(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20220308BHJP
H01G 11/70 20130101ALI20220308BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20220308BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01G11/70
H01G11/86
H01M4/70 A
(21)【出願番号】P 2018184430
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-02-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】南形 厚志
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-212619(JP,A)
【文献】特開2018-088379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/84
H01G 11/00 - 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体、及び前記集電体の両面に第1の電極層及び第2の電極層をそれぞれ備える電極の製造方法であって、
前記集電体の基材の第1の面に対し、前記第1の電極層を形成する第1の電極塗料を塗工する第1の塗工工程と、
前記第1の塗工工程における塗工領域の位置を検出する検出工程と、
前記基材の第2の面に対し、前記第2の電極層を形成する第2の電極塗料を塗工する第2の塗工工程と、を備え、
前記第2の面は、前記第1の面に比して粗度が高く、
前記第2の塗工工程では、前記検出工程で検出された前記塗工領域に基づいて、塗工位置の調整がなされる、電極の製造方法。
【請求項2】
前記基材は帯状の部材であり、
前記第1の塗工工程及び前記第2の塗工工程では、前記基材の長手方向に間隔を空けて前記第1の電極塗料及び前記第2の電極塗料を塗工する、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記第2の面は、複数の突起が突出することによって粗度が高くなっている、請求項1又は2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記複数の突起の平均高さは、5μm以上30μm以下である、請求項3に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電極が記載されている。この電極は、金属製の集電体の一面に正極層を設けると共に他面に負極層を設けたものである。このような電極が用いられる電池は、正極及び負極の間に挟まれたセパレータと、正極層、負極層及びセパレータによって構成された単電池の周囲を取り囲むと共に集電体の間に圧着された枠状のシール材とを含む。この電極の集電体の両面はV字状の溝が形成されることで、粗くされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、集電体の表面の粗化を行う場合、粗化の態様によっては、粗面が暗くなる場合がある。一方、電極塗料は黒いため、集電体の表面が暗くなる場合、集電体に対してどの位置に電極塗料が塗工されたのかを把握しにくくなる。従って、集電体の一方の面の電極層と、他方の面の電極層との間の位置合わせが難しく、位置精度が低下する可能性がある。これによって電極の性能が低下してしまう可能性がある。
【0005】
本発明は、電極の性能を向上できる電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る電極の製造方法は、集電体、及び集電体の両面に第1の電極層及び第2の電極層をそれぞれ備える電極の製造方法であって、集電体の基材の第1の面に対し、第1の電極層を形成する第1の電極塗料を塗工する第1の塗工工程と、第1の塗工工程における塗工領域の位置を検出する検出工程と、基材の第2の面に対し、第2の電極層を形成する第2の電極塗料を塗工する第2の塗工工程と、を備え、第2の面は、第1の面に比して粗度が高く、第2の塗工工程では、検出工程で検出された塗工領域に基づいて、塗工位置の調整がなされる。
【0007】
この電極の製造方法では、第2の面は、第1の面に比して粗度が高い。従って、第1の塗工工程では、粗度が低い第1の面に対して先に第1の電極塗料が塗工される。粗度の低い第1の面と第1の電極塗料との間の境界部は、粗度が高くて暗い第2の面と第2の電極塗料との間の境界部に比して、検出が容易である。従って、検出工程では、第1の塗工工程における塗工領域の位置を容易に検出することができる。このような検出を行うことで、第2の塗工工程を行う際には、第1の電極塗料の塗工領域がどこであるかを把握した状態で、第2の電極塗料を塗工することができる。従って、第2の塗工工程では、検出工程で検出された塗工領域に基づいて、塗工位置の調整がなされる。これにより、第1の電極層と第2の電極層との間の位置精度を向上することができる。それに伴い、電極の性能を向上することができる。
【0008】
基材は帯状の部材であり、第1の塗工工程及び第2の塗工工程では、基材の長手方向に間隔を空けて第1の電極塗料及び第2の電極塗料を塗工してよい。この場合、第1の電極層及び第2の電極層は、基材中において、当該基材の幅方向に延びる端部を有する事となる。すなわち、これらの端部について、第1の電極層と第2の電極層との間で位置合わせをする必要が生じる。この場合、第1の電極層と第2の電極層との間の位置精度を向上できる本願発明の効果がより顕著となる。
【0009】
第2の面は、複数の突起が突出することによって粗度が高くなっていてよい。この場合、突起が影になることで第2の面が暗くなり易い。このように、第2の面の粗化が複数の突起によってなされる場合、本願発明の効果がより顕著となる。
【0010】
複数の突起の平均高さは、5μm以上30μm以下であってよい。この場合、突起が影になることで第2の面が暗くなり易い。この場合、突起の折損を抑制しつつ、他部材の第2の面からの剥離などを良好に抑制することができる。また、第2の面の粗化がこのような高さの複数の突起によってなされる場合、第2の面が暗くなり易いため、本願発明の効果がより顕著となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極の性能を向上できる電極の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る蓄電装置を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1における集電体の周縁部及びその周辺の拡大図であり、
図2(b)は、
図2(a)の要部拡大図である。
【
