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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-07
(45)【発行日】2022-03-15
(54)【発明の名称】塗工板紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/14 20060101AFI20220308BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20220308BHJP
   D21H 19/84 20060101ALI20220308BHJP
【FI】
D21H11/14
D21H27/00 E
D21H19/84
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018204538
(22)【出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2019194384
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2018085594
(32)【優先日】2018-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】磯部 智史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 健一
(72)【発明者】
【氏名】横山 徹
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 昇平
(72)【発明者】
【氏名】田井 靖人
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-192395(JP,A)
【文献】特開平11-279985(JP,A)
【文献】特開2017-082386(JP,A)
【文献】特開2017-206806(JP,A)
【文献】特開平10-317290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層、表下層、中層、裏層を有する基紙の表層表面に顔料塗工層を有する塗工板紙の製造方法において、前記中層が離解古紙パルプを主成分とする層であり、前記裏層が、離解古紙パルプを主成分とし、且つ裏層の離解古紙パルプの3質量%以上30質量%がオフィス古紙のシュレッダー処理物由来のパルプである層であり、
前記基紙の裏層表面に結着剤を含む裏面塗工液を塗工した後に、前記基紙の表層表面に顔料とバインダーを含む顔料塗工液を塗工することを特徴とする塗工板紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗工板紙に関する。さらに詳しくは、箱等の紙器の製造に好適に使用される塗工板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
表層、表下層、中層、裏層を有する多層抄紙で構成される板紙は、一般に、紙器用(箱、ブリスターパック等)、紙製品用(見本帳台紙、アルバム等)、出版用(雑誌、本等)、商業印刷用(カタログ、パンフレット等)等に使用されている。
板紙の製造には、近年、地球環境保護の観点から木材資源の節約や紙のリサイクルが奨励され、使用済み古紙をパルプ原料として用いることが広く行われるようになってきている。
【0003】
古紙パルプを配合すると、板紙の表面強度が不充分となる。そのため、脱落した繊維により印刷の一部が抜けてしまう、いわゆる白抜けの問題が生じる場合がある。
特許文献1では、顔料およびバインダーを含む表面顔料塗工液を表層側に塗工した後、さらにバインダーを含む裏面塗工液を裏層側に塗工して、白抜けの発生を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-192395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、古紙の利用率を高めるために、離解古紙を用いた層の坪量を増やした場合、特許文献1の方法を採用しても白抜けの発生を十分に抑制できないという新たな問題が発生する。
