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特許7035926電気自動車用インバータの制御装置および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】電気自動車用インバータの制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20220308BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20220308BHJP
   H02P 21/05 20060101ALI20220308BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60L9/18 J
H02P21/05
H02P27/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018170168
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2020043700
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】小川 隆一
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-072948(JP,A)
【文献】国際公開第2014/057910(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104427(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-58/40
B60W 10/00-20/50
H02P 21/05
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車のタイヤを回転させるモータのトルク指令と、振動を抑制するための補償トルクとの偏差をとって制振トルク指令を求める制振トルク指令生成部と、
前記制振トルク指令生成部によって求められた制振トルク指令に基づいてdq軸変換および2相/3相変換を含む処理を行って制御電圧を演算する電流指令演算部と、
前記電流指令演算部で演算された制御電圧に基づいて直流電圧を交流電圧に変換して前記モータに供給するインバータと、を備えた電気自動車用インバータの制御装置であって、
前記制振トルク指令生成部は、
前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相から検出加速度を演算する加速度演算部と、
前記加速度演算部で演算された検出加速度から特定周波数成分をフィルタリングして制振補償トルクを演算して出力する制振制御部と、
前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相を微分してモータ角速度を求める速度演算部と、
前記速度演算部で求められたモータ角速度に対して速度0を目標値とする比例制御を行ってパーキング補償トルクを出力する速度制御部と、を備え、
パーキングロック解除時に、前記制振制御部から出力される制振補償トルクと前記速度制御部から出力されるパーキング補償トルクを加算したトルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとすることを特徴とした電気自動車用インバータの制御装置。
【請求項2】
電気自動車のタイヤを回転させるモータのトルク指令と、振動を抑制するための補償トルクとの偏差をとって制振トルク指令を求める制振トルク指令生成部と、
前記制振トルク指令生成部によって求められた制振トルク指令に基づいてdq軸変換および2相/3相変換を含む処理を行って制御電圧を演算する電流指令演算部と、
前記電流指令演算部で演算された制御電圧に基づいて直流電圧を交流電圧に変換して前記モータに供給するインバータと、を備えた電気自動車用インバータの制御装置であって、
前記制振トルク指令生成部は、
前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相から検出加速度を演算する加速度演算部と、
前記加速度演算部で演算された検出加速度から特定周波数成分をフィルタリングして制振補償トルクを演算して出力する制振制御部と、
前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相を微分してモータ角速度を求める速度演算部と、
前記速度演算部で求められたモータ角速度に対して速度0を目標値とする比例制御を行ってパーキング補償トルクを出力する速度制御部と、を備え、