図3】バイポーラ電極の製造方法を示すフロー図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、集電体の一表面に対するメッキ層の形成方法の一例を説明するための概略図である。
【
図5】鋼板の表面に下地ニッケルメッキ層を形成する工程を例示する模式図である。
【
図6】
図6は、ニッケル浴の温度に対する下地ニッケルメッキ層の凸部の平均高さの変化を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)は、下地ニッケルメッキ層の表面の一部を示す写真であり、
図7(b)は、下地ニッケルメッキ層の断面の一部を示す写真である。
【
図8】
図8は、本ニッケルメッキ層の表面の一部を示す写真である。
【
図9】集電体の基材に正極層及び負極層を形成するための電極層形成装置の概略構成を示す図である。
【
図10】
図10(a),(b)は、各電極層が形成された基材を粗面側から見た図である。
【
図11】
図11(a)は基材に負極層が形成された状態を示す断面図であり、
図11(b)は基材に正極層が形成された状態を示す断面図である。
【
図12】
図12(a)は、比較例に係る製造方法において、基材に正極層が形成された状態を示す断面図であり、
図11(b)は基材に負極層が形成された状態を示す断面図である。
【
図13】
図13(a)は、鋼板の表面を示す写真であり、
図13(b)は、鋼板に対して本ニッケルメッキ層のみを形成した場合の集電体の表面を示す写真であり、
図13(c)は、下地ニッケルメッキ層として平滑メッキ層を形成した場合の集電体の表面を示す写真である。
【
図14】
図14は、下地ニッケルメッキ層の表面形状を鋼板の表面形状と異なるものとした場合の集電体の表面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
図1及び
図2には、説明の便宜のため、XYZ直交座標系が示されている。
【0014】
図1は、一実施形態に係る電極を備える蓄電装置を模式的に示す断面図である。蓄電装置1は、例えばニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池等の二次電池、或いは電気二重層キャパシタである。蓄電装置1は、例えばフォークリフト、ハイブリッド自動車、電気自動車等の各種車両のバッテリとして用いられる。以下、一例として、蓄電装置1がニッケル水素二次電池である場合について説明する。
【0015】
蓄電装置1は、バイポーラ電極(電極)3の積層体2を備えたバイポーラ電池である。蓄電装置1は、バイポーラ電極3の積層体2と、積層体2を保持するケース5と、積層体2を拘束する拘束体6とを備えている。
【0016】
積層体2は、セパレータ7を介して複数のバイポーラ電極3を第1方向D1に沿って積層することによって構成されている。第1方向D1は、ここではZ軸方向に平行な方向であり、以下では上下方向または積層方向とも呼称する。例えば、後述する端子部材25に離間するバイポーラ電極3を基準とした場合、当該バイポーラ電極3の上下にはセパレータ7を間に挟んで別のバイポーラ電極3がそれぞれ設けられている。バイポーラ電極3のそれぞれは、集電体11と、集電体11の一方の面11aに設けられた正極層12(第2の電極層)と、集電体11の他方の面11bに設けられた負極層13(第1の電極層)とを有している。正極層12及び負極層13のそれぞれは、活物質層であり、集電体11の少なくとも中央部Mに設けられている。積層体2において、一のバイポーラ電極3の正極層12は、第1方向D1に隣り合う一方のバイポーラ電極3の負極層13と対向し、一のバイポーラ電極3の負極層13は、第1方向D1に隣り合う他方のバイポーラ電極の正極層12と対向している。積層体2は、隣り合うバイポーラ電極3同士の間隔を保持するための複数の樹脂スペーサ4を有する。樹脂スペーサ4は、バイポーラ電極3の周縁部11cに沿って配置されており、且つ、当該バイポーラ電極3の一表面に接して設けられている。樹脂スペーサ4は、例えば周縁部11c上に配置された樹脂を硬化することによって形成される。硬化前の樹脂は、液体状でもよいし、シート状でもよいし、ゲル状でもよい。
【0017】
集電体11は、例えば、ニッケル箔や、ニッケルメッキ処理が表面に施された鋼板である。鋼板としては、例えばJIS G 3141:2005にて規定される冷間圧延鋼板(SPCC等)が挙げられる。集電体11の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下であってもよい。正極層12を構成する正極活物質としては、例えば水酸化ニッケルが挙げられる。負極層13を構成する負極活物質としては、例えば水素吸蔵合金が挙げられる。集電体11の他方の面11bにおける負極層13の形成領域は、集電体11の一方の面11aにおける正極層12の形成領域に対して一回り大きくてもよい。なお、ニッケルメッキ処理の詳細については後述する。
【0018】
集電体11の周縁部11cは、正極活物質及び負極活物質が塗工されない未塗工領域となっている。周縁部11cは、ケース5の内壁5aに埋没した状態でケース5に保持されている。周縁部11cの一方の面11aと内壁5aとの間には、樹脂スペーサ4が介在されている。これにより、第1方向D1に隣り合う集電体11,11間には、当該集電体11,11とケース5の内壁5aとによって仕切られた空間が形成されている。当該空間には、例えば水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液を含む電解液(不図示)が収容されている。第1方向D1にて隣り合うバイポーラ電極3同士の間に形成される電解液の収容空間は、樹脂スペーサ4によって互いに液密に分離(シール)されている。
【0019】
積層体2の一方(Z軸方向正方向)の積層端には、片面に負極層13のみが設けられた集電体11Aが積層されている。当該集電体11Aは、セパレータ7を介して負極層13と最上層のバイポーラ電極3の正極層12とが対向するように配置されている。集電体11Aは、例えば、集電体11と同様にニッケルメッキ処理が施された鋼板でもよいし、ニッケル箔等の金属箔でもよい。また、積層体2の他方(Z軸方向負方向)の積層端には、正極層12のみが設けられた集電体11Bが積層されている。当該集電体11Bは、セパレータ7を介して正極層12と最下層のバイポーラ電極3の負極層13とが対向するように配置されている。集電体11Bは、例えば、集電体11と同様にニッケルメッキ処理が施された鋼板でもよいし、ニッケル箔等の金属箔でもよい。集電体11A,11Bの縁部は、バイポーラ電極3の集電体11と同様に、ケース5の内壁5aに埋没した状態でケース5に保持されている。集電体11A,11Bの縁部の一方の面と内壁5aとの間には、樹脂スペーサ4が介在されている。集電体11A,11Bは、バイポーラ電極3の集電体11に比べて厚く形成されてもよい。