【0006】
本発明は、離解古紙の使用量を増やしても、表層側の白抜けが抑制された塗工板紙を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1] 少なくとも表層、表下層、中層、裏層を有する基紙、及び前記基紙の表層表面に顔料塗工層を有する塗工板紙において、前記中層は離解古紙パルプを主成分とする層であり、前記裏層は離解古紙パルプを主成分とし、且つ裏層の離解古紙パルプの3質量%以上30質量%がオフィス古紙のシュレッダー処理物由来のパルプである層であり、
前記基紙の裏層表面に結着剤を含む裏面塗工層を有することを特徴とする塗工板紙。
[2] 前記裏面塗工層が、顔料をさらに含む、[1]に記載の塗工板紙。
[3] 前記裏層を構成するパルプが、オフィス古紙のシュレッダー処理物由来の離解古紙パルプが3質量%以上30質量%、雑誌古紙由来の離解パルプが25質量%以上60質量%、である[1]または[2]に記載の塗工板紙。
[4] 少なくとも表層、表下層、中層、裏層を有する基紙の表層表面に顔料塗工層を有する塗工板紙の製造方法において、前記中層が離解古紙パルプを主成分とする層であり、前記裏層が、離解古紙パルプを主成分とし、且つ裏層の離解古紙パルプの3質量%以上30質量%がオフィス古紙のシュレッダー処理物由来のパルプである層であり、
前記基紙の裏層表面に結着剤を含む裏面塗工液を塗工した後に、前記基紙の表層表面に顔料とバインダーを含む顔料塗工液を塗工することを特徴とする塗工板紙の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗工板紙は、離解古紙の使用量を増やしても、表層側の白抜けを抑制した塗工板紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の塗工板紙は、少なくとも表層、表下層、中層、裏層を有する基紙、前記基紙の表層表面に顔料塗工層、前記基紙の裏層表面に裏面塗工層を有する構成である。
【0010】
「基紙」
本発明における基紙は、少なくとも表層、表下層、中層、裏層が積層された多層抄き紙である。表層とは、多層抄きの基紙において、最も表側に配置される層であり、裏層は最も裏側(表層と反対側)に配置される層であり、中層は、表層と裏層との間に配置される層である。表下層は、表層と中層の間に配置される層である。裏層と中層の間には、裏下層を設けてもよい。各層は一層で形成しても複数の層で形成しても構わないが、低質の古紙パルプの使用量を増やすためには、中層を複数層で形成することが好ましい。これらの各紙層は、多層抄きにより積層される。
【0011】
多層抄きには、公知の多層抄き抄紙機が使用できる。例えば、円網式、長網式、短網式、傾斜式、ツインワイヤー式等のワイヤーパートを組み合わせたもので、長網抄合わせ、短網抄合わせ、短網円網コンビネーション、長網円網コンビネーション等がある。中でも、短網抄き合わせを使用することが微細繊維を多く含む古紙パルプの歩留りが向上する点で好ましい。
【0012】
本発明における基紙は、パルプを主成分とし、基紙を構成する全パルプ成分中70%以上が古紙パルプであることが好ましい。全パルプ成分に占める古紙パルプの割合は、75~100質量%であることがより好ましく、80~100質量%であることがさらに好ましい。
【0013】
本発明において古紙パルプとは、古紙を再生して得られるパルプである。
古紙としては、例えば、上白・罫白等、一度使用されているが印刷部分の少ない紙、カード・模造・色上・ケント・白アート等の印刷物や色づけされ一度は使用された紙類、印刷用塗工紙、飲料用パック、オフィス用紙等使用済みの上質系古紙、さらに切符類・中質反古・ケントマニラ等の事業系中質古紙、新聞・雑誌・雑紙等の一般中質古紙、切茶・無地茶・雑袋・段ボール等の茶系古紙等が挙げられる。機密性を有するオフィス用紙や切符等の古紙はシュレッダー処理物であってもよい。
古紙パルプは、古紙を離解処理した離解古紙パルプ、離解処理および脱墨処理を行った未晒脱墨古紙パルプ、脱墨処理後、漂白処理を行った晒脱墨古紙パルプ等を、適宜使用できる。
