一方は、第3要素7Cの延長線上に配されるのが望ましい。本実施形態では、第3サイプ11及び第4サイプ12が共に、第3要素7Cの延長線上に配されている。
【0045】
第3サイプ11と第3要素7Cとの最小距離L3は、好ましくは、2~4mmである。また、第4サイプ12と第3要素7Cとの最小距離L4は、好ましくは、2~4mmである。最小距離L3と最小距離L4とは、互いに等しいのが望ましい。このような第3サイプ11及び第4サイプ12は、陸部5の剛性を低下させることなく、第1サイプ9Aと協働して、大きいエッジ効果を発揮させ、タイヤ1のドライ路面での操縦安定性能と氷雪上性能とを両立させ得る。
【0046】
第1エッジ3における第1サイプ9Aと第3サイプ11とのタイヤ周方向の最小距離L5は、好ましくは、タイヤ周方向に隣接する第2サイプ9B間のタイヤ周方向の距離L2の20%~40%である。このような第1サイプ9Aと第3サイプ11とは、互いに協働して、陸部5の剛性を維持しつつ、エッジ効果を発揮することができる。
【0047】
第1エッジ3における第2サイプ9Bと第3サイプ11とのタイヤ周方向の最小距離L6は、好ましくは、タイヤ周方向に隣接する第2サイプ9B間のタイヤ周方向の距離L2の30%~48%である。このような第2サイプ9Bと第3サイプ11とは、互いに協働して、陸部5の剛性を維持しつつ、エッジ効果を発揮することができる。
【0048】
第4サイプ12は、第3サイプ11と同じ深さを有するのが望ましい。本実施形態の第3サイプ11及び第4サイプ12は、第1要素7Aと同じ深さを有している。このような第3サイプ11と第4サイプ12とは、陸部5の剛性をタイヤ軸方向に対してバランスよく適正なものとし、ドライ路面でのタイヤ1の操縦安定性能を向上させ得る。
【0049】
図1に示されるように、本実施形態のトレッド部2は、タイヤ赤道Cの両側に隣接してタイヤ周方向に延びるクラウン縦溝13と、クラウン縦溝13とトレッド端Teとの間でタイヤ周方向に延びるショルダー縦溝14とを有している。
【0050】
ここで、トレッド端Teとは、空気入りタイヤの場合、正規状態のタイヤ1に正規荷重が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置である。このトレッド端Te間のタイヤ軸方向の中央位置が、タイヤ赤道Cである。
【0051】
「正規荷重」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0052】
クラウン縦溝13及びショルダー縦溝14は、それぞれ、例えば、トレッド幅TWの2%以上の溝幅を有している。ここで、トレッド幅TWは、正規状態でのトレッド端Te間のタイヤ軸方向の距離である。
【0053】
本実施形態のトレッド部2は、クラウン縦溝13とショルダー縦溝14とにより区分される複数の陸部5を有している。複数の陸部5は、クラウン縦溝13の間に区分されるクラウン陸部15と、クラウン縦溝13とショルダー縦溝14との間に区分されるミドル陸部16と、ショルダー縦溝14とトレッド端Teとの間に区分されるショルダー陸部17とを含むのが望ましい。
【0054】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態の第1エッジ3と第2エッジ4とにより区画される陸部5は、タイヤ赤道C上に配されているクラウン陸部15である。このため、本実施形態のクラウン陸部15には、上述の第1サイプ9A、第2サイプ9B、第3サイプ11及び第4サイプ12が設けられている。
【0055】
図2に示されるように、第1サイプ9Aの第2要素7Bは、タイヤ赤道Cを横切るのが望ましい。本実施形態の第1サイプ9Aは、第2要素7B及び第3要素7Cが、それぞれ、タイヤ赤道Cを横切っている。このような第1サイプ9Aは、クラウン陸部15の剛性をタイヤ軸方向に対してバランスよく適正なものとし、ドライ路面でのタイヤ1の操縦安定性能を向上させ得る。
【0056】
図3は、ミドル陸部16の拡大図である。
図3に示されるように、本実施形態のミドル陸部16には、クラウン縦溝13から延びる第1ミドル横溝18と、ショルダー縦溝14から延びる第2ミドル横溝19とが設けられている。第1ミドル横溝18及び第2ミドル横溝19は、それぞれ、タイヤ軸方向に対して第1方向とは逆向きに傾斜し、ミドル陸部16内で終端するのが望ましい。
【0057】