【0020】
セパレータ7は、例えばシート状に形成されている絶縁物である。セパレータの形成材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂で構成された多孔質フィルム、ポリプロピレン等で構成された織布又は不織布等が例示される。また、セパレータ7は、フッ化ビニリデン樹脂化合物等で補強されてもよい。なお、セパレータ7は、シート状に限られず、袋状の絶縁物を用いてもよい。
【0021】
ケース5は、例えば絶縁性の樹脂を用いた射出成形によって矩形の筒状に形成されている。樹脂性のケース5を構成する樹脂材料としては、例えばポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)、変性ポリフェニレンサルファイド(変性PPS)等が挙げられる。ケース5は、バイポーラ電極3の積層によって形成される積層体2の側面2aを取り囲んで保持する部材である。
【0022】
拘束体6は、一対の拘束プレート21,21と、拘束プレート21,21同士を連結する連結部材(ボルト22及びナット23)とによって構成されている。拘束プレート21は、例えば鉄等の金属によって平板状に形成されている。拘束プレート21の縁部には、ボルト22を挿通させる挿通孔21aがケース5よりも外側となる位置に設けられている。拘束体6における挿通孔21aの内周面及びボルト座面には、絶縁処理がなされている。また、拘束プレート21の一面側には、絶縁性部材24を介して端子部材25(負極端子部材25A,正極端子部材25B)が結合されている。拘束プレート21と端子部材25との間に介在させる絶縁性部材24の形成材料としては、例えばフッ素系樹脂、又はポリエチレン樹脂が挙げられる。
【0023】
一方の拘束プレート21は、第1方向D1においてケース5よりも一方側に位置している。一方の拘束プレート21は、ケース5の内側で負極端子部材25Aと集電体11Aとが当接するようにケース5の一端面に突き当てられる。他方の拘束プレート21は、第1方向D1においてケース5よりも他方側に位置している。他方の拘束プレート21は、ケース5の内側で正極端子部材25Bと集電体11Bとが当接するようにケース5の他端面に突き当てられる。ボルト22は、例えば一方の拘束プレート21側から他方の拘束プレート21側に向かって挿通孔21aに通され、他方の拘束プレート21から突出するボルト22の先端には、ナット23が螺合されている。
【0024】
これにより、積層体2、集電体11A,11B、及びケース5が挟持されてユニット化されると共に、積層体2には第1方向D1に拘束荷重が付加される。また、負極端子部材25Aは、一方の拘束プレート21と積層体2との間に配置され、正極端子部材25Bは、他方の拘束プレート21と積層体2との間に配置される。負極端子部材25Aには、引出部26が接続されている。正極端子部材25Bには、引出部27が接続されている。引出部26及び引出部27によって、蓄電装置1の充放電を行うことができる。
【0025】
続いて、上述した本実施形態の蓄電装置1における集電体11の構造と、集電体11,11A,11Bと樹脂スペーサ4との接合部の構成について、
図2(a),(b)を参照しながら説明する。
図2(a)は、
図1における集電体の周縁部及びその周辺の拡大図である。
図2(b)は、
図2(a)の要部拡大図である。なお、以下の説明においては、集電体11について説明を行う。集電体11A,11Bは、集電体11と同様の構成を有してもよいし、同様の構成を有さなくてもよい。
【0026】
図2(a)に示されるように、本実施形態の集電体11の周縁部11cには、鋼板Sの一方の表面S1を覆うメッキ層30が形成されている。このため、集電体11の周縁部11cにおいて、樹脂スペーサ4は、メッキ層30に接するように設けられている。メッキ層30は、鋼板Sと樹脂スペーサ4との間における強度及び液密性を確保すると共に、集電体11の表面積を大きくするために設けられている。メッキ層30は、例えば集電体11を構成する鋼板Sに対して電解ニッケルメッキ処理を実施することによって、鋼板Sの表面に形成できる。この場合、メッキ層30は、電解メッキによって形成されたニッケル層に相当する。メッキ層30の厚みは、例えば5μm以上20μm以下に設定される。
【0027】
図2(a),(b)に示されるように、本実施形態のメッキ層30は、鋼板Sの一方の表面S1上に設けられる下地ニッケルメッキ層31と、下地ニッケルメッキ層31上に設けられる本ニッケルメッキ層32とを有する。下地ニッケルメッキ層31と、本ニッケルメッキ層32とは、互いに異なる条件にて電解メッキを実施することによって形成されている。
【0028】
下地ニッケルメッキ層31は、第1方向D1に交差する第2方向D2に沿って鋼板Sの一方の表面S1上に設けられる電解メッキ層である。第2方向D2は、XY平面に沿う方向、もしくは一方の表面S1の延在方向に相当する。したがって、第2方向D2は、必ずしも第1方向D1に直交しなくてもよい。下地ニッケルメッキ層31の厚さは、例えば0.5μm以上2μm以下である。下地ニッケルメッキ層31は、周縁部11cにおける一方の表面S1の全てを覆っていることが好ましい。この場合、メッキ層30にピンホール等が形成されにくくなるので、リーク電流の発生を抑制できる。下地ニッケルメッキ層31の表面形状は、一方の表面S1の形状と異なっている。具体的には、下地ニッケルメッキ層31は、第1方向D1に突出した複数の凸部33を有する。このため、下地ニッケルメッキ層31の表面形状は、鋼板Sの一方の表面S1に沿っておらず、鋼板Sの一方の表面S1の表面形状よりも粗くなっている。したがって、本実施形態の下地ニッケルメッキ層31は、平滑メッキ層とは異なるように設けられている。平滑メッキ層は、メッキされる対象の表面に沿った表面形状を有するメッキ層である。
【0029】
複数の凸部33は、第2方向D2に不規則に設けられる。下地ニッケルメッキ層31の厚さが約1μmまたはそれ以上である場合、凸部33の平均高さは、例えば0.4μm以上であって、下地ニッケルメッキ層31の厚さの半分以下であればよい。この場合、本ニッケルメッキ層32の形状を良好にすることができる。凸部33の平均高さは、例えばレーザ共焦点光学系を用いた顕微鏡を用いて測定される。
【0030】