【0014】
古紙パルプではない、いわゆるバージンパルプとしては、例えば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、グランドパルプ(GP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、ストーングランドパルプ(SGP)等の機械パルプが挙げられる。
【0015】
基紙を構成するパルプは、全体として70%以上が古紙パルプであることが好ましいが、古紙パルプの配合割合は、各層ごとに各層の役割に応じて適宜調整することができる。
また、各層に用いる古紙パルプの種類も、各層ごとに、各層の役割に応じて適宜選択することができる。
いずれの層においても、2種以上の古紙パルプを混合して使用してもよい。また、バージンパルプを使用する場合は、2種以上のバージンパルプを混合して使用してもよい。
以下、各層における通常のパルプ組成等について説明するが、本発明は、下記の通常のパルプ組成等に限定されるものではない。
【0016】
表層には、通常白色度の高いパルプが使用される。例えば、上記のバージンパルプや古紙の脱墨パルプを主として使用することができる。古紙としては、上白・カード、特白・中白・白マニラ、模造・色上等の白色度の高い古紙が好ましく使用できる。
【0017】
表層の坪量は、10~70g/mとすることが好ましく、15~50g/mとすることがより好ましい。基紙を構成する各層の坪量は、JIS P8124に準拠して測定することができる。
表層の坪量が好ましい下限値以上であれば、中層の黒っぽさを充分に隠蔽することができる。また、表層の坪量が好ましい上限値以下であれば、充分な紙層強度を得ることができる。
【0018】
表下層を構成するパルプは、中層のパルプよりも、白色度が高く、表層のパルプよりも白色度が低いパルプを使用する。表下層には、上記表層に使用されるパルプを使用してもよいが、通常は、表層と比較して低級な古紙、即ち中質繊維を多く含んだ古紙が使用される。例えば、新聞、雑誌、色上、ボール等の脱墨古紙パルプが使用されるのが一般的である。
【0019】
表下層の坪量は、15~80g/mとすることが好ましく、25~60g/mとすることがより好ましい。
表下層の坪量が好ましい下限値以上であれば、表層と共に、中層の黒っぽさを充分に隠蔽することができる。また、表下層の坪量が好ましい上限値以下であれば、充分な紙層強度を得ることができる。
【0020】
中層は、離解古紙パルプを主成分とする層である。「離解古紙パルプを主成分とする」とは、中層の全パルプ成分に対して離解古紙パルプを90質量%以上含有することを意味し、95質量%以上含有することが好ましく、98質量%以上含有することがより好ましい。
【0021】
離解古紙パルプは、古紙を離解処理した脱墨していないパルプである。離解古紙パルプとしては、例えば、新聞、雑誌、切符、中質反古、茶模造、段ボール、台紙、地券、ボール等の離解パルプが挙げられる。離解古紙パルプとしては、1種あるいは2種以上を選択して使用できる。
【0022】
中層は通常複数の層から構成されるが、一層であってもよい。中層が複数の層から構成される場合、各層を構成するパルプは、総て同じであってもよいし、異なっていてもよい。
中層の合計坪量は、塗工板紙の用途により必要とされる厚みに応じて、適宜調整されるが、一層当たりの坪量は、15~90g/mとすることが好ましく、25~75g/mとすることがより好ましい。
【0023】
裏下層を設ける場合は、裏下層を構成するパルプは、中層のパルプよりも、白色度が高く、裏層のパルプよりも白色度が低いパルプを使用する。裏下層には、上記表層や表下層に使用されるパルプを使用してもよいが、通常は、表層と比較して低級な古紙、即ち中質繊維を多く含んだ古紙が使用される。例えば、新聞、雑誌、色上、ボール等の未晒脱墨古紙パルプが離解古紙パルプと併用される。
【0024】
裏下層の坪量は、15~90g/mとすることが好ましく、25~75g/mとすることがより好ましい。
裏下層の坪量が好ましい下限値以上であれば、裏層と共に、中層の着色異物を充分に隠蔽することができる。また、裏下層の坪量が好ましい上限値以下であれば、充分な紙層強度を得ることができる。