本実施形態の第1ミドル横溝18のタイヤ軸方向長さL7は、第2ミドル横溝19のタイヤ軸方向長さL8よりも大きい。第1ミドル横溝18のタイヤ軸方向長さL7及び第2ミドル横溝19のタイヤ軸方向長さL8は、それぞれ、ミドル陸部16の幅Wの50%よりも大きいのが望ましい。このような第1ミドル横溝18及び第2ミドル横溝19は、それぞれ、その溝内に雪柱を形成し、これをせん断することによって、タイヤ1の氷雪上性能を向上させている。
【0058】
第1ミドル横溝18は、例えば、クラウン縦溝13に開口する第1ミドル要素18Aと、ミドル陸部16内で終端する第2ミドル要素18Bと、第1ミドル要素18Aと第2ミドル要素18Bとを接続する第3ミドル要素18Cとを含んでいる。第2ミドル要素18Bは、第1ミドル要素18Aよりも浅いのが望ましい。本実施形態の第3ミドル要素18Cは、第1ミドル要素18Aの深さから第2ミドル要素18Bの深さまで、滑らかに変化する深さを有している。このような第1ミドル横溝18は、ミドル陸部16の剛性を維持しつつ、雪柱せん断力を発揮することによって、タイヤ1のドライ路面での操縦安定性能と氷雪上性能とを両立させている。
【0059】
第1ミドル横溝18は、例えば、クラウン縦溝13との開口部18aに面取部20を有している。本実施形態の第1ミドル横溝18の開口部18aは、クラウン縦溝13を挟んで、クラウン陸部15の凹部10と対向している。このような第1ミドル横溝18は、クラウン縦溝13及び凹部10と協働して、タイヤ1の氷雪上性能を向上させている。
【0060】
第2ミドル横溝19は、例えば、ショルダー縦溝14に開口する第4ミドル要素19Aと、ミドル陸部16内で終端する第5ミドル要素19Bと、第4ミドル要素19Aと第5ミドル要素19Bとを接続する第6ミドル要素19Cとを含んでいる。第5ミドル要素19Bは、第4ミドル要素19Aよりも浅いのが望ましい。本実施形態の第6ミドル要素19Cは、第4ミドル要素19Aの深さから第5ミドル要素19Bの深さまで、滑らかに変化する深さを有している。このような第2ミドル横溝19は、ミドル陸部16の剛性を維持しつつ、雪柱せん断力を発揮することによって、タイヤ1のドライ路面での操縦安定性能と氷雪上性能とを両立させている。
【0061】
本実施形態のミドル陸部16には、クラウン縦溝13から延びてミドル陸部16内で終端する第1ミドルサイプ21と、ショルダー縦溝14から延びてミドル陸部16内で終端する第2ミドルサイプ22とが設けられている。第1ミドルサイプ21及び第2ミドルサイプ22は、それぞれ、タイヤ軸方向に対して第1方向とは逆向きに傾斜するのが望ましい。本実施形態の第1ミドルサイプ21と第2ミドルサイプ22とは、互いに平行である。このような第1ミドルサイプ21及び第2ミドルサイプ22は、互いに協働して大きいエッジ効果を発揮させ、タイヤ1の氷雪上性能を向上させている。
【0062】
ミドル陸部16には、第1ミドルサイプ21と第2ミドルサイプ22とをつなぐミドル細溝23が設けられるのが望ましい。ミドル細溝23は、例えば、第1ミドルサイプ21のミドル陸部16内の終端部21aと第2ミドルサイプ22のミドル陸部16内の終端部22aとをつないでいる。ミドル細溝23は、タイヤ軸方向に対して第1方向に傾斜するのが望ましい。このようなミドル細溝23は、第1ミドルサイプ21及び第2ミドルサイプ22と協働して、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向にバランスよくエッジ効果を発揮させ、タイヤ1の氷雪上性能を向上させ得る。
【0063】
ミドル陸部16には、クラウン縦溝13から延びてミドル陸部16内で終端する第3ミドルサイプ24と、ショルダー縦溝14から延びてミドル陸部16内で終端する第4ミドルサイプ25とが設けられるのが望ましい。
【0064】
本実施形態の第3ミドルサイプ24は、第2ミドルサイプ22の延長線上に配されている。第3ミドルサイプ24と第2ミドルサイプ22との最小距離L9は、好ましくは、2~4mmである。また、本実施形態の第4ミドルサイプ25は、第1ミドルサイプ21の延長線上に配されている。第4ミドルサイプ25と第1ミドルサイプ21との最小距離L10は、好ましくは、2~4mmである。最小距離L9と最小距離L10とは、互いに等しいのが望ましい。このような第3ミドルサイプ24及び第4ミドルサイプ25は、ミドル陸部16の剛性を低下させることなく、第2ミドルサイプ22及び第1ミドルサイプ21と協働して、大きいエッジ効果を発揮させ得る。
【0065】