本実施形態の本ニッケルメッキ層32は、下地ニッケルメッキ層31を被成膜面として設けられる電解メッキ層であり、下地ニッケルメッキ層31よりも大きい表面粗さを有する。下地ニッケルメッキ層31及び本ニッケルメッキ層32の表面粗さのそれぞれは、JIS B 0601:2013(あるいはISO 4287:1997, Amd.1:2009)に規定される算術平均粗さRaで表される。本ニッケルメッキ層32の表面粗さは、例えば1.5μm以上6.0μm以下であり、下地ニッケルメッキ層31の1.5倍以上60.0倍以下である。この場合、メッキ層30にピンホール等が発生することを抑制しつつ、本ニッケルメッキ層32の表面積を大きくできる。本ニッケルメッキ層32の厚さは、例えば5μm以上20μm以下である。集電体11の周縁部11cにおいて、本ニッケルメッキ層32は、必ずしも下地ニッケルメッキ層31の表面全体を覆うように形成されなくてもよい。例えば、本ニッケルメッキ層32は、下地ニッケルメッキ層31から第1方向D1に突出する複数の突起34の集合体であってもよい。この場合、本ニッケルメッキ層32は、粗化メッキ層とも呼称される。複数の突起34のそれぞれは、対応する凸部33に接する部分を基端34aとして、第1方向D1に沿って先端34bに至るように形成されている。
【0031】
複数の突起34の少なくとも一部には、例えば略球形状である複数のニッケル結晶が重畳していてもよい。これらのニッケル結晶は、電解メッキ処理により形成された複数の析出金属(付与物)である。このような析出金属が互いに重畳することによって、当該突起34の第2方向D2における長さ寸法が、基端34aにおける第2方向D2の長さ寸法よりも大きい拡大部34cが形成されている。すなわち、少なくとも一部の突起34は、基端34a側から先端34b側に向かって先太りとなる先太り形状を呈している。突起34における拡大部34cの位置は、必ずしも先端34bでなくてもよいが、少なくとも基端34aよりも先端34b側に位置している。換言すると、先太り形状を呈する突起34において第2方向D2の長さ寸法が最も大きい箇所は、先端34bでなくてもよいが、基端34a以外に位置している。突起34における拡大部34cの位置は、析出金属の重複態様により突起34ごとに異なってもよい。
【0032】
複数の突起34において隣り合う二つの突起34であって、少なくとも一方が先太り形状である当該二つの突起34間には、樹脂スペーサ4の一部4aが介在されている。例えば、樹脂スペーサ4を構成する樹脂が硬化する前に、当該樹脂の一部が突起34間に介在される。そして樹脂全体を硬化することによって、突起34間に樹脂スペーサ4の一部4aが介在される。これにより、隣り合う二つの突起34は、介在される樹脂スペーサ4の一部4aが基端34aから離れる方向へ移動することを規制する。換言すれば、隣り合う突起34の間の断面形状は、アンカー効果を奏するアンダーカット形状となっている。
【0033】
突起34の平均高さは、例えば5μm以上30μm以下である。突起34の平均高さが5μm以上であることによって、隣り合う二つの突起34の間に介在される樹脂スペーサ4の一部4aに対してアンカー効果が良好に奏される。突起34の平均高さが30μm以下であることによって、突起34の折損を良好に抑制できる。突起34の平均高さは、例えばレーザ共焦点光学系を用いた顕微鏡を用いて測定される。
【0034】
平面視(すなわち、第1方向D1から見た場合)において、本ニッケルメッキ層32の単位面積あたりにおける突起34の数は、例えば2,500個以上7,000個以下であることが好ましい。突起34の上記数が2,500個以上であることによって、本ニッケルメッキ層32の表面積を十分に確保することができる。突起34の上記数が7,000個以下であることによって、隣り合う突起34同士が接触することを抑制できる。本実施形態における単位面積は、1mm2である。本ニッケルメッキ層32の単位面積あたりにおける突起34の数は、例えばJIS B 0601:2013(あるいはISO 4287:1997, Amd.1:2009)に規定される粗さ曲線要素の平均長さRSmによって算出される。
【0035】
本実施形態のバイポーラ電極3の中央部M(
図1参照)では、鋼板Sの一方の表面S1を覆うメッキ層30が形成されている。中央部Mは、メッキ層30を介して正極層12の正極活物質と結合されている。すなわち本実施形態では、メッキ層30は、周縁部11cから中央部Mにわたって鋼板Sの一方の表面S1に連続的に形成されている。より具体的には、下地ニッケルメッキ層31は鋼板Sの一方の表面S1を全て覆っている。一方で、本ニッケルメッキ層32は、下地ニッケルメッキ層31の表面の全てを覆わなくてもよい。
【0036】
メッキ層30は、複数の鋼板Sのいずれにおいても、第1方向D1の一方側(Z軸方向正方向)の表面を覆っている。樹脂スペーサ4は、複数の集電体11のいずれにおいても、メッキ層30を介して配置されている。これにより、第1方向D1にて隣り合うバイポーラ電極3においては、集電体11の一方の面11a上に位置する樹脂スペーサ4と、集電体11の他方の面11bとが、第1方向D1において対向している。つまり、隣り合うバイポーラ電極3においては、集電体11の一方の面11aと、集電体11の他方の面11bとは、樹脂部材である樹脂スペーサ4によって互いに離間している。このため、隣り合うバイポーラ電極3においては、集電体11の一方の面11aと、集電体11の他方の面11bとの絶縁性は、樹脂スペーサ4によって確保されている。
【0037】
次に、バイポーラ電極3の製造方法について説明する。
図3は、バイポーラ電極3の製造方法を示すフロー図である。
図3に示すように、バイポーラ電極3は、粗面形成工程S10と、第1の塗工工程S20と、検出工程S30と、第2の塗工工程S40と、を備える。
【0038】
粗面形成工程S10は、集電体11の粗面を形成する工程である。なお、本実施形態では、粗面形成工程S10にて鋼板Sの面を粗くすることで、集電体11の基材50を形成する。また、
図9に示すように、当該基材50に対して、後の各工程S20~S40が行われるものとする。基材50は、帯状の部材であり、最終的に切断することによって集電体11の形状に切り分けるものである。従って、粗面形成工程S10では、帯状の鋼板Sの一方の面を粗くする処理が実行される。上述のように、本実施形態の集電体11の一方の面11aは、メッキ層30(
図2(a)参照)によって粗化されているため、本実施形態の粗面形成工程S10では、帯状の鋼板Sの一方の面に対してメッキ層30が形成される。これにより、基材50が形成される。基材50の面のうち、メッキ層30が形成された方の面は、粗度が高くなっている。従って、基材50の面のうち、粗度が高い方の面を粗面50a(第2の面)と称する。基材50のうち、メッキ層30が形成されていない方の面の粗度は、鋼板Sの表面の本来の粗度となっている。従って、当該面は、粗面50aよりも粗度が低く、鋼板Sの平滑な表面によって構成されている。このような面を平滑面50b(第1の面)と称する。
【0039】
図4(a)~(c)を用いながら本実施形態のメッキ層30の形成方法の一例について説明する。
図4(a)~(c)は、集電体の一表面に対するメッキ層の形成方法の一例を説明するための概略図である。なお、
図4(b),(c)のそれぞれにおいて、下地ニッケルメッキ層31と、本ニッケルメッキ層32との具体的な表面形状は省略されている。
【0040】
まず、
図4(a)に示されるように、集電体11を構成する鋼板Sを準備する。次に、