【0025】
本発明の裏層は、離解古紙パルプを主成分とする。離解古紙パルプは、回収された古紙をパルパー等で離解処理を行い、スクリーン等で異物を除去したパルプで、脱墨工程等や漂白工程がないため、安価なパルプとなるが、古紙に含まれているインク成分や樹脂成分などの残存成分が蓄積し、抄紙工程や、後工程である印刷工程で紙面から剥がれることにより、白抜け等のトラブルが発生する。
本発明では、裏面層に用いる離解古紙パルプとして、オフィス古紙のシュレッダー処理物由来のパルプを3質量%以上30質量%の範囲で配合する。オフィス古紙のシュレッダー処理物由来のパルプは、古紙紙面の情報が視認できないように細かい裁断処理がなされているため、微細な繊維が多く含む。裏層にこのパルプを配合すると、他の離解古紙パルプに含まれるインク成分などの残存成分が微細な繊維に吸着し、捕捉されることにより、基紙内にとどめることができる。オフィス古紙のシュレッダー処理物由来のパルプが3質量%未満の場合、残存成分の吸着、捕捉が不十分となり、30質量%を超えると、残存成分の吸着、捕捉が進むことにより、凝集物となり、かえって白抜け等のトラブルが発生する原因となり易い。また、微細な繊維が多くなるため、紙力が低下する傾向があるので、25質量%以下の配合がより好ましい。
裏層を構成するパルプは、オフィス古紙のシュレッダー処理物由来の離解古紙パルプが3質量%以上30質量%、雑誌古紙離解パルプが25質量%以上55質量%、新聞古紙離解パルプが30質量%以上60質量%であると、耐白抜け性、中層の隠蔽性、加工適性のバランスが優れるため好ましい。また、雑誌古紙が55質量%を越えると、裏層の着色異物が目立ちやすくなりやすい。
【0026】
裏層を構成する離解古紙パルプは、それぞれ別々のパルパーで離解処理を施し、それを混合して抄紙してもよいし、まとめて一つのパルパーで離解処理をし、抄紙してもよよい。好ましくは、雑誌古紙を処理するパルパーと、新聞古紙を処理するパルパーに分け、片方、或いは両方にオフィス古紙のシュレッダー処理物を加えて離解処理をし、両者を混合して抄紙すると、残存成分の吸着が効率よく行われるため好ましい。オフィス古紙のシュレッダー処理物を加える際、雑誌古紙や新聞古紙を予め離解処理を進めていてもよい。オフィス古紙のシュレッダー処理物を加える場合、水に馴染みにくいので、水を一緒に加えると、より効率的に加えることができる。水の加え方としては、シュレッター処理物自体に水を含ませておくか、シュレッダー処理物をパルパーに加える際に同時ないし後から水をかけるとよい。水を加えることによりパルプ濃度が薄くなる場合は、パルパー内の水を用いてもよい。
【0027】
裏層の坪量は、15~90g/mとすることが好ましく、25~70g/mとすることがより好ましい。裏層の坪量が好ましい下限値以上であれば、中層の着色異物を充分に隠蔽することができる。また、裏層の坪量が好ましい上限値以下であれば、充分な紙層強度を得ることができる。
【0028】
本発明においては、表層の坪量を表下層の坪量よりも小さく、且つ、表下層の坪量を中層の坪量よりも小さくすることが好ましい。より好ましくは、表下層の坪量が、多層抄きされた中層の一層当たりの坪量と同等か、それ以下である。表層、および表下層の坪量を減らし、中層の坪量を増やすことで、離解古紙の基紙全体としての配合量を高めることができる。
【0029】
上記、表層から裏層に至る各層に使用されるパルプスラリー組成物には、必要に応じて、適宜、紙力増強剤、耐水化剤、撥水剤、発泡性マイクロカプセル、サイズ剤、染料、歩留向上剤、填料、pH調整剤、スライムコントロール剤、増粘剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、難燃剤、防腐剤、殺鼠剤、防虫剤、保湿剤、鮮度保持剤、脱酸素剤、マイクロカプセル、発泡剤、界面活性剤、電磁シールド材、帯電防止剤、防錆剤、芳香剤、消臭剤、着色剤等を選択し配合することができる。これらは複数種併用することもできる。
【0030】
「顔料塗工層」
顔料塗工層は、表層の表面に塗工された顔料とバインダーを含む層である。顔料塗工層は、表層側の印刷適性を高めることができる。