パーキングロック解除時は、前記速度制御部から出力されるパーキング補償トルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとし、パーキングロック解除時以外は、前記制振制御部から出力される制振補償トルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとすることを特徴とした電気自動車用インバータの制御装置。
【請求項3】
電気自動車のタイヤを回転させるモータのトルク指令と、振動を抑制するための補償トルクとの偏差をとって制振トルク指令を求める制振トルク指令生成部と、
前記制振トルク指令生成部によって求められた制振トルク指令に基づいてdq軸変換および2相/3相変換を含む処理を行って制御電圧を演算する電流指令演算部と、
前記電流指令演算部で演算された制御電圧に基づいて直流電圧を交流電圧に変換して前記モータに供給するインバータと、を備えた電気自動車用インバータの制御方法であって、
前記制振トルク指令生成部に設けた加速度演算部が、前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相から検出加速度を演算し、
前記制振トルク指令生成部に設けた制振制御部が、前記加速度演算部で演算された検出加速度から特定周波数成分をフィルタリングして制振補償トルクを演算して出力し、
前記制振トルク指令生成部に設けた速度演算部が、前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相を微分してモータ角速度を求め、
前記制振トルク指令生成部に設けた速度制御部が、前記速度演算部で求められたモータ角速度に対して速度0を目標値とする比例制御を行ってパーキング補償トルクを出力し、
パーキングロック解除時に、前記制振トルク指令生成部は、前記制振制御部から出力される制振補償トルクと前記速度制御部から出力されるパーキング補償トルクを加算したトルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとすることを特徴とした電気自動車用インバータの制御方法。
【請求項4】
電気自動車のタイヤを回転させるモータのトルク指令と、振動を抑制するための補償トルクとの偏差をとって制振トルク指令を求める制振トルク指令生成部と、
前記制振トルク指令生成部によって求められた制振トルク指令に基づいてdq軸変換および2相/3相変換を含む処理を行って制御電圧を演算する電流指令演算部と、
前記電流指令演算部で演算された制御電圧に基づいて直流電圧を交流電圧に変換して前記モータに供給するインバータと、を備えた電気自動車用インバータの制御方法であって、
前記制振トルク指令生成部に設けた加速度演算部が、前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相から検出加速度を演算し、
前記制振トルク指令生成部に設けた制振制御部が、前記加速度演算部で演算された検出加速度から特定周波数成分をフィルタリングして制振補償トルクを演算して出力し、
前記制振トルク指令生成部に設けた速度演算部が、前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相を微分してモータ角速度を求め、
前記制振トルク指令生成部に設けた速度制御部が、前記速度演算部で求められたモータ角速度に対して速度0を目標値とする比例制御を行ってパーキング補償トルクを出力し、
パーキングロック解除時は、前記制振トルク指令生成部が、前記速度制御部から出力されるパーキング補償トルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとし、パーキングロック解除時以外は、前記制振トルク指令生成部が、前記制振制御部から出力される制振補償トルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとすることを特徴とした電気自動車用インバータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車のパーキングロック解除時の振動抑制に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車は、一般的にバッテリ、バッテリの直流電圧を交流電圧に変換しモータに印加するインバータ、タイヤを回転させるモータ、などから構成される。前記インバータは、アクセル・ブレーキ等の動作から生成されるトルク指令に基づいて、モータが適正なトルクで運転できるような振幅・周波数の交流電圧を生成してモータへ印加する。
【0003】
電気自動車の駆動トルク伝達系は、モータトルクがドライブシャフトを介してタイヤを回転させ、タイヤの回転運動が車体の前後運動へと伝わる2慣性系である。この慣性系は共振特性を持つため、モータトルク、もしくは外乱によって車体の共振(振動)が励起され、乗り心地を悪化させる。