図4(b)に示されるように、集電体11である鋼板Sの表面S1上に、鋼板Sの表面形状とは異なる表面形状を有する下地ニッケルメッキ層31を形成する。下地ニッケルメッキ層31は、鋼板Sに対して電解メッキを施すことによって形成される。電解メッキでは、例えばニッケル濃度が0.5mol/L以上2.0mol/L以下、温度が40℃以上65℃以下に設定されたニッケル浴を用いる。ニッケル浴とは、ニッケル陽イオンが存在する電解液であり、例えば塩化ニッケル溶液、硫酸ニッケル溶液等である。ニッケル浴のニッケル濃度が0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることによって、効率良くメッキ層を形成することができる。また、ニッケル浴の温度が40℃以上65℃以下であることによって、下地ニッケルメッキ層31に設けられる凸部33の平均高さを良好に制御できる。
【0041】
下地ニッケルメッキ層31を形成するための電解メッキを実施する際、例えば電流密度が0.5A/dm2以上5.0A/dm2以下の条件下にて150秒以上2,400秒以下の間、鋼板Sをニッケル浴に浸漬させる。電解メッキ中における電流密度を0.5A/dm2以上5.0A/dm2以下に設定することによって、下地ニッケルメッキ層31が平滑メッキ層になることを防止できる。加えて、下地ニッケルメッキ層31に形成される凸部33が針形状(もしくはウィスカー形状)になることを抑制できる。また、150秒以上2,400秒以下の間、鋼板Sをニッケル浴に浸漬させることによって、下地ニッケルメッキ層31の厚さを良好に設定できる。
【0042】
下地ニッケルメッキ層31を形成する際に特に重要とされる条件は、ニッケル浴の温度、及び電流密度である。したがって、ニッケル浴の温度と、電流密度とのいずれも上記範囲内であるとき、ニッケル浴のニッケル濃度と、鋼板Sが浸漬される時間とは、必ずしも上記範囲内でなくてもよい。
【0043】
以下では、
図5を用いながら鋼板の表面に下地ニッケルメッキ層を形成する工程の具体例を説明する。
図5は、鋼板の表面に下地ニッケルメッキ層を形成する工程を例示する模式図である。
図5に示されるように、ドラムDR2によってロール状に巻回された鋼板Sを引き出し、ドラムDR1における少なくとも下半分の表面に沿って搬送された後、ドラムDR3に巻き取られる。このとき、ドラムDR1の下部及び陽極60は、ニッケル陽イオンを含む電解液L1に浸漬されている。よって、ドラムDR1の下部表面に接している鋼板Sは、電解液L1に浸漬される。そして、鋼板Sの搬送中、ドラムDR1及び陽極60との間には、所定の電流が流される。これにより、電解液L1に浸漬されている鋼板Sの表面S1(鋼板SにおいてドラムDR1の表面に接している表面と反対側に位置する表面)にニッケルが析出し、凸部33を有する下地ニッケルメッキ層31が鋼板Sの表面S1上に形成される。
【0044】
なお、ドラムDR3に巻回された、下地ニッケルメッキ層31が設けられた鋼板Sを用い、
図5に例示された方法と同様にして、突起34を有する本ニッケルメッキ層32を形成できる。本ニッケルメッキ層32を形成するとき、凸部33には電流集中が生じるので、当該凸部33を基端34aとするように選択的にニッケルが析出し、複数の突起34を選択的に形成できる。このような方法によっても、メッキ層30を有する集電体11を形成できる。
【0045】
図6は、ニッケル浴の温度に対する下地ニッケルメッキ層の凸部の平均高さの変化を示すグラフである。
図6において、縦軸は凸部の平均高さを示し、横軸はニッケル浴の温度を示す。実線51は、電流密度を1.0A/dm
2に設定した場合のニッケル浴の温度に対する凸部の平均高さの変化を示す。破線52は、電流密度を0.5A/dm
2に設定した場合のニッケル浴の温度に対する凸部の平均高さの変化を示す。一点鎖線53は、電流密度を5A/dm
2に設定した場合のニッケル浴の温度に対する凸部の平均高さの変化を示す。例えば電流密度が1.0A/dm
2に設定された場合、ニッケル浴の温度が40℃以上65℃以下であれば、凸部の平均高さが0.4μm以上になる。また、ニッケル浴の温度が50℃のとき、凸部の平均高さが最も大きくなっている。一方、電流密度が低すぎる場合と、電流密度が高すぎる場合とのいずれであっても、ニッケル浴の温度にかかわらず凸部の平均高さが0.4μm未満になる傾向にある。
【0046】
ここで、
図7(a),(b)を用いて、鋼板上に実際に形成された本実施形態の下地ニッケルメッキ層の表面形状を示す。
図7(a)は、本実施形態の下地ニッケルメッキ層の表面の一部を示す写真であり、
図7(b)は、本実施形態の下地ニッケルメッキ層の断面の一部を示す写真である。
図7(a),(b)に示される下地ニッケルメッキ層31は、温度が50℃であってニッケル濃度が1mol/Lであるニッケル塩化物浴に対して、電流密度を1A/dm
2とした条件にて鋼板Sを300秒浸漬することによって形成された。
図7(a)に示されるように、下地ニッケルメッキ層31の表面には多数の凸部33が設けられている。また
図7(b)に示されるように、下地ニッケルメッキ層31の表面形状は、鋼板Sの表面形状と大きく異なっている。このような下地ニッケルメッキ層31は、多数の凸部33が設けられており、鋼板Sの表面形状とは大きく異なった表面形状を有している。また、下地ニッケルメッキ層31の表面粗さRaは、例えば0.1μm以上1.0μm以下である。
【0047】
次に、
図4(c)に示されるように、本実施形態では下地ニッケルメッキ層31上に、複数の突起34を含み、下地ニッケルメッキ層31よりも大きい表面粗さを有する本ニッケルメッキ層32(
図2(b)を参照)を形成する。これにより、鋼板Sと、下地ニッケルメッキ層31及び本ニッケルメッキ層32を有するメッキ層30とを備える集電体11が得られる。本ニッケルメッキ層32は、下地ニッケルメッキ層31が形成された鋼板Sに対して電解メッキを施すことによって形成される。この電解メッキでは、例えばニッケル濃度が0.15mol/L以上0.30mol/L未満、温度が30℃以上60℃以下に設定されたワット浴を用いる。ワット浴とは、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、及びホウ酸を主成分とする電解液である。ワット浴のニッケル濃度が0.15mol/L以上0.30mol/L未満であることによって、先太り形状を呈する突起34を良好に形成できる。また、ワット浴の温度が30℃以上60℃以下であることによって、先太り形状の平均高さを良好に制御できる。
【0048】
本ニッケルメッキ層32を形成するための電解メッキを実施する際、例えば電流密度が30A/dm2以上50A/dm2以下の条件下にて30秒以上60秒以下の間、鋼板Sをニッケル浴に浸漬させる。電解メッキ中における電流密度を30A/dm2以上50A/dm2以下に設定することによって、先太り形状を呈する突起34を良好に形成できる。また、30秒以上60秒以下の間、鋼板Sをワット浴に浸漬させることによって、本ニッケルメッキ層32の厚さを良好に設定できる。