顔料としては、カオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ、サチンホワイト、タルク等の一般塗被紙製造分野で使用されている公知公用の顔料の1種以上を適宜使用できる。特に、カオリンおよび炭酸カルシウムの使用が好ましい。バインダーとしては、一般塗被紙製造分野で使用されている公知公用のバインダーが使用でき、好ましいバインダーとしては裏層塗工液の結着剤として例示したものが使用でき、特に好ましいのはスチレン-ブタジエン共重合体ラテックスである。
【0031】
顔料塗工層、顔料100質量部に対して、バインダーを2~50質量部含有することが好ましく、5~20質量部含有することがより好ましい。バインダーの割合が好ましい下限値以上であれば、顔料塗工層の塗工層の強度が得ることができる。また、バインダーの割合が好ましい上限値以下であれば、インキ乾燥性が優れるとともに製函適性も優れることになる。
また、必要に応じて、適宜、分散剤、水酸化ナトリウム、アンモニア水等のpH調整剤、消泡剤、蛍光染料、離型剤、耐水化剤、流動性改良剤、スライムコントロール剤、防腐剤、染料、着色顔料等の1種以上を含有させてもよい。
【0032】
顔料塗工層の塗工量は、5~50g/mであることが好ましく、8~40g/mであることがより好ましく、10~35g/mであることがさらに好ましい。
顔料塗工層は、1層であっても、複数層であってもよい。複数層の場合、下塗り層を形成した後、上塗り層を形成するとよい。下塗り層を基紙の低い白色度を隠蔽する目的、上塗り層に印刷適性を付与する目的というように、目的を分けて構成することもできる。
下塗り層と上塗り層の成分は同じでもよく、異なっていてもよい。
【0033】
顔料塗工層は、公知の塗工装置により形成することができ、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、スライドビードコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター、ゲートロールコーター、キャレンダーによるニップコーター等が適宜用いられる。
中でも、ロッドメタリングコーターやカーテンコーターは塗工ムラ等を抑制した塗工層を得ることができるので好ましい。なお、塗工された塗工層は、公知の乾燥装置で乾燥され、顔料塗工層が形成される。
【0034】
顔料塗工層は、必要に応じてカレンダー処理を施してもよい。例えば、公知のカレンダー装置が適宜使用でき、例えば、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトニップカレンダー、熱カレンダー、シューカレンダー等が挙げられる。これらを組み合わせて使用しても構わない。中でも、金属ロールと弾性ロールを備えたソフトニップカレンダーは、紙厚を維持しつつ、塗工層を平滑化処理することができるので好ましい。なお、カレンダーは、オンマシンでもオフマシンでも構わない。また、顔料塗工層を塗工する前に、予めプレカレンダー等により表層表面に平滑化処理を施してもよい。
【0035】
「裏面塗工層」
本発明は、基紙の裏層側表面に結着剤を含む裏面塗工層を設けることで、耐白抜け性に更に高める。
裏面塗工層は、結着剤を含む塗工液を基紙の裏層側に塗工して形成するが、結着剤の一部が基紙の内部まで浸透して、微細繊維と結合するため、裏層側からの微細繊維の脱落が抑制されると考えられる。
【0036】
結着剤としては、水系接着剤が好ましい。水系接着剤としては、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、デキストリン、酵素変性澱粉、水溶性澱粉等の澱粉;スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン-メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステルの共重合体ラテックスやメタクリル酸エステルの共重合体ラテックス等のアクリル系共重合体ラテックス等のラテックス;カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白等の蛋白類;各種ポリビニルアルコール、各種ポリアクリルアミド、メラミン樹脂等の合成樹脂系接着剤;カルボキシメチルセルロース等の各種セルロース誘導体、等が挙げられる。結着剤としては、1種あるいは2種以上を選択して使用できる。