【0004】
外乱の生じる1つの事例として、パーキングロック解除時にドライブシャフトのねじれが解放されることによって生じるトルクの衝撃がある。
【0005】
パーキングロック解除時のモータ振動を抑制する先行技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。特許文献1では、パーキングロック解除時の衝撃を抑えるために、検出した回転方向と逆方向のトルクを与えている(特許文献1の図2のフロー参照)。しかし特許文献1には、振動抑制の精度や定量的な効果については記載されていない。
【0006】
また、他のパーキングロック解除時の衝撃を抑える先行技術として、例えば特許文献2に記載の技術がある。特許文献2は、共振成分(例えば0.1~1000Hz)を抽出してそれに基づく補償トルクをフィードバックする方式であり、以下にその共振抑制方式を説明する。
【0007】
まず、図7は特許文献2に示されている電気自動車の全体構成図である。図7において、1は各種センサ2から取得した車両100の状態に関する車両情報に基づいて、モータ4を駆動させるための第1のトルク指令値Trefを出力する車両制御装置である。
【0008】
3はモータ制御装置であり、共振抑制制御部31、ゲイン演算回路32、加算器33、電流指令演算部34、バッテリ8の直流電圧を交流電圧に変換してモータ4に供給するインバータ35を備えている。
【0009】
モータ4はトランスミッション6を介して駆動輪(タイヤ)7に接続され、駆動輪7を回転させる。前記各種センサ2としては、ブレーキポジションセンサ21、シフトポジションセンサ22、アクセルポジションセンサ(図示省略)、車速センサ(図示省略)等が含まれる。
【0010】
共振抑制制御部31の第1の処理は、レゾルバセンサ5(モータ電気角センサ)を介してモータ4の回転速度(ω)を取得し、これに基づいて車両共振成分を抽出し、車両共振抑制値を算出するものである。この車両共振抑制値は、ゲイン演算回路32においてゲイン関数kが乗算されて第2のトルク指令値Tinhとして出力される。
【0011】
また共振抑制制御部31の第2の処理は、各種センサ2からの車両情報に基づいて共振抑制補償の必要性を判定し、必要性がないと判定した場合は、前記車両共振抑制値の出力を禁止し第2のトルク指令値Tinhを零とするものである。
【0012】
加算器33は、第1のトルク指令値Trefおよび第2のトルク指令値Tinhを合算するが、Tinhが負のトルクであることから実際にはTrefからTinhの絶対値を差し引いた値を、共振抑制補償後の駆動トルク指令値として出力する。
【0013】
電流指令値演算部34は、加算器33から出力される共振抑制補償後の駆動トルク指令値に基づいて、dq軸変換、2相/3相変換等の演算処理を行って、3相交流の制御電圧を生成する。
【0014】
インバータ35のパワースイッチング素子(図示省略)は電流指令演算部34で生成された3相交流の制御電圧により駆動され、インバータ35はバッテリ8の直流電圧を所望の3相交流波形の交流電圧に変換してモータ4を駆動させる。
【0015】
次に、特許文献2に記載の制振制御システム(トルク制御システム)を従来法の制振制御システムとし、その従来法の制振制御システムについて、図8図9とともに説明する。
【0016】
図8は従来法のシステム構成を示しているが、特許文献2には加速度を用いた共振抑制について記述があることをふまえ、ここでは加速度から補償トルクを算出するシステム構成とした。
【0017】
図8の制振制御システムには、トルク指令T*と検出モータ位相θが入力される。トルク指令T*図8の制振制御システムより上位、すなわち図7の車両制御装置1によって、運転状況、運転上の目標等に基づいて決められる任意のトルク指令とする。
【0018】
検出モータ位相θは、モータの電気角を検出して取得した位相であり、例えばモータ(図7のモータ4)に備え付けられているエンコーダにより検出される。
【0019】
51は、前記検出モータ位相θを微分して検出速度ωdet=dθ/dtを求め、さらにこれを微分した検出加速度dωdet/dtを出力する加速度演算部である。
【0020】
52は、加速度演算部51から出力される検出加速度dωdet/dtを基に制振補償トルクTvを演算して出力する制振制御部である。
【0021】
57は、入力されたトルク指令T*から制振制御部52で演算された制振補償トルクTvを減算する減算器であり、その減算結果(偏差出力)は制振トルク指令T**として出力される。
【0022】
制振制御部52は図9のように構成されている。図9において、61は、前記加速度演算部51で演算された検出加速度(検出角加速度)dωdet/dtから、車両の共振に関係する特定の周波数成分のみをフィルタリングするバンドパスフィルタである。バンドパスフィルタ61の出力にはゲイン乗算器62のゲインが乗算され、制振補償トルクTvとして出力される。