【0049】
本ニッケルメッキ層32を形成する際に特に重要とされる条件は、ワット浴のニッケル濃度、及び電流密度である。したがって、ワット浴のニッケル濃度と、電流密度とのいずれも上記範囲内であるとき、ワット浴の温度と、鋼板Sが浸漬される時間とは、必ずしも上記範囲内でなくてもよい。
【0050】
ここで、
図8を用いて、実際に形成された本ニッケルメッキ層の表面形状を示す。
図8は、本ニッケルメッキ層の表面の一部を示す写真である。
図8に示される本ニッケルメッキ層32は、温度が30℃であってニッケル濃度が0.2mol/Lであるワット浴を用い、電流密度を40A/dm
2とした条件にて、下地ニッケルメッキ層が形成された鋼板を40秒浸漬することによって形成された。
図8に示されるように、基端側から先端側に向かって先太りとなる先太り形状を呈している突起34が複数確認された。また、これらの突起34の表面には、複数のニッケル結晶が重畳している。したがって、これらの突起34から構成される本ニッケルメッキ層32は、下地ニッケルメッキ層31よりも明らかに粗化になっている。本ニッケルメッキ層32は、下地ニッケルメッキ層31の表面粗さよりも明らかに大きくなっており、その表面粗さRaは例えば1.5μm以上6.0μm以下である。
【0051】
次に、第1の塗工工程S20、検出工程S30、及び第2の塗工工程S40について、
図9~
図11を参照して説明する。
図9は、集電体11の基材50に正極層12及び負極層13を形成するための電極層形成装置100の概略構成を示す図である。
図10は、各電極層が形成された基材50を粗面50a側から見た図である。
図11は、各電極層が形成された基材50の断面図である。
【0052】
まず、電極層形成装置100の構成について説明する。
図9に示すように、電極層形成装置100は、巻出部101と、負極塗料の塗工部102と、乾燥部103と、検出部104と、正極塗料の塗工部106と、乾燥部107と、巻取部108と、制御部110と、を備える。
【0053】
巻出部101は、基材50の流れにおける最も上流の位置に設けられ、巻取部108は、最も下流側の位置に設けられる。巻出部101は、ロール状に巻かれた基材50を回転させて当該基材50を巻き出す。巻き出された基材50は、各構成要素にて処理をなされたのち、巻取部108にて巻き取られる。巻取部108は、両面に各電極層が形成された基材50を回転することでロール状に巻き取る。
【0054】
塗工部102は、負極層13を形成する負極塗料(第1の電極塗料)を基材50の平滑面50bに塗工する。塗工部102は、負極活物質を含むスラリーを負極塗料として平滑面50bに塗工する。ここでは、塗工部102は、ダイコーターと称される方式によって負極塗料を塗工する。塗工部102は、ダイの内部のマニフォールドから負極塗料を押し出し、ダイの先端から基材50の平滑面50bへ負極塗料を供給する。基材50を挟んでダイと対向する位置では、バックローラが基材50を支持する。なお、塗工部102は負極塗料を基材50に塗工できる限り、方式は特に限定されず、コンマコーター、リバースローラコーターなどの方式が採用されてもよい。乾燥部103は、塗工部102の下流側に配置され、基材50の平滑面50bに塗工された負極塗料を乾燥させる。これにより、乾燥部103は、負極塗料を固化させて、負極層13を形成する。乾燥部103は、熱を付与することなどによって負極塗料を乾燥させる。
【0055】
検出部104は、塗工部102によって負極塗料が塗工された塗工領域の位置を検出する。検出部104は、乾燥部103の下流側に配置される。検出部104は、例えばカメラなどによって構成され、基材50の平滑面50bを撮影して、画像を取得する。あるいは、検出部104は、例えばレーザー検出器などによって構成され、平滑面50bと負極層13との境界部付近の光学情報を検出する。検出部104は、取得した情報を制御部110へ送信する。制御部110は、送信された情報に基づいて、基材50のうちの、負極塗料の塗工領域の位置を検出する。このように、制御部110は、検出部104の一部として機能する。なお、検出部104は、塗工部102と乾燥部103との間に配置されてもよい。
【0056】
塗工部106は、正極層12を形成する正極塗料(第2の電極塗料)を基材50の粗面50aに塗工する。塗工部106は、正極活物質を含むスラリーを正極塗料として粗面50aに塗工する。塗工部106は、塗工部102と同趣旨の構成を有するため、説明を省略する。乾燥部107は、塗工部106の下流側に配置され、基材50の粗面50aに塗工された正極塗料を乾燥させる。これにより、乾燥部107は、正極塗料を固化させて、正極層12を形成する。乾燥部107は、熱を付与することなどによって正極塗料を乾燥させる。
【0057】
制御部110は、電極層形成装置100の動作全体を制御する。制御部110は、塗工部102、乾燥部103、塗工部106及び乾燥部107へ制御信号を送信し、これらを制御する。また、検出部104からの情報を取得する。制御部110は、塗工部102,106の塗工タイミングを制御することで、長手方向における電極塗料の塗工位置を調整することができる。例えば、制御部110は、塗工部102,106が電極塗料の供給開始のタイミング、及び供給停止のタイミングを調整することで、各電極層12,13の端部12b,13b(
図10(a)参照)の位置を調整することができる。また、制御部110は、幅方向における電極塗料の塗工位置を調整することができる。例えば、制御部110は、塗工部102,106の吐き出し口の幅の大きさ、及び吐き出し口の幅方向における位置を調整することで、各電極層12,13の端部12a,13aの位置を調整することができる。制御部110は、検出部104での検出結果に基づいて、塗工部106による正極塗料の塗工位置を調整する。当該調整の詳細については後述する。
【0058】
以上の様な電極層形成装置100を用いて、工程S20~S40が実行される(
図3参照)。第1の塗工工程S20は、平滑面50bに対して、負極層13を形成する負極塗料を塗工する工程である。平滑面50bに対する負極塗料の塗工が完了したら、乾燥部103が負極塗料を乾燥することで、負極層13を形成する。
【0059】
基材50は、
図10(a)において仮想線で示す切断ラインCLで切断されることで、複数の集電体11に分割される。これにより、切断ラインCLが集電体11の端部11dとなる。また、基材50の幅方向の両側の端部50cは、集電体11の端部11eとなる。基材50の粗面50aは、集電体11の一方の面11aとなり、基材50の平滑面50bは、集電体11の他方の面11b(
図11参照)となる。
【0060】