【0037】
中でも、バイブロン粘弾性により測定したガラス転移温度が-50~30℃のラテックスを配合すると、塗工面の柔軟性が増し、耐折れ割れ性が向上するため好ましい。
ラテックスのガラス転移温度は、-50~0℃であることがより好ましい。
【0038】
また、上記ラテックスと共に澱粉を配合することが好ましい。ラテックスと澱粉を併用すると、裏層内部の微細繊維の固定と、裏層の表面の表面強度のバランスがとれるので好ましい。
ラテックスと澱粉を併用する場合、ラテックスと澱粉の質量比は、100:1~1:100であることが好ましい。
【0039】
裏面塗工層は、結着剤に加えて、顔料を含有してもよい。顔料としては、一般に、紙・板紙への塗工又は紙への内添に使用される顔料及び填料が挙げられる。具体的に例を挙げるならば、炭酸マグネシウム類;ドロマイト等のカルシウム・マグネシウム炭酸塩類;カオリン、天然クレー、焼成クレー、ろう石、ベントナイト、長石、タルク(滑石)、雲母、ワラストナイト、合成珪酸アルミニウム、合成珪酸カルシウム等の珪酸塩類;天然ゼオライト、合成ゼオライト等の含水アルミノ珪酸塩類;珪藻土、珪石粉、含水微粉珪酸(ホワイトカーボン)、無水微粉珪酸等の珪酸類;合成水酸化アルミ等のアルミニウム水和物;バライト、ブランクフィンクス等の硫酸バリウム類;石膏、合成亜硫酸カルシウム等の硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム類;アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン等の二酸化チタン類;リチウムアルミニウムカーボネート;等が挙げられる。中でも、カオリン、タルク、炭酸カルシウムが好ましい。
裏面塗工層が顔料を含有することにより、塗工板紙を箱等に加工する際に、裏面塗工層から形成された塗工層が割れることを抑制できる。特に、カオリンやタルクは板状顔料であり、用いると裏面のミクロな突起が比較的少なくなり、オフセット印刷後に表面と裏面が擦れても、表面印刷層を荒らしにくくなるため好ましい。また、炭酸カルシウムや二酸化チタンは白色顔料であり、裏層の白色度を高め、印刷適性が改善できるため好ましい。特に、板状顔料としてカオリン、白色顔料として炭酸カルシウムは好ましい顔料である。
【0040】
顔料の平均粒子径は、0.1~2.5μmであることが好ましく、0.1~1.5μmであることがより好ましい。顔料の平均粒子径が好ましい下限値以上であると微細繊維の脱落を抑制するので好ましい。他の顔料の平均粒子径が好ましい上限値以下であると塗工面表面にミクロな突起を少なくすることができるので好ましい。なお、本明細書における顔料の平均粒子径は、沈降法(セディグラフ)により測定し、累積質量が50%となる粒子径を意味する。
裏面塗工層は、結着剤に加えて顔料をさらに含む場合、結着剤の一部が基紙の内部まで浸透する一方、顔料が結着剤により基紙の裏層表面に固定される。
【0041】
裏面塗工層は、顔料を配合する場合、特に配合量は限定しないが、結着剤100質量部に対して、顔料を10~2500質量部含有することが好ましく、15~2000質量部含有することがより好ましい。
上記範囲で顔料を配合すると、充分な層間強度を得やすく、製箱時の打ち抜き適性にも優れ、製箱時の折り適性に優れる。
【0042】
裏面塗工層には、必要に応じて、適宜、分散剤、水酸化ナトリウム・アンモニア水等のpH調整剤、消泡剤、蛍光染料、離型剤、耐水化剤、流動性改良剤、スライムコントロール剤、防腐剤、染料、着色剤等の一種以上を含有させてもよい。
【0043】
裏面塗工層の塗工量は、0.1~7.5g/m程度であり、0.3~6g/mであることが好ましく、0.5~4g/mであることがより好ましく、0.8~3.5g/mが更に好ましい。なお、本明細書において塗工量は、乾燥塗工量を意味する。
裏面塗工層の塗工量が好ましい下限値以上であれば、裏層側の充分な強度を得やすい。裏面塗工層の塗工量が好ましい上限値以下であれば、箱成形時の折り曲げ適性、および糊の浸透性を確保しやすい。