【0023】
なお、バンドパスフィルタ61は共振の抑制のためのフィルタであればよく、例えばローパスフィルタに置き換えてもよい。図8に示すようにトルク指令T*から制振補償トルクTvを減算するため、ゲイン乗算器62のゲインは0以上の正の値で適切な値を設定するものとする。
【0024】
演算された制振補償トルクTvは制振制御部52から出力され、図8の減算器57においてトルク指令T*から制振補償トルクTvを減算した値が制振トルク指令T**となる。この制振トルク指令T**図7の加算器33の出力に相当する。
【0025】
制振トルク指令T**に基づいて、図7の電流指令演算部34がdq軸変換、2相/3相変換などの処理を行い、3相交流の制御電圧を生成し、インバータ35へ入力する。インバータ35は、3相交流の制御電圧と三角波キャリア信号との比較によってインバータ内の各パワースイッチング素子のゲート信号(オン、オフ信号)を生成し交流電圧(PWM電圧)を出力して、負荷であるモータ4を制御する。
【0026】
なお、この従来法の共振抑制技術は、パーキングロック解除時に限定するものではなく、電気自動車の走行中にも適用できる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【文献】特許第3903813号公報
【文献】特開2014-72948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
図7図9で述べた従来の制振制御法では、バンドパスフィルタ(61)で抽出した、特定の共振周波数成分の振動抑制については有効である。言い換えると、バンドパスフィルタで抽出した特定の共振周波数成分以外に対しての振動抑制効果は低い。
【0029】
このため、パーキングロック解除時に生じるステップ状の衝撃、つまり共振周波数以外の多周波数成分を含む衝撃による振動を、完全に抑制することはできない。よって電気自動車の乗り心地がよくない、という問題があった。
【0030】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、パーキングロック解除時に生じる衝撃を、全周波数域に対し抑制することができる電気自動車用インバータの制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するための請求項1に記載の電気自動車用インバータの制御装置は、
電気自動車のタイヤを回転させるモータのトルク指令と、振動を抑制するための補償トルクとの偏差をとって制振トルク指令を求める制振トルク指令生成部と、
前記制振トルク指令生成部によって求められた制振トルク指令に基づいてdq軸変換および2相/3相変換を含む処理を行って制御電圧を演算する電流指令演算部と、
前記電流指令演算部で演算された制御電圧に基づいて直流電圧を交流電圧に変換して前記モータに供給するインバータと、を備えた電気自動車用インバータの制御装置であって、
前記制振トルク指令生成部は、
前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相から検出加速度を演算する加速度演算部と、
前記加速度演算部で演算された検出加速度から特定周波数成分をフィルタリングして制振補償トルクを演算して出力する制振制御部と、
前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相を微分してモータ角速度を求める速度演算部と、
前記速度演算部で求められたモータ角速度に対して速度0を目標値とする比例制御を行ってパーキング補償トルクを出力する速度制御部と、を備え、
パーキングロック解除時に、前記制振制御部から出力される制振補償トルクと前記速度制御部から出力されるパーキング補償トルクを加算したトルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとすることを特徴としている。
【0032】
また、請求項2に記載の電気自動車用インバータの制御装置は、
電気自動車のタイヤを回転させるモータのトルク指令と、振動を抑制するための補償トルクとの偏差をとって制振トルク指令を求める制振トルク指令生成部と、
前記制振トルク指令生成部によって求められた制振トルク指令に基づいてdq軸変換および2相/3相変換を含む処理を行って制御電圧を演算する電流指令演算部と、
前記電流指令演算部で演算された制御電圧に基づいて直流電圧を交流電圧に変換して前記モータに供給するインバータと、を備えた電気自動車用インバータの制御装置であって、
前記制振トルク指令生成部は、
前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相から検出加速度を演算する加速度演算部と、