図10(a)に示すように、第1の塗工工程S20では、基材50の長手方向に間隔を空けて負極塗料が塗工される。制御部110は、当該集電体11の端部11d、すなわち切断ラインCL付近には負極塗料を塗工しないように、塗工部102を制御する。制御部110は、負極層13の端部13bが集電体11の端部11dよりも内周側へ離間するように、塗工部102を制御する。制御部110は、基材50の幅方向において、負極層13の端部13aが基材50の端部50c、すなわち集電体11の端部11eよりも内周側へ離間するように、塗工部106を制御する。
【0061】
第1の塗工工程S20が完了し、基材50の平滑面50bに負極層13が形成された後、検出工程S30が実行される。検出工程S30は、第1の塗工工程S20における塗工領域の位置を検出する工程である。平滑面50bは、鋼板Sの表面によって構成されるため、明るい(白色)面として構成される。一方、負極層13は、黒色である。従って、
図11(a)に示すように、検出部104は、平滑面50bと負極層13との境界部B1を検出部104で特定することができる。すなわち、検出部104は、基材50中における、負極層13の端部13a,13bの位置を特定することができる(
図10(a)参照)。これにより、検出部104は、負極塗料の塗工領域E1の位置(負極層13が形成されている位置に等しい)を検出することができる。
【0062】
検出工程S30が完了した後、第2の塗工工程S40が実行される。第2の塗工工程S40は、基材50の粗面50aに対し、正極層12を形成する正極塗料を塗工する工程である。第2の塗工工程S40では、検出工程S30で検出された塗工領域E1に基づいて、塗工位置の調整がなされる。粗面50aに対する正極塗料の塗工が完了したら、乾燥部107が正極塗料を乾燥することで、正極層12を形成する。その後、基材50を切断ラインCLで切断して、バイポーラ電極3を形成する。
【0063】
図11(b)に示すように、制御部110は、基材50のうち、負極塗料の塗工領域E1がどの位置であるかを把握済みである。制御部110は、検出部104の位置で塗工領域E1の位置を把握したら、基材50の送り量などを考慮することで、当該塗工領域E1が塗工部106の位置に到達したときも、当該塗工領域E1の位置を把握することができる。制御部110は、正極塗料が塗工領域E1から外周側へはみ出ないように、塗工部106を制御する。
【0064】
具体的には、
図10(a)に示すように、第2の塗工工程S40では、基材50の長手方向に間隔を空けて正極塗料が塗工される。制御部110は、当該集電体11の端部11d、すなわち切断ラインCL付近には正極塗料を塗工しないように、塗工部106を制御する。制御部110は、正極層12の端部12bが集電体11の端部11dよりも内周側へ離間するように、塗工部106を制御する。また、制御部110は、検出結果によって得られた負極層13の端部13bの位置を考慮し、正極層12の端部12bが負極層13の端部13bよりも内周側へ離間するように、塗工部102を制御する。制御部110は、基材50の幅方向において、正極層12の端部12aが基材50の端部50c、すなわち集電体11の端部11eよりも内周側へ離間するように、塗工部106を制御する。また、制御部110は、検出結果によって得られた負極層13の端部13aの位置を考慮し、正極層12の端部12aが負極層13の端部13aよりも内周側へ離間するように、塗工部102を制御する。
【0065】
次に、本実施形態に係るバイポーラ電極3の製造方法の作用・効果について説明する。
【0066】
まず、比較例として、
図12(a)に示すように、平滑面50bよりも先に、粗面50aに対して正極層12を形成する方法を挙げる。粗面50aは複数の突起の影の影響などにより、暗くなる。また、正極塗料も黒色である。この場合、基材50全体が暗く見えるため(
図10参照)、粗面50aと正極塗料との間の境界部を検出することが難しくなる。従って、平滑面50bに対する負極塗料の塗工は、正極塗料の塗工領域との位置関係を把握できない状態で、行われる。この場合、
図12(b)に示すように、正極層12と負極層13との間に位置ずれが生じる可能性がある。例えば、正極層12の境界部B2付近は、負極層13と重なっていない。また、負極層13の境界部B3付近は、正極層12と重ならない領域が大きくなる。このような箇所は、電池の充放電反応に寄与しないため、電池の容量が低下してしまうことを誘発する可能性がある。
【0067】
これに対し、本実施形態に係るバイポーラ電極3の製造方法では、基材50の粗面50aは、平滑面50bに比して粗度が高い。従って、第1の塗工工程S20では、粗度が低い平滑面50bに対して先に負極塗料が塗工される。粗度の低くて明るい平滑面50bと負極塗料との間の境界部B1(
図11(a)参照)は、粗度が高くて暗い粗面50aと正極塗料との間の境界部に比して、検出が容易である。従って、検出工程S30では、第1の塗工工程S20における塗工領域E1の位置を容易に検出することができる。このような検出を行うことで、第2の塗工工程S40を行う際には、負極塗料の塗工領域E1がどこであるかを把握した状態で、正極塗料を塗工することができる。従って、第2の塗工工程S40では、検出工程S30で検出された塗工領域E1に基づいて、塗工位置の調整がなされる。これにより、正極層12と負極層13との間の位置精度を向上することができる。それに伴い、電極の性能を向上することができる。
【0068】
基材50は帯状の部材であり、第1の塗工工程S20及び第2の塗工工程S40では、基材50の長手方向に間隔を空けて負極塗料及び正極塗料を塗工する。この場合、正極層12及び負極層13は、基材50中において、当該基材50の幅方向に延びる端部12b,13bを有する事となる。すなわち、これらの端部12b,13bについて、正極層12と負極層13との間で位置合わせをする必要が生じる。この場合、正極層12と負極層13との間の位置精度を向上できる本願発明の効果がより顕著となる。
【0069】
粗面50aは、複数の突起34が突出することによって粗度が高くなる。この場合、突起34が影になることで粗面50aが暗くなり易い。このように、粗面50aの粗化が複数の突起34によってなされる場合、本願発明の効果がより顕著となる。
【0070】
複数の突起34の平均高さは、5μm以上30μm以下であってよい。この場合、突起34が影になることで粗面50aが暗くなり易い。この場合、突起34の折損を抑制しつつ、他部材の粗面50a(集電体11の面11a)からの剥離などを良好に抑制することができる。また、粗面50aの粗化がこのような高さの複数の突起34によってなされる場合、粗面50aが暗くなり易いため、本願発明の効果がより顕著となる。
【0071】
図13(a)は、鋼板の表面を示す写真である。
図13(b)は、鋼板に対して本ニッケルメッキ層のみを形成した場合の集電体の表面を示す写真である。
図13(c)は、下地ニッケルメッキ層として平滑メッキ層を形成した場合の集電体の表面を示す写真である。
図14は、下地ニッケルメッキ層の表面形状を鋼板の表面形状と異なるものとした場合の集電体の表面を示す写真である。