ミドル陸部16には、第1ミドル横溝18とショルダー縦溝14とをつなぐ第5ミドルサイプ26と、第2ミドル横溝19とクラウン縦溝13とをつなぐ第6ミドルサイプ27とが設けられるのが望ましい。このような第5ミドルサイプ26及び第6ミドルサイプ27は、ミドル陸部16の高い剛性を維持しつつ、そのエッジ効果により、タイヤ1の氷雪上性能を向上させ得る。
【0066】
図1に示されるように、本実施形態のショルダー陸部17には、トレッド端Teからタイヤ軸方向内側に延びるショルダー横溝28と、トレッド端Teからタイヤ軸方向内側に延びる第1ショルダーサイプ29とが設けられている。
【0067】
ショルダー横溝28は、例えば、トレッド端Teからショルダー縦溝14まで延びる第1ショルダー横溝30と、ショルダー陸部17内で終端する第2ショルダー横溝31とを含んでいる。このようなショルダー横溝28は、その溝内に雪柱を形成し、これをせん断することによって、タイヤ1の氷雪上性能を向上させている。
【0068】
本実施形態の第1ショルダー横溝30は、トレッド端Teから延びる第1ショルダー要素30Aと、第1ショルダー要素30Aとショルダー縦溝14とをつなぐ第2ショルダー要素30Bとを含んでいる。第2ショルダー要素30Bは、第1ショルダー要素30Aよりも溝幅が小さくかつ浅いのが望ましい。第1ショルダー横溝30は、例えば、ショルダー縦溝14との開口部30aに面取部32を有している。このような第1ショルダー横溝30は、ショルダー縦溝14と協働してタイヤ1の氷雪上性能をより向上させることができる。
【0069】
第1ショルダー横溝30と第2ショルダー横溝31とは、タイヤ周方向に交互に配されるのが望ましい。このような第1ショルダー横溝30と第2ショルダー横溝31とが設けられたショルダー陸部17は、その剛性をバランスよく分布し、タイヤ1の耐久性能を向上させ得る。
【0070】
本実施形態の第1ショルダーサイプ29は、トレッド端Teからショルダー縦溝14まで延びている。第1ショルダーサイプ29は、タイヤ周方向において、第1ショルダー横溝30と第2ショルダー横溝31との間に少なくとも1本、本実施形態では2本、配されている。このような第1ショルダーサイプ29は、ショルダー陸部17の高い剛性を維持しつつ、そのエッジ効果により、タイヤ1の氷雪上性能を向上させ得る。
【0071】
本実施形態のショルダー陸部17には、第2ショルダー横溝31とショルダー縦溝14とをつなぐ第2ショルダーサイプ33が設けられている。このような第2ショルダーサイプ33は、ショルダー陸部17の高い剛性を維持しつつ、そのエッジ効果により、タイヤ1の氷雪上性能を向上させることができる。
【0072】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施し得る。
【実施例】
【0073】
図1の基本パターンを有するタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。各テストタイヤの操縦安定性能及び氷雪上性能がテストされた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下のとおりである。
【0074】
タイヤサイズ:215/60R16
リムサイズ:16×6.5J
空気圧:240kPa
テスト車両:前輪駆動の中型乗用車
タイヤ装着位置:全輪
【0075】
<操縦安定性能>
テストタイヤが装着されたテスト車両でドライ路面を走行したときの操縦安定性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1を100とする指数で表され、数値が大きいほど操縦安定性能が優れていることを示す。
【0076】
<氷雪上性能>
テストタイヤが装着されたテスト車両で氷雪上路面を走行したときの操縦安定性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1を100とする指数で表され、数値が大きいほど氷雪上性能が優れていることを示す。
【0077】
テストの結果が表1及び表2に示される。
【0078】
【0079】
【0080】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例に対して、ドライ路面での操縦安定性能と氷雪上性能とをバランスよく両立していることが確認できた。
【符号の説明】
【0081】
1 タイヤ
2 トレッド部
3 第1エッジ
4 第2エッジ
5 陸部
6 サイプ
7 要素
7A 第1要素
7B 第2要素
8 屈曲部
9 屈曲サイプ
9A 第1サイプ
9B 第2サイプ