前記加速度演算部で演算された検出加速度から特定周波数成分をフィルタリングして制振補償トルクを演算して出力する制振制御部と、
前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相を微分してモータ角速度を求める速度演算部と、
前記速度演算部で求められたモータ角速度に対して速度0を目標値とする比例制御を行ってパーキング補償トルクを出力する速度制御部と、を備え、
パーキングロック解除時は、前記速度制御部から出力されるパーキング補償トルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとし、パーキングロック解除時以外は、前記制振制御部から出力される制振補償トルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとすることを特徴としている。
【0033】
また、請求項3に記載の電気自動車用インバータの制御方法は、
電気自動車のタイヤを回転させるモータのトルク指令と、振動を抑制するための補償トルクとの偏差をとって制振トルク指令を求める制振トルク指令生成部と、
前記制振トルク指令生成部によって求められた制振トルク指令に基づいてdq軸変換および2相/3相変換を含む処理を行って制御電圧を演算する電流指令演算部と、
前記電流指令演算部で演算された制御電圧に基づいて直流電圧を交流電圧に変換して前記モータに供給するインバータと、を備えた電気自動車用インバータの制御方法であって、
前記制振トルク指令生成部に設けた加速度演算部が、前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相から検出加速度を演算し、
前記制振トルク指令生成部に設けた制振制御部が、前記加速度演算部で演算された検出加速度から特定周波数成分をフィルタリングして制振補償トルクを演算して出力し、
前記制振トルク指令生成部に設けた速度演算部が、前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相を微分してモータ角速度を求め、
前記制振トルク指令生成部に設けた速度制御部が、前記速度演算部で求められたモータ角速度に対して速度0を目標値とする比例制御を行ってパーキング補償トルクを出力し、
パーキングロック解除時に、前記制振トルク指令生成部は、前記制振制御部から出力される制振補償トルクと前記速度制御部から出力されるパーキング補償トルクを加算したトルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとすることを特徴としている。
【0034】
また、請求項4に記載の電気自動車用インバータの制御方法は、
電気自動車のタイヤを回転させるモータのトルク指令と、振動を抑制するための補償トルクとの偏差をとって制振トルク指令を求める制振トルク指令生成部と、
前記制振トルク指令生成部によって求められた制振トルク指令に基づいてdq軸変換および2相/3相変換を含む処理を行って制御電圧を演算する電流指令演算部と、
前記電流指令演算部で演算された制御電圧に基づいて直流電圧を交流電圧に変換して前記モータに供給するインバータと、を備えた電気自動車用インバータの制御方法であって、
前記制振トルク指令生成部に設けた加速度演算部が、前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相から検出加速度を演算し、
前記制振トルク指令生成部に設けた制振制御部が、前記加速度演算部で演算された検出加速度から特定周波数成分をフィルタリングして制振補償トルクを演算して出力し、
前記制振トルク指令生成部に設けた速度演算部が、前記モータの電気角を検出して取得した検出モータ位相を微分してモータ角速度を求め、
前記制振トルク指令生成部に設けた速度制御部が、前記速度演算部で求められたモータ角速度に対して速度0を目標値とする比例制御を行ってパーキング補償トルクを出力し、
パーキングロック解除時は、前記制振トルク指令生成部が、前記速度制御部から出力されるパーキング補償トルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとし、パーキングロック解除時以外は、前記制振トルク指令生成部が、前記制振制御部から出力される制振補償トルクを、前記振動を抑制するための補償トルクとすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、速度0を目標値とする比例制御を行って出力される速度制御部のパーキング補償トルクを用いているので、パーキングロック解除時に生じる衝撃を、全周波数域に対して抑制することができる。このため、振動がより抑制されて電気自動車の乗り心地が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施例1における制振トルク指令生成部の構成図。