【0044】
裏面塗工液の固形分濃度は、特に限定するものではないが、45質量%以下であることが好ましい。45質量%以下とすることで、裏面塗工液中の結着剤の一部が紙層内部に浸透しやすくなる。
【0045】
裏面塗工層は、公知の塗工装置を用いることができ、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、スライドビードコーター、ツーロールあるいはメータリングブレード方式のサイズプレスコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター、ゲートロールコーター、キャレンダーによるニップコーター等が適宜用いられる。これらは、オンマシンコーターであっても、オフマシンコーターであっても構わない。特に、ロッドメタリングコーターやゲートロールコーターは、一旦塗工液の膜を形成した後、基紙に転写するので、塗工の際に強い圧力がかからず、古紙パルプ由来の着色成分の移動を抑制することができ、好ましい。
【0046】
裏面塗工層は、顔料塗工層用塗工液を表層側に塗工した後に裏面塗工層用塗工液を裏層側に塗工すると、裏面塗工層用塗工液に含まれる水分が浸透したときに、裏層や中層に含まれる古紙パルプの着色成分が表層側まで移動し、表面に白色度ムラが生じやすい。このため、裏面塗工層用塗工液を先に塗工し、次いで顔料塗工層用塗工液を塗工することが好ましい。
【実施例
【0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。なお、%は特に断りのない限り質量%である。また、媒体以外の原料の「部」は特に断りのない限り分散媒体を含まない質量部である。
【0048】
[実施例1]
「表面顔料塗工液の調製」
顔料として、カオリン(商品名「ウルトラホワイト90」、BASF社製)の60部、軽質炭酸カルシウム(商品名「ブリリアント15」、白石工業社製)の30部、および二酸化チタン(商品名「クロノスKA-15」、チタン工業社製)の10部、バインダーとして、尿素リン酸エステル化澱粉(商品名「ニールガムA-85」、アベベ社製」の1部、およびカルボキシル化スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(商品名「B-1525」、旭化成社製)の16部を用い、固形分濃度が63%の表面顔料塗工液を調製した。
【0049】
「裏面塗工液の調製」
顔料として、平均粒子径が0.68μmのカオリン(商品名「HYDRAGLOSS90」、日成共益社製)の80部、紡錘状の軽質炭酸カルシウム(商品名「タマパールTP-121」、奥多摩工業社製)の10部、および不定形の重質炭酸カルシウム(商品名「ハイドロカーブ60、備北粉化社(株)製」の10部、結着剤として、尿素リン酸エステル化澱粉(商品名「エースP-160」、王子コーンスターチ社製〕の20部、およびカルボキシル化スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス(商品名「B-1525」、旭化成社製)の15部を用い、固形分濃度が35%の裏面塗工液を調製した。
【0050】
「塗工板紙の製造」
抄紙機のワイヤーパートで、表層用パルプを米坪25g/m、表下層用パルプを米坪45g/m、中層用パルプを米坪150g/m(50g/mを三層)、裏層用パルプを米坪50g/mでそれぞれ抄造し、抄合せし、ロールプレスおよびシュープレスを含むプレスパートで搾水処理をし、米坪270g/mの湿潤状態の基紙を得た。
表層用パルプとしては、上物古紙(印刷、製本業者から回収されたもの)を脱墨したパルプ80%、広葉樹晒クラフトパルプ20%の割合で混合し、白色度85%であるパルプを用いた。
表下層用パルプとしては、白色度65%の雑誌古紙の脱墨パルプを用いた。
中層用パルプとしては、白色度40%の雑誌古紙の離解パルプを用いた。
裏層用パルプとしては、新聞古紙の離解パルプ50%、雑誌古紙の離解パルプ40%、オフィス古紙のシュレッダー処理物由来の離解パルプ10%の割合で配合した白色度51%のパルプを用いた。
【0051】