【0072】
図13(a)に示されるように、鋼板の表面には、製造時等に生じる傷が存在している。このため、鋼板の表面には凹凸が設けられている。当該鋼板に対して下地ニッケルメッキ層上を形成しないと、
図13(b)に示されるように、鋼板の表面が完全にメッキされない傾向にある。すなわち、メッキ層にはピンホール等が多数設けられている。この場合、集電体におけるリーク電流が大きくなってしまい、当該集電体を含む電極の性能は、著しく低下する。また、鋼板の表面に下地ニッケルメッキ層として平滑メッキ層を形成した場合、メッキ層にピンホール等が設けられにくくなっている。このような下地ニッケルメッキ層が設けられた集電体を含む電極の性能は、下地ニッケルメッキ層を有さない集電体を含む電極の性能と比較して良好な傾向にある。ただ、
図13(c)に示されるように、本ニッケルメッキ層の表面に大きな凹凸が残存する傾向にある。このような凹凸が設けられている領域では、樹脂スペーサによるシール性が低くなり、且つ、リーク電流が流れやすい傾向にある。このため、鋼板の表面に下地ニッケルメッキ層として平滑メッキ層を形成した場合であっても、電極性能が低下する可能性がある。これに対して、下地ニッケルメッキ層の表面形状を鋼板の表面形状と異なるものとした場合、
図14に示されるように、集電体の表面にはメッキ層が完全に覆われており、且つ、大きな凹凸が存在しない。このような集電体を含む電極の性能は、鋼板の表面形状の影響を受けにくくなっている。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る製造方法によって製造される蓄電装置1では、鋼板Sの表面に下地ニッケルメッキ層31が設けられ、且つ、当該下地ニッケルメッキ層31の上に本ニッケルメッキ層32が設けられている。このため、メッキ層30において表面側に位置する本ニッケルメッキ層32の形状は、鋼板Sの表面形状の影響を受けにくくなる。したがって蓄電装置1によれば、鋼板Sの表面形状による電極性能への影響を抑制可能になる。加えて、本ニッケルメッキ層32の表面粗さは、下地ニッケルメッキ層31の表面粗さよりも大きくなっている。これにより、メッキ層30の表面積が大きくなり、電極の放熱性等を向上できる。
【0074】
蓄電装置1は、バイポーラ電極3の周縁部11cに沿って配置され、メッキ層30に接する樹脂スペーサ4を備え、メッキ層30は、鋼板Sにおける表面S1の延在方向に交差する方向に沿って突出する複数の突起34を有し、複数の突起34の少なくとも一部は、基端34a側から先端34b側に向かって先太りとなる先太り形状であり、複数の突起34において隣り合う二つの突起34であって、少なくとも一方が先太り形状である当該二つの突起34間には、先端34b側から基端34a側にわたって樹脂スペーサ4の一部4aが介在されてもよい。この場合、隣り合う二つの突起34の間に介在される樹脂スペーサ4の一部4aが突起34の基端34aから離れる方向へ移動することを規制できる。したがって、樹脂スペーサ4がメッキ層30から剥離することを抑制できる。
【0075】
電流密度が0.5A/dm2以上5.0A/dm2以下の条件下にて、ニッケル濃度が0.5mol/L以上2.0mol/L以下に設定されたニッケル浴に鋼板Sを浸漬することによって、複数の凸部33を有する下地ニッケルメッキ層31を鋼板Sの表面上に形成してもよい。この場合、下地ニッケルメッキ層31に設けられる複数の凸部33の平均高さ及び形状を良好に制御できる。このため、凸部33からニッケルが成長しやすくなり、本ニッケルメッキ層32の形状は、鋼板Sの表面形状の影響をさらに受けにくくなる。
【0076】
ニッケル浴の温度を40℃以上65℃以下に設定した条件下にて、150秒以上2,400秒以下の間、ニッケル浴に鋼板Sを浸漬してもよい。この場合、複数の凸部33の平均高さ及び形状をより良好に制御できる。
【0077】
本発明は上記実施形態に限定されず、他に様々な変形が可能である。例えば上記実施形態では下地ニッケルメッキ層は平滑メッキ層ではないが、本発明はこれに限られない。
【0078】
例えば、
図10(b)に示すように、基材50の長手方向に沿って、負極塗料及び正極塗料を連続的に塗工してもよい。この場合、基材50には、長手方向に延びる電極層61,62が形成される。電極層61,62は、切断ラインCLで切断することによって、正極層12及び負極層13の形状に形成される。この場合、正極層12と負極層13との位置合わせにおいては、端部12a,13b側の位置関係のみを考慮すればよい。
【0079】
また、
図9に示す電極層形成装置は、一つのライン中で、正極塗料及び負極塗料を両方塗布できる構成であった。これに代えて、負極塗料を塗工するラインと、正極塗料を塗工するラインとを分けてもよい。例えば、基材50に負極塗料を塗工して負極層13を形成し、基材50をロール状に巻くことで一度回収する。その後、後段のラインで基材50に正極塗料を塗布して正極層12を形成してよい。この場合、後段のラインにおいて、正極塗料を塗工する前に、検出部104で塗工領域E1を検出する。
【0080】
なお、上述の実施形態では、「第1の面」は、鋼板Sに何らの処理を行わず、平滑面50bとすることで、検出部104での検出を行い易くされたものであった。これは、粗化を行う面が一方の面だけであっても、十分に剥離防止の効果を得られることに注目したものである。ただし、「第1の面」は、検出部104で塗工領域E1の検出を行うことができる範囲であれば、多少の粗化が行われていてもよい。例えば、第1の面の粗度が、Ra1.0μm以下に抑えられることで、検出部104で塗工領域E1を検出できる。
【0081】
また、上記の実施形態では、粗面形成工程S10において、基材である帯状の鋼板Sの一方の表面にメッキ層30を設けることによって粗面50aが形成される構成であった。これに代えて、基材として帯状のニッケル箔を用い、ニッケル箔の一方の表面にブラスト加工やエッチング加工をすることで粗面50aを形成してもよい。この場合、集電体11はメッキ層30を備えない。
【0082】
また、上述の実施形態では、粗度の高い面に正極層を形成し、粗度の低い面に負極層を形成したが、逆であってもよい。あるいは、両方の面に同じ極の電極層が設けられてもよい。
【0083】
また、上述の実施形態では、帯状の基材に対して電極塗料を塗工して、各電極層を形成していた。これに代えて、予め集電体11の形状に形成された状態の基材に対して、各電極層を形成してもよい。このように、請求項1における「集電体の基材」とは、最終的に集電体となる部材における、電極層形成時における状態を示すものであり、集電体そのものであっても、電極層形成時には基材に該当する。
【符号の説明】
【0084】
3…バイポーラ電極(電極)、11…集電体、12…正極層(第2の電極層)、13…負極層(第1の電極層)、50…基材、50a…粗面(第2の面)、50b…平滑面(第1の面)。