図2図1の速度制御部の詳細を示す構成図。
図3】パーキングロック解除時のシミュレーションに用いるモデルを表し、(a)は制振制御からトルク発生までのブロック図、(b)は車両慣性系のブロック図。
図4】パーキングロック解除直後のシミュレーション結果を表し、(a)は駆動トルクの波形図、(b)は制振トルク指令の波形図。
図5】パーキングロック解除後の定常状態のシミュレーション結果を表し、(a)は駆動トルクの波形図、(b)は制振トルク指令の波形図。
図6】本発明の実施例2における制振トルク指令生成部の構成図。
図7】特許文献2に記載の電気自動車の全体構成図。
図8】従来の制振制御システムの一例を示す構成図。
図9図8の制振制御部の詳細を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本発明では、トルクがもたらす車体の衝撃と共振への対策として、検出モータ速度に基いて速度制御を行って補償トルクを算出することで、トルク指令を補償する。
【実施例1】
【0038】
図1図2は、例えば図7の電気自動車に適用される、実施例1(提案法)による制振制御システム(本発明の制振トルク指令生成部)の構成を表し、図8図9の従来法のシステム構成と同一部分は同一符号をもって示している。
【0039】
図1のシステムには、従来法のシステムと同様にトルク指令T*と検出モータ位相θが入力される。トルク指令T*は従来法と同じく上位(例えば図7の車両制御装置1)で決められる任意のトルク指令である。検出モータ位相θはモータ4に備え付けられているエンコーダによって検出し、加速度演算部51と速度演算部53に入力される。
【0040】
加速度演算部51は従来法と同様に、検出モータ位相θを微分して検出速度ωdet=dθ/dtを求め、さらにこれを微分した検出加速度dωdet/dtを出力する。
【0041】
制振制御部52は、従来法と同様に、加速度演算部51から出力される検出加速度dωdet/dtを基に、車両の共振に関係する特定周波数成分をフィルタリングして制振補償トルクTvを演算して出力する。
【0042】
速度演算部53は、検出モータ位相θを微分演算することでモータ角速度ωdetを出力する。
【0043】
速度制御部54は、速度演算部53で演算されたモータ角速度ωdetを基に、速度0を目標値(速度指令ωref=0)とする比例制御(Proportional control;以下、P制御と称することもある)を行ってパーキング補償トルクTpを出力する。
【0044】
55は、速度制御部54から出力されるパーキング補償トルクTpと0値とを切り替えるパーキング切替スイッチであり、パーキングロック解除時のみON側(Tp側)とされ、それ以外はOFF側(0値側)とされる。
【0045】
56は、制振制御部52から出力される制振補償トルクTvと、パーキング切替スイッチ55で切り替えられたトルク値(パーキング補償トルクTp又は0値)を加算する加算器である。
【0046】
加算器56の加算出力は補償トルクTc(本発明の、振動を抑制するための補償トルク)とされる。
【0047】
前記パーキング切替スイッチ55がONの場合(パーキングロック解除時)は、制振補償トルクTvと、モータ角速度を基にP制御を行って求めたパーキング補償トルクTpとを加算したトルク値が補償トルクTcとなり、パーキング切替スイッチ55がOFFの場合(パーキングロック解除以外の場合)は、制振補償トルクTvと0値とを加算したトルク値が補償トルクTcとなる。
【0048】
前記補償トルクTcは、減算器57においてトルク指令T*から減算される。減算器57の減算結果(偏差出力)は制振トルク指令T**として、例えば図7の電流指令演算部34に出力される。
【0049】
前記速度制御部54の具体的な構成の一例は図2となる。図2において、設定した速度指令ωrefと検出角速度(モータ角速度)ωdetの偏差をとる減算器58と、減算器58の偏差出力に比例ゲインKpを乗算するゲイン乗算器59とを備え、検出角速度ωdetに対して速度0を目標値とするP制御を行ってパーキング補償トルクTpを出力するように構成されている。
【0050】
速度制御部54は、図2のように速度指令ωrefと検出角速度ωdetを入力とするが、パーキングロック解除時はモータが回転しないことが望ましいため、速度指令ωrefは0で固定される。
【0051】
速度制御はP制御によって行われ、このときの比例ゲインはKpである。比例ゲインKpの値については、車両の重量やモータの性能などに合わせて、0以上の適切な値を設定する。P制御の演算結果がパーキング補償トルクTpとして、速度制御部54から出力され、図1に示すようにパーキング切替スイッチ55に入力される。
【0052】