その後、ドライヤーパートのプレドライヤーパートである程度乾燥させた後、ロッドメタリング方式のサイズプレスを用い、裏層表面に、上記裏面塗工液を塗工量が3g/mになるように塗工した。その後、アフタードライヤーパートで乾燥処理をした。
次いで、上記表面顔料塗工液をロッドブレードコーターで塗工量が15g/mとなるように塗工し、ドライヤーで乾燥し、カレンダー処理を施して、実施例1の塗工板紙を得た。
【0052】
[比較例1]
サイズプレスで裏面塗工液を塗工せず、ロッドブレードコーターにより表面顔料塗工液を塗工した後に、ロッドブレードコーターにより裏面塗工液を塗工し、ドライヤーで乾燥し、カレンダー処理を行う以外は、実施例1と同様にして比較例1の塗工板紙を得た。
【0053】
[比較例2]
裏面塗工液を塗工しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例2の塗工板紙を得た。
【0054】
[実施例2]
表層用パルプを米坪45g/m、表下層用パルプを米坪45g/m、中層用パルプを米坪135g/m(45g/mを三層)、裏層用パルプを米坪45g/mとした、米坪270g/mの基紙とした以外は、実施例1と同様にして実施例2の塗工板紙を得た。
【0055】
[実施例3]
裏面塗工液の塗工量が0.7g/mになるように塗工した以外は、実施例2と同様にして実施例3の塗工板紙を得た。
【0056】
[実施例4]
裏面塗工液の塗工量が0.7g/mになるように塗工した以外は、実施例1と同様にして実施例4の塗工板紙を得た。
【0057】
[比較例3]
裏層用パルプとして、新聞古紙の離解パルプ50%、雑誌古紙の離解パルプ50%を配合した白色度48%のパルプを用いた以外は、実施例4と同様にして比較例3の塗工板紙を得た。
【0058】
[比較例4]
裏層用パルプとして、新聞古紙の離解パルプ50%、雑誌古紙の離解パルプ49%を配合したオフィス古紙のシュレッダー処理物由来の離解パルプ1%を配合した白色度49%のパルプを用いた以外は、実施例4と同様にして比較例4の塗工板紙を得た。
【0059】
[実施例5]
裏層用パルプとして、新聞古紙の離解パルプ50%、雑誌古紙の離解パルプ45%を配合したオフィス古紙のシュレッダー処理物由来の離解パルプ5%を配合した白色度50%のパルプを用いた以外は、実施例4と同様にして実施例5の塗工板紙を得た。
【0060】
[実施例6]
裏層用パルプとして、新聞古紙の離解パルプ45%、雑誌古紙の離解パルプ40%を配合したオフィス古紙のシュレッダー処理物由来の離解パルプ15%を配合した白色度52%のパルプを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例6の塗工板紙を得た。
【0061】
[比較例5]
裏層用パルプとして、新聞古紙の離解パルプ40%、雑誌古紙の離解パルプ25%を配合したオフィス古紙のシュレッダー処理物由来の離解パルプ35%を配合した白色度55%のパルプを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例5の塗工板紙を得た。
[評価方法]
各実施例、比較例の塗工板紙について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0062】
「表層側塗工面の白色度ムラ」
得られた塗工板紙の表層側の塗工面の白色度ムラの程度を目視にて評価した。
◎:均一で白色度ムラがない。
○:一部白色度ムラが認められるが、実用上問題ない。
△:白色度ムラが目立ち、実用上問題ある。
×:白色度ムラが、非常に目立つ。
【0063】
「耐白抜け性」
得られた塗工板紙をカッターで断裁し、平判サンプルを得た。枚葉オフセット印刷機を使用して、上記平判サンプル1050枚の表層側に連続して印刷し、1000枚目から1050枚目までの印刷サンプルのベタ印刷部における白抜け部分の発生量を以下の基準で評価した。
◎:白抜けがない。
○:僅かに白抜けが認められるが、実用上問題ない。
△:白抜けがあるが、用途によっては問題が生じる。
×:白抜けが、非常に目立ち、実用上問題ある。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、実施例の塗工板紙は、いずれも、白抜け、および表面の白色度ムラが抑制されていた。