従来法の制振制御は共振成分の抑制効果は高いが、バンドパスフィルタで共振成分の抽出を行うため共振成分以外の抑制には不向きである。よって、パーキング時に自重(自動車に作用する重力)により蓄積したドライブシャフトのねじれがパーキングロック解除によって解放される際生じるステップ状のトルク、つまり多周波数成分を含むトルクについて、すべての衝撃を抑制することはできない。
【0053】
これを受けて本実施例による方式(以下、提案法と称することもある)においては、従来法で抽出できない周波数を抑制するために、図1に示すように、パーキングロック解除時に限り、トルク指令T*と検出モータ位相θという従来法と同じ入力を用いて、速度0を目標値とする速度制御を行うように構成したので、パーキングロック解除時の衝撃を全域の周波数に対して抑制することができる。
【0054】
従来法と提案法について、以下で制御性能を確認する。
【0055】
制振制御をしなかった場合、従来法である制振制御を行った場合、提案法である制振制御とP制御による速度制御を行った場合の3種類について、パーキングロック解除時のシミュレーション結果を図4に示し、パーキングロック解除後の定常状態のシミュレーション結果を図5に示す。このシミュレーションでは、図3(a),(b)に示すブロック図のモデルを用いた。
【0056】
図3(a)は、制振トルク指令T**をインバータの電流制御系に入力し、インバータで行う電流制御を経てモータトルクTMとして出力されるまでを示すブロック図である。
【0057】
図3(b)は車両慣性系のブロック図を示しており、各部の定義は次のとおりである。Jmはモータの慣性モーメント、Jtはタイヤの慣性モーメント、Wcは車両の質量、Rtはタイヤ径、Gはギア比、Kdはドライブシャフトの弾性係数、Krはタイヤと路面の摩擦係数、ωmはモータ角速度、ωtはタイヤ角速度、Vcは車体速度、TMはモータトルク、Tdはドライブシャフトの駆動トルク、θdはドライブシャフトのねじれ角、Fcは車体駆動力、Fdistは車体への外乱、sはラプラス演算子を表している。
【0058】
図3(a)の入力にあたる制振トルク指令T**は従来法と提案法の各システム出力であり、もし制振制御を行わないとすれば、従来法と提案法の入力に相当する上位からのトルク指令T*がT**に該当する。ここでは、制振トルク指令T**が制御時間と電流制御の時定数だけ遅れる以外は変化することなくモータトルクTMとなり慣性系に与えられる理想的なトルク制御を想定している。
【0059】
図3のブロック図に示されるモデルを用いたシミュレーションにおける、パーキングロック解除手順は以下のようになる。
【0060】
(1)常に車体に対し、自重(自動車に作用する重力)の坂道方向成分に相当する外乱Fdistが入る状態にして、坂道での停車を模擬する。また、運転開始前を想定し制御システムへの入力のトルク指令T*は常に0で保つ。
【0061】
(2)タイヤ角速度ωtを演算する積分部(1/Jtsのブロック)及びモータ角速度ωmを演算する積分部(1/Jmsのブロック)を初期値0にリセットし続けて、フットブレーキ、シフトブレーキともにかかった状態を模擬する。
【0062】
(3)タイヤ角速度ωtの積分部のリセットのみ止めてωtが値を持つようにし、フットブレーキを離し、シフトブレーキのみかかった状態を模擬する。このとき自重を模擬した外乱Fdistによってドライブシャフトにねじりが発生する。
【0063】
(4)タイヤ角速度ωtを再びリセットし続ける状態にして、再度フットブレーキ、シフトブレーキがかかった状態にする。このとき、ドライブシャフトのねじれはωtのリセットを再開する直前のねじれ量で固定される。
【0064】
(5)モータ角速度ωmのリセットのみ止めてωmが値を持つようにし、フットブレーキがかかり、シフトブレーキが解除された状態、つまりパーキングロック解除を模擬する。この際、ドライブシャフトのねじれが解放され、トルクが発生する。
【0065】
パーキングロック解除時の制御性能については、人間の感じる乗り心地を確認するため、本来は車体前後運動の加速度を観測することが望ましいが、この手順では(5)のパーキングロック解除時にタイヤ角速度ωtは0にリセットされ続けるため、ドライブシャフトに生じたトルクが車体加速度まで伝わらず、加速度を観測しても制御性能を比較することができない。
【0066】
そこで、実車の車体加速度の変化量の大小とドライブシャフトの駆動トルクTdの変化量の大小は対応するものと考え、図4では駆動トルクTdを観測している。つまり、駆動トルクTdの変化量が小さいほど乗り心地がよいと想定した。
【0067】
図4(a),図5(a)は駆動トルクTdを表し、図4(b),図5(b)は制振トルク指令T**を表している。図4図5の各図において、破線は制振制御なしの場合の波形、一点鎖線は従来法である制振制御を行った場合の波形、実線は提案法である制振制御とP制御による速度制御を行った場合の波形を各々示している。
【0068】
図4のシミュレーション結果では、ドライブシャフトのねじりを生じさせる過程を省略しパーキングロック解除時のみをピックアップしている。図4(a)の駆動トルクTdのグラフに示される通り、制振制御なし(破線)ではパーキングロック解除時の衝撃で持続的な共振が発生している。
【0069】
これに対して従来法の制振制御(一点鎖線)ではこの共振を抑えられている。しかし、パーキングロック解除直後についてだけは制振制御なし時の半分ほどのピークでトルクが生じている。これは、ステップ状の衝撃(多周波数成分を含む衝撃)に対し共振成分付近だけを抑制したため発生したものである。
【0070】
これに対し提案法の制振制御+P制御(実線)では、共振成分以外も抑制したため、持続的な共振を抑えるだけでなく始めのトルクも抑制し正方向へオーバーシュートすることなく0へと収束させている。図4(b)の制振トルク指令T**を見ると、提案法では従来法に比べてパーキングロック解除時のトルク指令が大きくなっており、これによってパーキングロック解除直後の衝撃を抑えていることがわかる。
【0071】
また、従来法の制振制御では、図4の3.6秒付近で僅かに駆動トルクが発生している。これについては、パーキングロック解除から時間がたった後の定常状態を示す図5からわかるように、従来法では共振が落ち着いた後も制振制御が僅かなトルクを指令しているため、シャフトがバックラッシュ内で回転し続け、最後にはバックラッシュを抜けることによって駆動トルクが生じ、その駆動トルクを制振制御で抑制するということを繰り返している。つまり従来法では指令に残留トルクを生じる。この残留トルクについても、提案法では生じていない。
【0072】
ここまで、パーキングロック解除状態の運転性能を考えてきたが、ここでモータが回転する通常走行についても検討する。従来法は、発生した共振を抑制するのみで、長期的にトルク指令を妨げることがなく、通常走行にも用いることができる制御システムである。
【0073】
これに対して提案法を通常走行で利用した場合、速度制御部54は速度0を目標値としたP制御であるため、モータ角速度が何らかの値になるように制御している通常走行時の入力トルク指令T*について、常にそれを妨げるような補償トルクを生じてしまう。よって提案法の速度制御は通常走行には適さず、提案法を利用する場合はパーキングロック解除時のみ用いられるようにパーキング切替スイッチ55で切り替えを行う。
【0074】
以上のように本実施例1によれば、速度制御部54によって、全域の周波数に対する速度制御を行っているため、パーキングロック解除時に生じるトルクのステップ状の衝撃を、正方向へのオーバーシュートなく抑制することができる。よって、振動がより抑制されて、電気自動車の乗り心地を改善することができる。
【実施例2】
【0075】
実施例1の図1では、振動を抑制するための補償トルクTcを、制振補償トルクTvのみとするか、又は制振補償トルクTvとパーキング補償トルクTpを加算したトルクとするかを、パーキング切替スイッチ55で切り替えるように構成していた。
【0076】
しかし、速度制御部54から出力されるパーキング補償トルクTpは全域の周波数成分の衝撃トルクを抑制するため、制振補償トルクTvを用いなくともパーキングロック解除時の衝撃を抑えるある程度の効果は得られる。
【0077】
そこで本実施例2では、制振制御システム(制振トルク指令生成部)を図6のように構成した。図6において図1と同一部分は同一符号をもって示している。図6において図1と異なる点は、図1の加算器56を除去し、パーキング切替スイッチ55は、制振制御部52の制振補償トルクTvと速度制御部54のパーキング補償トルクTpを切り替えるスイッチとし、パーキングロック解除時のみON側(Tp側)とされ、それ以外はOFF側(Tv側)とされるように構成した点にあり、その他の部分は図1と同様に構成されている。
【0078】
本実施例2ではパーキング切替スイッチ55で切り替えられたトルク(Tv又はTp)が、振動を抑制するための補償トルクTcとされる。
【0079】
本実施例2によれば、パーキングロック解除時に、制振補償トルクTvを加算することなく、速度制御部54で求めたパーキング補償トルクTpを用いることにより、衝撃を全周波数域において抑制することができる。
【符号の説明】
【0080】
4…モータ
5…レゾルバセンサ
6…トランスミッション
7…駆動輪
8…バッテリ
34…電流指令演算部
35…インバータ
51…加速度演算部
52…制振制御部
53…速度演算部
54…速度制御部
55…パーキング切替スイッチ
56…加算器
57、58…減算器
59、62…ゲイン乗算器
61…バンドパスフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9